アニメssリーディングパーク

おすすめSSを当ブログで再編集して読みやすく紹介! 引用・リンクフリーです

いろは「バレンタイン、楽しみですねっ」【俺ガイルss/アニメss】

 

2月に入ってから2週目を迎えた。

肌に感じる空気が冷たくなってから、もうだいぶ久しい。

 

ここ数ヶ月はずっと布団や炬燵の誘惑との戦いが続いている。

 

当然、あの憎きぬくぬくマシーンらとの戦績は明らかに負け越している。

 

負けることに関しては俺は最強だと自負しているが、さすがにこの負けっぷりはあまりよろしくないと思う。

 

でも炬燵に入っちゃう。びくんびくん。炬燵には勝てなかったよ……。

 

八幡「……」

 

 

時は放課後。

 

生徒達ががやがやと騒がしくなり、部活行こうぜ、遊びに行こうなどと声が聞こえてくる。

 

俺は教室の中を一瞥すると、由比ヶ浜の姿が目に付いた。

 

見れば、三浦や海老名さんと話しこんでいる。随分と盛り上がっており、あれは長くなりそうな雰囲気だ。

 

これなら待たなくて先に部室に言っていていいだろう。

 

そう判断した俺は、教室のドアを開けて廊下に出た。

 

……さむっ。学校の廊下にもヒーターかなんかを設置するべきだと、八幡思うな!

 

マッ缶でも買ってから部室に向かおうと考え直し、部室ではなく先に自販機に向かうために歩を進めた。

 

自販機の近くにまでやってきた。外にあるここは、当然屋内である廊下よりももっと寒い。廊下だけじゃなくて、外にもヒーターを置くべきだと思う。仕事しろ太陽。

しかし、太陽が仕事するようになるにはあと数ヶ月はかかるだろう。そしてその頃、俺は間違いなく太陽休めと恨み言を吐いている。何故太陽は仕事しろっていう時に限って仕事しないくせに、仕事しなくてもいいと思うときには仕事をするのだろうか。

 

最近は春も秋もすぐに過ぎ去って、夏と冬だけやたら長いように感じる。

 

どうしてこう両極端なのだろう。四季っていうくらいなんだから、秋も春もちゃんと3ヶ月以上続くべきではないだろうか。

 

現実も空気も社会も冷たいのだから、せめてマッ缶くらいは甘くてもいい──そう思いながら自販機の前に立った、その時だった。

 

いきなり背中にドカッと強い衝撃を受けた。

 

なんだなんだ野球のボールでも飛んできたか、いやいや俺に恨みでもある奴がドッジボールでも仕掛けてきたかもしれないし、なんならモンスターボールを投げつけられたかもしれないなどと考えながら振り返ってみる。答えはそれらのどれでもなかった。

そこには総武高校生徒会長、一色いろはの姿があった。

 

いろは「せんぱ~い!」

 

八幡「……いってぇんだけど」

 

一色がなんでここにいるかは分からないし、なんで俺に話しかけてきたのかも分からない。

 

だが、せめて俺にアクションを起こすにしても普通に呼ぶか、せめて肩をポンと優しく叩くくらいにしてほしい。

 

ボディタッチとかされたらうっかり惚れちゃいそうになるかもしれないけど。一色に関してはそれはないか。こいつあざといし。

 

しかし、華の女子高生が背中に正拳突きはいくらなんでもおかしくはないだろうか。

それとも俺が知らない間に女子高生の間では『今の流行の挨拶は正拳突き!』みたいなことでも広まっているのだろうか。

 

もしそうだとしたら、このあと部室に行った時に由比ヶ浜に『やっはろー拳!』って殴られてしまうのかもしれない。腹にビッグガンガンでも仕込んでおこう。

 

しかしその理論でいくと、平塚先生は少し前から現代の女子高生の流行を取り入れていると言える。

 

やったね静ちゃんこれで実質女子高生だ! しかし先生の突きは割と本気で痛いので勘弁してもらいたいところだ。歳の話をしたときにしか殴ってこないのが幸いだが。あれっ、挨拶じゃないじゃん。やっぱり先生の感覚は女子高生からは離れていたのか。

 

その正拳突きを、俺の背中に(割と強めに)放ってきた当の一色いろはは、何も悪びれずに顔をこちらに向けた。

 

一色「先輩、なんでここにいるんですか?」

八幡「それ聞くために殴る必要あった?」

 

武闘派こわ……肉体言語とか誰にでも通じるわけじゃないのよ……。

 

だが、一色はあはっと一瞬笑っただけでそれを誤魔化した。

 

可愛い女子高生は人を殴っても軽く笑うだけで許されるのか。

 

本当に、この世は平等には出来ていない。

 

一色「まーまー、そんな昔のことはいいじゃないですかー。そうそう、それより先輩に聞きたいことがあるんですけど」

 

まーまーで流されちゃったよ、正拳突きの件。まぁ、俺ももうどうでもいいけど。

 

ていうか俺がなんでここにいるのかはもういいの? 聞いておいた割にもう次の質問に移ってるような気がするんだが、質問をするならせめて俺の解答を待って欲しい。

 

一色が次に聞いた質問は、それまでの流れからは全く予想出来ないものであった。

 

いろは「先輩、バレンタインデーって知ってますか?」

 

八幡「は?」

 

なに、ばれんたいんでーって。元プロ野球選手のボビー・バレンタインを祝おうの日?

