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雪乃「ひ、ヒッキーあたしのパ……見たでしょ!最低!」2/2 【俺ガイルss/アニメss】

 

ここからは俺も知らない。ちゃんと聞いておこう。

 

沙希「あー、さっきも言いましたけどわたしたちは三浦先輩たちとそんなに変わんないですよ。曲がり角でぶつかっちゃったんです」 

 

いろは「そうだね、出会い頭におもいっきり。凄いビックリしたよ…… 

 

沙希「あー、すいません川崎先輩。ちょっと生徒会室に急いでたから走ってたんですよー。駄弁ってたら遅刻しちゃって…… 

 

八幡「ほーん……。まぁいいや、次で最後か。平塚先生とめぐり先輩はどうしてです?」 

 

平塚「んーとね、平塚先生に跳ねられそうになったの」 

 

八幡「はい?」 

 

俺を筆頭に、皆が眉をひそめる。 

 

めぐり「……いやな、なんかお偉方が来るとかで、こんな厳つい車は目の届かない場所に移動させておいてくれと言われてな。運転してたらめぐりが飛び出てきて跳ねそうになったんだよ」

 

八幡「…………そうになった?跳ねては、いない?」 

 

平塚「うん。当たってはいないよ、寸前で止まったから。でも凄いビックリしちゃって、危なかったーって思ったらいつの間にか車を運転してたの」 

 

……参ったな。また例外ケースが出てきた。 

 

八幡「それ、車大丈夫だったんですか?すげぇ危ない状況の気が…… 

 

めぐり「……大丈夫じゃない。めぐりがアクセルを踏んでな……。私はなんとか逃げれたんだが、校長の銅像に直撃した…… 

 

平塚「す、すみません平塚先生。でもわたし運転なんかできないですよぅ…… 

 

めぐり「ああ、めぐりを責めるつもりはないよ」 

 

雪乃「そ、それ……。放置して平気なんですか?無傷?」

 

めぐり「銅像なんぞ多少傾いてもどうでもいいんだが、私の車のバンパーがへこんだ……。くそ、誰に請求すればいいんだ」 

 

結衣「教師らしからぬ発言は今は置いておきましょうか…… 

 

八幡「……だな。異常事態だしな。さて、とりあえず出揃ったわけだが…… 

 

頭を捻る。 

 

まず、原因と思われる事象は大きく分けて2パターン。 

 

物理的な接触を伴うか否か。 

 

最後の平塚先生とめぐり先輩の事例で、物理的な接触はなくとも入れ替わる可能性が存在することが判明した。 

 

だから物理的な接触は必須条件ではなくなった。 

 

そして、物理的な接触の中でも2パターンに分かれる。

 

強い接触か、弱い接触か。痛みを伴うか否かともいえる。 

 

八幡「むーん……。わかんねぇ。とりあえず可能性潰してくか」 

 

結衣「どうするの?」 

 

八幡「あー、葉山。と、戸部。どっちでもいいからおもいっきり殴ってみろ」 

 

姫菜「は?なんでそんなことするわけ?」 

 

八幡「言ったろ。可能性を潰してくんだよ」 

 

葉山「えー、痛いじゃん。勘弁してほしいわー」 

 

戸部「……一方でいいのか?」 

 

八幡「まぁ同時なら同時でも。両方試すつもりだし」 

 

戸部「……なるほど。戸部、歯を食い縛れ」

 

葉山は拳を握り締め、肩をぐるぐると回す。 

 

皆は二人の様子を黙って見守る。 

 

葉山「ちょ、隼人くん!?まったタンマ!」 

 

戸部「なんだよ」 

 

葉山「は、隼人くん自分の顔、そんな強く殴れるん?」 

 

戸部「……確かに、無意識に手加減してしまいそうだな」 

 

葉山「だべ?俺っちは隼人くんの体に傷を負わせたくねーわけよ。だからさ、俺がやってみるわ」 

 

戸部「戸部……いい奴だな、お前」 

 

葉山「それほどでもねーって。…………死ねや葉山ぁっ!」 

 

戸部「え、戸部?」

 

姫菜「戸部止まれぇっ!」 

 

葉山「へぐぉっ!?」 

 

戸部が葉山に殴りかかる寸前、三浦のパンチが戸部を襲った。カウンター気味に入った攻撃は見事に決まり、戸部はもんどりうってのたうつ。 

 

葉山「え、海老名さんに殴られたみたいで二倍キチー…… 

 

そうか、戸部からすればそう見えるんだよな。俺から見たら海老名さんが葉山を殴っただけなんだけど。 

 

戸部「優美子…… 

 

姫菜「それ、やらなくていいから。さっき平塚先生が戸部殴ったじゃん」 

 

八幡「あ、そういやそうだな。ってことは一方的な物理攻撃は効果なしってことか」 

 

姫菜「それに、隼人が痛いのとか……あーしやだし」

 

と言って殴ったのは葉山ボディである。三浦にとってはどういう扱いになっているんだろうか。 

 

戸部「優美子……ありがとう」 

 

そう言って葉山が三浦に近づくと、三浦はその分だけすっと離れる。 

 

