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沙希「ありがとう……一生大事にする…………」【俺ガイルss/アニメss】

 

~10月23日・比企谷家~

 

小町「10月26日が沙希さんの誕生日なんだって。だから前日の日曜日にパーティーを開こうかなって。お兄ちゃんも行こう?」

 

八幡「嫌だよ。クラスメートの誕生日パーティーに行くなんて心休まらないイベントはリア充共に任せておけ。せっかくの日曜日にそんなことしてられん」

 

小町「ええー、ポイント低い…………だらだらするだけで予定なんかないんでしょ」

 

八幡「あるよ。プリキュア見たり昼寝したり」

 

小町「ゴミいちゃんめ…………」

 

八幡「何を言われようと行かんものは行かん。だいたい川崎だって俺なんかに祝われたくないだろ」

 

小町「そんなことないと思うけど…………うーん、でも仕方ないか。じゃあ明日のプレゼント選びは大志君と二人で出掛けよっと」

 

八幡「ちょっと待て小町。今聞き捨てならないことを言ったな?」

 

小町「え、だってお兄ちゃん来ないしプレゼントも買わないんでしょ? 小町は行くしプレゼントも買うから明日買わないといけないから」

 

八幡「何で大志の野郎と一緒に行く必要がある?」

 

小町「プレゼント選びはは身内のアドバイスがあった方がいいでしょ? 大志君も女子側目線のアドバイス欲しいって言うし」

 

八幡「…………わかった。明日は俺も行く。もちろん明後日のパーティーもな」

 

小町「え、ホント? やった! 沙希さんも喜ぶよ!」

 

八幡「そうは思えねえけど…………だからいいか、絶対に大志と二人きりになるなよ。いつ小町が襲われるかわかったもんじゃない」

 

小町「襲われるって、大志君はそんなことしないってば」

 

八幡「わからんぞ。小町の可愛さに理性が吹き飛んで獣になるかもしれん。俺だって兄妹じゃなかったら即座に小町に告白してフられて1ヶ月は落ち込む」

 

小町「小町がフるのは確定なんだ…………でも可愛いって言ってくれるのはポイント高いよ! もう爆上げ!」

 

八幡「で、明日は何時に何処に行くんだ?」

 

小町「午後1時くらいにららぽの予定だよ。んじゃ大志君にはお兄ちゃんも来るって伝えとくね」

 

八幡「おう」

 

 

~10月24日・ららぽーと

 

八幡「やっぱり人多いな。小町、はぐれないようにな」

 

小町「うん。えっと、大志君は…………いた、あそこだ。おーい」

 

大志「あ、比企谷さん、お兄さん、どうもっす」

 

八幡「俺をお兄さんと呼ぶな。小町と口を聞くな。もういっそ死ねや」

 

大志「いきなり何すか!?」

 

小町「もう、お兄ちゃん!」

 

八幡「けっ」

 

小町「まったく…………とりあえず中に入ろ。まずは雑貨屋のある階だね」トコトコ

 

大志「いや、でも、誘っといてなんですけど、お兄さんが来てくれるとは思ってませんでした。お兄さんてあんまこういうの好きそうには見えないですし」

 

八幡「あ? 小町を誘ったんだろ?」

 

大志「え? いえ、比企谷さんにはお兄さんを誘うように言いましたけど。俺はお兄さんに来て欲しかったんで」

 

八幡「何…………?」

 

小町「お兄ちゃーん、大志君、早く行くよー」

 

大志「あ、今行きます!」スタスタ

 

八幡「くっ、小町にはめられたか?」スタスタ

 

小町「とりあえず一通り見て回ろっか。候補とかある?」

 

八幡「あるわけないだろ」

 

大志「お恥ずかしながら俺も…………」

 

小町「去年はどうしたの?」

 

大志「いえ、実は去年まで姉ちゃんの誕生日パーティーなんてやってなかったんすよ」

 

小町「え? そうなの!?」

 

大志「はい。姉ちゃんあんまりそういうの好きじゃないって言っててプレゼントもいらないって…………」

 

八幡「だったらやる必要なくねえか? 本人が乗り気じゃねえのに、かえって迷惑だろ」

 

大志「それなんすけど…………実はこの前両親に聞いたんすよ。姉ちゃん、昔は誕生日パーティーを楽しみにしていたって」

 

小町「え」

 

大志「その、姉ちゃんは俺や弟妹達を優先させるためにそう言ってるんじゃないかって。うち、両親共働きだしあんまり裕福じゃないですし…………だって、誕生日を祝われて嬉しくないわけないじゃないですか……」

 

八幡「…………」

 

小町「大志君…………」

 

大志「だから、その、お願いです。俺、姉ちゃんを喜ばせてやりたいんです! 協力してください!」バッ

 

小町「ちょ、ちょっと大志君! 頭下げないでよ!」

 

八幡「………………大志、頭上げろ。男が簡単に頭を下げるもんじゃない」

 

大志「いえ、俺にとっては大事なことなんす!」

 

八幡「俺達にとっちゃ大したことじゃねえよ。ただ知り合いの誕生日を祝うだけだろ。楽勝だよな小町?」

 

小町「え、お兄ちゃん……うん! お兄ちゃんも小町もばっちり協力してあげる! 今までの分を取り返すくらい楽しいパーティーにしよ!」

 

大志「あ、ありがとうございます!」

 

八幡「礼は終わったあとにしろ。プレゼント、選びに行こうぜ」

 

大志「はい!」

 

小町「うん!」

 

八幡「ところであいつって何を貰ったら喜ぶと思う? 女目線と家族目線で考えて」

 

小町「えっと、ぬいぐるみとか」

 

八幡「まあなくはないな。外見にはそぐわないがああ見えて好きだったりするかもしれんし」

 

大志「そういえば新しいフライパンが欲しいとか言ってました」

 

八幡「お前はもう少し女心を勉強しろ。俺が言うのも何だけど」

 

小町「うわー、本当にお兄ちゃんが言うのも何だけど、だよね…………」

 

八幡「うっせ。でもさすがにフライパンはねえよ。渡すシーンがシュール過ぎんだろ」

 

大志「でもこういうシーンになるかもしんないっすよ」

 

~~~~~~~~~~

 

八幡『沙希、お誕生日おめでとう。プレゼント、受け取ってくれ』

 

沙希『ありがとう八幡、嬉しい…………え、これって』

 

八幡『その、今度これ使ってさ、俺にお前の手料理を作ってくれないか?』

 

沙希『え…………ううん。今度と言わず今夜にでも作ってあげるよ。何だったら明日からお昼のお弁当も作ってあげる』

 

八幡『本当か、嬉しいぜ。じゃあ…………将来は毎日味噌汁も作ってほしい』

 

沙希『うん!』

 

~~~~~~~~~~

 

大志「とか」

 

小町「それある!」

 

八幡「ねえよ。誰だよこいつら、キャラ崩壊し過ぎだろ。しかもプロポーズみたいになってるし。指輪代わりのフライパンてギャグかよ」

 

八幡「イケメンならそんなことしてもサマになるんだろうけどな…………いや、でも川崎は面食いではないのかな? 葉山ん時の対応から考えて」

 

大志「まあさっきのは半分…………四分の一くらいは冗談なんすけど」

 

八幡「おい、四分の三は何だよ?」

 

大志「姉ちゃんはあんま無駄な物を持ちたくないみたいなんすよ。おしゃれとかも服とか買うんじゃなくて自分で作ったりしますし」

 

八幡「そういや制服改造とかしてたな。裁縫とか出来るし外見に金は使わないのか」

 

大志「ですね。安い服や古着使ってアレンジしてます」

 

小町「うーん、だとすると服やアクセサリーは無しかなあ?」

 

八幡「いや、無しではないだろ。自分で買わないだけでプレゼントは単純に喜んでくれるんじゃねえか? あんま高いものでドン引きさせなきゃ」

 

小町「さすがお兄ちゃん。昔クラスメートの気を引こうとして高価なプレゼントしてドン引かれただけのことはあるね」

 

八幡「何でこの妹は突然俺の黒歴史をほじくり出すの?」

 

大志「でも女物の服を買うのは俺には難易度高いっす…………それは比企谷さんとお兄さんにお任せします」

 

八幡「何で俺には難易度高くないみたいになってんの? 無理だからね? 即座に警備員に連行されるから」

 

