アニメssリーディングパーク

おすすめSSを当ブログで再編集して読みやすく紹介! 引用・リンクフリーです

八幡「やはり、俺にとって。 こんな物語は。こんな青春ラブコメは……」1/4【俺ガイルss/物語シリーズss】

 

 

『ボランティア活動についてのレポート』 

 

2-F 比企谷 八幡 

 

 ボランティアとは偽善であり自己正当化である。 

そもそも人間は、自らにとって利益が無いものは行わない。 

逆説的に、ボランティアにも。無償と喚きつつ、何かの利益があるはずである。 

 

 その解は簡潔だ。体裁である。 

良い人。素晴らしい人。出来た人間。そういう世間体を利益として獲得できるのだ。 

アーティストがチャリティーライブをやれば、そのアーティストの評価が上がり。 

結果、ライブ一回分より大きな報酬になる。CD売上とか。 

 

 しかしながら、それが悪いとは言わない。 

やらない善よりやる偽善という言葉がある。結果的に助けられる人間が生まれるのだからWINWINである。 

世間体を気にする方々は、もっと率先してボランティアに従事すべきだ。 

 

 そこで言いたい。これはWINWINでのみ成立しなくてはならない。 

すなわち、どちらかがルーザーではいけない。 

この場合のルーザーとは、世間体や体裁という報酬が利益にならない人間だ。 

すなわち、俺みたいなぼっち、いや1人を好む者にとって周りの評価は必要ではない。 

赤ん坊に外車を渡すようなものだ。不必要なのだ。 

よって、俺がボランティアを学校行事とか言う強制力で行わせるのは間違っている。 

それは既に強制労働だ。ストライキも辞さない。全ての時間が残業対象だ。 

 

 そもそも、俺みたいな人間一人が誰かを助けるなんておこがましい。 

むしろ俺が助かりたい。この青春とか言うドラマティックな諸悪達から。 

更に言えば、俺が助けられるほどの人間なら、自分の力で勝手に助かってるハズだ。 

 

 以上から総合的に考えて。 

 

 ボランティアなんていう偽善事業は、有志を募って行うべきだ。 

俺は参加したくともその資格がありません。なので今回は欠席しました。 

 

 

序章 

『とにかく、羽川翼はブレない』 

00 

 

平塚「チッ……はぁ……」 

 

 舌打ちとため息のハイブリッドを繰り出す、目の前の生徒指導の教師、平塚静は俺を先ほどから睨みつけてくる。 

俺が提出した、レポートと俺を交互に睨みつけてくる。いや、マジ怖い。やめて。 

 

平塚「私は、先日のボランティアの課外活動に欠席した比企谷にレポートを頼んだのだが?」 

 

比企谷「はぁ……」 

 

平塚「課したものはなんだったかな?」 

 

比企谷「ボランティアについてのレポートです……」 

 

平塚「そうだな?じゃあ何故最終的に欠席の言い訳になっているんだ?」 

 

 その指でトントンするのやめませんか?圧迫面接です。誘導尋問です。 

そのリズミカルな音が、衝撃のファーストブリットへのカウントダウンにしか聞こえない。 

しかもそれキャンセルボタンなさそうですよね?本当に痛いから勘弁してほしいんですけど……。 

 

比企谷「いえ、その。ボランティアについて自分なりの考えを述べる上で、結果自分の正しさも一緒に証明したんです。ホラ、一粒で二度おいしいってヤツです」 

 

平塚「そうか、なら2度も楽しめたお礼をしなくちゃいけないな……。すまない。私は一粒で一度しかうまみを与えられないのでな」 

 

比企谷「ちょっとタイムタイム!そのうまみって一部の人間がご褒美と崇めるタイプのうまみでしょ!?ノー!ストップ暴力!」 

 

 懇願むなしく、俺の願いは棄却された。おい、朝ごはん。戻ってくるな、喉までただいまをしてくるな。お帰りじゃなくてお帰り下さいお願いします……。 

 

比企谷「ぐへ……」 

 

そうやってすぐ拳で解決しようとするから貰い手が居ないんじゃないんですか? 

と、言えばラストブリットが来るのはわかっているので心の奥底に投げ捨てた。 

 

平塚「まあ、セカンドブリットは保留にしておこう。でだ。結局君は何も変わっていないんだな」 

 

比企谷「ふぅ……。前にも言ったように変わる事は本人の意思です。俺のモットーは初志貫徹!」 

 

平塚「あ?」 

 

比企谷「いや、すみみゃへん」 

 

 アンタ、本当に先生ですか?どこにヤンキーみたいに生徒に向かって睨みきかせる教師が居るんですか?咄嗟に謝っちまったよ。寧ろ下半身が緩くなりそうなほどだ。 

 

平塚「そもそも、君に半永久的に課している奉仕部での活動こそ。そのボランティアだと思うのだが?」 

 

比企谷「いえ、それは先生が無理やりさせているからであって。辞めていいと言ってくれれば今からでも辞めます」 

 

平塚「まあ、それなら本格的に君は3年じゃあ卒業できないな」 

 

比企谷「でしょう?それが奉仕部においてのメリットですよ。その利益が無いと俺はボランティアとかしない。そもそも、今回休んだのも不可抗力であり故意ではないので……」 

 

平塚「……」 

 

比企谷「レポート書きなおします」 

 

 無理。正当な意見でさえも言える雰囲気じゃないっす。 

警察の取り調べとかも、こうやって無罪の人々が自白させられてしまうのか……。 

 

 

平塚「よろしい。はぁ、それにしても君の目は4月から寸分違わず腐ったままだな」 

 

 ほっとけ。 

 

 

「失礼します。平塚先生はいらっしゃいますか?」 

 

 不意に、職員室の入り口から、透き通る声がした。 

例えるならば、メガネを掛けてテレビの中に入るスパッツガールとか。 

我儘で自己陶酔なゴールデンな時間を生きるお嬢様とか。 

オッドアイで世話上手な麻雀部部長。 

みたいな声。 

 

 そして俺と今対面している平塚先生の名前が呼ばれたので、俺はその声の方へと向いた。 

まあ、その声の主を見た所で、この学校の生徒という時点で見覚えはあるはずないけど。 

 

 案の定女子だった。リボンから察するに3年生。 

見た目から察するに良い人。多分委員長。 

 

 三つ編みが両端から伸びていてメガネをかけていて。まさしく真面目です!と主張せんばかりの見た目だった。いや、失言だった。その胸部は真面目ではない。 

 

平塚「ん?ああ、羽川か」 

 

 平塚先生はどうやら知り合いらしく、手でその委員長さんを職員室に招き入れた。 

まあそもそも知り合いだから委員長さんは平塚先生を名指ししたんだよな。 

 

いや、待て待て。 

俺今勝手に委員長って名付けたけど、これ委員長じゃなかったら悪口じゃね? 

