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フレンダ「私たち、仲間だよね?」 麦野「……」【とsるss/アニメss】

 

 

フレンダ(白い天井に白い壁。それにベッド……)

 

フレンダ(病室?)

 

カエル顔の老人「やあ、目が覚めたかい?」

 

フレンダ「あんたは……?」

 

カエル顔の老人「僕はここの医者さ」

 

カエル顔の医者「頭は正常に働いてるかね? 自分がどうしてこんなところにいるかわかるかい?」

 

フレンダ(……そうだ、私はたしか……)

 

フレンダ(『スクール』の超能力者、垣根帝督に追いつめられて、『アイテム』の情報を渡す代わりに見逃してもらって……)

 

フレンダ(だけどそれが麦野にばれちゃって……結局制裁を受けて体を上下に真っ二つにされた訳よ)

 

カエル顔の医者「君が運ばれてきてから、大体一ヶ月ほど経ったかな?」

 

カエル顔の医者「ほとんど死体の状態の君を見たときは、流石の僕にも蘇生不可能かと思ったけどね。やってできないことはないもんだ。流石は僕と言ったところか」

 

フレンダ「……あんた、ひょっとして『冥土帰し』?」

 

カエル顔の医者「うん、まぁ、そんな風に呼ばれることもあるかな」

 

フレンダ(どんな重傷患者も治す、学園都市きっての凄腕……とは聞いていたけど、体のちぎれた人間まで生かすなんて、噂以上の医者な訳よ)

 

フレンダ「ありがと、先生。あんたは文字通り命の恩人な訳よ」

 

カエル顔の医者「いやいや、礼を言うなら、君に適切な応急処置と延命措置を施して、ここまで運んできてくれた人に言いなよ。彼がいなければ君が助かることは絶対になかったと思うよ」

 

フレンダ「運んできてくれた人? 誰?」

 

カエル顔の医者「さあ? 名前も告げずに帰っちゃったから」

 

カエル顔の医者「外見は……少しガラの悪い少年だったかな。彼氏かい?」

 

フレンダ「か、彼氏なんていないよっ」

 

フレンダ(ガラの悪い……。浜面かな?)

 

フレンダ「それにしても真っ二つから生還なんてね……。未だに信じられない訳よ」

 

フレンダ「命あっての物種だけどさ、痕とかやっぱり残ってるよね……」

 

フレンダ(シーツを剥がして確認、と……)

 

ピチピチ

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……は?」

 

ピチピチ

 

フレンダ「なにこれ」

 

ピチピチ

 

フレンダ「魚のひれ?」

 

ピチピチ

 

フレンダ「……」

 

カエル顔の医者「……」

 

フレンダ「せんせ……」

 

カエル顔の医者「」プイッ

 

フレンダ(顔逸らされた……)

 

フレンダ「先生、これ、どういうことな訳……?」

 

カエル顔の医者「……」

 

カエル顔の医者「この病院とある研究機関で合同研究をしててね?」

 

カエル顔の医者「その研究というのが、遺伝子操作した魚の細胞を増殖し、再生するというもので……」

 

カエル顔の医者「ちょうど、そのサンプルがここにあったという訳だよ」

 

フレンダ「いや、という訳だよって言われても一つも理解できない訳よ」

 

カエル顔の医者「……君の手術は一刻を争うものだった」

 

カエル顔の医者「上半身と下半身、どちらの活動も維持しながらの縫合は不可能だった」

 

カエル顔の医者「僕は患者の命を助けるためなら、どんな手段でもとる」

 

カエル顔の医者「君の上半身と魚の下半身を縫合する……。それしか、手はなかったんだ……」

 

フレンダ「そんな……」

 

ピチピチ

 

フレンダ「……」

 

カエル顔の医者「……」

 

フレンダ「……ま、まぁ人魚になったと思えばそう悪いことでもないかな。あは、あはは……」

 

フレンダ「これ、なんておさかな? かわいいやつだとうれしいけど、この大きさならマグロか何か?」

 

カエル顔の医者「それはサバだ」

 

フレンダ「へー、サバかー」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「サバ!? これサバ!?」

 

カエル顔の医者「ああ」

 

フレンダ「いやいやいやいや。いくらなんでも大きすぎるって訳よ。ニジョウサバっていう大きなサバはいるけど、せいぜい1m。半分にされて50㎝。とても人一人の下半身の代わりには……」

 

カエル顔の医者「遺伝子操作した、と言ったろう? 研究のスポンサーは食品産業だからね。大きくするように言われていたんだ」

 

フレンダ「……サバ……」

 

ピチピチ

 

