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結衣「……ゆきのん、本当にいいの?」雪乃「決めるのは彼よ……由比ヶ浜さんだってわかっているでしょう?」【俺ガイルss/アニメss】

 

少女「こ、こんにちはー……」

 

雪乃「こんにちは」

 

結衣「や、やっはろー?」

 

八幡「……?」

 

少女「ここ、奉仕部、であってますか?」

 

雪乃「ええ、そうよ。依頼の方かしら?」

 

結衣「話すのは初めて、だよね?」

 

少女「はい、私も二年生ですけどみなさんとは話したことないです。……でも、三人のお名前も私は知ってます」

 

結衣「そっかー。ごめん、あたしは顔は知ってるけど名前までは……」

 

雪乃「そう。私と由比ヶ浜さんはともかく、彼のことも知っているなんて意外ね。……あ、そうでもないかしら? 悪名なら轟いていたようだしね」

 

八幡「へいへい。どうせ俺はそんな評判にしかなってないですよ」

 

少女「……ち、違いますっ! そんな、悪名なんかじゃなくて私は、彼の……比企谷くんのことはずっと前から……」

 

雪乃「……あなたの知り合い?」

 

八幡「いや……見覚えはねぇな」

 

少女「そ、そっか。でもね、私一年生のとき比企谷くんと同じクラスだったんだよ」

 

八幡「……マジで?」

 

結衣「ヒッキー、最低」

 

雪乃「そうよね、あなたはそういう人よね」

 

少女「…………」

 

結衣「だねー、最初あたしのことも知らなかったしね」

 

雪乃「部員の非礼を部長としてお詫びするわ」

 

少女「いえ、私は地味だし大人しいし、知らなくても別に……。それに比企谷くんが失礼だとか、謝ってほしいとか思ってないので」

 

八幡「お、おお。なんか悪いな……。でもあれだぞ、由比ヶ浜

 

結衣「あたし?」

 

八幡「これが普通の反応なんじゃねぇの? 知らねぇつっただけでキモいキモいって罵倒する誰かさんとは違うな」

 

結衣「いやそもそも知らないのがだいぶ普通じゃないし、失礼だから。ていうか初対面で人をビッチ呼ばわりする人に言われたくないし!」

 

雪乃「ごめんなさいね、騒がしくて。それで、あなたの名前と依頼の内容はなんなのかしら」

 

少女「え、っと。私は深谷綾瀬っていいます。依頼の内容は、その、ここだとちょっと……」

 

八幡「…………?」

 

雪乃「……わかったわ。そこの男には席を外しておいてもらいましょうか、三年ぐらい」

 

八幡「なげぇよおい。そんなら俺もう帰ってこねぇぞ」

 

綾瀬「…………」

 

雪乃「冗談よ。飲み物でも買ってきて頂戴。私は野菜生活……」

 

八幡「100イチゴヨーグルトミックスな。戻ったらちゃんと請求するぞ」

 

結衣「あ、あたしは紅茶……ならここで飲めるか。あたしは綾瀬ちゃんと同じのにするよ。何にする?」

 

綾瀬「え? いいんですか? 比企谷くんまだ何も……」

 

八幡「あー、いんだよ別に、気にするな。どうせ俺に拒否権はねぇんだ」

 

雪乃「そうよ、その男のことは気にしないでいいわ」

 

綾瀬「…………。なら、比企谷くんと同じもので」

 

八幡「んじゃマッ缶三丁な。適当に時間潰して戻るわ」

 

結衣「えー、あれかー……」

 

八幡「人に委ねて買ってきてもらう分際で文句言うな。んじゃまたな」

 

 

雪乃「…………では、深谷さん。依頼内容を聞かせてもらえるかしら?」

 

綾瀬「……あの、その前に一つ。聞かせてもらえますか」

 

結衣「んー、同級生なんだしさ、綾瀬ちゃんも敬語じゃなくていいよ」

 

綾瀬「わかった。……二人は比企谷くんと、どんな関係、なの?」

 

結衣「ど、どんなと言われても……」

 

雪乃「……改めてそう言われると、なんなのかしらね?」

 

綾瀬「…………」

 

結衣「あたしは、クラスメイトで……部活仲間?」

 

雪乃「私は、彼の友人……ではないわね。やはり部活仲間というのが相応しいのかしら」

 

綾瀬「それ、だけ?」

 

結衣「だけっていうと?」

 

綾瀬「好き、とか。そういう感情はないの?」

 

