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文乃 「そ、それって……どういう、意味、なのかな……?///」【ぼく勉ss/アニメss】

 

………………朝 唯我家

 

成幸 「………………」

 

ガツガツガツ……ムシャムシャムシャ……

 

和樹 「おー。兄ちゃん朝から早食いだなー」

 

成幸 「ん……」 ゴックン 「早めに学校に行って、ノートをまとめておきたくてな」

 

葉月 「さっすが兄ちゃん! 勉強熱心ね!」

 

成幸 (まぁ、俺のノートじゃなくてあいつらのノートだけどな……)

 

成幸 「ってことで、ごちそうさま。もう学校行くな!」

 

水希 「あっ……お兄ちゃん、ちょっと待ってー」

 

ドタドタドタ

 

成幸 「どうかしたか、水希?」

 

水希 「髪がうまくまとまらないのー! お兄ちゃんやってー!」

 

成幸 「……おいおい、お前中学生だろ。ポニーテールくらいいい加減できるようになれよ……」

 

水希 「今日は髪が言うこと聞いてくれないの!」

 

成幸 「仕方ないな……。ほら、後ろ向けよ」

 

水希 「……ぃよしっ」 グッ

 

成幸 「……? お前今野太い声でガッツポーズ決めなかったか?」

 

水希 「えーっ、なんのことー?」 キャルン

 

成幸 「……もういいや。じゃ、櫛入れてくぞー」

 

スッ……サッ……サッ……

 

水希 「はうぅ……」 ポワポワ (久々にお兄ちゃんに櫛入れてもらってる……)

 

水希 (気持ちよくてどうにかなっちゃいそう……///)

 

成幸 「……っし。じゃ、まとめるぞ、っと」

 

キュッ

 

成幸 「……こんなもんでいいだろ。ほら、できたぞ、水希?」

 

水希 「うふふ……お兄ちゃんの逞しい手が、私の髪を……えへへ……」 ポワポワポワ

 

成幸 「水希……? おーい、水希ー」

 

和樹 「あー、これはダメだな。完全にトリップしてるよ」

 

葉月 「こうなっちゃったら水希姉ちゃんはすぐには動けないわね」

 

和樹 「兄ちゃん学校で勉強するんだろ? 姉ちゃんは俺たちが見てるから、先行きなよ」

 

成幸 「おう、じゃあ頼んだぞー。いってきまーす!」

 

葉月&和樹 「「いってらっしゃーい!」」

 

成幸 (ふむ……)

 

成幸 (久々に水希の髪をいじったが、まだまだ俺も捨てたもんじゃないな)

 

成幸 (まぁ、ポニーテールが楽だから簡単だってのはあるけどな)

 

成幸 (もっと色々な結び方とかできるようになったら、水希も葉月も喜んでくれるかな……?)

 

成幸 (そういや、古橋ってしょっちゅう髪型変えるような……)

 

成幸 (ちょっと教えてもらおうかな)

 

………………昼休み 一ノ瀬学園

 

大森 「なぁ、女子の髪型ってさ、いいよな……」

 

小林 「……いきなりどうしたの、大森」

 

成幸 「しみじみ言われるとさすがにキモいぞ」

 

大森 「女子ってさ、髪型を変えることで変身できるんだよ……」 沁沁

 

成幸 「どうした、大森。悪いモンでも食ったのか? それとも頭でも打ったか?」

 

大森 「ってことで、お前らの女子の髪型の好みを聞こう!」

 

小林 「急に変なこと言いだしたと思ったら、結局ソッチに持ってくのね……」

 

ヤレヤレ

 

小林 「俺はショートカットかなぁ。スポーティでかわいいとなお良し!」

成幸 「なんだかんだ、お前ってこういう話題結構好きだよな……」

 

大森 「っていうかそれそのまま海原さんじゃねーか! ノロケんじゃねー!」

 

小林 「ははっ、バレた。でも実際、昔からショートカットの方が好きだしさ、俺」

 

大森 「俺は断然ロング派だぞ! カチューシャとかで流してるのが好きだ!」

 

大森 「お嬢様っぽくおしとやかにまとめてるのも良いな!」

 

成幸 「……お前たちはどうしてそう自分の性癖を事細かに語れるんだ」

 

大森 「なんだよー。男しかいねーんだから恥ずかしがんなよ、唯我ー」

 

大森 「俺たちも話したんだ。お前も話せよー」

 

成幸 「髪型の好みなんかねぇよ」

 

成幸 「そういうのはわからないっていつも言ってるだろうが」

 

大森 「良い子ぶんじゃねー! お前だけ聞き逃げするつもりかー!?」

 

成幸 「なんだその無茶苦茶な言いがかりは!? お前たちの女子の髪の好みなんかどうでもいいわ!」

 

成幸 (ああ、ちくしょう。早く飯食ってあいつらの教材作りたいってのに……)

 

成幸 (こうなったら、もう適当に答えるのが一番か……)

 

―――― 「……おいおい、お前中学生だろ。ポニーテールくらいいい加減できるようになれよ……』

 

成幸 「………………」 (……うん。ポニーテールは楽だし、嫌いじゃないな。ウソにはならない)

 

成幸 「あえて言うなら、ポニーテールかな。長さはべつになんでもいい」

 

………………廊下

 

理珠 「ふふふ……。明日までの宿題を今日提出したら、成幸さんはどんな顔をしますかね」

 

うるか 「成幸、泣いて喜ぶんじゃないかな。あたしたちの成長を喜んで!」

 

文乃 「そ、そうだねー……」

 

文乃 (冷静に考えれば、次の宿題を出すスパンが短くなるんだから、)

 

文乃 (成幸くんを困らせることになりかねないんだけど、まぁそれは言うまい……)

 

文乃 (あとで成幸くんに、宿題無理して作らなくていいからね、って言わないと……)

 

 

  「ってことで、お前らの女子の髪型の好みを聞こう!」

 

うるか 「……!?」 (大森っちの声!? 教室の中からだ!)

 

理珠 (と、いうことは、この髪型のことを聞いている相手は……)

 

文乃 (成幸くん、だよね……)

 

うるか 「……ち、ちょっと聞いてかない? この会話。べつに成幸がどーとかじゃないけど……」

 

理珠 「せ、せっかくですしね。成幸さんの好みを聞いておくのも、今後の関係を考えると有益かと思いますし」

 

文乃 (……胃が痛いなぁ) キリキリキリ……

 

  「俺はショートカットかなぁ。スポーティでかわいいとなお良し!」

 

うるか 「こばやんの声だ」 ヒソヒソ 「こばやんの彼女、海っちの髪型そのまんまだよ」

 

文乃 「微笑ましいねぇ……」 (胃が痛いなぁ。お願いだから成幸くん余計なこと言わないでよ……)

 

  「俺は断然ロング派だぞ! カチューシャとかで流してるのが好きだ!」

 

  「お嬢様っぽくおしとやかにまとめてるのも良いな!」

 

理珠 「………………」 うるか 「………………」

 

文乃 (大森くんの声には清々しいまでにどうでも良さそうな顔してるね……)

 

 

  「髪型の好みなんかないよ」

 

  「そういうのはわからないっていつも言ってるだろうが」

 

  「良い子ぶんじゃねー! お前だけ聞き逃げするつもりかー!?」

 

 

うるか 「そーだそーだ。もっと言ってやれ大森っち」

 

理珠 「……そうです。成幸さんは卑怯です」 フンスフンス

 

文乃 「……ほっ」 (よかった。成幸くん、黙り込んじゃったし、このまま何も言わないで終わるのかな)

 

文乃 (ヘタなこと言われたらりっちゃんたちの勉強に支障が出るからね。よかったよ)

 

文乃 「……ほら、りっちゃん、うるかちゃん、もう行くよ」

 

文乃 「成幸くんに宿題見せて褒めてもらうんで――」

 

 

「――あえて言うなら、ポニーテールかな。長さはべつになんでもいい」

 

 

文乃 「……!?」

 

理珠&うるか 「「………………」」 ジーーーーーーッ

 

文乃 「な、なんでわたしを見るのかな、ふたりとも……」

 

ハッ

 

文乃 (し、しまったぁあああああ!! 今日のわたし、ポニーテールだー!!)

 

文乃 (そしてりっちゃんは元より、うるかちゃんも今日は髪をそのままおろしてるね!)

 

………………

 

成幸 「ん……? なんか廊下が騒がしいな……」

 

理珠 「……し、宿題の提出は後にします! ちょっと用事を思い出しました!」

 

うるか 「あたしも! ちょっと用事を思い出したから放課後に提出するよ!」

 

文乃 「ち、ちょっとふたりとも落ち着いて……」

 

成幸 「……騒がしいと思ったらお前たちか」

 

理珠 「なっ、成幸さん!」 バババッ

 

うるか 「成幸、こっち見ちゃダメ!」 バババッ

 

成幸 「……? おい、古橋。このふたりは手で頭隠して何やってんだ?」

 

文乃 「わたしが聞きたいよ……」 (かわいいなぁ、ふたりとも……でも胃が痛いなぁ……)

 

成幸 「ん……」 (古橋、今日はポニーテールか。水希とおそろいだな)

 

ニコッ

 

成幸 「古橋も今日はポニーテールか。いいよな、ポニーテール」

 

文乃 「ふぇっ……!?」

 

文乃 (こ、このバカー! このタイミングでわたしの髪型褒めるかな、普通!!)

 

理珠 「!?」

 

 

―――― 『な なんだ いつも通り 普通に元気そうじゃないか よかった』

 

―――― 『成幸マジで信じらんないッ!!』

 

―――― 『最低ッ!! 最低ッ!! 最低だよ成幸くん! これだから男子は……!!』

 

 

理珠 (わ、私が前髪を切ったときは全く気づいてくれなかったくせに……)

 

プルプルプル……

 

理珠 (私が前髪を切ったときは結局最後まで気づいてくれなかったくせに!!)

 

理珠 (あなたはどれだけポニーテールが好きなのですか!?)

 

うるか (成幸めー!)

 

うるか (あたしが胸元開けよーがスカート丈詰めよーが気にしないくせにー!)

 

うるか (どんだけポニーテールが好きなんだよー! 成幸のポニテ好き変態ー!)

 

理珠 (こうなったら私も……) ダッ

 

うるか (あたしもポニテにしてきてやるー!!) ダッ

 

文乃 「あっ、ふ、ふたりとも……! ……行っちゃった」

 

文乃 (ヘアゴムだったら言ってくれれば予備を貸すのに……)

 

成幸 「……なんだったんだ? 最後にめちゃくちゃ睨まれたんだけど」

 

成幸 「俺、なんかしちゃったか……?」

 

文乃 (無自覚に何かしちゃってるんだよいつもー! 少しは気づいてよ……)

 

成幸 「……で、結局一体何の用だったんだ?」

 

文乃 「あっ……えっとね、宿題が早く終わったから、出しに来たんだけど……」

 

文乃 「ふたりはどこかに行っちゃったけど……」

 

成幸 「ん、そうか。じゃあ古橋のだけでも預かっとくな。ごくろうさん」

文乃 「いえいえ。いつもありがとうございます、先生」

 

 

―――― 『あえて言うなら、ポニーテールかな。長さはべつになんでもいい』

 

―――― 『古橋も今日はポニーテールか。いいよな、ポニーテール』

 

 

文乃 「っ……///」

 

文乃 (でも、そっか……) カァアアアア…… (成幸くん、ポニーテール好きなんだ……)

 

………………放課後

 

うるか 「………………」 バーン!!!

 

理珠 「………………」 ババーン!!!

 

文乃 「おおう……」 (本当にポニーテールにしてきてるよ、ふたりとも……)

 

文乃 「……ふたりとも、ヘアゴムはどうしたの?」

 

うるか 「ふふふ、あたしは水泳部だよ? トーゼン、バッグの中には常備だよ」

 

理珠 「私は持ち歩く習慣はないので借りました」

 

文乃 「誰に?」

 

理珠 「……関城さんです」

 

文乃 「おおう……」 (はしゃぎ回る紗和子ちゃんが目に浮かぶようだよ……)

 

文乃 (それにしても……)

 

文乃 (うるかちゃんはいいとしても、りっちゃんは……) ジーッ

 

理珠 「?」

 

文乃 (ちょんまげみたいになっちゃってるんだけど、りっちゃん的にはそれでいいの……?)

 

成幸 「悪い、遅くなった。HRが長引いてさ。待たせたな」

 

うるか 「なっ、成幸……」 サワッ 「おつかれさま! 全然待ってないよ!」

 

理珠 「え、ええ。我々も今さっき来たところですから!」 ピョコン

 

成幸 「よーし、じゃあ早速始めるか。ふたりも宿題終わらせてるんだろ? 早速見るからくれ」

 

うるか 「あ……う、うん……」 理珠 「……はい」

 

文乃 (胃が痛い……)

 

文乃 (ふたりの露骨なポニテアピールに対して、成幸くんはまったく目もくれていないよ……)

 

文乃 (仕方ない。ここは、ふたりの気持ちを鼓舞するためにも、わたしが一肌脱いで――)

 

成幸 「――ん。そういえば、古橋」

 

文乃 「へっ……? な、何かな?」

 

成幸 「お前、髪結ぶ位置変えたのか」

 

文乃 「えっ……」

 

文乃 (な、成幸くんが髪の変化に気づいた!?)

 

文乃 (あの女の子の感情にとんでもなく疎いニブチンの成幸くんが!?!?)

 

文乃 (き、驚天動地だよ……)

 

文乃 (たしかに、これ以上うるかちゃんとりっちゃんの乙女騒動に巻き込まれたくなくて、)

 

文乃 (ポニーテールからサイドテールに変えたけど、よく気づいたね……)

 

文乃 (いや、これもわたしの教えが染みついてきたってことかな……)

 

ホロリ

 

文乃 (師匠として鼻が高いよ……でも、成幸くん……)

 

理珠 「………………」 ジトーッ (……私の前髪には気づかなかったくせに)

 

うるか 「………………」 ジトーッ (文乃っちの髪型の変化にはすぐ気づくんだね……)

 

文乃 (このタイミングはやめてほしかったなぁ……!!)

 

ギリギリギリ……

 

文乃 (い、胃が……壊滅寸前のダメージを受けてる気がするんだよ……)

 

成幸 「どうかしたか?」

 

文乃 「だ、大丈夫。大丈夫だから……」 (きみはもうできるだけ喋らないでくれるかな?)

 

成幸 「そうか。ならいいけど……」

 

成幸 「でも、サイドテールってのもなかなかいいな」

 

理珠&うるか 「「……!?」」

 

文乃 「ふぇっ……?///」 (な、なんでそんな、わたしの髪型ばかり褒めるのかな!?)

 

成幸 (水希はいつもポニーテールだけど、部活で邪魔にならないならサイドテールにいいんじゃないだろうか)

 

成幸 (今度結んでやったら喜ぶかなぁ……)

 

理珠 「っ……」 (成幸さんの中で髪型のトレンドが動いたということでしょうか!?)

 

うるか (こうなったら、サイドテールにしてくるしかない!!)

 

ガタッ

 

理珠 「ちょっと用事を思い出したので一旦抜けます!」

 

うるか 「すぐ戻るね!」

 

タタタタタ……

 

成幸 「えっ……? うるか? 緒方?」

 

成幸 「なんだ……? そんな急ぎの用事があったのか……?」

 

文乃 「うん。あのふたりにとっては可及的速やかにこなさなくちゃいけない用事だよ……」

 

………………

 

理珠 「………………」 ゼェゼェ 「お、お待たせしました……」 ピョコン

 

うるか 「えへへ……。こ、これでどうだ……」 サワッ

 

文乃 「………………」

 

文乃 (……ふたりとも、急ぎすぎて髪の結び方が雑だし)

 

文乃 (りっちゃんに至っては、ただ横で結んだだけだから、乳幼児みたいな髪型になってるよ……)

 

成幸 「お、おう。おかえり。宿題は見終わったぞ。この調子で今日も勉強がんばろう」

 

理珠 「えっ……」 うるか 「そ、それだけ……?」

 

成幸 「……? 宿題はしっかりとやってるように見えたが、何か分からないところでもあったのか?」

 

うるか 「いや、そーじゃなくてね……」

 

理珠 「ほ、他に私たちに言っておいた方がいいこととか、ありませんか?」

 

成幸 「……?」

 

ハッ

 

成幸 「ああ、なるほど。俺としたことが、忘れるところだったよ」

 

理珠&うるか 「「………………」」 パァアアアアアアアアア……!!!!

 

成幸 「悪い悪い。お前たちが早く宿題を終わらせるから、危うく間に合わないところだったけど」

 

ドサッ

 

理珠 「えっ……」

 

成幸 「お前たちのがんばりに、俺も 『教育係』 として準じなければならないからな!」

 

成幸 「明日出す予定だった宿題、がんばって今日渡せるようにしたぞ。ふふふ……」

 

うるか 「あ、あの、成幸……?」

 

成幸 「今日は宿題がなくなるんじゃないかと不安だったんだろ?」

 

成幸 「安心しろ」 キリッ 「お前たちの 『教育係』 は、お前たちを手ぶらで返したりはしないからな!」

 

うるか 「そ、そっか……えへへ、嬉しいな……うれ、しい……な……」 ズーン

 

理珠 「……ええ。本当に。最高の気分です」 ズーン

 

成幸 「喜んでくれるなら、多少無理してでも宿題を完成させた甲斐があるよ」

 

文乃 (……あー、もう。どうしてきみは女の子のことになると心の機微を察する気持ちが皆無になるのかな!?)

 

文乃 「まったくもう……」 ガシッ 「ちょっとこっち来て、成幸くん」

 

成幸 「ん? どうかしたか、古橋?」

 

文乃 「いいから、来て。話があるの」

 

………………物陰

 

成幸 「話ってなんだ?」

 

文乃 「……その前に、ひとつ聞きたいんだけど、うるかちゃんとりっちゃんがさっき何をしに行ったかわかる?」

 

成幸 「えっ……? 用事って言ってたけど、その中身までは俺は知らないぞ?」

 

文乃 「うん。そうだよね。そう。きみはまったく、そうあるべきなんだよ」

 

成幸 「へ……? わ、悪い。俺に分かるように言ってくれるか?」

 

文乃 「うん。まぁ、それはいいんだけど……どうしてきみは、わたしの髪型の変化に気づいたの?」

 

文乃 「きみは今まで、自他共に認めるくらい、そういう変化に疎かったよね」

 

成幸 「……ん、まぁ、その通りだけど」

 

成幸 「古橋の髪型は、(今朝から)ずっと気になってたから……」

 

文乃 「えっ……」

 

成幸 「お前の髪型を気にするようにしたら、(水希と葉月が)喜んでくれるかな、って……」

 

成幸 「もちろん、色々(結い方とか)教えてもらう必要はあるだろうけど……」

 

文乃 「………………」 カァアアアア…… 「なっ……何を、言ってるのかな、きみは……!?」

 

文乃 (わ、わたしの髪型を気にするようにしたら、わたしが喜ぶかなって……?)

 

文乃 (つ、つまり成幸くん、きみは……)

 

文乃 「(わたしを)喜ばせたかったの……?」

 

成幸 「あ、当たり前だろ! (あいつらの)笑顔を見るために俺はがんばってるんだから!」

 

文乃 「ふぁっ……///」

 

文乃 (わ、わたしの笑顔を見るために……?)

 

文乃 「そ、それって……どういう、意味、なのかな……?」

 

成幸 「……教えてほしいんだ。色々と」

 

文乃 「い、色々って……わ、わたしのことを……?」

 

成幸 「ああ、そうだ。お前の……」

 

成幸 「……お前の、色々な髪型のセットの仕方を!!」

 

文乃 「っ……///」

 

文乃 「……ん?」

 

文乃 「………………」

 

………………

 

文乃 「……うんうん。なるほどなるほど。よくわかったよ」

 

文乃 「つまりきみは、妹さんたちの髪型のバリエーションを増やしたいなーと思って、」

 

文乃 「毎日髪型を変えるわたしに結い方を教えてもらえたらな、と思っていた、と」

 

成幸 「あ、ああ。さっきもそう言ったつもりだったけど……」

 

文乃 「だから、わたしの髪型の変化に気づくことができた?」

 

成幸 「うん……」

 

文乃 「そして、ポニーテールが好きだと言ったのは、見た目ではなく機能性の話なんだね?」

 

成幸 「結いやすいし運動もしやすくなるからな。部活をやってる水希は毎日ポニーテールだし」

 

文乃 「うんうん、なるほどねぇ……」

 

シュッ

 

文乃 「……とりあえず、一発手刀を入れても良いかな?」

 

成幸 「なんでだ!?」

 

………………

 

理珠 「………………」 ズーン

 

うるか 「………………」 ズーン

 

成幸 「ほ、ほんとだ。よく見たら、かなり凹んでるな……」

 

文乃 「でしょ? ほら、早く。さっき教えた魔法の言葉をかけてあげて」

成幸 「ほ、本当に言うのか?」

 

文乃 「……ふふ、おかしな成幸くん」 シュッ 「手刀を入れられたいのかな?」

成幸 「わ、わかったよ! 言うから! 手刀の素振りはやめてくれ!」

 

成幸 「……うー」 モジモジ

 

成幸 (ええい、ままよ……!)

 

成幸 「お、緒方、うるか、ちょっと話を聞いてくれるか?」

 

理珠&うるか 「「……?」」 モゾリ

 

成幸 「サイドで結んでる髪型も似合ってるけど……やっぱり普段のふたりが一番……」

 

成幸 「か、かわ……かわっ……」 カァアアアア…… 「かわいい、と、思う、ぜ……?」

 

成幸 (こ、こんなんで本当にこのふたりが復活するのか!?)

 

理珠 「………………」 カァアアアア…… 「……そ、そう、ですか」 パッ

 

うるか 「………………」 カァアアアア…… 「え、えへへ……そ、そっか……」 パッ

 

成幸 (サイドテールを解いて顔に生気が戻った……。一体何だったんだ……?)

 

理珠 「や、やっぱり気づいてくれていたのですね、成幸さん……」

 

うるか 「気づいてたなら、もっと早く言ってくれれば良かったのに……」

成幸 「あ、いや、俺はまったく気づいてなかっもがっ」

 

文乃 「……お願いだから余計なこと言わないでね、成幸くん?」 ギラリ

 

成幸 (ヒッ……) コクコクコクコク

 

理珠 (普段の私が一番、ですか……)

 

うるか (変に成幸を意識するより、自然のあたしの方がいいってことかな……)

 

理珠 「ふふ……」

 

うるか 「えへへ……」

 

理珠 (嬉しいです、すごく……///)

 

うるか (成幸、ありがと……///)

 

文乃 「……ふぅ」

 

文乃 (とりあえず一件落着かな。わたしの胃の安全は保たれたよ……)

 

成幸 「……悪いな、古橋。またお前に迷惑かけたみたいで」

 

文乃 「気にしなくていよ。わたしはきみのお師匠様だからね」

 

成幸 「ああ。いつもありがとうございます、古橋師匠」

 

文乃 「苦しゅうないぞ、弟子よ」

 

成幸 「ははは、なんだそりゃ……」

 

成幸 (……古橋の髪、本当に綺麗だな。一挙手一投足に反応して艶やかに動いてるよ)

 

成幸 (水希の髪だったら同じようにはいかないだろうなぁ……)

 

成幸 「古橋は得だよなぁ……」

 

文乃 「へ……? 得って何が?」

 

成幸 「古橋はどんな髪型でも似合うからさ。うらやましいよ」

 

文乃 「……えっ」

 

カァアアア……

 

文乃 「そ、そんなことないと思うけど……」

 

成幸 「……? どうかしたか?」

 

文乃 「な、何もない! 何もないよ……」

 

文乃 (……まったくもう! なんできみは、ニブチンのくせに……)

 

文乃 (ときどきこうやって、わけのわからないことを言ってくるんだろう……!)

 

文乃 「………………」

 

文乃 (ごめんね。りっちゃん、うるかちゃん、違うからね……!)

 

 

―――― 『古橋も今日はポニーテールか。いいよな、ポニーテール』

 

―――― 『でも、サイドテールってのもなかなかいいな』

 

―――― 『古橋はどんな髪型でも似合うからさ。うらやましいよ』

 

 

文乃 (断じて違うけど……でも、少しくらい、いいよね)

 

文乃 (男の子に、髪型の変化に気づいてもらって、褒めてもらえることを、嬉しいと思うくらい……)

 

文乃 (許して、くれるよね……?)

 

 

………………幕間1 「ポニーテールでいい」

 

成幸 (ってことで、勉強会の後に古橋に色々な髪型のセットの仕方を教えてもらったぞ!)

