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八幡「やはり、俺にとって。 こんな物語は。こんな青春ラブコメは……」2/4【俺ガイルss/物語シリーズss】

 

物語Side 第肆話 

『こよみボランティア その貳』 

 

01 

 

阿良々木「初めまして。阿良々木だ」 

 

 それだけ言った。 

まるで何かの漫画の表紙絵のように、3人と3人が向かい合う凄く近寄りがたい雰囲気の構図。 

僕らは今そんな風に立っていた。 

 

 羽川が言っていたように。今日のボランティア活動で、僕たちの班は2年生と同じ班を組む。 

基本は6人で一班の行動だったので、仕方がないと言えば仕方がない事なのだが。 

その2年生もどうやらワケありで。先週の2年生の活動に不参加だった人が。 

つまりは特別枠という事で僕たちと共に行動するのだという。 

 

 つまり、面識はない。 

羽川が、僕の目の前に立つ男子生徒、比企谷八幡と会った事がある程度で。 

他の由比ヶ浜結衣雪ノ下雪乃。この二人とは羽川ですら面識が無かった。 

 

 だからこその自己紹介。 

その自己紹介で、僕は簡潔に。別に趣味や特技を紹介するわけでもなく。名前だけを伝えた。 

 

 

由比ヶ浜「羽川先輩って…。羽川先輩ですか?成績とか凄くいいんですよね?」 

 

 

羽川「あら、そんなに有名なのかな?まぁ、成績は一応上位にはいるんだけど。 そんなの自慢できる特技でもなんでもないよ」 

 

 

由比ヶ浜「えー!?十分凄い事ですよ! 私なんかいつも赤点スレスレで……」 

 

 

比企谷「由比ヶ浜。お前と同じ頭の人間なんか早々いないから安心しろ」 

 

 

由比ヶ浜「え?なにそれヒッキー……それ褒めてる?」 

 

 

比企谷「この言葉を皮肉だって即座に理解できないんなら。お前は幸せだな」 

 

 

羽川「比企谷くん?女性にそういう言い方はないと思うよ?」 

 

 

比企谷「え?ああ、すいません……」 

 

 

 おいおい羽川。あんまり言ってやるな。 

その比企谷君とか言う男子生徒は多分それが基本スタイルだ。 

斜に構えるのがかっこいいとか思ってしまう年頃なんだろう。うん。分かるぞ。 

僕みたいな人間はそんなことはないが、大抵の男子生徒はそういう風にふるまってしまう物だ。 

僕みたいな人間はそんなことはないが。 

 

 

羽川「あ、バスが来たみたいだね。じゃあ、バスに乗ろうか。 えっと、戦場ヶ原さんと阿良々木くん。由比ヶ浜さんと雪ノ下さん。 そして私と比企谷君でいいんだっけ?」 

 

 

雪ノ下「すみませんが羽川先輩。 この人間の隣に座ってしまうと、感染してしまうのでお勧めはできません」 

 

 

比企谷「何に感染するんだよ何に。 隣の座席で感染しちまうんなら、今既にお前は感染してるだろうが」 

 

 

雪ノ下「セクハラとして訴えるわよ?いやらしい」 

 

 

比企谷「お前が言い始めたんだろうが!」 

 

 

羽川「こらこら、喧嘩は駄目だよ?2人とも。 私は比企谷君の隣でも大丈夫だよ?」 

 

比企谷「え?……あ、ありがとうございます」 

 

 

 羽川にとってはいつもの事。僕にとってもその光景はいつものことだった。 

規則正しく、折り目正しい羽川委員長は。誰にだって優しく、誰にだって公平だ。 

だからこそ、特別、好意があるわけでもなく。別段、敵意があるわけでもないのだ。 

大抵、普通。そういう一般的という枠組みにある行動を、まるで教科書のように行動できる。 

それが羽川翼という人間なのだ。 

 

 しかしながら、それにより勘違いを生む。 

この場合、本来なら比企谷という男子生徒が生み出すべき勘違いのはずなのだが。 

しかしどうやら、彼ではなく、別の彼女がそれを生み出してしまったらしい。 

 

 

由比ヶ浜「え?あ、いやいや!あたし!羽川先輩と座りたいです! 前からお話ししてみたかったんです……なんて」 

 

 

 

 初対面の先輩が、ただでさえこの彼女。由比ヶ浜の知らない場所で羽川と比企谷に面識がある。 

更に羽川の先ほどの台詞を普通に感じ取ってしまうのであれば。 

好意があるように見えてしまうのは仕方がない事である。 

 

 つまりは、羽川の行動を、由比ヶ浜は比企谷に向けられた好意だと勘違いしている。 

 

 友達が知らない女の人に知らない所で好かれているという事柄がそんなに嫌だろうか。 

友人というのは、特に女子というのは。そうも独占欲が強いのか? 

 

 

雪ノ下「私は嫌よ?この男と隣に座るだなんて」 

 

 

 

 そして彼女もまた。その言葉が100パーセントの真意でないのは見て取れる。 

いや、全てが真意でないにしても、彼女。雪ノ下の場合は、もしかすると5割は超えるくらい。 

それが真意なのかもしれない。 

 

いや、しかしながらこれは。穏やかではない空気だ。 

僕はてっきり。いや、普通の思考なのだけれど。 

2年生の3人組は仲の良いグループだと思っていたのだが。どうやら違うらしい。 

いじめ……にしては楽しそうに話しているように見えるが。 

それでも、仲は悪そうだ。 

正確にいえば、仲違いをしているようだ。 

 

 

 そしてその渦中であり一番の被害者は多分比企谷という男子生徒。 

羽川が共に座るという提案を、由比ヶ浜が拒絶し、雪ノ下も否定するのならば。 

 

 僕か戦場ヶ原が座るしかない。 

 

 

阿良々木「なあ戦場ヶ原」 

 

 

戦場ヶ原「何かしら?阿良々木くん」 

 

 

阿良々木「お前、雪ノ下って子の隣でも良いか?」 

 

 

戦場ヶ原「まあ、話の流れからそうしないと駄目みたいね。 構わないわ。でも、会話が盛り上がる事には期待しないで」 

 

 

阿良々木「ああ、ごめん。戦場ヶ原」 

 

 

戦場ヶ原「いいのよ、謝らないで。貴方と隣にならなくて感謝するくらいよ。感染するから」 

 

 

阿良々木「感染なんてするか!聞いたばかりの台詞で罵倒のレパートリーを増やすな!」 

 

 

 と、まあ。結論はついた。 

入口に近い、入ってから右側。 

後ろから。 

僕と比企谷。 

由比ヶ浜と羽川。 

雪ノ下と戦場ヶ原。 

 

 そんな不思議な座り方でバスに乗ることになった。 

 

 

02 

 

 バスが出て15分……。 

僕は一言も話さずに通路を眺めていた。 

本来なら、僕は。先輩として、人生の先駆者として。横にいる後輩に話しかけるべきなのだが。 

彼こと比企谷八幡という男子は。それをそうする前から否定している。 

否定、いや……。拒絶という方が正しいのかもしれない。 

 

 体の半分を窓に向けて、じっと流れる景色を見つめている。 

 

 

 話しかけるな。と、体全体からそう発しているようだった。 

 

 

 でも、いやしかし。僕も手持無沙汰なのだ。 

これからあと1時間程はこのバスに乗っていなくてはならないし。 

携帯ゲームや小説といった暇つぶしの類は持ってきていない。 

 

 

阿良々木「なぁ、比企谷……だっけ?ちょっと話しでもしないか?」 

 

 

 普通のお誘い。彼も絶対に暇なはずだ。 

先輩の僕がそう提案すれば。別に断る理由もないだろうと考えた。 

 

 

比企谷「あ、いえ。お構いなく。大丈夫っすよ。気を遣わなくても。 1人で時間を過ごすのには慣れているんで」 

 

 

 あっさりと却下されてしまった。 

こちらに体を向けることなく、目線だけこちらに向けて。 

 

 

阿良々木「ううん。でも、今日は同じ班としての行動だ。 多少なりともお互いの事を知るべきじゃあないのか?」 

 

 

比企谷「そうですか?いやいや、ゴミを拾って昼食を食べるだけじゃあないですか? そのどちらも1人でやる物じゃないっすか。 それなら互いを知らなくとも業務はこなせます」 

 

 

 あっさりと。食事を『1人でやるもの』と言った……。 

何の迷いもなく。定理のように。真理のように。 

 

いや、僕だってこんな事は得意ではない。つい先日まで友人と呼べるものすらいなかった。 

だからこそ。いや、しかしながら。今目の前に居る後輩くらいに会話できないでどうする? 

