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雪乃「改めて…これからもよろしく。比企谷くん」【俺ガイルss/アニメss】

 

八幡「君といるーのーが好きでー後はほとんど嫌いでー」

 

八幡「周りの色に馴染まないーできそこないのーカメレオーン」

 

雪乃「……比企谷くん、何を歌っているの。あなたがそんなにご機嫌だと何か気味が悪いわ」

 

八幡「うわお前いたのかよ勘弁してくれよ本当びびるわ」

 

雪乃「勘弁してほしいのはこちらなのだけれど。誰もいないと思っていたからって、窓際でちょっとニヒルを気取って口ずさむのは気持ち悪いわよ」

 

八幡「るっせ、いいだろうが。誰もいないと思っていたんだから」

 

八幡(歌を唄うときはね、誰にも邪魔されず自由で。なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……ってな。ボッチ飯の頂点極めた人が言ってた)

 

雪乃「まあ、それはいいの。さっき歌っていた曲は何?」

 

八幡「あ?お前知らないのか。ピロウズのストレンジカメレオンだよ」

 

雪乃「ピロウズ……?知らないわね」

 

八幡「ロック聴く人なら大概は知ってるバンドだけど、お前ロック自体聞かなそうだもんな」

 

雪乃「ええ、そういった音楽にはいまいち疎くて。それより、あなたがそういう音楽を聴いていることが意外だわ。比企谷くんはロック谷くんだったのね」

 

八幡「岩の谷みたいな名前だな……。t-h-e p-i-l-l-o-w-sで、The pillowsだ。それのストレンジカメレオンっていう曲」

 

雪乃「ふうん、そう」

 

八幡「なんで自分から聞いといてそんなに興味薄そうにしてんだよ……」

 

八幡(語りすぎてドン引きされた痛い中学時代の思い出がよぎるからやめろ)

 

八幡「で、今日は由比ヶ浜は?」

 

雪乃「所用で少し遅れるそうよ」

 

八幡「あっそ」

 

雪乃「ええ。……ねえ、比企谷くん」

 

八幡「何だよ?」

 

雪乃「さっきの曲。……続き歌っててもいいわよ」

 

八幡「はあ?嫌だっつーの。恥ずかしいし、お前どうせ罵倒するだろ」

 

雪乃「しないわよ。嘲笑するかもしれないけれど」

 

八幡「なおさら嫌だわ」

 

雪乃「本当にケチ谷くんね」

 

八幡「うるせ。……ったく、少しだけだぞ」

 

雪乃「比企谷くん、そういうのをひねデレと小町さんは言っていたわ」

 

八幡(自分の好きな歌に誰かが興味を持ってくれて、歌ってほしいとまで言うのだ。正直、少しは嬉しかったりするんだよ)

 

八幡(まして、こいつの口から出た言葉だからなおさらかも、な)

 

八幡「……あんまりこっち見んなよ」

 

―――八幡、高校三年の十二月

 

八幡(不意に、ウォークマンから流れてきたストレンジカメレオン。一年と数か月前の、奉仕部で過ごした放課後の時間を思い出した)

 

八幡(柔らかな微笑みを浮かべながら目を閉じていた、そんな雪ノ下の珍しい表情を)

 

八幡(そんなことを考えているうちに、待ち合わせをしている場所に着いた)

 

八幡「先輩、すみません。遅くなりました」

 

めぐり「んーん。私も今着いたとこだよ~」ニコー

 

八幡「………」

 

八幡(お、おう。さもこれからデートのような言葉と表情に思わず照れてしまった)

 

八幡「じゃあ、今日もよろしくお願いします」

 

めぐり「はーい。こちらこそ」

 

―――市立図書館

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………ん」カキカ、ピタ

 

めぐり「………」ジー

 

八幡「んー…あ?なんだこれ……あー」

 

めぐり「………」ジー

 

八幡「すみません先輩、教えてください。この式がどこから出てきたのか」

 

めぐり「はーい」ニッコリ

 

―――五分後

 

八幡「あー……なるほど。なるほど」

 

めぐり「分かった、かな?」

 

八幡「ちょっと、もう一回解いてみます」

 

めぐり「うん、がんばれ~」

 

八幡「うっす」

 

八幡(センター試験まであと一か月を切ったこの時期に、なぜ俺が城廻先輩からマンツーマンで勉強を教えてもらっているのか)

 

八幡(その話は、二月ほど前に遡る)

