アニメssリーディングパーク

おすすめSSを当ブログで再編集して読みやすく紹介! 引用・リンクフリーです

風太郎「結婚しよう」 ??「....はい」【五等分の花嫁ss/アニメss】

 

「...」 

 

ノートの上にシャープペンシルを投げ捨てると、風太郎はぼんやりと天井を見つめる。 

 

ある事があってからこうする事が増えた事は風太郎にも自覚出来ていた。 

 

『あんたを好きって言ったの』 

 

告白、だったのは言うまでもなかった。 

 

その場で返事なりをして解決出来ていれば良かったのかもしれないが、問題は重要さに見合わずあっさりと回答が先延ばしになっていた。 

 

(二乃がな...) 

 

信じられないという気持ちと、どこか報われたような気持ち、様々な感情が日常のそこかしこで顔を出す。 

 

勉強は殆ど手につかなくなっていた。 

 

「お兄ちゃん!」 

 

風太郎の背後から声が聞こえる。 

 

「らいはか...」 

 

「またぼーっとしてる。100点取れなかったからって落ち込まないでよね」 

 

勿論的外れな推測だが風太郎にはそれが嬉しかった。 

 

自分がどう有るべきか思い出させてくれる、それがありがたかった。 

 

「たまには調子の悪い時もあるだけだ。次は満点御礼にしてやるさ」 

 

そんな風太郎をみるとらいははほっとしたような笑顔を浮かべる。 

 

「その意気だよ! 成績落ちたら五月さん達の家庭教師もクビになっちゃうかもしれないし」 

 

その言葉にギクリとする。 

 

五月の名前を聞けば必然的に全員の顔が頭をチラつく。 

 

勿論その中には頭を悩ませる元凶の二乃もいる。 

 

「会えなくなったらお兄ちゃんも寂しいでしょ?」 

 

らいはは無邪気にそう言う。 

 

寂しくないかと聞かれれば勿論寂しい、とは思う。 

 

それがどういう感情かと聞かれると...、心にモヤモヤが溜まるのも事実だった。 

 

「まあ、もしお兄ちゃんが五月さん達の誰かと付き合うなんて事になれば別かもしれないけど、それは無いよね」 

 

『付き合う』 

 

その言葉に風太郎の心は締め付けられる。 

 

そう、回答しだいではそんな未来があるのかもしれないのだから。 

 

 

その夜布団に潜った風太郎は何となく考えていた。 

 

「付き合う、か...」 

 

そんな事になるのかは分からない、ただその可能性は提示された。 

 

全く分からない未来、自分はどうなるのだろうか。 

 

漠然とした不安を感じながらも、少しの胸の高鳴りを聞いていると眠気が襲ってくる。 

 

「そんな未来があるなら...」

 

 

一花の場合 

 

「ほら、起きろって」 

 

風太郎は布団を揺する。 

 

布団の主は中で身悶えしながらも、外に出てくる気配はない。 

 

「おい」 

 

さらに揺するのを強くする。 

 

「ん~」 

 

小さな声が中から聞こえるがそれでも出てくる気配はない。 

 

「一花!」 

 

朝の大事な時間が潰される事に耐えかねた風太郎は掛け布団を掴むと一気に剥ぎ取る。 

 

ゴロゴロと音を立てて布団の主が肌色を晒して溢れてくる。 

 

「はぁ...」 

 

昔から変わらず全裸になる癖は抜けていない、それどころか一人暮らしになってからは悪化している気配もあった。 

 

「まだ早いよぉ...」 

 

目を擦りながら一花はゆっくりと起き上がる。 

 

その途中、自分が全裸な事に気付き一花は恥ずかしそに胸元を隠す。 

 

「あはは...」 

 

照れながらも目の前の風太郎に気付くと一花はイタズラな笑みを浮かべる。 

 

「朝からしたかったの?」 

 

「起きろ」 

 

風太郎は一花の頭を軽く叩くと、手近に有ったバスタオルを投げつける。 

 

「早く着替えてこいよ、出掛けるんだろ?」 

 

