加藤「最後の最後には……大事な人達の隣でみんなで笑っていたい...」【冴えカノss/アニメss】
(ーーーーこうして、ひたむきな情熱とたゆまぬ努力によって、一人前の実力を身に付け、河村・スパイダー・きらりと雲雀ヶ丘歌穂を、緑道翠音から取り戻した安曇誠司。その後、二人から告白を受ける彼の姿を見た叶巡璃は……)
巡璃(これで、”この世界”の誠司くんも幸せになれる)
巡璃(これから、いっぱい、たくさん、幸せになってね。色んなこと、楽しんでね)
巡璃(わたしの世界で、”あんな事”になってしまったあなたの分まで……)
巡璃(……もう力はほとんど残ってない。この世界で、わたしの旅も終わりかな……)
巡璃(………そろそろ行かなくちゃ、ね。……ばいばい……誠司くん……)
(少しずつ薄れていく意識に反し、満足そうな笑顔を浮かべながら、姿を消す巡璃)
誠司「………あれ?」
きらり「どうしたの? 誠司」
誠司「いや……今、そこに誰か居なかったか?」
歌穂「いえ、私達だけよ。……何? まるで、元々この世界に居ないはずの人間がさっきまで一緒に居て、役目を果たしたから私達の記憶ごと消えていった誰かの余韻を感じた…みたいな顔をして」
誠司「えらくピンポイントな所攻めてくるね先輩。…って、何だろう、すっごい当たってるような気がする。ガッチリはまり過ぎてるっていうか……。疲れてるのかな? 冗談として消化する気がまったく起きない……」
きらり「……いつもなら、何のためらいもなくツッコんでる所だけど……。ま、ここに来るまでのあんたの頑張りを見てたら、そういう事があってもおかしくないって気もしてくる。いいんじゃない? 今日だけは、そういう主人公気分に浸ってもバチは当たらないわよ、きっと」
誠司「……そうやって俺の言う事を素直に受け入れてくれるのも今日だけになるのか?」
きらり「茶化すなバカ…と、言いたい所だけど。それはまぁ、え~と……あんた次第、かな」
歌穂「へぇ……長い離別期間を経て、すっかりツンデレお嬢様の切れ味を取り戻したと思ったら、ようやくをもってそのテンプレ負け犬キャラからの離脱を計ろうというのね? 河村さん」
きらり「う、うるさいわね。というか散々テンプレ二番手キャラからの離脱に失敗してる誰かさんには、そんな余裕の態度をとってる暇なんてないんじゃない?」
歌穂「あら、もう忘れたのかしら? 誠実君と唇を重ねた一番目の相手が誰だったのかを……」
きらり「そ、それはっ……!」
歌穂「一般論としては、それはとある厄介なフラグのようだけれど……。今の私には全く無意味だという事を、これからじっくりと証明してあげるわ……」
きらり「その強気……あんたも今までとは一味違うという事ね、霞ヶ浦歌穂……!」
歌穂「ふふ……あぁそうだ誠実君。ちなみに私は、貴方の言うことも、考えることも、心も、身体も、男性ならではのあれやこれやもいつだって素直に受け入れる準備は出来てるからね?」
きらり「それ素直じゃなくて、欲望に忠実なだけでしょ! あんたのは純度に問題がありすぎんのよ!」
誠司「お互いに少しは認める所があるような台詞なのに、結局対抗心が強すぎて全然そういう風に聞こえなくなる所は変わらないんだな……」
(賑やかに喧嘩を始める二人。久しぶりに見るその光景に、柔らかい苦笑を浮かべながら、ふと空を仰ぎ見る誠司)
誠司「……………ふぅ……………」
(しばらくして、どこからか季節外れの桜の花びらが、ふわふわと舞い降りてくる)
誠司「ん? 珍しいな、こんな季節に」
(そっと、手を広げて花びらを迎える誠司)
誠司「……あれ。なんでだ……?」
(瞬間、花びらに触れた手から、暖かく、心地良い、どこか懐かしい感情が流れ込んでくる。そのほのかな、しかし確かな感覚が、胸の奥にまで辿り着いた時……)
誠司「なんで、泣いてるんだ……俺……」
(大切な何かを思い出しそうで、しかし、その何かは既に手の届かない所に行ってしまっていて。だからこそ、きっともう思い出せないままなのだろうと、これは”そういうもの”なのだろうと、何も分からないはずなのに予感できてしまう事が、とても……)
誠司「……ぅ……く……うぅ……」
(やがて、落ち着きを取り戻した誠司のもとに、一迅の風が吹く。ふわりと手のひらから離れていく桜の花びら。名残り惜しそうに、どこか寂しそうに、ゆらゆら揺れながら、やがて見えなくなって……)