 

成幸 「水希ー、かわいい髪型にしてやるからちょっとこいよー」

 

水希 「すぐ行くいま行くもういる」 シュババババッ

 

成幸 「よし、じゃあ始めるぞ……ふふふ、刮目しろ! これが古橋直伝のヘアセット術だ!」

 

スカッ

 

成幸 「……あ、あれ? 水希? なんで避けるんだ?」

 

水希 「……古橋さんに髪型のこと教えてもらったの?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

成幸 「あ、ああ。そうだ。古橋に聞いたら快く教えてくれたんだ」

 

水希 「いい」

 

成幸 「えっ……?」

 

水希 「ポニーテールでいい」

 

成幸 「なんでだ!? 古橋に髪まで貸してもらって覚えたんだ。お前をかわいくする自信があるぞ」

 

水希 「私はもう一生ポニーテールでいい」

 

成幸 「なぜ!?」

 

 

………………幕間2  「人間として」

 

紗和子 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

紗和子 (わ、私の目の前にはいま、緒方理珠が返してくれたヘアゴムがある……!!)

 

紗和子 (それはいま、私の手の中にあって、私がどうしようが自由……!!)

 

紗和子 (そ、そう。つまり、これを嗅ごうが食べようが、私の自由ということ……!!)

 

紗和子 「………………」 ゴクリ

 

ハッ

 

紗和子 (め、目を覚ましなさい、関城紗和子! あなたそんなことしたら最低よ!?)

 

紗和子 (緒方理珠の友人として失格というか、そもそも人間としてアウトだわ!)

 

紗和子 「………………」

 

紗和子 (……いや、でも、食べるのはダメとして、少し嗅ぐくらいならいいんじゃないかしら?)

 

紗和子 (いやいやいや、嗅ぐのもダメでしょう!? でも緒方理珠の頭皮を感じるチャンスが今後訪れるとも思えないし……)

 

文乃 「……? 紗和子ちゃん、ヘアゴムとにらめっこしてどうしたんだろう?」

 

理珠 「わかりませんし興味もありませんが、なんとなくヘアゴムは新品を買って返して正解だった気がします」

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

文乃 「ポニーテールは振り向かない

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あすみ 「変な雰囲気になって……しちゃった……」 文乃 「なっ……///」 【ぼく勉ss/アニメss】

 

………………ラーメンうめえん

 

うるか 「でね! その男の子ったらたらひどいんだよー!」 ズルズルズル……

うるか 「友達はもうこれでもかってくらいがんばってるのにー!」

 

うるか 「成ゆ――じゃなくて、その男の子は全然気づかないのー!」

 

文乃 「うんうん。それはちょっと、さすがにねぇ……」 ズルズルズル……

 

文乃 (今日も今日とてうるかちゃんの愚痴を聞いてるけれど)

 

文乃 (いつも通り友達の話の体だけど、もうボロが出てるってレベルじゃないよ……)

 

文乃 (っていうかわたしダイエット中なんだけどな……)

 

うるか 「聞いてる、文乃っち!?」

 

文乃 「うんうん。ちゃんと聞いてるよ」

 

文乃 「……あっ、店員さん、替え玉おかわりお願いします」

 

文乃 「あと追加でチャーシュー盛りとチャーハンも」

 

文乃 (困ったなぁ……。また太っちゃうよ……)

 

うるか 「……大体、その男の子は鈍すぎるんだよ」

 

文乃 「うんうん」

 

うるか 「何であんなに色々してるのに気づかないのかなぁ……」

 

うるか 「でも、自分から告白して、いまの関係性を壊すのはいやだし……」

 

うるか 「成幸の――じゃなくて、その男の子の勉強の邪魔になるのはもっといやだし……」

 

うるか 「ねえ、文乃っち! あたし……の友達はどうしたらいいのかな!?」

 

文乃 「う、うーん……。どうしたらいいかなぁ……」

 

うるか 「……成幸がもっと鈍くなかったらな」

 

文乃 「そうだねぇ。成幸く――じゃなくて、その男の子がもう少し鋭かったらねぇ……」

 

文乃 (なんでわたしがうるかちゃんのうっかりをフォローしてるんだろう……)

 

うるか 「……こんな苦しくなるなら、もっと……」

 

うるか 「べつの人を好きになればよかった……」

 

文乃 (……ふぁぁああ……) キュンキュン (うるかちゃん、いちいち台詞が乙女すぎるよ。かわいいなぁ……)

 

文乃 「そうだね。もしわたしがその男の子だったら……」

 

ニコッ

 

文乃 「うるかちゃんの友達にそんな辛い思いはさせないんだけどね」

 

うるか 「えっ……」 キュン

 

文乃 「……?」

 

うるか 「あっ……」 カァアア…… 「そ、そうだね……」

 

文乃 (おや……?)

 

うるか 「相手が、文乃っちだったら、きっと……」

 

ドキドキドキドキ……

 

うるか 「……あたしのこと、もっと分かってくれるよね」

 

文乃 (お、おやおや……?)

 

うるか 「そっか……。文乃っちだったら……」

 

文乃 (な、なんか雲行きがおかしいな……?)

 

ギュッ

 

文乃 「えっ……?」 アセアセ 「な、なんでわたしの手を握るのかな、うるかちゃん?」

 

うるか 「……文乃っち」

 

文乃 「は、はい!」

 

うるか 「文乃っちって、実はあたしの憧れる女の子そのものなんだよね」

 

文乃 「えっ……えっ?」

 

うるか 「……文乃っちだったら、成幸と違って、あたしのことわかってくれるもんね」

 

文乃 「えっえっえっ」

 

うるか 「ふ、文乃っち……ううん。文乃」

 

文乃 「ふぇっ……」

 

うるか 「この後、時間ある? うちで一緒に勉強していかない?」

 

文乃 「……へ?」

 

うるか 「安心して。今日、親、帰ってこないから……」

 

文乃 「ち、ちょっと? うるかちゃん?」

 

うるか 「……えへへ。行こ、文乃っ」

 

………………翌朝

 

チュンチュンチュン……

 

文乃 「………………」

 

文乃 (なんてこった、だよ……)

 

文乃 (朝起きたら、知らない天井が目に入った。そしてすぐ隣に、素っ裸のうるかちゃんが寝転んでいた)

 

文乃 (そしていま、目覚めたうるかちゃんがわたしの身体にすり寄ってきている……)

 

うるか 「えへへ、文乃……」

 

スリスリ

 

うるか 「愛してるよ。えへへっ」

 

文乃 「………………」

 

文乃 (……ま、うるかちゃんかわいいし、うるかちゃんも幸せそうだし)

 

文乃 「わたしも愛してるよ、うるかちゃん……っ」

 

文乃 (これはこれで、いっか)

 

 

うるか編おわり

 

 

………………緒方家 理珠の部屋

 

理珠 「……ふぅ。だいぶ進みましたね。少し休憩にしましょうか」

 

文乃 「そうだね。最近はわたしたちふたりだけでも勉強がしっかり進むようになってきたね」

 

文乃 「これも何もかも、成幸くんのおかげだね」

 

理珠 「そうですね。成幸さんのおかげで、基礎が身についてきたからだと思います」

 

文乃 「でも、今日はごめんね。急に泊まりで勉強したいなんて言い出して……」

 

理珠 「構いません。家に帰りたくないのでしょう?」

 

文乃 「……うん」 (今日はお父さんが一日中家にいるから……)

 

理珠 「……そんな顔しないでください。以前のパジャマパーティみたいなものですよ」

 

文乃 「ふふ、あのときは楽しかったね」

 

文乃 「今回は急だったから、うるかちゃんも紗和子ちゃんも来られなくて残念だけど……」

 

理珠 「また今度、ふたりもまじえてやりましょう」

 

文乃 「そうだね。ふふ、楽しみになってきちゃった」

 

理珠 「……さて、では休憩ついでにお茶でもいれてきます」

 

文乃 「あっ、わたしも行くよ」

 

………………台所

 

理珠 「緑茶でいいですか?」

 

文乃 「うん。カフェインで眠気もすっきりだね」

 

理珠 「では、緑茶に最適な80度程度のお湯を、っと……」

 

コポポポポ……

 

文乃 (手慣れてるなぁ……。さすがはうどん屋の娘だよ)

 

文乃 (お茶をいれるのも手間取っちゃうわたしとは大違いだなぁ……)

 

ボイン

 

文乃 (それにしても、どこがとは言わないけど、パジャマだとますます強調されるなぁ……)

 

文乃 (お茶をいれるとき腋を締めてるから、余計に強調されて今にもこぼれそうだよ)

 

文乃 (……って、わたしは何で成幸くんみたいなこと考えてるんだろ)

 

理珠 「……? お茶、いれおわりましたけど、文乃?」

 

ジトーーッ

 

理珠 「何か、邪な念を感じたのですが……」

 

文乃 「へっ!? き、気のせいだよ!?」

 

親父さん 「おっ、文乃ちゃん。いらっしゃい」

 

文乃 「りっちゃんのお父さん。お邪魔してます」 ペコリ

 

親父さん 「今日泊まってくんだろ? ゆっくりしていってくれな」

 

キョロキョロ

 

親父さん 「と、ところで、今日はあのヤロウ――センセイは来ないのかい?」

 

理珠 「今日は呼んでいません。前回だって呼んだのは関城さんですし」

 

理珠 「では、私たちは部屋に戻りますが……」 ジロッ 「くれぐれも覗いたりしないでくださいね」

 

親父さん 「なっ、何を言ってんだ理珠たま」 ギクッ 「そんなことするわけないだろう?」

 

理珠 「どうだか、です。では文乃、行きましょう」

 

文乃 「あっ、うん。では、今晩お世話になります、お父さん」

 

親父さん 「おう。気兼ねせず、自分の家みたいに過ごしてくれていいからなー」

 

………………理珠の部屋

 

文乃 「ふふ……」

 

理珠 「……? 急に笑い出して、どうしました?」

 

文乃 「いや、お父さん、良い人だなと思ってさ」

 

理珠 「どこがですか? 娘の電話の着信に勝手に出たり、急にハグしてきたりするような父ですよ?」

 

理珠 「成幸さんにも暴力を振るったり脅したりしますし……」

 

文乃 「それだけりっちゃんのことが大事なんだよ」

 

理珠 「……べつに、そんなの嬉しくありません」 プイッ

 

文乃 「……わたしはうらやましいよ」

 

文乃 「うちのお父さんに比べたら、はるかに優しくて温かい人だから」

 

理珠 「あっ……」 シュン 「ご、ごめんなさい……」

 

文乃 「い、いやいや。こちらこそ、急に変なこと言ってごめんね!」

 

文乃 「りっちゃんの美味しいお茶を飲んで頭も冴えたし、そろそろ勉強を再開しよっか」

 

理珠 「そ、そうですね。では、あともうひと踏ん張り、がんばるとしましょう」

 

………………

 

カリカリカリ……

 

文乃 「………………」

 

文乃 (……りっちゃんに悪いことしちゃったな)

 

文乃 (せっかく泊めてくれてるのに、気まずくさせるようなこと言っちゃった……)

 

理珠 「………………」

 

文乃 (……それにしても、改めて見ると、りっちゃんってとんでもないくらいの美少女だよね)

 

文乃 (背も小さくてかわいいし、その割には顔もしっかり小さくて子どもっぽくはないし……)

 

文乃 (……何より、おっぱいめちゃくちゃ大きいし)

 

ストーーーン

 

文乃 (ほんと、わたしとは大違い。なんでこんなに差があるんだろ……)

 

ズーン

 

理珠 「………………」 チラッ (……文乃、落ち込んでます)

 

理珠 (私が父を卑下したせいで、嫌な気持ちにさせてしまいました……)

 

理珠 (せっかく遊びに来てくれたのに、申し訳ないです……)

 

理珠 (文乃に元気を出してもらうために、私が一肌脱ぎましょう)

 

理珠 (あまり自分のことを笑いのネタにするのは気が進みませんが……)

 

理珠 (文乃に元気を出してもらうためです。がんばります!)

 

理珠 「……文乃」

 

文乃 「……? どうかした、りっちゃん?」

 

理珠 「今日は急に泊まりに来たから、パジャマもないでしょう?」

 

理珠 「今日は私のパジャマを貸しますね」

 

スッ

 

理珠 「……って、私のパジャマは文乃には着られませんね。小さすぎて!」

 

バーン

 

理珠 (ど、どうですか。私の一世一代の自虐ネタは!!)

 

文乃 「………………」

 

イラッ

 

文乃 (自分の胸の小ささについて思い悩んでいたら巨乳の友人に煽られたわけだけど)

 

文乃 (えっ、待って? ひょっとして喧嘩売ってる? りっちゃん?) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

文乃 「……りっちゃん。いい度胸だな! だよ……」

 

ムニッ

 

理珠 「えっ……? な、なぜ涙目で私の頬をつねるのですか、文乃?」

 

理珠 「いまのは笑うところでは……?」

 

文乃 「笑えると思う!?」 ムニムニッ

 

理珠 「い、いはいれふ! ふいの!」

 

文乃 「そっ、そもそもね! こんなに大きい方がおかしいんだよ!」

 

ムギュッ

 

理珠 「!? な、なぜ胸を鷲づかみにするのですか!?」

 

文乃 「このっ……この乳が……この乳が……!!」

 

理珠 「父!? お父さんのことで私の胸に当たらないでくれませんか!?」

 

理珠 (なぜ自虐ネタまで披露した私が責められているのですか……!) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

理珠 「こっ、この……! どうせ文乃には小さいことによる苦悩なんてわからないでしょうね!!」

 

文乃 「それで小さいつもりなの!? とことん喧嘩を売るつもりだねりっちゃん!?」

 

文乃 「いいよ! その喧嘩勝ってやる!! だよ!!」

 

文乃 「だいたい! りっちゃんはずるいんだよ!!」

 

文乃 「そんなにかわいくて!! 男の子に好かれる低身長で!!」

 

文乃 「しかもおっぱいも大きい!? なんだその魅力的すぎる身体は!」

文乃 「その上飲食店の娘だから家事も大丈夫!? この、いいお嫁さんになるために生まれてきたような娘が! だよ!」

 

理珠 「い、言わせておけば! 文乃こそ、そんなに美人に生まれて何が不満なんですか!!」

 

理珠 「私なんて、低身長だから似合う服も少ないし、足が短いのだってコンプレックスですし!!」

 

理珠 「文乃は胸にこだわりすぎです!! それだけスラリとスタイル良くて何が不満なんですか!!」

 

理珠 「文乃は人の気持ちに敏感で気遣いができます!! いいお嫁さんになれるのはそっちでしょう!!」

 

文乃 「なっ……こ、こっちはまだまだ言えるよ!!」

 

理珠 「こっちだって!!」

 

文乃 「りっちゃんの分からず屋!! めちゃくちゃかわいくてズルいよ!!」

 

理珠 「文乃こそ分からず屋です!! それだけ美人で何が不満なのですか!!」

 

文乃 「だいたい、りっちゃんはねぇ……」

 

理珠 「文乃はいつもそうです!!」

 

………………

 

………………翌朝

 

チュンチュンチュン……

 

文乃 「………………」 (……えっ、待って。ねえ待って)

 

文乃 (わたし、昨日の記憶があんまりないよ?)

 

文乃 (あの後、少し口論になって、お互いの胸や身体をもみ合って……)

 

文乃 (なんか、いつの間にか変な雰囲気になって、そして……)

 

理珠 「……ふっ、文乃……お、おはようございます……///」

 

理珠 「昨夜は、その……お世話になりました……」

 

理珠 「こっ……これからも……」 ギュッ 「よろしくお願いしますね……///」

 

文乃 (目覚めたら隣でりっちゃんが寝ていて、なぜだかわたしに抱きついてくる)

 

文乃 (……まぁ、いいか) フゥ (りっちゃんが幸せそうだし、何より……)

 

ムニムニッ

 

理珠 「あっ……/// ふ、文乃……」

 

文乃 (この胸をいつでも揉めると思えば)

 

理珠編おわり

 

 

………………とあるマンション前

 

文乃 「………………」

 

文乃 「……はぁ」

 

文乃 (お父さんが家にいる日だから、お父さんが寝るまで外にいようと思ったけど……)

 

ザァアアアアアアアアアアア……

 

文乃 (天気予報では雨が降るなんて言ってなかったのに……)

 

文乃 (傘も持ってないし、やむまでこのマンションのエントランスで雨宿りさせてもらおう……)

 

文乃 「……くしっ」

 

文乃 (うー、寒いなぁ……。少し雨に打たれちゃったし……)

 

文乃 (風邪、引かないといいなぁ……)

 

文乃 (あっ……ひとが来た。このマンションの人かな。邪魔にならないようにしないと……)

 

?? 「……? あら」

 

文乃 「……? あっ……。き、桐須先生!?」

 

真冬 「古橋さん、こんなところでどうしたのかしら?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

文乃 「うぅ……」 (相変わらず怒ってるような顔で怖いなぁ……)

 

文乃 「じ、実は、雨に降られちゃって……。傘もないし、ちょっと雨宿りしてるんです……」

 

文乃 「へくしっ……」

 

真冬 「なっ……」

 

真冬 「あなた濡れているじゃない。雨に打たれたのね」

 

文乃 「そ、そうですけど……」

 

真冬 「バカ。もう冬も間近なのに、そんな格好で濡れたまま外にいたら間違いなく風邪を引くわよ」

 

真冬 「傘を貸してあげるから、すぐに家に帰りなさい」

 

文乃 「い、いや、それは……」

 

真冬 「……?」

 

文乃 「………………」 プイッ

 

文乃 (桐須先生は怖いから、言うことを聞きたいけど……)

 

文乃 (でも、それより、お父さんがいる家に帰るのは……)

 

文乃 「……いや、です」

 

真冬 「………………」

 

ハァ

 

真冬 「……仕方ないわね。ほら、来なさい」

 

文乃 「えっ……?」

 

真冬 「私はこのマンションに住んでいるの。とにかく冷えた身体を温めなさい」

 

文乃 「えっ……? そ、それって……」

 

真冬 「……じれったいわね。家に来なさいということよ」

 

ガシッ

 

文乃 「あっ……で、でも、先生の家にお邪魔するなんて、さすがに悪いというか……」

 

真冬 「受験生をそのまま放置できないでしょう。風邪でも引かれたら迷惑だわ」

 

文乃 「うっ……」 (とても厳しくて怖い言葉……でも……)

 

文乃 (桐須先生の手、冷たくて……)

 

文乃 (少し、触れた感じが、お母さんみた――)

 

ハッ

 

文乃 (わ、わたしは何を考えてるのかな!?)

 

………………真冬の家

 

文乃 「うわぁ……」

 

ピカピカピカ……

 

文乃 「桐須先生の家、きれいですね。先生の家、って感じです」

 

真冬 「当然よ。大人たるもの、身の回りのことをまず完ぺきにこなさなければならないわ」

 

真冬 (昨日唯我くんが掃除しに来てくれて助かったわ……)

 

真冬 「ほら、わたしの着替えとタオルを貸してあげるから、シャワーを浴びてきなさい」

 

文乃 「……すみません」

 

真冬 「謝るくらいなら家に帰るべきだと思うけれど」

 

文乃 「うっ……」

 

真冬 「………………」 ハァ 「……風邪を引く前にシャワーを浴びてきなさい」

 

文乃 「……はい」

 

………………風呂場

 

文乃 「……うわぁ、すごい」

 

文乃 (お風呂場の壁や床はおろか、シャワーヘッドまでピカピカだよ……)

 

文乃 (本当にきれい好きなんだなぁ、桐須先生って……)

 

文乃 (やっぱり、仕事から家事まで、何もかも完ぺきな人なんだなぁ……)

 

文乃 「………………」

 

文乃 「……すごいなぁ」

 

文乃 (あんなに美人で授業も上手で仕事もバリバリこなしてるのに、家事まで完ぺきなんて……)

 

文乃 (……わたしとまるで正反対だよ)

 

文乃 「……はぁ。やめよう」

 

文乃 (考えたって、気が滅入るだけだよ)

 

………………

 

文乃 「シャワーありがとうございました、先生」

 

真冬 「ええ。制服はエアコンの風を当てているから、すぐに乾くと思うわ」

 

文乃 「ありがとうございます。何から何まで……」

 

真冬 「……気にしなくていいわ。教師として当然のことをしているまでのことよ」

 

真冬 「温かいお茶もいれておいたわ。こっちに来て座って飲みなさい」

 

文乃 「す、すみません。いただきます……」

 

真冬 「………………」 カタカタカタ……

 

文乃 「……え、えっと……家でもお仕事ですか? 大変ですね」

 

真冬 「大変と思ったことはないわ。仕事だから当然のことよ」

 

文乃 「そ、そうですか……」

 

文乃 (やっぱり、冷たくて怖い人……)

 

文乃 (……でも、わたしをムリに家に帰すわけじゃなくて、家に招き入れてくれた)

 

文乃 (『教育係』 をしてもらっていたときは、気づかなかった……)

 

文乃 (先生はひょっとして、優しい人なのかな……?)

 

真冬 「………………」

 

真冬 「……喋りたくなければ喋らなくていいのだけど」

 

文乃 「は、はい?」

 

真冬 「どうして家に帰りたくないのか、教えてもらってもいいかしら?」

 

文乃 「………………」

 

文乃 「……お父さんに、会いたくなくて」

 

文乃 「眠る時間まで、外にいたかったんです……」

 

真冬 「……なるほど。わかったわ」

 

スッ

 

文乃 「へっ……? ノートとペンを持って、どうしたんですか?」

 

真冬 「聞いてしまった以上、見過ごせないわ。どうしてお父さんに会いたくないのか、言いなさい」

 

文乃 「えっ……そ、それは……ちょっと、言いたくない、です……」

 

真冬 「ダメよ。あなたは “お父さんに会いたくない” と言ってしまった」

 

真冬 「子どものSOSの言葉を受けてしまった。教師として、それをそのまま見過ごすことはできないわ」

 

真冬 「あなたが喋りたくなくても、私は絶対に聞くわ。だから、喋りなさい」

 

文乃 「せ、先生……?」

 

真冬 「………………」 ジッ

 

文乃 (厳しい言葉。義務感から来るような、堅苦しい、言葉……)

 

文乃 (でも、どうしてだろう。桐須先生のその言葉から、とてつもない温かみを感じる……)

 

文乃 「き、聞いてくれるんです、か……?」

 

真冬 「……ええ。もちろんよ。私はあなたの先生だもの」

 

真冬 「お願い。話して。子どもの言葉を、私は絶対に投げ出したりしないから」

 

真冬 「もしあなたがSOSを訴えているなら、教師として……」

 

真冬 「……いえ。大人として、それを見過ごすことは絶対にできないのよ

 

文乃 「………………」

 

グスッ

 

文乃 「……わたし……わたし……っ」

 

文乃 「……お父さんのことが、怖くて……」

 

………………

 

文乃 「……すみません、先生。お話聞いてもらっちゃって」

 

真冬 「気にしないで。これも仕事よ」

 

真冬 (……話を聞く限り、ネグレクトと呼べるか呼べないかギリギリのラインね)

 

真冬 (小学生当時から今の生活を続けていたとしたら、間違いなくネグレクトだけれど……)

 

真冬 (高校生段階の今、明確にネグレクトと言うことはできないでしょうね……)

 

真冬 (直接的な心身に対する暴力もいまはないようだし)

 

真冬 (……彼女にとっては本当に心の底からいやなことなのだろうけど、)

 

真冬 (いまの生活を続けてもらうしかないわね……)

 

文乃 「………………」

 

文乃 (……仕事。まぁ、そうだよね)

 

文乃 (わたしなんて、先生にとってはたくさんの生徒のうちのひとりだもんね……)

 

グスッ

 

文乃 (あっ……ど、どうしてまた、涙が出てくるんだろ……)

 

真冬 「………………」

 

ギュッ

 

真冬 「……つらかったのね」

 

文乃 「あっ……」 (やっぱり、そうだ……)

 

文乃 (先生の手、少しひんやりして、でも心地良く包み込んでくれる……)

 

文乃 (まるで、お母さんの手みたい……)

 

真冬 「……お父さんが寝るまで家にいてもらって構わないわ」

 

真冬 「ただし、高校生ひとりで帰れるような時間でないでしょうから、私が送っていくわ」

 

文乃 「……すみません。ありがとうございます」

 

真冬 「……ふふ」

 

文乃 「……? どうしたんですか?」

 

真冬 「ごめんなさい。『教育係』 をしていたときは、あなたの泣く姿なんて想像もつかなかったから、少しおかしくて」

 

文乃 「なっ……」

 

プイッ

 

文乃 「な、泣いてなんかないです! 少し涙ぐんじゃっただけで……」

 

真冬 (さっきまでわぁわぁ泣いていたくせに、まったく、気丈な子ね……)

 

真冬 「部屋が暖まってきて、少し暑くなってきたわね」

 

真冬 「涙で水分も減ってしまったようだし、ジュースでも持ってくるわ」

 

文乃 「あっ、お構いなく……」 ハッ 「……じゃなくて! 泣いてなんかないですってば!」

 

文乃 (……まったくもう)

 

文乃 (でも、先生の手……)

 

文乃 (本当にお母さんみたいだった……)

 

ドキドキドキドキ……

 

文乃 (わ、わたし、何考えてるんだろ……)

 

真冬 「……はい、どうぞ」

 

コトッ

 

文乃 「あ、ありがとうございます。いただきます」 ゴクリ 「……?」

 

文乃 (このジュース、何か変な味がするような……?)

