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小町「小町もお兄ちゃんと本物になりたい….」【俺ガイルss/アニメss】

 

2月19日(木)晴れ

 

バレンタインから何日か経ちました。

 

なんとこの日は、総武高校受験の合格発表日なのです☆

 

そして~小町は~なんと~!

 

無事っ、総武高校にっ、合格したのですっ!!

 

どんどんぱふぱふ~!!

 

いやー、苦労したかいがありましたなー。

 

小町はとっても嬉しいのです。

 

でも小町より、合格報告を受けたお兄ちゃんとお父さんの方が喜んでいたような気がします。

 

お兄ちゃんなんかはもう泣いてたし。

 

なんでお兄ちゃんが泣くの。

 

でも、それだけ小町の合格を喜んでくれたってことだよね。

 

ありがとっ、お兄ちゃん!

 

 

2月21日(土)晴れ

 

 

今日はお兄ちゃん、結衣さんと一緒に雪乃さんのお家にお食事に行きました。

 

なんと、雪乃さんと結衣さんが小町のお祝いパーティを企画してくれていたらしいのです!!

 

小町感激!!

 

まったくも~、お兄ちゃん?

 

こんな素敵な人たちを逃したら、小町許さないよ?

 

このどちらかには、小町のお義姉ちゃんになってもらいたいんだからね?

 

でも、お兄ちゃんとお二人の中のふいんきが前とはなんだか違う気がする。

 

1か月半前に一緒に初詣に行ったときには、こんな感じじゃなかったような。

 

この前のバレンタインでなんかあったのかなと思って探りを入れてみるけど、いまいちよくわかんなかった。

 

でも、悪いふいんきじゃないからいいか☆

 

むしろちょっと近づいてるような気もする。

 

お兄ちゃん、まさか……。

 

いつの間に……。

 

 

2月22日(日)晴れ

 

 

今日はお兄ちゃんと一緒に、大志くんとそのお姉さんの沙希さんとお食事に行きました。

 

小町と、大志くんの合格祝いです。二日連続でお祝いだー!

 

というか、大志くんも総武高校に合格していたらしいのです。小町はじめて知りました。

 

食事中、またお兄ちゃんが泣き出してしまいました。

 

お兄ちゃんが泣いたところなんか数年以上見たことが無かった気がするのに、ここ数日で2回も見れるなんて。

 

レアだなぁ。

 

沙希さんも大志くんのことを祝っているうちに泣き出してしまいました。

 

うーん、この人やっぱり重度のブラコンだ……。

 

あとはお兄ちゃんと沙希さんの妹弟自慢大会が始まってしまって、主役であるはずの小町と大志くんがおいてけぼりになってしまったのです。

 

別にいいんだけどね、お兄ちゃんがどれだけ小町のことを見ててくれたかよく分かったから。

 

あっ、今の小町的にポイント高い!

 

大志くんも恥ずかしそうにしてたけど、まんざらでもなさそうでした。

 

うーん、お互いいいお兄ちゃんとお姉ちゃんを持ったね。

 

しかし沙希さんがお義姉ちゃんになったら……それはそれでアリな気がするなぁ。

 

 

2月25日(水)くもり

 

 

受験も終わったし、中学校も自由登校になりました。

 

ここ数日は久しぶりに中学のお友達と遊んでいました。

 

みんな、それぞれ志望校に合格していたようでよかったです。

 

この生徒会メンバーとも、高校にあがったらあまり会わなくなっちゃうのかなぁ。

 

でもでも、小町たちはずっと友達だからね☆

 

 

2月26日(木)くもり

 

 

今日は平塚先生に許可を貰って、奉仕部に遊びにいきました。

 

いきなり行ったらお兄ちゃんたち、ちょーびっくりしてたけど。

 

小町は、お兄ちゃんが雪乃さんや結衣さんと上手くやっているのか気になるのです。

 

小町がいないとお兄ちゃんは何にも出来ないからね!

 

でも、この前のお祝いの時にも思ったけど、やっぱりお兄ちゃんとお二人の距離がちょっと近くなってるような気がする。

 

ねぇねぇお兄ちゃん、何があったの?

 

ひとつひとつ、話してみそ?

 

 

2月27日(金) 晴れ

 

 

お兄ちゃんが日曜日に雪乃さんと結衣さんを遊びにさそう!?

 

わぁ小町、おどろきで開いた口がふさがらないよ……。

 

ほ、本当になにがあったの?

 

お兄ちゃんは、この前のバレンタインで何があったか全く教えてくれません。

 

もう、お兄ちゃんのケチ!

 

でも、お兄ちゃんからお二人を誘うってことは……。

 

きゃー! これは、もしかすると!

 

もしかするとー!?

 

 

でもお兄ちゃん、肝心のデートプランを小町に丸投げするのはさすがにどうかと思うよ。

 

小町的にポイントひっくーい。

 

本当に、お兄ちゃんは小町がいないと何も出来ないんだから。

 

 

3月1日(日) 晴れ

 

 

お兄ちゃんがおふたりとのデートから帰ってきた。

 

何があったのか聞いても全然答えてくれません。

 

小町が全部考えたんだからね、デートコース!

 

でも、お兄ちゃんの顔はなんか気持ち悪くにやけてたから、たぶん悪い結果にはならなかったと思う。

 

それなら良かった、お兄ちゃんの幸せが小町の幸せなのです☆

 

でもそれとこれは別。

 

さぁさぁ何があったのか、全部白状しちゃいなよお兄ちゃん!

 

 

3月2日(月) 小雨

 

 

久しぶりに雨が降ったなぁ。

 

さて、お兄ちゃんが何にも教えてくれないので、雪乃さんと結衣さんに直接聞くことにしました。

 

メールでも良かったかもしれないけど、やっぱお兄ちゃんがいる前で直接聞きたかったからね。

 

またまた奉仕部に行って雪乃さんも結衣さんに日曜日のことをたずねてみると、いかにお兄ちゃんがだめだめだったのかを延々と語られました。

 

その間、お兄ちゃんはずっと肩身が狭そうでした。

 

えー……お兄ちゃんまさかそんなことやらかしてたの……。

 

乙女心が分からないのは知ってたけど、まさかここまでなんて……。

 

でも、そんなお兄ちゃんのことを話すお二人の表情はとても柔らかかったような気がします。

 

全く……ほんとごみいちゃんはごみいちゃんなんだから。

 

 

3月5日(木) くもり

 

 

昨日と今日、二日連続でお兄ちゃんの帰りが遅かった。

 

来週に総武高校の卒業式があるらしく、奉仕部で生徒会のお手伝いをしているんだとか。

 

小町も来週卒業式だけど、卒業する側は特にやることないしね。

 

そしてこの二日間とも、お兄ちゃんは雪乃さん、結衣さんと夕飯を一緒に済ませてきた。

 

小町にわざわざ夕飯はいらないって電話来たし。

 

ほんと、何があってこんな急接近したんだろ?