こんな光景慣れ切ってる、そんな風太郎の仕草に一花は不貞腐れた表情を浮かべる。 

 

しかし直後にある事に気付くと一花は表情をニヤケさせた。 

 

「したかった、って所は否定しないんだね」

 

 

「俺だから良かったものの、他の奴だったらどうするんだよ」 

 

近くの商店街に向かう道を歩きながら風太郎は溜息をつく。 

 

2人の手は違和感なく繋がれており、照れは見えない。 

 

「いいの、どうせあの家には私達の誰かかマネージャーさんか」 

 

「君以外来ないんだから」 

 

繋いだ手に力が込められる。 

 

それは信頼、そして愛情。 

 

「まあ、その、それなら」 

 

手を強く握り返すと、風太郎は照れたようにそっぽを向く。 

 

「~♪」 

 

その表情に満足したのか一花は楽しそうに歩みを進める。 

 

そんな一花を見て風太郎も自然と笑みを浮かべる。 

 

「そうだ!折角買い物するんだし、この間欲しいって言ってた小説をおねーさんが買ってあよう」 

 

「あのなぁ...」 

 

風太郎は呆れた溜息を吐く。 

 

「前に一花自身が言った通りその貢ぎ癖治せよ」 

 

「うう...」 

 

昔からこうだと一花は反省する。 

 

機嫌が良くなると特に相手に尽くしたくなる。 

 

自身でも悪癖という認識はあるし、風太郎にも幾度となく咎められている。 

 

でも癖はなかなか抜けない。 

 

「それに、」 

 

風太郎はそっぽを向きながらも素直な言葉を繋ぐ。 

 

「そういう所で好きになったって見られたくないだろ。俺はちゃんと俺の一番が一花だからここに居るんだし」 

 

言ってみてどことなく臭さを感じつつ、風太郎は一花の顔を覗いてみる。 

 

「...」 

 

白く艶やかなその頬には涙か伝っていて、風太郎はキャンプファイヤーを思い出す。 

 

美しささえ覚えた涙、今となってはあの理由は分かっている。 

 

風太郎の心無い言葉が一花の心を傷付けた、その痛みの涙。 

 

しかし今回の涙は記憶と一つだけ異なっている。 

 

風太郎!」 

 

一花が風太郎に抱きつく。 

 

往来は少ない道とは言え人目がゼロな訳では無い。 

 

しかし一花にはそんな事は見えていなかった。 

 

「大好きだよ、私風太郎が好きで良かった。風太郎に好きになってもらえて良かった」 

 

風太郎は一花の背中に手を回す。 

 

「俺も一花が好きだ」 

 

風太郎...」 

 

一花の顔が風太郎に迫り... 

 

 

「な、なんだこの夢は...」 

 

妙に明確で、リアリティのある夢に風太郎は飛び起きる。 

 

「悩みすぎたか...」 

 

風太郎は気を取り直して眠りにつく。

 

 

二乃の場合

 

「~~♪」 

 

眠から覚めるとオーブンから漂う甘い香りに乗せて、ご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。 

 

「寝ちまってたか...」 

 

突っ伏していた机の上では読みかけていた新聞紙が涎でひしゃげている。 

 

「あ、起きた?風太郎」 

 

キッチンから顔を出した二乃は風太郎の顔を見るとエプロンを外して近付いてくる。 

 

「もー、顔にヨダレ付いてるよ」 

 

机の脇に置かれたティッシュを数枚取ると、二乃は慣れたように風太郎の頬を拭き取る。 

 

「あ、すまん」 

 

「良いわよ、別に」 

 

二乃はティッシュを少し離れたゴミ箱向けて放り投げ、綺麗にそれが収まると小さくガッツポーズを決めた。 

 

「家にいる時間が長いと、こういうのが上手くなっちゃうわよ」 

そう言うと二乃は愛おしそうに少し膨らんだお腹を撫でる。 

 

「無理してないか? 安定期になったとは言えさ」 

 

「そっちこそ、疲れてるんでしょ?」 

 

そう言いながら二乃は手際よく机の上を片付ける。 

 

「丁度焼けた所だからお茶にしましょう」

 