結衣「! も、もちろん嫌いなわけないよ。嫌なとこも面倒臭いとこもたくさんあるけど……」

 

雪乃「そ、そうね。私も嫌ではないわ。比企谷君の捻くれ具合も大分慣れてきたし……」

 

綾瀬「……そう。そんな程度」

 

結衣「ん?」

 

綾瀬「私は……彼が、比企谷くんがクラスに来たときから、ずっと見てました。私は、比企谷くんのことが好きです」

 

雪乃「…………は?」

 

結衣「……えー!?」

 

雪乃「ちょ、ちょっと待って。あなた、本気? あんなのの何処がいいの? 騙されていないかしら?」

 

結衣「そ、そうだよ。ヒッキーなんか面倒なだけだよ?」

 

綾瀬「…………やめて」

 

雪乃「深谷さん?」

 

綾瀬「私がここに来たときから、ううん。きっともっと前からずっとそうなんだろうけど、なんであなたたちは比企谷くんに酷いことを言うの? 彼は悪い人なんかじゃないってわかってないの?」

 

結衣「綾瀬ちゃん、お、落ち着きなよ」

 

綾瀬「どうやって落ち着けっていうのよ、こんなの」

 

雪乃「彼が悪人でないことなんかわかっているわ。でも……、口が悪いのは自覚しているけれど、私、そんなに酷いことを言っているかしら……?」

 

結衣「んー、最初はもっと凄かったからなぁ……。あたしも超キモいって言ってたし。今は軽口ってレベルだと思うけど、感覚麻痺してるのかな。ていうかヒッキーも結構言うよね……」

 

綾瀬「……自覚ないんだ。比企谷くんが心ない言葉でどれだけ傷付いてるか」

 

雪乃「傷……?」

 

結衣「ついてるかな……?」

 

綾瀬「……私、知ってるんだから。比企谷くんがしてきたことも、なんでそんなことをしたのかも。彼が悪意からそんなことをしたことなんて一度もないって」

 

結衣「それはあたしたちもわかってるよ?」

 

綾瀬「だから、彼のことを悪く言う人達がみんな許せない。何もわかっていないくせにって。わかってるならあなたたちはなんで怒らないの? 不当に悪く言われてる彼のことが可哀想だとは思わないの? 悔しくならないの?」

 

雪乃「……わかる人にだけわかればいいじゃない、そんなの」

 

結衣「悔しくないことはないけど……。ていうか、悔しいより悲しい、かな」

 

綾瀬「……彼のために何もしてあげられないあなたたちに、こんな場所に比企谷くんは相応しくない。私は彼に告白したいの。だからそれを手伝ってほしい。それが、私の依頼」

 

雪乃「比企谷君への告白を……」

 

結衣「手伝う、依頼……」

 

綾瀬「どうする? 無理に受けなくてもいいよ。もしそうなら私は勝手にするつもりだけど」

 

結衣「ちょ、ちょっと待ってよ、そう言われても……」

 

綾瀬「……ふーん。戸部くんの依頼は由比ヶ浜さんが進んで受けたのに、比企谷くんが関わると渋るんだ」

 

結衣「うっ……」

 

雪乃「あなた、それを何処で聞いたの?」

 

綾瀬「戸部くんから聞いた」

 

雪乃「はぁ……」

 

結衣「とべっち……」

 

綾瀬「? とにかく、受けてもらえるの? もらえないの?」

 

雪乃「……いいわ。受けましょう」

 

結衣「……うん、そうだね」

 

雪乃「ただし、私たちにやれるのは告白の場を整える程度よ。上手くいくよう保証してくれなんて言われてもそんなことはできないわ」

 

綾瀬「それはもちろん。……私、嫌いじゃないって程度の人達には負けないから」

 

雪乃「…………」

 

結衣「……っと、ヒッキーからメールだ。もう戻っていいか、だって。ゆきのんどうする?」

 

雪乃「……そうね。今日の依頼の相談はここまでにして、もう戻ってきてもらいましょう。また明日来てもらえるかしら、深谷さん。比企谷君には明日の部活は休みだと伝えておくわ」

 

結衣「うん、さすがにこれはヒッキーに何かしてもらうわけにもいかないからね。じゃあいいよって返信しとくね」

 

綾瀬「……わかった。明日もここに来る」

 

雪乃「…………深谷さん、あなたは彼のしてきたことを知っているのよね」

 

