アイズ「私がそんなに料理できなさそうに見えるの?」 ロキ・ティオナ・ティオネ「見える」【ダンまちss/アニメss】
アイズ「……(喜んで、もらえるかな)」
* * *
ロキ「アーイズたんっ。どうしたんや? そんな辛気臭い顔して」
アイズ「……そんな顔、してた?」
ロキ「してたで。まあ、アイズたんはいつも何考えとるかわからん部分あるけどな、でもいつもに増してわけわからん顔しとったで?」
アイズ「……」
ティオナ「ロキー、それにアイズもー。何してるの?」
ティオネ「なになに? 面白そうな話?」
ロキ「いやぁ、アイズたんがなーんか企んどるんや。でもなかなかウチに教えてくれへんねん」
ティオナ「面白いこと?」
ティオネ「アイズ、何を考えてるの?」
アイズ「……実は」
(ごにょごにょごにょ……)
ロキ・ティオナ・ティオネ「ええーっ?!」
ロキ「ホンマか? それ、マジで言っとるんか?」
ティオナ「無理はしないほうがいいよー?」
ティオネ「そうそう、人には向き不向きってものがあるし……」
アイズ「……むう。みんなして、なんでそんなに私を止めるの?」
ロキ「そりゃあ、さあ……」
アイズ「私がそんなに料理できなさそうに見えるの?」
ロキ・ティオナ・ティオネ「見える」
アイズ「……」
ティオネ「そりゃあ、ね? アイズにだってステーキを焼くぐらいならできるかもしれないとは思うわよ。 でも、いきなりお菓子作りをしたいだなんて、無茶すぎるわ」
アイズ「……」
ロキ「まあまあ、ティオネ、ティオナ。アイズたん、何のためにお菓子を作りたいんや?」
アイズ「渡したい人がいる……」
(ティオネ、ティオナ顔を見合わせる)
ティオネ「それってもしかして……」
ティオナ「アルゴノゥト君のこと?」
ロキ「アルゴノゥト君って、あのドちびのところのか?」
アイズ「(頷く)」
アイズ「何度も助けてもらったから……お返しがしたい」
ティオナ「……でも、わざわざお菓子を作らなくってもいいんじゃない?」
ティオネ「あの子、まだレベル2になったばかりだし、剣術の稽古をしてあげるとか、やり方はいろいろ……」
アイズ「……私だって女」
ロキ「……はーぁ。つまり、アイズたんはあの子にいいところを見せたいわけだ。それも剣士としてでなく、女として」
アイズ「……(かあああっ)」
ティオネ、ティオナ「あ、赤くなった」
ロキ「そうかそうか。いやぁ、アイズたんが女としての自分に気づくとは。」
ロキ「……わかった、このロキ・ファミリアの主神が、自らアイズたんに手ほどきをしたる!」
アイズ「……!」
ロキ「さあ、何のお菓子を作る?」
アイズ「それじゃあ……」
* * *
ロキ・ファミリア内キッチンにて
ロキ「教えると言ったものの……アイズたん、いきなり難しいお菓子に挑戦しすぎやないか?」
アイズ「……?」
ティオネ「チョコレートってのはね、温度管理が難しいの。ケーキに混ぜる時に固形の状態から溶かすけど、そのとき温度を高くしすぎちゃったら全部台無し。風味も飛んじゃうし、何より分離しちゃうからお菓子作りには二度と使えない」
アイズ「そういうものなの……」
ティオナ「それにね、他の材料であるメレンゲも扱いが難しいんだよ? 手早く作業しないといけないし、こっちも攪拌不足でもダメだし混ぜすぎてもダメー」
アイズ「意外と、難しい……」
ロキ「だから言ったやないか。ステーキ焼くのにだって手間取るレベルのアイズたんが、いきなりチョコレートケーキを作ろうだなんて、レベル1の冒険者がダンジョンの中層に一人で行くようなものやで?」
アイズ「……でも」
ロキ「はいはい、わかってるがな。それでもやるって言うんやろ? だからこうして、私とティオナとティオネで手伝ってやっとるんやないか」
アイズ「ありがとう」
ティオネ「……おほん。無駄口たたいてる暇があったら、早く作りはじめましょ? あんまり遅くまでキッチンを占領してると、料理係がロキ様のお夕飯を作るのを邪魔しちゃう」
ロキ「夕飯が遅れるのは嫌やなあ。ほな、やったろか!」
アイズ、ロキ、ティオネ、ティオナ「おー!!」
ティオネ「じゃあ、まずはチョコレートを刻むわよ」
アイズ「刻む? 溶かすんじゃ、ないの?」
ティオネ「板チョコレートのまま湯煎して溶かしてたら、いつまで時間がかかるか分かったもんじゃないじゃない。それにね、そのまま湯煎してたら、端っこだけ分離して真ん中が溶けないの」
アイズ「……わかった。どれぐらい細かく刻む?」
ティオナ「できるだけ細かく。それから、サイズは均一に」
アイズ「……(エアリアル)」
すぱぱぱぱぱっ
ロキ「……あんなぁ、アイズたん。魔法で楽したらあかんで」
アイズ「でも、その方が時間短縮になる。時間が短縮できたら、夕飯作りの時間が増える」
ロキ「そう言われると形無しやなぁ」