 

 僕は自分から友達をつくらなかったわけであって。友達が作れないわけではない。 

前の席の羽川は、流石というべきか。笑い声が聞こえてくる。 

 

 

 

阿良々木「いやいや、業務というけども。これは学校行事だ。 仕事よりもアットホームにあるべきじゃあないか?」 

 

 

比企谷「アットホーム?俺、家に友達とか呼んだことないので、それこそアットホームだとしたら俺は1人で大丈夫っす」 

 

 

 地雷を踏んだらしい。 

どんな言葉を投げかけても、雑談にならない。 

もしかすると。雑談とは僕が思っている以上に難しいものなのかもしれない。 

 

 

阿良々木「何故そこまで話したがらないんだ?もしかすると……」 

 

 

比企谷「?」 

 

 

 

 その可能性がある。僕だってかつてはそうだったように。 

彼もまた。そうなのかもしれない。 

 

 

 

阿良々木「友達をつくると、人間強度が下がると思っているのか?」 

 

 

比企谷「え?」 

 

 

 どうやら違うようだ。 

いや、その僕に対する明らかに奇人変人を見つめる目線が。 

実は暴かれてしまった困惑という場合もある。 

しかし、たいていこの場合は。前者の場合が限りなく100パーセントだろうが……。 

 

 

比企谷「いえ。別に友達を作りたくないとかそんなんじゃねーんすよ」 

 

 

 

 

 初めて向こうから話しかけてくれた。 

なんだろう。この高揚感と安堵感は……。 

 

 

阿良々木「じゃあどうなんだ?僕は理由も状況も理解できないまま、お前に否定され続けると。心が折れるぞ」 

 

 

比企谷「……例えば、今ここで楽しくおしゃべりするとするじゃないですか」 

 

 

阿良々木「ああ」 

 

 

比企谷「そして来週以降の学校で。先輩はまあ、誰かに今日の思い出を語るじゃないですか?」 

 

 

阿良々木「ああ、そうかもな」 

 

 

比企谷「人のうわさは光よりも早く。俺が学校外で仲良く話しているという事が伝わる」 

 

 

阿良々木「……」 

 

 

 僕の中に先ほどまで存在した高揚感は、みるみるそのボルテージを下げて。 

下手をすれば最初以下へと到達した。 

 

 

比企谷「そしてそれは俺のクラスにも伝わり。 

『ヒキタニくんって実はあんな趣味あんだってー!』 

『ヒキタニくんの笑顔って気持ち悪いらしいよ―』 

とか、そういう噂になって俺への精神ダメージ……」 

 

阿良々木「いやいや、待ってくれ!僕はそんなうわさを流すつもりはないぞ!」 

 

 

比企谷「先輩がなくとも他の人がそう話すかもしれない。 そもそも先輩が本当に良い人なのか不明ですし。 ホラ、よく言われているでしょう?人をすぐ信用するのはよくないって」 

 

 

阿良々木「かといって、まず底辺から評価するのもどうかと思うぞ?」 

 

 

比企谷「まだあるんすよ。仮にそれがなかったとしても。 ここで仲良くなったら学校で会ったときに気軽に挨拶するでしょ?」 

 

 

阿良々木「まあ、ここで仲良くなれたらな。学校ですれ違ったらおはようくらいは言うだろうな」 

 

 

比企谷「その時にも、先輩がもしその時誰かと一緒に居たら。『アレ誰?』と聞かれます。 もしそれが先輩ではなく、雪ノ下や由比ヶ浜なら、部活の友達。と紹介し。 俺のクラスメイトなら、同じクラスと紹介するでしょうね。 

でも、先輩の場合、この前のボランティア活動の時に……。と説明が要ります。 そして結果。『なんで3年のボランティアに2年が?』等と話が膨らみ結果的に…」 

 

 

阿良々木「もういい。やめてくれ……。失礼を承知で言うが、何故そんなにも卑屈なんだ?」 

 

 

比企谷「その質問はアレですよ。赤ん坊に何故言葉をしゃべらないのか聞くのと一緒ですよ?」 

 

 

阿良々木「当たり前だとか、当然だとか、そういう類だって言いたいのか?」 

 

 

比企谷「いえいえ。赤ん坊に言っても理解はできないでしょう?」 

 

 

阿良々木「愚問と言うことか!? そんなにもお前の人生は波乱万丈なのか?」 

 

 

比企谷「いえ?俺の今までの人生をまとめた伝記を書いた所で。 プレパラート並みっすよ」 

 

 

阿良々木「薄っ!10ページもあるのか?それともなんだ?A1サイズの紙なのか!?」 

 

 

比企谷「いえ、ラノベサイズで更に厚紙です」 

 

 

阿良々木「1ページで容量オーバーじゃないか……」 

 

 

比企谷「更に文字のフォントも太字」 

 

 

阿良々木「出版社に問い合わせろ!」 

 

 

比企谷「とうの昔に潰れました」 

 

 

阿良々木「だろうな!」 

 

 

 ため息が出そうだ。 

こんなにも卑屈で否定的で屈折的で被虐的な人間はそうはいないのじゃないだろうか。 

しかしながら、事実今の会話が成立したように。別に話すことそのものが嫌いではないらしい。 

 

 多分。きっと。彼は平穏な今の学生生活を最大とみなし。 

そこからマイナスに働く可能性を全て根絶やしにしている。 

そこにプラスの可能性が含まれていてもだ。運否天賦で変動する今後に身を置くのを拒んでいるのだ。 

 

 だからこそ。他人と仲良くなるというプラスを虐げるのだろう。

 

 

阿良々木「じゃあ約束しよう。今日の事は誰にも言わない。今後あってもお前が話しかけない限り挨拶もしない。 鬼に誓って約束しよう。それなら雑談に付き合ってくれるか?」 

 

 

比企谷「神じゃなく?トップカーストの流行語には疎いんで、ちょっと謎ですよ?それ」 

 

 

阿良々木「僕は寧ろトップカーストという言葉が謎なんだがな」 

 

 

 とまあ、こういう具合に会話は成立した。 

比企谷も、そこまで言われたら。というべきか。そう言ってくれるなら。というべきか。 

まあ、どちらにせよ僕と会話をすることを了承してくれた。 

 

実際。話してみれば、いや、話したからこそなのだが。 

彼は悪い人間ではない。 

困った人間を心配する気持ちや、綺麗なものに感動できる心は持っているのだろう。 

ただそれを表に出さないだけで。 

 

 僕は予想だが、彼からそういう印象を受けるのだった。 

 

 

 数十分が過ぎた。 

 

 

比企谷「……で、頭文字を取って、ggrksって言うんすよ」 

 

 

阿良々木「ああ、そういう事か。ふむふむ。お前は色んな事を知っているんだな。 そんなにネットというものに浸ってないからなあ、僕は」 

 

 

比企谷「ネットはいいですよ。超便利。休憩時間とかの必需品」 

 

 

阿良々木「いや、うん。みなまで言うまい」 

 

 

比企谷「言う必要が無いというより、言ってもしょうがないと思いますよ。俺には」 

 

 

阿良々木「……所で比企谷。僕たちって高校生だよな?」 

 

 

比企谷「いきなり何を?まあ、そっすね」 

 

 

阿良々木「考えてみると、不思議なものだよな。僕たち。 高校生になる前は、中学生。小学生だったじゃないか。 そしてこの後、大学生になる。 

何故、今だけ僕たちは○学生ではなく○校生なのだろう」 

 

 

比企谷「そりゃあれでしょう……。高学生ならなんか携帯の基本料金が高いみたいっ……。 ん?」 

 

 

阿良々木「どうした?」 

 

 

