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いろは「よろしくお願いします」 八幡「……こちらこそな」1/2【俺ガイルss/アニメss】

 

冬休みが明けてもう数日がたつ。

 今思い返すと冬休み前、要するに昨年は本当に色々あった。

 俺の人生においてあそこまで色々あった年は過去にも、そして今後の未来においてもないんじゃないか…そう思える程色々あった。

 

 

…………自分で言ってて辛くなるぜ。

 

だが俺はぼっちだ。

リア充様方の様にイベント毎に友達ができて、遊んで、笑って、泣いて、みたいな青春は起こりえない。

 

だがそれで良い。

 俺には孤どk…いや、孤高が丁度良い。

 

そんなしょっちゅう何かのフラグが建ってたら疲れるし面倒だ。

 

 

 

つまるところ、俺は辛いことも面倒事も嫌いだ。平穏が一番良いと心からそう思う。将来は専業主婦になって穏やかな家庭を築きたいと思う。

 

 

 

だが………!

 

 

 近頃俺の平穏は壊されつつある。

せっかく生徒会選挙からクリスマスイベントを経て奉仕部にも穏やかな日々が流れていたのに!

 

あいつの…。そう!あのゆるふわビッチこと、一色いろはによって…。

 

 

 

 現に今も奉仕部へと繋がる廊下の数メートル先で

 

 いろは「せんぱーいっ!」

 

とあざとく手を振っている。

 

 

いや、きっと俺のことではない。先輩は学校に沢山いる。

 

そこで俺は見なかった事にしてあいつ

 の横を素通りしようとした。

 

 

 

一色の横を通り過ぎて3歩ほど歩いたときだった。

 

ぐいっ!!

 

 八幡「おえっ?!」

 思いっきり後ろから制服の襟を掴まれて尻もちをついた。目の前に笑顔で仁王立ちしている一色いろは。おい、パンツ見えそうで見えねぇとか生殺しかよ!

 

 

とりあえず首がしまったせでかなり咳き込んでいる俺に一色が話しかけてくる。

 

 

いろは「せーんぱい、何で無視するんですかー?」

 

 

どうやらあの先輩コールは俺宛てだったようだ。

 

 八幡「げほっ、げほっ。いや悪い、俺じゃないかと思ってたわ」

 

いろは「わ、わたしが先輩って呼ぶのは先輩だけですよー。だいたい普通顔見知りが目の前に居たら一声かけてから通り抜けるのがマナだと思いますけどー。」

 

 

ぷくーっと頬を膨らませる一色。…うーん、やはりあざとい。だがそれに関しては最もだな。

 

 八幡「確かにそうだな、それに関しては悪かった」

 

いろは「せ、先輩が素直に謝るなんて!で、でも私は傷付きました、す・ご・く!傷付きましたー」

 

 

なんか行動も言葉も全てあざとい。どこでそんなにあざとさ学んでんだよ…。

 

 

 

それはさておき、この流れはまずい。近頃の経験からこの流れが不味いことを俺は知っている。

 

 八幡「おいいっしkーーーー」

 

いろは「なので今日の部活終わり、お買い物付き合って下さいね」

 

 八幡「」

 

 

やっぱり…。俺の悪い予想はかなり当たる。もしろ良い予想は一度も当たったことはない。何それ悲しい…

 

 

いろは「まぁ実際はこんなことがなくても誘うつもりで来たんですけどー。まっ、これでもう逃げれませんよね?」

 

きゃぴるんっといった調子、ではまた後で、と付け加えると一色は行ってしまった。

 

 

 

はぁ、面倒くせぇ…

 

 

 …………とりあえず奉仕部行くか…

 

 

 

ガラガラと音をたてて開いた戸の向こうにはすでに奉仕部の2人が来てそれぞれ読書とケータイいじいじに集中していた。

 

 俺が来たのに気付いた2人が顔を上げ、視線が俺に集まる。

 

 八幡「……うす」

 

 雪乃「こんにちは、遅企谷くん。」

 

 結衣「やっはろー。ていうかヒッキー遅いよ!何してたの!」

 

 

いやいや、別に遅かろうが早かろうが大して問題なかろう、人滅多に来ないんだし…

 

八幡「いや、まぁ、ほら、アレだよアレ。」

 

 

なぜか言葉が出てこない。いや、その理由はわかっているのだが…

 

結衣「アレじゃ分かんないよ!」

 

 八幡「いや、だからアレで〜、その〜……」

 

 

 俺が言い淀んでいると由比ヶ浜がはっとした様な顔をする。

 

 結衣「……いろはちゃんでしょ」

 

その単語が出てくるとまた読書に戻っていた雪ノ下がピクッと反応して顔を上げる。

 

 八幡「…………はい。」

 

 

 結衣「またー・冬休み終わってから何度目・ていうか毎日じゃない・」

 

 八幡「…………はい。」

 

 雪乃「比企谷くん、そろそろどういったことか説明して貰えるかしら?」

 

 

 雪ノ下は本を閉じ少し眉間にしわを寄せている。由比ヶ浜はんんー?と机に前のめりになる。……由比ヶ浜さん、双丘が!そしてチラリと見える鎖骨がぁっ!!

 

つかなんで俺は浮気した夫みたいな状態になってんだよ…

 

 

 

冬休み明けてから本当に一色は毎日の様に放課後、俺の元に来ては今日のように帰りの買い物に付き合わせる。

 

そのことについてこの2人はどうやらあまり良く思っていないようなのだ。なので言葉にも詰まってしまう。まぁ実際俺も面倒なので付き合いたくはない。

 

 

 八幡「い、いやむしろ俺が聞きたいくらいだぞ。俺だってこういうの面倒だし、か、買い物付き合ったら荷物持ちで疲れるだけだし…」

 

 

だからなんで俺は浮気した(ry。

 

 雪乃「…そう。つまりあなたは付き合いたくもない買い物に無理矢理連れ回されて迷惑していると、そういうことなのね?」

 

 八幡「い、いや、迷惑ってわけでは……」

 

なんで若干怒ってるんだよ…?

どうやら俺の返答が更にイラッときたらしく、

 

 雪乃「どっちなの?はっきりしてくれるかしら?」

 

 

なんか絶対零度みたいな冷やっとした目で睨まれる。俺はそんな目で見られてビクンビクンってしちゃう変態じゃないわけだが…

 

 

八幡「や、やっぱり迷惑な方だな…?」

 

この返答にはご満悦のようでふふんと鼻を鳴らして口元に笑みを浮かべた。

 

 

 雪乃「そう?では今度一色さんと会った時、比企谷くんがそう思っている、としっかり懇切丁寧に彼女に伝えておくわね?」

 

こ、怖い!なんなのこの娘っ?!

さすがにそれは一色に悪いので俺も反論する。

 

 

 八幡「なにも別にそこまでしたくても良いだろ!俺も一色には迷惑をだな…」

 

 

 雪乃「何を言っているの比企谷くん?あなたはここの部員なのよ?部員が困っていたら助力するのが部長の務めよ」

 

 八幡「それはーーー」

 

 雪乃「それに、これはあなたの為でもあり一色さんの為でもあるのよ?」

 

 

 

八幡「一色の?」

 

 

 雪乃「ええ、だって彼女は他ならぬあなたとお買い物に行っているのよね?」

 

 

 八幡「あ、あぁ。それがどうしたってーー」

 

 雪乃「分からないの?なら教えてあげましょう。一色さんに限らず、女性があなたのような目の腐った男と二人で歩いていたら周りの人間はその女性があなたに脅されていると思うはずよ?ましてや、それがここの生徒だったら?それ以上の事はあなたでも分かると思うわおどし企谷くん。」

 

 

 

ひ、ひどすぎるっ!!!クリスマスイベントでできたと思っていた確かな繋がりはどこへ?!

 

 

 結衣「ーーーーーねぇ」

 

 

ここまで空気化していたガハマさんが口を開いた。居たんですか?嘘です気付いてました。ただ俺が雪ノ下と喋ってる最中も前のめりのまま俺の顔をじーーーっと見ていたのでそっちを向けませんでした、はい。

 

 

 由比ヶ浜は一旦間を置き、すっと息を吸い込んだ。そしてかなり真剣な眼差しを向けてくる。

 

 

 

 結衣「…ヒッキーは、その、いろはちゃんの事が、す、すす、好き、、なの……?」

 

 

八幡「…」

 

 

そんな伏し目がちに頬を紅く染めながら噛むなよ…。何か変に意識しちゃうだろうが。

 

 

 俺はその問いに対して即答はできなかった。由比ヶ浜はより一層前のめりになる。……近くないですかねぇ?なんでこいつを含むリア充どもはこう人との距離が近いんでしょうか…あっ、俺が離れ過ぎてるだけか。もはや離れ過ぎて認知されないまである。………悲しい。

 

 

 八幡「ちょっ、お前近いから…」

 

 

 結衣「…へっ?あ!はわわ、ごめん!」

 

 

 

とっさに体勢を戻してすっと彼女は目を逸らした。頬は紅く染まっており、眉を寄せて不満顔をしていらっしゃる。

 

 

 結衣「…そ、それで!どうなの?いろはちゃんのこと…」

 

 

だんだんと声はか弱くなっている。

 

 俺はその問いに関して少し考える。すると雪ノ下までもが口を開く。

 

 雪乃「そうね、そこには私にも興味があるわ。今後の参考にさせてもらうわ。」

 

 

 

………何の参考にするんですかねぇ?今後の俺の罵倒にでも使うつもりか?おいやめろよな。恋愛事をネタにしたからかいや罵倒はマジでトラウマになるから。

 

 

 八幡「……別に好きとかじゃねぇよ…。まぁでも確かに一人の後輩としては好き、かもしれないが、お前らの言う様な恋愛みたいな好きとは違う。」

 

 

なんだか二人ともほっしていらっしゃる。そんなに俺に好かれた時の一色がかわいそうなんですか?俺は誰も好きになっちゃいけないんでしょうかね…

 

それに、と俺は続ける。

 

 八幡「第一、このずっと話し掛けられてるのも、買い物に付き合わされるのも俺からじゃねーだろ。つまり、その問いは俺じゃなくて一色に対してするべきものだろ?」

 

 

すると二人とも顔を見合わせ確かに、と頷いている。

 

 

 

最近の、いやわゆるクリスマスイベント以降の奉仕部はこんな感じだ。こんな、他愛の話をして、雪ノ下のいれる紅茶を3人ですすり、由比ヶ浜の持ってきたお菓子を食べて…俺が失いたくなかったものは、きっと守れている。友達なんて曖昧な関係じゃなくて、もっと強くて、ずっと優しい、そんな本物。

 

 

 

こんならしくない思考をしていると、不意に教室のドアが勢いよく開けられた。3人の目線がそちらに動く。

 

そこにいたのはなんと、いや、やはり一色いろはだった。なぜか息を切らしている。

 

 

 

いろは「はぁ…はぁ、、先輩、迎えに、来ました、よぉ」

 

 

 

 

かなり息が切れている。…全力で走ってきたようだ。顔はにこりとしているが何かこっちが心配になってくる。

 

 

 結衣「い、いろはちゃん、そんな息切らしてなどうしたの?」

 

 

 

 

 由比ヶ浜がオドオドしながら聞くと一色は頬を少し朱に染めさっきよりもにこーっとした笑顔をして口を開いた。

 

 

いろは「はぁ、はぁ、そんなの、先輩に1分でも1秒でも、早く、逢いたかったからに、決まってるじゃないですかっ」

 

 

 

 

 結衣「」

 

 雪乃「」

 

 八幡「」

 

 

 

 

 世界が、止まった気がした。

 

 

 

 

いつもならここで一色の発言に対してサラッと流したりツッコミを入れたりするんだが、今の俺は何も言えなかった。本当に俺の時間が止まってしまったのだろうか。そんなはずはない。ただ、本当に何も応えられなかったのだ。なぜならーーー

 

 

 

雪乃「あ、あの一色さん……?」

 

 

 結衣「それってつまりーーーー」

 

 

いろは「ーーーーえっ?!ち、違いますよー!嘘に決まってるじゃないですかー!」

 

 

 結衣「だ、たよねー。そんなわけない、よ………ね?」

 

 

いろは「は、はははいっ!ちょっ、先輩も何で黙ってるんですかー!!あー、もしかして勘違いしちゃいました?普通に考えて私が先輩を、だなんてありえませんし、私は葉山先輩一筋ですから先輩とかまだちょっと無理ですごめんなさい。」

 

 

 

 

 一色がいつものように早口でまくしたてる。そこで俺も我に返っていつもの如く一色に言う。

 

 

 八幡「だから俺はお前に何回フラれれば済むんだよ。そもそも俺は過去のトラウマから勘違いなんて起こさない様に訓練されてんだよ。そこらの弱小ぼっちと一緒にすんな。俺はぼっちのエキスパートだぞ。」

 

 

 

 雪乃「そんなことを自慢気に言えるのがあなたの唯一すごいところよね。」

 

 

 

 雪ノ下がこめかみに手を当ててため息混じりに言う。お前ホントそれ好きだな。似合ってるけど。

 

 

 

 八幡「つか黙ってたのも他の考え事してたからだしな。」

 

 

 

いろは「ちょっ、酷くないですか?!可愛い後輩が来てあんな事言ってくれてるのに他の考え事とか!」

 

 

 八幡「へーへー、悪かったよ。つかお前そんな早口でよく噛まないよな、いつも関心するわ。」

 

 

そんな会話をしていると最終下校のチャイムが校内中に鳴り響く。それを機に俺たちも帰り支度をして、校門へ向かう。

 

 

 

 

その後の一色の買い物はまた何やら生徒会の備品の買い溜めやグッズなどを見て回り、必要そうな物を買っては俺に持たせ、という感じだった。

 

 

 一色に話を振られればきちんと応えてはいたし、必要そうな物を見つければこれとかどうだ?と普通に話をしていた。

 

 

 

だが俺の心はここに在らずって感じだった。

 

 

なぜなら俺は、あの部室で見せた一色の顔が、あの笑顔がーーーーー

 

 

 

 ーーーーーあいつの、一色いろはという女の子の素の顔であることを、知っていたからだ。

 

 

 

 

気付けばすでに家。なんだかあの部室からここまで一瞬で時が動いたようだ。

 

 

 

 小町「お兄ちゃん?箸止まってるよ?」

 

 

 我が最愛の妹、小町がじとっとした目で睨めつけてくる。あぁ悪い悪い、とまた晩飯を口に入れる。

 

 

ここ最近一色の買い物に付き合わされる事が多いため、当然帰宅も遅くなる。最初の頃は帰って来てから1人で晩飯を食べていたのだが、この頃は小町が晩飯を食べずに待っていてくれる。

 

 

 八幡「…なぁ小町。」

 

 俺が話しかけると箸を口に咥えたまま ん?小首を傾げて俺を見る。あー、あざと可愛い。

 

 

 八幡「この前も言ったけどお前も腹空かして帰ってくんだから、俺を待たずに先食ってて良いぞ?俺が帰ってくるまで腹空かしたまま勉強してるんじゃ頭入んないだろ」

 

 

 

 高校受験は2月の頭の方にある。すでに1月の半ばであり、勉強も大詰めといったところだろう。どうしたって合格して喜んだ小町の顔が見たいので家族みんなが小町のためにできることは惜しみなくしてる。俺だって当然こんな可愛い妹の小町の邪魔はしたくないのだ。

 

だがそんな俺の気持ちを差し置いて、小町は少しムスっとした顔になる。

 

 

 

 小町「その時にも言ったけど良いの!ご飯はやっぱ1人で食べても美味しくないし…それに小町はお兄ちゃんと一緒に食べたいの!あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 

 

その最後の言葉がなけりゃあな。にへらっと笑う小町に、そうか、と言うとまた食事に戻る。

 

 

 確かに小町の言う通りだ。飯は大勢で食った方が美味い…と思う。いや、本当にそうか?家族以外と食わねえからよく分かんねえよ…。

 

 家庭科で作った物を班で一緒に食べる事は何度かあったが、どれも話に入れなくて正直そんな美味しくなかったぞ…。

 

 

 

 

 小町「ね、お兄ちゃん。」

 

 

そんな思考をしていると小町がクイクイと手招きしている。小町は向かい側に座っているので自然と顔を前に出す。

 

 

 

 八幡「なんだよ?」

 

 

すると小町はニカっとして、俺の頬に着いていたと思われるご飯粒をとってパクッと食べた。

 

 

 小町「ど?今のは八幡的にポイント高かったですかな?」

 

 

 

 

八幡「…あー高い高い。だからほら、馬鹿やってないでとっと食え。」

 

 

 小町「んもう!小町がこんなことするのはお兄ちゃんだけだよ!あ、いまの小町的にポイント高い!」

 

 

 

 他の誰かにこんなことしてたらソイツ[ピーーー]自信あるわマジで。

 

 至って平静を装っていたつもりだが、正直先ほどの言動に内心ドキッとしてしまっていた。いかん、相手は妹、その道へは進まないぞ絶対にだっ!!!!