 

文乃 (あ、あれ? なんか心がふわふわする? 周りが回って見える……?)

 

真冬 (ノドが乾いたわね。私も一杯いただこうかしら) ゴクッ

 

真冬 「………………」

 

文乃 「……? 先生?」

 

真冬 「……古橋さん」

 

文乃 「は、はい!」

 

真冬 「……ぐすっ……えぐっ……」

 

文乃 「……えっ?」

 

真冬 「うわぁああああああああああああああああん!!!!」

 

ギュッ

 

文乃 (何事!? 桐須先生が急に泣き出して抱きついてきたよ!?)

 

文乃 (あっ……でも、なんか変な気分。悪い気はしないというか……)

 

文乃 (なんか、身体が熱いなぁ……)

 

文乃 「せ、先生? 一体どうしたんですか?」

 

真冬 「いままでつらかったわね! 大変だったわね……」

 

真冬 「あなたの苦悩を思うと、涙が止まらないわ……」

 

文乃 「先生……」

 

真冬 「古橋さん、あなたは偉いわね……」

 

ナデナデナデナデナデナデ

 

文乃 「………………」 ポワポワ

 

文乃 (あっ……桐須先生がわたしの頭を撫でるなんて……)

 

真冬 「いままで、大変なことに耐えてがんばってきたのね……」

 

真冬 「理系の勉強だって一生懸命がんばってるわね……」

 

真冬 「偉いわ。本当に偉いわよ……」

 

ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ

 

文乃 「せ、先生……」 (わたしたちのこと、本心では認めてくれてたんだ……)

 

文乃 (お母さんみたいな手が、わたしのこと、撫でてくれてるんだ……)

 

キュン

 

文乃 「せ、先生……」

 

真冬 「なぁに? 古橋さん」 ニコッ

 

文乃 「わ、わたしも、抱きついてもいいですか……?」

 

真冬 「ええ。もちろんよ。いらっしゃい?」

 

文乃 「……えへへ。桐須先生……っ」

 

ギュッ

 

真冬 「ふふ。可愛い子ね、古橋さん。良い子よ。偉いわ」

 

文乃 「せっ……先生!」

 

ムギュッ

 

真冬 「甘えんぼさんね。ふふふ、偉いわ。いいこいいこ」

 

文乃 「えへへー、もっと撫でて?」

 

真冬 「いいわよ。ほら」

 

ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ

 

文乃 (ふぁ……なんか、車酔いしたときみたいに、視界がグルグル回って……)

 

文乃 (なんか、すごく幸せな気分……?)

 

文乃 (ああ、それにしても……) ゴクリ (桐須先生って、かわいいよね……)

 

………………翌朝

 

チュンチュンチュン……

 

真冬 「………………」

 

サァアアアアアアアア……

 

真冬 (青ざめるどころの騒ぎじゃないわ。頭から血が一斉に抜け落ちたかと思ったわ)

 

文乃 「先生っ。おはようございますっ!」

 

文乃 「ねえ、先生。朝も撫でてください。お願いします」

 

真冬 「え、ええ……」 ナデナデ

 

文乃 「きゃーっ。嬉しいです、先生。えへへ、大好きっ」 ギュッ

 

真冬 (目覚めたら教え子の少女が裸で隣に寝ていた。しかも目をハートマークにして抱きついてくる)

 

真冬 (ああ、そうね。これはつまり……)

 

真冬 「……減俸、停職……いや、懲戒免職……と、いうよりは……」

 

ガタガタガタガタ

 

真冬 「……逮捕、かしら」

 

真冬編おわり

 

 

………………古橋家 玄関前

 

あすみ 「………………」

 

あすみ (……まさかまた仕事でここに来ることになるとはな)

 

あすみ (ったく、古橋の奴。もう一回家事代行呼ぶくらいならあのときやらせろっての)

 

あすみ (今回も冷やかしだったら許さねーからな……)

 

ガチャッ

 

文乃 「……お待たせしました。小美浪先輩」 キョロキョロ

 

あすみ 「……? 心配しなくても、電話で言われたとおり今日はアタシひとりだよ」

 

文乃 「そ、そうですか……」 ホッ 「よかった……」

 

文乃 「さ、どうぞどうぞ。もうおなかペコペコなんですよ」

 

あすみ 「おう。じゃ、お邪魔しまーす、っと……!?」

 

あすみ 「ごはっ……!?」 (な、なんだ、この尋常じゃない異臭は……!?)

 

あすみ (この世のものとは思えないこの臭いは……台所からか!?)

 

文乃 「……お料理しようと思ったら少し失敗しちゃって……」

 

文乃 「すみませんが、よろしくお願いします、先輩」

 

………………台所

 

あすみ 「……おい、古橋」

 

文乃 「はい」

 

あすみ 「これのどこが、“少し失敗しちゃって” なんだ?」

 

あすみ (……なんだこの大惨事は)

 

あすみ (何で魚をまるごと鍋にぶち込んでるんだ?)

 

あすみ (何で野菜を切らずにそのまま鍋に放り込んでるんだ?)

 

ゴトゴトゴト……!!!!

 

あすみ (何で炊飯器から何かが暴れるような音がするんだ!?)

 

あすみ 「お前この惨状は一体なんだ!?」

 

文乃 「……うぅ、面目ないです」

 

あすみ 「これの後始末を人に押しつけられるお前の胆力を恥じた方がいいと思うぞ……」

 

ハァ

 

あすみ 「……仕方ねぇ。仕事だしな」

 

あすみ 「ここは責任持ってアタシがきれいにするから、少し向こうで待ってろ」

 

………………

 

文乃 「……はぁ」

 

文乃 (結局あれから、先輩は凄まじい速度で台所をきれいにして、)

 

文乃 (家中の掃除を終わらせ、晩ご飯の準備まで終わらせてしまった……)

 

あすみ 「いやー、悪いな。アタシまでごちそうになっちゃって」

 

文乃 「気にしないでください。作ったの小美浪先輩じゃないですか」

 

あすみ 「にしし、まぁそれはその通りだけどさ」

 

あすみ 「にしても……」

 

ゴォォオオオオオ!!!!

 

あすみ 「すげー嵐だな。こりゃ当分やみそうにないな……」

 

文乃 「天気予報だと、明け方まで続くそうですよ?」

 

あすみ 「しまったな。嵐が来るってわかってりゃ、スクーターじゃなくて徒歩で来たんだけどな……」

 

文乃 「すみません、嵐が来るような日に家事代行頼んでしまって……」

 

あすみ 「あ? いやいや、そんなのお前が気にするようなことじゃねーよ」

 

あすみ 「仕事受けたのはこっちだからな。ま、なんとか帰るさ」

 

文乃 「でも、危ないですよ……」

 

文乃 「もし先輩さえよければ、今日はうちに泊まっていきませんか?」

 

あすみ 「えっ……? いや、それは……ありがたいっちゃありがたいが……」

 

あすみ 「親御さんだっていらっしゃるだろうし、迷惑だろ」

 

文乃 「大丈夫です。うちは父しかいませんし、その父も今日は帰ってきませんから」

 

文乃 「寝間着はわたしのを貸しますし……だから先輩、どうぞ泊まっていってください」

 

あすみ 「あー……」

 

あすみ 「……じゃあ、悪い。正直言ってすごく助かるし、お言葉に甘えさせてもらってもいいか?」

 

文乃 「もちろんです!」

 

文乃 「ごはん食べ終わったら、一緒に勉強しましょう?」

 

あすみ 「……お前、まさか、アタシに勉強教わるのを期待して泊まってけなんて言ったんじゃないだろうな?」

 

文乃 「えっ? い、いやいや、そんなこと……まぁ、少しはありますけど……」

 

あすみ 「……はぁ。ったく、仕方ねーな。ま、いまのお前はアタシの雇い主だからな」

 

あすみ 「家事代行ついでに、後輩代わりに臨時の 『教育係』 やってやるよ」

 

………………

 

あすみ 「二次不等式は、早い話が二次方程式の応用だ」

 

あすみ 「単純に考えろ。イコールで結ばれていた両辺が、大なりと小なりで結ばれてるだけだ」

 

文乃 「ふむふむ……」

 

あすみ 「イコールがついてりゃ以上か以下、ついてなけりゃ “より大きい" か “より小さい" かだ」

 

あすみ 「ふたつの式で変数に対しての関係性が暴かれりゃ、あとは数直線で考えれば一目瞭然だろ?」

 

文乃 「なるほど! 今まで、数学って何が何でも数式で解かなきゃって思ってましたけど、」

 

文乃 「図を使った方が分かりやすければ図を使ってもいいんですね!」

 

あすみ 「共通一次マークシートだ。最終的に答えさえ出りゃいいからな」

 

文乃 「よーし! 今の感覚を忘れないうちに練習問題解きまくるぞー!」

あすみ 「おう、がんばれ」

 

あすみ (……ったく。分かった途端目の色変えやがって)

 

あすみ (なんか、勉強をしはじめた小学生みたいだな、こいつ)

 

あすみ (……本当に、苦手なことでも、あきらめずがんばろうとしてるんだな)

 

………………

 

あすみ 「風呂、貸してくれてありがとな。温まったよ」

 

あすみ 「着替えも、助かる。悪いな。雇われた身なのに、何から何まで……」

 

あすみ 「さすがに古橋のパジャマだから、あたしにはぶかぶかだけど……」

 

文乃 「いえいえ。気にしないでください、先輩。わたしも勉強を教えてもらって助かりましたから」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

文乃 「それより、ぶかぶかって、わたしが太ってるって意味ですか?」

 

あすみ 「太ってる太ってない以前にそもそも体格がアタシとお前じゃ全然違うだろ……」

 

あすみ 「……お前ってさ、そんだけスラリとしてスタイルいい身体に対して、何が不満なわけ?」

 

文乃 「不満だらけですよ。すぐに体重増えるし、そのくせ……」

 

文乃 (むねはこれっぽっちも大きくならないし!!)

 

あすみ 「ちんちくりんのアタシよりよっぽどいいと思うけどな」

 

あすみ 「背が低いと大変なんだぞ? この世は身長150cm以下の人間に対して厳しいからな」

 

あすみ 「図書館なんて、アタシが背伸びしたって届かない位置に本がたくさん並んでるんだぜ? 嫌にもなるよ」

 

文乃 「……ないものねだりですよ。わたしだって、背が低い方がいいとは思いませんけど、」

 

文乃 「わたしにだって、わたしなりの悩みがありますよ」

 

あすみ 「……ま、そりゃそうか」

 

あすみ 「でも、後輩はお前みたいな正統派美少女がタイプなんじゃないか?」

 

文乃 「え……?」

 

カァアアアア……

 

文乃 「い、いきなり何を言うんですか、先輩……」

 

あすみ 「顔真っ赤にしちまって、かわいーなー、古橋?」 ニヤニヤ

 

文乃 「ま、前も言いましたけどね、わたしはべつに、成幸くんのことなんて、なんとも思ってないですから!」

 

文乃 「ヘンなこと言うのも大概にしてください!」

 

あすみ 「へー。なんとも思ってない、ねぇ?」

 

あすみ 「なんとも思ってない男子のことを、名前にくん付けで呼ぶのかー。すごいなー。恐れ入ったわー」

 

文乃 「そ、それは……だから、ただの、姉弟ごっこで……」

 

あすみ 「ほぅ。じゃあ、姉弟ごっこをまだ続けてるのか?」

 

文乃 「そうではないですけど……」

 

あすみ 「にひひ。じゃあお前は、姉弟ごっことやらが終わった後も、後輩を名前で呼びたいわけだ?」

 

文乃 「ち、違いますよ! なんとなくそうなっちゃっただけで……」

 

あすみ 「ふーん。まぁ、そういうことにしておこうかね」

 

文乃 「……むっ。そういう先輩こそ!」

 

文乃 「成幸くんから聞きましたよ! キス写真を撮ったり、ふたりきりで海に行ったりしたって!」

 

あすみ 「あん? 仕方ねーだろ。あいつには恋人役をやってもらってるんだから」

 

文乃 「先輩の事情は知りませんけど、事情があるからって、何とも思ってない相手に恋人役なんかやらせます?」

 

あすみ 「うっ……そ、そりゃ、まぁ……後輩のことは、べつにキライじゃないし……」

 

文乃 「嫌いじゃない? それって好きってことじゃないですか!」

 

あすみ 「なっ……何を言い出すんだお前は。好きなわけないだろ」

 

文乃 「へー! じゃあ言いますけど、わたし成幸くんにキス写メ見せてもらいましたけどね!」

 

あすみ (何見せてんだあいつ!?)

 

文乃 「顔真っ赤にしてる成幸くんに誤魔化されがちですけど!!」

 

文乃 「先輩の顔もほんのり赤みがかってましたからね!? 恥ずかしそうに!」

 

あすみ 「なっ……そ、そんなわけねーだろ!!」

 

文乃 「っていうかさっきケータイの待ち受け、ちらっと見ちゃいましたけど!!」

 

文乃 「先輩、成幸くんとのキス写メを待ち受けにしてますよね!?」

 

あすみ 「なっ……ち、ちがっ、こ、これは……っ」

 

あすみ 「お、親父を誤魔化すための、小細工、っつーか……その……」

 

文乃 「………………」

 

ハッ

 

文乃 「……す、すみません、先輩。言いすぎました。つい白熱しちゃって……」

 

あすみ 「いや、こっちこそすまん。アタシも言いすぎた……」

 

文乃 「………………」

 

あすみ 「………………」

 

文乃 「……あ、あの、先輩。これ、絶対、内緒ですけど……」

 

あすみ 「……ん?」

 

文乃 「正直言うと、わたし、成幸くんにときめいたこと、一度や二度じゃすまないくらい、あるんです」

 

あすみ 「えっ……」

 

文乃 「好きとか聞かれると、わかりません……」

 

文乃 「でも、決して、嫌いじゃないというか……」

 

文乃 「成幸くんだったら、いいかな、なんて思うことも、時々合って……」

 

文乃 「でも、りっちゃんもうるかちゃんも成幸くんのことが好きだから」

文乃 「……こんな中途半端な気持ちじゃ、ふたりには勝てないって、わかるから……」

 

あすみ 「……そっか」

 

あすみ 「実は、アタシもそうなんだよ」

 

あすみ 「親父を誤魔化すためとか言いつつ、あいつとふたりで過ごす時間が楽しくてさ」

 

あすみ 「好きとか、そういう言葉にはできないけど……きっと、アタシはあいつを憎からず想ってる」

 

あすみ 「でも、あの緒方と武元が相手じゃな」

 

あすみ 「勝てるとも思えんし、そもそも自分に勝つ気があるのかもわからんし……」

 

文乃 「先輩……」

 

あすみ 「……アタシたち、似たもの同士だな」

 

文乃 「で、でも、先輩は家事が大得意だし、気配りもできるし、体力もあるし……」

 

文乃 「わたしにはないもの、たくさん持ってるから、きっと、成幸くんだって……」

 

あすみ 「そんなの、さっきと一緒だろ。お前が持ってて、アタシが持ってないものだってたくさんある」

 

あすみ 「アタシはお前みたいに綺麗じゃないしさ。お前みたいにおしとやかでもない」

 

文乃 「なっ……!」 ムカッ 「だから、先輩はキレイですって! すごい美人のくせに、何言ってるんですか!!」

 

文乃 「わたしなんて、お菓子食べてばっかりのおデブなのに……!!」

 

あすみ 「なっ……」 カチン 「お前いい加減にしろよ!? あたしみたいなちんちくりんを前にして、自分をまだ卑下するか!?」

 

あすみ 「お前がデブだと!? それなら人類ほぼ全員デブだよ!!」

 

ギュッ

 

文乃 「ひゃっ……/// お、お腹に手を回さないでください!」

 

あすみ 「こんなに細いウエスト回りのくせに、何がデブだ!!」

 

文乃 「せ、先輩こそ! 何がちんちくりんですか!! 実は身長に対して脚すごく長いくせに!!」

 

文乃 「顔だって小さいし、すごい美人さんだし……何より!!」

 

ムニュッ

 

あすみ 「なっ……/// き、急に胸を揉むな!!!」

 

文乃 「先輩細いから目立たないけど、アンダーに対してトップ結構ありますよね!?」

 

文乃 「カップ的には大したことないかもしれないけど、これ実はかなりの胸ですよ!?」

 

あすみ 「な、何をぅ~~~!!」

 

あすみ 「この正統派美少女! おしとやか!! 黒髪美人!!!」

 

文乃 「こっちだって負けませんよ!!」

 

文乃 「かわいいのにキレイ! くびれもある!! 胸もある!!!」

 

あすみ 「ぬぬぬ……!!!」

 

文乃 「ぐぐぐ……!!!」

 

あすみ 「この!! こうなったら夜通しお前のいいところ言いまくってやる」

 

文乃 「望むところですよ! 先輩のいいところで言い負かしてやります」

 

バチバチバチバチ……!!!

 

………………翌朝

 

チュンチュンチュン……

 

文乃&あすみ 「「………………」」 ズーン

 

文乃 「……あ、あの先輩」

 

あすみ 「おう……」

 

文乃 「……昨晩のことは、お互い、忘れましょう」

 

あすみ 「そうだな。忘れた方がいいな」

 

あすみ 「お互いのいいところを言い合っていたら、いつの間にか変な雰囲気になって……」

 

あすみ 「……チョメチョメ……しちゃったなんて……」

 

文乃 「なっ……/// なんで言うんですか……」 ウルウル

 

文乃 「せっかく忘れようとしてたのに……忘れられなくなっちゃったじゃないですか……///」

 

あすみ 「……忘れる気なんてなかったくせに」

 

ガバッ

 

文乃 「あっ……せ、先輩……///」

 

あすみ編おわり

 

 

………………一ノ瀬学園 化学室

 

紗和子 「……ぐすっ、えぐっ……」

 

紗和子 「それでね、ひどいのよ、緒方理珠……」

 

紗和子 「私は、緒方理珠のことを思って、突き飛ばしたのに……」

 

紗和子 「“キライです” だなんて……」

 

紗和子 「えぐっ……」

 

文乃 「よしよし。つらいね。いやだね。大丈夫だよ、紗和子ちゃん」

 

文乃 「きっとりっちゃんも本心からの言葉じゃないからね……」

 

紗和子 「うぅ……うわぁああああああああああああああん」 ガバッ

 

文乃 「……っとと。おー、よしよし」 ナデナデ

 

文乃 (なんでわたし、紗和子ちゃんの相談受けて抱きつかれてるんだろう……)

 

文乃 (まぁ、いいけどさ……)

 

ムラッ

 

文乃 (……よく見たら、紗和子ちゃんってすごくおとなっぽくてきれいだよね)

 

紗和子 「うっ……ぐすっ……」

 

文乃 「………………」

 

ゴクリ

 

文乃 (そんな子が、自分の胸の中で泣いてるって考えると……)

 

ゾクゾクッ

 

文乃 「……ねぇ、紗和子ちゃん」

 

紗和子 「……な、なに?」 ウルウル

 

文乃 (あっ、涙目で上目遣い。超可愛い。うん。もうむり)

 

ギュッ

 

紗和子 「えっ……? ふ、古橋さん……?」

 

文乃 「今は、“文乃” って呼んで?」

 

紗和子 「ふぇっ……?」

 

文乃 「今から、りっちゃんのことなんて忘れさせてあげる」

 

………………翌朝

 

チュンチュンチュン……

 

文乃 「……ふぅ」

 

紗和子 「でへ、でへへ……」

 

紗和子 「文乃様ぁ……でへへ……」

 

文乃 「紗和子ちゃんの攻略難度、低すぎだよ。チョロいね」

 

文乃 「でもまぁ、悪くなかったし……」

 

ニヤリ

 

文乃 「ほら、起きて、紗和子ちゃん。もう一戦、行くよ?」

 

紗和子 「あっ……ふ、文乃様……っ」

 

紗和子編おわり

 

 

………………唯我家

 

文乃 「あなたはだんだん、わたしのことをお兄ちゃんだと思うようになーる」

 

水希 「うっ……」

 

ブラン……ブラン……

 

水希 (だ、ダメよ。催眠術なんかに負けちゃ……)

 

水希 (この人はお兄ちゃんをたぶらかそうとする、女……)

 

水希 (決して、お兄ちゃんなんかじゃ――)

 

文乃 「どうしたんだ、水希? 俺だよ? 成幸だよ?」

 

水希 (あっ……)

 

水希 「………………」

 

水希 「……えへへ、お兄ちゃん♪」 ギュッ

 

文乃 「よしっ」

 

文乃 (……でも、さすがに中学生相手に朝チュンは犯罪だからやめとこう)

 

水希編おわり

 

 

………………深夜 古橋家

 

文乃 「………………」

 

パチッ

 

文乃 「………………」

 

ガバッ

 

文乃 「は、はぁあああああああああああ!?」

 

文乃 (なんてアホな夢を見たのかな、わたしは!?)

 

ドキドキドキドキ……

 

文乃 「ゆ、夢だよね……? 夢でよかった……」

 

? 「……? どうかしたの、文乃?」 モゾッ

 

文乃 「いや、ちょっと怖い夢をみちゃって……」

 

文乃 「……えっ? う、うるかちゃん!?」

 

うるか 「もー、うるさいなー。ゆっくり寝られないよー」 ギュッ

 

理珠 「まったくです。ほら、ぎゅってしてあげますから、怖い夢なんかわすれましょう」 ムギュッ

 

文乃 「りっちゃんまで!?」

 

真冬 「……まったく。いつまでたっても子どもなのだから」 ギュッ

 

あすみ 「ま、そんなところもかわいいんだけどな……」 ギュッ

 

紗和子 「文乃様ぁ、私の方にも来てください……っ」 ギュッ

 

水希 「お兄ちゃん。わたしがなでなでしてあげるね」 ナデナデ

 

文乃 「う、うそ……」

 

ガタガタガタガタ……

 

文乃 (全部夢じゃなかったの!? 現実!?)

 

文乃 (わたしほんとに全員に手を出して全員に惚れられたのーーー!?)

 

うるか 「えへへ、文乃。あたし、幸せだよ」

 

理珠 「私もです。幸せですよ、文乃」

 

真冬 「文乃さん。あなたは私が守るわ」

 

あすみ 「家事なら任せろ。お前の身の回りの世話は全部アタシがやってやる」

 

紗和子 「私は文乃様の犬です……はぁはぁ……」

 

水希 「お兄ちゃんのためだったら、わたしなんでもするからね」

 

文乃 「た、たたた……」 ブルブルブル 「助けてーーーーーーー!!」

 

 

………………幕間 「全部夢です」

 

文乃 「ひっ……た、助け……助けて……」

 

成幸 「………………」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

成幸 「……どんな怖い夢を見てるのか知らないけどな」

 

成幸 「勉強中に寝るなー!!! 早く起きろ古橋ーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

文乃 「相談女」

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………………公園

 

紗和子 「………………」

 

ゴクッ……

 

紗和子 「……ふぅ」

 

紗和子 (放課後に公園で飲む缶コーヒーは格別ね)

 

ワーワーワー……

 

紗和子 「……ふふっ。この公園は小さなサッカーコートがあるのね。フットサルって言うのかしら?」

 

紗和子 (遊び回る子どもたちを眺めながらコーヒーをすするというのもまた趣深いわね)

 

紗和子 (……サッカーはあまり得意ではなかったけれど、やるのは楽しかった憶えがあるわ)

 

紗和子 (小学生くらいのときは、私もあんな風に遊び回っていたかしら)

 

紗和子 (男の子と女の子がいりまじって遊んでるのね。楽しそうでうらやましいわ)

 

紗和子 (……なんて、高校生の私が考えることじゃないかしら)

 

紗和子 (……いつからかしら。あんな風に遊べる友達が、いなくなってしまったのは)

 

 

―――― 『またガリ勉関城が平均点上げてるよ』

 

―――― 『平均点以下の奴補習だってさ』

 

―――― 『うえーっ』

 

―――― 『もっと空気読んでくれよー』

 

 

紗和子 「っ……」

 

紗和子 (……いけない。いやなことを思い出してしまったわ)

 

紗和子 「………………」

 

紗和子 (小学校の頃は、何も考えなくてよかったのに)

 

紗和子 (遊ぶのも勉強するのも、どちらも楽しくて……)

 

紗和子 (でも、中学校にあがって、勉強がすごく楽しくて……でも……)

 

紗和子 「………………」

 

紗和子 (やめましょう。考えても詮無いことだわ)

 

紗和子 (それに、今は緒方理珠たちと一緒で、とても楽しいし……)

 

コロコロコロ……

 

紗和子 「あら?」

 

ヒョイッ

 

紗和子 (サッカーボール? あの子たちがこっちに蹴飛ばしてしまったのね)

 

クスッ

 

紗和子 (仕方ない。投げ返してあげるとしましょうか……――)

 

 

「――おまえ、いい加減にしろよ!」

 

紗和子 「えっ……?」

 

紗和子 (さっきまでサッカーをしていた子たちが、言い争ってる……?)

