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友希那「紗夜……私と付き合ってくれないかしら」 紗夜「……え?」【バンドリ!ss/アニメss】

 

――CiRCLE・カフェテリア―― 

 

紗夜「珍しいですね、湊さんから二人でカフェへ行こうと言い出すなんて」 

 

友希那「ええ、ちょっと相談したいことがあって」 

 

紗夜「相談、ですか? ロゼリアの活動方針についてですか?」 

 

友希那「そうじゃないわ。少し個人的なことなんだけど……」 

 

紗夜「個人的なこと?」 

 

友希那「ええ……まぁ……」

 

紗夜(珍しく歯切れが悪いですね。ロゼリアのことではなく個人的なことでの相談ということだし……私で役に立てることなのかしら) 

 

紗夜(……いえ、恐らく私でないと駄目だから、わざわざ練習前に私だけをカフェに呼び出したのよね。湊さんにはこの前の日菜との件でも助けてもらいましたし、今度は私が助けになる番ですね) 

 

友希那「うーん……」 

 

紗夜「湊さん、そう遠慮しないで結構ですよ。悩みを抱えたままでは音楽に支障がでることは私も身をもって経験しましたし、ロゼリアの為にも、湊さん自身の為にも、気にせずに仰ってください」 

 

友希那「そう……ありがとう、紗夜。それじゃあ、私と付き合ってくれないかしら」 

 

紗夜「……え?」

 

友希那「駄目かしら?」 

 

紗夜「は、あ、いえ、少し待ってください」 

 

紗夜(つ、付き合う? ええと、どこか一人で行き辛いところへ一緒に行けばいいのかしら? まさか世間一般でいう交際関係に至る『付き合う』という訳ではありませんよね……?) 

 

友希那「紗夜?」 

 

紗夜「あ、ええと、ごめんなさい。付き合うとは、どこへ一緒に行けばいいんですか?」 

 

友希那「? 場所? ……付き合うには一緒に行かなければならない場所があるの?」 

 

紗夜「え?」 

 

友希那「ごめんなさい。今まで私はこういうことに興味を抱いたことがないの。だからどういうことをすればいいのかに疎くて」 

 

紗夜「…………」

 

紗夜(本当にまさかの方の意味だった……? いやでも私と湊さんは女性同士ですし、え、えぇ? でも湊さんのことだから何かを勘違いしている可能性もあるわね……というか勘違いしていてくれないと困るわ……) 

 

友希那「紗夜? さっきから様子が変よ? どこか調子でも悪いの?」 

 

紗夜「い、いえ、大丈夫です。それより、その、恐らくなんですが、私と湊さんの間で『付き合う』という言葉に差異があるのではないかと思うんですが……」 

 

友希那「? 『付き合う』って言えば、恋人同士の交際をするって意味じゃないのかしら?」 

 

紗夜「…………」

 

紗夜(まさかの方で正解……? 勘違いでもなく、湊さんと恋人同士……? 街でデートしたりする……? 日菜がよく『お姉ちゃんとデートしたーい!』ってじゃれついてくるけどそういうのではなくて、つぐみさんと一緒に買い物に行った時のような、自分にないモノを求めてしまう焦燥感や不安をすべて拭って、私が私であるということをすべて肯定してくれて、温かくて満たされた気持ちになって、相手にも同じように幸せを感じてもらいたいと思うような……?) 

