結衣「ゆきのん、姫菜の趣味に興味あるの?」【俺ガイルss/アニメss】
文化祭から数日だったある日のことだった。
奉仕部の部室でいつもの三人で会話していた時のこと。まぁ、三人で、などといっても実質は二人と一人だ。決して枠にはまらないワイルドでアウトローな男、比企谷八幡。お、おれはいいとおもうよその人!!
「えー!ゆきのんあたしらのクラスの劇見てないの!?」
そう、話題はたまたま先日の文化祭で大好評を博した我らが(俺を除く)F組の出し物についてだった。
「ごめんなさい、見回りの途中で少し様子を見ることはできたのだけれど…」
由比ヶ浜の大きな声に対して、雪ノ下の返事は少し弱々しかった。
雪ノ下は申し訳なさそうな顔をしているが、仕方のないことだろう。
彼女は文化祭の副実行委員長として準備から当日まで八面六臂の大活躍をしており、あの時は全クラスの見回りやらなんやらで大忙しだった。
ちなみに八面六臂の語源は仏教の伝説に出てくる「あらゆる敵を叩き潰す荒ぶる神」なので、いろんな意味でこの比喩は的を射ている。
「……………………」
「ヒィッ!…な、なんだよ…」
気づけば雪ノ下がアシュラマンみたいな顔でこっちを見ていた。カーッカッカッカ!
「いいえ、またハブがや君が下らないことを考えていそうだったから…違うの?」
アシュラマンの顔のまま可愛らしく小首を傾げてくる。怖いやら可愛いやらでわけがわからん。
しかもさらっとキッツイ事を言われた…。
「なっ、なにいってるんだか!ちっ、違うぞー!俺はー、あれだ、あれだぞー!そんなんじゃないぞ!あれなんだからなー!」
なにがだ。とにかくここはなんとしてもはぐらかし切ろう。
雪ノ下は直接的な武力行使に出たことはないが、あの顔を見ると安心していられない。なんならこのあと阿修羅バスターが炸裂するまである。
「はぁ……。まぁ、良いわ。」
ふぅー、どうやらごまかしきったみたいだな。生来の弁が立つのが幸いした。さすが小学校の頃「嘘八万」と呼ばれてただけのことはある。かなしい。
「ヒッキーなんかきもいー」
「うるせっ、お前に今の高度な綱渡りがわかるか!」
悪魔超人六将軍との戦いを回避するなんて経験ないだろうが!とは言わない。
世代的に平塚先生にしか通じないだろう。
あの人世代ドンピシャなんじゃないかな、って言ったら殴られるのかな。言わない!!
「その男のことは放っておきましょう。で、由比ヶ浜さんのクラスは具体的に何をしていたの?お芝居をしていたことはわかるのだけれど、途中からだったからよくわからなかったのよ」
「星の王子さまだよ!」
雪ノ下が凍りつく。雪ノ下だけに。心の中なら何でも言える。言える!!
「…………あれが?……えっと、ごめんなさい、その星の王子さまというのは、サン=テグジュペリの星の王子さまでいいのよね?」
「さん、ぺぐ、…………?」
由比ヶ浜の検索候補にはサン=テグジュペリはなかったようだ。おい、そんな切ない顔でこっちを見るなよ……。
「あー、一応合ってるよそれで。カレーの方でも、ポルノの方でもねぇよ。」
ポルノの方、とは星の王子さまの有名なパロディ作品である「ポルの王子さま」を指す。カレーの方は言うまでもなく。
「まぁ、海老名が文化祭用に書き換えてたし、みんなでお笑い要素を出そう、ってしてたからな。もはや原型はとどめてねぇよ」
「そうそう、姫菜すごいよねー。なんかね、役者が男子だけですごい変わってるんだよね」
「まぁ、あいつ腐ってるからなぁ…」
恐怖の海老名さんから受けた精神的苦痛を思い返す。……嫌だ……無理だ……。
「……ねぇ、前から思っていたのだけれど」
俺がトラウマと戦っていると雪ノ下が話し掛けてきた。トラよりウマよりこわいね。
「あなた海老名さんのこと時々そうやって言うけど、女性に対して『腐っている』はあまりに失礼じゃないの?」
……あれ、雪ノ下さん割とマジな感じ?由比ヶ浜なんかおびえてビクッてなってるし。
「あなたの瞳のことを言うのならまだしも、あの人の目は別に普通でしょう?不自然な暴言だわ」
……えっと、こいつもしかして、『腐女子』って言葉を知らない…?
あとさり気なく俺への暴言は自然だと言った…?
「あー、いや、それは違うんだ。ちゃんと理由、ってか、由来があってだな…」
「言い訳は無用よ。あなたは自分の失言の責任の取り方を知っているでしょう?」
そう言うと窓の外にくっと目線をやる。飛べと?