綾瀬「うん。ほぼ把握してると思ってる。文化祭の顛末も、修学旅行のことも、あなたたちが一人で頑張った比企谷くんを認めてあげられてないどころか、責めるようなことをしてたんだろうなってことも」

 

雪乃「……そう、そうね」

 

結衣「……うん、そう、だね」

 

綾瀬「だよね、言い訳もできないよね」

 

八幡「うす、買ってきたぞ。はいこれ、えと、深谷……だっけ?」

 

綾瀬「う、うん。比企谷くん、ありがとう……」

 

八幡「お、おお。まあ別に大したことじゃねえし気にすんな。で、相談は終わったか?」

 

雪乃「ええ、大体のことは。今回はあなたは何もしなくても……いやちょっとはやってもらわないとだけれど、私たちが何か言うまで気にしなくてもいいわ」

 

八幡「なにそれ、どういう意味? まぁ何もすんなっつーならしねぇよ。やらんで済むならそれに越したことはねぇし」

 

結衣「って言いながら結局何かしちゃうんだよねー、ヒッキーは……。まあそれはあたしたちも悪いからだけど、 今回は大丈夫、と思うよ」

 

綾瀬「…………あ、あの、比企谷くん」

 

八幡「ん?」

 

綾瀬「私、あなたのことちゃんとわかってるから。私は絶対悪く言ったりしないから」

 

八幡「……あん?」

 

綾瀬「ちゃんと君を見てる人もいるって、それだけはわかって、お願い。そ、それじゃまたね!」

 

八幡「お、おお。またな」

 

結衣「またね、綾瀬ちゃん」

 

雪乃「ええ。深谷さん、また」

 

八幡「…………最後の、何あれ? 意味わかんねぇんだけど。俺また悪口言われてんの?」

 

雪乃「さあ、どうかしら?」

 

結衣「まあ、魅力に気がつく子がいてもおかしくないよねぇ……」

 

八幡「わからん……。さっきの、なんだ。深谷? にも余計なこと吹き込んでんのお前らじゃねぇだろうな」

 

雪乃「あら、失礼ね」

 

結衣「そんなことするわけないし」

 

八幡「あっそう。まあいいや、なんでも……」

 

結衣「………………」

 

雪乃「………………」

 

 

翌日

 

綾瀬「こんにちは」

 

雪乃「こんにちは、深谷さん」

 

結衣「や、やっはろー」

 

雪乃「では一応……あなたの要望を聞いておきましょうか。私達にはどこまでを求めているの?」

 

綾瀬「本当は、あなたたちにそこまでしてもらおうとは思ってないのかも。比企谷くんと、あなたたちとの接点が作れたらそれでよかった……のかな」

 

結衣「接点?」

 

綾瀬「うん。比企谷くんに告げる前に、こうしてあなたたちと話もしておきたかったから」

 

雪乃「私たちに言いたいことがある、ということかしら」

 

綾瀬「まあそれは昨日だいぶ言っちゃったんだけどね……」

 

結衣「……綾瀬ちゃんはさ、あたしたちのこと、憎い?」

 

綾瀬「……正直言うと、うん。この学校だと比企谷くんに一番近いところにいながら何をしてるのって思ってた」

 

雪乃「……ええと、まずはあなたの言っていた文化祭、その話にしましょうか。あなたは彼が何故あんなことをしたか知っているのよね?」

 

綾瀬「うん。知ってる。本当に悪いのは誰なのかってことも。なのになんで悪評が出回るのが彼なの? おかしいじゃない。私は彼が理由もなくそんなことするはずないって信じてたから、その噂が耳に入る度にそれは違うんじゃないかなって否定したよ。したけど……」

 

結衣「綾瀬ちゃん……」

 

綾瀬「私さ、普段はほんと大人しくしてるからこんなこと言わないんだよ? でもこれだけは本当に我慢ができなくなって、勇気を出して相模さんにもお願いしてみたの」

 

雪乃「彼女に? 何を?」

 

綾瀬「あなたは比企谷くんに救われたんだよ、わかってないの? わかってるならこんな噂否定して回ってよって。私がちまちまそんなこと言ってても無理だけど、本人がそう言うなら止められるんじゃないのって」

 

結衣「…………」

 

綾瀬「でも、無駄だった。聞き入れてはもらえなかった。噂を止めてっていう私に彼女はこう言ったの」

 