 

―――回想。二か月ほど前。八幡、高校三年の十月。駅前

 

八幡「今日も帰って勉強か」ハア

 

八幡(思わずため息が出る。受験って本当にめんどくせえ。社会に出てこれ以上の苦労を何度もするなら、もう本当に専業主婦以外に生きる道が考えられない。早く誰か俺を養ってください)

 

八幡「コンビニ寄ってマッ缶でも買うかな」テクテク

 

ウィーン、ティロリロリロリーン、イラッシャイマセー

 

???「いらっしゃいませ~」

 

八幡(マッ缶マッ缶……あった)

 

テクテク、トン

 

???「はい、ありがとうございます。お会計100円です」

 

八幡「はい」

 

???「こちら袋にお入れしますか?」

 

八幡「あ、大丈夫っす」

 

???「ところで私は誰でしょう?」

 

八幡「は?……え」

 

八幡(ニコニコしながらこちらを見上げているその顔を見て、やっと気づいた。城廻先輩だ)

 

八幡「……久しぶりっす。ここでバイトしてたんですね」

 

めぐり「うん、最近始めたんだ。比企谷くん、ずっと気づかないからおかしかったー」

 

八幡(そう言ってころころと笑う城廻先輩は、高校時代と何も変わっていなかった。相変わらず見る人をほんわりさせる独特のオーラを持っている)

 

めぐり「今、学校帰り?」

 

八幡「です」

 

めぐり「そっか。ちょっとだけ待っててくれないかな。あと少しで上がりなんだ。久しぶりだし、お話ししようよ」

 

八幡「いや、あの俺あれなんで。受験生なんで」

 

八幡(初めて受験に感謝した。人からの誘いを断る言い訳にすげえ使いやすい。これ)

 

めぐり「比企谷くんは勉強しててもいいから、ね?」

 

八幡(それはもうお話じゃない)

 

めぐり「少しだけ、サイゼ付き合ってくれないかな。ダメ、かな?ご飯おごるよ?」

 

八幡「先輩、前から思ってたんですが」

 

八幡(その上目遣いは反則です)

 

八幡「サイゼって……いいっすよね」

 

―――回想終了。センターまで一月を切った十二月。市立図書館

 

八幡(あの後サイゼで話してるうちに、なぜか城廻先輩が俺の受験勉強の面倒を見てくれることになった)

 

八幡(なんでも、困っている後輩を元生徒会長として見過ごせないとか)

 

八幡(腑に落ちない。……本当に、腑に落ちない)

 

八幡(城廻先輩の真意を、未だ俺は図れずにいる。たしかにこの人は、困っている後輩には無条件で手を貸しそうな人だが)

 

八幡(先輩の負担になるようなら、即座にお断りしたかった。しかし、そんなことはないと言う)

 

八幡(……ありがたい話だと素直に認めて、甘えさせてもらっている)

 

八幡(理由が分からないが、甘えやすい。この人には。その独特の雰囲気、距離感の成せる技なのだろうか)

 

めぐり「手、止まってるね。分かんないとこあった?」

 

八幡「あ、いえ。大丈夫っす」

 

めぐり「そっか」

 

八幡「はい」

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

―――勉強会終了後、図書館前

 

八幡「ん……」ノビー

 

めぐり「お疲れ様、比企谷くん」ピタ

 

八幡「うお、あったか」

 

八幡(不意に頬に何か熱いものが押しつけられたと思ったら、缶コーヒーだった)

 

めぐり「ふふ、先輩としておごってあげます」

 

八幡「……ども」

 

めぐり「いえいえー」

 

八幡(マッ缶買ってきてくれるとは。疲れた頭に沁みいる)ズズズ

 

めぐり「なんか、不思議だよね~」

 

八幡「何がですか?」

 

めぐり「こうして、ほぼ毎日夜に会って、二人で過ごして。なんか恋人みたいだよね」

 

八幡「………やってることはただの受験勉強ですけどね。色気の欠片もない」

 

八幡(本当に、この人は。これが天然なら、怖い人だ。中学時代の俺なら、もうとっくに告白して振られている)

 

八幡「それより先輩、今日もありがとうございます。だんだん上がってきてるんですよ、センター模試の点数」

 

めぐり「今、どのくらい?」

 

八幡「調子いい時で、七百超えるくらいです。やっぱり理数系も取れるようになってくると、違いますね」

 