大志「え、でもお兄さんよく女の人と一緒にいるらしいし慣れてんじゃないすか?」

 

八幡「誰だよ一緒にいるやつって…………戸塚か?」

 

小町「男子じゃん…………そうじゃなくて雪乃さんや結衣さんでしょ」

 

大志「あの、ぶっちゃけて聞きたいんすけど、お兄さんて彼女とか好きな人とかいるんすか?」

 

八幡「え、いや、別に…………というか今は関係ないだろ」

 

大志「いえ、もしそういう対象がいるなら他の女子の誕生日パーティーに呼ぶなんて失礼だったかと思って…………」

 

八幡「んな心配はしなくていい。お前は自分の姉ちゃんを喜ばせることを最優先に考えろ」

 

大志「…………はい!」

 

小町「うわあ、なんかお兄ちゃんがカッコ良く見える」

 

八幡「普段は格好悪いって言ってるよねそれ」

 

大志「んなことないっす! お兄さんはいつでも格好良いっすよ。俺は尊敬してますから!」

 

八幡「っ…………お、男に誉められたって嬉しくねえよ。さっさと次の店に行くぞ」スタスタ

 

大志「あれ、怒らせちゃいましたかね?」ヒソヒソ

 

小町「ううん、誉められ慣れてないから照れてるだけだよ」ヒソヒソ

 

八幡「おーい、早くしろ」

 

小町・大志「「はーい」」

 

八幡「さて、とりあえず一通りめぼしい店は回ったかな。喉乾いたし少しベンチで休もうぜ」

 

大志「そうっすね」

 

小町「あ、ごめんお兄ちゃん。小町ちょっとだけ本屋に寄ってきていい?」

 

八幡「おう。あそこの自販機のとこにいるから」

 

小町「わかった。大志君もごめんね」

 

大志「いえ、構わないっすよ。ごゆっくり」

 

八幡「さて、飲み物一本くらいは奢ってやるよ。何が良い?」

 

大志「え、悪いっすよそんなの」

 

八幡「遠慮すんな、高校生にすれば端金だ」

 

大志「じゃあ、すいません。コーラを」

 

八幡「おう、ほらよ」ピッ、ガコン、ポイ

 

大志「おっと…………ありがとうございます。いただきます」

 

八幡「俺はマッ缶にしとくか」ピッ、ガコン

 

大志「よっこらしょっと」

 

八幡「ベンチに座るのにその掛け声はオヤジかよ」ククッ

 

大志「い、いいじゃないっすか」

 

八幡「はは…………そういえば聞いてなかったな。明日のパーティーって誰がどんくらい来るんだ?」

 

大志「ええっと、うちの兄弟と比企谷さんとお兄さんだけですよ」

 

八幡「え?」

 

大志「うちの両親は残念ながら日曜出勤でして…………夕飯も一緒に出来るかどうかって感じっす。だから兄弟だけでも祝おうかと」

 

八幡「いやいや待て待て。何でその中に俺や小町が入るんだよ。他に呼ぶ奴いねえのか?」

 

大志「だって、姉ちゃん友達とかいないんすよね?」

 

八幡「う……まあそうだな。あえて言うなら海老名さんくらいか……」

 

大志「やっぱり誕生日パーティーっつったら友達招待が普通でしょう?」

 

八幡「んなこたねえよ。毎年家族だけで祝うやつもいる。ソースは俺だ」

 

大志「まあ中にはいるでしょうけど…………でも姉ちゃんはそれすらなかったんすよ」

 

八幡「…………」

 

大志「ここだけの話、姉ちゃんはお兄さんを結構信頼しています。だから比企谷さんに頼んで誘ってもらったんですが」

 

八幡「あいつが俺を? 何もしてねえぞ」

 

大志「それは俺も知らないすけど…………でもわかるんすよ、何となく」

 

八幡「理屈じゃなくて何となくって言われたら何も言えねえけど…………勘違いだろ」

 

大志「じゃあそれをはっきりさせるためにも明日は協力をお願いしますね」

 

八幡「うぐ…………何かいいように使われてるな」

 

小町「お待たせー」

 

八幡「おう。これで何か自分の飲み物買え」チャリン

 

小町「ありがとー。紅茶にしよっと」ピッ、ガコン

 

大志「何か本買ったんすか?」

 

小町「うん、映画の雑誌。好きなシリーズの新作情報載ってるから」

 

大志「へー…………あ、表紙のやつ姉ちゃんが見てみたいって言ってた。昨日から上映してんだ」

 

八幡「おい、関係ない話は後にしろ。とりあえずプレゼント決めるぞ」

 

小町「そだね」

 

大志「うす」

 

八幡「一応被らないようにはしないとな。何かめぼしいのあったか?」

 

小町「小町は最初にも言ったけど、ぬいぐるみにしようかなって。やっぱり女子なら嫌いじゃないと思うし。動物ものにしようと思うんだけど沙希さんて好きな動物とかいる?」

 

大志「動物全般好きだと思うっすよ。家族で動物園行ったときも楽しそうでしたし。あ、でも猫アレルギーなんだっけ」

 

八幡「だったらむしろ猫のでいいんじゃないか? 本物に触れない分ぬいぐるみでってことで」

 

小町「そうだね。じゃ、小町は猫のぬいぐるみにする! 大志君は?」

 

大志「俺は編み物セットにしようかと。姉ちゃん使ってるのそろそろ古くなってきてたんで」

 

小町「へえ、沙希さん編み物もするんだ」

 

大志「結構いろんなもの作ってくれますよ。マフラーとか手袋とか」

 

小町「すごいなあ……編み物や裁縫もできて料理も得意とか、沙希さんて女子力高いよね」

 

八幡「こら、頭の悪そうな単語を使うのはやめなさい」

 

大志「趣味と実益も兼ねてますが…………改めて考えてみると本当に姉ちゃんに頼りっぱなしっすねうちは…………家のことはほとんど姉ちゃんがしてくれるから両親も安心して共働きしてられるし」

 

八幡「ま、明日はその感謝の気持ちも一緒に込めるんだな」

 

大志「はい! ところでお兄さんはプレゼント何にするんすか?」

 

小町「婚約指輪? 婚姻届?」

 

八幡「だから何でだよ。んなもん俺から貰ったとこで迷惑なだけだろうが…………まあ、無難にエプロンかな。家事引き受けてんなら消耗品に近いだろうし」

 

大志「あ、いいっすね。今使ってんのもそろそろ古いしちょうどいいかも」

 

八幡「そうか、なら決まりだな。ただセンスはねえから買う時は手伝ってくれ」

 

小町「うん。じゃ、順番に見て行こ。ここからだとぬいぐるみ売ってるとこが近いかな」

 

大志「んじゃ行きますか」

 

八幡「おう」

 

八幡「よし、と。とりあえず全員分買えたな」

 

大志「はい。自分らで言うのも何すけど良いものが買えたと思いますよ」

 

小町「ちゃんとプレゼント用に包装してもらったしね。明日沙希さん喜んでくれるといいなあ」

 

八幡「そういや明日のスケジュールとか場所はどうなってんだ?」

 

大志「あ、そうだ。えっと…………」チラッ

 

小町「うん」コクン

 

八幡「?」

 

大志「実はサプライズにしようと思うんすよ。明日姉ちゃんには午前中出掛けてもらってうちで準備して、午後からパーティーを開こうかと」

 

八幡「サプライズ? 大丈夫か? 川崎に予定とかあったらおじゃんだぞ」

 

大志「今朝予定を聞いたら何もないから図書館でも行こうかなって言ってましたし、平気なはずです」

 

八幡「でもこちらの思惑通りに動くとは限らんだろ?」

 

小町「そこでお兄ちゃんの出番だよ! お兄ちゃんが沙希さんを午前中デートに誘うの。そして頃合いになったら連絡するから来てくれればいいよ」

 

八幡「はあ!? 何で俺が!?」

 

小町「だって小町は大志君ちでパーティー用のお昼ご飯とかケーキの準備をするし、かと言って大志君が家を空けるわけにはいかないでしょ。弟さんたちはまだ小さいから上手く動いてくれるかわからないし」

 

八幡「う…………し、しかし川崎が俺の誘いに乗るかわからんぞ。そもそもどこに連れ出せばいいんだよ?」

 