比企谷「いや、その。……先輩の名字って阿良々木っすよね?」 

 

 

阿良々木「ああ、そうだ。阿良々木暦だ。下の名前は言ってなかったか?」 

 

 

比企谷「いや。その。なんていうか……。 

俺、今違う意味で先輩の事信用できなくなりました」 

 

 

阿良々木「それは何故だ?僕の名前って画数が不吉なのか?」 

 

 

比企谷「占いとかじゃなく。簡単に言うと、法律的な意味で」 

 

 

阿良々木「僕は法に触れるレベルの名前なのか!?」 

 

 

比企谷「名前じゃなく。行動が……婦女暴行とか?」 

 

 

阿良々木「何をいきなり言いだすんだ!? 確かに僕は戦場ヶ原とそういう事がしたいし。 羽川をそういう目線で見たことも認めよう。 でも、それは男子なら誰でもそういう感情になるだろう?」 

 

 

比企谷「まあ、羽川先輩の乳トンの万乳引力の法則は認めますが……」 

 

 

阿良々木「それに妹の胸を足で踏みつけた事もあるが。 それは法に触れる事じゃあないぞ!」 

 

 

 

比企谷「なにやってんすか……。さっき妹と仲良くないとか言ったのは嘘かよ。 いやいや、そういう事じゃなくて。あの、八九寺って小学生知ってます?」 

 

 

阿良々木「八九寺?ツインテールの大きなリュックを背負った?」 

 

 

比企谷「ええ、その八九寺っす。 今日たまたまその子に会って、俺。どうやら先輩と見間違えられたらしく。 たまたまそういう話を聞きました。 セクハラ行為をされていますって……」 

 

 

阿良々木「会った?八九寺に?本当にか?」 

 

 

比企谷「これが嘘だったら。俺は一流の詐欺師ですね」 

 

 

阿良々木「いや、まああったことに関しての疑問は今置いておこう。 

しかしだな。僕は八九寺にそんな事はしない。寧ろ彼女の貞操を僕は守っているんだ。 ホラ、八九寺は可愛いだろ?だから僕はもしそんな極悪非道な人間がいたら許せない」 

 

 

比企谷「まあ、あの子もちょっと意味の分からない子供だったんで、話半分ですけどね」 

 

 

阿良々木「分かってくれればそれで嬉しい」 

 

 

 

比企谷「先輩の言い訳も話半分ですけど」 

 

 

阿良々木「それならイーブンで相殺されるな」 

 

 

 

比企谷「ぷよぷよかよ」 

 

 

阿良々木「どっちかといえばテトリスだな」 

 

 

 

比企谷「違いがわかんねーっすよ」 

 

 

阿良々木「単純だ。お前は色眼鏡を使わないだろ?」 

 

 

比企谷「成程……ってテトリスにも色付いてるじゃん」 

 

 

 03 

 

 

 その後僕と比企谷は、なんてことはない雑談を続けただけなので。 

多少時を戻して、語り部を戦場ヶ原辺りにでも渡すとしよう。 

 

 

 04 

 

 初対面の人間と話すのが苦手になってしまったのはいつ以来だろう。 

少なくとも中学生の頃の私はそうではなかった。 

まあ、いつから、という時間的な問いに対してみれば、その答えはすぐに出る。 

蟹に会ってしまってから。 

 

 まあ、それでも中学生のころから変わらず。 

横で読書をする後輩に話しかける言葉もなければ、話しかけようとも思いはしなかった。 

 

 

由比ヶ浜「ゆきのんもポッキー食べる?」 

 

 

 後ろの座席から。後輩が後輩へポッキーを差し出す。 

まるで遠足みたいな雰囲気だった。 

 

 

雪ノ下「遠足じゃあないんだからお菓子を持ってくるのはタブーだと思うのだけれど。 これも学業の一環なのだから。校則違反にならないとしてもモラルを持つべきよ?」 

 

 

 言葉が被った。 

いえ、といっても私は発言していないのだし。そんな校則の事など話すつもりもなかった。 

 

 

由比ヶ浜「もらる?マナーじゃなくて?」 

 

 

羽川「モラルは道徳や倫理って意味だよ?ちなみにマナーは礼儀作法とかだね。 まあ、この場合雪ノ下さんがいうモラルは、常識とかそういう意味合いが強いかな」 

 

 

 あらあらこれは羽川さん。なんとも分かりやすい解説をどうもありがとう。 

私も若干不安があったのだけれど、それをも解消する流石の解説力ね。 

本当に、羽川さんって何でも知っているのね。 

 

 

 

羽川「まあ、特にルールの上でお菓子類の持参は禁止されてはいないからね。 でも、まあ今から奉仕活動へ行くのに遠足気分は確かに頂けないね……。 ごめんなさい雪ノ下さん。私も一本貰っちゃったから同罪です」 

 

 

雪ノ下「あ、いえ……。別に説教をしたつもりも、羽川先輩を咎めようとは思っていなかったのですけれど」 

 

 

羽川「じゃあ、一本どうぞ?」 

 

 

由比ヶ浜「うん!どうぞ!ゆきのん」 

 

 

雪ノ下「え、ええ。じゃあ一本貰うわ」 

 

 

 

 流石羽川さん。後輩。というか他人に対する。 

更に言えば、どんなタイプの人間にも対する接し方を知っているのかしら。 

この雪ノ下さんという人間は感情表現が苦手そうね。 

私と違って。 

 

私は違う。感情表現が苦手なんじゃなく。敢えて感情を表に出さないだけ。 

 

 嫌だわ。なんだか阿良々木君と似たような事を言った気がする。 

気のせいね。いや、気の迷いかしら? 

 

 

由比ヶ浜「戦場ヶ原先輩も一本入りますか?」 

 

 

 不意に話を振られた。 

こんな時、どういう顔していいか分からない……。 

笑えばいいと思う……事はないわね。 

 

 

 

戦場ヶ原「それは私に言っているのかしら?」 

 

 

由比ヶ浜「ふぇ?え、はい。嫌いですか?ポッキー……」 

 

 

戦場ヶ原「いえ。ポッキーは好きよ。でも、出来ればチョコを無くして代わりにミルクを混ぜてあった方が好きね」 

 

 

由比ヶ浜「それじゃあポッキーじゃなくてプリッツのローストになっちゃいますよ?」 

 

 

戦場ヶ原「あら、これは失礼。棒の方を太くしてチョコを傘のように変えた方が良かったかしら」 

 

 

由比ヶ浜「え?えっと……」 

 

 

羽川「きのこの山?」 

 

 

由比ヶ浜「それだ!」 

 

 

戦場ヶ原「正解」 

 

 

羽川「いや戦場ヶ原さん?別にお菓子の名前当てクイズはしていないよ? 後輩の言葉に返事くらいはしないと駄目だと思うよ?」 

 

 

 いやいやバサ姉。いいじゃない別に。 

当人の由比ヶ浜さんだって楽しそうじゃない。まあでも。そうね。はい。 

大人げなかったです。ちょっと突然話しかけられたので言葉に困ってこんな事言ってしまいました。 

 

 

戦場ヶ原「朝ごはんをたくさん食べて来たから今は遠慮しておくわ。ありがとう由比ヶ浜さん」 

 

 

羽川「よろしい」 

 

 

 また羽川さんに一本取られてしまったと。敗北感に苛まれて前に向き直る。 

 

 ふと、雪ノ下雪乃。彼女が先ほどから開いている本が気になった。 

私のよく知る本のタイトル、『ドグラ・マグラ』という文字が見えた。 

 

 

 いえ、特に話しかける気はなかったのだけれど。誰にでもあると思うの。こういう感情。 

同志というべきか、方向性が同じ人間とは話がしたい。 

特に、この手の趣味は年々人口が減る一方で。見つける事すら難しいのかもしれないのだけれど。 

 

 

戦場ヶ原「好きなの?夢野久作」 

 

 

雪ノ下「え?いえ、特にこの作家が好きだというわけでなく。日本探偵三大小説と歌われているので気になって……」 

 

 

 多少なりとも安心したのは否めない。 

もしかすると会話そのものを無視されそうな、それほどまでに周りに否定的な雰囲気を醸し出していたからだ。 

しかしながら思ったよりの長文が帰って来たという事は。この子も話をしない気はないのだと感じた。 

 

