アニメssリーディングパーク

おすすめSSを当ブログで再編集して読みやすく紹介! 引用・リンクフリーです

雪乃「貴方に話しておくわ。私の過去について...」 八幡「….」 【俺ガイルss/アニメss】

 

由比ヶ浜「ねえゆきのん、本当に大丈夫…?さっきから何も話してないし、顔色も悪いよ?」 

 

雪ノ下「大丈夫よ由比ヶ浜さん。本当に、少し考え事をしていただけだから。」 

 

由比ヶ浜「そ、そう?なら良いけど…」 

 

葉山「大丈夫かい?もしよければ保健室に」 

 

雪ノ下「大丈夫だと言っているでしょう!!!」 

 

バンっという強い音と共に、机を叩きつけて雪ノ下が言い放つ。その突然の出来事に、賑やかだった奉仕部室は一瞬で静まり返った。 

 

 

雪ノ下雪乃は、強い人間だ。人に平気で厳しい言葉を言ってのけるし、相手に嫌われようと、蔑まれようとも強く言い放つ。 

それは彼女の中で、絶対的な信念があるからだ。正しいものを正しいと、間違っているものを間違っていると言うだけの正しさが、そして強さが、彼女にはある。 

俺がこんなに声を荒らげた雪ノ下を見たのは、初めてではないにしろかなり久しぶりの事だった。もしかしたら、陽乃さん相手以外では初めてかもしれない。 

しかし、今回はそんなことよりももっと大きな、そして到底見過ごすことは出来ない、違いがあった。それは彼女という存在を考える上で、絶対に無視出来ない矛盾点だ。 

 

今の雪ノ下雪乃の行動は、間違っている。 

 

 

 

八幡「…雪ノ下。」 

 

雪ノ下「っ!!な、何かしら。」 

 

八幡「…今のは、流石に良くないだろ。少し言いすぎなんじゃないのか。」 

 

雪ノ下「…っ!」 

 

俺にそう言われて、再び我に返る雪ノ下。少し間を開けた後、とても小さな声でこう言った。 

 

雪ノ下「…ごめんなさい。取り乱したわ。」 

 

葉山「いや、別にいいよ、むしろ俺もしつこかったかな。ごめんね。」 

 

部室に沈黙が流れる。葉山、雪ノ下共に、なんと言って良いのか探りあっているような状態だった。 

 

由比ヶ浜「あはは、ゆきのんも疲れたんだね…。隼人くんもこう言ってるし、ね?」 

 

雪ノ下「…ごめんなさい、雰囲気を悪くしてしまって。少しお手洗いに行ってくるわ。」 

 

掠れそうな声でそう言うと、雪ノ下はかなり弱々しい様子で一人部室を後にした。 

 

 

葉山「…すまない皆。俺がしつこく聞いたばかりに。」 

 

由比ヶ浜「は、隼人くんのせいじゃないよ!きっとゆきのん、本当に体調が悪いんだと思う…」 

 

一色「そうですよ。普段の雪ノ下先輩らしくない怒り方でしたし、別に葉山先輩のせいじゃないです。」 

 

そんな一色と由比ヶ浜のフォローを聞きながら、俺は先程の雪ノ下の様子を改めて思い浮かべていた。 

 

 

 

誰の目から見ても、先程の雪ノ下の様子はおかしかった。険しい表情をしたかと思えば、突然些細なことに怒り、声を荒らげた。 

はっきりいって、あの雪ノ下の様子から察するに体調不良ではないだろう。あいつは体調不良で人に当たり散らすような人間じゃない。そうじゃない、あれはもっと精神的な何かだったはずだ。 

 

由比ヶ浜「ゆきのん、大丈夫かなあ?」 

 

三浦「大丈夫じゃねー?ほら、雪ノ下さん強そうだし。」 

 

うん、それあなたが言う? 

 

…思い出せ。雪ノ下がおかしいのはいつからだ?イベントを終えた時は、達成感に満ち溢れていた。打ち上げの最初も、普段と何も変わらない様子だった。じゃあいつからだ…? 

 

由比ヶ浜「でも、やっぱ心配だな。あたし、ちょっとゆきのんの事見てくる!」 

 

八幡「…やめとけ。」 

 

由比ヶ浜「ヒッキー…どうして!」 

 

八幡「さっきの雪ノ下はどう見ても普通じゃなかったろ。少しくらい1人にさせてやるべきだ。」 

 

焦る由比ヶ浜をそう言ってなだめる。おそらく、由比ヶ浜が心配しているような事態ではないはずだ。もっと違う、何か… 

 

由比ヶ浜「でも…」 

 

八幡「とりあえず俺はマッ缶を買いに行く、ついでに雪ノ下を見かけたら声をかけておくから、な?」 

 

正直、こんな言い訳で俺が行くことを正当化するのは自分でも苦し紛れだと思ったが、それでも「…分かった。」とだけ言って送り出してくれるあたり、やはり由比ヶ浜は空気を読むことに長けているのだろう。もしくは、俺達の付き合いの長さからなせる技なのかもしれない。

 

 

八幡「…さて。」 

 

雪ノ下を探しに校内を歩く。と言っても、アテなどほとんどなく、もし先程雪ノ下自身が言った通り、本当にトイレに行ったのだとしたら、それこそ探しようがない。 

 

とりあえずふらふらと歩いてはみるものの、当然なかなか見つからない。友達もいないため、周囲の人間に雪ノ下を見たかどうか聞くことさえはばかられる。くっそ、こんなことならぼっちなんかやるんじゃなかったぜ。 

 

八幡「…落ち着け。とりあえずマッ缶でも飲もう。」 

 

一人でそうつぶやいた時に気が付く。しまった、思わず声に出てしまっていたようだ。傍から見ると完全に変人だろう。まあ俺の独り言なんてね?誰も聞いてないよね、うん。これぞステルスヒッキー、ミスディレクションだぜ!バスケ部入ろうかな。いずれにせよ、ぼっちで良かった! 