 

友希那「あ、でも本当に恋人同士になってほしいという訳じゃないの。恋人のフリをしてほしいのよ」 

 

紗夜「は?」

 

友希那「あの日――リサが来れなかった練習の日から、妙に私を子ども扱いするのよ、リサ。だからちょっと驚かせてぎゃふんと言わせたいの」 

 

紗夜「……はぁ――」 

 

友希那「紗夜? どうしたの、そんなに大きなため息をついて。やっぱりどこか調子が悪いの?」 

 

紗夜「いえ……大丈夫です……知ってましたから……」 

 

友希那「そう?(何を知っていたのかしら?)」

 

紗夜(何故、最初に恋人のフリをしてくれないかと言わないのか。ちゃんと聞かなかった私にも落ち度はあるのかもしれませんけど納得がいきません。そして私は何故、日菜はともかくとして、どうしてつぐみさんとのことを例にして考えたのか……) 

 

友希那「本当に大丈夫? なんだか顔が赤いわよ?」 

 

紗夜「問題ありませんっ」 

 

友希那「そ、そう?」 

 

紗夜「……コホン。はい、まったく問題ありませんので気にしないでください」

 

紗夜「それで、今井さんを『ぎゃふん』と言わせることと、私に恋人のフリをしてほしいことがどう繋がるんですか」 

 

友希那「やっぱり恋人の一人や二人でもいれば大人っぽく見えるでしょう?」 

 

紗夜「…………」 

 

友希那「…………」

 

紗夜「……それだけですか?」 

 

友希那「それ以外に何か理由が必要かしら」 

 

紗夜「……(その考えが既にもう子供みたいだ、と言ってはいけないんでしょうね、きっと)……それならば、私ではなく、CiRCLEのあのスタッフさんにお願いすればいいのではないでしょうか」 

 

友希那「流石にこんなことをお世話になっているスタジオのスタッフさんには頼めないわ。それに女性同士で、しかもロゼリアのメンバーという方がインパクトがあるじゃない」

 

紗夜「……なら私ではなく宇田川さんか白金さんに頼むのは……」 

 

友希那「あの二人には荷が重いわ」 

 

紗夜(私にも恋人役なんて荷が重いと思いますが……) 

 

友希那「だからあなたにしか頼めないの。お願いできないかしら、紗夜」 

 

紗夜(でもその言い方は少し卑怯だわ……まったく) 

 

紗夜「……はぁ、分かりました。音楽のことではないのでどれだけの力になれるかは分かりませんが、これもロゼリアのためです。その役目を引き受けましょう」 

 

紗夜(私も甘くなったというか……昔ならすぐに断っていたでしょうね。それだけロゼリアという居場所が私にとって大きくなっているのかしらね……)

 

友希那「ありがとう。紗夜ならそう言ってくれると信じていたわ」 

 

紗夜「ただ、湊さんと同じく私にもそういった恋愛の経験はないのであまり期待を――」 

 

友希那「お礼と言ってはなんだけど、これ、リサがバイト先の知人から貰ったっていう羽沢珈琲店のコーヒー無料券5枚組よ。最近よく行くって聞いたから紗夜にあげるわ」 

 

紗夜「――裏切る不自然な恋人にならないよう全力で取り組みます」 

 

友希那「それでこそロゼリアよ」 

 

―――――――――― 

――――――― 

―――― 

……

 

――CiRCLE・スタジオ内―― 

 

――ジャーン…… 

 

 

友希那「今のはなかなか良かったわね」 

 

紗夜「ええ。ですが、これで満足していてはいけません。もっと上を目指していかないと」 

 

リサ「あははは、紗夜は相変わらずだねぇ。でもそろそろ休憩にした方がいいんじゃない? もう一時間ずっと弾きっぱなしだしさ」 

 

紗夜「いえ、いい感触を得た時こそ、もう少し練習を続けてこの感覚をモノにするべきです」 

 

友希那「確かに紗夜の意見はもっともだわ。……でも、流石にあなたも少し疲れているんじゃない? 手を見せてみて」 

 

紗夜「え……」

 

友希那「ほら、やっぱり少し手が荒れているわ。ロゼリアのために――私たちのためにもっと上達したいという気持ちはすごく嬉しいわ。でもあなたが自分を追い詰めてまで練習に打ち込む姿は見たくないの」 

 

紗夜「湊さん……」 

 