戸部「え?」 

 

姫菜「あ、いやちょっと無理……。やっぱ隼人は隼人じゃないと…… 

 

葉山「俺っちどんだけ嫌われてんのよ…… 

 

戸部「俺も凄くショックなんだが…… 

 

男二人が凹んでしまった。やっぱりこの状態はいろいろよろしくないな……。戻ってからも禍根を残してしまいかねない、余計な軋轢を生んでしまう危険性を孕んでいる。 

 

早く戻すため、やはり皆にはもう少しいろいろやってもらうか。

 

八幡「もう一つ試しとくのは、えーと…… 

 

集まった当事者達を見渡す。驚いてくれそうなのは、うーん……川崎かな。 

 

はっと今気づいた仕草をしながら、川崎の足元を指差し叫ぶ。 

 

八幡「あっ!川崎!足元にゴキブリが!」 

 

いろは「えっ!?どっ!?ぎゃああああ!」 

 

いい反応だ、凄まじいシャウトだった。これは演技などではありえないだろう。 

 

にしても一色の叫び声って初めて聞いた気がする。これが素なんだろうなぁ…… 

 

八幡「すまん川崎、嘘だ」 

 

いろは「…………殴るよ?いや、殴る。殴らせて」

 

八幡「あああちょっと待て、今のはただの実験だ。だからほんとすまん、お前が一番いいと思ったんだ。いやお前って案外女の子らしいとこあるしさ、一番素直に驚いてくれそうだなとかいろいろ」 

 

殴られまいと必死で弁解の言葉を重ねる。別に述べた言葉に嘘はないつもりだが。 

 

いろは「ふ、ふーん……。そう。なら、まぁ……殴らないでおいたげる」 

 

よかった、俺の祈りが通じたようだ。 

 

何故か激しく照れる川崎の他に、数名の女子から睨み付ける視線が飛んできたがスルーしておいた。冷や汗は止まらないけど。 

 

八幡「あと、言いにくいことなんだが…… 

 

俺が言い淀むと、由比ヶ浜と三浦が背中を押してくれる。

 

雪乃「何したらいい?戻るためならなんでもやるよ、あたし」 

 

姫菜「だね、ある程度までなら我慢するよ、あーしも」 

 

八幡「じゃあ、言うぞ。き、キスしろ、お前ら」 

 

沙希「……は?」 

 

いろは「はぁ?」 

 

葉山「はぁぁぁ?」 

 

姫菜「ヒキオ、やっぱ死ね」 

 

今ここに新たなはぁはぁ三兄弟が誕生した。そのあとにあった直接的すぎる罵倒の言葉は聞き流す。嘘やだスゴい動揺してる。 

 

八幡「い、いや、マジで言ってるんだぞ俺は」 

 

めぐり「それは君の趣味ではないのか?」

 

八幡「ち、違いますよ……。嫌なら殴りあってもらうとか、頭ぶつけ合ってもらうとかってことになりますけど」 

 

結衣「なるほど、そういうことね…… 

 

雪乃「何、どういうことなの?」 

 

八幡「えーとだな、あー、いろいろあるから順に説明しとくか。といってもここまででわかったのは無駄だってことだけなんだけど」 

 

ガヤガヤとした雑談の喧騒が静まるのを待ち、口を開いた。 

 

八幡「まず、当然だけど俺はお前らが何らかの条件を満たす、もしくは何らかの刺激を与えることで元に戻るってことを想定していろいろ試そうとしてる」 

 

姫菜「当たり前だし、そんなの」 

 

八幡「そう一概には言えねぇんだよな。時間経過で戻る、寝て起きたら戻ってる、みたいなこともあるかもしれん。あと最悪のケース。二度と戻らないって可能性は今は排除して話を進めてる。ここまでいいか?」

 

結衣「ええ、問題ないわ。それは考えても仕方のないことだもの」 

 

沙希「ほんとゾッとするんで言うのやめてください…… 

 

いろは「こ、こっちの台詞だよそれは…… 

 

めぐり「戻らない、か」 

 

平塚「比企谷くん。死んでも頑張ろう」 

 

めぐり先輩の拒否感半端ない。 

 

お、おう。と心の中でだけ返事をしておいて話を続ける。 

 

八幡「で、今さっきのでわかったのが、一方的な物理接触に効果はない。戸部が平塚先生と三浦に殴られたわけだけど、変化はなかった」 

 

葉山「はー、殴られ損じゃんよ……

 

八幡「そんなことはないぞ戸部。今は駄目だってわかるだけでも一応前進だ。そしてもう一つ、一人に精神的ショックとか驚きを与えても変化はない。これは川崎のやつな」 

 

いろは「な、なるほど。あんたもいろいろ考えてるんだね…… 

 

八幡「そりゃな、意味なくあんなことはしねぇよ。……怖いし。で、ここでもう一つ知りたいのが、入れ替わる二人に同時に物理的もしくは精神的ショックがあったらどうなるのかだ」 

 

優美子「精神的ショックって?」 

 