小町「そんなときにはこれです! はい」スッ

 

八幡「あん? …………映画の半額チケット?」

 

大志「あ、姉ちゃんが見たいって言ってたやつっすね」

 

小町「さっき買った雑誌に付いてたの。明日の朝にやってるやつを見てから帰ればちょうどいいくらいになると思うよ」

 

八幡「…………俺が誘うの?」

 

大志「他に誰が誘うんすか…………大丈夫っすよ。お兄さんが姉ちゃんと一緒に見たいって言えばイチコロですから」

 

小町「誕生日パーティーを成功させるためには仕方ないんだよお兄ちゃん」

 

八幡「やるしかねえのか…………んじゃ電話すっか。大志、川崎の電話番号教えてくれ」

 

大志「え、あ、はい。わかりました」

 

小町「頑張ってお兄ちゃん、明日の成功の可否はお兄ちゃんにかかってるよ!」

 

八幡「可否の使い方合ってんのかそれ? んじゃちょっと電話すっから静かにしてろ」ピッピッ

 

大志「うす」

 

小町「はーい」

 

八幡「…………」プルルル、ガチャ

 

沙希『はい、もしもし?』

 

八幡「あー、川崎か? 比企谷だけど」

 

沙希『えっ? ひ、比企谷!? な、何で!?』

 

八幡「突然すまんな。とりあえず落ち着いてくれ」

 

沙希『う、うん…………で、どうしたの?』

 

八幡「お前、明日午前中は暇か?」

 

沙希『え? と、特に予定はないけど』

 

八幡「そうか。実はさっき大志と会って少し話をしたんだが」

 

沙希『大志と?』

 

八幡「ああ。お前○○って映画知ってるよな?」

 

沙希『あ、昨日から封切りされたやつだね』

 

八幡「おう。んでちょっとしたことでそれの半額チケットを手に入れたんだけど」

 

沙希『うん』

 

八幡「これ、男女ペア限定なんだ。その、良かったら明日俺と見に行かないか?」

 

沙希『えっ!?』

 

大志(あれ男女ペア限定とか書いてました?)ヒソヒソ

 

小町(ううん。一枚で二人までとしか)ヒソヒソ

 

沙希『な、何であたしを?』

 

八幡「お前がこれを見たいって大志から聞いたからな。その、やっぱり俺なんかとじゃ嫌か?」

 

沙希『そんなことない! その…………誘ってくれて、嬉しい……』

 

八幡「そ、そうか。なら良かった」

 

 

沙希『もちろん行くよ。時間は? 午前中なの?』

 

八幡「ああ。封切りから一週間以内の午前中って書いてあるな。だから明日くらいしか機会がない」

 

大志(書いてあるんすか?)ヒソヒソ

 

小町(ないよ)ヒソヒソ

 

八幡「とりあえず駅前の映画館で使えるから正確な時間を調べてあとでメールでもするわ。その、悪いけど勝手に大志から連絡先聞いちまった。気味が悪いと思ったら連絡したあとメモリから消すから」

 

沙希『ふふっ、何それ。そんなこと思わないって。むしろわざわざ連絡くれてこっちが申し訳なく思っちゃうよ』

 

八幡「俺が勝手にしたいと思ったことをしてるだけだから気にすんな」

 

大志(あの、これヤバくないすか?)ヒソヒソ

 

小町(うん…………なんか逆にパーティーとかしないでお兄ちゃんと二人にしとく方が沙希さんが喜ぶ気がしてきた)ヒソヒソ

 

大志(このお誘いがサプライズの伏線だって知ったらむしろガッカリする可能性まであるっすよ)ヒソヒソ

 

小町(なんとか上手くフォローできるようにしとかないと…………)ヒソヒソ

 

八幡「え? 弁当作ってくる? いやいや、悪いからいいよ。それに午後はちょっと野暮用があってな。というか映画見るだけなのにどんだけ気合い入れてんだよ」

 

小町(お弁当!?)

 

大志(姉ちゃん浮かれ過ぎぃ!)

 

八幡「ん、じゃあまた後で連絡するから。おう、じゃあな」ピッ

 

八幡「ふぅ…………どうだ? 俺なりにベストを尽くして誘えたぞ」

 

小町「…………」

 

大志「…………」

 

八幡「? どうした?」

 

小町「ベストっていうかパーフェクトに近いけど…………」

 

大志「パーフェクト過ぎてベストから遠ざかった感じっすね…………」

 

八幡「?」

 

小町「まあもう過ぎちゃったことは仕方ないか。出掛けてもらうことには成功してるわけだし…………でもお兄ちゃんにはレクチャーしなければいけないことがあります」

 

八幡「なんだいきなり…………すぐでなければ駄目か?」

 

小町「え、家に帰ってからでもいいけど」

 

八幡「んじゃちょっと寄るとこあるから先に帰っててくれ」

 

小町「え、どっか行くの?」

 

八幡「このチケット使って明日の当日券買っとくんだよ。明日になって満席で見れませんでした、とかになったら最悪だろ。俺達にも川崎にも。特に川崎には楽しい一日になってもらわないといけないからな」

 

大志「そ、そこまで姉ちゃんのことを…………」

 

小町「というか普段からその気遣いを出してくれればいいのに…………」

 

八幡「やだよ疲れるし。ぼっちにそういうこと要求すんな」

 

大志「でも姉ちゃんのためにはしてくれるんすね」

 

八幡「まあ…………たまには、な。そういうわけだから俺はちょっと映画館に寄ってくる。大志、小町を家まで送ってけ」

 

大志「え、い、いいんすか? いつもは口をきくだけで烈火の如く怒るのに」

 

八幡「ただし、手を出したら生きてる事を後悔するくらいの目に合わせるからな」

 

大志「しませんよ!」

 

八幡「一応信用しておいてやる。んじゃ俺はついでにATMで金おろしてくから。小町はまた後で。大志はまた明日な」

 

小町「あ、うん」

 

大志「はい。明日はよろしくお願いします!」

 

八幡「おう」スタスタ

 

小町「…………」

 

大志「じゃ、送るっすよ」

 

小町「うん…………ねえ大志君、気付いた?」

 

大志「何をっすか?」

 

小町「お兄ちゃんさ、大志君と話をしてからは、沙希さんの事を全然嫌がってなかった」

 

大志「え?」

 

小町「昨日までは嫌だとか面倒くさいとか言ってたのに…………沙希さんの話を聞いてからは『向こうが嫌がるんじゃないか』とか『俺なんか迷惑だろ』とかで、お兄ちゃん自身は嫌そうな素振りがなかったよ」

 

大志「そういえば…………それにやけに親身になってくれましたね」

 

小町「あと今からATM行くって言ってたけど…………今日明日を過ごすくらいのお金なら充分あるはずなんだよね」

 

大志「まさか…………明日のお出掛けを本当のデートのつもりで全額出す気だとか?」

 

小町「もしかしたら、だけど…………心境の変化があったのかも。恋愛感情じゃなくても、何か沙希さんを気にかけるようなこととかが」

 

大志「…………姉ちゃんは」

 

小町「うん?」

 

大志「姉ちゃんは多分お兄さんの事が好きなんだと思うっす」

 

小町「そんな気はするよね」

 

大志「明日…………何か変化があればいいっすね。出来れば良い方向に」

 

小町「だね」

 

 

~10月25日朝・駅前~

 

八幡(さて、待ち合わせ場所に着いたわけだが)

 

沙希「…………」ソワソワ

 

八幡(まだ集合時間三十分前なのに何でもういるんだよ…………いや、知ってたけどね。大志から連絡来たし)

 

八幡(とりあえず小町からみっちり受けたレクチャーを生かしていかないと…………行くか)スタスタ

 

沙希「あ、比企谷。お、おはよ、早いね」

 

八幡「おはよう。いや、早いっていうならそっちこそだろ。待たせちまって悪かったな」

 

沙希「ううん。あたしが勝手に早く来ただけだし、こういうふうに待つのは嫌いじゃないから…………その、今日は誘ってくれてありがとう」

 

八幡「おう…………」ジー

 

沙希「な、なに?」

 

八幡「いや、お洒落してるんだなと思って。そういう恰好も新鮮で可愛いな」

 

沙希「えっ!?」

 