友希那「紗夜には綺麗でいてほしいのよ。だから少し休憩にしましょう」 

 

紗夜「……あなたにそこまで言われてしまうのならば従うしかないですね。分かりました、休憩にしましょう」 

 

友希那「ありがとう。素直な紗夜は好きよ」

 

あこ「……ねぇりんりん」 

 

燐子「どうしたの、あこちゃん」 

 

あこ「なんだか今日の友希那さんと紗夜さん、やたら距離が近くない?」 

 

燐子「う、うん、なんだかそんな感じがするね……」 

 

あこ「なんか手を取り合っちゃってるしさ。二人とも何かあったのかな?」 

 

燐子「ど、どうなんだろう……確かに話してることはいつもとそんなに変わらない……けど、様子がちょっと違うね」 

 

あこ「あ、もしかして!」

 

燐子「ど、どうしたの、あこちゃん」 

 

あこ「二人だけで秘密の特訓をして、闇の契約を交わした我らを隔たる壁はなくなった……そして、こう、ズバババーン! って仲が良くなったのかな!?」 

 

燐子「え、えっと、それは……どうだろ……」 

 

リサ「はいはい二人とも。せっかく友希那から休憩にしようって紗夜を説得してくれたんだし、話はそこまでにして、カフェに甘いものでも食べに行こうよ。休めるうちに休まないと後が大変だぞー?」 

 

紗夜「そうですね、休む時はしっかり休むのも上を目指すには必要なことです」 

 

友希那「その通りよ。妥協を許さないためにもコンディションは常に最善を保たなければいけないわ」

 

あこ「はーい。それじゃ、カフェにしゅっぱーつ! りんりん、行こー!」 

 

燐子「うん、あこちゃん」 

 

リサ「あ、そうだ。今日もクッキー作ってきたんだ。みんなで食べない?」 

 

あこ「ほんとー!? 食べる食べるー!」 

 

燐子「ありがとうございます……私も頂きますね……」 

 

リサ「はいはーい。じゃあカフェに持ってって食べよっか。友希那と紗夜は?」

 

紗夜「……その、今井さんの後で非常に言いづらいんですが、私もまたクッキーを作って来ていて……」 

 

リサ「あ、そーなの? そしたらアタシのと一緒に食べよっか」 

 

紗夜「ですが、今井さんのものと一緒にだとやはり……きっと私のクッキーはそこまで美味しいものではないでしょうから……」 

 

あこ「えー、紗夜さんのクッキーも美味しいですよー?」 

 

友希那「そうよ。あなたはもっと自信を持っていいわ、紗夜」 

 

紗夜「そう、でしょうか……」 

 

友希那「ええ。それに味よりも大事なものがあるわ。誰が作ってくれたかとか、どんな気持ちが込められて作られたかとか、そういったもの。紗夜が私のために作ってくれたんだもの、それだけでそのクッキーは素晴らしいものだわ」 

 

紗夜「湊さん……あなたにそう言ってもらえると、その、嬉しいですね……」 

 

リサ「なんか今日、友希那がやけに紗夜に甘いような……?」 

 

友希那「そうかしら。私はいつも通りだけど。ねぇ紗夜?」 

 

紗夜「そうですね。いつも通り、湊さんはとても優しいと思います」 

 

リサ「ふーん?」 

 

リサ(……今日くらい紗夜に優しくする友希那なんて見たことないけどなぁ)

 

リサ(でもそれだけ他の人に気を配れるようになったってことだよね。やっぱり友希那もちょっとずつ変わっていってるんだなぁ……うんうん) 

 

友希那「……リサ? 今、何か私を子ども扱いしているようなことを考えていないかしら?」 

 

リサ「え、そんなことないよ。友希那も変わったんだなーって思ってただけだよ」 

 

友希那「……そう。ならいいんだけど」 

 

リサ「さ、早くカフェに行こっか。あんまりここでのんびりしてると休憩する時間が無くなっちゃうしね」

 

