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陽乃「……答えは、いつ出るの?」 八幡「……わかりません。だけど….」2/3【俺ガイルss/アニメss】

 

~八幡レンタル2日目~ 

 

 

朝から教室で由比ヶ浜がちらちらとこちらの様子を覗っていたが、とりあえずスルー。 

 

そのまま放課後まで逃げられるかと思ったが、昼休みには雪ノ下から集合がかかり、 

 

部室で雪ノ下と由比ヶ浜に昨日の出来事を問い詰められた。 

 

部員の活動報告を聞くのは部長としての務めだとかなんとか。 

 

とりあえず適当に誤魔化してお茶を濁す。 

 

放課後は駅前で陽乃さんと待ち合わせだ。 

 

駅前で立ちながら本を呼んでいる陽乃さんを見つけて、立ち尽くす。 

 

あの人はただそこに居るだけで目立ちすぎる。 

 

右肩にハンドバックを下げ、左手でブックカバーのかかった本を読んでいる陽乃さんは、 

 

特別なことは何ひとつしていないのに絵になっている。 

 

道行く人々が、男性も女性もちらちらと振り返っていくのがわかる。 

 

俺、これからあの人に声掛けるの? 

 

無理無理無理無理無理無理! 

 

あんなところに声掛けたら、注目の的じゃねえか。 

 

ぼっちは日陰で細々と生きる生き物なんだよ。 

 

強い日差しの下では生きられない生き物なんだよ。 

 

……帰ろうかな。 

 

まだ気づかれてなさそうだし、今なら……。 

 

陽乃「ん?」 

 

などと思っている間に目が合ってしまった。 

 

陽乃「あ、比企谷君」 

 

陽乃さんは左手の本を閉じてカバンにしまい、おーいと手を振りながら近寄ってくる。 

 

周囲の視線が陽乃さんから俺に移る。 

 

嫉妬と羨望と落胆と嘲り。 

 

およそいい感情などひとつもこもっていない視線が痛い。 

 

まぁ、こうなってしまっては知らん振りも出来ない。 

 

俺はため息をひとつついて、片手を上げて応える。 

 

陽乃「やぁやぁ、学業お疲れ様。比企谷君で遊べるのが楽しみ過ぎて、ちょっと早く来ちゃったよ」 

 

陽乃さんは輝くような笑顔でそう言った。 

 

『比企谷君と』ではなく『比企谷君で』に聞こえたのは、聞き間違いですよね。 

 

誰かそうだと言って! 

 

この日はいつか雪ノ下と由比ヶ浜のプレゼントを探したショッピングモールでショッピングに付き合わされた。 

 

いくつかのアパレルショップを回って、陽乃さんのファッションショーが開催された。 

 

美人は何を着ても似合うというのがよくわかったが、それだけではなく陽乃さんは服を選ぶセンスもいいのだと感じた。 

 

華やかな色使いの服でも決してうるさくならないようにまとめ、全体を見たときにどこか品を感じさせるのだ。 

 

逐一、感想を求められたが、似合うという言葉以外が出てこないので、陽乃さんは少し不満顔だった。 

 

それでも陽乃さんは俺の反応を見ながら、何点かのアイテムを購入した。 

 

店を回る間、陽乃さんプロデュースで俺にも服の見立てが行われ、俺は着せ替え人形のようにあーでもないこーでもないと着せ替えられた。 

 

さらには、下着売り場で「こっちも選んでもらおうかな~」などとからかわれたり、 

 

休憩に入った喫茶店で食べかけのケーキを取られて「間接キスだねぇ」とか言われたが、その度にドキッとなんてしてない。 

 

ほ、本当だぞ。 

 

まぁでも、この人が俺みたいな底辺の人間を恋愛対象に見ることなんてありえないのだ。 

 

その点、勘違いしなくて済むのはありがたい。 

 

この間のダブルデートの時、葉山は俺が陽乃さんに気に入られているとか言っていた。 

 

つまり、まぁそういうことなんだろう。 

 

今の俺は陽乃さんにとって、少し興味のあるおもちゃみたいなものなのだ。 

 

きっと、この一週間が終わったら、もしかしたら一週間が終わる前に飽きられてしまう。 

 

そうなったら、子供がいらなくなったおもちゃを捨てるみたいに、捨てられてしまうのだ。 

 

むしろ、俺からすれば早く飽きて捨てて欲しいと思っているわけだが。 

 

おもちゃは主人を選べないのである。 

 

 

~八幡レンタル 3日目~ 

 

 

この日は昼休みに部室で報告書を雪ノ下に提出した。 

 

昨日の夜にメールで、「報告はきちんと文書にし、昼休みにそれを読みながら疑問点について質問させてもらう」 

 

などといった趣旨の内容が送られてきたのである。 

 

こっちは一日中陽乃さんに振り回されて疲れているというのに、 

 

その日のうちに報告書にまとめろとは、姉妹そろって人をこき使ってくれる。 

 

もちろんサービス残業である。 

 

あれ、うちの部活って結構ブラックなのか。 

 

会社に入ったら、これが毎日か。 

 

うわぁ、働きたくねぇ。 

 

まぁ、報告書のおかげで、前日のように昼休みに行動を逐一説明する必要がないのは楽だった。 

 

俺は報告書を読んだ雪ノ下と由比ヶ浜(お前は部長じゃないから読む必要はないんだが)からいくつかの質問を受け、 

 

昨日よりは幾分平和に昼休みを乗り切ることが出来た。 

 

もちろん、下着売り場に連れて行かれたとか、食べかけのケーキを取られたとかのくだりは報告書には書いていない。 

 

嘘を吐いたわけじゃない。報告の必要はないと判断しただけのことだ。 

 

放課後、陽乃さんと合流したあとは、まず映画を見に行った。 

 

 

内容はハリウッドのアクションものである。 

 

ちなみに陽乃さんの希望。 

 

一応、俺の意見も聞いてくれたのだが、俺が推した団地的なジャパニーズホラーは『暗い』の一言で却下された。 

 

そりゃホラーなんだから暗いでしょうけど、なんか釈然としない。 

 

映画自体はまぁ王道のハリウッド映画で普通に楽しめた。 

 

必要ないだろってくらいのド派手な演出、CG技術を駆使した映像美、単純明快なストーリーライン、マッチョな男優が吼え、セクシーな女優が裏切る、 

 

最後には少し感動できるシーンを入れて、ハリウッド映画のいっちょ上がりだ。 

 

これ以上ないくらいに王道のハリウッド映画って感じ。 

 

これ以上ないくらいに王道のハリウッド映画って感じ。 

 

だが、「王道は王道ゆえに王道」という材木座の言葉通り、王道ゆえの安定感、安心感はさすがといったところだ。 

 

歴史の中で取捨選択されたエンターテイメントに必要な要素が盛り込まれているため、面白くないわけがないのである。 

 

下手な監督が奇をてらったことをしようと王道から外れると、目も当てられないものが出来る。 

 

先人に学ぶことは、やはりとても重要なのだ。 

 

これはライトノベルにも当てはまる。 

 

昨今、ライトノベル界は似たような作品が増えている。 

 

中でも、やはりハーレム物は多い。 

 

最近はこういった作品に対し、食傷気味という読者もいるだろう。 

 

しかし、ハーレム物というのは、ライトノベルの王道のひとつではないだろうか。 

 

したがって、ハーレム物がうまく書けない作者に面白いラノベは書けないのだ。 

 

そうした王道を無視し、奇をてらって王道からずれたラブコメを展開しようとすると、 

 

せっかく賞を取ったのに全然売れないとか、だから長文タイトルはもうダメだとあれほどとか、 

 

まず締め切り守れよとか言われるのである。 

 

アニメ化されてほんと良かった!! 