 

羽川「あ、先日のレポートを提出に来ました」 

 

平塚「すまないな、委員長だからと雑務を任せてしまって」 

 

 あ、今正解発表来たよ!パンパカパーン!比企谷選手大正解です! 

やはり、俺のぼっち特有識別眼に狂いはなかったようだな。 

ってか、先生一度でいいから俺が雑務している時もそういう台詞くださいよ。 

いつもいつも「おう」しか言ってくれないじゃないですか。俺委員長でもないのに。 

何?亭主関白なんですか?身近にいるとそれが当たり前になっちゃうんですか? 

離婚沙汰よ!そういうのが破局の原因になるのよ!もう信じらんない!八幡ぷぅ! 

 

比企谷「いや、でもそもそも破局以前か……」 

 

平塚「ん?何か言ったか比企谷?」 

 

 ヤベッ!声出ちゃった!家で独り言話す癖でつい音声をオンにしちゃってたよ。 

あぶねーあぶねー。あれだよ、PCとかでイヤホン抜けて女性の不埒な声が部屋中大合唱とかそんな感じの不可抗力ですよ。って誰に言い訳してんだよ。 

 

平塚「あ、申し訳ありません。面談中でしたか?」 

 

 俺を視認して改めて委員長さんは畏まった。 

なにその言葉づかい。社会人ですか? 

 

平塚「ん?あぁ、そんな感じだ。まあそんな大した話はしていないから。安心したまえ。 

 羽川が聞いてマズい話などではないよ」 

 

 すると、委員長と俺は目があった。いや、正直に言うと、胸部を見ようとした時に委員長さんがこっちを向いた。 

ヤバい。何あのおっぱい。ダイソンなの?目線の吸引力半端じゃないんだけど。 

 

羽川「あ、初めまして。私。3年の羽川翼です」 

 

 いきなりの自己紹介に俺は目を見開いてのけ反る。いや、別にそんな礼儀正しくされても、俺なんてもう2度と会わないレベルの底辺カーストですよ?何この人。素直にスゲェ。 

 

比企谷「あ、ウス……2年の……比企谷八幡……ッス」 

 

 

羽川「比企谷くん?ああ、奉仕部の比企谷くんですか?じゃあ、ひょっとして部活のお話でした?」 

 

比企谷「え?あ……ウス」 

 

 何で知ってんの?怖い、怖いよ。俺の事が実は好きだったパターン…。 

は、数学でゼロとみなせる確率なのであり得ないとしても。ユキペディアよりペディってるって。 

ペディりすぎてヤバい。もはや、googleのホームにアクセスしただけで『もしかして?○○』って言われてるレベルで怖い。 

…………いや、まぁ。そもそもペディってるなんて造語ないけども。 

 

平塚「羽川……君は本当に何でも知っているんだな」 

 

羽川「いえいえ。そんなことありませんよ」 

 

平塚「まあ、一言で言って、問題児のような子だよ、比企谷は」 

 

比企谷「誰が問題児ですか誰が。多感な時期の子供に滅多なこと言うと不登校になりますよ?俺」 

 

平塚「自分で言える奴は不登校にはならんよ。……あ、そうだ」 

 

 平塚先生が手を叩いて、何かを思いついた素振りをする。 

絶対楽しい事じゃないのは予想できる。だからこそ俺は無言で聞かない。 

こういうときは敢えて空気を読まずにスルーするのが良いに決まっている。 

アレだ、友達の「あー…もう最悪」と一緒。どうしたの?って聞いたら愚痴のオンパレード。 

ってか俺に友達いねーけど……。 

 

羽川「どうされました?平塚先生?」 

 

 はぁ……。この委員長さんはどうやら空気を読んでしまったようだ。そのパンドラの箱を開けると被害が来るの俺なんだけどな……。 

 

平塚「羽川、君は今週末の課外活動にボランティア活動を選択していたよな?」 

 

羽川「え?ああ、はい。山のゴミ拾いですよね?」 

 

平塚「ああ、そうだ」 

 

 オチ、読めるんだけど。いや。えー……それは嫌だ。断固拒否。 

 

平塚「比企谷?」 

 

比企谷「………嫌です」 

 

平塚「まだ何も言ってないのだがな?」 

 

比企谷「どうせアレでしょ?そのボランティア活動に俺も参加しろって言うんでしょ? 3年生の人たちの中に1人行けと?いやーペナルティにしても重すぎる刑罰ですよそれ。 

もう少し情状酌量の余地という物もあっていいんじゃないでしょうか?」 

 

 もう殴られてもいい。ただこの状況で最悪なのはこの議題が否決される事だ。 

だからこそ俺は拒絶する。必死に否定する。 

だってそもそもボランティア活動を欠席したのも。小町が熱出しちゃったからなんですよ? 

お涙頂戴の美談ですよ? 

だから俺は悪くない。故に理不尽だろうが勘違いだろうが。 

殴られても俺は、このボランティアには行かない! 

 

 

平塚「情状酌量の余地……ねぇ?」 

 

 平塚先生が口をとがらせて、人差し指を唇にあてる。 

その考える仕草。ちょっと可愛い……。でも年齢的にアウトです。残念……。 

 

羽川「私は構わないよ?比企谷くん。基本的に班行動で、私たちだけ3人班だから」 

 

委員長さんが笑顔を向ける。 

いや、その聖母みたいな包容力にも俺は騙されない。ここで更に! 

 

比企谷「いやー。そういうじゃないですか?でもですね? 

例えば、それ現地集合ですか?」 

 

羽川「え?ううん。学校に集合してから出発だよ?」 

 

比企谷「ホラ、そもそもまずそこですよ。そこで俺が1人学校の3年集合の最中に行けば。「あれ?誰?」「2年?」「間違えてる?」「え?何でいるの?」 と……。陰口、誹謗中傷、嘲笑いの集中豪雨ですよ」 

 

羽川「いや、そんな事……」 

 

比企谷「ないかもしれませんが、あるかもしれない。そもそも、俺の精神がすり減ります」 

 

羽川「うーん…。 

あ!じゃあ、私と一緒に居ればいいよ。私と話せばいいじゃない? 

会話に気を取られてそんな被害妄想はできなくなるでしょ?」 

 

比企谷「……まあ、じゃあ次に。移動方法はどうですか?」 

 

羽川「え?バスだよ?」 

 

比企谷「でしょう?あれって、ボッチを否定した乗りものなんですよ。 ホラ、座席。2人一組じゃん。だから俺が参加する事で、誰か一人がハズレくじを引くことになりますよ? 