誠司「………今まで居た誰か、か……」
誠司「……分からない。ありえない。これはきっと、とてつもなくおかしい事なんだろうけど。二次元に染まり過ぎなんだろうけど」
誠司「でも、思わずにはいられない。言わずにはいられない」
誠司「妄想でも、幻想でも構わない」
誠司「………きっとさ、きっと、君は俺の力になってくれてたんだろうな」
誠司「ずっと、俺のそばに居てくれてたんだろうな」
誠司「俺がここに立っていられるのも」
誠司「俺が諦めなかったのも」
誠司「きっと、君が……」
誠司「だから、さ」
(いつの間にか、静かになっていたきらりと歌穂。二人共、ただ真っ直ぐに、真剣に、誠司の事を見つめていた。おそらくは、同じ理由で、同じ感情でもって、溢れそうになる涙をこらえながら……)
誠司「ありがとう」
誠司「……この先、君の事を思い出せなかったとしても」
誠司「これからの時間が、君が居てくれたから流れていくんだってこと……」
誠司「君が居てくれたから、歩いていけるんだってこと……」
誠司「絶対に、忘れない」
誠司「………ありがとう」
誠司「さよなら……」
END
スタッフロール(主題歌:BGMのみ)
倫也「……って、感じで書いてみたんだけど、どうかな?」
英梨々「…………っ」
加藤「…………」
詩羽「…………そうね、先に一言だけ言わせてもらえれば」
倫也「う、うん」
詩羽「意外だったわ。ハッピーエンド脳の貴方に、こんなビターエンドを書く発想があったなんて」
倫也「う~ん、でも、最初は先輩に言われた通り……」
※回想
詩羽『……貴方が書くハッピーエンドには、まぁ、ご都合主義に砂糖と蜂蜜とシロップをかけるくらいの甘々しい展開だと言えなくもないという事を前提に置いてだけれど』
詩羽『それでも、そのゲームに対する情熱やキャラクターへの愛情、そして、ユーザーに少しでもゲームを楽しんで欲しいという信念を源泉として、人を惹きつける確かな魅力がある』
詩羽『ただ、だからこそ、貴方はより強く理解しなくてはならない。そのキャラクター達と、キャラクター達が紡ぐ物語の可能性が、必ずしも一定の方向に流れる訳ではないという事を。彼らは機械でも人形でもない、感情と魂をもった人間であるからこそ、”間違えてしまう”可能性が常に備わっているという事を』
詩羽『だから書いてみるべきだわ。生きているからこそ選び取る、選んだからこそ辿り着く、必然としての、一つの結論としてのエンド……バッドエンドを』
※回想終わり
倫也「それで、試しにcherry blessingのキャラクターから色々借りて、書いてみたんだけど……」
詩羽「……何というか、ちょっとだけ、もしかしたら結構、私の作風の影響を受けてるような感じがするわね。あくまでビター部分だけの話で、濃厚さは二段階くらい薄めだけれど」
倫也「そりゃまぁ、切なさや喪失感を書かせたら右にも上にも出るものはそうそういない、悲恋のドS伝道師、霞詩子の一番の信者にして、弟子でもあるしね」
詩羽「前にもそんな事言ってなかった? やっぱり褒められてる気はしないわね。でも、倫理君が『私の想いを受け入れてくれている』という点に関しては嬉しく思うし……これはもっと染めたくなってしまう所だわ」
倫也「いや、そこは普通に『先輩の影響を受けている』のままで良くない!? 途端に生々しくなるからその言い方!」
詩羽「……まぁ、ある程度は予想してたけれど、貴方が書くのならこれでいいのかもね。やっぱり倫理君の実力…以前の性格的に、ヒロイン死亡エンドだとか、永久ループの中で絶望すら尽き果てたエンドだとか、慈愛の女神がぽっと出のチートキャラにごにょごにょされるエンドを書けるとも思えないし」
倫理「例に出すにはスケールが違い過ぎるのがいくつかあるよね…ってのはさておき、先輩が言ってるように、どっちかっていうとビターエンドになるのかな、これ」
詩羽「そうね。定義として確たるものはないんだけれど、やはりある程度の希望が持てる解釈が出来る場合には、はっきりとバッドエンドの名を冠する事は難しいと思うわ」
倫也「……でも俺、それでもこの話書くのに相当気力を浪費したっていうか、魂が削られる感覚を覚えたっていうか……」
詩羽「それは……慣れてないからって理由もあるでしょうね。でもね、倫理君。プロの作家でも、登場人物が凄惨な目に合う話を書いてる時、いつでも冷静でいられてるなんて事はないのよ? 歯を食いしばりながら、震えながら書き上げる時だってあるんだから」
