アニメssリーディングパーク

おすすめSSを当ブログで再編集して読みやすく紹介! 引用・リンクフリーです

小町「お兄ちゃんを一番世話している私が、一番好かれるのは当然です!」【俺ガイルss/アニメss】

 

何となく点けられているリビングのテレビからは毎年この季節によく聞く名曲が流れていた。

 

あの「パジャマを脱いだら出かけよう」とかいって猥褻物陳列罪を推奨するあの歌だ。

やだ、なにそれこわい。

 

正解はケンタツキーのCMに使われてるやつ。

そう、「今年もクリスマスがやってくる」と予告してボッチを地獄に突き落とす赤紙的ソングだ。

 

いや逆に考えれば、あの歌が聞こえてきたらそれはクリスマスが近く、

おいそれと外に出るなと勧告しているようにも聞こえる。

 

そうなるとあれはボッチにとっては空襲警報とも捉えることができる。

 

どちらにしようとあれはクリスマス(聖戦)開始の予告なのだ。

 

だが、「クリスマスどうしよう」などと迷うのは恋人がいる奴や狙ってる人がいる奴、

若しくは訓練されていないボッチのすることだ。

 

俺ほどの訓練されたボッチならば、高々365分の1日に心をざわつかせたりしない。

 

ひっそりとベッドの上で布団に包まり、息をひそめ、ただ時間が過ぎるのを待てばいい。

なんならその時間を睡眠に充てると休養もとれて一石二鳥だ。

 

変に期待するからいけないのだ。

恋人ができなかったらどうしよう、友達にパーティー誘われなかったらどうしよう、

1人だったらどうしよう、と。

 

期待するから裏切られ、傷つき、空しくなるんだ。

 

なら初めから期待しなければいいだけのこと。

 

俺には恋人なんていないし、いらない。

 

俺にはパーティーに誘われるような友達もいないし、いらない。

 

そう、期待してはいけない。

 

期待は裏切りを生み、裏切りは痛みを生むのだから。

 

「あ~ケンタツキー食べたくなっちゃった」

 

ソファーに座っている小町がCMを見て購買意欲をそそられている。

 

どうでもいいけど、CMって意味あんの?

 

確か、どっかの企業は赤字になったから広告料を縮減したら、翌年は黒字に転化したとか聞いたことあるけど。

 

CMって別に印象に残らないし、見たからと言ってその商品買おうとか思わないし。

なんならそのCMが嫌いで商品とか企業が嫌いになることならあるけど。

 

つまりCMとは企業にとっても視聴者にとっても不要なものであり、番組作りのスポンサーを募るためのテレビ局側の罠でしかないのだ。

 

テレビ局は別に旨味でも何でもないCM広告をさも美味いもののようにチラつかせ、

それに騙された企業から集めた金で好き勝手な番組を作るだけでいい、なんともお気楽な商売をしている企業なのだ。

 

よって俺はテレビやマスメディアの言うことは信じない。

 

あいつらは金で人を踊らせ、金に踊らされているだけの利権主義者だからだ。

 

剣よりも、ペンよりも金が強しなのだ。

 

だからテレビが言う

 

「女の子がときめく胸キュンシチュエーション!」ってのも嘘だ。

 

あれは『※ただしイケメンに限る』と常にテロップを入れるべき。

 

俺はそれを信じて昔、その通りにやったら

 

「あ、比企谷君もあのテレビ見てたんだ~面白かったよね~」

 

と言って告白の返事を貰えずテレビの感想を貰えたことがある。

 

だからテレビの言うことはそれ以来信じていない。

 

「お兄ちゃん、小町ケンタツキー食べたくなっちゃった」

 

「お前さっき晩御飯食べたばっかだろ」

 

「いいの~別腹なの」

 

いや、ケンタツキーはスイーツじゃねえから同じだろ。

 

ってかスイーツでも胃袋は同じだよ。なに?女って牛なの?

 

「じゃあ明日はケンタツキーにでもすればいいんじゃねえか?

 偶にはお前も家事休んでいいだろ。親父に言ったらお前になら1万位すぐくれるよ」

 

「ん~そうしよっかな~でももったいないしな~」

 

ほら、ちょろい小町でさえひっかけられないCMに意味などないのだ。

 

「ってかお兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「お兄ちゃんは今年のクリスマスはどうするの?」

 

……来たよ。

 

『今年の~はなにするの』攻撃。

 

他にも正月やバレンタインやホワイトデーなど各種行事が取り揃えられています。

 

お前は俺のお袋かっつうの。

 

「今年もいつも通りだ」

 

これだけで通じるとか、なんて仲のいい兄妹なんだろうか。

 

いや、違うな。単に俺がワンパターンなだけ。

 

「え~今年はちょっとは変化あると思ったのに~」

 

「ねえよ、変化なんて」

 

そう、変化なんてない。

 

あるとすれば、ある女教諭に殴られ、脅されて変な部活に所属させられ、その部活動に従事させられているくらいだ。

 

字面だけだとSM部とかホスト部とかに入ってそう。

 

だから、変化なんてのは、ない。

 

「そういうお前はどうすんだよ」

 

これ以上聞かれるのも億劫だったから逆に質問し返す。

 

「小町は今年は我慢かな~?なんてったって受験生だし」

 

そんなアイドルみたいな言い方しなくても。

 

だが、と言うことは、そうでければ、または

 

「なら一緒にクリスマスパーティーするか?」

 

そう、妹と一緒にクリスマスパーティーを出来ると言うことではないだろうか。

 

いや、別に寂しいから代用としてパーティーしたいんじゃない。

 

純粋にこいつとクリスマスを祝いたいと思った。

 

それが純粋に気持ち悪い。

 

「ん~私はべつにいいけど~」

 

「なんか問題あんのかよ」

 

お前がいいって言えば問題ねえだろ。他に誰の許可が必要なの?

 

親父?親父なの?

 

大丈夫、小町がサンタコスして「よい子は寝てなくちゃいけないよ」とか親父に言えばあいつすぐ寝るから。

 

なんなら24・25日の丸々2日くらい寝て過ごすから。

 

けどそれだと社畜たる親父は仕事を休んでしまうことになり、ひいては比企谷家の収入も危うくなる。

 

ならこの案は危険だな。

 

「まあ、とりあえず考えとくよ」

 

そう言って小町が立ち上がる。

 

「じゃあ小町は勉強に戻るよ」

 

「ああ、頑張れよ」

 

リビングから出ていく小町を見送り、点けっぱなしだったテレビを見る。

 

番組もちょうどクリスマス特集。

 

クリスマスに恋人と過ごしたいスポットとかを特集していた。

 

俺はリモコンをとって騒音の元を断つ。

 

俺はテレビもマスメディアも人の言うことも信じない。

 

信じるのは自分だけだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

12月に入ると冬本番といった感じで学校に行くのも辛い。

というか、学校に行くのが辛い。

 

なんで寒い中出かけて学校と言う箱庭に詰め込まれなければならないのだろうか。

 

これが給料の出る仕事にだって行くの嫌なのに、ましてや無俸給の学校なのだからその苦痛たるや倍増しドンだ。

 

制服の上からダウンにマフラーに手袋にと防寒ばっちりでも寒いもんは寒い。

 

そろそろ宇宙服みたいに外気と完全遮断されてて、空調完備の服を作るべきだ。

 

セーターを首に巻いてる暇があるならそう言う服を一早く作れよファッション業界。

 

なんとか通学路を踏破し、学校にまでたどり着く。

 

総武高にはエアコンが付いている。

 

だから教室に入れば体も心も温まる幸せ空間が広がっている。

 

いつも通り静かに扉を開け、できるだけ目立たないようにして自分の席まで直行し、荷物を片付け早速寝る体勢に入る。

 

出来るだけ頭を低くする様は、まるで戦場において流れ弾から頭を守る兵士のようだ。

 

なにこれ、全然心温まらないんだけど。

 

けれど、どれだけ頭を低くしようと流れ弾が当たることはある。

 

それが教室などと限られた空間であればなおさらだ。

 

「マジやっべーわ~、マジクリスマスとかやべぇわ~」

 

いつもの通り教室の後ろに固まって喋ってる上位カースト陣から戸部の声が響く。

マジクリスマスってなに?マジじゃない手抜きクリスマスとかもあるの?

 

「隼人くんはどうすんの?もしかしなくてもオンナ?」

 

「いや、俺はその日ちょっと用事があってさ」

 

戸部の下世話な話題に爽やかに返す葉山。

 

「え~?隼人用事~?あーし、その日皆でパーティーしようと思ってたのに~」

 

三浦が例のごとく葉山にまとわりつく。

あんだけあからさまなアピールしといて、戸部の告白は駄目とかさすが女王様。

 

「ごめんな、ちょっと家族の方で用事があってさ」

 

まあ葉山も上流階級の御子息様だ。

 

雪ノ下家みたいにパーティーに参加しなきゃならんのだろうな。

 

「え~でも家族でクリスマスとかちょっとかっこい~さっすが隼人~」

 

クリスマスと家族がなんで格好いいになるんだろうか。

 

俺には全然分からないが、多分0を掛けるとなんでも0になるみたいに

 

葉山を掛けるとどんな事象も格好よくなるんだろうな。

 

なにそれ、差別反対。

 

世間も、その縮図たる学校も話題はクリスマス一色。

 

やだやだ、大人じゃない学生の内くらい世間と違うことをしたらいいのに、今から世間と同じことをするなんて。

 

こいつらは学生が何たるか、学生のメリットデメリットを全く弁えていない。

 

学生なんて社会人とは違って自由気ままな存在なんだから今くらい自由を味わえばいいんだ。

 

それを知っている俺は自由気ままに寝るとしよう。

 

クリスマスも、クラスの勢力図も、話題のトレンドも、俺には全く関係ない。

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

授業をそれなりに聞き流し、休み時間は寝て過ごしてたら放課後になった。

 

奉仕部の部室にはエアコンがない。よって温度で言えばこの教室のほうが温かい。

 

けど精神衛生上は格段に奉仕部部室の方が良好だ。例えそこに氷の女王がいようとも。

 

と言うわけで荷物を片付けたらそそくさと教室を後にする。

 

リノリウムの廊下は底冷えしており、なんとなく早足になる。

 

奉仕部の部室の前までたどり着き、扉に手を掛けるとやはり鍵が開いていた。

 

「あら比企谷君、眼球に霜が降りているようだけれど」

 

「……曇ってんじゃなくて濁ってんだよ」

 

教室の中には、いつもと変わらない雪ノ下が、いつもと同じ席に座り、いつも通りに読書に勤しんでいた。

 

雪ノ下は国際教養科の他の生徒のようにスカートの下にジャージを履くこともなく、

ダニが一杯付いていそうな膝掛けもしておらず、

いつも通り背筋を伸ばしてそこに座っていた。

 

ただ、こいつの凛とした雰囲気は周りの温度を下げる。

 

そのくせこいつは寒さなんて感じないかのようにいつも通りだ。

 

周りの温度は下げる癖に自分には被害がないとか、夏場の車と同じくらい迷惑な存在だった。

 

俺もいつも通りこいつの対角線上の席に腰を下ろし、鞄から取り出した文庫本を読み耽る。

 

二人の間には秒針が刻まれる音と、頁がめくられる紙の音だけが横たわっている。

 

しばらくすると雪ノ下が立ち上がって湯沸しポットに水を入れ、湯を沸かし始めた。

 

喉でも乾いたのかね。

 

そう思ってると廊下からタッタッタと走る足音が聞こえ、騒がしく扉が開かれた。

 

「やっはろ~」

 

「ええ、こんにちは由比ヶ浜さん」

 

だから何なの?こいつの察知能力。

 

雪ノ下のことだから聴覚・嗅覚が人並み外れてるってのもありえるし、

廊下に赤外線センサーを張り巡らしてたり由比ヶ浜に盗聴器仕込んでたりする可能性もある。

 

どちらにしようと恐い。

 

「ほら、ヒッキーもちゃんとあいさつしてよ」

 

「おう、ってか教室一緒じゃねえか」

 

そう言って一応右手を上げる。

 

由比ヶ浜も自分の指定席である雪ノ下の隣の席に腰を下ろすと、

それを見計らって雪ノ下が紅茶を入れた自分のティーカップ由比ヶ浜のマグカップを持って来る。

 

最近、雪ノ下の由比ヶ浜へのデレ方が半端ない。

由比ヶ浜の入室を察知して紅茶を淹れて、着席した瞬間にコップを差し出すとか

どこに出しても恥ずかしくないメイドレベル。

 

ここまでくるとヤンデレメイドになってしまいそうでこわい。

 

雪ノ下は残った紅茶を紙コップに入れ、眉根に皺を作った後にそれを俺に差し出してきた。

 

…毎回、微妙そうな顔されるから俺もなんかコップ持ってこようかな。

 

雪ノ下に礼をいい、紅茶を口にしながら小説の世界に戻る。

 

雪ノ下も読書に戻り、由比ヶ浜はいつも通りに携帯をピコピコ。

 

暑かろうと、寒かろうと、晴れだろうと、何だろうといつも通りの奉仕部。

 

師匠が走り回る月になってもそれは変わらない。

いいなあ、俺も師匠があくせく走り回って稼いだ金で楽して生きたい。

 

奉仕部は周りに流されず、感化されず、いつも通りの時間が流れていく。

 

そのことが少し俺の心を安らがせた。

 

「ね~ね~ゆきのーん」

 

携帯にも飽きたのか由比ヶ浜が雪ノ下のブレザーの左袖を引っ張る。

 

「なにかしら」

 

雪ノ下は袖を引っ張られることに迷惑を感じたのか右手で由比ヶ浜の手を外すために掴むと、

逆に由比ヶ浜から右手を両手で包まれて困惑していた。

 

なにこれ、お姉さま?マリアさまが見てるの?

