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雪乃「こんな恥ずかしい格好….絶対に嫌よ///」【俺ガイルss/アニメss】

その日はとても穏やかな日だった。

 

雪ノ下と由比ヶ浜は二人してファッション雑誌を読みながらわいわい言っており、俺はそれを横目に読書に励んでいた。

 

「あー!これかわいい!」

 

「そうかしら?このモデルの体型には似合わない気がするわ」

 

「だから!ゆきのんが着たら、だよ!」

 

「いえ、私はこういう派手な服は着ないから…」

 

うんうん、仲良きことは美しきかな。

会話に入れないので横目でちらちらと様子をうかがう。

 

い、いや、そもそもああいう頭の悪そうなファッション雑誌は嫌いだしな。

そ、そもそも、ゆるふわってなんだゆるふわって。

ふわふわしたものは放課後のティータイムだけで十分だ!

 

「そうだ!明後日の土曜日買い物行こうよ!」

 

「なにがそうだなの…」

 

「だって、このブランドららぽにもあるよ!ねぇいこうよゆきのん!絶対似合うって!」

 

「ちょっとあなた本当に着せるつもり?こんな恥ずかしい格好絶対に嫌よ」

 

おいどんな格好だよ。

イブニングドレスやメイド服にすんなり袖を通すこいつがこんだけ拒絶する服装とかバニーガールくらいしか思いつかんぞ。あとはあれか、パンさんぱじゃまか。

バニー姿の雪ノ下……ありっちゃあり。

て言うか、アリアリだった。

胸はナシナシだけどな。

こんなん本人に言ったらアリアリアリアリアリーヴェデルチされちゃうね。こわいね。

 

 

「ねぇ、ゆきのん……だめ?」

 

でったー!でましたー!ガハマさん必殺涙目上目遣いー!!

雪ノ下にこうかはばつぐんだー!!

 

「うぐっ……はぁ、わかったわ。着るかどうかはともかく、一緒に行きましょう」

 

「やたー!ゆきのんだいすきー!!」

 

「うぅ……暑苦しいわ離れてちょうだい……」

 

最近めっきり由比ヶ浜を甘やかしまくってる雪ノ下さんは、それでも顔を真っ赤にしながら毒を吐いた。

 

やーうん、そうだよね。買い物も二人のほうがいいよね。

一人よりも二人の方がいいって、昔の偉い人も言ってたもんね。

あれ、俺いつも買い物とか一人だぞ……

 

切なくなってきたので帰ろう……。

口笛吹いて帰ろう……。空には星が綺麗だといいなぁ……。

 

「ヒッキーももちろん暇だよね!?」

「へぁっ!?」

 

突然声をかけられて、宇宙の平和を守る一族みたいな声が出た。

ウルトラハチマン、ヘアッ!

 

「ヒッキーって私服アレだしさ、あたしとゆきのんで選んであげるよ!」

「いや、アレってなんだよ、アレって……」

「当然のように私はカウントに入っているのね……」

 

自分の発案にご満悦の由比ヶ浜に、逃げ腰のぼっちーズ。

そうだよなぁ、俺らぼっちにとっては「友達に服を選んでもらう」とか未知の領域だもんなぁ……。

 

「ヒッキーもさ、おしゃれとかにもうちょっと気を使ったほうがいいと思うよ。

 ……だって、元がいいんだからさ……」

「ん……」

 

由比ヶ浜の後半のセリフは聞こえないふりして、曖昧な返事を返す。訓練されたぼっちはこれくらいではびくともしない。

し、しないですよ?フヒッ。

 

「でも比企谷くんに似合う腐った色の服なんてあるかしら……」

 

「おい目が腐ってても服ぐらい普通でいいだろうが」

 

「目が腐ってることは否定しないんだ……」

 

だって変に否定すると雪ノ下さんどんどん畳み掛けて来るんだもん!

この場では平気だけど家帰ってベッドに入ってから「あれ、俺…ダメなのかな…」って気分になるんだもん!

枕を濡らした夜だって一度や二度ではないんだもん!!

 

「まあそうね。お店のほうもこの男にしか似合わない腐った服を作る理由はないものね」

 

「おい腐った服ってなんだ腐った服って」

 

「ヒッキー…きもいよ…?」

 

俺じゃねえよ!おい由比ヶ浜やめろ!その目はマジで傷つく!!

 

***********

 

「でもヒッキーって普段服どうやって買ってるの?」

 

由比ヶ浜が強引に話を変えてきた。たぶん、俺が傷ついてるのを察知してくれたんだと思う。ありがとう、そしてありがとう。でもそれならそもそも傷つけないで欲しいなぁ。

 

「あー、最近は自分で買ってるな。いつも同じとこだけど、安いのがあったら、って感じか」

 

「同じとこって?」由比ヶ浜の問いかけに、

 

ユニクロしまむら、イオン」ノータイムで返答する。

 

「うわっ……ヒッキーそれ…うわっ……」

 

おいなんだよはっきり言えよ。全部高収益企業だぞ。

 

「最近は、といったけど以前はどうしていたの?」

 

過去最大級のドン引き状態の由比ヶ浜の変わりに雪ノ下が質問を受け継いだ。

 

「ん、昔は小町と一緒に買いに行ってたんだけどな、俺が中二ぐらいの時に

「小町もうお兄ちゃんのセンスについて行けない…」

 って言われた。そっからしばらくは親が買ってきてたものを着てたか」

 

「そう、小町さんも苦労していたのね……」

 

ぐうの音も出ない。当時の俺のセンスは確かにぶっ飛んでた。

具体的に言うと、比較すれば材木座がおしゃれに見えるレベルだ。

 

だから俺は親切心でことあるごとに材木座に言ってやってるのだ。

 

その服装はやめとけ、と。

 

後悔するぞ、と。

 

お前のいる場所は我々中国拳法が2000年前に通過した場所だぞ、と。

 

「やだよぉ……ヒッキーがきもすぎるよぉ……」

 

由比ヶ浜さん、かわいそう……。大丈夫よ、この男は気持ち悪いだけで実害はないわ」

 

女性陣の引きっぷりがハンパなかった。

ていうか由比ヶ浜がこんだけ嫌悪感をあらわにするのは珍しい。

 

あー、あれか、やっぱりイマドキ女子()のこいつにはおしゃれに興味ないやつ、ってのは理解できないのか。

 

そもそもだ、自分を着飾ることでしか自分を主張できない、ってのが間違っている。

本当に主張すべき確固たる自分を持ってる奴は、自ずとその身から存在感が出るものなのだよ!

