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吹寄「上条!ちょっと上着を脱ぎなさい!!」 上条「何やらいやらしい響きがするのですが」【とあるss/アニメss】

 

私はクラスメイトの上条当麻が気に食わない。 

 

土御門と青髪ピアスといっしょになって破廉恥なことばかり話すし、 

授業も真面目に受けず、小萌先生を困らせてクラスの和を乱すし、それなのになぜか 

やたらと女子たちにモテてているし、私の胸ばかり見ているような気がするし。 

 

そして何よりも気に食わないのは、あの口癖だ。 

 

「不幸だぁぁぁーー!!!」 

 

上条当麻がその言葉を発すると、まるで自分の不幸は全て運命のせいだと言っているように思えるのだ。 

 

彼はその不幸を回避するために何らかの努力を行ったのだろうか? 

 

まぁとにかく、私は上条当麻が気に食わないのだ。 

 

上条当麻!!」 

 

私は普段の不満をぶちまけるのも兼ねて委員長として彼を叱咤激励してやろうと考えた。 

 

「ん?どうしたんだ吹寄?」 

 

いつもの間抜けそうな顔で返事をした上条当麻。 

 

「貴様はわかっているの?貴様が勉強を怠っているせいで小萌先生が自分の時間を削ってるってことを!!」 

 

私がそういうと上条はばつがわるそうに 

 

「い、いやぁそう言われるとぐうの音もでないんだけど。まぁ俺も色々忙しいんだよ。」 

 

「少しくらい勉強する時間はあるでしょうが!貴様には勉学に励んでいる成果が全く見られない! 

もっと努力しなさい!!」 

 

「は、はぁ。」 

 

「なんなの!?そのふ抜けた返事は!!貴様には糖分が足りてないみたいね。 

この頭の回転が速くなる飴をやるから気合入れなさい!!」 

 

「はぁ・・・。不幸だ・・・。」 

 

「またそんなセリフを!!そんなの不幸という屁理屈で人生に手を抜いているだけよ!!」 

 

「いい?上条当麻!次のテストでもし小萌先生の補習を受けるような事態に陥ったら、先生に対する懺悔の言葉を呟きながら、グラウンド100周しなさい!」 

 

「えぇぇぇ!!ふっ吹寄さん!!それはちょっとひどいんじゃないの!?」 

 

「貴様が普段から勉強をしていればなんの問題もないことじゃない。ここで私と約束しなさい!」 

 

そう言って私は上条に対して小指をつき出した。上条はしばらく唸っていたが、私が睨み続けると観念したようで私に小指を絡ませてきた。 

そして上条はお決まりのセリフを言うのだ。 

 

「ふ、ふこうだ・・・・。」 

 

そんな気に食わない上条当麻ではあるが、悪い人間ではない。むしろいざという時は意外にも頼りになったりもする。 

 

私はクラスメイトとして、友人としては上条当麻に好感を持っている。 

 

しかし、不幸だなどとのたまうふ抜けた根性や普段のだらけきった学校生活はいただけない。 

 

だから私は上条当麻を叩きなおして、まともな学生にしてあげたいのだ。もちろん委員長として。 

 

ある日、私が買い物をしにスーパーへ行くと、精肉コーナーのほうから何やら騒がしい声が聞こえる。 

 

声のするほうへ行ってみると、そこには見覚えのあるツンツン頭と学園都市に似つかわしくない修道服をきた異国の少女が何やら言い争っていた。 

 

精肉コーナーから必死に立ち去ろうとしている上条を少女がしがみついてごねているようだ。 

 

「やめろインデックス!!うちはただでさえ金欠なのに、肉なんて高級嗜好品買えません!!」 

 

それに対し少女は上条の腕にからみつき徹底抗戦の構えを見せ、 

 

「とうまは最近わたしに全然構ってくれないから、肉を買ってくれるのは当然のことかも!!」 

 

私はなんて悲しい会話をしているのだろうとため息をついた。それと同時に上条とこの少女の関係について少し気になった。 

 

まぁどうせ上条のわけのわからん属性で惚れてしまったクチだとは思うが。  

 

痴話喧嘩が当分終わりそうになかったので、私はとりあえず自分の買い物を済ませてから上条に話しかけようと考えた。 

 

それに今話しかけると自分も恥ずかしい思いをしそうだ。 

 

買い物を一通り終え、レジに並んでいると上条たちはもう店を出るところだった。 

 

私は心の中で舌うちをした。このまま何も言葉を交わさぬまま、店を出るのはなんとなく気分が悪い。 

 

商品を急いで袋につめ、上条たちの後を追うように私も店を出た。 

 

上条たちが店を出た時間とかなりのタイムラグがあったが、二人を見つけるのは容易なことだった。 

 

白い修道服はやはり学園都市で浮きまくっている。 

 

上条の持つ半透明のビニール袋から白い食品トレイにのった肉を発見した。負けたのだな。 

 

後ろから声をかけようとしたが、二人の会話が耳に入ってきて思わず聞き耳を立ててしまう。 

 

「はぁ・・・。今月もますます苦しくなってしまった。」 

 

そう語る上条の後ろ姿は心なしか沈んでいるように見える。 

 

「とうまが勉強ばっかりしてわたしに構わなかったせいなんだよ。」 

 

上条とは対照的に明るく弾むような口調で少女。上条は家でよく勉強をしていると言う。殊勝なことだ。 

 

この二人の口ぶりからするとどうやら同棲しているらしい。 

 

あとでこのことに対しても説教してやらねば。 

 

「仕方ないだろ!!今度のテストで補習受けることになったら懺悔の言葉を言いながらグラウンド100周という鬼のようなロードワークが待ってるんだぞ!」 

 

「それは普段から勉強してないとうまが悪いだけかも。」 

 

「うっ・・・。確かにそうだけど、俺も色々忙しくてですねぇ!!」 

 

また痴話喧嘩が始まってしまい、ますます声がかけづらくなってしまった。 

 

「だいたい大覇星祭のときといい、とうまはわたしに内緒にしていろんな人助けをしすぎなんだよ!!」 

 

大覇星祭のとき?あの時上条は土御門といっしょになって、自分の高校の競技にすら参加せずふらふらしてたはずだ。 

 

おまけにふざけて違う中学の競技に参加するわ、私は病院に運ばれるわで散々だった。 

 

上条はあの時ただ不真面目にやっていただけではなかったのか? 