机の上にはカスタードクリームをふんだんに詰め込んだシュークリームが置かれている。 

 

風太郎がそれを持つと、焼きたての生地の温もりがまだ手に伝わってくる。 

 

「本物のパティシエのスイーツがおやつに食えるってのは贅沢だよな」 

 

風太郎は指に付いた粉砂糖を舐めとる。 

 

「私の同僚なんかは家では絶対に作らない!って子も居たけどね。

 

私の場合はどっちかというと手技を忘れないためなのが大きいけど」 

 

そう言い終わると二乃は慌てて付け足す。 

 

「でもでも、風太郎に作るのが嫌なんじゃないわよ? 旦那様には何時だって手料理を食べて欲しいし」 

 

二乃はそう言って甘い笑顔を浮かべる。 

 

「俺も食べれて嬉しいよ。これで明日からまた仕事頑張れそうだ」 

 

風太郎は机の上にある二乃の手を取ると小さく握る。 

 

言葉はなくとも二乃もその手を握り返す。 

 

甘い匂いと時間が二人きりのリビングに流れる。 

 

「私ね、色んなスイーツを作れるようになったけど、シュークリームが一番好きなんだ」 

 

「そうなのか?」 

 

昔から二乃は多種多様なスイーツを作るのを見ていた風太郎は聞き返す。 

 

「2人で初めて一緒に作ったからね。風太郎はキンタロー君の姿だったけど」 

 

そう言われて風太郎は高校時代のワンシーンを思い出す。 

 

勘違いと嘘で怒らせたあの日。 

 

二乃の告白。 

 

真っ赤な顔でも分かる真っ直ぐな瞳。 

 

必死に振り向かせようとしてくれた愛情。 

 

「今なら分かるな~。風太郎が優しくて私を傷付けない様にしてくれてたんだって。あの時はあんな終わり方だったけどね」 

 

「まあ、あの時は俺はしっかりと二乃の事見れてなかったから...」 

素直に風太郎は答える。 

 

「今、しっかりと見てくれてるなら良いのよ。だって誰でもなく、私を選んでくれたんだから」 

 

二乃はそう言うと繋いだ手の指を絡める。 

 

「出来てからご無沙汰だったからさ」 

 

二乃はつないだ手は話さず少し俯いて囁く。 

 

「もう少し甘いのがほしいなーなんて」 

 

その言葉に2人の顔はゆっくりと近づいて... 

 

 

「........」 

 

風太郎は天井を見つめる。 

 

「なんで、こんな夢ばっかり...」 

 

「いや、悩みすぎてるからか...」 

 

不思議な夢に頭を悩ませながら風太郎は再び眠りに落ちる

 

 

三玖の場合

 

新緑の香りが風太郎の鼻腔をくすぐる。 

 

少し遅れて女の子特有の甘い香りがやって来る。 

 

「起きた?」 

 

風太郎が目を開けると、そこには透き通るような青空と見つめて来る優しい笑顔。 

 

「あ~、スマン三玖」 

 

後頭部から伝わる温もりとその景色から風太郎は膝枕されている事に気付き、慌てて起き上がる。 

 

「別に良かったのに」 

 

三玖は少し不満げに言うが、直ぐに笑顔を浮かべる。 

 

「こんなにいい天気だと仕方ないよね」 

 

三玖はそう言うと目をつぶる。 

 

春の心地よい暖かさに包まれた公園。 

 

ピクニックシートの下の柔らかな芝生。 

 

穏やか、という言葉を具現化した様な環境がそこには広がっていた。 

 

「公園デートにして良かったな」 

 

風太郎は起き上がり、三玖と同じ様に目をつぶる。 

 

風の音、僅かに聞こえる賑やかな子供の声。 

 

そっと重ねられらた手。 

 

「うん...」 

 

三玖は小さく答えると、重ねた手の指を絡める。 

 

風太郎はあったかいね」 

 

「三玖の方があったかいと思うけどな」 

 

その存在を確かめるように風太郎はそっと指を沿わせる。 

 

風太郎の方が風邪引きにくいからあったかいよ」 

 

