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アリス「世間知らずお嬢様アピールはもう飽きたわ」 えりな「そんなアピールしていません!」【食戟のソーマss/アニメss】

アリス「あけおめっ」

 

えりな「あ、あけおめ?」

 

アリス「ことよろっ」 

えりな「…?」 

アリス「?」 

えりな「どういう意味?」 

アリス「うん?」 

えりな「だからその、あけおめ とか、ことよろ って」 

アリス「えりな、育ちが良い世間知らずお嬢様アピールはもう飽きたわよ?」 

えりな「……そんなアピールしていません」 

アリス「え、じゃあ本気で聞いてるの?」 

えりな「当たり前じゃない」 

アリス「あらまぁ」 

アリス「こほん。いいことえりな? あけおめっていうのはーー」 

えりな「なるほど、そういう略語…」 

アリス「そっ。言いやすくて便利でしょ?」 

えりな「フン。分かりづらいだけよ」 

アリス「でも世間じゃ常識よ?」 

えりな「大体、新年の挨拶を省略しようという発想からして劣悪だわ。いかにも余裕のない低俗な輩が使いそうね」 

アリス「まあっ! えりなは年が明けても相変わらず高飛車で傲慢なのね」 

えりな「違います。あなたが庶民に感化されているだけではなくて?」 

アリス「えりな…」 

えりな(ふっ。図星みたいね) 

アリス「そんな性格じゃ、今年も友達0人確定ねっ」 

えりな「ぶっ!?」 

アリス「ゆく年くる年巡れども、えりなは来る友はおろか、そもそも行く友すらいないまま。孤独な人生を歩んでいくの…」 

えりな「ちょっと、失礼なこと言わないでよアリス!」 

えりな「というか、私にだって友達くらいいます!」 

アリス「あらそうなの?」 

えりな「見くびらないで。まず」 

アリス「あ、秘書子ちゃんはナシよ?」 

えりな「……」 


えりな「ま、まあ緋沙子は付き人だものね」 

アリス「それで?」 

えりな「もちろん他にもいるわ。例えばそうね、きょ」 

アリス「あと極星寮の子たちもダーメっ」 

えりな「なんでよ!?」 

アリス「えりなせんせーはあの子たちの先生ですもの。先生と生徒はお友達の関係になるべきじゃないわ」 

えりな「それは進級試験前の話じゃない!」 

アリス「以上、お友達ゼロで元旦の暇をもてあましているえりなのために、私が遊びに来てあげたの。感謝なさいっ」 

えりな「だからゼロじゃ……」 

えりな「っていうか、暇なんかじゃありません。午後から来賓の方と新年の会食があるわ」 

アリス「あ、だからえりなは着物なのね?」 

えりな「なんだか関係ないような言い方だけど、あなたも出席するのよ? 早く自宅に戻って着付けを済ませなさい」 

アリス「イヤよ」 

えりな「嫌じゃないわよ! 恒例行事なんだから」 

アリス「イ・ヤ! 私は遊びたいのっ!」 

えりな「あのねぇ…」 

えりな「学校内のものならまだしも、薙切の、ひいては遠月の名に関わりうる行事なのよ? 無断で欠席なんてしたらどうなるか」 

アリス「まぁまぁ、そう固いこと言わずに遊びに行きましょっ」グイッ 

えりな「あっ、ちょっとアリス!」 


結局外出 


えりな「まったくもう…お昼前には戻るわよ?」 

アリス「うふ。年始からえりなと遊べるなんて今年は幸先いいわ」 

えりな「それで、何をするの?」 

アリス「元旦にすることなんて決まってるじゃない。あそこに行くのよ」 

えりな「まさか、神社なんて言い出さないでしょうね」 

アリス「ピンポーン! すごいわえりな、一発で当てるなんて大した庶民力ねっ」 

えりな「何よ庶民力って…」 

えりな「初詣は誰だってするものでしょう? 今や風物詩として成り立っている面もあるもの。ただ……」 

アリス「ただ?」 

えりな「私は少し苦手なのよ。特に三ヶ日は人混みが絶えないから」 

アリス「えりなは重度の人見知りだものね」 

えりな「そうじゃなくて、大勢の中で窮屈な状態になりたくないの! そもそも人見知りじゃありません!」 

アリス「人混みにも慣れておかないと将来困るかもしれないわよ?」 

えりな「ふん。いいのよ、私はそういうものとは一切無縁な道を歩んで行くんですから」 

アリス「ほらやっぱりお友達いなさそうじゃない」 

えりな「だからそれとこれとは違います! いい加減私を侮辱するのをやめないとーー」 

アリス「! えりな、前っ…」 

えりな「えっ?」 


ドンッ 


えりな「きゃっ」 

創真「っと」 

アリス「ごめんあそばせっ。ちょっとよそ見を…」 

創真「いや、こっちこそ……おっ?」 

アリス「あらっ? 幸平クンじゃない」 

えりな「えっ!?」 

えりな「ゆ、幸平くん…!」 

えりな(年始早々会ってしまうなんて…どこまで神出鬼没なのよ!) 

創真「なんだ、薙切ズじゃん。あけおめー」 

アリス「あけおめっ。こんなところで奇遇ねっ」 

えりな(本当に使ってる…) 

アリス「ほら、えりなも」 

えりな「えっ? あ、あっ…えっと」 

創真「?」 

えりな「あ、あけおめ……幸平くん」 

創真「……おう、あけおめ」 

えりな「なによ、その微妙な反応は」 

創真「いやなんつーかその」 

創真「あけおめって、すんげー似合わねぇのなお前」 

アリス「ぷっ!」 

えりな「はあぁ!?」 

アリス「ふふっ、似合わないって、ふふふっ」 

創真「いやぁーこっちの薙切は自然だったのに、お前はなんかなぁ。しっくりこないっつーか違和感っつーか」 

えりな「ゆ、幸平くんあなた……この私がわざわざ挨拶してあげたっていうのに…!」 

アリス「うふふっ…! ふふふふふっ!」 

えりな「笑いすぎよアリス!」 

創真「まあでも、そのほうがいいんじゃね」 

えりな「…は?」 

創真「親しみやすくてさ」 

創真「俺、前に薙切の話しにくいとこ苦手っつったけど、この頃は案外そうでもないって思うぜ」 

アリス「ふーん?」 

えりな「っ……もともと話しにくくなんかありません」 

創真「んなことねぇよー。なぁ薙切?」 

アリス「うん? うーん、私は話にくいと思ったことはないけど」 

えりな「ほら見なさい」 

アリス「ただえりなが昔っからめんどうな性格なのは確かよ」 

創真「やっぱそうだよなー」 

えりな「め、面倒なんかじゃありません!」 

アリス「そんなことより、幸平クンはどうしてここで立ち止まっていたの?」 

えりな「あ、こら! 話はまだ…」 

創真「あー、ちょっとな」 

アリス「あらぁ? ひょっとして言えないヒミツのご用事かしら」 

アリス(デートとかっ) 

創真「いやそんなんじゃねーけど」 

えりな「聞いてるの二人とも? 私は面倒な性格なんかじゃないんだってば!」 

アリス(そういうところよ、えりな。言わないけどっ) 