 

 

 

 

こんな食を終えて先に風呂に入る。小町は一緒に入る?と言ってきたが阿保、とデコピンをしてやった。

 実際は小町も先に風呂に入ると眠気がきて勉強できないとか何とか。

 

 

 身体を洗い終え、顎まで湯船に浸かる。冬はこの風呂に入った時の身体の表面から内側にぐわーっと熱が染み込む感じが堪らん。

 

 

 八幡「極楽、極楽〜っと。」

 

 

 独り言を呟きながら目を閉じる。

 小町も受験もうすぐだな。あんな顔して内心緊張してるだろうし、風呂上がったらココアなり作って持っていってやるか。ホント小町が俺の妹で良かった。

 

 

 

そういや一色もあのキャラと後輩という面も含めて妹みたいだよなぁ。あぁ、だから俺なんだかんだアイツの言う事に従っちまうのか納得。

 

つか最近ホント一色とよく居るな。昨日も、今日も…。

 

 

………………今日……。

 

 

 

そんな物思いにふけっている時だった。

 

 

 

 

 今日の一色のあの笑顔が一瞬にしてまるで写真で撮ったかのように頭の中で鮮明に蘇る。

 

 

 

 

その瞬間俺は目を見開き思いっきり立ち上がった。湯がザバーッと音を立てて浴槽から飛び出る。

 

 

なんだ?…顔が熱い。でもこれは風呂のせいじゃない。曇った鏡を拭いて自分の顔を見る。頬から耳まで真っ赤だ。

 

 

 

 

 

その後風呂を出て髪を乾かした後、リビングのソファに座って考え込んだ。

 

 

 

 確かにあの時、一色の顔は素の顔だった、と思う。アイツの事だってまだほとんど知らないが、分かることだってある。アイツは猫を被ってはいるが、薄っぺらい。

 

 故に本心かそうでないかの区別ははたから客観的に見ていれば分かりやすい。

 

 

 

 

アイツのあの笑顔と、あの言葉を考えないようにしてきたが、それはもう無理だ。そもそも考えないようにしている時点で考えている。

 

 

 

ならあの笑顔と言葉の意味は、何度考えても答えはそこに行きつく。

 

 

 

 

 一色が、俺を、……………好き?

 

 

 

 

いいや!騙されるな俺!!俺はこの持ち前の自意識過剰で何度黒歴史をつくってきたと思ってる!!!そろそろ月光蝶が出せそうだよ∀のお兄さんっ。

 

 

そうだ、だからこそ俺は他との関わりを絶った。俺は受動的ぼっちじゃない。能動的ぼっちだ。俺はぼっちにしてぼっちかいのエキスパート。もう勘違いなんてしないしつねに理性的であると決めたじゃないか。そうだ、思い出せ。あの時の俺を。孤高という己の中の心理に行き着いたあの瞬間を。

 

 

 

OK。落ち着いた。

つまりあれもアイツの被り物の一つだ。そう、あれは素なんかじゃない。俺の知らなかった、勘違いしていた一色いろはの一面が出てきただけだ。

 

 

 

 何かある事にそこに意味を見い出そうとするのは三流のすることだ。

 

 

よし、これで明日からもアイツと普通に接していける。これにて本日の自分会議は終了だ。

 

 

 

 

思考がまとまった?ところで2人分のココアを作り小町の部屋のドアをノックする。

 

 

はいはーいっと、中から軽快な声がするので入るぞと言って中に入る。

 

 

 

 小町「およ?何?お兄ちゃん」

 

 

 

 机に向かったまま首だけこちらに向けてくる。ん、と机の空いたスペースにココアを置く。

 

 

 小町「さすがお兄ちゃん!気が聞くぅ」

 

 

 八幡「まぁな。気が聞き過ぎるから他と関わらない様にしてるといつの間にか空気よりも軽くなっちゃうのが俺だからな。」

 

 

 

 辛過ぎる自虐ネタを披露したところでそれじゃ頑張れよ、と言って部屋を後にしようとすると小町が話しかけてきた。

 

 

 

 小町「お兄ちゃん、最近奉仕部上手くいってるみたいだね。」

 

 

とても暖かい声音だった。

 

 

 八幡「なんだ?由比ヶ浜からでも聞いたのか?今度アイツに小町の邪魔すんなって言っt」

 

 

 小町「違うよ。お兄ちゃんの顔見ただけで小町は何でもわかっちゃうの!……ホント、良かったね、お兄ちゃん。」

 

 

 

お前は臥煙さんかよ…

 

 

八幡「別によく何かねえよ。また毎日雪ノ下に罵倒される日々だぞ。今にも精神崩壊しそうだわ」

 

 

 

 小町はクスッと笑い、でもね、と続けた。

 

 

 小町「ちゃんとあの2人とは本当の意味で向き合ってあげてね。そればっかりはお兄ちゃんがやるしかないって小町は思いますな」

 

 

 八幡「…………あんま遅くまで無理すんなよ。お休み」

 

 

 

ふふんと鼻を鳴らす小町の言葉に何も言えないまま、小町の部屋を出て俺は眠りに就いた。

 

 

 

翌日の登校時、自転車小屋にチャリを置いて振り返ると一色が立っていた。

 

 

 昨日の夜、俺は自分のエキスパート性を再確認していたので何一つ取り乱すことなく普通に挨拶を交わした。

 

 

 八幡「うす。」

 

 

いろは「おはようございます先輩!先ほど見かけたので昨日のお礼をと思いまして」

 

 

 八幡「いらねえよ、そんなもん。つかここ最近ずっとなんだから今更だろ」

 

 

いろは「ま、そうですねー。私も実はそんな感謝してませんし」

 

 

 八幡「いや、しろよ。俺は生徒会役員でも何でもねぇんだぞ」

 

 

いろは「だって、先輩には私を会長にした責任がありますからー。むしろー、当然の事だと思いますよー」

 

 

 八幡「んぐっ!」

 

 

それを言われると何も言い返せない。あぁ、そうか。俺がこいつの言う事に付き合ってやるのは妹みたいだからじゃなくて、責任をとらなくちゃいけないからか…。何それ逃げられないorz…

 

 

 

いろは「ということでー、今日もお願いしてもいいですか?」

 

 

 八幡「い、いや、今日はアレで、その…」

 

 

いろは「責任…」

 

ボソッとしかし確実に聞こえる声で言う一色。こ、こいつ、なんて野郎だっ!

 

 

 八幡「………はぁ、分かったよ。」

 

 

いろは「さっすが先輩!では今日は部活終わりに校門で待ち合わせしましょう!」

 

 

それでは、と言ってタタターと駆けていく一色。はぁ、面倒くさい。でも、こんな事で責任を果たせているなら安いもんか…。

 

 

 

その日の放課後、部活に行く前に平塚先生に呼び出されたので職員室へ行くと、職員室脇にある個室に連れて来られた。

 

 

 個室に着くなり平塚先生はソファにドスッと座りポケットから取り出した煙草に火をつけ、スパーッと一度吸ってから話を始めた。

 

 

 静「比企谷、君の妹の調子はどうかね?間も無く高校受験だろう。やはりここに入学希望なのか?」

 

 

 八幡「えぇ、そのようですね。まぁ大丈夫じゃないっすかね。我が妹ながら俺よりちゃんとしてるんで。」

 

 

 静「そうか、それは何よりだ。前にも言った様に、私たち教員もまた一人の人間だ。私は君を含めた奉仕部の子たちのことはお気に入りだからな、他の子よりも君の妹には合格してほしいと思っているよ。」

 

 

 

 煙草の吸殻をトントンと落として続ける。

 

 

 

 静「あのクリスマスイベント以降、奉仕部はどうだ?」

 

 

 八幡「……困ったもんすね。」

 

 

 静「…ほぅ。何に困っているのだ?」

 

 

 八幡「また雪ノ下の罵倒が飛んでくることが…」

 

 

 平塚先生は目をパチクリさせてたかと思うと急に笑い出す。

 

 静「はっはっは。なんだそんなことか!また何かあったのかと心配したよ!」

 

 

 笑い事じゃねぇ!こっちは日々心が抉られてるんですよっ!!

ふふっと笑って平塚先生は俺の目を見据える。とても優しい目だ。

 

 

 静「はー、本当に君は面白い子だよ。それにそれは雪ノ下なりの照れ隠しだよ。君も気付いているだろう。あの子は誰よりも遠くにいる様に見えるが案外近くにいるのさ。特に君と由比ヶ浜の前ではな。」

 

 

うっ……。何かこのままだと不味いと思ったので話を変えることにした。

 

 

 八幡「ところで、要件はなんすか?このために呼び出したわけじゃないっすよね」

 

 

 静「確かにそうだが、君とは話が合うし面白いからな。たまに理由がなくても呼びそうになる。」

 

 

 呼ばないで下さい。

…独身こじらすと生徒との会話に花を咲かせてしまうのか。誰かもらったげて!

 

 

 

静「さて、本題に入らせてもらうが。近頃、とりわけ冬休み明けから妙な噂を聞いてな。」

 

 

 八幡「噂?」

 

 

 静「あぁいや、実際は噂というか目撃情報でな。情報提供者は私の友人の友人だ。」

 

 

 何か胡散臭いな…。

 

 

 静「なんでもその私の友人の友人によると総武高校の生徒が毎日夜の19時前あたりからから20時半前後までデ、デデ、デートをしているというのだ。」

 

 

 八幡「は、はぁ」

 

 

なんでその歳にもなってデートって単語で詰まるんだよ…。もしかして、したことないのか…。

 

 

 八幡「それと俺の何の関係が?」

 

 

 静「まぁ最後まで聞け。その私の友人の友人によると、総武校の生徒で男の方は何とも言えないほど目が腐っているんだそうだ。」

 

 

ツーッと背中を嫌な汗が通る。

 

 

 静「女生徒の方は何だかふわっとした、まるで生徒会長の様な顔をしているそうなんだがーーーー」

 

 

 平塚先生の言葉はどんどんと熱を帯びてきて今にも爆発しそうだ。

 俺は全身汗だくである。

 

 

 静「ーーー比企谷、どういうことだぁぁぁぁぁああああっっっ!!!!!」

 

 

クワッと音がしそうな勢いで見開かれた目からは今にも火が出そうだ。だが急にショボショボとなっていく。次第にはソファの上で膝を抱えて下を向いてしまった。

 

 

 静「なぜなんだ、比企谷。私はお前の事は信じていたのに…グスッ。私の目の前でイチャコライチャコラと…ズズッ。だいたいこの世界はおかしいのだ。こんな目の腐った男に女ができるより、私に男ができる方がよっぽど確率は高いはずではないか…グスッ。そんなの、国語教師の私でも直感的に分かることなのに…ズズッ。」

 

 

 

 泣き出してしまった。ていうか情報提供者アンタ自身かよ…。

 

 

 八幡「あの、先生。俺は別に一色と付き合っていませんよ。ただ生徒会の手伝いをしてただけです。それに先生は本当に美人なんで男の方が近寄り難いだけじゃないっすかね…」

 

 

 何か酷い事言われてたのは俺の方なのに慰めてしまった。

 

 

そうこうしている内に先生は泣き止み、俺も職員室を後にした。

 

 

 

 

 誰か今すぐもらってあげてっ!!!!

 

 

 

 

その後、奉仕部に行くとまた遅れて来た事にいちゃもんを付けられたが今日のは本当に平塚先生の用事(あれを用事と呼んでよいのこ疑問だが)だったので難を逃れた。

 

 

 

 奉仕部が終わった後、俺は自転車小屋から自転車を取り出し、一色との約束があるので校門へと向かう。どうやらまだ一色は来ていないようだ。

 

 

 

ーーーー5分後。

 

 

 

ーーーーーーーー10分後。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー20分後。

 

 

 

あっれー?おかしくない?あの子来ないよ?もう校門周りを歩いている生徒は誰もいないし。あれ?世界って俺一人しかいないのん?何かそれかっこいい…

 

 

じゃなくて!も、もしかしてこれは!トラウマが脳内に蘇る。こ、ここ、これは待たせといて実は先に帰ったパターンじゃ…。絶対今友達とネタにしてるよ。

 

 

 

 『ホントあの先輩キモくてさー。』『もしかして今もまだ校門で待ってたりしてー』『あはは、まじそれキモいわないわー。』『だよねー、超ウケる。』

 

 

 

ふっ、ふふふ、そういうことか一色いろは。貴様はこの俺で遊んだのか。誰にも迷惑をかけないように自らぼっちにまでなったこの俺を、更に痛めつけようと…。許すまじ一色ぃぃぃいいい!!

 

 

と校門前でしゃがみ込んで脳内で妄想を繰り広げていると後ろからトントンと肩を叩かれた。

 

 

 

 楽しい楽しい妄想を一旦やめて、振り返ると驚いた顔をした一色が立っていた。

 

 

 

いろは「な、何してるんですか先輩!こんなところで!」

 

 

 八幡「な、何って…お前が言ったんだろ。ここで待ち合わせだって。」

 

 

いろは「でも!待ち合わせの時間だってもう30分以上経ってますし、今1月ですよ?!風邪ひいたらどうするんですか!だいたいこんな所に座り込んで何してたんですか!」

 

 

 八幡「……お前にすっぽかされたと思ってたった今自分を戒めてたとこだよ。」

 

 

いろは「私がすっぽかすわけないじゃないですか!ただ生徒会の仕事が長引いただけですよ!」

 

 

 

な、なんでこいつはこんなに怒ってるんだ?つうかここは俺が怒るところだろ

 

 

 でも先に怒られるとこっちが悪くなくても謝らなきゃいけない気がしてくる。これが社畜の気持ちだろうか…

 

 

 

 

八幡「よく分からんが悪かった」

 

 

いろは「ホントです!反省して下さい!」

 

 

 

だから何をだよっ!

 

 

すると一色が急にしゃがみ込んだ。下を向いてしまいその表情は分からない。そのまま顔を手で覆い隠した一色はポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 

 

 

いろは「……ホント、何で待ってるんですか…。もう、帰ったと思ってたのに…。…………こんな事して、また私の好感度上げる気ですか…………本当に急上昇しちゃってるんで、やめて下さいよ………」

 

 

 

 最後の方はよく聞こえなかったが俺は何も言わずただ一色の目の前に立ち尽くしていた。

 

 

 

いろは「先輩」

 

 

 八幡「ん?」

 

 

 

いろは「頭」

 

 

 八幡「頭?痛いのか?」

 

 

 

するとバッと顔を上げる一色。

……………え?なんで泣いてんの?