 

私が色々考えを巡らせていると上条はこう言った。 

 

「まぁあのときはすまなかった。何しろ緊急事態だったんだよ。それに大事なクラスメイトが二人も傷付けられてなりふり構っていられなかったんだ。」 

 

「とうま!!魔術的要素がからんでいるときはわたしを頼ってっていつも言っているよね!?」 

 

「はい!!すみませんでした!!だからその噛みつく前傾姿勢はやめていただけませんか?」 

 

「もんどうむようなんだよ!!!」 

 

「ぎゃぁぁっ!!!不幸だぁぁぁ!!」 

 

私の知らないところで上条が、私たちを守るために奮闘していた。 

 

そういうことなのだろうか。 

 

少女は“いつも”と言った。では上条が今まで学校を休んだり、成績が悪かったりしたのは何か事情があるからなのだろうか。 

 

いつも私たちが知らない間に何かに巻き込まれているのだろうか。 

 

もしそうだとして、そんな上条に私は何と言った? 

 

完全下校を知らせる鐘が響き渡る。 

 

上条たちの背中はとっくに見えなくなっていた。 

 

その日私は上条について考え過ぎてなかなか寝付けず、結局一睡もしないまま学校へ行くことになった。 

 

睡眠しないと記憶定着が悪くなったり、感情コントロールが乱れると言うのに。 

 

ふ抜けているのは私のほうだな、と自嘲しながら私はサプリメントを口の中へ放りこんだ。 

 

 

私は大概他の生徒より早い時間帯に登校するのだが、今日は高校に入って初めて遅刻ギリギリだった。 

 

これも全て上条のせいだ。奴が余計なことを考えさせるから。 

 

心の中で上条に文句を言いながら教室のドアを開けると、目の前でぜえぜえと息を切らしている上条の姿があった。 

 

「はぁはぁ・・・。ん?おぉおはよう吹寄。珍しいなこんな時間にぃぃぃいってぇぇぇ!!」 

 

私は動揺するあまり思わず上条に頭突きをかましてしまった。 

 

「い、いきなり何をなさるんですか!?吹寄さんっ!!」 

 

周りからは「流石は鉄壁だ。」などと感嘆の声が出ているが、なんのことだかさっぱりわからない。 

 

それよりもこの状況だ。どう考えても上条に非はない。しかし今さら私も引き下がれないので、 

 

「朝から貴様のふ抜けた顔を見て不愉快になっただけよ!!」 

 

「そ、そんなむちゃくちゃな・・・。」 

 

「二人ともケンカするのは先生困るのですよ。」 

 

小萌先生がいつの間にか教室に到着していたようだ。 

 

「せ、先生!!どうもご迷惑をおかけして申し訳ありません!!ほら上条貴様も謝れ!!」 

 

「理不尽だ・・・。」 

 

 

授業を受けていても、どうも集中しきれない。 

 

『だいたい大覇星祭のときといい、とうまはわたしに内緒にしていろんな人助けをしすぎなんだよ!!』 

 

少女が言ったあのセリフがどうしても耳から離れないのだ。 

 

上条当麻はきっと何かを隠しているに違いない。 

 

私は休み時間になると上条のもとへ向かった。上条はノートに英単語を書きうつしがむしゃらに覚えているようだ。 

 

その光景を目にして、罪悪感と自分との約束を果たそうとしてくれている嬉しさとが混ざり合った奇妙な感情に襲われた。 

 

上条当麻!!」 

 

「ん?げっ吹寄!!頭突きはもうしないでくれよ!!」 

 

「放課後教室に残っておきなさい!!話があるから。」 

 

「え?まぁいいけど今じゃ話せないことか?」 

 

「・・・白い修道服を着た少女。」 

 

「・・・なるほど。わかったよ・・・。不幸だ・・・。」 

 

吹寄「上条当麻!ちょっと付き合いなさい!」 

 

上条「断る」 

 

吹寄「貴様の態度には常々目に余るものがある!じっくり躾けてあげるからさっさと付いて来なさい!」 

 

上条「……あんた、何様? 俺はあんたの家来じゃないんだ、偉そうに言われる筋合いは無い」 

 

吹寄「ゴチャゴチャ言う権利が貴様にあると思っているの?いいから来なさい!」グッ 

 

上条「離せ!」バッ 

 

吹寄「このぉ!?」オデコDX! 

 

プシュー 

 

吹寄「キャアアアアアアア!!」 

 

上条「こういう時の為に痴漢防止用スプレーって便利でせうね」 

 

 

放課後、クラスメイトが全て出払ったのを見計らって私は教室に戻ってきた。 

 

教室の前で大きく深呼吸をして、ドアに手をかける。この緊張感は一体何なのだろうか。 

 

中に入ると、上条当麻がただ一人自分の席に座っていた。 

 

「よぉ。遅かったな。」 

 

「昨日貴様はスーパーに行ってたわよね?」 

 

「あぁ。そんときにインデックスを見られたんだな。まったく連れていくんじゃなかったよ。」 

 

そう言って上条は乱暴に頭をかいた。 

 

インデックスとはあの少女のことだろうか。 

 

「貴様とあの少女はどういう関係なの?」 

 

「えぇと、まぁなんというか・・・し・・・。」 

 

「し?」 

 

「し、親戚の子だ!!ひょんなことで同居することになって・・・。」 

 

上条当麻は根が正直な人間なのだろう。嘘が驚くほど下手だ。 

 

「正直に話さないと、小萌先生並びにアンチスキルに言付けするわよ。」 

 

「それだけは勘弁してくれ!!というかまぁ小萌先生はすでに知ってるんだけどな・・・。」 

 

「小萌先生は知っている?一体どういうこと詳しく説明しなさい!!」 

 

「うわぁ墓穴掘っちまった!!」 

 

このような押し問答を数回繰り返したものの上条は一向に真実を話さない。 

 

なぜ上条は私に真実を話してくれないのだろう。私は委員長として常にクラスメイトのことを考えて動いているつもりだ。 

 

大覇星祭だってみんなに楽しんでもらうために、実行委員に立候補した。みんなが不便と思うことを言ってくれれば、 

 

学校にいくらだってかけあうし、改善されないようだったら署名を集めて提出したりする。 

 

そのくらいクラスのことを考えている私に、困っている上条はなんの相談もなくひたすら隠すことに徹している。 

 

