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小咲「えへへ、それじゃいちじょうくんも脱いで― 」 春「おねえちゃんとしぇんぱい、しゅごい……」【ニセコイss/アニメss】

 

いつものメンバーが揃って二度目のお正月。 

今年は近所の神社へと初詣にやって来た。 

ふと去年はどうしてたんだっけ、という考えが脳裏をよぎったけれど、思い出そうとしても記憶に何やら禍々しいモヤのようなものがかかっていて上手くいかない。 

 

何だっけなー、と首を傾げながら、一条楽はトイレを後にして皆のところに戻るべく境内に続く砂利道を歩いていた。 

 

「おや、坊やは確か」 

「あ、ええと、確か神主の」 

楽に声をかけてきたのはやけにファンキーな口調の神主さんだった。 

「妹から聞いたよ、あんた京都でも大変な目にあったんだって?」 

 

神主さんの双子の妹が同じく神主を務める、京都の神社を訪問したのは去年の修学旅行の三日目。 

 

千棘と橘、そしてあの小野寺までもが自分に矢を向けてきた理不尽な出来事の理由は未だ 

にわからないままだった。 

 

「ええ、まあ。さっぱり意味は分かりませんでしたけど」 

「相変わらずの女難の相だね。そうだ、あんたにいいものをあげよう」 

「いいもの?」 

そう言うと神主さんは懐から一本の瓶を取り出した。 

 

「これは私が作った特製の栄養ドリンクでね。多少の疲れなんか吹っ飛ぶさ。新年早々、疲れた顔なんかしてたら辛気くさいからね。ほれ、一本いっときな」 

「あ、ありがとうございます」 

 

確かにクリスマスはバタバタと走り回るハメになったし、ゆっくりしようと思っていた年末はまさかの無人島でのサバイバル生活。 

そのまま新年を迎えての初詣なのだから、言われてみれば疲れていないはずが無い。 

 

多少うさんくさい気はしたが、楽はそのドリンクを受け取ると、蓋を開けてぐいっと一気に飲んだ。思ったほどマズくはない。 

 

「それじゃあね、いい正月を過ごしなよ、ベイビー」 

「ど、どうも」 

ファンキーな挨拶とともに神主さんは楽を後に残して社務所へと戻っていく。 

「ホント、残りの休みはゆっくり過ごしてえもんだ。あ、でも明日は橘の見舞いに行かなきゃな。今回はホントに無茶したから心配だぜ」 

 

ぶつくさ呟きながら楽が他のメンバーの元へ歩き去った後、社務所の扉に手を掛けていた神主さんが立ち止まり、少し慌てながら振り向いた。 

 

「しまった、今坊やにくれてやったのは私が特別にまじないをかけた魔除けの秘薬の方だった。 

 並の人間が飲んだら大変なことになるとこだけど都合のいいことに坊やの周りにゃ厄介な気配が漂ってたし、まあ、丁度いいか。 

 なるようになるだろ。さて、そんなことより新しい縁結びのグッズでも開発するかね」 

 

 

プロローグ 

 

あれは、ヤバい。 

舞子集は少し離れたところから、境内に立ち上る禍々しいオーラを目にしていた。 

花と着飾った和装の女子たちに似合わぬその気配。慌てて周囲を見回すものの、親友である一条楽の姿は見当たらない。 

警告してやらなければ。迂闊にアレに近づけば、今度こそタダでは済まないと。 

 

「よう、集」 

「!」 

いつの間にか背後に楽が立っていた。 

 

「ら、楽か! マズいぞ、急いでここを離れろ。俺も気付かないうちに女子たちがみんな甘酒を飲んでたんだ」 

「甘酒を?」 

「ああ、見ろあのオーラを。近づいたらどうなるか分かったもんじゃない。ここは俺に任せて」 

そう、俺に任せて。女子たちが心のうちに秘めたる禍々しい欲望を、俺がこの一身に受け止めてやる! 