 

雪ノ下「…貴方、一体誰と話しているのかしら?」 

 

…いや、なんでこんな時にいるの雪ノ下したさん。さっきまで全然見つからなかったのにね?もしかして狙ってた??ねえ見てたの?? 

 

八幡「…いやまあ、あれだ。自問自答ってやつだ。」 

 

雪ノ下「あっ、ごめんなさい。もしかして私には見えない誰かがそこにはいるのかしら。うん、きっとそうよね。ごめんなさい、エアー友達の方。」 

 

八幡「いやいねえよ。どこにもエアー友達のトモちゃんなんていねえから。」 

 

雪ノ下「あら、貴方は別に見た目が怖い訳ではなくて、ただ目が腐っているだけでしょう?友達がいないのは中身のせいだし。」 

 

八幡「ほっとけ。」 

 

てかなに?雪ノ下さんはがないも読んでるわけ?なに、オタクなの?ゆきのんったら、アニメは日本の文化よとか言っちゃうの?なにそれ萌える。 

 

話しながら、少しだけ安堵する。先ほどあんなに取り乱していた雪ノ下は、もうすっかりいつもの様子に戻ったようだった。うん、むしろ戻りすぎて俺への罵倒がいつもよりひどいまである。 

 

 

八幡「んで、落ち着いたか。」 

 

雪ノ下「…え?」 

 

八幡「いや、あんなに取り乱してただろ、お前。」 

 

俺がそう言うと、雪ノ下はきょとんと小首を傾げる。うん、あざといな。悪くない。 

 

雪ノ下「…もしかして、貴方は探しに来てくれていたの?」 

 

てっきり取り乱した事実そのものをねじ曲げた挙句「夢で見ていたんじゃないかしら?永眠はしっかりとった方がいいわよ?」等と罵倒で返されると思っていた俺は、雪ノ下が素で返したことにかなり驚いた。うん、俺日頃から罵倒されすぎ。訴訟起こそうかな。 

 

八幡「…まあ、あれだ。お前が落ち込むと、由比ヶ浜が心配するからな。」 

 

雪ノ下「…そう、なのね。」 

 

そう言って視線を逸らす雪ノ下。何となくこちらもいたたまれない気持ちになり、慌てて先程宣言した通りマッ缶を購入する。落ち着け。俺。うん、マッ缶はやはり落ち着くな。マッ缶、戸塚、小町。これすなわち三種の神器なり。 

 

雪ノ下「ありがとう、比企谷君。」 

 

八幡「お、おう。」 

 

俺は自販機の方を向いていたので、雪ノ下の顔を直接は見ていないが、それでも今の雪ノ下は笑っていた。そう確信している。 

 

八幡「でだ。どうしたんだ、さっきのあれは。お前らしくなかったぞ。」 

 

雪ノ下「…そうね、自分でもそう思うわ。あまり認めたくはないのだけれど、精神的な動揺があったと言わざるを得ないわね。」 

 

八幡「…原因は、葉山か?」 

 

俺がそう呟いた瞬間、雪ノ下が驚いたような表情でこちらを向く。ビンゴだ。 

 

 

雪ノ下「…どういう意味かしら。」 

 

強い目をして雪ノ下が言う。 

 

八幡「つまりだ。お前が取り乱した原因は葉山と一色が付き合ったことを知ったからじゃないのか?」 

 

俺でなくとも、先程の会話の流れを見たものなら比較的誰でもそう思うだろう。そしてその予想は、また別のある予想を導く。 

雪ノ下は、葉山に恋愛感情があるのではないかと。 

 

雪ノ下「…理由を聞かせて頂戴。」 

 

はっきりとした口調で雪ノ下はそう言った。その表情は怒っているようにも、俺を試しているようにも見える。 

まさか、本当にそうなのだろうか。雪ノ下が、恋愛感情を持っているのだろうか。自分で言っておきながら、そんなことはあるのだろうかと疑わしく思うようになってきた。 

 

八幡「いや、確信があるわけじゃない。あくまで予想だが、そもそもお前がこんなに動揺するのは、家庭の事情の問題、例えば陽乃さんと揉めてる時と、あとは自分の過去の話の時くらいだ。葉山は前者にも後者にも関係がありそうだからな。」 

 

 

しかし、先程から俺はあえて直接的な表現は避けていた。 

一言、たった一言「お前は葉山のことが好きなのか?」とは聞かないでいた。何故そうしたのかは自分でも分からない。それは雪ノ下に配慮し、意図的に聞かないでおいたのか、それとも… 

 

雪ノ下「…なるほど。貴方には隠せないのね。」 

 

ポツリと、雪ノ下はそう呟く。 

 

 

雪ノ下「…あなたがどう言う意図で言っているかは分からないけれど、半分は正解よ。確かに、彼と一色さんが恋人関係にあると知ったのはショックだったわ。」 

 

そう言って、雪ノ下はどこか遠くを見る。その目は、悲しそうでもあり、また何かを懐かしんでいるようでもあった。 

 

 

 

雪ノ下「もっとも、別に私が彼に恋愛感情がある訳では無いわ。そこは勘違いしないで頂戴。もっと別の理由よ。」 

 

そう言い放ったきり、雪ノ下は何も語ろうとはしなかった。それはその先を聞くなということなのか、それとも俺が聞くかどうかを試しているのか、前者にも後者にも取ることが出来る沈黙だった。 

 

八幡「なあ、お前いったい」 

 

雪ノ下「1つだけ聞かせて頂戴。」 

 

俺の言葉を遮るように雪ノ下が言う。 

 