創真「はは、そーいうとこがクソ面倒だよなー薙切は」 

アリス「わぉ」 

えりな「ど、どういうところよ! 本っ当ムカつく言い方するわね!」 

アリス「どうどう。可愛い顔が台無しよ?」 

えりな「ぬぬぬ…!」 

創真「ところで薙切たちこそ何してんだ?」 

アリス「ふふん。いい質問ね幸平クン」 

アリス「聞いて驚きなさい。私たちは……ずばり、デートをしているのっ!」 

創真「なにィっ!?」 

えりな「違います」ペシッ 

アリス「あぁんっ」 

創真「って言ってるけど」 

アリス「まーそれは冗談で、本当は初詣に行く途中なのよっ」 

創真「へぇ、お前らもか」 

アリス「そ。だからえりなは気合を入れて着物なの」 

創真「ほー、言われてみりゃ化粧とかもバッチリだもんな」ジー 

えりな「それも違います! じろじろ見ないで!」 

えりな「というか、も ってことは幸平くん、あなたも初詣に?」 

創真「まあ、一応な」 

えりな「……ふうん?」 

創真「なんだよ」 

えりな「……別に」 

えりな「……」キョロ 

アリス「……」 

創真「…なにしてんだ薙切?」 

えりな「は? 何のことかしら?」 

創真「何か探してたよな?」 

えりな「探してません」 

創真「じゃあ何だよ今の動き…」 

アリス「うふっ。えりなったら」 

えりな「なによ」 

アリス「ああっ! 幸平くんっ!」バッ 

創真「おわっ、どうした急に」 

アリス「幸平くん、初詣は誰と行くの? 私気になって仕方ないわっ!」ババッ 

創真「…は?」 


アリス「ふぅ」 

えりな「あ…アリス?」 

アリス「以上、えりなの心を具象化してみました」 

えりな「は!?」 

創真「なんだ、行く相手を探してたのか」 

アリス「ええそうよっ」 

えりな「ちょっと何を勝手に…」 

アリス「相手は誰なの!? この私を差し置いて一体どこの女と!?」バババッ 

えりな「なっ、そ、そこまで思ってないわよ!」 

アリス「そこまで ってことは、やっぱり途中まで当たってるのね?」 

えりな「……あ」 

アリス「うふふ。えりなはほんと可愛いんだからっ」 

えりな「うううるさいっ! ええそうです、誰と行くのか今まさに聞こうとしてたところです!」 

創真「本当かよ」 


えりな「さあ幸平くん、洗いざらい話してちょうだい! 誰とどこへ初詣に行くのか!」 

創真「お、おう」 

アリス「きゃっ、なんだか浮気現場に出くわしたガールフレンドみたいなセリフねっ」 

えりな「アリスは黙ってて!」 

アリス「ーーー」お口チャック 

創真「あー実は」 

えりな「言っときますけど、気になるといってもあくまで君のような一般庶民があくまで一般的にどのような集団で行動するか、あくまで一般論としての知見を得たいだけですからね!」 

創真(一般一般うるせぇ…) 

アリス「……」ニコニコ 

えりな「で、誰なの!」 

創真「俺一人だけど」 

えりな「ハッ、やっぱり君は………えっ?」 


えりな「えっと、一人? って言ったの?」 

創真「まぁな。だから誰も何もねーんだけど」 

えりな「あ、そう…」 

アリス「意外ね。幸平クンなら一緒に行く女の子の一人や二人いると思うんだけど」 

えりな「……」 

アリス「田所ちゃんとか。誘わなかったの?」 

創真「田所は年末年始地元に帰ってる。つーか極星寮のやつら俺以外ほぼ全員そうなんだよなぁ」 

アリス「あら」 

アリス「でも寮以外でもいるでしょ? ほら、えりなの傘下だった子。ミートマスターの」 

創真「あー、にくみか」 

アリス「そう! 水戸肉魅さん」 

創真「本名は郁魅な。にくみは聞いてねーけど、この前は丼研の防衛対策とかで忙しそうにしてたなー」 

アリス「んーでもまだいるわよね、あの女の先輩の」 

創真「……つーかなんで女子限定?」 

創真「別に、誰かと行く決まりも男女で行く決まりもねーじゃん。初詣って」 

アリス「えっ、でも一人じゃつまらないわよ?」 

創真「そうか? ゆきひらが休みで一人で神社行くこともよくあったけど、超エキサイティングしてたぜ」 

アリス「ふうん。男の子はそういうものなのかしら」 

創真「もちろん大勢でにぎやかにやんのも好きだけどな」 

アリス「でしょ? 楽しいことは共有しなくちゃ」 

アリス「……あ、それなら」 

創真「ん?」 

アリス「いいこと思いついたわ。一緒に行きましょ、幸平クンっ」 

創真「初詣に? 俺はいいけど」 

アリス「決まりね。嬉しいでしょ? こーんな美人を二人も侍らせて境内を練り歩けるのよ」 

創真「あーたしかに薙切くらいの容姿のやつなんてそうそういねぇもんな」 

アリス「うふ。最高の年明けスタートが切れること必至なんだから」 

創真「逆に罰当たんねーか不安になるな」 

アリス「ん。まあ、そのレベルであることは否めないわね」 

創真「これぞまさしく両手に花ってやつか…」 

アリス「そ、そうね」 

アリス(そこまで素直に肯定されるとちょーっと照れちゃうかも…) 

創真「あれだな、ポイント二倍って感じでお得だな」 

アリス「ブブーッ!」 

創真「は?」 

アリス「その表現はいただけないわ。まったく、減点よ幸平クン」 

創真「つーか薙切はいいのか?」 

アリス「えっ?」 

創真「いや、さっきからボーっとしてるほうの」 

えりな「……」ボー 

アリス「えーりな」 

えりな「あ、えっ? なに?」 

アリス「なにトリップしてるのよう。幸平クンが一人なのがそんなに驚いたの?」 

えりな「いや……驚いたっていうか」 

えりな「私、幸平くんのことで一人で叫んで空回りしちゃって……なんか馬鹿みたいで」 

アリス「なに言ってるの、いつものことじゃない」 

えりな「いつも!? 私っていつもこんな!?」 

創真(珍しく薙切がオロオロしている) 

アリス「それより朗報よ。幸平クンがえりなと初詣に行きたいですって!」 

えりな「……はい?」 


創真「なんか情報ねじ曲がってね?」 

アリス「そう?」 

えりな「えっと、一応聞くけど、アリスの冗談よね?」 

アリス「冗談なんかじゃないわ。ね? 幸平クン」 

創真「まあ…間違っちゃねーけど」 

えりな「なっ!?」 

創真(神社には行きてぇし) 

アリス「えりな、嬉しい?」 

えりな「う、嬉しくない! 嫌に決まってるでしょう!」 

アリス「幸平クンがえりなを求めてくれているのよ?」 

えりな「やめてよ! 気味の悪いこと言わないで!」 

創真「これイジメじゃね?」 

アリス「そっ。えりなが乗り気じゃないなら仕方ないわ」クルッ 


ギュッ 


創真「ん?」 

えりな「あ、アリス…? 何の真似かしら」 

アリス「ふふっ」 

アリス「初詣は、私と幸平クンの二人で行くことにするわ」 


えりな「えっ? 二人でって……どうしてそうなるのよ!」 

アリス「だって、私は初詣に絶対行きたいじゃない?」 

アリス「幸平クンも初詣に行く予定だったじゃない?」 

創真「そうだな」 

アリス「で、えりなは幸平クンと行くのなんてイヤって言うじゃない?」 

えりな「別に、嫌だなんて」 

アリス「言ったじゃない?」 

えりな「うっ…」 

アリス「つまり、私と幸平クンで行くのが一番幸せなのよ」 

創真(それより朝メシ餅一個しか食ってねぇから腹減ってきたな) 