フレンダ「いや、私はサバは好きだけどさ……。それは食べるのが好きって訳で、決してフォルムに憧れてた訳じゃ……」

 

フレンダ「サバの人魚……。ダメだ。ロマンの欠片もない……」ガクッ

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「くさっ! 生ぐさっ!」

 

フレンダ「サバだってわかった途端、臭いが気になってきた訳よ! すごく生ぐさい!」

 

カエル顔の医者「ははは、サバだからねぇ」スー…

 

フレンダ「ちょっと! さりげなく離れるんじゃないわよ! ずるい! くさい!」

 

カエル顔の医者「ははははは」

 

フレンダ「笑うなぁっ!」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「下半身……私の下半身はどこ?」

 

フレンダ「……もう使い物にならないから、結局、廃棄しちゃったとか……」

 

カエル顔の医者「いや、ちゃんとこの病院にあるよ?」

 

フレンダ「ほ、ほんと!?」パァッ

 

カエル顔の医者「ああ、今呼ぼう」ポチッ

 

フレンダ「呼ぶ?」

 

コンコン

 

カエル顔の医者「どうぞ」

 

ガチャ

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「なにあれ」

 

フレンダ「半魚人?」

 

フレンダ(人間の下半身……。スカート穿いてる女の子の足……)

 

フレンダ(腰から上が魚……)

 

フレンダ(魚部分の真ん中辺り……左右に一本ずつロボットアーム)

 

フレンダ(……ああ、なるほど。あれでノックしたりドア開いたりしてたわけね)

 

フレンダ(ってそんなことどうでもいいわ!)ビシッ

 

フレンダ「……先生。あの足ってやっぱり……」

 

カエル顔の医者「ああ、君の下半身だね」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「私の……自慢の、美脚が……」

 

カエル顔の医者「君にサバの下半身を繋げた訳だが、上半身が余ってもったいなくてね」

 

カエル顔の医者「試しに君の下半身と繋げてみたら、思いのほかジャストフィットで……」

 

フレンダ「試しに、て……。人の体で遊ばないでほしい訳よ……」

 

フレンダ(というか、そんなことできるなら、私をそのまま治すくらい簡単にできるんじゃ……)

 

カエル顔の医者「サバの上半身に人間の下半身。我々はこれを鯖人と名づけた」

 

フレンダ「いや、そんな鳥人みたいに言わなくても……」

 

鯖人「鯖人だぜ。よろしくだぜ」

 

フレンダ「サバが喋った!?」

 

カエル顔の医者「ただくっつけるだけじゃ芸がないからね。地上でも呼吸できる肺と、自在に動くロボットアームと、声帯をつけてみたんだ」

 

フレンダ「そ、それはいいけど、いやよくないけど……今『だぜ』って……」

 

鯖人「俺の口癖がどうかしたぜ?」

 

フレンダ「『俺』……」

 

フレンダ「ね、ねえ先生……」

 

カエル顔の医者「ああ、安心しなさい。口調はこんなだけど、この子は雌だから。君の下半身は正真正銘雌のサバのものだよ」

 

フレンダ「そ、そう……よかったぁ……」ホッ

 

フレンダ(……)

 

フレンダ(……いや、よく考えたら魚って時点でオスとかメスとかどうでもよくね?)

 

鯖人「女の子なのにこんな言葉遣いは、やっぱりまずいぜ?」

 

カエル顔の医者「俺女ってやつだね。詳しくないけど『萌え』の一つじゃないのかい?」

 

フレンダ「……上半身がサバじゃなければ、そうかもね……」

 

ダダダダダ…

 

フレンダ「? 足音?」

 

バタン!

 

絹旗「フレンダ!」

 

滝壺「ふれんだ」

 

浜面「フレンダ!」

 

フレンダ「絹旗に滝壺に浜面……。どしたの?」キョトン

 

絹旗「どしたのじゃありませんよ! なんでそんな超のんきなんですか!」

 

浜面「おまえが生きてるって情報がさっき来てな……。それでみんなで駆けつけた訳だ」

 

滝壺「ふれんだ……。生きててよかったっ」グスッ

 

フレンダ「み、みんな……っ」ジーン

 

浜面「おまえもそんなとこにいないで入ってこいよ」

 

フレンダ「?」

 

麦野「……」

 

フレンダ「麦野……」

 

麦野「ふん。生きててよかったね。悪運だけは強いんだから……」

 

浜面「そうじゃないだろ。ほんと、素直じゃねえなぁ」

 

浜面「フレンダが生きてるって知って一番喜んでたの、おまえじゃねえか」

 

麦野「なっ……!」カァー…

 

フレンダ「麦野が……?」

 