八幡「あー、可愛いってのは違うか。どっちかって言うと綺麗って方が合ってるな」

 

沙希「え、あ、ありがと…………////」

 

八幡「それに比べて…………その、隣にいるのがこんなんで悪いけど、我慢してくれ」

 

沙希「ふふ、何言ってんの。比企谷も今日はキマってるよ。ひょっとして妹の見立て?」

 

八幡「ああ。情けねえけど頼った。あんまり変な格好してお前に恥かかせちゃ悪いからな」

 

 

~近くの謎のオブジェの陰~

 

大志「…………」

 

小町「…………」

 

大志「すいません比企谷さん、姉ちゃんの隣のあの男は誰っすかね?」

 

小町「た、たぶん比企谷八幡って人だと思うけど…………ええー……?」

 

大志「言動がまるで別人じゃないっすか…………比企谷さん何か言ったんすか?」

 

小町「一応昨晩と今朝にデートの心得とか叩き込んで…………あと恋愛少女漫画読ませたんだけど」

 

大志「それであれですか…………お兄さんそういうの嫌いそうなんすけど」

 

小町「うん、でも沙希さんも女の子なんだからそういったのに憧れはあるはずだから、って言ったら『相手が俺なんかでいいのか知らんがやるだけやってみる』ってあっさり…………」

 

大志「やっぱり姉ちゃんに何か思うとこがあるんすかね?」

 

小町「聞いてみたらさ、『家族のために、人のために頑張ってるやつがそれ相応に報われないなんてあっちゃならねえんだよ。例え見返りを求めてなくてもな。そんなのは間違ってる』って…………」

 

大志「それ、もしかして…………」

 

小町「かもね……」

 

八幡「んじゃ少し早いけど行くか。早い分には問題ないだろ」

 

沙希「うん。あ、ちょっとお願いがあるんだけど…………」

 

八幡「おう、何だ?」

 

沙希「実は、その、あたしもう少し前からここにいたんだけどさ」

 

八幡「そうなのか」

 

沙希「何人かにナンパ、というか声を掛けられちゃってて……あ、もちろん断ってるんだけど」

 

八幡「そ、そうか」

 

沙希「その、まだその辺にいたりするし、ちゃんと連れがいるって証明するために…………う、腕、組んでも……いいかな?」

 

八幡「! な、なら仕方ないよな。構わねえぞ、ほら」スッ

 

沙希「あ、ありがと…………」スッ、ギュッ

 

八幡「…………」

 

沙希「…………」

 

八幡「い、行こうぜ」

 

沙希「…………うん」

 

大志「…………」

 

小町「…………」

 

大志「すいません、俺ちょっと糖尿病になりそうなんすけど…………」

 

小町「何も飲んでないのに口の中が甘ったるく感じる…………」

 

大志「でもあんな姉ちゃん初めて見たな…………」

 

小町「お兄ちゃんは最後の方は余裕無くして動揺してたね。たぶん頭の中で色んなシミュレーションしてたと思うけど、あれはさすがに予想外だったみたい」

 

大志「……とりあえずそろそろうちに行きますか? 準備あるし…………というかあれを見てるのは色んな意味でツラいっす」

 

小町「だね、行こっか」

 

大志「そういえばお兄さんの荷物も持ってきてるんすね。持ちますよ」

 

小町「お、ありがと。あ、そうだ大志君。ちょっと頼みあるんだけど」

 

大志「何すか?」

 

小町「今回サプライズにしたの、お兄ちゃんが企画したことにしてくれないかな?」

 

大志「え、何で…………ああ、昨日言ってたフォローってやつっすか」

 

小町「うん、お兄ちゃん自身が沙希さんのために考えたってことなら大丈夫かなって」

 

大志「いいっすよそれくらい。むしろ今回の企画全部お兄さんが考えたことにしてもいいくらいっす」

 

小町「さすがにそれはお兄ちゃんのキャラじゃない…………いや、あれ見た後だといけそうな気がしなくもないかな……」

 

大志「ま、とりあえずサプライズの件は了解っす。あとは上手くいくよう祈りながら準備して待ちましょう」

 

小町「うん!」

 

沙希「うわ…………結構並んでるね。朝早いのに」

 

八幡「時間的に目的は一緒みたいだな。これ人気作品なのか?」

 

沙希「うん、前評判はいいみたいだよ。そこらの有名タレントじゃなくてちゃんとした俳優さん使ってるし」

 

八幡「それは期待出来そうだな。よし、んじゃ飲み物でも買って中に入ろうぜ。何飲む?」

 

沙希「え、じゃあコーラ…………じゃなくて、先にチケット買わないの? 売り切れちゃうかもよ?」

 

八幡「ああ、安心しろ。昨日のうちに買っておいたから。ほら、お前の分な」スッ

 

沙希「えっ?」

 

八幡「じゃ、コーラでいいんだな? 買ってくるからここで待っててくれ」スタスタ

 

沙希「あ、ちょっと…………行っちゃった」

 

八幡(ふう…………ようやく離れることができた)

 

八幡(ずっと腕組みっぱなしだったからな…………俺がすげードキドキしてたの気付かれてねえだろうな…………)

 

八幡(それに、腕にちょっと柔らかいものが当たってたし…………川崎ってスタイルいいよな…………)

 

八幡(家事がしっかり出来て美人でスタイル良くて家族思いで成績も国立大目指すくらいには優秀で…………あれ、なにこの優良物件? ラノベのヒロイン?)

 

八幡(いやいや、ダメなところもあるだろ。ほら、お化けが怖いとか……って魅力ポイントじゃないですかー!)

 

八幡(口下手で不器用だからあいつもぼっちだって言うけど、たぶん家のことで人付き合いが他の同年代より少なくなってんのもあるんだろうな…………)

 

八幡(………………)

 

八幡(…………川崎沙希、か)

 

八幡「あ、コーラとマックスコーヒーを一つずつ」

 

八幡「え、マックスコーヒーないの? 千葉なのに?」

 

八幡「じゃあコーラ二つでお願いします」

 

沙希(このチケット、値段と買った時間が印字されてる…………)

 

沙希(確かに半額にはなってるけど…………買ったのって昨日あたしと電話したすぐ後だよね、これ)

 

沙希(ひょっとして、混むことを予想して先に買っといてくれたのかな? 座席表見る限り結構良い席みたいだし)

 

沙希(あたしと映画見るのにここまでしてくれるなんて…………やば、顔がニヤけちゃいそう)

 

沙希(比企谷…………実はあたし、明日誕生日なんだ)

 

沙希(気を遣わせたりするのは嫌だから言わないけど…………あたしにとって最高の誕生日プレゼントだよ)

 

沙希(…………でも、腕組んだりしたのはちょっとやりすぎたかな?)

 

沙希(む、胸、わざと当てちゃったし…………はしたないとか思われてないよね?)

 

沙希(あ、戻ってきた…………うん、引かれたりはしてないっぽい)

 

沙希「ありがと比企谷、いくらだった?」

 

八幡(目的のホールに入り、俺達は席を探す)

 

八幡「この辺のはず…………お、あったあった。川崎、こっちだ」

 

沙希「うん、すぐ行く…………わ、凄い良い席じゃない。スクリーンが見やすい」

 

八幡「売り子に聞いて買ったからな。意外と前日に買えること知らないやつが多いのかわからんけどあっさり買えた」

 

沙希「…………やっぱり自分の分くらいは出すよ。あんたに動いてもらってばっかりだし」

 

八幡「さっきも言っただろ。半額で買ったんだから実質俺は一人分の料金しか出してないんだ。それなのにお前に出させたことがバレたら小町にぶっとばされるわ」

 

沙希「そう…………じゃ、ご馳走になっとくね。ありがとう」

 

八幡「おう、そうしろそうしろ。そもそも俺なんかが川崎みたいな美人とデート紛いのことができるんだ。むしろ俺が礼を言わなきゃならん…………お、暗くなった。始まるな」

 

沙希(び、美人…………////)

 

八幡(結論から言うと映画はすげえ面白かった)

 

八幡(前評判が高いのも肯けるし、どの年齢層でも楽しめそうだ。実はあまり期待していなかっただけに得した気分だった)

 

八幡(しばらく余韻に浸ったあと、俺達はホールを出る)

 

八幡「いや、マジで面白かったな。続編も予告してたけど絶対見に行くことにするわ」

 

沙希「そうだね。じゃ、その、また一緒に見に行かない?」

 

八幡「おう、そうしようぜ…………あ、すまん。ちょっとお手洗い行ってくる」

 

沙希「うん、待ってるよ」

 

八幡(さて、小町に連絡しないと)ピッピッ

 

八幡(…………お、返信来た。川崎に連絡するみたいだな)

 

八幡(んじゃ戻って………………あれ?)