 

ぐい、と思わぬ強い力で脇に押しやられる。 

 

「お、おい、何すんだ。俺の話を聞いてんのか、楽!?」 

「いいから、黙ってろ」 

首だけこちらを振り返り、楽が言う。その声色は普段になく低くドスが利いていて。その目は赤く危険な光を帯びていた。 

 

「ら、楽、お前」 

 

その声はもう楽には届いていなかった。こちらを振り向くことも無くずんずんと境内へ近づいていく。 

その身体からは、あの禍々しいものとはまた違う、オーラのようなものが立ち上っていた。 

 

「お前一体何を飲んだんだ?」 

 

 

その1 小野寺姉妹 

 

「あー、いちじょうくんだぁ」 

早くも着崩れつつある着物を煩わしそうに振り回しながら、わたし小野寺小咲は、 

近付いてくる想い人、いちじょうくんの姿をみとめていた。 

艶のある黒髪、すべすべの白い肌。それに触れた一年前の記憶が蘇る。 

 

「ふふふ、また触っちゃおうかなぁ」 

「お姉ちゃんズルいー。私も一条しぇんぱいにぎゅっとしてもらうんだー」 

「まー、春ってばすっかりいちじょうくんと仲良くなったのねー。そうね、二人でぎゅっとしちゃおうかー」 

想像しただけで、顔が火照り身体が熱くなる。 

この熱を冷ますためにも、彼の身体に触れたい。抱きしめたい。脱がしてそして。 

 

「いちじょうくん、つかまえたー」 

「しぇんぱいー私もぎゅってしてくだしゃいよー」 

「小野寺それに春ちゃん」 

聞き慣れたよりも少し低い彼の声が、身体の奥の深いところに響いて心地がいい。 

いつも優しい彼の眼差しが、怯えた目つき変わるところを想像すると身体がうずく。 

そう、今年もいちじょうくんのことをめちゃくちゃに。 

 

「え?」 

こちらを見つめるいちじょうくんの目は、怯えた様子なんて微塵も無くて、それどころか普段に無いくらい鋭く怪しい光を湛えながらわたしたちを見つめていた。 

「望み通り、してやるよ」 

 

そう言うと、一条くんは私と春の着物の襟元を掴むと力一杯引き下げた。 

元々着崩れていただけでに帯のところまで一気にはだけてしまう。 

私も春も、胸元がほとんど露わになってしまった。火照った肌に、冬の空気が冷たくて気持ちいい。 

「えへへ、それじゃいちじょうくんも脱いでんむっ!? 」

 

言いかけたその口を、いちじょうくんの唇で塞がれて。 

「んむんうっ」 

「わーおねえちゃんとしぇんぱい、しゅごい」 

いちじょうくんのくちびる春が見てる目の前で舌まで。 

脳が痺れるような感覚。頭の中身が弾けていく。普段ならきっと血が沸騰したみたいになって、気絶してしまうに違いない。 

それなのに、わたしはどんどん自分の意識がクリアになっていくのを感じていた。 

 

「んうな、んでわ、たし」 

ぬるりと一条くんの舌が引き抜かれ、しばらくぶりに胸いっぱいに空気を吸い込む。 

頭のモヤが晴れるように、周囲の景色が見えてくる。 

「そ、そうだ、私千棘ちゃんたちと一緒に甘酒を飲んでそれからって!」 

視線を落とすと胸元はすっかりはだけて、こぼれ落ちていないのが不思議なぐらい。 

慌てて着物の合わせを直しながら、一年前のお正月、彼の家で起きた出来事を思い出していた。私ってばまた。 

慌てて顔を上げると、じたばたと暴れる春の上に、一条くんが覆い被さっていた。 

 

自分の時と同じように、舌がねじ込まれるようなキス。 

さらに一条くんの右手は春の着物の胸元に、左手はあろうことか着物の裾を割って滑り込み、もぞもぞと怪しく蠢いている。 

勢いよく動いていた春の手足は、徐々に抵抗する力をいや抵抗する気持ちを失っていくように動きを止めて、 

むしろ一条くんの身体をがっしりと掴むように彼の着物を握りしめている。 

 

「い、一条くん、ごごご、ごめんね、私たち、その」 

慌てて二人に駆け寄りながら声をかけると、一条くんはその動きを止めて春の唇から口を離して振り向いた。 

口元からは涎が細い線になってキラキラ光りながら二人の唇を繋いでいる。 

あまりに刺激的な光景に目を背けた先には、焦点の合っていない目でこちらを見つめる春の姿があった。 

「お、おねえちゃ」 

呂律の回っていない声で私を呼ぶ春の顔は真っ赤ででもきっと、春ももうお酒はすっかり抜けてるはずなのに。それなのにあんな。 

 