倫也「…そうなの?」
詩羽「えぇ。私だって、恋するメトロノームの最終巻で、直人と沙由佳が別れるシーンを書いてる時は……」
倫也「な、何? 何で急にこっちを睨むのさ?」
詩羽「……いいえ、何でもないわ(あの時の心境だったら睨んだだけで骨の一本くらいハジけそうだったんだけれど)」
倫也「小声で相手に物理的ダメージ(重症)を与える算段つぶやくのやめてくれる!?」
詩羽「……とにかく、作者の性格や作品のジャンルにもよるし、こればっかりは経験を積み重ねて調整していくしかないのかもね」
倫也「う~ん、そっかぁ」
詩羽「まぁ、一つだけ確実に言える事は……」
英梨々「……何よ?」
加藤「英梨々、ほら、ハンカチ」
英梨々「っ……。別に、泣いてないからいらないわよ……」
詩羽「とある秘オタの凡忽乙女()《ンゴックス》さんには、思いっきり突き刺さってるって事かしらね」
英梨々「だから……っ……。倫也!!」
倫也「分かってる。全然、まったく、これっぽっちも、お前は泣いてない(って言わないとまたとばっちり来るだろうし寝てない宣言以上に扱いにくいよな泣いてない宣言)」
英梨々「そ、そうよ。分かってるならいい。……でもまぁ、あんたにしちゃ、その、悪くはないと思う。多少でも、そこの黒髪魔導師の影響があるかもってのは気に入らないけど」
倫也「そ、そうか。お前にはもう少し、怪訝な態度をとられると思ってたんだが」
英梨々「始めは何事かと思ったけどね。これまでのあんたから考えたら、完全に不意を突かれた気分。でもま、染まっていってるんじゃなくて、幅が広がっていってるっていうんなら、さして文句は……ないとは言わないけど、目をつぶっておくわよ」
詩羽「あら、それって暗に、今までの倫理君のスタンスに対しては好意的だって告白してるようにとれるわね?」
英梨々「そんな事言ってない。ただ、まだシナリオを一本書いただけで、それ以外はいつもギリギリまで何もしない三流の準置物プロデューサーから、少しはシナリオを書けなくもない二流の物書き兼プロデューサーにレベルアップできるっていうんなら、いずれはどこぞの腹黒作家の出番が無くなる可能性もあるって事になるでしょ?」
詩羽「それは残念ね、澤村さん。仮に倫理君が私と肩を並べる物書きになったとしても、それこそが、私とのフラグの一つが完遂する時……。そう、『TAKI UTAKO』という名前が、私と倫理君を始めとした一部の人間にだけ解る繋がりではない、より大勢の人間に、実力と信頼と愛情の伴った深い繋がりとして認知されるようになるの…。ふふっ……うふふふ……」
英梨々「な……まさか、そこまで考えて、その名前を…!?」
詩羽「周囲からの視線にこだわりはないのだけれど、内容によっては、ね……?」
倫也「いやTAKIが俺って事が知られる可能性は高まるのかもしれないけど、合作ペンネームだけじゃ愛情は伝わらなくない? 」
詩羽「……ふふ……全く、いつになったら私を出し抜いてくれるのかしらね、周回遅れの負け犬お嬢様は……ふふふ……」
英梨々「ぐっ………ぬぐ……! か、かか、霞ヶ丘詩羽っ……!」
倫也「………ところで加藤、お前はどう感じた? 俺のシナリオ読んで」
加藤「そろそろ現状への諦観をきっかけに私に話をふってくる事に対する意見を述べるべきかな…ってのはさておき、そうだね、わたしも感動したよ? うん、本当に」
倫也「こういう時、お前の飾らない感想がありがたい癒しになってるってのは、他の二人のリアクションが再三、俺に何かしらのダメージを与えてるからって事を確信してしまうようで怖いんだが……まぁ、さんきゅ」
加藤「でも、やっぱり違和感っていうか……なんていうのかな? cherry blessingの安芸くんが書いたシナリオからも、今までの安芸くん自身の言動や行動からも、想像がつきにくいってのはあるかな?」
倫也「……俺って、普段、そんなにおめでたいか?」
加藤「底抜けに楽観的で、天井知らずに前向きで、際限なしに暑苦しいって部分が否めない時もあるのは、確かなのかもしれないね」
倫也「前半それだけ強調しといて『かもしれない』のへったくれもなくない?」
加藤「そもそも、わたし自身、バッドエンドやビターエンドがなんたるかってのを想像できるくらいの経験値がないんだけどね」