つまりは俺、ハズレ担当」 

 

羽川「じゃあ、私と乗ろうよ。3人班だから、阿良々木君と戦場ヶ原さんが乗って。 私と比企谷くん。ホラ、これで君はハズレじゃなくなる」 

 

比企谷「……まぁ、そうッスね」 

 

羽川「それとも。嫌かな。私とじゃあ……。おせっかい……かな?」 

 

比企谷「え?あ、いや……その」 

 

羽川「もしかして、ハズレ担当は君にとって私だったりする?」 

 

比企谷「あ、その、違くて…えと……」 

 

 

 え?なにこの委員長さん。 

俺の捻くれた意見さえも笑顔で背負込んじゃうんだけど。 

聖母かビッチですか?もしくはその両方。いや、聖母でビッチって何だよ。 

聖母ビッチ……。略して聖母ッチ。聖☆ボッチ。 

……。俺じゃん。 

 

 

 

平塚「比企谷……。君がそこまで言うなら。私からも譲歩しよう」 

 

比企谷「え?」 

 

平塚「比企谷……。君に奉仕部に依頼することを許そうじゃないか」 

 

比企谷「え?ちょっと。違いますって……ですから」 

 

平塚「君は情状酌量の余地をくれと私に言ったのだろう? ならば、逆にいえば。譲歩さえすれば行くと言った事に等しいのではないのかな?」 

 

 

 暴力の強制力と、優しさの強制力。 

どこぞのバトル漫画の解説役っぽく言うなら、「このペアなら、神をも倒せる」と言わんばかり。 

でも、俺は神どころか紙耐久なんですよ。 

とにもかくにも、もう未来は決まっちゃってる。選択肢も希望も。俺の未来には存在しない。 

 

 

ー序章・完ー 

 

 

俺ガイルSide 第一話 

『しかしながら 雪ノ下雪乃は了承する』 

 

「意味が分からないのだけれど」 

 

 奉仕部。平塚先生と、脅威の驚異の胸囲の委員長との板挟み攻撃を喰らった俺は、放課後、足早にそこへ行く。 

……あの二人に板挟みされる。その言葉の響きはそう悪い物じゃないなと、ちょっと口角が緩んだ。 

 

雪ノ下「意味が分からないと言っているの」 

 

 いつにもなく冷淡に喋るなコイツ。なんだ?飼い犬にでも手を噛まれたのか? 

いや、雪ノ下の場合犬というより猫…かな? 

 

雪ノ下「聞いてるのかしら?貴方の発言に対しての返答だったのだけれど……。 

ちなみに、その顔は凄く不快だから今すぐ辞めないのであれば警察を呼ぶわ」 

 

比企谷「え?変な顔してた?」 

 

雪ノ下「いえ、真顔」 

 

比企谷「真顔が不快ってか?ったく……。まぁ、その。なんだ? そういう事を言われてさ。平塚先生に」 

 

 部室には雪ノ下雪乃がいつものように椅子に座って読書に励んでいた。 

そこに俺がいつものように来て、昼の事を話した。 

 

比企谷「だからよ、奉仕部の依頼として。お願いしてんだよ。 俺が3年生の中1人でボランティア活動に参加させられるから。 お前と由比ヶ浜に手伝ってくれと」 

 

雪ノ下「その言葉の意味は分かっているわ。 それに対しての納得と言う意味で求めているのだけれど。 それは結局、あなた個人の責任でしょう?自業自得。 その尻拭いを何故しなくてはならないのかしら?」 

 

比企谷「奉仕部なんて元々そんなもんだろ?誰かの面倒くさい事を助けるんじゃねーのかよ」 

 

雪ノ下「勘違いしているようね。奉仕部は決してそのような事をしない。 

魚を取ってあげるのではなくて、その取り方を教えるのよ?」 

 

比企谷「ああ、確かにそうだったな。 じゃあ、その魚の取り方を教えられる依頼者が、体が動かせない状態だったらどうすんだ?」 

 

雪ノ下「それは……。目的が食事というのであれば。 

魚以外の食物で、依頼者が可能な方法で採取できる物を教えてあげればいいじゃない」 

 

比企谷「アントワネットかよお前。 じゃあ、その例になぞって、俺はその動けない依頼者だ。 どうするんですか?」 

 

雪ノ下「自分で自分を無能だと言っているのだけれど、それは理解できているの?」 

 

比企谷「当たり前だ。そう言ってんだから。 俺にはコミュ力とか言われるパラメーターはいくらレベルが上がっても上がんないんだ」 

 

雪ノ下「そうね、貴方にコミュニケーションを求める方が間違いね」 

 

比企谷「おい、「力」をつけろ。会話ができない人みたいじゃねーか、俺」 

 

雪ノ下「あら?会話ができているとでも思っていたの?」 

 

比企谷「じゃあコレは会話じゃなければ何なんだよ」 

 

雪ノ下「教育」 

 

比企谷「授業料なんて払う気ないっすよ?」 

 

雪ノ下「はぁ……。まぁ、この会話に生産性が無い事も分かり切っている事なのだけれど。 で?それは、いつなのかしら?」 

 

 え?いまこの方は「いつ」と聞きました?それって日時を示す、when的な意味のいつですか? 

何?意外とやる気だったりしてくれんの?ツンデレゆきのん最高っすわ……。 

 

比企谷「え?今週末。正確には土曜日の8時半に校庭集合」 

 

雪ノ下「ふぅん。そう。いってらっしゃい」 

 

比企谷「え?いやいや、え? 

なし崩し的に「あーもうしょうがないわねー」っていう。 そういう展開じゃねーんですか?」 

 

雪ノ下「比企谷くん。世の中はそんなに甘くないわよ?」 

 

比企谷「世の中じゃなくて、お前が甘くねーんだよ。世界とお前を一緒に語るな。 糖分とれ糖分。MAXコーヒーとかお勧め」 

 

雪ノ下「あら?味覚的な甘さの議論をしているつもりはなかったのだけれど。 やはりコミュニケーションを取るのは難しいようね」 

 

比企谷「あーわかりましたわかりました。もういいです。 1人3年生の荒波にもまれてきますよ」 

 

雪ノ下「ええ、ちょっとはマシになるんじゃないのかしら」 

 

比企谷「チッ……」 

 

 食えねえヤツって言葉があるけど。雪ノ下はそもそもそれ以上だ。 

喰いたくないヤツ。いや、性的な意味では断じてない。 

最初から期待はしていなかった。他の誰かの頼みならいざしらず。俺の頼みを二つ返事で了承するわけがない。 

 

 むしろ笑顔で崖に突き落とし、更なる笑みで高みから手を振ってくるに違いない。 

本当に友達じゃなくてよかった……。 

むしろ、こいつと友達になれる奴の気がしれねぇよ。そいつはあれだな。 

とびっきりのバカか、聖母くらいだ。 

 