雪ノ下「貴方は、一色さんと彼が付き合っていることを、知っていたの?」 

 

八幡「…ああ。お前は知らなかったと思うが、二人が付き合い出したのは、俺達とディスティニーランドに行った日だ。俺は偶然、一色が葉山に告白しているところを目撃した。」 

 

雪ノ下「…そう、なのね。」 

 

ポツリと雪ノ下が呟く。その表情は、雪ノ下雪乃という人間の強さと、今にも壊れてしまいそうな脆さの両方を兼ねていた。 

 

 

俺は雪ノ下雪乃について、どれほど知っていると言えるだろうか。俺は彼女のことを、彼女の歩んできた道を、どれだけ理解していると言えるのだろう。 

 

恐らく彼女の過去には、あまり良い記憶ではない、何かの出来事があったのだろう。それは俺だけでなく、由比ヶ浜も感じている事だろう。もしかしたら過去ではなく、それは現在まで続いてるのかもしれない。恐らくそこに葉山も絡んでいる。しかし俺は、その事実を知りたいのだろうか。彼女が何を経験してきた、そして今何を抱えているのか。それを知って俺はどうするのか、胸を張って俺は雪ノ下雪乃を理解しているとでも言うつもりだろうか。 

 

否、そのようなことは出来ない。それは俺が1番よくわかっているはずだ。いくら他人の過去を知り、現在を知り、そして同じものを背負い込んだところで、所詮他人は他人、他の人なのだ、自分ではない。完全に理解など出来やしない。もし理解したとでも言うのなら、その関係こそ欺瞞であり、偽物だ。 

 

では俺は、彼女をどうしたいのだろう。彼女の過去を知りたいのだろうか。何が今の、現在の強くて孤高な、そして弱い雪ノ下雪乃を作り上げたのか。 

確かに知りたい気はする。もしかしたら、俺は心のどこかで、雪ノ下に憧れているかもしれない。雪ノ下の真っ直ぐな正義に、欺瞞や偽物を許さない強さに。ならば彼女の強さの秘密を、何が彼女を強くさせたのかを知りたい、そう思っているのだろうか。 

本当にそれだけなのか。 

 

 

雪ノ下「ねえ、比企谷君。」 

 

 

自宅 

 

八幡「ただいまー。」 

 

小町「おかえりーお兄ちゃん、遅かったねー。」 

 

打ち上げを終え奉仕部室をあとにした後、俺が自宅に着いたのは九時近くになった頃だった。 

 

八幡「ああ、散々仕事した後打ち上げで飯食ってきたからな。」 

 

あらかじめ小町には夕食を外で食べる旨は伝えていたので、小町は既に1人で夕食を済ませていた。 

 

小町「ふーん、お疲れ様。でも珍しいね、お兄ちゃんが打ち上げまで出るなんて。」 

 

八幡「まあ、そうだな。」 

 

小町「…お兄ちゃん、ちょっと変わった?」 

 

八幡「ばっか、あれだよ。お前、いざ社畜になってみろ。仕事終わったあとの上司との飲み会なんて絶対断れないんだぞ。今回のもその予行演習みたいなもんだ、マジ社畜なりたくない…」 

 

小町「全然変わってない…」 

 

てか俺、高校生なのに仕事して上司との会にまで参加するなんて既に意識高すぎない?将来社畜間違いなしだね、才能に溢れてるな。うん。まーた勝ってしまったか…負けが知りたいな本当。 

 

八幡「なにはともあれ、これでやっと仕事は一段落だ。やっと家に早く帰れるぜ。」 

 

小町「うん、じゃあ小町ももっと長くお兄ちゃんと居れるね!あ、今の小町的にポイント高いー♪」 

 

うん、相変わらずあざといなこの妹。だかしかしこれでいい、これがいい。 

 

 

クリスマスイベントから一週間が過ぎ、12月31日。大晦日。 

あれから学校も冬休みを迎え、俺も毎日家にひきこもり絶賛ニート生活を迎えていた。うん、これぞやはりあるべき姿。今なら由比ヶ浜に会ってもヒッキーと呼ばせてやれるな。 

 

小町は受験期の大詰めを迎えており、毎日部屋にこもっては定期的に唸り声をあげていた。 

流石にふと部屋を覗いた時、一人でノートの端に絵を書き始めていたのは心配したぞ。本人曰く「勉強してるつもりが気付いたら絵しか書いてなかった」そうだ。アイスを買ってやったら回復したみたいだけどな。てか部屋で1人絵を描く妹とか、それ何マンガ先生なの?はちまん、そんなそんな恥ずかしい名前の人はしらないっ! 

 

小町「ねーね、お兄ちゃん。」 

 

八幡「ん?」 

 

小町「今年はさ、初詣はどうするの?」 

 

八幡「お前、そりゃあ行くに決まってるだろう。俺は無神論者だが、小町の受験の時とお腹が痛い時だけは神を信じるからな。最低でも5箇所は神社を巡るぞ。」 

 

小町「ごめん、流石に引くから一つだけでいいや。ちょっと気持ち悪いよ。」 

 

やだ小町ちゃんったらストレート!この分だと本当は出雲大社まで行こうとしてたとか言ったら縁切られそうだな。金無いから断念して正解だったぜ! 

 

 

 

八幡「はいよ、分かったわ。」 

 

小町「でもその代わり、小町も行ったげる。絵馬とかその場で書きたいしね。」 

 

八幡「いやお前、受験は二月とはいえ出ない方がいいんじゃねーの?」 

 

小町「だいじょーぶ!それに、たまには外出しないと、お兄ちゃんみたいな目になっちゃうし。あ、今の小町的にポイント」 

 

八幡「高くねーし。むしろ低いから。大体俺の目は天然モノだ、家の中にいたって養殖できるような代物じゃないぞ。」 

 

自分で言ってて悲しくなってきましたね、うん。てかなんで兄弟のはずなのに俺と小町こんなに目が違うの?共通点アホ毛だけだよ??もしかして複雑な家庭で血の繋がりないの??いやそれ確実に間違えるじゃねーか、俺。それなんてエロゲー?それこそ何マンガ先生なの? 