「そんな理由かよ...」 

 

他愛のない会話が繰り返される。 

 

時々笑い、たまに拗ねてみたり、指先同士でイタズラしてみたり。 

優しい時間だけが流れていく。

 

「お茶入れようか?」 

 

ひとしきり話し終えた頃、三玖は水筒を取り出す。 

 

「そうだな、時間もいいし弁当も食べようか」 

 

風太郎のその言葉に三玖はピクリと肩を震わせる。 

 

「60点ぐらいでお願いします...」 

 

そう言いながら三玖は鞄からおずおずと弁当を取り出す。 

 

可愛らしい花柄をあしらった包みを解くと、綺麗な三角形に握られたおにぎりと、幾つかのタッパーが現れる。 

 

「して今日のメニューは?」 

 

風太郎が聞くと三玖はタッパーの蓋を開けながら説明する。 

 

「自信作のおにぎりに卵焼きとソーセージ、プチトマト。あと少し挑戦してみた唐揚げに、デザートはうさぎりんご」 

 

「自信作が殆ど調理してない物だな」 

 

綺麗に盛り付けられた自信作と、少し彩りに怪しさが見える唐揚げがピクニックシートの上に並べられる。 

 

「そんなことは無い。焼いたり洗ったり、大変だった」 

 

三玖は水筒の緑茶をカップに注ぎ、それぞれの前に置く。 

 

「じゃあ頂きます」 

「頂きます」 

 

風太郎は箸を卵焼きに伸ばし、一口で口に収める。 

 

その行動を三玖はしっかりと見つめ、反応を伺っている。 

 

「美味いな。さすが自信作だ」 

 

「...」 

 

照れた笑顔を浮かべながら、三玖は小さくガッツポーズをする。 

 

「一杯練習したからね」 

 

「学生時代から考えると大躍進だな」 

 

続いて風太郎は唐揚げに手を伸ばす。 

 

少し衣に焦げが見えるが、下味の醤油のいい香りが漂う。 

 

「そんなに見られるとな...」 

 

三玖は箸を動かすことなく風太郎の一挙手一投足に意識を向けている。 

 

風太郎の女の子に求める物第2位だから」 

 

高校時代に少し悪ふざけで言ったことをしっかり覚えている三玖に苦笑しながら、風太郎は唐揚げをかじる。 

 

「美味いな。俺好みだ」 

 

その言葉に三玖は胸を撫で下ろす。 

 

風太郎の美味しいは幅広いけど、私にはとっても嬉しいな」 

 

そう言って三玖は唐揚げを食べ始める。 

 

「やっぱり60点だね...」 

 

「俺は美味いんだけどな」 

 

昔から変わらない少しズレた基準に三玖は小さく笑みを浮かべる。 

 

「もっと上手くなるね。風太郎が毎日食べたくなるように」 

 

食事を終えた後、2人は並んで景色を見ていた。 

 

「そう言えばさっきのもっと上手くなるって話。別に焦ったりする必要ないんだぞ」 

 

「どうして? 早いに越した事はないと思うけど」 

 

三玖の言葉に風太郎は少し言葉を飲んだあと続ける。 

 

「これからはずっと一緒なんだからさ。時間は沢山あるって事だよ」 

 

言い終えると風太郎は三玖の左手薬指のリングを軽く叩く。 

 

永遠を誓った2人が付けるエンゲージリング。 

 

ほんの数日前、風太郎はそれを渡していた。 

 

「そう、だね...」 

 

三玖は愛おしそうに左手を抱きしめる。 

 

ずっと思った恋心、見つけれもらって、助け合って、ゆっくりと三玖のスピードで歩んできた恋路。 

 

「ねぇ、風太郎...」 

 

「なんだ?」 

 

風太郎が三玖の方を向くと、愛おしい顔が近づいてきて... 

