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沙希「私あんたのこと….好きなんだよ」【俺ガイルss/アニメss】

 

席替え。それは新たなトラウマが生まれるイベントの一つだ。

なんであいつら本人の前とか関係なしにあいつの隣とか最悪、もう嫌だ。とか言うんだよ。

あと泣くな。お前がなくせいで俺が悪いみたいになるんだよ。俺は何もしてないのに。

俺の存在が悪いみたいになるだろうが。俺は悪くない。

もういじめの領域だろ。てか何で担任何も言わないんだよ。

恨むなら理想の席を引けなかった自分のくじ運を恨め。悪いのはお前だ。

 

まあしかし、席替えでそんな悲劇が起こりやすいのは中学まで。

もしくは中学生気分が抜けない高校一年生までだろう。ソースは俺。

高校は義務教育じゃない。だから停学が簡単に発動する。

もし、席替えが原因でトラブルがありいじめが認められれば簡単に停学になる。

だから、いじめはわかりにくく、陰湿になるのだ。

まあ、存在が認められてない俺はいじめられることもない。無条件で省かれてはいるが。

 

当然、総武高校でも席替えはある。

今日は俺の在籍する2年F組でも席替えが行われる。

唐突に始まったせいで保健室に逃げるタイミングを逃してしまった。

席なんてどこでも良いから余ったとこで良いんだが・・・。

はっ、でも戸塚の隣とか後ろとかだったら・・・!

戸塚戸塚戸塚戸塚・・・俺の近く俺の近く・・・。

 

席替えのやり方はくじだ。先頭がじゃんけんで勝ったので廊下側からくじを引いていく。

俺は一番廊下側の席なのでくじを引くのが早かった。

くじを引き、黒板に名前を書く。

俺の席は・・・一番窓側で一番前。

俺のくじ運悪すぎるだろ。なんであんなに余ってるのにこれ引くんだよ。

くそ、時間巻き戻してえ。時間返し!天時星・時間返し!やられる前にやり返す!

 

諦めて自分の席に戻る。

ああ、この席結構好きだったんだけどな・・・。目立たなくて・・・。

 

しかし、もう俺にできることは戸塚が俺の近くに来ることを祈るだけだ。

戸塚戸塚戸塚戸塚戸塚・・・。

そう祈っていると戸塚がくじを引く順番だった。

 

戸塚が名前を書く。その場所は・・・。

廊下側一番後ろ。

おい、なにやってんだよ!なんでよりによって真逆なんだよ!

一番遠いところじゃないか!次の席替えいつだろう・・・。

席替えが終わるまで、俺は拗ねていた。

「じゃあ、席替え終わります。みんな移動してください!」

HR委員長がそう声をかけるとみんな立ち上がり移動し始めた。

 

俺が新しい席に着く。隣にやってきたのは・・・

「あんたが隣か・・・」

川崎沙希だった。

「なんだよ、文句あるか。」

「いや、それなりに話せるやつで助かったよ。」

川崎からは耳を疑うような言葉が返ってきた。

俺が・・・隣で・・・助かった?

そんなこと生まれて初めて言われたぞ。

俺が隣で死んだとか言い出すやつはいたけど。

「そ、そうか・・・」

あっぶね、そんなこと初めて言われたからちょっと好きになりかけたぞ。

しかし、川崎が隣になって助かったのは俺もだった。

隣同士でペア組んでやれとかいうタイプの授業でも隣が川崎のおかげで普通に過ごすことができた。

いつもなら最初に睨まれて何もできないまま終わるからな。本当に助かった。

これで授業で怒られることもない。

そして席替えで隣になってからというもの、休み時間や予備校でも川崎と話す機会が多くなった。

学校では戸塚がたまにやってくるが予備校は知り合いが川崎しかいないので川崎と一緒にいることがほとんどになった。

 

席替えから数週間が経ったある日の昼休み、今日も購買でパン買って食おう。

そう思って席を立った時だった。

「ちょっと。」

隣の川崎から呼び止められた。

「ん?なんだ。俺は今から購買にパン買いに行くんだが・・・。パシリならお断りだぞ。」

「違う。そうじゃない。その・・・これ。」

川崎は俺の机に弁当らしきものを置いた。

「つ、作りすぎたから、あんたにもやるよ。その・・・いつもパンばっかり食べてるみたいだし・・・え、栄養のバランスもだな・・・その・・・。」

これが噂に言う女子の手作り弁当ってやつですか?感極まって俺泣きそうだよ。

でも何で俺の食生活知ってるんだ。昼休みなんて俺教室にあんまりいないぞ。

「その・・・毒とか入ってないよな・・・」

こんなに優しくされたことないからつい聞いてしまう。

だって女子の手作り弁当って悪意でもあるんじゃないかと思ってしまう。

「バカじゃないの・・・。入ってるわけないだろ。私のやつと同じものなんだ。」

「す、すまん。弁当とか貰ったことないからつい・・・。そ、そうだよな・・・。なんつーか・・・ありがとな・・・。」

何だかすごい恥ずかしくなってきた。

「じゃあ、私行くから・・・。」

去っていく川崎を背に俺は何かを言わなければならない。そう思った。

短い時間、ほんの何秒かしかない中、出てきた言葉がこれだった。

「サンキュー!愛してるぜ川崎!」

「なっ、あんたまたそうやって・・・!」

顔を真っ赤にした川崎は教室を飛び出していった。

いつもより周りがザワザワしているように感じたが、俺も昼飯を食べるのに教室を出た。

その頃、教室の隅では・・・

「ヒッキーが・・・愛してるって・・・愛・・・してるって・・・ヒッキーが・・・」

由比ヶ浜はフリーズしていた。

「ヒキタニくんとサキサキかー。男同士じゃないけどこれはこれでおもしろそうな組み合わせ・・・後で話聞きに行かないと・・・。」

海老名さんは興味津々だった。

 

昼休み。俺は奉仕部の部室に来ていた。

いつもの場所で食べようかと思ったが今日は風が強く、弁当だと食べるのが難しいと判断したからだ。

そして俺の定位置に座った時、教室のドアが開いた。

「あら、比企谷君。こんにちは。」

来たのは雪ノ下だった。

「うす。お前も来たのか。」

「私は大抵ここで食べているのよ・・・。あなたがいる方が珍しいのよ。」

「そ、そうか・・・。」

校内での雪ノ下雪乃の生態を一つ知った気分だった。

そういや部活以外の雪ノ下ってほとんど知らない気がする。

「比企谷君は、どうしてここにいるのかしら。」

「いや、今日風強いし、弁当だし。教室はうるさいからここに。」

「そう。教室がうるさいのが嫌なのは私と同じなのね。比企谷君と同じというのは非常に不本意だけれども。そういえば、普段は外で食べているの?」

「一言多いぞ。普段はほとんど誰も来ない昼飯に最適な場所があってな。あと基本パンかおにぎりだし外でも食べやすいんだよ。雨の日とか今日みたいに風の強い日じゃなきゃそこで食べてるな。」

「その言い方から察するに、今日は珍しくお弁当なのね。小町さんが作ってくれたのかしら。」

「いや、川崎が作ってくれたんだよ。」

 

「えっ?」

一瞬雪ノ下が固まった。

「ど、どうした雪ノ下。」

「川崎って・・・あの川崎さんかしら。」

「ああ、俺と同じクラスで夜にバイトしてた川崎だ。」

「な、なぜ川崎さんがヒモガヤ君にお弁当を作ってきたのかしら・・・。」

「おい、誰がヒモだ。勝手に名前変えるな。俺は専業主夫志望なだけでヒモ志望じゃない。」

「そ、そんなことはどうでも良いわ。なぜ川崎さんがあなたに・・・。」

「作りすぎたんだと。で、いつも俺パンばっかりじゃ栄養がどったらって。」

「そ、そう・・・。」

「川崎さんは普段の比企谷君を知っているのね・・・。」

「え、なんか言った?」

雪ノ下は返事の後に何か言っていたようだがまったく聞き取れなかった。

独り言だろうか。まあぼっちは独り言が多くなるからしょうがないか。

 

