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沙希「….家族として、これからもよろしく」【俺ガイルss/アニメss】

子供の頃、テレビか何かで『恋は甘くて苦いもの』とか、そんな話を聞いたことがある。

 

 

幼心にそれを聞いた、あたしの率直な感想は、―――どうでもいい、の一言だった。

 

 

あたしにとって何より大切だったのは、妹や弟といった『家族』だったし、それは今も変わっていない。

それに、小学、中学時代の周りにいた男子なんて、みんなガキっぽくて興味もなかった。

 

 

……我ながら、随分とませていたと思う。

 

 

でも、それが当時のあたしの現実だった。

それに正直、長女として弟妹たちの面倒を見る日々から、そんなことに気を回している余裕もなかったし。

 

 

そして、そんなあたしも高校に入学し、一年を経て二年生に進級した時。

あたしは、そこで一人の変わった男に出会った。

 

 

―――比企谷八幡

 

 

目の腐った、そして性根も曲がった変な奴。

まぁ見た目の第一印象はともかく、出会った直後に聞いた、あいつの言うことには正直腹が立った。

 

 

将来の夢、専業主夫

 

 

……ふざけるな。

 

 

自身で働こうともせず、伴侶に働いてもらって得た金銭で、楽して生きようとするその姿勢。

それが、長女としてそれなりに苦労してきた自負のあったあたしには、理解できなかった。

 

だから、最初のうちは、比企谷に対する印象は最悪に近いものだった。

 

 

もっとも、あいつとの出会いなんて、その頃のあたしにとってはどうでもいいことだったけど。

というか、会ってすぐに顔も名前も忘れたくらいだったし。

 

そんなことよりも、あの時のあたしには、今まで以上に心身ともに余裕がなかったから。

 

 

将来、大学進学を見越した予備校の学費稼ぎ。

そのための連日連夜のアルバイトと学業の二重生活。

 

 

そんな生活が祟り、学校は遅刻がちになり、大切な家族、特に弟の大志には余計な不安を抱かせてしまった。

でも、あたしにはお金が必要だったし、大志が気にしているのはわかっていても、やめるわけにはいかなかった。

 

 

そして、そんな私の前に現れたのが、あの比企谷だった。

正確に言えば、雪ノ下雪乃由比ヶ浜結衣、そして比企谷の三人。

 

奉仕部とかいう奇妙な部活の連中。

 

 

もちろん、あたしは誰にもバイトのことを話してはいなかった。

でも、比企谷の妹、比企谷小町が大志と知り合いだったこともあり、そこから状況が知られてしまったらしい。

 

比企谷たちはあたしのバイト先を突き止めて、そこに押しかけてきた。

そしてその場で、雪ノ下は一般常識を踏まえた正論から私のバイトを否定してきた。

 

 

これは今でも思うけどね、―――そんなの、事情も知らない他人に言われるようなことじゃない。

 

 

あの生活は、あたしがあたしの目的のために、家族に負担を掛けないように、将来を見据えてやっていたことだから。

 

 

仮にもしあの時、比企谷からスカラシップのことを聞いていなかったら。

私は、たぶん、いや間違いなく、あの生活をずっと続けていたと思う。

 

 

そして、いつか―――潰れてただろうね。

 

 

どう考えても、あの頃のあたしは完全なオーバーワークだったし。

 

まぁ結局は、比企谷からそのスカラシップの話を聞いて、無茶なバイト生活からは解放されたんだけど。

その後は家族にも心配をかけることもなく、あたし自身も心身ともに随分と余裕のある生活を送れるようになった。

 

 

その点に関しては、比企谷たちには本当に、素直に感謝してる。

 

 

そして、この件を振り返ってみて、後から気づいたことがもう一つあった。

 

 

それは、あいつ、比企谷だけが、―――あたしの生活を頭から否定しなかった、ということだ。

 

 

比企谷は、その代わりに大志の心配とあたしの問題を同時に解消する方法を提案してくれた。

 