 

小町「まあまあ、じゃあそういう事で、明日は空けといてね。」 

 

八幡「ああ、なんならいつでも空いてるまである。」 

 

テレビでは丁度、紅白歌合戦が大トリを迎えていた。 

 

 

雪ノ下「で、何故あなたがここにいるのかしら。」 

 

八幡「…それは俺が聞きたい。」 

 

年も開けて、元旦。暖かいコタツとカマクラを捨ててまで外に出てきた俺は、神社の前で新年初の罵倒を受けていた。 

 

八幡「おい小町。どういうことだ、なんで雪ノ下がここにいる。なんで俺は新年早々元旦から罵倒されてるんだよ。」 

 

小町「いや別に罵倒は小町のせいじゃないよー?」 

 

昨日約束した通り、小町と一緒に初詣に来ていた俺は、家の近所の神社の鳥居の前で雪ノ下に出会っていた。 

 

小町「雪乃さーん!あけましておめでとうございまーす!」 

 

雪ノ下「…ええ。おめでとう、小町さん。」 

 

その目は鋭く小町を見つめる。さすがの小町もまずいと思ったのか、あははーと笑いながらも続けて話す。 

 

小町「え、えーっとですね!ほら、小町お兄ちゃんと初詣は毎年行ってるんですよー?でもほら、去年はせっかく結衣さんや雪乃さんとも仲良くなれたことですし、たまにはお兄ちゃん以外の人と初詣に行きたいなーなんて?てへっ!」 

 

あざとさMAX。まるでMAXコーヒー並だぜ、我が妹。 

 

八幡「…じゃあ俺いらないだろ、帰るぞ。」 

 

小町「何言ってるのこのごみいちゃん!バカ、ボケナス、八幡!」 

 

八幡「いや別に八幡は悪口じゃねーだろ。」 

 

その後雪ノ下さんの罵倒リストが更新されたことは言うまでもないな、うん。まあそれで機嫌が治ったから良しとするか。 

 

 

雪ノ下「確か、小町さんは総武を受けるのよね?」 

 

小町「はい!バッチリ雪乃さんたちの後輩になる予定でーす!」 

 

なんだかんだで歩き始めた俺達は、元旦の神社という人で溢れかえる場所をなんとか進んでいた。 

 

八幡「まあ小町なら余裕で受かるだろうな。なんならお兄ちゃんが受からせてやる。」 

 

小町「え、どうやって?」 

 

八幡「決まってんだろ。まずは裏金だな。これは親父もきっと一肌脱いでくれるはずだ、俺もお年玉を崩す用意は出来てる。あとはサラリーマンの武器、土下座だな。」 

 

小町「…うわぁ…」 

 

雪ノ下「貴方に出来ることは、貴方のせいで小町さんが入学禁止になる前に、学校を去ることだと思うのだけれど?」 

 

八幡「え、なに小町の入学は俺の退学がトリガーなの??」 

 

小町「うん、さすがの小町もドン引き。」 

 

いやジョークだからね?笑って小町ちゃん?まあでももちろんやれと言われればやるんだけどね! 

 

八幡「そう言えば、お前由比ヶ浜は誘わなかったのか?」 

 

小町「もちろんお誘いしたよー、でもね、結衣さん年末年始は旅行でいないんだってー。」 

 

雪ノ下「そう言えば家族旅行中だというメールが来てたわね。写真つきだったかしら。」 

 

そう言って雪ノ下が差し出した携帯には、由比ヶ浜と母親、そして父親であろう人物が仲良く写った写真が映されていた。 

 

小町「え、これ結衣さんのお母さんですか!?凄い似てますね!!」 

 

八幡「そうなんだよな、俺も前に会った時驚いたわ。」 

 

本当に若すぎるんだよなあのお母さん。 

 

雪ノ下「まあ、受験前にあまり長く外にいて風邪をひいても困るし、早くお守りを買いましょうか。」 

 

八幡「そうだな。」 

 

小町「小町、賛成ー!」. 

 

 

雪ノ下「で、何故あなたがここにいるのかしら。」 

 

八幡「…それは俺が聞きたい。」 

 

年も開けて、元旦。暖かいコタツとカマクラを捨ててまで外に出てきた俺は、神社の前で新年初の罵倒を受けていた。 

 

八幡「おい小町。どういうことだ、なんで雪ノ下がここにいる。なんで俺は新年早々元旦から罵倒されてるんだよ。」 

 

小町「いや別に罵倒は小町のせいじゃないよー?」 

 

昨日約束した通り、小町と一緒に初詣に来ていた俺は、家の近所の神社の鳥居の前で雪ノ下に出会っていた。 

 

小町「雪乃さーん!あけましておめでとうございまーす!」 

 

雪ノ下「…ええ。おめでとう、小町さん。」 

 

その目は鋭く小町を見つめる。さすがの小町もまずいと思ったのか、あははーと笑いながらも続けて話す。 

 

小町「え、えーっとですね!ほら、小町お兄ちゃんと初詣は毎年行ってるんですよー?でもほら、去年はせっかく結衣さんや雪乃さんとも仲良くなれたことですし、たまにはお兄ちゃん以外の人と初詣に行きたいなーなんて?てへっ!」 

 

あざとさMAX。まるでMAXコーヒー並だぜ、我が妹。 

 

八幡「…じゃあ俺いらないだろ、帰るぞ。」 

 

小町「何言ってるのこのごみいちゃん!バカ、ボケナス、八幡!」 

 