 

女の子 「な、なんだよ……! なんでそんなに怒ってるんだよ!」

 

男子1 「さっきだって言っただろ! それじゃこっちが楽しくないって!」

 

男子2 「そうだよ。またひとりでドリブルして、ゴールして……」

 

男子3 「おまえと同じチームになるとボールが回ってこなくてつまらないし」

 

男子4 「おまえと敵になると、ドリブルだけで抜かれるからどうしようもないんだよ」

 

女の子 「そ、そんなの……」 ギリッ 「そんなの、ヘタクソなおまえらが悪いだけだろ!」

 

女子1 「ひっ……」 グスッ 「わ、わたしだって、好きでヘタなわけじゃない、のに……」

 

女の子 「あっ……ち、違う。きみに言ったわけじゃなくて……」

 

男子1 「ふん。じゃあ俺たちに言ったのかよ」

 

女の子 「っ……」

 

男子2 「……なぁ、もう帰ろうぜ。これ以上言っても、こいつにはわかんないよ」

 

男子3 「だな。ほら、泣き止めって……」

 

女子1 「えぐっ……ひぐっ……」

 

男子1 「……じゃーな」

 

女の子 「………………」

 

紗和子 「………………」

 

ドキドキドキドキ……

 

紗和子 (と、とんでもないものを見てしまった気がするわ……)

 

紗和子 (っていうか、このサッカーボール、どうしたらいいかしら?)

 

紗和子 (子どもたちは帰ってしまうようだし、拾ってしまった手前、また置くのもはばかられるし……)

 

女の子 「………………」

 

チラッ

 

女の子 「あっ……」

 

紗和子 「……!?」 (め、目が合った……)

 

女の子 「………………」 トトトトト……

 

女の子 「……すみません。拾ってくれたんですね。ありがとうございます」

 

紗和子 「あ……ど、どういたしまして」

 

………………しばらくして

 

女の子 「………………」

 

ポーン……ポーン……ポーン……

 

紗和子 「………………」 (あれからしばらく経つけど……)

 

紗和子 (あの子、他の子たちがいなくなってからずっと、ひとりで壁に向かってボールを蹴ってるわ)

 

紗和子 (受験生としては、そろそろ帰って勉強をしたいところだけれど……)

 

女の子 「………………」

 

紗和子 (……あの子の悲しそうな顔が気になって、帰る気にならないのよね)

 

紗和子 (まぁ、勉強道具がないわけではないし……)

 

紗和子 (近くの自販機で缶コーヒーならいくらでも買えるわけだし)

 

紗和子 (しばらくここで勉強していこうかしら)

 

………………

 

女の子 「………………」

 

ポーン……ポーン……ポーン……

 

女の子 (……なんだよ、あいつら)

 

女の子 (こっちは全力でサッカーやってるだけなのに)

 

女の子 (何が、おまえとやるとつまらない、だよ!!)

 

女の子 (男のくせに、わたしよりヘタクソなおまえらが悪いんだろうが!!)

 

スカッ…………

 

女の子 (あっ……!?)

 

女の子 (しまった、目測誤った……バランスが……)

 

ドテッ……!!!

 

女の子 「……いてててて……」

 

女の子 (しまった。少し手を擦りむいちゃったな……)

 

女の子 (少し血が出てるけど、まぁこれくらいなら……――)

 

「――ちょっと! 大丈夫!?」

 

女の子 「えっ……?」

 

女の子 「さっき、ボールを拾ってくれたお姉さん……?」

 

紗和子 「大変! 血が出てるじゃない! ほら、水道で洗うわよ」

 

ギュッ

 

女の子 「あっ……」 アセアセ 「こ、これくらい平気ですよ……」

 

紗和子 「ダメよ。ばい菌が入ったら大変だわ。破傷風って怖いのよ?」

 

紗和子 「きちんと洗って消毒をしないといけないわ!」

 

女の子 「わ、わかりました……」

 

女の子 (制服の上に白衣を着ていて、変なお姉さんだけど……)

 

女の子 (ボールも拾ってくれたし、良い人なのかな……)

 

………………

 

紗和子 「……うん。傷口はしっかり洗って、エタノールで消毒して、絆創膏もしっかり貼れたわね」

 

紗和子 「ふふ。我ながらかんぺきな処置だわ」

 

女の子 「……どうして消毒液や絆創膏を持ち歩いているんですか?」

 

紗和子 「そんなの決まってるわ! 私が化学部部長だからよ!」

 

バーン!!!

 

女の子 (よ、よく分からない人だ……)

 

紗和子 「………………」

 

紗和子 (……さっきの口論のこととか、聞きたいけれど、)

 

紗和子 (きっと私が関わるべきことじゃないわね。子どもだもの。きっと翌日には仲直りしてるわね)

 

紗和子 (出過ぎたことをするものではないわね。そろそろ帰りましょうか)

 

紗和子 「……では、私は帰るわ。あなたももう暗くなるから、早く帰りなさい」

 

女の子 「あっ……は、はい。もう帰ります」 ペコリ 「お姉さん、本当にありがとうございました」

 

紗和子 「いえいえ。気にしなくていいわ。じゃあね」

 

………………夜 紗和子の部屋

 

紗和子 「………………」

 

紗和子 (あの女の子、大丈夫かしら?)

 

紗和子 (私が遠目で見ていた限り、あの子が数人のお友達に一方的に責められているように見えたけど……)

 

紗和子 (その後、あの子以外の子たちは、公園からすぐにいなくなってしまったし)

 

紗和子 (まるで、あの子ひとりを置いてけぼりにするように……)

 

ハァ

 

紗和子 (……ダメね。あの女の子のことが気になって、まったく勉強に集中できないわ)

 

紗和子 (勝手な話だわ。私、きっと……)

 

 

―――― 『またガリ勉関城が平気点上げてるよ』

 

―――― 『もっと空気読んでくれよー』

 

 

紗和子 (あの子と昔の自分を、重ねているんだわ)

 

紗和子 (余計なお世話。ただの杞憂。そんなの分かってるわ)

 

紗和子 (でも、どうしても、あの子がひとりで寂しそうにサッカーボールを蹴る姿が……目に焼き付いて離れない)

 

紗和子 (あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……)

 

紗和子 (……あのときの私のように)

 

………………翌日 一ノ瀬学園

 

理珠 「関城さん」

 

紗和子 「あら、緒方理珠。何か用かしら?」

 

理珠 「用と言うほどのことではないのですが……」

 

理珠 「今日の放課後、息抜きがてら文乃たちと41アイスにでも行こうかと話しています」

 

理珠 「関城さんも一緒にどうですか?」

 

紗和子 「えっ……」

 

紗和子 「わっ、私も誘ってくれるの……?」

 

理珠 「……もちろんです」

 

プイッ

 

理珠 「関城さんも、私の友達……ですから」

 

紗和子 「緒方理珠……」 ジーン

 

紗和子 「嬉しいわ! もちろんご一緒させてもら――」

 

 

―――― 『お姉さん、本当にありがとうございました』

 

 

紗和子 「………………」

 

紗和子 (……どうして、あの子の寂しそうな顔がちらつくのかしら)

 

理珠 「……? 関城さん?」

 

紗和子 「……ありがとう、緒方理珠。残念だけど、今日は予定があるの」

紗和子 「だから、私抜きで行ってらっしゃい」

 

理珠 「そうですか……」 シュン 「残念です。また今度、一緒に行きましょうね」

 

紗和子 「ええ。ありがとう。その言葉だけでおなかいっぱいな気分だわ」

紗和子 (……きっと、大したことなんてない)

 

紗和子 (これはただの杞憂で、余計なお世話で、ただの押しつけのお節介)

 

紗和子 (でも……)

 

 

―――― 『こ、これくらい平気ですよ……』

 

 

紗和子 (……仕方ないじゃない)

 

紗和子 (あの子の寂しそうな顔が、どうしても気になるのだもの)

 

………………放課後 公園

 

紗和子 「……結局、また来てしまったわ」

 

紗和子 (せっかくの緒方理珠のお誘いまで蹴って、一体私は何をしているのかしらね)

 

紗和子 (今日はサッカーをする子どもたちの喧噪は、ない……)

 

紗和子 (その代わり……)

 

女の子 「………………」

 

ポーン……ポーン……ポーン……

 

紗和子 (ひとりで、やはり寂しそうにボールを蹴るあの子の姿だけが、ある)

 

女の子 「……? あっ……」

 

紗和子 「……あっ」

 

紗和子 (……しまった。気づかれないようにしているつもりだったのに、目が合ってしまったわ)

 

女の子 「お姉さん、昨日はどうもありがとうございました」

 

紗和子 「どういたしまして。ケガはもう痛くない?」

 

女の子 「はい! もうかさぶたになっちゃいました!」

 

紗和子 「そう。良かったわ」

 

女の子 「……あっ、あの」

 

紗和子 「うん?」

 

女の子 「昨日のお礼がしたいです。何かさせてもらえませんか?」

 

紗和子 「お礼だなんて、そんな、気にしなくていいわよ」

 

紗和子 「傷を洗って消毒して絆創膏を貼っただけじゃない」

 

女の子 「でも、何もしないんじゃわたしの気が済まないです」

 

女の子 「お願いします! 何かさせてもらえませんか?」

 

紗和子 (うぅ……まっすぐな目をされると弱いわね)

 

紗和子 (小学生の女の子にしてもらうことなんて……)

 

紗和子 (……いいえ。プラスに考えるべきよ、関城紗和子。話をするチャンスだと)

 

紗和子 「……そうね。じゃあ……」

 

紗和子 「お姉さんね、受験生なの。だから、勉強ばっかりで嫌になってきちゃって……」

 

ニコッ

 

紗和子 「少し、話し相手になってもらってもいい?」

 

女の子 「話し相手……?」

 

………………公園 東屋

 

紗和子 「はい、ココアで良かったかしら?」

 

女の子 「あ、ありがとうございます。すみません。わたしがお礼をするはずなのに……」

 

紗和子 「ふふ。律儀な子なのね、あなた」

 

女の子 (改めて見ると……。白衣は変だけど、このお姉さん、すごくきれいだなぁ……)

 

紗和子 「? 私の顔に何かついてるかしら?」

 

女の子 「えっ……!?」 アセアセ 「な、なんでもないです。すみません……」

 

紗和子 「そう? ならいいけど……」

 

紗和子 「……さて、じゃあ、お話をする前に、ひとつあなたに謝らなければならないことがあるわ」

 

女の子 「……?」

 

紗和子 (さすがに少し恥ずかしいし、怖い気もするけれど……)

 

紗和子 「……ごめんなさい。昨日のお友達との喧嘩、実は少し、内容を聞いてしまったの」

 

女の子 「えっ……」

 

紗和子 「ごめんなさい。悪気はなかったのよ」

 

女の子 「………………」 プイッ 「……べつに、いいですけど」

 

紗和子 「ありがとう。それでね、その話を、あなたに聞きたいの」

 

女の子 「……お姉さんにお話するようなことはないですよ」

 

紗和子 「あなた、サッカーがとても上手なのね。でも、お友達はそこまでじゃない……」

 

紗和子 「だから、妬まれて、喧嘩になったのね?」

 

女の子 「………………」

 

紗和子 「……ごめんなさい。こんなこと、私が言うのは筋違いだと分かっているけれど、言わせてね」

 

紗和子 「あなたは何も悪くないわ」

 

女の子 「え……?」

 

紗和子 「それだけは言っておきたかったの」

 

紗和子 「あなたは何も悪くないわ。だから、そんな悲しい顔をしないで」

紗和子 「お願いだから、そんなつらそうな顔をしないでちょうだい」

 

………………公園近く 道路

 

成幸 (ふー、今日はあいつらの 『教育係』 をしなくていい日だから気が楽だな)

 

成幸 (にしてもあいつら、41アイスに行くとか言ってたけど、お気楽だな)

 

成幸 (受験までそう日にちはないってことをわかってんのか? 心配だ……)

 

成幸 (……いかんいかん。あいつらのお守りをしなくていい日くらい、あいつらのことなんか忘れよう)

 

成幸 (さっさと家に帰って、あいつら用の教材を完成させないと……)

 

ガクッ

 

成幸 (……結局、あいつらの勉強で忙殺されるのな、俺)

 

成幸 (ま、いいけどさ……ん?)

 

成幸 (……あの公園のベンチに座ってるの、関城? 隣は……し、小学生くらいの女の子か……?)

 

成幸 (……あの関城が、幼い少女と一緒にいる……?)

 

成幸 「………………」

 

成幸 (……犯罪臭しかしないな!?)

 

………………

 

女の子 「つ、つらそうな顔なんてしてないです……」

 

紗和子 「してるわ。思い悩んでるような顔。ボールを蹴ってるときも、ずっと……」

 

紗和子 「だから言ってあげたかったの。あなたは悪くないって」

 

紗和子 「だって、あなたはサッカーが好きで、たくさん練習したんでしょう?」

 

紗和子 「今日みたいに、ひとりのときだって、壁に向かってボールを蹴ってきたのでしょう?」

 

紗和子 「だったら上手で当然だわ。それをやっかんで、ひどいことを言って……」

 

紗和子 「そんなの、絶対に許されることではないわ! あなたは何も悪くないのよ!」

 

女の子 「………………」

 

女の子 「……たしかに、わたし、サッカーが好きです」

 

女の子 「ひとりでもたくさん練習しました。だから、クラスで一番サッカーが上手になったんだと思います……」

 

女の子 「……でも、わたしと同じチームでも敵でもつまらないって……」 グスッ

 

紗和子 「……つらかったわね。いいのよ、そんな言葉、気にしなくて」

 

紗和子 「あなたは悪くない。あなたは……――」

 

女の子 「――……違います。そうじゃ、ないんです」

 

紗和子 「えっ……?」

 

女の子 「たしかに、みんなに言われたことは、嫌でした……」

 

女の子 「でも、みんながそう言うのも、わかるんです……」

 

女の子 「だってわたし、みんなよりサッカーが上手だってわかってるのに……」

 

女の子 「ひとりでボールを無駄にキープしたり、わざと相手をおちょくるようなトリックをしたり……」

 

女の子 「……みんなが嫌がるってわかってて、そういうこと、しちゃったから……」

 

紗和子 「………………」

 

女の子 「……お姉さん、ありがとうございます。わたしのことを、“悪くない” って言ってくれて」

 

ニコッ

 

女の子 「おかげで、認められる気がします。わたし、悪かったんです。だから、みんなにちゃんと謝ります」

 

紗和子 「……そう?」

 

紗和子 「お役に、立てたなら、嬉しいわ……」

 

女の子 「はい!」

 

女の子 「……ココア、ごちそうさまでした! お話も聞いてくれてありがとうございました!」

 

女の子 「わたし、みんなに謝りに行って来ます!」

 

紗和子 「……ええ。いってらっしゃい」

 

女の子 「はい。お姉さん、さようなら」 タタタタタ……

 

紗和子 「………………」 (……行ってしまった)

 

紗和子 (私……)

 

紗和子 「……私は、なんてバカなのかしら」

 

紗和子 (本当に、なんてバカな……――)

 

 

「――バカじゃないだろ」

 

紗和子 「えっ……?」

 

紗和子 「ゆ、唯我成幸!?」

 

成幸 「よっ、関城」

 

紗和子 「どうしてここに……?」 カァアアアア…… 「っていうか、今の話、ひょっとして聞いてたの!?」

 

成幸 「……ああ。悪いけど、聞かせてもらったよ。ごめんな」

 

紗和子 「なっ……なななっ……」

 

紗和子 (私が小学生相手に力説してる姿を見られた……!?)

 

紗和子 (は、恥ずかしくて死にそうだわ……)

 

成幸 「……道路からさ、お前が小学生の女の子と話してるのが見えたから」

 

成幸 「お前がとうとう緒方の代わりに小学生によからぬことをしようと決意したのかと思って見張ってたんだよ」

 

紗和子 「あなた私のことをなんだと思ってるのかしら!?」

 

成幸 「結果的に盗み聞きをしたみたいになってしまった。それは本当にすまん」

 

成幸 「……オホン。まぁ、それは置いておくとして、だ」

 

成幸 「立派だったな。どういう関係かしらないけど、あの子、お前と話したおかげで元気が出たみたいだったぞ?」

 

紗和子 「………………」

 

紗和子 「……私は何もしてないわよ」

 

成幸 「…… “あなたは悪くない”」

 

紗和子 「……何よ? からかってるの?」 ジトッ

 

成幸 「大真面目だよ。ああやって、自分のことを肯定してもらえたら、誰だって嬉しいだろ」

 

成幸 「だからあの女の子だって、自分の非を素直に認められたんだろ」

 

成幸 「だから、お前は本当にすごいよ、関城」

 

紗和子 「……違うわよ。私は、そんなことを考えて、あんなことを言ったわけじゃないもの」

 

紗和子 「私はただ単純に、あの子に、私を重ね合わせていただけだわ」

 

成幸 「……?」

 

紗和子 「……少し昔ばなしをするわね」

 

成幸 「昔ばなし……?」

 

紗和子 「ええ。昔ね、勉強が大好きな女の子がいたの。中学生の女の子よ」

 

紗和子 「その子は特に理科が好きでね、がんばって勉強をしていたの」

 

紗和子 「でもね、その子が勉強をがんばればがんばるほど、クラスメイトは嫌な顔をしたわ」

 

紗和子 「“平均点を無駄に上げるな” とか、“勉強ができたって仕方ない” とか……」

 

紗和子 「女の子はそんなクラスメイトの声が嫌になって、教室に行かなくなっちゃったわ」

 

成幸 「なんだそれ! ひどい話だな!」

 

紗和子 「……そうね。ひどいと思ったわ」

 

 

―――― *1

 

 

紗和子 「その子はずっと、そう思っていたわ」

 

紗和子 「……でもね、そうじゃなかったかもしれないって。最近そう思うの」

 

紗和子 「その子はもっとうまくできたんじゃないか、って」

 

紗和子 「バカにされたって、気にしなければいい。ううん。笑い返してあげればよかったかもしれない」

 

紗和子 「そもそも彼らにしてみれば、ただの冗談だったのかもしれない」

紗和子 「それを本気にして、ひとりで嫌な気持ちになって、逃げていただけなのかもしれない……」

 

紗和子 「……最近、その子はそう思うのよ」

 

成幸 「………………」

 

紗和子 「あの女の子が友達と喧嘩してる姿を見て、昔ばなしの女の子のことを思い出したの」

 

紗和子 「ああ、ふたりはきっと、同じなんだ、って」

 

 

―――― *2

 

―――― *3

 

 

紗和子 「……でも、違ったわ。私の勝手な勘違いだったわ」

 

紗和子 「だって、あの女の子は自分の非を自分で認められていたわ」

 

紗和子 「昔ばなしの女の子だって、ひょっとしたら、勉強ができることを鼻にかけていたかもしれない」

 

紗和子 「勉強ができない回りを見下していたかもしれない」

 

紗和子 「……自分のことを棚に上げて、だから周囲から孤立していただけかもしれない」

 

紗和子 「あの子は偉いわ。昔ばなしの女の子とは、違う……」

 

紗和子 (私とは、全然……違う……)

 

成幸 「………………」

 

ハァ

 

成幸 「……何言ってんだ。そんなの当たり前だろ」

 

紗和子 「えっ……?」

 

成幸 「性格だって環境だって何だって違うだろ」

 

成幸 「あの女の子には、たしかに友達に対して非があったかもしれない」

成幸 「でも、だからといって昔ばなしのその子にも、クラスメイトに対して非があったとは限らないだろ」

 

成幸 「その子は悪口みたいな冗談に言い返せるような性格だったか?」

 

成幸 「その子はクラスメイトのことを見下すような性格だったか?」

 

成幸 「……あの女の子と昔ばなしのその子は違うよ。全然違うよ。違うに決まってるだろ」

 

成幸 「そうやって自分を責めるのはやめろよ。お前の大好きな緒方は、そんな風に考えるか?」

 

紗和子 「………………」 フルフル

 

成幸 「だろ? だから、俺じゃ不満だろうけど、お前があの子に言ってあげたみたいに、俺が言うよ」

 

成幸 「お前は何も悪くないよ、関城」

 

紗和子 「………………」

 

ウルッ……

 

紗和子 「……!?」 (な、なんで涙が……でて……くるの?)

 

成幸 「せ、関城……!?」

 

紗和子 「ゆ、唯我成幸っ、向こうむいてなさい!!」

 

成幸 「大丈夫か? どこか痛いのか?」

 

紗和子 「あー、もう! このニブチン男! 泣いてるから恥ずかしいから向こうむいてって言ってるの!」

 

成幸 「あっ……」 プイッ 「わ、悪い……」

 

紗和子 「……いいわよ、べつに」

 

グスッ……

 

紗和子 (……まったくもう。急に変なこと言うから……)

 

紗和子 (……どうしてくれるのよ)

 

ポタッ……ポタッ……

 

紗和子 (嬉しくて、涙が止まらないじゃない……)

 

………………しばらくして

 

成幸 「……もう大丈夫か? 関城」

 

紗和子 「大丈夫よ。何も問題ないわ」

 

成幸 「目、真っ赤だけどな……」

 

紗和子 「……デリカシーのない男ね。それは思っても口に出さないの」

 

成幸 「……悪い」

 

紗和子 「いちいち謝らないで。私がいじめてるみたいじゃない」

 

紗和子 (……まったく。どうしてこんなに鈍い男が)

 

 

―――― 『お前は何も悪くないよ、関城』

 

 

紗和子 「あんなに、嬉しい言葉をくれたんだか……」 ボソッ

 

成幸 「ん? なんか言ったか、関城?」

 

紗和子 「……なんでもないわ」 (どうせこの鈍い男は、何も察してはくれないし)

 

紗和子 (……でも、このままやられっぱなしってのも性に合わないわね)

 

紗和子 (そうだ。いいこと思いついたわ)

 

紗和子 「……ねえ、唯我成幸」

 

成幸 「うん?」

 

紗和子 「あなた、いつだかこんなこと言ってたわよね?」

 

 

―――― 『は 初デートはどこがいいかしら!?』

 

―――― 『なるべく金のかからないところが…… 公園とか』

 

 

成幸 「……お前、いきなり何の話を始めるんだよ」

 

紗和子 「いえいえ、奇しくも私は、あなたの希望通りのことをしてしまったと思ってね」

 

成幸 「?」

 

紗和子 「だってそうでしょう?」

 

クスッ

 

紗和子 「今日はふたりきりよ? あなたと私の初デートは、公園だわ」

 

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「き、急に何を、変なことを……」

 

紗和子 (ふふっ……効いてる! 効いてるわ!)

 

成幸 「は、初デートって、そんな……」

 

成幸 「こんなの、ただ学校帰りにダベってるだけで、デートじゃ……」

 

紗和子 「へぇ? なるほど? これがデートじゃないなら、また今度公園デートでもしましょうか?」

 

成幸 「なっ……///」 プシュー

 

紗和子 (ふふふ。照れてる照れてる。じゃあ、最後にダメ押しを……)

 

紗和子 「どうせだし、いっそのこと私たち付き合っちゃう?」

 

成幸 「えっ……」

 

成幸 「あっ……、えっと……いや、その……そういうの、俺、よくわからないし……///」

 

成幸 「いや、でも……そっか。お前と……付き合う、かぁ……」

 

紗和子 「……?」 (えっと……? この反応は、一体……?)