めぐり「もともと、比企谷くんは理数できる男の子だったと思うよ。食わず嫌いしてたんじゃないかな」

 

八幡「ですかね。多分、先輩のおかげですよ」

 

めぐり「そ、そうかな。えへへー」

 

八幡「はい。こう言っちゃなんですが、俺の理数系嫌いはなかなかのもんだと自負してましたから」

 

めぐり「それは自負するようなものじゃないと思うな……。ところで、比企谷君。そろそろ決めたの?」

 

八幡「何をですか?」

 

めぐり「どこの大学に進むか、だよ」

 

八幡「あー……」

 

八幡(正直、これは迷っている。家から通えて、そこそこの大学で。行きたい学部で。できれば金のかからない国立だったりすると最高。だが)

 

八幡「なんで都市部の国立ってあんなに偏差値高いんですかね……」

 

めぐり「あはは、まあ人口が多いとそうなっちゃうのはしょうがないよ。でも、比企谷くんなら入れると思うな。大学でも、私の後輩になってね」

 

八幡「はあ、努力します」

 

めぐり「うん。諦めないで頑張ろうっ」

 

八幡(普段ならあまり好きじゃない言葉だが、先輩の純粋な励ましに皮肉を言うほど腐っちゃいない)

 

八幡「はい。……これからも、よろしくお願いします」

 

めぐり「はーい」ニコ

 

―――次の日、学校。八幡達の教室。昼休み

 

結衣「ねえねえヒッキ―」

 

八幡「……んあ?なんだ?」

 

結衣「勉強してるとこ悪いんだけど、これ教えてくれないかな」

 

八幡「ああ、そういうのは葉山に聞いた方がいい。俺は教えるのは下手くそだからな」

 

八幡(クラスでは、あまり由比ヶ浜と話さない。俺は未だにそうしているが、いつからか、こいつはだんだんとその垣根を取り払ってきた)

 

結衣「嘘だー。前、小町ちゃんから聞いたよ。ヒッキ―、意外と教えるの上手いって」

 

八幡「意外とは余計だ。小町のやつ……」

 

結衣「ねえねえ、お願い。隼人くん、優美子とかにかかりっきりだし」

 

八幡「しょうがねえな、どこだ」

 

結衣「ありがとーヒッキー!えっとね、ここなんだけど……」

 

―――教えた後

 

結衣「うわーやっと分かったー!ヒッキ―、ありがと!」

 

八幡「いや、まあいいんだけど。……お前、だんだん成績上がってきたよな」

 

八幡(少しびっくりした。こいつが聞いてきた問題は、なかなかに難易度が高い問いだったからだ)

 

結衣「うん、ゆきのんが勉強教えてくれるから、多分そのおかげかな」

 

八幡「ああ、雪ノ下か。でも実際、そこまであげるのはなかなか大変だったろ」

 

結衣「まあねー。でも、ゆきのんが私のために頑張ってくれるから。凄いんだよ、私専用のプリントとか作ってきてくれたりするの」

 

八幡「……あいつらしいな。雪ノ下はたしか、もう推薦で決まってるんだったな」

 

結衣「うん、そう。……本当、感謝しっぱなしなんだ。ちゃんと合格して、ありがとうって言いたいなあ。いっぱい、恩返ししたい」

 

八幡「そうか」

 

八幡(きっと雪ノ下は、恩を売るだとかそんなことは全然考えていないだろう。不器用なんだ、あいつは)

 

八幡(ただ、初めてできた親友になにかしてやりたいって。そういうことだろう)

 

八幡(生徒会長選挙のあと、しばらくしてから。雪ノ下と由比ヶ浜が初めて大喧嘩して。まあ、いろいろあったが。どうにか仲直りして)

 

八幡(そして親友になっていくところを、傍で見てたから。だからそう思える)

 

八幡「まあ、なんだ。……合格、するといいな。頑張れよ」

 

結衣「うん!」

 

八幡(そう笑ってピースサインをつくる由比ヶ浜は、出会った頃よりも、もっと、ずっと。なんというか、魅力的な女の子になっていた)

 

―――その日、放課後。市立図書館にて

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡(先輩は俺のウォークマンを借りて、何か聴きながら本を読んでいる)

 

八幡(大学のレポートにでも使うのだろう、難しそうな本だ)

 

八幡(前髪が、少し額にかかっている。今日は髪留めを付けていないせいか、少し大人っぽく見えるな)