絹旗「会いたいけど合わせる顔がないって、さっきまで超涙目でしたね」ニヤニヤ

 

麦野「き、絹旗! てめえ!」

 

浜面「ほら、麦野」

 

滝壺「むぎの、がんばって。私はむぎのを応援してる」

 

麦野「……」

 

麦野「ごめんね、フレンダ。……ごめんなさい」

 

フレンダ「む、麦野?」

 

麦野「いくらなんでも、あれはやりすぎだった」

 

麦野「しかも、それが『アイテム』を守るためならまだしも、あのときの私は、イライラをあんたにぶつけただけだった」

 

麦野「今は、仲間が大切だけど……そう思うようになったのはあんたを殺してから。遅すぎよね」

 

麦野「だから……っ、あんたが生きてるって言われて、私……私っ」ポロッ

 

麦野「ごめんね、フレンダ。痛かったよね。ごめんね。ごめんねぇ……っ」ポロポロ

 

フレンダ「麦野、もういいよ!」

 

麦野「フレンダ……?」

 

フレンダ「結局、もとはといえば、私が全部いけない訳よっ」

 

フレンダ「保身で情報売ったりしてごめんなさい……っ! 大切な仲間なのにっ、裏切ってごめんなさいっ!」ポロポロ

 

麦野「フレンダ……。うわあああああああああああああああああああん」ヒシッ

 

フレンダ「びええええええええええええええええええええん」ガシッ

 

浜面「へ、へへっ、風邪でもひいたかな? 鼻水が止まらねえや」グスッ

 

絹旗「びょ、病院ですからねっ。仕方ないですねグスッ

 

滝壺「涙も出てるよ。ふふっ、最近の風邪は怖いね」グスッ

 

フレンダ(ああ……人の体温がこんなにあったかかったなんて……)

 

フレンダ(生きててよかった……。仲間がいてよかった)

 

フレンダ(一度死にかけてやっとわかった。ここが私の居場所)

 

フレンダ(そう、仲間のいるところが、私の居場所……!)

 

麦野「……」

 

麦野「ねえ、なんか臭わない?」

 

フレンダ「!」

 

浜面「ああ、言われてみれば……」

 

絹旗「超生ぐさいですね……」

 

滝壺「……ふれんだから?」

 

麦野「!」

 

麦野「い、今気づいた……。フレンダ、その足……」

 

浜面「さ、魚?」

 

絹旗「臭いの元はそれですか……」

 

滝壺「人魚みたい……。でもくさい」

 

麦野「……」ジリッ

 

フレンダ「む、麦野? なんで後ずさって……」

 

浜面「……」ジリッ

 

絹旗「……」ジリッ

 

滝壺「……」ジリジリッ

 

フレンダ「み、みんな……」

 

フレンダ(物理的な距離が心の距離……。と、遠い)

 

浜面「さ、さーて、フレンダの無事も確認できたし、そろそろ帰るか」

 

絹旗「そ、そうですね。病み上がりなのに、いつまでも居座っちゃ超悪いです」

 

滝壺「賛成」

 

フレンダ「みんな……。私たち、仲間だよね?」

 

麦野「……」

 

絹旗「……」

 

滝壺「……」

 

浜面「……」

 

フレンダ「……」

 

麦野「……その足じゃ、『アイテム』への復帰は無理ね」

 

フレンダ「!」

 

絹旗「自力で歩けないんじゃ、暗部の仕事なんてとても……」

 

フレンダ「あ、歩けるよ!」

 

滝壺「ふれんだ……?」

 

フレンダ「私、歩けるから。一人で歩けるから! 見てて……」ググッ

 

フレンダ「あ」グラッ

 

ドテッ

 

フレンダ「……」

 

麦野「……」

 

絹旗「……」

 

滝壺「……」

 

浜面「……」

 

フレンダ(あ、歩けない……)

 

フレンダ(いや、それはまだいい)

 

フレンダ(床に転がり落ちたのに、誰一人手を貸してくれない……)

 

麦野「……フレンダには回復し次第、復帰してもらうつもりだったけど……どうしたものかな」

 

鯖人「だったら、俺を使うといいぜ!」

 

浜面「うわ!? なんだこのクリーチャー!」ビクッ

 

鯖人「俺は鯖人だぜ。よろしくだぜ」スッ

 

浜面「あ、浜面仕上です。こちらこそ」ガシッ

 

鯖人「俺の下半身はフレンダの下半身だぜ。ちなみに俺のロボットアームは、人間の手よりも精密な作業が可能だぜ」

 

鯖人「その精密さたるや、星の白金に勝るとも劣らないらしいぜ」

 