八幡「ああ。物理的な接触が必須条件でないことは平塚先生とめぐり先輩の事例からわかった。だから精神的ショックを与える方法として、キスをしてもらおうと提案したわけだ」 

 

戸部「それで嫌なら殴り合えか」 

 

八幡「そういうこと。でも殴り合うってのはあんまりオススメできねぇな」

 

葉山「まー痛いしなー」 

 

八幡「それはそうなんだけど。お前らからしたら自分を殴ることになんだろ?無意識に手加減するだろうからその加減が判断できん」 

 

葉山「んー、俺っちは平気かも」 

 

八幡「そりゃ戸部がアホだからだ」 

 

葉山「ヒキタニくん、ひでーわ…… 

 

八幡「まぁとにかく、二人が手加減なしでできるって自信がない限りはキスが手っ取り早い。それで入れ替わった事例もあるし、何よりすぐ試せる」 

 

結衣「でも、戻る保証もないわよね?」 

 

八幡「そりゃねぇよ。ただの実験だ。全員にやってもらうのはサンプル数を増やしたいのと、あとはあれだ。公平だろ。もしかしたら全員戻るかもしれんし。…………どうする?」

 

俺の言葉に総勢10人がそれぞれ二人組に分かれ、顔を見合わせる。 

 

それぞれに葛藤や一悶着、すったもんだがあったものの、背に腹は変えられぬといった具合で全員が承諾した。 

 

姫菜「ヒキオ、絶対こっち見んなし」 

 

沙希「先輩、こっち見たら許しませんから」 

 

八幡「あーはいはい。俺は後ろ向いとくよ」 

 

なんかえらい警戒されているので一人壁に向かう。 

 

互いに見られたくないのか、背後では二人組が部屋の四隅と中央の五ヶ所に位置し見つめあっている。と、思う。俺見えねぇし。 

 

八幡「んじゃ終わったら教えてくれー。変化があったかどうかも」 

 

誰からも返事はなかった。

 

仕方ないのでおとなしくそわそわしながら待つ。 

 

なんかいろいろ小声が聞こえてくる。超気になる…… 

 

由比ヶ浜と雪ノ下はもとより、一色と川崎とかめぐり先輩と平塚先生とか超見たい。そこはかとなく危ない百合の香りがする。 

 

戸部と葉山は気持ち悪いから気にしない。 

 

悶々としていると、やがて続々と足音が聞こえてきた。机付近に集まっているらしい。 

 

八幡「……終わったら教えてくれつったろ」 

 

振り向くと全員が憔悴しきった顔で互いに目配せし、ふるふると首を振っていた。 

 

戸部と葉山は顔を逸らし目を合わせない。それを海老名さんが目を輝かせて眺めている。ご愁傷さまです。

 

八幡「駄目だったか…… 

 

結衣「ええ、残念ながら…… 

 

沙希「うぅ、あんな恥ずかしい思いまでしたのに…… 

 

めぐり「私は何年ぶりだったのかなぁ……もう覚えてないなぁ……。ははは…… 

 

姫菜「もう、無理なん……?何が悪いのよ…… 

 

何が悪かったのか。そう、問題はそこだ。 

 

原因となった行動と同じことをしても戻らない、という可能性は当然ある。だがそうなると見当のつけようがなくなってしまう。 

 

だから、発生時と条件を揃えれば戻るものという前提を掲げ、もう一度今の行動を振り返ってみる。 

 

参考とするのは、雪ノ下と由比ヶ浜

 

入れ替わった行動がキスならば。かつ、同じような行動をすれば戻ると仮定するならば。 

 

違う点は何か。 

 

八幡「あー、もしかして…… 

 

一つ明らかな違いがあるが……しかし言いにくいな。全員が全員そうとも思えねぇし。 

 

結衣「何か思い付いたらなんでも言って、比企谷君」 

 

雪ノ下は俺の独り言に食い付く。藁をも掴む思いなんだろうな。よし、こいつらもうキスしてるんだし聞くぐらい別にいいだろ。 

 

八幡「……あのな、お前らさ。幼少時とかでもいいんだけど、鏡にキスして自分のキスしてる顔見ようとしたことってない?」 

 

姫菜「は、はぁ?ヒキオ何言ってんの?」

 

八幡「いや、真面目に言ってるんだ。さっきお前らキスしたけどな、お前らからしたら自分の顔とキスしてるんだろ?だからな、やったことあった場合さほど衝撃的じゃないんじゃないかと」 

 

戸部「衝撃を受ける度合いが足りなかった、ということか。……その推測が正しいなら、どちらか片方でもやったことがあったら駄目なんだろうな」 

 

結衣「な、何故そう言いきれるの?」 

 

戸部「俺はしたことがないから。戸部、したことあるのか?」 

 

葉山「い?え、俺はその…… 

 

戸部「あるんだな」 

 

葉山「……はぁ。そりゃ隼人くんがそんなことするはずねーよな……。あ、ある、小学生の時。みんなするっしょ!?ヒキタニ君!?」

 

何故俺に振る。まぁあらゆる黒歴史を網羅している俺がやってないはずはないのだが。つーかしてなきゃそんな発想でねぇよ。 

 

