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いろは「もっと早く先輩を好きになってたら…」【俺ガイルss/アニメss】

 

青春とは嘘であり、悪である。

 

青春を謳歌せし俺は常に自己と周囲を欺いた。

 

自らを取り巻く環境のすべてを否定的に捉えた。

 

何か致命的な失敗をしても、それすら「本物」とやらの糧とし、

 

思い出の1ページに刻んだ。

 

例を挙げよう。俺たちは何度もすれ違い、元に戻ってはまたすれ違い、

 

暗中模索の中、手探りで進んではそれを「欺瞞はいやだ」と叫ぶ。

 

考えてもがき苦しみ、あがいて悩む。計算し、計算しつくし、

 

答えを出してひとつづつ、消去法で残ったものが心と嘯く。

 

俺たちは「本物」の二文字の前に、どんな一般的な友情も、

 

人間関係も捻じ曲げてきた。俺たちにかかれば涙もすれ違いも、

 

部活も恋心でさえ本物の通り道でしかなかった。

 

そして俺たちはその涙に、そのすれ違いに特別性を見出す。

 

自分たちのすれ違いは遍く本物の一部分であるが、他者のすれ違いは、

 

本物ではなくただの上っ面にして敗北であると断じた。

 

仮にすれ違うことが本物の糧であるなら幾度となく、すれ違い続けた俺たちの関係も

 

本物でなくてはおかしい。しかし、俺はそれを認められない。

 

なんのことはない。彼女らが俺に好意を持ち、恐らくながらそれが、恋心と呼ばれるものだった

 

から、それ以上を躊躇したのだ。涙もすれ違いも躊躇も俺も

 

糾弾されるべきなのだ。

 

俺は悪だ。

 

ということは逆説的に青春を謳歌せず、本物など微塵も求めなかったほうが、

 

現実はうまくいっていたのかもしれない。

 

結論を言おう。

 

 

俺の本物はまだ見つかっていない。

 

 

地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうど良い感じにカチ割れるんじゃないかというくらいに冷え切った朝だった。いっそのこと、むしろ率先してカチ割りたいほどだ。

 

とはいえ、カチ割ったらぬくぬくと布団の中で惰眠を貪ることもできなくなるのでやはり却下だ。

 

つまるところ一年のうち最も布団から出るのが億劫な季節、冬である。

 

より具体的に示すなら先生だかお坊さんだかが、あっちで手を取ってこっちで大騒ぎ、ほのぼのハーモニーみんなで奏でる……まではしないまでも世間が忙しくなる月、師走である。

 

母ちゃんは残業パラダイスなうえに家に仕事を持って帰ってくるし、親父は親父で部下の悪口をやたらと愚痴る。

 

……いや、後半はいつも通りだったな。俺は親父の血が入っているのでそんな上司になって部下を苦しめてしまうのかと考えると心苦しい。

 

心苦しいので、専業主夫になろう。なんて俺は心優しいのだろうか。専業主夫推奨の会を作ってノーベル平和賞をもらえるまである。

 

そんなことを考えながら、平和とは程遠い、冷たい冷たい水で顔を洗えば、夏よりも三割増しで目が覚める。

 

そもそも、冬の朝は夏に比べて三割増しで起きたくないので結果的には同等の目の覚め方である。ふむ、鏡に写るそこそこ整った顔、それを全力で邪魔しに来る腐った眼、いつも通りだ。

 

窓から見える快晴は否が応にも冬の気候を感じさせる。…………あー、学校行きたくねえ。早く帰りたい。

 

家に居ながらにしてホームシックになってしまった。こんなところもいつも通りである。

 

リビングに顔を出すと、小町が、淹れたお茶をテーブル上に並べていた。

 

ふむ、しかし、いつみてもわが妹は総武校の制服が似合っている。ベスト制服コンテストがあったらお兄ちゃん特別賞をあげたい。

 

小町「あ、お兄ちゃんおはよ」

 

八幡「おう、おはよう」

 

俺が席について数拍後、小町が席に着く。いただきますと二人で小さく唱和する。

 

のそのそとみそ汁や、ご飯を口に運びもそもそと咀嚼し、呑み込んだところで小町が静かな声で話しかけてくる。

 

小町「なんか……昔のお兄ちゃんにもどちゃったね……」

 

八幡「…………変わること、なんてのは結局嘘なんだよ。回りの環境が変わってそれに順応するために自分を誤魔化しているだけに過ぎない」

 

最近は受験勉強受験勉強アンド受験勉強でただでさえ少ない他人との会話がほぼ皆無になっている。奉仕部もとっくに引退した。

 