 

八幡(さっき自然に流してしまったけど、川崎にまたデートに誘われたような…………)

 

八幡(…………社交辞令だよな多分)

 

八幡「待たせたな」

 

沙希「あ、うん…………ねえ比企谷、今大志から連絡来たんだけどさ」

 

八幡「あん?」

 

沙希「何か緊急の用があるからあんたを連れて帰って来て欲しいって…………」

 

八幡「そうなのか? 俺は構わねえけど」

 

沙希「え、でもあんた午後から野暮用があるって…………」

 

八幡「ああ、それならキャンセルになったんだ。だから大志の用ってのを済ませようぜ。お前んちに行けばいいのか?」

 

沙希「あ、うん。ごめんね。手間掛けちゃって」

 

八幡「いいさそのくらい。行こうぜ」

 

沙希「ん」

 

八幡(よし、バレてねえな)

 

沙希(大志の馬鹿…………もしかしたら比企谷と今日一日一緒にいれたかもしれないのに…………大志の用が終わったら、ちょっと勇気を出して誘ってみようかな?)

 

沙希「ホントごめんね、わざわざ来てもらっちゃって…………大志ー、いるの?」

 

大志「あ、おかえり姉ちゃん! お兄さんも! ちょっと居間の方に来てもらいたいんだけど」

 

八幡(玄関を開けて川崎が家の中に呼び掛けると、居間から顔だけを出した大志が手を振って誘ってくる)

 

沙希「何なのさもう…………」

 

八幡(川崎が靴を脱ごうとしてる隙に、メールでの打ち合わせ通り下駄箱上の植木鉢の陰に隠されていたクラッカーを取る)

 

八幡「んじゃ、お邪魔しますっと」

 

沙希「うん。今は親いないから気を遣わないでいいからね」

 

八幡「ん、わかった」

 

沙希(本当にいなくて良かった…………何か親に紹介するみたいだし……って何考えてんのあたしは!?)

 

沙希「大志ー?」

 

八幡(川崎が居間へのドアを開けたと同時に俺はクラッカーの紐を引っ張った。部屋内と俺の手元からパァンと派手な音が響く)

 

「「「「「ハッピーバースデー!!!」」」」」

 

沙希「え…………?」

 

八幡(川崎はぽかんとした表情を浮かべて立ち尽くす。てか飾り付け凄っ! 輪っか多いしお祝いの言葉書いたボード掲げてるし! 気合い入りすぎだろ!)

 

八幡「さ、川崎、パーティーの始まりだ」

 

八幡(俺もちょっとだけ固まったが、すぐに我に返り、川崎の背中を押す)

 

沙希「え? え?」

 

八幡(未だ混乱している川崎を主役席に座らせ、俺は空いていたすぐ脇の席に着く)

 

八幡「よし、小町、大志。ケーキとロウソクの準備だ」

 

小町「うん!」

 

大志「がってんです!」

 

八幡(二人は立ち上がって言われたものの準備に取り掛かる)

 

沙希「比企谷、これって…………」

 

八幡「言っただろ、誕生日パーティーだ」

 

沙希「あ、あたしの?」

 

八幡「他に誰がいるんだよ…………まあ、一日早いのは勘弁な」

 

沙希「じゃ、じゃあ、その、本当に…………?」

 

八幡「疑り深すぎだろ…………まあサプライズというドッキリな点では合ってるが」

 

小町「はいはいお待たせー。ケーキの登場ですよー」

 

八幡(小町がキッチンの方からホールケーキを持ってきた。定番のショートケーキだが、メッセージを書いたチョコの板を乗せている)

 

 

大志「じゃ、ロウソク立てるっすよ」

 

八幡(川崎と俺以外、つまり小町と川崎家三兄弟が協力してロウソクを立てていく。小さい二人がおっかなびっくりしながらたてているのが微笑ましい)

 

小町「よし、じゃあお兄ちゃん。お願い」

 

八幡「おう」

 

八幡(小町からチャッカマンを受け取り、明日達する年齢の数だけ立っているロウソクに火を着けていく。この頃にはようやく事態が把握出来たのか、川崎はちょっと涙ぐんでいた)

 

八幡「オッケーだ、んじゃ始めるぞ」

 

小町「うん!」

 

「「「「「ハッピーバースデートゥーユー♪」」」」」

 

「「「「「ハッピーバースデートゥーユー♪」」」」」

 

「「「「「ハッピーバースデーディア沙ー希ー♪」」」」」

 

「「「「「ハッピーバースデートゥーユー♪」」」」」

 

八幡(みんなで手拍子をしながら歌い、川崎を祝う。この時にはもう川崎の顔はくしゃくしゃに歪んでいた)

 

沙希「うっ……うっ……グスッ……」

 

八幡「ほら、川崎。火を消さないと」

 

沙希「う、うん」フー、フー

 

八幡(川崎は涙を流しながらも息を吹いてロウソクの火を消す。全部消えると同時にみんなで拍手をした)パチパチパチパチ

 

沙希「あっ、あっ、ありがとうっ…………あたしのために、こんな…………」エグエグ

 

八幡「はは、ほら、綺麗な顔が台無しだぞ。笑ってくれよ」

 

沙希「無理……無理ぃ……だってえ」グスグス

 

八幡「仕方ねえな…………小町、ちょっと川崎を洗面所に連れて顔洗わせてくるからケーキ切り分けといてくれ」

 

小町「りょーかい! ごゆっくり!」

 

八幡(俺は川崎を立たせて洗面所に向かう)

 

八幡「ほら、顔洗っていい加減泣き止めって。俺達はお前の笑ってる顔が見たいんだからさ」

 

沙希「う、うん」バシャバシャ

 

八幡(しばらくしてようやく落ち着いたか、川崎はタオルで顔を拭き、こちらを向いた)

 

沙希「もう…………本当にびっくりしたよ。いきなりなんだもの」

 

八幡「悪かったな。でも前もって言ったら何だかんだ遠慮しそうだったからさ。ちょっと強引にやらせてもらった」

 

沙希「うん、本当に驚いた…………誰が企画したの?」

 

八幡「あー、言い出しっぺは大志だが、あとはみんなで協力してやった。サプライズにしようと言ったのは俺になるのかな」

 

八幡(確かそういうことにしろって小町が言ってたな)

 

沙希「じゃ、今日午前中あたしを誘ったのはサプライズの準備するため…………だったんだね」

 

八幡「ああ」

 

沙希「そう…………」

 

八幡「ついでに、その、お前と二人で出掛けることが出来るんなら役得かなって…………」

 

沙希「えっ?」

 

八幡(やべ。変なこと口走っちまった)

 

八幡「も、もういいだろ。みんな待ってるし戻ろうぜ」アセアセ

 

沙希「……うん!」ニコッ

 

八幡「!!」ドキッ

 

八幡(な、なんだ今の笑顔…………今までで一番…………)ドキドキ

 

八幡(川崎に背を向けて洗面所から出ようとしたが、突然俺の腹に誰かの腕が巻き付かれる。いや、川崎のなんだけど)

 

八幡「か、川崎?」

 

八幡(後ろから抱き付かれて上擦った声が出てしまった。背中に柔らかいのが当たってるし!)