 

でもでも、最近お兄ちゃんは幸せそうだし、それはとってもいいことなのです。

 

 

2,3月辺りのお母さんとお父さんはお仕事が忙しくて帰ってくるのが遅いので、家で小町ひとりの時間が増えた。

 

あっ、カーくんもいた。

 

おいでカーくん、遊ぼっ。

 

 

3月6日(金) くもり

 

 

さっき、お兄ちゃんから今日も夕飯はいらないって電話が来た。

 

まだ奉仕部での卒業式の色々が終わっていなくて、遅くまで仕事してそのまま雪乃さん結衣さんと夕飯を食べにいくらしい。

 

だから、今小町は家でひとりぼっち。

 

カーくんはこたつの中に引きこもってしまった。

 

あれっ、家ってこんなに静かだっけ?

 

ちょっと前までは受験で忙しかったから気が付かなかったし、その前の夜はいつもお兄ちゃんが家にいたし。

 

そういえば、何日も連続で家でひとりなんてはじめてかもしれない。

 

 

なんだか、少し寂しい。

 

 

3月7日(土) くもり

 

 

土曜日なのに、お兄ちゃんが早起きしていた。

 

何事かと思ったら、なんでもまだ奉仕部の仕事が終わらないから休日出勤だってぼやきながら家を出て行った。

 

でも、小町はお兄ちゃんの表情を見逃さなかった。

 

なんだんかんだ言いながら、お兄ちゃんの顔はすごく楽しそう。

 

仕事は忙しくても、雪乃さん、結衣さんと会えるのが楽しみなんだろう。

 

これはお義姉ちゃん出来た報告が来る日も近い!?

 

きゃー!

 

小町的にポイント高ーい!!

 

 

でも、お兄ちゃんのあんな顔、久しぶりに見たな。

 

あれ?

 

最後に、小町にあの顔を向けてくれたのはいつだったっけ?

 

 

3月8日(日) 雨

 

 

日曜日なのにお兄ちゃんはプリキュアも観ないで、今日も朝早くに家を出て行ってしまった。

 

録画はきちんとしていってたけど。

 

総武高校の卒業式は明後日にまで迫っていて、まだ色々終わっていないらしい。

 

昨日もまた夜遅くまで帰ってこなかったのに、大変そうだなぁ。

 

だから今日も小町は家でひとりぼっち。

 

友達と遊ぶ気にもなれず、外の雨を眺めていた。

 

最近のお兄ちゃんは幸せなんだと思う。

 

今日も家を出る前に顔を見てみると、やっぱりちょっとにやけてた。

 

お兄ちゃん、そんなにゆきのさんとゆいさんとあうのがたのしみなんだ。

 

 

お兄ちゃんは幸せになれたのかな。

 

だったら、何も悪くない。

 

お兄ちゃんの幸せは、小町の幸せ。

 

何も悪くない。

 

何も悪くない。

 

 

なのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるように痛いのだろう。

 

 

3月9日(月) 晴れ

 

 

昨日の雨はどこへやら、今日は一転して快晴だ。

 

今日は、久しぶりに家でお兄ちゃんと一緒に夕飯を食べた。

 

ようやく仕事を終えて、本番である明日に備えて早めに帰ってきたってお兄ちゃんは言ってた。

 

うんうん、いいこといいこと。

 

早く帰って来るのはいいことだよ、お兄ちゃん。

 

そういえば、お兄ちゃんになんかお前今日はご機嫌だなって言われちゃった。

 

そうだったかな?

 

でも、明後日の小町の中学校の卒業式には忙しくて動けないお母さんとお父さん(お父さんはなんかすごい泣いてた)の代わりにお兄ちゃんが来てくれるって言ってくれたのは嬉しかった。

 

学校は? と聞くとそんなもん小町のためならサボってやるって言われちゃった。

 

今の、小町的に超超ポイント高い!!!

 

それと、お兄ちゃんと一緒に食べるごはんはおいしいね。

 

 

3月10日(火) 晴れ

 

 

今日が総武高校の卒業式らしい。

 

お兄ちゃんは雪乃さん、結衣さんと一緒に、生徒会の運営の手伝いとして卒業式に参加するらしい。

 

どのみち2年生は全員強制参加らしいので、ただ座って名前を読み上げるのを聞いて待つよりは仕事をしていた方がマシとも言ってた。

 

お、おかしい。

 

お兄ちゃんが仕事をしていた方がマシなんて言い出すなんて!

 

これは天変地異の前触れ!?

 

……でも、今なら分かる。

 

仕事をしていた方がマシというより、単に雪乃さんや結衣さんと近くにいたいだけなんだって。

 

全くもう、捻デレてるなぁお兄ちゃんは。

 

 

でも、小町もお兄ちゃんの側にいたいな。

 

明日は一緒だよね。

 

 

3月11日(水) 晴れ

 

 

今日は千葉県の中学校のほとんどが卒業式なんだって。ソースはお兄ちゃん。

 

約束どおり、お兄ちゃんはちゃんと卒業式に来てくれた。

 

お母さんが来れなくなっちゃったのはちょっと残念だけど、お兄ちゃんが来てくれたのはすごく嬉しいよ。

 

でもわんわん泣き出すのはちょっと恥ずかしかったかな……だからなんで小町じゃなくてお兄ちゃんが泣くの。

 

小町は来月からお兄ちゃんと同じ学校に行けるんだよ、喜ぶところでしょ普通……。

 

そういえば、大志くんのお姉ちゃんの沙希さんも来ていた。こっちも学校をサボって来たらしい。

 

大志くんはサボってまでわざわざ来なくてもって言ってたけど、ちょっと嬉しそうな顔をしていた。

 

うんうん、分かる。分かるよその気持ち。

 

そんな同志の大志くんにお願いがありますっ!

 

 

あんたの姉、ちょっと小町のお兄ちゃんの近くに寄りすぎてない?

 

あれどうにかしてほしいんだけど。

 

 

……その場で言わないで、にっきに書いただけで済ませる小町は妹の鏡なのです。

 

 

3月12日(木) くもり

 

お兄ちゃん行かないで。

 

 

3月13日(金) 雨

 

 

昨日は色々あって、にっきを書けていなかった。

 

ので、昨日の分も書いちゃいます。

 

 

昨日、晩ご飯を食べながらお兄ちゃんに相談を受けました。

 

うきうきしながら何かなって聞いてみると、ホワイトデーについての相談だった。

 

何を返せばいいんだろうって言うから、マシュマロはあなたが嫌い、クッキーはあなたは友だち、キャンディーはあなたが好きだって意味なんだって教えてあげた。

 

小町はキャンディーを貰えると嬉しいなって意味を込めた上で。

 

お兄ちゃんはそれを聞くと、すごい真面目な顔になって分かったありがとうって言ってきた。

 

あんまりに真面目でかっこいい顔だったから、どうしたの? って思わず聞いちゃった。

 

今思うと聞かなければ良かったなぁって思う。

 

 

お兄ちゃんは決めたんだって。

 

ホワイトデーに、雪乃さんと結衣さんの二人に告白するということを。

 

何を言ってるのか分からなかった。

 

どっちかに告白するなら分かる。

 

でも二人ってどういうこと?