 

成幸 「……そう、だな。お前と付き合ったら楽しそうだな。悪くないかもな」

 

紗和子 「へっ……?」 ボフッ 「……な、ななななな、何を、言ってるの!? 唯我成幸!?」

 

紗和子 「じ、冗談に決まってるでしょう!? バカなのかしら!?」

 

成幸 「じ、冗談!? えっ、あっ……」

 

成幸 「そ、そうだよな! 冗談に決まってるよな! び、びっくりしたー!」

 

紗和子 (ば、バカじゃないの……本当に……)

 

ドキドキドキドキ……

 

紗和子 (あなたと私が、付き合うなんて、そんなこと、できるわけないじゃない……)

 

紗和子 (だって私の大親友の、緒方理珠があなたのことを好きなのだから)

 

紗和子 (だから、絶対に違う。このドキドキは……)

 

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

 

紗和子 (違うわ。この男にドキドキしているわけでは、断じてない)

 

紗和子 (緒方理珠の好きな人のことを、好きになったりは、絶対しない)

 

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……

 

紗和子 (あーっ、もう!!)

 

紗和子 (いい加減静まりなさいよ!! 心臓!!)

 

………………小学校 グラウンド

 

女の子 「……パス行くぞー!」

 

男子1 「よっしゃ任せろー! ……と見せかけて、スルー!」

 

女子1 「えへへ。このままゴールまで持ってくよー!」

 

女の子 「ナイススルーパス!」 (……楽しい。やっぱり、こうやって、みんなと一緒にサッカーができるから、楽しいんだ)

 

女の子 (名前も聞きそびれちゃったけど、あの白衣のお姉さんのおかげだよ)

 

 

―――― 『あなたは何も悪くないわ』

 

 

女の子 (あのお姉さんの言葉が、すごく嬉しかった)

 

女の子 (だからこそ、わたしは、自分の嫌なところを、素直に謝ることができた……)

 

女の子 「………………」 (あのお姉さんの制服、一ノ瀬学園の制服だよね)

女の子 (お母さんが言ってた。一ノ瀬学園はすごくレベルが高くて、勉強についていくのも大変だって)

 

女の子 (……勉強、がんばろう。あのお姉さんもきっと、たくさんがんばって、一ノ瀬学園に行っただろうから)

 

女の子 (わたし、あの人と同じ高校に行く! そしていつか……あの人のように、なりたい!)

 

 

………………幕間 「41アイス」

 

文乃 「はぁ~~~」 キラキラキラ

 

文乃 「夢の五段重ねなんだよ……」

 

ムシャムシャムシャ……

 

文乃 「ん~~~~~、どのフレーバーも美味しい~~~~~~最高だよ!!」

 

理珠 「ふ、文乃? 急いで食べ過ぎではありませんか?」

 

うるか 「そうだよ文乃っち。アイスは味わって食べないと、お腹壊しちゃうよ?」

 

文乃 「ふたりとも何を言ってるの!? 今日は41デーだよ!? アイスの割引がきくんだよ!?」

 

文乃 「もちろん全フレーバー食べるでしょ!? だったらそんな悠長なことは言ってられないよ!?」

 

理珠&うるか 「「えっ」」

 

文乃 「さぁ、次の五段重ねは……これと、これとこれとこれ……あとこれ!! お願いします!!」

 

うるか 「………………」 ゲッソリ 「……先、帰ろっか、リズりん」

 

理珠 「賛成です、うるかさん」

 

文乃 「ん~~~~~~、この組み合わせも美味しい~~~~最っ高~~~~!!」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

紗和子 「あのときの私のように」

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*1:どうして…… 勉強できてほめられるんじゃなくて バカにされなきゃいけないのよ

*2:あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……

*3:あのときの私のように

あすみ 「お前となら、ホンモノもいいかもしれねーな」 成幸 「なっ……」【ぼく勉ss/アニメss】

 

………………とある休日 街中

 

あすみ 「……ふー」

 

小美浪父 「ん、どうした? 疲れたような声を出すなんてめずらしい」

 

小美浪父 「インフルエンザの出張予防接種、そんなに疲れたか?」

 

あすみ 「いや、ずっとかしこまってたら肩こっただけだよ」

 

小美浪父 「? お前、たしか接客業のバイトをやっているんじゃなかったか?」

 

小美浪父 「普段からかしこまることも多いだろうに」

 

あすみ (やべっ……)

 

あすみ (接客業っつっても、客相手にゲームして稼ぐようなメイド喫茶だからかしこまるも何もねーよ)

 

あすみ (……なんて言えるわけねーし、適当に誤魔化さなきゃな)

 

あすみ 「ん、まぁ……今日は会社にお邪魔したし、さすがにいつもより緊張するさ」

 

小美浪父 「……それもそうか」

 

あすみ (……ほっ。誤魔化せたみたいだ)

 

小美浪父 「まぁ、うちみたいな小さな診療所は、こういう予防接種が収入の大半を占めるからな」

 

小美浪父 「毎年うちに連絡をくれるあの会社さんには、頭が上がらないよ」

 

小美浪父 「ともあれ、せっかくの休日に手伝ってもらって、悪いな」

 

あすみ 「いいよ。浪人生に平日も休日もないからな」

 

あすみ 「それに、いつかアタシが継がなくちゃいけない仕事だしな」

 

あすみ 「今のうちから、手伝いをしておいて損はないだろ?」

 

小美浪父 「……はぁ。まったく、おまえも諦めが悪いな」

 

あすみ 「あきらめも何もねーよ。アタシは絶対医者になって、あの医院を継ぐからな」

 

小美浪父 「勝手にしろ」

 

あすみ 「勝手にするよ」

 

あすみ&父 「「………………」」

 

小美浪父 「……もう昼過ぎか」

 

小美浪父 「バイト代のかわりだ。どこかで昼ご飯でも食べて帰るか」

 

あすみ 「……ん。食べる」

 

小美浪父 「あのレストランでいいか?」

 

あすみ 「レストランて……間違いじゃないけど、ファミレスって言えよ。恥ずかしいな……」

 

………………ファミレス ジョモサン

 

ワイワイガヤガヤ……

 

あすみ 「なんだ、えらく混んでんな」

 

小美浪父 「まぁ、休日の昼過ぎだ。こんなものだろう」

 

あすみ 「ま、勉強でもしながら待つからべつにいいけどさ」

 

店員 「あの、お客様」

 

小美浪父 「うん? なんですか?」

 

店員 「相席でよろしければ、すぐに席が用意できますが……」

 

小美浪父 「む、本当ですか。あすみ、どうする?」

 

あすみ 「どっちでもいいけど、腹も減ってるし、すぐ食えるならそれに越したことはないかな」

 

小美浪父 「それもそうだな。では、相席をお願いします」

 

店員 「わかりました。では、ご案内致します」

 

あすみ (相席か。まぁ、混んでるし仕方ないよな)

 

店員 「こちらの席になります」

 

店員 「では、お客様、注文が決まりましたらお呼びください」

 

小美浪父 「いや、すみません。相席になってしまって。失礼します」

 

成幸 「あ、いやいや、混んでるし仕方ないですよ。どうぞどうぞ」

 

小美浪父 「あっ」

 

成幸 「えっ」

 

あすみ 「……後輩?」

 

成幸 「えっ、せ、先輩とお父さん!?」

 

あすみ 「……こりゃまたすげー偶然だな」 (ってことは……)

 

葉月 「あっ、メイドのお姉ちゃん!」 和樹 「おひさー!」

 

あすみ 「よー、おチビちゃんたち。おひさー」 (……で、あっちが)

 

花枝 「えっ? どういうこと?」 パァアアアアアア 「あんなに綺麗な子とどこで知り合ったのよ、成幸!」

 

水希 「また新しい女が……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

あすみ (あれが、後輩のお母さんと中学生の妹か……)

 

………………

 

小美浪父 「いやいや、すみません。まさか相席の相手が唯我くん――いや、成幸くんのご家族だったとは」

 

花枝 「いえいえ、いつも成幸がお世話になっています」

 

小美浪父 「とんでもない! いつも世話になってるのは私と私の娘ですよ」

 

あすみ 「……おい、後輩」 コソッ

 

成幸 「なんですか、先輩」 コソッ

 

あすみ 「この状況、とてつもなくヤバいと思うのはアタシだけか?」

 

成幸 「何言ってんですか、先輩。俺なんかさっきから冷や汗とまりませんからね」

 

あすみ 「だよなぁ……」 (っつーか……)

 

小美浪父 「本当に、成幸くんにはいつもお世話になってるんです」

 

小美浪父 「娘が連れてきた彼氏が、こんなに良い青年で、本当に良かったですよ」

 

水希 「えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ?」

 

葉月&和樹 「「彼氏!?」」

 

花枝 「……あらあら、まぁまぁ……」 パァアアアアアア……!!! 「こんなにきれいな娘さんが、成幸の彼女……」

 

花枝 「よくやったわ、成幸!」

 

あすみ (まぁこーなるよな……)

 

小美浪父 「あれ? 成幸くんから娘の話は聞いていませんか……?」

 

あすみ (そして、こうなるよな……)

 

あすみ (……っつーか、こうなるのは運命だったのかもしれない)

 

あすみ (アホみたいなウソをついて、メイドの仕事を誤魔化して……)

 

あすみ (後輩を担保に、医学部受験も大目に見てもらって……)

 

あすみ (そんなズルをしたから、こんな最悪のカタチでウソをバラさなくちゃならなくなったんだな)

 

あすみ (……仕方ねえ。これは、アタシに対する正当なバチだろう。公開処刑みたいなもんだが、我慢するしかねーか)

 

あすみ 「……あー、えっと。親父。もうこの際だから、言ってしまうけどな」

 

あすみ 「実は……――」

 

成幸 「――いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!」

あすみ 「……へ?」

 

成幸 「ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ」

 

成幸 「恥ずかしくて内緒にしてたんだ。ごめんな」

 

水希 「………………」 ピクピクピク……

 

葉月 「あっ、水希姉ちゃんが白目剥いて泡吹いてる」

 

和樹 「こりゃまずいな。後で記憶操作しておかないと」

 

あすみ 「後輩……? おまえ……」

 

成幸 「しっ。わざわざバラす必要もないでしょ」 コソッ

 

成幸 「ウソをバラすにしても、それは受験が終わって、先輩が医学部生になってからですよ」

 

あすみ 「後輩……」

 

花枝 「まー、なんてめでたいのかしら!」

 

花枝 「今日は月に一度の家族で外食デー! せっかくだし成幸のおめでとう会も兼ねちゃいましょう」

 

成幸 「いや、母さん、そんな盛り上がらないでいいから……恥ずかしいから……」

 

花枝 「この前臨時ボーナスも入ったし、今日は少し高いメニューを頼んでもいいわよ!」

 

花枝 「特別に今日はドリンクバーも許可するわ!」

 

葉月 「ほんとに!?」   和樹 「やったー!」

 

小美浪父 「いや、うちの娘ぐらいでこんなに喜んでもらえるとは……」

 

………………

 

小美浪父 「……それでですね、そのとき、成幸くんは言ってくれたんですよ」

 

小美浪父 「“あすみさんのことは、俺が一生守ります” ……と」

 

花枝 「きゃー! 我が息子ながらかっこいいわー!」

 

成幸 「………………」

 

カァアアアア……

 

成幸 (そんなこと言った憶えはないよ!?)

 

あすみ (あの親父、テンション上がってあることないこと言ってやがる……)

 

花枝 「でも、大丈夫かしら。あすみさん、成幸と一緒で大変なこととかないかしら?」

 

あすみ 「へっ? あ、アタシが大変、ですか?」

 

あすみ 「いや、特にそういうことはないですけど……」

 

あすみ (あんまり、無辜の後輩の家族にウソをつきたくはないし……)

 

あすみ 「すごく頼りになりますし、アタシのために色々してくれますし……」

 

あすみ 「本当に、良い人に出会えて良かったって……そう思います」

 

花枝 「まぁ……まぁまぁまぁ」 パァアアアアアア……!!!

 

成幸 「せ、先輩、変なこと言わないでくださいよ……」

 

成幸 「俺が恥ずかしいし、母さんのテンションも上がるじゃないですか」

あすみ 「し、仕方ねーだろ。でも、ウソはついてないからな!」

 

成幸 「……そ、それは、まぁ……」 カァアアアア…… 「嬉しい、ですけど……」

 

花枝 「もー! 成幸ったら! 見せつけてくれるわね!!」 バシッ

 

成幸 「いたっ!? 母さんどんだけテンション上がってるんだ!?」

 

水希 「………………」

 

和樹 「水希姉ちゃん起きないなー」

 

葉月 「兄ちゃんがあすみ姉ちゃんとラブラブしてても反応なしね」

 

和樹 「こりゃ相当重傷だなー」

 

成幸 「先輩」 コソッ

 

あすみ 「おう」 コソッ

 

成幸 「俺はもうこの空気に耐えられそうにありません。さっさと食べて、ふたりで抜け出しましょう」

 

あすみ 「……だな。どこかでふたりで勉強でもするか」

 

花枝 「デート!? デート!? ふたりでどこ行くの!?」 キラキラキラ

 

成幸 「だー、もう! 母さん興奮しすぎだから!!」

 

水希 「………………」

 

ピクッ……

 

葉月 「……あ」

 

和樹 「水希姉ちゃんが……」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

葉月&和樹 「「起きた!!」」

 

水希 「……ちょっと、待ってください」

 

あすみ 「お、おう、妹ちゃん。どうした?」

 

水希 「お兄ちゃんの彼女さんだって言うなら……」

 

水希 「逃げないでくださいよ……!!」

 

あすみ (こ……怖っ……。なんて気迫だよ……)

 

成幸 「逃げるって……。べつに俺たちはそんなつもりじゃ――」

 

水希 「――お兄ちゃんは黙ってて?」

 

成幸 「はい」

 

あすみ (そして弱いな後輩……)

 

水希 「……おじさん」

 

小美浪父 「ん? なにかな?」

 

水希 「この後、娘さんを借りてもいいですか? ぜひ、うちにお招きしたいので」

 

あすみ 「えっ……」

 

小美浪父 「本当かい!? おうちに娘を招待してくれるのかい?」

 

水希 「ええ。それはもう……」 ニヤリ 「……歓待しますよ。嫌ってほど……」

小美浪父 「よかったな、あすみ! 私に気を遣わずお呼ばれしてきなさい」

 

あすみ 「お、おい、親父……」

 

水希 「……来てくれますよね、あすみさん?」 ニコッ

 

あすみ (怖え……けど……) ハァ (逃げるわけにはいかねーよな)

 

あすみ 「……わかった。じゃあ、ぜひお邪魔させてくれ」

 

水希 「……ふふ」

 

水希 (わたしの知らない間に、お兄ちゃんのことをたぶらかしてた女……)

 

水希 (ふふふ、どんな風にお兄ちゃんを騙したのか知らないけど……)

 

水希 (わたしまで騙せると思わないでくださいね……!)

 

水希 (今日うちにご招待して、散々こき使ってやりますから!!)

 

水希 「………………」

 

水希 (……でもまぁ、お兄ちゃんの魅力に気づいたところは、褒めてあげますけど)

 

水希 (あと、べつにお兄ちゃんを嫌いになってもらいたいわけでもないし)

 

水希 (……はぁ)

 

水希 (複雑な心境)

 

………………唯我家

 

あすみ 「お邪魔しまーす」

 

花枝 「はい、どうぞ。ぼろくて狭い家だけど、ゆっくりしていってね。あすみちゃん」

 

あすみ (……まぁ、実は一度来たことはあるんだが)

 

水希 「………………」 ジトーーーーーッ

 

あすみ (あの妹が怖そうだから黙ってよう)

 

成幸 「すみません、先輩。予定もあっただろうに、家にまで来てもらっちゃって……」

 

あすみ 「そんなの気にすんなよ。元々は……」 コソッ 「お前がアタシのことを庇ってくれたから、こうなったんだ」

 

 

―――― 『いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!』

 

―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』

 

あすみ 「……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜ」

 

成幸 「っ……」 カァアアアア…… 「こ、こんなときまでからかわないでくださいよ」

 

あすみ (今のは結構本気だったんだけどなー……って言っても信じねーか)

 

あすみ (ま、普段散々からかい続けてるアタシが悪いんだけどさ)

 

水希 「あすみさん、このエプロンをお貸しします」

 

あすみ 「……うん?」

 

水希 「エプロンをつけたら、早速働いてもらいますよ」

 

ニヤッ

 

水希 「……まずは、家中の掃除です」

 

花枝 「こら、水希。あすみちゃんはお客さんなのよ?」

 

花枝 「掃除なんかさせられるわけないでしょ。あんた、いい加減に……――」

 

あすみ 「――いえ、お母さん。やらせてください」

 

花枝 「えっ?」

 

あすみ 「……ふふ、いいぜぇ? 妹ちゃん?」 ニヤリ 「アタシがやられっぱなしで終わると思うなよ?」

 

成幸 (あっ、いつもの先輩だ……)

 

水希 「むっ……?」 (さっきまでと雰囲気が変わった……?)

 

あすみ 「家中の掃除だな? 任せろ。大得意だ。妹ちゃんは居間でくつろいでな」 グッ

 

葉月&和樹 「「あすみ姉ちゃんかっこいいー!!」」 キラキラキラ

 

………………

 

あすみ 「まずは上から!! はたきでホコリを落とす!!」

 

シュババババババ

 

あすみ 「で、次はほうき! ゴミや埃を要所に集める!!」

 

シュババババババ

 

あすみ 「そして局所的に掃除機! 使用電力は最低限で!!」

 

シュババババババ

 

水希 「!?」 (電気代のことも考えて掃除をしている……!? この女……)

 

水希 「できる……!!」 ギリッ

 

あすみ 「最後はきつくしぼったふきんで、テーブルや棚回りを磨く!」

 

あすみ 「拭く程度じゃ汚れが伸びるだけだからダメだ! 磨き上げるつもりで!!」

 

シュババババババ

 

あすみ 「そして最後に、雑巾で床を磨き上げる……!!!」

 

あすみ 「畳も水分が残らないように磨く……!!!」

 

シュバババババババババババババババババババ!!!!!!

 

………………

 

ピカピカピカピカ……

 

花枝 「すごい……。かつてないくらいピカピカだわ」

 

あすみ 「後輩――成幸くんにはいつもお世話になってるので、気合い入れちゃいました」 キャルン

 

花枝 「美人なだけでなく、お掃除も完ぺきだなんて……成幸!? こんなすごい女の子どうやって捕まえたの!?」

 

あすみ 「えへへ、違うんですよ、お母様っ」 キャルン 「アタシが、成幸くんを捕まえたんですっ、なんて! きゃーっ」

 

成幸 (先輩、なんか “あしゅみー” 感が出てきたな……)

 

水希 「ぬぬぬぬ……」

 

水希 「ま、まだですよ! 次は大量の洗濯物をたたんでもらいますから!」

 

あすみ 「うん?」 ペタペタペタパタパタパタ

 

水希 「……!?」 (も、もうたたみ始めてる……!?)

 

水希 (しかもなんて素早いの……で、でも、たたみ方が雑では本末転倒……――)

 

水希 (――なっ……!?)

 

キラキラキラ……!!!

 

水希 (寸分の狂いもない、なんて美しい折り目なの……!?)

 

水希 「……す、すごい」

 

ハッ

 

水希 (感心してどうするの! この程度、わたしだって少しがんばればできるもん!)

 

水希 「あ、あとは! 今日やる予定はなかったけど、水回りの掃除を徹底的に――」

 

ピカピカピカピカ……

 

水希 「……!?」

 

あすみ 「うん。普段から清潔にしてある良いトイレと風呂だな。すぐピカピカになった」

 

水希 「う、うそ……」 (なんてできる人なの、この人は……!?)

 

水希 「っ……あ、あとは……」

 

あすみ 「おっ、もういい時間だな。今日の晩ご飯は何にする予定だったんだ?」

 

水希 「えっ……えっと……。今日は、お米を炊かずに、残り物の野菜ですいとん風鍋を……」

 

あすみ 「よーし、オッケー。じゃ、アタシが作るな」

 

あすみ 「冷蔵庫の食材、使ったらダメなやつとかあるか?」

 

水希 「………………」

 

あすみ 「……? 妹ちゃん?」

 

水希 「……なにも、ないです。自由に使ってもらって大丈夫です」

 

あすみ 「ん、そうか。じゃあそうさせてもらうな」

 

あすみ 「~~~♪」

 

水希 (……鼻歌混じりに、意気揚々と台所へ行ってしまった)

 

水希 「………………」

 

ガクッ

 

水希 (……認めたくはないけど、仕方ないのかもしれない)

 

水希 (わたしの、完敗だ……)

 

水希 「……はぁ」

 

あすみ 「……?」 (なんか、妹ちゃん凹んでんなぁ……)

 

あすみ (……売り言葉に買い言葉で、気合い入れて家事をやっちまったが)

 

あすみ (普段、あの子がこの家の家事をやってるんだよな。やりすぎちまったかな……)

 

あすみ (悪いことしたな……)

 

………………晩ご飯 食卓

 

あすみ 「はい、できましたよー」

 

コトッ

 

花枝 「あらあらあら……良い匂いだわ。とても美味しそう」

 

あすみ 「お口に合うと嬉しいですけど……」

 

あすみ 「……ほら、葉月、和樹。お前たちの分もよそうからな」

 

葉月 「きゃー!」 和樹 「姉ちゃんと母ちゃん意外のお料理を家で食べるなんて、新鮮だな!」

 

水希 「………………」 ズーン

 

あすみ 「ほら、妹ちゃんも、どうぞ」

 

水希 「……どうも」 ズーン

 

あすみ (うーむ。明確な敵意は消えたけど、代わりにめちゃくちゃ暗くなっちまったな……)

 

あすみ (どうしたもんか)

 

あすみ 「ほら、こうは――成幸くんの分も」

 

成幸 「あ、すみません。ありがとうございます、せんぱ――あすみさん」

 

あすみ 「お、おう……」 (……なんか名前を呼ばれるとこそばゆいな)

 

花枝 「それじゃ、いただきましょうか。あすみちゃん、本当にありがとうね」

 

花枝 「いただきます」

 

『いただきます!』

 

水希 「……いただきます」

 

パクッ

 

水希 (……やっぱり、想像通りだ)

 

水希 (すごく美味しい。普段から料理をやり慣れてる人の、お料理の味)

 

水希 (わたしが作ろうとしていた節約メニューの意図をよく理解している……)

 

水希 (華美でも貧相でもない、素朴な料理……)

 

水希 「………………」

 

あすみ 「ほらほら、ゆっくり食べろ。こぼれちゃうぞ」

 

葉月 「だってー、あすみお姉ちゃんのお料理、とっても美味しいんだもの!」

 

和樹 「……はむっ。姉ちゃんおかわり!」

 

あすみ 「嬉しいねぇ。もう食べ終わったのか。ほら、おかわりどうぞ」

 

和樹 「わーい! ありがと、姉ちゃん!」

 

水希 「………………」 (……悔しいな。悔しいけど、もう認めざるを得ない)

 

水希 (この人を厭う要素がない。この人は、絶対に兄を幸せにしてくれる人だ……)

 

水希 (わたしより、はるかに……――)

 

あすみ 「――妹ちゃんはさ、学校から帰ったら、いつも家事をこなしてるんだろ?」

 

水希 「えっ……?」

 

水希 「ま、まぁ、そうですけど……」

 

あすみ 「すごいな。アタシなんて浪人生なのに、そうそう家事なんてやらないのに」

 

あすみ 「お前らの姉ちゃんはすごいな。なぁ、和樹、葉月」

 

和樹 「そりゃーなー!」 葉月 「水希姉ちゃんは世界一の姉ちゃんだもの!」

 

あすみ 「……悔しいな。アタシが一番になりたいところだけど、」

 

あすみ 「きっと掃除も料理も滅茶苦茶上手いんだろうな。悔しいけど、アタシは二番目で我慢するか」

 

水希 「………………」 (……ああ、そっか)

 

水希 (この人は、ずっと嫌な気持ちにさせていたわたしのことも気遣ってくれるような人なんだ……)

 

水希 (……ダメだ。とことん、この人を嫌いになる理由がなくなってしまった)

 

………………食後 台所

 

あすみ 「ふんふーんふん……♪」

 

キュッキュッ……

 

水希 「……あの、お皿洗い、手伝います」

 

あすみ 「うん? いいよいいよ。あと少しで終わるし、アタシひとりで大丈夫だよ」

 

水希 「いえ、あの……やらせてほしいんです」

 

あすみ 「……そっか。じゃあ、アタシがスポンジで汚れを落とすから、洗剤を流してくれ」

 

水希 「わかりました」

 

あすみ 「………………」

 

水希 「………………」

 

バシャバシャバシャ……

 

水希 「……あの」

 

あすみ 「んー?」

 

水希 「……今日は、すみませんでした」

 

あすみ 「何の話?」

 

水希 「……とぼけないでくださいよ」

 

バシャバシャ……

 

水希 「今日、ファミレスで会ってからずっと、嫌なことばかりして、言って……」

 

水希 「もう、わたしのことを嫌いになってるかもしれないですけど……」

あすみ 「………………」

 