八幡「いや別に八幡は悪口じゃねーだろ。」 

 

その後雪ノ下さんの罵倒リストが更新さ れたことは言うまでもない。うん、まあそれで機嫌が治ったから良しとするか。

 

 

初神社に来て雪ノ下を見た時、俺は正直戸惑っていた。 

 

もちろん突然町中でクラスメイトに会うと、普段は話せるやつでもなんか恥ずかしくてちょっと話せないあの現象もあった。いや本当なんなんだろうなあれ。家族とのテンションを友達に見られるの恥ずかしいんだろうな。 

 

しかし、それ以上に俺は彼女を見た時焦った。つい数日前、雪ノ下雪乃が語った真実を、俺は忘れられないのだ。 

 

 

ーーーーーーー数日前ーーーーーーー 

 

雪ノ下「ねえ、比企谷くん。」 

 

そう呼ばれて雪ノ下の方を振り返った瞬間、俺は雪ノ下雪乃の姿に目を奪われた。 

 

もちろん、彼女の顔は整っていた。しかしそれはいつものことであり、今更そんなことに目を奪われたりはしない。 

その姿を、なんと表現したら良いのだろう。そう思うほど彼女の表情は悲しそうで、またその姿は美しかった。 

 

雪ノ下「貴方に話しておくわ。私の過去についてよ。」 

 

八幡「…いいのか?」 

 

雪ノ下「ええ。別に隠していたわけではないわ。ただ、貴方達に言ったところで私の過去は変わらない、変えられないの。だから特別言うこともなかった、それだけよ。」 

 

貴方達、という雪ノ下の言葉には、おそらく俺だけでなく由比ヶ浜も含まれているのだろう。ということは雪ノ下は彼女にもこの話をしていないということになる。 

 

八幡「じゃあ、何故俺に話すんだ?由比ヶ浜に話すならともかく。」 

 

雪ノ下「…さあ、なんでかしらね。」 

 

そう言って悪戯っぽく雪ノ下は、彼女の年齢に似合った表情だった。 

 

雪ノ下「きっと、私も誰かに話すことで楽になろうとしているのよ。理解などされないし、安い同情なんて貰っても意味のないものと分かっているのにね。」 

 

そこで息を大きく吸い込む。 

 

雪ノ下「…それでも、私は貴方に話すわ。」 

 

 

雪ノ下の話によると、こういうことだった。 

 

 

今から10年程前、雪ノ下の父親は建設会社を経営する傍ら、県議会議員として初当選をはたし、二足の草鞋を履いていた。 

議員職をこなしながら、自ら会社経営もしている。そんな有能な男の仕事ぶりは周囲から褒め称えられ、雪ノ下建設は大きな事業を次々と獲得していった。 

周囲の人間から見れば、まさに順風満帆。言うことがない名家だった。 

 

 

 

しかし、実際の状況はとても順風満帆ではなかった。雪ノ下の父親は不正を働いていたのだ。 

 

簡単に言ってしまえば、会社のさらなる発展に目が眩み、議員としての権力を乱用したのだ。不正に公共事業等の落札を行っていた。 

実際、政治家のこういったスキャンダルがよく報道されているように、このような事は日本の政治業界においては日常茶飯事なのだろう。バレないようにやることが、政治家として、企業として生き残る道なのだ。 

その点に関して、雪ノ下の父はやはり頭が良いのだろう。数年の間その不正は誰かに暴かれることはなく、雪ノ下の父と会社に携わる複数人の間でのみ知られていた。 

 

そんな状態が数年間に渡って続き、雪ノ下の父は議員としても徐々に名声を得て、会社経営も順調そのものだった。 

 

 

 

しかし、悪事はそう長くは続かない。 

 

雪ノ下建設の顧問弁護士である葉山の父が、雪ノ下建設の不正に気付いたのだった。 

 

 

 

雪ノ下「私の家が建設会社をやっているのは、知っているわね?」 

 

八幡「ああ。」 

 

雪ノ下「その建設会社の顧問弁護士が葉山くんだという話も、以前にしたわね。」 

 

その話にも聞き覚えがあった。二人は幼い頃からの知り合いで、雪ノ下が留学していた期間を除けば同じ学校だったそうだ。 

 

雪ノ下「実は、父の議員職の方とも関わりがあるのだけれど…葉山くんの家と私の家はただの会社と顧問弁護士という関係だけではないの。」 

 

八幡「…ほう。」 

 

嫌な予感がする。雪ノ下の口振りからして、決して両家の関係がただの仲良しというわけではなさそうだった。 

 

雪ノ下「端的に言うと、うちの会社は、葉山くんのお父さんに弱みを握られているわ。」 

 

八幡「…。」 

 

何も言葉を返すことが出来ない俺に、雪ノ下は続けて話し出した。 

 

雪ノ下「昔、私がまだ小学生だった頃の話よ。その頃、まだ葉山君のお父さんはただの顧問弁護士で、私と葉山くんは親が知り合いであるだけ、ただのクラスメイトだったわ。」 

 

 

最初に葉山の父に不正を突きつけられた時、雪ノ下の父は何もかもおしまいだと思った。議員としての辞職はもちろん、建設会社も風評被害で経営どころではなくなるだろう。自分のしてきたことの大きさが、そこではじめて理解出来た。 

 

 

だが、状況は思わぬ方向へと進む。 

葉山の父は告発しなかったのだ。きっとマスコミに告発すれば、大きな利益と名声を得ることが出来たであろう。しかし、告発することよりも、それを逆手に取ってより大きなものを得ようとしたのだ。 

 

雪ノ下の父は、葉山の父親の言いなりになるしかなかった。自分に従わなければこの事を告発する。俺は不正には関わっていないから何も困らない。そう言って雪ノ下の父親に、不正を告発しない代わりに、あるひとつの条件を突きつけた。 