「なぁ、小野寺」 

「ひ、ひゃいっ!?」 

いつもより低い一条君の声。怪しい目。その視線に捕らわれて、私は身動きができなくなった。 

「酒に酔ってるからって、何をしても許されるってわけじゃないよな? 今年は俺が」 

いつにない彼の迫力に気圧されて、伸ばされる手からその身を庇うこともできない。 

 

「い、一条くああっ!」 

 

「お、おねえちゃん私も、もっとぉ」 

そう言いながら、春が私の唇から溢れるモノをぺろりぺろりと舐めとっていく。 

その度にまだ痺れている身体に新しい電流が流れるけれど、もはや動く力は残っていなくて、ビクビクと快感にうち震えることしかできない。 

 

私と春、姉妹揃って徹底的にオシオキを施した一条くんは、新たな獲物を求めてか既にどこかへ立ち去ってしまった。 

「私たちが飲んだのは甘酒だったけど一条くんは何を飲んだんだろう」 

こ、ここ、今度は私がそれを飲んで一条くんを。 

ぼんやりした頭でそんなことを考えながら、私はちろちろと唇の周りを這い回る春の舌を捉えて自分の舌を絡ませた。 

 

「お、おねえひゃ」 

「ん春っ」 

 

酔いはすっかり覚めたけど、もう少し、この余韻に浸っていたくて。 

 

 

その2 鶇と千棘 

 

「親友って何よー! ばかもやしー!」 

トレードマークの真っ赤なリボンと同じくらいに頬を紅く染めながら、 

わたし桐崎千棘はあの鈍感でどうしようもない馬鹿を探し求めてウロウロと彷徨っていた。 

足元がふわふわして、まるで半分宙に浮いているみたいですごく気持ちがいい。あとはここに楽さえいれば言うことはない。 

だけどあいつはわたしのことを親友だって! 

 

こうなったらとっ捕まえて、親友じゃなくて恋人だって言わせてやる! 

ふと隣を見ればふらふらと近付いてくる鶫の姿。この二人でかかれば、あんなもやしっこなんてひとたまりも。 

「鶫、あんたは木の上から楽を探して。わたしはこのままぐるっと境内の周りを見てくるから」 

「わかりました、お嬢。今年こそ、あの柔らかそうな唇を」 

見たこともない笑みを浮かべて、鶇はあっという間に木立の向こうに消えていった。わたしもあんな火照った顔をしてるのだろうか。 

ともかく楽を探さないと。 

 

そう思って顔を上げた瞬間、鶫の悲鳴が聞こえた。 

恐怖でも、驚きでも、ましてや断末魔の叫びでもない悲鳴。 

鶫! 

 

ゆらゆらとリボンを揺らしながら、急ぎ足ならぬ千鳥足で木々の間を抜けていく。 

ふわふわ、ふわふわ。 

木立を抜けたその先に、大きな胸を惜しげもなくさらけ出し、あられもなく両脚をだらりと広げた姿で鶫が横たわっていた。 

惨劇を連想させるその光景とは裏腹に、鶫は恍惚の表情を浮かべ、口からは涎を垂らしている。 

黒虎のコードネームで知られ、アメリカの裏社会を震え上がらせた凄腕のヒットマンの面影は当然そこには微塵もない。 

 

「つ鶫と、楽?」 

 

ビクビクと痙攣する鶫の隣に立ち尽くしていたのは、ずっと探していた愛しの彼、一条楽。 

「あんた鶫に何してんのよー! っていうかそんなことより親友ってどういうことよバカァー!」 

衝撃的な光景も、大好きな男の子からかけられた期待外れにも程がある言葉への憤りにはかなわない。 

足元はふらふらしていても、駆け寄る勢いと腕の振りを活かして繰り出した一撃はあのもやしを吹き飛ばすには十分な威力。 

だったはずなのに、楽はわたしの拳を軽く片手で受け止めて、それどころか腕を取るとくるりとわたしの身体を回転させた。 

ただでさえふわふわしているのに天地が分からなくなる。気がつけば私は、楽の両腕で抱きとめられていた。 

 