 

 

 

「夢、だな...」 

 

風太郎は三度布団から飛び起きる。 

 

悪夢では決してないが、あまりにもあの姉妹の夢を一日で見すぎている。 

 

「悩みすぎなのか...」 

 

しかし流石にここで終わりだろうと風太郎はまたまたまた眠りにつく。

 

 

四葉の場合

 

「......」 

「......」 

 

オレンジの西日が2人を背中から照らす。 

 

長く伸びた影が、二人の間の沈黙の時間を表している、そんな風にも見える程の静かな時間が流れる。 

 

「あの...」 

 

耐えかねたのかに四葉が切り出す。 

 

「なんだ?」 

 

並んで歩く風太郎は戸惑いながらも返事をする。 

 

二人の間には決して険悪ではない、むしろ甘い距離感が見え隠れしている。 

 

その証拠に四葉の手は風太郎の右手を探るように時折動いている。 

 

「その...」 

 

言いたいことはあるが、恥ずかしさとこれまでの二人の関係から四葉には中々それが出てこない。 

 

「ナンデモナイデス」 

 

結局二人の間の空気は振り出しに戻る。 

 

付き合い始めて1ヶ月、帰り道はこれを繰り返していた。 

 

どちらかが言葉を切り出そうとするが、結局先には進まない。 

進めても一言か二言。 

 

しかし2人はどこか律儀に毎日一緒に帰宅していた。 

 

「......」 

 

風太郎はこのままで良いのかと考える。 

 

もちろん選んだのは彼だ、理由を持って、愛した人を選んだ。 

 

しかし、関係がそうなるや否や風太郎はどうしたらいいのか分からなくなった。 

 

これまでずっと明るく、関係の近かった四葉が突如距離を置くようになった。 

 

勿論嫌っていれば付き合うことすらしていないはずなので、好意は有るのだろう。 

 

それぞれの見えない好意がお互いを縛る、そんな関係が2人の言動を縛り付けていた。

 

「あっ」 

 

そんなもどかしい雰囲気をやぶるように四葉が声を上げ、慌てて駆け出す。 

 

四葉の視線の先では小さな男の子が泣きじゃくっていた。 

 

「......」 

 

その四葉の姿に風太郎は少し微笑むと、四葉について走り出す。 

 

「大丈夫ですよ~」 

 

いつも通りの笑顔で四葉は少年の涙をハンカチで拭う。 

 

「どうしました?道に迷っちゃったかな?」 

 

努めて優しく話しかける四葉だが、少年は返事は愚か泣き止む節さえ見せない。 

 

「えーと、その、大丈夫だよ!」 

 

「何が大丈夫か」 

 

風太郎は四葉の頭を軽く叩くと、少年のカバンを指さす。 

そこにはカタカナでデイビッドと書かれていた。 

 

「昔にもこんな事あったよなぁ...」 

 

風太郎は頭を掻くと、とりあえず英語で話しかけてみる。 

 

「あー、め、めいあいへるぷゆー?」 

 

たとえ成績がどんなに良くてもそれはあくまで知識。 

 

分かりやすく日本語な英語での問いかけに少年は初めてハッと顔を上げる。 

 

日本人離れした青い瞳は風太郎を見つけると、再び涙を貯め始める。 

 

「上杉さん顔が怖いから!笑って!ニコーですよ」 

 

「ああ、もう...」 

 

見慣れていればどうということは無いが、異国の目つきの悪い青年は、少年にはアブナイ人にしか見えない。 

 

慌てて笑顔を繕い、風太郎は言葉を続ける。 

 

「えー、ロストユアウェイ?」 

 

迷子、なんて単語がすんなり出てくるはずもなく、風太郎は単語を重ねて迷子かと聞いてみる。 

 

「I need to go bus stop, but I forget the name! Grandmas waiting me maybe so much long time! Where I need to go......」 

 

「えー、バス停? 忘れた、名前、それから 」 

 

ただでさえネイティブの早口な英語に、子供特有の論理性の少し欠けた言葉。 

 

慣れていない風太郎には単語を追っていくのが精一杯だった。 

 

「おばあちゃんが、待ってる? 何処に行く?」 

 

「分かりました!おばあちゃんの居るバス停に行きたいんですよ!」 

 

風太郎の言葉を聞いていた四葉がそれを直ぐに文章に組替える。 

 