 

 

まぁ、それは置いておいて。 

 

映画館を出ると日はとうに沈んでいた。 

 

陽乃「もういい時間だね。何か食べて帰ろっか」 

 

腕時計を見ながら、陽乃さんがそう提案してきた。 

 

八幡「ご一緒したいのは山々なんですが、何も言って来てないんで、家で小町が飯作っちゃってると思うんですよー。イヤー、残念ダナー」 

 

若干、最後が棒読みになってしまったかもしれない。 

 

まぁしかし、食事の誘いはこうすれば感じ悪くならずに断れる。 

 

ソースは俺。 

 

誘われたことが少ないからデータ不足だけど。 

 

しかし、陽乃さんは不敵な笑みを浮かべる。 

 

陽乃「ふっふっふ、比企谷君。私が小町ちゃんと連絡先を交換しているのを忘れたのかな」 

 

そういって携帯画面をこちらに向けてくる。 

 

液晶画面には「了解です! 好きなように料理しちゃってください!」という小町からのメールが表示されていた。 

 

(実際はもっと頭の悪そうな絵文字がこれでもかと付いていた) 

 

八幡「なん……だと」 

 

頼りにならない妹だな、まったく。 

 

頼りにならないどころか敵に内通してるまである。 

 

小町、獅子身中の虫め! 

 

ていうか、料理しちゃってってどういうことだよ。 

 

料理を食べに行くのであって、俺が食べられるわけじゃないぞ。 

 

……ないんだよね? 

 

ともあれ、小町が懐柔されていては俺に逃げる術はない。 

 

八幡「……わかりました」 

 

仕方が無いので、本意ではないことを全身で最大限にアピールしつつ、頷いた。 

 

というわけで、陽乃さんオススメのイタリアンのお店に行く。 

 

イタリアの国旗をあしらった看板をくぐり店内に入ると、テーブルが幾つかあるだけの小さな店だったが、 

 

テーブルクロスなどの小物や少し暗めに設定された照明など細かい所からお洒落な空間を作り出していた。 

 

俺たちは店内の隅の方にある窓際のテーブルに座った。 

 

陽乃「比企谷君、何か食べたいものはある?お金は私が出すから気にしないでいいよ」 

 

またぞろ、払う払わないの問答をしようかとも思ったが、メニューの金額を見て素直にお言葉に甘えることにした。 

 

食べたいものと言われたが、メニューに出てくる単語がプロシュートやらピカタやらと聞きなれない言葉ばかりだった。 

 

八幡「じゃあ、このボンゴレってパスタで」 

 

陽乃「へーなんか意外なチョイスだね」 

 

聞き覚えがあったもので。 

 

主に某週刊少年誌で。 

 

陽乃「他には?」 

 

八幡「あとは……お任せします」 

 

陽乃「ふふ、りょーかい♪」 

 

陽乃さんはメニューを少し見て、おもむろに手を上げて店員を呼び、慣れた感じで注文した。 

 

しばらくすると、テーブルには綺麗に盛り付けられたパスタ、リゾット、サラダ、スープ、スライスされた牛肉などが並んだ。 

 

陽乃「じゃ、かんぱーい」 

 

八幡「……乾杯」 

 

俺たちはフレッシュジュースで乾杯をして、料理を食べ始めた。 

 

陽乃さんが食事している姿は、流れるように無駄がなく美しい。 

 

育ちの良さから来る洗練された所作や振る舞いというのは、どんなところにも出てくるのだと思い知る。 

 

一方の俺はと言うと、テーブルマナーなんて全然知らないものだから、陽乃さんの見様見真似で食べるが、 

 

フォークやナイフが皿に当たってカチャカチャと不快な音をたてたり、スープを飲むときに音をたててしまったりと、無様なことこの上ない。 

 

くそ、何で飯食ってるだけなのに、こんな恥ずかしい思いをせにゃならんのだ。 

 

母ちゃんも躾けるならこういうところをしっかり躾けておいてくれればよかったのに。 

 

いや、まぁ、俺の人生であと何回こんなところに来る機会があるのかって話だから、別にいいんだけど。 

 

俺が音を立てないよう、苦心しながらスープをすすっていると、陽乃さんが話しかけてきた。 

 

陽乃「ねぇ、比企谷君。最近、雪乃ちゃんと何かあった?」 

 

八幡「ずいぶんと曖昧で漠然とした質問ですね。何かと言われても、答えに困るんですが」 

 

陽乃「あはは、うん。それもそうだね。えっとね、前に言ってた生徒会長選挙が終わった辺りだったかな。 

 

雪乃ちゃん、ちょっと元気なかったんだよね」 

 

心当たりはある。 

 

というか、原因はほぼ間違いなく、俺たちとのすれ違いだろう。 

 

陽乃「でもね、年末年始に実家で会った時には、元気になってたっていうか、元の雪乃ちゃんだったというか」 

 

まぁ、その時にはすれ違いは解決していたしな。 

 

陽乃「それで~、お姉ちゃんとしては~、お友達と何かあったんじゃないかなぁって考えてるんだけど~、比企谷君何か知らない?」 

 

いやらしく微笑む陽乃さんに、ほんとは全部知ってて言ってるんじゃないだろうなこのアマ、と思ってしまう。 

 

絶対に口には出さないけど。 

 

八幡「そうですかー。イヤー、残念ながら俺は何も知りませんね。 雪ノ下の元気がなかったなんて全く気付かなかったデスヨー」 

 

とりあえず誤魔化してみることにする。 

 

いや、だって詳しく話すと俺だって恥ずかしいし。 

 

雪ノ下や由比ヶ浜にしてみても、軽々しく他人に話されて、いい思いはしないだろう。 

 

陽乃「……ねぇ、比企谷君。お姉さん、ほんとのところが聞きたいな」 

 

ニコッと微笑む陽乃さん。 

 

素敵な笑顔から凄まじいプレッシャー。 

 

これあれだ。俺、今すげー睨まれてる。 

 

今わかった。 

 

陽乃さんってどっかの赤い悪魔と一緒で、笑ってる時の方が怖い人だ。 

 

八幡「……心当たり、ないわけじゃないんですけど、これは話せないです。すいません」 

 

頭を下げて、数秒間。 

 

重苦しい沈黙に息が詰まる。 

 

陽乃「……ふぅ、まぁそれならしょうがないか。まぁ、雪乃ちゃんが元気なら、私は文句ないしね」 

 

それは本心なのだろう。 

 

この人、シスコンと呼ばれる俺をして、シスコンだと認めるシスコン振りだからな。 

 

張りつめた空気は弛緩して、再び食事を始める。 

 

八幡「それにしても」 

 

陽乃「ん、何?」 

 

先ほどの会話で気になったことを聞いてみることにした。 

 

八幡「雪ノ下の気分なんて、よく分かりますね。正直、外から見てるといつも同じように見えますけど」 

 

今回は俺も問題の当事者だったから、さすがに雰囲気が変わっているのはわかったが、問題の外にいたら、 

 

あの冷静沈着な雪ノ下の機嫌なんてわかる気がしない。 

 

陽乃「そりゃあ、お姉ちゃんだからね」 

 

八幡「たとえば、どんなところで見分けるんですか」 

 

陽乃「そだね~、色々あるよ。元気がないときは憎まれ口がないとか、からかっても全然怒ってこないとか。 機嫌がいいと憎まれ口が多かったり、からかったときに余裕を持って返して来たりするね」 

 

八幡「見極めのポイント、おかしいでしょ。何で憎まれ口とかからかった時の反応なんですか」 

 

普通、声の調子とか何気ない仕草とかそういうのだろ。 

 

陽乃「そうかなぁ」 

 

八幡「そんなことばっかりしてるから、敬遠されるんですよ」 

 

陽乃「だって、雪乃ちゃんってからかうとすごい可愛いんだもん」 

 

八幡「そうですか、俺なんてちょっと軽口言おうもんなら、嫌味で十倍返しされるか氷のような視線を浴びせられるかのどっちかですけどね」 

 

あれって俺がぼっちじゃなくて、そういう対応に耐性がなかったらトラウマ抱えてるレベルだぞ。 

 

陽乃「それがいいんじゃない!」 

 

え、やだ、何この人、ドMなの? 怖い! 