私はそんなにも頼りない委員長だろうか。信頼するに足らないクラスメイトなのだろうか。 

 

そう思うと私はひどく悲しくなってきた。 

 

「ふっ吹寄さん!!泣かれてしまうとわたくしとても困ってしまうのですが!!」 

 

「な、泣いてなどっ!!」 

 

自分でも気づかぬ内に涙を流してしまっていたらしい。涙を自覚した途端に私は嗚咽をもらして泣き始めてしまった。 

 

「・・・ひっ・・・うぅ。」 

 

人前で泣くなんてみっともない。 

 

これも全て貴様のせいだ上条。 

 

そんな私を上条は慰めるでも、戸惑うでもなく泣き止むまでただじっと見つめていた。 

 

すんすんと鼻を鳴らす私を見て上条はようやく口を開いた。いつになく真剣な顔で。 

 

「もう落ち着いたか?」 

 

「上条!!貴様このことを他の誰かにしゃべっ・・・」 

 

「吹寄。」 

 

私の言葉を遮るように上条が名前を呼んだ。 

 

「吹寄。まずはお前に謝りたい。本当にすまなかった。」 

 

そう言って上条は頭を下げた。その姿勢のまま続ける。 

 

「こんなにも他人のことに一生懸命になれる吹寄に、適当な言い訳をして逃げた俺は最低だ。」 

 

「そんなお前の誠意に応えなかったら多分俺は一生後悔することになると思う。」 

 

そう言い終わると同時に上条は頭を上げた。 

 

「今から話すことは嘘みたいな話だけど、全部本当に起こった出来事だ。まずは俺の右手のことだけど--------------」 

 

 

それから上条は様々なことを話してくれた。 

 

自分の右手に備わっている能力のこと。魔術の存在のこと。あの少女との出会いのこと。 

 

大覇星祭で自分が何をしていたか。なぜ私と姫神さんが負傷する事態に陥ったのか。 

 

「・・・とまぁこんな感じだ。他にも色々あったんだけど、これ以上はお前の身が危なくなるから話せない。ごめんな。」 

 

私は驚きのあまり言葉が出てこなかった。 

 

魔術の存在などにわかに信じられない。しかし、上条の語る姿はいつものそれとは違い真実味を帯びていて不思議な説得力があった。 

 

「大覇星祭のときは怪我させちまって本当にごめん。」 

 

「俺がもっと早くに気づいていれば吹寄も姫神もこんなことにならずに済んだのにな。」 

 

そう言うと上条は心底申し訳なさそうに目を伏せた。 

 

「き、貴様はっ!!その右手で私たちを救ってくれたじゃない!!」 

 

「何をそんなに反省しているのよ。私たちどころじゃなく、この学園都市全体を救ったようなものじゃない!」 

 

「吹寄。こんな嘘みたいな話を信じてくれるのか?」 

 

「いつもの貴様には見られない真剣な口ぶりだったからよ。それに辻褄もあってるし。」 

 

「そっか。ありがとうな。吹寄にそう言ってもらえただけで俺も頑張ったかいがあったぜ。」 

 

上条はそう言って私に微笑みかける。その瞬間、私は今までに経験したことのない得体の知れない感情が湧きあがってきて 

 

思わず上条から目を逸らしてしまう。それになんだか心拍数も上がってきて、自分の心臓が脈打つのがはっきりと聞こえる。 

 

とりあえずこのまま黙っているのも気まずいので、上条の顔から視線をそむけて話すことにした。 

 

「かっ上条はいつも私の知らないところで誰かが困っているところを助けたり、解決したりしているのか?」 

 

「まぁ俺の気付く範囲ではそうしてるつもりだな。俺の右手が役に立つんだったら、どこだって駆けつけるつもりだよ。」 

 

上条はただの怠慢で破廉恥な人間ではない。私は上条当麻という人物を大きく見誤っていたようだ。 

 

彼は勇敢で、あきれるくらいのお人好しで、自分の危険を顧みず他人を助けようとする、そんな人間だった。 

 

「そんなことより吹寄、なんでそっぽ向きながら話してるんだ?」 

 

「う、うるさいっ!!」 

 

「いってぇぇぇぇ!!また頭突きってちょっと!!」 

 

上条当麻!!私からも貴様に言いたいことがある!」 

 

「な、なんでしょうか?」 

 

私は上条に向かって深々と頭を下げた。 

 

「ごめんなさい。」 

 

「な、なんの真似ですか吹寄さん!!」 

 

「何の事情も知らず、怠慢だなどというひどいことを言ってしまったことよ!!」 

 

「あぁそんなの俺が言わなかったのが悪いんだって!!とりあえず頭をあげてくれ!」 

 

頭を上げるとそこには、困惑した表情の上条がいた。 

 

「全部俺が勝手にやったことだ。吹寄がそんなに気に病むことはねーよ。」 

 

「で、でも私はっ・・・。」 

 

「頭下げてたから血が上ってるみたいだな。顔が真っ赤だぞ。」 

 

「・・・っ!!貴様はまた余計なことを!!」 

 

「もう頭突きはくらうかっ!!ってうおっ!!」 

 

上条はそう言い放ち、後ろに下がって攻撃を避けようとした。 

 

しかし、足にイスが引っ掛かり後頭部からそのまま倒れそうになっている。 

 

 

「危ないっ!!」 

 

私はとっさに手を伸ばし、上条が手をつかむのを感じとると思いっきり引き上げた。 

 

「・・・上条。」 

 

しかしその反動で例のごとく上条は私の胸に顔をうずめることとなっている。 

 

この状況を察して上条は、すぐに頭を上げ、 

 

「うぁ!!これは違うんです!!事故なんだ事故!!ほら俺って不幸だろ!?だから・・・。」 

 

「私の胸に顔をうずめたことが不幸だと?」 

 

右の眉がピクピクしていることが自分でも分かる。 

 

「いや!!それはむしろありがたいというか、至福のひと時だったんですがぁぁぁあぁぁぁあぁっ!!」 

 

私の右ストレートがさく裂した。やっぱり根本的にこいつの認識は変えなくてもいいようだ。 

 

 

 

「だ、大覇星祭のときは助けてくれてありがとう。」 

 

「お、おぉ。」 

 

「それと・・・話しづらい秘密も全部打ち明けてくれたことも感謝する。」 

 

「吹寄に泣かれたらそうするしかないだろうよ。」 

 