紗夜「そうですね。休憩は大事だと先ほど言いましたが、だからと言ってダラダラと時間を使うのは無駄になりますから」 

 

リサ「はーい。それじゃ、行きますかー」 

 

あこ「わーい、リサ姉と紗夜さんのクッキー、楽しみだなー! 早く行こうよーりんりん!」 

 

燐子「あ、あこちゃん、ちょっと待って……引っ張らないで……!」 

 

リサ「あはは。転ばないようにね、二人ともー」 

 

友希那「……うーん」 

 

紗夜「……湊さん? どうかしましたか?」 

 

友希那「カフェで話すわ。私たちも早く行きましょう」 

 

紗夜「え、ええ。分かりました」 

 

―――――――――― 

――――――― 

―――― 

……

 

――CiRCLE・カフェテリア―― 

 

友希那「またリサに子ども扱いされたわ」 

 

紗夜「そうでしたか? 私にはそう見えませんけど……」 

 

友希那「私には分かるわ。リサがしみじみした風に頷いた時は、必ずと言っていいほど私のことを我が子の成長を噛みしめる母親の気持ちで見ている時よ」 

 

紗夜「そう今井さんが言っていたんですか?」 

 

友希那「いいえ、直接は聞いてないわ。でも幼馴染としての勘で分かるのよ。間違いないわ」 

 

紗夜(そこまで自信があるんですか……なんという以心伝心……)

 

友希那「このままではいけないわ。多分、リサは今日の私と紗夜を見ても『仲が良いな~』くらいにしか思っていない。やっぱりもう少し踏み込んだことをしなければ」 

 

紗夜「すでに他のメンバーとは離れて湊さんと二人きりでテーブルについていますが、これよりもですか」 

 

友希那「ええ。という訳でこの紗夜が作ったクッキー……」 

 

紗夜「私のクッキー?」 

 

友希那「……半分だけ食べて。はい、あーん」 

 

紗夜「え!?」

 

友希那「(リサの目を引かなくちゃいけないわね……少しだけ大きい声を出しましょう)紗夜。私は料理に興味がないからお菓子とかは作れないけれど、こうやってあなたを労うことは出来るわ」 

 

紗夜「あ、ええと……ありがとうございます、湊さん。ですが人前だと少し恥ずかしいので……」 

 

友希那「そう遠慮することはないわ。いつものように食べてくれないかしら」 

 

紗夜「う……わ、分かりました。それでは……あ、あーん」 

 

友希那「はい。……どう? 美味しい?」 

 

紗夜「こんな風に食べさせられても味なんて分かりません……」 

 

友希那「そう? あなたが作ってくれたクッキー、リサに負けず劣らずだと私は思うわよ。……はむ」 

 

紗夜(あ、今の食べかけクッキーをそのまま自分で……)

 

友希那「……ふふ、やっぱり美味しいわ。いつもありがとう、紗夜。照れているあなたはいつにも増して可愛いわよ」 

 

紗夜「み、湊さん、あまりからかわないでください……!」 

 

友希那「あら、冗談ではなく本心よ?」 

 

紗夜「もう……知りません」 

 

紗夜(ふい、とそっぽを向けるついでに今井さん達のいるテーブルを確認してみましょう) 

 

紗夜(……宇田川さんはクッキーに夢中、白金さんは少し戸惑ったようにこちらへチラチラ視線を送っている) 

 

紗夜(肝心の今井さんは……何かしみじみした風に頷いてるように見えますが……) 

 

友希那「くっ……」 

 

紗夜(湊さんもそれを見たのか悔しそうな反応をしている……)

 

友希那「またリサは私を子ども扱いしているわ……。これでもまだ足りないと言うの……?」 

 

紗夜「あの、湊さん。落ち込んでいるところに申し訳ないんですが……一つ思い至った点があります」 

 