……故に、小町の言う戻ったというのは、完全ぼっちだった頃のことを指すのだろう。奉仕部を去ったときの空虚感は今でも拭い切れていない。

 

しかし、俺は去らずにはいられなかった。あそこまで踏み込んできてくれた二人が、それ以上を求めるのを感じ取ってしまい、怖くなった。

 

「本物」がほしいと言ったのは俺のほうだったのに。

 

俺が欲した「本物」はどうあがいたところで俺が手に入れられる代物ではなかったのだ。

 

小町「………………そっか」

 

心底残念そうに絞り出すように一言だけ返した小町は、食べる速度を加速させ、ものの数分で食べ終える。

 

おいおい小町よ、早食いは胃に負担がかかるとか誰かが言っていたぞ。お兄ちゃんは心配だ。

 

小町「小町生徒会の用事があるから先行くね。食器ちゃんと水につけといてね」

 

八幡「わかった」

 

食器を片し、カバンを背負うと小走りでかけていく。その様を横目で見送り一人だけとなった食事を再開する。

 

……誰だったっけな、食事は誰かと食べたほうがおいしいと言ったのは。

 

 

時は流れに流れまくって放課後。あれ?タイムリープしてね?とつっこみたくなるぐらいの早い放課後の訪れだったが、あれは過去にしか行けないんだったっけか?

 

こっちのタイムリープはおばさんのほうだった。

 

今日は予備校のない日だ。早く帰りたくはあるが、そんなに急がなくてもいい。スポルトップでも買いに行くか。

 

八幡「売ってねえ…………」

 

多機能目覚ましことマイスマートフォンでググったらもう販売してねえじゃねえか……カゴメ、何をしてくれてるんだ。

 

仕方がない、こういうときは千葉県民のソウルドリンク、MAXコーヒーだ。

 

…………うん、甘い。うまい。疲れた脳に糖分が染み渡る。の三拍子!……リズム悪いな。

 

さっきまでスポルトップの気分だったのに飲んだ瞬間、やっぱりこれしかないよな。という気分にさせてくれる。やっぱりマッカンは最高だぜ!小学生も最高だぜ!

 

マッカンを一気に飲み干すと、もう一本飲みたくなった。あれ?なんかヤバイ成分でもはいってんじゃね?ドーピングコンソメスープ的な。まあ、買うんだけど。

 

小町「あ、おにいちゃんちょうどいいところに!」

 

そんなタイミングで出会ったのはLitlle Girl,My Sweet Heart,Only Cute Sister小町だった。

 

ちょうどいいところというのが引っかかるが、12人もいらない唯一のシスタープリンセスがそこにいるのだ。愛を表現せず、何をしろというのか。

 

八幡「おお、小町!愛してるぜ!」

 

小町「はいはい、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」

 

……ん?手伝い?…………なんとな~く、ほんとになんとな~くだが、嫌な予感がする。

 

ニコニコとした小町の表情、この季節…………生徒会。予感がじわりじわりと俺を追い詰め、背中に一筋の冷や汗が流れる。

 

小町が俺の腕をつかみ歩き出すところで予感は確信へと変貌を遂げる。

 

小町「まずは生徒会室へご招待で~す」

 

いやあああああああ!!いくら小町のためでもこれはいやあ!俺もう受験生じゃないすか!やだーーー!

 

八幡「あ、あのさ小町。俺、かえって受験勉強しないと……」

 

小町「んもう、お兄ちゃんてばー、家で勉強しないじゃん」

 

後悔先に立たずとはこのことか。いや、受験本番よりも先にこの言葉に気付けただけ、ありがたいのだろうか。どっちにしろ、家でもできるだけ勉強しようと思いましたまる。

 

 

為すすべなく、生徒会室に連行される俺。首根っこを掴まれていない分、キョンさんよりましだと自分に言い聞かせる。

 

ちなみに、お気づきの方もいらっしゃるだろうが、先にあった生徒会選挙にて小町は副会長に立候補していた。俺が兄だということも足を引っ張らず、小町は他の候補を抑え、見事に当選した。

 

そして、会長の方はというと、去年に引き続き…………

 

いろは「先輩!?どうしてここに!?」

 

一色いろはであった。

 

大志「あれ、お兄さんじゃないっすか」

 

蛇足中の蛇足、キング・オブ・スネークレッグスではあるが、川……川、川何とかさんの弟の川崎大志も生徒会にいる。もう、蛇足過ぎて蛇翼のレベル。

 

やだ、新しい言葉作っちゃうなんて八幡知的!国語学年三位!全国模試七十一位!あと、お兄さんって呼ぶな。

 

小町「なんと!お兄ちゃんがクリスマスイベント手伝ってくれまーす!」

 

その瞬間、小町以外の役員の驚愕の声が響いた。

 

いろは「いや、だってまあ助かりますし、嬉しいですけど先輩受験生じゃ!?」

 

小町「いやーだいじょぶですよー。お兄ちゃんスカラシップとるぐらいには頭いいし。そもそも家ではろくに勉強しないし」

 

なんか、小町にスカラシップばれてた。これを母ちゃんに伝えられたら錬金術失敗する。失敗どころか、払い戻しまである。

 

小町のいうことには逆らえなくなった瞬間であった。……まてよ、これ今まで通りじゃね?