「貴様っ!!」 

 

「ははっ!冗談だって。まぁこれで二人のいろんなことは相殺ってことでいいんじゃねぇか?」 

 

「お互いに感謝しているし反省しているってことで。」 

 

しかし私はあの約束を忘れたわけではない。 

 

「上条。あの約束のことだけど・・・。」 

 

「げっ!やっぱまだ覚えてたか!あ、あれも相殺で無くなるという方向で・・・。」 

 

「それはダメよ!!一回した約束は絶対守らねばダメ。秩序というものはそういったものから生まれるのだから。」 

 

「不幸だ・・・。」 

 

「だ、だけど!今回は貴様の事情も知らずに苦行を課してしまった私も罪悪感がないでもないわ!」 

 

「もし貴様が次のテストで補習を受けることになった場合、私も一緒にグラウンド100周するわ。」 

 

「ちょっと待て!!それはただ俺にプレッシャーがかかるだけなんですがっ!!」 

 

「だからっ!!そうならないために私が直々に勉強を教えてあげる!!」 

 

「どっちにしろ勉強は絶対なんだな・・・。」 

 

私は思い立ったらすぐ行動する。 

 

「ごちゃごちゃうるさい。早速今から勉強するわよ上条!!」 

 

「今からですかぁ!?」 

 

話しこんでだいぶ時間が経ってしまったが完全下校まではまだ少しは時間がある。 

 

このまま教室で勉強しようと私は考えたのだ。 

 

教科書に載っている練習問題を上条に解かせ、間違っていたらその部分を逐一教える。 

 

また分からないところがあれば上条の質問を受け、丁寧に解説してやる。この作業を繰り返した。 

 

そうしている内に完全下校時刻が近づいてきたので、勉強を切り上げることに。 

 

「ふぅーつかれたぁ。普段使わない頭を使うと異常に疲れちまうぜ。」 

 

わりと長い時間そんな風に教えていたのだけど、あっと言う間に時間が経った気がするのはなぜだろう。 

 

「だらしがない。普段から勉強しないからこうなるのよ。」 

 

「いやぁ最近俺なりには勉強してたんだけど、まだまだだったみたいだな。」 

 

上条はそう言って一息ついた瞬間、何かを思い出したように目を見開き、急に立ち上がった。 

 

「やべぇ・・・インデックスのこと完全に忘れてたわ・・・。」 

 

「・・・あ。」 

 

「すまん!!吹寄っ!!俺もう帰るわ!!」 

 

「え?ち、ちょっと・・・。」 

 

「勉強教えてくれてありがとうな!!それじゃまた明日!!」 

 

そう言い残すと上条は足早に教室を出て行った。 

 

色気がないなんて言われてるけど、私だって一応女だ。家まで送っていくくらいの配慮があってもいいのではないか。 

 

上条は薄情なやつだ。 

 

「・・・本当に薄情なやつ。」 

 

私は配慮が足りない怒りとはまた別の寂しさのようなものを感じている理由が分からなかった。 

 

 

翌日、私はいつも通り朝早く登校したため、上条と鉢合わせすることはなかった。 

 

上条はいつものように遅刻ギリギリで教室に転がり込んできた。 

 

「はぁはぁなんとか間に合った。」 

 

「上やんお疲れさん。それでなんやの?その手足のあちこちにある歯型は?」 

 

青髪ピアスが不審そうに上条に尋ねた。 

 

「これは・・・来る途中に犬に噛まれまして・・・。」 

 

「へぇ。相も変わらず不幸なんやなぁかみやんは。」 

 

「ずいぶん獰猛な犬だにゃー。」 

 

土御門はにやにやしながらそう言った。 

 

休み時間に入ると私は上条のもとへ向かった。 

 

上条は心底疲弊しているようで、机に突っ伏したままピクリとも動かない。 

 

「起きろ上条!!疲れているなら糖分を補給することが一番よ。この頭の回転が速く・・・」 

 

「その飴はもういいです!!」 

 

「そんなことより今日も放課後残ってなさいよ!みっちりとしごいてやるから!」 

 

そう言うと上条は動揺したようで、視線をきょろきょろさせている。 

 

「えぇとだな・・・吹寄。今日は放課後に居残り勉強はちょっと厳しい。」 

 

「・・・え?」 

 

気まずそうに頬をかきながら上条は続ける。 

 

「いやぁ、申し訳ないんだけどさ。インデックスのやつを長い時間一人にさせておくのはちょっと酷かなぁと思ってな。」 

 

またどうしようもない寂しさに襲われる。何なのこの感情は!! 

 

「きっ貴様はいいの!?このまま勉強しないと罰ゲームを受けるはめになるわよ!私共々!」 

 

勉強するという大義名分がないと上条といっしょに過ごせない。そんなのは嫌だ。 

 

私は恐らく楽しいのだろう。上条と二人で過ごす時間が。 

 

「・・・本当にすまん。」 

 

「・・・わかったわ。まぁ面倒事がひとつ減ってせいせいしたわよ。」 

 

私は踵を返して自分の席に戻ろうとすると上条が再び声をかけてきた。 

 

「ち、ちょっと待ってくれ吹寄!!」 

 

「・・・何よ?」 

 

私は顔だけを上条のほうに向けて返事をした。 

 

「これは俺の個人的な頼みなんだけど、昼休みに勉強を教えてもらえねぇか?」 

 

上条は頬を染めながらそう頼んできた。 

 

「い、いやあの吹寄さんの貴重な休み時間を削ってしまうのは心苦しいのですが、 

 

このままでは罰ゲームを受けてしまうことになりそうなので。」 

 

「そ、それに昼休みならインデックスのことなんか関係ないだろ?俺の都合を押しつけて悪いんだけどさ・・・」 

 

「っぷ・・・くくく!!あはは!!」 

 

「どうされました!?吹寄さんっ?」 

 

いい訳がましい言葉を矢継ぎ早に繰り出してくる上条を見て私はおかしくてたまらなくなった。 

 

こんな上条を見るのは初めてだ。不覚にもかわいいと思ってしまった。 

 

「はぁはぁ別にいいわよ。じゃあ昼休みに教えてあげる。」 

 

「・・・なんだかとても馬鹿にされた気分です・・・。」 

 

それからというもの私は毎日昼休みに勉強を教え続けた。 

 