えりな「じゃあ、私はどうしたらいいのよ」 

アリス「……帰る?」 

えりな「ここまで連れてきておいて、一人で引き返せっていうの!?」 

アリス「あら、もともと半ば無理やり誘っちゃったし、これでも悪いかなと思ってたのよ?」 

えりな「だったら屋敷を出る前に思いとどまりなさいよ! ここで引き返したら完全に無駄足じゃない」 

アリス「じゃあえりなは一人で行ったらいいじゃない」 

えりな「だからそんなの……くぅう~!」 

創真「ってか普通にお前ら二人で行きゃ解決するんじゃ」 

アリス「シッ! 今おもしろいとこなんだからっ」 


アリス「さ、早くしないと時間がなくなっちゃうわ」 

えりな「……」 

アリス「いいの? 本当に私と幸平クンの二人で初詣デートに行っちゃうわよ?」 

えりな「で、デートじゃないでしょう」 

アリス「男女が二人きりで仲睦まじくお出かけすることのどこがデートじゃないというの? 紛れもなくデートよっ」 

創真「え? 俺の意見は?」 

アリス「ないわ」 

創真「そっすか…」 

えりな「っ……」 

えりな「ああもう、分かったわよ!」 


えりな「行けばいいんでしょ、一緒に」 

アリス「さすがえりな! 話が分かるわねっ」 

えりな「でもね幸平くん、勘違いしないで。君はあくまで私たちの身辺警護の立ち位置で構えること!」 

創真「なんだそりゃ。ボディーガードやれってことか?」 

えりな「そういうことね」 

創真「いつもの黒服グラサン達はどうしたよ」 

アリス「いないわ。黙って抜け出して来たんだもの」 

えりな「君ごときに彼らのような役割が賄えるとは思っていません。緊急時に身代わりになってくれれば十分です」 

創真「ひっでぇなオイ!」 

えりな「いい? 間違ってもこれは…で、デートなんかじゃないから、ちゃんとわきまえなさいよ!」 

創真「分かったよ…」 

アリス「そうと決まれば早速ゴーよっ!」 


近くの神社 


アリス「到着ねっ」 

えりな「………」 

創真「はー、やっぱすげぇ人だな」 

アリス「この辺りだとお正月で一番にぎわう場所だもの」 

えりな「………」 

創真「薙切ぃー」 

アリス「なに?」 

創真「あ、こっちの薙切な」 

アリス「あらっ…… えりなえりな、呼ばれてるわ」 

えりな「え?」 

創真「どした? また顔呆けてんぞ」 

えりな「し、失礼ね! 人混みが想像以上であきれていただけよ」 


創真「まぁ元日だから仕方ねーよな」 

えりな「……本当にこの中に入るの? 」 

アリス「もちろんよ」 

えりな「帰っていいかしら」 

アリス「ダメよっ。中に入らなきゃ初詣にならないわ」 

えりな「それはそうだけど…」 

えりな「……」 

えりな「考えてみたら、私は参拝とかをするべきではないと思うのよ」 

アリス「? どうして?」 

えりな「だって、私は神になるんですもの」 

創真「……は?」 

アリス「……?」 

アリス「…えりな? どうしたの急に?」 

えりな「だってそうじゃない」 

えりな「私はいずれ食の頂点に立つ者よ? いわば食の神。すなわち崇め奉られてる側なの」 

えりな「そのような存在となる私が他のものを拝するのは相応しくない行為、ということよ」 

創真「うはー、本気かよお前」 

アリス「ね? 幸平クン。えりなって可愛いでしょ?」 

創真「かわいいっつーかかわいそうだな、自称神だもんな」 

えりな「ば、馬鹿にしてるの!? 自称じゃありません!」 

創真「じゃあ薙切が…なんだっけ? 食の神? になる証拠はあんの?」 

えりな「証拠? そんなの自然の摂理で……あ」 

えりな「舌よ! 私は神の舌を持っているわ。これこそまさに食の神になるべく生を受けた証拠なのよ」 

アリス「ね? 幸平クン。えりなって可愛いでしょ?」 

創真「もはやアレだわ、いろいろ通り越してかっこよさすら感じるわ」 

えりな「ちょっと真面目に聞きなさいよっ!」 


創真「だいたい神の舌っつってもなぁ。よく分からんねーし」 

えりな「私のみが持つ、絶対の味覚を有する舌のことよ。味をイメージとして認識することが可能なの」 

創真「だからそれがいまいち謎なんだよなー。フツーの人と作りは一緒なわけだろ?」 

えりな「ん」べー 

創真「?」 

えりな「ん!」べー 

創真「ほー?」 

えりな「……」べー 

創真「あ、もういいぞ」 

えりな「フッ」 

えりな「感じ取って頂けたかしら。普通の人との違いを」 

創真「なぁなぁ」 

アリス「んっ?」 

創真「薙切ってやっぱすげぇアホかわいいわ」 

アリス「むっ、うれしいけどアホは余計よっ」 

創真「いや今のは流れ的にこっちの薙切って分かれよ」 

えりな「なっ!? あ、アホかわいいってなによ! 馬鹿にしてるの!?」 


アリス「天然カワイイえりなはさておき」 

えりな「…ほめてないわよね? それ」 

アリス「前から気になってたんだけど幸平クン、私とえりなのことどっちも薙切って呼ぶでしょ? ちょっと分かりにくいのよね」 

えりな「あの」 

創真「仕方なくね? 両方薙切なんだし」 

アリス「でも今みたいに間違っちゃって困るのよ」 

創真「たしかになー」 

えりな(また私無視されてる…) 

アリス「だから幸平クンは今後、私たちのことを下の名前で呼べばいいと思うの」 

創真「おーなるほど。そりゃ名案だ」 

えりな「ん?」 


えりな「私たちも って、まさか私も入ってるの!?」 

アリス「他に誰がいるというの?」 

えりな「ちょっ、ダメよ! ふざけないで!」 

アリス「えーいいじゃない、フレンドリーに行きましょ」 

えりな「ダメだってば! そ、そういうのは将来私と結ばれる人にだけ許されるものなの!」 

えりな(ましてや幸平くんになんて……そんなの…) 

アリス「もう、ほんと乙女なんだからえりなは」 

えりな「っ…ほっといてよ」 

創真「まぁそうカッカすんなよなーえりな」 

えりな「なぁっ!? だから君なんかが呼んでいいものじゃないって言ってるでしょ!!」 

創真「え、ダメ?」 

えりな「話聞いてたの!? 絶対ダメよ!」 


創真「しかしそうなると他には…あだ名とかねぇの?」 

えりな「無いわよ。っていうか私まで変える必要あるの?」 

創真「あれ、秘書子って薙切のことなんて呼んでたっけ」 

アリス「えりな様、かしら?」 

創真「あーそうだ。えりな様えりな様」 

えりな「ん……まあ? それならクライアントの方も呼んでいるし認めてあげても」 

創真「それだけはぜってー嫌だわ」 

えりな「なんなのよもー!!」 

アリス「素直に名前呼びでいいじゃない。えりなはケチんぼねっ」 

えりな「私にとっては大事なことなの! それに万が一そんなのが学校の誰かに聞かれでもしたら…」 


えりな「っ、それよりアリスはどうなのよ? この男に名前で呼ばれるなんて」 

アリス「どうって?」 

えりな「屈辱じゃないの? 不名誉の極みだとは思わないの?」 

創真「お前まじで容赦ねーなぁ」 


アリス「そんなこと思わないわ。だって幸平クンは私にとって特別な男の子だもの」 

えりな「……」 

えりな「はっ? 特別?」 

アリス「そうよ。特別なの」 

えりな「それって……えっ?」 

えりな「うそ……ごめん、ちょっと待って」 

創真「アリス、どういう意味だ?」 

アリス「んっ? 幸平クンは選抜で私のこと泣かせたでしょ? そんな男の子はリョウくん以外でアナタだけだもの」 

創真「あー、そういやあったなーそんなことも」 

えりな「えーっとアリスにとって幸平くんは特別で…? 名前で呼ばれるのが嬉しくて…」ブツブツ 

アリス「ていうか、自然と名前で呼んだくれたわねっ」 

創真「おう。俺のことも創真でいーぜ」 

アリス「うふふ。それにはちょっと早いかしら」 

創真「え? なんで?」 

アリス「んー、とにかくダメよっ」 

えりな「そういえばいつかプールで……アリスには……」ブツブツ 


えりな「……アリス?」 

えりな「あなたひょっとして、まさかとは思うけど、幸平くんが…」 

アリス「シッ」ピッ 

えりな「!」 

アリス「もうっ、当人の前でやめてよね。えりなのくせにデリカシー無さすぎよっ」 

えりな「あっ、ご、ごめん。そうよね」 

えりな(そんな、本当にアリスは……) 

創真「何してんだ?」 

アリス「なんでもないわ。気にしないでっ」 

えりな「そうよ。幸平くんとは全く一切これっぽっちも関係のない話なんだから」 

創真「お、おう。そうか」 

えりな「いい? 絶対に気にしちゃダメよ?」ズイッ 

創真「そこまで言われると逆に怪しいな…」 

えりな「何にも怪しくなんかないわよ!」 

えりな「とにかく、幸平くんとアリスの関係についてなんて1ミリも触れてないから! 分かった?」ズイッ 

アリス「……」 

創真「わ、分かったって。つーか近ぇよ」 

えりな「っ!」 


アリス「まぁまぁ、ここで立ち話しても始まらないわ。早く中へ進みましょ」 

創真「それもそうだな」 

えりな「うっ、だから私はこんな人混み……それにこの行列に並ぶと時間が無いかもしれないわ」 

アリス「心配ご無用。ついてらっしゃい」 

創真「? アリスー、そっちじゃねーぞ」 

アリス「いいのよ、こっちで」 

創真「?」 

えりな「?」 


アリス「ここから入るのよっ」 

創真「おおー、裏ルートか?」 

えりな「でもアリス、あの看板に…」 

創真「境内に通り抜けはできません ってあるな」 

アリス「ふふ、それはどうかしら」 


少し進んで 


創真「うわーこりゃまたがっつりフェンス張られてんなぁ」 

アリス「これを越えれば、並ぶことなく本殿に辿り着けるわ」 

創真「まじか! すげー近道じゃん」 

えりな「無礼者……」 

えりな「というかアリス、これをよじ登るだなんて言い出さないでしょうね?」 

アリス「そんなことしないわ。えりながどうしても幸平クンにパンツ見られたいって言うなら止めないけど」 

えりな「なっ、い、意味分かんないんだけど!」 

創真「てか、着物じゃどうせよく見えなくね?」 

アリス「たしかにそうね。残念だわっ」 

えりな「なに真面目に話してるのよ!! バカなの!?」 


アリス「えりなのパンツはまた今度として、このフェンスって実は簡単に通れてしまうの」 

創真「まじか。わりと高いけど、抜け穴でもあんのか?」 

アリス「すごい幸平クン! 大正解よっ」 

えりな「ねぇ、今聞き捨てならない要素があったわよね?」 

アリス「あらっ? どこだったかしら?」 

創真「あの辺じゃね? よーく見ると針金が重なってるとこあるし」 

アリス「あ、それっぽい。よく見つけたわね幸平クン」 

創真「へへっ…ガキの頃はあらゆる公園を自分たち用に開拓しまくってたんでね」 

えりな(なんかもうスルーされるのに慣れてきた自分がいて怖い) 