 

戦場ヶ原「三大小説ではなく、三大奇書ね。とても奇妙で異様で怪奇的で懐疑的な小説。 読破すれば精神が病むとまで言われる物よね」 

 

 

雪ノ下「よくご存じですね。 特に私は後半の部分。『読破すれば』のくだりが気になって読んでいます。 質問から察するに、戦場ヶ原先輩は夢野久作がお好きなのですか?」 

 

 

戦場ヶ原「ええ。まあ私も、だからといって彼の作品だけ読むわけでもなく。 広く教養は積んでいるつもりなのだけれど」 

 

 

雪ノ下「ええ、でも最近は多くはないですよね。本当の意味で読書が趣味の人」 

 

 

戦場ヶ原「そうなのよ。後ろの羽川さんだって読んでいるのだけれど。 趣味というわけではないし……。 『その後ろの阿良々木という人は程度の低い物しか読まないし』」 

 

 

阿良々木「聞こえているぞ戦場ヶ原……。僕を勝手にそんなキャラ付けするな!」 

 

 

戦場ヶ原「事実ほど否定したがるものよね。 というか、ガールズトークの邪魔をしないでくれる? 聞き耳を立てるなんて趣味は最悪よ?」 

 

 

阿良々木「明らかに僕の名前からの台詞は後ろを向いて喋ったじゃないか!」 

 

 

 閑話休題。話を戻しましょう。 

 

 

雪ノ下「まあ、でも。この作品は確かにそう批評される程度はありますね。 ちょっと気分が悪くなってきます」 

 

 

戦場ヶ原「乗り物酔いの可能性もあるから一概にはそうとは言えないわね。 でも、私も3回しか読めなかったわ」 

 

 

雪ノ下「3回も……。お好きなんですね。夢野久作」 

 

 

戦場ヶ原「いえ、一度読むと分かるのだけれど。その作品、意味が分からないのよ。 

ジャンルは探偵小説なのだけれど、実際的に私たちが物語の真相を探偵するような感覚になるのよ」 

 

 

雪ノ下「その言葉を聞いて益々楽しみになりました。 今度お勧めの作品があれば教えていただきたいですね」 

 

 

戦場ヶ原「奇書を進められたいって。結構奇特なのね」 

 

 

雪ノ下「夢野久作のお勧めを聞いたはずなのですけれど」 

 

 

戦場ヶ原「ああ、そっちね。それは是非とも聞いてちょうだい。 その前に、その作品を読んで感想を議論したいものだわ」 

 

 

羽川「え?戦場ヶ原さん。私との議論は不満だったのかな?」 

 

 

戦場ヶ原「あら。いえいえ羽川さん。確かに貴方とも議論できたことは嬉しかったのだけれど。 羽川さんの解釈って、参考書のような、なんていうか。辞書のような感じだったのよ。 もう少し、いや、少しでも主観が入った解釈も聞きたいかなと思っただけよ」 

 

 

羽川「なんだかひどい言われようをしている気がするのは気のせいかな」 

 

 

 気のせいよ。 

 

 

由比ヶ浜「それ面白いの?私も読んでみようかな」 

 

 

羽川「辞めた方が良いよ」 

戦場ヶ原「辞めた方がいいわね」 

雪ノ下「辞めた方がいいわよ」 

 

 

由比ヶ浜「声をそろえて言われた!なんか酷い!」 

 

 

 思った以上にバス移動の間が短く思えた。 

夢野久作の話の後も、髪のトリートメントの話だとか。勉強の話だとか。 

意外と盛り上がってしまった。 

 

 盛り上がった。といっても、私も雪ノ下さんも淡々と会話していただけなのだけれど。 

内容的にはガールズトークだったかしらね。うふ。 

 

 

 05 

 

 というわけでこの話数も終わり。 

最後は再び僕が、阿良々木暦が語る事にしよう。 

 

 

 そうしてこうして、バスは目的に到着。 

事故もなく渋滞もなく時間通りだった。 

 

 降りてからは今日のメインイベント。ゴミ拾いだ。 

ゴミ拾いは僕ではなく、比企谷の語りで話をさせてもらうとしよう。 

 

 ずっと僕の感情が分かってしまうというのもなんだか恥ずかしい気もするし。 

そもそもコラボSSで僕ばかりが出ずっぱりだと、彼らと対等とは言えなくなるから。 

 

 

 というわけで。一旦僕は休ませてもらう。 

第6話で、また会おう。 

 

 

比企谷「ブツブツ言ってると、怖いですよ?」 

 

 

阿良々木「え?ああすまない。八九寺Pの陰謀だ」 

 

 

比企谷「どんな遠隔操作ですか。ってかPって何?モバマス?」 

 

 

物語Side 第肆話 

『こよみボランティア その貳』 ―完― 

 

 

俺ガイルSide 第5話 

『突然、戦場ヶ原ひたぎは言い訳を始める』 

 

 

 意外と仲良くなれるんじゃないのか。と、俺は勘違いをしてしまいそうなほどに。 

阿良々木先輩と意外と話が合う。 

 

でもそれは阿良々木先輩本人が言うとおり。ただの暇つぶし。 

 

 これに調子に乗って、気安く話しかけると酷い目を見るのは火を見るより明らか。 

寧ろ火の方がマシなレベル。だって、火はいつか消えるけど、心の傷は消えねーもん。 

というわけで、一度バスの下りは俺の中で消去。デリート。よし、完了。 

 

 

由比ヶ浜「さて、じゃあ拾うぞーゴミを!」 

 

 

 のっけから、由比ヶ浜は何かよく分からないものに燃えている。 

何何?やめようぜそういうの。なんでゴミ拾いに必死なの?パーティじゃねーんだからよ。 

 

 俺たちは教師からゴミ袋と火鉢を数本渡された。 

ゴミは燃えるゴミとビン、カン、ペットボトル。その他に分けて分別しろと言われた。 

結局最後は灰になるんだから関係ねーのに……。 

 

 

比企谷「じゃあ由比ヶ浜。お前はゴミを拾う係な。雪ノ下がゴミを持つ係」 

 

 

由比ヶ浜「ヒッキーは?」 

 

 

比企谷「ゴミを見つける係」 

 

 

由比ヶ浜「それ、なんもしてないじゃん……」 

 

 

雪ノ下「いえ、適切な判断かもしれないわね。適材適所。 自分と同じものを見つけるのは得意だものね」 

 

 

比企谷「そうそう。俺はゴミだからその役目には適任なんだ」 

 

 

由比ヶ浜「否定しないんだ!?ソレほどまでに嫌ってこと!?」 

 

 

 あぁそうだよ。それ程嫌なんだよ。 

ゴミを拾うときに前屈しなくちゃいけないしな。結構、地味に疲れが来るんだぜ?あれ。 

逆に、それなら。男が率先してやれというかもしれないが、それは男の見栄だ。 

無い袖は振れない。つまり、無い見栄は張れないのだ。カッコキリッ。 

 

 

雪ノ下「冗談は置いといて、これも依頼なのだから。始めましょう。 もう既に他の先輩方は始めているわ」 

 

 

比企谷「おう、そーですね」 

 

 

 そういうなら。いや、この場合そういうからなんだろうな。 

雪ノ下は俺の頼みではなく、依頼という名目で今日動いてくれている。 

その自分の意思にウソはつけない。そういうわけで俺の言う事をこうも素直に聞き入れてくれるんだろうな。 

 

なんだよ、それなら俺は今度から雪ノ下に平塚先生経由に依頼しまくろうかな。 

部活動を静かに過ごしたい。俺の心の傷をいやしたい。戸塚と仲良くしたい……。 

最後のは雪ノ下に頼んでどうにかなるんだろうか、どうにかなるんなら明日しよう。 

 

……寧ろ今日だな。 

 

 

羽川「あれ?比企谷君達は由比ヶ浜さんが拾うんだ」 

 

 

雪ノ下「そちらは?」 

 

 

阿良々木「見れば分かるだろう?僕が見つけて、拾って、持つ係だ」 

 

 