友希那「どうしたの? なにか妙案があるの?」 

 

紗夜「いえ、妙案というものじゃないんですが……そもそも、同性同士が付き合ってるなんて、雰囲気で伝わるものなんでしょうか」 

 

友希那「え?」

 

紗夜「例えば男女でこういうことをすれば『二人は恋人同士』と察しますが、女性同士でやっていても『すごく仲が良い友人同士』としか見られないんじゃないでしょうか」 

 

友希那「そうかしら……?」 

 

紗夜「ええ、恐らく。今井さん方を少し窺った様子ですと、白金さんだけが少しそう感じているだけで、肝心の今井さんは友人同士の微笑ましいやり取り、としか見ていないと思います」 

 

紗夜「特に今井さんには友人も多いでしょうし、そういった悪ふざけをするところも見たことがあるんでしょう。宇田川さんに至っては色気より食い気、といったようにクッキーに夢中ですし」 

 

友希那「そ、そう……ならキスでもすればリサも騙せるかしら?」 

 

紗夜「っ、さ、流石にそれはもう恋人同士のフリを通り過ぎているかと……」 

 

友希那「そう……そうよね……」 

 

紗夜(そこで残念そうにシュンとするのは色々と誤解されそうなのでやめて欲しいわね……)

 

友希那「……どうすればいいのかしら……このまま結果が出ないと付き合ってもらった紗夜にも申し訳ないわ……」 

 

紗夜「……いえ、湊さん。まだ落ち込むには早いです」 

 

友希那「え?」 

 

紗夜「雰囲気で伝わらないのであれば、直接言えばいいんです」 

 

友希那「直接?」 

 

紗夜「はい。スタジオから帰るときに途中からは今井さんと二人になりますよね? ですからその時に告白すればいいんです」

 

友希那「……リサはそれを信じるかしら」 

 

紗夜「信じさせるための布石が今日の私と湊さんの行動です。確かに雰囲気だけで見るのなら親しい友人同士で止まるでしょうけど、言葉にして伝えるなら説得力になります」 

 

紗夜「恐らくですが、白金さんは私たち二人をそういう穿った視線で見ているきらいがあります。つまり私たちの行動はそれだけ真に迫るものがあったということ。そこに幼馴染からの真摯な告白が重なれば、今井さんとて信じざるを得ない。……私はそう思います」 

 

友希那「な、なるほど……確かに言われてみるとそうかもしれないわ」 

 

紗夜「ええ。ですから今日の二人の行動は無駄ではありません」 

 

友希那「そう……そうよね。ありがとう紗夜。やっぱりこの件はあなたに頼んで正解だったわ」 

 

紗夜「これもロゼリアの為ですから」 

 

友希那「そうだとしても、こんなにも尽くしてくれたんだからちょっとお礼をしなくちゃいけないわね」 

 

紗夜「いえ、そんな気遣いはいりま――え?」

 

紗夜(不意に湊さんの顔が近づいてきたと思った次の瞬間、頬に柔らかな感触が伝わる) 

 

紗夜(……頬に口づけされたのだと気付くまでに二秒、顔が熱くなったのはそのすぐあとのことでした) 

 

友希那「ありがとう、紗夜。私はいつもあなたに助けられてばかりだわ」 

 

紗夜「……それは卑怯だと、思います」 

 

友希那「ごめんなさい。こうすることでしか感謝の気持ちを伝えられないと思って」 

 

紗夜(そう言って優しく微笑む湊さんに『やりすぎでは?』と言おうと思いましたが、不思議と嫌な気はしなかったので何も口にすることができませんでした) 

 

―――――――――― 

――――――― 

―――― 

……

 

――練習終わり、帰り道―― 

 

リサ「いやー、今日もいっぱい練習したなー」 

 

友希那「そうね。みんなの士気も高いし今日はなかなか有意義に時間を使えたわ」 

 