 

「ゆきのんはクリスマスなにするの~?」

 

そうだ、ここには俺や雪ノ下のように唯我独尊、我が道を行くだけの人間だけじゃなくて、

流行や世間に敏感な由比ヶ浜もいるんだった。

 

なら当然、奉仕部の部室でもクリスマスの話題が出てくる。

 

「私は別に。クリスチャンでもないし教会にも行かなければパーティーに参加させられることも今年はないわ」

 

「クリスちゃん?」

 

おい、なにちゃん付けで呼んでんだよ。帰ってpixivで探してみよ。

 

キリスト教徒ではないと言うことよ」

 

「そっか~。ならゆきのん、一緒にパーティーしようよ!」

 

「え?」

 

そう返しのは不快感などからではなく、純粋に驚きによるものらしかった。

 

ふむ、俺も着実にユキノンマスターへの道を歩いているな。雪ノ下はキュレムっぽい。

 

「だって特に予定はないんでしょ?なら一緒に遊ぼうよ!」

 

ここぞとばかりに由比ヶ浜が攻める。こうかはばつぐんだ。

 

「え、でも……何をすればいいのか分からないし」

 

「そんなの別に決まってないからいいんだよ」

 

お?中々いいことを言うな。そう、決まりなんてクソくらえだ。

 

「一緒にケーキ食べて一緒に美味しいご飯食べて、一緒に遊べばそれでいいんだよ」

 

「それはクリスマスと呼べるのかしら」

 

クリスマスという行事としては不正解だが、クリスマスの過ごし方としては不正解じゃないだろう。

日本にはクリスチャンなんて多数派じゃないんだし。

 

「ようは楽しかったらいいの!」

 

「………」

 

雪ノ下は少し考えるように顎に手をやり、しばらく考えた後にこう返した。

 

「…ええ、ならばしましょうか。い、一緒に」

 

「うん!」

 

それを聞いて嬉しそうに抱き付く由比ヶ浜

 

それを跳ね除けるわけでもなく、困ったように頭に手を置く雪ノ下。

 

日に日に仲良くなる二人に俺は肩身が狭かった。

 

俺邪魔かな~?ここでも邪魔なのかな~?

 

出来るだけ邪魔しないように気配を消していたが、それでも物理的に消えることまではできなかった。

出来ていればそれは死んでいるってことだ。

 

「ヒ、ヒッキーはどうすんの?」

 

「あ?俺?」

 

「う、うん」

 

そこで俺は読んでいた文庫本に栞を挟んで置き、腕を組んで胸を張り、最大限偉そうな格好をする。

 

「小町とパーティーだ」

 

「……ぇぇー」

 

目の前には可哀想な人を見る由比ヶ浜の顔があった。

というか俺を見るいつもの目だった。

 

ということは俺はいつも可哀想な人であり、世界はもっと俺に優しくあるべきだと思いました。

 

「やはりシスガヤくんはクズね」

 

こちらは今まで見たこともないくらい柔らかい笑顔を浮かべてクズ認定してくる雪ノ下。

 

「おい、シスガヤとは何だ。俺はシスコンではなくて妹思いの優しい兄なだけだ」

 

「あら」

 

それは意外と言わんばかしに手を口にやる雪ノ下。

 

「私は『死ぬ』と言う意味で『死す』谷くんと言ったのよ」

 

そっちが意外だったのかよ。

ってか人の名前にさらっとザラキ混ぜてくるとかなんなの?ブリザードなの?

 

「簡単に死ぬとか言うな、悲しむだろ。俺が」

 

「他人がじゃないところがヒッキーらしいよね……」

 

「それより小町さんは本当にできた妹ね。こんな目の濁った兄にでも優しく接することができるなんて」

 

そうだろ、うちの小町はこんな俺にでも優しいんだからな。

つまり俺の評価が下がるほど、小町への評価が上がることになる。

 

人の不幸は蜜の味、幸せのパイは限られているのだ。

 

「おう、小町は本当にできた妹なんだからな」

 

「そう自信満々に身内自慢されるとこちらが恥ずかしくなるわね」

 

「でもそっか~ヒッキーは小町ちゃんとパーティーか~…」

 

「ふん、羨ましいだろ。小町とクリスマスを過ごせるのは世界にただ一人、この俺だけだ」

 

「ここまで来ると清々しいわね」

 

どうだ?羨ましいだろ!

 

は~本当に小町とのクリスマスは楽しみだな~。

 

クリスマスプレゼントには何を買ってやろうかな。

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

夕食後のリビング。小町が入れてくれたホットコーヒーを飲みながら妹との安らぎタイム。

 

「んで小町、クリスマスなにほしい?」

 

「ん~お兄ちゃんがいてくれたらそれだけでいいよ?あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「へいへい、それはどーも。んで、物としてはなにがいいんだ?」

 

「へ~お兄ちゃん買ってくれるの?」

 

「まあ、俺が出せる範囲ならな」

 

スカラシップ錬金術によって俺の財布は満たされているからな。

 

「ならそれも考えておくよ」

 

「それもって、ってかクリスマスパーティーはどうすんだ?」

 

「あ、それももうちょっと待っててほしいな~」

 

いや、待つのは別にいいけどよ。他に用ないし。

 

でも待つ意味が分からん。小町は友達とはしないって言ってんだし。

は!?まさか俺とはしたくないとか!?反抗期!?

 

なわけないか。今日も料理作ってもらってるくらいだし。

 

「別に構わねえよ」

 

「ありがと」

 

小町がぎゅっと抱き付いてくる。

妹のスキンシップはいい。勘違いとかしないし。

 

「じゃあ小町はお風呂に入ってきます」

 

「はいよ」

 

そう言って小町がお風呂場へと消えていった。

 

1人残された俺は覗きに行くこともなくソファーに寝っ転がってゲームをする。

 

すると腹の上にカマクラがどん!と乗って来た。

 

常日頃は俺に寄りつかないくせに、冬場は寄ってくる頻度が増える。

つまり寒さ対策に使われているだけである。

 

まあ俺もカマクラの暖かさが気持ちいいからいいけど。

 

腹の上にじんわり暖かさを感じていたら、俺は次第に降りてきた瞼によって視界が奪われてしまっていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

クリスマスまであと1週間。

すなわちそれは冬休みまでもう少しと言う意味も持つ。

 

冬休みは期間が短いが、それでもないよりあったほうが当然嬉しい。

 

だがこうなってくると、クリスマスだけじゃなく大晦日や正月、

冬休みを通してどうするかという話が放課後のクラスの喧騒を形成することとなる。

 

おいおいお前ら、冬休みだってのによくそこまで動ける気になるな。

 

将来、サビ残してくれそうで主夫志望の俺としては日本の将来は明るいと思いました。

 

休みは家から一歩も出ず、体を労わるからこそ意味があるのであって動き回るのであればそれは休みと呼ぶべきではない。

 

遊び回るならば休みとは言わず自由日とでも呼べばいい。

 

休みと言う言葉が本来の意味とは違う言葉として使われていることを嘆きながら早々に俺は教室を後にする。

 

部室にはいつも通り雪ノ下がすでにいた。

 

軽く挨拶を交わし、互に読書して時間を潰す。

 

いや、というか「潰す」という表現がもうおかしい。

 

読書なら家でやってもよくね?

なんで寒い部室で我慢してやらなきゃならないんだ。

 

奉仕部としての活動だって基本平塚先生からの伝手で来るんだし、アポ制にすればこんな無駄な時間は使わなくて済むのに。

 

先生的には俺達の変革も目的なんだろうが、しかしこうも単独行動が許されるのならばそれさえも望めない。

 

なら唯一それが望める悩み解決はやはりアポ制が効率的だろう。

アポ制なら前もって相談内容を把握・検討することだってできる。

 

というか千葉県横断お悩み相談メールがありなら全部メール対応でよくないか?

 

なら家からでも対応可能だし、いざとなりゃ居留守だって使える。

 

うん、だから先生は少なくとも俺をこの部室に縛り付けているんだな。

 

先生の慧眼に感服していると、また突然雪ノ下が読んでいた本を置いて扉を見つめ始めた。

 

なんだ?由比ヶ浜が来たのか?

 

俺もつられて扉を見ていると、コンコンとノックする音が響いた。

 

「どうぞ」

 

雪ノ下がその音に対して間髪を入れず涼やかな声で入室を促す。

 

「し、失礼しまーす」

 

そこに入ってきたのは見覚えがない男子生徒1人。いや、俺は大概見覚えがないが。

 

上履きの色を見ると黄色、即ち1年生だ。なら俺が知らなくてもセーフだ、許される。

 

ってかなんで雪ノ下は来訪を予期できんだよ。

由比ヶ浜限定じゃないところが恐い。

さらに見分けてるのがもっと恐い。

 

その男子生徒は部室をキョロキョロ、おっかなびっくり部室の中央まで進む。

 

そこまで進んで彼はどうすればいいのかまた辺りをキョロキョロ。

 

「比企谷くん、彼にイスを」

 

ああ、最近は気遣いの達人・結衣由比ヶ浜がいたせいでそんなことにも考えが回らなかった。

 

余ってるイスを彼の元へ持っていき、再び自分の定位置へ。

 

「どうぞ、そこに掛けて」

 

雪ノ下の声に従って彼が着席する。

まるで面接のような緊張感だ。

 

「あ、あの…平塚先生に相談ごとをしたらここに来るように言われたんですが」

 

なるほど、また平塚ブローカーからのルートか。

 

「ええ、そうよ。ここは『奉仕部』。悩みのある人にその解決の手助けをすることを目的とする部活です」

 

彼は変な所に迷い込んだわけではないことを確認すると、幾分ほっとした様子を見せた。

 

「それで、あなたの悩みを聞かせてもらってもいいかしら」

 

淡々とやるべきことを進める雪ノ下。

 

前から思ってたけどどう考えてもこいつに悩み相談は向いていない。

 

手術とかならこういう風に淡々としていてもいいが、なにせ「悩み相談」だ。

 

悩み相談なんてものは聞くのが主な仕事だ。

聞いて、共感し、一緒に悩む。

 

それだけで相談者は自己承認欲求を満たして満足する場合も十分ある。

 

その点、雪ノ下のやり方は客観的に問題を俯瞰しようとするだけで同じ立場・視点には立とうとはしない。

 

それは悩み相談にとっては致命的な問題であるように感じられた。

 

まあ偉そうなこと言ってるけど、俺もそんなことできない。

 

なんで知らない人間なんかの痛みに共感せねばならんのだ。

 

痛みは自分で耐えて、向きあって、理解して、乗り越えていくものであって、

他人に見せびらかすようなものではない。

 

まあ人それぞれで、俺みたいな奴ばっかりだったらそもそもカウンセラーもなにもあったもんじゃないけど。

 

「え、えーと…そ、相談と言うのは、ですね」

 

お?なんかこのモジモジ感。前に見た気がするぞ?

 

雪ノ下の方を見ると、彼女もこちらを見ていた。

 

つまり、彼女もこのモジ男に既視感を感じていたらしい。

 

中々話し出さない彼に雪ノ下が助け舟、というか新幹線のように結論への道を最短で走り抜けた。

 

「間違っていたらごめんなさい。あなたの悩みはもしかして恋愛に関するものかしら」

 

さっきまで俯き加減だった彼は正鵠を得たりと言わんばかしに雪ノ下の方を見る。

 

「は、はい!そうなんです」

 

やっぱりか……

戸部に引続き2件目の恋愛相談。最近流行ってんのかね。

 

というか、前は葉山からの伝手で相談部に戸部が訪れた。

 

だが彼はさっきなんと言ったか。

 

「平塚先生に相談ごとをしたら」

 

…………………………………………………………無知とは何と残酷なことだろうか。

 

平塚先生、泣いてないかな?