水希 「……お願いします。兄のことは、嫌いにならないでください」

 

水希 「お兄ちゃんは悪くないんです。わたしが勝手に、嫌な気持ちになって、嫌なことしただけだから……」

 

水希 「……ごめんなさい」

 

あすみ 「………………」 ハァ 「……とぼけてねーよ。何の話だか、これっぽっちも分からない」

 

あすみ 「妹ちゃんのこと、嫌ってないし嫌う予定もないよ」 ニコッ

 

水希 「あすみさん……」

 

あすみ 「……いつまでも、“妹ちゃん” 呼びじゃ分かりにくいし、」

 

あすみ 「アタシも、“水希” って呼んでもいいか?」

 

水希 「あ……は、はい! ぜひ!」

 

あすみ 「ん。じゃあこれからはそうするな。水希」

 

水希 「……はい」

 

あすみ 「………………」

 

あすみ (……水希も、後輩のことが好きすぎるだけで、すごく良い子だ)

 

あすみ (お母さんも、葉月も、和樹も……。温かくて、良い家族だ)

 

あすみ (アタシはこんな人たちを騙してるのか……)

 

あすみ (そして、そんな家族を騙すような真似を、後輩にさせてるのか……)

 

ズキッ

 

あすみ (……ダメだ。そんなのは、絶対)

 

あすみ (アタシがついたウソが、後輩に迷惑をかけている……)

 

あすみ (それに留まらず、後輩に家族に対して無用なウソをつかせている……)

 

あすみ 「……なぁ、水希」

 

水希 「はい?」

 

あすみ 「洗い物が終わったら帰るけど、その前に話がある」

 

あすみ 「……お母さんと葉月と和樹、全員に聞いてほしい話があるんだ」

………………居間

 

花枝 「話って何かしら、あすみちゃん」

 

花枝 「ま、まさか、成幸と結婚させてほしいとかかしら……。ど、どうしましょう。神社? チャペル?」

 

花枝 「白無垢? ウェディングドレス? あすみちゃん美人だからどっちも似合うでしょうし、迷うわね~」

 

あすみ 「いや、あの……」

 

水希 「お母さん! あすみさんすごく真剣な顔してるから、茶化すのはやめてあげようよ」

 

花枝 「えっ……? あ、そ、そうね……」

 

花枝 (水希のことだから、まだ嫉妬心むき出しだろうから場を和ませようと思ったのに……)

 

花枝 (当の水希にたしなめられるとは思わなかったわ……。随分と懐いたものね)

 

葉月 「あすみ姉ちゃん?」 和樹 「お話ってなーに?」

 

あすみ 「……あ、あの」

 

成幸 「先輩……?」

 

あすみ (……怖い。せっかくよくしてくれた人たちに、前提を覆すようなことを言うのが、怖い)

 

あすみ (でも……) キッ (家族大好きな後輩に、家族に対してウソをつかせたままにしておくわけにはいかない)

 

あすみ 「……申し訳ありませんでした」 ペコリ

 

水希 「えっ……? ど、どうしたの、あすみさん。いきなり頭を下げて……」

 

あすみ 「……ごめんなさい。アタシ、みんなにひとつ、ウソをついています」

 

成幸 「せ、先輩! それは……――」

 

あすみ 「――成幸くんもウソをつきました。でも、それはアタシのためにウソをついたんです。だから、許してあげてください」

 

あすみ 「アタシと成幸くんは、お付き合いしていません。恋人でもなんでもありません」

 

あすみ 「……ただの、予備校の先輩後輩の間柄です」

 

花枝 「………………」

 

水希 「えっ……ど、どういうこと……?」

 

水希 「あすみさんは、お兄ちゃんの彼女さんじゃない、の……?」

 

あすみ 「……ああ。違う」

 

花枝 「……成幸」

 

成幸 「は、はい」

 

花枝 「あすみさんの言っていることは本当なの?」

 

成幸 「……うん。本当だよ」

 

花枝 「なら、どうしてあんなウソをついたの?」

 

 

―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』

 

 

成幸 「それは、その……」

 

あすみ 「夏休みにアタシが頼んだんです。父をごまかすために、恋人役をやってくれ、って」

 

あすみ 「それが尾を引いて、今日、成幸くんにご家族を騙すようなことをさせてしまいました」

 

あすみ 「アタシが悪いんです。すみません。本当に……ごめんなさい!」

 

花枝 「……頭を上げて、あすみちゃん」

 

あすみ 「はい……」

 

花枝 「………………」

 

クスッ

 

花枝 「やっぱり、そんなことだと思ってたわ。うちの成幸にこんな出来た彼女がいるわけないと思ってたのよ」

 

あすみ 「へ……?」

 

花枝 「ほんの一時だけでも夢を見させてもらったわ。ありがとね、あすみちゃん」

 

あすみ 「い、いやいやいや、お礼なんてそんな! っていうか……怒らないんですか?」

 

花枝 「あなたにも事情があるんでしょうし、騙そうとして騙そうとしたわけじゃないでしょう?」

 

あすみ 「ま、まぁ……そうですけど……」

 

花枝 「それに、今日あの場で最初にウソをついたのは成幸だし。怒るなら成幸かしら」

 

成幸 「……まぁ、確かにその通りだな。すまん。母さん、水希、葉月、和樹」

 

あすみ 「いや、やめろよ、後輩! お前、アタシのためにウソついてくれたんだろ?」

 

あすみ 「悪いのはアタシだから、後輩を怒るのはやめてあげてください!」

 

花枝 「……そんな風に言える良い子を怒らないわよ」

 

クスクス

 

花枝 「あなた、本当に良い娘さんね」

 

あすみ 「そ、そんなこと……」

 

水希 「………………」

 

あすみ 「あっ……その……水希も、ごめんな」

 

あすみ 「後輩のこと大好きなお前には、本当に嫌な思いをさせちまったと思う……」

 

水希 「……やめてください。今、本当に複雑な心境なんですから」

 

あすみ 「え……?」

 

水希 「お兄ちゃんに彼女ができたって聞いて、ショックで、怖くて、嫉妬して……」

 

水希 「でもいざ家に来てもらったらすごく良い人で安心して、良かったって思って……」

 

水希 「そうしたら、今度は実は彼女じゃなかったって……」

 

水希 「……お兄ちゃんに彼女がいなかったのは嬉しいけど、」

 

水希 「あすみさんだったらいいかな、って思い始めた後だから、複雑な気持ちなんです」

 

あすみ 「お、おう……。なんか、本当に、ごめん……」

 

水希 「謝らないでください。べつに、怒ってはいないですから……」

 

水希 (ああ、もう……本当に悔しい。だってわたし、今すごく残念な気持ちになってる)

 

水希 (あすみさんがお兄ちゃんの彼女さんじゃなかったって知って、残念に思ってる)

 

水希 (わたし……あすみさんに、お兄ちゃんの彼女になってほしいって、思ってるんだ……)

 

葉月 「じゃあ、あすみ姉ちゃんは嫁に来ないの?」 和樹 「こないの?」

 

あすみ 「ごめんな、葉月、和樹。たぶん嫁には……いかないん、だよな……?」

 

成幸 「!? お、俺に聞かないでくださいよ。自分でいかないって言ってくださいよ」

 

あすみ 「いや、まぁ、そうなんだけど……」 (なんだよ、後輩のやつ……)

 

あすみ (…… “来てほしい” くらい言ってくれてもいいじゃねーかよ)

 

ハッ

 

あすみ (って、アタシは何をバカなこと考えてんだ……)

 

あすみ (後輩はアタシの被害者だってのに、何勝手なこと思ってんだ……)

 

あすみ (……っつーか、アタシ、ひょっとして)

 

カァアアアア……

 

あすみ (後輩に、“嫁に来てほしい” って言ってほしかったのか……?)

 

成幸 「どうしたんですか、先輩。顔赤いですけど……」

 

あすみ 「なっ、なんでもねーよ!」

 

成幸 「?」

 

花枝 「………………」 (へー……)

 

ニヤリ

 

花枝 (これは、意外と、あすみちゃんもまんざらじゃないのかしら)

 

花枝 「……あすみちゃん」

 

あすみ 「は、はい!」

 

花枝 「ウソをついていたことは怒っていません。もちろん、成幸も」

 

成幸 「すまん。ありがとう」

 

あすみ 「すみませんでした」

 

花枝 「でもね、さっきの口ぶりだと、あすみちゃん、お父さんにウソをついているのね?」

 

あすみ 「あ……それは、まぁ……はい」

 

花枝 「人様のご家庭のことにとやかく言うことはできないし、あすみちゃんにも事情があるんでしょうけど」

 

花枝 「……ウソはよくないわ。できるだけ早く、今のように、ウソを打ち明けた方がいいと思うわよ」

 

あすみ 「……本当に、その通りだと思います。アタシも、来年度には打ち明けるつもりです」

 

あすみ 「でも、もう少しだけ、時間が必要なんです。だから……」

 

花枝 「………………」 ニコッ 「……わかったわ。私はこれ以上何も言わない」

花枝 「うちの成幸があすみちゃんの役に立てるなら、恋人役としていくらでも使ってちょうだい」

 

あすみ 「すみません。ありがとうございます……」

 

あすみ 「……後輩も、いつもありがとな」

 

成幸 「いや、俺はべつに、お礼を言われるようなことは……」

 

あすみ 「いつか、親父にもウソを打ち明けて謝るからさ」

 

あすみ 「……もう少しだけ、付き合ってもらってもいいか?」

 

成幸 「一度引き受けたことですから。先輩の夢が叶うまで、付き合いますよ」

 

花枝 「……ところで、ウソを本当にしちゃうってのも、アリだと思うわよ?」

 

あすみ 「ウソを本当に……?」

 

花枝 「お父さんはあすみちゃんと成幸が付き合ってると思っているのでしょう?」

 

花枝 「なら、このまま本当にお付き合いして、いつか結婚しちゃえば、」

 

花枝 「ウソも何もなくなっちゃうんじゃないかしら?」

 

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「何言ってんだよ、母さん!」

 

あすみ 「………………」 プイッ

 

あすみ (ウソを本当にする、か……)

 

あすみ (そうだよな。本当に付き合っちまえば……アタシと後輩は、ニセモノじゃなくて……)

 

あすみ (ホンモノの恋人に、なれるのか……)

 

あすみ 「………………」

 

成幸 「ほら、母さんが変なこと言うから、先輩固まっちゃったじゃないか」

 

成幸 「先輩、母さんの言うことなんて気にしなくていいですからね」

 

あすみ 「ホンモノ、か……」

 

成幸 「えっ……? 先輩?」

 

あすみ 「お前となら、それもいいかもしれねーな」

 

成幸 「なっ……」

 

成幸 「ま、またからかうようなこと言って! もうその手には乗らないですからね!」

 

あすみ 「……にひひ、バレたか」

 

成幸 「まったくもう、先輩は……」

 

あすみ 「………………」

 

 

―――― 『……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜr

 

―――― 『こ、こんなときまでからかわないでくださいよ』

 

 

あすみ (さっきと一緒だ。アタシの本心からの言葉は、全部ニセモノになってしまう)

 

あすみ (仕方ない。普段のアタシの行いのせいだから)

 

あすみ (素直になれない、素直になろうとしない、アタシのせいだから)

 

あすみ (もし、アタシのホンモノの言葉が、こいつに届いたら……)

 

ギュッ

 

あすみ (……アタシと後輩は、いつか“ホンモノ” になれるかな)

 

 

………………幕間1  「父」

 

あすみ 「ただいまー」

 

小美浪父 「おお、おかえり、あすみ! どうだった!?」

 

あすみ 「帰って早々騒々しいな。一体なんだよ」

 

小美浪父 「何を言ってる! こっちはお前が粗相をしていないか気が気じゃなかったんだぞ!」

 

あすみ 「自分の娘のことなんだと思ってんだ、あんた……」

 

あすみ 「何もなかったよ。順調だ。晩飯だってアタシが作ってきたよ」

 

小美浪父 「おお……」 パァアアアアアア……!!! 「これはめでたい。結婚まで秒読みだな」

 

あすみ 「っ……」 (こっちの気もしらないで、親父の奴……)

 

小美浪父 「いやー、しかし良かった良かった」 ドサッ

 

小美浪父 「五冊目に突入した唯我くんとお前の記録ノートが無駄にならなくて済みそうだからな」

 

小美浪父 「結婚式の挨拶は任せろ。馴れ初めムービーがいらないくらい、私が語ってやるからな」

 

あすみ 「あー、うん……」 (これでウソだったって知ったら、卒倒しそうだなこの人……)

 

あすみ (仕方ねぇ。あくまでこの親父のために……)

 

あすみ (……ホンモノ、目指してみようかな)

 

 

………………幕間2  「妹」

 

成幸 「先輩と一緒に行ったところ? えっと、カラオケボックスとか、海とか……」

 

成幸 「あとはファミレスで勉強したりとかだけだぞ?」

 

水希 「海……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

 

水希 (ずるい! 海なんて滅多に行けないのに、あすみさんはお兄ちゃんと……!!)

 

水希 (アタシだってお兄ちゃんとふたりっきりで行きたいのに!!)

 

水希 (やっぱりあすみさん許すまじ……)

 

水希 「………………」

 

水希 (……悔しい)

 

水希 (お兄ちゃんとふたりでも行きたいけど……)

 

水希 (あすみさんも一緒にいたらもっと楽しいだろうなとか考えちゃう自分が……)

 

水希 (本当に悔しい……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

あすみ 「ニセモノの恋人」

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1541592657/


 

雪乃・結衣「この….浮気者!」【俺ガイルss/アニメss】

 

雪乃「八幡ポイントを上限まで貯めると」

 

結衣「ヒッキーと結婚!?」

 

小町「ですです♪ちなみに8万ポイントでカンストですよ」

 

結衣「な、なにそれ!ヒッキーが自分で言ってるの?」ドンビキ

 

八幡「俺がそんなこと言うわけないだろ…」

 

小町「いやー、うちの母が発案者でしてね、将来の夢はお婿さん♪なんて言っておきながら彼女の一人も作らないんで、長男大安売り月間を始めたちゃったんですよ~」

 

雪乃「学校だけでなく家庭からも見捨てられようとしているのね、比企谷くん」ハァ

 

小町「大丈夫だよ!だれも貰ってくれなかった時は小町がお兄ちゃんを貰ってあげるから。あ、今の小町的にポイント高いっていうか」

 

八幡「はいはい、高い高い」

 

小町「大体今ので100ポイントですね~」

 

結衣「小町ちゃんは今、何ポイント貯めたの?」

 

小町「小町はちょこちょこ使っちゃうんで全然貯まってないですよ?」

 

雪乃「……他に何と引き換えできるのかしら」

 

小町「小町的におすすめは80ポイントのなでなでですね~、お兄ちゃんのなでなでは一級品ですよ!ちゃんす」

 

八幡「お前そればっかだもんな、手首腱鞘炎になりそうだよ。」(完全に犠牲)

 

小町「あとあと、お二人には800ポイントのちゅーが狙いどころですねー」

 

雪乃・結衣「!?」

 

結衣「ちゅーってそ、その…」

 

雪乃「私としてはまったく興味がないのだけれど、プライベートまでポイントで買われるあたり比企谷君の矮小さが表現されていて面白いと思うわ。 それに点数に上限が設定されているうえ、それとの引き換えが結婚ということからも、最終的な勝者は明確に一人に絞られるわけよね。勝敗をあやふやにしたがる昨今の教育には辟易しているから、その点も 評価に値するわ。ただ、勝者に与えられる褒賞が懲罰以外の何物でもないというところが致命的な欠点かしら」

 

八幡「懲罰で悪かったな、それ八幡的にポイント低いぞ」

 

小町「はいはーい、お二人とも良かったらポイント戦に加わってくださいな。母が作った八幡ポイント測定アプリ、メールで送りますねー」

 

八幡「何それ、いつの間にそんなの作ってんの?」

 

結衣「こ、小町ちゃんのお願いじゃ断れない、かなっ。暇つぶしくらいにはなるかもしれないし…。な、何こっち見てんの!キモいし」

 

雪乃「そうね、部室の掃除でもやらせようかしら」

 

小町「ありがとです~。お二人にはぜひぜひ8万ポイント貯めていただきたいです♪では小町は用事があるのでここらで退散いたしますー」

 

八幡・雪乃・結衣「……」

 

八幡「…俺も今日は帰るわ」

 

結衣「ま、まってよ、途中まで一緒に帰ろ?ね、ゆきのんもっ」

ソデクイクイ

 

八幡「お、おう…」

ピロリン !ポイントアップ!

 

結衣「あ、ポイント入った」

 

雪乃「はぁ、なんて安いのかしら」

 

八幡「いやいや、これは違いますから。いきなり引っ張られてちょっとびっくりしただけですから」

 

結衣「ふふんっ、なんか敬語なところがあやしいしっ!ヒッキーも結構フツーにドキドキしたりしちゃうんじゃん」ニコニコ

 

雪乃「気持ち悪いわね。このアプリ、あなたが下種な妄想をしたときの警報くらいには役立ちそうだわ」

 

八幡(小町め、余計なものを渡しやがって……)

 

 

~翌日~

 

平塚「お早う、比企谷」

 

八幡「うっす」

 

平塚「昨日、君の妹さんから面白いプレゼントをもらったぞ。なんでもポイント貯めれば結婚ができるそうじゃないか」チラッ

 

八幡(小町、渡す相手に見境が無さ過ぎるだろ)

「先生、やだなぁ、そんなのうちの母親のちょっとしたジョークですよ」

 

平塚「たとえ冗談のつもりでも、契約書にサインをしてしまえばそれが真実となるのだ。ところで1ポイントあたり、定期テストの点数に換算すると何点分になるんだ?」

 

八幡(この人、結婚が絡むと冗談効かなすぎでしょう。目的も手段も教師として完全に間違ってるし…)

 

川崎「ねえ、そこに立っていられると教室は入れないんだけど」

 

八幡「わ、悪ぃ」

 

川崎「…………比企谷さ」

 

八幡「ん?」

 

川崎「今度の日曜空いてるか?そのっ、弟がお前に、話あるみたいでっ…」

 

八幡「すまん、日曜はちょっとアレで」

 

川崎「また、妹か?昨日会ったよ。なら一緒に来ればいい。じゃ日曜な」

 

八幡(いや、行くとは言ってないんだが、ていうか誰?)

 

結衣「……」

 

八幡「……?」

 

結衣「…むー…」

 

八幡「なにこっち見てんの、キモいし」

 

結衣「キモくないし!ヒッキー、今度の土曜遊びにいこっ!」

 

八幡「お断りします」

 

結衣「何でよっ、どーせ暇なんでしょ!」ブンブン

 

八幡「腕振り回すなよ、お前はめだか師匠か」

 

結衣「せめて、だだっ子って言えし!あっ」ヨロッ

 

八幡「!」ムニュ

(ち、近いし柔らけぇ…)

ピロリン!ポイントアップ!

 

八幡「う……」

 

結衣「…///」カァ

 

結衣「ご、ごめ……ありがと……」サッ

 

八幡「いや…」(こいつ凹凸ありすぎでいちいち当たるなぁ、今だけは雪ノ下が恋しくなるぜ)

 

 

~部室~

 

八幡(なんだか今日は疲れたな…)

 

八幡「よう」

 

雪乃「あら?比企谷くんが接近してきたのに、警報が鳴らなかったわね。このアプリ壊れているのかしら」フリフリ

 

八幡「さっそくアプリの機能忘れてんじゃねぇよ。それ俺的に嬉しい時に鳴るから。必然的にここに来る時に鳴る訳ねぇから」

 

雪乃「例え辛辣な暴言ですらも、女子との希少な触れ合いとして喜びを感じてしまう特殊な癖の持ち主でしょう?」

 

八幡「はっ、俺のぼっちレベル舐めんな。そもそも触れられると、それがストレスになって心が傷付く。人に触られるとダメになる珊瑚礁と一緒だな、よって俺の心は珊瑚礁のように美しいことが証明されたわけだ」

 

雪乃「綻びだらけの証明ね。大体あなたの心は元からダメになってるじゃない。致命傷だらけなのにしぶとく生きてるあたりゾンビに近いわ」ハァ…

 

八幡「……」(あぁ、だから近所の小学生にいきなりニフラム使われるのかな)ポケー

 

雪乃「……、まぁ……、そんなに脆弱さを主張したいなら、部室に篭ることを特別に許します。ヒ・キ・コ・モ・リくん」

 

八幡「部室警備はまかせろーって、人の名前を現代の座敷わらしみたいに言うのやめろ、心の傷口が開く」

 

雪乃「ふふっ……あまり開口したら私が針で縫ってあげるわ。こういうのポイント高いかしら」ニコ

 

八幡「超低いっす。塩塗ってもらってる気分です」

 

八幡(やはり妙なアプリ配られても雪ノ下の態度変わらないな)

 

八幡(決して浮き足立つことなく、地に足つけた間柄)

 

八幡(お互い、これくらいの距離感で丁度いい…………なんだか落ち着くなぁ)

ピロリン!ポイントアップ!

 

八幡「げ……」

 

雪乃「……っ、あんな苦言を吐かれて悦ぶなんて、本当にどうしようもない変態ね……、え、嘘これ、ポイントかなり上がって……///」カァァ

 

雪乃「ちょ、ちょっと喉が渇いたわ、席を外します」タッタッタッ

 

八幡(いないものになりたい)

 

結衣「ヒッキー、やっはろー」

 

八幡「おう」

 

結衣「ゆきのん、どったの?顔赤くして出てったけど」

 

八幡「さぁな」

 

結衣「ふぅん?ところでヒッキー、このは、八……ヒッキーポイントって使っていいのかな?」

 

八幡「ヒッキーポイントっていうのやめろ」

 

八幡「……ちなみに何ポイントあるんだ?」

 

結衣「んっと、800ポイント」

 

八幡「おっと、そうだ、今日はアレの日だったわ、じゃまたな」ガタッ

 

結衣「待って待って!違うの!ちゅ、ちゅー……とかじゃないの!」

 

八幡「由比ヶ浜、わがままはボディだけにしろよ」

 

結衣「へ、ぼでー?……っ!ヒッキー、キモっ!ばーかばーか!」

 

結衣「小町ちゃんがオススメしてたヤツ、少しどんな感じか知りたかっただけだもん……」

 

八幡「撫でるやつか」(本当、犬みたいな奴だな)

 

結衣「それにヒッキー、あんまり変なことお願いしたって困っちゃうよね」タハハ

 

結衣「わ、私はヒッキーに日頃のお礼したいだけだから、困らせるのはちょっと違うっていうか……」

 

結衣「そりゃ、ちゅー……とかもちょっと気になっちゃうけど……」モジモジ

 

八幡(なるほど、確かに貯まらせる前にとっとと消化させたほうが良いな)

 

八幡「……ほらよ」クシャクシャ

 

結衣「んっ……くすぐったい……///」クスクス

 

結衣「ヒッキー大丈夫だよ、私、無理やり何かさせようって気ないから……。もしポイント全部貯めたら小町ちゃんにお願いして全部保留にしてあげる……ね?」ニコ

 

八幡「……お前はホントいいヤツだよな」

ピロリン!ポイントアップ!