 

堂々と二股宣言するなんて小町的にポイント低い! って言ったら、お兄ちゃんはそれでも構わないって返してきた。

 

それに小町がどういう意味? って聞いてから何時間かに渡ってお兄ちゃんとお話をしたけど、お兄ちゃんの決意はとっても固くて、そしてとっても大真面目だった。

 

たとえ世間になんと思われても、それこそ例え小町からどう思われようとも、二人を大切にしたいって言われちゃった。

 

ずるいよお兄ちゃん。

 

そんなこと言われたら、小町が反対できるわけないじゃん。

 

だから小町は妹として応援するよ。

 

お兄ちゃんの真剣な想いを。

 

そして今日はとにかくホワイトデーのための計画を、小町とお兄ちゃんの二人で練っていた。

 

すでに明日、二人のことを呼び出しているんだって。

 

どう告白するかを必死で考えている時のお兄ちゃんは本気でかっこよかったよ。

 

でもその言葉、小町に言って欲しかったな。

 

3月14日(土)

 

 

3月15日(日) 雨

 

 

昨日、お兄ちゃんはゆきのさんとゆいさんのおふたりと、一日中デートして最後に告白したらしい。

 

ふたりともに。

 

そして、ゆきのさんも、ゆいさんも、それを受け入れた。

 

正直に言って修羅場になる可能性は高いと思ってた。

 

ゆきのさんも、ゆいさんも、どう見てもお兄ちゃんのことが好きだったし。

 

でもあのふたりは、三人でいたいっていうお兄ちゃんのお願いをきいた。

 

そしてお兄ちゃんは、誰も泣かない、傷つかない世界を作った。

 

さすがお兄ちゃんだよ。

 

 

そして今日、お兄ちゃんはゆきのさんとゆいさんを連れて小町たちのお家にやってきた。

 

小町にはお世話になってるから、ちゃんと言っておきたいって。

 

ゆきのさんとゆいさんには、ウチの愚兄をよろしくですって言った。

 

笑顔のまま言えてたよね?

 

小町は、お兄ちゃんの妹だから。迷惑はかけられない。

 

泣いてる姿なんて、絶対に見せられない。

 

ウチに来た三人のふいんきは、この前までとは全然違ってた。

 

これが、お兄ちゃんが手に入れた『本物』なんだね。

 

でも三人ともずっと照れてて、まともに会話らしい会話ができてなかった。

 

出来る『妹』である小町は、その空気をどうにかするためにあちこちに気を回しながら三人の仲を取り持っていた。

 

ゆきのさんとゆいさんが帰るときまでには、そこそこ喋れるようになってた。

 

意識し過ぎなんだよ、みんな。

 

 

良かったね、お兄ちゃん。

 

きっとあのふたりは、お兄ちゃんが望んだ『本物』になってくれるよ。

 

あのふたりなら、三人でいたいって言ったお兄ちゃんに対して、真面目にこたえてくれる。

 

みんな幸せのハッピーエンド。

 

 

そういえば帰る前に、ゆいさんからごめんって言われた。

 

あれはどういう意味なんだろ。

 

お兄ちゃんの作った、誰も傷つかない世界。

 

その世界に、小町はいるのかな。

 

 

3月16日(月) 雨

 

 

お兄ちゃんはまだ学校があるので、朝から夜までいませんでした。

 

小町はもう春休み。

 

なので、今日も昼の間は家でひとりぼっち。

 

総武高校から入学前の春休み用の宿題は出てるけど、もうとっくに終わっちゃってるし。

 

だからといって友だちと遊ぶような気分でもなかったので、家にずっといました。

 

お兄ちゃんのベッドはいいにおいがするので、そこでごろごろと過ごすとすぐに時間が過ぎてしまいます。

 

あやうく、夕飯の準備を忘れてしまうところでした。

 

お兄ちゃんとご飯を食べているとき、お兄ちゃんはゆきのさんとゆいさんのお話をしていました。

 

とってもうれしそうに。

 

小町がお兄ちゃんうれしそうだねって言ったら、馬鹿お前違うぞなんて言うけど、全然にやついてるのをおさえられてない。

 

全く、お兄ちゃんは。

 

 

どっちが馬鹿なの。

 

 

3月17日(火) 雨

 

 

今日も小町は家にずっといました。

 

家にっていうか、お兄ちゃんのベッドの布団の中にっていうか。

 

この布団に包まれていると、お兄ちゃんに包まれているみたいでとっても落ち着きます。

 

すごく、いいにおい。

 

 

昨日も今日もお兄ちゃんは家でご飯を食べたけど、ちょっと帰るのが遅いです。

 

生徒会の仕事を手伝ってた時ほどじゃないけど。

 

多分奉仕部にいる時間がのびたんだろうな。

 

お兄ちゃんは夕飯の時、ゆきのさんとゆいさんのお話ばっかりします。

 

あのふたりを話している時のお兄ちゃんはとっても暖かくて、とっても幸せそうです。

 

そんなお兄ちゃんを見て、いつも思います。

 

 

どうして、お兄ちゃんを幸せにしたのは小町じゃないんだろう。

 

 

3月18日(水) 雨

 

 

ここ最近雨ばっかりです。台風が近づいてきてるって天気予報では言ってました。

 

おかげで洗濯物も溜まる一方で、布団も干せません。

 

干せなくてもいいんだけどね、別に、

 

今日もお兄ちゃんの布団の中に入り込んで昼を過ごしていました。

 

食材がそろそろ無くなりそうだったから、お兄ちゃんに帰りに買ってきてもらおうかと思ったけど、そうするとお兄ちゃんが帰ってくるのが遅くなってしまうので、自分で買いに行きました。

 

今日の夕飯も、お兄ちゃんはあのふたりのおはなしをします。

 

やっぱりとってもうれしそう。

 

いいなぁ、あのふたりは。

 

すごくうらやましいし、

 

すごく…………。

 

 

そういえば、ちょっと体がだるくて、熱っぽいような気がする。

 

かぜかな?

 

まぁ、たぶんだいじょぶでしょ。

 

 

3月19日(木) 雨

 

 

今日も雨。

 

台風が近くなってきてるのか、昼もにっきを書いてる今も風がびゅーびゅーうるさいです。

 

昨日に続いて体がだるい。

 

でも、お兄ちゃんのベッドの中で寝てるとすごく楽になれる。

 

だから昼はずっとお兄ちゃんのベッドで寝てた。

 

今日の夕飯のときも、お兄ちゃんはあれとあれのおはなしをします。

 

すごくしあわせそうに。

 

いいな。

 

 

いいな。

 

 

こまちはどうしてそこにいないの?