ガラガラ 

「やっはろー!」 

 

比企谷「前者が来た」 

 

 

由比ヶ浜結衣。俺と雪ノ下と同じ部活の人間だ。 

雪ノ下の一方的……、いや。既に相思相愛か?まぁ、友達だ。 

 

由比ヶ浜「え?何ヒッキー。ゼンシャ…?」 

 

 

雪ノ下「おはよう。由比ヶ浜さん」 

 

由比ヶ浜「うん!ゆきのん、やっはろー!」 

 

 由比ヶ浜はいつものように、いつもの場所へ座る。 

俺と雪ノ下が、机の端と端に座るその中間。 

 

由比ヶ浜「でさーヒッキー。ゼンシャって何?」 

 

比企谷「あ?いや……なんでもねーよ」 

 

由比ヶ浜「むー。変な意味だったらぶっとばすかんねー?」 

 

 年頃の女の子がぶっとばすとか言うな。 

もしも小町がそんな言葉づかいし始めたらお兄ちゃん泣くよ? 

ん?待てよ? 

 

比企谷「あ、そうだ由比ヶ浜」 

 

 コイツに頼めば……。 

由比ヶ浜に頼めば、ボランティア活動に一緒に来てくれるんじゃねえのか? 

俺からが無理でも、由比ヶ浜からなら成功率は飛躍的にあがる。 

 

 まるで孔明さながらの機転! 

 

由比ヶ浜「ん?どしたのー?」 

 

比企谷「今週末。ボランティア活動に行かなきゃいけないんだが…。その、一緒にいかねーか?」 

 

由比ヶ浜「ふぇ?……それって?え?え?」 

 

 え?なんでそんなキョドんの?やめてよ。俺変な事言ったか? 

 

雪ノ下「落ち着いて由比ヶ浜さん。デートの誘いじゃなくて拷問の同伴のお願いよ?」 

 

由比ヶ浜「え?」 

 

比企谷「えっとな……」 

 

 雪ノ下にさっき言ったのと同じように、俺は由比ヶ浜にも昼の事柄を説明した。 

 

由比ヶ浜「……なーんだ。でもそれヒッキーの自業自得じゃん? それにあたしたちが付いていく意味はなくない?」 

 

比企谷「まあ…そうなんだがな」 

 

 雪ノ下に正論を言われるのはいつもの事だが、事、由比ヶ浜に関して正論を言われると若干傷つくことが判明。 

もういっそアレだ。当日に体調不良を訴えよう。そうすれば万事解決。 

そうすればボランティア活動に参加できなかった罰の。 

ボランティア活動に参加できなかった罰として。 

今度はちゃんとしたレポートを書こう。うん。 

 

 平塚先生からの暴力は甘んじよう。 

この二人を説得できない俺のトークスキルを恨もう……。 

 

 

由比ヶ浜「まあ、でも……いいよ?」 

 

比企谷「え?」 

 

 逆転サヨナラ満塁ホームラン?まさかの? 

顎が鋭くなりそうな感じに、俺の心はざわついた。 

 

由比ヶ浜「ヒッキーには、色々助けてもらったし。なんか、そういう恩返しじゃないけど。 ヒッキーが困ってるんなら。力になってあげたいなーって……えへへ」 

 

 ………なにコイツ。 

え?俺今ゲームしてたっけ?ときめいちゃうメモリアっちゃうゲームしてたっけ? 

ラブをプラスしてたっけ?なんで目の前でイベント進んだの? 

 

 勘違いするじゃねーかよ。やめろよ由比ヶ浜。そのビッチスキル発動すんな。 

 

比企谷「いいの?」 

 

由比ヶ浜「うん……。だって、あたしが居れば、その。ちょっとは……安心…でしょ?」 

 

比企谷「お……おぅ……さんきゅ……」 

 

 目を見れない。何これ。ただ学校の課題を手伝ってもらうってだけなのに。 

すっげー恥ずかしい…。 

 

 

雪ノ下「はぁ……良かったじゃない比企谷君。これで1人じゃなくなったわね」 

 

由比ヶ浜「うん!これで3人!」 

 

雪ノ下「え?その人数の内訳は聞きたくないのだけれど」 

 

由比ヶ浜「ゆきのんも行くでしょー?」 

 

 

 これだよコレ。由比ヶ浜の速攻トラップ効果!リア充オーラ! 

「おーい置いてくぞ?」「バーカ。俺たちもう友達だろ?」みたいなヤツ。 

由比ヶ浜のこういう攻撃には、流石の雪ノ下様といえども太刀打ちできまい。 

 

 

雪ノ下「残念だけど、私は由比ヶ浜さんのようにこの男に恩を返す必要が無いの。 だから奉仕部としては今回否決されたこの男の願いをかなえる義理はないの」 

 

由比ヶ浜「願いとか恩とか……。むー!いいじゃん!3人で行こうよ!」 

 

雪ノ下「……何故?そこまで食い下がる意味を知りたいのだけれど」 

 

由比ヶ浜「だって……ヒッキーと二人っきりだと……その……。 デートみたいで……」 

 

 デートってお前。3年生のボランティア活動だろうがよ。 

そんな風に見えねぇよ。まぁ、由比ヶ浜にしてみれば。 

俺と二人でいるってのが噂になると困る種なんだろうな…。自他共にそれは認めている。 

 

雪ノ下が、由比ヶ浜の方をちらりと見て、1つだけため息をついて本を閉じた。 

 

雪ノ下「今回だけよ?」 

 

由比ヶ浜「さっすがゆきのん!」 

 

 

 何はともあれ雪ノ下はついてきてくれる。 

いや、これが必要だ。 

 

 奉仕部の3人が全員参加することが重要なのだ。 

 

 これで傍から見れば『部活動』だ。 

俺が1人で行くのとは雲泥の差。 

 

 元々、1人で行くのとさして変わるわけがない。 

向こうで会話する相手を欲するんなら、戸塚を誘う他ないから。 

でも、周りの目。そこをどうにかするにはこれしかない。 

 

 部活動を知らなくとも、女子2人がボランティア活動に参加したがっていて。 

仕方なく俺が付き添うと言った形に見られればそれで良し。 

 

 完全なカモフラージュ。これで乗り切れる。 

 

 後は同じ班の委員長さんと他2名と適当な言挨拶を交わしてゴミ拾って帰ればいいだけ。 

 

 

 完璧。この計画に抜かりはない! 