相模「わざわざそんなこと……するわけないじゃん。うちが悪いのも事実だけど、あいつがうちに酷いことを言ったのも事実。悪いからって何でも言っていいなんてことにはならないよね。逆ギレって言うなら好きに思ってていいよ。もしあの場にいたのがあいつだけで、葉山くん達がいなかったらうちは戻ってなかった」

 

綾瀬「……って。なんなの、あの人」

 

雪乃「……でしょうね。葉山君が褒め称えられるのはおかしいけれど、あれは葉山君だけでも、比企谷君だけでも駄目だったのよ」

 

綾瀬「何それ……」

 

雪乃「話したのはそれだけ?」

 

綾瀬「ううん、こんなことも言ってた」

 

綾瀬「相模さん、あなたは……」

 

相模「うちはあいつ嫌いだから。あいつもうちのこときっと嫌いだし。うちは基本的にあいつが何考えてるかなんて全然わかんないけど……それでもわかることだってあるんだ。でもまあ、次があるなら? だけど。借りは返してやるつもり……かな。だから、今は何もしてやらない」

 

 

綾瀬「……意味わかんない」

 

相模「別にあんたにわかられたいとも思ってない。用はそれだけ? もうないならウザいから早くどっか行ってもらえる?」

 

綾瀬「……ああもう。あんな自己中な人のために比企谷くんが泥を被るとか、あり得ないよ。なんで彼が針のむしろみたいな状況にならないといけないの? せめて、なんであなたたちは彼のしたことを認めてあげられないの?」

 

雪乃「認めていないわけないじゃない。あの時助けられたのは私もよ。それに、あんな状況にしてしまった原因は彼女を差し置いて一人で背負い込もうとしてしまった私のせいでもあるわ」

 

綾瀬「あの文化祭の裏側で、悪い人は他にいくらでもいるじゃない。なのに比企谷くんが……酷いよ」

 

雪乃「そうね……。誰が悪いとかって犯人探しをするのはあまり好きではないけれど、あの出来事でそもそも一番悪いのは彼女を唆したうちの姉だわ。いえ、それも含めて私かしら」

 

結衣「……いや、あの時はさがみんに同調してサボってた子もたくさんいるみたいだし、もう誰のせいってことでもないんじゃないかな」

 

綾瀬「……誰でもいいよ、比企谷くんが悪くないことは確実なんだから。ねぇ雪ノ下さん、さっきから私の質問に答えてないよ。なんで彼が嘲笑の的にならないといけなかったのかって」

 

雪乃「それは、私が……いえ、これは思い上がりね。……そうね、彼が比企谷君だから、かしら」

 

綾瀬「彼ならそうなって当然ってこと? ……呆れた。こんなところにいても比企谷くんのためにならないよ……。じゃあもう一つ、なんで助けられたことをわかっていながらあんな噂を放置できたの?」

 

雪乃「わかっていた、だからこそ、よ。だって、噂を否定して事実を広めるようなことをしたら……。あなた、本当にわからない?」

 

綾瀬「私には雪ノ下さんの思ってることなんてわかんないよ。ううん、彼が不当に蔑まれてても平気でいられる人の気持ちなんてわかりたくもない」

 

雪乃「……そう。ならもういいわ」

 

結衣「あたしは……綾瀬ちゃんが怒る理由もわかるな。あたし、あのとき必死になって否定しようとしなかったから。ヒッキーを気遣ってなかったとは言わないけど、あたしには他にも大事にしたいものがあって……ううん。これは言い訳だね」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、あなたは十分……」

 

綾瀬「やめて、気持ち悪い傷の舐め合いは。彼のことを一番に考えられなかったのはわかったから。あなたにとって比企谷くんはそんなものなのよ」

 

結衣「そんな、ことは…………」

 

雪乃「深谷さん、言い過ぎよ」

 

綾瀬「……ごめん。でも、同じ状況に私が置かれたなら、私は他の何を犠牲にしてでも彼を守ろうとしたと思う。あなたたちはそれができなかっただけ」

 

結衣「それは、できないね。確かに……」

 

綾瀬「あと修学旅行だけどさ、あれは由比ヶ浜さんが無理矢理引き受けたみたいなものなんでしょ?」

 

結衣「……うん。そう……だね」

 

綾瀬「それでさ、依頼を解決しようとしてくれたのは比企谷くんだけなのに、なんであの後気まずくなってたの? 彼のしたことをわかってあげようとは思わなかったの?」

 

結衣「あれは……ダメだよ。わかるけど、あのやり方は認めてあげられない」

 