例えば眼とか。

眼とか!!

 

「うん…ぐすっ…ヒッキーを何とかできるのはあたしだけ……。

 あたしが何とかしてあげなくちゃ……ずずっ」

 

変な使命感に燃えている由比ヶ浜によって、俺の週末の予定は決まった。

 

ていうか泣くことないだろおい。

 

金曜の夜は金曜ロードショーをみる。それが俺のジャスティス

 

正義の心は周りに伝染するからか、小町もいつしか同じ習慣がつき、俺の部屋で二人で金曜ロードショーを見るのが比企谷兄妹の毎週のイベントになっていた。

 

今ひとつ盛り上がりにかける微妙なハリウッド映画を見ていると、携帯がぶるぶるとかまってアピールをしてきた。全く、仕方ない子だなぁ……。

 

「あした、11時に駅に集合ー!

ヒッキーねぼうしちゃだめだよ!(`△´)=3

あとお金もちゃんと持ってくること

ちゃんと小町ちゃんに相談してね☆

☆★ゆい★☆ 」

 

あー、そっか、そういえば明日あいつらと買い物だったな。すっかり忘れてた。

 

いや危ない危ない、あとからうっかり予定が入らなかったのは幸運としか言いようがないな、こりゃ。

 

しかし金かー、あいつも意外としっかりしてんな。

確かに言われなかったらいつもどおりほとんどオケラで行って、雪ノ下に土下座かましてたところだな。

あぁ、いけるいける。2、30分ゲザれば余裕っしょ?

 

とにかく小町に相談しろとの命令が下ったので素直に言うことを聞いておく。俺そんなに信用無いのかなぁ…。

 

「のう、小町さんや」

 

「なんですかな八幡さんよ」

 

大雑把なフリにもきっちりと返してくれる小町。

俺の妹がこんなに可愛い!

 

「明日わしゃあ部活の2人と買い物に行くんじゃが、ちょいとこれを見てくれんかいのう」

 

相談しようとしたはいいもののそもそも何を相談するのかよくわからずとりあえず携帯をそのまま見せる。

 

まさか妹に融資の申し立てをするわけにもいくまい。

養ってもらうのはもうちょっと先の話だ!

 

「にゃー!!ちょっとお兄ちゃんこれ!こっれっ!!」

 

メールを見た途端小町の拳が胸元に飛び込んできた。なにごと!

 

「痛い!叩くな!」

「叩くよ!」

「何で!!?」

 

さっきまでのよくわからないキャラを置き去りにして俺を叩き続けるマシーンと化した小町。

あのっ、ほんとにっ、痛いんでっ、やめてっ、くだっ、さいっ。

 

「お兄ちゃん!!!」

「はいっ!」

「財布出して!!!」

「はいっ!!」

 

最後に一発フルスイングをかました小町に、反射的に財布を差し出す。

痛いよぅ……普通にDVだよぅ……。

 

「むーん、これは……。お兄ちゃん、他にもあるでしょ?」

 

「あっ、えっと、通帳に一万ほど…」

 

完全にカツアゲだった。お兄ちゃんは小町ちゃんをそんな風に育てた覚えはないわよ!ばか!責任とって養って!!

 

「たったの……!

 ……しかたない。結衣さんと雪乃さんの前で恥をかかせるわけには……!」

 

そう言うなり俺の財布を床に叩きつけ小町は部屋を飛び出した。

 

こらっ!お金を粗末にしたら……あっ、そういえばこれ中にほとんどお金入ってなかったね。てへっ。

 

しばらくすると小町が騒々しく部屋に戻ってきた。

手には数枚のお札が握りしめられている。

 

「おい小町それ」

 

「お母さんに言ってもらってきたの!」

 

もらってきたってお前…

 

「「お兄ちゃんが明日とっても可愛い女の子二人と買い物行くの!服選んでもらうの!」って写メ見せながら言ったら、お母さん震えながらこれ差し出してきたよ」

 

「……言葉にならねぇ……」

 

多分これは怒っていい場面だけど、もらえるものはもらっておくことにした。あざす。

 

しかし未だかつてない金額だなおい

……そんな一大事なのか……。

 

「さてお兄ちゃん、ちょっと座りなさい」

「最初から座ってますが…」

 

「違います、正座です。当然床です」

「はい……」

 

若干めんどくさいテンションの小町。どうやら今日は逆らわないほうがいい日のようだ。

ていうかキャラに最近知り合った人の影響を感じる。氷の女王……。

 

「お兄ちゃんにとって明日は大事な一日です。絶対に負けられない戦いがここにあるのです」

 

うーん、アホのセリフだ……雪ノ下風なのにアホだ……。

 

「どうせ「ガハマさんが選んでくれるものにハイハイ言ってりゃいいんだろらーくちーん」とか考えてるお兄ちゃんは最低です。ごみです。ごみいちゃんです」

 

あぁ、女王からエスパーまで受け継いでる……小町が遠くへ行っちゃう……。

 

「そんなお兄ちゃんに小町が一から明日やることやっちゃダメなこと教えてあげるからね!」

「いや、あの別に」

「しゃらーっ!言い訳は聞きません!お兄ちゃん、今夜は寝かさないんだからね……」

 

小町の夜のマンツーマンレッスンはほんとに真夜中まで続いたのだった。

雪ノ下さんお願いだからもう妹に近づかないで!!