 

 

俺ガイルSide 第一話 

ー完ー 

 

 

物語Side 第貳話 

『こよみボランティア その壹』 

 

01 

 

「意味が分からないのだけれど」 

 

 

 彼女はそう言った。簡潔に冷徹に明瞭に正確に言い放つ。 

いっそ突き放すという表現もハマるほどの言葉で、言い放つ。 

戦場ヶ原ひたぎ。彼女は私、羽川翼の相談にたった一言言い放つ。 

 

 

羽川「うーん。簡単に言い換えて、更に良いように意訳すると。 私たちの班だけ3人班だから、他の6人班と合わせる形で後輩が班に加わるってことかな?」 

 

 

 それはお昼の事である。 

比企谷八幡という人間と、たまたま出会った私は、流れで週末のボランティア活動を共にする。 

それの了承。というか、既に事後報告を今。戦場ヶ原さんに伝えている最中なのである。 

 

 

戦場ヶ原「いえ、確かにボランティア活動への参加の指揮は羽川さん。貴方に任せたのだけれど。 これは意外ね。まさか私も、面識のない人間と、ましてや回生が違う人と班を組むなんて思わなかったもの。 

私のような人間が、あなたは、初対面の人間と楽しく清く正しく共に歩めると思うのかしら?」 

 

 

羽川「大丈夫じゃないかな。その子たち…。まぁ、正確にはまだその全員と決まったわけじゃないけど。 同じ班になる3人は、『奉仕部』っていうそもそもボランティア活動みたいな部活動をしている人たちだし。」 

 

 

戦場ヶ原「奉仕部?聞いた事のない部活動ね。淫靡な響きさえするわ」 

 

 

羽川「淫靡って。今日日女子高生が、むしろ若い人が使っていい言葉じゃない気もするけど。 まぁ、あんまり知られてない部活動であるのは確か。ホラ、あの平塚先生の部活」 

 

 

戦場ヶ原「平塚?ああ、あの白衣を常に来ている戦闘民族? 勝手な想像で運動部の顧問だと思っていたわ」 

 

 

羽川「あの人結構アグレッシブな所あるからね……。 でも、戦闘民族は酷いと思いよ?あの人も女性だし」 

 

 

戦場ヶ原「あら、私も女性なのだけれど」 

 

 

羽川「私がいつ戦場ヶ原さんに性別的に酷い事を言ったのかな?」 

 

 

戦場ヶ原「淫靡の下り」 

 

 

羽川「ああ、そこで傷ついちゃうんだ…。戦場ヶ原さん意外と繊細なんだね」 

 

 

戦場ヶ原「そう、友人から。私の数少ない友人から罵倒されて私はもう立ち直れないわ。 あー。残念だわー。こりゃボランティア活動も行けそうにねぇぜぇー」 

 

 

羽川「棒読みで説得力のかけらも感じられないし……。 何かに理由つけてるけど。とどのつまり戦場ヶ原さんは3人で行きたかったの?」 

 

 

戦場ヶ原「あら、何を当たり前のことを言っているのかしら。 3人で行って。羽川さんと仲良くゴミを拾う様を、阿良々木君に見せつけたかったのに」 

 

 

羽川「うわぁ。なんていうか、私が言うべきじゃないんだろうけど。 普通こういう場合は、大抵。逆じゃないかな? 阿良々木君と戦場ヶ原さんが仲良くするのを恋敵の私に見せつけるんじゃないのかな?」 

 

 

戦場ヶ原「それならそもそも同じ班に誘わないわよ」 

 

 

羽川「正論を突然言われると返す言葉がありません……」 

 

 

戦場ヶ原「で?残念ながら。誠に遺憾ではありながらも。その子たちは同じ班になっちゃうのかしら?」 

 

 

羽川「うーん。戦場ヶ原さんがそこまで拒絶するのなら。私は明日にでも断るんだけど。 私、その比企谷君って子と約束しちゃったんだよね。一緒に行くって。 約束は破れないから、それなら私はあの子たちの班に入ることになっちゃうね」 

 

戦場ヶ原「いやいや羽川さん?それはもしかするともしかしてなのだけれど。 私が阿良々木君と二人っきりのツーマンセルって事?」 

 

羽川「そうだね」 

 

 

 不意にそう言うと、これもまた不意に。彼女は眼を見開いて、見て分かるくらいにたじろいだ。 

 

 

戦場ヶ原「いやよ。絶対に嫌。それだけは絶対に嫌。勘弁してくださいすみませんでした」 

 

 

羽川「実の彼氏と二人っきりになれるシチュエーションに対する返答じゃないよね。 でも。じゃあ、戦場ヶ原さんの選択肢は1つだけになったんだけど?」 

 

戦場ヶ原「ええ、付いていきます。付いていかせてくださいお願いします」 

 

 一瞬だった。彼女が手のひらを返したのは瞬く間だった。 

懇願ともとれるそれは本当に、理解が追いつく隙も見せず一瞬。 

 

阿良々木「話は終わったのか?」 

 

 

 三日月形のクッションに横たわっていた阿良々木君が口を挟んだ。 

ここでようやく思い出す。別に忘れていたわけではなかったんだけれども。 

ただ彼が部屋の隅に居るように。彼の存在が私の脳の隅っこに押しやられていただけ。 

 

 

戦場ヶ原「あら、いたの?阿良々木君」 

 

阿良々木「ここは僕の部屋だ!いて当然だろ!」 

 

 

 そう、ここは阿良々木君の部屋だった。 

私が、週末のボランティ活動について話があるって戦場ヶ原さんに伝えたら。 

 

「あら、それなら今から阿良々木君の家でデートするから。そこで話して貰えるかしら?」 

 

 と、誘われたのだった。 

 

 

 02 

 

阿良々木「で。改めて質問するが。話は終わったのか?」 

 

羽川「うん。戦場ヶ原さんに向けた報告は終わったよ。次は阿良々木君の番だけど」 

 

阿良々木「いや、僕に対する報告は大丈夫だ。僕は二つ返事で了承するよ」 

 

羽川「そう。それなら安心だ。でも、阿良々木君に伝えるのはもう一つ、違う事なの」 

 

阿良々木「うん?ボランティ活動で、下級生が付いて来ることに対する了承じゃないのか?」 

 

羽川「ううん。そこじゃないの。ねぇ、阿良々木君?」 

 

 

 私は1つ息を吸い込んだ。大きく吸い込んだ。 

今から息を吐きだすには、私のいつも通りの呼吸じゃあ足りなかったから。 

でも、これは聞いておきたかった。いや、正しくは。確認したかった。 

 

 

羽川「阿良々木君は、困った人が。 その困った人が男の子でも。 本人が助けを求めてなくても。 阿良々木君と似たような人間でも。 その子が困っているのであれば。 助ける?」 

 

 

 私が息を吸い込んで吐き出した言葉に対して。 

阿良々木君は益々いつもどおりに喋る。 

 

 

阿良々木「助けるだろうな。多分、いや。絶対」 

 

 