「まて違うんだ話を聞いてくれ!」
「犯人はみんなそう言うのよね」
窓がカララと開く。やばい。ゆきのん本気やん。
「いや、ほんとちがうんだって!『腐女子』って言ってだな!」
「本当にうるさい虫ね、窓が開いたのだからさっさと飛び去ればいいのに」
「さっきからいくらなんでもひどすぎる!」
雪ノ下が絶好調すぎて俺の涙腺がやばい。目線で由比ヶ浜に助けを求める。こいつ、爆笑してやがる!お前さっきまでおびえてたじゃねぇか!!
「ゆきのん、ゆきのん。ちょっとはヒッキーの言い訳も聞いてあげてよ」
ケタケタ笑いながら雪ノ下に声をかける。ふん、由比ヶ浜も「絶許リスト」にいれておかねばな!
「ふぅ…。仕方がないわね。五分間だけ釈明を許可するわ。飛ぶのはその後にしてあげる」
「飛ぶのは決定なんだ…」
さすがに由比ヶ浜がドン引きしてた。確かに今回の罵倒はいつもよりバイオレンスだった。
っていうか「いつもより」とか言えるくらい罵倒されてるんだ俺……。
「と、とにかくだな、まず『腐女子』っていう言葉があってだな」
「フジョシ?女性のことを指す言葉のことかしら?」
「あー違う、腐った女子と書いて…」
それから雪ノ下に必死に腐女子について説明した。学校一の美少女の前で汗だくになってホモ愛好家の説明をする俺に、由比ヶ浜が再びドン引きしていた。人の命がかかってるんですよ!!
確かにこの状況に興奮してたらちょっと性癖がゆがんでると思う。くせがすごい!
ぴったり五分。
腐女子とはなんぞやについて知りうる知識と語彙の全てを用いて説明を尽くした。
ふぅ、これで雪ノ下の誤解も…
「……………………」
えげつない目をしていた。あっるぇー!?なんでぇー!?
「あなた、いくら女性にモテないからって……」
「ヒッキー、まじきも…」
「まてまてまてまて!!ちがう!俺じゃない!!あくまでそういう趣味の女子がいるって話だっただろ!俺は普通だ!俺は普通に女の子に…!」
その言葉と同時にサッと二人が身を寄せあい、身体を両腕で隠す。
「ヒッキー、あたしたちのことそんな目で見てたんだね……!」
「おぞましい……!!」
ついに由比ヶ浜まで俺のことをいじめ始めた。
いや、うん、仲が良いことはいいことだと思いますよ、ぼくは。
ただ出来れば僕のいないときにやってもらえませんか?
それから下校時間になるまで二人がかりで延々言葉の暴力を浴びせかけられた。
2人共やけにキラキラとしていて、楽しそうだったのが印象的だった。
「うーす」
その翌日、昨日あんなにぎったんぎったんにされたにもかかわらずわたくし比企谷八幡ことメンタルつよ男が部室に行くと、珍しい人が来ていた。
「ヒッキーやっはろー!」
「こんにちは、ほもがやくん」
「あ、比企谷くん、おじゃましてまーす」
「え、海老名さん……!」
そう、恐腐の大魔王、海老名姫菜が部室にいたのだ。怖すぎて思わずさん付けになる勢い。
……あと雪ノ下さん笑顔でひどいこと言わないで欲しいなぁ……。
「あれー、どうしたのかな比企谷くんっ♪そんなに怯えた顔して…」
「いや、なんで、ここ、いるんすか…」
意味深な顔をする海老名に警戒心が爆発する。
文化祭の悪夢を忘れた男子はF組にはおるまい。
「あたしが呼んだんだよー。ゆきのんが姫菜の趣味?に興味持ったみたいだから、せっかくだから本人に来てもらおうと思って」
余っ計なことをこのアホめ!
なんて良い笑顔で言いやがる!
やめろ!そんなイノセントな目で俺を見るな!!
「いやー、雪ノ下さんに「説明してもらえるかしら」なんて言われたときはドキドキしたけど、布教活動って大事だしね…はや×はち…ぐふふ…」
「おい」
「やっぱりよく知らずに否定するのは良くないと思ったのよ。 安心して、比企谷くん。私あなたの性癖もできるだけ理解できるようにするわ」
「おい」
「いやー、姫菜もノリノリで来てくれたし、さっきまでゆきのんもちょー楽しそうに姫菜と盛り上がってたし。 うん、あたしいいしごとしたなぁー」
「おい」
音飛びしてるCDのように同じ言葉だけを繰り返す。壊れかけのはちまん。
……はっ、いかん。
あまりのショックに呆然としていたがそんな場合じゃない。
なんとしてもこの状況を打開しなければ、葉山ルートが確定してしまう。
「おい、ちょっと待てお前ら―――」
ひそひそ……ひそひそほもほも…。
ひそひそ……へたれうけ……。
ひそひそ……はやはち……。
ほもほも……はちまんそううけ……。
ヒィィィィィ!!なんかおぞましいひそひそ話が聞こえるー!!!