「失礼しまーーーす!!!!!!!」

ノックの後、勢いよく誰かが入ってきた。

「ヒキタニ君、話聞かせてもらおうか。」

海老名さんが現れた。

「あ、何をだよ。」

話ってなんだろうか。俺には全く身に覚えがない。

「決まってるじゃない!さっきの愛してるぜ!川崎!についてだよ!クラス内であんな大声で愛してるだなんて言うなんてどういうことなのかなー?」

ああ、俺そんなこと言ってたんだ。何か焦ってたから全然覚えてなかった。

「で、サキサキは言われた瞬間、またそうやってって言ってたけどつまり前にも言ったことがあるってことだよねー?」

「あ、あの・・・えっと・・・。」

思い出される文化祭の記憶。

俺はあの時も川崎に同じセリフを言った。

「比企谷君。」

「はいっ!」

雪ノ下が鋭い口調で俺の名前を呼んだのでつい良い返事をしてしまった。

「正直に話しなさい。」

「ほらー、雪ノ下さんもこう言ってることだしー・・・。」

二人に詰め寄られる。

「あー、もうわかった!わかったから!今から言うことは全部本当のことだからな!良いな!」

「ええ。わかったわ。」

「うんうん。」

「最初に川崎にその・・・あ、愛してるって言ったのは・・・文化祭の時だ。」

「文化祭?あなた仕事もしないで川崎さんといったい何をしていたのかしら。」

「落ち着け雪ノ下。良いから俺の話を聞け。その時俺は相模を探していてな。その時に相模にたどり着く一番の手がかりをくれたのが川崎だったんだ。それで・・・その時・・・。」

「サンキュー!愛してるぜ川崎!世界中の誰よりも!そう言って二人は・・・いやあ、ヘタレ受けのヒキタニ君がそんな風に言うなんて・・・。」

「おい、勝手に付け加えるな。世界中の誰よりもなんて言ってねえぞ。」

「それで、比企谷君は川崎さんのことをどう思ってるの?本当に・・・その愛してるのかしら・・・。」

雪ノ下が急にモジモジしはじめた。

「この反応?雪ノ下さんもしかしてヒキタニ君のこと・・・これはおもしろいなぁ・・・。」

海老名さんが何やらブツブツ言っている。しかし聞き取れるボリュームじゃなかった。

「いや、特に何も。良いやつだなってくらいにしか。」

「そ、そう・・・。愛しているわけではないのね・・・。」

「あれ、雪ノ下さんは何でホッとしてるのかなー?」

海老名さんがすかさず雪ノ下に突っ込む。俺は見てなかったから知らないけど。

「な、なぜ私が安堵する必要があるのかしら。私には比企谷君のことなど関係ないし、比企谷君がその、誰を愛そうとも私は」

「はいストップ。」

雪ノ下がベラベラしゃべりだしたが海老名さんが止めた。

「つまりー、ヒキタニ君とサキサキは別に付き合ってるとかそういうわけじゃないってことで良いのかな?」

海老名さんは俺の方を見てそう問いかけた。

「ああ、そういうことでいい。」

「じゃあ今後に期待ってことで。じゃあ、私は退散するよ。じゃーねー!」

そう言って海老名さんは去っていった。いや、期待されても困るんだけど。

「嵐が去ったみたいだったな・・・。」

「なら後は静けさだけね。」

雪ノ下がそう言った通り、俺たちはその後、特にしゃべることはなかった。

俺が弁当を食ってる時何かチラチラ見ていた気がしたがスルーしておいた。

弁当を食い終わると昼休みの終わる時間がギリギリだったので俺と雪ノ下は教室に戻った。

しかし・・・雪ノ下と一緒に歩くと視線が痛い・・・。

それにしても川崎の作る弁当はなかなか美味しかった。量が少ないというのが唯一気になった点ではあるが。

 

教室に戻ると川崎は既に席に座っていた。

「川崎・・・その・・・弁当美味かった。ありがとな。弁当箱は洗って返すから。」

「いや、洗わなくて良い。」

「え、いや。でも悪いし。」

「良いから!」

そう言って川崎は俺から弁当箱を奪った。

「わ、わりい・・・。」

「つ、作りすぎたら・・・また持ってくるから・・・。」

「あ、ならもう少し量を増やしてくれ。」

次もあるなら言っておこう。貰う側なのに図々しいかもしれないが6限で腹減って死にそうになるよりマシだ。

弁当もらっておいて自分でパンとか買うのは何か嫌だし。

「え、足りなかったの?」

「ああ。育ち盛りの男子の弁当はもう少し量があっても良い。それに美味かったからな。たくさん食える。」

「わ、わかった・・・。なら明日からはもう少し量を増やすよ。」

「ああ、よろしく頼む。」

翌日、川崎が持ってきた弁当は昨日の1.5倍ほどの量だった。

そして川崎は学校のある月曜~金曜の5日間のうち3日か4日は俺に弁当を持ってくるようになっていた。

作りすぎたら持ってくるんじゃないのかよ。どれだけ作りすぎてるんだよ。なんてことは言えなかった。

弁当のない日は川崎も購買で何か買っていたところを見ると弁当を持ってくる日は確実に俺の分がある。

弁当もらってばっかりで何か悪いから金払おうかと思ったら見事に却下された。

そして俺は川崎が弁当をくれる日は奉仕部の部室で雪ノ下と昼食を摂っていた。

 

そんな今日も弁当を貰った俺は雪ノ下と奉仕部の部室にいた。

「比企谷君。」

「ん、なんだ?」

「今日も川崎さんのお弁当?」

「ああ、そうだが。」

「なぜ川崎さんと一緒に食べないの?」

「いや、あいつ昼休みすぐにいなくなるんだよ。俺は昼休み入ったらトイレ行きたい人だから完全に見失うんだ。」

「そう・・・。つまり相変わらず川崎さんと付き合っているわけではないのね。」

「どうしてそうなった・・・。まあ、そうだな。あいつと付き合うとか想像つかん。」

「ひ、比企谷君に想像できる相手はいるのかしら。」

「ああ、いるぞ。俺は想像力豊かだからな。」

「じゃ、じゃあ・・・ぐ、具体的に・・・その・・・誰となら想像できるのかしら・・・。」

「そうだな。まずは戸塚だな。戸塚ならきっと」

「そのあたりでいいわ。やめなさい。」

「まだほとんど何も言ってないんだが・・・」

戸塚と付き合ったらきっと俺の人生はバラ色に違いない。

なんで戸塚男なんだよ・・・。神様いじわるすぎるだろ・・・。

朝起きたら戸塚が女になってたりしないだろうか・・・。

「その・・・ほ、他には誰かいるのかしら?」

「他か・・・そうだな・・・。」

俺は少し考える。思い浮かんだのは雪ノ下と由比ヶ浜

というよりこの二人くらいしかまともに話す女子いないんだよな。

小町は妹だし平塚先生は女子じゃないし。

「そうだな、お前とか。」

由比ヶ浜の名前をここで出すと「あなた由比ヶ浜さんのことをそんな目で見ていたの?」とかすごい罵られる気がした。

だったらそこにいる雪ノ下の方が安全だろうと予想する。どちらにしても罵られそうだが。

「比企谷君は・・・私のことをそういう目で見ているのかしら・・・。」

あ、やっぱりそうですよね。罵られますよね。覚悟してました。

よし、今からドMになろう。ドMになればどんな罵りも平気。

「いや、まぁ・・・その・・・お前と付き合えたら、なんてこと考えるやつはいっぱいいるんじゃないのか?それに・・・」

お前なら想像しやすい。そう続けようとしたところで・・・

「そ、そう・・・。」

雪ノ下から返事が来た。あれ、罵られない。

どうした雪ノ下。何か顔赤いし。熱でもあるのか。

「なあ、雪ノ下。お前顔赤いぞ。熱でもあるのか。」

「な、ないわ。ちょっと暑いだけよ・・・。」

「そ、そうか・・・」

実際、雪ノ下と付き合ったら俺は尻に敷かれるだろう。目に見えている。

まあ顔を踏まれるとかに比べたら尻に敷かれるくらいかわいいものだろう。

それに雪ノ下となら付き合っても特別何か変わるような気がしない。

だから雪ノ下とのことを想像するのが一番簡単だった。

 