鯖人「フレンダの穴は……俺が埋めるぜ!」

 

麦野「ふーん、ほんと? それは役に立つかもしれないね」

 

麦野「いいよ。えーと、鯖人?」

 

鯖人「だぜ」

 

麦野「あんたをしばらく使ってあげる。正規に雇うかどうかは、働き次第で決めるから」

 

鯖人「精一杯がんばりますだぜ。みなさん、若輩ですが、よろしくおねがいしますだぜ」

 

絹旗「『アイテム』は半端じゃないですよ。超覚悟してください」

 

滝壺「よろしく、さばじん。私はさばじんを応援してる」

 

浜面「俺も正規メンバーになって日が浅いし、新参同士がんばろうな」

 

フレンダ「あ、あのー……」

 

麦野「じゃあ私たちは帰るね」

 

絹旗「超おだいじに」

 

滝壺「私はいつも陰からふれんだを応援してる」

 

浜面「こっちのことは心配するな」

 

鯖人「だぜ」

 

ガチャ バタン

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……ふ」

 

フレンダ「ふ、ふふふ、あはははは……」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「結局、居場所、なくなっちゃった……」

 

カエル顔の医者「……何か僕にできることはあるかい? こうなったのは僕の責任でもあるからね。できるかぎりのことはしてあげるよ?」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……海」

 

フレンダ「海へ、行きたい」

 

 

園都市外 とある砂浜

 

ザザーン ザザーン…

 

フレンダ「海なんて……ううん、学園都市の外自体久々……」

 

カエル顔の医者「ここでいいのかい?」

 

フレンダ「うん、運んでくれてありがとう」

 

ザザーン

 

フレンダ(人の住むところに居場所がないなら、海に帰ろう。私の半身は魚なのだから)

 

フレンダ(母なる海は、こんな私でもきっと受け入れてくれるはず……)

 

フレンダ(おさかなさんたち、どうか仲良くしてね)チャプ

 

ザパーン

 

ブクブク…

 

フレンダ(……)

 

フレンダ(……)

 

フレンダ(……!?)

 

フレンダ「がぼぉっ!?」ザパッ

 

フレンダ「息がっ、息ができなっ!? がぼっ」

 

カエル顔の医者「そりゃあそうだろう。えらなんてついてないもの。水中で呼吸はできないよ」

 

フレンダ「そういうことはっ、先にっ。がぼっ」

 

ザパーン

 

ブクブク…

 

フレンダ(水が冷たい……。そうよね。今秋だもんね)

 

フレンダ(足の動かし方もよくわからない……。子どもにいきなり自転車に乗らせるようなもんか……。泳ぐのにも練習が必要なんだ……)

 

フレンダ(体がどんどん沈んでく……。私、ここで死んじゃうのかぁ)

 

フレンダ(おとぎ話なら、ここで王子さまが助けに来てくれたり……なんてね)クスッ

 

ガシッ

 

フレンダ(!? 誰かの手……?)

 

ザパッ

 

フレンダ「げほっ! ……けほっ」

 

フレンダ(……誰? 誰が引き上げてくれたの……?)

 

フレンダ(まさか、本当に王子……?)

 

ツンツン頭の少年「バカ野郎っ!」バキッ

 

フレンダ「ぶへぇっ!?」

 

フレンダ「なに? なになに!?」

 

ツンツン頭の少年「命をっ」バキッ

 

フレンダ「ぐはっ」

 

ツンツン頭の少年「粗末にっ」バキッ

 

フレンダ「ごふっ」

 

ツンツン頭の少年「しやがってっ!」バキッ

 

フレンダ「ぎにゃっ」

 

ツンツン頭の少年「はぁ……はぁ……」

 

フレンダ「」ピクピク

 

ツンツン頭の少年「おまえにだって家族や友だち、愛する人がいるんだろ!?もしその人たちが死んだら悲しいだろ? 苦しいだろ! だったら、逆も同じだろうが!

おまえが死んだらその人たちがどれだけ悲しむのかわからないのかよ!おまえが今受けている痛みは、その人たちの心の痛みだと思え!……いいぜ、それでもまだ自殺がしたいっていうんなら!」

 

 

フレンダ「おねが……顔は……やめ……」

 

ツンツン頭の少年「まずはその! ふざけた自殺願望をぶち殺す!」バキッ

 

フレンダ「ぎゃぼんっ」

 

白い修道服の少女「とうまー、おなかすいたんだよ! 早く帰ろー」

 

ツンツン頭の少年「インデックス」パッ

 

ベチャ

 

フレンダ「」ピクピク

 