 

 

 

いろは「違いますよ!頭!!その……………な、撫でて下さい」

 

 

 八幡「……………は?」

 

 

 

いろは「泣かせた罰です。撫でて下さい。」

 

 

 

……そうは言われても中々撫でられるものじゃない。

 

 

そもそも一色が葉山に告白したあの日の帰り道、泣く一色の頭を撫でてやらなかったよな俺。それはほら、頭を撫でるという行為は俺の愛する妹専用コマンドだからだ。それは今も昔も、そしてこの先も変わらないはずだ。

 

 

 

だから俺はしゃがんでいる一色の頭にポスッと手を置いた。

 

 

 

いろは「…………?先輩、早く撫でて下さいよー」

 

 

 

 八幡「残念だが一色、ここまでだ。撫でるのは妹専用なんだよ」

 

 

 

いろは「……何ちょっとカッコつけて言ってるんですか。ただのシスコンじゃないですかそれー」

 

 

もういいです!とスクッと立ち上がった一色は少し先を歩き出した。俺もカバンをとってその後ろを付いていく。

 

 

 数歩歩いたところで一色がクルリと振り返り、にこっと笑みを浮かべる。

 

 

いろは「今日はとことん付き合ってもらいますね、せーんぱいっ」

 

 

 八幡「…………はいよ」

 

 

 

まぁ泣かせちまったしな。俺が悪いのかよく分からんが…。

 

 

 

何だかおかしい。

とことん付き合ってもらう、と言った割にはただずっと歩いているだけだ。時折俺の顔をチラチラと見てくるが、話しかけてくる風もないし、どこかの店に入ってもずっと歩いているだけで何も買わない。

 

 

 

 八幡「今日は何も買わないのか?」

 

 

いろは「………んー、何か良いものがあったら買いますよー」

 

 

 

こんな会話をすでに何度かした。

…………何も買わないなら荷物持ちの俺いらないんじゃないですかねぇ…

 

 

 

そのまま何も買わないまま時間だけが過ぎていく。気付けばすでに帰路についていた。こうして一色の買い物に付き合った帰りは毎回、俺と一色は違う駅だがさすがにこんな闇夜に女の子一人帰らせるわけにもいかないので一色の家の近くまで送る。

 

 

そろそろそのいつもの場所だ。

ほとんど喋ることなく、何一つ買い物をすることもなかったが、まぁ俺としてはどちらでも良かった。

 

 

 

 八幡「一色、そろそろーーーーー」

 

 

 

 俺が別れの挨拶をしようとすると一色の言葉がそれを遮った。

 

 

 

いろは「先輩、もう少しだけ、良いですか?」

 

 

 

そう言うと一色は俺の返答を待たずにスタスタと家とは違った方向へと歩いていく。

 

 

 俺もそれに習って後ろを付いていった。着いた先は小さな公園だ。2人一緒にベンチに座る。

 

 

こんな夜に後輩の女の子と公園で2人きり…だが俺は知っている。こんな絵に描いたようなシーンでも俺にラブコメの神は降りては来ない。

 

 

 

 俺も一色も制服の上にコートを羽織ってはいるがすでに1月の半ばだ。夜に外でじっとしているのはまるで修行よようだ…。

 

 

なので正直俺も早く帰りたかった。それに一色も先ほどから手を擦り合わせて手に息を吐いている。その白い息が手にかかるのが電灯に照らされて妙に艶めかしい。

 

 

 一色が喋りそうにもなかったので俺から口を開くことにした。

 

 

 

 八幡「何かあったのか?」

 

 

 一色が目をパチクリさせて俺を覗き込んでくる。何で?とでも言いたげな顔だったので先に喋る。

 

 

 八幡「いや、ほら、…何かお前、あんま喋らねえし、何も買わねえし…。なんとなくそう思っただけだ。」

 

 

 

すると一色はクスッと笑って言う。

 

 

 

いろは「いえ、別に何でそう思うか?が聞きたい訳でわなくてですね、先輩が心配してきた事がなんだか可笑しくて…」

 

 

 八幡「悪かったな、柄にもないことして…」

 

 

いろは「……いえ。」

 

 

 

また少しの沈黙があった後、今度は一色が先輩、と言って切り出した。

 

 

 

いろは「私ってほら、葉山先輩に告白したじゃないですかー。」

 

 

 俺はそうだな、と首肯する。

 一色はそれを見るとふいっと顔を前にし遠くを見つめる。

 

 

 

いろは「それで完璧にフラれてしまって、その後帰りの電車の中で、先輩の前で、泣いたじゃないですか。…なんだか自分で言うと恥ずかしいですねー」

 

 

そう言う一色の頬は確かにほのかに紅い。でも、と一色は続ける。

 

 

 

いろは「私、葉山先輩に告白して、良かったです。あれからもう一カ月近く経ちますけど、あの時は泣いちゃいましたけど、でも今思い返すとあの時を誇らしく思えるんですよねー」

 

 

 

 遠くを見つめる一色の目は確かに優しいものだった。だが少し引っかかる。

 

 

 

 八幡「そうか。だけど一色、お前の今の言い方だとまるでもう葉山の事がーーー」

 

 

 

いろは「その通りです。」

 

 

 一色は俺の言葉を遮る。

 

 

いろは「好きじゃ、ない、です。正直、あの時も葉山先輩を好きだったかは分かりません。」

 

 

 

八幡「おい、それはないだろ。だってお前は生徒会長になるのだって、葉山との事をーーー」

 

 

 

いろは「そうです。確かに私は葉山先輩のことを好きだと確信していました。」

 

 

まるで話が掴めない。つまりこいつはあの頃から葉山の事を何とも思ってなかったのか?いや違う。葉山隼人の事となると目を輝かせていたし、食い付いてきた。俺だってそれで作戦を立てて一色を生徒会長にしたんだ。

 

 

 

 

俺が思考していると一色はまた口を開く。

 

 一色「あの時も言ったじゃないですか。私も、本物、が欲しくなったって。」

 

 

 

あぁそうだ。こいつは確かに葉山にフラれた後そう言った。

 

 

 

いろは「本当はですね、私、葉山先輩に告白する時にはすでに、葉山先輩を好きじゃない自分に気がついていたんです」

 

 

 八幡「……は?ならお前は好きでもない相手に告白してフラれたっていうのか?」

 

 

ますます分からなくなってきた。好きでもない相手に告白してボロクソにフラれるだと?そんなの罰ゲームでもない限りしねーだろ。自分からわざわざ不幸になりにいく奴なんているはずがない。

 

 一色は首肯しながら応える。

 

 

いろは「その通りです。だってアレは私の、私がこれから求める、本物のためのケジメでしたから。」

 

 

 

そこまで言われて俺ははっと気付く。この可能性は昨日散々自分を戒めた際に消していた。だが、あの可能性が当たっていたのかもしれない。これは一色の言葉を最後まで聞かなければ確信にはならないが、直感として、これ以上一色に喋らせるわけにはいかないと思った。

 

 

 

 一色「先輩、私hーーーーーー」

 

 

 八幡「一色!!」

 

 

 

 俺の声が夜の静寂の中へ一際大きく放たれた。

 

 

 

突然の声にびくっとして一色は俺の方を向く。

 

 

 

 八幡「もうそろそろ帰った方が良いんじゃねえか?親も心配するだろ」

 

 

 

いろは「せ、先輩?」

 

 

 八幡「俺ももう帰るわ。身体も冷えたし、腹も減ったからな。お前も家すぐだろうけど気を付けて帰れよ」

 

 

 

そう言ってスッと立ち上がり来た道に踵を返す。最後に振り向くこともせずじゃあな、と言ってその場を後にした。

 

 

 

 

…………足が重い。駅からここまで来るのは何とも思わなかった。でも今はほんの一歩が、辛い。

 

 

 

ーーー俺はあの時から変わっていない。由比ヶ浜の言葉を聞けなかった、聞かなかったあの時からーーー

 

 

 

 

 だがさっきの雰囲気はヤバかった。一色の言葉を最後まで聞かなかったので、実際のところどうなのかは断言できないが、まるで告白されそうな勢いだった。

 

 

 

だが冷静に考えてみれば一色が俺に告白?ありえないだろ。俺のどこに惚れる要素があるんだ?うーむ…やっぱ何一つねぇな。

 

 

 

でももしアレが本当に告白だったら?なぜ俺はそれを遮ろうとしたんだ?…そんなの分かってる。

 

 

 

 俺はここ最近のあいつとの関係を壊したく、なかったんだ。

 

 

 

あいつが毎日のように話しかけてきて、他愛のたい会話をしながら買い物に付き合って…

 

 

そうだ、俺はそんな関係が心地良かった。楽しかったんだ。だからこそ、壊したくなかった。

 

 

 

 壊れそうな予兆はあった。でもそこに気付かない様にして、あえて俺は『いつも』を送ってたんだ。

 

 

 

 

ーーーーはっ、笑えるな。俺はそれを欺瞞だと、ほんの1、2ヶ月前に体験していたじゃないか。

 

 

 

あの奉仕部で、彼女たちとーーー。だが今は違う。あそこには確かな繋がりが、本物が、ある。本物、そんなの抽象的過ぎて説明するのも難しい。でも確かに感じるんだ。ならなぜ俺は彼女たちとそんな上手く説明できないような関係を求めたんだ?そうだ。

 

 

 

 欺瞞であると分かっていながらもその関係を求めたからこそ、俺は本物が欲しいと願ったんだ。

 

 

 

 欺瞞であったとしても、失いたくなかった。それはつまり、大切に思ってたんだ、あの空間を、あの関係を、彼女たちのことを。

 

 

 

ーーーーーでもーーー

 

 

 

本物を求めた俺が奉仕部で今の関係を築けたのはなぜだ?それはクリスマスイベントがあったからだ。そう、自分の気持ちと向き合うことは時間さえあればできるけど、行動するのにはきっかけが必要なんだ。

 

 

 

 俺は今こうして思考している中で、欺瞞を求めた=大切に思ってる、という等式をたてたわけだが、それはつまり、一色の事も当て嵌まる。

 

 

 

だからこそ、変わろうと決意したからこそ、俺はこのままではいられない。そう、何か一つきっかけがあれば、行動を起こせるものがあればーーーーー

 

 

 

足に鉛が乗っているかの様な足取りで俺は歩いていた。足を止めて場所を、確認する。気付けばまだいつも一色と別れを言う辺りだ。

 

 

 

これだけ時間がかかってここまでしか来れてないのに、一色は来ない。つまりまだあの公園にいるのだろう。

 

 

 

 心配ではある。でも俺は後ろを振り向けない。俺は彼女の言葉を遮り、逃げたのだから絶対に後ろは振り返れないのだ。

 

 

 

 自分の中のそんな小さなプライドに嫌気を感じながらまた一歩踏み出そうとした時だった。

 

 

 

タッタッタと一瞬、足音が聞こえたと思ったら、ドンッッッ!と背中に強い正直が走る。

 

 

 

 一瞬息がつまり、ぐぇっと変な声が出てしまう。

 

 

 

 跳ねられた?いいや違う。車はもっと硬くてひんやりしてて、強烈な痛みだ。だがこれは違う。

 

 

 

これはもっと柔らかくて、そして暖かいものだった。

 

 

 

これはいくら俺でも分かる。一色いろはが抱き付いてきたのだ。いや待て、全然分かんない。

 

 

 時折小さく嗚咽を漏らしては鼻をすする音がするのできっと、いや間違いなく泣いているのだろう。

 

 

 

 八幡「お、おい一色?」

 

 

 

 後ろにいる一色に声をかけるが一色は何も応えず、さらに強く抱き締めてくる。

 

 

 

 

あれれー?一色さんじゃないのかなー?

いやいや、そんなはずはない。ていうか一色じゃなかったら怖いのでやめて頂きたい。一色だったら良いというわけではもちろんない。

 

 

 

 腕ごとホールドされてはいるが肘は動くのでそのまま一色の手をどかそうと思ったが、一色の喋り出したことでやめた。

 

 

 

いろは「グスッ…先輩、ちゃんと聞いて下さい…。」

 

 

 喋りながら一色はなおも腕の力を強める。うーむ、このまま潰す気だろうか…

 

 

 

八幡「聞くも何も、もうお前言っただろ。葉山の事を好きじゃない、ケジメをつけれたって。それで話は終わりだろ。」

 

 

 

 俺はこの先を言わせるわけにはいかない。もう一色が俺を好きじゃないなんて思わない。この一色の涙が、握り締める手が、背中の確かな温もりが、それを証明している。

 

 

 

 確かに本物は欲しい。この一色とだってそういう関係を築きたいとは思う。だが、そこに恋愛事を絡める気はない。俺は友達と同等以上にその関係を信じられないからだ。

 

 

 

 

 

そして何よりその関係は友達以上に、怖いからだ。

 

 

 

いろは「先輩!違うんです!まだ話はーーー」

 

 

 

 八幡「終わってる。これ以上何を話すんだ?明日も買い物付き合って下さいってか?それとも生徒会の事か?それとも何かの愚痴か?俺が聞いてやれるのは…そんくらいだ。」

 

 

 

いろは「そんな事じゃないです!でも、先輩に聞いて欲しいんです!先輩にだけ聞いて欲しいんです!!先輩、私は先輩のことg」

 

 

 

 八幡「やめろっつてんだろ!!」

 

 

 

 再び静寂が俺たちを包み込む。

 

 

こんなに怒鳴ったのはいつぶりだろうか。

 

 

それきり黙りこんでしまった一色は、それでも腕の力を緩めようとはしなかった。その手はもうずっとカタカタと震えている。寒いからなのか、俺に怒鳴られたからなのか、それともここまでするのに勇気を振り絞っているのか、俺には分からない。でもここは分かってやるわけねはいかないんだ。

 

 

 

 八幡「離せ」

 

 

いろは「…嫌です」

 

 

 八幡「離せ」

 

 

いろは「嫌です!だから、話を聞いて下さい」

 

 

 八幡「断る」

 

 

 

このままだと埒があかない。一色もそれを感じとったのか、再び沈黙が流れた。

 

 

 

 

沈黙の中で俺は冷静さを少しずつ取り戻していった。後ろで泣いている女の子を俺はどうするべきなのか。

 

 

 嫌な沈黙ではあったが、一旦冷静になって考えるには充分な時間だった。

 

 

 

 八幡「一色。さっきは、怒鳴って悪かった。」

 

 

いろは「………いえ。グスッ…先輩でも、ああゆう声を出すこと、あるんですね…。ちょっと、グスッ…ビックリしました……」

 

 

 八幡「………俺はお前がこんなことしてる方にビックリしてる」

 

 

 

 少し場の空気が和んだところで、一色、と切り出した。

 

 

 

 八幡「お前が今抱いてる感情は偽物だ」

 

 

いろは「………え?」

 

 

 八幡「…だからそれは、偽物の気持ちだ」

 

 

いろは「ち、違います!!それは絶対に違います!!なんで!…なんで、そんなこと、そんな酷いこと…言うんですか…」

 

 

それは当然、一色が傷付くだろう言葉を選んでるからだ。俺だってこんな場面で相手にそんな事を言われたらその場ではさすがになくとも、家に帰ってから泣き崩れる自信がある。でも言ってやる。ここでコイツのこの思いを終わらせる。

 

 

 

 八幡「本当のことだろ?ならなぜお前はそんな気持ちになってるんだ?」

 

 

いろは「それは!……先輩はいつも私のこと助けてくれますし、それにーーー」

 

 

それだ。そこまで聞けたら充分だ。

 俺はあの時、由比ヶ浜に言った様に一色の言葉を遮る。

 

 

 八幡「別に俺は、お前だから助けたわけじゃない」

 

 

 一色の手がピクッと動く。

 

 

 

 

八幡「たまたま依頼に来たのがお前で、たまたま俺がその依頼を受けただけだ。実際のところお前じゃなくても、誰でも良かったんだ。雪ノ下を落選させられればな。」

 

 

 

なんで相手を傷付ける言葉を言うと胸の奥がズキズキとするのだろう。こんな酷いことを今までに何度も言っているのに、俺にもまだ良心があるのだろうか。

 