「合ってる...、のか? いや状況的にはそうなんだが...」 

 

「私、国語だけは得意ですから!」 

 

どこから来ているのか分かりづらい自信ではあったが、風太郎としても四葉の解釈に間違いは感じない。 

 

「でも状況が分かってもなぁ...」 

 

何処に行きたいか分からない以上風太郎にも回答は出せない。 

 

「おばあちゃんがどんな人か聞いてみてください」 

 

「その手があったか。 えーと、Do you know Grandmas 、特

徴? あーspecial point?」 

 

少年は風太郎の言葉に少しポカンとしたが、鼻をぐずらせながらも少し考える。 

 

「Purple and green hair」 

 

「これは私でも分かります! 紫と緑の髪の毛だそうです!」 

 

「いや、流石にそんな奇っ怪な人居ないだろ...」 

 

そう言って風太郎が周囲を一応見渡すと、ちょうど反対側の歩道を少し焦った様子で歩くお婆さんが目に入る。 

 

「紫と緑の髪だ...」 

 

「おーい、そこの人ー!」 

 

四葉は少年の手をとると、有無を言わさず呼びかける。 

 

その声に釣られて少年が目線をあげる。 

 

「Grandmas! Grandma!」

 

蓋を開けてみれば少年が降りたバス停は偶然目的地の一つ手前であったらしく、直ぐにお婆さんに少年を送り届けることが出来た。 

 

「本当にありがとうございます」 

 

「いえ、俺は何も。こいつが見つけたから」 

 

「いえ!上杉さんの頭脳でしっかりと聞き取ってくれたからですよ! 」 

 

こいつが、いやこっちが、そんなお互いに成果を押し付けるやり取りに、お婆さんは小さく微笑む。 

 

「優しいカップルに見つけてもらって良かっです」 

 

カップルという言葉に2人は少し顔を見合わせたあと、照れたように顔を伏せる。 

 

「あら、違ったかしら?」 

 

「えーとそのですね」 

 

四葉があわあわとしだすが、風太郎がその言葉を遮る。 

 

「いや、自慢の彼女です。こいつの人助けが迷子にさせなかったんだから」 

 

ハッキリと風太郎は言い切る。 

 

「あらあら、熱くなりそうだから私達はお暇しましょうか」 

 

お婆さんはそう言うと少年の手を取る。 

 

「David, say thanks for them」 

「Thanks so mach...」 

 

少年は照れくさそうに小さく手を振るとすぐさまお婆さんの腕にくっつく。 

 

「本当にありがとうございました」 

 

そう言って去っていく2人を見ていると、四葉がそっと風太郎の手を握る。 

 

「私達も帰りましょうか!」 

 

夕日に照らされているからか、四葉の顔は真っ赤に染まっている。 

 

「そうだな」 

 

手を繋いだまま、2人は歩き始める。 

 

しかし、まだ言葉は出ない。 

 

「その、だ。今まで通りで良いんじゃないかな。付き合ったとしても。四葉が先に動いて、俺が必要な時は助ける」 

 

「俺はそうやって気付けた四葉が大事なんだ」 

 

2人はあまりにも恋愛からは遠くて、でもお互いを最初から見つめてきた。 

 

動き出すのは四葉で、それに助けられ、ときに暴走したら助ける、そんな関係だからこそ2人はお互いを大事だと思えた。 

 

「あの...」 

 

呟いた四葉の頬に涙が流れる。 

 

「ずっと自信なくて、一花みたいに綺麗じゃなくて、二乃みたいに料理も上手くない、三玖みたいに賢くもない、五月みたいに強くもない。そんな私で良いのかって」 

 

「選んでもらって嬉しくて、でも私じゃダメなんだって気持ちもあって」 

 

「でも今分かりました。私だから上杉さん、ううん、風太郎と並べる事もあるんだって」 

 

四葉には自信がなかった、どんなに運動ができても、出来ないことが目に入る。 

 

五つ子という束縛が自信を奪う。風太郎がずっと気になっていたこと、だから惹かれたこと。 

 

「これからもずっと、ずーっとよろしくお願いします!風太郎!」 

 

「大好きです!」

 

 

五月の場合

 

長い、長い夢を見ていた気がする。 

可能性の世界、五等分の未来。 

 

でも未来は一つしか無くて... 