倫也「そういやお前、生まれて初めて読んだライトノベルが恋するメトロノームなんだっけか。まぁ、あの話の結末には色んな解釈があって、確固としたエンドの定義がある訳じゃないんだが、それでも初心者が読むにしては切なさと喪失感のレベルはかなりのもんだぞ?」
加藤「その初心者にいきなり全巻勧めてきたのは安芸くんだよね?」
倫也「……良い作品に出会えて良かったな、加藤」
加藤「まぁ、結局はそうなんだけど。確かに読んでてちょっとキツいかもって思う部分はあったよ? でも、最後には、不思議と爽快感みたいなものを感じてた」
英梨々「……………」
詩羽「どうしたの? 急に黙り込んで」
英梨々「……別に、何でもない」
倫也「ああ。なんていうか、考えさせられるんだよな。一度読んだ時には見えていなかったものが、何度も読み返すうちに少しずつ見えてきたり、その発見から、今までとは違う視点や感想が持てるようになったり」
加藤「そうだね。多分、その辺りは先輩の技術あってこそ、魅力的に成り立つものかもしれないけど。……そうやって、何度も頭の中で反復して繰り返し考えるうちに、ス…っと胸の奥に入り込むように、少しずつ色んな事に納得できるようになって。こんなに切ない話のはずなのに、前向きになれるっていうか、前向きに泣けるっていうか」
倫也「そういう、シナリオを何度も振り返って読み込ませる力ってのは、今の俺にはほとんどないだろうな」
加藤「う~ん……でも、英梨々や先輩も言ってたように、安芸くんはさ、そういうの複雑に考えなくてもいいと思うよ?」
倫也「プロの作家からも、ディープオタからも、非オタからも言われたら、もう受け入れざるを得ないよな……」
加藤「だって、もし安芸くんが、詩羽先輩のように切なくて喪失感が濃いシナリオを書ける実力を身に付けたとしてもさ」
倫也「いつの話になるか、そこまで辿り着けるかも全く分からないけどな」
加藤「それまでのキャラクターや物語の軌跡を何度も辿って、何度も読み返しながら、その世界に深く没頭していくって感じじゃなくて……」
倫也「…………」
加藤「こう、あるきっかけから、熱くて、明るくて、楽しくて、優柔不断で、鈍感クズで、ヘタレてて、節操のないご都合主義な展開が入り込んできて……」
倫也「上げてから落とすのは先輩だけでいいから。負担激増だから」
加藤「そうして最後には、それまでの悲しさや切なさを一気に全部まとめて帳消しにしてくれる……ちょっとだけ呆れながら、ちょっとだけ苦笑しながら、でもなんかこういうのもいっかって受け入れられる……そんな良い意味でどうしようもない、単純明快なハッピーエンドになるって思ってしまうんだよね」
倫也「先輩との話から今まで、散々右に左に揺さぶられて、もう喜んでいいのか落ち込むべきなのか全く分からなくなってきたな……」
加藤「あはは。まぁわたしはさ、安芸くんに始めて出会った時から今まで、散々右に左に巻き込まれて、引っ張られて、動かされて……でも、なんだかんだでここに居て。だから、そんな風に感じるのかもしれないね」
倫也「メインヒロイン冥利に尽きるってことだな、うん」
加藤「それってニュアンス的にはなんとなく良い感じに聞こえるけど、実情としてはちょっと頷きづらいなぁ」
倫也「ふ~む……しかし、あれだな。……今日は良く語るな、加藤」
英梨々「本当、そろそろ私達の存在が忘れられるかもってくらい長いわね、恵パート」
詩羽「油断してたわ。ミ○ディレクションがオー○ーフローして、読者の視線がこのまま加藤さんに集まり続けて、ゆくゆくは私達の存在が霞んでしまうほどの脅威になりそうなくらい際どい目立ちかたよね」
加藤「話が長くなってたっていうのは認めるけど、だからって一段落着きそうになった途端、わたしの普段の立ち位置をネタに総ツッコミされるとなんだかちょっと悪いことした気になってくるような……」
英梨々「第一、まだまだ経験の浅いコイツに、ハッピーカラー以外の展開で、ユーザーを惹きつけるシナリオが書けるかどうかなんてまだまだ確証がないって段階で、そんな信頼交じりの事言ってたらすぐに調子に乗るわよ?」
詩羽「その辺りに関しては、私が付きっ切りで指導してあげるし、もしバッドエンド症候群にでもなってしまったら一生をかけて責任とるから大丈夫よ」
英梨々「事あるごとに自分の人生設計に他人を引きずり込もうとするな!」