「な、なによ、ばかもやしわ、わたしなんて、ど、どうせ暴力ばっかり振るう男友達みたいにお、思ってるんで」 

「千棘」 

びくり。耳元で名前を呼ばれた。楽の吐く息が耳朶をくすぐり、思わず身体が跳ねる。 

 

「な、なな、なによ!」 

「親友じゃ嫌か?」 

いつもよりも低い声で囁きかける楽の声。身体はさっきから火照っているはずなのに、どうしてこんなにゾクゾクするんだろう。 

 

「い、いやに決まってるじゃないわ、わわ、わたしは、あんたとホントの恋人になりたいのっ!」 

 

思わず大声でとんでも無いことを言ってしまった気がする。 

だけど楽は慌てた素振りもなく、変わらず低い声で言う。 

「そっかでもな、千棘。親友だろうと恋人だろうとお酒の勢いだろうとやっちゃいけないことがあるんだぜ?」 

「な、何を言っひゃあっ!」 

 

さっきまで吐息がかかっていた耳朶に、柔らかくてぬるぬるしたものが絡み付いてくる。 

ぺろりと舐めたり、優しく歯と歯、唇と唇で挟んだり。 

感じたことの無い感触とえも言われぬ快感が、耳から全身へと広まっていく。 

「ら、楽ぅ」 

 

いつもとは全く様子の違う、ニセの恋人に呼びかけたその声の返事は、耳の穴に差し込まれた楽の舌だった。 

じゅるじゅると、ちゅぱちゅぱと、淫猥な音を立てて楽の舌が耳の中を這い回る。 

頭の中の全部がそんな水音に埋め尽くされていく。 

思いもよらない出来事になすがままにされながら、その身を支配する快楽とは真逆に、 

わたしはどんどん意識がハッキリしていくのを感じていた。 

 

「あはあっ、わ、わたしたちあっ、そ、そうだ、あ、甘酒を飲んッー!!」 

わたしの耳をベトベトに蹂躙しながら、身体を抱きとめていた楽の両腕が胸元と太ももから這い上ってくる。 

際どいラインを伝いながら、だけど肝心なところには触れないように。 

 

触れられたら、きっと、どうにかなってしまう。 

 

「ら、楽っ、ダメよ、わ、わたしたち、だって、し、親ゆあっ」 

 

楽の両手が私の芯を捉えた。 

頭の中が真っ白になって、もう何も、考えられない。 

 

・ 

・ 

・ 

 

「え、えへへこ、これで、親友の一線は超えたはず」 

うわ言のようにお嬢が何か呟いている。あの気丈なお嬢が、あっという間に気絶させられて、揺り起こされてはまた気絶するまで激しく弄ばれて。 

 

意識は朦朧としていたが、鶇は目の前で繰り広げられる光景から目を離せなかった。 

命をかけて守ると誓った大事な女性が、どういうわけか気になって仕方ない男によって、何度も、何度も。 

 

普段はどこか頼りないあの一条楽が放っていたあの気。 

死と死の間を駆け抜けるように生きていた黒虎としての日々にすら感じたことがないほどの威圧感。 

 

裏社会を震撼させた殺し屋である黒虎として、また急速に目覚めつつある女として。 

横たわるお嬢の姿態を見つめながら、鶇は自分の中で何かが高まっていくのを感じていた。 

 

 

その3 羽姉 

 

「こらー楽ちゃん!だめじゃらいの、女の子にひどいことをしちゃー!」 

ゆらゆらとおぼつかない足取りでこちらへ向かってくる年下の男の子。 

愛しい愛しい楽ちゃんにビシリと指を突きつけて、私、奏倉羽はお姉さんらしく言い放った。 

 

「神主さんから聞いらわよ!らんでも変な飲み物をもらって、小咲ちゃんや千棘ちゃんに襲いかかったんれすってね!」 

楽ちゃんもお年頃だから、そういうことに興味があるのも仕方が無い。 

でもでも、それなら、そんな勢い余った青少年の思いの丈なら、全部このお姉ちゃんが受け止めてあげるのに! 

 

「羽姉」 

「いいからそこに座りならい!いいれすか?男と女というものはギョーザみらいな物れね?」 

こう、皮と具があって~って何だか下ネタみたいになってしまった気がするけれど、ここはお姉さんとしてバッチリ威厳を示しておかないと。 

 

「わかる、楽ちゃん?」 

「わかんねえよ」 

いつになくぶっきらぼうな感じの言葉に思わずドキリとする。 

もしかして、楽ちゃんを怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか? 