白い修道服の少女「うわー、おっきなおさかな! ねえとうま、食べていい?」ジュルリ

 

ツンツン頭の少年「やめとけ。魚には寄生虫がつきものだ。素人が生で喰うのは危ないぞ」

 

白い修道服の少女「うーん、そうかもね。それになんだか生ぐさいんだよ。食欲無くなったかも」

 

ツンツン頭の少年「うわほんとだくせえ。さっさと帰るか」

 

白い修道服の少女「おなかすいたー」

 

ツンツン頭の少年「今日はたくさん食べさせてやる。上条さんは今ごきげんですから」

 

白い修道服の少女「ほんと!?」

 

ツンツン頭の少年「ああ。さっき、自殺しようとしてた女の子を止めてあげたんだ」

 

ツンツン頭の少年「いやー、いいことした後って気分がいいな!」

 

白い修道服の少女「十字教では自殺は大罪だからね。褒めてあげるんだよ、とうま!」

 

ツンツン頭の少年「HAHAHAHAHAHAHAHA!」

 

ザザーン ザザーン…

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……ぅ」

 

フレンダ「うわあああああああああん! ああああああああああああああああああああん」

 

フレンダ「むぎのおおおおおおおおお」

 

フレンダ「きぬはだあああああああああっ。たぎつぼおおおおおおおおお。はまづらあああああああああ」

 

フレンダ「寒いよぉ……。おなかすいたよぉ……! さみじいよおおおおおおおおお」

 

フレンダ「うわあああああああああん」

 

フレンダ「うわあああああああああ……」

 

 

「こんなとこでなにやってんだ?」

 

フレンダ「? ひぐっ」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……あんた、『スクール』の……」

 

垣根「よぉ」

 

カエル顔の医者「あれ? 君はたしか……」

 

垣根「……」

 

カエル顔の医者「この少年だよ」

 

フレンダ「え……?」

 

カエル顔の医者「君を病院まで運んでくれたのは、彼だ。やっぱり知り合いだったんだね」

 

垣根「……事情はよくわからねえが……こいつは俺が見とくから、あんた、帰っていいぜ」

 

カエル顔の医者「そうかい? じゃあそうさせてもらおうかな」

 

フレンダ「……」

 

垣根「久しぶりだな。ピンセットのあれこれが十月の半ばだから……1ヶ月ぶりか?」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「っくしゅん」

 

垣根「っと悪いな。水に濡れてんのか」バサッ

 

フレンダ「!?」

 

フレンダ(翼……?)

 

ジュウウウウ… ボッ

 

フレンダ(翼から光が出て……流木に火が……)

 

垣根「ほら、あたっとけ」

 

パチパチ

 

フレンダ(あったかい……)

 

垣根「で? なんで魚の足なんか生やして、こんなとこにいんの?」

 

フレンダ「あ、あんたこそ、なんで海になんている訳よ」

 

垣根「釣りが趣味なんだよ。その帰りだ」

 

フレンダ「そ、そう。アウトドアな趣味持ってんのね。意外だわ」

 

垣根「心配するな。自覚はある」

 

垣根「で、おまえは……」

 

フレンダ「……」

 

垣根「……言いたくないんなら、別にいいけどよ」

 

フレンダ「……あんたさ」

 

垣根「あ?」

 

フレンダ「結局、なんで私を病院まで運んでくれた訳? 治療までしてくれちゃってさ……」

 

垣根「……たまたまおまえの下半身見つけてな。んでそう遠くないところで上も見つけた訳だ」

 

垣根「もう死んでるようにしか見えなかったが、未元物質で傷を塞いで、血の代わりになるもんも作って……」

 

垣根「近くで麦野が暴れてたらしいが、おまえを病院まで運んでたから、それを知ったのは後になってからだな」

 

フレンダ「いや、そうじゃなくて、理由を聞いてる訳よ」

 

垣根「……別に。ウチと取引した後であんなことになってるのが、寝覚めが悪かっただけだ。まぁ、ドジったのはおまえの自業自得だけどな」

 

垣根「それに、俺が何しようが、おまえはまず助からねえと思ってたぜ?だったら、助かるかどうか試してみるのも、余興としては悪くねえ。あれくらい、俺の能力なら手間じゃねえしな」

 

垣根「……結果は見ての通りだ。助かったのは馬鹿げた腕を持つ医者がいたのと、おまえの悪運が強かったからだ。礼を言うにしろ、恨むにしろ、その二つだけにしときな。俺は関係ねえ」

 

フレンダ「……あ、ありが」

 

垣根「あぁ!? テメェ話聞いてたのか? まさか、悪党の俺が人助けしたなんてメルヘンなこと考えてんじゃねえよな?あまり舐めてると殺すぞ」

 