後で様子を見に行くとしよう。

 

雪ノ下が小さな声で唸り、少し考える仕草をする。

 

当然か、戸部の時も恋愛に関しては不得手っぽかったしな。

それに俺しかいないし。

 

恋愛どころか人付き合いに難しかない二人で事に当たってるんだからな。

 

いうなれば小学生が裁判長をやっているようなものだ。

痴漢に対して死刑を言い渡しちゃうレベル。罪刑法定主義

法律は私ですを地で行く雪ノ下ならしでかしかねない。

 

しかし、来るかも分からない由比ヶ浜を待つわけにもいかない。

 

雪ノ下もそう判断したのだろう。

 

「それで、相談内容は恋愛と言うことだけれど詳しく聞かせてもらってもいいかしら」

 

とりあえずは内容を聞くことにしたらしい。

 

「あ、えっとですね……今気になる人がいて。その子に告白しようかと思ってるんですよ」

 

ふむ、そりゃ告白を考えてなかったら相談には来ないだろう。

 

「それで?」

 

「えっとですね、それでできれば彼女に好きな人がいるのかとか調べたり、どうすれば成功するのかを聞きたいんですけど…」

 

なんだそれは。

うちはいつから興信所みたいなことまでやるようになったんだ?

 

好きな人がいるか調べろ?

それは自分でやれないことなのか?

と言うか相談なのかこれは。

 

「好きな人がいるかは自分で調べられないの?」

 

雪ノ下も疑問に思ったらしい。

 

「あ~、その、連絡先も知らないんで」

 

は?待て待て連絡先を知らない?

いやまあ、このご時世あまりないだろうが、携帯を持ってない可能性もある。

 

それに、学校では喋るがプライベートだとそこまで親しくない可能性もある。

それで告白はどうなの?とは思うが、好きのボーダーは人によって異なる。

 

長い付き合いの末に惚れることもあれば一目惚れもあるんだし。

 

「その相手の人は総武高校の生徒なの?」

 

そうじゃなきゃ俺たちの手には負えない。

 

「あ、はい」

 

「差し支えなければその人のことを教えてほしいのだけれど」

 

まあそうじゃなきゃ身辺調査はできそうもないからな。

 

「あ……えっと、2年の、その……由比ヶ浜さん、と言う方です」

 

なんとびっくり、お相手はあのお馬鹿丸出し由比ヶ浜だった。

 

まあ、戸部曰くは由比ヶ浜は男子に人気があるらしいし。

変ってこともないだろう。

 

驚いたのは俺と一緒だったようで雪ノ下も少し動揺していた。

 

「あ、え、その。少しだけ時間をもらってもいいかしら」

 

「え?はあ、別にいいですけど」

 

相談者から了解を得て雪ノ下が席を外して部室の隅の方へ。

 

何やら携帯を取り出してピコピコとやっているようだった。

 

多分、由比ヶ浜に「今は来るな」とか言ってんじゃねえかな。

 

しばらくしてメールを送り終えたのだろう雪ノ下が席に戻って来た。

 

「ごめんなさい。それで、あなたが好意を寄せているのは2年の由比ヶ浜さんということだったけれど。

 それは由比ヶ浜結衣さんで間違いないかしら」

 

「あ、はい。そうです」

 

ビンゴか。まあ由比ヶ浜なんて苗字、2年にはあいつだけだろうし。

 

「それで、先程の質問ですけど」

 

ん?質問?

 

「あ…はい」

 

「彼女には意中の人がいます」

 

「え?」

「え?」

 

思わず俺と相談者の彼の声がハモった。

やばい、甲子園目指そう。

 

相談者が雪ノ下の返答にフリーズする。

 

まあ人間なんて都合よく考えるものだ。

 

普通に考えたら自分が好きな人がいるなら、同じ人間で同じくらいの年齢の相手にもそりゃ好きな奴の一人や二人くらいいるだろう。

二人ってダメ?

 

だが恋は盲目、若しくは人間ってのは都合よく考えるせいかあまりそういうことを予測していない。

 

その点、俺なんて何重もの防衛戦で守られてるから超安全。

百人乗っても大丈夫なくらい。なにそれ、ガラクタばっかり入ってそう。

 

つまりは、俺は由比ヶ浜に好きな奴がいようともどうも思わない。

 

期待しなければ裏切られることもないからだ。

 

期待してはいけないのだ。

 

だが相談者の彼はそうでもなかったようだ。

自分の淡い恋心がもしかしたら叶うのではないだろうか。

 

そう夢想していたに違いない。

 

その期待は、現に諸刃の刃となって彼の内側から彼自身を切り裂いていた。

 

しかし人間の機微に疎いのか興味がないのか、雪ノ下は冷徹に、あるいは事務的に話を進めた。

 

「それで、彼女には想い人がいるわけだけれど。それでもあなたは彼女に告白すると言うのかしら。そうであれば私達としても対応を考えなければならないのだけれど」

 

まあ好きな人がいようと玉砕覚悟で告白することもあり得るだろう。

 

しかし彼は違ったようだ。

 

「あ、いえ………もう、いいです」

 

彼の顔は蒼白になっており、座っているのもやっとと言う感じだった。

 

「…そう」

 

雪ノ下はそれ以上何も言わない。

俺も黙っている。

 

よって部室の中には秒針の針が進む音だけが響き渡っていた。

 

その静寂に耐えきれられなかったのであろうか。

相談者が徐に言葉を発する。

 

「いや、いいんです。もう……

 それほど入れ込んでいたわけでもないですし。

 クリスマスも近いから彼女がいたらいいなって軽い気持ちだったんで」

 

あ、さようなら。

 

雪ノ下は、静かに、だが確かに怒りを湛えていた。

 

彼女から発せられる冷やかな怒気に体が震えること震えること。

 

罪状は死刑、罪名は雪ノ下を怒らせたこと。

 

俺はこれから発せられるであろう彼女の判決言い渡しを静かに見守った。

というか許されるのなら逃げ出したかった。

 

「少しいいかしら」

 

「え?あ、はい」

 

「この奉仕部は悩み解決の手助けを手段として自己変革を促すことを目的としているわ。

 だから一つ確認なのだけれど、あなたはクリスマスでなければ由比ヶ浜さんに告白する気はなかったと言うことかしら」

 

「あ~、そう、ですね。イベントでなければ告白までしようとは思わなかったと思います」

 

彼はショックが抜けきらないのだろうか。正直に自分の感情を吐露する。

正直者はいつだって馬鹿を見るのだ。今の彼のように。

 

「そう、ならばあなたは一生誰かに告白すると言うことを辞めた方がよさそうね」

 

「!」

 

雪ノ下の言葉に彼が目を見開く。

 

まあこんなに正直に怒りを乗せた言葉は早々お目にかかれるものじゃないしな。

日本人は言葉を何重にもオブラートに包んで、なおかつ包装に熨斗まで付けてお届けするのを良しとする民族だからな。

 

雪ノ下のように感情丸出しの言葉はあまり好まれるものじゃない。

 

だが、だからと言って俺はそれが悪いとは思わない。

 

オブラートに包んだ言葉は、ときに見落とされ、ときに曲解され、言葉の意味を見失う。

 

言葉とは言語、言語とは意思疎通を図るツールだ。

 

なら意思疎通ができない、しまいには阻害しかねない言葉にその意味はない。

 

その点、自分の考えを伝えようと裸の言葉を発する雪ノ下は、言葉を正しい風に使っていると言えるだろう。

 

まあ、もっと違う伝え方もあるのだろうけれど。

 

「あなたにとってはどうかは分からないけれど、人と付き合うというのはそれなりに重要でセンシティブな問題だと一般的には考えられているわ。

 それなのにクリスマスだからと言って恋人を欲しがるあなたは目的と手段をはき違えている。

 恋人がいるからクリスマスも特別な日になるのであって、クリスマスだから恋人を作るわけではないわ。

 それにクリスマスは別に恋人と過ごす日ではなく、特別な誰かと過ごす日よ。

 キリスト圏では家族で、日本でなら恋人や友人と言ったような人とね。

 あなたのようにペットやアクセサリー感覚で作るものでは決してないのよ、恋人というのは。

 あなたがそう言う感覚で恋人がほしいというのなら、同じ価値観を持つ人を探すか、それともずっと一人で生きていきなさい」

 

 

生まれてきてすいませんでした……

 

いや、俺にじゃないよ、雪ノ下の今の言葉は。だから謝る必要もなし。

 

違うよね?

 

強烈とも言える雪ノ下の言葉を受けて、相談者は顔を真っ赤にしていた。

 

そりゃそうだ。初対面の人にここまで足蹴に悪く言われたらな。

 

彼は挨拶をすることもなくダンと立ち上がると、そのまま扉をなにかの楽器かのように大きな音を立てて開け、

同様に大きな音を立てて閉めて出て行ってしまった。

 

ってか半分くらい扉開いちゃってますよ。

 

隙間風が寒いのでそそくさと閉めて、自分の席に座り、再び読書に戻る。

 

「……何も言わないのね」

 

いや、なんて言えばいいんだよ。

 

恐かったですとか?それとも御見それしましたとか言えばいいの?

 

言うことが見つからず俺は

 

「別に」

 

と文句があるとも取れそうな言葉しか出てこなかった。

 

だが雪ノ下は曲解することなく

 

「そう」

 

と言って携帯をいじり始めた。

 

由比ヶ浜への連絡かね。

 

あいつがあそこまで怒ったのには理由があるんだろう。

 

自分で努力せずに人任せだったこととか

 

ペット感覚で恋人つくろうとしたこととか

 

あとはそう、それが自分の特別な人である由比ヶ浜に降りかかった火の粉であったこととか。

 

まあ俺の予想だから分からんけど。

特に最後なんて否定されそう。

 

「フシアナくんは何を見ていたのかしら」

 

とか言われそう。

 

しばらくすると由比ヶ浜がさっきまでの出来事も知らずに呑気にやって来た。

 

「やっはろ~」

 

絶対に流行らない挨拶に対して俺と雪ノ下が普通に返し、それぞれが固定位置に座り、

雪ノ下が紅茶を運んできて、やっといつもの奉仕部の風景が戻って来た。

 

「ってか、ゆきのん!急に『今は来ないで』とかなに!?そんなにあたしのこと邪魔に思ってたの!?」

 

「あ、いえ…そういうわけじゃなくて。ちょっと焦っていて…

 携帯にも慣れていないから最低限伝えるべきことを伝えようと思ったらああいう文章になってしまったのよ。

 もちろん、あなたのことを邪魔になんて思ってないわ」

 

ほほう、焦る雪ノ下というのも中々レアな現象だ。

 

「さっきまで相談が来ていたのよ。それで、あなたには聞かせられないような相談だったからそうお願いしただけのことよ」

 

「……あたしに、聞かせられないような内容?……嫌味とか?」

 

さすが八方美人。そういうのには敏感になってしまうらしい。

 

「違うわ、そういうのではないわ。どちらかと言うとあなたに好意を寄せていると言った内容だったのよ」

 

「え!うそ!?」

 

由比ヶ浜がそれを聞き赤面する。こいつは本当に表情がコロコロ変わって分かりやすい。

 

「嘘ではないわ。けれど…」

 

「けれどなに?」

 

それは聞くに値しない下卑たものだった、とは言えない。

彼も彼なりの想いがあったのだろうから。

 

ただ平塚先生いわく、優しく正しい雪ノ下はそれを良しとはできなかった。

自分の正義に反する彼の想いを手助けする気にはならなかった。

 

雪ノ下がどう伝えればいいのか悩んでいたから俺が代わりに応える。

 

「そりゃ困んだろ。相談しに来て本人いたら」

 

「あ、そっか。そうだよね」

 

由比ヶ浜は納得してくれてるようだった。

 

「それに安心しろ、由比ヶ浜

 

「え?な、なにが?」

 

「雪ノ下はお前のことを特別だと思ってるらしいぞ」

 

「え!?」

 

「な!?」

 

由比ヶ浜は驚き、開いた口を手で押さえていた。

 

雪乃下は俺の言葉に驚きダンと机を叩き席を立ちあがっていた。

 

「ウソツキくん、なに虚言を垂れ流しているのかしら」

 

おいやめろその呼び方は。

 

昔、クラスで盗難事件が起きたときに俺がそう呼ばれていたことを思い出させるな。

 

仕返しに俺はさらに雪ノ下に攻撃する。

 

「だってそうだろ?なんてったって特別な人と過ごすんだからな」

 

「ん?」

 

由比ヶ浜はどうやらそれだけではわからなかったらしい。

 

だが当の本人はそんなことお構いなしに俺に抗議する。

 

「比企谷くん、あなたの耳は腐って、いえ、あなたの目と耳と脳は腐っているのかしら」

 

別に目と脳は付け足さなくてもよくね?耳も正常じゃね?