まぁ結果だけ見れば、比企谷はただ単にスカラシップの情報を教えてくれただけなんだけど。

でも、大志との対話の場を設けてくれたり、スカラシップの下調べとか、しこりが残らないように気も配ってくれた。

 

 

それが、よくよく思い返すと、まぁなんとなく、………ううん、すごく、胸が温かくなって、嬉しかったかな。

 

 

それに、この件でずっとテキトーな奴だと思ってた比企谷が、妹を、家族を大切に思ってる点で、あたしと同じだってこともわかった。

まぁ家族を大切にしない奴の方が珍しいだろうけど、それが妹の体験として聞けたのが大きかったかな。

 

 

それから、あたしは比企谷を少しずつ気にするようになった。

 

 

学校で、予備校で、あいつの姿を見かけては、無意識に目で追うようになっていった。

 

もちろん、いつも見てたわけじゃないけど。

ただ視界にあいつの姿が入ったときに、少しの間だけ、ぼーっと眺めるくらい。

 

 

今日はどんな顔してるんだろ、とか。

今日はいつもより疲れてそう、とか。

今日はいつもより目が腐ってる、とか。

今日はいつもより少しだけ楽しそう、とか。

 

 

……今思えば、これでも普通に恥ずかしいね。

 

 

まぁでも、正直言って、これはまだマシだった時期の話。

どうしようもなく酷くなったのは、やっぱりあの文化祭からか。

 

 

『愛してるぜ!川崎!』

 

 

心臓が、止まるかと思った。

あの時は、時間も、風景も、その一瞬に全部止まったかのように感じたかな……。

 

かと思ったら、今度は逆に心臓が一秒で十回くらい鳴ってるんじゃないかってくらいドクンドクンって激しく動き出して。

体温が一気に上がって、冷静じゃいられなかった。

 

顔も一瞬で熱くなって、たぶんあたし史上、一番真っ赤な顔をしていたと思う。

 

 

まぁ冷静に考えれば、いや、別に冷静に考えなくても、あれはあいつにしては少し珍しいけど、軽い冗談だったのは明白だった。

でも、あたしは信じられないくらいの衝撃を受けて、同時にひどく動揺した。

 

 

そして、あたしはその時になってようやく、自覚することになった。

 

 

あたし、川崎沙希は、―――比企谷八幡に生まれて初めての恋をしている、って。

 

 

もっとも、自覚したはいいものの、その後どうすればいいかなんてまったくわからなかったけどね。

 

最初にも言ったけど、恋なんてものには今までずっと縁がなかったから。

そもそも、あたしの柄でもなかったし……。

 

というか逆に、変に自覚してしまった分、あいつとの距離感をなおさら掴めなくなった。

 

 

学校とか予備校でせっかく目が合ったのに、ぷいっと目を反らしてしまったり。

何かの用事であいつが珍しく話しかけてきたのに、挙動不審になってしまったり。

ホントはあいつと話せて舞い上がるほど嬉しいのに、素っ気なく返してしまったり。

 

 

わかっていても、そんな態度を取ってしまうことに、いつも後悔してばっかだった。

まぁそれでも、あいつと話せた日は心が躍ったし、眠りに落ちる直前までそのことを思い返してたくらいだ。

 

 

……うん、今思えばもう重症だったかな。

 

自分の気持ちを自覚した後も、あいつと関わる機会は別段増えたわけじゃなかった。

けど、あいつといろんな場面で、いろんな会話をしたのは、今でも鮮明に覚えてる。

 

 

体育祭。

 

修学旅行。

 

生徒会長選。

 

保育園。

 

バレンタイン。

 

 

恋を自覚した直後の、二年生の思い出は特に数多い。

それに細かい部分まで、よく覚えてる。

 

 

体育祭では、あいつから突然衣装作りを頼まれて。

 

―――必要以上に気合を入れて、衣装を最高の出来にしようと頑張ってみたり。

 

 

修学旅行では、お化け屋敷を一緒に歩くことになって。

 

―――勇気を振り絞って、あいつの袖に掴まってみたり。

 

 

生徒会長選では、初めてあいつの弱ってる姿を目にして、そしてあたしの力を必要としてくれて。

 