加藤「まぁ、結局は素人思考だし、技術に関しては何も意見はできないんだけど……。それでも、今回の問題については、思い付く事、ちゃんと言っておかなくちゃって、ね」
倫也「そりゃまた、何でだ?」
加藤「う~ん、やっぱり……巡璃を、幸せにして欲しいなって思ったから、かな?」
詩羽「………なるほど、ね」
英梨々「……ま、そうなるわよね。当然でしょ」
加藤「あ、このシナリオがまだ練習みたいなものだってのは知ってるよ? でも、この先、完成したシナリオに登場するのが巡璃じゃなかったとしても、わたしをモデルにしたメインヒロインが登場するんだったら…って前提でね?」
倫也「ああ、分かってる」
加藤「前作の時点では、まだ少しふわっと思うくらいだったんだけど……。巡璃がさ、始めて誠司と出会って、色々あって、それから一緒に歩いていくって決めた先で……誰かと離れてしまったり、傷つけあったり、何かが届かなかったり、失ったり……。そうやって、どれだけ悲しい事があっても、どれだけ辛い事があっても………」
倫也「……………」
加藤「それでも、最後の最後には、大事な人……大事な人達の隣で笑ってて欲しいなって。結局は、本当に、すごく楽しかったって胸を張ってて欲しいなって。もちろん、他のみんなも同じように、ね?」
倫也「なんかすごいメインヒロインっぽい事言ってるな、加藤……」
加藤「……まぁ、底抜けに楽観的で、天井知らずに前向きで、際限なしに暑苦しいって部分が否めない安芸くんが書くんだから、多分、そういう心配はいらないんだろうけどさ」
倫也「なんかすごい加藤っぽい事言ってるな、メインヒロイン……」
詩羽「……その気持ち、良く分かるわ、加藤さん」
倫也「いや、何で俺の首絞めながら言うの先輩? せっかく加藤が良いこと言ったって感動して……うぐぅ……」
英梨々「大体、あれだけ誠司の側に居て、支えて、見つめてきた巡璃が、最後の最後で報われないなんて、あんたいつからドS属性に目覚めたのよ。あれじゃ、巡璃や歌穂よりも長い間、誠司の事を想い続けてきたきらりなんて、いつ交通事故からのごにょごにょな展開に入り込むか分かったもんじゃないわ」
倫也「どこに配慮して伏せてるのか分からんが、そのネタは多分大体の人間は想像付くからな」
加藤「……えっと、多分、二人が思ってる事とわたしが思ってる事って、結構ズレてるような気がするんだけど……主に重さの部分と、めんどくさい部分のあたりで」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
倫也「お前が巡璃やゲームのキャラクター達のこと、大事に思ってくれてるのは良く分かったよ。でも多分、安心していいぞ」
加藤「ん? どういうこと?」
倫也「え~とだな……。まぁ結局は、このシナリオがラノベでもなければアニメや漫画でもない、ギャルゲーシナリオの試作品だってことだな。だから、2周目プレイ、追加シナリオ、エンディング変化……そういった、ギャルゲーの要素を含めた表現をしてもいいってことになるっていうか……」
英梨々「倫也……まさかあんた……」
詩羽「何となく、イヤな予感がするわね……」
倫也「まぁ、実はバッドエンドを想像してたら、そのうち居たたまれなくなって、気付いたら書いてしまってただけだったりするんだけどさ」
加藤「……?」
ーーーーー
誠司「………今まで居た誰か、か……」
誠司「……分からない。ありえない。これはきっと、とてつもなくおかしい事なんだろうけど。二次元に染まり過ぎなんだろうけど」
誠司「でも、思わずにはいられない。言わずにはいられない」
誠司「妄想でも、幻想でも構わない」
誠司「………きっとさ、きっと、君は俺の力になってくれてたんだろうな」
誠司「ずっと、俺のそばに居てくれてたんだろうな」
誠司「俺がここに立っていられるのも」
誠司「俺が諦めなかったのも」
誠司「きっと、君が……」
誠司「だから、さ」
(いつの間にか、静かになっていたきらりと歌穂。二人共、ただ真っ直ぐに、真剣に、誠司の事を見つめていた。おそらくは、同じ理由で、同じ感情でもって、溢れそうになる涙をこらえながら……)
誠司「ありがとう」
誠司「……この先、君の事を思い出せなかったとしても………」
※選択肢
君がくれたものは、忘れない
→(…………………違う!)