友希那(練習もつつがなく終わった。CiRCLEから出てもう私とリサの二人きりの状況。紗夜の作戦を実行に移すのは今ね……) 

 

友希那(でもどう切り出そうかしら。あまり時間をかけると家に着いてしまうわ)

 

リサ「うんうん。しばらくは大きなライブもないけど皆すごく頑張ってるよね」 

 

友希那「ええ。これもみんながロゼリアのために行動してくれているおかげよ」 

 

リサ「そうだね、最近はあの紗夜もクッキーとか作って差し入れてくれるし、やっぱりこういうのって大事だよね」 

 

友希那(リサから紗夜の話題に触れた……ここね) 

 

友希那「そう……そうね。ところでリサ、少し話は変わるんだけど」 

 

リサ「うん? どしたの友希那、神妙な顔して?」

 

友希那「あなたの目には、今日の私と紗夜はどう映った?」 

 

リサ「んー? 友希那と紗夜?」 

 

友希那「ええ」 

 

リサ「そういえば今日は二人ともすっごく仲良さそうにしてたよね。この前も紗夜の相談に乗ってあげたみたいだし、それでお互いのことをもっと分かり合えたのかなー……って感じ?」 

 

友希那「……そう」 

 

友希那(やっぱりあの程度ではリサには仲の良い友達同士のやり取りにしか見えていなかったのね……)

 

リサ「あれ、どしたのそんなに肩を落として」 

 

友希那「いいえ、何でもないわ。それで、私と紗夜のことなんだけど……」 

 

リサ「ん? うん、二人のことなんだけど?」 

 

友希那「…………」 

 

友希那(そういえばどういう風に告白するのか考えていなかったわ。なんて言えばいいのかしら) 

 

リサ「おーい友希那ー?」 

 

友希那(……変に取り繕うのもおかしいかしら。なら分かりやすくストレートに伝えればいいわね)

 

友希那「ごめんなさい、なんて言えばいいか少し考えていたわ。それで、私と紗夜なんだけど――」 

 

リサ「うん、友希那と紗夜が?」 

 

友希那「――実は付き合っているの」 

 

リサ「……はい? つ、付き合ってる?」 

 

友希那「ええ。言葉の通りの意味よ」 

 

リサ「え、えーっと、ちょっと待ってね、今頭の中を整理するから……」

 

友希那(……リサが珍しく驚いて困惑している。これは……いいわね、頂点へ狂い咲けそうな気持ちよ) 

 

リサ「その、言葉通りの意味でって、つまり男女間――ああいや、恋愛的な意味での交際宣言?」 

 

友希那「ええ。そんなに驚くようなことかしら」 

 

リサ「いやいや、驚かない方がおかしいって!」 

 

友希那「リサも見たでしょう? クッキーを『あーん』したり、頬にキスしているところを。普通、そういう事をするのはいわゆる恋人同士だけじゃないかしら」 

 

リサ「あ、うん確かにカフェで見たけどさ……いや、そういうのもさ、仲のいい子となら普通にやるかなって思ったからさ」 

 

友希那(流石リサね……伊達に社交的じゃないわ。彼女にとってこの程度は日常茶飯事の出来事だったという訳ね)

 

リサ「いやでも……うーん……実は私をからかってたりとかしない?」 

 

友希那「いいえ。私は――いえ、私たちは本気よ」 

 

友希那(あまり長引かせるとボロが出る可能性もある。ここは強気に攻めるべきだわ) 

 

リサ「そ、そっかー……。えと、このことは燐子とあこは……」 

 

友希那「まだ知らないわ。リサより先に誰かに伝える訳ないじゃない」 

 

友希那(というより恋人のフリだから伝える予定はないわ) 

 

友希那「リサ、他の誰でもないあなたにだけは分かってもらいたかったの。だから一番にあなたに伝えるのよ」 

 