雪ノ下「あら、男らしいのですね。あちらの男にも見習ってほしいものですが」 

 

 

比企谷「無い物ねだりはよくないってお母さん言ってたぞ?」 

 

 

雪ノ下「そうね、存在もないのに考えちゃあ可哀想よね」 

 

 

比企谷「存在すら認めてもらってねえのかよ、俺。 ってか真横に居るのにあちらって言うな。こちらが正しいだろうが?」 

 

 

雪ノ下「ごめんなさい。淀んでいるせいで距離感の把握がうまくできないのよ」 

 

 

比企谷「空間操作系の能力者かなんかかよ俺。しかもその能力すぐやられそうだぞ」 

 

 

阿良々木「仲間には絶対なれないキャラだな」 

 

 

比企谷「多分、ポニーテールのジャッジメントにやられちゃいそうですね」 

 

 

阿良々木「それはツインテールじゃないのか?」 

 

 

そうだっけ?いや、どっちでもいいけど。 

 

 

戦場ヶ原「寧ろポニーテールはジーンズを引き千切ってる人の事よね」 

 

 

阿良々木「他にもいるぞ?」 

 

 

戦場ヶ原「3巻までしか読んでないのよ」 

 

 

阿良々木「よくそれで話に乗ろうと思えたな!」 

 

 

戦場ヶ原「新約の方よ?」 

 

 

阿良々木「ごめん。僕は無印を全巻読んでるだけだ……」 

 

 

 俺なんてそのスピンオフしか読んでねーよ。 

由比ヶ浜と雪ノ下の2人だったら俺しか持ってないサブカル知識なのに。 

この先輩方はどうやらその俺以上の知識があるらしい。今日は自慢げに話すのやめとこう。 

火傷どころか複雑骨折しちまいそうだ。 

 

 

羽川「私たちは今日。同じ班だから、一緒に行動しましょうか」 

 

 

 断る理由もない。俺たちは先輩たちの後ろについていく形で歩くことになった。 

そのおかげで俺たちのゴミ袋は空っぽのまま。阿良々木先輩が全部拾う。 

マジですげぇ、火鉢使い(ヒバッチャー)の方ですか? 

なんでそんな遠くの空き缶まで見つけられんの?マサイ族?視力4.0なの? 

 

 

羽川「この辺ってウォーキングコースにもなってるんだよね」 

 

 

 羽川先輩が不意に話を振る。 

 

 

戦場ヶ原「ええ、中学の頃はよく走らされたものだわ。 ウォーキングコースなのにランニングするのはおかしいとも思うのだけれど」 

 

 

由比ヶ浜「でも確かに……。ウォーキングコースとランニングコースって明確な違いってあるんですかね?」 

 

 

戦場ヶ原「本当。そのとおりよね?勝手に移動方法を限定されても困るわよ。 歩くも走るも勝手じゃない? 何だか、こういうコースって、自由を奪って決めつけて命令されているように感じるのだけれど」 

 

 

雪ノ下「でしたら、自由性を重んじてウォーキングorランニングコースとするべきですね」 

 

 

羽川「長い長い……。ならムーブコース……ならどうかな。 

移動するって意味で、どちらのニーズにも答えられるんじゃないかな?」 

 

 

戦場ヶ原「でも、それだと今度は動きたくない人に失礼よね。 ここに来たからには動けと、命令しているようよね」 

 

 

由比ヶ浜「そもそも動きたくない人はここに来ないんじゃ……」 

 

 

 由比ヶ浜。残念ながらそのツッコミは間違っている。 

何故なら俺がここに居るという時点で絶大な反例だからだ。 

 

 俺専用にバックコースが欲しい。引き返す人のための、後ろ向きなコース。 

呪われそうな勢いだな……。 

 

 

羽川「でもね?戦場ヶ原さん。もしもだよ?もしも看板に。 

『進んでも戻ってもかまいません。ここからどう動くかは自由です』 

なんて立てかけられていても、多分。困ると思うよ?ね?」 

 

 

戦場ヶ原「いやいや羽川さん。そんな事思わないわよ。 オツだな。と。間違いなくそう思うわよ。ええ、そうに決まってる」 

 

 

羽川「どう足掻いても自分の意見は曲げない気なんだ……」 

 

 

戦場ヶ原「そうよ?意思は曲げないの。 

例えるなら、環境依存文字のようにね」 

 

 

 

 ……はい? 

いや、俺は今話の輪に入っていないから突っ込めないが、俺が先輩と友達なら確実にチョップだ。 

馬場さんもびっくりのスーパーチョップで突っ込みたい。 

 

 そのドヤ顔と首をかしげ過ぎなポーズを含めて。 

原作ではないんですってね。あの首かしげ……。何言ってんだ俺。 

 

 

由比ヶ浜「イゾンモジィ?環境に悪そうな名前ですね」 

 

 

雪ノ下「由比ヶ浜さん……?もしかしてと思うのだけれど。依存の言葉の響きだけで判断してないかしら。 環境依存文字とは……いえ、説明は不要だから割愛するけれど」 

 

 

羽川「そもそも、そんなに首を曲げる程うまいことは言えてないし!」 

 

 

 それにしても……。 

なんだコイツら。友達なの?バスの中で精神と時の部屋にでも入ったのか? 

何時間も一緒に居たわけじゃないのに、この砕けっぷりはいかに。 

いや、流石リア充パワーとも言うべきなのか?それとも女子の常識ってこんなもんなの? 

 

『昨日の友達は今日の嫌いな子。昨日の嫌いな子も今日は友達』 

 

 俺、男で良かったわ…。 

 

『昨日の友達はずっと友達。昨日嫌いになったやつは校舎裏……』 

 

 

 うーん。男も男で嫌だなー……。 

 

阿良々木「それにしても、ゴミが多いな。何故ポイ捨てなんて事をするんだろうか」 

 

 そりゃ人間なんて自分のテリトリー以外見向きしないからっすよ。 

自分に関係なければ地震だろうが台風だろうが話題のネタ程度のもんだ。正に対岸の火事。 

だからこそ二度と来ないようなこんな山にゴミを捨てても何とも思わない。 

何故なら自分に関係が無いから。 

無関係とは名ばかりのただの取捨選択。都合が悪ければ関係を断つ。 

だからそもそも俺は関係を持つのが嫌いなんだよ。 

 

 って、この思考がそもそも関係ないな。 

 

 

阿良々木「僕は一応、比企谷。お前に聞いたつもりなんだが?」 

 

 

比企谷「え?俺?」 

 

 

阿良々木「お前以外付いてきてないじゃないか」 

 

 

 本当だった。 

後ろを振り向けば4人が足を止めて談笑してやがる。 

 

 話の流れからどうせ、「歩くも止まるも自由なら、ちょっと休憩」とでも言うんだろうか。 

 

 

 だから。阿良々木先輩がゴミ拾いを頑張っているのを俺が1人付いてきていた。 

この状況で話しかけられて、無意識に自分自身を対象から外す俺のスキルが怖い。 

 

 

比企谷「戦場ヶ原先輩も羽川先輩も、阿良々木先輩を手伝わないんすね」 

 

 

阿良々木「戦場ヶ原には、ホッチキスより重いものが持てないと断られ。 羽川には、こういうのは男の子はが率先してやって欲しいな。と諭されたんだよ」 

 

 

比企谷「いやいや、ホッチキスって結構重たいじゃねーすか」 

 

 

阿良々木「最近のは軽いのも多いぞ?筆箱とかに入るサイズのも主流だし」 

 

 

比企谷「いや、そんな俺、筆記用具に精通してないんで……」 

 

 

阿良々木「こういう話しだと、戦場ヶ原が嬉々として話しに入ってくるんだけど」 

 

 

比企谷「筆記用具の話に嬉々とされても困りますけどね」 

 

 

阿良々木「ああ、寧ろ危機を感じるな」 

 

 

比企谷「いや、別に危機は感じないすけど」 

 

 

阿良々木「お前、口の中にホッチキスとカッターを入れられた事あるか?」 

 

 

  何それ。中世レベルの拷問じゃね? 