 

沙希「ねえ…………何で手間暇かけてこんなことしてくれたの? あんたにはメリット、ないんじゃない?」

 

八幡「…………んなことねえよ。さっきも言っただろ。お前みたいな美人とデートっぽいことができたんだ、充分メリットだよ」

 

沙希「それさ、こんなことでもなければ誘ってくれなかったってこと?」

 

八幡「…………そうかもな。俺は自他共に認めるヘタレだし。川崎みたいな良い女が俺なんかに誘われても迷惑かなって考えちまうし…………小町や大志に背中押してもらわなかったら無理だったと思う」

 

沙希「あたし、そんな良い女じゃないよ…………むしろあんたの方が良い男さ」

 

八幡「過大評価だよ。何でお前も大志も俺をそこまで高く買ってんのかね…………あとメリットってんじゃないけど、俺は川崎に喜んで欲しかったんだ」

 

沙希「えっ?」

 

八幡「大志から聞いたよ。お前が自分より兄弟達ばかりを優先させているって」

 

沙希「あ、あたしは別に……」

 

八幡「手を掛けさせたりするのが悪いと思って誕生日パーティーとかも断ってたんだろ? そのくせ自分は率先して兄弟のために動くわけだ」

 

沙希「そ、それはあたしがそうしたいって思って、やっているだけだから…………」

 

八幡「じゃあ何でお前の家族がお前にそうしてやりたいと思ってるって考えないんだ?」

 

沙希「!」

 

八幡「こういうのは相手のためだけじゃない。自分のためにもやるんだよ。誕生日を祝うってのは『生まれてきてくれてありがとう』って感謝の気持ちを伝えるものでもあるんだ。長女だったらそれをしっかり受け止めてやれ」

 

沙希「そう……だね……」

 

八幡「…………悪いな、偉そうに説教みたいなこと言っちまって。祝い事の最中なのに」

 

沙希「ううん、そんなことないよ…………でも、比企谷や小町はどうして……」

 

八幡「…………昔、似たようなことがあったからな」

 

沙希「え、あっ……じゃあ、あんたも?」

 

八幡「まあ…………俺は小町に言われたんだが……だからちょっと他人事には思えなくて」

 

沙希「そう、なんだ…………ふふ、あたし達、似た者同士だね」

 

八幡「下の子が好き過ぎるとかな。でもそれで自分を蔑ろにするのはやめとけよ」

 

沙希「そのセリフ、そっくりそのままあんたに返すからね」

 

八幡「俺はいいんだよ。別に俺がどうなっても誰かが迷惑するわけでも困るわけでもねえし」

 

沙希「……困るよ」ギュウッ

 

八幡「え?」

 

沙希「あんたに何か変なことがあったら、あたしが困る。あたしが悲しい」

 

八幡「…………」

 

沙希「…………」

 

八幡「か……」

 

 

 

オニイチャーン、サキサンダイジョウブー?

 

 

八幡「…………」

 

沙希「…………」

 

八幡「……戻るか」

 

沙希「……うん」

 

八幡(川崎の腕が解かれて身体が離れる。ちょっと名残惜しかったり)

 

八幡「あれ? まだケーキ切り分けてなかったのか?」

 

八幡(居間に戻ると小町が下の弟妹二人を相手にしていた。大志はキッチンの方にいるようだ)

 

小町「うん、大事なこと忘れてたから」

 

八幡「大事なこと?」

 

小町「記念写真撮らないと! ケーキと一緒にみんなで!」

 

八幡「ああ、なるほどな」

 

沙希「え、いいよそんなの…………」

 

小町「けーちゃんは沙希さんと写真撮りたいよねー?」

 

京華「とるー! さーちゃん、とろー!」

 

沙希「う…………わ、わかったよ」

 

八幡(ほう、川崎の弱点を使うとはなかなかやるじゃないか小町)

 

八幡「カメラはあんのか? いや、スマホでもいいんだろうけど」

 

小町「お任せあれ。ちゃんとデジカメ持ってきたよ!」

 

八幡(そう言って小町はキッチンの方に向かう。おそらく川崎にプレゼントとか見られないように荷物はあちらに置いているのだろう)

 

大志「お待たせっす」

 

小町「そんじゃ早速撮ろうよ」

 

八幡(小町がデジカメを、大志がケーキ用の人数分の皿とフォークを持って戻ってきた)

 

八幡「よし。んじゃ俺が撮ってやろう。みんなケーキのとこに並べ」

 

小町「ええー、お兄ちゃんが入らないでどうすんの?」

 

八幡「こんな腐った目が一緒に写ってたらせっかくの記念写真が台無しだろ」

 

小町「そんなことないよー…………ま、交代で何枚か撮ればいっか。じゃ、最初は家族四人でいきましょー」

 

八幡(小町の指示で川崎を中心に、後ろに大志、左右にチビ二人が座る。ケーキとボードも写るようにしながら、俺はカメラを構えた)

 

八幡「んじゃ撮るぞー。はい、チーズ」パシャ

 

八幡(ん、よし。よく撮れてんな。この川崎の笑顔なんか特に…………って何考えてんだ俺は)

 

小町「じゃあ次は沙希さんとお兄ちゃんの二人で撮ります!」

 

八幡「え、いやいや、何言ってんだよ」

 

小町「いいからいいから」

 

八幡(ぐいぐいと背中を押されて川崎の横まで来る。すでに川崎以外は立ち退いていた)

 

小町「ほら、座って座って」

 

八幡「だ、だからな……」

 

沙希「ねえ…………」

 

八幡(小町に反論しようとした時、川崎が俺の袖を掴んで声を掛けてきた)

 

沙希「一緒に……撮ってよ……」

 

八幡「っ…………わ、わかった」

 

八幡(そんなしおらしく言われたら断れるわけないじゃないですかー!)

 

八幡「えっと、お邪魔します」

 

沙希「うん」

 

八幡(間の抜けた事を言いながら俺は川崎のすぐ隣に腰を下ろした)

 

小町「じゃ、撮るよー。もうちょっとくっついていいよー」

 

八幡「何を言ってんだか」

 

沙希「…………」スッ

 

八幡「!!」

 

八幡(か、川崎が身体を寄せて腕を組んできた!? な、何で…………)

 

小町「お、いいねいいねー。お兄ちゃんこっち向いてー。はい、チーズ」パシャ

 

大志「念のためもう一枚撮っときましょうよ」

 

小町「そだね。じゃ、もっかいいくよー」

 

八幡(くっ、大志のやつ余計なこと言いやがって! だがやられっぱなしの俺じゃないぜ!)

 

小町「はい、チー……」

 

八幡「…………」バッ、グイッ

 

沙希「あっ……」

 

小町「ズ……って」パシャ

 

八幡(俺はシャッター直前に組まれた腕を振り解き、川崎の肩に回して抱き寄せる。川崎はそのまま俺の身体にもたれかかる体勢になり、そのままシャッター音が鳴った)

 

小町「うわお! お兄ちゃん大胆!」

 

大志「お兄さんやるっすね!」

 

八幡(よく考えたらやった俺も恥ずかしかった。川崎の顔が見れず、そっぽを向いたまま離れて立ち上がる)

 

八幡「ちょ、ちょっとトイレ行ってくる!」

 

八幡(八幡は逃げ出した!)

 

八幡「…………よし、上塗り完了。そろそろ戻るか」

 

八幡(洗面所で気を落ち着かせた俺は顔を上げる)

 

八幡(ちなみに上塗りとは過去にあった恥ずかしいことを思い出し、現在のことなどたいしたことではないと認識するという、数多くの黒歴史を持つ俺ならではの技術だ。やりすぎると心が壊れかねないので用法・容量はカウンセラーと相談しながら正しくお使いください)

 

八幡(居間に戻るとちょうど小町がケーキを六つに切り分けて終わったところのようだ。包丁の腹で器用に皿に乗せていく)

 

小町「あ、お兄ちゃんお帰りー」ニヤニヤ

 

大志「遅かったっすね。具合でも悪いんすか?」ニヤニヤ

 

沙希「………………////」プイッ

 

八幡(ふん、そんな精神攻撃が今の俺に効くと思うなよ。あと顔を赤くしてそっぽを向く川崎さん可愛い!)

 

八幡「ああ、何ともねえよ。よっ、と」

 

小町「ストーップ! 違うでしょ、お兄ちゃんの席はこっち!」

 

八幡(俺が座ろうとするのを小町が制し、川崎の隣を指差した)

 

八幡「んなもんどこだって変わんねえだろ。席がここでなきゃいけないって決まってるわけでもねえし」

 

小町「もう…………」プクー

 

沙希「…………」スッ

 

八幡(膨れっ面をする小町。そしていきなり立ち上がる川崎。何だ?)

 

沙希「…………」スタスタ、ストン

 

八幡「え? お、おい」

 

沙希「ど、どこだって変わんないんでしょ? 席も決まってないし」

 

八幡(川崎が俺の隣に腰を下ろしたのだ。しかもやけに距離が近く感じる。腕がもう当たりそうだし。あと小町と大志、ニヤニヤしてんじゃねえ!)