 

翌朝若干寝不足のまま駅へ向かうと、待ち合わせ場所には既に二人の姿があった。

 

ちなみに朝起きたら小町がベッドの上で俺をまたぐように立っていて、これはまさか人生相談かと身構えたら何のことはない。

単に俺の今日のファッションチェックだった。

 

とにかく小町プロデュースで服装を普段よりも若干マシ(小町談)なものにしてもらい、尻を蹴飛ばされて予定よりも10分も早く家を飛び出した。

ちなみにF組では「尻」と「痛い」は絶対的な禁句になっている。

 

「ヒッキーおっそーい!!」

 

「許してあげましょう由比ヶ浜さん、あの男はきっと時計が読めないのよ」

 

「遅刻はしてねぇだろ……」

 

雪ノ下の暴言を必死に聞いてない振りして、とりあえず二人のファッションチェック。

なに、ファッションチェックはやってるの?おすぎなの?ピーコなの?どっちが好きなの?

 

由比ヶ浜は淡いピンクのライダースに黒いレース生地のひらひらしたミニスカートとなんか柄のタイツ。ちょっとギャルだし、何より足が少し寒そうだ。

 

対して雪ノ下は少し大き目のキャメル色のダッフルコートに大判の柄物ストールをもこもこ巻いた格好だった。下はスキニージーンズってやつか。脚ほっそ。

 

「なんか、二人共普段と服装が違うな」

 

ふと口をついてでた言葉に二人が凍りつく。

 

「えっ、変…?」

「に、似合っていないかしら…?」

 

二人そろっておびえたようにこちらを向いてくる。やめろ、なんて顔してんだお前ら。

 

「普段と違うって言っただけだ。変でも似合ってなくもねーよ」

 

「……そっかっ」

「そ、そう。ならいいのだけれど…」

 

また二人そろって口元をもにょもにょさせる。なんなんだお前ら……。

 

とにかくこれで小町第一の指令「まず今日の服を褒めろ」はクリアーだ。褒めれてないって?バカ言え俺じゃあれが限界だ。

 

とにかくこんなところで立ち話をしていても何なので、さっさと電車に乗って移動することにした。

二人が随分寒そうにしていたしな。

 

……そんなに早く来てたのか?

 

「まず向こう着いたらランチかな!ゆきのん、何食べたい?」

 

「私は…そうね、洋食のほうがいいかしら。由比ヶ浜さんは?」

 

「あたしもイタリアン気分!じゃあ決まりだね!」

 

JR総武線に乗り、4人がけのボックス席に3人で座り、がたんごとんと揺られて南船橋まで。

当然のように俺が一人。……いや、まぁどっちかが隣に座ってきたら間違いなくおろおろするからこれでいいんだけどね?

 

由比ヶ浜は雪ノ下と遊びに行くのがそんなに嬉しいのかさっきからずっとハイテンションで喋りっぱなしだ。

こらっ、他のお客さんに迷惑でしょ!

あと足バタバタさせない!パンツ見えちゃうでしょ!

あっ、もうちょっとっ!!

 

「…………………………」

 

……こ、このケツの穴にツララを突っ込まれたような殺気は!雪ノ下!!

 

「てっ、て、ていうか俺の意見は聞こうともしないんだな…」

 

「だってヒッキーに聞いてもどうせ「別に…」とか「何でもいい…」とかしか言わないじゃん!」

 

うぐっ、た、確かに…

 

「その男にまともな意見を求めるほうが間違っているわ。

 ……どうせ話も聞かずに何かに夢中になっていたんでしょ。気持ち悪い」

 

そう言ってはしゃぐ由比ヶ浜のスカートの裾をそっと手で抑える。

ちょ、雪ノ下さんそれいっちゃらめ!

 

「?……( ゚д゚)ハッ!ひ、ひ、ヒッキーまじきもいし!ばか!変態!!きもすぎ!!」

 

「ばばばばっかおおおめぇななにかかかんちがいしてんだよよよ」

 

かんじへんかんきのうがせいじょうにはたらかないほどどうようするぼく。あわわわわわ。

 

「あら比企谷くん、汗だくね。どうかしたの?」

 

あの、雪ノ下さん…表情も口調も穏やかなのに膝をガツガツ当ててくるのやめてくれませんか……脚長いですね……よく届きますね……

 

「うー……ヒッキー……。あっ、そうだ!」

 

ぐぬぬ顔で俺を睨みつけていた由比ヶ浜が、突然立ち上がると自分の正面の空いた座席、つまり俺の隣に飛び込んできた。

 

びびった……車掌さん呼ばれるかと思った……。

 

「おいっ、が、ガハマさん何してんのっ」

 

「だって、こうすれば見ようと思っても見れないでしょ?えへへ、残念だったね、ヒッキー?」

 

自分のアイディアを誇らしげに発表しながらだらしない顔で笑う。

お、おい、そんなにくっつくなよ…

 

「ちっ…」

 

雪ノ下は雪ノ下で由比ヶ浜を取られた怒りからか膝をガッガッするペースをどんどん上げていく。あの……ただただ痛いです……。

 

結局、目的地の駅につくまでそのままの状態が継続された。

降りるときに、由比ヶ浜の体温が移ったせいか、右肩だけやたら暖かくなっていたことに気づいた。

 

ちなみに集中攻撃を喰らった左膝は完全にダメになってた。

もう俺ピッチには立てないよ……。

 

「ヒッキー!もう決まった!?」

 

「お、おう……」

 

ららぽことららぽーとに着くと予定通り昼食となった。もちろん多数決で可決されたイタリアン。なんてみんしゅてきなんだ。

 

少し時間が早かったせいもあってすんなり店内に入ると、適当にメニューを流し読みしてすぐに伏せた。男は黙ってペペロンチーノ!

べ、別にメニュー見てもよくわからなかったとかそういうことでは…ごにょごにょ。

雪ノ下もひと通りメニューに目を通すとすぐに決めたようだが、問題はその隣のアホの子だった。

 

「うー、うー。これいってみたいけど、でもやっぱりいつものこっちも……!」

 

さて、賢明なる男子諸君ならこの場面で、次来た時でよくね?と迂闊に言ってはならない。

何故ならこういう時に迷っている片方は大抵期間限定の冒険メニューだからだ。

下手にそんなこと言うとここぞとばかりにやいのやいの言われるのだ。ソースは小町。やいのやいのー!