ティオネ「ま、方法はなんでもいいとして、じゃあこれをボウルに入れて、湯煎しまーす。湯煎は私が見ていてあげるから、アイズはメレンゲを作ってね」
ティオナ「メレンゲは私が一緒に見ててあげる」
アイズ「ティオナ、ティオネ、ありがとう。心強い」
ロキ「え~? 神様にはお礼の言葉はないんか~?」
アイズ「もちろん感謝している」
アイズ「それで、どうしたらいい?」
ロキ「あっさりした感謝の言葉やなー。まあええか」
ティオナ「卵を卵黄と卵白に分けて。卵黄が少しでも卵白の方に入っちゃうと、油分でメレンゲを立てるのがすごく難しくなるから、気をつけてね」
コンコン、かぱっ
ティオナ「そうそう、そんな感じ。今回は全部で三つ卵白を使うよ。卵黄はこっちの器によけておいて、卵白をボウルに入れてね」
アイズ「……できた」
ティオナ「じゃあ、泡立て器で混ぜるわよ! ここからは力の勝負。素早く一所懸命攪拌すれば、そのうちふんわりツノが立つようになるから」
アイズ「ここにある氷水は何に使うの?」
ティオナ「氷水で卵白を入れたボウルを冷やしながら泡立てると、常温でやるときより泡立ちやすいんだよ。ちょっとボウルが冷たくなるけど、大丈夫だからやってみて」
アイズ「わかった」
シャカシャカ……シャカシャカシャカ……
ティオナ「そうそう! その勢い。そのままのペースで続けててね。……ってロキ! なに余ったチョコレートつまみ食いしてるの!」
ロキ「いやぁ、『手伝ったる』って意気込んだものの、自分には何にも手伝うことないなぁ思ってな……」
ティオナ「じゃあ、ロキは向こうで休んでていいから」
ロキ「えー。アイズたんが奮闘してるとこ見たいー」
ティオナ「もぅ! ロキってばー! ……私たちの邪魔はしないでね?」
ロキ「わかってるでー」
アイズ「……メレンゲ、できた」
ティオナ「早っ!!」
アイズ「メレンゲのツノ、しっかり立ったけど……これぐらいでいいの?」
ティオナ「ちょっと見せて……ええと……あぁ……」
アイズ「どうしたの」
ティオナ「アイズ、メレンゲ泡立てすぎ」
アイズ「!!」
ロキ「泡立てすぎるとどうなるんや?」
ティオナ「口当たりボソボソのクソまずいケーキになる」
アイズ「……」
ティオネ「ねー、チョコレート溶けたわよ?」
ロキ「チョコレートを置いといて、もう一度メレンゲを作り直すことはできないんか?」
ティオナ「チョコレートを何度も固めたり溶かしたりしてると、風味がどんどん落ちてきちゃうの。だからお菓子作りは一回勝負。女の子の真剣勝負なの!」
アイズ「真剣勝負に……私は負けた……」
ティオネ「今回は仕方ないから、このメレンゲにチョコレートを合わせましょう。生地のつなぎとしてアーモンドの粉を入れるから、泡をつぶさないように混ぜて、あとは型に入れて焼くだけ」
アイズ「……わかった」
ふわっ……さく、さく
ロキ「おおー。メレンゲにチョコレートが混ざって色が変わっていくなあ。焼き上がりが楽しみや」
アイズ「でも、失敗作確定……」
ティオナ、ティオネ「今回は試作品ってことでさ、ベートにでもあげたらいいんじゃない?」
アイズ「それは失礼だと思う」
ティオネ「ベートはアイズがくれるものだったら炭でも食べると思うけどね」
ティオナ「ほら、オーブンが余熱できたよ! ケーキを焼こう」
* * *
ロキ「ベートは炭でも食べるかもとは言うとったけど……」
ティオネ「本当に炭になるとはね……」
ティオナ「ごめん! ほんっっとうにごめん! オーブンの温度間違えてた!」
アイズ「……」
ティオナ「アイズ、怒ってるよね?」
アイズ「……いい。メレンゲも失敗したし、どうせ試作品だったから……」
ベート「んあ? アイズ、ティオナ、ティオネ、それにロキ。 何してるんだ?」
ティオナ、ティオネ「噂をすればベート!」
ベート「俺の噂してたのか?」
ティオナ「ベート、いいところにきたわね」
ティオネ「アイズがお菓子を作ったのよ。食べてみる気、ない?」
ベート「アイズが?!」
アイズ「失敗作だけど……」
ベート「何作ったんだ?」
アイズ「チョコレートケーキ……」
アイズがベートにケーキを渡す
ベート「まぁせっかくだからもらっておくか。いただきまー……げほっ、げほ、げほっ」
ベート「なんだこれ、炭じゃねえか!」
アイズ「だから失敗作だって……」
ロキ、ティオナ、ティオネ「(にやにや)」
ベート「これは部屋で食うとするかな。もらっていくぜ」
ロキ、ティオナ、ティオネ「(あれ、絶対耐えられなかったんだ。あと、ベートのためじゃないんだなぁ……)」
アイズ「行っちゃった……今度は頑張るから、みんな、手伝って」
* * *
結局、アイズがチョコレートケーキをベルに渡せたのは、その後五度ほど失敗してからだった。
終
元スレ
アイズ「……(君に食べてもらいたい)」
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