誠司「………………!?」
???(…………………めだ……!)
誠司「………あ…………っ……?」
???(………行かせちゃ、だめだ……!)
きらり「どうしたの、誠司!?」
歌穂「誠司君!?」
???(………思い出せ……!)
誠司「なんだ……この、声…!?」
???(今なら、まだ間に合う……!)
誠司「……いや、まさか、これって………」
???(頼む………あいつを………)
誠司「俺の、声………!?」
”誠司”(巡璃を、引き止めてくれ………っ!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(ーーーーこうして、誠司の決死の覚悟と、”誠司”の力をもって、消滅の危機を免れた巡璃。目的を果たし、満足そうに去っていく”誠司”に別れを告げ、彼の…そして自分の希望通り、この世界で生きていく事を決めた巡璃と誠司は、現実の空間へと帰還する)
巡璃「あ……ここって……」
誠司「……よくよく、縁があるな」
(そこは、全ての始まりにして……そして巡璃にとっては、何度も何度も辿った”再会”の場所である、出会いの坂。いつもと変わる事なく、二人を見上げ、見下ろし続けるその道の途中で、互いに向かい合う誠司と巡璃)
巡璃「……久しぶり……。また、会えたね………」
誠司「……あぁ。本当に、久しぶりだ」
(それは、実時間としては、ほんの少しの別れだったかもしれない。だが、その中で起きた事、起きてしまいそうになった事、それらを思えば、実際の体感などなんの意味もなさない程に、二人の間に、決して短くない時間を想起させていた)
誠司「……なぁ、巡璃」
巡璃「ん?」
誠司「今、お前が一番したい事、教えてくれないか?」
巡璃「……そんな事、急に言われても困るよ」
誠司「い~や、あるはずだ。だってお前、今、そんな顔してる」
巡璃「……まいったなぁ。今まではそういう事、全然気づいてなかったのに、ね」
誠司「まぁ、あれだけの不思議体験をしてしまったからな。何やら、ちょっとした能力に目覚めでもしたんだろ」
巡璃「あはは。わたしの気持ちが解る能力って……なんだかちょっと、照れるよ」
誠司「……本当だ。照れてるな、言葉通りに」
巡璃「それじゃ、もう、見栄を張っても仕方ないね……」
誠司「え………」
(誠司にゆっくりと近付いていく巡璃。今までも、そしてこれからも得るだろう、大切な人との思い出を、時間を、存在を深く感じるように、やがてその距離が、限りなく零に近付いて………)
きらり「ちょっと待ったぁあぁああああああああ!!!!」
誠司「うがぁあぁああああああああああああああ!!!!」
(……突如として襲ってきた、勢いと回転の乗り切った回し蹴りを背中に浴びて、その場から吹き飛ぶ誠司)
歌穂「……まったく、ちょっと目を離すとこれだもの。やっぱり、鎖的なものと縄的なものと首輪的なものを常に携帯しておく事を考えなくちゃいけないのかしら。本当、ドMなんだから誠実君は」
誠司「いやそれもう主従関係一直線だよねそうなんだよね!?」
きらり「……ついさっき、あたし達から告白を受けた矢先に、『二人は幸せなキスをして……』エンドを迎えようとするなんて、ほんっと良い度胸してるわね……!」
巡璃「あ~……あはは。えっと……」
誠司「そ、それはだな……というか、それ以前によくここが分かったな。さっきの場所から結構離れてるはずなのに……」
きらり「それはあれよ、あんたに対する憤りをきっかけに、あたしの半径10km以内にいる誠司の居場所が分かる能力にでも目覚めたんでしょ」
歌穂「私の場合は、貴方に対する恨みつらみをきっかけに、半径100km以内にいる私の事を愛してやまない誠実君の居場所が分かる能力にでも目覚めたんだと思うわ」
誠実「何その対俺用プライバシーブレイカー!? 一人明らかに桁がおかしいし! 冗談でも怖いからやめて!」
きらり「……そしてもちろん、憤ってるのはあんたにだけじゃないわよ? ……巡璃!!」
巡璃「は、はい!!」