八幡「の、ノーコメントだ。けど例が一つじゃ足りんから全員答えてくれ。そういうことをしたことがあるか」 

 

優美子「あ、私もあるよー。キス顔書く練習したことあるから」 

 

姫菜「……や、やっぱりね。姫菜だと思った」 

 

八幡「なるほど、三浦と海老名さんも該当すると。他は?」 

 

残りの面子を見渡すが動きはない。牽制しあっているような空気を感じる。 

 

最初にぽつりと呟いたのは雪ノ下だった。 

 

結衣「……由比ヶ浜さん、あなたでしょう」

 

雪乃「い!?そ、そんなバカみたいなことあたししないし!ゆきのんじゃないの!?」 

 

結衣「わ、わわ私がそんなことするはずないでしょう!」 

 

沙希「……川崎せんぱーい。白状しましょうよー」 

 

いろは「あたしがするわけないでしょっ!あ、あんたとしか思えないんだけど」 

 

沙希「わ、わたしがそんな虚しいことするはずないですー!」 

 

めぐり「め、めぐり。別に恥ずかしいことじゃないんだぞ?誰しもが通る道だ」 

 

平塚「えー?わたし通ったことないですけど……。平塚先生ですよね」 

 

めぐり「し、失礼なことを言うな」 

 

各自が醜い押し付け合いを始めた。……見ちゃいられないな。

 

八幡「あー、このままじゃ埒があかねぇな。じゃあ全員目を閉じて手を上げてくれ。俺だけが見るわ」 

 

教師が生徒の中から犯罪者を炙り出す手法である。 

 

雪乃「ひ、ヒッキーが見るの?」 

 

八幡「誰か確認しねぇとわかんねぇだろ……。あ、確認終わった四人も一応目閉じといてくれ。該当するかだけ確認して結果は俺が墓まで持ってくから」 

 

結衣「し、仕方ないわね…… 

 

沙希「はぁ……先輩が見るんですか…… 

 

八幡「いいな、やるぞ?」 

 

合図をして目を閉じてもらい、質問を投げ掛ける。 

 

八幡「この中で自分とキスしたことがある人、挙手を」 

 

ぷるぷると手を震わせながら何本も手が上がる。

 

……マジか。多い。ってかほとんどじゃねぇか。 

 

葉山とめぐり先輩以外の八人の手が上がっていた。 

 

戸部と三浦と海老名さんはもう確認終わってるから上げなくていいのに……。え、三浦したことあんの? 

 

醜い押し付け合いをしていた由比ヶ浜も雪ノ下も一色も川崎も顔を赤くしながら挙手している。……なんてことだ。なんてことだ。 

 

平塚先生はもうね……。どうせそうだろうなってやる前から胸を痛めてたけど、やっぱりか。 

 

八幡「……おし、いいぞ」 

 

結衣「ど、どうだったの?由比ヶ浜さんでしょう?」 

 

雪乃「ちょ、ゆきのん!」

 

八幡「それには答えない。けどまぁ結果としては全組が該当してた。少なくとも片方はそういうことをやってるってことだ。どっちなのかは想像に任せる」 

 

ま、ほとんどが両方なんだけど。 

 

八幡「言っとくけど、俺は結果知ってるから押し付けようとしても俺に腹黒さが伝わるだけだからな…… 

 

そう言うと、相手に押し付けようとする動きはピタッと止みやっと静かになった。 

 

八幡「よし。じゃあ続きだ。だからキスは駄目みたいだし、殴り合ってもらうしかねぇかなぁ……。あ、いや、当事者同士やんなくても誰かに殴ってもらえばいいのか」 

 

結衣「酷く不愉快な思いをしないといけないわね…… 

 

雪乃「うぅ、痛いのヤダなぁ……

 

戸部「……戸部、やるか」 

 

葉山「隼人くん、マジ?」 

 

葉山は決意したのか、強い目で口を開いた。 

 

戸部「仕方ないだろ。女子にやらせて効果なしは可哀想じゃないか。実験台だ」 

 

葉山「それもそうか……。でもよー、本気で殴り合うん?」 

 

戸部「いや、手加減するかもしれないから比企谷に頼もう。こう、頭をぶつけてもらう」 

 

葉山「マジかー…… 

 

立派な決意だ。 

 

そんなことはやりたいことじゃないが、その決意を無駄にしないために心を鬼にしよう。 

 

八幡「……おもいっきりやるぞ、俺。いいのか?」

 

戸部「そうじゃないと意味がない。一思いにやってくれ」 

 

葉山「うし、俺っちも覚悟した。ヒキタニ君、おもっきり頼むわ」 

 

そして俺は並んだ戸部と葉山の頭を両手に持ち、勢いをつけるため頭を離す方向に引っ張る。 

 

八幡「……いくぞ。恨むなよ」 

 

葉山「こいやぁ」 

 

戸部「ああ」 

 

八幡「リア充…………死ねっ!」 

 

気合いを入れるための掛け声とともに、側頭部辺りを全力で衝突させる。ごっ!という鈍い音と嫌な衝撃が伝わった。 

 