 

 

どうして?

 

 

なんで?

 

 

わかんないよ。

 

 

3月20日(金) 台風

 

 

台風が千葉にきました。雨も風もすごかった。

 

でも学校は休みにならなかった。

 

お兄ちゃんはぐちぐち言いながら家を出ていきました。

 

こまちはおにいちゃんのおふとんのなかですごしました。

 

ごはんを食べているとき、おにいちゃんはあれらとでーとするから、あしたはご飯いらないってこまちに言いました。

 

じゃああしたはずっとおにいちゃんいないんだね。

 

やっぱ、ねつがあるみたい。

 

みずでものんでからねよう。

 

小町「……」

 

小町はにっきをしまってから、部屋を出ました。

 

体がすごくだるくて、すごくあつい。

 

やっぱ風邪かなぁ、季節の変わり目は風邪ひきやすいなんていうし。

 

水でも飲もうと思って台所行くと、そこにはお兄ちゃんがいました。

 

八幡「おう、小町」

 

小町「あっ、お兄ちゃん」

 

お兄ちゃんを見た瞬間に、体が少しだけ軽くなったような気がする。

 

お兄ちゃんさえいれば、風邪なんてへっちゃらなのだ。

 

小町「まだ起きてたの? 明日デートなんじゃないの……寝坊しても、小町起こしてあげないよ?」

 

八幡「ぐっ……小町に起こしてもらえないのは厳しいな……目覚まし時計3つくらいかけておくか」

 

小町「そうしておいた方がいいよ、お兄ちゃんどうせ起きないんだし」

 

そう言うと、お兄ちゃんはそうだなって言って部屋に戻ろうとする。

 

八幡「おやすみ、小町」

 

小町「うん、おやすみ」

 

お兄ちゃんにそう言うと、小町も水だけ飲んで寝ようと思ってコップに手を伸ばそうとする。

 

その時、体がくらっとくるのを感じた。目の前がおぼろけになって、足元がふらつく。

 

そして、意識が遠のく。

 

八幡「──小町ッ!!!」

 

それでも、最後に。

 

すごい大きいお兄ちゃんの声が耳に。

 

すごい顔をしたお兄ちゃんの顔が目に入り込んできた。

 

ああ、お兄ちゃん。

 

小町は──。

 

夢を、夢を見ていました。

 

お兄ちゃんが、小町と一緒にいる夢。

 

雪乃さんと、結衣さんのことを話すときにだけ見せるあの顔を。

 

小町だけに見せてくれる世界。

 

お兄ちゃんの顔が。

 

お兄ちゃんの声が。

 

お兄ちゃんの手が。

 

お兄ちゃんの全てが、小町に向けてくれる。

 

そんな世界でした。

 

でも、そんな世界はもう有り得ない。

 

それを小町は知っている。

 

あれは全て、雪乃さんと結衣さんだけに向けられるべきもののはずだ。

 

だからこれは夢なのだと、小町の頭は判断していたのです。

 

いっそこの夢の中にずっといたいと願っていたのですが。

 

それが永遠に続くわけも無く。

 

やがて、意識は現実世界に引き戻されてしまいます。

 

随分長く寝ていたような気がする、お兄ちゃんはもうデートに行っちゃったかな。

 

またデリカシーのない発言でもしてなきゃいいけどなぁ、ごみいちゃんは……。

 

そんなことを思いながら目を覚ますと。

 

小町「……お兄ちゃん?」

 

八幡「ん、起きたか」

 

小町の視界に入ってきたのは、こんなところにいるはずがないお兄ちゃんの姿でした。

 

ばっと身を起こして時計を見てみると、短い針がてっぺんを指している。

 

もう正午を過ぎていた、本当に長く寝ていたようです。

 

周りを見渡してみると、ここは小町の部屋。

 

そしてこのベッドで小町は寝ていたようです。

 

そういえば昨日は、台所辺りで意識がなくなったような気がする。

 

あんまりよく覚えてないけど、お兄ちゃんが運んできてくれたのかな。

 

って、そんなことはどうでもいい。

 

どうしてここにお兄ちゃんが……?

 

小町「……なんでお兄ちゃんがここにいるの、早く雪乃さんと結衣さんのところにいきなよ」

 

多分ここまで運んでくれただろうお兄ちゃんに対して、ちょっと冷たい言い方になっちゃった。

 

でも、今日のお兄ちゃんはあの二人とデートする予定だったはずだし、それも集合時間は午前だったはず。

 

こんな時間にここにいていいはずがない。

 

だけど、お兄ちゃんは首の後ろに手をやりながら軽く言った。

 

八幡「アホ、そんな状態のお前一人を残して行けるわけないだろ」

 

小町「……えっ?」

 

お兄ちゃんの言った言葉の意味が理解出来なかった。

 

なんで雪乃さんと結衣さんのところに行かないの?

 

どうして小町のことなんて優先しちゃったの?

 

頭のなかに疑問が渦巻いていると、部屋の扉ががちゃりと開く音がした。

 

お母さんかなと思っていると、中に入ってきたのは予想外の人物──

 

雪乃「おかゆを作ってきたのだけれど、小町さんは起きてる?」

 

結衣「ポカリも持ってきたけど……あっ、小町ちゃん」

 

小町「雪乃さん、結衣さん……」

 

──そして、ある意味で納得の二人でした。

 

八幡「すまん、助かる」

 

雪乃「小町さんの為だもの、これくらい当然だわ」

 

結衣「小町ちゃん大丈夫? 熱はまだある?」

 

小町「あ……はい」

 

そっか、お二人はそのまま小町の看病に来てくれたんだ。

 

あの二人の言うことだ、多分その言葉に嘘偽りはない。

 

本当にいい人たちだ、お兄ちゃんの恋人達をやれるだけはある。

 

そう、お兄ちゃんの──恋人達。

 

雪乃「そう、なら熱を下げるために……比企谷くん、氷のうを作ってきてもらえないかしら?」

 

八幡「分かった」

 

雪乃さんからそう頼まれると、お兄ちゃんは腰を上げて部屋の扉へ向かう。

 

そこで雪乃さんの隣を通り過ぎる時、雪乃さんがさらに言い加えた。

 

雪乃「そうね、出来れば……15分くらいたっぷり時間をかけて作ってもらえると助かるのだけれど」

 

八幡「は? いやそんな時間は掛からな……なるほど、分かった」

 

何かを察したのか、そう返してお兄ちゃんはすぐに部屋から出ていった。

 

お兄ちゃんが出ていくのを見送ると、雪乃さんと結衣さんはこちらの方へ振り向く。

 

雪乃「小町さん、今お話は出来る状況かしら。できるのなら比企谷くんがいない今、お話をしたいのだけれど」

 