フレンダ「ご、ごめん」

 

垣根「チッ」

 

フレンダ「……」

 

垣根「……服、乾いたみてえだな」

 

フレンダ「うん……」

 

垣根「じゃ、帰るか。あの医者は帰しちまったし、学園都市のおまえの寮まで運んでやるよ」ガシッ

 

フレンダ「わ!? ちょ、ちょっと……」

 

垣根「なんだよ。おまえ歩けねえんだから、こうやって持っていくしかねえだろ」

 

フレンダ「い、いや、持たれるのはいいんだけどさ……」

 

フレンダ(これって、所謂『お姫さまだっこ』ってやつじゃ……)

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「その、くさくないの? 私、かなり生ぐさいと思うんだけど……」

 

垣根「釣りが趣味だって言ったろ。これくらい慣れてるよ。我慢できねえほどなら、未元物質で鼻にフィルターかけりゃいいだけだしな」

 

 

園都市 とある女子寮

 

垣根「ここがおまえの部屋で間違いねえな?」

 

フレンダ「うん……」

 

垣根「じゃあな」

 

フレンダ「え!? あ……」

 

垣根「あ?」

 

フレンダ「いや、その……」

 

垣根「なんだよ?」

 

フレンダ「……」

 

垣根「……」ポリポリ

 

 

 

 

 

垣根「……おまえさ、行くとこねえなら、俺んとこ来るか?」

 

フレンダ「え?」

 

フレンダ「あ、あんた何言って……」

 

垣根「広い部屋借りてるからな。人が一人二人増えたところでどうってことねえよ」

 

フレンダ「そ、そういう問題じゃないでしょ。女に向かってなんてこと言うのよ」

 

フレンダ「!」

 

フレンダ「ま、まさかあんた、私を襲おうとか考えてる訳じゃ……!」

 

垣根「……」

 

垣根「あのな、今の自分の姿をよく確認してみろよ?」

 

フレンダ「?」

 

垣根「下半身は魚。しかも青いサバ。こんなもんに欲情する変態は、俺の知り合いにはいねえな。そもそも襲いようがねえし」

 

フレンダ「うぐっ」ザクッ

 

垣根「上半身はまな板。さっきの水に濡れた状態でも、色気なんて欠片もなかったぞ。こんなもんに欲情する変態も俺の知り合いには……。待てよ、一人くらいはいたかもしれねえ」

 

フレンダ「うぐぐっ」ザクッ ザクッ

 

 

一方通行「ぶえっくし」

 

打ち止め「風邪? ってミサカはミサカは心配してみたり」

 

一方通行「いや、平気だ。……チッ。誰かが噂してやがンな」ズズッ

 

 

垣根「わかったか? 自分に襲われる価値があるかどうか」

 

フレンダ「うぅ……っ」ズーン

 

垣根「で、どうすんだ。ついてくるのか? こねえのか?」

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「いく」ボソッ

 

垣根「おし」

 

垣根「……と、帰る前に寄るとこできたわ」

 

フレンダ「?」

 

 

第一七学区 とある工場

 

男「よし、第三工程終了。休憩に入っていいぞー!」

 

男「ん? あれは……」

 

バッサバッサ…

 

垣根「邪魔するぜ」スタッ

 

男「垣根くん! 垣根くんじゃないか!」

 

男「いやー、久しぶり。ちょっと待っててね。今お茶を……」

 

垣根「ああ、いいんだ。ツレを待たせてるから」

 

男「そうなのかい? 残念だな」

 

垣根「工場長。今日は一つ頼みがあってきたんだ」

 

工場長「頼み?」

 

垣根「最近、この工場で障害者用の製品手がけてたろ? いいかんじの車いすがあったら、一基買わせてほしいんだよ」

 

工場長「ああ、いいよいいよ、お金なんて。無償で提供させてくれ。うちの工場は、垣根くんには何度も世話になってるしね」

 

工場長「おっと、お金の心配なんて、超能力者の君には失礼だったかな」

 

垣根「いや、気にしねえでくれ。そういうことなら厚意に甘えさせてもらうぜ」

 

工場長「えーと、最新のはこれとこれと……」

 

垣根「お、これ良さそうだな。持っていっていいか?」

 

工場長「ああ、もちろんさ」

 

垣根「悪いな。何かあったら呼んでくれよ? 助けに行くからよ」

 

工場長「君の方も、こんなことでよければいつでも頼ってくれよ。君ならいつ来ても歓迎だからね」

 

垣根「ああ」

 

バッサバッサ…

 

垣根「待たせたな」

 