 

「ら、楽ちゃん? あ、あろね、お、お姉ちゃんはね」 

「羽」 

「よ、呼び捨て!?」 

「酒に酔った時まで、そんなに無理してお姉さんぶる必要はねえだろ」 

 

そういうと楽ちゃんは私の隣に腰掛けて、片手を私の腰に回し、もう片方の手を私の頭に置いた。 

まるで包み込まれるような安心感を感じて、私は身体がとろけそうになる。 

 

「そんな風に無理ばっかしてるから倒れちまうんだ。言っただろ、俺にも頼れって」 

「ら、楽ちゃ」 

 

「だからな、羽」 

楽ちゃんの声が一段と低くなって、その目がギラリと光って見えた。 

 

「俺のことをお兄ちゃん、って呼ぶんだ」 

 

「お、おにいって、ら、楽ちゃん、な、何を言っれるの」 

「ホラ、力を抜いて目を閉じて、もたれかかっていいから。俺のこと、年上のお兄ちゃんだと思って」 

そう言いながら、楽ちゃんは私の頭を優しくなでなでしてくれる。 

もう片方の手は、腰から背中をまるでくすぐるようにさわさわと。 

 

「おあっ、ら、楽ちゃん」 

「お兄ちゃん、だろ?」 

 

ぎゅっと頭を抱え込まれて、頭をなでなでされて、耳元で甘く囁かれて、それから、身体中を優しく愛撫されて。 

こんなの、我慢、できるわけ。 

 

「お、おにいあっ、ら、らくちゃあん」 

 

甘えたような声を出してしまった私の唇が、むにっと柔らかいもので塞がれる。 

そしてそのまま唇を割って、何かが私の口の中を這い回る。 

頭をなでなでされながら、唇と、胸と、背中と、それに楽ちゃんが触れるところ全てが気持ちいい。 

何もかもをはぎ取られて、丸裸にされていく気分。 

 

「可愛いな、羽」 

ああ、そんなことを言われたら。とっくの昔に酔いは覚めていた。 

それなのに、この不思議な雰囲気から抜け出すことができない。 

このままじゃ、ずっとずっと、大事に大事に抱きしめて守ってきた、 

楽ちゃんの姉としての私の立場が、気持ちが! 

 

「おおにいちゃんんうううっ!」 

心の真ん中の一番大事なところが剥き出しになって恥ずかしくて、でも、心地よくて。 

 

お兄ちゃんの暖かい胸に抱きとめられて、頭を優しく撫でられながら、 

とっても懐かしい気持ちと一緒に私は意識を失った。 

 

・ 

・ 

・ 

 

「これは想像以上だったね」 

点々と倒れ臥しているあられも無い女の子たちの姿を辿りながら、神社の神主さんは楽が姿を消した方角に目を凝らしながら言った。 

 

「酒に酔って血迷った女たちの煩悩だけじゃなく、溜め込んだ無理と疲れまで解放してみせるとは。 

 私の作った特製の秘薬を飲んだとはいえ、これほど見事に魔除けの力を使いこなすなんて大したもんだ」 

 

圧倒的なパワーを持ったままあの坊やを街へと出してしまったのは少し心配だったが、 

今までの様子を見る限り我を失ったように見えて実は案外冷静に相手を選んでいるように思える。 

これならあの坊やと無関係な人間が何かしらの被害を被ることは無いだろう。 

 

それに、被害と言っても実際のところはメリットの方が圧倒的に大きい。 

何しろあの魔除けパワーを持ってすればあらゆる邪念や病魔を退散せしめ、たちどころに心身ともに健康健全たらしめることができるのだから。 

そこら中で倒れていたお嬢ちゃんたちも、この2、3日こそは激しい腰痛に見舞われるかもしれないが、その後は無病息災の日々を満喫するに違いない。 

 

「しかしあの坊や、薬の効果で自分の心にかかっているモヤも払われたと見えるね。決意を固めたようだけど、女難の相を克服できるのかどうかはてさて」 

 