 

陽乃「その嫌味や冷たい視線をね、さらに返してあげるとね、すっっごく悔しそうな顔するの!  

 

必死に隠そうとするんだけどね、雪乃ちゃんって負けず嫌いだから隠しきれなくて、その顔がもうたまらなく可愛いんだよ!」 

 

ドMかと思ったらドSかよ。ほんと怖い。 

 

どこの青鬼院蜻蛉様だよ。 

 

妹を苛めて喜ぶお前、ドS!! 

 

陽乃「ねぇ、比企谷君はさ。雪乃ちゃんのこと、どう思ってるのかな」 

 

八幡「は?」 

 

突然の質問に戸惑ってしまう。 

 

八幡「どう、と言われても。あいつは部活が同じなだけで……」 

 

それだけだ、と言おうとして、雪ノ下の泣き顔を思い出した。 

 

あんな恥ずかしい黒歴史を共有している俺たちは、きっとそれだけの関係ではないのだと思う。 

 

八幡「いや、部活が同じ友達、ですかね」 

 

友達だと言うだけなのに、妙に気恥ずかしい。 

 

陽乃「……そっか。……これからも雪乃ちゃんをよろしくね」 

 

そういって陽乃さんは、嬉しそうな、しかしどこか寂しげな複雑な笑顔を浮かべた。 

 

 

~八幡レンタル 4日目~ 

 

 

土曜日の午後、昨日ハリウッド映画を見てテンションの上がった陽乃さんは、銃が撃ちたいといって俺をゲーセンに連行した。 

 

ゲーセンの他にもボーリングやカラオケ、各種スポーツ施設などが併設された、正式名称でいうところの総合アミューズメント施設。 

 

まぁ、ぶっちゃけラウンドワンだ。 

 

最初は二人が並んで、スクリーンに映る敵を撃っていると自動で進行していくタイプのシューティングゲームをやった。 

 

いいところまで行ったのだが、四人目のボスにやられてあえなくゲームオーバーとなった。 

 

主に俺が共通のライフ五個のうち四個を俺が使うという足の引っ張りっぷりを見せたせいである。 

 

いや待て、言い訳をさせてもらいたい。 

 

ガンコンが近すぎるのが悪い。 

 

リロードで画面外に銃を向ける度に、陽乃さんの豊満な胸部が揺れるのが視界に入るし、 

 

ちょっとした弾みで腕とか肩とかがちょいちょい当たって、体温とか柔らかさとかいい匂いとかが伝わってくるし。 

 

そんな状況で健全な男子高校生がゲームに集中なんて出来るはずがない。 

 

お互い、一人ずつなら全クリもいけたのかもしれない。 

 

その後、シューティングゲームで全クリ出来ず、もやもやしている陽乃さんが2Dの対戦格闘ゲームをやろうと言い出した。 

 

これはさすがに長年の俺のゲーマーとしての経験が活きて、見事に十連勝した。 

 

やばい、陽乃さんに何かで勝てるってすげぇ嬉しい。 

 

陽乃「う~ん、難しいなぁ」 

 

さすがに諦めムードの陽乃さんだが、五戦目にして上中下段技を理解して、起き攻めで投げ技を決めてきたり、 

 

待ち戦法を使ったりなど、初心者とは思えない順応能力だった。 

 

あと十戦くらいやったら、普通に勝てなくなるかも。 

 

だから、もうやらない。 

 

そのあとはボーリングをしたり、バスケの1on1をしたり、ストライクアウトをやったりと、 

 

そこで出来ることは全部やるのだと言わんばかりに遊び回った。 

 

さっきゲームで負けた腹いせとばかりに、体を使う系の勝負は陽乃さんの圧勝だった。 

 

陽乃「へっへーん」 

 

腰に片手を当てて、こちらにピースをしながら勝ち誇る陽乃さんが、なんだか子供みたいで可愛いなどと思ってしまった。 

 

日が傾いて外に出たころには、普段、運動とは縁のない俺の体は悲鳴をあげていた。 

 

それでも、大きく伸びをしながら 

 

陽乃「あ~、楽しかったね~」 

 

といって笑う陽乃さんを見ていると、それも悪くはないかと思えるのだった。 

 

最後にプリクラを撮ろうと誘われたが、それだけは頑なに断った。 

 

 

~八幡レンタル 5日目~ 

 

 

日曜日、昨日の別れ際に言った、体が限界だから少しゆっくりしたいという俺の願いが聞き入れられ、今日は書店に来ていた。 

 

書店にはカフェが併設されており、本を買った客にはドリンクの割引券が渡されるシステムだ。 

 

俺たちはお互いに面白いと思った1冊(既読かどうかは問わない)を選び、相手に渡し、カフェで向かい合ってその本を読んでいる。 

 

陽乃さんらしからぬ地味なプランな気もしたが、これはこれで陽乃さんの一面なのかもしれない。 

 

俺が渡したのは京都を舞台にしたループ物の小説で、名門大学に進んだ主人公が理想の大学ライフを追い求め、何度も大学生活をやり直すというものだ。 

 

独特な文体でテンポ良く読めたし、友達が少なくやることが裏目に出てばかりの主人公には、少なからず共感するところがあった。 

 

 

陽乃さんが最初に手に取っていたのは、マキャベリの「君主論」だったが、 

 

頼むからもう少し読みやすい物にしてくれという俺の懇願を受け、普通の小説に変更された。 

 

陽乃さんの選んだのは、高校が舞台の恋愛小説だった。 

 

主人公を巡って幼馴染と転校生の女の子二人との三角関係を築くというのがあらすじのようだ。 

 

何だそれリア充爆発しろ。 

 

……まぁ、小説なんだからリアルではないわけだけど。 

 

主人公の相談役みたいなポジションに幼馴染の姉がいるんだけど、 

 

自分も主人公のことを好きなのに、それを隠して主人公にアドバイスをしているのが健気でいい。 

 

失礼ながら、陽乃さんにしては少し意外なチョイスだと思った。 

 

あまり、恋愛小説というのは得意ではないのだが、 

 

とかくドロドロとしたイメージのある三角関係が明るくコミカルに描かれており、惹きこまれるのに時間はかからなかった。 

 

しばらくの間、お互いに本の世界に没頭する。 

 

周囲の雑音は意識の外に置かれ、そのフィルターを通ってくるのは、互いのページをめくる音だけ。 

 

その音は不思議と心地よく感じられた。 

 

ふいに、陽乃さんのページをめくる音が止まる。 

 

本から視線を外して陽乃さんの方を見ると、こちらを見つめている陽乃さんと目が合った。 

 

八幡「な、なんすか」 

 

別にやましいことがあるわけではないのだが、気恥ずかしくなって視線をそらす。 

 

陽乃「ふふ、うぅん。なんでもない」 

 

そう言って穏やかに微笑みながらも、陽乃さんはじっと俺を見つめ続ける。 

 

八幡「そうですか」 

 

どうにも落ち着かないので、本を顔の前で広げて壁にすることで視線から逃れる。 

 

少しすると、陽乃さんの方からページをめくる音が聞こえ始めた。 

 

二人でする読書。 

 

会話をしながらという訳でもないので、本を読むという行為自体は一人でする読書と何ら変わりない。 

 

それでも、この時間と空間を誰かと共有しているということが、何故だか温かく、そしてこそばゆく感じてしまう。 

 

途中、飲み物を追加したり、お菓子を頼んで小休止を挟んだりしたが、それ以外ではほとんど会話らしい会話もなかった。 

 

誰かとこれだけ一緒に居て、ここまで何も話さなかったのは初めてかもしれない。 

 