 

小町「はい、沙希さんの分です。メッセージチョコプレート付きですよー」

 

沙希「あ、ありがと」

 

小町「こっちはお兄ちゃんの分ね」

 

八幡「ああ」

 

八幡(みんなにケーキが配られ、フォークを手に持つ)

 

小町「食事の準備もしてあるけどこういう時はやっぱりケーキからだよね。いただきまーす」

 

八幡(小町の言葉を皮切りに皆がケーキを食べ始める。小さい二人は口の周りをクリームでベタベタにしながら味わっており、それを小町が盛んに拭っていた。どうやら姉っぽいことが出来るのが楽しくて仕方ないようだ)

 

八幡(ちなみに川崎は一口一口を文字通り噛みしめるようにじっくりと味わっている。チョコプレートを食べてしまうのは最後まで躊躇っていた)

 

八幡(皆がケーキを食べ終え、これから普通の食事かなと思っていると、大志が弟妹に何か耳打ちしている。と思ったらキッチンに向かっていった。どうしたんだ?)

 

小町「じゃ、食事の前にやっちゃいましょう。沙希さんへのプレゼントタイムでーす!」

 

八幡(食器を片して戻ってくるなり小町はそう宣言した。まあ確かにこの辺が頃合いだろうな)

 

沙希「え、まさかそんなものまで用意して…………」

 

小町「最初は二人による合作です! どうぞ!」

 

八幡(キッチンから戻ってきた小さい二人が持ってきたのは画用紙だった。そこには拙いながらも一生懸命描いたのがはっきり伝わってくる川崎家全員の絵。中央に川崎の顔が、その周りに両親や兄弟の顔が描かれている)

 

八幡(一番上には絵のタイトルのように『だいすきなさーちゃん』と書かれていた。それを受け取った川崎は少し涙ぐみながら二人を抱き締める)

 

小町「うう、小町貰い泣きしそう…………」

 

八幡「抱き締めてやろうか?」

 

小町「何で!? ていうかそれは沙希さんにやってあげなよ…………じゃ、次は大志君!」

 

大志「うす。姉ちゃん、改めてお誕生日おめでとう」

 

沙希「ありがとう大志。開けていい?」

 

 

大志「うん」

 

沙希「あ……このセット、今度買おうかなと思ってたやつだ」

 

大志「ならちょうどよかったかな。前使ってたやつもそろそろ古くなってたし」

 

沙希「うん。じゃ、今年も何か作ってあげるからね。あ、よ、良かったら、小町にも、ひ、比企谷にも」

 

小町「本当ですか!? 是非!」

 

八幡「あー…………その、頼むわ」

 

沙希「うん」ニコッ

 

小町「えへへ、楽しみです…………じゃ、次は小町から。どうぞ!」

 

沙希「これは……猫のぬいぐるみ?」

 

小町「はい。沙希さんあまりぬいぐるみとか持ってないって聞いて…………」

 

沙希「あたしのイメージに合わないかなって思って持たないようにしてたんだけど…………ど、どうかな?」ギュッ

 

小町「そんなことないです。すごくいいですよ! ね、お兄ちゃん?」

 

八幡「………………」ポー

 

小町「……お兄ちゃん?」

 

八幡「可愛い…………」ボソッ

 

沙希「え…………」

 

小町「えっ?」

 

大志「えっ?」

 

八幡「えっ?」

 

京華「はーちゃん、さーちゃんがかわいいっていったー」

 

八幡「いっ、いやっ、その…………」

 

沙希「あう…………」

 

小町「お、お兄ちゃん……」

 

八幡「ち、違うんだ! ただいつも気怠げながらも大人っぽい雰囲気を纏っていた川崎がぬいぐるみを抱き締めるなんて可愛くてギャップがたまらなかっただけで!」

 

沙希「////」プシュー

 

大志「あの、お兄さん。温泉出そうなほど墓穴掘ってますよ。その辺にしないと姉ちゃんがぶっ倒れるっす」

 

八幡「うぐ……………いいか! 忘れろ! 俺は何も言ってない!」

 

小町「さすがにそれは無理があるよ…………別にいいじゃない、嘘言ってるわけじゃないんだし」

 

八幡「! そ、そうだ! 今のはお世辞なんだ! 決してぬいぐるみと戯れる川崎に見とれてぽろっと本音が出たとかそういうことじゃないからな!」

 

沙希「あうう……////」

 

大志「あの、まだ墓穴掘るんすか? そろそろマントルに到達しますよ?」

 

八幡「ううううるさい! 川崎っ!」

 

沙希「ひゃ、ひゃい!」

 

八幡「これ! 俺からのプレゼントだ!」バッ

 

沙希「あ、う、うん、ありがとう」

 

大志「強引に逸らしてきたっすね」

 

小町「ま、これ以上はちょっとかわいそうだしね」

 

沙希「あ、エプロン…………」

 

八幡「似合う柄とか色とかみんなで考えたんだ。着けてくれると嬉しい」

 

沙希「そうなんだ、ありがとう。使わせてもらうね」

 

大志(みんなでとか余計な事言わなけりゃいいんじゃないすかね?)ヒソヒソ

 

小町(そうなんだけどそこはお兄ちゃんだしね…………)ヒソヒソ

 

八幡「あ、あと、気に入らなかったら捨てても構わねえけど、これ」スッ

 

大志(え、何すかあの小箱?)ヒソヒソ

 

小町(ううん、小町も知らないよ)ヒソヒソ

 

沙希「……開けていい?」

 

八幡「ああ。大したものじゃないが」

 

沙希「(パカ)…………ネックレス? 綺麗…………」

 

八幡「その、お前そういうのあんまり身に着けないってのは知ってるけど…………た、たまにはいいんじゃないかって」

 

小町(誰あれ!? 絶対お兄ちゃんじゃないよ!)ヒソヒソ

 

大志(た、確かにいつものお兄さんからは想像出来ないっす)ヒソヒソ

 

沙希「…………」スッ

 

八幡(え? 突っ返された!? や、やっぱり男からのアクセサリーなんて重かったか!?)

 

沙希「ね…………これ、比企谷の手で、あたしに着けて」

 

八幡「! お、おう」

 

八幡(俺は川崎から箱を受け取り、ネックレスを手に取って川崎の後ろに回り込む。川崎がポニーテールをたくし上げ、うなじを晒した)

 

八幡「……着けるぞ」

 

沙希「うん……」

 

八幡(俺は緊張しながらも川崎の前に腕を回す。小町、カメラ構えてんじゃねえ! 大志、スマホ向けんな!)

 

八幡(心の中で文句を言いつつ、俺は川崎の首にネックレスを着けた)

 

沙希「ど、どうかな?」

 

小町「す、すごい似合ってます! いつもよりさらに大人っぽさがぐっと増して…………」

 

大志「うん。ネックレスひとつでこんなに印象変わるものなんだ…………」

 

八幡(二人の賛辞にほっとしつつ俺も前に回り込んで川崎を見る…………やべ、想像以上に似合ってんぞ……)

 

小町「お兄ちゃんいつの間にこんなの買ってたの? センスないとか自虐してたけど嘘っぱちじゃん!」

 

八幡「昨日チケット買いに行くついでにな。俺にセンスはねえぞ? ただ川崎に一番似合いそうなのを見繕っただけだし、大したもんじゃねえ」

 

小町「でも帰りちょっと遅かったよね。どんくらい悩んでたの?」

 

八幡「色んな店回って二時間くらい…………あっ」

 

八幡(余計な事を言ってしまい、慌てて口を押さえたが後の祭りだ)

 

沙希「比企谷…………」

 

八幡「お、おう」

 

沙希「ありがとう……一生大事にする…………」

 

八幡「あ、ああ」

 

八幡(恥ずかしくてとても川崎の顔を見ていられず、俺はそっぽを向きながら返事をした)

 

八幡(プレゼントタイムが終わり、食事の時間になる。色んなおかずを作って大皿に乗せ、好きなのを食べる形式だ)

 

八幡(ちょっと少な目だったが、ケーキ食ったしこんなものだろう。なんだかんだ綺麗に平らげ、みんなでごちそうさまの挨拶をする)

 

八幡(片付けは後回しにし、全員で遊戯に勤しんだ。こういう時に定番のボードゲームなどだ。いや、俺は経験ないけどね)

 

八幡「…………」

 

八幡(…………楽しい)

 

八幡(こんな、普通に他人の誕生日を祝って、それが歓迎されているなんて)

 

八幡「…………」

 

八幡(もし…………)

 

八幡(もっと早く川崎と出会っていたら俺の人生は何か変わったのだろうか?)