 

めぐり「……ん?顔になにかついてる?」

 

八幡「いえ、すみません。別に」

 

めぐり「そっか」

 

八幡「はい」

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡「………」カキカキ

 

めぐり「………」ペラ、ペラ

 

八幡(やっぱり、不思議だ。この人はきっと、大学でも色んなコミュニティに属して、皆から愛される側の人間だろう)

 

八幡(どうして、こんなに俺の相手をしてくれるんだ)

 

めぐり「今日はあまり、集中力ないみたいだね」

 

八幡「……すみません。集中します」

 

めぐり「んーん、たまにはいいんじゃないかな。私の見てる限り、君って毎日毎日たくさん勉強してるし。ちょっと、気分転換でもしに行く?」

 

八幡「いえ、本当になんでもないんで。やります、勉強」

 

めぐり「そう?」

 

八幡「はい」

 

めぐり「りょーかい」ニコ

 

―――勉強会終了後、図書館前にて

 

めぐり「んー、今日も頑張ったねー。比企谷くん。えらいえらい」

 

八幡「ども。今日もありがとうございました」

 

めぐり「いえいえー。……ねえ、君さ」

 

八幡「なんすか?」

 

めぐり「なんか聞きたいことありそうな顔、ずっとしてるね。勉強以外で」

 

八幡「まあ、ありますけど。というか、前にも聞いたんですけどね」

 

めぐり「なにをー?」

 

八幡「なんでここまでしてくれるのか、ですよ」

 

めぐり「……別に、後輩のためっていうのは嘘じゃないよ」

 

八幡「でもそれだけじゃない、ですよね」

 

めぐり「まあ、そうだけど」

 

八幡「教えてもらえませんか」

 

めぐり「……ちょっと歩こうか、比企谷くん」

 

―――総武高校周辺の通学路

 

めぐり「ここらへんの道好き。よく野良猫とかいるんだよ。そして、あと五分くらい歩けば、総武高校」

 

八幡「はあ」

 

めぐり「私ね、総武高校のこと、大好き。高校生になって、いつのまにか、そうなってたの」

 

八幡「……」

 

めぐり「だからね、去年の文化祭の時もすっごい気合入ってたんだ。絶対成功させるぞーって。楽しい思い出作ろうって」

 

八幡「………」

 

めぐり「でも、色々と失敗しちゃった。もう少しで、取り返しのつかなくなる失敗になるところだった」

 

八幡「……」

 

めぐり「ねえ、それを助けてくれたのは君なんだよ」

 

八幡「……いや、俺はあくまで雪ノ下のサポートしかしてませんよ。それすらもまともにできなくて、由比ヶ浜にも怒られましたし」

 

めぐり「それでも、結果として文化祭の成功に大きくつながった」

 

八幡「ただの結果論です」

 

めぐり「そして、そんな君を私は、あろうことか糾弾しちゃった。不真面目で最低って、ね」

 

八幡「いやそれ事実以外の何物でもないですし」

 

八幡(それにこの人は、言ってくれた。ありがとうって)

 

八幡(別に俺にとっては、やらなければしょうがないこと、当たり前のことをやっただけ。感謝が欲しかったり、同情されたかったりしたわけじゃない)

 

八幡(だから、感謝の言葉一つでも儲けもんというか、意外と報われたりしたものだが)

 

めぐり「人の言葉にいちいち水を差す後輩だなあ……」

 

八幡「そういう人間なので」

 

めぐり「私、大学に入ってからもずっと後悔してたんだ。それで、なにかしてあげたかったの」

 

八幡「そこにカモがネギ背負ってやってきたわけですね」

 

めぐり「うわあ、最悪の表現するね。……まあ、ある意味その通りなんだけど」

 

八幡「なるほど。まあ、それで勉強教えてもらえるんだから俺としては得しかしてないわけですが」

 

めぐり「そうかな?君、文系の成績は良いし、ていうか私よりもできるし。あまり恩返しになってないかなって最近思ってたんだけど」

 

八幡「いえ、すごい役得ですよ」

 

八幡(本当に。この人と一緒にいると、癒される。ここまで自然体で接してくれる人は、家族以外に知らない)

 

八幡(人を安心させる笑顔とか、喋り方とか。こちらを見上げてくるときに、悪戯っぽく笑っている目とか。少し、心臓が高鳴る)

 

八幡(だから、これからもできれば一緒にいたいって)

 