 

いろは「え、でも……ほんとにだいじょぶなんですか、先輩?」

 

一色が俺の意思を確認してくれた。責任取ってくれーみたいな魔法の言葉は使わないのだろうか。

 

はっ!これは先輩の意思優先できるあたし可愛い!ってことだ。そうに決まってる!いろはす、あざとい!

 

八幡「…………そんなに厳しいのか?」

 

大志「現状で間に合うかどうかぎりぎりってところっすね。お兄さんが手伝ってくれれば確実っす」

 

八幡「ははは、お兄さんって呼ぶな。比企谷家のみそ汁ぶっかけるぞ」

 

大志「比企谷さんの作ったみそ汁ならどんとこいっす!」

 

八幡「残念だったな!我が家の朝食……ひいては、みそ汁は母ちゃん製だ!」

 

大志「くっ…………なんてこったっす」

 

小町「そのやりとりどうでもいいから……で、手伝ってくれるの?くれないの?」

 

働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!……と言いたいところだが、錬金術のレシピを小町に知られてしまっている以上、俺に選択肢はない。たーるっ

 

八幡「小町の頼みで小町と一緒にいられるなら手伝おうではないか!」

 

いろは「うわ…………………………シスコン」

 

ドン引かれた。毎度毎度過ぎてもはや、ほめ言葉ですらある。

 

いろは「まあ、シスコンド変態の先輩でも手伝ってくれるなら助かります。よろしくお願いしますね」

 

なんか、やたらと罵られた。…………なんか最近罵られてないなーとか思ってしまった。俺はMではないはずなんだけどなー。

 

 

そして帰り道。

 

小町を後ろに乗せて、俺は自転車で風になっていた…………冬に風になると寒いのなんの。

 

風になりすぎて風邪をひくレベル。でも俺が壁になってるおかげで小町寒くない!素敵!

 

……風になったり、壁になったり忙しいな俺。

 

小町「ねえ、お兄ちゃんやっぱり迷惑だった?」

 

小町の声は風に紛れたためかとても小さく聞こえた。

 

八幡「……いや、気分転換にはなったかな……久しぶりに他人と話せたからな」

 

小町「……ならよかった」

 

小町は俺の背中に強く体重を預けてきた。

 

 

翌日は予備校だったため、その翌日、生徒会室。本日から手伝いの具体的な話が進むことになっている。

 

今回のクリスマスイベントは、総武高校単独での開催だ。……まあ、去年ので懲りたよな。

 

開催は二週間後のクリスマスイブ。

 

内容は体育館で軽音部のライブ、吹奏楽部の演奏や演劇部の演劇、ビンゴ大会などが催されるらしい。文化祭の縮小版、テーマはクリスマスってところだろう。

 

……なんというか、無難だ。無難は悪いことではないし、むしろ推奨していきたいところだが、何か物足りなさを感じてしまう。

 

その旨を一色に伝えたところ、同意を示してくれた。

 

いろは「そうなんですよねー、なんていうか、町内会かよ!って感じですからねー。去年の反省を踏まえたとはいえ、若さが足りてません」

 

小町「お兄ちゃんが手伝ってくれるならプログラムも増やせますからね」

 

八幡「……去年みたいに小学校に頼るか?」

 

まったく、小学生は最高だな。ルミルミは卒業してしまっているだろうけど。

 

大志「結構遅くまでやるんでやめといた方がいいと思うっす」

 

小町「若きがさらに若きに頼って若さ補充って……」

 

いろは「若さっていうか高校生らしさっていうか……大人にもできないし、小学生にもできないことをやりたいですよね」

 

何その高いハードル。まあ、ハードルは高ければ高いほどくぐりやすいんだけど。

 

小町「高校生らしさかー……お兄ちゃんの高校生のイメージって言ったらなに?」

 

八幡「レッテル張りによる意識的な格差社会の自己保身」

 

いろは「うわー…………大志くんなんかない?」

 

八幡「ちょ、聞けよ、どういうことか聞いてくれよ」

 

大志「そうっすね……高校生になれば彼女ができるんじゃね?って思ってました」

 