上条といると楽しいというのもあるが、上条自身がわりに飲み込みが早いので教えるのが楽しいというのもあった。 

 

こんなやりとりを数日続ける内に私はとうとう気づいてしまったのだ。 

 

自分の中に芽生えたはっきりとした恋心に。 

 

「そういえば上条、テストがいつあるか知っているの?」 

 

「ん?あぁそういや全然知らなかったな。いつあるんだ?」 

 

「・・・五日後よ。」 

 

「えぇ!?もうそんなに近いのか!?知らなかった・・・。」 

 

私はここである提案をしようとずっと考えていたプランを上条に打ち明けた。 

 

「し、正直言って今の貴様の学力じゃ補習は間違いないわ!」 

 

「な、なんだってぇぇー!!」 

 

驚愕の表情を浮かべる上条。 

 

いかし実際のところそれは嘘だ。 

 

毎日の勉強で上条の学力はある程度のところまで達している。もう補習を受けるレベルではないだろう。 

 

「なんてことだ・・・一体どうすれば・・・。」 

 

この世の終わりかのような顔でつぶやく上条。 

 

「安心しなさい!上条当麻!!幸いテストは土日をはさむわ!!」 

 

「なるほど!そこでみっちり勉強しようってわけですね!!」 

 

「そ、そうよ!だから日曜日は私の家で一日中勉強するわよ!!」 

 

「・・・え?」 

 

「い、いいのか?吹寄の家でって。」 

 

「貴様の家は居候がいて集中できないでしょう。夕方くらいまでには解放するから安心しなさい。」 

 

「なるほど。わざわざありがとう吹寄!!おかげで補習を免れそうだぜ!」 

 

そう言う上条を見ると嘘をついてしまったという自責の念に少し駆られるけど、 

 

鈍いこいつにはこのくらいが丁度いいだろう。 

 

 

そして日曜日。時刻は11時30分。 

 

約束していた時間より一時間半遅れて家のベルが鳴らされた。 

 

ドアを開けると体中に擦り傷やら歯型などがついている上条が立っていた。 

 

「遅れてすみませんでしたぁ!!」 

 

上条は私の姿を確認するや否やものすごい勢いで頭を下げた。 

 

私の家は上条の家からそんなに離れていないので簡単な地図を書けば、迷うはずもない。 

 

満身創痍な体を見る限り、どうせまた居候に噛みつかれたり来る途中に人助けを何件かこなしてきたのだろう。 

 

「はぁ・・・。もういいわよ。貴様のことだからこうなることは目に見えてたから。」 

 

「本当に申し訳ないです・・・。」 

 

「じ、じゃあお邪魔します。」 

 

「ちょっと待ちなさい。」 

 

「は、はいなんでしょうか?」 

 

上条の体のあちらこちらに無数の擦り傷があり、とても放置できるような状況ではない。 

 

「傷口を放置しているとそこから細菌が入って、感染症破傷風なんかになりかねないわ。」 

 

「いやいやそんな大げさなけがじゃ・・・」 

 

「消毒するわよ。こっちに来なさい。」 

 

ひとまず私は上条を洗面所に引っ張ってきた。 

 

「あれ?消毒するんじゃねぇのか?」 

 

「まずは傷口を水で洗い流さなきゃいけないでしょうが。ほら腕を出しなさい。」 

 

「あ、ああ。」 

 

水道に腕を近づけさせ、私は蛇口をひねった。当然勢いよく水が流れてくる。 

 

「いってぇぇぇぇ!!めちゃくちゃしみるな!」 

 

「だらしがない!男でしょうが!我慢しなさい!!」 

 

私はそう言って上条の背中をはたいた。 

 

「いてぇぇぇぇぇ!!せ、背中はちょっと勘弁していただけませんか!?」 

 

軽くはたいただけなのにどうしてこうも痛がるのだろう。尋常じゃない痛がり方である。 

 

「・・・!?まさか貴様っ!上条!ちょっと上着を脱ぎなさい!!」 

 

「え?女性からそう言われると何やらいやらしい響きがするのですが・・・。」 

 

「いいから!!」 

 

上条は渋々上着を脱ぎ、上半身が露わになった。 

 

なかなかいい体してるわね・・・じゃなくて!!背中には深い傷はないにしろ無数の傷が刻まれていた。 

 

「上条・・・。一体外で何をしていたの?」 

 

「えぇと・・・チンピラとケンカを少々・・・。」 

 

いつものように気まずそうな表情で言う上条。 

 

「また絡まれているひとを目撃して、自分の身をいとわず助けに入ったってわけね。」 

 

「今回のチンピラの中には風を操る能力者がいたもんでこういう傷を・・・。」 

 

私は深いため息を一回ついた。 

 

「しかしまぁ貴様という人間はぶれないわね。そういうところだけは認めてやるわ。」 

 

「それは褒められてるのか・・・?」 

 

「上条にしては高評価だと思うわよ。感謝しなさい。」 

 

「はぁ・・・。ところで俺はいつまで裸でいればいいんでしょうか?」 

 

「貴様はさっきのケンカで体中傷だらけだからそのままシャワーを浴びなさい。」 

 

「え、えぇぇぇっ!?」 

 

「服は洗濯しておいてあげるわ。あぁ、代わりの服は私の体操服でも用意しておくから。」 

 

「ち、ちょっとそれは色々まずいような気がするんですがっ!!」 

 

「・・・貴様は何かいやらしいことを考えているわけ?」 

 

「いえいえっ!!滅相もございません!御好意に甘えさせてもらいます!!」 

 

これで服の貸し借りという名目でまた上条に会うことができる。 

 

私はこうでもして上条とのつながりを作りたいのかと、自分が惨めに思えてきた。 

 

しかしそう思うまでに上条のことが好きになってしまっているのだ。もうどうしようもない。 

 

こんなことを考えててもどうにもならないし、とりあえず私は上条のために作った昼食のカレーをあたためなおすことにした。 

 

「ただいまあがりました。」 

 

「じゃあ消毒するわよ。」 

 

「そういえば元々消毒するために洗面所に行ってたんだよな。すっかり忘れてたけど。」 

 

私は上条の上着を脱がせ、消毒液をガーゼにつけ体中に塗ってあげた。 

 

その間上条はひたすら悶絶の声を上げていた。 

 

「はぁーすげぇしみたよ。」 

 

「貴様はいちいち声がうるさいのよ。」 

 

「すみません。」 

 