それが自然に思えて、居心地の悪さを感じなかったのは、やはり陽乃さんのおかげなのだろうか。 

 

陽乃「ん~、面白かったー!」 

 

三時間ほど経った頃、陽乃さんがパタンと本を閉じた。 

 

八幡「気に入ってもらえて何よりです」 

 

陽乃「うん、この人いいね。雰囲気が独特。そっちはどう?」 

 

八幡「面白いです。これからクライマックスみたいですから、残りは家で読みますよ」 

 

陽乃「そっか。良かった」 

 

ちなみに俺の方は、残り4分の1といったところだ。 

 

まぁ、家に帰れば1時間もせずに読めるだろう。 

 

陽乃さんは途中で追加した紅茶を一口飲むと、不意に口を開いた。 

 

陽乃「ねぇ、比企谷君。今日、楽しかった?」 

 

穏やかな、自然な笑顔。 

 

いつもの計算を感じさせないその笑顔に、思わず胸が高鳴る。 

 

八幡「……えぇ。楽しかった……と思います」 

 

二人で本を読んでいただけ。 

 

もっと言えば、一人と一人が本を読んでいただけだ。 

 

それでも、本当に一人で本を読んでいるときよりも充実していたように思う。 

 

それならきっと、それは楽しかったと言ってもいいのだろう。 

 

陽乃「なぁにそれ。自分のことでしょ」 

 

曖昧な返答に陽乃さんは不満そうに口を尖らせる。 

 

八幡「ま、まぁ、そうなんですが。ほら、俺って誰かと遊ぶことって少なかったから、 

 

自分の感覚に自信が持てないと言いますか」 

 

陽乃「悲しい……。悲しい理由だね、比企谷君」 

 

よよよ……とわざとらしく泣きマネ。 

 

楽しそうに見えるのは気のせいですかね。 

 

陽乃「う~ん。じゃあ、今日だけじゃなくて、この期間、私と一緒に居て嫌じゃなかった?」 

 

八幡「嫌なんてことは……。……いえ、楽しかったです」 

 

ここで誤魔化すような言い方をするのは卑怯に思えた。 

 

だから、そう言いきる。 

 

陽乃「そう。うん、なら良かった」 

 

八幡「……雪ノ下さんは楽しかったんですか。俺なんかと一緒で」 

 

陽乃「うん! とっても楽しかったよ」 

 

名前の通り陽光を思わせる満面の笑顔は、強化外骨格ではないような、計算なんてされていないような。 

 

陽乃「あ~、悔しいなぁ」 

 

ふと、呟くように陽乃さんは言う。 

 

八幡「何がですか」 

 

陽乃「どうして私は比企谷君と同じ学年で生まれなかったのかなーって」 

 

八幡「どういう意味ですか」 

 

陽乃「だって、同級生にこんなに面白い子がいたら、学校生活だってもっともっと楽しかっただろうなぁってね。雪乃ちゃんがうらやましい。 

 

あ、もちろん私たちの世代だって面白くなかったわけじゃないけどね」 

 

八幡「はぁ」 

 

何かと思えば、仮定の話か。 

 

そんな話、いくらしても意味がない。 

 

この世界にはタイムマシンもないし、もしもボックスもない、Dメールだって未実装だ。 

 

リアリスティックな陽乃さんにしては、珍しく夢見がちな物言いだ。 

 

それにそもそも、俺はぼっちなんだから、そんな仮定は意味が無い。 

 

八幡「でも、もしそうなったら、たぶん俺と雪ノ下さんは出会ってませんけどね」 

 

陽乃「ん、どうして」 

 

八幡「だって、陽乃さんはいつも生徒会や委員会の中心で動いていたんですよね。俺、基本的にひとりで、 

 

クラスの隅で息を殺して生きていたいタイプなんで、そういう物事の中心人物と接点を持つなんて有り得ませんよ」 

 

至極、当然の帰結。 

 

ぼっちは関わりを求めない。 

 

今、俺が陽乃さんとこうしているのは、同じく問題を抱えた雪ノ下がいて、 

 

問題児達におせっかいを焼いた平塚先生がいたからだ。 

 

 

その雪ノ下の姉だったからこそ、陽乃さんとの接点が出来たわけで、 

 

俺と陽乃さんを繋ぐには、雪ノ下という中継ポイントが不可欠なのである。 

 

陽乃「ふむ、確かに」 

 

八幡「でしょう」 

 

陽乃「うーん、いや、でもわからないよ」 

 

一旦は俺の意見に頷いた陽乃さんだが、すぐにまた意見を翻す。 

 

陽乃「君はそっちでも問題児だろうから、きっと静ちゃんがおせっかいを焼くと思うんだよね」 

 

八幡「あー」 

 

それはあるだろうな。断言してもいいレベルで。 

 

陽乃「それで、そっちでは奉仕部がないわけだから、静ちゃんは生徒会に君を連れてくるんだ。 

 

生徒会の雑用として働き、周囲の人間に奉仕することで人間性を修正すること、なんて言ってさ」 

 

うん、言いそう。 

 

陽乃「そこで、生徒会長の私は君をボロ雑巾のように使い回して、最後にはポイしちゃうの」 

 

八幡「ちょっと、おかしいでしょ。俺の扱いが雪ノ下よりもひどいんですけど」 

 

ポイされちゃうの、俺? 

 

陽乃「あはは、そりゃあ私は雪乃ちゃんのお姉ちゃんだからね」 

 

そう言われるとすげぇ説得力だから困る。 

 

陽乃「まぁ、それは冗談にしてもさ。ね、どうかな、そんな世界は」 

 

確かに、そんな流れになるかもしれない。 

 

きっと、そこでも俺は陽乃さんの仮面にすぐに気づき、 

 

そんな俺を陽乃さんは面白がっておもちゃにするんだろう。 

 

 

生徒会室でなんだかんだといじられながら、 

 

奉仕部でやっているように各イベントの運営にも参加して、 

 

めぐり先輩や今の生徒会のメンバーが後輩として参加してきて……。 

 

にぎやかな生徒会にいる自分を幻視する。 

 

眩暈がするほどに明るい世界。 

 

でも、所詮、幻想は幻想だ。 

 

八幡「……仮定の話は、嫌いです」 

 

どんなに幻想が心地よかろうと、覚めてしまうのなら意味がない。 

 

覚めない幻想なら、ぶち殺すまでもなく、それは現実だ。 

 

俺たちは現実という覚めない幻想にいるのだから、夢の話ほど夢がない。 

 

陽乃「そう? ……うん、そうだね。こんな話をいくらしても、意味なんてないしね」 

 

陽乃さんはそう言って、視線を逸らす。 

 

その横顔がひどく寂しそうに見えてしまう。 

 

八幡「……お、俺は」 

 

陽乃さんが俺の言葉に反応してこちらに視線を戻す。 

 

寂しそうな陽乃さんの顔を見ていたら、何か言わなければならない気がして、口が動いてしまった。 

 

八幡「俺は、今の世界で平塚先生と会って、雪ノ下の奉仕部に入れられて……」 

 

はっきりしない気持ちでも、言葉にしておかないと、確認をしておかないと、誤解やすれ違いを生んでしまう。 

 

もう、俺はそれを知ったのだから。 

 

八幡「それで由比ヶ浜と出会って、それから陽乃さんとも出会って……」 

 

何が言いたいかは自分の中でもまとまっていないから、しどろもどろになりなりつつも、それでも俺は言葉を紡ぐ。 

 

陽乃さんは、俺の言葉をじっと待っている。 

 

八幡「えっと、何が言いたいかって言うと、ですね。 

 

俺は今の世界ってやつがそんなに嫌いじゃないっていうか、雪ノ下を介して雪ノ下さんと出会えたこととか、 

 

今の関係性っていうのも含めて、俺は今の世界が、結構好きで。 

 