キィッ 


アリス「開いたわっ!」 

創真「よっしゃ!」 

えりな(…なんだか急激に仲良くなったわねあの二人。ある意味似た者同士というか) 

創真「しかし誰が作ったんだか、よくこんなの見つけたなーアリスも」 

アリス「見つけてないわ。これは私がリョウくんに作らせたの」 

創真「って犯人お前かよ!」 

えりな(名前呼びもすっかり定着しているし) 

創真「おーい薙切ぃ、置いてくぞー」 

えりな「あ、うん」 

えりな(……別に、羨ましくなんかないけど) 

アリス「えりな、あたま気をつけてね」 

えりな「平気よ。これくらい少しかがめば簡単に」 

アリス「クモがいるから」 

えりな「……」 


えりな「きゃあああああああ!?」 


えりな「はぁっ、はぁっ…」ドキドキ 

えりな「アリス…! なんでもっと早く教えてくれないのよ!」 

アリス「ちゃんと忠告してあげたでしょ?」 

えりな「クモがいることを先に言いなさいよ!」 

アリス「なによう! 確信犯なのよっ!」 

えりな「最低っ! あなたは最低です!」 

アリス「フンだ。それより早く放してあげたら? 幸平クンが苦しそうよ」 

えりな「えっ?」 

創真「……」フガフガ 

えりな「…………」ギュー 



創真(でけぇ) 

えりな「ぎゃあああああああっ!!?」 


えりな「もう、最悪……ほんと最悪だわ」 

創真「まーそう落ち込むなって、別に気にしてねぇし」 

えりな「私が気にするのよ! バーカバーカ!」 

アリス「えりなったら子供みたいねっ」 

えりな「お黙りなさい」キッ 

アリス「ーーー」 

創真「にしてもウケんなー、薙切が虫苦手だなんて」 

えりな「…いきなりあんな目の前に現れたら驚かないほうがおかしいわよ」 

創真「でもあれだろ、世界中のメシ食ってんなら虫料理とかもイケるんじゃねーの?」 

えりな「美食ならね。フランスならエスカルゴ、中華なら竹虫なんかはよく知られたところかしら」 

創真「クモ翌料理は?」 

えりな「タランチュラを使ったものも以前あったわね。でもさっきのは食用ですらないし……ってもう! 思い出させないでよ」 

創真「わりーわりー。まぁ今度、虫が大好きになるようなすげぇ美味い虫料理つくって食わせてやるよ」 

えりな「いらないわよそんなの」 

えりな(そもそも私が気にしてるのはクモよりも、その後の…) 

えりな「ーーっ!!」ブンブン 

創真「どうしたお前」 

えりな「別に…」 


アリス「見えたわ。あそこから参拝の列に割り込むのよ」 

創真「テントの隙間から行列が見えるな」 

アリス「先頭は露骨に横入りがバレちゃうから、少し後ろにしれっと入りましょ」 

えりな「ほんとずるいわね」 

アリス「失敬ねっ。これは時間の節約、今はやりの時短というものなの。世間知らずのえりなはご存知ないかしら?」 

えりな「物は言いようね。反社会的自己中心的な行動に言い訳の札をつけてるに過ぎないわ」 

アリス「なによう! 時間が無いえりなのためにショートカットしてあげてるのに!」 

えりな「頼んでないし、午後から予定があるのはアリスも同じでしょう!」 

創真「お前らほんと仲いいなー」 

アリス・えりな「「どこがよっ!」」 

創真「息ぴったりじゃんか」 


フワッ 


創真「……ん?」 

アリス「どうかした?」 

創真「この肉とソースと磯の匂い、もしや…」 



ジューー… 


創真「間違いねぇ、焼きそばだ!」 

アリス「ってことは、このテントの裏は露店が並んでいるのかしら?」 

えりな「へぇ、こんな所でも食べ物が振舞われているのね」 

創真「いやーちょうど腹減ってたんだよな」 

アリス「ダメよ幸平クン。そういうのは参拝してからにしましょ」 

創真「まじかー。おっし、ならパパッと拝んで済ませちまおーぜ」 

えりな「相変わらず君は無作法というか風情が無いというか…」 

アリス「じゃ、あそこから潜り込むわよっ」 




ガヤガヤ… 


アリス「5分待ちってところかしら?」 

創真「いざ入ってみるとやっぱすげぇ人数だなこりゃ」 

えりな「これ、真面目に並んでいたら軽く1時間は待ったんじゃないの…?」 

創真「だなー。遊園地を思い出すぜ」 

アリス「えりな、はぐれないでよ? アメを貰っても知らない人にはついていかないこと」 

えりな「…そんなことしません」 

アリス「しっかり幸平クンにつかまってること」 

えりな「それもしませんっ!」 

アリス「えりなは照れ屋さんねっ」 

えりな「違います! ああもう……」 

えりな「それにしても、どうしてこんなに並んでまで参拝したがるのかしら」 

創真「まぁ恒例だからってのがでかいんだろうけど」 

創真「それだけみんな叶えたいこととか祈りたいことがあるってことなんじゃね」 

えりな「神頼みね… フン、馬鹿馬鹿しいわ」 

創真「お前何しに来たんだよ」 


えりな「私は別に祈願する必要なんてないもの」 

創真「そーなのか?」 

えりな「叶えたいことは自らの手で成し遂げるし、私にはそれだけの才能と力量が備わっているから」 

創真「あー、なんか薙切っぽいな」 

えりな「あ……でも強いて挙げるならひとつあるわね。私の手を煩わせることなく叶えたいことが」 

創真「なんだ?」 

えりな「幸平くんが早く学園から去ってくれますように、ってね」ニヤ 

創真「ぶはっ、お前まだ飽きずに言ってんのかよ」 

えりな(くっ、やっぱり嫌味が通じない) 

創真「しかも初詣まで来てそれとかやべーよ。俺のこと意識しすぎだろ」 

えりな「なっ、い、意識なんてしてません! それほど目障りだって言いたいの!」 

創真「へーへー」 


えりな「だったらなによ、君こそ何を祈願するつもりなの?」 

創真「んー… 」 

創真「実を言うとさ、俺も薙切と近いんだよな」 

えりな「え?」 

創真「叶えたいことは自分の手で って言っただろ?」 

えりな「ええ」 

創真「俺の夢は親父に認められる料理人になってゆきひらを継ぐこと。んで、そうなるには今のままじゃ全然ダメだ」 

創真「けどそれはどっかの神様にすがったって変えらんねーし、俺自身の手で積み重ねていくしかないもんだと思う」 

えりな「……」 

創真「まぁ薙切が言ってたのとは何となく意味合いが違いそうだけどな」 

えりな「そうね。私はすでに美しく建築された塔を登る、対して君は足場を組みつつ風に煽られながら斜塔を登るといった所かしら」 

創真「相変わらずよく分かんねー例えだな」 

えりな「うるさいわね!」 



えりな「ただそうね。いずれにしても殊勝な心がけであることは確かだし、そこは評価してあげてもいいかしら」 

創真「お、これは珍しく薙切に褒められたのか?」 

えりな「…少しだけよ。このくらい。このくらいなんだから」 

創真「ちっさ! ほとんど指くっついてんじゃねーか」 

えりな「フフ、これでもかなりオマケしてるつもりだけど」 

創真「お前まじでケチぃなー。そんなんじゃモテねーぞ?」 

えりな「はっ!? も、モテ…って、関係ないでしょ!」 

えりな「第一あなたもアリスも! 私のことケチだなんて………あら?」 

創真「なんだ?」 

えりな「アリスはどこ?」 

創真「あれ? そういやいつの間にかいなくなってんな」 

えりな「あの子、人にはぐれるなって言っておきながら…」 

創真「トイレじゃねーの?」 

えりな「それなら普通断ってから行くでしょう。電話してみるわ」 

創真「だな。もうそろ順番だし」 

えりな「あら? アリスからメッセージが来てる」 


えりな「ん…?」 

創真「なんて来てる?」 

えりな「いえ、それが…」スッ 


アリス『えりな、がんばるのよっ(`ν )』 


創真「…?」 

創真「薙切、なんかミッションでも与えられてんの?」 

えりな「知らないわよ。まるで意味が分からないわ」 

えりな(あれ? まだスクロールできる) 

えりな(ってことは下にも何か書いてあるのかし…ら) 


えりな「っーー!?」 


アリス『幸平クンと結ばれたいって、ちゃーんと神様にお願いすること! お賽銭は5円を入れるのよ。ご縁があるように』 



えりな「な……」 

えりな(な、何よこれーっ!?) 