 やっぱり。絶対的で独裁的で独創的な正義感をもった正義漢。 

それが、阿良々木暦なのだ。 

 

 

羽川「そう。それを聞いて安心した」 

 

 

 私も同じく。さっきとは対照的に。 

いつもどおりに喋りかけた。 

 

 

 03 

 

「お兄ちゃん?ねぇ起きてる?お兄ちゃん?お兄ちゃんだよね?そこにいるのは?ねぇ、お兄ちゃん?」 

 

 

阿良々木「そんな何度も兄の名を呼ばずとも最初の一度目で聞こえている。 起きているよ。月火ちゃん」 

 

 

月火「そう。それなら良かった。いや、起きているなら尚更遅いよ?お兄ちゃん。 羽川さんともう一人、お友達が迎えに来ているよ?」 

 

 

 我が妹。小さいほうの妹は、僕の彼女を、もう一人の友達と言った。 

 

阿良々木「そうか、待ち合わせの時間には多少早い気もするが。 羽川の事だ。10分前行動を基本にした10分前行動なのだろうな。 いや、寧ろ僕が寝坊するという可能性を考慮した上での20分前行動かな?」 

 

月火「その考察をする暇があったら。友達を待たせてしまっている兄に対して。 申し訳なく思って部屋まで全力疾走で迎えに来た妹の心情を汲んで欲しいよ?」 

 

 

阿良々木「全力疾走の割に息が上がってないぞ」 

 

 

月火「こんな距離で息が上がるのはお兄ちゃんくらいだよ」 

 

 

阿良々木「そうか。で?2人は今どこに居るんだ?」 

 

 

月火「お邪魔しちゃうと親御さんに気を遣わせるって言って。外で待ってる」 

 

 

阿良々木「そうか。すぐに行くと伝えてくれ」 

 

 

月火「なんで私が伝えなくちゃいけないのかな?私はお兄ちゃんの妹ではあるけれど。 お兄ちゃんの伝言係じゃない! 人を電報みたいに使うなぁあ!」 

 

 いつにもなくピーキーだった。 

 

阿良々木「わかった!行く!今すぐ行く!」 

 

 

 今日は週末。 

ボランティ活動の当日。 

 

 そして、これから起こる事の前哨戦というかオードブルのような。前菜に位置づけられる。 

これから起こる事と全く関係のない妹とのなんでもない会話。 

 

 

 それから。いや、これから。 

 

身近で現実的な、怪異なぞ出る幕もないくらいの平凡な物語。 

しかしながら、やはり間違ってしまっている物語が……。 

幕を開く。 

 

 

 物語Side 第貳話 

『こよみボランティア その壹』 

 

―完―  

 

 

俺ガイルSide 第3話 

『何故か八九寺真宵はグイグイくる』 

 

 

 面倒くさい。 

結局それは、当日の朝になっても変わらない俺の感情である。 

 

比企谷「ふぁ~……」 

 

 

小町「あ、お兄ちゃん。おはよー。なんでお休みなのに早起きなの? 今日、なんかアニメしてたっけ?」 

 

 

比企谷「俺は別にアニオタじゃねーよ。今日はボランティア活動があるんだよ」 

 

 

小町「ボランティアぁ?何…?お兄ちゃん遂に変な宗教に入信しちゃったの!?」 

 

 

比企谷「なんでだよ。まず宗教を考えちゃう妹に俺は残念さを通り越して心配になるよ。 ってか前に言ったじゃんよ。聞いてなかったのか?」 

 

 

 小町が偏差値の低そうな雑誌を読んでいる傍ら、俺はコーヒーに練乳を入れて一気に飲み干す。 うん。甘くてうまい。糖分を取るにはやっぱりこの、自家製MAXコーヒーだ。 

朝のやる気が一気に満ち溢れる。 

 

 俺の目も、死んだ魚の目から死にかけ程度には回復する勢い。 

 

 

小町「まーたそんなにコーヒー甘くして……。糖尿病になっちゃうよー?」 

 

 

比企谷「馬鹿。俺にとっての最高の回復剤だ。 FFで言うならフェニックスの尾DQで言うなら世界樹の葉。テイルズで言うならライフボトルなんだよ」 

 

 

小町「お兄ちゃんって死者だったんだ」 

 

 

比企谷「おう、そうだぞ。だからこそ俺は死に物狂いに頑張るなんて無理。 何故ならもう死んでいるのだから」 

 

 

小町「それだと生き返ってないじゃん。んもー。お兄ちゃん朝から下向き過ぎだよ? そんな事だと小町は心配だよ。 

もうちょっと上を向いて生きてくれると小町は凄くうれしいんだけど? あ、今の小町的にポイント高い!」 

 

 

 

 そんなどうでもいい雑談を小町とずっとしていたところだが。 

今日はそうもいかない。 

先週末と同じように、空気を読んで小町が体調を崩す事もない。 

 

 ならば俺も腹をくくるしかない。というよりも現状は先週よりしんどい。 

先週ならただのぼっち課外活動だが、今回はそのハードルが軒並み上がっている。 

3年生と共に行動しなくてはならない。 

 

 なんでこうなったんだ?酷いよ神様。神様なんて信じないが、もしもいるのなら。嫌いだ。 

いてほしくない。むしろ、だからこそ神様なんか信じてやるもんか! 

 

 

小町「でもさーお兄ちゃん。今回は小町もちょーっと罪悪感あるかなーって」 

 

 

比企谷「あ?なんで?」 

 

 

小町「だって、小町のせいでお兄ちゃん。今日ボランティア活動行くんでしょ? 小町が熱を出さなかったらって思うと……」 

 

 

比企谷「馬鹿野郎。お前のせいじゃねーよ。 むしろ誇らしい。更なる苦行を背負っても、俺は妹を助けられたんだからな? お前のために何かしてやれるなら俺は世界を敵に回してもいい! お?今の八幡的にポイント高いよな?な?」 

 

 

小町「いや、今のはシスコンって言うより厨二ポイント高すぎでどん引き……。 

まあそう言ってくれるなら嬉しいかな。じゃあちゃっちゃと行ってらっしゃい! 帰ってきたらおいしい料理で出迎えてあげるからさ!」 

 

 

比企谷「おう、期待してるぜ。 んじゃまあ。いってくら」 

 

 

小町「はいはーい」 

 

 

 家を出た。 

朝日がまぶしい。足は今にも180度踵を返してもいいと言っている。 

頭の中の天使と悪魔も口をそろえて帰って寝ようと誘ってくる。 

 

 はぁ。 

 

 

 ため息しか出てこないので。俺は一歩前に出る。 

 

 

 通学は基本自転車。 

でも、今日は。 

いや、いつも別に足取りが軽いわけでもないが。今日は尚更、足が重い。 

だから俺は、自転車を押しながら徒歩で学校へ向かう。 

 

 時間ぎりぎりに行って、注目を浴びるのは嫌だったから。早めのタイムスケジュールを組んでいる。 

しれっと集合場所であるグラウンドの端。 

いるかいないか分かんないくらいの所に身を潜める。 

そして、由比ヶ浜と雪ノ下が来たら、これまたしれッとその中に交っていれば万事大丈夫。 

オーケー。抜かりはない……。 

 

 だったんだが……。 

集合時間がギリギリになってしまうかもしれない事件が起きる。 

 

 

 幼女。なんだか知らんけど、後ろから幼女が突進してきた。 

意味が分かんない。俺も分かんない。 

 

 小学生か、多分それくらいの幼い女の子が、後ろから猛ダッシュで突進してきた。 

壺でも買わされるんじゃないかと。もしくは新種の当たり屋かとヒヤヒヤする。 

 

 なんで?なんで今日はこんなについていないの? 