綾瀬「なんで?」

 

結衣「なんでって……あんなの、間違ってるもん」

 

綾瀬「由比ヶ浜さんは間違っていないの? 引き受けたあなたが無責任で最後まで何もしないから彼がああせざるを得なくなったんじゃない」

 

結衣「それ、は、あたしは、あんなことするなんて思ってなくて……」

 

綾瀬「……あんなこと? 必死に解決しようとしてくれた比企谷くんのしたことをあんなこと呼ばわり?」

 

雪乃「あれに関しては私も彼に任せると伝えたけれど……。あんな行動を認めるなんて、私には無理だわ」

 

綾瀬「そう。よくわかったよ、私とあなたたちでは彼に関する想いが違うんだってことがね。やっぱり比企谷くんはこんなところにいるべきじゃない。彼にはもっと相応しい場所と人がいる」

 

結衣「相応しくない、か……。そう、なのかもね。でもそれはヒッキーが……」

 

綾瀬「私は告白したらそれもちゃんと伝えるから。ここをやめてもらうよう説得するつもり。比企谷くんはちゃんとわかってくれるはずだよ。彼には味方してくれる人が一人でもいればああしないで済んだはずだから」

 

雪乃「……そう、好きにするといいわ。私たちにそれを止める権利はないもの。それにしてもあなた、戸部くんから聞いた話だけでよくそこまで……」

 

綾瀬「あれに関してはそれからいろんな人に話を聞いたよ。それでね、私はあれ、葉山くん達にハメられたんじゃないかと思ってるんだ」

 

雪乃「嵌められた……? 比企谷君が、葉山君に?」

 

綾瀬「正確には葉山君のグループに、かな。どう足掻いても解決できない相反する依頼を比企谷くんに頼んで、彼をスケープゴートに仕立てあげた」

 

結衣「……ヒッキーはとべっちからだけじゃなくて、他の人からも依頼されてたってこと?」

 

綾瀬「うん。これは当事者の人たちしかわからないから想像だけどね。私に話してくれるわけがないもん。だから、これも比企谷くんに確認するよ」

 

雪乃「……確認して、どうするの?」

 

綾瀬「そんなの、決まってる。事実なら私は葉山くんたちも許せない。無関係の比企谷くんに頼らないとどうにもならない、あんな空っぽのグループなんて壊れてしまえばいい」

 

結衣「そんなの……」

 

綾瀬「そういえば由比ヶ浜さんもその一員だったっけ。なのにそんなこと考えもせずに彼を責めたんでしょ? ……よくそんなことできるよね」

 

結衣「……もしそうなら、いや、そうじゃなくてもあたしは卑怯だなぁ……。あれもこれも大事で、ヒッキーだけに責任を負わせて……。でも、ヒッキーがしたことは、やっぱり……」

 

綾瀬「……もういい。あなたたちとはわかりあえないっていうのは、彼を第一に考えられないのはよくわかった。明日、彼に告白するから放課後に屋上に来るよう伝えてもらえるかな? 私の依頼はそれだけ」

 

雪乃「……ええ。その依頼、確かに引き受けたわ」

 

結衣「………………」

 

綾瀬「じゃあ、私はもう行くね。たぶんもうここに来ることはないと思う。それで、比企谷くんも次が最後になるんじゃないかな。……退部の連絡に。では、さようなら」

 

雪乃「………そう。深谷さん、また」

 

結衣「………………」

 

雪乃「………………」

 

結衣「……ゆきのん、いいの?」

 

雪乃「……由比ヶ浜さんだってわかっているでしょう?」

 

結衣「うん……。そう、なんだけどね。あたし、やっぱ酷い子だな。…………止めたくなっちゃうもん」

 

雪乃「……本音を言うと、私もよ。でも、あくまで決めるのは、選ぶのは彼だから」

 

結衣「…………だよ、ね」

 

雪乃「……ええ」

 

 

翌日

 

綾瀬「……比企谷くん、来てくれてありがとう」

 

八幡「あれ、深谷? 雪ノ下と由比ヶ浜は? 俺あいつらに呼び出されて来たんだけど」

 

綾瀬「二人なら、来ないよ。それとも邪魔しようと何処かで見てるのかな? 今日は比企谷くんをここに呼び出してほしいって、私が頼んだの」

 

八幡「……ほーん。そうか」

 

綾瀬「うん。それでね、私、比企谷くんに伝えたいことがあるの」

 