帰りのHRも終わり今日も残るは部活だけとなった。

明日は予備校が休み。普段弁当貰っていることだし、明日何か奢ってやろう。

そう思い川崎に声をかける。

「川崎、明日暇か?」

「え、いや、明日は予備校だろ?」

「なんだ、お前掲示見てないのか。明日は休みだぞ。」

「え、そうなの?」

「ああ、メンテナンスだってよ。」

「そうか・・・じゃあ暇だけど・・・。」

「じゃあ明日どっか行こうぜ。」

「わ、わかった。良いよ。」

「お前、どっか行きたいとことかあるか?」

「うーん・・・。じゃあ買い物付き合ってくれ。服見たい。」

「俺で良いのか?その相手。」

「男子の意見も聞きたいし。他に行くやつもいないし。」

「大志がいるじゃないか。ダメなのか?ブラコン。」

「率直な意見が聞きたいんだよ。シスコン。」

「わかった。場所に希望はあるか?」

ららぽーと・・・かな。うん。そこにしよう。」

「じゃあ現地に11時で良いか?」

「うん。大丈夫。夜、またメールするから。」

「おう、じゃあな。」

川崎との約束を取り付け、俺は奉仕部の部室に向かった。

最近、川崎とメールすることが増えた。

毎日しているわけではないが、定期的にメールをしている。

メールと言っても弁当のおかずのリクエストとか、学校とか予備校の話がほとんどだが。

余談だが川崎に「○○が食べたい。」とメールをすれば「自分で作れ。」と返信が来る。

しかし、高確率で次の日に作ってきてくれる。

川崎曰く偶然食材があったらしい。

どうやら俺のリクエストは川崎家によくある食材で構成されるものが多いようだ。

 

奉仕部の部室に入ると、中には誰もいなかった。

荷物があるあたりトイレにでも行ったのだろう。

俺はいつもの場所に座って読書を始める。

「あー、ヒッキー来てる!」

「今日は遅かったのね・・・。」

読書を始めてすぐに由比ヶ浜と雪ノ下が戻ってきた。

「ああ。ちょっとな。」

「ねえ、ヒッキー明日暇?明日、3人でカラオケ行かない?」

由比ヶ浜さん、私も初耳なのだけれども・・・。」

「あれ、そうだっけ?ごめんごめん。で、ゆきのんは明日どう?」

「私は明日は空いているけれど・・・。」

「おー!じゃあヒッキーは?暇でしょ?」

「なんで暇が前提なんだよ・・・。明日は無理だ。先約がある。」

「比企谷君に約束する相手なんているのかしら・・・」

「いるわ!小町とか小町とか戸塚とか小町とか戸塚とか」

「小町ちゃんとさいちゃんしかいないじゃん・・・。あ、じゃあ小町ちゃんとさいちゃんも誘って・・・」

「誘うのは良いが小町や戸塚の明日の予定は知らんぞ。」

「え、なんで?小町ちゃんかさいちゃんと遊ぶんじゃないの?」

「や、違うけど。」

「じゃあ誰?中二?」

「川崎。」

「えっ?」

由比ヶ浜と雪ノ下の声が重なる。そして部室に僅かの空白の時間が訪れる。

「え、どうした?」

二人共唖然として動こうとしないので俺が問う。

「ひ、ヒッキーやっぱりサキサキと付き合ってるの・・・!?」

由比ヶ浜が聞いてきた。

「いや、違うけど。」

「あなた、川崎さんと付き合うのは想像できないと言ってなかった?」

雪ノ下が続く。

「ああ、確かそんなようなこと言ったけど。」

「では明日はどうして二人で出かけるのかしら。」

「いや、いつも弁当作って貰ってるしな。その礼をしたいと思って。」

「そ、そう・・・。で、デートでは・・・ないのね・・・。」

 

「そ、そっかー。そういうことかー。なんだー。そうだよねー。ヒッキーがサキサキと付き合うとかありえないし。」

雪ノ下と由比ヶ浜は心なしか安堵の表情を見せた気がした。

「お、おう・・・。という訳で明日はなしな。」

「えー、じゃあ日曜日は?」

「無理だ。二日間の休みで俺が二日間とも休めないとかありえない。だから無理だ。」

「えー、そんな理由!?」

「そんなってお前・・・すごい大事なことだろ!土日両方休めないとか無理!絶対無理!」

「まあ、私も日曜日は少し予定があるから・・・。またいずれにしましょう。」

「うー・・・わかった・・・。」

「じゃあ、そういうことで。」

「ええ。では・・・今日の部活はこれで終わりにしましょうか。」

「あ、ヒッキー?明日サキサキとどこ行くの?」

「え、なんでそんなこと聞くの。」

「いいじゃん!教えてよ!」

「・・・ららぽーと・・・。」

「何時待ち合わせ!?」

「なんでそんなこと聞くんだよ・・・。」

「比企谷君、答えなさい。」

「11時です・・・。」

相手が由比ヶ浜なら反抗できるが雪ノ下だとイマイチ勝てる自信がないので素直に答えてしまう。

どうやったら雪ノ下に勝てるんだろう・・・。

「じゃー、ゆきのん。明日ゆきのん家行っても良い?」

「え、ええ。良いけれど・・・。」

「じゃあ決まりね!また夜メールするから!」

「わかったわ。」

「あのー・・・何か疲れた。帰って良いか?」

「うん!良いよ良いよ!帰って帰って!」

「え、由比ヶ浜さん・・・」

「帰ってって・・・。まあ良いか。じゃ、また来週な。」

「うん!じゃーねー!」

「え、あ、さよなら・・・」

俺は教室から出る。

何であいつら明日の予定事細かに聞いてきたんだ・・・。

でも明日は雪ノ下の家で遊ぶみたいだし、付いてくるってことはなさそうだ。安心した。

べ、別に明日川崎と何かやましいことがあるわけじゃないから全然良いんだけどな!

 

その頃、八幡が出て行ったあとの部室では・・・

「ゆきのん!」

さっきまで座っていた由比ヶ浜が突然立ち上がる。

「な、何かしら急に・・・。」

「明日10時半にららぽーとに着くようにゆきのんの家に迎えに行くから!」

「え?由比ヶ浜さん・・・。もしかしてあなた、ついていくつもりなの?」

「ついていくんじゃないよ!後ろで覗くだけだよ!」

「ほとんど一緒だと思うのだけれど・・・」

「ゆきのんは興味ないの!?ヒッキー明日デートなんだよ!?」

由比ヶ浜は雪ノ下に詰め寄る。

「・・・きょ、興味なんてないわ・・・。ただ・・・由比ヶ浜さん一人だとその・・・かわいそうだから付いて行ってあげるわ。わ、私は興味ないのよ?ええ。比企谷君が休みの日に誰と出かけようが関係ないもの。そう。私には関係ないわ。ただ由比ヶ浜さんが気になっているようだし、それに奉仕部の部長として部員が女の子に変なことをしないか見張っておかないといけないものね。だから明日は私も行くわ。」

「ゆきのん・・・バレバレだよー?」

由比ヶ浜は少し苦笑いしながらそう言った。

「い、いったい何の話かしら・・・。」

雪ノ下は見透かされているのが恥ずかしいのか、目線を外した。

「あ、小町ちゃんも誘っちゃおうかなー!?あとで電話しとこっと!」

「楽しそうね・・・。」

 

「ただいまー。帰ったぞー小町ー。」

「あ、お兄ちゃんお帰りー。ご飯にする?お風呂にする?それとも小町?」

う・・・うぜえ・・・。何なら小町にしてみるか。反応を見てみたい。

「じゃあ小町で。」

「えっ?ま、まさか返されると思わなかったから先は何も考えてなかったよ・・・。」

小町の顔が少し赤くなる。

「いや、そこは考えとけよ・・・。」

「忘れなかったら今度考えておくねー!」

「それ絶対考えない人のセリフだよな・・・。飯の時間になったら呼んでくれ。寝るから。」

「はいはーい。」

「あ、小町。そういや明日俺出かけるから。昼飯いらないわ。」

「え、もしかしてデート!?誰と行くの?結衣さん?雪乃さん?」

「川崎。」

「えっ?」

小町が固まった。

「何でどいつもこいつも同じ反応なんだよ・・・」

「川崎って大志君のお姉さんの?」

「ああ。」

「なんで!?なんでお兄ちゃんと大志君のお姉さんが!?」

「いや、最近あいつに弁当もらっててさ。その礼に。」

「こ、小町の知らないところでいつの間にかに新ルートが開拓されているなんて・・・。」

小町はうなだれている。

「なに言ってんだお前・・・。まあ、そういうことだから。」

そう言って俺は着替えの為に自分の部屋に向かう。

今日は何だかとても眠い。

昨日は別に夜ふかししたわけでもないのに。

何で人間ってすぐに眠くなるんだろうな。わからん。

そんなことはあれだな、神のみぞ知るなんたらってやつだな。女神見つけたらわかるかな。

そんなくだらないことを考えながら着替えを済まし、俺は眠りについた。

 