夕暮れが迫る街に再び目をやる。沈みつつある夕方の太陽は、そびえ立つ高級高層マンションの影にゆっくり沈もうとしていた。 

 

 

その4 万里花 

 

「ケホッケホッ」 

薄暗い寝室で一人、わたくし橘万里花は咳をしておりました。 

今頃、楽様は初詣に行っていらっしゃる頃でしょうか。桐崎さんや小野寺さんも一緒でしょうし、心配ですわ。 

去年のお正月は楽様の家に押し掛けて大騒ぎをした挙げ句にあんなことになりましたし嫌な予感しかしません。 

 

「ケホケホッ!」 

やっぱり南の島にまで出かけていって、その上遭難までして、楽様と二人っきりになれたのはよかったけれど、 

やっぱり無理をしすぎたのでしょうか。 

本田にもたっぷり叱られましたし、こうして楽様と初詣にも行けず、一人ずっとベッドで寝ているというのは寂しいですわね。 

 

昔はずっと病弱だったから、一人で過ごすのも慣れっこだったのに。 

楽様と出会ってから、そしてこの街にやってきてから、すっかりあの賑やかなメンバーの中で過ごすことに 

慣れっこになっていたことに自分でも少し驚きです。まぁ、わたくしは楽様さえいれば他はどうでもよいのですけれども。 

 

「はぁ」 

そんな風に強がってはみても、今の私が独りぼっちであることには変わりはありません。 

 

こんな病気さえなければもっと楽様と一緒にいられるのに。 

こんな病気さえなければ、ずっと、楽様と一緒にいられるのに。 

 

思わず涙ぐみそうになって、ふるふると長い髪ごと頭を振って、暗い考えを振り払います。 

夕暮れ時はなんだか沈んだ気持ちになりがちですね。 

おかしなことばかり考えてしまう前に、寝てしまった方がよさそうです。 

 

ばふっと頭まで布団を被ろうとしたその時、コンコンと窓から物音が。 

気のせいかと思いながら(何しろここはマンションの高層階)カーテンを引くと。 

 

「ら、楽様!?」 

 

慌てて窓を開けて、楽様を部屋に招き入れました。窓の外には当然足場なんてありません。 

少しでも足を滑らせれば遥かな地上まで真っ逆さまです。 

 

「橘」 

「あ、あの、楽様ど、どうしてそんなところから?」 

「あー、いや、その、お見舞いに来たんだ。それよりも大丈夫か、体調は」 

「えっ! お、お見舞い?」 

 

ど、どうしましょう。楽様がわざわざ(それも窓から)お見舞いに来てくださるなんてもの凄く嬉しいのですけれども、でも、楽様にはこんな姿はお見せしたくありません。 

私のことは、いつも元気で明るくて、楽様のことを思っている女の子として覚えておいていただきたいのに。 

 

「あ、ありがとうございます、楽様。で、でも、その、あのですね、せっかく来ていただいたのに申し訳ありませんけどれも、私、そろそろ休もうかと思っていたところで」 

「大丈夫、そんなに時間は取らせねえよ」 

 

そう言うと楽様は私のベッドに! 

 

腰をかけて! 

 

そっと私の頬に手を当ててくださいました。 

 

「ら、ららららっくん!?」 

「万里花」 

 

楽様の顔が近付いて。息がかかりそうなそんな距離で。 

普段は呼ばない、下の名前を呼ばれたら。 

 

「だ、だめばいらっくんんっ」 

 

楽様の唇が私の唇と触れる。柔らかい感触と、かすかな湿り気。 

時折唇の間から漏れる、切なく苦しげな吐息。 

まさか、楽様の方から、こんな風に。 

 

いつしか私は夢中になって、楽様の唇を貪るようにキスを繰り返していました。 

 

「万里花、ゴメンな。ずっと気付いてやれなくて、無理ばっかりさせて。でももう大丈夫。 

 なんでだか頭がスッキリして、俺mようやく気付いたんだ。いいか、俺がお前を元気にしてやる。 

 それで、元気になったら、また一緒に遊びに行こうな」 

 

楽様の、いつもより少し低いけれど優しい声。 

こんなに近くでその凛々しいお顔を見ることができるせっかくのチャンスなのに、 

私ときたら、目の前が滲んで、何も見えません。 

 