ははっわろす。高校生で彼女ができる奴は中学時代からそれなりにモテていた奴だ。彼女を作る行動を起こせる奴だ。

 

つまり、高校生になったら彼女出来ないかなーとか言っている奴は高校生になったところで彼女はできない。Q.E.D.証明終了。

 

いろは「そっか、彼女かー。なら……うーん……」

 

そういって一色は思案顔になる。しかし、彼女云々からアイデアが出るのかね。出たとしてその案はまともなのだろうか。

 

いろは「愛の告白大会……ってどうですか。クリスマスですし」

 

いや、クリスマスってそういうものじゃないからね。ジーザス・クライストさんの生誕祭だからね。

 

誰だよ、最初にクリスマスをカップルで過ごす日とか言い出した奴。みんなに見栄張らなきゃいけなくなるじゃないか。

 

……いや、ぼっちだから見栄張る必要なかった。ダメージゼロだった。

 

大志「いいと思うっす。すげーロマンチックっす!」

 

八幡「……別にリア充のイベントにどうこう言うつもりはないが……これ最初の一人出てこなかったらうすら寒いだけで終わるぞ。一人出れば、日本人らしくぽつぽつ出てくるとは思うが」

 

小町「んー……なら、こっちで確保する?」

 

八幡「……部外者で用意できるならいいが、運営から出すのはやめておいた方がいいだろうな。その後の業務に支障が出るかもしれん」

 

いろは「なら、カップルのパートナーへの感謝みたいのも含めたらどうです?同じクラスのカップルに一番手お願いしますし」

 

小町「あー、なるほど。その後はある程度ハードル下がって、雰囲気にあてられて告白する人がでるかも」

 

八幡「まあ、内容はともかく、案としては悪くないな。仮に出なかったとしても、前半で誤魔化せる」

 

いろは「じゃあ、それでいきましょう」

 

そう言って一色は、一人の男子生徒に書面に起こすように指示しだす。……ってあれ去年の副会長じゃねーか。ステルスヒッキーも驚きのステルス性能だな。

 

いろは「じゃあ、先輩。タイムテーブル構成のために各部活に確認にいきましょう」

 

八幡「あいよ」

 

いろは「小町ちゃんと大志君くんは予算の確認と内訳を大雑把でいいから書き出しておいて。それから……」

 

一色が各々に指示を出す。去年の今頃は人に頼りっぱなしだったがしっかりと会長できてるじゃねーか。

 

その後、一色とともに各部活に顔を出す。コミュニケーションの部分は一色がやってくれたので、俺はそれをメモすればいいだけだった。

 

 

生徒会室に戻り、パソコンにタイムテーブルを打ち込む。ふぇぇぇなんか社畜の予行練習みたいだよぉ。

 

とりあえず、前半部分を打ち込んだところでひとつ、伸びをする。……さっき、マッカン買い損ねたせいで、糖分不足だな。買いに行くか。

 

いろは「せーんぱい、そろそろ休憩しませんか?」

 

バッドタイミングだった。いいか、休憩ってのは一人でするもんだ。誰かと休憩してみろ。気を使って全然休まらないぞ。しかも一緒に休憩してる奴も距離感のよくわからない俺に気を使ってやっぱり休めない。

 

休憩は糞だな。休憩はしちゃだめだ。でも労働したら必ず休憩しなきゃならん。つまりやっぱり労働は糞だ。高校時代にこれだけ働いたんだから、将来は労働しなくていいな。

 

ふむふむと将来の展望を確認していると、テーブルにコトンと金属的なものが置かれる。なんだ?

 

いろは「コーヒー買ってきましたから。あ、お金はいいですよ。手伝ってくれているお礼ってことで」

 

マッカンだった。なにこれ、以心伝心?ツーといえばカー?ダブルドラゴン、馬鹿な蛇兄弟?

 

八幡「おお、ちょうど買いに行こうと思っていたところだ。ありがとな」

 

いろは「わたしは先輩のことならなんでもわかっちゃうんですよ。あ、今のいろは的にポイント高い!」

 

八幡「お前小町の真似すんなよ…………あれ、いろはす可愛いのかな?って思っちゃうだろ」

 

いろは「うわー……うわー……妹の真似してかわいいと思うとか…………うわー」

 

八幡「……それにしてもお前も随分会長らしくなってきたな、俺以外相手だとあざとくないし」

 

いろは「わたしは先輩にかわいいと思ってもらえればそれでいいんですよー。あ、これもポイント高い!」

 

八幡「もういいから。それもういいから。仕事戻るから」

 

いろは「……今回もいろいろ苦労や迷惑かけちゃうと思いますけど、よろしくお願いしますね、先輩」

 

 