きらり「あんた、私達に何も言わないどころか、記憶からも勝手に消えようとするなんて……!」
巡璃「………うん」
きらり「もう…………そんなの………絶対に………」
巡璃「……………」
きらり「……だめ、だからね……! だめ、なんだからね………!」
巡璃「きらり………」
きらり「…………うわあぁぁあぁん…! 巡璃……良かった……居なくならなくて良かったよぉ………巡璃ぃ……!」
巡璃「…………ごめんね、きらり。いっぱい、心配かけて、ごめんね………」
歌穂「…………叶さん」
巡璃「……歌穂先輩……」
歌穂「言いたい事はたくさんあるけれど………まぁ、とりあえず無事だったのなら、それでいいわ」
巡璃「え………」
歌穂「私、主人公に尽くすだけ尽くして消滅する自己犠牲系ヒロインについては、あまり良い印象を持ってないの。………だって、ずるいんだもの。そんな事されたら、真っ当な勝負になんてならないから……」
巡璃「…………っ………」
誠司「きらり………歌穂先輩………」
きらり「………ひっく、ぐす……」
歌穂「ほら、もう泣き止みなさい、河村さん。負け化粧の乗り具合が良い顔が台無しよ?」
きらり「負け化粧って何よ負け化粧って!? ……あ~…もう! ……そういえば誠司!! さっきはうまく誤魔化してたけど、この状況に対する申し開きはちゃんとしてもらうからね! 絶対逃がさないから!!」
歌穂「そんなに慌てなくても、これから時間はたっぷりあるんだから………とりあえず、鎖的なものと縄的なものと首輪的なもので誠実君を縫い止める所から始めましょうか?」
誠司「……か、勘弁してくらはい………」
巡璃「……………」
(もう、二度と目にする事も、感じる事もないと思っていた、大事な人達と過ごす時間。自分の心を、こんなにも豊かに彩ってくれるその楽しさを、喜びを噛みしめるように、巡璃は静かに、強く、自らの願いを思い返す)
巡璃(………”誠司”君。私、生きていくよ……)
巡璃(この人達と、この世界で、この時間で………)
巡璃(この先、何年経っても……どんな事があっても…………)
巡璃(みんなとなら、きっと……)
巡璃(最後には、最高の、笑顔で…………)
(ふいに、優しい風がその場を撫でる。その中で、自然に、緩やかに、穏やかに、笑顔を浮かべる巡璃)
誠司「…………あ………」
きらり「…………巡璃………」
歌穂「…………叶さん………」
(そんな彼女の姿を見て、毒気を削がれる三人。その声なき希望の決意に応えるように、三人もまた、ゆっくりと笑顔を浮かべて……)
巡璃「みんな、これからも、よろしく、ね?」
(四人はまた、新しい桜の季節を、迎えに行くーーーー)
END
スタッフロール(主題歌:ボーカルあり)
倫也「………と、言うわけで……どうかな?」
英梨々「…………っ」
加藤「…………」
詩羽「…………そうね、先に一言だけ言わせてもらえれば」
倫也「う、うん」
詩羽「優柔不断。鈍感クズ。ヘタレ。節操なし」
倫也「全然一言じゃなくない!?」
詩羽「始めに書いてたスタッフロール(主題歌:BGMのみ)って、特別大した事はないってスルーしてたけれど、こういう事だったのね……」
倫也「あ~………ほら、たまにあったりするじゃん。元々バッドエンドやビターエンドだったものが、ある条件を満たすと、本来の流れとはほとんど変わらないけど、最後の最後で選択肢が出現して、その後のシナリオが書き換わってハッピーエンドやトゥルーエンドに変わるってやつ」
詩羽「……はぁ。もうここまで突き抜けられると、いっそ笑うしかないわね……。まぁ、約1名については、まったく真逆の反応になってるようだけれど……」
英梨々「な……によ……」
加藤「英梨々、ほら、ハンカチ」
英梨々「…………ふぇえぇぇえぇん…! 巡璃……良かった……居なくならなくて良かったよぉ………巡璃ぃ……!」
詩羽「事前にビターエンドに触れた感傷もあったせいか、相当クリティカルだったようね…。あと、それ以前にもう一つ……」