 

「雪ノ下は決まったんだな?」

 

「ええ、これに」

 

雪ノ下はそう言ってメニューのラザニアの写真を指さす。

 

「えー!あたしだけ!?ちょ、ちょっとまっ」

 

「すいませーん」

 

「えっ、ちょっと、さっきご飯決めるときに無視したから!?ごめんって謝るからー!!」

 

わたわたしてる由比ヶ浜は一旦スルー。

右手を掲げて顔を上げてできるだけ明るい声を出す。

そこまでしないと店員さんに気づいてもらえないのだ。

 

あれスルーされたあとの空気気まずいんだよなぁ……。

 

幸いにしてここの店員さんは一回で気づいてくれた。こやつできる…!

 

「すいません、このラザニア一つと、」

 

「はい、季節の根菜のラザニアがおひとつ」

 

由比ヶ浜の方を見るとまだわたわたしていた。なんなら目元はちょっと潤んでいた。ったく……。

 

「おい、由比ケ浜、どれとどれだ?」

 

「ふえっ!?」

 

由比ケ浜は突然声をかけられて驚いたからか、ぴんと背筋を伸ばして目をまん丸にしてこちらを見た。あっ、こいつ、プレーリードッグそっくりだ。

 

「だから、どれとどれで悩んでるんだよ」

 

「えっ、えっとね……これと、これっ!」

 

言われるがままに由比ヶ浜が指さしたのは微妙そうな季節限定メニューと、微妙そうな季節の限定メニューだった。

おい、ダブルかよ。この冒険者め。

 

「じゃああとこの2つで」

 

「はい、鶏とごぼうのクリームフェットチーネと、かぶと水菜の和風スープパスタがおひとつずつですね」

 

「あ、あと取皿を」

 

「はい、かしこまりました」

 

ほんっとに微妙なメニューだな…。なっがいメニュー名をつらつら繰り返した店員さんが立ち去るを見送って、手元の水に手を伸ばした。

と、雪ノ下がこちらをガン見しているのに気がついた。あれ、あの、どうしたんすか……ギアスでもかけるんすか……?

ていうか隣の由比ヶ浜プレーリードッグのまま固まってた。もぅ、アホっぽすぎるだろ…。

 

「驚いたわ……。あなたがあんな気をきかせるなんて……。」

 

「なんだよ、そんなことか。まぁ、別に俺は何食ってもいいしな」

 

さっき店決めるときにハブられて文句を言ってた人間とは思えないセリフである。

まあ家族で外食行った時も、俺の食べたいものが食べれたことはほとんど無いのだ。

大抵なんの断りもなく小町が2品注文して、それを仲良く半分こになる。

今の八幡的にポイント高いよ!

 

白状すると実はこれも昨日小町に言われた指令の一つだったりする。

 

師、のたまいていわく

 

「結衣さんはどうせ小町と同じで決めらんない人だから、お兄ちゃんわかってるよね!?お兄ちゃんは頑張れる子だよね!!?」

 

うん……お兄ちゃん頑張ったよ……。膝の痛みにも耐えて頑張ったよ……。感動した!自分に!!

あとさりげなく小町の由比ヶ浜に対する評価が低かった。どうせとかいわない。

 

「いえ、それにも確かに驚いたけれど、それよりあなたちゃんと店員さんと会話できていたじゃない。なんだか普通の人間に見えたわよ?」

 

「普段は一体何に見えてるんだよ……」

 

「今聞きたいかしら?」

 

「やめろ。今大声で泣いてもいいのか、俺が。……まぁあれだよ、店員さん、ってのは例外だろ」

 

そう、ぼっちというのは基本的に無為無目的な雑談が苦手なのであって、こういう明確な目的とテンプレのある会話は逆に得意なのだ。

雪ノ下は人と会話できるタイプのぼっちなので(あれを会話というのかはさておき)、この辺の機微がわからないのだろう。

 

You still have lots more to work on…… (まだまだだね)。

壁打ちしながら一生懸命覚えたんだ、これ……。

 

「まぁ、どちらにしても、少し、見直したわ」

 

「そうかよ、ありがとよ」

 

「褒美として今日は同行することを許可してあげるわ」

 

「そ、そうかよ……ありがとよ……」

 

まだ下りてなかったんだ、許可……。

 

「あ、あのさっ、ヒッキー」

 

自分の間一髪加減に愕然としていると、由比ヶ浜がようやく人間にトランスフォー厶して話し掛けてきた。

プレーリードッグのままキュイキュイ話しかけられたらどうしようかと思った。

多分雪ノ下のツボにはまってたいそう可愛がられていたことだろう。きゅいきゅい。

 

「えっと、良かったの?」

 

「気にすんなって。どうせ何食べても別にーとか何でもいいーとか言うんだしな」

 

「わー!やっぱり根に持ってるー!」

 

「冗談だ。小町相手でこういうのは慣れてんだよ。気にすんな」

 

「うう、ヒッキー。…あっ、ありがとう…。」

 

由比ヶ浜の心中でどういう決着が着いたのかは知らないが、何やら口元をもにゃもにゃさせながら礼を言った。

うん、えらいぞ、ちゃんとありがとう言えるな。小町も言えるようになろうな。

 

「……」

 

ふと雪ノ下に視線を向けると、たいそうキッツイお顔でこちらをご覧になっていた。

あなたさっき同行の許可くれた時あんな穏やかな顔してたやんか……この数秒で何があったのよ……。

 

「そのキメ顔が…」

 

心を読まれた上で罵倒された。雪ノ下さんの得意技だった。ほんとに大声上げて泣くぞコラ。

 

そのあと店員さんが3人分取り皿を持ってきたので、雪ノ下も巻き込まれ、結局3人で仲良く分け分けすることになった。分け分けて。

 

ちなみに雪ノ下さんは「こういうのはあまりマナーが良くないと思うわ……」とか澄ました顔で言っていたが、友達と料理を分け合うことなんて初めてだったのだろう。頬が緩みっぱなしだった。良かったね。

 

ちなみに季節限定メニューは予想通り微妙な味だった。それみたことか!!テーブルの上根菜だらけじゃ!!