そんなこんなで一色がちゃんとリーダ-として、みんなをひっぱり、途中、いくつかの部活と意思疎通の齟齬があったりもしたが、そこまで大きな問題もなくクリスマスイベント当日を迎えた。

 

 

いろは「みんなー!メリークリスマース!!」

 

わーと盛り上がる会場。全校生徒とまではいかないが、なかなかの人数が体育館に集まっていた。

 

中には、受験勉強の息抜きか、逃避か三年生の姿も見受けられる。名前も思い出せないやつが大半だが、向こうも俺のこと知らないだろうし、いいよね。

 

体育館の中には、いくつかのテーブルが置かれ、調理部の作ったクリスマスケーキが乗っている。軽い立食パーティーのようになっていた。

 

軽音部がクリスマスソングを演奏したり、吹奏楽部がクリスマスメドレーを披露したり、演劇部がクリスマス・キャロルを演じたりで会場はクリスマスムード一色(いっしょくであり、いっしきではない)になっていた。クソッタレ。

 

だが、俺の心情はどうあれ、このクリスマスムードの高まりはこの後のサプライズ(笑)告白イベントには、プラスに働くだろう。

 

一色のクラスの協力者カップルも一番手承諾してくれたし、うまいこと進むだろう。

 

いろは「演劇部のみなさんありがとうございましたー…………なんと!ここで、サプライズイベント!」

 

前もって用意したドラムロール音が体育館に響く。ダンッという音とともに体育館全体が暗転し、一色にスポットライトが当たる。

 

いろは「聖なる夜は愛を届ける!カップルも独り身も!あの人に思いを伝える大告白ターイム!!」

 

なんか知らんが、わーっと会場が盛り上がる。リア充は色恋沙汰が好きだね!

 

いろは「今、付き合っている人に愛を伝えるのもOK!クリスマスに絆されて告白するも自由!さあ、我こそはと思うものは、今こそ舞台に立ち、体育館の中心で愛を叫べ!」

 

体育館全体がざわつき始める。あちこちで「お前行けよー」とか「いやいや、無理だって」みたいな会話や「恥ずかしくなーい」、「で、誰か行かないのー」などの会話が聞こえる。

 

打ち合わせでは協力者がここで手を挙げ、舞台に立つことになっているのだが…………どういうわけか、その気配がない。

 

不安が大きくなっていき、冷や汗がするりと顎を伝ったところでインカムに通信が入った。

 

小町「お兄ちゃん!大変!協力してくれるはずだった人来てない!」

 

……………………なんだそれ!何?別れたの?それとも二人きり優先しちゃったの?っていうか、来ているかどうかぐらいかくにんしておけよ、俺含む運営の面々。

 

…………とまあ、来ていない人に憤りをぶつけても現状はどうしようもない。ほんとに。

 

……しかたねえ、やることは一つだ。大丈夫、さっきの小町の通信は一色のところにも入っているはずだ。

 

八幡「わかった、ここは俺がなんとかする」

 

小町「え?どうするの」

 

八幡「すぐにわかる……否が応にもな」

 

 

それだけ言ってインカムのマイクを切り、静かに、堂々と手を挙げる。一色の驚いた顔が、いやに強烈に視界に入った。

 

いろは「あ、はい。では舞台にどうぞ」

 

促されて、舞台に上がる。大志がマイクを渡してくれる。照らされるスポットライトがやたらまぶしくて、滔々と現実感を奪っていった。

 

いろは「えー……では、クラスと名前をお願いします」

 

これは段取り通りの定型句だ。生徒会室で一色が練習していたのがなぜだか、懐かしく思えた。

 

八幡「三年F組比企谷八幡です」

 

「誰だー」「知らねー」というニュアンスの言葉が飛び交う。知ってるよ、お前らが俺のことを知らないくらい。

 

いろは「では、思いの丈をどうぞ!叫んじゃってください!」

 

八幡「……一色いろはさん!」

 

息を吸い込む、吐き出す。いつもやっていたことのはずなのに、俺は変わっていないはずなのに、なかなか、次の言葉が出てこなかった。

 

いろは「え?わたし!?」

 

一色がリアクションしてくれたおかげでわずかながら間がもった。視線を全力で一色に向け、言葉を継がせる。

 

八幡「あなたの笑顔が好きです。俺と付き合ってください」

 

ひゅーだか、いえーいだか、やるねーだとかいう言葉が入り乱れる。それに紛らわすように、右目をぱちぱちと瞑り、合図を送る。これは茶番であると。

 

一色は俺の言葉を受けてずいぶんと戸惑っていたようであるが、その合図に気付いてくれたようで落ち着きを取り戻し、俯いた。

 

いろは「……わたし、好きな人がいるんで…………ごめんなさい!」

 