八幡が眠りについてしばらくした頃、小町の携帯が鳴った。

「はいはーい小町ですよー?」

「あ、小町ちゃん?今大丈夫?」

電話の主は由比ヶ浜だった。

「はいー!大丈夫ですよー!あ、もしかして明日のことですかー?」

「え、小町ちゃんなんで知ってるの!?」

「いや、さっき兄から聞いたんで。まさか結衣さん・・・こっそり覗きに行こうだなんて考えてます?」

「ええ!?小町ちゃんなんでわかるの!?」

「いやー、なんとなく想像つきました・・・」

「ははは・・・。で、明日小町ちゃんも一緒に行かない?」

「行きます!行きます!小町もすっごい気になるんでー!あ、雪乃さんもいるんですか?明日?」

「うん!ゆきのんも行くよー。あ、ヒッキーたちの集合場所とか聞いてあるから。私達の集合場所と時間あとでメールするね!」

「いやあ、楽しみですねー。じゃあよろしくお願いしますぅ!ではまた明日!」

「うん、じゃーねー小町ちゃん。」

 

電話が終わり、小町は呟く。

「お兄ちゃん最近モテモテだなあ・・・。今のところ将来のお義姉さん候補は3人かな・・・?んー、どの人も良いけど・・・。でも大志君と義兄妹になるのはちょっと小町的にポイント低いなあ・・・。」

 

次の日、俺が起きると小町は既に家にいなかった。

置き手紙を見る限り同じクラスの女の子に遊びに誘われたから行ってくるようだ。

男の子じゃなくて本当に良かった。

そして俺は朝食を食べ身支度をして家を出る。

集合時間より15分ほど早く着きそうだが良いか。

15分前行動は基本だからな。

後は待ち合わせに15分前に行ったら「えらい!15分前行動!」って言ってくれる女の子がいれば完璧だ。

懸垂しながら告白すれば良いのかな。

音楽を聞きながらくだらない妄想。これで時間は随分早く過ぎる。

気がついたらあっという間にららぽーとに着いていた。

そして待ち合わせの場所に着き、周囲を見渡すがまだ川崎は来ていなかった。

待ち合わせまではまだ時間がある。得意の人間観察でもしよう。

そう思い俺は目の前を通る人を眺めていた。

 

10分程経ったろうか、人間観察にも飽き始めたところ、急に右耳のイヤホンが外された。

思わず右側を見るとそこにいたのは川崎だった。

「悪い。待った?」

「俺が早く来ただけだ・・・だから・・・」

俺は川崎に違和感を覚えた。

何かが違う。川崎だけど俺の知っている川崎じゃない。

「なんだよ・・・人の事ジロジロ見て・・・。」

その時俺は気付いた。違和感の正体に。

「お前・・・今日は髪下ろしてるんだな。あと化粧もいつもと違うな。」

いつもはポニーテールの川崎だが今日は髪を下ろしている。

しかし、これが見事に似合っている。

そして柔らかい印象を受ける化粧のおかげでいつもの不良っぽいイメージが緩和されている。

こうして見ると川崎って結構かわいいんだな。いつもこうしてれば良いのに。

「よ、よくわかるな・・・」

「いや、毎日隣の席にいるんだし、わかるだろ。」

「そ、そう・・・。」

「あと・・・その・・・なんつーか、似合ってる。」

「なっ・・・!?・・・あ、ありがと・・・。あんたは・・・いつもと変わらないね。」

「まあ、俺は髪型変えるとか化粧とかできないし。」

「じゃ、じゃあ今度、私がやってやるよ。うまくできるかはわからないけど。」

「い、いいよ別に・・・ほら、服見るんだろ、行こうぜ。」

そう言って俺は歩き出す。

「あ、ちょっと!」

川崎も追いかけてくる。

「ほらほら、置いてくぞ。」

 

その頃小町、由比ヶ浜、雪ノ下の3人は遠くから八幡を見ていた。

「あ、ヒッキー来たよ!」

「ちょっと由比ヶ浜さん、声が大きいわ。」

「大丈夫!ヒッキーイヤホンしてるし。」

「それにしても、15分前行動かー。お兄ちゃんポイント高いなー。」

「あ、あれサキサキじゃない?」

「川崎さんってあんな感じだったかしら・・・」

「何か雰囲気が違いませんかー?小町の気のせいですかね・・・。」

「あ、ヒッキーのところに!やっぱりあれサキサキだよ!」

「沙希さん気合入ってるんですねー。」

「うん、あんなサキサキ始めて見たよ・・・。」

小町と由比ヶ浜は目を丸くしている。

特に由比ヶ浜は川崎を普段学校で見ているだけあって驚きが大きい。

「まあ、私達も今日は少し違う格好をしているけどね・・・。」

「いやー、それは気づかれない為しょうがないというか・・・。」

今日の3人はギリギリまで接近する為に変装をしている。

定番の帽子とメガネはもちろんだが、由比ヶ浜プロデュースで化粧をし、少し雰囲気を変えている。

さらに由比ヶ浜と小町においては黒髪ロングのカツラまでしてきていて注意深く見ないと気づくのは難しいようになっている。

由比ヶ浜さんはよくカツラを持っているわね。2つも。」

「いやー、バイトの面接とか黒髪の方が印象良いし・・・。」

「やっぱりそういうものなんですねー。勉強になりまーす。」

「小町ちゃんが髪染めたらヒッキー怒りそうだなー・・・。」

「それにしても・・・二人は何を話しているのかしら・・・。盗聴器でも仕掛ければ良かったわね。」

雪ノ下がさらりとすごい事を言う。

「雪乃さんそれはちょっと・・・。」

「うん・・・それはさすがにやりすぎというか・・・」

小町と由比ヶ浜は少し引いている。

「じょ、冗談よ・・・。」

雪ノ下は恥ずかしいのか下を向いた。

「あ、ヒッキー達行っちゃうよ!行こう!」

八幡と川崎が動き出したのに気づき、3人も後を追った。

 

「なぁ、行きたい店とかあるのか?」

「いや、特に決まってないけど・・・。」

「じゃ、適当に良さそうな店に行くか。」

「う、うん・・・。」

「まぁ、俺はお前の3歩後ろについていくだけだから」

「いや、隣に並んでよ・・・」

「お、おう・・・。良いのか。」

「当たり前でしょ。じゃないと2人きりでこんなとこ来ないよ。」

「そ、そうか・・・。」

並んで歩く二人。会話は決して多くはない。

 

「あ、そこ入ろう。」

川崎が店に入っていく。

何か英語で書いてあるけど全然読めない。

ブランド名って意味わからない読み方するの多すぎるでしょ。

もうちょっとわかりやすくしてくれよ。

ブランドの話してて読み方を間違ってバカにされるでしょ。

 

「うーん・・・これどうかな?」

川崎が見せてきたのは白ベースのセーター?っぽいもこもこした服。

結構長い。どんだけ胴長の人用に作られてるんだこれ。

女子の服はやっぱりわからん。

「良いんじゃないか。てか、お前白好きなのか。今日もベースは白のワンピースだし。」

「ま、まあ・・・一応・・・。それにアレンジもしやすいし・・・。」

「そうか。まあ・・・お前、白似合ってるし、良いと思うぞ。」

「あ、あんた今日はやけに褒めてくるな・・・」

「べ、別に・・・思ったこと言っただけだ。深い意味はねーよ。」

「そ、そう・・・。ちょっとこれ試着してくる・・・。」

「おう。」

川崎が試着している間、俺は試着室の前で待っている。

ブコメならここで俺が試着室のカーテンを開けて着替えの途中の川崎とご対面なのだろうが、そんなことは現実ではまずありえない。

普通どうやったらそんなこと起きるんだよ。おかしいでしょあれ。

いや、やってみたいけど。すごい興味あるけど。

そんなことを考えていると、カーテンが開いた。

 

「ど、どう・・・?」

胴長の人が着るもんだと思っていた服は川崎の太ももの真ん中あたりまでの長さまである。

肩のところは少し緩め、袖は少し長いように見える。

しかしこの服、下はどうなってんだ。まさか下着がすぐにこんにちはするのだろうか。

「それ・・・サイズ合ってるか?あと下どうなってんの?」

思わず聞いてしまう。

「ああ、こういう服なんだよ。下はショーパン履いてるから大丈夫。」

「そ、そうか・・・」

川崎は平然と答えるものだからこっちが恥ずかしくなった。

「あ、下はすぐパンツだと思った?」

川崎はニヤニヤしながら聞いてくる。

「なっ!?そ、そそそんなことい、い、言ってないだろ!」

すごい噛んでしまった。余計に恥ずかしい。

「その割にはすごい動揺してるぞ・・・。」

「ど、動揺なんかしてねーし!で、買うのか?それ。」

こういう時は話をすり替えるのに限る。

「そうだな・・・どう思う?似合う?」

「・・・似合うと思うぞ・・・。」

「そう・・・じゃあ買う。」

そう言って川崎は試着室のカーテンを閉めた。

 