結衣「あ、あの……大丈夫かな、無理はしなくてもいいんだけど」

 

小町「あっはい、小町は大丈夫ですよ」

 

雪乃「助かるわ」

 

なるほど、お兄ちゃんに氷のうを作ってきてもらう云々の流れはお兄ちゃんを追い出すためだったらしい。

 

雪乃さんと結衣さんは、お兄ちゃんがいない状況で何を話したいというのだろう。

 

雪乃「……小町さんは」

 

話をしたいと言いながら、雪乃さんはとても言いづらそうに口をもごもごとしている。いつも人と目を合わせて話す雪乃さんにしては珍しく、視線が横に逸れた。

 

ちょっと間を空けて、ようやく言葉を口にし始める。

 

雪乃「……小町さんは、比企谷くんのことをどう思っているの?」

 

小町「はい?」

 

雪乃さんの質問の意味が分からなかった。

 

どうしていきなりお兄ちゃんの話になるんだろ。

 

小町が困惑していると、雪乃さんの隣にいる結衣さんが俯いて自分の軽く握られた手を見たまま、ぽつりと呟いた。

 

結衣「……小町ちゃんはさ」

 

その握られた手が、ぎゅっと強く握り締められた。そして意を決したように顔を上げると小町の目と結衣さんの目が合う。

 

結衣「ヒッキーのことが好きだよね」

 

小町「──!!」

 

一瞬、小町の心が読まれてしまったかのような錯覚に陥る。風邪とは全く関係のない冷や汗が垂れたような気がした。

 

しかしここで変に言葉を詰まらせるわけにはいかない。小町は何があっても『妹』として、振舞わなければならないのだ。

 

気持ちも、言葉も、そして『私自身』すらも、全て誤魔化す。

 

小町「え、いや、そりゃそうですけどー……まぁ、自慢の兄ですし? 妹として好きといえば好きと言えなくも」

 

結衣「嘘」

 

でも、小町の必死の言い訳は短い一言で打ち切られてしまった。結衣さんは固い気持ちを秘めた目を小町に向ける。その目は真っ直ぐに、どこまでも真っ直ぐに小町の目だけを射止めているようだった、

 

結衣「小町ちゃんは、ヒッキーのことが好きなんじゃないかなって思うの。それは、妹としてじゃなくて」

 

やめて。

 

その先を言葉にされたら、小町はもう『妹』じゃなくなっちゃう。

 

でも小町は何も言葉を出すことが出来ず、ただ結衣さんの宣言を聞くことしか出来なかった、

 

結衣「一人の女の子として──ヒッキーのことが好き、なんだよね……」

 

小町「あ……ああ……」

 

それは、ずっと目を逸らし続けていたこと。

 

小町はお兄ちゃんのことが好き。

 

でもそれは、あくまで『妹』が『お兄ちゃん』のことを好きということだけでしかなかった。

 

そういうことにしておかないと、駄目だったから。

 

だって、『お兄ちゃん』のことを本気で好きになっちゃったら『妹』ではいられないから。

 

でも、いつからか小町は妹と兄のいう関係性に満足出来なくなっていた。

 

小町「……」

 

結衣さんの宣言に小町は何かを返そうとしたが口が震えて上手く動かず、言葉が何も出てこなかった。

 

本当は分かってる。

 

小町が妹としてだとか、そういうの関係無しに比企谷八幡のことが好きになっていることなんて。

 

一体いつからだったろう。

 

受験が終わってから? 去年から? 小学校の時から?

 

もしかしたら生まれた時からかもしれないね。

 

それでも、認めるわけにはいかない。

 

例え、この想いが雪乃さんと結衣さんに気付かれるほど大きくなっていたとしても。

 

隠せなくなるほど大きくなっていたとしても。

 

これが本物の想いだったとしても。

 

小町は、『妹』以外何にもなれない。

 

小町「……小町は、あくまで妹としてお兄ちゃんが好きなだけです」

 

だから絶対に、たとえ言葉の上だけでもそれを認めるわけにはいかない。

 

雪乃「……私は、比企谷くんのことが好きよ」

 

突然、雪乃さんの声が聞こえてそちらに顔をあげた。

 

雪乃「私はこうやって、彼への好意を口にすることは出来る。でも……」

 

見れば、雪乃さんの瞳は潤んでおり、肩は奮え、声はかすれていた。その涙を拭うこともせず、かすれ気味の声で言葉を続ける。

 

雪乃「本当の意味で好きだという言葉さえ言えないなんて、残酷過ぎるじゃない……」

 

小町「……雪乃さん」

 

残酷、確かにそうかもしれない。

 

小町は比企谷八幡の妹である。生まれた時からそうだ。

 

そして生まれた時から決まっているのだ、小町は『妹』という立場にしかなれないって。

 

だから、仕方がない。

 

小町「……仕方ないんです」

 

雪乃「仕方がないなんて、そんな」

 

小町「仕方ないんです」

 

だから、小町はこの気持ちを隠して生きるしかない

 

この気持ちを嘘で塗り固めて、偽って、そして誤魔化す。

 

小町の本物は、許されない。

 

結衣「……小町ちゃん」

 

小町「小町はね、嬉しいんですよ」

 

顔をあげて、出来る限りの笑顔を浮かべたまま雪乃さんと結衣さんの方を向く。

 

やだなぁ、お二人とも。そんな泣かないでくださいよ。

 

お兄ちゃんの恋人達になれたんだから、何も悲しいことなんてないはず。

 

お二人にとって小町は、ただの彼氏の妹でしかないんですから。

 

何も気にしなくてもいいんですよ。

 

小町「お兄ちゃんは、昔からあんな感じでした。でも、奉仕部に入ってから色々と変わっていって……今では恋人さん達が出来るまでになりました。これは、雪乃さんと結衣さんのおかげです」

 

お兄ちゃんは、もうひとりぼっちじゃない。

 

雪乃さんと、結衣さんという『本物』の関係を持てた恋人達がいる。

 

前なんかは小町がいないとお兄ちゃんは何も出来ないなんて思ってたけど。

 

もう、小町がいなくても大丈夫だよね。

 

小町「あんな感じでめんどうくさいお兄ちゃんですけど、お二人と一緒ならきっと大丈夫だと思いますので。だから」

 

雪乃「小町さん!」

 

結衣「小町ちゃん!」

 

話の流れを切るように二人が叫ぶ。

 

でも、小町はそのまま言葉を続けた。

 

小町「兄を……よろしく、お願いします。雪乃さんと結衣さんになら、任せられますから……」

 

雪乃「……そんな泣きながら言われても、説得力がないわ」

 

小町「……えっ」

 

言われてから、自分の目に手をやる。すると、自分の目から涙がぽろぽろと落ちているのに今更気が付いた。

 

一度自分が泣いているのを自覚してしまうと、どんどんと気持ちが押し寄せてきてしまう。

 