一色は俺のことをちゃんと振ってくれた。

 

その言葉を受けて、舞台から降りると会場から「ドンマイ!」とか「次行こうぜ次」とか「まけんなよー」なんて言葉が聞こえてくる。

 

やばい、こんなにやさしくされたの生まれて初めてかもしれない。泣きそう。

 

一人目が見事玉砕したためか、そこから告白のハードルは下がり、舞台に上がるやつがぽつぽつと出始めた。

 

成功するものもいたし、もちろん振られるものもいる。中にはプロポーズ始めるカップルなんかもいた。

 

観衆はもれなく囃し立て、慰めの言葉をかける。

 

…………いや、知ってたよ。優しい言葉は俺個人ではなく、誰だか知らないけど振られた奴にかけられていたこと。

 

知ってた。知っていたけど…………さっきの俺の感動を返せ。

 

その後のビンゴ大会もつつがなく行われ(景品は地元商店街の方々が、安価で提供してくれた)大盛況のうちにクリスマスイベントは締められた。

 

そして、生徒会面々と参加部活動有志諸君は片付けに追われていた。

 

その最中、一色の姿を見かけたので話しかける。

 

八幡「さっきは助かったよ。話し合わせてくれてさんきゅ」

 

一色は声をかけられてこっちを見たが、すぐに俯き、言葉を探しているように見えた。

 

いろは「………………先輩は……やっぱりそういう手段を使うんですね」

 

俯いたままそれだけいうと、こっちを見る。一瞬その顔がどこか悲しげに見えたが、すぐに笑顔に戻して言う。

 

いろは「いえ、こっちこそ助かりましたー。あのままだと、グダグダになっていたと思うので」

 

八幡「おう」

 

その刹那のひっかかりにもやもやとしながらも片づけを続行させた。

 

 

全部終わって帰り道。俺、一色、小町、大志の四人で帰路に着いたところだった。

 

校舎の玄関を出たところで小町が大げさに叫んだ。

 

小町「あー、いっけなーい。お醤油切らしてるんだったー。急いでスーパー言って買ってこなくちゃー」

 

なんかやたら棒読みっぽいが、気にしてはいけない。

 

八幡「そうか、なら俺も……」

 

小町「いーのいーの、お兄ちゃんはわざわざ手伝ってくれたわけだし、ゆっくり帰ってきて。大志君、行こう!」

 

大志「うっす」

 

八幡「ちょ、まっ……」

 

駆け出した小町と大志を止めることもできず、二人は去っていた。

 

…………なんかあったらお兄ちゃん、許さないんだからね!

 

八幡「……なんだよ、嵐かよ。日本遺伝学会大会延期しちゃうのかよ」

 

俺のつぶやきが虚空へと消えると同時に一色が横から顔を覗かせる。

 

いろは「先輩、この後二人で二次会しませんか?」

 

八幡「しません」

 

いろは「即答とか……いろは的に…………いやもう世間的にポイント低いですよ」

 

八幡「世間とか知らん。俺はそんなものに流されず生きたいように生きる。お、これ八幡的にポイント高い」

 

いろは「はあ……ポイント高くない…………いや、なんていうか……もういいです」

 

八幡「おお、そうかじゃあおつかれー」

 

いろは「ちょっと、キャラに合わないことまでして逃げようとしないでください」

 

八幡「なんなの、お前なんなの?俺は帰って小町とクリスマスケーキ食べて小町の作ったローストチキン食べて小町のところにしか来ないサンタクロースを待たなきゃいけないんだけど」

 

いろは「うっわ、あまりにも小町ちゃん中心生活……いいじゃないですかー。っていうよりクリスマスイブにこんなにかわいい女の子に誘われてるんですよ?もっとはしゃいでくださいよー」

 

八幡「いやっほぅぅぅぅ!いろはすにクリスマスイブ誘われたぜー!じゃあ、そういうことで、帰るから」

 

いろは「文章のつながりがおかしい!」

 

八幡「なんだよ……要望通りアイデンティティ崩壊させてまで言う通りにしたのに……っていうか、なら葉山誘えよ。もうすぐあいつ卒業だぞ」

 

いろは「わたしは先輩といたいんですー」

 

八幡「はいはい、あざといあざとい。結局あれだろ?クリスマス誰かといたよー。一人じゃなかったよーっていうポーズ取りたいだけなんだろ」

 

いろは「……」

 

え、何?この間。なんか間違えたかな。「間」だけに。山田くーん、俺の座布団全部持ってってー。

 

必死におちゃらけて、沈黙の空間から感じ取られる何かをできるだけ見ないふりをしていた。

 