 

会計を済ますと(もちろん割り勘だ)、くるり由比ヶ浜が振り返り、俺たちに言い放った。

 

「ゆきのんの服もヒッキーの服も見なきゃだから、今日は張り切らないとね!」

 

……由比ヶ浜の宣言通り、その後は大変なことになった。

 

「ゆきのんゆきのん!これ!雑誌に乗ってたやつ!!」

 

「ちょっと由比ヶ浜さん、もう見つけてきたの?そもそも私は着るなんて一言も」

 

「あぁー!お客様すっごい似合うと思いますー!」

 

「ですよね!ほら、店員さんもこう言ってくれてるんだし、着てみようよーゆきのーん」

 

「いや、あの……」

 

「ゆきのん、着替え終わった?」

 

「え、ええ…でもこれはやはり少し派手ではないかし――きゃっ!」

 

「すっごい似合う!てかゆきのんスタイルやっば!」

 

由比ヶ浜さん!いきなり開けるなんて何考えてるの!!」

 

「お客様大変お似合いですよ?サイズ感もピッタリ!」

 

「いえ、私はこういう露出の多い服は」

 

「ゆきのん!つぎこれ!」

 

「えっ、あっ、ちょっ」

 

「ゆきのん!こっちのお店も行こ!?」

 

「ちょっ、ちょっとまって……。お願い由比ヶ浜さん、私が悪かったから少し待って……」

 

「どしたの?へんなゆきのん。ほら、はやくいこっ」

 

「ああぁぁぁ……」

 

……なんて言うか、雪ノ下も大変だな。

雪ノ下のスタイルの良さからか着せ替え遊びがうまくいくようで、さっきから振り回されっぱなしだった。

俺はといえばただそっとついていくだけ。一言も発しない。らーくちーん。

 

店の前のベンチに座りながら、途中のパーラーで買った生絞りジュースをじるるると吸っていると、雪ノ下がゾンビのように店から這い出てきた。這い出ろ!ゆきのんさん!

 

「お、おう、お疲れ様」

 

「……」

 

何も喋らない。ただの死体のようだ。首肯だけで返答すると崩れるように俺の隣に座り込んだ。

 

店内に目を向けると由比ヶ浜は仲良くなった店員さんとのおしゃべりに夢中になっていた。

あ、こいつ逃げてきたな。

 

「……これ、飲むか?」

 

あまりにも疲れ果てている雪ノ下を憐れに思い、おかしなことを口走ってしまった。

疲労困憊だから暴言はないにせよ、氷の眼差しが飛んでくるかと思いきや

 

「……」

 

沈黙のまま俺の差し出した手からジュースを受け取ることもなく、のそりと顔を近づけてストローを咥え込んだ。

 

あ、あれ?普通に飲んじゃうの?

てっきり「そうやって私が口をつけたストローを得ようとしているのね。性犯罪者なの?」とか言われるかと思ったのに……。あ、あれ、わたし、カラダが暴言を求めてる……?

どちらにしても雪ノ下にジュースを飲ませる、という貴重極まりない体験をすることになった。

 

「…ありがとう…」

 

少しは回復したのか、ストローを口から放し、蚊の鳴くような声で礼を言った。

……このジュースどうしよう…飲みづらい…。

 

「あー、えっと、大丈夫か?その、大変だったな」

 

由比ヶ浜さんに心から恐怖を感じたのはこれが初めてよ…」

 

「そんな大げさな」

 

「あなたも後で同じ苦しみを味わうがいいわ……」

 

「おいやめろ考えないようにしてたんだぞ」

 

雪ノ下のターンが終わればおそらく次は俺のターン。ずっと俺のターン!雪ノ下のライフはもうゼロよ!!

 

ぶつくさと由比ヶ浜の文句を言う雪ノ下だったが、その口元はやはりだらしなく緩んでいた。雪ノ下さんほんとどんだけガハマさん好きなんだよ……。今日このパターンばっかりじゃねぇか……。

 

雪ノ下の手元にある紙袋をチラッと確認。ひとつ、ふたつ、みっつ、いっぱい!

 

「随分買ったんだな。さすがセレブだわ」

 

「こういう所で買うのは初めてだったの。驚いたわ、こんなに安いなんて」

 

「さすがセレブだわ……」

 

隠そうともしない雪ノ下さんマジパネェ。

 

「だから、その、ちょっと不安だわ。由比ヶ浜さんは似合うって言ってくれていたけど、私としてはこれ全部相当冒険してるのよ」

 

乗せられて買っちゃったんだな。まぁ、仕方がないだろう。

なにせ雪ノ下にとっちゃ初めての「お友達と買い物」なんだ。

多少テンション上がって買いすぎても、それは何も悪いことじゃない。

だから、

 

「まぁ、遠目で見てただけだが、似合ってたんじゃないか。普通に」

 

ほんの少しの罪悪感がなんだか気に入らなくて、そんなことを口走ってしまった。

 

 

「…あなた本当に今日はどうしたの?食事の時といい。今度はそんなお世辞まで」

 

「お世辞のつもりはねーよ。別に、似合ってなくはなかった、ってだけだ」

 

べっ、別に似合ってなんかないんだからねっ!

あれ、逆だ……?

 

 

「……まぁ、ここは素直に受け取っておくわ。ありがとう、比企谷くん」

 

名指しで礼を言われる。

そんなことをされたら、

俺は口を噤むしか無いじゃないか。

 

 

「あー!ゆきのんこんなとこにいた!ヒッキーも!」

 

由比ヶ浜に見つかってビクッてなる雪ノ下が見れただけでも、今日はラッキーな日だよな。

結果的にトラウマになってんじゃねーか。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「あっ、もしかして疲れた?ごめん、あたしちょっとはしゃぎすぎたかな…?」

 

ちょっとしょんぼりしながらベンチに腰を下ろす由比ヶ浜を、雪ノ下がそっと片手で抱き寄せて頭を撫でた。ちょ、ちょっと!マリア様が見てますよ!!