それなら大いに祝うまであるね、何故ならボビー・バレンタイン氏はあの千葉ロッテマリーンズの監督を務めていたことがあるし、今でも千葉大学などの教授をやっていたりする、この千葉と結構馴染み深い偉大な人なのだ。

 

いろは「バレンタインデーですよ、バレンタインデー。チョコを渡しあう日じゃないですかー」

 

だが、バレンタインデーとはどうやらボビー・バレンタイン氏をお祝いする日ではなかったらしい。

 

マジかよ、あの人めっちゃ良い人なのに……偉大な氏をお祝いするのは今度ひとりでやろう。

 

それはさておき、何故いきなりこいつは俺に向けてそんな質問をしてきたのだろうか。

 

八幡「あのお菓子販促のためのメーカーの陰謀だろ」

いろは「あっ、一応知ってはいるんですね。もしかしたら、先輩なら存在すら知らないかもと思って聞いてみたんですけど」

 

えっ、俺そんなことも知らないように見える? それともまるで俺がバレンタインデーと無縁な人生を送ってるとでも言いたいのかこいつは。まぁ、無縁だったんだけど。

 

八幡「ばっかお前、それくらい知ってるっつーの。毎年チョコ貰ってる奴を呪う作業で忙しいし」

 

いろは「そんなことやってるんですか先輩……」

 

一色が軽く体ごと引いてた。顔も引きつってる。もしかして本気でやってると思われているのだろうか。

 

さすがに本当にそんなことを考えているわけではない。ただちょっと嫌な奴が多少苦しむようにささやかなお祈りをしているだけである。お祈りと呪いは全く別のものなのだ。

 

八幡「で、なんでそんなことを俺に聞くんだ」

 

いろは「えーとですね、実は今度のバレンタインデーに葉山先輩にチョコを贈ろうと思ってましてー」

 

ほっほう、なるほどねぇ~。葉山のことだ、ほぼ間違いなくチョコとか大量に貰うのだろう。爆散しねぇかな。

 

いろは「それで、男の人の好みとか知りたいなって思ったんですよ」

 

八幡「だからなんでそれを俺にいう」

 

いろは「話の流れで分かってくださいよ!」

 

わっかんねーよ。女子高生の話の流れ方は独特過ぎて、長年ぼっちを立派に勤め上げてきた俺には全く理解出来ない。なんなら男子高生の話の流れ方すら知らないまである。

 

いろは「だからー、参考のためにも先輩の好きな味とか聞いておこうと」

 

八幡「俺に聞いても参考になるわけないだろうが……」

 

そう軽くあしらいながら、いい加減自販機でマッ缶を買おうと財布を取り出しながら自販機の前に立つ。

 

チャリンと小銭が自販機の中に入る音を聞くと、俺はいつも通りマッ缶のボタンを押した。目を瞑りながらでもどこか分かりますよ、今ではね。

 

八幡「大体、俺に聞くくらいならサッカー部の奴らにでも聞いた方が参考になるだろ」

 

葉山に直接聞けとは言い辛かった。一応一度は振られているわけだし。しかし一度振られているのにも関わらず、チョコを渡そうと考えるこいつもなかなか肝っ玉が据わっている。

 

八幡「ほら、戸部とか。色々いんだろ」

 

いろは「えーっとですね、なんていいますか……」

 

一色は何か煮え切らないかのような態度で言葉を濁す。なんだ、サッカー部の面子に聞きづらい理由でもあるのだろうか。

 

一色は少しの間そんな感じでごにょごにょと言葉を濁していたが、ようやく聞き取れる声で話し始めた。

 

いろは「もしサッカー部の人たちに好みなんて聞いたりしたら、それに合わせて味変えないといけなくなって面倒じゃないですかー」

 

八幡「あっ、そう……」

 

理由がえらく可愛くなかった。

 

まぁ、どうせ一色のことだしバレンタインデーはサッカー部の面子にもチョコか何かを作って配り歩くというのは想像に難くない。

 

もしそうならば、好みなど聞いてしまったらそれに合わせざるを得なくなるということだろう。

 

こいつ、普段適当に見えるのにこういうことに関しては気が廻るのな。

 

いろは「その点先輩なら、別にそういうの気にしなくていいっていうかー」

 

八幡「はぁ……」

 

そりゃ渡す気がない相手なら確かに気にしなくてもいいのだろう。こいつ本当にいい性格してやがる。

 

俺はマッ缶のブルタブを開けると、缶を口に運んだ。いつも通りの味だ。こいつを飲まなくちゃ人生やっていけない。

 

ふと気付くと、一色がマッ缶を飲む俺の口当たりに目線を向けているような気がした。

 

いろは「先輩って、いつもそれ飲んでますよね」

 

八幡「ああ、MAXコーヒーだ。うまいぞ」

 

そういうと再びそれを飲む。そして、また一色の目線がこちらを向いていることに気がつく。

 

……これはまさか、MAXコーヒーに興味を持ったのか?