沙希「ひいぃ…… 

 

雪乃「い、いたそー……

 

戸部「あいたた…… 

 

葉山「いってぇ!超いってぇ!」 

 

痛みに悶える二人の台詞だけで変化がないことを皆が悟り、沈黙が降りる。 

 

八幡「……駄目か」 

 

結衣「絶望的な結果ね……。これには少し期待していたのだけれど」 

 

八幡「ただ、これは現象発生時と若干条件が違う」 

 

雪乃「条件?」 

 

八幡「ああ。それは、今回は覚悟をしていたということ、つまり起こることがわかってた。最初に入れ替わった時の事象には全員に、"不意に起こった"という共通項がある」 

 

優美子「なるほどー、これからやるぞってのがわかってたから、同じことをしても効果がない可能性があるってことね」

 

八幡「俺はその可能性もあると見てる。総合すると、条件はつまり」 

 

結衣「……入れ替わった二人がいつ起こるかわからないタイミングで、何らかの精神的ないし物理的衝撃が二人に加わること?」 

 

雪ノ下が俺の言葉を先んじる。 

 

八幡「そういうことだな。その条件下で一度何か試してみたいんだが…… 

 

場がしん、と静まり返った。一様に難しい顔をしている。 

 

まぁそりゃそうだな。だって絶望的な予感がするし。 

 

沙希「……それって、結局どうやるんですか?」 

 

八幡「さ、さぁ…… 

 

沙希「えー。そこはノープランなんですか……

 

八幡「知らねぇよ俺も。つーか今のだって推論に推論を重ねた根拠も全くないデタラメみたいなもんだぞ。試す価値はあると思ってるけど」 

 

結衣「何か、ないかしらね…… 

 

雪乃「二人でいるときに、急にわーっ!って脅かすとかは?」 

 

いろは「でもさ、そんなこと言われたら、二人でいる時は常に何がくるか警戒しちゃいそうだよね」 

 

めぐり「まぁいろいろ試してみるしかないだろうな…… 

 

材木座「はーちまーんくーん。あーそびーましょー」 

 

全員で頭を抱えていると、唐突に扉の外から間抜けないい声が聞こえてきた。 

 

八幡「んだようるせぇな……。この忙しい時に」

 

雪乃「あなたのお友達……いえ、同類でしょう」 

 

結衣「中二かー…… 

 

葉山「ザイモクザキくん?」 

 

めぐり「比企谷と同類なら、こんな漫画的状況も受け入れられるかもしれないな。どうだろう、いい知恵もないことだし彼も一緒に考えてもらうというのは」 

 

結衣「彼が役に立つかしら…… 

 

雪乃「さ、さー。あんまり期待はできないような…… 

 

優美子「私はザイハチ見れるかもだし、いてもらってもいいかなー」 

 

やめてくれ勘弁してくれ海老名さん。 

 

戸部「彼は正常と思っていいのかな」 

 

八幡「……さっきの間抜けな台詞と声からしてそうだな。一応確認はしてみる。おかしなことになってたらお引き取り願おう」

 

鍵の掛かった扉の前に向かい、扉越しに話しかける。 

 

材木座「む……鍵が……。不在か?」 

 

八幡「いや、いる。お前は材木座か?」 

 

材木座「そうだ、我だ。はぁちまん!まさか我の声を忘れたのではあるまいな」 

 

八幡「そうだな、お前の声だ」 

 

はぁちまんが勇者王的な声だった。おかしなことにはなっていないようだ。 

 

八幡「大丈夫そうだ。引き入れるけど、いいな?」 

 

部屋の面子に確認するが、誰も頷いてはくれない。……薄情者め。 

 

仕方ない、ここにいることは伝えてしまったし入れてやるか。これこそ毒を食らわば皿までだ。材木座は毒。

 

扉の鍵を開け、材木座を引き入れるとすかさずまた施錠する。 

 

材木座「む、なんだこの人数は……いったい何が…………と、おや八幡。何故鍵を掛けるのだ?」 

 

八幡「監禁されたと思え。解決するまでは誰も出られない」 

 

材木座「か、監禁!?やだ、なんか怖い。我もう帰る」 

 

八幡「駄目だ、諦めろ。まず説明してやるから聞け」 

 

これまでの経緯と状況を洗いざらい説明する。間抜け面で聞いているが本当に理解しているのだろうか。 

 

材木座「な、なるほど……。どこぞの漫画で見たような状況というわけだな」 

 

八幡「理解が早くて助かる。さすがファンタジー世界の住人だな」 

 

材木座「よせ八幡。照れるではないか」

 

八幡「褒めてねぇよ。で、どうすればいいと思う?」 

 

材木座「そ、そう言われるとだな…………そこの窓から二人で落ちるとかどうだろうか」 

 

雪乃「いや、死ぬから」 

 

沙希「自殺教唆されましても…… 

 

結衣「ただの心中じゃない、それ」 

 

姫菜「こいつやっぱいらなくない?」 

 

優美子「はぁはぁ」 

 

姫菜「人の顔ではぁはぁすんなし」 

 