英梨々「……ひく……ちょっと油断してただけよ! もう、最初からこっち見せときなさいよね、バカ倫也…!」
倫也「いやそれだと今回の趣旨違ってくるから。とりあえず落ち着けって、英梨々。……しかし、あれだな。なんだかんだでお前が一番、俺のシナリオに反応してくれてるのは気のせいか?」
英梨々「き、気のせいに決まってるでしょ! 」
詩羽「……やっぱり長い間、倫理君の頭の中だったり、倫理君そのものをストーキングしてた経歴は伊達じゃないって事かしらね、澤村さん。倫理君の感性の観客として”だけ”はこの上ない仕上がりになってるというか、チョロいというか……」
英梨々「倫也の信奉対象として”だけ”は熟成してるっていうか、そういう因縁しかないあんたに言われたくないわよ! それにストーキングはヤンデレヒロインのあんたのフィールドでしょ! 色んなステータスにマイナス補正付きそうな属性をふっかけるな!」
倫也「お互いに少しは評価できる部分があるような台詞なのに、結局けなしてる部分の比率が多過ぎて悪口にしか聞こえなくなるのは仕様ですか…って、ホント流れるようにプロレスに移行するよねあんたら!」
(騒がしく喧嘩を始める二人。見慣れた光景に微妙な脱力感を覚えながら、その場から逃げるようにPCへと向かい、シナリオを読み返し始める倫也)
倫也「…………う~ん……………」
(しばらくして……倫也のすぐ隣から、少し控えめで、どこか優しげな、ゆらゆらと揺れる桜の花びらのような笑い声が聞こえてくる)
加藤「ふふっ」
倫也「……っ。……な、何だよ?」
加藤「ん? えっと、安芸くんはやっぱり安芸くんなんだねって」
倫也「どういう意味でかは、あえて聞くまでもなさそうだな……」
加藤「ま、今回は、良い意味でだけって事にしてもいいのかも、ね」
倫也「……そりゃ、どうも」
(そんな、ほんのささいなやり取りの中、いつもより少しだけ心地良く、少しだけ穏やかな感情を共有する二人。そのほのかな、しかし確かな感覚にさり気なく意識を委ねながら……)
倫也「…………」
加藤「…………」
(落ち着いた時間を過ごし続け……られる事もなく……)
詩羽「さぁ倫理君。これからその甘ったれた根性を叩き直す為に、私が三日三晩、精神的にも肉体的にも片時も離れる事なく指導してあげるから、覚悟してもらうわよ?」
英梨々「ちょ……待ちなさい、霞ヶ丘詩羽! そ、それならあたしも、あくまであんた達がシナリオに集中してるかどうか監視する為にここに残るからね! 文句はないわよね、倫也!!」
加藤「ん~と……それじゃ、もうこんな時間だし、わたしはそろそろ……」
英梨々「何言ってるのよ、恵! 抑止力は一人でも多い方がいいんだからあんたも残ってなさい!」
詩羽「ダメよ加藤さん。”倫也”君がヒロイン○辱もののバッドエンドシナリオを創る想像力を高める為に、貴方にはまだ残っててもらわないと」
倫也「いや倫理呼びしなくなる=俺の倫理観が薄まる訳じゃないからね詩羽先輩!? 絶対書けないし、書かないからね!? …ってちょっと待て加藤! 調和力は一人でも多い方が…っていうかお前しかいないんだからこのまま残るんだ!」
加藤「……あのさ、これまでも良く分かってなかったんだけど、つまり『メインヒロイン』の役割って、すごくめんどくさいものなんだって認識でそろそろ固定してもいいのかな?」
倫也「……そう言った苦労の先に最高のハッピーエンドが待ち構えてるって事でここは一つ納得してもらえないだろうか?」
加藤「それ今思い付いた事適当に言ってるだけだよね安芸くん。……う~ん、ま、いっか。それじゃ、ちょっと家に連絡してくるね。まぁちょうど、明日と明後日は連休だし」
倫也「………英梨々や先輩もいるから安心、なんて考えてる訳じゃないんだろうけど、せめてあと2、3行分くらいは憂慮しても損はないと思うぞ加藤……」
(こうして、やっぱり最後には大したフラグが立つ事もなく、blessing softwareの夜は、いつものように過ぎていくのであった)
終わり
元スレ