 

 

 八幡「それに、お前は言ったな。葉山の事を好きじゃなかったって。それこそ偽りだ。俺の前でカッコつけてアピールしてるだけだ。お前はあの時、確かに泣いてた。あれはお前の素だ。好きな葉山にフラれて悲しくて涙が出たんだよ」

 

 

 

 

 普段喋んないのにこういう時だけ饒舌になってしまうから喉の奥はカラカラだ。だがさらに俺は畳み掛ける。

 

 

 

 八幡「だからお前が求めるべきなのは葉山との本物だ。さっきも言った様に俺は雪ノ下を落選させたかった。それは俺が奉仕部を守りたかったからだ。俺が求めた本物はあの場所と、あの2人だ。お前のことは求めてねぇんだよ」

 

 

 

 

 俺が言い切ると一色の腕の力はフッと抜けそのまま一色は地べたに座り落ちた。それと同時に俺も振り返る。下を向いてはいるが噛み締めた口に手を当て必死に声を抑えてはいるが、目から溢れる涙は止めどなく流れ落ちていた。

 

 

 

言い過ぎたとも思った。俺もここまで言われると泣くを通り越して自殺願望が芽生えると思う。でもこれしか思い浮かばなかった。

 

 

 

もう少し優しく言ってもきっと一色は諦めない。なぜならこいつは由比ヶ浜よりも強引だからだ。

 

 

 由比ヶ浜も強引ではあるが、彼女は空気を読むことにおいてプロフェッショナルだ。その空間の空気と相手の事を直感的に理解して身を預けるか引くかを判断する。

 

 

でも一色は違う。

 確かに空気は読めるだろうが、あえてそこで居座るのが一色だ。

 

 

 

 

 

 嗚咽をもらしながらずっと泣き崩れている一色に、俺は頭を撫でてやることも、謝罪の言葉をかけてやることも、しない。

 

 

 

きっとコイツの思いも、この瞬間も時間が経てば俺への恨みに変わり、やがて風化して最後には記憶にも残らない。それでいいんだ。

 

 

 

しばらく時間が流れた。次第に一色の嗚咽も小さくなり、気持ちが落ち着いてきたようだ。そして一色はフラッと立ち上がって涙は零しながらも喋った。

 

 

 

いろは「先輩は、グスッ、ばか、です。ヒッグ…わだし、何を言われだって、先輩が、グスッ、好ぎ、なんです」

 

 

 

今にも消え入りそうな声で、でもしっかりとそう言った一色は俺に身体を預け今度は我慢することなく、盛大に泣き始めた。

 

 

 

………不意打ちではあったが言われてしまった。言わせてしまった。さっきからずっと避けていた言葉を。

 

 

 

 

 一色が泣き止むのに時間はかからなかった。

 

 

 

いや、その間完全に俺、比企谷八幡は空白で、時間の流れも、わんわんと泣いている一色の声も、涙に濡れてカッターシャツの中が湿っていくのも、何も感じられたかった。

 

 

 

だから時間はだいぶ過ぎたのかもしれない。だがもう俺には時間なんて概念は存在しなかった。

 

 

 

 八幡「…聞かせろよ。お前の話」

 

 

 

 一色が泣き止んで、止まった思考が動き出して、ようやく口を開いた。

 

 

 

あの言葉を言われてしまっては、もう一色の話を聞かない理由なんて俺には思い浮かばなかった。

 

 

そうしてまたあの公園である。

 

 

 八幡「ほれ」

 

 

 公園の出入り口にある自販機で2人分の飲み物を買って一色に手渡す。俺も先ほど喋り過ぎたせいで喉は乾いてたし、一色も泣き過ぎて乾いているだろうと思い買ってやる。

 

 

いろは「ありがとうございます。ホント、先輩は人のことあざといって言いますけどー、先輩のこういうとこも充分あざといです」

 

 

 

 八幡「………。やっぱ返せ。俺が飲む」

 

 

 

 渡したジュースを奪い取ろうとすると一色はふいっとその手を交わしていたずら顏をつくる。

 

 

いろは「ダメです!なんですか先輩?あざといって言われて怒っちゃいましたか?それとも照れちゃいましたかー?」

 

 

 

う、うううざい!!うざすぎる!!

ここはあえて無視して一色の横に腰を下ろす。

 

 

 

そんな他愛のない会話をしながら互いに気恥ずかしさを払拭するよう努める。

 

 

 

………はぁ、ホントこいつ強いよな。仮にも告白して、それでいてまだ返事をしてくれないような相手と一緒にいるのに、普段通り喋れるなんて。むしろ俺の方がさっきからドキドキしちまってるじゃねーか。これが経験の差なのかちくしょー。

 

 

 

 

だが何とかこんな空気を作り出しても本題に入る勇気は互いになかった。ていうか俺から話を振らなくちゃダメなの?何て言えば良いんだよおい。

 

 

 

 『それで、なんで俺の事、す、すすす、好きになったんだ?』か?

 

いや、キモいな。自分を好きになった理由を尋ねるなんて難易度高過ぎるし。つか想像の中でもこんだけ噛んじゃうとかないわ。想像でこれなら実際その単語を言う時には黙ってしまうまである。

 

 

うん、やめとこう…。

 

 

こんなしこうをしていると一色の方から切り出してきた。

 

 

 

いろは「それで先輩、話、ちゃんと聞いてくれますか?」

 

 

 

八幡「お、おう。つか聞くに決まってんだろ。ここまで来て何も聞かずに帰るとか気になって眠れねぇよ。」

 

 

 

いろは「あははっ、確かにそうですよねー」

 

 

 一色はケラケラと笑うとこちらの顔を覗き込んで聞いてくる。

 

 

いろは「でも先輩、お腹空きませんか?もうこんな時間ですし」

 

 

 言われて携帯で時計を確認すると、ふむなるほど、確かに時刻はすでに21時30分を回っている。

まぁ空いたっちゃ空いたが…でもここで帰るわけにはいかないのでーーー

 

 

 

八幡「お前こそどうなんだよ。その話題振ってくるってことは腹減ったのか?」

 

 

 

 会話の流れを利用してこちらは答えないまま相手に話を振り返すという我が奥義。いや、日本人なら大半がこの技使ってそうだな…

 

 

 

いろは「少し空いてきました。なのでこれを食べましょう!」

 

 

かばんの中から目当ての物を探し、じゃーんっ!と言ってトッポを取り出した。

…イメージ通り、女子高生は常に無難なお菓子を持ち歩いていた。女子高生のかばんの中はお菓子と化粧道具しか入っていないという噂は本当っぽい。

 

 

 

トッポの箱の中身は一袋しか入っておらず、2人で食べるとあっという間になくった。

 

 

 

いろは「人の物たくさん食べて図々しい先輩ですねー。」

 

 

 八幡「いや、大半お前が食っただろ。俺は3本くらいしか食ってねえぞ」

 

 

いろは「いちいち数えてたんですかー?小さい男はダメですよー」

 

 

 八幡「いや、3本程度数えてなくても覚えるてるだろ普通」

 

 

 

トッポを食した後は、2人ともジュースを飲んだ。

そしてふぅーと少し息を吐いて間をおいた一色はゆっくりと話し始めた。

 

 

 

いろは「先ほど先輩に言われて気付いたことがあります。それは私が葉山先輩の事を確かに好きだった、という事です。ここは訂正しておきます。」

 

 

 喋りながら一色は顔を上げ、また遠くを見やった。俺もその視線の先を追いかけたが、そこにはただの暗闇が広がっていて俺には何も見えない。

 

 

いろは「でも、好きよりも憧れが強かったと思うんです。葉山先輩にはもちろん憧れてましたし、その葉山先輩と付き合ってる私に憧れてたんですねきっと。」

 

 

ふむ。それならなおさらこいつが葉山を諦める理由が分からない。いや、本当に分からないのは別のことだ。

 自分では手が届かないと悟って葉山を諦めたとしても、そこでなぜ俺にベクトルが向くんだ?俺と葉山はまさしく象と蟻。いや、天と地ほどの差があるのに。

 

 

 

 八幡「分かんねーな。憧れてたんなら葉山を追いかけるべきだろ。そこが無理でも葉山みたいな奴はいくらでもいただろ」

 

 

 思っていることを素直に言ってみる。

すると一色はクスッと笑みを浮かべた。

 

 

 

いろは「確かにそーですよねー。葉山先輩が無理だったとしてもそこから先輩になびく人はまずいませんよねー」

 

 

おいこら待てどういうことだ説明されなくても分かるがもっとオブラートに包めよこの野郎!

 

 

でも、と一色は続ける。

 

 

 

いろは「私は先輩を好きになっちゃったんです」

 

 

 

そう言って身体を傾け俺の目をじっと見つめる一色。俺もその視線から目を離せない。

 

 

 

いろは「………やっぱ、理由も言わなくちゃダメ…ですよね?」

 

 

 

 八幡「そりゃ言ってくれるとありがたい。考えるのも返答するのもしやすくなるからな」

 

 

 

 

ここでしばしの沈黙が訪れた。一色は言う言葉をまとめているのか少し下を向いているが時間が経つにつれ顔を紅くしている。

 

 

……熱?

 

ちょっと心配になってきたので声をかけることにする。

 

 

 八幡「おい、大丈夫か?」

 

 

 

やはりこうゆう時におデコを手で触ったりおデコとおデコをコツンしないところが悲しくも俺の主人公性のなさを証明してやがるぜ。

 俺がしたら即タイーホだからな……泣きそう

 

 

 

 いろは「い、いいいいいえ!ぜんっぜん大丈夫ですよ!気にしないで下さい!」

 

 

 

 手を振って思いっきり否定する。…オーバー過ぎだろ。ほんとあざとい。

 

 

 

再び一色はふぅーと白い息を吐いて調子を整える。だが顔は紅いままだ。

…うむ、もしやこいつこんな空気で何かイヤらしい事でも考えていたのか?いや、一色に限ってそれはないだろう。そんなのは海老名さん一人で充分だ。

 

 

 

いろは「あのですね、先輩」

 

 八幡「おう」

 

 

 再び上げた顔をまた下に向けて喋る一色。なるほど、単に恥ずかしいのか。まぁ俺もかなり恥ずいしな。

 

そりゃ当然だ。面と向かって俺を好きになった理由を聞かされるわけだし、コイツは本人の前でそれを言うわけだし。

そもそも俺は自分から本気で告白したことはあったがされたことはない。同様に一色もこの前の葉山以外には自分から告白したことなんてないのだろう。

 一色はそのまま続けた。

 

 

いろは「先ほど先輩が言ったように、確かに私は生徒会選挙で先輩に背中を押してもらいましたし、クリスマスイベントでは助けてもらって、それらのことでも先輩には感謝してますし好意も抱いています。」

 

 

でも、と付け足すと一色は顔を上げ俺の目を真っ直ぐ見てくる。

 

 

いろは「それだけが好きになった理由じゃありません!そんなのは私の中で些細な事なんです!」

 

 

 八幡「……は?ならお前はいったいなにをーーー」

 

 

 言いかけた言葉を一色の言葉が遮る。

 

 

いろは「それを今から言うんで先輩は黙ってて下さい!!」

 

 

 怒られてしまった。

どうやら一色はもう迷いも恥ずかしさも吹っ飛ばしたようだ。本当に凄いなと感心する。

 

 

 

一色はすっと息を吸い込むとカッと目を見開き続けた。

 

 

 

いろは「先輩は私を認めてくれるんです!あざとい、って言いながらもちゃんと話を聞いてくれます!私の素が出た時でもちゃんと返事してくれます!私が猫被ってることにちゃんと気付いてくれています!泣いてたら優しい言葉でそっと包んでくれます!こんな風にどんな私でも先輩は認めてくれるんです!だから私は、先輩のことがーーーーー!」

 

 

 八幡「ちょ、ちょっと待て一色!」

 

 

 俺が止めに入ると は?ていう顔をしなさる一色さんマジこえぇっす…

 

 

八幡「と、とりあえず落ち着け。近いから」

 

 

 一色はふと我にかえり自分と俺の位置を確認する。

もう少しで俺が一色に押し倒されそうな格好だ。おかげでこちとら腰が痛い。

コホンッとこれまたあざとく咳をすると体勢を整える。

 

 

いろは「すみません取り乱してしまったようです。でも先輩、良いところで話を折るなんて酷いですっ!」

 

 

ふーんだっとでも言いたげに身体の向きを変えて背中を向けてくる一色。

…なんかリアクションが一々面倒くさいしあざといよなコイツは。

 

 

八幡「それに関しては悪かった。でもお前が言うような人間は俺以外にも、それこそお前のクラスの中にだっているだろ」

 

 

 俺が謝ると一色は再び身体を俺の向きに変えた。

 

 

いろは「いません。…確かに女子は私が猫被ってる事に気付いてますが大半は私を嫌っています。たまに男子でも私が素じゃないことに気付く人もいます。昔告白してきた人にも居ました。『いろはちゃん、俺の前では素で居て良い。だから付き合おう』って」

 

 

 八幡「良いじゃねえかそういう奴。ま、まさか顔で選んだのか…?」

 

 

 恐る恐る問いかける。

 

 

いろは「いえーーーー」

 

よ、良かったぁ。もしそうなら怖くてチビってたわ。

 

いろは「ーーーそれもありますけど」

 

あるのかよっ!!やっぱこの子恐ろしいわっ!

やっぱり女はおっかねぇ。やはり俺の道を照らしてくれる天使は戸塚と小町と戸塚と戸塚くらいだな。戸塚のお義父さんお義母さん、戸塚を産んでくれてありがとう。

 

 

 

 

下らない事を思考しているうちにも一色の話は続く。

 

 

いろは「確かにじゃがいもみたいな顔でそんな台詞をキメ顔で言われた時は鳥肌ものでしたが、今はそういうことを言いたいんじゃないんです。いちいち話の腰を折らないで下さいっ!」

 

 

また怒られてしまった。

でも俺がショボーンとしていてもキモいだけなので、極めて平静に努めて、すまん、とだけ言っておく。

 

 

いろは「私は自分が素を出せる場所が欲しいんじゃないんです。確かに素でいられたらそれが一番良いんでしょうけど、きっとずっと素でいたらその素までが自分の仮面になっちゃうと思うんですよね」

 

 

ふむ、確かに言わんとしてる事は分かる気がする。

きっと素であるということは本当の自分を晒すというだ。そんな本当の自分を見せていてもある時ふと自身を冷静にみると、それさえも本当の自分なのか分からなくなる。きっと俺たちは自分が分からないという感覚を恐れているのだろう。

 

 

いろは「だから私が欲しいのは素の私で居られる場所じゃない。どんな私でもそれを私だと受け止めてくれる、そんな場所が欲しいんですっ」

 

 

なーるほど、一色の気持ちはよく分かった。でも一つ引っかかる。

 

 

 八幡「お前の言いたい事は分かった。でもそれなら尚のこと、葉山で良いじゃないか。あいつはお前の全てを受け入れてくれるぞ」

 

 

そう、葉山隼人

あいつは他人の全てを受け止めるはずだ。他人の悪い部分でさえも肯定してやり、むしろそれをそいつのプラスな面だと評価してやれる。俺には到底真似できん様な事をあいつはサラッとしてのける。

 

 

いろは「そうですね。仮に私が葉山先輩と付き合ったとすると葉山先輩は私の全てを包み込んでくれそうです」

 

 

 

ならそれで良いじゃないか、そう言おうと思ったが一色がでも、と続けたことでその言葉は喉の奥まで戻っていく。

 

 

いろは「葉山先輩の優しさは、んー、なんと言うか、なんだか温度がないんですよねー。冷たくもないけど、温かくもない、みたいな」

 

 

………それはつまり俺の優しさが温かいという事なのか?

な、なんだか耳の裏まで一気に熱くなってきたぞ…!