 

 

「これでよし」 

 

五月は荷物を詰め終えると、キャリーケースの蓋を閉める。 

 

「着替えと換えの下着、コルセットに...」 

 

カバンの脇に置かれた持っていくものリストを五月は指折り確認していく。 

 

「最後に指輪」 

 

五月はキャリーケースの脇に置かれた小箱を開く。 

 

中には小ぶりなダイヤモンドが嵌め込まれたリングが収まっている。 

 

しかし五月はそれを見て小さく微笑む。 

 

「込められた想いは違いますもんね」

 

 

「はぁ...」 

 

幾度目かのため息が風太郎の口から零れる。 

 

告白、初デート、初夜…、付き合いはじめてから緊張する機会は多々あったが今回の行為はそれらの比では無い。 

 

「よし」 

 

忘れないようにと前日からカバンの中に仕舞っておいた小箱を再度確認し、次に時計、最後にショーウィンドウに移る自分の姿を確認。 

 

「大丈夫、問題なし」 

 

そのショーウィンドウに五月の姿が割り込んでくる。 

 

「問題有りですよ、怪しすぎます」 

 

「うぉっ!」 

 

風太郎が慌てて後ろを振り向くと、不審そうに見つめる五月が立っている。 

 

「何を慌てているんですか? 」 

 

薄めの化粧ながら目を引く美貌、高校時代に比べると少し伸びた髪は後ろで緩く束ねられ、どこかモデルの様な雰囲気すら感じさせる。 

 

しかし教育実習中のため服装は着慣れ感のないスーツに身を包んでいる。。 

 

「ああ、いや、何でもない」 

 

少し見とれた風太郎はカバンを抱え直す。 

 

「まったく、忙しいのに呼び出すなんて。一体何の用なんですか?」 

 

本当の先生では無いとはいえ、授業の予習、大学へのレポート等教育実習中は多忙であった。 

 

そのため、五月は暫く会えないと風太郎に伝えたばかりであった。 

 

「誕生日プレゼントも渡しましたし、毎日連絡もしています。なのに何を伝えたいんですか。それも直接会ってだなんて」 

 

「まあそう怒るなって。まずは飯行こう」 

 

風太郎も怒られる事は薄々想定していた。 

 

彼女の夢を叶えるための大事なポイントに余所事を持ち込むのは申し訳なさもあった。 

 

しかし、今日でなくてはいけないと考えているのも事実であった。 

 

「美味しい所予約してみたんだ」 

 

「むぅ、ご飯出せばいいと思ってませんか?」 

 

図星、とは口が裂けても言えない。 

 

しかし五月の表情が緩んだことを見るに風太郎の選択は間違いでは無いことが分かる。 

 

「まあ、疲れてますし、美味しいものが必要ですからね」 

 

そう言うと五月は風太郎の腕を取る。 

 

「会えて嬉しくない、なんて事は無いですしね」

 

 

「......」 

 

食事を進めながらも時折五月は不審そうな目を風太郎に向ける。 

 

日頃は家にお金を入れ、学費を必死に稼いでいる風太郎とのデートは外食であれば安上がりなファミレスや居酒屋、誕生日等のイベントの際に少しランクが上がる程度であった。 

 

しかし、五月からすると何も無い今日に高級店に連れてこられたのは意外でしか無かった。 

 

「何を企んでいるんですか? それともお願いですか?」 

「別に何も無いって...」 

 

企みもお願いもあるのだが、風太郎にも狙っているタイミングがある、と言ってもドラマの受け売りレベルではあるが。 

 

(確実に何かあるのは分かるんですが...。深刻そうな表情、言いづらいこと...) 

 

ふと、五月の脳内に先日見たドラマのワンシーンが思い浮かぶ。 

 

高級店でデートをするカップル、プロポーズだと思っていた女性はそこでまさかの別れを切り出される。 

 

実は最後の思い出にと用意された高級レストランだったのだ。 

 

それを、影から見つめる第2の女...。 

 

 

(あれ、私振られるんですか...?) 