 

「ふわっ、ゆきのんっ」

 

「気にしないで。ちょっと疲れてしまったけれど、とても楽しかったわ」

 

「ゆきのん……えへへ」

 

いつものだらしない笑顔で雪ノ下に擦り寄る由比ヶ浜、そしてその頭を優しくなで続ける雪ノ下。そしてすることのない俺。

 

ていうか雪ノ下のやつ、イイハナシダナーなセリフに混ぜて「とても楽しかった」って言うことで自分のターンは終わりだと暗にほのめかしやがったな。

姑息きわまりないうそですにらまないでくださいこわいぶるぶる。

 

「あっ、ヒッキーひとりでジュース買ってるー!あ、あ、あたしにもちょうだい!」

 

雪ノ下に飲ませたあと(下ネタ)、どうしていいのかわからずただ握りしめていた生絞りジュースに目ざとく気付いた由比ヶ浜

ちょうだい、とまで言われたらあげないわけにもいくまい。

エリクサーちょうだい!

 

由比ヶ浜はジュースを受け取るとしばらくにらめっこしたあと、意を決したように一気に飲み干した。飲み干しちゃった!?

 

「あー、飲み切っちゃった。ごめんね、ヒッキー」

 

「お、おう。いや、まぁいいけどさ…」

 

「あとでなんかおごるから!」

 

結果俺の手にはゴミだけが帰ってきた。

 

ま、まぁ、別に間接キスとかなんとも思ってなかったから?

ぜんぜん、別にどっちでもないよ?意識とか全然してねーし?

 

「じゃあ、つぎっ!ヒッキーをどうにかしないとね!」

 

おいどういうことだ。どうにかってなんだどうにかって。

 

「この男をどうにか……?心臓に杭を刺せばいいのね……」

 

あとはニンニクと十字架と川の上もダメです……雪の下はもっとダメです……。

 

「メンズは一つ上の階みたいね」

 

「お前死にかけてたのにもう復活したん?」

 

「ええ、おかげさまで。あなたは死んでもすぐ復活できるから便利よね」

 

「でも日光ダメだから不便だぞ?」

 

「なんで迷わず肯定するのよ……」

 

「ん、じゃあ行こっか?あ、そいえばヒッキーいくら持ってきた?」

 

「今日のこと伝えたら小町が親と交渉して3万ももらってきてくれたぞ」

 

「あなた結果的に妹からお小遣いもらってるじゃない……」

 

わやわやと喋りながら行動を再開する。

 

ちなみに、雪ノ下の両手はたくさんの買い物袋でふさがっていた。

ぼ、ぼきゅが持とうか、フヒッ。

……マジでそうなりそうだから黙っておいた。ごめん小町、指令その4は失敗だったよ……。

 

そういえば、指令その3は「試着してたら褒めろ」だったっけ。

……忘れてたけど、クリアーだよな?

 

「たぶんね、ヒッキーはここの服が似合うと思うの」

 

由比ヶ浜にぐいぐいと連れて来られた店はコムなんちゃらたらいう店だった。

 

「割とシンプルでさ、女子受けもいいんだよ?」

 

「なんか、普通っていうか、地味だな」

 

「この服もあなたにそんなこと言われたくはないと思うわ。謝罪しなさい」

 

何にだ、何に。お前にか。

 

雪ノ下のせいで小学校の頃の学級会を思い出してしまった。

 

「せんせー、ひきがやくんがドッチボールでゆうたくんに当ててましたー!」

 

「それ見てみゆちゃんが泣いててかわいそうでーす!」

 

  「ひきがやくんはみゆちゃんにあやまったほうがいいとおもいまーす!」

 

……マジで理解できなかったなぁ…。みゆちゃん、ゆうたくんのこと好きだったんだ……。

 

……ひきがやくんはみゆちゃんの前でいいとこ見せようと張り切ったのになぁ……。

 

「地味でいいんだよ!いきなり派手な服買ってもヒッキー全然着こなせないでしょ?

 ここみたいな地味だけどちゃんとしてるお店にしなきゃ!」

 

「いや、そりゃそうだろうけど……」

 

「女子はちゃんとそういうとこ見てるんだよ!……すくなくとも、あたしは見てるよ……?」

 

「お、おう……」

 

やめてくれまじで。いろんな意味で心臓に悪い。

 

「あら、わたしだって比企谷くんのこと見てるわよ」

 

「部員が不祥事を起こさないように見張っておかないといけないのよっ」

 

悔しかったからモノマネで先回りしてやった。

由比ヶ浜さんが後ろで必死に笑いをこらえてる。達成感!

 

「あなたたち……」

 

やっべ、ゆきのんが怒りでげきどんに進化しようとしてる。もはや原型が"ん"しか残ってねぇ!

BボタンBボタン!!キャンセルキャンセル!!

 

「さ、さー、どれがいいかなー、ゆいがはまさん?」

「ひ、ひっきーこれなんかいいんじゃないー?」

 

汗をだらだら流しながら二人して必死にはぐらかす。

由比ヶ浜さん落ち着いて!漢字変換できてないよ!おれもか!

 

「まったく……もう。」

 

呆れたようにこめかみに手をやり、ため息をつく。ほっ、どうやら静まったようだ。

 

「二人とも、あとでおしおきだわ」

 

背筋が凍りつく、とはこういうことかと思い知った。独り言なのがよけいこえぇよ。

 

それから、由比ヶ浜が次々と持ってくるなんだかおしゃれな気がする服をちぎっては投げちぎっては投げの大活躍だったはちまん君なのであった。

うそだよ、ちゃんと丁寧に扱ったよ。だってチラッと見えた値札に凄い金額書いてたもん。

何でこんな高いんだろ……?