 

八幡・結衣「あ」

 

結衣「あははっ、ポイント元にもどっちゃった」

 

八幡「でも良い作戦かもな、それ」

 

結衣「ほえ?」キョトン

 

八幡「だからさ、俺と女子誰かが組んで一気にポイント稼いでさ、さっき由比ヶ浜が言ったように勝者の特権で全部なしにするんだよ」

 

結衣「おー!さすがヒッキー、ズル賢い!」

 

雪乃「捻くれた性格だけあって発想まで狡猾ね……」

 

結衣「あ、ゆきのん!戻ってきたんだ」

 

八幡「お前ら素直に褒めろよ」

 

雪乃「嫌よ、そもそも褒めていないもの。その作戦、協力する女子に何のメリットもないわ」

 

結衣「うーん、そうかも……。8万ポイント分も、ヒッキーにサービスするの疲れるし」

 

八幡「おい、平塚先生というシャレならん人物が参加していて気が気じゃない俺の身にもなってくれ……いや、下さい。お願いします」フカブカ

 

結衣「でもヒッキーが喜ぶことかぁ。と、隣に座って、お弁当食べさせてあげる、とか?」

 

八幡「それキャバクラじゃねぇか、さすがビチヶ浜は言うことがビッチだな」

(あと、さりげにお弁当というキーワードから死亡フラグ臭がする)

 

結衣「ビッチ言うなし!」

 

雪乃「由比ヶ浜さん……。この男は女性に接待されれば終始うつむき、甲斐甲斐しく食べさせても喉が通らなくなるような生き物よ」

(お弁当、私まで巻き込まれる気がするわ)

 

結衣「むー、じゃあゆきのん何か思いつく?」

 

雪乃「……、ごめんなさい、私もこういうのは不得手だわ。ちょっと話したくらいで喜ぶような変態なんて……私、わからないもの」プイッ

 

雪乃「わからないことは先人に聞くことが賢明よ。私は小町さん、あなたは同じクラスだし戸塚君に聞きましょう」

 

結衣「うん!オッケー」コクコク

 

八幡「くっ、なんて隙のないチョイス!好きはあるけどな!」

(俺にとっての究極と至高を選ぶとはさすがだな!小町と戸塚が両方そなわり最強に見える)

 

雪乃「情報収集と準備に少し時間が必要かしら……、そうね、今度の土曜に本番決行しましょう」ムシ

 

結衣「じゃあ、土曜お昼12時に駅前でいいかな?」

 

雪乃「それでいいわ、短期決戦で終わらせてしまいましょう」

 

八幡「おい、俺の意思確認はしないのかよ」

 

八幡(とは言っても、結局協力してくれることには感謝するか)

 

 

~土曜日~

 

八幡(小町のやつ、雪ノ下と最終打ち合わせするとか言って先に出て行きやがって)

 

結衣「ヒッキー、おはー」テコテコ

 

八幡「おー……お?」

 

結衣「あ、服ね、さいちゃんにも選んでもらったんだ!たまにはスポーティなのもいいかなって」

 

八幡「なるほど、なんかいつもの私服と違うから気になったっつーか」

 

結衣「えっ、私の服覚えてくれてるんだ……えへー///」

 

八幡「違うから、いつもは痴女みたいな格好だからショッキング的な意味で記憶にこびり付いてるだけだから」

 

結衣「いつもフツーの私服だし!素直じゃないなー」

 

八幡(しかしこれはさすが戸塚。すこし大きめの服がとつかわいい成分を放っているぜ……)

ピロリン!ポイントアップ!

 

八幡「……くっ!」

 

結衣「ふふーん♪」ムフー

 

小町「お兄ちゃーん」

 

八幡「お、やっときたか」

 

結衣「ゆきのん、小町ちゃんやっはろー!」

 

小町「結衣さんやっはろーです!」

 

雪乃「こんにちわ」

 

結衣「わぁ、ゆきのんカワイイ!スカートだぁ」

 

雪乃「私はこんなラフなの嫌って言ったのよ……」ムス

 

八幡「おお、我が妹ながら超適当な性格がにじみ出た着崩しコーディネートだな」

 

小町「まずは雪乃さんのカチカチな壁を崩そうと思って、着崩しだけに!」

 

八幡「うまくねぇよ」

(大体ウォール・ユキノは函谷関並だから崩せない、攻略不可能だ)

 

八幡(ていうか首元開きすぎてブラ紐見えてるぞ、そーゆーもんなの?そーゆーもんとして雪ノ下はそれに適した見えてもいいブラとか持ってんの?)

 

小町「ほらほら、雪乃さん!アピってアピって!」

 

雪乃「……///、やっぱり私、」

 

小町「いーから、雪乃さん負けちゃいますよ?」

 

雪乃「この際、負けでもいい気がするけど……わかったわ」ハァ

 

雪乃「比企谷くん、恥ずかしいけど今日はあなたのために頑張って服を選んだわ、どう……かしら?」ソデギュッ

 

小町「ナイスでーす!今の絶対に雪乃さん的にポイント高いですよ!」グッ

 

八幡「ぐっ、仲睦まじい兄妹の掛け合いパターンを踏襲するとはやるな」

ピロリン!ポイントアップ!

 

雪乃「……///」

 

小町(まだ伝授していない奥義・袖掴みまで使いこなすとは!雪乃さんも結構乗り気ですね)クハー

 

小町「そーだ、ここで小町からひとつ耳寄りな情報です!現在ポイントは雪乃さんと結衣さんがほぼ同率で2位と3位ですー」

 

雪乃・結衣「!?」

 

結衣「1位が別にいるの!?」アセアセ

 

小町「残念ながらー、ちなみに小町は4位ですよ?」

 

雪乃「へぇ、奇特な人もいるのね」キッ

 

八幡(こわいから睨むなって)

 

小町「いざとなったら小町に相談してください。小町のポイント譲っちゃいますよ!個人的にはお二人どちらかがおねえちゃんになって欲しいっていうか。あ、今の義妹的にポイント高い?」

 

八幡「ていうか譲れるのかよ」

 

雪乃「受け側の気持ちを配慮するとからすると押し付けると言ったほうが正しいわね」

 

八幡「そんな添削コメントいらないから」

 

結衣「そんな落ち着いてられないよー!二人共、早くいこっ」

 

小町「あー、小町はこのへんで退散しますね~」バイバーイ

 

八幡「くぅ、俺の対人オプションが帰っていく」

 

雪乃「逆よ、あなたが小町さんのお荷物でしょ?」

 

八幡「おい、雪ノ下、おまえ今日の趣旨わかってるんだろうな」

 

雪乃「分かってるわ、比企谷くんを上げるだけ上げてポイント稼いだら叩き落とすんでしょ?そういうの得意なの家族にいるから」

 

結衣「た、叩き落とすのは予定にないし」タハハ

 

プルルル

 

雪乃「電話だわ、ちょっと失礼、……はい、雪ノ下です」

 

小町『雪乃さーん、そういうのはダメですよー?』

 

雪乃「!……小町さん、帰ったんじゃないの?」ヒソヒソ

 

小町『小町は大好きなお兄ちゃんの状況はどこからでもわかるんです』フフン

 

小町『それよりもっ、罵倒はダメだって言ったじゃないですかー。兄は強がってるように見えて結構ナイーブなんですよ?』

 

雪乃「そ、そうね、気をつけるわ。小町さん、あなた盗聴器とか仕込んだんじゃないでしょうね」

 

小町『んー、雪乃さんには何もしてないですよ?お兄ちゃんの方を全部脱がせばなんとかなるかもです♪ではではー』ガチャ

 

雪乃「それって実質八方ふさがっ……もう」フゥ

 

結衣「ゆきのんだいじょぶー?」

 

雪乃「え、ええ、行きましょう」

 

 

~ファンシーグッズ店~

 

八幡「うへぇ、こういうところ俺向いてないんだよ……」

 

結衣「まぁまぁ、なんだかゆきのんのオススメみたいだし」ヒソヒソ

 

雪乃(今日は小町さんになりきるのよ、私は小町さん、私は小町さん、姉さんのような傍若無人唯一神気取りのような可愛げのない身内ではなく、年上の兄に甘甘べたべたな理想的な可愛い妹……!)ブツブツ

 

八幡「雪ノ下なんか疲れてるみたいじゃん、帰る?」

 

結衣「だからさらっと帰ること提案するなし!ゆきのん、大丈夫?」

 

雪乃「ええ、大丈夫よ、ゆいが……結衣ちゃん!」

 

八幡・結衣「!?」

 

雪乃「に、兄さん!一緒にお店回りましょう」キラキラ

 

八幡「お、おう……って俺に同い年の妹なんていないから……」

 

八幡「おいこれ、救急車か?救急車でいいんだよな?」ヒソヒソ

 

結衣「ヒッキー、逃げちゃだめだよっ!ゆきのんは頑張ってるの!受け止めてあげて!」

 

雪乃「わぁ、ほらあそこ、パンさんグッズフェアやってるわ!」ウデグイグイ

 

八幡「わ、わー、ほんとだなー」ヒキワライ

 

雪乃「このパンさん可愛いわ、今にもノコギリで竹を切り落としそう!」クスクス

 

八幡「いきいきしてるねー……」ドンビキ

(なんだこいつ、まさか雪ノ下の格好した姉の方なのか?いや違う!胸が違う!)

 

八幡(タ・ス・ケ・テ)クチパク

 

結衣(ガ・ン・バ・レ)クチパク

 

雪乃「ほらほら、兄さんも可愛いと思うでしょ?」パンサングニグニ

 

八幡(ぐっ、邪気のない笑顔でヌイグルミの手足フリフリさせてると、普通に……いや、めちゃめちゃ可愛いな)

ピロリン!

 

雪乃「……///」

(躊躇しちゃダメよ、私は可愛らしい妹になりきるの。姉はいるんだし妹としては素人じゃないはずだわ!)

 

雪乃「ねぇねぇ、どのパンさんが兄さんはいいと思う?」ウワメヅカイ

 

八幡「う、ぐ、この笹食ってるパンさんなんか良いんじゃないか?」

 

雪乃「あら、それはもう持ってるわ」シレッ

 

八幡「なら、自分で選べよ」

 

雪乃「でも、兄さんが選んでくれたなら、特別に買っちゃおうかな……///」ニコ

 

八幡「っ!勝手にしろ……」プイッ

ピロリン!

 

雪乃「はい、じゃあ買ってくるわ」

 

 

~ベンチ~

 

結衣(う~、お店から戻ってきてから二人共ポケーっとして動かない)

 

八幡・雪乃「……」

 

雪乃「……私、今すごく惨めな気分だわ」ポツリ

 

八幡「俺もだ、いっそこのアプリのほうが壊れてればいいのに」ポツリ

 

結衣「まあまあ!まだ来たばっかなんだしもうちょっと遊ぼうよー」アセアセ

 

八幡「……そうだな、せっかく企画してもらってるしな」

 

雪乃「ごめんなさい、私ここで少し休むわ」ゲソ

 

結衣「じゃ、じゃあなんか冷たいもの買ってきてあげる!ヒッキー行こっ」

 

結衣(ゆきのん頑張ったもんね!私もさいちゃんにヒッキーのデレデレするタイミング色々教えてもらったし頑張んなきゃ!)

 

結衣(確かチョココロネ食べたる時ヒッキーと盛り上がったって言ってた……、わ、私にさいちゃんみたいな可愛い仕草できるかわかんないけど……)

 

結衣「ゆきのん!ソフトクリーム買ってきたよ」

 

雪乃「ええ、ありがとう……」

 

八幡「食ってるあいだは座って休憩にしようぜ、なんか疲れてきたわ」

 

結衣「……」

 

雪乃「冷たくておいしいわ、由比ケ浜さんありがとう」ニコ

 

結衣「えっ、う、ううん。よ、良かったー」ニコー

 

結衣「……」ムム…

 

八幡「……早く食ったほうがいいんじゃないの、溶けてるぞ」

 

結衣「……う、うん」

(優美子、姫菜、そしてさいちゃん!少しでいいの!私に女子力を分けてくださいっ)

 

結衣「んっ……」ペロッ

 

八幡「……」

 

結衣「ぅん……、ぁ、ふ……」ピチャピチャ

 

八幡「……」

 

結衣「はぅ……、おっきくて入らないよぅ……」チュパチュパ

 

八幡(なんだこれ?いつからドリームなクラブになったんだ?確かに今日は土曜だが)

 

結衣「あっ……」タラー

(アイス垂れちゃった恥かしい……///)

 

八幡「ガハマさん、まるでプロのビッチみたいっすね」

 

結衣「えーーっ!なんでそんなコメントになるし!」ガーン

 

結衣「ていうか今のさいちゃんっぽくなかった!?」

 

八幡「おい、俺の戸塚がそんなビッチ行為するわけないだろ」

 

雪乃「……確かにちょっとはしたない印象を受けたわ、行儀が悪いからちゃんと食べなさい」

 

結衣「ご、ごめんー、あれー……こんな感じでさいちゃん食べたって聞いたんだけどなー……」シュン

 

八幡(まぁ、なんか狙ってたんだなってのは分かるよ。由比ケ浜は結構人の良いやつだからな)

 

八幡(素人の割にAV女優並にエロかった点は男として評価したいが黙っておこう)

 

 

~一ヶ月後・部室~

 

小町『えーえー、テステスー……』マイクハッポウ

 

小町『あーこれよりー、第一回比企谷家長男大安売り月間の結果発表を始めさせていただきまーす!』

 

小町『実況はぁ、兄が欲しくば私の屍を越えていけッ!アニシカこと比企谷小町がお送りしまぁーす!』

 

八幡(アニシカじゃ、兄の屍を越えていけみたいだぞ…イツカキットお仕置きしてやる)

 

雪乃・結衣・平塚・川崎「……」パチパチパチ

 

八幡「小町、今更だが、なんで戸塚には配らなかったんだ?」

 

小町「えー、だって戸塚さんはオトコノコじゃーん。戸塚さんに配るんなら葉山さんとか、ほら、あのざ、ざ、ざいもくざ?さんとかにも配らないと不公平だしいぃ」

 

八幡「くそ、戸塚が女だったら……」ハギシリ

 

小町(ていうか戸塚さんに渡すと勝負が一瞬で決まるんですよねー。小町としてはお兄ちゃんはもういるし、お姉ちゃんが欲しいって感じ?)

 

小町『あー、ちなみにこの大会をもちましてポイントの引換は終わりといたしますー。なおー、目玉景品の長男引渡し權は、ポイントの一番高い人に渡されることとなります♪キャリーオーバーは無しの方向でーす』

 

雪乃(とうとうポイントを貯めきることはできなかったわ……)

 

結衣(ヒッキー、日を経つごとにポイントつくハードル高くなっていくんだもん、絶対無理だよ)

 

雪乃(私たちは頑張ったけれども、何度小町さんに順位を聞いても2位か3位だった)

 

結衣(この中に……1位の人がいるんだね)

 

平塚「なるほど」フッ

 

雪乃・結衣(!?)

 

平塚「ポイントが少々足りないから不安であったが、そういうことなら杞憂だったかな?」フフン

 

雪乃(平塚先生!?正直見くびってたわ……、女性も一回り近く離れていると別格、ということかしら)

 

結衣(た、たしかに先生、結婚に敏感だけど、私たちだって面倒くさくても頑張ってたんだよ!?アラサーってそんなに必死になれるんだ……こわい)

 

八幡「ひ、平塚先生……」

(なぜだ……)

 

小町『あー、すいませーん、平塚先生は30ポイントで最下位でーす』

 

八幡「なんであんな俺の嫌がることばかりしてポイント高いつもりでいるんだ、あの人……」ゲンナリ

 

平塚「なにぃ!」ガタッ

 

平塚「比企谷を思ってあんなに職員室で一緒だったのに、なんでそんな低いんだ!」

 

八幡「一緒でも説教されたり、体罰受けたり、ポイント低かったですよ」

 

小町『んー、マイナスポイント集計してたら確実にマイナスいってましたねー』

 

平塚「うう……、私の人生設計がぁ……」シクシク

 

八幡(誰かもらってやれよ……俺以外の誰かが)

 

結衣(平塚先生が最下位、ということは)

 

雪乃(1位は消去法により、この人!)

 

川崎「ていうかさ、もったいぶらなくていいよ。結果、もう見えてるし」ムス

 

小町『あー……そうですねー、ぶっちゃけ言っちゃうと沙希さん・雪乃さん・結衣さんの順で1・2・3位ですー』

 

雪乃「比企谷くん、どういうことかしら?」イライラ

 

結衣「ヒッキーの浮気者!」プンプン

 

八幡「浮気の前提満たしてないから……、それにさ、川崎はなんていうか、うまいんだよ」

 

結衣「う、上手いって……その……///」アワアワ

 

雪乃「?」キョトン

 

八幡「正直、こいつのくれる弁当は美味かった」

 

川崎「べ、弁当はついでだよ、下の子の分も作ってるからね///」カァ

 

八幡「授業でもペアとかで手持ち無沙汰なとき助けてくれたし……」

 

雪乃「……、盲点だったわね」

 

結衣「な、なにが?」

 

雪乃「彼は自分の孤独を守るのために都合がいいことに対し、一番ポイントが高いんだわ」

 

雪乃「川崎さんは同じ立場として、必要な時だけ手を差し伸べたのね」

 

小町『ちなみにポイント発表しときまーす。私が1万ポイント、結衣さんが3万5千ポイント、雪乃さんが3万6千ポイント、沙希さんが7万9千ポイントでーす』

 

結衣「わぁ!すっごい差つけられてる!」ガーン

 

雪乃「いつ聞いても1位が不動なわけね……」

 

川崎「んんっ……、私も一家の長女だからな。婿に来てもらえるのは、助かる、というか///」

 

小町『おおーっとここで沙希さんのあざとさりげない婿入り待ち宣言ーーっ!』

 

八幡「気持ちは嬉しいが、俺も一家の長男として、」

 

小町『これには拒否権のないお兄ちゃん、逃げられなーい!お兄ちゃん、逃げられないよ?』

 

八幡「ぐっ……」

 

雪乃「比企谷くん」

 

八幡「なんだよ、雪ノ下……」

 

雪乃「助けて欲しいかしら?」ニコー

 

八幡(うっ、嫌な予感のする笑顔だ)

 

八幡「……しかたない、何か手はあるのか?」

 

雪乃「ええ、あなたがお願いすれば、奉仕部として受けてあげるわ」クス

 

八幡「くそっ、はいはい!なんでもしますから助けてください!」ヤケクソ

 

雪乃「ええ、受けましょう」

 

雪乃「小町さん、いいかしら」

 

小町「あー、この度は残念でしたねー、お二人を応援する気持ちは本当なんですが、世知辛いものですね~」パタパタ

 

雪乃「私のポイントをすべて比企谷小町さんに譲ります」ドン!

 

八幡・結衣・小町・川崎「!」

 

結衣「ゆきのん……?」オロオロ

 

雪乃「由比ケ浜さん、私を、信じて?」

 

結衣「う、うん!小町ちゃん!私もポイント小町ちゃんに譲るよ!」

 

小町「……なーるほどー、さすが雪乃さんです。考えましたね!でもこれ、すこし最後の詰が甘くないですかぁ?」

 

雪乃「しょうがないわね……、今度あなたのお願い、ひとつ聞いてあげるわ」

 

小町「わ~~っかりました!」オホン

 

小町『ここにきて~~!まさかの大・展・開!!雪乃さんと結衣さんがポイントを私に譲ったことで、小町のポイントが8万1千ポイントとなりましたっ!!』

 

小町『私としてはこのポイントを兄ごと他人に引き継いでもいいんですけどぉ、やっぱりまだお兄ちゃんは、小町が独占しておきたいっていうか?あ、今の小町的にポイント高くて』テレテレ

 

八幡「はいはい、わかったよ、つまり全部無し……ってことなんだろ?」

 

小町『えー、わがままな妹でごめんなさい♪』

 

八幡(逆転一位の小町の宣言により、この大会はお開きとなった)

 

八幡(日本の法律じゃ、残念ながら兄と妹は結婚できない。必然的にお流れだ)

 

八幡(結局は足踏みばっかりで俺らの関係はプラスとマイナス、合わせてしまえばゼロのままだろう)

 

八幡(とにかく、俺としては元の平穏なぼっち生活に戻ることができたのだった)

 

 

~部室~

 

八幡「うす」

 

結衣「やっはろー」

 

雪乃「あら、由比ケ浜さんこんにちわ」

 

八幡「無視かよ……」

 

雪乃「あら、比企谷くんもいたのね。視界に入らなかったわ」

 

八幡「嘘つけよ、どんなけお前の盲点でかいの?」

 

結衣「たはは……、まぁまぁ、ね、また今度三人で遊ぼうよ!」

 

八幡・雪乃「……」シラー

 

結衣「二人とも嫌そうな顔禁止!」プンプン

 

八幡「俺はアレだ、休みの日はアレがあるからさ……」

 

雪乃「ふぅ、そうね、先月はいろいろあって疲れたから、」

 

八幡・結衣「……」

 

雪乃「今度は比企谷くんに私たちのポイントを稼いでもらおうかしら」ニコ

 

八幡「……は?」

 

結衣「あーっ、それ面白そうだし!私たちすっっっごく大変だったもんねー」

 

八幡「いやいや、それ俺にまったくメリットないから……」

 

雪乃「ところで比企谷くん、まだこの前の報酬、もらってないんだけど」

 

八幡(雪ノ下の目は「ん?なんでもするっていったわよね」とでもいいたげに細められていた)

 

八幡「………………くそ」

 

八幡(やはり俺の青春ラブコメは……微粒子レベルには悪くなかったという結論で締めておくことにしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

雪乃「八幡ポイントを上限まで貯めると」結衣「ヒッキーと結婚!?」

https://hayabusa.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1373723946/


 

真冬 「それがあなた達の長所でしょう?」【ぼく勉ss/アニメss】

 

………………一ノ瀬学園 職員室

 

鈴木先生 「桐須先生、お忙しいところすみません」

 

真冬 「? 何か?」

 

鈴木先生 「今日の放課後、二学期第二回目の面接練習があるのはご存知ですよね」

 

鈴木先生 「実は、担当ではない桐須先生にこんなことを言うのは大変恐縮なのですが、お手伝いいただきたいんです」

 

真冬 「構いませんよ。前回のように職員に体調不良者でもでましたか」

 

鈴木先生 「いえ、実はそういうわけではなく……」

 

鈴木先生 「桐須先生との面接練習を希望すると言う生徒がおりまして」

 

真冬 「私との面接練習を希望する……? ほぅ……」

 

ゴゴゴゴゴゴ…………

 

真冬 「なかなか威勢の良い生徒もいたものですね。いいですよ。引き受けます」

 

鈴木先生 (さすがは桐須先生。生徒に対しての教育に熱が入っていらっしゃるご様子だ……)

 

真冬 (どんな生徒か分からないけれど……)

 

ニヤリ

 

真冬 (私との面接練習を希望したことを、後悔させる勢いでやってあげるわ。ふふふ……)

 

………………放課後

 

理珠 「今日はよろしくお願いします。桐須先生」 フンス

 

文乃 「よろしくお願いします!」 フンスフンス

 

真冬 (驚愕。まさかこの子たちだったとは……)

 

真冬 「……ええ。よろしくお願いします」

 

真冬 「私はあなたたちの面接練習を一度担当したわけだけれど、」

 

真冬 「……当然。以前よりは格段にレベルアップしているのでしょうね?」

 

理珠 「もちろんです。もう私に答えられない質問などありません」

 

文乃 「わ、わたしもです。成幸くんにも付き合ってもらって、練習もたくさんしてきました」

 

真冬 「感心。では、私も以前以上に気を引き締めて、本物の試験官のつもりで面接に臨みます」

 

真冬 「よろしいですね?」

 

理珠 「望むところです」 フンスフンス

 

文乃 「精いっぱいがんばります!」

 

真冬 「よろしい。では、一分ほど後に、緒方さんから順番に入室をしてください」

 

………………

 

コンコン

 

理珠 「失礼します」

 

真冬 「どうぞ」

 

真冬 「では、学校名とお名前をお願いします」

 

理珠 「はい。私立一ノ瀬学園高等学校の、緒方理珠と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 

真冬 (ふむ……以前より格段に言葉がなめらかになっているわね)

 

真冬 (自主練習をたくさんしたのでしょうね)

 

真冬 「はい。よろしくお願いします。では、おかけください」

 

理珠 「はい。失礼致します」

 

真冬 「では、面接を始めます」

 

真冬 「まず、緒方さんが本校を志望する理由を教えてください」

 

理珠 「はい。私は、人の心の機微に鈍感です」

 

理珠 「人が何を考えているか分からず、自分だけ見当違いなことをしている、ということがままあります」

 

理珠 「私は、そんなとき、周囲の友人たちとの間に壁を感じます」

 

理珠 「私はその壁を乗り越えて、人が何を考えているか、分かるようになりたいです」

 

理珠 「以上のことから、貴学の水準の高い心理学部ならば、私の求める人の心の探究ができると思い、貴学を志望しました」

 

真冬 (ふむ。言葉はなめらか。棒読みでもなく心もこもっている。及第点ね)

 

真冬 「よく分かりました。緒方さんは、本校の心理学部で、人の心が分かるようになりたいということですね」

 

真冬 「では、続けて伺います。あなたの言う “人の心の探究” とは、具体的にどのようなことを指しますか?」

 

理珠 「え……?」

 

真冬 「大学は研究機関です。あなたの言う “人の心の探究” が、最終的にどのような研究に行き着くのか」

 

真冬 「本校としても、私個人としても非常に興味深いです。ぜひ、ご教授いただければと思います」

 

理珠 「け、研究……?」

 

真冬 「? 大学進学を志望してらっしゃるのに、研究したいことがないのですか?」

 

理珠 「い、いえ、そういうわけでは……」

 

真冬 「では、あなたは本校での学びにより自身の苦手を克服した先にどのような研究をしますか?」

 

理珠 「えっと……」

 

真冬 「先ほども申し上げた通り、大学は学習する場であり、研究機関でもあります」

 

真冬 「自身の苦手を克服するという目的を達成するだけだけならば、」

 

真冬 「専門学校や終身教育機関など、叩くべき門戸は他にあると思いますが」

 

理珠 「………………」

 

真冬 「………………」

 

ハァ

 

真冬 「……ここまでのようね。長時間の沈黙が続いてしまった時点で、合格は絶望的だと思いなさい」

 

理珠 「……はい」

 

理珠 「………………」 (悔しい……)

 

理珠 (たくさん練習してきたのに、その練習の前提が崩されたような気分です)

 

理珠 (……しかし、どう考えても、桐須先生の指摘の通り)

 

理珠 (大学は教育機関であり研究機関でもある。最終的に研究をして卒業をすることになる)

 

理珠 (私は目の前の大学入学という目標に囚われ、入学した後のビジョンをおろそかにしている)

 

理珠 (私自身が一番理解していなければならないような基本的なことを、桐須先生に指摘されてしまったということ)

 

理珠 (……悔しい。私、前回から、まったく成長していないじゃないですか)

 

グスッ

 

理珠 「っ……」 (ダメです。泣いたら、それこそ、完全に負けてしまう。前回と同じになってしまう)

 

理珠 (泣かない。自分に何ができるか。今後どう成長していくか。それを考えないと……)

 

理珠 (勉強に付き合ってくれて、面接練習にも付き合ってくれた、成幸さんに顔向けできない)

 

理珠 (もっともっとがんばらないと……――)

 

真冬 「――まぁ、及第点には程遠いけど、前回に比べればはるかに良くなっているわ」

 

真冬 「がんばったのね、緒方さん」

 

理珠 「えっ……?」

 

理珠 「そ、そんな……だって、私はまた、前回と同じように……」

 

 

―――― 『どうなんですか 緒方さん 黙っていてはわかりませんよ』

 

理珠 「前回と、同じように……。黙りこくってしまって……」

 

真冬 「けれど、話をするときに固さや焦りが消えたわ。自信も少し見えていた。それは良い傾向よ」

 

真冬 「たくさん練習したのが見て取れたわ」

 

理珠 「でも……」

 

真冬 「そうね。結果としては惨憺たるものだわ。不合格という事実は変わらない」

 

真冬 「……でも私は今の面接で、あなたの可能性が見えた気がするわ」

 

理珠 「私の可能性……?」

 

真冬 「ええ。あなたは努力して、人の心を理解しようとしている」

 

真冬 「そして世の中には、一定数あなたのように、所謂 “空気が読めない” 人が存在するわ」

 

真冬 「緒方さん、あなたは、今のあなたがそうであるからこそ、そういう人たちのためになる研究ができないかしら?」

 

真冬 「他人に共感を覚えづらい、生きづらい思いをしている人たちを助ける研究ができないかしら?」

 

理珠 「私と同じような人たちを、助けるための研究……」

 

真冬 「ええ。それはあくまで私の想像する未来のあなたの像だけれど」

 

真冬 「悪くはないのではないかしら」

 

真冬 (……なんて、少し喋りすぎかしら)

 

真冬 (進路選択は自分自身で決めること。そしてそのための答えも、自分自身でできる限り決めなければならない)

 

真冬 (緒方さんにとってヒントになればいいと思って話してしまったけれど、)

 

真冬 (……出過ぎた真似をしすぎたわね。反省だわ)

 

理珠 「……桐須先生」

 

真冬 「何かしら?」

 

理珠 「目から鱗です」

 

真冬 「……?」

 

理珠 「すごいです。私が、自分自身をモデルケースに、私と同じような人のために何が出来るかを研究する……」

 

理珠 「それは、私が大学を志望する理由として十分なものに思えます!」

理珠 (少なくともアナログなゲームを理由とするよりは、はるかに!)