 

会計を済ませ、店を出る。

その後は店に入って良さそうなのがあれば試着して、俺が似合う似合わないを判断し買うという流れだった。特に似合わない服がなかった為ほとんど買っていたが・・・

「なあ、お前そんなに買って大丈夫なのか?」

「まあ、全部1000円しないやつだし。」

「え、そうなの?」

「うん、あんまり高いの買えないし。あと悪いね。全部持ってもらって・・・」

「なに、こういうのは男の仕事だ。気にすんな。」

「う、うん・・・」

「それにしてもお前・・・結構家庭的だよな。」

「な、なに急に!?」

「いや、料理は上手いし裁縫はできるし金使い荒くないし。」

「そ、それくらい普通・・・」

「それが普通じゃないんだよ。俺の知り合いにはそんなやつ雪ノ下しか知らん。」

「あんた・・・あたしの他に女子の知り合い何人いるの?」

「両手で数えられるくらいは・・・まず小町。後は・・・雪ノ下、由比ヶ浜、平塚先生・・・は女子じゃないから違うな。あとは・・・雪ノ下姉・・・は一応ありとして・・・海老名さん、三浦、城廻先輩・・・あと誰かいたかな。」

「真っ先に妹の名前が出てくるとかほんとにシスコンだな。」

「じゃあお前も男子の知り合い数えろよ。」

「そうだな・・・大志、お前・・・あと誰かいたかな。」

「お前・・・俺より重症じゃないか。このブラコン。」

「しょうがないだろ・・・。普段学校で話す男子とかあんた以外いないんだし。」

「あれは、葉山は?お前がバイトしてる時に葉山お前のとこ行っただろ。」

「そうだっけ?全然覚えてない・・・」

「そうですか・・・。」

「なぁ、昼はどうする?そろそろ飲食店も空いてきたところだけど・・・」

時刻は2時を過ぎたところ。混雑している飲食店もそれなりに空いてくる時間である。

「そうだな・・・お前何か食いたいものあるか?」

「その・・・笑うなよ・・・?」

「え、なに。そんな変なもの食べたいの?」

笑うなよと言われると変なものとしか考えられない。

「い、いや・・・普通・・・むしろ定番なんだけど・・・」

「まあ、言ってみろよ。笑わない自信はないけどな。」

「・・・ム・・・ス。」

「え、何?もっと大きな声で喋れよ。」

「お・・・」

「お?」

「オムライス!」

川崎は顔を赤くしてそう言った。そして言った瞬間恥ずかしいのか下を向いた。

「ああ、オムライスか。普通じゃん。なんで笑うなよとか言うんだよ。」

「だって・・・子供っぽいし・・・」

「そうか?オムライスは大人も子供も大好きな食べ物だろ。」

「で、でも私のイメージとは合わないんじゃないか・・・?」

「まあ、それはそうかもしれんが・・・それがどうした。イメージなんか関係ないだろ。周り気にする方がお前らしくないぞ。」

「そ、そう・・・。」

「じゃあ、行こうぜ。オムライス食いに。」

 

「お兄ちゃん達ちゃんとデートしてますねー・・・。」

「そうね。しっかり比企谷君が荷物を持っているし・・・。」

「うー・・・なんか・・・なんかもう!」

「でもお兄ちゃんがデートって思ってないんですよねぇきっと。」

「本人もデートじゃないって言っていたし・・・きっとそうね。」

「ヒッキーほんとに鈍感だから・・・どうしたら良いんだろ・・・」

「どうもこうも・・・当たって砕けるしかないんじゃないかしら。」

「そこで砕けちゃうんだ!?砕けたくはないんだけどなあ・・・。」

「うちの兄がほんとすいません・・・。」

「あ、ねえ、そろそろご飯食べに行くんじゃない!?」

「そうね・・・どこに行くのかしら・・・。それと、いくら変装しているとはいえ、飲食店の中に入るのはさすがに危険だと思うのだけれど・・・。」

「そうですねー。とりあえずどこに入るのか確認しましょう!」

 

俺達が向かったのは人気オムライス店。

値段は少し高いがとても人気がある。

昼飯時には行列ができるほど。

混雑のピークが過ぎた今でも少し並んでいる。

「まだ並んでるな・・・。まあ良いか。」

俺は受付のところに名前を書く。しっかり禁煙席。

「別に喫煙席でも良いのに・・・」

「いや、何か喫煙席って好きじゃないんだよ。飯にタバコの匂いついたら最悪だろ。」

「まあ・・・それは確かに・・・。」

それから10分程の待ち時間で俺達は店内に入ることができた。

席に座り、対面。そしてメニューを開き考える。

「なあ、川崎。何にするか決めたか?」

「そうだな・・・ダブルソースオムライスのSにする。あんたは?」

「俺はカニクリームコロッケのハヤシソースのSだな。」

「へえ、それも美味しそうだね・・・」

「なんだ、半分半分にするか?コロッケはやらないけど。」

「え、良いの?」

「ああ、コロッケはやらんぞ。」

「わかったから。コロッケは良いから。」

「じゃあ決まりな。」

そうして呼び出しボタンを押す。

「ご注文お決まりですか。」

「ダブルソースのSとカニクリームコロッケのハヤシソースのSを一つずつ。あと取り皿二つください。」

「かしこまりました。ダブルソースのオムライスのSがお一つ。カニクリームコロッケのハヤシソースのSがお一つ。取り皿がお二つですね。では少々お待ちください。」

 

「ねぇあんた。由比ヶ浜や雪ノ下とも二人で出かけたことあるの?」

「え、なに急に。まあ・・・あるけど。」

「やっぱりあるのか・・・」

「それがどうしたんだよ・・・」

「いや、なんでもない。」

それから妙に気まずくなり、オムライスが来るまで俺達は一言も話さなかった。

 

「お待たせ致しました。ダブルソースのオムライスのSのお客様。」

「はい。」

「こちらカニクリームコロッケのハヤシソースのSです。」

「ども。」

「取り皿はこちらに置いていきますね。何かあればお呼びください。ごゆっくりどうぞ。」

そして俺達は自分のオムライスの半分を取り皿に移した。

「なるほど、この手があったか・・・」

川崎はダブルソースなので半分にするのは難しいだろうと思っていたら川崎は横に半分に切っていた。

取り皿には横に長い半分のオムライス。

「え、何。何か間違った?」

「いや、間違ってないはずだ。ただ俺にこの方法は思いつかなかったんだ・・・。」

「じゃあどんな方法を考えてたの?」

「何も思いついてない。こんな数学的なこと俺には無理だ。」

「数学って言うより算数じゃない・・・?」

「良いんだよ。細かいことは。食おうぜ。」

俺達は目の前のオムライスを食べ始める。

「美味い。」

「美味しい。」

完全に感想を言うタイミングが重なった。

「さすが人気店だな・・・。」

あんなに行列になる理由がわかった。

たかがオムライス。されどオムライス。

卵料理は奥が深い・・・。

「あんたが頼んだやつも美味しいよ。」

「うん。ダブルソースも美味い。」

そう言葉を交わした後、お互い無言で食べ始め、一言も喋らないまま食べ終わった。

食事とは本来、喋りながらするもので、目の前の食べ物に正面から逃げずに立ち向かう。

それが正しい食事ではないだろうか。あくまでも俺の持論。

小学校とか中学って給食で皆同じ物食べてるはずなのに女子が食べる遅いのは喋ったりしてるからじゃないだろうか。

その証拠に俺みたいに誰とも話さないやつは食べ終わるのが早い。

一定の時間までは教室から出ちゃいけないからすごく気まずいんだよなあ。

なんで班ごとに机くっつけて食べるんだよ。みんな後片付け押し付けようとしてくるし。

ほんとにあれ廃止にしろよ。誰だよあんなこと考えたやつ。

 