フレンダ「何それ……車いす?」

 

垣根「自動で動く新製品だとよ。その場で方向転換や高さの調節、階段の上り下りもできるらしいぜ」

 

フレンダ「あ、ありがとう」

 

垣根「ばーか。テメェを持ち運ぶのに疲れただけだ」

 

フレンダ「……」ストン

 

 

第一八学区 とある寮 垣根帝督の部屋

 

 

 

ガチャ

 

フレンダ「お、おじゃまします」

 

フレンダ(うわぁ……。広い……)

 

フレンダ(これが能力格差ってやつな訳ね)

 

垣根「ま、適当にくつろいでろよ」

 

フレンダ「あ、あの……」

 

垣根「あ?」

 

フレンダ「シャワー、浴びてもいい?」

 

垣根「ああ、そういえば海水で濡れてたんだったな」

 

垣根「あれがバスルームだ。女物のシャンプーやリンスなんざ置いてねえが、我慢しろよ」

 

フレンダ「うん、ありがと」ウイーン

 

シャワー…

 

フレンダ(うう……髪がベトベト……)

 

フレンダ(……)

 

フレンダ(今日一日で色々あったな……)

 

フレンダ(九死に一生を得たと思ったら、足がこんなになってて……。溺れ死にそうになって……)

 

フレンダ(結局、一度は命のやり取りをした相手に助けられて……無防備にシャワーまで借りちゃって。変なの)

 

フレンダ「……」クンクン

 

フレンダ「うん。洗ったら臭いがいくらか落ちた訳よ」

 

フレンダ「そろそろ出」ツルッ

 

ガシャン ガシャン ドガシャァン!

 

フレンダ「いたた……」

 

ダダダダダ… バタン!

 

垣根「なんだ!? どうし……」

 

フレンダ「へ?」

 

垣根「た……」

 

フレンダ「……」

 

垣根「……」

 

フレンダ「きゃ、きゃー! きゃー!」ポイッ ポイッ

 

垣根「いてっ! いてえ! 物を投げんな!」

 

フレンダ「きゃーきゃーきゃーきゃー!」ポイポイポイポイ

 

垣根「み、見てねえ! 俺は何も見てねえよ!」

 

垣根「水に濡れた金髪も、それがかかってる白い肩も鎖骨も胸も見てねえ! へそも見てねえ!」ダダッ

 

フレンダ「実況すんな! 結局全部見てる訳よー!」

 

バタン

 

フレンダ「ふー……ふー……」

 

「……」ピッ

 

電話『はい、こちら学園都市リフォームです』

 

垣根「バリアフリーっていうのお願いしたいんだわ。手すりとかそういうの。住所は――」

 

 

 

 

 

電話『それでは、明日伺わせていただきます。お電話ありがとうございました』

 

垣根「ああ、頼む」ピッ

 

フレンダ「……」ウイーン

 

垣根「……」

 

フレンダ「……」

 

垣根「……そう、気を落とすなよ。見られて困るほど大したもんじゃ」

 

フレンダ「……!」キッ

 

垣根「」ビクッ

 

フレンダ「……シャワー、ありがと」

 

垣根「お、おお」ドキドキ

 

フレンダ「……」

 

垣根「……」

 

フレンダ「」グゥー

 

フレンダ「……」

 

垣根「……」

 

垣根「腹、減ったな。飯にするか」

 

フレンダ「う、うん」

 

垣根「出前何とるか……。おまえ、何が喰いたい?」

 

フレンダ「……サバ、食べたい」

 

垣根「……いや、そりゃ共食いなんじゃねえか?」

 

フレンダ「あ」

 

垣根「そもそも消化器系とかどうなってんだ? 喰っちゃいけねえもんとかあるんじゃねえか」

 

垣根「サバの餌は……」ポチポチ

 

垣根「……プランクトンだとよ。おまえ食べたこと……あるわけねえよな」ハァ

 

フレンダ「……」グゥー

 

垣根「……とりあえず、消化に悪そうなものは避けて、適当に食べるか」

 

フレンダ「うん……」

 

垣根「飯も食ったし、そろそろ寝るぞ」

 

垣根「あっちが寝室だ」

 

フレンダ「さ、さすがにそこまでしてもらわなくても……。適当なところで寝るわよ」

 

垣根「アホか。風邪でもひかれる方が迷惑だっての。嫌がるなら無理やり押してくぞ」

 

フレンダ「……」

 

垣根「一人でベッドに乗れるか?」

 

フレンダ「うん……大丈夫」

 

垣根「じゃ、もう寝な」スタスタ

 

フレンダ「ちょ、ちょっと待って!」

 