……だから、もしもの話とかはしたくない、です」 

 

心の中のもやもやしたものを、なんとか言葉という形にまとめる。 

 

陽乃「……そっか。うん、ありがと」 

 

何に対しての礼なのか。 

 

何が言いたいのかも曖昧な言葉を、それでも陽乃さんは温かい笑顔で受け止めてくれた。 

 

どこまで通じたのか、陽乃さんが何を考えてこんなことを言い出したのかもわからない。 

 

わからない。 

 

本当にこの人はわからない。 

 

 

陽乃「同じクラスになったとするでしょ。そしたら、私は基本的にみんなとうまくやろうとするから、教室の隅で一人寂しくお弁当を食べてる比企谷君にもクラスに参加するように言うんだ」 

 

教室の隅で一人寂しくって、なに勝手に決め付けてるんだよ。 

 

そんなわけないだろ。 

 

俺が飯を食うのは教室の外だ。 

 

否定できるのがそこしかないって悲しい。 

 

陽乃「でね、そこで比企谷君は、比企谷君のことなんて本当はどうでもいいと思っている私の本心に気づいちゃうの」 

 

八幡「あー」 

 

それはあるだろうな。断言してもいいレベルで。 

 

そういう観察力はニュータイプ並だと材木座によく言われるからな。 

 

陽乃「私は私で見抜かれたことに気づいて、面白い男の子がいるなーって注目しだすの」 

 

仮定の話をする陽乃さんは、とても楽しそうに見える。 

 

陽乃「それで、私は静ちゃんを抱きこんで、君をクラスとか委員会とかのイベントに巻き込んじゃうんだ」 

 

八幡「簡単に教師を抱きこむとか言わないでください。っていうか、平塚先生だって奉仕部がなければ、特定の生徒にそこまで負担をかけることはしないでしょう」 

 

様々なイベントに巻き込まれたのは、雪ノ下の奉仕部があってこそだ。 

 

陽乃「わからないよー。私は私で静ちゃんにちょっと問題児扱いされてたからね。私、成績良かったのにおかしいよね」 

 

そう言えば、平塚先生が雪乃さんを評して「優秀な生徒ではあったが、優等生ではなかった」みたいなことを言っていたな。

 

陽乃「だから、二人でクラスのためになることをして、人格を矯正してこいとか言われて」 

 

あ、今CV平塚 静で再生された。 

 

陽乃「そこで、私は色んなイベントで、君をボロ雑巾のように使い回して、最後にはポイしちゃうの」 

 

八幡「ちょっと、おかしいでしょ。俺の扱いが雪ノ下よりもひどいんですけど」 

 

ポイされちゃうの、俺? 

 

陽乃「あはは、そりゃあ私は雪乃ちゃんのお姉ちゃんだからね」 

 

そう言われるとすげぇ説得力だから困る。 

 

陽乃「まぁ、それは冗談にしてもさ。ね、どうかな、そんな世界は」 

 

確かに、そんな流れになるかもしれない。 

 

きっと、そこでも俺は陽乃さんの仮面にすぐに気づき、そんな俺を陽乃さんは面白がっておもちゃにするんだろう。 

 

教室でなんだかんだと陽乃さんにいじられながら、奉仕部でやっているように各イベントの運営にも参加して、 

 

めぐり先輩や今の生徒会のメンバーとも文化祭や体育祭で一緒に作業して……。 

 

にぎやかな世界にいる自分を幻視する。 

 

眩暈がするほどに明るい世界。 

 

 

~八幡レンタル 6日目~ 

 

 

今日も今日とて、陽乃さんと待ち合わせである。 

 

自然に注目が集まっているから、陽乃さんを見つけるのは容易い。 

 

しかし、向こうがほぼ同じタイミングで俺を見つけるのは一体どういう理屈なんだ。 

 

存在感の無さを自認し、それを雪ノ下に揶揄されている俺からすると、まったくもって理解できない。 

 

いや、むしろ自分でも気づいてないだけで、 

 

俺という腐り目イケメンというジャンルに時代が追いついてきたという可能性が微粒子レベルで存在……しないな。 

 

陽乃さん以外の人から注目された覚えはまるでないし。 

 

あれ、じゃあ、陽乃さんって集団の中でも俺のことを見つけてくれてるってことか。 

 

まさか、陽乃さんって俺のこと好きなんじゃ……、 

 

なんて都合のいいことを普通の男子なら考えるところだが、俺は違う。 

 

はっ、その程度のことに恋愛感情をくっつけるなど。 

 

だから、お前は阿呆なのだぁ! 

 

自分の存在が特別なものではないということが、何故わからん! 

 

明鏡止水の心で考えれば、すぐに答えがわかる。 

 

ただ単に陽乃さんのスペックが高過ぎて、俺のステルス(常時発動系スキル)が無効化されているだけなのだ。 

 

陽乃「ひゃっはろー」 

 

完璧な美人が柔らかな笑みを浮かべて近寄ってくる。 

 

その様はまるで天使の降臨である。 

 

ま、無論、戸塚の天使度には勝てないが。 

 

それに、こちらは実際には堕天使なのである。 

 

天使のような悪魔の笑顔なのだ。 

 

陽乃「あ、何か失礼なこと考えてるでしょー」 

 

八幡「そんなことないっすよ」 

 

ナチュラルに読心術使わないでください。 

 

陽乃「嘘ついたってわかるんだからね」 

 

八幡「いたた、頭ぐりぐりしないでください。禿げたらどうすんですか」 

 

後ろから首を腕でロックされ、逆の手の拳先で頭をぐりぐりと捻られる。 

 

っていうか、この体勢、頭に柔らかいものが当たってるんですけど。 

 

陽乃「大丈夫大丈夫、君の毛根は丈夫そうだし」 

 

八幡「何の根拠があるんですか」 

 

陽乃「じゃあ、はげちゃったら、責任とってお婿さんにもらってあげるよ」 

 

八幡「俺は俺をはげさせた人と結婚する気はないです」 

 

陽乃「あはは。じゃあ、はげさせないように気をつけないとね」 

 

それは俺と結婚する気があるという意味ですか。 

 

俺以外の男なら勘違いするんでやめた方がいいですよ、そういう発言。 

 

陽乃「さて、と。今日は予定を考えてないんだよねー」 

 

八幡「はぁ」 

 

陽乃「と、言うことでぇ~」 

 

陽乃さんがにやぁっと嫌な笑顔を浮かべる。 

 

あ、これはダメなやつだ。 

 

俺に災難が降りかかる系笑顔だ。 

 

どんな嫌な笑顔だよ、マジやめろよ。 

 

陽乃「今日は比企谷君のプランで行動しまーす」 

 

八幡「何でそうなりますか」 

 

陽乃「まぁまぁ、女の子をエスコートするのも男の子の役目だよ」 

 

八幡「そんな前時代的な。そもそも、俺は専業主夫志望なんで、 

 

これまでの考え方とは逆にエスコートしてもらう方が自然だと思うんですが」 

 

陽乃「そんなこと言わずに~。これからの比企谷君の人生でもうこんなことはないかもしれないんだよ」 

 

勝手に俺の人生を決め付けてんじゃねーよ。 

 

いや、待てよ。 

 

俺のプランで行動? 

 

つまり、俺の自由? 

 

八幡「いや、わかりました」 

 

陽乃「ん?」 

 

ふっふっふ、俺に行動の決定権を与えたことを後悔させてあげますよ、陽乃さん。 

 

俺のターン、トラップカードオープン! 