えりな「ご縁ってアリス、あなた何考えて…」 

創真「なんか分かったのか?」 

えりな「ち、違うわよっ! こっち見ないで!」 

創真「なんだなんだ、見せてくれよー」 

えりな「ぜっったいイヤ!!」 

創真「やっぱケチじゃんか薙切」 

えりな(ああもう! 私と幸平くんがって、なんでそういうことになるのよ!) 

えりな(っていうかアリスはいいの!? あなたこそ幸平くんのこと……) 

創真「ありゃ、順番来ちまった。仕方ねーからアリスには後で連絡しようぜ」 

えりな「あ、ちょっ、まだ心の準備が」 

創真「願い事無いんじゃねーのかよ。ほら後ろつかえてるって」グイ 

えりな「…ッ! バカ! きゅ、急に手にぎらないでよ!」 

創真「お前が動かねーからだろ。階段あるから気をつけろよ」 

えりな「言われなくても分かってます!」 


ガランガラン 


創真「えーっと」 

えりな(ど、どうしよう、頭が働かない…) 

創真「作法とかよく分かんねぇしとりあえず叩いときゃいいか」パン パン 

えりな(えーっとまず二礼して、それから5円のお賽銭を…) 

えりな(いやいやいや、なにアリスの言う通りにしようとしてるのよ私! あ、あんな願い事するわけないのに!) 

創真「やべ、賽銭入れてなかった」 

えりな(……って、そもそも私、硬貨なんて持ってきてないじゃない) 

創真「うお、財布の中5円多すぎだろ。丁度いいし使うか」 

創真「…ん? どした薙切、小銭ねーの?」 

えりな「えっ? あ、うん……いつもカードだから」 

創真「はっはっは! 賽銭箱にカード使えると思ったのかよ。特技世間知らずは伊達じゃねーな」 

えりな「違うわよ! お賽銭のことを失念していたの!」 

創真「んじゃほら、コレやっから」ピン 

えりな「ちょっ、投げないでよ危ないわね」 

えりな「……って」 

えりな(えええええ!? 5円玉! なんでよりにもよって5円を渡してくるのよ!?) 

創真「そーれ」チャリーン 


えりな(幸平くん、いったいどういうつもりでこれを…?) 

創真「何してんだよ、早く入れねーと後ろつかえてんだって」 

えりな「あの、どうして5円なの?」 

創真「ん? いや単純に…」 

創真(待てよ、そういや昔親父に聞いたことあんな) 

創真(…あーそうだ) 

創真「『ご縁』がありますよーにって。ほらあれだ、縁結びってやつだ」 

えりな「っ!!」 

えりな(や、やっぱり縁結び…) 

えりな(願掛けでそういうことをするというのはたしかに漫画でもあったわ) 

創真「まー今回はそういう意図はないけどな。そういや祈願何にすっかね」 

えりな(まさかアリスが私に言ったみたいに、幸平くんも誰かとの縁を……!?)キイテナイ 

えりな(君はそういうものとは無縁そうな感じだったのに。でも年頃的にはあっても不思議じゃないし…) 

えりな「……」チラ 

創真(無難に健康とか安全とかか? なんかそれじゃ面白くねーしな、うーむ迷う) 

えりな(目を閉じて真剣にお祈りしてる。一体誰のことを願っているのかしら) 

創真「……」 

えりな「……」ジー 

えりな(幸平くんって普段があんなだから気づかなかったけど、こうして見るとちょっとだけ…) 

えりな(ってバカバカ! そんなこと思ってあげないんだから!) 

創真「……っし!」パンッ 

創真「薙切ぃ、俺終わったから先降りてるわ」 

えりな「あ、うん」 

創真「お前まだ決まってねぇの?」 

えりな「う、うるさいわね、大事なことなのよ」 

創真「なんだよ、馬鹿馬鹿しいとか言ってたくせに真剣じゃん」 


創真「ま、あんま悩みすぎんなよー」 

えりな「あのっ、幸平くん」 

創真「?」 

えりな「君はその、何を……」 

えりな「いえ……誰のことをお願いしたの?」 

創真「は?」 

えりな(って、私なんでこんなこと聞いてるのよ!?) 

創真「え、フツーそういうの聞く?」 

えりな「うぐっ…… そ、そうよね、ごめんなさい」 

えりな(不覚だわ、なんだか胸が苦しくなって勝手に言葉が出てしまったような感じだった) 

えりな(別に君が、誰との縁を願おうと、私にはどうでもいいことのはずなのに) 

創真「……」 

創真「まぁ隠すことでもねーけど、誰っつーとあれだな」 


創真「薙切」 


えりな「……」 


えりな「……え?」 


えりな「……薙切?」 

創真「おう」 

えりな「えっと、薙切……アリスのほう…よね?」 

創真「いや? えりなのほう」 

えりな「ーーっ!?」 

えりな(うそ、なんで……なんで私なの!?) 

創真「つーかまじで後ろ人やばいから早く済ませろよー」 

えりな(だって、だってだって!) 

えりな(今まで全く無かったじゃない、そんな素振り…) 

創真(聞いてんのかあいつ?) 

創真「あっちで待ってっからなー」 

えりな「……」 


えりな(どう……しよう) 

えりな(どうしよう…分からない…私はどうすればいいの?) 

えりな(緋紗子も…アリスも……頼れる人が誰もいない) 

えりな(こんな気持ち……なったことないのに……!) 


創真「フーフーフーフーフーフーン」 

創真(やけに時間かかってんな薙切のやつ。5円で何個願い事してんだよ) 

創真(にしても腹減ったなー、早く焼きそば食いてぇな) 

アリス「だーれだっ」ギュムッ 

創真「うおお!?」 

アリス「ふふ、分かるかしら? 当ててみなさい」 

創真「ビビった……でけぇ…アリスだろ?」 

アリス「ピンポーン。幸平クンは今日クイズ絶好調ねっ」 

創真「急にいなくなってどこ行ってたんだ?」 

アリス「ちょっくらヤボヨーよっ。心配した?」 

創真「いや、アリスのことだし心配はなかったな」 

アリス「もうっ! そこはウソでも心配したって言うところよっ。またまた減点ね幸平クン」 


アリス「ところでえりなは? 一緒じゃなかったの?」 

創真「ああ、薙切なら…」 

アリス「まさか、めでたく結ばれたものの早くも価値観の違いから二人に別れが!?」 

創真「なんだそりゃ?」 

アリス「ダニッシュジョークよっ。気にしないで」 

創真「うーむ、薙切とはまた違った感じでアリスも掴めねぇとこ多いよな」 

アリス「……おきらい?」 

創真「いやいや、おもしれーから良いと思うぜ」 

アリス「うふふ。幸平クンならそう言ってくれると思ったわっ」 

創真「薙切もたぶんすぐ来るぞ。やたら願い事に悩んでたっぽいけど」 

アリス「ふーん? 馬鹿馬鹿しい!とか言ってたくせに、やっぱり女の子ね。よくばりさんだわ」 

創真「ほんとだよなー」 

アリス(これは思惑通り、効果あったみたいね) 