八幡(最近、本気で思っていたりする)

 

八幡「先輩」

 

めぐり「なーに?」

 

八幡「春になって、大学合格したら。一つだけ言わせてほしいことがあるんです」

 

めぐり「え、今言ってよー。気になるから」

 

八幡「まあ、そのうち言います」

 

めぐり「えーなにそれー」

 

八幡(春になって、桜が咲いたら)

 

―――三月。合格発表日、そして卒業式の日。学校

 

八幡(……なかなか、いい式だったな。小町の涙に少し貰い泣きしそうになったのは内緒だ)

 

八幡(最後に、校舎を適当に見て回るか)テクテク

 

八幡(教室。基本的には居心地の悪い場所だったが、別に嫌いではなかった)テクテク

 

八幡(屋上。あの直後はできればもう二度と近寄りたくない場所だったが。だんだん平気になってくるもんなんだよな、これが。人間ってすげえ)テクテク

 

八幡(体育館。今でも、あの日のステージのことは思い出せる。これから先も、きっと忘れない)テクテク

 

八幡(そんでまあ。やっぱ、最後はここだよな)

 

ガララ

 

八幡「よう。やっぱりお前はここにいたか」

 

雪乃「あら、久しぶりね。比企谷くん。お正月に由比ヶ浜さんと合格祈願に行った時以来かしら」

 

八幡「出会い頭に罵倒が飛んでこない。お前も丸くなったもんだな」

 

雪乃「あなたは私に凄い失礼なイメージを抱いているような気がするわ……」

 

八幡「そりゃあ自業自得ってやつだろ」

 

雪乃「……そうかもしれないわね」クス

 

八幡「ああ」ニヤ

 

雪乃「丸くなったのは、あなたも同じだと思うけれど」

 

八幡「そうか?……まあ、そうかもな」

 

雪乃「ええ。……由比ヶ浜さんは、クラスの皆と写真を撮ってくるそうよ」

 

八幡「あいつらしいな」

 

雪乃「本当にね。あなたはいいの?」

 

八幡「分かってて聞いてるだろ。ガラじゃないんだよ。だいたい、お前もだろ」

 

雪乃「まあ、そうね」

 

八幡(本当、こういうところだけ無駄に似てるんだ。俺たちは)

 

八幡「……なあ雪ノ下、俺と」

 

雪乃「ごめんなさい、それは無理」

 

八幡「はいはいやっぱりな。もう慣れたわ。むしろ聞く前から分かってたまであるわ」

 

雪乃「私はあなたと友達になりたいわけではないもの」

 

八幡「あっそ。ったく、最後までそれなんだな、お前は」

 

雪乃「ええ、そう。そして、最初からそうだったのよ」

 

八幡「はあ?なんのことだよ」

 

雪乃「ねえ、比企谷君。あなたが好き」

 

八幡「………え?」

 

雪乃「私と、付き合ってくれないかしら」

 

八幡(そう言った雪ノ下は、こっちをまっすぐに見て、静かに微笑んでいた)

 

八幡「……お前は、虚言は吐かないって。前言ってたよな」

 

雪乃「ええ、そうよ。本当のこと」

 

八幡「………そうか」

 

八幡(瞬間、奉仕部に入ってからの二年間。雪ノ下と出会ってからの二年間が脳裏を巡った)

 

八幡(そして、ふと、城廻先輩の笑顔が浮かぶ)

 

八幡(ああ、ダメだ。なんで今、城廻先輩の笑顔が浮かぶんだ。俺は今から、目の前のこの女の子を傷つけてしまう)

 

八幡(自分がもし女に生まれていたらお前みたいになりたかった。お前は俺の憧れだ)

 

八幡(その憧れの女の子を、俺は今から傷つけるんだ)

 

八幡「……悪い。俺、好きな人がいるんだ。だから、お前とは付き合えない」

 

雪乃「……」

 

八幡「正直、これが恋かどうか自分でも分からん。でも、ずっと一緒にいたいって思える人ができたんだ」

 

雪乃「……」

 

八幡「だから、悪い」

 

雪乃「そう。……知ってたわ、前から。あなたは私に、恋愛感情はもっていないって」

 

八幡「……」

 

雪乃「それでも、言いたかった。言わないと、どうにかなりそうだった。辛い思いをさせて、ごめんなさい」

 

八幡「……」

 

雪乃「私は振られることは分かっていたの。だから」

 