 

 

阿良々木「他には、顔を固定されて。シャーペンを眼球の前に置かれて。 そのまま親指で芯をカチカチカチカチカチ……」 

 

 

比企谷「感じる感じる!スゲー感じるんでやめてくださいよ……。 

中世レベルってか、中世も裸足で逃げ出すレベルじゃんそれ……。 

戦場ヶ原先輩って何者だよ」 

 

 

阿良々木「そういうヤツだよ、戦場ヶ原は」 

 

 

 元々知らなかったけど、寧ろ知りたくない人に昇格だよ。寧ろ降格? 

綺麗だなとか思ったけど、今やその綺麗さも相まって怖さ倍増。 

実は雪ノ下より怖いんじゃないのか? 

 

 

 何よりも、それよりも俺は思う。 

阿良々木先輩とまたもや親しく話してしまったと。 

このままだと俺は阿良々木先輩を友達だと勘違いしてしまいそうだ。 

 

 

 火を見るよりも明らかなのに、俺は飛んで火に入る夏の虫状態。 

いや、別に居心地がいいとかじゃないんだけど。 

なんか、この人と喋ると当たり障りのない無意味な雑談なのに花が咲いてしまう。 

 

 火鉢使い(ヒバッチャー)であり、同時に花咲か兄さんでもあるというのか。 

と、俺は無意味な思考をよぎらせつつ、阿良々木先輩と、男2人の寂しい会話を続けた。 

 

 

 アンタも苦労しているんですね。リア充なんて皆、下半身の事だけかと思っていましたよ。 

ちゃんと上半身も見ているんですね。羽川先輩のとか。 

 

……。 

…………。 

 

そしてゴミ拾いは順調に進み、お昼時…。 

ここにはトイレが無いからどこで食事をしようかな……。 

いや、そもそも俺は便所飯じゃなかった。 

最近のリア充はトイレにさえ集合するから、俺は裏庭飯なんでした。 

 

 裏庭に居れば昼練中の戸塚のセクシーショットも拝めるしな……。 

 

 

 やべ、口角緩んだ……。 

 

 

 で、今に至るわけだが……。 

 

 ………。で? 

 

 

 で?で?で?で?で? 

どうしてこうなったんだろうか、何故こうなってしまったんだろうか。 

現状を噛み砕いて咀嚼して呑み込んでMAXコーヒーを一気飲みして説明しよう。 

 

 俺は戦場ヶ原先輩とベンチで2人っきりだ。 

2人っきりだぞ。真横に居る。座ってる。俺も先輩も。 

何この状況。 

俺の脳内はずっとドゥンッ!ってXPのエラー音が絶えず響いている。 

 

 

 この状況を整理するために……。回想して思い出してみよう。 

 

… 

……… 

…………… 

 

由比ヶ浜「お弁当を先生の所に取りに行かなくちゃいけないんだ!じゃあ私とってくる!」 

 

 

阿良々木「1人じゃあ6人分は重いだろうから、僕も付いて行くよ」 

 

 

羽川「飲み物もあるみたいだから、私も付いて行こうか?」 

 

 

由比ヶ浜「じゃあゆきのんも!」 

 

…………… 

……… 

… 

 

 この回想も、もう何度も繰り返している。 

何度聞いても由比ヶ浜の最後の一言に理解が出来ない。 

 

 何故雪ノ下まで連れていった? 

 

 

 俺は流れに乗れず戦場ヶ原先輩と2人っきり。 

雪ノ下でもいれば、今この状況はガールズトークをする女子2人とぼっちが1人。 

それならまだ良かった。 

俺は携帯でパズドラでもすればいいから。 

 

 

 でもこの状況だと俺が黙ると戦場ヶ原先輩を無視していると思われかねない。 

そうしたら俺はホッチキスで拷問されちゃうんだろうか。 

 

 

 怖い。怖いよ助けて小町。お兄ちゃん、今生命の危機だよ。 

お前のご飯は、食べられないかもしれない……。無念だ……。 

 

 

 

戦場ヶ原「違うのよ。皆に先に言われてしまったから言うタイミングがつかめなかったのよ?」 

 

 

 

 突然、先輩は口を開いた。 

俺は先輩の方を見ていなかったから表情とか見てないけど。その時改めてみた表情は。 

どうみても言い訳のために先生に対して言葉を選んだ学生の顔だった。 

 

 

 もしかして、この状況になったことに対して釈明しているのだろうか。 

『別にアンタと2人っきりになりたかったワケじゃ(以下略』とでも言うのか? 

リアルツンデレを見ると、実は萌えとか関係なく苛立ちを覚えるものだ。 

現実ってそういうもんだ。 

 

 でも、戦場ヶ原先輩からツンデレされたら俺の鼻の下は垂直落下するだろうな。 

まあ、この場合のコレをツンデレだと思えるほど、俺は感受性が豊かじゃないけど。 

 

 

 

戦場ヶ原「阿良々木君も、羽川さんも、こういう時率先して出来る人だから。私と違って」 

 

 

比企谷「大丈夫っすよ?」 

 

 

戦場ヶ原「え?」 

 

 

 多分。そういう事なんだと思うから、俺は。優しい善良な後輩である俺は弁解してあげる。 

 

 

比企谷「別に戦場ヶ原先輩がコミュニケーション能力ないとか思ってませんから。 後輩である僕たちもそういう目で見ようとは思ってませんよ」 

 

 

 優しい。俺、超優しい。 

 

 

戦場ヶ原「何を言っているのかしら。ごめんなさい。ちょっと意味が分からないのだけれど」 

 

 

比企谷「え?」 

 

 

戦場ヶ原「いえ、この雰囲気的に。 私という可憐な乙女が後輩と無理やり二人っきりにしているようにも思えるから。 アナタに勘違いされると面倒だと思っただけよ」 

 

 

 

 えー……。この人マジかよ。 

 

 

比企谷「自分で自分の事を可憐な乙女と形容する人に可憐な人はいないと思います」 

 

 

 色々言いたい事はあったが、とりあえずこう言っておこう。 

 

 

戦場ヶ原「そうかしら?じゃあ誰が言うのよ。私が言わなければ言われないじゃない。 他人が私の事を見て可憐だと思うとでも言いたいの?」 

 

 

比企谷「自覚があってそれでも尚そういうのであれば、世間ではそれを痛い子といいます」 

 

 

戦場ヶ原「視認するだけでダメージを与えられるのかしら?」 

 

 

比企谷「精神ダメージ……HPじゃなくてMP攻撃っすけどね」 

 

 

戦場ヶ原「いえ、冗談は置いといて」 

 

 

 冗談かよ。このお姉さん真顔で冗談言うのやめろ。 

真性かと思っちまったじゃねーか……。 

 

 

 戦場ヶ原「遅くないかしら。皆……」 

 

 

 そんなに時間経ってんのか? 

俺が回想を少なくとも5回はしていたからか? 

 

 

 戦場ヶ原「もう15分にもなるのに。 だからなのだけれど。 あまり言いたくはないし、私の思い違いだといいのだけれど」 

 

 

 瞬間的に言葉を濁した。語尾が聞き取りづらい。 

何故か。その言い方に悪寒を感じた。 

嫌な予感。とは、コレの事だろうか。 

 

 

 戦場ヶ原「確か4人共、左の道からお弁当を取りに行ったわよね?」 

 

 

 比企谷「え?ええ、あの道……」 

 

 

 絶句した。 

 

 

 

比企谷「が……無い……」 

 

 

 無くなっていた。綺麗に。 

マジで初めからなかったように。 

 

 

 道が無い。 

俺と戦場ヶ原先輩を囲んで、道が消えている。 

 

 

 ここは何処だ? 

 

 

 

 俺たちは今、どこで何をしているんだ? 

 

 

戦場ヶ原「やっぱり。惹かれやすいのかしら……私」 

 

 

 引かれる言動はしてきましたけど? 

って、マジで今はそれどころじゃない……。 

 

 

 おいおい、ファンタジーな世界観とかあわねぇって。 

俺、もしかして作品違う?これってほのぼのひねくれ系日常小説じゃないのかよ。 

 

 メタ発言しちゃうくらい、俺の精神は動揺していた。 

 

 

 俺、今日。もしかしなくても厄日? 