食べ終わった後、川崎が口を開いた。

「あんたが今なに考えてるか当ててやろうか。」

川崎は少しニヤニヤしている。

「おう。やってみろ。」

「妹にも食べさせたいなぁ・・・でしょ!」

ニヤニヤにプラスして少々ドヤ顔っぽくなっている。

普段のクールな一匹狼のイメージからは想像もつかない。

「そう考えるってことはお前が大志に食べさせたいと思ってるんだな。」

「なっ、そ、そんなこと言ってないだろ。」

「いや、その考えに至るあたり、お前が同じ内容を考えていたと言い切って良い。なぜならお前は重度のブラコンだからな。」

「あんただって重度のシスコンだろ・・・。」

「ああ。だが俺が考えていたことはそれじゃないんだ。」

「え、じゃあ何考えてたの?」

「今日何かおもしろいTVあったかなあって。」

「・・・はぁ。」

川崎はため息をついた。

「おい、なんだ。なんでため息なんだよ。」

「あんた・・・バカじゃないの?」

「なんでバカ呼ばわりなんだよ・・・。」

「さて、そろそろ出る?」

「おい、話替えるな。」

「えーっと・・・私の値段は・・・」

川崎は伝票に手を延ばす。

「いや、今日は俺払うから良いよ。」

川崎より先に伝票を取り俺はそう言った。

「え、いいよ。自分の分は自分で払うし。」

「良いんだよ。いつも弁当もらってるし。このくらいおごらせてくれ。」

「・・・わかった。なら何か頼もうかな・・・。」

「さて、レジ行くわ俺は。」

そう言い残し、俺はレジで会計を済ませた。

 

 

「ヒッキー達どこ入るんだろ・・・。」

「お兄ちゃんが好きなのはラーメンですけどねー。」

「まぁ、彼のことだから川崎さんの行きたいところに行くのでしょうね・・・。」

「あ、オムライスの店の受付で名前書いてますよ!」

「サキサキオムライス好きなんだー。意外。」

「お兄ちゃんも結構好きですよ?私もよく作りますし。」

「二人とも並んだし・・・恐らくしばらくはここから動かないわ。だから今のうちに私達も昼食を摂ったらどうかと思うのだけれど。」

「そうしましょうか!手軽に食べれるハンバーガーとかにしましょう!」

「うん、そーだね!そうしよそうしよ!あっちにあるし!さっき通った時結構席空いてたよ!」

「では、行きましょう。あまりのんびりはできないわ。見失っては困るもの。」

 

店から出た俺と川崎。

「なぁ、これからどうする?どっか行きたいとこある?」

「うーん・・・特にないかな。もう買い物も済んだし。」

「じゃあ帰るか?」

「ねえ。あんたは服とか欲しいものないの?」

「ないな。服なんて着れたら良いと思ってるし。」

「高校2年生なんだから少し気使うとかないの?」

「ない。まったくない。」

「はぁ・・・。あ、じゃ、じゃあさ・・・今度私が作ったら着てくれる?」

「え?ああ。良いけど・・・。」

「よし、じゃあ今から私の家に行こう。」

 

「え?な、なんでそうなる。」

「だって採寸とか必要だし。」

少し慌てた俺に対して川崎は真顔で答える。

「それにほら、サイズ間違えたりしたくないし。」

「わ、わかった。でも良いのか?」

「え、なにが?」

「いや、いきなり行って。部屋散らかってたりしないの?」

「掃除はこまめにする方だから大丈夫だよ。」

「そうか・・・。わかった。案内よろしくな。」

家にサイズ測りに行くだけだ。何かやましいことがあるわけじゃない。

断る理由もないし俺はOKした。

「う、うん。じゃあ行こう・・・。」

 

昼食を終え、オムライス店の前に戻ってきた小町、由比ヶ浜、雪ノ下の3人。

「お兄ちゃん達まで中にいるかなー?」

小町が中を覗こうとする。しかし中はよく見えない。

「私達がここを離れてから15分も経っていないし平気よ。今料理を作っているか、丁度届いたくらいだと思うわ。」

「あ、じゃああそこのベンチに座って待ってようよ!」

由比ヶ浜がベンチを指差し提案する。

「そーですね!少し休憩ということで!」

「さっきの昼食は休憩に入らないのかしら・・・」

「まぁまぁゆきのん、細かいことは言いっこなしだよ!」

それから数十分後―

「あ、お兄ちゃん達出てきました!」

小町が八幡と川崎を見付ける。

「これからどうするんだろー。」

「お兄ちゃんなら帰る?とか言い出しそう・・・」

「比企谷君なら十分に有り得るわね・・・。」

「あ、動きだしました!」

「あっちは出口・・・?やっぱり帰るのかなー?」

「一応・・・ちゃんと家に帰るか見届けましょう。場所を変えるだけかもしれないし。」

「じゃあ私達も行きますか!」

小町、由比ヶ浜、雪ノ下の3人は八幡と川崎の後を追った。

 

「ここがお前の家か・・・」

川崎家の正面に立って一言。そして周りを見渡す。

「そんなにジロジロ見ても何もおもしろくないよ。」

「いや、他人が見たらおもしろいかもしれん。」

慣れてしまうからこそ面白味を感じなくなったりするのだ。

一発屋芸人が消えるのは同じパターンのネタしかやらなかったりして飽きられてしまうからだ。だからこそ大事なのはフリートークなのだ。

あとは3年目の浮気。相手に慣れてしまい、最初の頃より愛情が冷めていくのだろう。

「で、何かおもしろいことあった?」

「いや、ない。」

本当に特に何もなかった。こういうこともあるだろう。

パラメータが普通すぎるとイベントは起きないのだ。

「・・・入ろうか。」

「・・・ああ。」

そして川崎に促されるまま俺は川崎家に足を踏み入れた。

「お邪魔しまーす・・・。」

「あ、今誰もいないから。」

「え、そうなの?」

「うん、ちょっと親戚の家行ってて・・・。今日は帰ってこない。」

「そ、そうか・・・。」

「べ、別に誰もいないから連れてきたわけじゃないからな!」

「なにそれ、ツンデレ?絶対確信犯でしょ。」

「え、何か言った?」

「なんでもないです・・・。」

川崎の目がとても怖かった。間違いなく狩られるレベル。

「ここがリビングだから、ちょっとソファーに座って待ってて。私部屋で準備するから。」

「おう。」

言われた通りソファーに座る。しかしただ座っても暇なので周りを見渡す。

目に入ったのは家族写真だった。

立ち上がり、写真を手に取る。

「これは・・・」

その写真は恐らく大志が中学入学時に撮ったであろう写真だった。

そして中学3年生の川崎沙希も写っている。

「何か・・・ほとんど変わんねえな。まあ、少し子供っぽいかなってくらいか。」

「あんた何してんの?」

そんなことを考えていたら後ろから声をかけられた。

 

「い、いや・・・別に・・・。」

しかし俺の手には写真立てに入った川崎家の集合写真。

「あ・・・あんた・・・それ・・・」

川崎の顔が赤くなっていく。

「あ、何か置いてあったからつい。」

「み・・・見るな!バカ!」

川崎は俺に近づき、写真を奪った。

「そんなに嫌か・・・?」

「だって・・・恥ずかしいだろ・・・。」

「そうか?別に今より少し子供っぽいだけじゃん。」

「私は恥ずかしいんだ!」

もう川崎の顔は完全に赤い。

照れから赤くなっているのだろうがこれ以上何か言うと照れが怒りに変わるかもしれない。

「へいへい・・・。で、もう良いのか?準備。」

「あ、うん・・・行こうか。」

 

川崎の部屋に入り、ベッドに座る俺。

女子の個人部屋に入ったのは初めてだ。

雪ノ下は一人暮らし、小町は妹だからノーカウントで・・・。

川崎の部屋はシンプルだった。しかし家具のデザインや配置を見るとセンスを感じる。

やっぱ自分で小物とか服とか作れるだけあってオシャレだな。俺はそう思った。

「で、何するんだ?」

「これでサイズ測るから。」

そう言って川崎はメジャーを取り出した。

「はい、立って。」

「おう。」

川崎に言われたまま立ち上がる。

「両手挙げる。」

「はい。」

俺が手を挙げると川崎はバストとウエストを測った。

それからは首だったり腕の長さだったりを測り、ほんの数分で作業は終わった。

「はい、これで終わり。」

「お疲れい。」

「ちょっと飲み物持ってくる。麦茶で良い?」

「ああ。悪いな。」

「あ、私がいない間部屋の物漁るなよ!」

まるで漁れと言っているような言い方をして川崎は出て行った。

「さて・・・」

俺は立ち上がって部屋をぐるぐる見渡す。

漁らなければ良いんだ。触らないで見る分には問題ない。

しかし、事前に隠したのか、おもしろそうなものは何もなかった。

「何してんの・・・?」

一通り見た後、川崎が帰ってきた。

「いや、漁るなって言われたから何かないかなーって見てた。」

「座って待ってろって言うべきだったね・・・。」

「まあ、表面上しか見てないから何もなかったよ。」

「それは残念だったね・・・。」

何か弱みでも握れるものがあったら良かったのに。本当に残念だ。

「そういや、俺がすることってまだ何かあるか?」

「え、いや・・・特にないけど・・・。」

俺は時計を見る。時刻は17時。外はもう暗くなってきている。

「じゃ、俺は帰るかな。もう夕方だし。」

「あ・・・。」

「ん、どうした?」

「い、いや・・・なんでもない。今日はその・・・あ、ありがと・・・。」

「いや、俺もいつも弁当もらってるし・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

少しの間訪れる沈黙。

「じゃあ、帰るわ。」

「うん、駅まで送るよ。」

「いや、道わかるし良いよ。それにもう暗くなるし。」

「じゃ、じゃあ玄関まで・・・。」

そして玄関に移動し、俺は靴を履き、振り返る。

「じゃあ、また学校で。」

「うん。また。」

そうして、俺の川崎家訪問は終わった。

 