 

八幡「じゃあ、陽乃さんの部屋、でどうですか」 

 

陽乃「……ほっほ~う」 

 

完璧だ。 

 

俺みたいな目が腐って性格の捻くれた男子を部屋に上げる女子がいるわけがないからな。 

 

自分で言ってて悲しくなってくる。 

 

ま、まあいい。 

 

とにかく、ここで陽乃さんが「それはちょっと」と断れば、 

 

「じゃあ今日は解散で」と言って家に帰ることが出来る。 

 

我ながら完璧な計算だ。 

 

陽乃「いいよ。じゃ、行こっか」 

 

八幡「は?」 

 

いきなり計算が狂っている。 

 

陽乃「まさかいきなり部屋に上げろなんて。比企谷君、意外と大胆だねぇ。 あ、ついでに夜まで居て両親に挨拶していく? 男友達を家に上げるのなんて隼人以来だから驚くだろうなぁ。 

そ、れ、と、もぉ~、昼間は二人とも出かけてるし、私の部屋で既成事実でも作っちゃおっか?」 

 

 

陽乃さんは余裕の笑みを崩さない。 

 

八幡「いや。いやいやいや、違うでしょ。その反応は女子として間違ってるでしょ。 なんであっさりオッケーしてるんですか。しかも既成事実とかよくわかんないんですけど」 

 

陽乃「別に私の部屋に比企谷君が来て困ることはないし。むしろ嬉しいかな。 私のことをもっと知ってもらえるし」 

 

しまった、この人、負けず嫌いは雪ノ下以上か。 

 

敵の誘いは受けた上で踏み潰すタイプなのか。 

 

八幡「意味がわかりません」 

 

陽乃「わからない振り? 君は悪意には敏感だけど、好意には疎いのかな」 

 

陽乃さんの笑顔に嗜虐的な色が混じる。 

 

八幡「……」 

 

陽乃「それで、どうするのかな。本当に私の部屋に来てくれても私は一向に構わないけれど」 

 

八幡「すいません。勘弁してください」 

 

陽乃「んっふっふー、いいよ。そのかわり~、比企谷君のエスコート権は剥奪。 

 

私の行きたい場所に行くからね。比企谷君の提案を聞いていいところを思いついたんだ」 

 

絶対にろくでもない思い付きだ、それ。 

 

特に俺の提案を聞いて思いついた辺り。 

 

八幡「……はぁ、帰りてぇ」 

 

結論から言うとその後、俺は家に帰ることが出来た。 

 

ただし。 

 

陽乃「ここが比企谷君の家かー」 

 

陽乃さんも一緒に、だが。 

 

八幡「あの、今更ですけど、ほんとに入るんですか?」 

 

陽乃「当然。覚悟もなく女の子の部屋に来たいなんて言い出した罰なんだからね」 

 

俺は深くため息を吐いて、玄関の扉を開ける。 

 

八幡「ただいまー」 

 

小町「おりょ? お兄ちゃん、おっかえりー……って、は、陽乃さん」 

 

陽乃「ひゃっはろー、小町ちゃん。ちょっとお邪魔するね」 

 

小町「……やっはろー、です。お兄ちゃん、これどういうこと」 

 

八幡「どういうことなんだろうな。俺が知りてぇよ」 

 

小町「どどどどどういうことなんだぜ。私のお兄ちゃんは部活友達とフラグを立てていたはずなのに、気がついたら部活友達のお姉ちゃんと自宅デートする仲になっていた。 何を言っているかわからないと思うが……」 

 

 

一人でぶつぶつ言い出した小町は放っておいて、陽乃さんが靴を脱いで家に上がる。 

 

小町「いやぁ、この間、陽乃さんから二人で食事して帰るってメールが来てから、何かあるかもと思っていたけど。 もう自宅デートなんて、お兄ちゃんも以外とスミに置けませんなぁ」 

 

 

陽乃さんは廊下に上がると辺りを見回して言った。 

 

陽乃「え~っと比企谷君の部屋はどこかな?」 

 

八幡「え~、俺の部屋来るんですか。リビングでも」 

 

陽乃「小町ちゃん、教えて」 

 

小町「兄の部屋は二階に上がって右の扉です」 

 

従順すぎるだろ、小町。 

 

八幡「小町、お前裏切りやがったな」 

 

小町「今はわからなくてもいい。でも、これもお兄ちゃんのことを思ってのことなんだよ。 あ、今の小町的にポイント高い」 

 

八幡「俺は裏切った奴は絶対許さないけどな」 

 

許さないだけで何もしないけど。 

 

陽乃「まぁまぁ、八幡。あんまり小町ちゃんをいじめちゃダメだぞ」 

 

小町「な、名前呼び……だと。まさか、もうそんなところまで。 

 

だ、だとしたら、今日はまさか両親への挨拶とか」 

 

陽乃「あ、聞かれちゃったぁ。ま、小町ちゃんなら隠すこともないかな。ね、八幡。 

 

でも、今日はお土産とか何も持ってきて無いし、ご両親へのご挨拶は日を改めてさせてもらおうかな」 

 

小町「わきゃー、どうしよ、今晩は赤飯たかないと。あ、小町、ちょっと二時間くらい買い物に行ってきた方がいいですかね」 

 

八幡「はいそこ、悪乗りするんじゃない。そもそも名前で呼んだのなんて今日ってか、今が初めてでしょ。 

 

小町もこの人の言う事は八割冗談だと思って聞いとけよ」 

 

陽乃「ぶーぶー、比企谷君その言い方ひどいー」 

 

小町「な、何だ冗談なのか。残念なような、ほっとしたような、う~ん」 

 

八幡「いつまでも立ち話もなんですし、部屋行くなら早く行きませんか」 

 

陽乃「そだね。じゃあ、小町ちゃん、また後でね」 

 

小町「は~い、ごゆっくり~」 

 

陽乃「ここが比企谷君の部屋かぁ」 

 

俺の部屋を見回しながら陽乃さんがつぶやく。 

 

俺はカバンを降ろして上着を脱ぐ。 

 

本当は部屋着に着替えたいところだが、陽乃さんのいる前で着替えるのはさすがにはばかられる。 

 

自分の家に帰って来たのに制服が脱げないのは、何だか変な気分だ。 

 

陽乃「あ~、それにしても小町ちゃんかわいいなぁ」 

 

言いながら、陽乃さんはベッドに腰を下ろす。 

 

八幡「あげませんよ。妹なら雪ノ下がいるじゃないですか」 

 

陽乃「ん~、雪乃ちゃんはもちろんかわいいよ。 だけど、小町ちゃんは雪乃ちゃんと違うタイプの可愛さなんだよね」 

 

まぁ、確かに俺という出来た兄がいるからか、小町は甘え方が上手い。 

 

自分が可愛いということを理解していて、それを上手く使って甘えてくる。 

 

雪ノ下には出来ないだろうし、そもそも陽乃さんには死んでも甘えなさそうだ。 

 

陽乃「まぁでも、雪乃ちゃんも小町ちゃんも両方を妹にする方法があるんだけどね」 

 

八幡「か、金の力で比企谷家から小町を奪う気ですか! なんて外道な!  

 

い、いくら積まれたって、小町はうちから出しませんからね」 

 

陽乃「あっははは。私のプランとは違うけど、う~ん、それも面白いかもね。 

 

さぁ、いくらくらいから比企谷君は心が揺らぐかな。五千万くらいかな? それとも一億?」 

 

お、億だと。 

 

やばい、数百万くらいを考えていたのに、既に桁が違ってた。 

 

小町、養子行く? 

 

小町がいいなら俺も止めないかも。 

 

八幡「ば、ばばばばばばばバカにしないで、く、くくく下さいよ!  か、金で家族を売るなんて、俺が、そんな安っぽい男だと、思って、思ってるんですか!」 

 

陽乃「あはは、比企谷君。目がすごい泳いでるよ」 

 

だだ、断じて泳いでなんてない。 

 

三億だったらいいかも、なんて断じて思ってない。 

 

陽乃「まぁ、冗談冗談。さすがに、私も億単位のお金を個人で動かせるほどの権限は、今はまだないしね」 

 

八幡「そ、そうですか」 

 

ほっと胸を撫で下ろす俺。 

 

あれ、でも、この人、今はまだって言った? 