めぐり「やはりすぐには思い付かないか」 

 

平塚「どうすればいいんでしょう……このままじゃわたし、死ぬしか…… 

 

めぐり「め、めぐり?」

 

口々に突っ込みとか罵倒とか愚痴が漏れ始めた。当人たちは慣れない体で過大なストレスを感じているのかもしれない。 

 

材木座「なんという言われようだ…… 

 

八幡「あー、みんな、ちょっと材木座と話し合ってみるから適当にしててくれ」 

 

そう伝え、材木座と二人で作戦を練ることにした。一斉に雑談が始まり部屋が騒がしくなる。 

 

材木座「ほ、本当に入れ替わっておるのだな、信じられんが…… 

 

八幡「俺だって信じたくねぇよ」 

 

材木座「時に八幡、少し思ったことがあるのだが…… 

 

八幡「あ?なんだよ」 

 

何故か材木座は内緒話をするような距離に近づいてくる。やめろ近ぇ離れろ。

 

葉山「ザイモクザキくんもダメかー。ヤッベー俺らマジヤッ 

ベー」 

 

戸部「まぁ仕方ないな。俺たちも思い付かないし」 

 

材木座「ぷくっ、ぷくくくっ」 

 

材木座は手で口を押さえながら、辛抱たまらんといった様子で笑みというか馬鹿笑いを漏らす。 

 

八幡「どうした。気でも触れたか」 

 

材木座「ちがっ……ぶはっ。ぷげらっ!あ、あの葉山某とかいういけ好かん輩、場末のホストみたいなチャラ男になっておるではないかっ!」 

 

八幡「そう言われれば……ぷっ、くくっ」 

 

二人して笑いながら会話を盗み聞きする。

 

葉山「はー、でも隼人くんの見た目なら俺っちももうちょいモテるんかねー?」 

 

沙希「いや、戸部先輩はそういう問題じゃないと思いますよ…… 

 

葉山「マジで?何が悪いんよ俺……隼人くぅーん」 

 

姫菜「あーそれそれ、そういうとこ。戸部と居ても男らしいとこぜんっぜん感じない。それじゃどうやってもいい人止まり」 

 

優美子「んー、戸部っちは……男の子にならモテるんじゃないかな。ヒキタニくんとかお似合いなんじゃない?ぐふふ」 

 

姫菜「あー!人の顔で鼻血出すなし!」 

 

材木座「ぶふぉっ!あんなお蝶婦人みたいな腐女子がおるわけなかろうっ!ぶはははっ」

 

八幡「や、やめろ材木座、折角耐えてきたのに……うははっ」 

 

材木座「ぐっはっは、あっちの二人は…… 

 

そう言うと雪ノ下と由比ヶ浜に目を向ける。 

 

材木座「ビッチみたいな毒舌委員長と清楚可憐な馬鹿娘か」 

 

八幡「……く、くくっ、マジやめろ、材木座 

 

材木座「ある意味斬新ではあるがキャラ付けの方向を間違っておるな。それじゃ作品は売れんですぞー?がはははっ」 

 

八幡「ぶっはははっ!」 

 

材木座「あっちは無愛想で寡黙な見た目ゆるほわ後輩と、あざとい巨乳ロングヘアか……

 

八幡「……あり、か?」 

 

材木座……ありかもしれんな」 

 

八幡「だよな。ありだよな……。別に普段が悪いわけじゃねぇけど、川崎も怖さが減ってるし…… 

 

材木座「あれは唯一の実験成功例かもしれんな…… 

 

八幡「くっ、成功とか失敗とかやめろ、遊んでんじゃ……あっはは」 

 

材木座「最後は……コメントし辛いな、流石に…… 

 

八幡「ああ。めぐり先輩の見た目の平塚先生はともかく…… 

 

平塚「みんなー、戻れるようがんばろー☆」 

 

材木座「なんだろうか。胸が痛いのだが」 

 

八幡「アラサーであれはさすがにキツいなぁ……

 

材木座「美人は美人なのだがな……。元の性格も駄目、入れ替わっても駄目ならあの人はどうすればよいのだ。答えろ八幡」 

 

八幡「俺が知るか。あの人はそういう、結婚できない天命を受けて生まれたのかもな」 

 

材木座「哀れ平塚女史。安らかに眠れ」 

 

八幡「くははっ、死んでねぇから」 

 

めぐり「誰が哀れで、何が天命だってぇ……?」 

 

ヒソヒソと話をしながら馬鹿笑いをしてたら、平塚先生がいつの間にか背後に立っていた。 

 

材木座「わ、我は何も言ってなかとです。全部この男が」 

 

八幡「あっ!汚ねぇぞ材木座!お前が最初にくだらねぇこと言い始めたんだろうがっ」

 

めぐり「随分と楽しそうに馬鹿笑いをしていたなぁ~?」 

 

うおおお!めぐり先輩の姿なのに超怖ぇぇ! 