 

 

まぁこれまたコイツの言う事には納得だ。

この大方一年、何かとあいつとは一緒だった。あいつの事はそれなりに見てきた…なんていったら海老名さんが発狂しそうだが。

 俺はあいつと接していく中であいつの人間性を少しは理解した。あいつのあの優しさが残酷だと言うことを。

 

 

いろは「だから先輩、私は先輩の事が好きですっ。もう嘘はつきません。私は欲しいんです。先輩との……本物……」

 

 

 俺は正直に感動していた。

 俺を好きになった理由、自分が本当に求めるもの、それらを包み隠さず言った一色いろはに。

 俺はあんな酷い事を言ったのにそれでもなおかつ、好きだと断言する一色を、俺は凄いと思った。

 

 

 

だがそれとこれとは話が別である。

 

 

 

八幡「一色、それでも俺はお前の想いにはまだーーーー」

 

 

いろは「分かってます。先輩が一筋縄ではいかない事も、それに奉仕部のあの2人を特別に想ってることも」

 

 

 俺の言葉を遮る一色。

そう、俺はここで一色の気持ちにすぐに返事をしてやる事はできない。

なぜなら一色が話している最中もあいつ等の、あの2人の顔が脳裏に思い浮かんでいたからだ。

 

 

いろは「先輩の中でもう答はでてますか?」

 

 

 俺はその問いには応えられなかった。

まだ胸の奥を様々な想いと感情が渦巻いていたからだ。

あたかもそんな俺を見抜いていたかの様に一色はクスリと笑みをこぼすと言った。

 

 

いろは「明日、あの教室で4人で話し合いませんか?」

 

 八幡「………は?」

 

 

いろは「いえ、話し合わせてもらいます。もう決めました。これは会長命令ですよっ」

 

 

 俺が事態を呑み込めないでいると一色は ほっ、と言ってベンチから立ち上がった。そうしてニコッと笑顔を作りながら俺の顔を見る。

 

 

 

いろは「せーんぱいっ、帰りましょ」

 

 

 

その後いつもの別れをする所で一色とわかれた。別れ際に一色は今日のことの謝罪ともう一言だけ付け添えて自宅へと帰っていった。

 

 

 『良い返事を期待してますよ』

 

 

 別れ際にこういう台詞をすっと吐くあたりに彼女の包み隠さないあざとさが出ていた。むしろもはやそれが一色らしいと思えて笑えてくる。

 

 

 

 

 家に着くとすでに時刻は23時を回っており、こんな時間帯に帰宅するのは初めてだった。

 初めに一色に呼び止められた際に小町には遅くなることは伝えておいたので、すでに自室で勉強をしているか、あるいは寝ているのだろう。

 俺も風呂に入り、自室へと上がる。

ベッドに飛び乗り再び今日の事をざっと思い返す。

 

 

 

あまりにも色々あった1日だった…。

 本当に今日は疲れた。

でも今日が台風なら明日はスーパーセルが来そうだな…と予感している。

 

…………はぁ、憂鬱だ……

 

 

そんな思考をしている内にいつの間にか睡魔に呑まれ、気付かぬ内に深い眠りへと落ちていた。

 

 

 

翌朝、激しく揺さぶられて重い瞼を開けた。

さすがは冬だ。まだ暗い、真っ暗だ。

 俺は枕元の携帯で時刻を確認する。

 

まだ5時過ぎじゃねぇかっ!!!!

 

 俺をこんな非常識な時間に起こすのは我が家では1人しかいない。なので当然ベッドの横には小町が立っている。

 寝ぼけ眼で小町を見やると小町はニコーッと笑顔をつくる。

 

 

 小町「どーんっ!!」

 

 

そう言ってジャンプした小町は寝転がっている俺の上に大ジャンプした。当然俺は避けられず小町の下敷きになる。

 

ぐべっ!!とこれまた気持ち悪い声が出てしまうが小町はそんなのお構いなしにモゾモゾと動き騎乗体勢へと移行した。

 

 

 小町「天使かと思った?残念、小町でしたっ!!!」

 

 

にっしっしと少年のような笑顔で小町は言う。

………天使よりも天使に見える(確信)

 

 

 

八幡「…うっせ、早くどけ」

 

 

 小町「んもう、お兄ちゃんノリ悪いよ!小町がこんなことしてあげるのお兄ちゃんだけなんだよ?あ、今の小町的にポイント高い」

 

 

 八幡「ノリも何もこんな時間に起こされてるのにあるかよ。何の用だよ?」

 

 

 俺以外にこんなことしたらそいつ月まで吹っ飛ばせそうな気がするぜ。

 小町はえへへーと笑う。…全く悪いと思ってねぇなこいつ。

 

 

 小町「それでそれでぇー、昨日はどうだったのかなお兄ちゃん?例の生徒会長さんとっ」

 

 

それが聞きたかったが為にこんな時間に起こしやがったなちくしょー。

 

 

 八幡「……別に何ともねえよ」

 

 

 小町「そんなわけないじゃん。小町に嘘とは頂けませんなお兄ちゃん。何があったの?言うまで小町はここをどきませんっ」

 

 

むしろどくな、ずっと俺の側にいろ。と言いそうになったが何とか押し込める。

んーむ、昨日昨日…。

 脳が動き出した事で昨日の事をゆっくりと思い出す。

 

…そういや俺、昨日一色に告られたんだ。

 

 俺が思い返していると小町の目が輝いた。

 

 

 小町「お兄ちゃん一級鑑定士の小町は分かってしまったのですっ!!!」

 

 

なんだその需要の欠片も感じられないやつ…。

つか朝からテンション高過ぎてうぜぇ。

 

 

 小町「ズバリ!!お兄ちゃんは昨日!!例の会長さんに!!告白されましたっ!!!!」

 

 

 

………なん……だと…

 

一発で言い当てられた。

さすがは一級鑑定士だ…。

いや、関心している場合じゃない。

なんで分かったの?もしかして顔に出てた?もしかして今俺の顔真っ赤っかなの?

それとも顔に書いてあるの?おい一色、俺の気付かぬ間に何してくれてるっ!!

 

 

 俺が黙っていると、実際は動揺して何も言えなかったのだが小町が目を見開く。

 

 

 

 小町「………え?ホントに?」

 

 

 八幡「…は?お前気付いてたんじゃ…」

 

 

 小町「冗談に決まってるじゃん!お兄ちゃんが告白されたなんて誰も思わないし信じられないよっ!!」

 

 

 

 酷過ぎませんかねぇ。お兄ちゃんを何だと思ってるんだ。これでも俺はハイスペックなんだからな。

 頭脳明晰(国語学年3位)、目を閉じて微笑めば貴公子、目を開ければゾンビ、の俺だぞ!!

 

 

……最後が致命的過ぎるだろ。もう俺目開けないわ。

 

 

 

小町「お、お兄ちゃんが、告白…」

 

 

 何やらぶつぶつ言ってどさっと前に手を出し項垂れる。

おいおい小町さん。小さなお胸がほとんど見えちゃってますよ。

そのまま前かがみで何やら思案している小町はふっと顔を上げる。

 

 

 

 小町「…小町、お兄ちゃん離れ、ちゃんとするね」

 

 

 

 涙目になって俺に笑顔を向ける小町。

そんな事言われたら俺も泣きそう…

 

 

八幡「いやしなくていいから、つかするな。俺も妹離れする気ないから」

 

 

 小町「お兄ちゃん…」

 

 

 八幡「小町…」

 

 

 兄妹の愛がより強まった瞬間だった。

 感動でホントに泣いてしまいそう…

だが小町はすでに、ケロッとした顔をしていて尋ねてくる。

 

 

 小町「ってことでお兄ちゃん!話、聞かせてっ」

 

 

………はぁ、こいつも負けじ劣らずあざといよなぁ。

 俺の感動を返せこの野郎。

 

 

八幡「…はいよ」

 

 

もうこうなったら本当に聞くまでどかないのが小町なので俺は諦めて了承した。

 

 

 

 

そして所々省かれてはいたかもしれないが昨日の事を話した。

 俺が話している間、小町はほえーとかうんうんとか相槌は打っていたが話の腰を折ったりはせず、じっと聞いていた。

 

 俺が話し終えると、うーんと唸ってから小町は口を開く。

 

 

 小町「…お兄ちゃん、これはマジだね。本気でお兄ちゃんを狙ってると小町はみた!」

 

 

あぁ、もうそりゃ分かってんだ。

 昨日のあいつが嘘をついてたなんて思わないし、もし嘘だったら今すぐ[ピーーー]る。

 

 

 小町「んー、でもー、話を聞く限りじゃその会長さん、お兄ちゃんにとって妹キャラっぽいよね?それって小町とキャラ被っててそこは小町的にはあんまポイント高くないかなー」

 

 

お前のポイント制度はほんとよく分からん。

それとキャラなんて言うな。小町はキャラじゃなくて本物の妹だからな、俺は妹キャラなんて偽物より小町を愛し続けるぜっ!

 

 

 八幡「…それで小町、俺の相談にーー」

 

 

そこで小町が手をピシッと俺の顔の前に出して言葉を遮った。そして手をぐーにした後、人差し指を立ててちっちっちとする。

 

 

 

小町「それはダメだよ、お兄ちゃんっ。小町はあと少しで受験なんだし」

 

 

 八幡「そう、だな…。すまん…」

 

 

 俺はアホか。

 小町はもう少しで受験だ。こんなケロッとしている様に見えるが、実際は肉体的にも精神的にもかなり辛い時期のはずだ。そんな小町を頼ろうとしてしまうなんて、最低だな…

 

頭の中で自分を責めていると、でも、と小町は続けた。

 

 

 

 小町「せっかく話してくれたお兄ちゃんにヒントくらいはあげちゃいますっ。さっきの話からすると今日の放課後その3人と話すんでしょ?」

 

 

 八幡「あぁ。考えただけで恐ろしくてチビっちまいそうだが…」

 

 

 小町「もう、これだからゴミいちゃんは。良い?今日その時になったらお兄ちゃんは喋らなくて良いの!」

 

 

 八幡「は?どういうことだよ」

 

 

 小町「ただ黙ってあの3人の話をしっかり聞いて。そしたらきっと、早いうちに答は見つかると思うよ。これが小町からのヒントですっ」

 

 

 

………さっぱり意味が分からん。

 俺はその場で無になってれば良いのか?だが一色が話す内容は当然昨日の事だろう。そして俺は当事者だ。きっと話を迫られるし、何かしらフォローしていかないと一色がアホな事を言いそうだし…

 

だが、小町の助言はいつだって有力だ。今までも何度も俺を助けてくれた。ならやはり、従うのが吉なのだろうか…。

 

 

 

 

俺が思案していると、小町が、それにね、と続けた。

 

 

 

 小町「結衣さんや雪乃さんとは何度も接してきたし、その会長さんも話を聞く限りだと、皆ちゃんとお兄ちゃんの答を待ってくれるし、ちゃんと聞いてくれると思うな。だからこれはお兄ちゃんが自分一人で考えて、答を出すべきだよ」

 

 

 

 俯きながらそう言うと小町はすっと俺の上からどいた。そしてそのままドアの方へと歩いていく。

 

 

 八幡「………小町?」

 

 

 小町「……頑張ってね、お兄ちゃん。小町も、頑張るから…」

 

 

 語尾になるに連れ、だんだんと小さくなる小町の声。

 振り返ることもせず、俺に小さな背中を向けてそう挨拶すると小町は部屋を後にした。

 俺はそんな小町の小さな背中に声をかけることができなかった…。

 

 

 

 

学校への登校時、すでに俺の目は濁っているがそれに更に拍車が掛かっていた。

 朝から何だか疲れた…。昨日の疲れも取れてないし、こんなんで放課後はあいつらと…

 

 

 …………嫌だ、帰りたい。

 

 

 

だがここで引き返さないあたり、俺の社畜根性が発揮されていた。もう俺は働いたら絶対社畜決定だよな。定年迎えるまでもずっと社畜でいられる自信があるぜ。

うん、絶対に俺は働かないっ!!!専業主婦に俺はなるっ!!

 

 

 頭の中で自分の夢を語り終える頃にはすでに自転車置き場に自転車を置いて玄関へと歩いていた。

 歩きながら今すぐ時が止まることを、放課後にならないことを願っていると、後方からドンッと背中をカバンで叩かれた。

 後ろを見やるとニコッと満面の笑みの由比ヶ浜が立っている。

 

………うわ〜、できれば放課後まで会いたくねぇ奴と早速会っちまった…

 

 

 

結衣「ちょっ、なんでそんな嫌そうな顔するわけっ?!せっかくヒッキーに声かけてあげたのに!」

 

 

 別に頼んでねぇし、他の生徒が見てくるからやめろよな。

 

 

 八幡「あぁはいはい。ありがとうございます。では俺こっちなんで」

 

 

 結衣「適当だっ?!ていうかヒッキーとクラス一緒だから道変わんないし」

 

 

いや、それは他の生徒に見られると何かと面倒だから(主に由比ヶ浜が)別々に行こうという提案なわけだが…

そんな考えもお見通しのように由比ヶ浜は俺の横に立つと微笑みかけてくる。

 

 

 結衣「大丈夫だよっ。だから一緒に行こっ?」

 

 

………はぁ、俺も雪ノ下もこいつの頼みになると断れないんだよなぁ。

 渋々はいよ、と了承すると由比ヶ浜は満足した様でトコトコと歩き出したので、俺もそれに続いた。

 

 

 

靴を脱いで上履きに履き替え歩き出したところで由比ヶ浜が話しかけてきた。

 

 

 

 結衣「ヒッキー、今日も部活行くよね?」

 

 

 八幡「ん?あぁ、そりゃ行くが…」

 

 

 

なんだ急に?

 

 

 

 結衣「だよね。来なくちゃ、ダメだよね」

 

 

 八幡「あ?どういう意味だ?」

 

 

なんだか背中を冷たい汗が走った気がする。

 

 

 結衣「大事な話、あるんだよね?」

 

 

 笑顔で俺の顔を見るとそう言った。

な、なんだ?この笑顔がすごく怖い…

 

 

八幡「あ、あぁ。で、でもなんでそれを?」

 

 

 結衣「今朝ね、小町ちゃんからメール来たんだ。今日は兄から大事な話があるんで聞いてあげて下さい、って」

 

 

 

こぉまちぃぃぃぃいいいいいっ!!!

 何してくれてんだよ、さっそくヤバそうな展開だよぉ。

 笑顔を崩すことなくーーー逆にそれが怖いのだがーーー由比ヶ浜は続けた。

 

 

 結衣「楽しみにしてるね!どんな話なのかすっごく気になるし」

 

 

 

いつの間にか教室の前に着いていた様で、それだけ言うと由比ヶ浜はそれじゃ!とだけ言って中に入って三浦たちの元へと駆けて行った。

 俺はその姿を見送ってから自分の席へと着いた。そしてそのまま頭を抱え込んだ。

 

 

………ヤベェよ。由比ヶ浜さんマジ怖ぇよ。なんだか今にも後ろから刺されそうなわけだが、小町何してくれてんだよ…。

 何も喋るなってこういう事か、下手に喋ったりしたらお前死ぬぞって意味だったのか…。

そうだな、俺は今日はもう何も喋りません。

 

 

 

そんな事を考えていると肩をトントンと叩かれた。そちらを見やるとジャージ姿の天使が立っていた。

 

 

 彩加「おはよ、八幡」

 

 

 戸ぉぉ塚ぁぁぁぁぁぁあああああ!!!

おっと、俺はつい今しがた今日は何も喋らないと決めたばかりじゃないか。

ま、戸塚になら良いよな?な?