「電車に乗ったとこまでは良かったんだけどね・・・。」

「そうですね・・・。」

「あなたたちが起きないのが悪いんじゃない・・・。私が何回起こしたと思ってるのかしら・・・。」

小町、由比ヶ浜、雪ノ下の3人は八幡と川崎が電車乗ったので同じ車両に乗るところまでは成功していた。

しかし、小町と由比ヶ浜は電車で眠り込んでしまい、八幡と川崎が降りる駅では雪ノ下が起こしても起きなかった。

そうして見失ったのであった。

「結局ヒッキー達どこに行ったんだろう・・・。」

「帰ったら小町がそれとなく聞いておきます・・・。」

「ええ、お願いするわ。後、起きれないなら電車で寝てはダメよ。」

雪ノ下の目と口調は冷たかった。

「すいませんでした・・・。」

「うー・・・ごめん・・・。」

 

時は流れ、12月24日。

世間一般ではクリスマスイヴとか言ってリア充が元気になる日だ。

しかし、そんな日でも平日であれば学校はある。

まぁ、今日は終業式だから学校は午前で終わるのだが・・・。

午前で終わってラッキー、早く帰れると思っていたらクリスマス一週間前に由比ヶ浜がカラオケパーティーとか言い出していた。

参加する気なんて全くなかったのだが・・・戸塚が来ると聞いた瞬間俺は手の平を返した。

由比ヶ浜、結局今日は誰が来るんだ?」

「えっとねー、私とヒッキーの他はゆきのん、さいちゃん、小町ちゃんの予定だけど・・・。」

終業式も終わり、俺と由比ヶ浜は二人で奉仕部の部室に向かう。

由比ヶ浜のことだから、いつもの様に三浦とかと話してから来るのかと思ったら今日は真っ直ぐ行くようだ。

「よし、あいつはいないんだな。」

「え、あいつって?」

「いや、良いんだ。あいつの名前を呼んではいけないんだ・・・。」

由比ヶ浜の誕生日会みたいに材木座が来たら・・・。

考えただけで恐ろしい。男同士のデュエットなんて俺は嫌なんだ。戸塚は別だけど。

「変なヒッキー・・・。」

由比ヶ浜は首を傾げる。

 

「やっはろー!」

由比ヶ浜が部室のドアを開ける。

「こんにちは。二人共。」

雪ノ下が既に中で待っていた。

「うっす。」

「比企谷君、今日は良かったのかしら。」

「え、何が?」

雪ノ下の言葉の意味が全くわからなかった。

「その・・・川崎さんとは・・・何もないの?」

「ゆ、ゆきのんっ!?」

「おい、なんでお前が慌ててんだよ。」

由比ヶ浜が急に慌てたので突っ込んでしまった。

なんでこいつが慌ててるんだよ。

「質問に答えなさい。比企谷君。」

「や・・・お前の質問の意味がいまいちわからないんだが・・・。」

「その・・・今日は川崎さんと出かけたりする予定とかはなかったの?」

「ないけど。まず俺あいつと出かけたことなんて1回しかないぞ。」

「え、そうなの!?本当に!?」

由比ヶ浜が急に入ってきた。

「ああ。本当だけど。別に二人で出かける理由もないし、予備校で会うし。わざわざ休みの日に会う必要もないだろ。」

「そっか・・・予備校では会うんだ・・・。」

「なぁ、そろそろ行かねえか?小町もそろそろ学校終わるだろうし。」

なんとなくこの空気が嫌だった。もうカラオケに行ってしまおう。そうすれば万事解決。

「あ、でもさいちゃん来てないし・・・。」

「戸塚ならさっきちょっと遅れて行くって言ってたぞ。」

「あ、そうなんだ。じゃあ行こっか。」

 

 

俺達がカラオケ店に入ると小町が既に中で待っていた。

「お、お兄ちゃーん」

「おう、早いな。」

「お兄ちゃん達が遅かったんだよ。」

「ごめんなさい・・・待たせてしまったかしら。」

「いえいえそんなことは!」

小町は全力で否定する。

「あれ、何か俺と雪ノ下で対応違うんじゃない?気のせい?愛情の裏返しだよね?」

「妹にい対して何を期待しているのかしらキモガヤ君・・・。」

「いやー、小町的には期待してもらってもー、全然それはそれでありなんですけどねー。」

「やっぱりこの兄妹間違ってるよ・・・。」

「いや、俺と小町は大丈夫だ。俺には小町に腹パンしてくるメガネの幼なじみもいないしな。」

「いったい何の話をしているのかしら・・・。」

「あ、私受付済ませてくるね。」

由比ヶ浜は受付に向かう。

「フリータイムでご予約の由比ヶ浜様ですね。人数の変更はありませんか?」

「あ、一人遅れて来ます。」

「では、もう一人の方が来られましたらフロントまでお電話お願いします。すぐにドリンク用のグラスをお持ちいたします。」

「はい。わかりました。」

「お部屋8号室になります。お時間10分前になりましたらこちらから電話しますので。ではごゆっくりどうぞ。」

「はい、ありがとうございまーす。」

由比ヶ浜が受付から戻ってくる。

「部屋、8号室だって!行こう!」

「はち・・・。比企谷君の名前と同じなんて何か良くないことがありそうね。」

「おい、8に謝れ。俺が悪く言われるのは良いが8が悪く言われるのは許せん。」

「ヒッキーまじ意味わかんない・・・。」

「まぁ、お兄ちゃんですし・・・。」

 

俺達がカラオケに入った後、一時間程で戸塚はやってきた。

そして今回は由比ヶ浜の誕生日会よりは全体的に歌うことが多かった。

食事してしゃべることが多いのは相変わらずだが・・・。

だが俺は戸塚とデュエットできた時点で満足なので文句は言わない。

「俺トイレ行くわ。」

「うん。行ってらっしゃい、八幡!」

「おう。行ってくるぞ戸塚。」

俺達がカラオケに入ってなんだかんだ5時間近く経っている。

フリータイムは19時まで。つまり後1時間はここにいることになる。

でも、決して嫌じゃない。むしろ、誰かと過ごすクリスマスも悪くない。

不覚にもそう思ってしまった。用を足しながら。

手を洗いトイレから出ようとした時、ズボンに入れていた携帯が振動した。

俺は携帯を取り出し、確認する。電話の相手は川崎沙希だった。

 

「あ、もしもし・・・」

「おう、どうした川崎。」

「今大丈夫?」

「ああ。大丈夫だが。」

「今何してたの?」

「カラオケ。由比ヶ浜と雪ノ下と戸塚と小町の5人でな。」

「そう・・・。あのさ、今日時間ある?」

「カラオケさえ終われば大丈夫だと思うけど。19時までは終わらないが。」

「じゃあ、20時に・・・。私の家に来る途中にある公園に来てくれない?」

「え、なんで?」

「なんでもいいだろ・・・。良いから来い。」

「もう命令系になってるじゃねーか。ああ。わかったよ。」

「じゃあ、また。」

川崎からの電話はそこで終了した。

電話越しではあったが、川崎の雰囲気が何かいつもと違う感じがした。

それにしてもなぜ呼び出されたんだろう。

でも、川崎にクリスマスプレゼントは買っていたし、渡す良い機会だ。

俺はそう思い、みんながいる部屋に戻った。

 

「あ、八幡やっと帰ってきた。」

部屋に戻ると戸塚がそう言った。

なに、俺のこと待っててくれたの?感動して泣きそうになるんだけど。

「悪いな。ちょっとトイレ混んでて。」

川崎と電話してた。そうは言えなかった。

別に川崎に対して何かやましいことを考えているわけじゃない。

しかし、このカラオケの後、俺は川崎と会う。

変に詮索されるのが面倒くさいからだ。

それに・・・わざわざ言うことでもないだろう。

 