……聞きたくない聞きたくない……駄目だあそこに近づいてはいけない……腐海に飲み込まれる……。しずまりたまえ……。
悪くないスライムのようにぷるぷると震える俺をよそに、女三人のホモトーークは徐々にヒートアップしていく。
「やっぱりはや×はちよ!キラキラした葉山くんに最初は反発しながらも葉山君の献身的な愛と快楽にその凍りついた心を溶かされていくのよ!」
おい、だからその略称やめろって!あと快楽とか言わない!!
「ふむ…普段毛嫌いしている相手に強引に組み伏されて抵抗できずに涙を流すのね」
雪ノ下さん!!?なに理解を示しているのちょっとあなたそういうキャラじゃないでしょ!!
「でもさでもさ、いつもお兄さんぶってるさいちゃん相手に、いざという時にペース握られちゃうのは?」
由比ヶ浜ー!!戸塚は確かに俺の!俺だけの天使だが!こんな話に戸塚の名前を出すんじゃない!!
「キマシタワ――(゚∀゚)――!いいよ結衣、それ凄くいい!普段は天使みたいなのにいざベッドの上では鬼畜ドSになる戸塚くんに刃向かえないヘタレの比企谷くん…!」
やめてー!!海老名さんやめてー!!!戸塚を汚さないでー!!!!
あぁ……俺明日から戸塚のこと正面から見れないよ……。あたし、汚れちゃった……。
「じゃああの人は?比企谷くんといつも一緒にいる、えっと、あの、材なんとかくん…」
ゆきのん!!!だめ!!うろ覚えの人の名前出したらだめ!!あの人の体型はちょっと生々しいからダメ!!!
「えー中二ー!あれはちょっとないかなぁー。」
そうだよゆいゆい!!それでいいんだよ!!えらいよ!だからもう黙ろうね!!
「何言ってんのよ結衣!それって彼よね?年中コート着た小太りの!!
ガ チ ム チ !!!
……キ、キ、キキキ、キマシタワ━(゚∀゚)━!雪ノ下さんベネ!ディ、モールト、ベヌェー!!!」
あぁ、海老名さんはやっぱり凄いなぁ……材木座相手でもちゃんとそういう妄想できるんだ……。本格派だなぁ……。
そして、おれの、意識は、ここで、途切れた……。無理だ……。
「ふぅ、満喫したわー。じゃあ私そろそろ行くね。雪ノ下さん、またあそびにくるねー」
「ええ、私も楽しかったわ。今日はありがとう」
「姫菜ー、また明日ねー」
異常につやつやした顔で海老名が部室を後にする。
残された二人の視線は部室の入り口近くで真っ白になって気絶している八幡に向けられた。
「あーあ、ヒッキー完全にダウンしちゃってる」
「この男もさすがに寝てる時は目が腐ってないのね」
自分達が犯人ということを頭から消し飛ばした二人はのんきに笑いあう。
「あっ、なんかむにゃむにゃ言ってるー。ヒッキーかわいー。ふふっ」
由比ヶ浜はそう言うとしゃがみ込んで八幡の頬を指でつく。
「……ハッ!あっ!いや、可愛いってそういう意味じゃなくて!!」
自分の失言に気がついたのか、慌てて釈明しようとする由比ヶ浜に微笑みかけて、雪ノ下も八幡と目線を同じ高さにした。
「そうね、このひねくれ男もこうしてれば可愛いものね」
少し頬を赤くしながらいう雪ノ下を見て、由比ヶ浜の頬も同じ色に変わった。
「あっ、そういえばさ、ゆきのん」
二人して悪夢を見る八幡にひとしきりイタズラをしたあと、ふと思い出したように由比ヶ浜が声をかける。
「どうして姫菜とあんなに盛り上がってたの?」
「あなただってあんなにはしゃいでたじゃないの……」
改めて言われると恥ずかしかったのか、目をそらして不満げに言う
「いやぁー、あたしはなんか楽しくなっちゃって。てへへ」
少し気恥ずかしそうに雪ノ下を上目遣いに見ながら言う由比ヶ浜に対して、雪ノ下は
「私も同じよ」と一言だけ返した。
「同じ?」
しばらくの沈黙のあと、由比ヶ浜が聞き返した。
「そうよ、あなたと同じよ」
「比企谷くんが嫌がってるのが楽しくてしょうがなかったの」
「ゆきのん…」
それって小学生の男子みたいだね、と続けそうになったのを、ぐっと飲み込む。
わざわざ言う必要は無い、お互いに自覚していることは明らかだった。
互いの頬が先ほどよりも赤く染まったのは、さっきよりも地面に近づいた夕陽のせいだ。
そういうことにして、2人はもう少しこの時間を楽しむことにした。
終
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八幡「やはり俺の青春ラブコメは腐っている」
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