 

「私がさっき言った言葉はあくまで一般論よ。それは始めのほうに注意していたわよね。

 あの言葉は私の言った言葉全てに係ってくる言葉よ。それとも言葉が不自由な比企谷くんでは理解できなかったのかしら?

 つまり、特別な人と過ごす日というのはあくまでも一般論であって私個人の見解ではないわ。

 よって私が一緒に過ごす人が特段、私にとって特別であるということではないということになるわ」

 

なんでお前は一般論の範疇外なんだよ。

 

「あ、はい。分かりました」

 

だが言い争った所で利はない。

興味本位で突いただけなのだから、ここいらでやめとしよう。

 

「ん~なに言ってるかよくわかんなかったけど」

 

当の本人がこの調子なのである。

まあ雪ノ下が由比ヶ浜に害が及ばないように対処したのだからそれでいっか。

 

「でもでもゆきのん!ありがと!」

 

「え?」

 

「だってゆきのんがあたしに気を遣ってくれたってことでしょ?もうそれだけで十分うれしいよ!」

 

純真無垢な好意を向けられた雪ノ下は、鉄壁の氷壁も溶け出しているのではないかと思えるほど赤面していた。

 

というかデレていた。

 

「ば、馬鹿なこと言わないで。

 私は単に最良と思える手段を採ったというだけであってあなたに感謝されるようなことは何一つしていないわ」

 

「えへへ」

 

雪ノ下のツンも気にせず抱き付く由比ヶ浜

 

あ~やっぱ邪魔?絶対邪魔だよね?

 

そろそろ退部届に「ユリしくてユリしくてつらいよ」と書こうかと迷っていると由比ヶ浜が声をかけてきた。

 

「あ、ねえねえヒッキー」

 

「お?」

 

「ヒ、ヒッキーってなにか欲しいもの、ある?」

 

ふむ………。

 

「1万位が妥当じゃないか?」

 

「現ナマ!?」

 

「………」

 

由比ヶ浜は驚いたように、雪ノ下は戦闘力…たったの5か、ゴミめと言うかのような目を向ける。

 

「え?お年玉だったらそれ位が妥当だろ?だって俺もう17だし、高校生ですしおすし」

 

「あ、お年玉か」

 

「というかその年でもらうのも問題がある気がするけれど」

 

こめかみに手をやり片頭痛が酷そうな雪ノ下。

え?高校生でお年玉って普通じゃね?

 

……普通じゃないのかな。

 

「ちがくって。お年玉のはなしじゃなくてもっと、こう……現実的なもので」

 

現実的?お年玉もらうのってそんなに非現実的?

 

俺、超リアリストなのに?

近所で「比企谷さん家の長男は最近の若者特有の夢を見ない子だそうよ」

って言われるくらいなのに。

 

やばいその近所。俺の個人情報ダダ漏れ

 

「多分、由比ヶ浜さんは現金とかではなくてもっと物質的な要望はないのかと聞きたいのよ」

 

その雪ノ下の言葉に由比ヶ浜が首をうんうんと縦に振る。

 

すげえ、ユキペディアには翻訳機能もついてんのかよ。

 

けど、欲しい物、ねえ……

 

「本もCDもゲームもアニメの円盤も美味しい物も欲しい」

 

「ホビー商品ばかりと言うのがあなたらしいわね」

 

あなたらしい?俺の何が分かるんだよ。いや、分かるか。もう半年以上一緒にいるんだし。

 

「う~~ん、そういうことじゃなくて……」

 

俺の回答に由比ヶ浜が唸り始める。

 

なんだよ?俺の回答がそんなに悪いってのか?

 

「あ!そだ!例えば、小町ちゃんからプレゼントとしてもらうなら何が欲しい?」

 

「小町がそこにいてくれるだけで十分だ」

 

「シスコンだーーーー!?」

 

「……シスコンね」

 

え?シスコンか?家族はそこにいてくれるだけでいいだろ。

確かに両親が「傍に居るね」とかいって働かずにずっと自宅警備しているのも困るけど。

 

「だから、物でほしいとしたら何がいいの?って意味!!」

 

ん~小町は妹なうえに、常日頃感謝してるからあげることはあっても貰うとなると経験もないし。

 

けど、仮定で考えるならば

 

「なんだっていいんじゃないか?その人のために考えて選んだものだったら。

 それだけで貰った方としては嬉しいんじゃないか?」

 

「もっと具体的に言えし」

 

「なんだっていいんだよ、俺の趣味の物だっていいし小物だっていいし。

 何なら料理だって毎日してもらってるけど特別に作ってくれたのならそれだけでうれしいし」

 

「あ、馬鹿っ」

 

え?雪ノ下さん、馬鹿はひどくないですか?

 

もっとこう、包み隠して

「あなたはもしかして、可能性があるレベルのことなんですが馬鹿ではないでしょうか」

って言えんのか。

 

うん、どっちにしようと馬鹿。

 

「料理…料理……うん、わかった。ありがと!」

 

料理、するの?

 

由比ヶ浜の手料理を食う方へ、

 

すいませんでした。

 

そんなこんなで珍しく来た相談主を雪ノ下が一刀両断にした以外はいつも通りのだらけた奉仕部の活動をして今日もつつがなく終了した。

 

あ、ちなみに

 

平塚先生は職員室でPSPのギャルゲーをやっていたそうだ。

 

相談に応えるためか自分のためなのか。

 

どっちにしようと早く貰ってあげて!!じゃないと俺が攻略したくなっちゃうから!

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

「お兄ちゃ~ん」

 

部活を終えて家に帰るとカマクラを枕にして寝っ転がっていた小町が話しかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「前に言ってたクリスマスパーティーだけどさ。あれってイブ?25日?」

 

「俺はどっちでも構わないけど」

 

「そ、なら25日でいいよね?」

 

「ああ、問題ない」

 

「24日だと次の日終業式だからね~。冬休みに入った25日にやる方が気楽だし」

 

まあそうだな。次の日に無理に朝起きなくてもいいし。

ってか夜中までやるの?パーティーってそんなに大変なものだったの?

 

気軽にパーティーとか言っちゃって内心焦ってる俺とは裏腹に、

妹はどうやらやる気満々なようだった。

 

「小町頑張っちゃうから!楽しみにしててね☆」

 

バチンと音が鳴りそうなほど派手なウインクをかます小町。

 

お兄ちゃん、そういう態度は男を惑わすだけだから止めた方がいいと思います。

 

あ、もちろんお兄ちゃんにはしてくれていいけど。

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

由比ヶ浜に思いを寄せる1年生の相談を受けてから早1週間。

 

その間には特筆すべき事件も出来事もなく過ぎて行った。

毎週事件の起こる花米町は爆破するかおとり捜査に利用するかするべきだと思います。

 

ってなわけで昨日がイブで今日は25日。

つまり終業式。

 

なんでもイブはラブホテルが1年で最も混雑する日らしい。

 

つまり、目に映るあいつもこいつもホテル宿泊者である可能性は高い。

 

そんなにピストン運動がされているのならその運動エネルギーを発電に利用すべきだ。

これで日本のエネルギー問題も解決、少子高齢化も解消され環境もクリーンでオールグリーン。

 

わざわざ校長のありがたいご高説を聞くためだけに学校へ行き、

寒い体育館の中ではしゃぎすぎるなと一部の生徒にのみ言うべきことを延々と繰り返し、

教室に戻ってからは平塚先生がサクッと注意事項を説明して成績返却。

 

先生が男前でよかった。たまにいるよね、二度手間で同じ内容喋る奴。

 

そんなこんなで来た意味があったのか疑問視せざるを得ない行事を終えたら待ちに待った冬休み。

 

そう、俺は自由だ!

常日頃から自由だがより自由に。

 

そう、超自由人だ!

 

なんか弱そう。

遊んでばっかっぽいしルールとか守れなさそう。

確実に社会不適合者。

 

あ、自由と言えば部活はどうなるんだ?

 

特に今日に限らず冬休み中に活動があるのかは不明だ。

 

部長である雪ノ下の連絡先は未だもって知らないし、

それを知っている由比ヶ浜と言えば今はクラスメイトと喋るのに余念がない。

 

大変だよね、人間関係あると。

寂しくもないのに「また休み明けにね~」とか。

いや、会ってやれよ。休みの間にも。

 

つうわけで由比ヶ浜にも確認が取れない今、さっさと帰って知らんぷりをすることもできるが、

それをすると夏休みの合宿同様、知らない間に予定が組み込まれてどこかに拉致られる可能性もある。

 

それは後免蒙りたいので、とりあえずは部室に行くことに。

誰もいなかったらそれはそれ、正当な理由が手に入ると言うもの。

 

ダラダラと廊下を歩いて見慣れた部室の扉に手を掛けると開いてしまった。

閉まっててくれたらよかったのに。

 

ということは………

 

中にはやはり先客が一人。

 

「あら、今日は来ないかと思っていたわ」

 

「いや、それなんだけどさ」

 

俺はとりあえず座り慣れたいつもの席に座って雪ノ下の顔を見る……ふりをした。

 

ふ、ボッチは人の目をみると固まってしまうからな。

メデューサ状態。

 

「今日を含め、冬休みの活動ってどうなってんの?」

 

「そうね、それは一応あなたにも伝えておかなければならないわね」

 

何で一応なんだよ。俺も部員だろ、一応。

 

「実は私にもよく分からないの」

 

「は?」

 

「長期休暇の前には平塚先生から指示が来るのだけれど。今回はまだ来てなくて」

 

さもありなん。

 

クリスマスへのシュプレヒコールを叫ぶのに必死でこっちにまで気が回らなかったのかもな。

 

「なら先生に聞きに行くか?」

 

「ええ、その方がよさそうね。けれど、それも由比ヶ浜さんが来てからにしましょう」

 

まあ部室来て一人だけだとあいつ泣きながら帰っちゃいそうだしな。

 

と言うわけでいつも通り読書して待っていると由比ヶ浜がやって来たので、彼女に事情を説明して皆で職員室に。

 

雪ノ下が扉をノックし中に入っていく。

 

「失礼します」

 

俺達もそれに続いてぞろぞろ。

 

皆揃って平塚先生の下へ。

 

「おやどうした。皆揃って。あ、プレゼントは用意してないぞ?」

 

なんでサンタ気分なんだよ。それは自分の子供に………

 

この言葉は胸に仕舞っておこう、一生出てこないように。

 

「先生、プレゼントは結構ですから予定を教えてください」

 

さすが雪ノ下。

 

俺とは違って無用な突込みもせず端的に用件を伝える。

 

「お?予定か。そういや冬休みはどうするかまだ伝えてなかったな。で、どうする?」

 

「どうする、とはどういうことでしょう?」

 

雪ノ下が代表して質問する。

 

「なに、やりたいのなら部活動をしてくれても構わん、どっちみち私も出勤するのだから。

 だが冬休みに悩み相談に来る人は少ないだろ」

 

まあ確かに。ただでさえ大晦日や三箇日で帰省する人達もいるんだし。

 

俺達も話し合って全会一致で休むことにした。

短い間だしいいだろ。

 

「よしわかった。では今年の冬休みは奉仕部は休みと言うことにしよう」

 

そんな適当でもいいのか?俺的には休みなら問題ないけど。

 

「だが君たちも来年には受験生なんだ。勉強しろとは言わんがそれなりに節度ある休みを過ごすように」

 

先生らしい言葉を頂いて俺達は職員室を後にする。

 

「じゃあ俺帰るわ」

 

「ちょ!待ってよヒッキー」

 

歩こうとしていたところを首根っこ掴まれたもんで首が締まってしまった。

 

「おい、なんだよ。冬休みは活動休止だろ?それに今はもう冬休み期間だ。

 なら今も活動休止期間であって俺は働きたくないでござる。働きたくないでござるからな!」

 

「あなたはいつでも働かないじゃない」

 

雪ノ下の冷ややかな視線はスルー。

 

「休みだからって一緒にいちゃいけないわけじゃないでしょ!」

 

「まあそうだが……」

 

「な、ならさ!皆で打ち上げでも行かない?今年もお疲れさまでしたてきな」

 

「忘年会ね」

 

「そうそれ!」

 

え~?俺過去振り返らないよ?

もう毎日が忘年会だよ?だからもう飽きてんの。

 

そういう人の集まり的なものには拒否反応がどうしても出てしまう俺は、

なんて理由をつけて帰ろうかと考えていたところ携帯が鳴った。

 

あんまり学校で携帯が鳴らないからてっきり俺のじゃないかと思っちゃった。

 

携帯を見てみるとメールの差出人は小町。

 

開いてみると

 

「ごめんね、お兄ちゃん。

 パーティーの用意ができてないから、用意できるまでお外で時間を潰してきてほしいの。

 小町からのお・ね・が・い☆」

 

なんだこのキャバ嬢の営業メールみたいな文章は。

いや、そんなメール実際は見たことないから分かんないけど。

 

「どったの?ヒッキー」

 

「あー、何か小町から家の用事が済むまで帰って来るなとの通達が」

 

「そう、家でも除け者なのね」

 

そうじゃないやい!小町は俺とのパーティーを楽しむために用意してくれてるんだい!