 

 

俺ガイルSide 第5話 

第5話 ―完― 

 

 

物語Side 第陸話 

『はちまんスパイダーその壹』 

 

01 

 

「孤独蜘蛛。子供の毒蜘蛛……縮まって子毒蜘蛛というのが由来らしいんじゃが」 

 

 

 忍野忍という、僕の影に潜む吸血鬼のなれの果て。 

彼女が僕に説明する。 

忍野メメという、怪異の専門家を名乗る男から教わった知識……。 

いや、正確には一方的に覚えさせられた知識を。披露する。 

 

 

忍「内容はこうじゃ。 

その昔、親のいない。小さな小さな子供の毒蜘蛛がおってじゃの? 

そいつは他の虫達から忌み嫌われとったらしい。 

 『近づくな、毒が移る』と。それ故。身寄りのないその毒蜘蛛は、一匹彷徨い続けた。 

森の中を。孤独に。 

   

そこで1人の人間と出会ったんじゃ。その男もまた孤独じゃった。 

1人と一匹は意思を交わし、共に過ごすのに。そう時間はいらんかった。 

しかし逆に、そう時間は与えられんかった。 

   

そう、所詮は毒蜘蛛。毒を持つ蜘蛛なのじゃ。 

しばらくして男は結局、毒蜘蛛の毒にやられて死んでしまったんじゃよ。 

毒蜘蛛は結局、孤独になる」 

 

 

阿良々木「報われない話だな」 

 

 

忍「報われんのう。 結局、その話のオチは、孤独なものは孤独に生きるしかない。 

人生というのは変えられんという話らしいしの。 その話からできた『怪異』が、人に取り付き孤独にさせる。 簡潔にいえば関係を物理的に分断させる『孤独蜘蛛』という事じゃな」 

 

 

 忍はそう話してくれた。 

いや、そもそもこの話の前。 

何故忍が、この話をするに至ったかの経緯を、僕は話す必要がある。 

 

 この話をしているということはつまり。今僕は1人だ。いや、正確には忍と二人というのが正しいのだけれど。 

とにかく、羽川とも戦場ヶ原とも、後輩3人とも一緒に居ない。 

 

 逸れたわけではない。弁当を運んだ先に戦場ヶ原と比企谷がいなかったのだ。 

戦場ヶ原の携帯も比企谷の携帯もつながらなかった。 

 

 ちょっと探してくる。と、僕は嘘をついて今こうして忍に聞いている。 

なにか怪異の仕業じゃないのかと。 

 

 そういう経緯だ。突然、突発的に忍が、某テキサスのアメリカ代表超人のように解説を始めたわけではない。 

そうして僕は忍から。そういった形で話を聞いたのだった。 

 

 

忍「まあでも、お前様の問いには完全に返答出来てはおらんのじゃがのう。 

ワシはそもそも怪異の気配を感じておらんし。いや、じゃからこそ孤独蜘蛛。 気配すらせんし、存在すらも他人に認知されん孤独蜘蛛という怪異をこう喋ったのじゃが」 

 

 

阿良々木「いや、それで十分だよ忍。その線で概ね間違いはない。 じゃあ、戦場ヶ原と比企谷はその孤独蜘蛛のせいで今、山を彷徨っているのか?」 

 

 

忍「孤独蜘蛛という怪異が関わっておるなら、間違いはないのう」 

 

 

阿良々木「食ってくれるか?忍」 

 

 

忍「そりゃ儂じゃっての?目の前に怪異がおれば食えるぞ?怪異なんじゃから。 でも、孤独蜘蛛はそもそも存在を孤独にさせる怪異じゃ。会う事そのものが難しい」 

 

 

阿良々木「対処法とか、討伐方法とか、そういう手段はないのか?」 

 

 

忍「アロハ小僧も言っとったし、今から言うつもりじゃ。じゃが、どうかのう……」 

 

 

阿良々木「煮え切らない言い方だな。言ってくれよ、忍」 

 

 

忍「怪異に取り付かれたものが、言うなれば孤独蜘蛛が自分から会う。 

それしか方法はない。 つまり、あの根暗小僧が他人を頼って儂らに会おうと思うしかないという事じゃ」 

 

 

 根暗小僧…。つまりは比企谷の事だろう。 

そもそも、忍は既に比企谷と会ったときから起きていた。 

僕が比企谷に向けた恐る恐るのコミュニケーションの動揺まで、全てばれているということだ。 

いや、まあでも。この場合それはさして重要なことではないのだが。 

 

 

阿良々木「起こして悪かったな。ありがとう、忍」 

 

 

忍「それはよいが、お前様よ。 例によって。例のごとく。例のように。お前様に問うてみるんじゃが? 助ける気か?あの根暗小僧を」 

 

 

 何を聞くかと思えば。忍はそう聞いてきた。 

僕は反射のように、特に意識する時間もなく。当たり前のことを言い返す。 

 

 

阿良々木「勿論だ」 

 

 

 僕はそう言って忍を影に戻した。 

ここからの行動は僕がしなくてはならない。忍に頼るのはこれ以降最後の締めくくりだけ。 

別に決心するわけでなく、最初から予定に組み込まれていたかのように僕は足を動かす。 

そして、何食わぬ顔で、いや、本当に何も食べていなのだが。 

僕は羽川たちと改めて合流する。 

 

 

02 

 

 現状は何も変わらず、行方不明になった戦場ヶ原と比企谷を探すだけだ。 

 

 

由比ヶ浜「もしかして、これって遭難とかそういうのなのかな……」 

 

 

雪ノ下「はあ……。比企谷クンだけなら別に無視しておいてもよかったのだけれど。 彼は1人でいなくなる事さえもできないのね」 

 

 

羽川「まあまあ。もしかしたらお手洗いに行ってるだけって可能性もまだ消えたわけじゃないし」 

 

 

 その羽川の言う可能性を言うなら、それはあるべきだ。 

僕たちがここに戻ってくるまでの時間は、大体5分。トイレに行っている可能性も十分にある。 

寧ろ。そう言うべきだ、そう思うべきだ。 

 

 

でも、それでも尚、僕たちが。怪異を知らない由比ヶ浜達でさえ。 

その可能性を排除するのも尤もではあった。 

 

 

 その5分の後、僕たちは更に10分。その場で待機していたからだ。 

更に言うならば、僕達の携帯は電波が届くのに、2人、行方不明の比企谷と戦場ヶ原の電話がつながらないという事実。 

 

 

 それにより、由比ヶ浜達はそうなんを懸念する。 

更に羽川と僕は、怪異を疑い、僕はそれを怪異だと思っている。 

 

 

 まず僕がすべきことは、僕以外の3人。特に由比ヶ浜と雪ノ下の安全を、まず確保することだ。 

戦場ヶ原は結果的に巻き込まれてしまっている可能性が高い。だから、これ以上。 

怪異によって被害が拡大するのを防ぐべきである。 

 

 

阿良々木「とりあえず、最悪の場合だとして。僕がもう一度ウォーキングコースを。 今日、僕たちが掃除をして歩いたルートを探してみる。 だから3人は、ここに戻って来た時のために待機していてくれ」 

 

 

 僕の中での。最善の方法を、提案した。 

 

 

由比ヶ浜「え?でも、1人で行って先輩まで行方不明とかになったらマズくないですか?」 

 

 

雪ノ下「それは確かに、由比ヶ浜さんの言う通りだと思います。 比企谷君1人ならまだしも、戦場ヶ原さんと2人で居たにもかかわらず。 この状況に陥ってしまっているので、最低でも2人で行動した方が……」 

 

 

由比ヶ浜「そうそう!ミイラがミイラ取りになっちゃうと駄目ですし」 

 

 

 雪ノ下と羽川が、由比ヶ浜を流し眼で見た。 

何か、彼女がおかしなことを言っているのだろうか? 