 

俺は缶から口を離すと、すぐに一色に問うた。

 

八幡「お前、これに興味あんの?」

 

いろは「えっ? えぇ、まぁ……あれの味に近いチョコなら食べてくれるかな……」

 

八幡「じゃあ飲んでみるか、これ」

 

いろは「ええ!?」

 

一色は驚愕の声を挙げた。なんだ、その驚いたような声は。その声を出すのはまだちょっと早いぞ。実際にこれを飲んだらあまりのうまさにまた驚くだろうからな。

 

そう言って、俺は再び財布から小銭を取り出した。

 

いろは「あっ、ちょっとそれ私と間接キスをしたいっていう意味ですか割と魅力的な案というかちょっと心の準備が出来ていないのでまたの機会にしてもらってもいいですかごめんなさいああでもやっぱり」

八幡「ほれ」

 

いろは「えっ」

 

俺は自販機に小銭を入れて新しいMAXコーヒーを買うと、それを一色に手渡した。

 

八幡「俺はMAXコーヒーの信者だからな、布教するためにこれくらいは惜しまねぇよ」

 

いろは「…………はぁ」

 

何故か一色は肩を落として、明らかに分かるように落胆していた。

 

俺奢った側なんだけどなんで? いらないんなら俺が貰うんだけど。

 

八幡「……いらねぇのか?」

 

いろは「……貰いますけど」

 

一色は不機嫌そうにそういうと、俺の手からマッ缶を受け取った。

 

そしてブルタブをパカッと開けて、そのままそれを口に運んだ。

 

いろは「……あっま」

 

八幡「だろ?」

 

MAXコーヒーの魅力はこの甘さだ。俺は社会の厳しさを日々この甘さで癒しているのだ。

 

いろは「ふーん、先輩ってこういう味が好きなんですねー」

 

八幡「ま、基本甘いのは好きだからな。これで分かったろ。じゃあな」

 

そうとだけいって、俺は奉仕部の部室に向けて足を向けた。

 

いろは「なるほど……この味をイメージしてチョコをつくれば……いっそこのコーヒーそのまま入れちゃっても……あっ、先輩どこ行くんですか待ってくださいよー!」

 

何故か一色も俺の横についてきた。

 

八幡「なんだよ、まだあんのかよ」

 

いろは「いえ、先輩の好みに関しては分かったので大丈夫です。私も一緒に奉仕部の方へ行こうと思いまして」

 

葉山に渡すチョコに俺の好みが関係あるとは思えないんだけどなぁ……。

 

実は葉山もMAXコーヒー教であるっていう隠し設定があるならともかく。あらやだあんな憎いあんちくしょうでもMAXコーヒーが好きなら同志なら許せちゃう気がする! 不思議!

 

……それよりも、今一色は私も奉仕部に行くと言わなかっただろうか。

 

八幡「お前、最近奉仕部に入り浸りすぎじゃねーの。サッカー部のマネージャーとか、生徒会関係とか色々あると思うんだけど」

 

いろは「この前フリーペーパーの件が終わったばっかりですし、少しくらい羽伸ばさせてくださいよー」

 

そう言って一色は俺の横に並びながら歩き始める。近い近い。それだけで勘違いしちゃうからやめて。お前に関してはそういう心配はしてないからいいけど。

 

いろは「そういえば今度のバレンタインデー、ちょっとイベントやろうと思ってまして。それのお手伝いを先輩方にお願いしたいんですけど」

 

八幡「お前、俺達をこき使いすぎだろ……」

 

隣にいる一色と、歩を並べながらこつこつと廊下を歩く。

 

今度こいつは持ってくる面倒事は一体どんなものなのだろうか。

 

近いうちにまたやってくるだろう多忙の日々を思うと、今から憂鬱になる。

 

いろは「先輩」

 

奉仕部まであと少しという距離まで歩いてきた頃、唐突に一色が俺のことを呼んだ。

 

八幡「なんだよ……」

 

いろは「バレンタイン、楽しみですねっ」

 

そう笑って言った一色の顔は、どこか楽しそうで──不覚にも、俺の心臓がドキリと跳ねてしまった。

 

──バレンタインデー、か。

 

いつもは小町から貰えるチョコだけが楽しみな日だったが、今年は何か違う色が見えるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

いろは「先輩、バレンタインデーって知ってますか?」八幡「は?」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431921943/