いろは「違い、ますよ。わたしは先輩がいいんです。先輩じゃないといやなんです」

 

唐突に向けられるやや潤んだ目。そこにはからかいや冗談といった色は一切なく、ただただ真っ直ぐに俺を見ていた。

 

こんな目を向けられてしまって何も言えなくなる。下手な言葉ではだめだ。ダメだが、この先を言わせるのもダメな気がする。

 

なら何を言えばいい?そんなもの…………わからない。

 

 

いろは「先輩、比企谷八幡先輩。あなたのことが、好きです。愛しています」

 

言われて、しまった。ここから今のセリフをなかったことにするとか聞こえなかったことにするっていうのは…………ムリゲーだ。

 

だからせめて、せめてもの足掻きだ。示すのは曖昧な拒絶。俺のやり方はこうなんだ。……それはきっと、もう変えられない。

 

八幡「は、ははは、あれだろ?罰ゲームか……そうでなかったらドッキリだろ?実は駆け去ったと見せかけて小町とか大志とか隠れてるんだろ?」

 

いろは「本心、ですよ。先輩」

 

一色は多分、わかっている。曖昧な拒絶を、俺が奉仕部を離れたわけを。……その感情を怖れていることを。

 

いろは「先輩は受験生で、もう12月で。……あと数か月も学校にいなくて」

 

いろは「もっと早く先輩を好きになってたら、とか先輩が同じ学年だったらとかいつも考えてるんですよ」

 

いろは「本当は、言わない、言えないとおもってたんですけどね~」

 

いろは「半年ぐらい会話もしてなくて、顔合わせることもなくて」

 

いろは「もう、終わったこと、もう、冷めている……そう自分に言い聞かせていました」

 

いろは「でも…………久々に会って、先輩はやさ、しくて……わたしを…………気にかけてくれて……」

 

いろは「舞台に上がって、告白してくれた時はすごく嬉しかったのに、ただのその場しのぎの演技で……」

 

いろは「先輩は!自分がピエロになっていればいいと思っているかもしれないですけど!!…………私の気持ちは………………どう……なるんですか…………」

 

最後の方は完全に涙声で言葉も途切れ途切れ、だけど、聞こえないなんていっちゃいけない。

 

彼女の言葉を、心を、しっかり受け止めなくちゃいけない。そう、思った。

 

いろは「……この人、その場しのぎでこんなことやってるんだってわかった瞬間の喪失感…………すごかったです……」

 

いろは「その時……わたしこんなに…………先輩のこと好き、だったんだって……想い……知らされて……」

 

いろは「…………我慢……できなく……なっちゃって……」

 

いろは「ひとつでも多く、先輩との思い出を…………作れたらよかったはずなのに……」

 

一色が俺にぶつけてきた感情、それは「本物」なのだろうか。

 

そもそも本物ってなんだ。本物なんてあるのだろうか。逆に…………偽物はあるのだろうか。

 

仮に偽物があったとして、ここでこうして思いの丈を俺にぶつけている一色が葉山を想っていたことは偽物なのだろうか、なら、俺への想いは本物なのだろうか。

 

いや、違う。きっと偽物なんて最初からなくて一色にとって、俺にぶつけている想いが本物なら、葉山に向けていた想いも本物なのだ。

 

なら、俺が、雪ノ下や由比ヶ浜から逃げたという事実も、逃げたのが俺だというのにも関わらず、寂しいと感じているのも本物なのだ。

 

ああ、なんだ。本物に関する答えはすでに出ていたのだ。幸せの青い鳥ってやつは、ずっと近くにいたのだ。

 

八幡「一色…………なんていうか………………その……」

 

いろは「……はい」

 

八幡「……ありがとう」

 

いろは「…………………………はい」

 

八幡「今、俺の中で何か……込み上げてくるものがあるんだ。……それは多分、本物というものに対しての俺の一つの答えなんだと思う……」

 

いろは「………………」

 

八幡「……明日、雪ノ下と由比ヶ浜と話してみるよ」

 

いろは「…………そう、ですか」

 

それだけ言って一色は後ろを向く。ふうと小さく息を吐く音が聞こえた。

 

それから一拍おいて一色は振り返ると、

 

いろは「うまくいくといいですね!応援してます!」

 

花が咲いているような錯覚をした。涙目のまま、笑顔を作った一色はそれ自体が非常に美しく、まるで一枚の絵画のようであった。

 

 

翌日、終業式放課後。

 

前日のうちに由比ヶ浜に連絡をし、雪ノ下と一緒に放課後に奉仕部の部室へ来てくれるよう頼んだ。

 

たぶん、逃げてちゃ手に入らない。きっと誤魔化してたら失ってしまう。

 