消毒を終えた上条は目の行きどころがないようでそわそわと部屋を見まわしていた。 

 

「上条!人の家の中がそんなに珍しい!?」 

 

「い、いやそんなことはないぞ!ただ女の子の部屋に入った経験があまりないもんだからさ、落ち着かないんだよ。」 

 

「っ!!」 

 

園都市最大の朴念仁である上条当麻に、異性としてはっきりと意識されていた。 

 

不覚にも私はそのことをとてもうれしく感じてしまった。 

 

「しかしだな吹寄・・・ここにおいてある“伸縮性高枝切りバサミ”って一体いつ使うんだ?」 

 

「そ、それは何かと高い木になっている果物をとるときに便利かと思って・・・。」 

 

「ここ学園都市だぞ?」 

 

「・・・。」 

 

「あとこの“LEG MAGIC”ってなんだ?」 

 

「それは簡単に美脚エクササイズができるトレーニングマシーンよ。」 

 

「最近これいつ使ったか?」 

 

「・・・三か月前。」 

 

ちくちくと痛いところをついてくる上条。 

 

「私が通販にぼったくられ、そこそこ値の張る商品を買って、数回しか使わずに部屋の隅に放置されてたって貴様には関係ないじゃない!!」 

 

「いやまぁいいんだけどさ・・・。それよりこのLEG MAGIC、使わせてもらえないか?」 

 

「え?まぁ別に構わないけど。」 

 

「一度こうゆうベタベタな通販商品使ってみたかったんだよな。」 

 

そう言うと上条はLEG MAGICにまたがり使用し始めた。 

 

これは最初はいいと思うのだけど、段々飽きてきて使わなくなる。 

 

典型的な通販失敗例なのだ。 

 

しかし、私はこのとき完全に忘れていた。上条当麻の不幸体質のことを。 

 

「おお!吹寄!!これなかなかいいじゃねぇか!何で使わないんってうぉぉ!!」 

 

思い出した時にはすでに遅し。マシーンごと上条の体が倒れかけていた。 

 

急いで駆け寄ったが間に合わず、例のごとく上条は私のほうに飛び込んできた。 

 

「きゃっ!!」 

 

私はその反動で勢いよく後ろに倒れてしまった。にも関わらず、痛みをあまり感じない。 

 

どういうことか、目を開けて状況を確認してみると上条が私の後頭部や背中に腕をまわして保護してくれたようだ。 

 

しかし、この体勢は一見して男女が抱き合っているようにしか見えないわけで・・・。 

 

上条はやはり男らしさを感じる引き締まった肉体をしていた。 

 

それにこういう状況にも関わらずなんだか抱きしめられていると安心してしまう。 

 

私は心地よい感触を堪能していたがそれも束の間、上条はものすごい勢いで私から離れ、慣れた動作で土下座の姿勢に入った。 

 

「すいませんでしたぁぁ!!」 

 

土下座を終えた上条はすぐさま防御姿勢に入った。 

 

一連の流れがものすごいスピードで行われた。 

 

彼が今までにどれだけこういう事態に陥っているかというのを思い知らされる。 

 

いつまで経っても私の攻撃がこないことを不審に思った上条が防御態勢を解いて話しかけてきた。 

 

「な、殴ったりしないんでしょうか?」 

 

「どうせこれも貴様の不幸体質のせいなんでしょ?いちいち付き合ってられないわよ。」 

 

「ふっ吹寄っ!!この体質を理解してくれるとは・・・。俺にはお前が天使に見えるぞ!!」 

 

そう言って上条はわざとらしく涙ぐんだ。 

 

「う、うるさいわね!!貴様が色々余計な手間をかけさせたせいでもう昼じゃない!」 

 

「うっ・・・。ま。まぁそういや腹も減ってきたな。」 

 

「感謝しなさい上条当麻!!今日はテストに臨む貴様のために私が直々にご飯をつくってあげたわよ!!」 

 

「な、なんだと・・・。」 

 

上条は呆然とした表情を浮かべている。一体どうしたのいうのか。 

 

「不幸なはずなこの俺にそんなハッピーイベントが起きていいのか?」 

 

「もしかしてこれから起こる不幸への布石なんじゃ・・・。」 

 

そういう風に思ってくれるのはありがたいが、ネガティブ過ぎて考えが不穏な方向に向かっている。 

 

「上条!!そんな余計なことを考えずに今はただ無心に食らえばいいのよ!」 

 

「あ、あぁそうだな!せっかく吹寄がつくってくれたんだもんな。本当にありがとう。」 

 

私はそう言われるとキッチンに向かった。 

 

もちろんカレーをとりに行くためではあるが、先ほど言われたセリフでにやけてしまった自分の顔を隠すためでもあった。 

 

 

「さぁ存分に味わいなさい!!この美味さに貴様は思わず身もだえすることのなるわよ!!」 

 

「テストに勝つ!!でカツカレーか!!吹寄らしいな。」 

 

そう言ってほほ笑む上条の横顔は私にとってとても魅力的に映った。 

 

「では早速!!いただきます!!」 

 

上条は言葉通り凄まじい勢いでカレーを食べ始めた。 

 

「うまいっ!!これめちゃくちゃうめぇよ吹寄っ!!」 

 

「と、当然じゃない!それより貴様・・・もう少し落ち着いて食べられないの?」 

 

「ふぅーくったくった。ごちそうさまでした。実にうまかった。」 

 

カツカレーをあっと言う間に平らげた上条はしみじみと感想を述べた。 

 

「ありがとう吹寄。わざわざ俺のためにつくってくれて。」 

 

「も、もうお礼はいいわよ。」 

 

「さぁ上条!!胃も満たされたところで勉強を始めるわよ!!まずは頭を働かせるためにこの頭の回転が速くなる・・・」 

 

「その飴どんだけ俺に食わせたいんだよ!!」 

 

 

勉強を始めてから特にこれと言った雑談も交わすことなく、ひたすらに勉強をしていた。 

 

上条が問題を解き、わからない部分を私が解説して丁寧に教えていく。 

 

ただそれだけのことが私にとって幸福だった。 

 

たとえどういう形であれ、上条と二人きりで過ごす。 

 

それが私にとって一番重要なのだ。 

 

「ん?もうこんな時間か。そろそろ帰らねぇとインデックスが怖いな・・・。」 

 

「ま、まぁこのくらい勉強すればもう大丈夫そうね。」 

 

楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまう。 

 

「上条!間違っても今日は徹夜で勉強とかするんじゃないわよ!睡眠不足は敵なんだから。」 

 

「あぁ。わかったよ。今日は何から何まで悪かったな。」 

 

「まったく貴様というやつは一時間半も遅刻するし・・・」 

 

「うわぁホント悪かったって!!蒸し返さないでくれ!!すみませんでした。」 

 

「じゃあ帰るわ。今日は本当にありがとう。」 

 

「きっ貴様は何回お礼を言えば気が済むのよ!!」 

 

それほどまでに上条が感謝しているというの伝わってきてとてもうれしい。 

 

今気付いたが、私は尽くすタイプの女なのかもしれない。 

 

「あーあと、もうひとつ。」 

 

上条は何やら言いづらいことを言おうとしているようで口ごもっている。 

 

「こ、こう言ったら勉強を一生懸命教えてくれた吹寄は怒るかもしれないんだけどさ。」 

 

「なんか俺今日楽しかったわ。」 

 

自分の顔が一気に熱を帯びていくのがはっきりとわかる。 

 

恐らく今私の顔はゆでダコのようになっているだろう。 

 

私が感じていることを上条も感じていた。この事実が嬉しくてたまらない。 

 

しかしそれと同時に、恥ずかしい感情も湧き出てきてどうしていいかわからない。 

 

「じ、じゃあな!!また明日学校で!!」 

 

私が何も言えず、口をぱくぱくさせていると上条は足早に出て行ってしまった。 

 

 

翌日。私はいつものように早めに登校した。 

 

今日はテスト当日だけど、上条はちゃんと起きれているだろうか。 

 

そんなことを考えながら教室に入ると、上条はすでに自分の席に着席しており勉強をしていた。 

 

「こんな早くに登校なんて貴様にしては珍しいわね。」 

 

「おお吹寄、おはよう。テスト当日くらい早起きして朝から勉強しようって考えたわけですよ。」 

 

「中々殊勝な心がけね。テスト中に寝るんじゃないわよ。」 

 

「大丈夫だ!昨日は吹寄の言うとおり早めに寝たからな!」 

 

テストが始まったが私は上条のことが気がかりで、自分のテストにあまり集中できなかった。 

 

ちゃんと落ち着いてテストに臨めているだろうか、私が教えたところを覚えているだろうか。 

 

そうこうしている内に最初のテストが終わってしまった。 

 

「吹寄ぇぇっ!!」 

 

驚いて振り向くと上条が私の席まで駆け寄ってきていた。 

 

「な、なんなの?騒々しいわね。」 

 

「俺は今までにないくらいに感動している!!問題がことごとく解けてしまうんだ!!」 

 

「あれだけ勉強してとれないほうがおかしいわよ。」 

 

上条に対しては思わずそう言ってしまうが、私はほっとしていた。 

 

いつもの不幸体質が出なくてよかったと。 

 

冷静に考えれば、今回のテストは下手に山を張ったりせず満遍なく勉強したため解けるのは当然のことだった。 

 

それからというもの上条は、テストが終わる度に私の席にきてどれほどの手応えがあったかを熱弁してきた。 

 

うれしそうに語る上条をたしなめているものの、私はそんな上条が愛おしいとまで思うようになった。 

 

 

テストも全日程を終え、成績が発表される日がやってきた。 

 

「吹寄・・・。いよいよこの時がきてしまいましたよ・・・。」 

 

「貴様はここにきてなんてだらしがない表情を浮かべてるのよ。あれだけ自信満々だったじゃない。」 

 

「いや、いざ成績発表となると名前書き忘れたような気がしてきて・・・不幸だ。」 

 

上条の不幸体質が発揮されないことを祈るばかりだ。 

 

テストが終わってからというもの、上条と私はよく談笑するようになった。 

 

その光景をクラスメイトが見て、最終防衛線がぶち破れた、などと話していたがなんのことだかさっぱりだ。 

 

 

教壇に立つ小萌先生が言う。 

 

「では今回も補習組を発表していきたいと思います!!」 

 

「どうせ今回も俺たちの三人で決まりだにゃー。」 

 

「僕なんか小萌先生の補習を受けるためにわざと悪い点とってるくらいやからね。」 

 

「・・・ふっふっふ。」 

 

各々が好き勝手話している中上条が薄気味の悪い笑い声をあげる。 

 

「な、なんや上やん。補習の受け過ぎで頭おかしくなってしもたんか?」 

 

「土御門、青ピ!!今回の俺は一味違うぜ!!俺がまた補習を受けると思ってるなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!」 

 

「上やん。そのセリフ果てしなくダサいにゃー。」 

 

「はいはい、静かにするのですよー。まず一人目は青髪ピアスちゃん!!」 

 

「やったでー!!」 

 

「そして二人目、土御門ちゃん!!」 

 

「まぁ妥当だにゃー。」 

 

 

「・・・以上なのです。」 

 

「・・・え?先生上やんの名前を言い忘れてるんやないですか?」 

 

「上条ちゃんは今回補習は無しです!!先生は上条ちゃんの頑張りに感動しました!!」 

 

「・・・いよっしゃぁぁぁー!!!」 

 

上条は勢いよく席から立ち上がり全身で喜びを表した。 

 

上条が補習を逃れるなんて・・・と周りは驚愕の表情を浮かべている。 

 

「まさかこれもなんらかの魔術が影響しているのか・・・。」 

 

土御門に至っては普段の口調を忘れて意味不明なことを言っている。 

 

小萌先生はよほど感動したらしく延々と上条を褒めちぎっている。 

 

「上条ちゃんはいつもダントツで成績が悪かったのに、今回は補習を受けるどころか上位の成績にくいこんでいたのですよ。」 

 

「お、俺が上位の成績・・・涙がでそうだ!!」 

 

「もう本当に先生は感動しちゃいました。ところで吹寄ちゃん。さっきからなんで立っているのですか?」 

 

「え?」 

 

私も上条と同じでうれしさのあまり立ちあがってしまったようだ。それに気付かないなんてもう重症だ。 

 

「え、えっとトイレに行ってきてもよろしいでしょうか?」 

 

「?ど、どうぞ?」 

 

 

その日の放課後。私は上条から声をかけられた。 

 

「吹寄、今日一緒に帰らないか?」 

 