 

 

 八幡「ああ、今日も可愛いな戸塚」

 

 彩加「もう!僕は男の子だよ八幡!」

 

 

 何言ってるんだこの子は。男の娘の間違いだろう。

 

 

 彩加「……?八幡、なんかあった?」

 

 

 

八幡「い、いやそんなことないぞ?なんで……?」

 

 

 彩加「んー、なんか元気なさそうに見えたから。違うなら良いんだ!でもまた何かあったらいつでも相談してね。僕も八幡の力になりたいからっ」

 

 

 一生俺の側で俺を支えてくれ、と言いかけてやめた。何か嫌な視線を感じたからだ(主に海老名さん方面から、てか海老名さんから)。

 戸塚はまたね、と手を振って自分の席へと戻っていった。

 

はぁ、戸塚最高ぉ……と余韻に浸っていると見慣れた顔が教室へ入ってくる。

 川山?川上?とりあえず川なんとかさんだ。俺と目が合うと少し気恥ずかしそうに顔を背ける川なんとかさん。

 

 

 川越「……おはよ」

 

 

 川島が挨拶してくる、がすまんな川中、俺は今日は誰とも喋らないと決めているんだ。戸塚は例外だがな。

なのでコクッとだけ頷いて顔ごと逸らした。

いやだって、ほら見てみろよ向こう。なんだか由比ヶ浜が睨んできてるしさ…。

 

 

するとガシッと肩を掴まれる。そのまま川崎は(あ、川崎だ。まぁ分かってたけど)俺の前に回り込むとギロッと睨めつけてくる。

 

 

 

沙希「ちょっと、挨拶したんだからちゃんと返しなよ」

 

 

んーむ、どうしよう。コイツがこうして俺の前に来てから由比ヶ浜の視線が一層強まった気がするんだが…。

 俺が考えあぐねていると、川崎はなぜか少し涙目になる。……可愛い。

うん、これは不味い。

 

 

 八幡「悪い悪い、考え事してた」

 

 

 沙希「……それなら別に良い。アンタ、何か考え事してる時多いし…」

 

 

チョロいなこいつ。

プイと顔を逸らした川崎だったが少し口角が上がっている。

やめろそれ、何か意識しちゃって告ってフラれちゃう所まで見えたぞ。

 

そのまま川崎も自分の席へと戻っていく。

ふぅ、危ない危ない。川崎ルートを選んで由比ヶ浜に殺されるとこだったぜ。

 

 

 

そんなこんなで俺の本日の学校生活は大して喋ることなく終わった。

と言ったらあたかも俺が普段喋っているようだがそんなことはない。普段から喋ることがないし、喋る相手がいないので俺はほぼ無言で学校生活を終えている。

…おいどうした、俺の青春が上手く起動してないわけだが……。

 

 

 

 

時間というものは残酷だ。

 面倒くさい授業の時は遅く流れているくせに、嫌な事ーーー例えば中間・期末テストとか、この後の奉仕部に行くこととかーーーが目前に迫っているととても早く流れる。

まぁ実際は自分の脳の感じ方次第だろうから残酷なのは時間というより俺の頭の中だ。

 

 

 最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると教材やらを詰めてそそくさと教室を後にする。

 足取りは重いが、いつまでも教室に残って談笑する相手がいないのと、由比ヶ浜と一緒に行きたくないという思いから早めに歩いた。

 

 気付けばすでに奉仕部の前である。

ガラガラっと音を立てて中に入るとすでに雪ノ下雪乃は来て読書を始めていた。

 俺が来た事に気付くと雪ノ下は顔を上げる。

 

 

 雪乃「あら、今日は早かったのね早企谷くん。どうせクラスに喋る相手もいなかったのでしょうけど」

 

 

 八幡「うるせ。だいたいお前こそどうなんだよ」

 

 

 雪乃「と言うと?」

 

 

 八幡「お前はいつも俺より早いじゃねぇか。俺はいつだって授業終了と共に教室を出るのに俺よりも早いのはおかしい。どうせお前こそ喋り相手がいない教室が居づらくて全力ダッシュでここに来てんだろ」

 

 

 

 雪ノ下が全力ダッシュでここまで走って来る姿を考えたらシュール過ぎて今にも吹き出しそうだ。

 

 

 

 

俺の言葉に はぁ、とため息を吐いてコメカミを抑える雪ノ下。

 

 

 雪乃「走って来るわけないでしょう。ただあなたの足が軟弱なだけじゃないかしら?それに残念だけれど私は教室を出る際クラスの人からちゃんと挨拶されるわ。ただ、わざわざ立ち止まって無駄話をするのは苦手ではあるわね。」

 

 

 

くっ、これが容姿、成績全てにおいて学年1位を連ねるものと容姿も成績もパッとせず性根が腐っている者の差か…

 

 

雪乃「それはそうと比企谷くん、今日は私と由比ヶ浜さんに何やら大事なお話があるようだけれど…」

 

 

 

……小町か由比ヶ浜に聞いていたのか。

まぁ良い、これで一々説明をしないで済む。

 

 

 

 八幡「あぁ、だが由比ヶ浜が来ないことにはーーー」

 

 

 

それと一色もな。そもそもあいつが言い出した事だしな。

 俺の言葉を遮って奉仕部の扉が開かれる。やっはろー!と元気よく笑顔で入ってくる由比ヶ浜

タイミング良いな。

そして由比ヶ浜の後ろからひょこっと一色が顔を出した。

 

 

 

いろは「どうもですっ」

 

 

 雪乃「一色さん?依頼かしら?悪いけれど今日はーーー」

 

 結衣「違うみたいだよゆきのん」

 

 雪乃「………。どういうことかしら?」

 

 

いろは「あーそれはですねー、今日お話があるのは先輩ではなく私からだということですー」

 

 

 

………あぁ、ついにこの時が来てしまった。

 

 

 

由比ヶ浜と一色が来てからすでに15分近くたっているが、誰も一言も喋らない。

 

 俺の横に座っている一色はこの沈黙が気まずいようで、ずっと下を向いている。

 雪ノ下も顔は正面に向けているが目線は下げている。

 

……ヤバいのはこいつだ…。

そう由比ヶ浜である。

 無表情でじっと俺の顔を見てくるのだが怖すぎてまともに見れない。俺と目が合うとにっこりと笑顔を作るのだが、、あの笑顔はヤヴァい。

 普段はバカでうるさい由比ヶ浜なので、その変容は凄まじいものがある。

 

 

 

 

 全員が揃った後、皆黙って自分の席に着いたが、当然一色の席はないので、教室の後ろに積んである椅子を持ってきて俺の横へと座った。

その行為を雪ノ下も由比ヶ浜もじっと見ていた。

 

それから訪れた沈黙を破ったのはわずか5分後、ガラガラと音をたてて開かれたドアだった。やっとるかねー? と入って来た平塚先生だったが、俺たちが無言で机を囲んでいる姿を見て、

 

 

 静「すまん、失礼した」

 

 

とだけ言って教室のドアを閉めるとそそくさと帰っていった。

うん、俺でもそうする。この空気は体に毒だ…。なので今すぐ俺もここから立ち去りたい。

 

 

 

 

それからも沈黙は続いて今に至る。

 誰も喋らないし動かない。

………まさしく冷戦だ……

 

 

 

それからまた少し時間が経った後、痺れを切らした雪ノ下が はぁ、とため息を吐いて口を開いた。

 

 

 

 雪乃「一色さん、そろそろ話してくれないかしら?黙っていても何も分からないし、話があるということで来たのはあなたでしょう?」

 

 

 

うん、さすがは雪ノ下だ。

 口調に若干イラつきがみえるが、ゆっくりと一色を諭すように話を促すあたりが如何にも雪ノ下雪乃らしい。

 

 

 

いろは「あ、はい。ですよねー、すいません。それではーーー」

 

 

 

 話し始めるきっかけを得て喋ろうとする一色の言葉を由比ヶ浜が遮った。

 

 

 

 結衣「待って。ゆきのんダメだよ。こういう時はいろはちゃんが自分で話し始めるまで待たなきゃ。いろはちゃんもそこでゆきのんに甘えないで。自分で話があるって来たんだから、自分からちゃんと話し始めるべきだと思うよ」

 

 

いろは「で、ですよねー。すみません」

 

 雪乃「そ、その通りね、悪かったわ」

 

 

 

ゆ、雪ノ下が素直に謝っているだと…

由比ヶ浜の言ってる事はものすごく正論だが、あの雪ノ下を一喝するあたり、すげぇ。

 由比ヶ浜は案外、保育士や学校の先生なんかが合っているかもしれない。

 

 

 

再び訪れる沈黙。

 一色が由比ヶ浜に非を指摘され、しょぼんとなってしまったからだ。

はぁ、これじゃあ一向に話が始まらねえな…

 

 

 

八幡「由比ヶ浜、お前の意見は正論で大事だが、今は話を進める方が先決だろ?説教なら後にしてやってくれ」

 

 

 結衣「で、でも!………………ヒッキーのバカ………なんでいろはちゃんの味方するの………………」

 

 

 

 何やらブツブツ言っているが気にしない。悪いな、由比ヶ浜

 

 

 八幡「一色もほれ。ちゃんと話せ。それとも代わりに俺が言ってやろうか?」

 

 

 俺が耳打ちすると一色は、 いえ自分でできますっ!と言って顔を上げた。

 

 

 

いろは「では改めまして、お二人にお話がありますっ!」

 

 

 

 一色の声に下を向いて何やらブツブツ言っていた由比ヶ浜も、視線を下ろしていた雪ノ下も、顔を上げ、真っ直ぐに一色を見る。

 二人の視線が集まるのを確認すると一色はすっと息を吸って目を見開いた。

 

 

 

 

いろは「実は昨日、先輩に告白させて頂きましたっ!」

 

 

 

 

雪乃「…………はい?」

 

 結衣「…………え?」

 

 

 

………一色さん、ついさっきまで冷戦だったのになんでいきなり水素爆弾投下すんだよ…プーチンさんもビックリして腰抜かすぞ…

 

二人とも固まっていたが、時期に雪ノ下が額に手を当て一色に尋ねる。

 

 

 

 雪乃「一色さん、もし私の聞き間違えでなければ、いえ聞き間違えであって欲しいのだけれど、この男に告白したと言ったのかしら?」

 

 

いろは「はい、その通りです」

 

 

 雪乃「それはつまり、その………一色さんが比企谷くんの事をす、す、好き、という事で良いのでしょうか?」

 

 

 

なんで敬語になってんすか雪乃さん…

 

 

 

いろは「だからそうだと言ってるじゃないですかー。当然Likeの方じゃなくてLoveの方ですよ?」

 

 

 雪乃「」

 

 

 

 喋り出したことで腹をくくったのか、もう恥ずかしみもなく堂々と応える一色。

 聞いてる俺の方が恥ずかしくてヤバい。

そんな一色に唖然として両手で額を支える雪ノ下。

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

ガラガラァッと申し訳なさそうに教師雨ドアが開けられる。が、誰も入って来ない。なぜだか足音だけが遠ざかっていく。

おい、開け逃げか…?

 皆がそちらに怪訝な視線を送っていると、遠ざかる足音が消え、逆にドンドンと近くなっている。一歩一歩がドスンドスンと鈍い音を立てている。

 

もしや………

 

 

嫌な勘は本当によく当たるもので、その足音の主はドアより2、3メートル前から声を発する。

 

 

 材木座「助けてよ、ハチえもーーーんっ!!!」

 

 

 見事に走り込んできた材木座

そのまま俺の元へ駆けてこようとしたが、いくら材木座といえど教室内の空気を感じとった様で、ぬぽん?っと奇怪な声を上げる。

 

 

 

 材木座「………これはいったいどういう事でござるか?我はまだ魔界を抜けておらなんだか?」

 

 

 意味の分からん設定を口にする材木座

そんな材木座を見て一色はドン引きしているが、雪ノ下と由比ヶ浜は違った。

 

 

 

 雪乃「…今は相手にしてる時間がないの。正直言って邪魔よ」

 

 

 結衣「悪いけど出てってくれる?」

 

 

 

もはやゴミを見るかの様な無表情で材木座を見る由比ヶ浜と雪ノ下。

 材木座の方を見るともはや泣きそうな顔をしている。

 

うん、これは仕方ないな。まぁ材木座だからどうでも良いけど。つか涙目の材木座とかキモいだけだし。

 

 

 

 

すると口をワナワナさせて喋り出す材木座。だからキメェよ。

 

 

 

 材木座「信じておったのに…ここの住人だけはなんだかんだ言いつつも我を構ってくれると信じておったのに…。見損なったぞ、八幡っっっ!!!」

 

 

 俺かよ…。

 

 

 材木座「こんな三次元の女などにうつつをぬかしおっtーーーー」

 

 

 結衣「帰って」

 

 

 材木座「はい、失礼しました。」

 

 

 

おい、素になってんぞ。

そのまま材木座はマジで泣きそうな顔をしながら一礼すると教室を後にした。

そして由比ヶ浜は無言のまま席を立ち、教室の鍵をかける。

 

 材木座をたった一言で一喝して帰らせ、自分の席に着いてから俺の顔を見てニコッと笑顔をつくる由比ヶ浜は今にも身体中から炎を出しそうだ。

 

 願わくば、異能バトルは日常的に起こってほしくない。

 

 

 

 

この教室内の誰もが由比ヶ浜のその笑顔に恐怖を感じていた。

 本当に恐くて強いのは雪ノ下よりも由比ヶ浜の方な気がする。ラスボス臭がハンパじゃない!

 一色も雪ノ下も完全に顔を伏せている。俺も目を横にそっと逸らした。

 

 

 

 結衣「なんで目ぇ逸らすのヒッキー?」

 

 

 

 肩がビクッと跳ねる。

あ、やばい。本当にチビりそうだ…。

 笑顔のまま喋る由比ヶ浜だが声が冷えきっている。

 

 

 

 八幡「いや、これはその……」

 

 

 由比ヶ浜「何か後ろめたい事でもあるのヒッキー?」

 

 

その語尾にヒッキー持ってくるのやめてくれ。

ユッキー…って言われてるみたいで怖い。お前は我妻さんなの?愛する人の為ならその人でも殺しちゃう1周目の世界からやって来た狂乱の女の子なの?

 

ここは話題転換だっ。

 

 

 

 八幡「い、いやー、由比ヶ浜が後ろめたいなんて言葉知ってるなんて驚きだなぁ」

 

 

 結衣「話逸らさないで。何かアタシに隠したい事でもあるの?」

 

 

 無理だった。隠したいのは自分の身です。

 

 

いろは「その、結衣先輩、今話があるのは先輩じゃなくて私なので、そのぉーーー」

 

 

 

 

一色から助け舟が出される。

ありがとう一色!

だがそれは由比ヶ浜には焼け石に水、いや火に油を注いでしまった様で目がキッと一色を捕らえる。

 

 

 結衣「なんで2人して庇いあってるの?」

 

いろは「い、いえ、そういうわけではぁ…」

 

 

 一色はその由比ヶ浜の眼光に射竦められ、再びしゅんと下を向く。

もう由比ヶ浜の顔は笑っていない。そのまま下に俯くと由比ヶ浜はゆっくりと口を動かす。

 

 

 

 結衣「…もう2人は、付き合ってるの……?」

 

 

 

とても小さくて今にも消えてしまいそうな声が確かに教室中にこだました。

 先ほどまで視線を下げていた雪ノ下もゆっくりと顔を上げて、俺と一色を見やる。

 一色も顔を上げる。その目には少しの涙が溜まっていて彼女の口を微妙にわななかせていた。

 由比ヶ浜は下を向いたまま動かなかった。先ほどまでの彼女とはうって変わり、その型はとても小さい。

 

 

 

いろは「まだ、貰ってないんです、返事。」

 

 

 

 言葉と同時に一滴の涙が一色の頬を伝った。

 

 

 

 

 

こればかりは俺の中にわずかに残る良心がひどく痛んだ。

 

 彼女は、一色いろはは、今日、いったいどんな気持ちでここに足を踏み入れたのだろう?

どんな想いで俺と顔を合わせたのだろう?

どんな思惑で俺の横に座っているのだろう?