―――あたしにできることなら、なんでも力になってあげたいと、家族以外の人に初めて思ったり。

 

 

保育園では、けーちゃんを迎えに行った時に偶然会って。

 

―――比企谷なら、良いお父さんになれるかもとか、考えてみたり。

 

 

バレンタインでは、けーちゃんと一緒にチョコレートを作って。

 

―――けーちゃんのチョコに、自分で作った本命を誤魔化して混ぜてみたり。

 

 

そして、それからも高校を卒業するまでの間に、ホントにいろんな出来事があった。

 

今思えば、あたしが鮮明に記憶している高校時代の思い出のほとんどに、比企谷がいる。

甘くて苦い、楽しくて辛い、そんな高校時代の思い出の日々。

 

 

でも、最後の最後まで、あたしは、―――自分の想いをあいつに告げることはなかった。

 

 

あれから十年、いよいよ明日、―――比企谷と雪ノ下が結婚する。

 

 

それは、今から半年程前にあたしの知るところとなった。

 

 

比企谷と雪ノ下は、高校三年のある時期に付き合い始めた。

そこに至るまでに、いろんなことが、本当にいろんなことがあったらしい。

 

けど、あたしはその詳細については何も知らないし、それはあたしには知る必要のないことだと思う。

ただ、風の噂によれば、比企谷が県議会議員の顔を持つ雪ノ下家に対して、随分な大立ち回りをしたらしい。

 

 

その結果、紆余曲折を経て、二人は付き合うことになったとか。

 

 

そして、あの二人が付き合っているという話をあたしが初めて聞いた時。

 

 

ああ、―――ついに付き合い始めたんだ、あの二人。

 

 

と、あたしは不思議なくらい、ホントに自分でも不思議なくらい、それを素直に受け入れることができた。

それはたぶん、心の底ではわかってたからだと思う。

 

比企谷が雪ノ下を、雪ノ下が比企谷を、他の人とは違う特別な想いでお互いを見ていたことに。

 

 

そして、それを認めたその瞬間、あたしの初恋は誰に知られることもなく、静かに幕を閉じた。

 

 

でも、それは全てが終わったということじゃない。

 

 

あの瞬間、あたしの初恋は、―――唯一無二の、永久のものになったんだ。

 

 

あたしは、そう思ってる。

 

 

そして、あたしとは別に、あの二人を語る上で、決して外すことのできない存在が、もう一人いる。

 

 

―――由比ヶ浜結衣

 

 

誰が見ても一目でわかってしまうくらい、わかりやすく比企谷八幡という男に純粋な好意を寄せていた存在。

 

そんな由比ヶ浜の現在は、というと―――。

 

 

『沙希、やっはろー(=゜ω゜)ノ!

もうすぐだね!ヒッキーとゆきのんの結婚式!\(^0^)/

結局、何時にどこで会おっか ヘ(゜゜ヘ)??』

 

 

まぁ少なくとも、こんなメールが来るくらいには、あの二人のことを祝福しているようだ。

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/08(月) 02:27:04.41

 

比企谷と雪ノ下が付き合い始めた時、奉仕部三人としての関係は、驚くことに大きく変化しなかったらしい。

もちろん、二人の関係が進展した以上、小さな変化はあったみたいだけど。

 

 

……正直に言って、あたしはあの三人の関係性が少しでも変化すれば、終わると思ってた。

 

 

男一人、女二人の関係性の中で、女のどちらか一方が男と付き合えば、それでその関係性は消滅するものだと。

でも、そんなあたしの予想を差し置いて、あの三人の関係は上手く保たれた。

 

それはおそらく、比企谷が雪ノ下を、雪ノ下が比企谷を特別に想うのと同じくらいに、二人とも由比ヶ浜のことを特別に想っていたからだろう。

そして、もちろんそれは、由比ヶ浜も同じことだったんだろう。

 

 

結果的に、あの三人は形として示したんだろうね、―――自分たちは本物だってこと。

 

 

……まったく、正直言って、妬ける、ね。

 