もう考えちゃ駄目なのに。

 

お兄ちゃんと一緒にいたいだなんて。

 

でも、お兄ちゃんにはもう雪乃さんと、結衣さんがいるから。

 

小町は、妹だから。

 

だから、駄目。

 

でもやっぱり、そう考えているうちに分かってしまう。

 

それらは全部言い訳なんだって。

 

お兄ちゃんには恋人がいるから、小町は妹だから。

 

言い訳だ。

 

建前だ。

 

欺瞞だ。

 

誤魔化しだ。

 

虚偽だ。

 

捏造だ。

 

法螺だ。

 

欺騙だ。

 

全部全部、嘘だ。

 

小町の本物は、そこにはない。

 

でも、それらを全て理解した上で小町は選ぶ。

 

小町は、妹であり続けることを選ぶ。

 

雪乃「小町さん、このままだとあなた……」

 

小町「いいんです、小町のことは。もう気にしないでください」

 

結衣「……小町ちゃんは、本当にそのまま全部隠しちゃうの?」

 

小町「小町は妹ですし、お兄ちゃんの恋人は雪乃さんと結衣さんです。今更どうこう言っても兄の迷惑になるだけですよ」

 

結衣「それはそうかもしれないけど……そうかもしれないけど……」

 

ちょっとズルイ言い方になっちゃったかな、ごめんなさい結衣さん。

 

雪乃さんも、結衣さんも、こんなあやふやではっきりしない小町とお兄ちゃんの関係をどうにかしたかったのだろう。

 

正直に言って、その気持ちはとてもありがたかった。

 

でも、小町のこれは白黒はっきりさせることすら許されない。

 

いつかこの想いも時の流れの中で溶けていくことだけを祈って、想いを内に秘めながらその時を待つこと以外に出来ることはないのだ。

 

小町「本当にありがとうございます、お二人とも。でも、小町は大丈夫です」

 

お兄ちゃんへの想いを、全て諦めるために。

 

小町は、強く決意する。

 

小町「小町は、妹ですから」

 

これから一生、お兄ちゃんの妹であり続けるということを。

 

雪乃「っ……!!」

 

結衣「小町ちゃん……」

 

そう、言い訳だろうがなんだろうが、これが一番の、最良で最適で最高の答えだ。

 

これで、比企谷小町の初恋が終わりを告げる。

 

雪乃さんと、結衣さんのおかげで終わらせることが出来た。

 

自分の中でどろどろとしたものが溜まっていくのを感じていくだけで、終わらせられなかったはずのこの恋を終わらせることが出来たのだ。

 

小町は、これで満足。

 

だから小町は──

 

八幡「──小町」

 

そこに、あの声が響く。

 

今まで、十数年以上聞き続けた声が。

 

小町が、大好きなあの声が。

 

小町「お兄……ちゃん……!?」

 

見れば部屋の扉は開いていて、お兄ちゃんが立っている。

 

雪乃さんと、結衣さんも驚いたような表情でお兄ちゃんの方を見ていた。

 

結衣「ひ、ヒッキー!?」

 

雪乃「比企谷くん……まさか、あなた聞いていて……!?」

 

八幡「終わらせてやる」

 

小町「えっ?」

 

扉にいたお兄ちゃんはそのまま小町の側にまでやってくると、小町の両肩をがっと掴む。

 

小町のことを真っ直ぐに見るお兄ちゃんの顔はすごく真面目で、とても誠実で、やっぱりかっこよかった。

 

八幡「俺が全部終わらせてやる、小町──自分に嘘をつくのは、もう終わりだ」

 

雪乃「あなた、最初から聞いていたの?」

 

八幡「すまん……最近小町の様子がおかしかったから、その理由が知りたくて……」

 

お兄ちゃんのその言葉を聞いて、小町は驚愕する。

 

お兄ちゃんの前では、いつもの小町をやっていたつもりだった。

 

しかし、普段通りに振舞えていると思っていたのは小町一人らしい。

 

お兄ちゃんに心配をかけさせるほど、小町はもうとっくにおかしくなっていたのかな。

 

八幡「すまない小町……俺は、」

 

小町「謝らないでよお兄ちゃん……」

 

お兄ちゃんの声を遮るように、声を振り絞る。

 

お兄ちゃんは悪くない

 

雪乃さんも、結衣さんも、悪くない。

 

悪いのは妹なのにお兄ちゃんに恋をしちゃった、小町なんだ。

 

小町「小町が悪いの、お兄ちゃんは何も悪くない」

 

八幡「お前が悪いってのもおかしいだろ……!」

 

小町「悪いよ」

 

兄妹で恋愛をするのはおかしいこと。

 

そう、それが世間の常識。当たり前。正論。

 

それは、小町とお兄ちゃんの間でも例外じゃない。

 

そしてそれを破るのは悪いことなんだ。

 

小町「だから、小町の恋はこれで終わり。それでいいでしょ」

 

八幡「そんな終わり方があってたまるかよ……!」

 

小町「いいの……お兄ちゃん。小町が妹であることを受け入れるだけでいいんだから」

 

好意を伝えるわけにはいかない。

 

小町のこの想いは、受け入れられることも振られることもあってはならない。

 

だって、元々あってはならない想いだから。

 

小町「お願いお兄ちゃん、全部聞かなかったことにして。そうすれば、まだ兄妹としてはいられるんだから」

 

自分で言っておいて、自覚してしまう。

 

これは欺瞞なんだって。

 

世間の正論を盾にした言い訳なんだって。

 

本当は、今すぐお兄ちゃんに大好きって言いたい。

 

今すぐ抱きしめられたい。

 

でも、そう望むことは許されないから。

 

小町の本物の想いは、許されないから。

 

だから、だから──!!

 

八幡「それは……」

 

震えた声音が聞こえた。一瞬自分の声かと思ったが、それはお兄ちゃんから発せられたものだった。

 

思わずお兄ちゃんの方を見てみると、お兄ちゃんの肩が重く沈んでいる。

 

でも、その目は小町のことをしっかりと見つめている。

 

八幡「それは、本物と呼ばない」

 

小町「……本物って何」

 

八幡「俺も、未だに分からん……でも」

 

お兄ちゃんの吐く息の音がやけに耳に届く。

 

見れば、辛そうにその表情を歪めている。

 

その両手を強く握り締め、振り絞ったような声をようやく出す。

 

八幡「妹なんて言い訳で隠されたそれは……きっと、本物じゃない」

 

小町「……小町は」

 

何かを言おうとしたけれど、何も言葉が見つからない。

 

いや、言うべき言葉自体はいくらでもあるはずなのだ。

 

このまま、小町は妹であり続けるために、出来る妹を演じ続けるために言うべき言葉はいくらでもある。

 

でも、結局お兄ちゃんの言うとおり小町が言おうとしている言葉は全て本物じゃないのだ。

 

どこまでいっても、どんなに考えても、言い訳で、建前で、詐欺で、欺瞞で、偽物でしかない。

 

それを言うべき状況だと小町は理解している。

 

なのに、小町のどこかにそれを言いたくない気持ちが存在している。

 

本当は本物の気持ちを言葉にしたいって思ってしまっている。。

 

そんなことを言ったって迷惑なのに、言うだけ無駄なのに。

 

そもそも本物の気持ちって何?