友希那(そう、『ぎゃふん』と言わせて私を子ども扱いするのをやめさせる為に、ね)

 

リサ「友希那……」 

 

リサ(そう……そうだよね。友希那だってもう高校二年生だもん。好きな人との交際の一つや二つはあるよね) 

 

リサ(ちょっと思ってたのとは違う交際宣言だったけど……でも友希那が選んだんだもん。紗夜だって全然悪い子じゃないし) 

 

リサ(アタシに一番に伝えてくれたのだって、アタシのことをそれだけ信頼してくれて……交際相手が交際相手だし言い辛かったと思うのに、きっと勇気を出して告白してくれたんだ) 

 

リサ(やっぱり友希那の中で、アタシは一番に信頼できる友達……なのかな) 

 

リサ(それならすごく嬉しい。嬉しい。嬉しい……)

 

友希那「……リサ? あの、大丈夫?」 

 

リサ「え?」 

 

友希那「なんだか顔色が悪いわよ?」 

 

リサ「え、そ、そうかな? そんなことないと思うよっ」 

 

友希那「そう?」 

 

友希那(顔色真っ白だけど……ちょっとやりすぎたかしら……) 

 

リサ「う、うんうん、大丈夫大丈……夫」 

 

リサ(……嬉しいはずなのに、なんだか胸が締めつけられるようにキュッと痛い)

 

リサ(小さなころからずっと一緒で、お互いのことで知らないことなんてなくて……) 

 

リサ(でもきっと、アタシの知らない友希那を紗夜は知ってるんだ。そしてこれからもっともっと知っていくんだ) 

 

リサ(それは悪いことじゃないのに、友希那が誰かと楽しそうに笑うのはすっごく嬉しいことなのに) 

 

友希那「リ、リサ……!?」 

 

リサ「……え?」 

 

友希那「な、涙が……」 

 

リサ「あ、あ……」 

 

リサ(なんで涙が出てくるんだろ……っ)

 

友希那(まずい、まずいわ、やり過ぎたわ、まさか涙するほど驚くなんて、そこまでするつもりじゃなかったのに) 

 

リサ「あ、あっははは、ごめ、ごめんね、ちょっとさ、最近、寝不、寝不足だったから、さ……」 

 

リサ(ああ駄目だ。このままだとものすごく嫌なこと考えちゃう) 

 

友希那(ど、どうしよう、どうすればいいのかしら。紗夜に電話? いや紗夜も流石にこんな事態は想像してないわよね、というかこんなリサを放って電話なんて出来ないわ) 

 

リサ(紗夜でいいなら、友希那の隣にいるのが女の子でいいなら――) 

 

友希那(本当に、ちょっとびっくりさせてちょっと私に対する認識を改めて欲しかっただけなのに、なんでこうなってしまったの……) 

 

リサ(――なんで、それがアタシじゃ駄目なんだろって、嫌なこと考えちゃう) 

 

友希那(……そういえば、『ぎゃふん』と言わせた後のことを考えていなかったわ。これ、この後どうすればいいのかしら……?)

 

リサ(紗夜よりもアタシの方が友希那のことを知ってるし、きっと幸せにできる。だからきっと、アタシが隣にいた方が友希那も幸せになれる――なれるハズなんだ) 

 

友希那「ちょ、ちょっとリサ、本当に大丈夫? 一人で歩ける? 無理そうなら肩を貸すから――」 

 

リサ「……ううん、大丈夫だよ友希那」 

 

友希那「そ、そう? それなら早く帰ってゆっくり休みましょう?」 

 

リサ「うん。……でもその前にちょっといい?」 

 

友希那「え? きゃっ――」

 

友希那(フラリとリサが寄りかかってきたと思った次の瞬間、私は塀を背に押し付けられていた。そして逃げ場を塞ぐようにリサの両手も塀につけられる) 

 

リサ(……壁ドン、しちゃった) 

 

友希那「リ、リサ……?」 

 