 

思い返せば今日も最初から当たりが強くしてしまった気がする。 

 

風太郎の誕生日も忙しさに甘えて少しおざなりだったかもしれない。 

 

それに... 

 

(彼は私達に好かれていた...) 

 

無いと信じたいが、誰か他の姉妹に心が向いてしまったかもしれない。 

 

ネガティブな思考はどうしても連鎖し、事実の様に見えてくる。 

 

「なっ」 

「......」 

 

涙が溢れてくる。 

 

どんなに気持ちを持っていても、相手に拒否されれば届くことは無い。 

 

同時に拒否されたくないほどに相手が好きなんだと思わされる。 

 

「もう、良いんです...、分かってますから...」 

 

「そうか...」 

 

風太郎は観念したようにカバンから小さな箱を取り出す。 

 

「まあここまでベタだと気付かれちまうよな」 

 

「ええ、テレビでもやってましたし...」 

 

「でもこういう時だからしっかりとしておきたかったんだ」 

 

 

風太郎は小箱を五月に差し出す。 

 

「結婚しよう」 

「嫌です!お別れなんて!」 

 

 

二人の間の空気が凍る、そしてプロポーズを聞かされていた店側もどうした物かという空気が流れる。 

 

言葉の意味を取れば成功しているし、表面だけ取れば断られたようにも見える。 

 

「い、嫌なのか?でも別れるなんて」 

「け、結婚ですか? えっ?」 

 

慌てて五月は小箱を開く。 

 

中には指輪がひとつ収められている。 

 

「あ、あの私...」 

 

「嫌、俺も焦りすぎたというか、結婚は早かった、かな...」 

 

「いえ、そうじゃなくて。勘違いというか」 

 

「皆まで言うな、指輪も金持ちのお前からしたらみすぼらし過ぎたな...」 

 

「あー、もう、そうじゃなくて!」 

 

五月は指輪を左手薬指に嵌める。 

 

「結婚しましょう!私と!」 

 

見せつけるように五月は左手を風太郎に突き出す。 

 

「は、はい!」

 

 

「別れ話をされると思った?」 

 

「お恥ずかしながら...」 

 

帰り道、2人は腕を組みながら街を歩く。 

 

来た時よりも心なしか距離はさらに近づいている様にも見える。 

 

「まあ、伝わったのなら良かったよ」 

 

「充分に、伝わりましたよ」 

 

そう言って五月は嬉しそうに左手を月にかざす。 

 

小さなダイヤモンドが月光を美しく反射させ、小さな祝福の光が2人に当たる。 

 

「俺の今はそれが限界でな」 

 

「良いんですよ、大きさなんて。それに学費も家の事も、全部知っていますから。それだけの価値があるんです」 

 

風太郎自身に使えたはずのお金を自分に惜しみなく差し出してくれた。 

 

それだけで充分だった。 

 

 

「それにしてもどうして今日だったんですか? 何か思い入れのある日でしたか?」 

 

クリスマスやバレンタイン、ホワイトデーでもない、ただの4月の平日。 

 

プロポーズに不向きと言えば不向きな日ではある。 

 

「これからは二等分だからさ。二等分した、俺達の誕生日を」 

 

「誕生日を二等分...?」 

 

「俺の誕生日と五月の誕生日の真ん中の日にしたんだ。これまでは五つ子で五等分が多かっただろうけど、これからは二人で生きていくから二等分って訳だ」 

 

「そういえことですか」 

 

覚えやすさもない、世間のイベントもない、ただ五つ子ではなく五月一人を見ている風太郎だから、二等分。 

 

「私って結構愛されてますね」 

 

「当たり前だろ」 

 

「それに、二等分なんてしなくても良かったんですよ?だって私は

風太郎を独り占めですから」 

 

五月の唇が風太郎の頬に触れる。 

 

「愛してます、風太郎。誰よりも、永遠に」

 

 

 

元スレ

五等分の未来

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1547551641/