 

きっと、小町はそれに向き合おうとしてこなかった。

 

今まで、妹だからとか雪乃さんがいるからとか結衣さんがいるからとか迷惑だからとか言うだけ無駄だからとか、言い訳を尽くして本物の気持ちに向き合おうだなんて考えてこなかった。

 

けれど、もしも、もしも小町が本物を求めてもいいのなら。

 

この醜い自己満足を押し付けることが出来て、そしてそんな小町を許してくれるような兄がいるのなら、

 

本来は、そんなことは絶対にないのは分かっている。そんな都合のいいことがないのは分かっている。

 

それでも、お兄ちゃんなら。比企谷八幡なら。

 

こんな嘘で塗り固められた毒のような気持ちを、受け止めてくれるのでしょうか。

 

小町は、本物を知ろうとしてもいいのでしょうか。

 

小町「小町は……」

 

いつの間にか漏れていた声は自分でも震えているのが分かった。

 

小町「小町は……」

 

自分の目頭が熱くなっていくのが分かる。

 

凍りつかせていたはずの感情が解けていくのを感じる。

 

自分の内に秘めていたはずの想いが溢れてしまっていくのを理解する。

 

自分の中にあったどろどろとした何かが消えていくのを認識する。

 

小町「小町は、本物が知りたい」

 

自分の肩が、歯が、喉が、声が、意識せずに震えて止まらない。

 

視界が霞むし、手の感覚もなくなってしまっているようだ。

 

それでも、期待してしまう。

 

存在すら許されなかったはずのこの感情をどうすればいいのか、お兄ちゃんなら教えてくれるって。

 

そして受け止めてくれるって。

 

小町の本物を、教えてくれるって。

 

小町「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」

 

八幡「小町……」

 

お兄ちゃんが小町のことを包み込むように抱きしめてくれた。

 

小町はお兄ちゃんの胸の中に入り込むと、子どものように泣き叫んだ。

 

    ×  ×  ×

 

八幡「小町……これから30分、俺はお前のお兄ちゃんをやめる」

 

小町「へ?」

 

しばらくの間お兄ちゃんの胸の中で泣き続け、ようやく泣き止み落ち着いた小町にお兄ちゃんはそう言った。

 

八幡「いいか、小町……今、お前は妹じゃない」

 

お兄ちゃんが何を言っているのか分からなかった。近くにいる雪乃さんや結衣さんまで似たような感じで困惑している。

 

でも、それから一瞬遅れて小町はお兄ちゃんの言おうとしていることを理解する。

 

お兄ちゃんは、小町から『妹だから』という言い訳を奪い去ろうというのだ。

 

小町「お兄ちゃん……それ言葉遊びだよ……」

 

八幡「こら、お兄ちゃんって呼ぶんじゃありません」

 

それを聞いて、思わずおかしくなってふっと笑ってしまった。

 

前に比べて随分とかっこよくなったような気がしてたけど、ルールに縛られないで何かを斜め下の方法で解決しようとする辺り何も変わってない。

 

どこまで行ってもお兄ちゃんは──いや、『八幡』は『八幡』のままだった。

 

やっぱり馬鹿なんだなぁこの人、ほんとにしょうがないなぁって思う。

 

雪乃さんや結衣さんと付き合うようになってから変わったと思ったのに、何一つ変わってない。

 

小町「じゃあ、おにい……八幡さん、お話がありますっ」

 

自分で言っておいて、この呼び方はすごい違和感あるなぁ。ちょっと小町には合わないかも。

 

八幡「な、なんだ、小町……」

 

小町「んーとね……」

 

言葉を慎重に探していく。

 

今の小町は『妹じゃない』。ただの比企谷小町

 

目の前にいる比企谷八幡とは、なんでもない他人。

 

ただの一人の男の子と一人の女の子だ。

 

しょせん言葉の上でしかないなんてのは、もちろん分かっている。

 

でも、お兄ちゃんに妹じゃないって言われて不思議と心が落ち着いた。

 

これで、小町の前には何の障害もない。止まる理由はない。言い訳も出来ない。

 

自分の本物の気持ちと、ようやく向き合える。

 

今、本物を知りにいくんだ。

 

小町「小町は──私は、比企谷八幡さんのことが大好きです」

 

これが『私』の、本物の気持ち。

 

小町「八幡さんのちょっと馬鹿なところが好きです。少し気持ち悪いところが好きです。割としょうがないところが好きです」

 

八幡「えっ」

 

一度想いを口にすると、思っていたより言葉がすらすらと出ていく。

 

なんだ、別に言葉を無理に選ぶ必要なんかないじゃん。小町が思っていることを、ただそのまま言えばいい。

 

小町「結構めんどくさいところが好きです。人間としてどうしようもないところが好きです。小町的にポイント低いところが好きです」

 

八幡「あ……あの、小町さん?」

 

ただ普段一緒に暮らしていて、感じていることを並べているだけ。

 

正直に言って、八幡さんは割とどうしようもなくて、めんどくさくて、そして乙女心が分からない駄目駄目な男の子だ。

 

ただ、15年も一緒にいるとそれらにも愛着が沸いてくるし──そんな駄目男にも、いいところの1つくらいは見つけられるのだ。

 

小町「そして、私にすごく優しくしてくれるところが大好きです」

 

悪いところもいっぱいある、短所もいっぱいある、実は文句も結構ある。

 

それでも。

 

それでも私は。

 

小町「八幡さん、大好きです。私と付き合ってください」

 

八幡「……」

 

言い切って、お兄ちゃんの目を見つめる。

 

お兄ちゃんの目も、私の目を真っ直ぐに見つめていてくれた。

 

これで、私の言いたいことは全部だ。悔いはない。

 

後は──お兄ちゃんの返答を待つだけ。

 

八幡「……俺は」

 

少し間が開いて、お兄ちゃんはようやく口を開いた。

 

そして、私の告白への答えが下される。

 

八幡「悪いが、小町とは付き合えない」

 

小町「……」

 

八幡「俺は雪ノ下と由比ヶ浜のことが好きだ。その気持ちに嘘はつけない」

 

雪乃「比企谷くん……」

 

結衣「ヒッキー……」

 

小町「……そっか」

 

言われて、逆に少しホッとする。

 

正直に言ってそう返してくれることは分かっていたし、そう返してくれることを期待していた。

 

私が信じたこの人は、やっぱり変に律儀で真面目なままだ。

 

もしもここで下手に浮気でもされようなら、逆に怒ってたまである。

 