ただ、このことは俺だけが知っていればいいこと。

 

俺と小町だけの二人の秘密。

 

ふふふ、超きもい。

 

「そっか、ならちょうどいいじゃん!皆でとりあえずどっか行こうよ」

 

まあ時間潰すのは一緒だしな。それにこいつらなら特に気を遣わなくてもいいし。

 

「わかったよ」

 

「それで、どこに行くのかしら」

 

「ゆきのん!あたしにまかせて!!」

 

え~?すっげ~ワクワクすんだけど。不安で。

寧ろ不安しかない。

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

「さ、ゆきのん!好きな物頼んじゃっていいから!」

 

なんでお前が奢るみたいな言い方なんだよ。え?奢ってくれんの?

 

「サイゼは安いから結構頼んでも安くすむんだから」

 

「なら由比ヶ浜、俺はドリアを奢ってほしいんだが」

 

「はぁ?なんであたしが奢んなきゃいけないの?自分で払えし」

 

いや、頼んじゃっていいっつったじゃん。

え?もしかして雪ノ下だけ?俺は?

 

「そう、なら私は以前から由比ヶ浜さんがお勧めしていたこのドリアを頂こうかしら」

 

それぞれがメニュー表を見て注文するものを決める。

 

注文も決まったところで店員を呼ぼうとボタンを押そうかと思ってると、雪ノ下が徐に手をぴっと上げた。

 

なんだ?ウチュウトノコウシンか?

 

「ゆきのん、このボタンを押せばいいから」

 

「え、あ……そう」

 

少し顔を赤くしながら雪ノ下がボタンを押す。

 

なにこれ、すっげえ可愛いんですけど。

けどやってるのは雪ノ下。そう考えると単にハイソサエティさを見せつけられたように感じる。

 

これが戸塚だったなら何の疑いもなく全力で愛でることができたのに。

 

注文を聞きに来たウェイトレスに注文をし、ドリンクを取に行って席に戻る。

 

「ってか任せろって言って連れて来んのがサイゼってどういうこと?」

 

俺が甘々コーヒー(八幡ジャロブレンド)を啜りながら由比ヶ浜に尋ねる。

 

「え?だってとりあえずなにするにしてもお腹減ってたらできないし」

 

この後も何かするのかよ。まあ俺は小町の準備が出来次第帰らせてもらいますが、三行半なわけですが。

 

「ってかお前らって昨日も一緒だったんだろ?」

 

「へ?違うよ?」

 

「ええ、昨日は一緒じゃなかったわ」

 

ああ、じゃあこいつらも今日一緒にパーティーすんのか。

それは邪魔して悪かったな。

 

「じゃあお前らは今日トマトやオレンジ投げたり花火の打ち合いをするんだな」

 

「はあ?そんなことしないし」

 

「色々な祭りが混ざり過ぎよ。まあロケット花火については時期は合ってるけれど」

 

そんあ他愛もないことをくっちゃべって料理が来るのを待つ。

 

というか周りの視線がうざい。

 

具体的に言うと

「なんでお前みたいな腐った目をしたヒキタニがそんな可愛い子と一緒にいるんだよ」

と言う視線だ。

 

ってかヒキタニって俺じゃなくね?

 

まあ由比ヶ浜も雪ノ下もタイプは違うが人目を惹く容姿だ。

 

言うなれば両手に花。

 

だから俺も鼻高々、「はな」だけにな!

 

なんてことにはならない。

 

花というのは自分の『み』(身と実のダブルミーニング。お、トリプル)を守るために棘や毒を備えている。

 

それは人間にも当てはまるもので高嶺の花なんてのは容易には手が届かないから「高嶺」な訳であって、

頑張って登ってる最中に地面に真っ逆さまなんて危険もあるし、頑張って手が届いてもそこには刺だらけの花。

 

人間、自分の丈に合った花を選ぶべきであって決して高望みをしてはいけない。

 

自重と自戒が最も長生きする秘訣であって、リスクは避けるのがベターだ。

 

そりゃリターンとの関係でベットするのも構わない場合もあるが、そこは俺。

 

大抵のことにはベットしない。

なんなら絶対当たると言われてもベットしないくらいだ。

 

え?それって賭けになってなくね?

 

だが俺は賭けない。

 

賭けるということは上を目指すと言うこと。

上を見ればその内足元をすくわれてこけて痛い目を見る。

 

ならば初めから上は見るべきでない。

 

無料でもらった期限付きのコインを握りしめ、遠隔操作で絶対当たると言われても俺はベットしないだろう。

 

上を見るとは期待すること、期待はいずれ自分を切り裂く。

 

くわばらくわばら。

 

そんなどうでもいいことを考えていると注文した物が目の前に置かれる。

 

「あ、ゆきのん!これが前に言ってたディアボロ風ハンバーグだよ。一口どうぞ~」

 

由比ヶ浜からのお勧めと言うこともあり雪ノ下が一口食べる。

 

「……ええ、この値段でこの味なら十分に美味しいわ。ニンニクやパセリが効いていて」

 

今の言葉で分かること。

 

一つ、やはり雪ノ下レベルだとファミレス料理じゃ満足しないこと。そりゃ当然だ。

 

二つ、雪ノ下は費用対効果で美味さを判断する。つまりはめちゃくちゃ美味くても高すぎたら「まずい」になることもあり得る。

 

以上、今日の雪ノ下観察日記でした。

 

雪ノ下は久しぶりに来たファミレスに興味津々なようで、

頼んだドリアや由比ヶ浜のハンバーグを完食した後もメニューを見てはあれこれ頼んでいた。

 

こういう一面はこいつも年相応、若しくはより幼く見えて大変微笑ましい。

 

ただ食べ切れない量を頼んで、当然のごとく俺に渡すのは辞めて頂きたい。

 

俺は残飯処理係ではないんだから。

 

食事もひと段落したところでこの後どうするかを女性二人が話し合う。

 

俺は邪魔にならないように隅っこで縮こまって雨と埃を食みながら辛うじて小町にメールを送る。

 

そろそろあいつの準備も終わった頃だろう。

 

すると程なくして小町から返信が届く。

 

「ごめんなさい(T^T)

 

 まだ準備が終わらないの。

 だからお兄ちゃんにお願い!

 常日頃お世話になってる雪乃さんと結衣さんにプレゼントを送りたいから何か買って来て❤

 あ、何を買うかはお兄ちゃんのセンスに任せるから!」

 

え?マジで?俺が買うの?それ小町的にポイント高いの?

 

まあ常日頃俺の世話に翻弄されている小町がプレゼントを買いに行けないのは俺にも原因の一端があるか。

 

ならここはお兄ちゃんが一肌も二肌も脱いで挙句に真裸になってあげましょうか。

 

「あ~すまん、俺ちょっと行かなきゃならん所ができた」

 

由比ヶ浜の携帯を一緒に見ていた二人に声をかける。

 

携帯で次どこ行くか決めていたのかね。

 

まあ別に俺がいなくてもいいんだろうし、理由だけ言って早々に離脱するか。

 

「どうしたのヒッキー」

 

「あ~小町にちょっとお使いを頼まれたんだわ。だから今からちょっと買い物に行かなきゃならなくなった」

 

「へ、へー奇遇だね。あたしらも今から買い物に行こうとしてたんだ」

 

「ええそうよ。全く不本意ではあるけれど目的が同じであるならば一緒に行動することも許可しないでもないわね」

 

「え?いやだから別に一緒じゃな」

 

俺が言い終わる前に言葉が被せられる。

 

「あなたにお使いをするセンスがあるの?」

 

うむ、確かに。

 

由比ヶ浜や雪ノ下へのプレゼントなんて俺なんかじゃちっとも検討つかん。

 

ならここは好意に甘えて本人に選んでもらってはどうだろうか。

 

プレゼントとしてはいかがなものかと思うが、何より貰う本人が貰って嬉しい物を送れる。

 

この安心安全のビックウェーブに乗るしかねえ。

 

「じゃあすまんが俺も一緒に行ってもいいか?」

 

「ええ、今日はクリスマスということで特別に許可するとしましょう」

 

「ほらヒッキー!そうと決まったら早速移動だよ!」

 

由比ヶ浜に急きたてられて急いで席を立つ。

 

あれ?なんで俺のお使いにセンスを要することを雪ノ下さんは気付いたのでしょう。

 

恐いから気付かなかったことにしておこう。

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

さて、とりあえず俺達は新宿に来ていた。

何で東京?

 

「私が好きなブランドが千葉にないのよ」

 

あ、そうなんですか。千葉に謝れ。

 

「で、ヒッキーは何のお使いを頼まれたの?」

 

「あ~……ゴミ袋?」

 

「え!?ゴミ袋!?コンビニで買えんじゃん!ってか東京にないし」

 

いや、それも聞かずに東京来たのお前らだろ。

 

まあいいや。本当の目的を達成するためにもう一つ嘘を吐くか。

 

「まあでも丁度良かった。俺から相談があるんだけどよ」

 

「相談?ヒッキーが?」

 

「ああ。小町にプレゼント送りたいんだけど迷っててさ。助力願えると助かるんだが」

 

また妹かと蔑む目にはもう慣れた、というかもはや飽きた。

 

「それで二人には、それぞれ『らしい』プレゼントを選んでほしいんだ」

 

「らしい?」

 

「というのは?」

 

なんで二人で台詞を分割するんだよ、双子なの?

 

「いや、小町はなんだかんだで年上であるお前らに憧れてるんだよ。

 だから、お前らが常日頃使いそうな服とかアクセサリーとかがあれば教えてほしいんだ」

 

ふ、どうだ。この完璧な誘導。

小町をダシにしてその実、プレゼントを貰う本人に好きな物を選ばせる。

 

こうなれば大きく好みが外れることはない。

 

俺は楽するためならば苦労も厭わない。

なんなら楽するためでしか苦労したくない。

 

「そっか~ヒッキーの言いたいことはわかった!」

 

「ええ、なら私達がいいと思うものを選んでいくわ」

 

というわけで早速お買い物へ。

 

まずは由比ヶ浜から。

 

彼女が連れてきたのはルミネエス○新宿店のCECIL M○BEE。

 

ふむ、パッと商品を見たかぎり

 

可愛いかどうかで言うとビッチ。

 

綺麗かどうかで言うとビッチ。

 

つまり全体的にビッチくさい、いかにも由比ヶ浜らしい店だった。

 

商品の中にはニットなのに肩や背中が開いており、暑いのか寒いのかよく分からん商品とか、

明らかにワカメちゃん状態必至のスカートとかがあり、由比ヶ浜のことがちょっとだけ心配になった。

 

おいおい、お前なんて物を人の妹に勧めようとしんてんだよ、お兄さん許しません。

 

だがまあ貰う本人がカワイイカワイイ言ってんだから問題ないか。

 

しばらく由比ヶ浜を見ていると次々と良いと思う商品をピックアップしていく。

 

俺を待たせたら悪いと思ってくれているのか、その動きはスピーディーだ。というかドタバタ行儀悪い。

 

しばらくすると由比ヶ浜がチョイチョイ手招きする。

 

「とりあえず、あたしがカワイイと思ったのはこんだけだから!」

 

ふむ、この中から選べばいいってわけだな。

 

「ちなみに由比ヶ浜が一番可愛いと思うのはどれだ?」

 

「え~?決めらんないよ~これもカワイーし、あ!これも」

 

ふむ、ならこの中から選んだらとりあえず由比ヶ浜の趣味には合致すると。

 

ならここからは俺の第一印象と第六感で行くとしよう。

 

1と6とかサイコロ持ってくれば良かった。

 

とりあえず、ボーと全商品を眺めると一つの商品に目が留まった。

 

「……おい、由比ヶ浜。これなんてお前的にはどうだ」

 

そう言って俺は一つのワンピースを指さす。

 

オフショルダーのニットワンピ。色は白とグレーのボーダー。

こういう肩丸出しのニットはビッ…女子力(笑)が高そうでいかにも由比ヶ浜に似合いそうだ。

 

それに肩が出てるだけでなんかドキドキする。ずり落ちちゃわないかなって。

あとワンピースなわりに下が短いからドキドキする。パンツ見えちゃわないかなって。

 

つまりこの商品は男を惑わせるにはもってこいな衣装だ。

 

「あ、これあたしもいいな~って思ったんだ~

 ニットでふいんき柔らかいしそれにセクシー!」

 

ふむ、ビッ……セクシーなのか。

 

由比ヶ浜はこういうの持ってるのか?」

 

「ニットワンピは持ってないかな~」

 

「お前がこれを持ってたら着るか?」

 

「え?うん、もちろん着るよ~」

 

「ならこれにするわ」

 

そう言って俺は由比ヶ浜に財布を託して買って来てもらう。

 

俺がレジに行ったらプチっとグチャグチャ、略してプチグチャにされかねないからな。

 

そんなこんなでまずは由比ヶ浜編は終了。

 

続いては雪ノ下編だ。

 

何か長編物っぽくて聞くだけで超疲れる。

 

やって来たのは新宿○イのLAISSE P○SSE。

 

さきほどの由比ヶ浜の店に比べたらやはりこちらの方が落ち着いた印象を受ける。

 

扱ってる商品も上品でありながらかわいらしいのが多い。

 

大人っぽさと可愛らしさが同居するこれらの商品は主に

 

合コンなどに日夜勤しむ女子大生が好んで着そうなブランドだった。

 

結局ビッチ。

女はビッチなのだ。

 

その中から雪ノ下もあれやこれやと商品を発掘していく。

 

いや、別に選択肢広げてくれなくてもいいんだよ?一つに絞ってくれてもいいんだよ?