八幡「お、おお」

 

綾瀬「……私、比企谷くんのこと、ずっと前から見てました。比企谷くんのことが、好き。大好きです」

 

八幡「!?」

 

綾瀬「だから、奉仕部なんてやめて、私と……」

 

八幡「ちょ、ちょっと待て。えと、好き、とかはわかったけど、なんで奉仕部やめろって話になんだよ」

 

綾瀬「だってあんな場所とあんな人たち、比企谷くんに相応しくないよ」

 

八幡「相応しくない?」

 

綾瀬「うん。私、文化祭や修学旅行で比企谷くんのしてきたことも、なんでそんなことをしたのかも全部わかってる。誰よりも問題解決のために頑張ったのは比企谷くんなのに、悪い噂が流れても平気だったり、比企谷くんのしたことを責めるような人たちは間違ってる」

 

八幡「………………」

 

綾瀬「私なら比企谷くんのしたことを認めて、何があってもあなたの味方でいられるよ。だからあんな人たちと一緒にいるのは止めて、私と付き合ってもらえ、ますか」

 

八幡「……何があっても俺の味方でいられる、ね」

 

綾瀬「うん、絶対にそう誓える。私はそれぐらい比企谷くんのことが好きだし、比企谷くんはそうされるべきだと思うの。頑張ってやってきたことが報われないなんて、そんなの、ダメだよ」

 

八幡「……そりゃさぞかし居心地の悪い世界だなぁ」

 

綾瀬「うん、そうだよ。比企谷くんにはもっと居心地のいい場所が……って、言い間違えてるよ。居心地いいに決まってるじゃない」

 

八幡「言い間違いじゃねぇよ。そんな世界、居心地悪すぎて吐き気がする」

 

綾瀬「な、なんで? 比企谷くんは……」

 

八幡「だってそうだろ。間違ってるのにみんなが褒め称えてくれて、認められる世界なんて気持ち悪い以外に何がある。俺は新興宗教の教祖様じゃねぇんだぞ」

 

綾瀬「なんでそうなるの? 比企谷くんのしてきたことは間違ってなんかないじゃない。いつも誰よりも頑張って、一人で泥を被って、みんなに悪口言われて……」

 

八幡「あー、まぁ文化祭のあとのあれはちょっと堪えたな……慣れてるとはいえ」

 

綾瀬「私は許せないよそんなの。本当に悪い人が責められないで、みんなのためにやった比企谷くんが責められて、悔しいよ私。あの時私が全部わかっててあなたの傍にいられたら、本当のことを話して回ったのに」

 

八幡「い、いや勘弁してくれ、そんな蒸し返すようなこと。お前が傍にいなくてよかったよ……」

 

綾瀬「……比企谷くん、いいんだよ。あなたは誰よりも優しいからみんなを救いたいんだって。でも、それであなたが傷つくのは見てられないよ……」

 

八幡「……あー、なんだろうな、なんて言えばいいんだ。お前もたぶん優しいんだろうな」

 

綾瀬「比企谷くんほどじゃないけど、奉仕部の二人よりは優しいと思うよ。あなたが蔑まれても気にしない雪ノ下さんとか、平気で笑っていられる由比ヶ浜さんとは違うの」

 

八幡「…………。言いたいことはそれだけ?」

 

綾瀬「い、いや、まだあるよ。修学旅行のこと、なんだけど」

 

八幡「……どこまで知ってるんだ」

 

綾瀬「大体は。けどわかんないこともあるから確認したいの。比企谷くんはさ、葉山くんたちにハメられたんじゃないの?」

 

八幡「は? 俺が? 誰に?」

 

綾瀬「葉山くんたちに。たぶん葉山くん主導なんじゃないかと思うんだけど……。あなたを貶めようと解決しようのない依頼を頼んで、優しい比企谷くんがスケープゴートにされた。違う?」

 

八幡「ぜんっぜん意味がわかんねぇ。俺が誰の生け贄になったの?」

 

綾瀬「手を汚したくない葉山くんが比企谷くんに全部を押し付けて、あんなことをさせたの。そうでしょ?」

 

八幡「想像力逞しいな、お前……。てか妄想の域だろ、それ。葉山が俺を貶めてなんの利点があんだよ」

 

綾瀬「葉山くんは自分の持っていないものを持ってる比企谷くんに嫉妬して、比企谷くんから全部を奪おうとしたんじゃないかな。比企谷くんはそれにまんまと乗せられて……葉山くんは比企谷くんがそうするってわかってたのよ。それで、実際奉仕部の二人と気まずくなった。……違う?」