 

真冬 「そ、そう? そう思えるなら、それを自分なりにかみ砕いて、自分の言葉に直して、使えるようになりなさい」

 

理珠 「わかりました!」 メモメモメモ

 

真冬 (気むずかしいかと思えば、素直な子)

 

真冬 (つかみ所のない難しい子だけれど、悪い子では決してない)

 

真冬 (……願わくは、自身の得意分野を伸ばしていてもらいたいけれど)

 

真冬 (まぁ、仕方ない。本人が決めた進路に、教師が口だしできる範囲なんて限られている)

 

真冬 「……では、今後は大学入学後のビジョンを明確にして、面接練習に臨みなさい」

 

理珠 「わかりました」

 

真冬 「退出してください。一分後に入室するように、外の古橋さんに伝えてください」

 

理珠 「はい」

 

真冬 (……さて、次は古橋さんね。彼女もこの前からどう成長しているかしら)

 

理珠 「……あ、あの、桐須先生」

 

真冬 「? まだ何か質問があったかしら?」

 

理珠 「いえ、あの、これは質問というより、私の思ったことをそのまま言うだけのことですが……」

 

理珠 「ひょっとして、桐須先生は、わたしが文系受験をすることを認めてくれているのですか?」

 

 

真冬 「……!?」

 

真冬 「そ、そんなわけないでしょう? 私は、未だにあなたの進路選択を認めていません」

 

真冬 「今からだって遅くはないわ。考え直せるなら、理系分野を志望することをおすすめするわ」

 

理珠 「……むっ」 ムスッ

 

理珠 「私だって、先生に認めてもらわなくたって構いません」

 

真冬 「生意気。そういうことは、面接を最後まで続けられるようになってから言いなさい」

 

理珠 「そのための練習でしょう。最初から上手くできるなら、こんな練習なんてする必要はありません」

 

真冬 「……相変わらず口の減らない子ね」

 

理珠 「そちらこそ、です」

 

真冬 「………………」

 

理珠 「………………」

 

理珠 「……でも」

 

理珠 「……今日はありがとうございました。先生のご指摘は、すごくタメになりました」

 

真冬 「……そう。なら、せいぜいがんばりなさい。応援はしないけどね」

理珠 「………………」

 

クスッ

 

理珠 (“がんばりなさい” って言っておいて、“応援はしない” なんて……)

理珠 (ひどい矛盾です。この先生は、意外と抜けているのですね。今まで全然しらなかったことです)

 

 

―――― 『本当はな…… 緒方のこと すごく大切に思ってるんだよ』

―――― 『できれば…… 好きになってもらえたらって……』

 

―――― 『桐須先生のこと』

 

 

理珠 (……少しだけ、あのときの成幸さんの言葉が分かった気がします)

 

理珠 (この人は本当に……)

 

真冬 「……?」

 

 

―――― 『勘違いされやすいんだけど 本当はあったかくて生徒思いのいい先生なんだよ』

 

理珠 (……そういう先生なのかもしれませんね)

 

………………

 

真冬 「では、古橋さん。続いての質問です」

 

真冬 「あなたの得意な教科、現代文、古文、漢文、日本史……それらが天文学にどのように活かせると思いますか?」

 

文乃 (うぅ……やっぱり怖いなぁ、桐須先生)

 

文乃 (でも、負けられない。桐須先生に負けてたら、そもそも自分自身に絶対勝てない!)

 

文乃 「……わたしは文章を読むことを苦痛としません」

 

文乃 「理系分野において、実験によって新しく発見をすることも大事ですが、」

 

文乃 「前提として、先行研究の文献を読むことが必要不可欠です」

 

文乃 「文系科目が得意なわたしは、先行研究を読み解き、自分自身の研究に生かすことが容易にできると思います」

 

文乃 「基礎研究において、それは何より役に立つ能力なのではないかと考えます」

 

真冬 (なるほど……。よく考えて、よく練られた回答だわ)

 

真冬 (自分の得意分野をしっかりと生かした言葉になっているわ)

 

真冬 「……なるほど。研究をする上では、それは確かに強みになりますね」

 

真冬 「では、続けて聞きますが、あなたは数学が得意ではないですね?」

文乃 「……はい」

 

真冬 「天文学と数学は切っても切れない関係です。その苦手は大きなネックになると思いますが、どうするおつもりですか?」

 

文乃 「……教科書を読み解く力あるつもりです。だから精いっぱい、勉強します」

 

文乃 「その証拠になるかは分かりませんが、調査書を見て頂きたいと思います」

 

文乃 「わたしは、本当に数学が苦手です。テストでは全然点が取れないくらいでした。でも、今は……」

 

文乃 「がんばって、やっと平均点に届くかというところに来ました」

 

文乃 「絶対値としては足りないかもしれません。でも、相対的に見ればかなりの成長だと、自負しています」

 

文乃 「わたしの今までの伸びを、そしてこれからの伸びしろを見ていただければ幸いと存じます」

 

真冬 「……わかりました」

 

真冬 (なるほど。考えてきたわね。やはり文系科目が得意だと、対人能力……面接にも活かせるのね)

 

真冬 (苦手を苦手と認め、その上で苦手を克服したという部分を強調する良いやり方だわ)

 

真冬 (実際、彼女の数学の点数の伸びは驚異的なものがある。これは、大学の面接担当にも一考の余地が出てくることでしょう)

 

真冬 (……さて)

 

真冬 「……では、最後の質問です。あなたの長所と思える部分を教えてください」

 

文乃 「えっ……?」

 

文乃 (……わたしの、長所……?)

 

文乃 (文系科目以外でわたしに長所って、何かあるかな……)

 

文乃 (そもそも、わたしにいいところなんてあるのかな)

 

文乃 (わたしには何ができるのかな。今まで、何をしてきたのかな)

 

文乃 (……文系科目が得意で、お話を作るのが得意なこと以外、わたしに何が……)

 

文乃 (わたし、ひょっとして、長所なんて何一つない……?)

 

真冬 「………………」

 

文乃 (……だ、黙ってたら、ダメ!)

 

文乃 (それじゃ何も伝わらない! 頭が混乱していたって、何か言わなければ面接はそこで終わってしまう!)

 

文乃 「わ、私は……! 先ほど申し上げたとおり、苦手な数学を、努力で補ってきました」

 

文乃 「そ、それは、苦手科目でもやりきるという、私の長所だと思います」

 

真冬 「学生が必要な科目の勉強をがんばるのは当然では? その当然の努力を長所と言い張るのですか?」

 

文乃 「うっ……」 (た、たしかに、その通りなんだよ……)

 

文乃 「ほ、他にも、わたしは……れ、恋愛相談、とか、が……得意、です……?」

 

真冬 「………………」

 

文乃 (無言の目線が痛い……!!)

 

 

文乃 「………………」

 

真冬 「……残念。ここまでのようね。これくらいにしましょう」

 

文乃 「はい……」 (うぅ……結局わたし、また何も言えなかった……)

 

文乃 「すみません。大学に訴求できるような長所が、なかなか見つからなくて……」

 

真冬 「そうね。長所って言われても難しいものね。でも、それでも、言えなければならないわ」

 

文乃 「……はい。もう一度よく自分自身を見つめ直して、考えてみます」 ズーン

 

真冬 「………………」

 

ハァ

 

真冬 「……“人の心の機微に敏感で、他者との共感能力が高く、人の気持ちに寄り添える”」

 

文乃 「えっ……?」

 

真冬 「そして、その人のために全力でがんばれる優しさも持っている」

 

真冬 「……それがあなたの長所でしょう?」

 

文乃 「わたしの、長所……?」

 

真冬 「その結果として――これはあくまで予想だけれど――あなたは、恋愛相談とやらを受けたのではないかしら?」

 

真冬 「それを大学用に、自分でカスタマイズしてごらんなさい」

 

真冬 「たとえば、“友人との人間関係を円滑にし、勉学にも研究にも協力して取り組むことができると思います” とかね」

 

文乃 「わ、わたしの、長所……」

 

文乃 「わたしの、がんばってきたこと……」

 

真冬 「……?」 (どうしたのかしら、古橋さん?)

 

文乃 (……そっか、わたし。そうだよね。今まで、成幸くんやうるかちゃん、紗和子ちゃんの相談にだって乗ってきたもんね)

 

文乃 (それは、わたしの長所でもあるんだ……)

 

文乃 「ありがとうございます、桐須先生。うまくまとめられるような気がしてきました」

 

真冬 「そう? よかったわね。なら、次の面接練習までにしっかりと言えるようにしておきなさい」

 

文乃 「はい!」

 

文乃 (……分かってたことだけど、改めて思うよ。この先生は、ただの怖くて厳しい先生じゃないんだ)

 

文乃 (わたしのことなんて嫌いだろうに、そんなわたしのこともよく見てくれているんだ……)

 

文乃 (わたしが理系受験をすることをよく思ってないはずなのに、結局はこうやってわたしのためにアドバイスをくれるんだ)

 

文乃 (……本当に、“良い先生” なんだなぁ)

 

………………図書室

 

理珠 「………………」  文乃 「………………」

 

ガリガリガリガリガリ……

 

成幸 「お、おお、がんばってるな、お前ら……」

 

理珠 「……先生からアドバイスをいただきました。忘れないうちに、カタチにしておかないと」

 

文乃 「わたしもだよ。二回も面接練習をやってくれた桐須先生のためにも、がんばらないと」

 

成幸 (……前より先生に対しての苦手が少なくなったみたいだな。よかったよかった)

 

成幸 (というか、むしろ……) クスッ (“先生のためにがんばる” って気持ちすら見えるな)

 

文乃 「………………」

 

 

―――― 『……“人の心の機微に敏感で、他者との共感能力が高く、人の気持ちに寄り添える”』

 

―――― 『そして、その人のために全力でがんばれる優しさも持っている』

 

 

文乃 (あんなに温かい言葉をかけてくれた大人って……)

 

文乃 (お母さん以外で、初めてかもしれない)

 

 

………………幕間 「次はあなたの番」

 

真冬 「探したわよ、唯我くん」

 

成幸 「き、桐須先生……!? ど、どうしたんですか? 俺に何か用ですか?」

 

真冬 「あなたはまだ面接練習が終わってないでしょう。早く始めるわよ」

成幸 「えっ!? い、いやいや、俺、今日は藤田先生にやってもらいましたから――」

 

真冬 「――なら、藤田先生に指摘された内容を私に教えてちょうだい。その上で面接練習をするわよ」

 

真冬 「面接練習は何度やっても損することはないわ。せっかくの面接練習の日なのだから、私ともやっておきなさい」

 

成幸 「いや、えっと……」

 

真冬 「いいから、ほら、来なさい……」 ガシッ 「とりあえず前回のことからおさらいね。ちゃんと考えているか、試させてもらうわよ」

 

真冬 「……もし前回から成長が見られないようであれば」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!! 「……分かっているわね?」

 

成幸 「ひっ……!? だ、誰か、助けて--ーーー!!」

 

ズルズルズルズルズルズル……

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

真冬 「それがあなたの長所でしょう?」

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八幡「三浦って結婚するには良いやつだよな」

 

雪ノ下「……突然何を言い出すのかしらヒキタニガエル君」

 

八幡「いやだって料理できそうだし根は意外と良いやつだしあとそこそこ可愛いし」

 

八幡「まあ口調はうざいしナルシスト気味だが」

 

八幡「あいつと結婚する奴は幸せだよなクソ」

 

由比ヶ浜「あ、確かに優美子って良いお嫁さんになりそう……」

 

二二二二二二二二二二二二壁二二二二二二二二二二壁二二二二二二二二二二二

 

三浦「」

 

 

八幡(平塚先生の授業じゃ寝れん…)

 

三浦(ヒキオってよく見ると顔は整ってるよね…)チラチラ

 

八幡(とりあえずノートでも…)カリカリ

 

三浦(う~なんか意識しちゃうし…)ジー

 

八幡(なんか視線感じる…)チラ

 

三浦(やば!)プイ

 

八幡(気のせいか…)カリカリ

 

三浦(結婚かぁ…)

 

 

放課後

 

海老名「優美子今日は私の買い物に付き合って~」

 

三浦「えぇ…?」

 

八幡(今日は部活ないんだっけ…帰るか)ガタ

 

三浦「!ごめん!今日はあーし用事あるから!じゃね!」タッ

 

海老名「え~優美子~」

 

三浦(なんであーしヒキオを尾行してんだろ…)コソコソ

 

八幡「……」スタスタスタスタ

 

三浦(歩くの速すぎっしょ…)コソコソ

 

八幡「……」スッ

 

三浦(あ、曲がった…)タタッ

 

八幡「……なんだよ」

 

三浦「きゃあ!?」

 

八幡「俺になんか用か?」

 

三浦「は、はぁ!?別にあんたになんか用ないし!」

 

八幡「じゃあなんでこそこそと俺の後ろにいたんだよ…」

 

材木座「我、参上!」ズザー

 

あーし「ひっ」

 

比企谷「なにしてんだよおまえ…」

 

材木座「魂に呼ばれた気がしたのだよ、八幡。そこの女ァ!」

 

あーし「は?あーし?」

 

材木座「そうだ!貴様あの男はどこにいったァ!決着がついてないぞカミナァーーーーー!!!!」

 

あーし「なにいってんのこいつ」

 

比企谷「いつもの事だ、気にすんな」

 

材木座「まぁよい・・・して八幡!我といっし」

 

八幡「断る」スタスタ

 

あーし「・・・」スタスタ

 

材木座「」

 

材木座「ま、まってよ八えもん~」

 

八幡「・・・」スタスタ

 

あーし「・・・」スタスタ

 

・・・

 

八幡「で、なんなのお前?俺になんのようがあんの?アレか?ストーカーなの?後ろから刺すの?」

 

あーし「はぁ?なにいってんのヒキオ、そんな暇があーしにあるわけないでしょ?」

 

材木座「オーイ…マッテクレー」

 

比企谷「じゃあなんだよ?由比ヶ浜に何かいわれたのか?葉山か?」

 

あーし「いや、そういう訳じゃ……」

 

比企谷「あっそ、じゃ俺帰るから」スタスタ

 

あーし「でも用があるっていうか……そうでもないって言うか……」ブツブツ

 

 

あーし「あれ?ヒキオ?」

 

比企谷家

 

比企谷「寝よ」

 

小町「小町に出番は?」

 

比企谷「ねーよ」

 

 

次の日学校

 

あーし「ねぇヒキオ?なんであーしを放置して一人で帰ったのよ」

 

比企谷「は?俺は帰ると言ったぞ?何かお前ブツブツ言ってたけど」

 

あーし「そんなんかんけーし!女一人で置いてくとかありえねーし!」

 

比企谷「え?なんなの?俺のせいなの?」

 

あーし「そうにきまってんじゃん!ヒキオマジさいてー」

 

由比ヶ浜「え?なになにヒッキー優美子に何したの」

 

あーし「こいつ私置いて一人で帰ったんですけど」

 

由比ヶ浜「ほうほう…って、優美子ヒッキーと一緒に帰ったの?」

 

あーし「え?ば、ばっかじゃないの!?そんなわけ無いじゃんありえないし!」

 

比企谷「じゃあ置いていってないな、終了」

 

あーし「いや、置いてったじゃん!」

 

由比ヶ浜「優美子…」

 

比企谷「さっきからその表現はムジュンしているんだが」

 

あーし「は?ヒキオのくせに何いっちゃてんのさ?どこがムジュンしてんのよ!ねぇ由衣?」

 

由比ヶ浜「さすがに養護のしようがないかな…ヒッキーの勝ち」

 

あーし「」

 

由比ヶ浜「で、どっちなのヒッキー?帰ったの?帰ってないの?」ズイッ

 

比企谷「いや、怖いんですけど。何でも無いからあっちがストーキングしてきただけだから」

 

あーし「してねーし、たまたまそっちが同じ方向だっただけだし」

 

由比ヶ浜「優美子?正直に言わないと……」

 

あーし「な、なによ、なにすんのよ」

 

由比ヶ浜材木座くんと海老名さん呼んでいい?」

 

比企谷「ちょっ、まっ」

 

あーし「なんでそいつら呼ぶのよ!?」

 

由比ヶ浜「元気良さそうな二人呼べば薄情するかなって?ゆきのんの方がよかった?」

 

比企谷「それは俺がヤバい」

 

由比ヶ浜「じゃあ戸塚くん?」

 

比企谷「それは俺に死ねといっているのか由比ヶ浜よ」

 

あーし「…キモッ」

 

あーし(なんでこんな奴に興味を持ったんだろう…)

 

由比ヶ浜「やっぱりヒッキーさいちゃんのこと…」

 

比企谷「ん?何だよ、天使じゃないか。俺には天使を汚すことはできない、してはいけないんだよ」

 

由比ヶ浜「うわー…」

 

あーし(考え直した方がいいのかも)

 

ガラッ

 

平塚「おーい!着席しろー」

 

放課後

 

あーし(よし、由衣に意見を聞こう)

 

あーし「由衣ー?ちょっとー?」

 

由比ヶ浜「きたね!」ガタッ

 

あーし「何がよ」

 

由比ヶ浜「朝のことだよ!で結局なんなのさ?早く早く」

 

あーし「いやそれよりさ、由衣はヒキオんことどう思うのよ?」

 

由比ヶ浜「えっ!?わ、私?わわ私はそのえーと」

 

あーし「でどうなのよ」

 

由比ヶ浜「す、スキカモ…」ボソ

 

あーし「えっ?何よ聞こえない」

 

由比ヶ浜「そ、それより話をそらさないでよ!

もとはと言えばそっちが話しかけて来たのになんで話がかわってるの?!」

「で、ヒッキーとはどういう関係なのよ!」

 

あーし「別に、何もないわよ」

 

由比ヶ浜「じゃあなんで後をつけたの?」

 

あーし「だから方向が一緒だったって」

 

由比ヶ浜「でも家の方向逆だよね?それにあっち住宅街だよ」

 

あーし「」

 

由比ヶ浜「で優美子はなんでヒッキーのこと聞くの?」

 

あーし「まだ何もいってないし」

 

由比ヶ浜「でも私にヒッキーのこと聞いたし、気になるの?」

 

あーし「そんなわけ…」

 

由比ヶ浜「さあ!さあ!」

 

あーし「この前さ、あんたらの教室の前通った時にさ聞いちゃったんだよね」

 

由比ヶ浜「何を?」

 

あーし「 八幡「三浦って結婚するには良いやつだよな」って 」

 

由比ヶ浜「あっ、あれ」

 

あーし「そっからちょっと気になったというか、そんな感じ。

で、気持ちを確かめたくてつけたんだけど」

 

由比ヶ浜「あの、ちょっと?」

 

あーし「なんかヒキオがこう、ね?もしかしたら好きかなー?みたいな?」

 

由比ヶ浜「グハッ」

 

あーし「あれ?結衣どうしたの?」

 

由比ヶ浜「これは一大事だよ……。とりあえず優美子、まだ早いかもしれないから、

この話はちゃんと考えた方がいいよ」

 

あーし「でも…早く確かめたいというか」

 

由比ヶ浜「いやいや早すぎるのは良くないよ!じっくり確かめるべきだよ!」

 

あーし「……結衣がそういうなら」

 

由比ヶ浜(まだなんとかなるよね?ゆきのんに相談しなきゃ…)

 

由比ヶ浜「ゆきのん大変だよー!!」

 

雪ノ下「なにかしら?ちょっとうるさいのだけれど」

 

由比ヶ浜「あのね!ってヒッキーいないの?」

 

雪ノ下「彼なら今日は平塚先生に連れて行かれたわよ。進路相談らしいわ」

 

由比ヶ浜「なら丁度いいね!カクカクシカジカ」

 

雪ノ下「何の冗談かしら?あの三浦さんがそんなこと言うわけ」

 

由比ヶ浜「今相談受けて急いで来たの!本当なの!」

 

雪ノ下「いや、彼だって冗談でいってるはずよ、そんなわけないじゃない」

 

由比ヶ浜「でも本当だったらどうするの?」

 

雪ノ下「ありえないわ、あっても困るもの」

 

・・・・

 

あーし「どうしよう」

 

あーし「やっぱり早めに聞いた方がいいかもしれないし、

やっぱり気になるけど駄目だったら…」

 

比企谷「げっ、三浦じゃん」

 

あーし「っ!なんでいんのよ!」

 

比企谷「いや平塚先生に進路相談を、てかお前またストーキング?待ち伏せとか怖くね?」

 

あーし「そんなわけないじゃん!」

 

比企谷「あっそ、じゃ俺帰るわ」

 

あーし「ちょっと待ってよ、聞きたいことあんだけど」

 

比企谷「なんだよこっちは早く帰ってゲームしたいんだよ」

 

あーし「あんたって私のこと好きなの?どうなの?」

 

比企谷「は?どゆこと?」

 

あーし「いやこの前そんな話してたじゃん!」

 

比企谷「そうだっけ?したかも知れないけどそれは客観的な話であって、

俺が三浦のことを好きなわけでもなくね?」

 

あーし「はぁ?」

 

比企谷「そもそも俺には戸塚がいる。

戸塚以外はありえないな、話はそれだけか?じゃあ帰るぞ」

 

あーし「」

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

八幡「三浦って結婚するには良いやつだよな」三浦「」

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