 

「比企谷くん」

 

とりあえず遠くで見守っていた俺が呼ばれ、この中から選べとのこと。

 

「ちなみに一番は…」

 

「決められないわね。全部、小町さんに似合うと思って選んでいるから」

 

ふむ、雪ノ下は小町である点も考慮しているのか。

まあ全くの無駄なんだが。

 

ざざ~っと商品を見ると俺の中の一番が決まった。

 

「雪ノ下、例えばお前がこれを持っていたとして着たりするか?」

 

俺が指差したのは全体的には黒だが、下の方でピンク、黒、ピンクとバイカラーになっているワンピース。

 

こちらも由比ヶ浜と同じくワンピース。プレゼントに上か下だけってのも難しい気がする。

 

「ええ、私もこのワンピースはいいと思うわ」

 

ふむ、雪ノ下はあったら使うと。ならこれでいいか。

 

「なら購入を頼む」

 

先程同様、レジは雪ノ下に任せる。

 

というかやはりさっきの由比ヶ浜のに比べたら幾分値が張るようだ。

 

小町の奴、おこずかい足りるのか?

 

まあ最悪親父が出すだろうし。

 

それまではこの小銭の錬金術師が立て替えてやろう。

なにそれ、国家錬金術師みたい。

 

というわけで初めてではないお使いも無事終了し、小町の方にメールを入れる。

 

マジでもうそろそろ勘弁してください。

 

すると返信が1通。

 

「お兄ちゃんお待たせ!

 帰ってきていいよ\(^o^)/」

 

え!?絵文字大丈夫!?

なんか「オワタ」って言ってる気がするけど。

 

まあ帰れるならなんでもいいや。

 

とりあえず二人に別れの挨拶を。

 

「どうやら俺はここまでみたいだな」

 

男なら一度は言ってみたいセリフベスト7位がさらりと出てきた。

意図して言ったわけじゃないがここまで来ると最後までやるしかない。

 

「ふ、俺のことは気にせずにお前らは先に行け!」

 

「ええ、分かったわ」

 

「じゃあね、ヒッキ-!」

 

「………………………………」

 

だいじょうぶ。はちまん、ひとりでとうきょうからかえれるから!

 

――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――

――――――――――――――

 

かれこれ10時間ぶりに我が家に帰宅する。

 

ふう、やっと寛げる空間にたどり着くことができた。

 

扉を開けて玄関へ。

 

パーン! パーン! パーン!

 

「!!!?」

 

「メリークリスマース!」

 

「めりーくりすます!!」

 

「お帰りなさい、比企谷くん」

 

家に帰るとクラッカーを鳴らされた。

 

そして一番上のは小町、横文字に弱そうなのは由比ヶ浜

 

そして雪ノ下に至ってはクラッカーを鳴らしながら「お帰り」と言う始末。

 

なんだこれ?色々となに?

 

まず落ち着いて一番気になる点を。

 

「なあ、お前ら何で先に行っちゃったの?」

 

「え!?そんなこと聞くの?」

 

「あなたが先に行けと言ったのでしょう」

 

いや、言ったけど。言ったけどさ。

あるじゃん、「押すな押すな」の原理って。

 

まあそれは置いといて。

 

「ってか何で俺ん家にいんの?」

 

「それは小町が招待したからでーす!」

 

にこやかに笑いながら我が妹が白状して下さる。

 

「え?俺とのパーティーは?嘘だったの?」

 

俺は、もうこの世に信じられる物はないと悲しみに暮れる瞳で小町を見つめる。

 

「嘘じゃないよ、お兄ちゃん。

 ただ、雪乃さんや結衣さんとも一緒に過ごしたかっただけなんだよ」

 

ああ、なるほど。もはや俺一人じゃ小町は満足してくれないのか。

これが兄離れってやつなのか。

 

辛いけれど受け入れなきゃな。

 

「あ!?ヒッキーの目がどんどん濁ってく!?」

 

「すごいわね、これ以上濁ることなんて思っていたのだけれど」

 

「も~お兄ちゃん!とりあえずは皆でパーティー楽しもうよ! 小町とは後でもパーティーできるんだから」

 

お?そういやそうだ。

なんだかんだで二人はいずれ帰っていく。

 

そうなればこの家には小町と俺の二人きり。

 

ふむ、ならば後方の憂いなし。

 

「よし、ならイッチョやってみっか!」

 

元気な玉がひねり出せそうなほどワクワクしながら靴を脱いで階段を上がってリビングへ。

 

俺に続いてぞろぞろと他も入ってくる。

 

リビングは小町が頑張ってくれたのだろう、精一杯の飾りつけと、テーブル一杯の料理が並べられていた。

 

「小町、ありがとな」

 

俺はぐしぐしと小町の頭を撫でる。

 

「あん!髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃう~!」

 

小町が頭を抱えて避けようとするがそうはさせない。

 

「……なーんか兄妹だけで仲良しってかんじ」

 

「比企谷くん、セクハラはそこまでにしておかないとさすがの警察も民事介入するわよ」

 

え!?そこまでなんだ!?

 

とりあえずお手々を洗ってテーブルに着く。

 

俺の左には小町。向かいには由比ヶ浜。その向って左が雪ノ下。

 

「歩き回ってお腹減ったからさ。とりあえずご飯からでいいか?」

 

皆に聞くと同意を得られた。

ならとりあえずはメシだ。

 

「じゃあほら、皆手を合わせて……頂きます!」

 

「メリークリスマス!」

 

「え?どっちなの!?」

 

「頂きます」

 

ふむ、ちゃんと突っ込むあたり由比ヶ浜の空気調整能力はやはり高い。

一家に一台是非欲しい。

 

テーブルの上には唐揚げやフライドポテト、貝柱のカルパッチョにグラタンやテリーヌといったおかずに

パスタやピザと言った主食が所狭しと並べられている。

 

唐揚げを一つ……うむ、いつも通り美味い。

その他にも食べてみたがいつも通りの味でいつも通り美味かった。

 

「小町、今日も美味いぞ」

 

「えへへ、ありがとお兄ちゃん。あ、結衣さんとかも大丈夫でしたか?」

 

「え?うん!美味しいよ!美味しくて、なんか、ちょっと……凹むな~」

 

「え!?結衣さんごめんなさい」

 

食事が美味くて凹むとか、ダイエットでもしてんのかね。

 

「別に気にすることはないわ小町さん。

 由比ヶ浜さんは料理のできるあなたをすごいと思っているのだから。

 それと、私も美味しいと思うわ」

 

「あ、そうでしたか。それはよかったです」

 

その後は何やら女性陣で姦しくおしゃべりが開始されたので男の子の俺はフェードアウト。

いや、フェードは嘘。常にアウト。

 

だが姦しいと言う漢字は素晴らしい。

本当に女3人よれば姦しいし、何より女が3人もいると単なるユリものよりエロい。

 

小町は雪ノ下とは料理の話をし、由比ヶ浜とはファッションの話をして場を盛り上げる。

 

ふむ、話す人に応じて話す内容を選択する。

簡単なように見えてこれが中々難しい。

 

俺なんかだと誰が相手でも戸塚可愛いって話題しか振れなさそう。

 

和やかに進んだ食事タイムも終わり、腹も膨れると幾分余裕が出てきた。

 

食後の歓談タイムに俺は気になっていたことを聞いてみた。

 

「つうかさ、小町が二人を呼んだって言ってたけどいつ呼んだんだ?今日か?」

 

「うんにゃ、小町が二人の声を掛けたのは6日前だよ」

 

6日前?………ってことは小町の奴、元々2人を誘うつもりで俺とのパーティーを承諾したな?

だから返事を先延ばししてたりしてたのか。

 

つまり小町にとって親父殿は不要と言うことが証明された。

そろそろ子離れしろよ、親父。

 

「んじゃ今日はもう分かってたってことじゃねえか」

 

「ええ、そうよ」

 

「ごめんね~ヒッキー嘘吐いて」

 

「いや、別に積極的に吐いたわけじゃねえからいいけどよ……

 ってことは今日帰ろうとしたときに引き留めたのは小町の差し金か?」

 

「お?お兄ちゃんするどい!そうだよ、小町が結衣さんに足止めよろしくってメールでお願いしたんだ!」

 

なるほどで、こいつらはグルだったってことだ。

んで、メールで連絡してたってことは足止めとかは事前に決まっていたことじゃない。

 

なら今日の内、不自然かつ携帯を見ていた場面を思い出せば簡単に推理できる。

そう、思いだせれば、な……

 

だが俺は過去を振り返らず未来も見ず、三角座りして自分の尻の辺りの地面しか見てないから推理はできなかった。

 

ん~なんか不自然だと思ったんだけど……あ

 

「なら買い物に一緒に行ったのも小町の計画か?」

 

「お兄ちゃん正解! ご褒美にスーパー小町ちゃんをあげます!

 小町が『お兄ちゃんのお買い物に付き合ってあげてください』ってお願いしたんだ~」

 

ああ、なるほど。ならこいつらは未だに自分の手で自分のプレゼントを選んだってのは知らないままなのか。

 

そりゃよかった。

 

「じゃあ俺は小町の掌の上で踊らされていただけだったんだな。ほらよ、お使い頼まれてたプレゼントだ」

 

リビングの扉脇に置いておいた紙袋を小町に手渡す。

 

「あ、じゃあちょうどいいや。ではでは! プレゼント交換タ~イム!!!!」

 

小町のかげ声に由比ヶ浜が「お、おー!」とか言って追随し、俺と雪ノ下はキョトンと首を傾げる。

同じキョトンでもこんなに差が出るなんて世界は不公平です。

 

「え~今回は第15回プレゼント交換大会 in HIKIGAYAにご参加いただきありがとうございま~す」

 

なんか小町が仕切り始めた。まあいっか。

 

「ではとりあえず大会の趣旨を説明しま~す」

 

お?チーム戦か個人戦か?総当たりかトーナメントか?

 

「皆さんにはそれぞれへのプレゼント計3つが用意されていると思いま~す。 それを、相手の方に渡して下さーい」

 

え?それ単なるプレゼントじゃね?大会にならなくね?

というか

 

「おい小町、俺お前の分しか用意してねえよ」

 

やばい、このままでは何も考えずに友達の家に行って、

たまたまやってたクリスマスパーティーに仕方なく入れてもらって

手ぶら参加したときに景品を当ててしまってヒキヌキくんと呼ばれた苦い記憶がリピートアフターミー!

 

「あ、大丈夫だよお兄ちゃん。今両手に持ってる物をお兄ちゃんのプレゼントとして渡せばいいだけだから」

 

へ?これ?この両手に持ってんのを?この本人に選んでもらったブツをプレゼントすんの?

 

なにそれ、手抜きにも程があんだろ。

 

まあ、因果応報・自己責任ってやつだな

 

そうなって来ると別に中身もバレてるから恥ずかしがる必要性もない。

これは怪我の功名だ。

 

「なら俺から渡すわ。もう中身知っててサプライズもないけど。ほれ」

 

ついぶっきら棒な態度になってしまった。

だって男の子なんだもん、アタック~アタック~。

 

「へ?あ、ありがと、ヒッキー///」

 

「あ、ありがとう//」

 

二人もどうやら微妙そうな顔。まあ自分で選んだのが無料で手に入っただけだし。

 

「なんでお二人は中身も知ってるんですか?」

 

俺が小町に経緯を説明する。

 

「もう、お兄ちゃんの馬鹿!クズ!カス!スキ!ゴミ!」

 

そこまで言わなくてもいいじゃないですか。そんなこと重々承知していますよ。

ってかさらりと俺のポイント上げに来るんじゃねえよ。

 

「あ、でもでも!一つにしぼったのはヒッキーだもんね!」

 

由比ヶ浜の必至のフォロー。

 

いいな~こいつが妹だったらめっちゃ可愛がるのに。

だが残念!妹ではないからそんなことはしない!