創真「……」 

創真「にしても変だな、さすがに遅すぎる」 

アリス「えっ?」 

創真「迷ってんのかな。順路に沿えばここ通るはずだけど」 

アリス「……幸平クン、あそこ」 

創真「ん? なんかやけに人が集まってんな」 

アリス「行きましょ」 

創真「お? おう」 


ザワザワ… 


創真「すんませーんちょっと通りまーす」 

アリス「…っ!」 

創真「…!」 

アリス「えりなっ!?」 


えりな「……」グッタリ 


アリス「えりな、えりなっ! どうしたの!?」 

創真「あ、すんませんー、ツレの者っす」 

えりな「う……」 

アリス「息と意識はある…けど、すごい汗。それに熱っぽい」 

創真「あのー、このへん救護とかないっすかね」 

アリス「顔も赤いし、脈も早いわ…」 

創真「あ、もう救急車呼んでくれたんすか? あざっす」 

えりな「っ……はあっ…はあっ…」 

アリス「えりな、大丈夫? 苦しくない?」 

えりな「あ、アリス……?」 

アリス「大丈夫だからねえりな! もうすぐ救急車もくるから。それまでがんばって!」 


創真「なぁ、とりあえず横になれるとこに移動したほうがいいんじゃね?」 

アリス「そうね。幸平クン、一緒に肩持ってちょうだい」 

えりな「え……幸平くん…?」 

えりな「うっーー!!」ギュウッ 

アリス「えりなっ!?」 

創真「うし、じゃあせーので持ち上げるぞ」 

えりな「……れて」 

アリス「えっ?」 

えりな「離れて……幸平くん」 

創真「いやお前、んなこと言ってる場合じゃ」 

えりな「おねがい離れて! 触らないでっ幸平くん!!」 

アリス「っ!?」 

創真「お、おお…」スッ 


アリス「えりな? どうしたの?」 

えりな「ダメ……今は…幸平くんは…」 

アリス「幸平クンはえりなを運ぼうとしてくれてるのよ? つまらない意地はってる場合じゃないでしょ!」 

えりな「違うの……とにかく離れてほしいの…」 

アリス「えりな、どうして…?」 

えりな「……」ガタガタ 

アリス「……!」 


アリス「ねぇ、幸平クン」 

創真「…ん?」 

アリス「なにをしたの?」 

創真「なんだよ急に」 

アリス「えりなに…なにをしたのって聞いてるのよ」キッ 

創真「……はぁ?」 


創真「なにってなんだよ」 

アリス「とぼけないで」 

アリス「幸平クンが触れただけで、えりなが一層苦しそうになった。震えも大きくなった。何よりえりな自身があなたを拒否しているの」 

えりな「はぁ……はぁ…」 

アリス「あなたがなにかしてない限りこうはならないわ。教えなさい、なにをしたの?」 

創真「知らねーよ。んなことより楽な姿勢にしてやるほうが先だろ」 

アリス「シラを切るつもり?」 

創真「知らねぇっての。ほら、俺のコート貸すからせめてコレでも敷いて…」 

アリス「やめて。えりながこういう状態である以上、迂闊にあなたのものに触れさせるわけにはいかないわ」 

創真「……ああそう」 

創真「じゃあ、俺はとにかく薙切から離れてりゃいいんだな」 

アリス「その前に白状して。場合によっては処置次第で命に関わることかもしれないの」 

えりな「あ、アリス……」 

創真「だから知らねぇっつってんだろ。何回言わせんだよ。大体なんで」 

アリス「ーー黙りなさいっ!!」 


アリス「……」 

アリス「早く…教えなさい」 

創真「今黙れっつったじゃん」 

アリス「御託はいいから! 早く…早く教えて…」 

創真「だーかーらー」 

アリス「早くしないと…」 

創真「!」 

アリス「早くっ…しないと……っ」 


ポタ ポタ 


えりな「…!」 

アリス「えりなが……ひぐっ……えりなが死んじゃうっ…!」 

創真「……」 

アリス「はやぐっ…お願い……お願いだからっ……教えて……」 

えりな「…アリス……」 

アリス「っ……えりなっ……」 

えりな「……ちがうの」 

アリス「……え…?」 


えりな「……してないわ…」 

アリス「……してない…?」 

えりな「幸平くんは…私に……何も…」 

アリス「えっ…?」 

創真「…ほらな」 

アリス「っ……なら、どうしてさっき…?」 

えりな「……」 

えりな「それが……分からないの」 

アリス「…?」 

えりな「…こんなの…初めてで…」 

アリス「えっと…?」 

えりな「幸平くんに触れてるって…分かったときにね…」 

えりな「急にこのあたりが…ぎゅーって…苦しくなって…」 

アリス「…………」 


アリス「幸平クン、頼みがあるの」 

創真「おう、手伝うぜ」 

アリス「ちょっと半径10メートル以内に近づかないでいただける?」 

創真「あれぇー!? 悪化してる!?」 

アリス「えりな、詳しく話せる…?」 

えりな「……うん…」 


アリス「……」 

えりな「アリス……私、どうなっちゃうのかな…?」 

アリス「それって、どう考えても…」 


ピーポー… 


創真「お、救急車来たみてーだな」 

創真「あーここっす。はい、着物のあの子っす」 

アリス「あ、隊員さん? 大至急この子をこちらの住所まで運んでくださいな」 

アリス「いいのよこの住所で。この写真の子が来たって言えば顔パスで通れますわ」 

えりな「あの、アリス…?」 

アリス「同乗? 必要ありませんっ。同情もいりませんっ」 

えりな「ちょっと…聞いてるの?」 

アリス「えりな、心配ご無用よ。午後の予定も私が全部なんとかするわっ」 

アリス「だから……ね?」ニコ 

えりな「あ、アリス?」 

アリス「……」ニコニコ 

えりな「笑顔がなんか……怖いわよ…?」 


アリス「大人しく丸一日眠ってなさいっ!!」 

えりな「えぇえーー…!?」 


パーポー… 


アリス「まったくもう! 紛らわしいんだからっ」 

アリス(まさかここまで効果てきめんだなんて……効きすぎもいいところよ) 

アリス(なんだか大ごとになっちゃったわね) 

アリス「あー疲れた。早く帰ってお風呂に入りたいわっ」 

アリス(……あら? 何か忘れてるかしら?) 


創真「おーーい」 


アリス「……」 

アリス(そうだわ、私えりなが倒れて我を失って……) 

アリス(なーんか幸平クンにいろいろ言っちゃったような…?)サーッ 


創真「もう半径10メートル以内入っていいかー?」 


アリス「っ!」ドキーン 

アリス「え、えぇもちろん……よくってよ? うふふっ」 


創真「はー、10メートルって結構遠いのな。何話してるか全く分かんねぇわ」 

アリス「そ、そうねー」ドキドキ 

創真「無駄に読唇術とかトライしちまったよ。全然ダメだったけど」 

アリス「へぇーすごいわっ、それは貴重な挑戦ねっ」 

アリス(…? ものすごく怒ってるかと思って構えてたけど、そうでもない…?) 

創真「んで結局薙切はどうしたんだ?」 

アリス「そうね、えりなはその…予後の良い一過性の精神病みたいなものよ」 

創真「…? 大丈夫なのか?」 

アリス「寝てたら回復すると思うわ」 

創真「へーそっか、つまりは大したことないんだな」 

アリス(よかった。さすが幸平クン、心がタリアテッレのように広いのね) 

創真「……なら」ガシッ 

アリス「!?」ビクッ 

創真「アリス」 

アリス「ひゃいっ!?」 


アリス「な、なによう幸平クン怖い顔して…変な声出ちゃったじゃない」 

創真「俺、さっきは薙切があぶねーかもだから耐えてたけど」 

アリス「えっ…?」ドキッ 

アリス(あ、これはやっぱり……お怒りなのね…) 

創真「もう無理だわ。我慢ならねぇ」 

アリス「ゆ、幸平クン? その、さっきのは……」 

アリス(冗談よっ!)ペロッ 


創真「……」 


アリス(じゃ済まされないわよね! うわあああんっ! 幸平クンって怒るとこんなに怖いの!?) 