八幡「……」

 

雪乃「ねえ、だからそんなに悲しそうな顔をしないで。比企谷くん」

 

八幡「……すまん、雪ノ下」

 

雪ノ下「いいから、泣きやみなさい。泣き虫谷くん」

 

雪乃(あなたの涙を、初めて見た。その涙を、私は拭えない)

 

八幡「ああ、すまん……」

 

―――泣き止んだ後

 

雪乃「そろそろ、由比ヶ浜さんが来るわね。比企谷くん、涙で腫れた目を見られたくないのなら早く帰った方がいいわよ」

 

八幡「ああ、悪いがそうする。どうせ明日の奉仕部卒業会で顔合わせるしな」

 

雪乃「ええ、気まずい思いを楽しみなさい」

 

八幡「いやそれお前もだろ……」

 

八幡(なんでこんな綱渡りな会話してんだ。変な汗出てきた)

 

雪乃「……最後に一つだけ、いいかしら?」

 

八幡「なんだよ」

 

雪乃「ねえ、比企谷くん。私と友達にならない?」

 

八幡「………ああ、それは俺もまた言おうと思ってたんだ」

 

雪乃「嘘ばっかり。本当にあなたは嘘つきね」クス

 

八幡「まあな。そんな自分を愛してる」ニヤ

 

雪乃「改めて、これからもよろしく。比企谷くん」

 

八幡「こちらこそ。雪ノ下」

 

―――八幡が部室を退出した後

 

雪乃「ええ、由比ヶ浜さん。終わったわ。もう来ても大丈夫よ。ありがとう、二人にしてくれて」

 

由比ヶ浜『んーん。結果は……そっち行ってから聞くね。ちょっと待ってて』ピッ、ツー、ツー、ツー

 

雪乃(由比ヶ浜さんは、受験の終わったころに彼に告白した)

 

雪乃(そして、振られたのに。辛くて辛くてしょうがなかったはずなのに。昨日、『言わないと辛くなっていくだけだよ』って私を後押しして)

 

雪乃(誤魔化す私に本気で怒って)

 

雪乃(彼女の優しさに、その友達を思う気持ちに、少しだけ泣いて)

 

雪乃(今日は、涸れるまで二人で泣くかもしれない)

 

雪乃(それでも、よかった。言えてよかった)

 

雪乃(私は、言えた。好きな人に好きって、言えたんだ。ちゃんと)

 

雪乃「君といるのが好きで、あとはほとんど嫌いで。周りの色に馴染まない、出来損ないのカメレオン」

 

雪乃(あの日、彼が私に歌ってくれた曲を思い出す)

 

雪乃「あ……」

 

雪乃(そして、何故か今頃になって、涙が一筋頬を伝った)

 

―――その日の夕方、駅前

 

めぐり「卒業、そして合格おめでとう!比企谷くん」

 

八幡「っす。ありがとうございます」

 

めぐり「本当によかったー。聞いた時ちょっと泣いちゃった」

 

八幡「先輩のおかげですよ」

 

めぐり「そんなこと言ってー。私センター試験のあとはなにも教えてないよ?」

 

八幡「弁当とか作ってきてくれたりしましたし。あとお守りとか」

 

めぐり「あはは、他にできること思いつかなかったからねー。でも本当に良かったー。四月から同じ大学だねっ」

 

八幡「はい。それで……先輩。言いたかったことなんですけど」

 

めぐり「やっと聞けるねー。なーに?」

 

八幡(なんて言おうか、合格発表を見た時からずっと考えていた)

 

八幡(正直、今もまだ迷っている)

 

めぐり「あ、目が赤く腫れてるね。卒業式、泣いちゃった?」

 

八幡「いえ、これはその、なんていうか」

 

めぐり「あは、照れなくてもいいのに。比企谷くん、可愛いとこあるよね。卒業、おめでとう」

 

八幡(そう言って先輩は少し背伸びして俺の頭を撫でた)

 

八幡(そんな先輩を見ていると何故か少し泣きそうになって)

 

八幡(そして、俺は)

 

八幡「先輩」

 

めぐり「んー?」

 

八幡「好きです」

 

八幡(多分生まれて初めて、本当の告白ってやつをした)

 

 

八幡(そして先輩は。少しの間顔を赤らめて、こくんと小さく頷いて。花が咲くように、笑った)

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

八幡「君といるーのーが好きでー後はほとんど嫌いでー」

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