 

雪ノ下はさっきまでの俺と交代でどこかでサボっているかと思いきや、割とまじめに服選びに参加していた。

厳密に言うと、試着後の俺の駄目出しにたいそう熱意を抱いてらっしゃった。

 

「ダメだわ、服に着られるとはこのことね」

 

「似合わないわ。あなた自分で思っているより脚長くないわよ?」

 

「よくそのカーテンを開ける勇気があったわね。賞賛するわ」

 

「比企谷くんは選んでくれた由比ヶ浜さんに申し訳ないとは思わないのかしら」

 

「やっぱりだめね。目が腐っているもの」

 

絶対言い過ぎだって……試着したときって不安と変な自信でいっぱいなんだから……。

凄いデリケートなんだから……デリケートゾーンなんだから……。

 

「うーん、やっぱりむずかしいなー。ヒッキー何がダメなんだろ?」

 

腕組みをして珍しく難しい顔をしている由比ヶ浜に、さらっとダメとか言われた。傷つく。

 

「何が、って……ちょっと時間かかるけど、いいかしら?」

 

いい?じゃねぇよ。何しっかり尺確保して罵倒しようとしてんの?

指折りカウントしてんじゃねーよ。おい凄い勢いで指折れてくじゃねーか!こわいこわいはやいはやい!

 

「なーんでだろー。おっかしいなぁ……ヒッキースタイルそんな悪くないのに…うー……」

 

「はぁ……比企谷くん、あなたのせいで由比ヶ浜さんがとても困っているわ」

 

「「私の由比ヶ浜さん」とでも言いそうな勢いだな」

 

「なっ、何を言っているのかしら。全く意味がわからないわ」

 

おぉ……デレとる……ゆきのんがでれのんになっとる……。由比ヶ浜にだけど。

 

「ねぇゆきのん、どうしたらいいかな?」

 

「はぁ……仕方ないわね」

 

助けを求められた雪ノ下がカツカツ歩み寄ってくる。

ま、待て、やめろ、何をする気だ!く、来るな!!ウワァー!!!

 

「何してるの?」

 

「何でもないデス……」

 

割とまじでおびえてたら完全にバカにした目で見られた。はずかしい……っ

 

「まずあなたは姿勢が悪いの。背筋をしゃんとしなさい」

 

そういって背骨を中指の第一関節でごりごりっとされる。痛い痛い痛い痛い!!

 

「そう、腰で支えるように。おなかに力を入れなさい。あごは少し引いて。胸を張りなさい!あと、目が腐っているわ」

 

こ、こし、おなかっ、あご引いて、むねはって。……目はどうしようもないよ。

雪ノ下に言われるがままに身体をかちこち動かす。ウィーガシャン、ウィーガシャン。

 

「その姿勢のまま、少しだけ楽にしなさい。そう、それでいいわ」

 

「お、おおっ……すごい、ヒッキーがヒッキーじゃなくなってる……」

 

えっ、何、そんないいの?

由比ヶ浜さん凄い目で見てるよ?

雪ノ下さん大仕事終えたみたいな顔してるよ?

 

「そ、そんなかわったん?」

 

おそるおそる由比ヶ浜に聞いてみる。

 

「うん!ぜんっぜんちがうよ!!凄いかっこよく見える!!あっ、ヒッキーがって意味じゃないよ!!服がだよ!!勘違いしないでよきもい!!」

 

「してねぇよ……」

 

テンションがうっとうしいことこの上ない。

 

「まぁ、普段よりマシなのは確かね。あなた普段からそうしていたほうがよっぽどいいわよ」

 

「お、おお……」

 

逆に怖いって。何でそんな素直に褒めてるんだよ。おいどうした雪ノ下雪乃!!

 

「……あとは、目ね。」

 

よかった。ちゃんと罵倒が後から来たぞ。でもね、雪ノ下さん、顔すっごい赤いですよ?何で目をそらすの?

 

「うー、ゆーきーのーんー……」

 

「な、なにかしら……ちょっと、引っ付かないでちょうだい、くるしいわ」

 

「むーーーーーー」

 

なにやらべたべたと絡み合っている二人を俺は横目にカーテンを引いて試着室に戻った。

 

結局、そのとき着ていた服を買うことになった。

おお、ぴったり3万。由比ヶ浜算数できたんだな。

えらいえらい、よしよし。

 

「はぁー、今日は楽しかったね!!」

 

「つかれた……」

 

「珍しく、意見が一致したわね……」

 

試着の疲れでへとへとの俺、最後の最後また由比ヶ浜に体力を吸い取られた雪ノ下、まだまだ元気の尽きない由比ヶ浜。うーん、やっぱりリア充は凄いなぁ。

 

「でもいいのかしら、由比ヶ浜さん私達の服を選ぶだけで何も買っていないでしょう?」

 

「んーん、ぜんぜん!二人の服選ぶの、すっごい楽しかったもん!!……あたしこそ、今日は振り回しちゃったかな?」

 

「そんなことないわ。確かに疲れたけど……私も楽しかったわ、あなたとの買い物」

 

しれっと俺除外。ほんとに無意識でやることあるからこの人怖いわ。せめて意識して罵倒してください。

 

「ヒッキーも、えっと、その」

 

「いや、俺も、その、なんだ、あれだ」

 

ごにょごにょもごもご。

 

「んーん、いいよ、もう。ありがとう、ヒッキー」

 

そんな顔をされると、やっぱり困ってしまう。

 

 

ああ、くそ、やっぱりやるしかないか……

 

「なぁ、由比ヶ浜、雪ノ下」

 

意を決して二人に呼びかける。あー、くそ、小町め。

 

「ん、何ヒッキー?」

 

「どうかしたの?」

 

鞄から小さい紙袋を二つ取り出して二人に差し出す。

 

「これ、えーと……こっちが由比ヶ浜で、こっちが雪ノ下だから」

 

合ってるよな?店員さんがテープの色を変えていてくれて助かった。あやつもなかなか出来る。

 

「えっ、ヒッキー…」

 

「あなたまさか…」

 