 

 

「阿良々木さーーーん!」 

 

 

比企谷「うぐぉ!」 

 

 

 突進してきた幼女は、意味の分からない奇声を発していた。 

既に事件だ。 

 

 

「あれ?」 

 

比企谷「だ…誰?」 

 

 

 振りむいた先にはやはり幼女。 

しかし、今ぶつかって来たのに俺の方を向いて首をかしげている。 

 

 いやいや、かしげたいのは俺の方だっての。 

勝手に首を傾けんな。傾けんなって。 

そんな傾げても、世界はおろか、物語だって傾かねーよ。かぶかねーよ? 

 

何この子。メンタル強いな本当に。ただの人違いでも俺だと顔から火が出るくらいに。 

言うなればそれから1週間ブルーになっちゃうくらいの大ダメージなのに。 

 

 なんでそんなノーダメージなの?相手が俺だから? 

 

 

「ごめんなさい。人違いでした。知り合いによく似ていたもので」 

 

 

比企谷「は…はぁ。そりゃどうも。気を付けてくださいね」 

 

 

 人違いで突進されたらたまらねーよ。 

俺が俺じゃなければ怒られてたよ?俺だから良かったものを……。 

まあいいや。考えるのはやめよう。 

思考停止じゃなくて思考放棄。帰って小町にする土産話ができたと思う事にしよう。 

この子との関わりはそれで終了。このまま会話を続けると事案が発生しそうだ。 

「小学生に突進される男の事案が発生」 

洒落になんないよ……。 

 

 

「でも、あれー?私が見えるんですよね?」 

 

比企谷「は?え?」 

 

 

 冷や汗が流れた。 

何この子。中二病なの?もしくはそういう人なの? 

元々人と話す事を得意としない俺が、小さな子供。ましてやそういう人と話すスキルはもってない。 

 

 

「ああ、すみません。私、八九寺真宵です。はじめまして」 

 

 

比企谷「え?あ、どうも。比企谷です……」 

 

 

 不意に自己紹介しちゃった。どんな流れですか?コレ。 

曲がり角でパンを咥えてぶつかっても自己紹介の流れではない気がするんだけど? 

 

 

八九寺「えっと。比企谷さんは、今なにをしてらっしゃるんですか?」 

 

 

比企谷「いやいや。いやいやちょっと待てよ」 

 

 

 思わず声に出しちゃった。 

いや、いくら俺でも。スルーされ続ける人生を歩んだ俺でさえもスルー出来ない。 

 

 どういうことだ?メンタルが強いとか、なんかそういう感じじゃない。 

もしかして俺今、スタンド攻撃を受けている? 

グイグイ来すぎだろ。何が浜結衣だよお前。 

千葉村で会った小学生たちもこんなんじゃなかったぞ?小学生だよね?え? 

 

 これ幻覚?俺、友達いなさ過ぎてこんな少女の幻覚見ちゃってるの? 

やべぇ、ボランティア活動行ってる場合じゃねえよ。病院行かなくちゃ。 

 

 

八九寺「ハッ!すみません。初対面なのにずうずうしい質問でした。 知り合いにあまりにも良く似ているもので。ナイリンの人間のように話してしまいました」 

 

 

比企谷「いや、ナイリンって……。それって多分。「うちわ」って読むんですよ?」 

 

 

八九寺「うちわ?いえいえ、別に暑くはありません」 

 

 

比企谷「まあ真夏というにはまだ早いっすからね」 

 

 

 

 おっと。 

普通に会話してしまった。 

 

 え?いやいや勘違いしないでもらいたい。 

俺だって話しかけられれば普通に会話ごときできるんですよ? 

たじろいだりなんかしない。それは勘違いしないでもらいたい所である。と、自分に喋る。 

 

 それにしても、こうも話しかけられると。 

俺だって興味が無いわけじゃない。さっきから言われる「俺に似ている人」が気になる。 

どうせ時間はあるんだ。ちょっとこの意味の分からない少女と雑談を試みることにする。 

 

 

比企谷「その似ている人って、そんなに俺に似ているんですか?」 

 

 

八九寺「ええ、制服も同じですし、髪型もソックリです。雰囲気までもが」 

 

 

 なにそれクローンかよ。ドッペルゲンガー? 

絶対その人と会わないようにしないと、死んじゃうよ俺。 

もしくはソレ、隣の世界の俺だよ。いともたやすく行われるえげつない行為だよ。 

それでも出会ったらくっついて死んじゃうよ? 

 

 

比企谷「それで名前まで比企谷だったらそれ色々と不味いですね」 

 

 

八九寺「いえ、名前は違います。その人は阿良々木という人です」 

 

 

比企谷「阿良々木?聞いた事あるな」 

 

 

八九寺「え?あの最低最悪の畜生を知っているのですか?」 

 

 

比企谷「いや、おいおい。俺に似てるって言って置いて、いきなりなんですか?その形容の仕方は」 

 

 

八九寺「失礼。いえいえしかしながら。彼は最低の人間なのは間違いありません。 私に出会い頭のセクハラはおろか性的虐待を幾度となく繰り返すロリコンです」 

 

比企谷「おいおい。それ警察行った方がいいんじゃないんですか?」 

 

 

八九寺「いえ、私もまんざらではありません」 

 

 

比企谷「……へぇ」 

 

 

 あ、駄目だわコレ。 

やっぱり話しかけちゃいけない子供だったわ。 

俺の頭の整理は追いつかない。いや、処理速度の問題じゃなく、拡張子が既に非対応レベル。 

キャパオーバーでもなく処理落ちでもなく、単純に種類が違う。 

 

 端的に。この子はイっちゃってる。 

 

 

八九寺「あわわ!また私とした事がツッコミを前提に話を続けてしまいました……」 

 

 

比企谷「いや、まあ俺これから学校へ行くんで。では」 

 

 

八九寺「学校?今日は土曜日のはずですが?受験勉強ですか? いや、でも受験勉強って女性の家で2人っきりでやるものでは?」 

 

 

 どこのリア充だよ。 

そんなんじゃ勉強なんて身にはいらねーよ。下心しか学べねーよ。 

なんでこの子の価値観はそんなリア充基準なの? 