 

 

 

雪ノ下建設を、葉山隼人に継がせること。 

すなわち、雪ノ下家の長女雪ノ下陽乃葉山隼人の結婚だった。 

葉山の父は、告発するメリットよりも、雪ノ下建設の会社としての資産価値の方が高いと踏んだのだ。 

 

今すぐ会社を自分に明け渡すというのは、あまりにも周りに不自然すぎる。なにより自分が会社を持つことは力量から言っても不可能だ。そう考えた葉山の父は、より会社としての資産価値を上げさせ、会社が大きくなったところで息子である隼人に会社を明け渡すよう迫った。 

 

雪ノ下の父に、抵抗する術はもうなかった。二人の婚約を交わす代わりに、不正を告発せず、今まで通り顧問弁護士と会社としての関係を続ける契約を結んだのだ。 

それは、まさに悪魔の契約だった。 

 

こうして、雪ノ下陽乃葉山隼人は許嫁となった。 

当時小学校高学年だった雪ノ下陽乃は、既にその年齢には不釣り合いな程に大人びていた。状況を父から聞かされた時、黙って話を聞いて、そして一番最後に 

 

「ふーん、分かった。」 

 

と、そう一言だけ呟いたのだ。 

まるで他人のことを話すかのように。 

 

一方、そんな陽乃よりも幼い葉山には、自分の置かれた状況が理解出来なかった。 

 

 

葉山「ぼく、あのひととけっこんするの?」 

 

葉山父「そうだよ、ほら、雪乃ちゃんのお姉ちゃんだよ。」 

 

雪乃とは知り合いだったが、陽乃のことは知らなかった幼い葉山は、特に深く考えず、こんな言葉を言った。 

 

葉山「うーん、でも、ぼく、けっこんするなら雪乃ちゃんのほうがいいなあ。」 

 

きっかけは、たったその一言だった。 

 

家を継ぐなら、長女である陽乃と結婚させた方が良い。そう思って陽乃との結婚を進めた葉山の父だったが、せめて息子の希望を少しでも叶えてやろうと思ったのか。そもそも雪ノ下家に男児がいない以上、長女も次女もどちらでも良いのだ。 

 

 

葉山の父は、結婚相手を陽乃から妹の雪乃へと、強引に変えたのだった。 

 

 

雪ノ下「そこからは私にも、拒否権はなかったわ。ある日突然、クラスメイトの葉山くんと結婚するんだと言われて、反抗。まあもっとも、当時はそんな事情なんて全く知らなかったけどね。数年後に姉さんが教えてくれたわ。それだけの事よ。」 

 

そう淡々と雪ノ下は言ってのけたが、小学生の少女が突然そんなことを言われたらどう思うだろうか。幼くして、自分の人生の最も大きなイベントを決められたことによって、少女はどんな風に思ったのだろうか。 

 

八幡「…それは、あまりにも酷いんじゃないか。」 

 

雪ノ下「…酷い?」 

 

八幡「ああ、どう考えてもおかしい、人権もあったもんじゃない。」 

 

雪ノ下「それはね、比企谷君。育ってきた環境の違いなのよ。昔の日本では許嫁なんて日常茶飯事だったし、誰も文句も言わなかったわ。私の家では、これは当たり前なの。」 

 

八幡「…」 

 

雪ノ下に反論する言葉が見つからない。普段はあんなに無駄なことを話せるのに、こういう時になんと言っていいかわからない自分に腹が立つ。 

事実、雪ノ下の言うことは間違ってなかった。おかしい、おかしくないなんてのは、俺が勝手に俺のものさしで判断したことだ。彼女のことを、俺のものさしで勝手に測って、勝手におかしいだなんて決めつけるのは、どう考えても傲慢としか言いようがない。 

 

雪ノ下「まあ、彼も段々大人になるに連れ、事の大きさを理解したようね。もっとも、私は許嫁になったあの日から、彼と二人で話したことはないわ。」 

 

雪ノ下「ある意味で、私達両家は、お互いの弱みを握りあっているわ。片方が事実をバラせば、もう片方も道連れよ。だけどそれだけは避けたいの、双方ともね。ある意味で、この契約は不平等であり、平等なのよ。」 

 

こうして、彼女の口から語られた真実は、彼女がいかにして現在のように強くなったか、そして葉山との関係性を説明する、ひどく捻じ曲がった、だけどまたどうしようもなく説得力のある事実だった。

 

 

そんな事実を語られて、なんとなく雪ノ下と会うのがばばかられていたところに小町の策略が来たのだった。我が妹よ、今回ばかりはグッジョブ。 

 

小町「ほらお兄ちゃん!そんな腐った目でぼーっとしてないで!はぐれちゃうよ!」 

 

八幡「腐った目は余計だ。」 

 

結果的には、小町のおかげで俺と雪ノ下は違和感がなくやれている。お互いになんとなく気まずさを感じながらも、それを障害に感じるほどではなく過ごすことが出来ているのだ。 

 

雪ノ下「それにしても、由比ヶ浜さんがいないとこんなにも静かなのね。」 

 

八幡「ああ、俺達だけで会話することなんかないからな。」 

 

実際、由比ヶ浜が三浦達と遊びに行って奉仕部を欠席する時は、俺と雪ノ下にはほとんど会話はない。互いにずっと本を読んでいるため、会話の必要性もないのだ。 

 

小町「ええー、二人とも悲しい!やっぱり小町が奉仕部に入って、明るくするしかないかな?」 

 

八幡「いや、そういうのいいから。てか最近はだな、由比ヶ浜がいなくてもあいつが…」 

 

 

??「あれ、もしかして先輩ですか??」 

 

 