 

「まあそうね、比企谷くんが自重して自分のセンスに頼らなかったことはどちらにせよ褒められるべきだわ」

 

わ~雪ノ下さんがほめてくれた~

 

「あ、ならなら!お兄ちゃんが選んだ服を着てるとこ、小町に見せてください!!」

 

「え!?」

 

「……」

 

せめてリアクションください雪ノ下さん。

 

「ほら!お兄ちゃんも見たがってますし、ね!」

 

いや、別に見たくねえよ。八幡正直。

 

けど多分、この服達は一度も着られることなく捨てられるんだろうな。

家に帰ったら即行でゴミ箱に行くんだろうな。

 

それはあんまりに可哀想だ。

 

買った俺が責任をとってやるべきだ。

 

「どうか、一度だけでも着てやってください」

 

「え!?ヒッキー頭あげてよ!?着る!着るから!」

 

「そ、そこまでお願いするのなら仕方ないわね」

 

二人は小町が案内して小町の部屋でお着替え。

 

小町は先に戻って来て俺とともに二人の登場を待つ。

 

「いや、お兄ちゃん。見たいのは分かるけどさすがに頭下げるのはどうかと思うよ」

 

「は?見たくねえよ。見たくねえけど一回も着られずに捨てられる服が可哀想だろうが」

 

「…お兄ちゃんって人間以外には優しいよね~」

 

おう、人間と虫は大嫌いです。

 

しばらく待っていると扉から雪ノ下が登場した。

 

「どうかしら」

 

雪ノ下はその場でクルリとターン。

 

ふむ、さすが雪ノ下自身が選んだだけあって彼女の雰囲気にフィットしている。

堅すぎず、かといって甘すぎない微妙なライン。

 

少女と女性のボーダーにいる高校生らしい魅力を存分に引き出す一品と言えるだろう。

 

星みっつっ!

 

「わあ!!雪乃さんやっぱりキレイです!ね、お兄ちゃん!」

 

「あ?ああ、似合ってんじゃねえの?」

 

「そ、そう…それは、ありがとう」

 

ふむ、照れ乃下さんは常にそうしていたらいいと思いました。

 

「てか由比ヶ浜は?」

 

「へ?変ね、今そこまで一緒だったんだけど」

 

雪ノ下がリビングの扉を開けて由比ヶ浜を招き入れる。

なんだ、廊下にいたんじゃん。

 

「う、う~はずい///」

 

由比ヶ浜がワンピの裾を引っ張る。

 

おい、お前はそれを人様の妹様に着せようとしてたんだぞ。

だから責任とっておじさんに見せてみなさい。

 

「うわ!結衣さんエロ!」

 

おい小町、お前はどこぞのリーマンか。

俺と感性が合うじゃねえか。俺、主夫業にリーマンするけど。

 

一しきり2人のお披露目会が終わったら次のプレゼント交換へ。

因みに小町へのプレゼントは後で渡すことにした。

 

同級生に見られるのなんて八幡恥ずかしい!

 

「では私から渡すわね。はい、由比ヶ浜さん」

 

そう言って雪ノ下がプレゼントを渡す。

 

「あ、ありがと、ゆきのん。開けてもいい?」

 

「ええ、いいわよ」

 

ガサゴソと包装を解いて中から出てきたのは

 

「わ!カワイ~!!」

 

花があしらわれたシルバーの小さな指輪。

 

え?プロポーズすんの?俺らの前で?

プロポーズとか見たことないからドキドキです。

 

ってかやけに小さいな、女の指ってこんなに細いのか。

 

「わ~ゆきのんありがと~!え~とこれって……」

 

由比ヶ浜が自分の右手と左手をキョロキョロと見比べる。

 

お箸を持つ方が右手ですよ。

 

「左手には願いを成就させる力があるそうよ」

 

優しげに微笑んで雪ノ下が言う。

雪ノ下は結構、由比ヶ浜に心を許してるようだ。

 

「そ、そっか。じゃあ左手につけよっかな///」

 

そういって由比ヶ浜は左の手の小指にリングをはめる。

ってか小指のかよ!

 

「わ~カワイ~キラキラ~ってかゆきのん、よくあたしのサイズわかったね!」

 

「この前、私のピンキーリングを付けてみたいと言って付けていたでしょう」

 

「あ!そっか」

 

半年前の6月には何を送ったらいいのか見当もつかなかった雪ノ下。

 

それが今はちゃんとした贈り物をしている。

 

また雑誌でも読み耽って何がいいのか考えたのかね、あの努力家は。

 

「続いて小町さんね。これをどうぞ」

 

「わ~ありがとうございます雪乃さん!開けていいですか?」

 

「ええ勿論」

 

箱の大きさ的には由比ヶ浜と同じ。ってことは

 

「わわ!キラキラだ~!!」

 

雪ノ下が小町に送ったのはハートのネックレス。

 

ハートの下に更にゆらゆら揺れる小さなハートが付いてるのが大人っぽい。

 

「小町さんももう大人の女性だから」

 

そっか。由比ヶ浜にはアクセサリーをあげて小町には別のだと子供扱いと捉えられかねない。

 

女の子は背伸びをしたがる年頃。やっぱりこういうのは女の子同士の方が分かり合えるもんだな。

 

「小町ちゃん!あたしもハートのネックレスしてるからお揃いだね!」

 

「あ、ほんとです!まるでギ妹みたいです!」

 

「おい、噛んでるぞ。姉妹だ」

 

「かみまみた!」

 

わざとだ!!

 

「それでモブガヤくんにはこれを」

 

え?俺ってモブキャラだったの!?

てっきり自分の人生でくらいは主人公張らせてくれると思ってたのに。

 

ってか「ガヤ」ってのがガヤガヤしい騒音を連想させて一人何役なんだろうと心配になりました。

 

「お、おう。ってか俺にもあったのか」

 

「あなたには施しを受けるつもりないからさっきの反撃よ。

 それと小町さんからの御願いでもあったのだし。小町さんに感謝することね」

 

うん、八幡わかった。小町を奉納する寺か神社を建てよう。

 

雪乃下の了解を得て包装を開けると中からはカップとソーサーが出てきた。

 

あ、そういや今まで紙コップだったしな。奉仕部の部室で。

 

「そ、それでどうだったかしら」

 

「おう、すっげえ嬉しい。ありがとよ」

 

「そ、そう。ならよかったわね」

 

え?他人事?

 

ってかなに?この高そうなカップ

これに入れたらなんでも上手くなりそう。

魔法の粉とか塗装されてそう。うん、八幡キマっちゃう!

 

 

続いては由比ヶ浜

 

「はいゆきのん!」

 

「あ、ありがとう」

 

「ほらほら!早く開けてみて!」

 

由比ヶ浜に急かされて包装を開く雪ノ下。

 

「これは……」

 

まず目についたのはデジカメの箱。

 

「ゆきのん家で見かけなかったから。もしかしてもう持ってた?」

 

「いいえ、カメラは興味がないから持ってなかったわ。ありがと」

 

「ふ~よかった~~!」

 

おいおい、危険な橋を渡る奴だな。

 

それともう一つは……

 

「手帳?かしら」

 

「中も見て見て!」

 

それに応じて中を見る雪ノ下。

 

「っ!!!!」

 

なんだ?

 

「俺も見ていいか?」

 

「あ、小町も見たいです」

 

「ええ、どうぞ」

 

雪ノ下が皆に見えるように手帳を開く。

 

そこには今まで撮ったのであろう、雪ノ下と由比ヶ浜(たまに見切れた俺)の写真が貼られたり、カラーペンで丸っこい文字が書き込まれていた。

 

「いや~ゆきのんだったら服とかアクセは自分で買えるしなんか違うな~って感じだったし。だから、なんか手作りのをと思って」

 

由比ヶ浜がテレテレと頭を掻く。

さすがリア充。やることが一味も二味も違うぜ。

 

由比ヶ浜さん、ありがとう……とても嬉しいわ」

 

そう言って雪ノ下から由比ヶ浜の手に触れる。

 

雪ノ下から触れたのはもしかして初めてじゃないのか?

 

ふむ、ここに愛を誓ったカップルの誕生だな、アーメン。

 

「で、ではでは。続いて小町ちゃんにはこれ!」

 

「あ、はい!ありがとうございます結衣さん」

 

小町も由比ヶ浜に急かされてプレゼントを開ける。

 

「あ!時計だ~!!」

 

由比ヶ浜が送ったのは腕時計。

盤面の周り、ベルトの一部にはスワロフスキーが散りばめられており、

キラキラ光ってフェミニンな雰囲気を醸し出している。

 

ってかフェミニンってなに?ムーミンの親戚?

 

「小町ちゃんも高校生になったら時計がいると思ったから。それに、大人っぽいでしょ?」

 

「はい!結衣さん、ありがとうございます!」

 

由比ヶ浜も小町の微妙な背伸び心を察してくれていた。

 

まあ彼女らも2年前に通って来た道だからな。

 

それにしても今日1日で小町は随分と大人グッズを手に入れた。

明日からの小町も乞御期待だな。

 

「そ、それで、ヒッキ―にも…はい!」

 

急に俺に向かって右ストレートを放つ由比ヶ浜

おいおい、脇が閉まってねえぞ。

 

「お、おう。ありがと」

 

目で開けてみろと催促されたから拒否権のない俺は唯々諾々。

 

開けるとこそには

 

「……ケーキ?」

 

そう、ケーキ。

多分、ケーキ。

もしかしたらケーキ。

 

いや、見た目は完璧にベイクドチーズケーキだ。

 

だが由比ヶ浜が作ったとなれば話は別だ。

 

もしかしたらこれはセメントかもしれないし、ゴムの可能性だってある。

 

誰だよこんなダークマター使いに料理なんか勧めた命知らずは!!

はい、俺です。

 

「安心しなさい比企谷くん。それは私も味見してあるわ」

 

あ、雪ノ下監修か。なら安心、か?

 

「そ、それで…できたら今食べてほしいかな~なんて」

 

え?今?今死ななきゃダメ?

 

小町はうんうんと頷くだけだし、雪ノ下は食べなきゃ殺すと睨んでくる。

どっちにしても死ぬんだ、俺。

 

なら死なない可能性もあるケーキに挑もう。雪ノ下には挑めない。

 

キッチンからフォークを持ってきて一口切り分ける。

 

おいやめろ、俺を見るな。ただでさえボッチは凝視されることに慣れてないんだから。

 

皆が見守る中、パッサパサな口の中に、パッサパサなケーキを放り込む。

 

モグモグと恐る恐る咀嚼していく。

 

お?え?まじで?もしかして?

 

「これってうめえんじゃねえの?」

 

「お兄ちゃん、聞かれたところで分かんないよ」

 

「あ、そうだな。けど美味いよ、普通に美味い」

 

レモンの爽やかな香りと濃厚なチーズの風味が口の中に広がっていく。

 

さっきはパサパサとか表現したけどそれだって一般的なチーズケーキの食感だ。

 

由比ヶ浜、これ美味いわ。作ってくれてありがとな」

 

「よ、よかった~~~」

 

由比ヶ浜はよっぽど緊張したのかへなへなと腰砕けになってしまった。

 

「よかったわね」

 

「ゆ、ゆきのんのおかげだよ~~」

 

がばっと抱き付く由比ヶ浜の頭を撫でる雪ノ下。

 

「よしよし」

 

ふむ、百合百合しい映像も撮れたことだし次に行くか。

 

最後は小町。

 

小町からの贈り物は雪ノ下には猫の写真集+カー君の丸秘写真。

雪ノ下は鼻血の予感がするのか上を向いていた。

 

由比ヶ浜に犬の服を何着か渡していた。ってか着たら蛙とかライオンになっちゃうけどいいの?それ。

 

そして小町も俺には後で渡すと言ってとりあえずはプレゼント大会が終了。

 

その後はゲームで遊んだり雪ノ下がカマクラの肉球をツンツンしたり、

 

皆でテレビを見ながらぼ~としたり雪ノ下がカマクラと猫じゃらしで遊んだり、

 

皆でウノをしている横で雪ノ下がカマクラをギュッと抱きしめてみたり。

 

ってかカマクラとしか遊んでねえ奴いるじゃん。

 

まあなんだかんだして過ごしていたけど、さすがに疲れたのか、それとも話題が尽きたのかは分からないが、急にしじまが訪れた。

 

あれ?そういや小町どこ行ったんだ?