 

八幡(…………いや、ないな)

 

八幡(こんなふうになる前に勘違いして告白してフられて、はいそれまで)

 

八幡(むしろそんなことを考えるのは失礼だよな……)

 

八幡(川崎みたいなのと俺なんかが今こうしていることがすでにだいぶ贅沢だってのに)ジー

 

沙希「?」

 

京華「さーちゃんじゃなくてはーちゃんのばんだよ?」

 

八幡「ああごめん。ちょっとさーちゃんに見惚れてた。よっと」

 

八幡(俺は盤上のサイコロを取って振る。出た目は3)

 

八幡「あちゃー、一回休みか…………」

 

八幡(追い付かれそうだった小さい二人は無邪気に手を叩いて喜んでいた。が、小町や大志はぽかんとしているし、川崎は顔を真っ赤にして俯いている。何だ?)

 

八幡「どうした小町、お前の番だぞ」

 

小町「あー……気付いてないみたいだし、いっか」

 

八幡「あん?」

 

八幡(何のことだ? 大志は川崎を肘でつつき、川崎は恥ずかしそうにますます身体を縮こまらせている)

 

八幡「どうした川崎、慣れないことで体調でも崩したか?」

 

沙希「な、何でもないっ!」

 

八幡「何でもないって…………顔赤いし熱でもあるんじゃねえのか? 休んでてもいいんだぞ」

 

沙希「大丈夫だから! 気にしないで!」

 

八幡「お、おう…………」

 

八幡(何なんだいったい…………)

 

八幡(15時になろうかという頃、下の二人がうとうとし始め、ついには寝てしまった)

 

八幡(それ自体はいいのだが、何故か妹の方は俺の膝枕で寝ている)

 

沙希「ふふ、ずいぶん懐かれてるじゃない」

 

八幡「みたいだな」

 

八幡(同じようにすぐ隣で弟に膝枕してやっている川崎がクスッと笑う)

 

沙希「大志もあんたのことかなり信頼しているみたいだしね。あんたは小町のこともあってちょっと当たり強いけど」

 

八幡「…………んなことねえよ」

 

沙希「そうだっけ?」

 

八幡(まあ実際のところ川崎や大志が俺に対して好意的に接しているから下の二人も懐いてきているのだろう。普通は俺の腐った目を見て逃げたり泣いたりするからな)

 

八幡「……………………大志のやつがさ」

 

沙希「ん?」

 

八幡「あいつが、俺に頭下げてきたんだよ。お前の誕生日を祝ってやりたい、お前を喜ばせたい、だから力貸してくれって」

 

沙希「…………」

 

八幡「いい弟を持ってるな」

 

沙希「うん……自慢の、弟」

 

八幡(川崎は照れ臭そうに、だけどどこか誇らしげに言った。まあ本人には言わないだろうが)

 

八幡(ちなみに大志は今小町と一緒に食器などの後片付けでキッチンにいる)

 

沙希「ところで比企谷」

 

八幡「あん?」

 

沙希「比企谷の誕生日っていつなの?」

 

八幡「ああ、覚えやすいぞ。8月8日だ」

 

沙希「そっか…………」

 

八幡「なんだ、ひねりがなくてがっかりしてんのか?」

 

沙希「そんなわけないでしょ。ほら、今回のお返しをどうしようかなって」

 

八幡「あ? いらんいらん。こっちだって充分楽しんでんだ。そういうのは兄弟に返してやれ」

 

沙希「そりゃ弟達にはお返しするけど……あんたや小町にしないわけにはいかないでしょ」

 

八幡「だからいいっての。まああれだ、さっき言ってた編み物、あれで何か作ってくれよ」

 

沙希「うん。それはもちろんだけど……あんたからはそれ以上に貰っちゃってるから」

 

八幡「いやいや、女子から手編みの何かを貰えるってだけで男にとっちゃすげえ価値のあるものなんだ。充分チャラになるって」

 

沙希「それ、あたしもおんなじだから…………」

 

八幡「え?」

 

沙希「あんたに貰ったこれ…………」

 

八幡(川崎は自分の首にかけられたネックレスを自分の手で愛おしそうになぞる)

 

沙希「知ってる? 異性に輪状のものを贈るのってさ、『相手を縛っておきたい、独り占めしたい』って意味があるんだよ」

 

八幡「えっ……!? す、すまん! 俺、何にも知らずに……!」

 

沙希「ううん、いいの」

 

八幡(思いも寄らぬことに俺は慌てたが、川崎は床に付いてる俺の手にそっと自分のを重ねて握ってくる)

 

沙希「あたしはその意味を知ってた。知ってて比企谷の手で着けてもらった」

 

八幡「か、川崎…………」

 

八幡(ゆっくりと川崎の上半身が俺の方に寄ってき、顔が近付いてくる)

 

八幡(俺は川崎と見つめ合ったまま動けない。いや、何故か自分からも近付けているような…………)

 

八幡(ああ、これはあれだ。よくラブコメとかでありがちな『キスする直前に邪魔が入る』パターンだ。けーちゃんが目を覚ましてトイレに行きたいと言ったり、洗い物を終えた小町や大志が戻ってきたり)

 

八幡(そうだろ? でないと、川崎と、唇同士が、もう)

 

八幡・沙希「ん……っ…………」

 

 

八幡(たぶん時間にしたら五秒も経ってないだろう)

 

八幡(しかしその唇が離れるまでの五秒は永遠かと思えるくらい長い時間だった)

 

沙希「…………あたし、ファーストキスだったんだよ。比企谷に貰ってもらえて嬉しい……」

 

八幡(元の位置に戻った川崎がはにかみながらそう言った)

 

八幡「!! …………か、川崎、その」

 

小町「お待たせー」

 

大志「あ、すっかり寝入っちまってるっすね」

 

沙希「うん、ぐっすりだよ」

 

八幡「………………」

 

小町「じゃ、お兄ちゃん。そろそろおいとましよっか」

 

八幡「そう、だな……」

 

 

~10月25日15時・川崎家前~

 

小町「それじゃ、大志君、沙希さん、また」

 

大志「はい、また」

 

沙希「今日は本当にありがとうね小町」

 

小町「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ…………ところで」

 

沙希「ん?」

 

小町「お兄ちゃんと何かあったんですか?」

 

沙希「いや、別に?」

 

大志「んなわけないじゃん、だったら何でお兄さんあっちで隠れるようにしてんのさ?」

 

八幡「…………」コソコソ

 

沙希「こら比企谷、電柱に隠れないの…………もう……」スタスタ

 

八幡「あう……////」

 

沙希「何照れてんのさ」

 

八幡「だ、だってよ……」

 

沙希「ま、いいや。比企谷、明日は学校にお昼ご飯持ってこなくていいからね」

 

八幡「え、それって……」

 

沙希「うん。お弁当、作ってきてあげる」

 

八幡「マジか……じゃあ、楽しみにしてる」

 

沙希「ん。ねえ、ちょっと耳貸して」

 

八幡「? おう」スッ

 

沙希「また明日ね、八幡」チュッ

 

八幡「!!////」

 

小町・大志「!!」

 

~10月25日23時55分・八幡自室~

 

八幡(今日は色々あって疲れたな…………いや、疲れただけでヘコんだりするようなことはないけど…………)

 

八幡(別れ際に頬にキスされたのは当然小町達にも見られていて、帰り道に散々どういうことなのか聞かれた)

 

八幡(一応最後までとぼけきった、というか俺にだってはっきりわからんのだから)

 

八幡(ちゃんと、言葉にしたわけじゃないもんな…………)

 

八幡(………………)

 

八幡(そろそろ時間だな)

 

 

~10月26日0:00~

 

 

『川崎、誕生日おめでとう

 

良かったら、俺と…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

八幡「川崎の誕生日パーティー?」小町「そう」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446683605/