そいつの悪口を言っている時に限って、突然死角からそいつが現れる時がある。大抵そういう時、相手は無自覚で「何の話?」とか聞いてくるのだ。いや、本当に無自覚なのかは知らんけど。 

 

うん、だからといって別に今俺がそういう状況に陥っているというわけではないな。うん。そんな都合いいことあるわけない、よってこの声も幻聴、もしくは似た声の誰かだ。なんだかこの声聞いてると心がぴょんぴょんするな、うん。 

 

一色「先輩さっきから何言ってるんですか?てゆーか、私のこと無視しないでください!!」 

 

そう言って工藤新一ばりに後頭部から殴られた。いや、擬音でいうとポカポカって感じなんだけども。あざとい。 

 

八幡「いや気付かなかったんだよ。大体こんなに人が多いところでよく気づいたなお前。」 

 

一色「ふふーん。私周りのこと見るのは得意ですからねー!」 

 

出た、どやはす。 

 

雪ノ下「こんにちは、一色さん。」 

 

一色「雪ノ下先輩、あけましておめでとうございますですっ!」 

 

そう言って笑顔を見せる一色。いやおめでとうございますにですをつけるってなんだよ。二重敬語?なに雪ノ下さん帝なの?? 

 

 

一色「てゆーか、先輩達今日は二人なんですか?え、もしかしてデート」 

 

雪ノ下・八幡「それは違うな(わ)。」 

 

俺と雪ノ下がすかさず否定する。おお、ハモったぞ。ハッピーアイスクリーム。あれ実際に奢ってるやつ見たことないけどな。 

 

一色「で、ですよねーあっはっはー。まさかお二人に限ってそんなことないですよねー!」 

 

やっぱりさすがのこいつも雪ノ下は怖いんだな。俺だったら睨まれて泣いちゃうけどね! 

 

 

 

小町「…お兄ちゃん。」 

 

八幡「ん、どした小町。」 

 

呼ばれて横をみると、小町が不機嫌そうにしていた。 

 

小町「誰この人。お兄ちゃんいつの間にそんな周りに女の人ばっかりいるようになったの。小町はそんなお兄ちゃんに育てた覚えはありません。」 

 

八幡「いや、俺もお前に育てられた覚えはないから。ほら、一色だよ、生徒会選挙の時話しただろ?」 

 

ついでに言うと俺の周りにも男はちゃんといるぞ、戸塚とか戸塚とか戸塚とかな!ん、違った、よく考えたら戸塚は男じゃなくて戸塚だった。むしろ平塚先生の方が男まである。 

 

小町「…ああ!あの一色さんかあ!嘘、こんなに綺麗な人なの?小町お兄ちゃんの話からてっきりもっとメイクの濃い頑張ってる系女子かと思ってた!」 

 

一色「あの、先輩、小町って、この子もしかして…」 

 

八幡「ん、ああ。俺の最愛にして最強の妹だ。」 

 

冷徹にして熱血の吸血鬼みたいな紹介をしてみたが、当然反応するやつは誰もいない。 

 

小町「どうもー、比企谷小町でーす!いやー本当、兄がいつもお世話になってますー。あ、もしかして一色さんもお義姉ちゃん候補ですか!?だったら小町感激ー!」 

 

一色「…先輩、私を騙そうったってそうはいきませんよ。こんなに可愛くて普通にいい子が先輩の妹なんてありえません!」 

 

雪ノ下「私も未だに信じられないのだけれど、残念ながら事実よ。」 

 

八幡「みんな俺の扱い酷すぎない?ねえ?」 

 

 

一色「てゆーか、先輩、私のこと家でどんな風に話してたんですかー?」 

 

小町と散々会話した後、俺にだけ聞こえるように小さい声で一色がそう言ってきた。あ、これはあれですね。いろはす怒っちゃってますね。 

 

八幡「全然話してないぞ。一色だろうが夢色だろうが全然話してない。」 

 

一色「でもー、さっき小町ちゃん私に対してすごい偏見もってたじゃないですかー?あれはどういうことですかー?」 

 

八幡「いや、それはだな…つまりあれだ、その、頑張り屋さんだって話したな。」 

 

一色「それってー、つまり私が自分を作って可愛く見せることに頑張ってるって言いたいんですかー?」 

 

いやそこまで分かってるなら聞く必要ねえだろ。てゆーかー、いろはす怖すぎないですか? 

 

小町「やっぱり、二人仲良しなんですね!これはやっぱりお義姉ちゃん候補ですか??」 

 

俺がそんな風に拷問を受けてるとはいざ知らず、はやし立てるように小町が言う。 

 

八幡「…あのな小町、一色には」 

 

 

 

葉山「おーい、いろは、待たせてごめん…って、あれ?」 

 

 

噂話をするとそいつが来る法則、そろそろ数学的に証明されてもいいんじゃねえの?? 

 

 

葉山隼人という人間についても、雪ノ下雪乃と同様に、いやそれ以上に俺は深く知らない。二人で話をしたことも数回程度しかないし、そもそも名前すら覚えられたのは最近のことだ。うん、いまだにヒキタニって呼ぶ戸部はやっぱりクソだな。 

 

彼が求めているもの、壊れないようにしているものは分かる。俺が求めてきたものとは、似て非なるものであり、そして俺には守れない、守りたいとも思わない物だ。 

 

彼が雪ノ下雪乃の許嫁だと聞いて、俺は辻褄が合うな、と思った。恐らく、幼い頃から許嫁として周りにはやし立てられ、そして雪ノ下には幼いが故の遠慮の無い悪意が数多く向けられてきたのだろう。そんなことは容易に想像できる。だから彼は、自分が何とかして彼女を救おうとした。それが彼の目指す誰も傷つかない、けど深くは踏み込まないまさに「完璧な世界」なのだ。 

 