どんな感情で俺と雪ノ下と由比ヶ浜の言葉を聞いていたのだろう?

 彼女は今、どんな顔をしている?

そうだ、泣いているんだ。

 

 俺は何も考えていなかった…。いつも通りの接し方の横で涙を流す少女の事を置き去りにして雪ノ下と由比ヶ浜から目を背ける方法しか考えていなかった。

 

ホント、自分が嫌になるな…。

いろんな建前を設けて、人の想いから逃げて、人の想いを引き裂く。

 

 残酷なのは誰だ?葉山か?世間か?世界か?違う。

 葉山が残酷なのは自分に近付いて来る者に対してのみだ。

 世間が残酷なのは大衆に対してだ。

 世界が残酷なのはこの世界全てに対してだ。

 

 

だがここは違う。

 

 

 

 

 

この空間で、彼女に、彼女たちに、最も残酷なのは他でもない、俺だ………。

 

 

 

 俺をまっすぐ見つめる雪ノ下が、俯いている由比ヶ浜が、一色の涙が、それを完璧なまでに証明していた。

 

 

 

 

雪乃「どういう事かしら?」

 

 

 八幡「それは……」

 

 

 

 雪ノ下の視線に射竦められ思わず言葉をなくしてしまった。

 

ここで、ここでもしこの奉仕部のお前たちの事を思って、なんて言ったらこいつらはどんな気持ちになるだろう?

 俺が答が出せないのを自分たちのせいにされて良い気分でいられる奴なんていないだろう。

 

 

 俺が言葉を考えあぐねていると、一色が涙を袖で拭い取り口をはさんだ。

 

 

 

いろは「それは、雪ノ下先輩と結衣先輩の事を思ってです」

 

 

 言っちゃったよ、この娘。

 案じた通り雪ノ下の眉根がピクッと動く。

 

 

 雪乃「私たちの事を思って?それこそどういうことかしら?まさか私たちを体の良い理由に使ったという事かしら?それならまことに遺憾なのだけれど」

 

 

いろは「それは違います」

 

 

 雪乃「何が違うというの?比企谷くん、あなた私たちを厄介者として思っていたのね?」

 

 

いろは「違いますよ!先輩はそんなことーーー」

 

 

 雪乃「一色さん、あなたに聞いていないわ。私は今、比企谷くんに聞いているのよ。さぁ、どうなの?」

 

 

 

 雪ノ下はジリッと俺を睨んだ。

 

 

 

 

…………あぁ、こんな時に俺はなんてことを考えているのだろうか…。

 

 

 今、雪ノ下の言葉を聞いて、一瞬にしてパズルが解けたかの様な感覚に陥った。

 

 

 

 

そうか。これが、答だったんだ……

 

 

 

涙目で俺を見上げる一色。

 俺に言い逃れをさせない様な鋭い視線を向けてくる雪ノ下。

 先ほどから黙ったままの由比ヶ浜

 

 

なんて酷い状況だ。

 俺はこんな空間が欲しかったんじゃないんだ。それだけは、唯一にして絶対の、俺の本物の想いだ。

 

 

 

 今の俺にこんな現状を変える事が出来るか?答えはYesだ。

それが俺が彼女たちに向ける答だ。

 

 

 嫌になるなぁホント。

こんな酷い状況で、こんな酷い事を一瞬で思いついちまうなんて。

 

でも見えちまった。

 現状を変える術シナリオが。

ならそれに従うしかない。

だって俺はーーーーーーーーー

 

 

 

八幡「……その通りだ」

 

 

 

ーーーーーこんなやり方しか、知らない。

 

 

 

いろは「ちょっ、先輩?!」

 

 一色が驚愕して俺を見てくるし、雪ノ下はギロッと睨めつけてくるが今はそんなの気にしてられない。

 

 

 

 八幡「ようやくこれを言える時が来たわ。すまんな一色。実はもう俺、昨日のうちに答出てたんだ」

 

 

いろは「……え?」

 

 

 八幡「お前が明日奉仕部で4人で話し合いましょう、って言った時からだいたいな。確実に答が出たのはその後の帰り道だった」

 

 雪乃「あなた、何を……?」

 

 

 

 先ほどまでと打って変わり雪ノ下も動揺し始めた。はぁ、と大きく溜め息を吐いて俺は続ける。

 

 

 

 八幡「わからねえのかよ雪ノ下。言わなくても分かり合える、そんな関係を望んだのはお前だろ?」

 

 

 雪乃「そ、それは…」

 

 

 八幡「はぁ、だからさ 何を?って、さっきお前が言ったじゃねえかよ。使わせてもらったんだよ、お前らを理由に。一色を確実にフってやる体の良い理由にな」

 

 

 

雪乃「あなたは、あなたはまたそうやって……」

 

 

 八幡「また?何のことだ雪ノ下?あぁ、なるほど。また俺の勝手な自己犠牲がどうたらこうたらと言いたいのか。それは違うぞ」

 

 

 雪乃「……何が違うというのかしら?」

 

 

 八幡「それだとまるで俺が何かを守るために悪者になっているように聞こえる」

 

 

 雪乃「…違うと言うの?あなたは今、ここで悪者になることで現状を変えようとしている、そういう風に見えるのだけれど」

 

 

 八幡「違うな。それは俺が一色をフリたくない時に成り立つものだ。なら俺が一色の事を本気で迷惑に思っていて今後一切関わらない様にフりたかったらどうだ?全てが逆になるだろ」

 

 

 雪乃「そ、それは…。でも現にあなたは今まで………」

 

 

 八幡「あぁそうだ。それは認める。自己犠牲だなんて思わないが、俺は今まで問題を解消するためなら何だってやってきた。自分が汚れ役になることだって厭わなかったのは事実だ」

 

 

 

これぞ必殺、自分の非をあえて認める事でその後の話に説得力を持たせる!だ。

 長ぇな……。

 

 

 

 八幡「でも今回は違う。本気で一色の事を迷惑だと思ってたんだ。ここ毎日買い物には付き合わされるし、昨日は告白してきてフったら大泣き、バカみたいに食い下がって別にどうでもいい話を延々と聞かされ、家に着いたのは23時過ぎだぞ?たまったもんじゃねーよ。俺は自分の時間を奪われるのが嫌いなんだよ」

 

 

 

一色の方をちらりと見ると今にも泣きそうなのをグッと堪えている様に見える。

 俺は昨日からコイツを泣かせてばかりだな。

 

 

 八幡「だからお前らを使わせてもらったんだ。でも良いだろ?だって俺たちは、そんな事で壊れない様な本物になれたんだから」

 

 

 

 雪ノ下の目にみるみる内に力がこもる。

だが俺はその目から視線を逸らさない。

 俺の本気さを伝えるために。

 

 

 

 雪乃「あなたの言う通り、私も目には見えずとも確かに感じる強い関係になれたと思っていたわ。けれどそれは私の傲慢だったようね。あなたが望んだものがこんなものだったなんて思いもしなかったわ。そんな関係ならお断りよ」

 

 

 

 雪ノ下が言い終えると俺はたっぷりと間をとった。

 

 

 八幡「………そうかよ。ならもう終わりだな。…………帰るわ」

 

 

 俺は机の上のかばんを手に取り帰ろうとする。

これで終わりだ。雪ノ下も由比ヶ浜も一色も、こんだけ言った俺を軽蔑するだろう。俺は晴れて悪人になったわけだ。

 手に入れた本物を手放してでも、俺は、こいつらだけは守りたかった。

 

 席を立つと一色を一瞥する。

 

 

 

 八幡「つーわけでお前への答はNoだ。今後一切、俺に話しかけてくるな」

 

 

そして歩き出してからドアの手前で止まる。

 

 

 

 八幡「じゃあな。もうここにも来ねぇわ。お前ら2人とは本物のkーーー」

 

 

 俺が言い終える前に1人が席を立ち俺の前まで歩いてくる。

 由比ヶ浜だ。

その瞳は潤んでいるがキッと俺を睨みつける。

 

パシンッ!!

 教室中に音が響き渡った。

 

 

 

雪ノ下も一色も驚いてその光景を見ていた。かくいう俺も驚いて由比ヶ浜を見る。

 叩かれた左頬はジンジンと痛い。

 先ほどまでの目つきとは変わり、由比ヶ浜はニコリと微笑んだ。その笑顔は今日の怖い笑顔ではなく太陽のように朗らかで眩しい。

 

 

 

 結衣「だめだよ、本物本物って、そんなに言ったら。ヒッキーがあの時言った本物は、そんな気安く言っていい様なものじゃないよ。だからこれはその罰だよ」

 

 

 

 俺がただ呆然と立ち尽くしていると今度は雪ノ下のもとまで歩いていく。

 

パシンッ!

 俺よりは優しくではあるが、それでも雪ノ下の顔をぶつ由比ヶ浜。雪ノ下はぶたれた頬を手で押さえ完全に混乱している。

 

 

 雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん、え?これは、えっと…え?」

 

 

 結衣「これはヒッキーの言ってる事が本心じゃないって分かってるくせにヒッキーの案にわざと乗るゆきのんへの罰」

 

 

 

そして今度は一色のところへ。

 見上げる一色の頬を同じ様に叩く由比ヶ浜

 

 

 

 結衣「いろはちゃんへのは女としての嫉妬。だからいろはちゃんもアタシの事叩いて」

 

 

 少し逡巡していた一色だが由比ヶ浜の頬をぶった。

 

 

 

 

…………何がどうなってる?

この状況はなんだ?

 

 由比ヶ浜は叩かれた後俺の方へくるりと振り返る。

 

 

 

 結衣「えへへ、やっぱ痛いね。ごめんねヒッキー、ゆきのん、いろはちゃん。でもアタシ、これがヒッキーがあの時言った本物だと思うんだ」

 

 

 由比ヶ浜の目にはとても強くて温かな力が入っている。その瞳から目を離せない。

 静まりかえっている教室に由比ヶ浜の声が澄み渡る。

 

 

 

 

 結衣「あたし、今日、冷静じゃなかった。今朝小町ちゃんからメール来て、ヒッキー昨日夜帰ってくるの遅かったって、そんなヒッキーから大事な話がある、って書いてあったから、ずっとモヤモヤしてた。朝からヒッキー、彩ちゃんやサキサキに話しかれられたらいつも通りなのに、アタシが話しかけるとめっちゃキョドってるし…。ここ来て話聞いたらいろはちゃんが告白したって言うし」

 

 

みるみるうちに由比ヶ浜の目に涙が溜まり次第に頬を伝う。

だが彼女は話をやめない。彼女の瞳の中に灯る温かな火を涙は消せないようだ。

 

 

 

 結衣「酷いよヒッキー。夏祭りの時はアタシの言葉聞いてくれなかったのに。そりゃアタシは冷静じゃいられないよ。ヒッキーにちゃんと聞いて欲しかった、伝えたかった想いがあったんだもん」

 

 

でもね、と彼女は続ける。

 

 

 

 

結衣「それでも嬉しかった。ヒッキーがいろはちゃんにまだ返事してないって聞いて、アタシ達の事をちゃんと考えてくれてるって思って、嬉しかった。だって絶対その言葉に嘘なんてないもんっ。ヒッキーがアタシとゆきのんの事を本当に大切にしてくれてるのアタシが、アタシ達が、一番よく分かってるもん!ヒッキーからもらった本物、ずっと感じてるもんっ!」

 

 

 由比ヶ浜の言葉になぜか俺の視界がゆらぐ。目から出そうになる俺の想いを必死に堪える。

 

 

 結衣「アタシだって、ゆきのんだって、またヒッキーが一人で抱え込もうとしてるって分かっちゃうんだよ。だってアタシ達とヒッキーは、もう、繋がってるんだよ?それはいろはちゃんだって同じだよ。ヒッキーが、本当のヒッキーが、どんな人かって分かってるから、きっといろはちゃんはヒッキーの事好きになったんだよ」

 

 

 

 目を閉じる由比ヶ浜

その顔は何よりも綺麗で、儚くて、温かい。

そのまま由比ヶ浜はだから、と続けた。

 

 

 

 結衣「応えてあげてヒッキー。いろはちゃんの言葉を聞いて、本当の想いに、本当の想いで応えてあげて。それが、それが今回の奉仕部からの、解答だよっ」

 

 

 

ニッコリと笑顔を向ける由比ヶ浜

チラリと雪ノ下を見ると、雪ノ下の目も濡れており、コクリと首を縦に振った。

 

 

 

 

そうか、俺はもう繋がってたんだ。

こいつらと。

 他愛のない会話をして、由比ヶ浜の持ってきたお菓子を食べながら雪ノ下のいれる紅茶を飲んで、時にぶつかりあって、間違えて、でもそこから更に強く繋がれる。

なんだかんだ言って、実際は気付けてなかった。

 

 

 

 

俺たちはもう、本物だ。

 

 

 

 

そう言うと由比ヶ浜は自分の席へと戻っていった。席に着くと再び由比ヶ浜は俺に温かな眼差しを向けてくる。

 

 

 

 結衣「ヒッキー、ヒッキーがどんな答を出したって、それが本心ならアタシたちは変わらないよ。これからもずっと一緒にいられるよっ」

 

 

 

 由比ヶ浜が喋り終えると雪ノ下も目に溜まった涙を指で払い、俺に温かな笑みを向ける。

 

 

 

 雪乃「まことに遺憾ではあるけれど由比ヶ浜さんの言う通りよ。私たちはあなたのせいで切っても切れない関係になってしまったのだから」

 

 

 八幡「…………あぁ」

 

 

 

2人に背中を押してもらって俺はようやく決心がついた。俺が守りたかったモノに、俺は守られていたんだ…。

2人の言葉をしっかりと胸に刻み込んでから、一色へと向き直る。

 

 

 

 八幡「一色、さっきはすまなかった。その、お前さえよければーーー」

 

 

いろは「良いに決まってるじゃないですか。昨日も言いましたけど、何を言われたって私は先輩が好きなんですっ」

 

 

 

一色の言葉に由比ヶ浜はうわー、うわーと顔を手で覆い赤面している。

おい、さっきまでのお前と変わり過ぎだろ!つか、お前がこの状況作ったんだろうが。そういうのされると本人達は余計に恥ずかしくなるんだからやめてくれよマジで…。

 一色も由比ヶ浜の反応に耳の先まで真っ赤に染めている。

 

 

 

 八幡「そ、そうか…。でもお前には昨日から酷いこと言って何度も泣かせちまってるし……」

 

 

 

 俺の言葉に一色が目をパチクリさせる。

 顔はまだ紅い。

 

 

いろは「いえ、私がさっき泣いてしまったのは先輩に酷い事言われたからじゃないですよ」

 

 

 八幡「………えっ?」

 

 

いろは「私が先ほど泣いてしまったのは、そのぉ、……………自分で泣いた理由言うのはこれまた恥ずかしいですね……。もう先輩のご想像にお任せします」

 

 

 八幡「お、おぅ」

 

 

いろは「………それで先輩、先輩の本当の答はなんですか?もう答は出てますか?」

 

 

 八幡「それは、その……」

 

 

 

 答…………わかんねぇのが本当だ。

いや、ほら一色は可愛いぜ?

 確かに猫被ってるが俺の前ではそれがバレてるの承知で接してくるし、腹黒そうに見えて実は純情な乙女だって事はあの葉山に告った時からわかってたし。

そもそも妹っぽいし。小町には法的に手を出せないがそれを一色に出来rーーーおっと、これはこれ以上考えるのは止めておこう。

それはおいておいても一色と付き合う事にデメリットがあるとは思えない。

そもそも一色といる時間は普通に面白いし、なんか和むし…。

 

 

だが、それが好き、という感情なのかが分からん。

ん?アレ?好きってなんだ?