「え!?べ、別に断る理由はないわよ。」 

 

正直言って私は動揺していた。 

 

今まで上条と二人きりというのは何回かあったが、肩を並べていっしょに下校なんてシチュエーションは初めてだったからだ。 

 

「いやぁまさかこの俺が優秀な成績をおさめるとは・・・未だに夢のようですよ。」 

 

隣で歩く上条は感慨深げに呟いている。 

 

「勉強したらした分だけ結果が伴うのは当然のことじゃない。いかに貴様が今まで勉強してこなかったかということね。」 

 

「うっ。返す言葉もございません。」 

 

「まぁでも貴様にしては頑張ったんじゃない?」 

 

私がそう言うと上条は顔を横にそむけた。 

 

ちらりと見える頬が赤く染まっているのがわかる。褒められて嬉しいのだろうか。 

 

「今さら何を照れてるのよ。」 

 

「い、いや、吹寄が素直に褒めてくれることって中々ないからな。」 

 

「これで俺もしばらくは根詰めて勉強する必要がなくなったわけだ。」 

 

その言葉を聞くと私は胸が苦しくなる。 

 

その言葉は私と上条とのつながりが薄くなることを意味するからだ。 

 

「ぬるいわよ上条当麻!継続は力なり!これを機に勉強を習慣化しなさい。」 

 

「もちろんそれなりにはするつもりだぜ。吹寄先生のおかげでたった数週間の内に俺の意識ががらっと変わりましたからね。」 

 

「か、感謝しなさいよね!!」 

 

「感謝してるからこう言ってるのですが・・・。」 

 

段々照れ隠しが下手になってきているなぁと我ながら思ってしまう。 

 

そうこうしている内にいつの間にか私は家に到着していた。 

 

「わざわざ悪かったわね。家の前までついてこさせて。」 

 

「いやいや、誘ったのは俺なんだから気にするなよ。それに俺がいないと吹寄がチンピラに絡まれたりするかもだろ?」 

 

「貴様といるほうが絡まれる確率が高まりそうなんだけど。」 

 

「な、なかなかドギツイことをおっしゃる・・・。」 

 

「それじゃあね上条。」 

 

私はこれ以上上条といっしょにいると延々と話し続けたくなってしまうので、あえて自分から別れを切り出した。 

 

「おお、じゃあな。勉強教えてくれてありがとな、あと昼飯もごちそうしてくれてありがとう。」 

 

「あとでカレー代請求するから。」 

 

「ま、マジですかっ!?」 

 

「冗談よ。じゃあね。」 

 

そう言われると上条は安堵した表情を浮かべ、私に力なく手を振った。 

 

そのまま私の姿が見えなくなるまで上条は手を振り続けてくれた。 

 

 

自分の部屋に入ると、私は急に寂しくなった。 

 

空虚な気持が心の中を支配する。 

 

上条ともういっしょに勉強できないという事実を認めたくなかった。 

 

私は服が汚れるのも気にせず、玄関に座りこんで膝を抱えた。 

 

私は携帯が鳴り響く音で我に返った。 

 

時計を確認すると、かれこれもう一時間は経過しており、一体何をしているのだろうと自己嫌悪に陥る。 

 

携帯を開けて、メールの送り主を確認するとそこには上条当麻の文字が表示されていた。 

 

上条からメールが着たのは初めてだ。 

 

胸の高鳴りが抑えられない。早速開いてみるとそこには 

 

件名:悪い 

 

本文:体操服借りっぱなしだったの忘れてたわ。 

   今から返しに行ってもいいか?吹寄の家にも俺の服があるし。 

 

   あ、もちろん洗濯はしているぞ!! 

 

 

20分後、私の家のインターホンが鳴らされた。 

 

「よ、よぉ。」 

 

ドアを開けるとそこには照れくさそうな顔で上条が立っていた。 

 

「あんな風に手を振った手前、また会うのはちょっと恥ずかしいな。」 

 

「きっ貴様が大げさなことをするから悪いのよ!」 

 

「すみません・・・。あっとこれが例の体操服だ。ありがとな。」 

 

上条はそう言ってビニール袋に包まれた体操服を差し出した。 

 

「ほら。一応アイロンかけておいてやったわよ。」 

 

「おぉ!気が利くな!流石は吹寄先生!!」 

 

「か、からかうんじゃないっ!!」 

 

「・・・・・・。」 

 

「・・・・・・。」 

 

一連の流れを終えると二人の間に沈黙が訪れた。 

 

私は腕組みをして上条が話し始めるのを待つことにした。 

 

「あ、あのさっ!!」 

 

沈黙を破ったのはどもり気味の上条だった。 

 

「俺はこの数週間、吹寄にはお世話になりっぱなしだった。」 

 

「自分の貴重な時間を使って、俺に根気強く勉強を教えてくれた。」 

 

「俺を元気づけるために、カツカレーも作ってくれた。」 

 

「そのおかげで俺は、補習を免れるどころか成績優秀者までになっちまった。」 

 

「怪我をしたらシャワーと服を貸してくれたし、消毒もしてくれた。」 

 

「だけど俺は吹寄に対して、何もしていない。ただお礼を言うだけで、恩恵を受けてばっかりだ。」 

 

「え、えぇとだな・・・つっつまり俺は吹寄に恩返しがしたいんだよ!!」 

 

「そ、それであのこれを買ってきたのですが、俺と一緒に行ってくれないか?」 

 

そう言って恭しく差し出された手の中には遊園地の入場券が二枚握られていた。 

 

「つまりこれはどういうこと?」 

 

私はしどろもどろになっている上条がかわいくて、思わず意地悪をしてみたくなってしまった。 

 

「あ、あのつまり・・・俺とデートしてくれませんかっ!?」 

 

「ふふ、貴様は恩返しをしたいと言ったそばからお願いするなんて忙しいやつね。」 

 

「私に断る理由なんてないわよ。」 

 

私はそう言って上条に微笑みかけた。 

 

「・・・。」 

 

そうした途端に上条はフリーズしたように私の顔を見たまま固まってしまった。 

 

「い、いきなりどうしたの。」 

 

「吹寄。」 

 

「なっ何よ!!」 

 

「お前笑ったら案外可愛いよな。」 

 

「・・・か、上条はッ!」 

 

 

終 

 

 

 

 

 

 

上条「お前笑ったら案外可愛いよな」吹寄「・・・か、上条はッ!」

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