もっとも、彼女はそんなもの求めてはいなかった。何を求めていたか?そんなのは俺にも到底わからない。しかし少なくとも雪ノ下雪乃は、そんな馴れ合いや欺瞞の関係で満足し、救われるような人間ではない。結果的に彼が救おうとした彼女は、彼を拒絶したのだ。 

 

そして彼は、彼女に拒絶されてから、誰にも心から打ち解けることはなくなったのだ。 

 

そうなったはずだ。それなのに。 

 

彼女はこうして、一色いろはと付き合っている。 

 

 

せっかく小町のおかげで忘れかけていた、雪ノ下の先日の話を一気に思い出させる、まさに主役の登場だった。 

 

葉山「あれ、比企谷じゃないか。それと、雪ノ下さんも。偶然だな。」 

 

八幡「…おう。」 

 

先程から一色が一人でいることから想像はついていたが、案の定一色は葉山と来ていたようだ。 

なんとなく葉山の顔を見るのが気まずい俺は、特に会話することもなく短い返事を返す。しかし雪ノ下は相変わらず、返事もせず葉山に一瞥もくれなかった。 

 

葉山「二人とも、あけましておめでとう。それと、確か比企谷の妹さんだよね?」 

 

小町「はいっ、小町です!お久しぶりでーす!」 

 

小学生の林間学校を手伝った時に会っているため、葉山は小町のことを覚えていたようだ。 

 

葉山「元旦から初詣に来るなんて、随分仲が良いんだね。」 

 

小町「あの、やっぱりいろはさんと羽山さんはお付き合いされてるんですか?」 

 

やはり、ここで俺は葉山に会いたくはなかった。この話をしたくはなかった、それも雪ノ下の前で。 

 

葉山「ああ、そうだよ。」 

 

一色「えへへ、だからお義姉ちゃんにはちょっとなれないなー、ごめんねー!」 

 

小町「いえいえー!どう考えてもこんな兄より葉山さんの方がお似合いですから!」 

 

いや、何サラッと俺をディスりつつ仲良くなってるんだよ。てか小町と一色のコラボとか本当怖い、なんとなく似てるんだよなあの二人。 

 

 

葉山「前に会った時も思ったけど、比企谷と妹さんって見た目も性格もあまり似ていないんだな。兄妹とは思えないよ。」 

 

一色「ですよねー!?本当に、どうして同じ家でこれほどまでに違う結果になるんですか!」 

 

小町「いやー兄は昔からああでしたから…」 

 

いやせっかく俺が重い雰囲気のモノローグやってるんだから、脇で台無しにするようなディスりはやめようよ… 

 

 

雪ノ下の話が事実ならば、葉山が一色と付き合い始めたことはおかしい。 

もちろん、葉山も思春期の男子として、将来の結婚等のことは考えず純粋に恋愛をしたくなっただけという可能性もある。あるいは、彼なりの父親に対する反抗なのかもしれない。幼くして将来を決められたことに対して、またけっして正しいとは言えない父親の行動に対しての、葉山隼人としての意思表示ということもあるだろう。雪ノ下は「彼なりに考えがあるのでしょう。彼は愚かではあっても、馬鹿ではないもの。」と言っていた。 

雪ノ下によると、結婚の時期は詳細には決まっていないらしい。雪ノ下と葉山が結婚できる年齢になった後、会社の状態などを見極めてから葉山の父が決めるそうだ。 

 

しかし、しかしだ。葉山がそんな理由で、親に反抗するだろうか。家庭の言いつけを守り、自分の人生の先が決まっているにもかかわらず、優等生を完璧にやっている。今までの人生全てを親に、自分の運命に逆らわず生きてきた彼が、今になって突然、そんな子供のような理由で逆らうと言うのだろうか。 

 

 

そして、何よりも。彼だって分かっているはずなのだ。 

 

彼が父親に逆らうという事は、すなわち雪ノ下雪乃を不幸にする事だということを。 

 

 

雪ノ下「…小町さん、そろそろ行きましょう。」 

 

小町「え、もうですか?」 

 

雪ノ下「ええ。いつまでもいると風邪をひくわよ。」 

 

小町「で、でも小町、まだいろはさん達と…」 

 

そこまで考えた時、はっと我に返って雪ノ下の方を見る。 

やはり雪ノ下は、困ったような、悲しいような顔で立っていた。当然だろう、葉山隼人との接し方がわからないのだ。その顔を見て、何かを言おうとした小町もそれ以上言えず、困ったように俺の方を見てきた。 

 

八幡「…小町、一色ならまた俺が会わせてやる。今日はもう帰るぞ。」 

 

小町「う、うん…」 

 

一色「先輩、言いましたね~?約束ですからね!私もまだ小町ちゃんと話し足りないんですから!」 

 

微妙な空気が流れてしまったのをいち早く察したのであろう、わざと一色がそう明るい声で切り出した。こういう風に空気が読めるあたり、やはり一色いろはは頭の良い、周りに気を使える女の子なのだと思う。 

 

八幡「はいはいあざとい。じゃあな一色、葉山と仲良くしろよ、なんなら仲良くしすぎて俺に仕事を持ち込まなくなってくれ。」 

 

一色「…ごめんなさい今のツンデレですかいろはがいなくなって寂しいって事ですかちょっと嬉しいですけどもう彼氏がいるのでごめんなさい無理です」 

 

葉山「は、ははは…。」 

 

八幡「いや告白してないから…」 

 

ていうかこれ素のモードだよな、葉山の前でいいのかよ。 

 

小町「お兄ちゃんが振られてる…しかも告白せずに…小町的にポイント低い…」 

 

ほらみろいろはす。俺がコツコツ貯めてきた小町ポイントを失ったぞ、責任、とってくださいね??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一色「先輩の事が…好きです。」

https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516192171/l50