 

いや、確かにもっともだ。 

僕が1人で行動、いやまあ忍もいるが。客観的には1人。 

雪ノ下と由比ヶ浜、最悪羽川も、この提案の穴を。 

結果的に僕の自己犠牲である事を納得しかねているのだった。 

 

 

 じゃあツーマンセルでの行動を選択すべきである。 

だけれども、この場合。僕は羽川を選べない。 

本来は、僕と羽川が行動するのが一番であるはずなのは確かなのだが……。 

しかしそれは、選択肢から消さなくてはいけない。 

 

 

 何故なら、怪異を知る僕と羽川が共に行動するという事。 

それはつまり、結果的には怪異を知らない2人をここに残してしまうという事になる。 

そうなると、もしも孤独蜘蛛に合えば、対処する時間も、隙も余裕もないままに被害を受ける。 

多少なりとも、怪異に対して知識のある羽川が、由比ヶ浜と雪ノ下。 

その二人を見守るべきなのだ。 

 

 

 しかしながら、それでは納得してくれないだろう。 

ならば。それならと、ここで怪異の説明を始めるとしても。 

2人は僕を奇異な目で見るだけだろうし、何より時間が無い。 

 

 

 だから僕は、ここで由比ヶ浜と雪ノ下。そのどちらかと行動を共にする必要がある。 

僕はその選択肢を選ばざるを得なかった。 

 

 

 別に、好みがどうとかそういう話ではない。 

ただ単純に、羽川と2人にさせて仲良く話せそうなのは。という他人ありきの選択。 

僕がそういう人格を好んでいるとか、趣味趣向で選んだわけではない。 

別に誰かに似ているからとか、そういうのじゃない。 

 

 

 僕は、雪ノ下を選んだ。 

 

 

03 

 

 僕と雪ノ下は再び午前中に通ったコースを見回る。 

 

 

阿良々木「いないな……どこにも」 

 

 

雪ノ下「ええ、困りましたね。 やはり先生方に伝えるべきでしょうか」 

 

 

 彼女は、雪ノ下は僕の後ろで、そう問いかける。 

しかし、だがそれでも僕は、その最善であろう選択肢はまだ選びたくはない。 

それはとどのつまり最終手段であると、僕は自分の中で言い聞かせている。 

 

 

 まあそれは、怪異が絡んでいるという事もあるが、概ね比企谷のためである。 

比企谷は、多分それを望まない。それを、最善の選択肢、先生を頼るという事を……。 

つまりは大事にするという解決案を、比企谷は望まない。 

 

 

阿良々木「比企谷は……」 

 

 

雪ノ下「比企谷君がどうかされましたか?」 

 

 

 言わなくてもよいのかもしれないし、寧ろ言わない方がいいのかもしれない。 

でも、僕は押しつけてしまう。 

僕の考えを、僕の思いを。後輩の、雪ノ下に。 

 

 

阿良々木「アイツは多分それを望まない。 ホラ、今日バスでアイツと話したんだよ。そういうのを好まないだろ?」 

 

 

雪ノ下「いえ、まあ、確かに彼は卑屈で目立つ事を拒みますが。 この場合そんな事を言っているべきではないですし、そもそもが自業自得。 さらに言えば、先輩のご友人まで行方不明なのですけれど?」 

 

 

阿良々木「でも、仮にそうして比企谷が見つかったとして。 僕は比企谷を助けた事にはならないだろう?」 

 

 

雪ノ下「……」 

 

 

 その無言から、僕は秘めた事柄を感じとれなかった。 

彼女の感情を、見いだせずにいた。 

だから僕は、恥ずかしくも言い訳をしてしまう。言い聞かせてしまう。 

 

 

阿良々木「いや、最悪の場合はそうする。でも、まだお昼休憩も終わってないんだ。 もう少し探してみよう。な?」 

 

 

雪ノ下「何故、彼をそこまで贔屓……。 いえ、世話を焼く。という方が正しいのでしょうか。 とにかく何故そこまでしようと思うのですか?」 

 

 

阿良々木「何故って……。 先輩が後輩を助けるのは当たり前だろ?」 

 

 

雪ノ下「当たり前。ですか。ええ、確かに当たり前ですね」 

 

 

 何かを含むように、彼女はそう繰り返した。 

 

 

阿良々木「ああ、当たり前だ」 

 

 僕はなにも含めず、ありのままを口にした。 

 

 

雪ノ下「阿良々木先輩。 雑談のような、何気ない会話として聞いてほしいのですが」 

 

 大層な前ふりを準備して、雪ノ下は改めて僕に話しかけた。 

 

 

阿良々木「どうした?」 

 

 

雪ノ下「先輩が後輩を助けるのは当たり前だとしても。 助けるための自己犠牲は、当たり前ですか?」 

 

 

 ついさっき、僕は彼女の同じ顔を見た。 

悲しく、何か感情を暗に秘めているようで、上手に隠しているような顔。 

 

 

阿良々木「当たり前ではないな。でも、そうまでして助けたいと思うのなら。 いいんじゃないかな」 

 

 

 前ふり。雪ノ下の言葉通り、僕は雑談のように、日常会話のように返答した。 

昨日のテレビ番組とか、放課後どこへ行くと行った雑談のように応答した。 

 

 

雪ノ下「そうまでして、助けたいのでしょうか。 私には分かりかねますが」 

 

 

 そこで僕は。何が分からないのかは、聞けなかった。 

これ以上は、僕が恩着せがましく有難迷惑に聞き入っていい話じゃない気がした。 

雪ノ下が言うように、これは雑談。それなら、その約束は守るべきだ。 

 

 

阿良々木「さて、じゃあそろそろ捜索を再開しよう」 

 

 

 だから僕は、この話に強制的にオチをつけて。 

切り替えるように、前へ進んだ。 

 

 

04 

 

 突然。僕のポケットが振動する。 

携帯電話の着信を知らせる合図だ。バイブレーション。今だこの感覚は、若干慣れないでいる。 

 

 体を一瞬強張らせて僕はポケットから震える携帯電話を取りだす。 

 

 

『HANEKAWA』 

 

 

 羽川翼からの着信だった。 

いや、特にそういう状況でもないし、僕にこの感情が芽生えるのは違うのかもしれない。 

だが僕は、多少の胸の高鳴りを、今この状況で僕の口角が緩むのを、こう形容するしかない。 

 

 

 羽川から電話が来て、嬉しかった。 

 

 

雪ノ下「取らないでよろしいんですか?」 

 

 

阿良々木「あ?ああ、なんだかすぐ取ったら、まるでサボっていると思われかねないだろ? 敢えてさ」 

 

 

 雪ノ下の怪訝な顔を華麗に見なかったことにして、僕は携帯を耳元に充てる。 

 

 

阿良々木「もしもし、僕だ」 

 

 

羽川「あ、私は羽川翼です。阿良々木暦さんの携帯電話でしょうか」 

 

 

阿良々木「ああ、そうだ」 

 

 

 固定電話じゃないのだから、正直この確認はさほど重要ではないと思うのだが。 

羽川にそれを言うだけ無駄であるし、不要であれば不必要だった。 

 

 

羽川「見つかったの。戦場ヶ原さんが」 

 

 

阿良々木「本当か!?」 

 

 

羽川「うん。待機していたら戻って来たんだよ。集合場所に。 でもね……」 

 

 

阿良々木「いないのか?比企谷は」 

 

 

羽川「うん。そう……。 逸れちゃったんだって、いつの間にか。比企谷君とは」 

 

 

 孤独蜘蛛。存在を孤独にする怪異なのだから。 

戦場ヶ原が比企谷と2人でいるハズがない。2人では、孤独ではない。 

 

 いや、でも僕はどこかで期待していたのかもしれない。 

孤独じゃなくなるからこそ、孤独蜘蛛が居なくなればと。 

ある意味で、戦場ヶ原と一緒に居るという可能性を信じて、どこか楽観的だったのだろう。 

 

 

 でも、これで本当に比企谷は1人だ。 

改めて僕はその事実を噛みしめて、飲み込んだ。 

 

 

阿良々木「分かった。一度僕たちもそこへ戻るよ」 

 

 

羽川「分かった……」 

 

 

 そうして電話が切れた。 

 

 

続く

八幡「やはり、俺にとって。 こんな物語は。こんな青春ラブコメは……」3/4【俺ガイルss/物語シリーズss】 - アニメssリーディングパーク

 

 

 

 

 

【俺ガイル】やはり阿良々木暦のボランティア活動はまちがっている【化物語

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