アリス(いったいどんな罵声が…うー、また泣いちゃうかも。って考えただけで泣きそう)ジワ 

創真「……」スゥ 

アリス「っ!」ビクッ 

創真「焼きそば!!」 

アリス「あうっ、ごめんなさ………」 

アリス「へっ?」 


アリス「……や、焼きそば?」 

創真「もう食っていいだろ? 焼きそば。参拝も終わったし」 

アリス「いいけど…」 

創真「よっしゃ! いやぁもう限界だわー、腹減りすぎてやべぇわー」 

アリス「あの、ゆきひ」 

創真「そうと決まれば早速買いだ。わりーけど先行ってるぞアリス!」ダッ 

アリス「……」ポカン 



焼きそば屋 


創真「……」カネオロシテナイ 

アリス「…足りないの?」 

創真「小でも1パック300円だから…全然足りねぇ」 

アリス「いくらあるの?」 

創真「えー10円が2枚だろ、5円3枚と、あと1円が2枚」 

アリス「まあっ」 

創真「あっ、奥に500円玉あんじゃん!」 


創真「……ゲーセンのメダルだった」 

アリス「なあにそれ?」 


ズルズルー 


創真「うはー! 焼きそばうめええぇええ!」 

創真「悪いなーアリス、金貸してもらって。しかも大2個分も」 

アリス「なんてことないわ。それに返さなくていいわよ、これは一種の罪滅ぼしだもの」 

創真「罪滅ぼし?」ズルズル 

アリス「……幸平クン、怒ってないの?」 

創真「なんで?」 

アリス「えりなが倒れたときよ。私、幸平くんがなにかしたって決めつけてひどいことしたわ」 

アリス「幸平クンはそんなことしてないって言ってたのに、聞く耳も持たずに…」 

創真「あーあれか、確かにいくら違うっつっても問い詰めてきたもんな。めっちゃ困ったなー」 

アリス「そうよね…」 

創真「……」ズルズル 

アリス「……えっ? それだけ?」 

創真「まあ、そうだな」 

アリス「よくも濡れ衣をー!とか、冤罪だー!とか」 

創真「たしかにひでぇ濡れ衣だったよなー」 

アリス「怒ってないの? 私のこと」 

創真「そりゃまぁあの時はイラっときたっちゃきたけど」 

創真「お前も必死だったんだろ? 薙切のことを思って」 

アリス「……そうだけど」 

創真「なら仕方ねーじゃん。 俺も昔近所の仲良いばーちゃんが倒れたって聞いたとき、パニクって何やったか覚えてねぇし」 

アリス「む…でもそれは小さい頃の話でしょ?」 

創真「けど似たようなもんじゃね? ほら、アリスって見た目は大人っぽいけど、中身ガキみてーじゃん」 

アリス「なっ、失礼ねっ! 少なくとも幸平クンよりは大人よっ!」 

創真「はーん?」 

アリス「…なによう」 

創真「俺に料理で負けたくらいで大泣きしてたのに?」 

アリス「ーーっ! ずるいずるい! それはもう時効なんだからっ!」 


創真「てか罪滅ぼしってひょっとしてそのこと気にしてるわけ?」 

アリス「ふんっ、そうよ」 

創真「そういうことならありがたく焼きそば貰っとくけど」 

アリス「はぁ。まったく、幸平クンがすっごい怒ってるんじゃないかって思って怖かったんだから」 

創真「いや、言っとくけど俺が責められてた時のアリスの目つきのほうが怖かったぜ? 眼光で人を刺すってああいうことだわ」 

アリス「いいえ違うわ。それはね、私の瞳のあまりの美しさに背筋が凍っただけよ」 

創真「……」 

創真「おう、そーいやそんな感じだったわ」ズルズルー 

アリス「ちょっともうっ! 乗るならもっとちゃんと乗ってよね! からかわれてるようで腹立たしいわっ」 


創真「うし、腹ごしらえも済んだことだし」 

アリス「そろそろ帰りましょうか」 

創真「いっちょ屋台食べ歩きツアーと洒落込みますかね!」 

アリス「…いま焼きそば2つも食べたのに?」 

創真「もともと屋台目当てで来たようなもんだからなー俺は。いろいろ店あるみたいでよかったぜ」 

アリス「幸平くんは食べ歩きが好きなのね」 

創真「それもあるけど、なんか料理の参考になるかと思ってさ」 

アリス「料理の? こんな露店レベルの品から学ぶものなんてあるかしら?」 

創真「ちっちっ、甘いぜアリス。例えばあそこの焼鳥屋見てみ」 

アリス「…?」 


創真「一見客と楽しげに会話して、テキトーに串を回してるように見えるけど」 

創真「焼き面の焦げ具合が完全に同じだ。手元を見なくても火入れを音や別のものでコントロールしてる」 

アリス「ね、幸平くん」 

創真「もっと言えばあの油だな。ただの油じゃなくておそらく」 

アリス「ねぇってば」グイ 

創真「っと、なんだよ」 

アリス「見えないわ」 

創真「?」 

創真「あ、アリスの身長だと人で微妙に隠れるのか」 

アリス「もうっ、レディーへの配慮がなってないわよ」 

創真「わりーわりー」 

アリス「罰として肩車を要求するわっ」 

創真「えー、いいけど、できっかな」 

アリス「えっ? あ、ほんとにするの…?」 


創真「ん? 乗らねぇの?」 

アリス「え、えーっと、やっぱり混んでるところじゃ危ないじゃない?」 

創真「たしかに、バランス崩したら大変なことになるか」 

アリス「そ。だから肩車はまたの機会に…」 

創真「アリスって見かけ以上に重そうだしな」 

アリス「おもっ!? ど、どういう意味よう!」 

創真「え? よく言われねぇ?」 

アリス「リョウくんだってそんなこと一度も言ってきたことないわっ」 

創真「へー、今度黒木場にも聞いてみろよ。たぶん同意見だぜ」 

アリス「うー…そうなりそうなのがなんかイヤね」 


創真「別にいいじゃん体重なんて。遠月の女子なんて食ってナンボ太ってナンボだろ」 

アリス「遠月の女の子はそれでも頑張ってるのよ! 他の学校の子よりずっと努力してるはずだわ。だから余計に重いなんて言われたくないのっ」 

創真「そういや極星寮のやつらもやたら気にしてたな……分かんねぇ世界だわ」 

アリス「いいこと? いくら幸平クンでも、女の子に重いとか重そうとか言っちゃダメよ?」 

創真「へーい」 

アリス「特に……えりなには絶対ね?」 

創真「あいつ重いのか?」 

アリス「えっ?」 

アリス「……」 

創真「重いんだな」 

アリス「ん、んーまあ? 背が高いぶん、私よりは? ちょっとだけ?」 

創真「いやなに、神の舌のせいで毎日食い獄なんだろ。そのくらい察してやんよ」 

アリス「……幸平クン、今のことえりなに話したりしないわよね?」 

創真「ん? 次会ったときにでもフォローしてやろうかなーと」 

アリス「うふふ、絶っ対ダメよ? 幸平クンの身近にいる美少女が一人この世から消えちゃうから」 

創真「はあ」 


創真「さーてと。アリス、次どれか気になる屋台あるか?」 

アリス「あ、そうだわ。私はもう帰らなくちゃいけないの」 

創真「ん? あー、そういや薙切と午後から予定がーとか話してたっけか」 

アリス「そうね。それに加えて、えりなが参加できない分をうまーく丸めるための準備をしなきゃだから、大忙しよ」 

創真「なるほど。やっぱちゃんと薙切のこと心配してんだなアリスは」 

アリス「ま、自分で蒔いた種ですもの。仕方ないわ」 

創真「…?」 

アリス「いいえ。なんでもっ」 


アリス「それじゃまたね、幸平クン」 

創真「おう。サンキューな。いろいろあったけど楽しかったわ」 

アリス「私もよ。また遊びましょ」 

創真「いつでも大歓迎だぜ。んじゃなー」 

アリス「うん…」フリフリ 



創真「さーて、まずは」 

創真「手始めに焼き鳥から攻めてみますかねっ!」 

創真「おっちゃん、レバーと砂肝塩で一本ずつ、それから…」 

創真「……あ」 


ヒュー… 


アリス「さむっ」 

アリス(北欧に比べればずっと暖かいはずなのに寒く感じちゃうなんて、慣れって怖いわね) 

アリス(とりあえず迎えを呼ばなきゃ)ピッ 

アリス「私よ。最寄りの神社まで迎えをよこして。ええ。5分でね」 

アリス(まったく、連絡を入れる前に迎えに来るくらいしてくれないかしら。今の使用人はまだまだねっ) 

アリス「……」 


ワイワイ 


アリス(男女のペアの多いこと) 

アリス(ま、たまの休みくらい好きな人と好きなように遊びたいってのは分かるけどね) 

アリス(……好きな人) 

アリス(これで…よかったのよね) 


アリス「!」グー 

アリス(おなかすいてきちゃった) 

アリス(私も何か食べればよかったわ。ただ露店のものってあんまり美味しくないし……) 

アリス(でも幸平クンは2つも焼きそばを平らげてたわね) 

アリス(彼は大衆食堂の出だから、そういうもののほうが馴染んでいるのかしら) 

アリス(そう考えると、もしもえりなと幸平クンが結ばれたら大変ね) 

アリス(外食するときなんか完全に意見が分かれそう。それこそ価値観の違いが出るものね) 


アリス(あら? 付き合ってからのほうがけっこうハードル高いかも) 

アリス(その点、私のほうが味に関して融通がきくから……) 


アリス(なんて、考えても無駄ね) 

アリス(私はえりなの応援隊長になってあげるんだからっ) 


アリス(そもそも、幸平クンは誰かと付き合う気なんてあるのかしら…?) 


創真『ゆきひらを継ぐまで女にかまけてる暇はねぇ』 


アリス(とか案外思ってたり。なくはないわね) 

アリス(でも逆に誰かが告白したら…) 


創真『おーいいぜ、俺なんかでよけりゃ。おあがりよ!』 


アリス(なんてことも全然ありえそうだわ) 

アリス(それかまさか、知られてないだけですでに交際していたりして…?) 


創真『週末暇かって? あーわりぃ、休みは田所…じゃなかった、恵と遊びに行くんだよな。ははっ、また来世なー』 


アリス(む、むっかーー!!) 

アリス(なによう来世って! せっかく誘ってあげたのにっ!) 