リサ「うん」 

 

友希那「これは一体どういう……」 

 

リサ「うん」 

 

友希那(リサの反応が薄い……目もどこか虚ろだし……なんだか怖い) 

 

リサ(あー、きっと友希那怖がってるだろうな。アタシ、何やってんだろ。こんなことしても何も変わらないのに)

 

友希那「ほ、本当に大丈夫? どこか調子がおかしいんじゃない?」 

 

リサ「うん。そうかもしんない」 

 

友希那(……なんだか、今更かもしれないけど、ちょっと身の危険を感じる……) 

 

リサ(ああ、こんな時でもアタシを気遣ってくれるんだ、友希那は。こんな状況でも相手を思いやれるなんて、やっぱり友希那は優しいね) 

 

友希那(あれ、本当にこれ何か冗談じゃ済まない雰囲気になってないかしら……?) 

 

リサ(アタシ、きっと友希那を子ども扱いしすぎてたんだなあ。まだまだアタシが付いててあげなくちゃ、なんて思って、アタシから友希那が離れることなんて一切考えてなかったんだ)

 

リサ「ごめんね、友希那」 

 

友希那「な、なにが、かしら?」 

 

リサ「…………」 

 

友希那(む、無言になられると困るわ……) 

 

リサ(友達なのに、幼馴染なのに、ずっと友希那のことを下に見ちゃってたんだなー。身勝手なんだな、アタシって) 

 

リサ(なら、もう自分の身勝手に身を任せちゃお) 

 

友希那「リ、リサ。その、なんがか顔が近いわよ?」 

 

リサ「うん。ごめん。ごめんね」

 

リサ(友希那の顔がどんどん近づいている。いやアタシが近づけているのか。友希那はすごく困ったような表情をしていて、それがまた可愛い) 

 

リサ(いつもは凛々しいのに、猫のことになると緩む目じり。力強く歌を奏でる唇) 

 

リサ(視線がそれから外せない) 

 

リサ(ああ、もう友希那がすぐそこにいる。視界には友希那しか映らない) 

 

リサ(アタシは友希那の唇に自分の唇を――――

  

―――――――ジリリリリリリリ!! 

 

リサ「うわぁ!?」

 

リサ「……あ、あれ? ここ、アタシの部屋……?」 

 

リサ(周りをキョロキョロ見回すと見慣れた自分の部屋) 

 

リサ(そして枕元でけたたましく鳴り響く目覚まし時計) 

 

リサ(目の前には困惑した友希那なんている訳もなく、右手側にあるドレッサーの鏡には寝ぼけた目をした寝ぐせ付きの自分の顔が映っていた) 

 

リサ「……ゆめ?」

 

リサ「…………」 

 

リサ「――ああぁ……っ!!」 

 

リサ(消えたい……今すぐこの世界から消えたい……!!) 

 

リサ(幼馴染から同性の友達と付き合ってるって告白されて、それに嫉妬して無理矢理キスする夢――!?) 

 

リサ(なにそれ!? アタシってそんなシュミあったの!?) 

 

リサ(いやないないない! 友希那は大切な幼馴染だけど、そういうのないから!!)

 

リサ「っていうか……今日どんな顔して友希那に会えばいいんだろ……」 

 

リサ(まず朝一緒に学校行くからこの後すぐに会うし……いや絶対に顔見れないよ……唇なんか目にしたらもう――) 

 

リサ「いやいやいや何を意識してんだアタシ!?」 

 

リサ「と、とにかく顔洗って準備して、気持ちを切り替えなきゃ……!」 

 

 そう息巻いたものの結局友希那の前で挙動不審になってしまい、八つ当たりで人参クッキーをロゼリアに(主に紗夜宛で)作っていくのはまた別のお話。 

 

 

 

 

元スレ

友希那「私と付き合ってくれないかしら」紗夜「……え?」https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1512610449/