 

そのうち動かせるようになるってこと? 

 

住んでる世界が違いすぎるな、ほんと。 

 

陽乃「うん、だから安心して。どちらかというと、もう一つのプランが有力だから」 

 

八幡「へ?」 

 

陽乃「本当にわからない? それとも、とぼけてるのかな」 

 

とぼけていると言われても、金以外に俺に小町を手放させる方法があるというのだろうか。 

 

いや、金でも手放さないけど。 

 

陽乃「さて、と」 

 

八幡「っていうか、どうするんですか。正直、俺の部屋なんてやることないですよ」 

 

陽乃「そんなことないよー。た、と、え、ば~」 

 

語尾を伸ばしながら陽乃さんは、ベッドから立ち上がる。 

 

陽乃「ここのチェックとか!」 

 

そう言って、ベッドの下の引き出しを勢いよく開ける。 

 

八幡「ちなみにベッドの下にエロ本とかありませんから」 

 

いや、確かに思春期男子の部屋に来たときのお約束ではあるのかもしれないけれども。 

 

陽乃「なーんだ、残念。比企谷君なら、すごいコレクションが隠されてると思ったのに」 

 

陽乃さんが開けた引き出しには、俺の着替えが入っている。 

 

八幡「俺のことを何だと思ってるんですか」 

 

っていうか、それは男子が男子の部屋に遊びに来た時の定番だと、阿良々木くんも言っていたぞ。 

 

陽乃「ふ~む。まぁ、時代的にこっちの方が怪しいかぁ」 

 

言うが早いが、陽乃さんは俺の勉強机の椅子に座り、 

 

机の上でスタンバイモードになっているノートPCの電源を入れる。 

 

八幡「ちょ」 

 

素早く立ち上がったPCをマウスを使って鮮やかに操作していく。 

 

陽乃「さーて比企谷君のDドライブには何が保存されてるのかなー」 

 

八幡「いや、ほんと待ってって」 

 

俺は陽乃さんの手からマウスを奪い返そうと手を伸ばす。 

 

必然、陽乃さんの手を掴む形になって、女子の手って柔らかいなとか、何だか温かいなとか 

 

やっぱり小さいんだなとか、余分な考えが浮かんでくる。 

 

陽乃「ふ~ん、やっぱり見られるとまずい物があるんだ」 

 

八幡「そういうわけじゃないですけど!」 

 

陽乃さんは、なおマウスを離そうとしない。 

 

断っておくが、怪しいものがあるわけではない。 

 

ただ、プライベートな部分を無遠慮に見られることに対して抵抗があるんだ。 

 

本当にそれだけだぞ。本当だからな。 

 

二人でもみくちゃになりながらマウスを奪い合っていると、ふいに部屋のドアが開かれる。 

 

小町「お兄ちゃん、お茶とお菓子持って来たん……」 

 

フリーズする小町。 

 

俺と陽乃さんもフリーズ中。 

 

ちなみに俺の右手はマウスを持つ陽乃さんの右手に、 

 

俺の左手は少しでも右手のリーチを伸ばそうと陽乃さんを後ろから抱きしめるような格好だ。 

 

いや、マウスを取り合っていた結果なんだって。ほんとに。 

 

八幡「こ、小町。か、勘違いするなよ。これはだな……」 

 

上ずる俺の言葉をスルーして、小町は丁寧な動作で、部屋の中央にお茶とお菓子が載ったお盆を置く。 

 

そして再び扉の外へ出ると、こちらへお辞儀しながら一言。 

 

小町「ごゆっくりどうぞ」 

 

八幡「小町ー!」 

 

無情にも扉は閉じられる。 

 

陽乃さんは、自由な左手でひらひらと扉の方へ手を振っている。 

 

扉が閉まると、部屋は再び二人きりに戻る。 

 

陽乃「……比企谷君、私としては別にいいんだけど、いつまでこうしてるの」 

 

陽乃さんの声にはっと我に帰る。 

 

あまりのことに茫然自失していたようだ。 

 

八幡「す、すすすすみません」 

 

慌てて陽乃さんに触れている両手を放して、壁まで後ずさる。 

 

陽乃「うん。まぁ事故みたいなものだし、許してあげる」 

 

陽乃さんは大仰そうに頷く。 

 

待て。なんか勢いであやまっちゃったけど、なんかおかしい。 

 

八幡「いや、これ俺悪くないですよね。不幸な事故どころか、むしろただの被害者ですよね。 轢かれた上に200メートルくらい引きずられて致命傷を負わされたまである」 

 

陽乃「あはは、もう大げさだなぁ、比企谷君は」 

 

少しも悪びれずにケラケラと笑う陽乃さん。 

 

八幡「どこが大げさですか! これで小町が俺のことを見境なく女性を襲う変態野郎だと勘違いして、俺と一切口も利かず、目も合わせないようになったらどうしてくれるんですか! あぁ、そんな世界にもう価値はない。俺はもう死ぬしかない」 

 

 

絶望だ。 

 

後で小町になんて弁解すればいいんだ。 

 

陽乃「聞きしに勝るシスコンぶりだね……。さすがにちょっとどうかと思うなぁ」 

 

八幡「放っといてください。つーか、人のこと言えないでしょ。 陽乃さんのシスコンぶりだって相当じゃないですか」 

 

陽乃「あはは、まぁそれを言われると苦しいけどさ」 

 

八幡「自分から嫌われるようにしながら、妹の成長を見守るって、見ようによっちゃ俺よりよっぽど危ないですよ」 

 

陽乃「ん~、だってしょうがないじゃない! 妹ってほんとに可愛いんだもん!」 

 

握りこぶしを作って力説する陽乃さん。 

 

八幡「わかります!!」 

 

全身に全力を込めた全肯定だった。 

 

初めて陽乃さんと全面的に意見があったような気がする。 

 

しかし、だ。 

 

八幡「……はぁ、今日から俺はその可愛い妹から、変態ごみくず兄貴と蔑まれる生活を送らなくてはならないんだ」 

 

陽乃「あはは……、これは重症だねぇ。大丈夫だって、そんなことにはならないから」 

 

八幡「どうしてそう言い切れるんです?」 

 

陽乃「どうしてって、それは……」 

 

俺が問い返すと、陽乃さんは少し上を見るようにして人差し指をあごに当て、考えるような素振りをする。 

 

陽乃「(あの子の行動原理的には、むしろ喜ぶはずだし)」 

 

呟く様に唇が動くが、その内容は聞き取れなかった。 

 

ただ、陽乃さんのこの姿勢、角度的に首筋のラインがすごく綺麗に見える。 

 

白磁のような美しさを持つ雪ノ下の肌より、少しだけ肌色が濃い陽乃さんの肌は、健康的な色気を感じさせる。 

 

思わずごくりと喉を鳴る。 

 

美女の喉元に噛み付く吸血鬼の気持ちっていうのは、こういうものなのだろうか。 

 

陽乃「よし、わかった。じゃあ、こうしよう。 もし比企谷君が小町ちゃんに嫌われちゃったら、私が責任を取るよ」 

 

ポンと手をたたく陽乃さん。 

 

八幡「責任って?」 

 

陽乃「比企谷君と私がつき合うの」 

 

相変わらず軽い調子でとんでもないことを言う。 

 

八幡「……何でそうなるんです」 

 

俺が牛乳飲んでたら噴出してるぞ、ほんと。 

 

陽乃「だから、私と比企谷君が彼氏彼女になっちゃえば、比企谷君は女の子なら誰でも襲い掛かる変態さんじゃなくて、少しがっついて彼女に迫っちゃった童貞くんってことになるでしょ」 

 

八幡「何それ、どっちも嫌なんですけど。 ていうか、責任とって付き合うとか、碌なもんじゃないでしょ、そんな関係」 

 