 

「ヒ、ヒッキー」

 

ソファに腰掛けていた俺の左隣に由比ヶ浜が座る。

 

近い、近いから。男は勘違いしやすいから、もっと離れて。

なんなら目もあわさずモールス信号で会話して。

 

「こ、この服…どう、かな?」

 

「へ?あ、いや……さっき言ったくね?」

 

「い、言ってない!さっきは小町ちゃんが言ってくれただけだから」

 

そうだっけ?あ、そういや小町がエロいとか言っただけだったな。

 

「に、似合ってるんじゃないか?」

 

「か、かわいい?」

 

「エ……かわいいと思うぞ」

 

エロいというのは評価としてプラスなのか?

 

「そ、そか……ふぅ、よかった」

 

おいやめろ。意味深に安堵の息を漏らすな。

その真意をはかりかねて382通りの意味を探っちまったじゃねえか。

 

「あら比企谷くん、なら私はどうかしら」

 

そう言うと今度は雪ノ下が右隣りに腰掛けた。いや、お前も近いよ。

 

お前もボッチだったら分かんだろ、この距離はアウト。

 

相手の恋心を勝手に捏造して挙句には勝手にラブロマンスに飛び込んじまう距離。

だからもうちょっと離れて下さい。

 

「お前に関しては既に感想は提出済みなはずなんだが」

 

「あら、そうだったかしら。

 私に関しても小町さんの意見は聞いたけどあなたのは聞いていなかったと思うけど。

 仮にあなたが何かを言っていたとしても私の耳には届かなかったわ」

 

く!こういうときボッチは声が小さくて相手に届いてない可能性が否定できないから悔しい!

 

「い、良いと思います。雪ノ下の大人らしさに合ってて」

 

「そ、そう。けど大人っぽいだけ?

 私はこの服はピンクとのバイカラーで可愛らしさも十分に備えていると思うのだけれど」

 

何で俺に聞くんだよ、ピーコかよ、俺は。

あれ?おすぎだったっけ?

 

「ああ、確かに可愛い、と思い、ます」

 

「それは服単体の評価かしら」

 

「あ、いえ。それを着た雪ノ下さんが、です」

 

「そ、そう///」

 

なにこの誘導尋問。誘導どころか強制までされてるんだけど。

 

「ゆきのんずるい!」

 

すると今度は左の由比ヶ浜が吠えた。

 

「ちょっとヒッキー!なんでゆきのんには服だけじゃなくてゆきのんも褒めたの!?」

 

え?知りませんよ、そんなの。雪ノ下さんが言えと言ったんですよ。

 

「あ、あたしは!?あたしもかわいい!?」

 

おいやめろ、こっちに身を乗り出すな。

お前のその二つせり出したバベルの塔に触れてしまったら、俺は天にのぼってしまう。色んな意味で。

 

ってかセーター持ち上げるお前の胸ってどうなってんの?なんでも持ち上げられるの?

 

「は、はい。その服を着た由比ヶ浜さんは可愛らしいと思います」

 

「なんで敬語し!?ちゃんと普通に言って!」

 

「か、か」

 

無理!ボッチにそんなこと求めるのは酷だろ!

お願い事はサンタさんにしろよ!

 

「い、言ってくれないの?」

 

おいやめろ泣くな。

女に泣かれたら男の負け。それは俺でも抗えないルール。

 

「か、可愛いと思うぞ?そのふ、ふふふ服を着た…由比ヶ浜

 

「あ、ありがと////」

 

だから!この強制尋問、むしろ異端審問は何の意味があるんだよ!

 

「比企谷くん、あなたは私を褒めた口ですぐに由比ヶ浜さんを褒めるのね。節操のない人」

 

え!?!?!?!?俺が責められることなの!?

 

「む………ヒ、ヒッキ-は…あたしとゆきのん、どっちが、いい、の?」

 

え?なにそれ?

セクシーなのとキュートなのとどっちもタイプですよ。

 

「あら、それは私も気になるわね。例え相手が比企谷くんでも褒められたらいい気がするもの」

 

そこで俺を下げる必要性はあるのでしょうか。

 

「ヒッキ-」

 

「比企谷くん」

 

え?なにこれ?

まるでパソゲーみたい。

 

俺を取り合って美少女二人(一人はエセビッチで一人はガチボッチだけど)が言い争い。

 

あれ?これ来てんじゃね?俺の青春ラブコメは間違ってなかったんじゃね?

選択肢によったらこれで個別ルートに突入する勢いだ。

なんだったら、頑張ったらハーレムエンドも夢じゃねえ。

 

うむむ………なんて答えたらいいんだ。おい!クイックセーブってどうやんだよ!?

 

俺が何と答えたらいいのもか悩んでいる間にも二人からの無言のプレッシャーがひしひしと伝わってくる。

 

あ゛ーーーーーどうすりゃいいんだよ!!

 

するとリビングの扉がガチャと音を鳴らした。

 

「お兄ちゃーん、見て見て~~」

 

さっきまでどっか行っていた小町が帰ってきたようだ。

 

そちらの方を振り向くと何と小町はサンタコスに着替えていた。

 

「やっべ!超やべえよ小町!お前マジ天使!!なにそれ!

 それは反則だわ~そんなの着られたらお兄ちゃん何も言えないわ~。

 小町天使!天使可愛い!」

 

俺はあまりの小町のまぶしさに、光に惹かれる蛾のようにソファから小町の方へと駆け寄った。

 

「ほんと?似合ってる?」

 

「おう!すげー似合ってるよ!サンタなんて俺にいつも優しくしてくれる小町にぴったり!」

 

「えへへ~かわい?」

 

「おう、すげえ可愛い!世界で一番可愛い!」

 

「やだやだお兄ちゃん?」

 

小町がペシペシ俺の腕を叩く。

 

やっべー妹ってかわいー。俺の妹が可愛くないわけがない。

 

「……ヒッキ-」

 

は!!?

 

後ろから響く由比ヶ浜の声。

 

やっば!!!一世一代の選択肢を間違えた~~!!!!

はよ!はよクイックロード!

 

あ゛~~ってかクイックセーブしてなかったーーーー!!!!

 

恐る恐る後ろを振り返る。

 

そこには目の縁に涙を溜めて怒り狂う由比ヶ浜

ニヤニヤ笑ってるのが逆に怖い雪ノ下。

 

「このシスコン!!!!大っ嫌い!!!!!」

 

「ふふ、さすがクズガヤくんね。

 同級生の目の前で妹に発情するなんてそこらの変態じゃ真似できないわ。

 あなたは誇っていいわ。世界でも類を見ない程の変態なんだもの。

 あ、でも人間としての誇りも失ってないのなら今すぐ自首するか死んでくれないかしら」

 

こ、こわいよーーーーー

 

17の男がマジ泣きしちゃうよ~

 

「雪乃さん!結衣さん!」

 

俺を守るかのように小町が前に立ちはだかる。

 

かっけーー!!小町の背中がデカく見えるぜ!

 

「なにかしら」

 

「なに?小町ちゃん」

 

「お兄ちゃんを一番世話している私が、一番好かれるのは当然です!

 だってお兄ちゃんは将来ヒモに憧れてるんですから!!」

 

ヒモと専業主婦は別物です。私がなりたいのは後者であってヒモではありません。

 

「ふむ、なるほど」

 

小町の言葉に納得の意を示す雪ノ下。え?納得しちゃうの?

 

「……もっと料理のれんしゅ………っちゃ」

 

え?今ボソっと由比ヶ浜さんから「料理」という危険ワードが聞こえたんですけど!?

世界の危機なんですけど!?

 

「……も料理や…世話をしようかしら」

 

料理?世話?雪ノ下はやっと猫を飼う決心がついたのか?

 

その後もウンウン唸りながら考え事をする二人。

 

どうにかこうにか生命の危機は脱したようだな。

さすが小町サンタ!!

 

俺に命拾いという名のプレゼントをくれるなんて!!

 

その後も4人で由比ヶ浜作のケーキを食べたりしていたが時間切れ。

 

そろそろ両親が帰ってきそうな時間帯になってしまっていた。

 

「え~今日泊まっていったらどうですか~?」

 

「こら、無茶言うな小町」

 

これ以上、他人が自宅にいるとお兄ちゃんはアナフィラキシーショックで死んでしまう。

 

「そうね、さすがに愛娘とのクリスマスを楽しみにして帰って来られるご両親に悪いわ」

 

その言い方は無視された長男にも悪いと思います。

 

「そ、そうだよね。お泊りはちょっと」

 

おい、チラチラこっちを見るな。絶対襲ったりしねえよ。

 

「けど、また遊びに来てくださいね」

 

「ええ、来るわ。必ず」

 

雪ノ下の目線はカマクラに釘付けだった。もうやばい、猫まっしぐら。

 

「じゃああたし達は帰るね」

 

そう言って玄関から出ていく二人。

 

「お~」

 

俺は上り框から手を無気力にあげて応える。

 

「こらごみいちゃん!女の子なんだからお送り届けないとダメでしょ!」

 

「心配には及ばないわ小町さん。変質者を連れて行く方がよりリスクが高いのだし。

 それにタクシーを呼んであるから」

 

確かに玄関先にはタクシーが止まっていた。

 

車に雪ノ下と由比ヶ浜が乗り込んだら、タクシーは静かに走り出した。

 

彼女らを見送ったら、二人一緒にリビングに戻る。

 

やっと他人が出てった~~~

他人がプライベートゾーンにいると息苦しくてマジ無理。

 

小町が後片付けを始めたのでその肩を押してソファに座らせる。

 

「今日くらいは俺にやらせてくれ。小町は用意を頑張ってくれたんだし」

 

「ありがとお兄ちゃん」

 

うむ、天国のお父さん。小町は今日も純粋に育っています。

 

天国から帰宅する親父殿にどやされないためにもせっせと後片付けをする。

 

ついでに慣れない会話で酷使した脳への糖分を甘いコーヒーで補充する。

 

「ほい」

 

小町の前にはホットココアを置いてやる。

 

「ありがと~」

 

小町も気張って用意したせいか目がしぱしぱしていた。

 

じゃあ寝ちゃう前に渡しちゃうか。

 

俺は一旦、自室へと戻って予め買っておいた物を渡す。

 

「ほい小町。俺からのプレゼント」

 

「ありがと~お兄ちゃ~ん」

 

小町が緩慢な動きで包装を破いていく。

俺のは破いちゃうんだ。

 

「ん?これって」

 

「ゲームソフト。お前これの前作やってただろ」

 

「わ~!新作出てたんだ~ありがとお兄ちゃん」

 

そう、小町はもう15歳だ。

ちょっと背伸びして大人の仲間入りを夢見る年頃。

 

だけどそれは対外的なもの。

 

小町もまだまだ15歳。親が共働きで愛情に飢えた小さい女の子。

家にいる時はまだ幼い少女。

 

それを分かってやれて、かつ小町を傷つけずにフォローができるのは俺だけ。

俺だけなのだ。

 

「けどほどほどにな。受験終わったら思いっきりやれ」

 

「わかってるよ~けどお兄ちゃん。やるときは一緒にやろうね」

 

「ああ。あ、それでお前からのプレゼントは?」

 

「え?ああ~さっきのは嘘」

 

嘘!?USO!?

え?なんでそんな残酷な嘘吐いたの?

 

「もうお兄ちゃんにはプレゼント渡したんだ~」

 

へ?俺なにも貰ってないけど。

 

いや、貰ったと言えば貰ってる。

常日頃から世話してもらってるし、それに今日なんかはめちゃくちゃ頑張ってくれた。

 

しかも小町と過ごせる時間、プライスレスだし。もうそれだけで八満足。

 

「その効果が出るのはもうちょっと後かな~~」

 

へ?後から効果?潜伏期間とかあんの?

胃袋で爆発とか?

 

だめ、もう今日寝れない。

 

「にっしっし~楽しみだね、お兄ちゃん」

 

ったく、いらんことばっかりしおってに。これだから妹は目が離せないんだ。

 

クリスマスなんて寝て過ごすとか言ったけど結果的には美少女とも呼べる二人と過ごした。

 

けどそんなことは俺にはどうだっていい。

 

一緒に過ごす予定だった小町が急に呼んだだけのこと。

 

カマクラが急にガールフレンド2匹連れてきたのと何ら変わらん。

 

俺には無関係で、無価値で、無意味なことだ。

 

そこに小町がどんな思いを込めていたのかも知らんし関係ない。

 

俺は何も望まず、何も期待せず、ただそこにある自分を認めてやっていくだけだ。

 

期待はしちゃいけない、すれば怪我の元だから。

 

だが、昨日今日と小町と一緒に過ごせた。

 

つまりは小町に男の影はなく、外泊もしていないことからラブなホテルとも無関係だったということだ。

 

その事実が俺にとって何よりのクリスマスプレゼントとなった。

 

 

やはり俺のクリスマスも間違っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

比企谷八幡 「やはり俺のクリスマスも間違っている」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382883520/