 

八幡「……違うっていうか、お前さ、俺も葉山も馬鹿にしてる? まぁ俺もあいつも対極の馬鹿なんだけどよ」

 

綾瀬「ば、馬鹿になんかしてないよ」

 

八幡「そうか。もう帰っていい? お前に話が通じる気がしなくなってきた」

 

綾瀬「ま、待って、ちゃんと教えてよ。葉山くんとか海老名さんにも依頼されたんじゃないの?」

 

八幡「されてねぇよ、依頼なんか。あれは俺が勝手にやっただけだ。しかも俺自身が後悔するような、安っぽくてろくでもない手段でな」

 

綾瀬「嘘だよ、そんなの。河原で葉山くんと話してるの見た人がいるんだよ。その時にお願いされたんでしょ?」

 

八幡「違ぇよ……。お願いなんかされてねぇつってんだろ。頼まれてもねぇのに葉山の思ってることを聞きに行っただけだ」

 

綾瀬「……嘘だ」

 

八幡「やっぱ人の話聞く気ねぇじゃねぇか。……アホらし。じゃあな」

 

綾瀬「待って、まだ話は終わってないっ。告白の返事も、まだだし……」

 

八幡「あ、あー、すまん忘れてた。返事の前にちょっと聞かせてくれ。俺の、どこがいいの?」

 

綾瀬「え、えと。比企谷くんは、私の理想の人なの。誰よりも優しくて、自分が傷つくことも恐れないで人の為に動くことができて、その、自己犠牲を厭わないのって、凄いと思うの」

 

八幡「……違う」

 

綾瀬「違わないよ」

 

八幡「違うんだよ。俺のやってきたことは全部俺のためだ。自己犠牲? ふざけるな。あんなろくでもない奴等のための犠牲になんて誰がなるかよ」

 

綾瀬「なんでそんなこと言うの? もう素直になっていいんじゃない、かな。いくら比企谷くんがそんな風に言っても、やってることは自己犠牲そのものだよ。比企谷くんのしたことが人のためになってるなら、褒められたって、救われたっていいじゃない……」

 

八幡「……俺がそんな風に、誰かに助けてもらいたくて人を助けてるって言いたいのか。利己的な打算の末の行動だって言ってんのか」

 

綾瀬「ち、違うよ!」

 

八幡「何が違うんだ。俺にはそう言ってるようにしか聞こえねぇよ」

 

綾瀬「比企谷くんの思惑はどうであれ、あなたのしたことでみんな助けられてる。 ……そんな比企谷くんが責められていいはずがない! 奉仕部の薄情な二人と違って、私ならあなたを認めて守ってあげられる!」

 

八幡「守る? 認める? 俺を? いつそんなこと頼んだ」

 

綾瀬「頼まれてやってるわけじゃないよ。私が、比企谷くんのためを思って……」

 

八幡「余計なお世話だ。俺が自己満足でやってんのに勝手に気持ちの悪い同情押し付けて、上から目線で勝手なラベル貼ってんじゃねぇ。俺はお前の、誰かの理想のヒーローで在りたいなんて思ったこともねぇよ」

 

綾瀬「で、でも、比企谷くんのしてきたことは、間違ってなんか……」

 

八幡「間違ってるよ、俺は」

 

綾瀬「どこが、間違ってるの……?」

 

八幡「……お前さ、あいつらに依頼したんじゃないのか。告白の手伝いをしてくれ、とか」

 

綾瀬「う、うん。したけど……」

 

八幡「今あいつらは別に邪魔しにきてないだろ」

 

綾瀬「どういうこと?」

 

八幡「その気もねぇのに人の告白遮っていいわけねぇよ。それをあいつらもわかってるからだ。あの時と状況は違うにしてもな」

 

綾瀬「あの時は戸部くんが振られるってわかりきってたからで、比企谷くんは他の手段がなかったから仕方なくそうしたんじゃない」

 

八幡「まぁそうだな。けどあんなの、そもそも俺が何かしたこと自体が間違いなんだよ。告白はさせてその後で何かするならまだしも、封殺して先送りにするなんて解決になってねぇんだから。結局あいつらはまたどっかで折り合いをつけなきゃなんねぇんだからな」

 