「まぁ、その、あれだよ。由比ヶ浜には今日世話になったし、雪ノ下には、なんだ、日ごろの感謝ってやつだよ」

 

呆然と俺を見る二人。ううっ、とっても気まずいぞこの空気……。

 

そう、これこそが小町からの最終指令「二人に日頃の感謝を伝えろ」なのだ。

まぁ、方法は特に指示されてなかったんだけどさ……。

 

だから二人が雪ノ下の服選びに夢中になっているうちに、そっと隣のアクセサリー屋さんに入って買ってきたのだ。

集団行動で輪から離れるのはぼっちの固有スキルである。なんなら常時発動型なので離れるつもりがなくても気がついたら輪のほうからどっかいってることまである。

 

ていうかはちまんがんばった。店員のおねえさんちょう怖かった。

あんなおしゃれショップ行くの初めてだったもん。

 

あのときのことはもう忘れよう……。何でおねえさんあんな目で見るの……。

 

トラウマと必死に戦っていると、由比ヶ浜が至近距離まで駆け寄ってきた。

 

「ひ、ヒッキー、これ開けていい!?」

 

「お、おう。もうあげたもんだ、好きにしろよ」

 

「うん!!!」

 

そういって紙袋に食らいつく由比ヶ浜

気づけば同じようにそばにいた雪ノ下も無言でそそくさと開封している。

 

「わぁ、これ……」

 

由比ヶ浜がつまみあげたのはシルバーのネックレスだった。

 

「月と……太陽?」

 

そう、モチーフは月と太陽

か、かんちがいしないでよねっ!!べっ、別に二人をイメージと合わせたとかそういうのではないんだからねっ!!

 

どうやら雪ノ下さんには俺の心が透けて見えるようだ。こっちを見て意味ありげに笑っている。

らめええええ!!見ないでええええ!!!!!はずかしいいいいい!!!

 

「あっ、ゆきのんちょっと見せて?」

 

「どうしたの?同じものでしょう?」

 

「違うよ!!よく見て真ん中の石の色がちがうよ!!あたしピンク!!」

 

「あら、本当だわ。私のは水色ね」

 

 ……あれかな、ヒッキーわざと別の色選んだのかな……?

 ……どうかしら、適当に同じもの選んだつもりでたまたま色が違ったのかもしれないわよ……。

 ……でもそもそもこんなふうにプレゼント買うとかヒッキーどうかしちゃったの……?

 ……今日は本当別人みたいね。切り開いて中を見てみましょうか……?

 ……ひそひそひそひそ……

 ……ごにょごにょごにょごにょ……

 

 

ああ……目の前でやられるのすっごい恥ずかしいってこれ……。

渡したらダッシュで逃げればよかった……。

 

ていうか切り開かれるんならほんとにダッシュで逃げるわ!

 

「ヒッキー、ありがとう!……大事にするね?」

 

「一応お礼を言っておくわ、比企谷くん。」

 

「んー、おう」

 

やっぱりこういうときに俺は、こういう返事しか、出来ない。

 

俺たち独りの人間は人と好意のやり取りをすることに慣れていない。

 

俺に送受信できるのは、[悪意]って件名に書いてあるものだけで、

 

それ以外のものは基本的に受け取り拒否。フィルタリングしてゴミ箱へぽい。

 

中身が何であっても、開封することはなかった。

 

だから、なんだか、こういうことは、

 

ちぐはぐで、いびつで、座りが悪い。

 

そんな自分に、困ってしまう。

 

嫌いじゃないんだけど、

少しだけ、

困ってしまう。

 

そうやって困ってしまうことも、なんていうか、悪くない。

 

なんだかんだでそう思ってしまった。

 

 

「そういえばヒッキーお金どうしたの?小町ちゃんからもらった3万円さっきぴったり使ったよね?」

 

「ん、3万もらったとしか言ってないだろ。自分の金もあるだけ持っきてたんだよ」

 

「お願いだから『妹から』を否定しなさい……せつな過ぎるわ……」

 

「そっかぁ、ヒッキーのお金で買ってくれたんだ♪」

 

「帰ったら小町と今日の反省会だよ。あ、おい雪ノ下、お前もうあんまり小町に近づくなよ。なんか最近ちょっとお前の影響受けてるんだよ」

 

「あらいいことじゃないの。きっと素敵な女性になるわ」

 

「おまえ自己評価高いなぁ……

 ちがうんだって、小町はアホの子なんだよ。

 小町とか由比ヶ浜がお前見たいに振舞ったらなんか、こう、切ないだろ?」

 

「ヒッキー今あたしもアホ扱いしなかった!?」

 

「そうね、私は明晰でよかったわ……。」

 

「ゆきのん否定してよ!!あたしアホの子じゃないよね!?ねぇ目をそらさないでよ!!」

 

「お前が現実から目をそらすなよ……」

 

 

そんな風に騒ぎながら歩く帰り道。

2人と1人ではなく、1人と1人と1人でもなく、3人での帰り道。

意味も益体も無い会話をしながら俺は考える。

 

こいつらと出会ったのは2年の4月のころだった。

今はもう3月。そろそろ1年がたつ。

 

 

雪ノ下は由比ヶ浜と友達になって新しい体験をたくさんしてこれた。

 

由比ヶ浜は雪ノ下とやりたいことがまだまだたくさんあるんだろう。

 

俺はそこにどう関わっていくべきなんだろうか。

 

それを1年たってもまだ決められずにいる。

 

もしかしたら、俺が「迷惑メール」だと思っていたものの中から、

なにか価値のあるものを探していかなくてはならないのかもしれない。

 

由比ヶ浜結衣は、その優しさゆえに、決して俺を独りにはしないだろう。

 

雪ノ下雪乃は、その強さゆえに、俺が逃げることを決して許さない。

 

 

比企谷八幡は、優しくもなく、強くもない。

じゃあ、そんな俺は、どうするんだ。

 

 

もうすぐ春になる。

雪は、もうほとんど溶けている。

冬の終わりを感じさせる浜風が頬をなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

元スレ

八幡「やはり俺のファッションセンスはまちがっている。」

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