アリス「……」 

アリス(想像に怒ってどうするのよ。ごめんね幸平クン、田所ちゃん) 


アリス(それより迎えはまだなの? もう1時間は経つんじゃないかしらっ) 

アリス「……」 

アリス「はーっ…」 

アリス(手が冷えてきちゃった。手袋してくればよかったわ) 

アリス「……」 

アリス(もしくは、この手を……)スッ 

アリス(……なんてね) 


ギュ 


創真「みっけ」 

アリス「………えっ?」 


創真「はいよアリス、これ持ってー」 

アリス「ゆ、幸平クン? どうして…」 

アリス「ってこれ、焼き鳥?」 

創真「おう。一本いかがっすかね」 

アリス「ありがと……えっと…食べ歩きは?」 

創真「やー考えてみたら俺金持ってなかったんだよなぁ」 

アリス「あ、そういえばそうね」 

創真「けど焼き鳥屋のおっちゃんがイイ人でさ。調理法の話とかで盛り上がったら帰り際に2本タダでくれたんだよ」 

アリス「ふーん、2本もなんて気前が良いのね」 

創真「遠月のツレと来てるって話したからだろうなー。やっぱ遠月のブランド力ってすげぇわ」 

アリス「それでわざわざ私に?」 

創真「ああ。その彼女さんにもウチの焼き鳥をよろしくって言われちまったし」 

アリス「ふふ。商売上手ね」 

アリス「……んっ?」 

創真「もしかしたらまだ追いつくかと思って走って来たけど、見つかってよかったわー」 

アリス(……うん、きっと気にしてないだけね) 


創真「けどまだ入口にいるとは思わなかったな」 

アリス「迎えを呼んだの。もうすぐ来るはずよ」 

創真「なるほどな」 

創真「あ、ほら熱いうちに食っちまえ。出来たてめっちゃうまいぜ~?」 

アリス「そうね、いただくわ」 

アリス(…屋台の焼き鳥なんて久しく食べていなかったけど) 

アリス「……」パク 

アリス「! 」 

アリス「……」モグモグ 


アリス「おいしい…!」 


創真「だろー?」 

アリス「ええ…炭火焼きの香ばしさがなんとも絶妙だわ」 

創真「やっぱ焼き鳥は炭火! でもって塩! それだけで肉の旨みと食感がガツンと引き立つんだよな」 

アリス「シンプルな味付けだからこそ店主の技量が素直に反映されるはず。かなりの熟練度ね」 

創真「普段は駅前のスーパーの前に店出してるって話だったぜ。今度行ってみるかねー」 

アリス(知らなかった。屋台の料理も捨てたものじゃないのね) 


アリス(でもそれだけじゃない。あの時と少し似てる) 

アリス(秋の選抜で、幸平クンののり弁を食べたあの時と……) 


アリス「フフ………あったかい」 


アリス(不思議ね。まだ出会って1年も経たないのに) 

アリス(幸平クンって、リョウくんの次くらい……もしかすると同じくらいに居心地がいいわ) 


アリス(むしろ日が浅いからなのかしら) 

アリス(あなたのことをもっと知りたい。もっと遊んでみたい) 


アリス「ふう。ごちそうさまっ」 

創真「おう。お粗末さま」 


アリス(もっとーー) 


創真「んじゃ俺も帰るわ。またなーアリス」 

アリス「……うん」 


アリス(ごめんねえりな) 



ピッ 



アリス「もしもし…私よ」 

アリス「あのね、やっぱり迎えはいらないわ」 



アリス(もしかしたら……) 




アリス(応援なんてできないかもっ) 




エピローグ1 


1月2日 


創真(さーて、新年最初の新作料理でも試すかね) 

創真(まずは余ってるゲソを炙ってから、あとは正月らしくいくか) 

創真「そうだな……蜂蜜きなこゲソ、ゲソ雑煮ぜんざい、ゲソ巻き卵生クリーム添え…」 

アリス「まあ、なにやら物騒ねっ」 

創真「うお! アリス、なんでいるんだよ」 

アリス「なーに? いちゃいけない?」 

創真「一応ここ俺の部屋なんだけど」 

アリス「わざわざ遊びにきてあげたの。泣いて喜んでいいわよっ」 

創真「…暇なのか?」 


アリス「暇なんかじゃないわよう。私はいつだって遊ぶのに忙しいの」 

創真「なるほどなー。まー俺も暇だし好きにくつろいでていいぜ」 

アリス「むむっ、だから私は暇じゃないのに!」 

創真「そうだ。なんなら試食してくか? 俺の新作料理」 

アリス「えっ、いいの?」 

創真「おうよ。誰かに食べてもらえるほうが作り甲斐があるしな」 

アリス「それじゃあお言葉に甘えようかしら」 

創真「うしっ、少々お待ちを! 薙切アリス殿っ!」 


創真「オラオラオラオラオラオラァッ!」ズダダダダダ 


アリス(幸平クンの料理を食べるのは二人で戦ったとき以来ね) 

アリス(そういえば私のお弁当はまだ食べさせてあげてないわね。今度ご馳走してあげようかしら) 


創真「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」ジャバババババ 


アリス(それにしても試食の味見役だなんて。一気にお近づきになった気がするわね) 

アリス(ふふっ、幸平クンのことだからきっとすごい料理を作ってくれるに違いないわっ) 


創真「ブルァアアアア! ブルァアアアア!」ネッチャネッチャネッチャ 


アリス「……」 

アリス(き、きっとすごい料理なのよ……) 


創真「できたぞ!」 


コトッ 


創真「名付けて、『幸平謹製・ミックス団子の鶏皮包みあけおめスペシャル』だ!」 

アリス「わあ、すごーい」パチパチパチ 

創真「干支にちなんでトリの皮の内側に特別製のタネを仕込んで焼いてから、これまた特製ソースで煮込んだんだ」 

アリス「今年は酉年だものね。中はどうなっているのかしら」 

創真「あけてみな。箸で簡単に開けると思うぜ」 

アリス(普通に美味しそうな品じゃない。意外性はあまりなさそうだけど、これなら…)パリッ 


ドオオオオン(香りの爆弾) 


アリス「」 


アリス「……………」 


アリス「幸平クン……これは…?」 

創真「驚いたろ? いやーやっぱ正月だし豪勢にいこうと思ってさ」 

創真「とりあえず正月っぽくと思って、おせちの中から人参と大根と昆布と牛蒡と蒲鉾と栗と黒豆と煮干ry」 

創真「それからゆるく炊いたもち米ベースできなことよもぎとあんこと海苔ry これらを全部混ぜ合わせて練りこんry」 

創真「ソースもこだわってトマトピューレに加えてピーナッツバター苺ジャム柚子胡椒はちみつヨーグry」 

アリス「」 

創真「ちなみに全部にゲソからとったエキスを濃縮して混ぜ込んであるからゲソを中心とした一体感が出る予定」 

アリス「」 


創真「苦労したわー、なんたって全部で29種の具材と調味料を使ったからなー」 

アリス「そ、それはすごいわねー」 

創真「あ、ちなみにこれも平成29年に合わせてんだよな」 

アリス「な、なーるほどっ」 

創真「……」 

アリス「あー、いけないわぁ。私そろそろいかなくちゃー」 

創真「え? 食ってかねーの?」 

アリス「ちょっと用事がね?」 

創真「そっか、残念だなー」 

アリス「そ。残念だけど…」 

創真「ま、一口でイケるから食ってけよ」 

アリス「うふふふふ…」 


アリス「いいのよ、またの機会に、ね?」 

創真「いやいや一口だけだって」 

アリス「がんばって作ったでしょ? 幸平クンの分がなくなっちゃうわ」 

創真「うーむ、せっかくアリスのために作ったんだけどな…」 

アリス(んん、そんなこと言われたら……) 

アリス(でも『コレ』はさすがに……) 

創真「なーアリス」 

アリス「うん?」 


創真「関係ねーけど、まみむめもの『ま』を口閉じないで発音できるやつしか十傑に入れないってウワサ知ってる?」 

アリス「えっ? なによそれ急に。そんなのカンタンじゃない」 

創真「どーかね? アリスには無理じゃねぇかな」 

アリス「……いいわ、挑発に乗ってあげる」 

アリス「口を閉じないで『ま』を言うだけよね」 


アリス「『あ』」 


アリス「あら?」 

創真「あちゃー、やっぱアリスは十傑入れねーなー」 

アリス「むっ! 今のはたまたまよ! たまたま失敗しちゃったの!」 

創真「んじゃもう一回やってみ」 

アリス「あーあー……」 

アリス「『あっ』」 

アリス「……『わっ』?」 

創真「んんーー?」ニヤニヤ 

アリス「むきいいっ! もう一回! 次はできるんだからっ」 




創真「次でラストなー」 

アリス「フンっ!」 

アリス「見てなさい、余裕な顔していられるのも今のうちよっ」 

創真「……」 


アリス「こほんっ」 


アリス「んーんー…あーあー……」アー 

創真「オラァおあがりよっ!!!!」ドーン! 

アリス「んーーーーっ!!!?」パクッ 




それは 海と陸のあらゆる幸がひたすらよくない方向に共鳴効果をもたらし 

メインであるはずの鳥と共にゲソの触手で全身を弄ばれたかのような不味さでしたーーー 

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

アリス「あけおめっ」えりな「あ、あけおめ?」
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