綾瀬「みんなの望みは叶えられなくても、誰かの望みは叶えてるのになんでそんなに意地を張るの……?」

 

八幡「……意地か。それをもう少し張れてたらあんなこともしなかったのかもな。嘘吐いて曲げたから…………まぁいいや、済んだことだそれは」

 

綾瀬「……?」

 

八幡「これこそ関係ない話だ。別にわからなくてもいい」

 

綾瀬「……じゃあ、文化祭のあと雪ノ下さんや由比ヶ浜さんが噂を否定しなかったこと、比企谷くんはどう思ってるの? せめて近くにいる人にはわかってもらいたいとか、そんなことも思わなかった?」

 

八幡「思わない……というか、別に否定はされてねぇつもりだけど、俺。だからあいつら蒸し返したりしなかったんだろ」

 

綾瀬「どういうこと?」

 

八幡「いや、それしか手がないのは俺のせいだし、やらんでもいいことしたのも俺だし、噂は違うつって否定して回ったらそれこそ俺のしたことの意味がなくなんだろ。直接聞いたことはないけどそんな感じだろ、たぶん……」

 

綾瀬「なんなのよ……。比企谷くん、どうしてわかってくれないの? あ、もしかして奉仕部の二人のどっちかが好きだから庇ってる、とか。そうなの? 私よりも顔がちょっと可愛いから? 比企谷くんはきっと騙されてるんだよ、あの人たちは薄情だし冷たいよ」

 

八幡「……だよなぁ。あいつら俺に優しくねぇんだよ。もっと俺のこと気遣えっつーの。って何度も思うけど騙されてはいねぇよ、訂正しろ。あ、こんな俺がまともなお前と付き合うとか無理だから」

 

綾瀬「…………なんで……。あの人たちの何がそんなにいいの!?」

 

八幡「雪ノ下は口を開けば毒を吐くろくでもねぇ奴だし、由比ヶ浜は口を開けば馬鹿みたいなこと言うし、余計なことばっかり考えて悩んでるし……最悪だよ」

 

綾瀬「私は、そんな人たちとは違う、のに」

 

八幡「でも……あいつらは俺が間違えてるときは間違ってるって言ってくれるんだ。平塚先生も。俺は簡単に認めてもらえるぬるま湯みたいな世界は求めてないんだよ。そんなの薄気味悪くて反吐が出る」

 

綾瀬「……馬鹿だよ、比企谷くん」

 

八幡「だろうな。だからまだ俺みたいな馬鹿がいるあそこを抜けられないんだよ。……じゃあな」

 

綾瀬「私は……あんな人たちより、比企谷くんのこともっとわかってるのに……」

 

八幡「……わかってる? それはやめろ、本当に。俺は勝手にわかった気になられるのが一番ムカつくんだ」

 

綾瀬「っ! …………あ、あの、最後に一つだけ、聞かせてほしいの」

 

八幡「なんだ」

 

綾瀬「修学旅行のあと、生徒会選挙とかあってから……比企谷くん、落ち込んでたよね」

 

八幡「落ち……いや、どこまで知ってんだよお前、怖ぇよ」

 

綾瀬「あのとき、二人とか奉仕部のこと、嫌にならなかったの? もうこんな奴等相手にしてられるかとか、なんで俺がこんな目に合うんだ、理不尽だとか、思わなかった? あの弱ってるタイミングで私が告白してたら、振り向いてもらえた?」

 

八幡「……ねぇな、それは。俺の境遇は全部俺が招いたことだ。どんなに弱っててもあいつらのせいにだけはしたことがない」

 

綾瀬「……わかった。……馬鹿」

 

 

八幡「……うす」

 

雪乃「……こんにちは」

 

結衣「や、やっはろー……」

 

八幡「………………」

 

結衣「………………」

 

雪乃「…………比企谷君」

 

八幡「……あ?」

 

雪乃「彼女はできた?」

 

結衣「ゆ、ゆきのん」

 

八幡「……わかってる癖に。いねぇよ、残念ながらな」

 

雪乃「……そう。安心したわ」

 

結衣「い、いないんだ、そうなんだ……」

 

八幡「なんで安心すんだよ、お前ら」

 

結衣「そ、それはその……」

 

雪乃「……安心なんかしてないわ」

 

八幡「いや安心したって言ったばっかだろうがお前」

 

結衣「まーね、その、とにかくよかったかなー」

 

雪乃「そ、そうね。比企谷君はきっと、たぶん、おそらく、だけど……私たちの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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