垣根「あん?」

 

フレンダ「……結局、なんでこんなによくしてくれる訳?」

 

垣根「あ? 気まぐれだよ。それ以外の何があるってんだ」

 

フレンダ「気まぐれにしたってやりすぎな訳よ。この前まで敵だったのに……」

 

垣根「なんだぁ? 外に放り出されるのがお望みってか?」

 

フレンダ「違うよ! ……違うけど、不安な訳よ」

 

フレンダ「色々あって、考えが追いつかなくて……」

 

垣根「……」

 

フレンダ「……」

 

垣根「……」

 

垣根「……人魚姫って読んだことあるか?」

 

フレンダ「え?」

 

垣根「人魚姫。アンデルセンだ」

 

フレンダ「……王子に恋した人魚が、声と引き換えに足を生やすけど、結局泡になっちゃうってあれのこと?」

 

垣根「おう、それだ」

 

垣根「ガキの頃、俺は何度もそれを読んだんだけどよ……」

 

垣根「何度読んでも納得いかなくてムカついたぜ。何も悪くねえ人魚姫が、なんで幸せになれねえのかってな」

 

フレンダ「……」

 

垣根「王子の馬鹿野郎は、命の恩人の人魚姫に振り向かないで、別の女のケツ追っかけてるしよ」

 

垣根「もし俺が王子だったら絶対に間違えねえのに。人魚姫を絶対に悲しませねえのに……」

 

垣根「今はそんなくせえこと、間違っても思わねえけどよ。……ガキの頃はそう思ってた」

 

フレンダ「……」

 

垣根「魚の足生やして海で泣いてるおまえを見たとき、そんな昔のことを思い出しちまってな。それで……」

 

フレンダ「ぷ」

 

垣根「?」

 

フレンダ「ぷ、くくく、あは、あはははは」

 

垣根「……おい」

 

フレンダ「ご、ごめん。でも、これはさすがに、くくっ」プルプル

 

垣根「チッ。だから話したくなかったんだ」

 

フレンダ「メルヘンな少年時代……。に、似合わねー、あはは」

 

垣根「心配するな。自覚はある」

 

垣根「釣りを始めたのも、人魚に会えるかもしれねえって理由からだしな」

 

フレンダ(それはさすがにちょっと引くわ)

 

垣根「今は違うぜ? 魚とのファイトを純粋に楽しんでる」

 

フレンダ「そ、そうですか」

 

垣根「望みどおり話してやったぞ。もういいだろ。俺は寝る。おまえも寝ろ」

 

フレンダ「うん」

 

垣根「」スタスタ

 

フレンダ「……」

 

垣根「」スタスタ

 

フレンダ「……か……」

 

垣根「」スタスタ

 

フレンダ「か、垣根っ」

 

垣根「」ピタッ

 

垣根「……なんだよ、フレンダ」

 

フレンダ「!」

 

フレンダ「お……おやすみ」

 

垣根「……」

 

垣根「はっ。似合わねー」

 

フレンダ「じ、自覚はある訳よ」

 

垣根「……」

 

垣根「……おやすみ」

 

バタン

 

フレンダ(……)

 

フレンダ(王子、か)

 

フレンダ「……っ」プルプル

 

フレンダ(やばい。ツボに入った……っ。垣根王子……! メルヘン王子……!

      ホストみたいな恰好で王子……っ。絶妙……!)プルプル

 

フレンダ「……」

 

フレンダ「……ふぅ」

 

フレンダ(……)

 

フレンダ(私がこうなったのは、結局、自業自得な訳よ。人魚姫みたいに『何も悪くないのに』って訳じゃない)

 

フレンダ(そもそも姫なんてガラじゃないしー……)

 

フレンダ(……それでも、そんなことわかってても、私を助けてくれたんだよね)

 

フレンダ(ありがと、王子さま)

 

フレンダ(……)

 

フレンダ「……っ」プルプル

 

フレンダ(眠い……。色々あって疲れたからなぁ)

 

フレンダ(これって本当に現実なのかな……。結局、全部夢だったりして)

 

フレンダ(……うん。そっちの方がありえる訳よ。サバの足とか現実味がないもの)

 

フレンダ(朝になったら足が生えてるとか……)

 

フレンダ(そうだったらいいのにな)

 

フレンダ(……)

 

フレンダ(でも)

 

フレンダ(たとえ全部夢だったとしても、目が覚めたとき……)

 

フレンダ(……垣根の部屋だってことだけは、変わらないでほしいかも)

 

フレンダ(……なーんてね……)

 

 

 

 

 

 

 

フレンダ「あれ……? 私は死んだはずじゃ……」

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