「らっくん好いとーよ」 

 

しゃくりあげそうになるのを堪えながら、どうにか口にしたその言葉。 

楽様の回答は、雨のように優しいキス。 

ああ、あれほど思い悩んでいたのに、病気のことなんてすっかり忘れてしまいそう。 

 

お互いの身体に指を這わせて、撫でて、摘んで、握って。 

 

「ああらっくんそがん所ばダメばい! ああでもらっくんが良かっていうなら私は」 

 

「万里花っ」 

「あっ! らっくんあっあっはああっ!」 

 

一人で寂しく寝るつもりだったベッドの上で、愛しい人と二人。 

いつしかいつもの優しい眼差しに戻っていた楽様を抱きしめながら、幸せな気持ちとともに今度こそ私は眠りにつきました。 

 

 

エピローグ

 

「ううんどうしてこんなに身体が痛いのかしら」 

そんなことを言いながら、千棘がぐーっと伸びをする。 

 

「ホントだね。やっぱり慣れない着物で初詣に行ったから、普段使わない筋肉を使っちゃったのかも」 

その隣で、同じく痛そうに足と腰をさすりながら小野寺が相づちを打つ。 

 

どうやら、何も覚えていないようだ。 

少し離れたところから、なんとも言えない目付きでこちらを伺う鶫の様子は気になるものの、一条楽はホッと安堵の息を吐いた。 

昨日はあれからほとんどのメンバーが満身創痍で動くこともできなかったため、 

どうにか運び込まれた一条家に一泊し、翌日の朝を迎えていたのだった。 

 

一方の楽はというと、神主さんから手渡された謎のドリンクを飲んだことで普段の彼とは真逆の言動を繰り返してしまったものの、その後に起きた一部始終を覚えていた。 

 

小野寺姉妹と出会い、鶇と千棘の襲撃を受け、羽姉のお説教を軽くあしらい、そして。 

 

「楽さまーっ!!!!」 

「うおおっ!?」 

 

いつもよりも数倍の勢いとテンションを伴う背後からの万里花タックルを受けて、 

楽はちゃぶ台の上に並べられた朝ご飯の品々に頭から突っ込みそうになった。 

 

「あ、危ねえな、橘!」 

「たちばな?」 

「あ、いやま、万里花」 

 

可愛く首を傾げながら巧みに下の名前での呼びかけを要求する万里花の姿に、 

昨夜の思い出がよみがえり、思わず赤面してしまう。 

 

「えへへ、楽様ー。私も遊びに来てしまいました」 

身を起こしたところにあらためて万里花が抱きついてくる。 

 

「お、おう」 

昨日の出来事の中では万里花との出来事が一番大人しいものだったはずなのに、一番照れ臭い。 

あの時、謎の薬の効果がほとんど切れかけていたからなのか、それとも。 

 

普段と違う雰囲気を察したのか、千棘が髪を逆立てながら近付いてくる。 

 

「あーら、朝から元気そうね、万里花。昨日は寝込んでたって聞いたけど?」 

「おかげさまで、すーっかり良くなりました。この分だと、私の病弱設定も無くなってしまいそうですわ」 

 

「でも残念だったね、万里花ちゃん。一緒に初詣に行きたかったんだけど」 

「ホントホント、楽しかったわよ、初詣。ホラ、あの甘酒も美味しかったし!」 

 

「あ、甘酒!?」 

千棘の言葉に小野寺が反応して一瞬凍りつく。言った当の千棘も何かが引っかかるのか妙な顔をしている。 

 

「なんですか、二人して。でも、そんなの全然羨ましくありませんわ。だって、私も昨日、たーっぷり甘酒を飲みましたから」 

「え、そうなの? あ、あれかな、身体が温まって風邪にも良いからお家の人が作ってくれたとか」 

 

無邪気な小野寺の問いかけに、万里花は怪しげな微笑みを浮かべると、俺の方に向き直る。 

 

ちょっとだけドヤ顔で。 

でも頬を染めながら上目遣いで。 

 

恥ずかしいのなら、言わなければいいのに。 

 

 

「ねえ、楽様。また飲ませてくださいね楽様の、あ・ま・ざ・け」 

 

その後、千棘にしこたまぶん殴られたことは、言うまでもない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

ニセコイSS「アマザケ」

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