 

 ってか付いて来るし……。うわぁ。 

 

 

 

 

八九寺「所で、比企ガイアさん」 

 

 

比企谷「え?ガイア?俺は女神じゃないっすよ?そもそも男だし。 なんで突然あからさまに噛むんですか?寧ろ噛んだの?それ……」 

 

 

八九寺「ああ、失礼。噛みました」 

 

 

比企谷「いや、そんな謝られても」 

 

 

八九寺「え?」 

 

比企谷「え?」 

 

 

八九寺「ああ、すみません。何度も言うように、貴方によく似た人と似たような会話をするので。 ちょっとその会話をしてみたくなったのですが……。やはりうまくは行きませんね」 

 

 

比企谷「そりゃ、俺はそのアラギさんではなく、比企谷ですから」 

 

 

八九寺「その人は阿良々木です。ラが足りません。 っていうか!それ私の持ちネタです!パクらないでください!」 

 

 

比企谷「いや、パクルも何も。そんな気ないですし。怒られても困るっつーか」 

 

 

八九寺「でも、意外とそのパターンもありですね。 先ほどから阿良々木さんを引き合いに出してはいますが、比企谷さんも結構面白い方ですね」 

 

 

 気に入られてしまった……。この変な子に。もうヤダ。 

 

 

比企谷「そりゃどうも。でも、俺としてはそろそろ自転車に乗りたいんですが」 

 

 

八九寺「後ろに乗れというお誘いですか?大胆ですね」 

 

 

比企谷「なんでそんなポジティブなんだよ。さよなら先生、また明日っ!の時間だって言ってんの」 

 

 

八九寺「私は小学生です!幼稚園児の別れの挨拶を引用しないでください」 

 

 

比企谷「今ので分かるのかよ。察しが良すぎる以前に敏感過ぎて怖い」 

 

 

八九寺「所で。幼稚園生の次に小学生って……。幼い。小さい。と続きますが。 その流れで行くと。幼い、小さい、中くらい、で。何故高校生なのでしょうか。 本来小さいのであれば、中の次は大きいの大学生でしょう?」 

 

 

比企谷「いきなり何?まあ確かにそうだな。小中大なら流れはいいけど。 高校生って確かにどこから来たのか分かんないな」 

 

 

八九寺「でしょう?低学生がいるわけでもないのに」 

 

 

比企谷「響きだけだと携帯の基本料金みたいだな。定額制……」 

 

 

八九寺「でも、そうして考えると、高校生だけ、○学生ではなく○校生なのも不思議です」 

 

 

比企谷「そりゃあれだろ。高学生なら、携帯の基本料金が高いみたいだしな」 

 

 

八九寺「確かに。でもそうしてみると、小学生って色々お得な響きになりますね」 

 

 

比企谷「お得を良い事に手を出したら痛い目を見ちゃうけどな……」 

 

 

八九寺「私はお得な女ですね?」 

 

 

比企谷「そうなると高校生って損だな。 まあ、青春を演じなければならないって言う周りからの圧力の中、勉強もスポーツも両立させて毎日社会人よろしく朝から出かけなくちゃいけないのは。 確かに損な人間だな。高校生って」 

 

 

八九寺「卑屈ですねー……比企谷さん」 

 

 

比企谷「まあな。こんな高校生になるなよ?八九寺さん。 いや、寧ろ高校生自体ならないほうが幸せかもな。欺瞞と偽りで塗り固められた。 まるで台本を読むような事が高校生の幸せなんだからな。 

10個の磁石をカチャカチャして算数して楽しんだり。 お道具箱のせいで教科書が片方しか入らない悩みを抱えられるのも今のうちだ」 

 

 

八九寺「何故そんなに小学生に詳しいんですか?訴えますよ?」 

 

 

比企谷「訴えるって流行語みたいに皆軽々しく口にするけど。 告訴の方法とか知ってんですか?」 

 

八九寺「告訴?」 

 

 

比企谷「訴えると行っても費用もかかるし、受付の後に受理と2段構えだし。 さらには何の犯罪かも被害者側が準備しないといけない。 

日本は意外と被害者に厳しい国なんだぜ? 俺みたいなボッチは黙って隅っこで泣けって言われるのがオチだ」 

 

 

八九寺「何故あなたはそこまで卑屈なのですか?」 

 

 

比企谷「良く似た知り合いさんに聞いてみなよ。 雰囲気も同じなら俺と同じ言葉を言うだろうよ」 

 

 

八九寺「前言撤回します。阿良々木さんはここまで卑屈ではありませんでした。 貴方、嫌な人ですね」 

 

 

 ほっとけ。 

 

 

八九寺「あ、ではそろそろ私は行きます」 

 

 

比企谷「あ?ああ、まあ一応。その似た人によろしくな」 

 

 

八九寺「ええ。あと、最後に1ついいですか? ただの変な子供の独り言だと思っていただいてかまわないのですが」 

 

 

比企谷「なんですか?」 

 

 

八九寺「私に会ったってことは。多分良い事ではありませんので。 その、迷っては駄目ですよ?色々とおありでしょうが、頑張ってくださいね?」 

 

 

比企谷「はぁ……」 

 

 

 去っていった。 

いや、本当に理解が出来なかった。気付いたら色々話しちゃっていた。 

本当に気の迷い。話しかけられたから話し返しただけ。ただそれだけ。 

 

 なんだっけ。八九寺…?聞いたこともない名字だったな。 

あの無意味に大きなリュックサックも。意味が分からない。どこかへ行く途中だったのか? 

 

 まるで人生の迷子みたいな子供だった。 

と、詩人のように言ってみる。やべぇ、中二病っぽくてなんか恥ずかしくなる。 

 

 

 ……よし。 

気を取り直して学校へ行こう。 

早く出たのが幸いして、今から自転車に乗って行けば。目標の時間にはつきそうだ。 

 

 行こう。……ットその前に、自販機でMAXコーヒーを買って行こう。 

朝から疲れた。 

 

 

俺ガイルSide 第3話 

第3話 ―完― 

 

続く

八幡「やはり、俺にとって。 こんな物語は。こんな青春ラブコメは……」2/4【俺ガイルss/物語シリーズss】 - アニメssリーディングパーク

 

 

 

 

 

 

【俺ガイル】やはり阿良々木暦のボランティア活動はまちがっている【化物語

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1389171827/