 

 

 俺が思考スパイラルに陥っていると由比ヶ浜が口を開く。

 

 

 

 結衣「ヒッキーはいろはちゃんの事、嫌いなの?」

 

 

 

その聞き方はかなりセコい気がする。

 例え俺が一色を嫌いでもさすがに嫌いだ、と答えられるわけがなかろう。

 自信を持ってそこで嫌いだ、と言えるのは材木座相手くらいだろう。

 

 

 

 八幡「………嫌いでは、ない」

 

 

 結衣「でも少しくらいは意識してるよね?」

 

 

 八幡「す、少しくらいは、な……」

 

 

 

 俺の返答に一色がキラリと目を輝かせる。いや、この話の流れは完全に不可抗力だから、だからそんな期待してる様な顔するな。

 

 

 

 結衣「つまりヒッキーは自分の中の気持ちがいろはちゃんをラブな方で好きかどうかが分からないってことだよね?」

 

 

 八幡「……あぁ」

 

 

この辺はさすが由比ヶ浜である。相手の気持ちを読み取るのが上手い。だがその解決法が見つからない様で、それからうーんとか唸って思案し始める。

 一色も俺の答が出るのをモジモジしながら待っていた。

そんな時である。

 

 

 

 雪乃「交際してみてはどうかしら?」

 

 

 

 先ほどまで顎に指をたて、思案していた雪ノ下が口を開いた。

は?何言ってんのこいつ?

 

 

 

結衣「それだっ!」

 

 

 八幡「それだじゃねーよ。俺は一色を好きかどうか分かんねぇんだぞ」

 

 

 結衣「だからこそだよっ!それにヒッキーが分からないのはいろはちゃんを好きか嫌いかじゃなくて、好きがどういうものかって事でしょ?」

 

 

 雪乃「そうね、まぁいずれにせよここで早急に答を出すのは今までの議論を無駄にしかねないわ」

 

 

 八幡「そ、それはそうかもしれんが…。

だけどそんな俺と付き合っても一色が辛いだけじゃねぇか」

 

 

 雪乃「それはあなたではなく一色さんが決める事だわ」

 

 

 

そう言って雪ノ下は一色へと視線を動かす。俺と由比ヶ浜もそれに続く。

 

 

 

いろは「つまり私が先輩と擬似交際をして先輩を振り向かせれば良いという事ですか?」

 

 

 雪乃「そういうことになるわね」

 

 

 

 一色はふむぅ…と少し考え込む。

だが答が出るまでに大した時間はかからなかった。

 

 

 

いろは「それでいきましょうっ!」

 

 

 

八幡「それで良いのか?それでもし俺がお前をフったらどうすんだよ」

 

 

いろは「その時はその時ですっ!でも今はまだどうなるか分かりませんよねっ。だからせーんぱいっ、よろしくお願いしますっ」

 

 

 

これで本当に良いのだろうか?

だけど俺には今はどうすることもできない。それに自分の気持ちを知る良い機会だとも言える。なにより一色がそうしようと言っているのだ。俺はそれを拒むわけにはいかない。

よって俺は首肯した。

 

 

 

 

 雪乃「そうと決まれば今日はここで終わりにしましょう」

 

 

 八幡「つってもまだ少し時間あるぞ?」

 

 

 結衣「早速目の前でイチャつかれても困るし、今日はここまでにしとこうよっ」

 

 

 八幡「いやイチャつかねぇし、そもそも本当に付き合ってるわけではーーー」

 

 

 雪乃「部長が終わりと言ったら終わりよ。私は鍵を閉めていくから先に出てもらえるかしら?」

 

 

 結衣「あたしも鍵閉め手伝うよゆきのんっ」

 

 

 

 冬なので窓は開いていない。

だから二人掛かりで閉める必要なんてないだろ、と言おうとしたがやめた。

 

 

 

 八幡「………わかった。じゃあまた明日な。ほれ行くぞ一色。」

 

 

いろは「へ?あ、はい。ってちょっと待って下さいよーせんぱーい」

 

 

 一色がパタパタと後ろを付いてくる。

そしてそのまま奉仕部を後にした。

 

 

きっと彼女たちは2人で閉めるのだ。

 俺の人生も周りの空間や人も俺の主観のみで決まる。だから彼女たちがこれから何の窓を閉めるのか俺には分からないし、知る権利もない。ただそれは2人で閉める窓なのだ。

 

 

 

だから心の中でそっと呟こう。

ありがとう、そして、ごめん………と。

 

 

 

 由比ヶ浜に叩かれた頬はずっと温かった。

 

 

 

 

奉仕部を出てから玄関で靴を履き替え自転車置き場から自転車を取り帰路につく。最終下校まではまだ時間があるので校門付近に人の影はほとんどなかった。校門の外で待っていると一色がやってくる。

 

 

 

 八幡「今日は買い物、良いのか?」

 

いろは「はい。ていうか本当に毎日買いたい物があるとでも思ってたんですか?」

 

 八幡「は?」

 

 

どういう意味だ?じゃあ今までのは何だったんのだろうか。

 一色は はぁ、と大きな溜め息を吐いて続ける。

 

 

いろは「これだから先輩は困ったものですね。いくら女子高生でも毎日の様に買い物には行きませんよー。お金だってかかりますしー、面倒ですしー」

 

 八幡「つまり?」

 

 

いろは「………なるべく先輩と一緒に居たくて、毎日少しずつ買って日を稼いでたんです」

 

 

 八幡「ふーん」

 

いろは「ちょっ!その反応酷くないですかーっ?!」

 

 

 

 俺の腕を横からポカポカ叩いてくる。

うっわー、あざとーい。

でも実際ドキッとしてしまった。

やめろよ、素で女子にそんな事言われた事ねぇから全く耐性ねぇんだよ。

 

 

 

いろは「なので先輩、今日はここまでで良いです。何だか昨日今日と色々あり過ぎて、ちょっと頭ついてきてないので今日は1人で帰って頭の中整理したいと思いますっ」

 

 

 八幡「………そうか、なら気をつけてな」

 

 

 

 

はいっ、と返事をすると一色はスタスタと歩いていった。正直1人で帰らせるのは不安ではあるが、ここは彼女の意見を尊重すべきだろう。

 遠くから一色が手を振ってくる。俺も少しだけ手を挙げてそれに応えると踵を返して自宅へと進路をとった。

 

 

 

 帰り道、冬の寒さは自転車に乗ると一層強く感じる。コート、手袋、マフラーと装着しているが、無防備の耳を吹き抜ける風がもはや痛く感じられる。

 

 一色の言う様に俺も頭の中はまだ混乱している。

だがなぜか心の中はクリアだった。

そこには暖かくて心強い何かだけがある気がする。

 今日の由比ヶ浜の言葉が何度も混乱している頭の中で唯一鮮明に反芻していた。

 

 

 冷えた風が目に入ると涙が出てくる。

 止まらなかった。誰もいない路地を風に吹かれて涙を流しながら帰った。

 風のせいで出てくる涙が何度も何度も俺の身体を温めてくれた。

 

 

 

 

家に着く頃には涙は止まっていた。

おかしい、家に着くまで冷たい風を浴びていたはずなのに…

 

俺が玄関を開けて中に入る。家の中はしーんとしていた。だがリビングへの戸を開けた瞬間、ばぁっ!!!と小町が死角から飛び出してきた。

 一瞬たじろぎはしたが、すぐに小町のおでこにチョップをくらわす。

 

 

 小町「DVだっ!これDVってやつだ!この前保健の授業で習ったもんっ!小町はお兄ちゃんにDVされましーーー」

 

 

 

 喚く小町に今度は少し強めにデコピンをする。

 

 

 小町「いったぁ〜〜〜………。うぅ、お兄ちゃんが小町を虐めるよぉ。これは雪乃さんに連絡だっ!」

 

 

 

 後ろを向いて携帯を取り出す小町の後頭部を再びチョップする。

 

 

 

 小町「うっ、うぅ。なんで黙って痛い事するのお兄ちゃん?そういう趣味なの?親父にもぶたれた事ないのにぃっ!」

 

 

 八幡「そんな趣味ねぇよ。ただお前にはお説教が必要なだけだ。それとお前が親父なんて呼んだら絶対自殺しちまうからやめろよ」

 

 小町「お説教?」

 

 

 

はて?と首をかしげる小町。

んーむむむ、と自分が何かしたのかと少し考え込んだがさっぱり心当たりがなさそうだ。

 

 

 

 

八幡「お前、昨日俺の帰りが遅かったことまで由比ヶ浜と雪ノ下に教えただろ」

 

 

 小町「違うよっ!それを教えたのは結衣さんだけだよっ!雪乃さんに言ったらその場で警察に連絡されそうだから言わなかったの。あぁ、なんて小町は兄思いの良い妹n」

 

 

 再びチョップ。

 

 

 八幡「ばか、由比ヶ浜にも言うなよ。おかげで今日の由比ヶ浜はビーストアウトすっ飛ばしてビーストオーバーしちまってたんだぞ。俺が殺されるかと思ったわ。お前の方がDVだ」

 

 

 小町「ぷっ、お兄ちゃんはばかだなぁ。DVは身体を傷付けることを言うんだよ?」

 

 

 八幡「お前の方がバカだろ。DVは精神的暴力も含まれるんだよ」

 

 

 小町「うそっ?!」

 

 

 俺の方が嘘だと信じたいよ。この前聞いた内容をもう忘れちゃってるなんて、受験生として大丈夫なのかお兄ちゃん心配しちゃうよ。

 

 

 

 小町「まぁそんなのはどうでも良いんだけどさ、どうだったの?ちゃんと答出せた?」

 

 

 

 

 DVの内容範囲はどうでも良いけどお前の記憶力はどうでもよくねぇよ。

 俺が黙ったままでいると、あちゃーと言って倒れこむ小町。

だが およ?と声を出してすぐに顔を上げる。

 

 

 

 小町「じゃあなんでこんな早いの?きっとそれならかなり暗黒な世界になってたんじゃない?」

 

 

 八幡「……確かに俺の答は出てねぇけど奉仕部としての答は出たんだよ」

 

 

 小町「ん?どゆこと?」

 

 

 

 

八幡「俺のこんな話より勉強の方は良いのか?さっきまでしてたんだろ?」

 

 

 炬燵の上には勉強道具が広がっている。

だが小町は良いの良いのっと手を振って俺の話を促す。

…………良いのかホントに……。

 

 

 

 小町「ちゃんと話聞かなきゃ勉強にも身が入らないよっ。だから教えて、お兄ちゃんっ」

 

 

はぁ、と溜め息をついて、カバンを近くに下ろすと炬燵の中に入る。小町もそれに続くが、広くもない炬燵なのに小町は俺の横へと押し入って来た。そして肩と肩をキッチリ合わせると にししっと笑顔を向けてくる。

 

………絶対に誰にもやらん、絶対にだ。

 

 自分の中で決意表明してから、1つ咳払いを入れる。

それから今日の事をザックリ話した。

その間、小町は黙ってじっと聞いていた。

 

 

 

小町「これだからごみぃちゃんは…」

 

 

 

 俺が話し終えると小町は額に手を当てやれやれと首を横に振る。

そのポーズ雪ノ下みたいだからやめろ。

そのまま小町は続ける。

 

 

 小町「そもそも小町言ったよね?その時になったらただ黙ってるだけで良いよ、って」

 

 

 八幡「いやだって俺は当然話を振られるだろ?そもそも誰も喋ろうとはしねぇし。つかなんで黙ってるだけで良かったんだ?俺には全くそうは見えなかったが…」

 

 小町「こぉれだからごみぃちゃんはごみぃちゃんって言われるんだよっ!」

 

 

いや、言うのお前だけんですがねぇ…。

 

 

 小町「初めは誰も喋んなくたっていづれ誰かが口を開くでしょ。その後お兄ちゃんは何にも喋らなくても良かったんだよ。そしたら皆さんお兄ちゃんの気持ちを知りだがって、勝手に自分の想いぶちまけて、お兄ちゃんはその間皆さんの意見を聞きながら考えれて最終的には答を出してた、っていう感じになってたと思うな小町的に」

 

 

 

八幡「いや、そんな上手くいかねーだろ。一色はまぁアレとして、雪ノ下が自分の気持ちを素直に言うとは思えねぇし、今日の由比ヶ浜バーサーカーだぞ?そんな風にはなんねぇよ」

 

 

 今回ばっかりは小町の言う通りにしなくて正解だったぜ、と胸を撫で下ろしていると、小町は深く溜め息をついて遠くを見やる。

 

 

 小町「お兄ちゃんどんだけ結衣さんと雪乃さんと過ごしてきたの?小町よりもずっとたくさん一緒にいたくせに。本気で言ってるなら小町的にポイント低ーい」

 

 八幡「あのなーーー」

 

 小町「結衣さんも雪乃さんもすっごく分かりやすい人だよ。むしろあそこまで分かりやすい人達はそうそういないと思うけどーーーー、あそっか!お兄ちゃん滅多に人と関わんないからそういうの分かんないかっ。ごめんねお兄ちゃん」

 

 

 八幡「おいやめるんだその同情の目を。それに俺は人を見る目は他の追随を許さんほどだぞ?千里眼と呼ばれる日も近ぇんだからな」

 

 

 

 俺が言うと小町は あーはいはいと面倒くさそうにあしらう。………酷ぇ…。

でも、と今度はキャピッとした口調で喋り出した。

 

 

 小町「仮に、とはいえ彼女を作るなんて小町的にポイント高いよっ!そのまま本当に付き合って結婚までしちゃいなよっ!」

 

 八幡「あほ、話が飛び過ぎだ」

 

 

そう言って横にいる小町の頭をコツンと叩く。

 全く、なんでこうリア充どもは恋愛=結婚みたいな発想なんだよ。だから別れた時に辛いんだろ。なんだよ、わざわざメアドまで彼氏や彼女の名前入れて後ろに.Fam@〜みたいなよ。お前らまだファミリーじゃねーだろいい加減にしろっ!

しかしおかげでアド変してきた時にそういうのとれてたら爆笑もんだけどな。

まぁ誰からもアド変とか来たことねぇけどな。

 

つかリア充って、小町は俺の妹なのにリア充なのか?

…………川崎太志か。今度あったら瞬殺だな。あんな可愛い姉まで居て、そのくせ小町にも手を出すだと?ただじゃおかねぇぞあのゲスチン野郎っ!!

 

 

 

 

心の中で憎しみの炎を燃やして写輪眼を開眼しかけていると、隣にいた小町は自分の元いた席に戻り勉強を始めようとしていた。

よって俺は席を外そうとする。

そんな俺の背中に小町がお兄ちゃん、と優しく喋りかけてくる。

 

 

小町「よく、がんばったね。小町的にポイント、高いよ」

 

八幡「…………うっせ」

 

 

俺はそのまま部屋を後にした。

帰って来た時から小町の目元が赤かった事には俺は最後まで触れなかったーーー。

 

 

 

ーーーその日、久々に早く晩飯を食べ、現在は風呂から上がりベッドの上である。

 

なんだったんだ今日は…。長い様で、短い1日だった。

とりあえず今日の大事なこと、それは俺に彼女ができたことだ。

 

 

………まぁフェイクだけどな。良かった、幼馴染がいなくて。修羅場にならなくて済みそうだ。

…もうそれ以上の恐怖を味わった気がするが。

 

でも、ホントあの二人には頭あがんねぇな。

由比ヶ浜との約束のディスティニー、いつか近いうちにちゃんと行ってやろう。

雪ノ下の願い事だって聞いてやろう、できる範囲でだが……。ならそこから飛び降りてくれるかしら?とか言いそうだなアイツ。いや、確かに出来ること事だけれどもっ!!

 

 

そんな事を考えている内に俺は深い眠りに落ちていた。

 

昨日今日と、本当に、疲れたーーー。

 

 

続く

 

いろは「よろしくお願いします」 八幡「……こちらこそな」2/2【俺ガイルss/アニメss】 - アニメssリーディングパーク

 

 

 

 

 

 

いろは「せーんぱいっ」八幡「」

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