 

結衣「どうしたんですか?平塚先生」 

 

めぐり「この二人、私たちを元に戻す算段を話しているかと思ったら、入れ替わった私たちをネタにして笑っていたのだよ」 

 

結衣「…………失望したわ、比企谷君」 

 

雪乃「ヒッキー、サイテー」 

 

沙希「先輩、最悪ですね」 

 

いろは「比企谷…… 

 

平塚「やっぱり君はそんな子なんだね」 

 

姫菜「キモ。てか、キモ」

 

みんな酷い。俺今までかなり頑張ったのに。こんなの全て材木座のせいだ。 

 

八幡「材木座ぁっ!てめぇ…… 

 

材木座「な、なんのことでござるかな?」 

 

めぐり「まぁどっちでも構わん。どちらも殴るから」 

 

材木座「やだ!公平に八幡だけを!」 

 

八幡「それのどこが公平なんだ屑っ!」 

 

めぐり「比企谷、歯を食い縛れ。あと目も食い縛れ」 

 

八幡「目も!?」 

 

めぐり「いくぞ。……結婚できないのが天命とか、ふざけるなぁっっ!」 

 

皆が俺と材木座を睨み付ける中、制裁が始まる。

 

鬼のような形相のめぐり先輩の姿をした怒れるアラサーが腕を振りかぶり、俺の頬にグーパンチをぶちかます。凄まじい衝撃とともに体が吹っ飛ぶ。 

 

めぐり先輩の体でよかった。平塚先生の体なら死んでた。 

 

八幡「んごぇっ!?」 

 

材木座「ぷげらっ!?」 

 

吹き飛んだ俺の体は突っ立っていた材木座に向かい、二人絡み合うようにして床に放り出される。 

 

目を開けると、材木座の顔が目の前にあった。眼鏡が半分はずれかかっている。 

 

そして、唇が、材木座の、材木座に、ぎぃやあああああ! 

 

八幡「ぐああああーっ!?」 

 

材木座「ふぉおおおおお!?」

 

全身を衝撃が貫き、クロコダインばりに叫びをあげる。 

 

同極の磁石のように飛び退いて体を離し、床をのたうち回る。 

 

八幡「材木座ぁ!てめ…………おぇっ」 

 

材木座「八幡…………貴様、我のこと……うぐっ」 

 

押し寄せる吐き気に堪えながら唇を擦る。ふざけんなふざけんな、俺の初めてのキスが材木座とか、しかも衆人環視の中とか、マジふざけんな! 

 

姫菜「いやー、いいものが見れたなー」 

 

優美子「いやいやいや、キモいだけだし」 

 

雪乃「おぞましいものを見てしまった気がするわ…… 

 

結衣「ヒッキー……最低だよ」

 

いろは「先輩、何考えてるんですか…… 

 

平塚「あー……そこまでやるつもりは……。比企谷、すまないな」 

 

八幡「くそ……なんで俺がこんな中傷まで受けないと…………ん?」 

 

葉山「…………みんな、戻ってないか?」 

 

葉山の姿をした人物が手足を動かし、葉山らしい物言いで話す。 

 

そういえば今話した奴等も。 

 

めぐり「も、戻ってるー!」 

 

沙希「ほ、ほんとだ……よかったぁ…… 

 

戸部「うおー!マジだ!」 

 

どうやら全員が元に戻ったようで、それぞれがガッツポーズをしたり安堵の溜め息を漏らしたりしていた。 

 

結衣「で、でもさ、なんで戻ったの?」

 

そうだ。それだ。何があったんだ? 

 

雪乃「……さっき言っていた条件を満たした、からかしら」 

 

いろは「条件ってなんでしたっけ?」 

 

葉山「ええと、入れ替わった二人がいつ起こるかわからないタイミングで…… 

 

沙希「何らかのショックが」 

 

めぐり「二人に加わること?」 

 

全員「あ」 

 

納得した面々は床に転がったままの俺と材木座を交互に見やる。 

 

優美子「確かに衝撃だったね…… 

 

姫菜「それはもう、凄かったよ!ねー、もっかいやってよヒキタニくん」 

 

八幡「……とどめをささんでもらえますか」

 

平塚「まぁ何はともあれ戻ったんだ、一件落着だな。…………戻ってしまったか…… 

 

平塚先生だけは少し寂しそうに見えるが、もう一つ気になっている不可解なことがある。 

 

八幡「ちょっと待ってくれ。ならなんで俺と材木座は入れ替わってねぇんだよ」 

 

雪乃「……そうね。さっき私たちがしたキスで戻らなかった理由を当て嵌めるなら…… 

 

結衣「…………ヒッキーと中二は、二人でキスを…… 

 

いろは「経験したことがあるぅ!?マジですか!?」 

 

八幡「ふっざけんな!あるわけねぇだろ!」 

 

姫菜「ありゃ、付き合ってたんだ」

 

八幡「ねぇよ、ねぇ。材木座、お前もなんか言え!」 

 

材木座……まさか、あのとき愛してるぜと我に言ったのは…… 

 

八幡「はぁ!?お前それ、文化祭のこと言ってんのか!?あんなの流れで…… 

 

結衣「……言ったこと、あるんだ」 

 