はき捨てるように言う。 

 

そんな関係は、欺瞞に満ちた偽物は認めるわけにはいかない。 

 

陽乃「あははは。うん、そう……だね」 

 

俺の言葉に頷く陽乃さんだったが、それきり黙ってしまった。 

 

何故か、空気が重くなる。 

 

陽乃さんといる時は、沈黙することはあっても気まずい空気になったことはなかったのに。 

 

何だ、俺が何か悪いことを言ったのか。 

 

そんなことを考えていると、陽乃さんが真剣な表情でこちらを見て言った。 

 

陽乃「……じゃあさ、責任とか関係なく、つき合ってって言ったら」 

 

八幡「は?」 

 

自分でも間抜けな顔をしているという自覚はあったが、開いた口がふさがらない。 

 

俺の動揺が収まる前に陽乃さんは椅子から立ち上がり、俺の方へと近づいてくる。 

 

そして、下から覗き込むような角度で、桜色の艶やかな唇を動かす。 

 

陽乃「私ね、比企谷君のこと、本気で好きになっちゃったかも」 

 

八幡「何を言って……」 

 

陽乃さんが、あの陽乃さんが、俺のことを好き? 

 

あり得ないだろ。 

 

だって、あの陽乃さんだぞ。 

 

完璧超人の雪ノ下にコミュニケーションスキルと人心掌握術をつけたような人だぞ。 

 

そんな人が、ぼっちでひねくれてて、いつも目立たないで生きることを信条としている俺のことを、好き? 

 

陽乃「どう、かな。比企谷君は私のことどう思ってるのかな」 

 

どう思ってるも何もない。 

 

陽乃さんは雪ノ下のお姉さんで、美人でスタイル良くて、外面完璧なのに裏は相当黒くて。 

 

人のことをおもちゃみたいに振り回して、自分が美人で可愛いことを最大限に使ってからかってきたりして。 

 

でも、そうやって黒い部分に振り回されるのにも慣れてきたというか、そういうのも楽しめるようになってきたというか。 

 

雪ノ下と同じで負けず嫌いなところがあって、勝負事になると意地になったりする子供っぽいところもあって。 

 

一緒に本読んでたりして、会話が無くても全然気まずくならないのが、すごく気が楽で。 

 

あぁ、思考がまとまらない。 

 

そもそも、最近、俺って陽乃さんのことばかり考えてるような気もするし、 

 

これはまさか、もしかして、ひょっとしてひょっとすると、そういうことだとでもいうのか? 

 

いや、これはただ最近陽乃さんとよく一緒にいるからというだけ……それだけのはずだ。 

 

ち、違う、そうじゃない。 

 

クールになれ、比企谷八幡。 

 

尊敬するKもそう言っていた。 

 

クールになってこの状況への最適解を導くんだ。 

 

陽乃「ねぇ、比企谷君」 

 

困ったような顔で見るな、ねだるような声を出すな、甘い匂いをさせるな。 

 

自分で顔が赤くなっているのがわかる。 

 

クールに、クールに、クールになれ! 

 

そして、俺はついに一つの結論に行き当たる。 

 

八幡「ふ、ふふふ」 

 

そこに至った俺は、不敵に笑った。 

 

急に笑い出した俺に、きょとんとした顔の陽乃さん。 

 

八幡「甘いですね、雪ノ下さん」 

 

陽乃「ん、どうしたの」 

 

とぼけたって無駄だ。 

 

八幡「そうやって俺の戸惑う姿を見て、いつもの様にからかおうって言うんでしょう。 だけど、そうは行きませんよ。俺だって学習してるんですから。 その程度の冗談はもう通用しませんよ」 

 

勝った。 

 

陽乃さんに勝った 

 

ゲーセンの格闘ゲーム以外で、陽乃さんに勝つのって初めてかもしれないな。 

 

陽乃「…………」 

 

俺に見破られたことが意外だったのか、陽乃さんは呆気に取られたような顔でこちらを見ている。 

 

八幡「雪ノ下陽乃、破れたり!」 

 

陽乃「…………」 

 

勝ち誇る俺に対して、陽乃さんからの反応はない。 

 

俺に演技が見破られたのが、そんなに意外ですか。 

 

それはそれで、何かショックだな。 

 

八幡「俺ぐらいぼっち歴が長いと、自分が女子から告白されるなんていうことは、あり得ないと自覚してますからね。そんなことで騙されたりはしないんですよ」 

 

陽乃「…………」 

 

いや、そろそろ何か反応してくださいよ。 

 

まさか、この完璧な論理が間違っていたのか、と疑いだしたとき、 

 

陽乃「ふ、ふふ、あははは」 

 

陽乃さんが急に笑い出した。 

 

陽乃「あ~、ばれちゃったかぁ~。さすがだね、比企谷君の捻くれ方を甘く見てたよ」 

 

そういってネタばらしをする陽乃さん。 

 

自分の考えに誤りがないことにホッとする。 

 

陽乃「くそ~。比企谷君があたふたするところが見たかったのにな~」 

 

八幡「誰かさんのお陰で、ここ最近ひねくれ方に磨きがかかってますから」 

 

悔しがる陽乃さんが見れるとは、なかなか貴重な経験だ。 

 

陽乃「おおっと、もうこんな時間か。ごめんね、今日ちょっと用事があるの。 だから今日はこれで帰るね」 

 

陽乃さんは唐突に腕時計を確認して、そう言った。 

 

時刻は16時過ぎ、俺の家に来てからようやく30分が経ったところだ。 

 

違和感に胸がざわつく。 

 

八幡「そう、なんですか」 

 

別れるタイミングとしては、いつもよりもだいぶ早い時間だ。 

 

そもそも、陽乃さんならそういう用事がある時は事前に言ってくれそうなものだが。 

 

陽乃「うん、ごめんね」 

 

そう言って、ハンドバックを持って部屋を出て行く陽乃さん。 

 

とにかく見送ろうと後を追う。 

 

階段を降りると足音を聞いて、小町がリビングから顔を出してきた。 

 

小町「あれ、どうかしたんですか」 

 

陽乃「うん。ちょっと用事があって、もう行かなくちゃなんだ。小町ちゃん、お邪魔しました」 

 

小町「ありゃ、そうなんですか。もっと、ゆっくりと兄との仲を深めて頂きたかったのに」 

 

陽乃「ごめんね。機会があれば、またお邪魔させてもらうから」 

 

小町「了解です! 今度は兄の子供の頃のアルバムとかばっちり準備しときますから、近いうちに是非!」 

 

八幡「そんな準備せんでいい」 

 

突っ込みを入れながら、小町の隣に立つと、小町が肘でわき腹を突ついてきた。 

 

八幡「あー、その駅まで送りましょうか」 

 

陽乃「ありがと、比企谷君、小町ちゃんも。でも、大丈夫だよ。 ちょっと急がなきゃだから、つき合ってもらうのも悪いしね」 

 

八幡「そうですか」 

 

陽乃「うん。じゃあ、またね」 

 

そう言うと、陽乃さんは手を振りながら、扉の向こうに消えていった。 

 

扉の影に消える瞬間、陽乃さんの目尻の辺りで、何かが日の光を反射したように見えた。 

 

小町「……何したの、お兄ちゃん」 

 

八幡「……何もしてねぇよ」 

 

小町「ほんとに?」 

 

八幡「兄貴を疑うのかよ」 

 

小町「信じる方が難しいでしょ」 

 

そう言われて反論できない我が身が少し悲しかった。 

 

扉はいつもより重い音を立てて閉まる。 

 

その音に違和感だけが増していった。 

 

 

続く

 

陽乃「……答えは、いつ出るの?」 八幡「……わかりません。だけど….」3/3【俺ガイルss/アニメss】 - アニメssリーディングパーク

 

 

 

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