その後の約1時間はあっという間に過ぎた。

俺達は会計を済ませて外へ出る。

「やー、今日は楽しかったねー!」

店から出た瞬間、由比ヶ浜が満面の意味でそう言った。

「そうね・・・私も楽しかったわ。」

「そうですねー!小町もとても楽しかったです!」

「うん、僕も楽しかった!・・・ん、八幡どうしたの?」

「え、いや。この後どうするのかなって。帰る?」

「僕は帰るよ。家族でクリスマスパーティーあるし。」

「私もー。ママとパパ待ってるし。」

戸塚に続いて由比ヶ浜が言う。

「私は特に用事も無いし、帰るわ。」

「小町も両親が今日はいつもより早く帰ってきて3人で外食するって言ってたので帰ろうかと!」

「そうか。じゃあここで解散ってことで。」

みんな二次会とか言わなくて良かった。

ここで二次会とか言われたら俺は川崎に会うタイミングを完全に逃してしまう。

「ヒッキー家族からハブられてるのはノーコメントなんだ・・・。」

由比ヶ浜が残念そうに言った。

「もう慣れてるんだよ。毎年そうだ。俺が行かないって言ったら次の年から誘われなくなったよ。まあ、親父が2千円くれるからむしろ良いんだ。」

「そ、そっか・・・。」

「はい、じゃあ解散。」

俺が解散コールをするとみんなは別れの挨拶をし、それぞれの方向に帰り始める。

その場に残ったのは俺と小町だけだった。

「じゃあ、帰ろっかお兄ちゃん。」

「悪い。先帰っててくれ。俺は今から行くとこあるから。じゃ。」

「え、なに?どこ行くの?ってお兄ちゃん?お兄ちゃーん!」

小町が何か言っていたが気にしないことにした。

 

 

時刻は19時30分。川崎が指定した時間からはまだ30分ある。

でも俺がその時刻に公園に着くと、川崎は既にベンチに座って待っていた。

俺は川崎のところまでゆっくりと歩いていく。川崎は気づいていない。

「20時集合じゃなかったのか?」

川崎から5mくらいのところで俺はそう言った。

「あ・・・」

俺を見つけた川崎は携帯を取り出し時計を見る。

「あんただって・・・。まだ30分も早いよ・・・。」

「カラオケ終わってすぐ解散だったからな。早く来れたんだよ。」

「そう・・・。」

「あ、まずこれ。貰ってくれ。」

俺は鞄の中から川崎へのクリスマスプレゼントを差し出す。

「クリスマスプレゼントだ・・・。お前にはあげないといけないと思ってな。」

「開けても良い?」

「ああ。」

川崎は俺が渡したプレゼントの封を開け始める。

そして―

「これ・・・ネックレス?」

「ああ。お前が気に入るかはわかんねーけど。なんつーか、これ見た瞬間、お前に似合いそうだなと思って・・・その・・・。」

「ねぇ」

「ん?」

「これ、付けてくれない?」

「は、俺が?」

ネックレスくらい自分で付けれるだろう。そう言おうとした。

「良いから。はい、これ。」

川崎に遮られ、更にネックレスを渡されてしまった。もう俺が付けるしかなさそうだ。

「わかったよ・・・。」

俺は川崎の後ろに移動する。

「じゃあ、付けるぞ。」

「う、うん・・・。」

俺は川崎にネックレスを付けた。

 

「ほれ、付いたぞ。」

「あ、ありがと。その・・・似合う?」

「ああ。俺が思った通りな。」

「そう・・・。」

「そういえば、お前は何で俺呼んだんだ?」

「あ、私もその・・・渡したいものがあって・・・。その・・・これ!」

川崎も持っていたトートバッグの中から袋を取り出した。

「私からの・・・クリスマスプレゼント。」

「あ、開けていいか?」

「うん。」

鞄を置き、袋を開ける。中に入っていたのはセーターだった。

「これ・・・」

「い、一応手編みだから。その・・・服作ってあげるって言ってから少し遅くなったけど・・・。」

「すげ・・・手編みなんて初めて貰ったよ。まあ手編みじゃないのも貰ったことないけどな。」

「そう・・・初めてか・・・。」

暗いのではっきりとはわからないが川崎が少し赤くなった気がした。

そして俺はコートとブレザーを脱いで川崎の横に置き、セーターを着た。

「あっ・・・」

「これすげえ暖かいな。サンキュー。その・・・大切に着る。」

「うん・・・。あんたも似合ってるよ・・・それ。」

「お、おう・・・。」

似合ってるとか普段言われることなんてまずないので照れてしまった。

そしてお互いに少し気まずくなり、沈黙が生まれる・・・。

「あのさ・・・」

川崎が口を開いた。

「あんた、由比ヶ浜や雪ノ下のこと好きになったりしないの?」

 

 「あ、なんだよいきなり。」

「いいから。答えて。」

「・・・今から言うこと、誰にも言うなよ。あと、とりあえず座ろうぜ。」

「うん。」

立っていると疲れる。実際そろそろ疲れてきた。

俺達はベンチに座った。

「あー・・・雪ノ下に対して憧れはある。でもそれは恋じゃない。」

「なにそれ・・・。」

雪ノ下雪乃っていう人間そのものに憧れてるんだよ。」

「よくわかんないけど・・・まあいいか。後、由比ヶ浜は?」

由比ヶ浜か・・・。」

俺は一度空を見上げる。

由比ヶ浜のことは、好きになりそうになったことは何度もある。」

「そう・・・。」

「でも、あいつは俺とは付き合っちゃいけないんだ。住む世界が違う。それに、俺があいつを好きでも、あいつは俺のこと好きにならないだろうし。」

「はぁ・・・」

川崎はがっかりしたようにため息をついた。

「え、なに?」

「いや、なんでもない。」

「お、おう・・・。」

「あのさ・・・私があんたに弁当あげてるのってなんでだと思う?」

「え?弁当作りすぎてるんだろ?」

「私がそんなに毎日毎日作りすぎると思ってるの?」

「だってお前・・・作りすぎたら持っていくって言ってただろ。」

由比ヶ浜や雪ノ下が苦戦するわけだ・・・。」

「え、何の話だよ。」

「なんでもない・・・。あのさ、もう先に言うけど、私あんたのこと好きなんだよ。」

 

「は・・・?」

好き?川崎が?俺のことを?

俺は川崎が何を言ったのか、一瞬わからなくなった。

「文化祭でさ、あんた私に愛してるぜって言ったろ。その時から何か気になってて・・・。」

俺は黙って聞く。

「席替えで隣になって、あんたには助かったって言ったけど、本当は嬉しかった。ここから・・・何か変われば良いって・・・。」

「川崎・・・。」

「弁当は、確かに1回目は作りすぎたから持っていったんだ。でもあんたがあの時また愛してるって言ったせいで・・・もう手遅れになった。あんたは何の気無しに言ったのかもしれないけど・・・。私は素直に嬉しかったんだ。私の気持ち・・・わかった?」

「ああ・・・。」

俺が言った2回の愛してる。それが原因で川崎は俺のことを好きになった。

でも2回とも本気で言ったわけじゃない。だから俺には川崎を勘違いさせてしまった罪がある。

本来なら、罪を償う為にここでしっかりと謝らないといけない。

「・・・すまん。確かに俺が言った2回の愛してるは本気で言ったことじゃない。それは謝る。本当に悪い。」

俺が謝った瞬間下を向いている川崎の目にぼんやり涙が浮かんだように見えた。

「でも、お前と隣の席になって、予備校でも話すようになって、弁当もらって、メールや電話するようになって、俺も・・・お前に惹かれてたんだよ。」

「・・・え?」

川崎は顔を上げ、ジッと俺を見る。

「川崎・・・今度は本気で言うから、ちゃんと聞いててくれ。」

「うん・・・。」

「好きだ。愛してる。だから・・・俺と付き合ってくれ。」

「・・・。」

川崎は黙っている。

「ダメか・・・?」

返事がない。川崎から好きだと言われているのに心配になって聞いてしまう。

「あんた・・・バカじゃないの・・・。そんなの・・・。」

そんなの・・・と言った後、川崎は目線を逸らし、一度を大きく息を吸った。

そして、俺の方を向き、涙目になりがならも、俺が今までに見た川崎の中で一番の笑顔で、最後にこう言った。

「良いに・・・決まってるでしょ・・・!」

 

―席替えは時として、突然に新たな道を作る。

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

席替えは時として、突然に新たな道を作る。

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