まぁあたしにだって、『家族』っていう本物があるけど。

 

 

「おーい、姉ちゃん。明日のお義兄さんの結婚式に着てくドレスとかの準備、もう大丈夫?」

 

「……ん。準備できてるよ。あんたこそご祝儀とかちゃんと準備した?」

 

「したした。ちゃんとこっちに………あ、あれ!?ないっ!?」

 

「……はぁ、あんたこそちゃんとしなよ」

 

 

……まったく、いつまでも世話が焼けて、そして世話を焼いてくれる弟だ。

 

そんな大志が、京華たちが、あたしの家族でいてくれて、本当に良かった。

 

 

まぁもうこの年にもなったら、口に出しては言ってやんないけどね。

 

 

「いやぁー、明日、ついにあのお兄ちゃんが結婚するんですねぇ……。

 なんか小町、もう今から明日までずっと泣いちゃいそうです……ぐすっ……」

 

「いや小町、それじゃ化粧とかまたできなくなるよ……。俺たちの結婚式の時だって、

 お義兄さんのあのスピーチからずっと泣きっぱなしで、化粧はぐちゃぐちゃで……あいたっ!」

 

「それは小町的にポイント低いよ、あ・な・た?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

……ねぇ小町、夫の実の姉の前での逆DVとかやめな。

あんた、やっぱちょっと凶暴性増した?

 

まぁ、あれほど自分にべったりだった兄が、雪ノ下と付き合ってから自分に構う時間が少し減ったんだからね。

 

 

小町もまた、少し兄離れをして変わったように思える。

 

 

……さて、まぁ今の会話からもうわかってるとは思うけどさ。

 

 

あたしの弟、川崎大志は、長年の想いが通じて、昨年比企谷小町と結婚した。

つまり現在、比企谷小町は、川崎小町としてあたしの義理の妹となっている。

 

 

そして、それはつまり、―――初恋相手の比企谷八幡が、あろうことかあたしの義理の兄ということだ。

 

 

……なんというか、人生わからないものだね。

 

 

だから、あたしが比企谷と雪ノ下の結婚を事前に知っているのは当然のことだ。

なにせ、大切な『家族』の今後だったからね。

 

少しだけ悪いとは思わなくもなかったけど、いろいろとあいつの世話を焼かせてもらった。

 

 

まだまだ家計が安定しないから、とか。

雪ノ下のご両親にどう挨拶したらいいかまだわからん、とか。

そもそも雪ノ下って俺と結婚したいのか、とか。

 

 

未だにそんなことを言い続けるダメ義兄に対して、―――。

 

 

うるさい、つべこべ言わずに結婚しろ。

 

 

と迫ったのが、実はあたしだったりする。

あと、由比ヶ浜もか。

 

 

まぁ、そんなことがあったのが今から半年以上前のこと。

 

 

そして、ようやく明日、二人は結婚を迎えることになる。

 

 

まったく、最後の最後まで世話の焼ける二人だった。

まぁもっとも、今回あたしたちが余計な世話を焼かなくても、近くこうなっただろうけどね。

 

 

なんてたって、あたしが初めて恋した男は、―――決める時には決める奴だしね。

 

 

……さてと、それじゃあ明日のために、あたしもそろそろ休むとしよう。

 

明日は楽しみにしていたお祝いの席、それに久しぶりに総武高同級生の連中にも会うわけだしね。

それに、寝不足で変な顔なんて、ばか義兄には見せられない。

 

 

……そうだ、最後に一言、結婚前夜で緊張してるだろうあいつに言っておこうかな。

 

 

From : 川崎沙希

To : 比企谷八幡

Title : 無題

―――――――――――――――――

 

 

いよいよ明日だね。

ちゃんと男らしく決めなよ、ばか義兄。

 

 

それとさ、この際だから一つ言っとくよ。

 

 

高校の時から含めて、色々ありがと。

家族として、これからもよろしく。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

――――ありがとう、あたしの初恋の人。

 

 

これからもよろしく、あたしの大切な―――

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

川崎「永久の初恋」

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