沙希「どんな流れになったら愛してるって男同士で言うんですかね…… 

 

戸部「……察してやんべ、いろはす 

 

八幡「戸部、いらん気遣いすんな…… 

 

雪乃「…………失望したわ」 

 

沙希「……見損なったよ、比企谷」 

 

八幡「待て待てお前ら、弁解をだな……

 

めぐり「よし、無事戻ったし帰るかなー。比企谷くん助かったよー、ありがとねー」 

 

平塚「はぁ……。残念だが私も戻るかな。もう少し女子高生を満喫したかったのだが…… 

 

沙希「はぁ……あたしも帰るよ、疲れた……。比企谷、ま、またね」 

 

簡単な挨拶を残し、川崎とめぐり先輩と平塚先生が去っていった。川崎は涙ぐんでた。俺が何やったんだよ…… 

 

葉山「戸部、俺たちも部活に戻るか。比企谷、助かったよ」 

 

戸部「そだなー、結局ヒキタニくんのおかげだな。あんがとなー」 

 

優美子「海老名ー、んじゃあーしらも行こーか」 

 

姫菜「そだねー。ヒキタニくん、ご馳走さまでした」 

 

みんなうるせぇうるせぇ。

 

材木座……八幡。我、帰ってもいい?」 

 

八幡「さっさと帰れっ」 

 

全員が元に戻れたのは材木座のおかげかもしれないが、こいつのせいで俺は酷い目にあった。 

 

そして部屋に居るのはいつもの面々となる。 

 

雪乃「まったく、一体なんだったのかしら……。信じられないこともあるものね…… 

 

結衣「ま、まぁ戻れてよかったよー。新鮮な体験ではあったし……。けどあれだね、やっぱ自分が一番落ち着くね」 

 

いろは「そうですねー、やっぱり自分が一番です。それにしても、なんであんなことになったんでしょうか……?」

 

雪乃「さぁ……。でもそんなもの考えてもどうせわからないわ。だから忘れましょう。一時的に見た、集団白昼夢だったのよ」 

 

結衣「そ、そだね」 

 

いろは「そうしましょうか…… 

 

八幡「だ、だよな。俺のさっきのもノーカンだよな」 

 

雪乃「……あなたは反省しなさい」 

 

結衣「ヒッキー……うぅっ…… 

 

いろは「先輩にはちょっと幻滅ですかね」 

 

八幡「忘れるんじゃないのか、お前ら…… 

 

ぐれるぞちくしょう。 

 

独り黄昏ようと窓の外を眺める。 

 

すると、下に愛しのマイプリティエンジェル戸塚の姿があった。

 

そうだ、さっきの記憶を戸塚とのもので上書きしてしまおう。 

 

穢れた唇を戸塚に浄化してもらおう。 

 

気がつくと窓を開け、叫んでいた。 

 

八幡「と、戸塚ぁ!」 

 

戸塚「あ、八幡だー。やっほー。どうかしたー?」 

 

八幡「お、俺と……、俺と、キスしてくれー!」 

 

戸塚「え、えー!?な、何言ってるの八幡!」 

 

八幡「俺は本気だ!今から降りるから待って………… 

 

背後に殺気を感じる。 

 

雪乃「あなた、いい加減に…… 

 

結衣「ヒッキー、本気で……

 

いろは「先輩、マジで」 

 

振り向いた瞬間、衝撃が俺を襲った。 

 

雪乃・結衣・いろは「死ねぇっ!!!」 

 

八幡「あ」 

 

雪乃・結衣・いろは「あ」 

 

八幡「ああぁぁぁーーー!?」 

 

戸塚「は、はちまんー!?」 

 

その勢いで俺の体は校舎から落下した。 

 

幸い木と花壇がクッションになったお陰で死なずには済んだが、足を骨折。入院生活を送る羽目になった。 

 

殺人未遂とも呼べる行為を深く反省したのか、俺の病室では常に三人が甲斐甲斐しく介護をしてくれた。

 

酷いことをされたとはいえ、彼女たちを犯罪者にするつもりなど毛頭ない俺はその介護を受け入れ、思いの外充実した入院ライフを送ることができた。 

 

どうせこの世界は異常なことも起こり得るファンタジーみたいだしな。細かいことは置いといて、まぁいいか。これで。 

 

あ、とりあえずあれからはぶつかったりしても入れ替わったりなんてことは起こらなくなったらしい。どうやら入れ替わる現象が発生したのはあの日の極短い時間の間だけだったようだ。 

 

俺と材木座が入れ替わらなかったのもそのせいだ、絶対。そうに決まってる。キスなんかしたことないし、愛し合ってもいない。…………ないよね。 

 

とにかく、怪我も癒え明日で退院だ。ようやくいつもの奉仕部の日常が戻ってくる。 

 

やはりファンタジーなんか俺には不要なものだ。平穏で、刺激も何もない生活が一番。そう再確認させてくれる不可思議な出来事だった。 

 

なんか忘れてる気がするけど、忘れてるってことはどうでもいいことだよな、うん。 

 

 

 

 

 

 

比企谷八幡材木座義輝は愛

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