ぶつけるのは本心、本音、嘘偽りのない言葉。

 

うまく伝えられるかはわからない。

 

だけど、伝わるまで何回でも伝えたいと思っている。

 

奉仕部部室の前、人類にとってはどうでもいい一歩だが、俺にとっては大きな一歩。

 

部室の扉を開けて踏み出した。

 

 

 

一時間後、俺は生徒会室の前に立っていた。

 

小町に先ほど、確認したところ今日は生徒会の仕事は終わっていて、会長しか残っていないらしい。なんというご都合主義。

 

ノックをしようとする手が震える。ぐっと拳を握り直し、トトトンとノックをする。

 

一秒……二秒……三秒。この間がとてつもなく長く感じる。そして、誰もいないのかとすら錯覚するほどの、間をおいてから

 

いろは「はーい、どうぞー」

 

ドアノブに手をかけ、一度深呼吸。ゆっくりとひねってドアを開けた。

 

いろは「え?先輩…………ど、どうしたんですか?今日雪ノ下先輩たちと話すって……」

 

八幡「ああ、話してきた。まあ…………うまくいったかな」

 

いろは「そうですか…………おめでとうございます」

 

八幡「それで…………あー、なんだ……お礼を言っとこうと思って」

 

いろは「……別にいいですよ、特に何かしたわけじゃありませんし……」

 

八幡「それと…………えーと、あれだ…………一色、俺と…………付き合ってくれないか?」

 

いろは「ふぇ?」

 

八幡「昨日、返事をせずいたのは申し訳ないと思っている。……なんていうか、けじめ……みたいなものがな……」

 

いろは「……雪ノ下先輩達のことですか」

 

八幡「……ああ」

 

八幡「自惚れや勘違いでなければ、あの二人は俺に恋心を抱いてくれたていたんだと思う。……それが、怖くなって俺は奉仕部から逃げ出したんだ」

 

いろは「…………」

 

八幡「人との距離は近ければ近いほど怖い。他人が俺を知れば知るほど、俺を守っていた何かがなくなっていくように思える」

 

八幡「だけど……一色、お前が……感情をぶつけてきてくれて、気づいたんだ。つかみかけた本物を手から零れていっていることを」

 

八幡「だから……こんな俺だけど、一緒に……いてほしい」

 

いろは「……ほんとに先輩は…………ずるいです」

 

いろは「よろしく、お願いします。先輩」

 

 

青春とは嘘であり、悪である。

 

人と人とのつながりを持って、本物がほしいと喚き、結局逃げ出す。

 

その想いをもって、気づかせてくれる人がいなかったなら、また何度も同じことを繰り返していただろう。

 

自分を大切にしないというのは、大切に思っている人をないがしろにすることと同義であり、やってはいけないことだったのだ。

 

何度もぶつかりあって分かり合う相手もいる。大した諍いもなく、離れる人もいる。

 

些細なことで崩れる関係もある。いつまでも切れない縁もある。

 

人間関係というのは儚く、強固で、そして美しい。

 

遠回りをして、道草をして、休憩して、道を間違えて…………

 

ここまでくるのに、随分と時間がかかっちまった。

 

きっとこれからも、何度も間違えたり、引き返したり、調子に乗って進みすぎたりするのだろう。

 

結論を言おう。

 

やはり俺の青春ラブコメは間違っている。

 

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いろは「わたし、結構あざとい自分好きかもです」

 

八幡「なんだそれ。まあ俺も…………嫌いではないが」

 

いろは「だってーわたしがあざとくなかったら、生徒会長に推されることもなかったですし……そしたら先輩と出会えてなかったじゃないですか。だから…………あざとい自分と、あざとい部分も素の部分も受け入れてくれた先輩が好きです」

 

この娘真顔で何言っちゃってんの?バカップルなの?爆発するの?

 

…………爆発、したくねえなあ。させたくねえなあ。

 

いろは「ちょっとせんぱーい。こんなに可愛い彼女がこんなに可愛く好きだって言ったんですよー!先輩も好きだって返すのが筋じゃないですかー」

 

すじ?なにそれ?おいしいの?……おいしいな。特におでんに入ってるやつサイコ―。

 

おいしいなら仕方ない、筋とやらを通すか。

 

なんとなく、ほんとになんとなく。気持ちが伝わるかなーとか思って一色の頭を撫でてみた。撫でながら

 

八幡「……俺も好きだ。……い、いろは」

 

すると一色は両の手を頬に当て、俯いてしまった。あれ?なんか間違った?

 

いろは「……絶対先輩の方があざとい……」

 

似た者同士か、とも思ったが、なんか恥ずかしいのでその言葉は聞こえないふりをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

いろは「先輩と、アフタークリスマス」

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