でも、これで終わることが出来た。

 

きちんとした形で、比企谷小町の初恋は終わることが出来たんだ。

 

妹だからなんて不本意な言い訳で固められた偽物の結末ではなく、きちんと一人の女の子が一人の男の子に告白し、そして振られることが出来たんだ。

 

白黒はっきりすることすら許されなかったはずのこの恋を──終わらせることが出来たんだ。

 

小町「ありがとう八幡さん──ちゃんと、振ってくれて」

 

八幡「ありがとう小町──ちゃんと、言ってくれて」

 

小町「うん」

 

これで全て終わった。

 

清清しい気持ちになって、ふと部屋の窓から空を見上げる。

 

昨日まで台風で荒れていたとは思えない、雲一つない快晴だった。

 

        ×  ×  ×

 

小町「う、うあああああああああああああああああ!!!!!」

 

小町がお兄ちゃんに告白して振られ、また『妹』に戻ってから大体二週間とちょっとが過ぎた。

 

今日は4月7日で、時間は夕日が沈む頃。

 

お兄ちゃんは今日から始業式だから学校に行ってるから家にはいなくて、小町は明日が総武高校の入学式なのです。

 

学校に行くようになる前に部屋の掃除でもしようと思って机の周りをごそごそとやっていると、ちょっと前までつけていた日記帳が見つかった。

 

そういえばあれ以来色々あってすっかりつけるのを忘れていたなぁと思いながら、軽い気持ちで読み直していたらこれだ。

 

思わず、日記帳をバンと強く叩きつけてしまう。

 

何!? 何なのこれ!?

 

えっ、あの頃の小町ってこんなにヤバイ人だったの!?

 

日記の内容の節々からちょっと精神病んじゃった☆オーラが溢れてしまっている。

 

自分で言うのもなんだけど、あの頃の小町結構ヤバい。

 

そりゃお兄ちゃんにも雪乃さんにも結衣さんにもバレちゃうわけだ。

 

昔、お兄ちゃんの机の奥にしまってあるノートを読もうとしたらすごい顔をしながら無理矢理引っ剥がされたことがあったけど、今になってお兄ちゃんの気持ちが痛いほどよく分かった。

 

うん……これみたいなものを他人に読まれそうになったら、さすがにあんな顔にもなるよ……お兄ちゃんにも、きっと小町に似たような経験があったんだね……厨二病、おそるべし。

 

そこでふと、何かが足りないような気がした。

 

そうだ思い出した。あの日記帳、小町の誕生日──3月3日のページがないんだ。

 

それ以外にもところどころ抜けているページはあったけど、自分の誕生日のページがないというのもなんか変だ。

 

今年の小町の誕生日って日記書いてたっけ──と思い返したところで、ばっと机の引き出しを開けた。

 

そういえば、誕生日にも日記は書いた。書いたはいいけど、確か滅茶苦茶恥ずかしいことを書いていて、当時の小町ですら見るに耐えなくてそのページだけ破って机の引き出しに封印したんだった!

 

引き出しの奥を見てみると、誕生日の夜に書いたページが出てきた。うわ、見直したくない……このページも、日記帳と一緒に捨ててしまおうそうしよう。

 

全部なかったことにしてやるー!

 

あっ、でも一つだけ無かったことには出来ないことがあるかな。

 

それは、『八幡さん』のことが大好きだったっていうこと。

 

結局、あれからもお兄ちゃんは雪乃さん、結衣さんと上手くやっているようだ。

 

今でも夕飯の時に、たまに雪乃さんや結衣さんの話になる。

 

ほとんど素直な感想じゃなくて、何かしら遠まわしな言い方ばっかりなんだけど。

 

ほんと、捻デレてるんだからなぁ。

 

でも、今の小町は普通に妹として笑ってその話を聞いてあげられる。

 

お兄ちゃんが幸せそうにしているのを見ると、小町も幸せになる。

 

今は本心から言えるよ。

 

お兄ちゃんの幸せが、小町の幸せだってね!

 

そんなとき、玄関の扉が開く音がした。

 

八幡「ただいまー」

 

小町「あっ、おかえりー」

 

小町はその声を聞くと、すぐに部屋の扉を開けて玄関に迎えに行った。

 

小町「お兄ちゃん、夕飯の材料無くなっちゃったから一緒に買いに行こ!」

 

八幡「げっ、なんだよ言ってくれれば帰りに買ってきたのに」

 

小町「えー、でも小町はお兄ちゃんと一緒にお買い物に行きたいなーって。あっこれ小町的にポイント高い!」

 

八幡「お前のそのポイントはどこに溜まっていってるんだよ……」

 

お兄ちゃんといつも通りのやり取りをしながら、改めて心の中で思う。

 

お兄ちゃん、大好きだよ!!

 

 

3月3日(火) 小雨 ←こまちのおたんじょうび!

 

 

今日は小町のお誕生日でした!

 

なんと、お兄ちゃんと雪乃さんと結衣さんにお祝いしてもらいましたいぇーい!

 

今日は小町達のお家で、雪乃さんと一緒に料理をしました! お兄ちゃんは結衣さんを止めるのに必死でした。

 

さてさて、今日も今日とて、お兄ちゃんの雪乃さん&結衣さんお義姉ちゃん化計画を進めてまいりました!

 

この前のデートではちょっとやらかしちゃったみたいだけど、まだまだ汚名挽回出来るよお兄ちゃん!

 

お話をしている途中で、平塚先生のお話になって、そこから結婚の話になりました。

 

そこがチャンスと思って、お兄ちゃんと結婚したらどうなるかなって話を雪乃さんと結衣さんに振ったら反応が可愛い可愛い。むふふ、ほんと可愛い。

 

でも、こんなときくらい専業主夫専業主夫ってクズ予防線を張るのはやめてほしいなーって思いました。小町的にポイントひくーい。

 

でもお兄ちゃんと結婚かぁ、もしも小町が結婚したとしたらどうなるんだろ。

 

お兄ちゃんの世話を見てー、掃除してー、料理してー、選択してー、お兄ちゃんの世話を見る。

 

あっれー普段とかわんないなー。

 

じゃあ結婚したら変わりそうなことって?

 

たとえば、ちゅーしたり……とか?

 

おはようのちゅーとか、いってらっしゃいのちゅーとか、おかえしのちゅーとかしちゃうのかな……

 

お兄ちゃんとのちゅー……いやいやいやいやありえないし。

 

あと、抱きしめられたりとか、あと一緒にお風呂入ったりとか、一緒に寝るとか?

 

お兄ちゃんに抱きしめられたりとかお風呂入ったりとか一緒に寝るとか……?

 

ありえないありえない。

 

でも、ちょっとだけそれもいいかなーとか思ったり……?

 

あと、お兄ちゃんにやってもらいたいことと言えば……

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

小町「こまちにっき!」八幡「は?」

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