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八幡「それにしても変わらないなお前は…」雪乃「そういうあなたこそ…そちらは娘さんかしら?」【俺ガイルss/アニメss】

 

総武高校を卒業して二十数年… 

 

俺は高校時代の同級生だった川なんとかさんもとい川崎沙希と結婚した。 

 

それまでぼっちだった俺がたくさんの人から祝福を受けて盛大な結婚式を行った。 

 

さらに俺の女房となった沙希もしっかり者で面倒見もよく頼れる存在だ。 

 

そんな沙希と結婚して俺はこれからの結婚生活はしあわせなものだと信じていた。 

 

それなのに… 

 

 

「アンタ!いい加減起きなッ!」 

 

「ふぁぁ…たく…日曜の朝だぞ…もう少し寝かせろよ…」 

 

「何だらしないこと言ってんの。 暇なら子供とどっかに遊びに行ってよ。これから家の掃除するんだから邪魔だよ。」 

 

せっかくの休日だというのに二度寝することも 

 

日曜恒例のスーパーヒーロータイムの観賞も叶わず俺は子供を連れて家を追い出された。 

 

結婚後、沙希は変わった。 

 

家の切り盛りを第一に考えて喧しくなりそんな沙希を俺は疎ましく思うようになった。 

 

まあ結婚生活に夢見がちだったわけだよ。 

 

その昔、母ちゃんが注意する度に親父が口酸っぱく言ってたな。 

 

結婚すればどんな女だって変わってしまう。 

 

親父曰く昔は小町なみに愛らしい存在だった母ちゃんらしいが結婚後は… 

 

家事と仕事の二足わらじの多忙な毎日ですっかり変わってしまったそうだ。 

 

「パパー!早くお出かけしようよー!」 

 

そんなぼやく俺の手を愛らしい愛娘の八希が引っ張ってくれた。 

 

会社では社畜として働き詰め、家では小煩い女房に詰め寄られるストレスだらけの日々で 

 

今となってはこの子だけが唯一の生きがいだ。 

 

この子がいなくなればきっと俺はこの先、生きていくことなど出来やしないだろう。 

 

 

「へえ、それじゃあ八幡また追い出されたんだ。」 

 

「まあな。まったく情けない話だろ。そういう彩加のところはどうなんだよ?」 

 

「僕のところも同じかな。小町ちゃんも結婚してからしっかりしてきたんだけど…」 

 

出かけたはいいが特に行き先のない俺は 

 

唯一の友達でもある彩加を呼んでサイゼでダベッていた。 

 

え?友達なら材木座がいるだろって?別にあいつ友達じゃないし… 

 

ちなみに彩加は俺のMyスウィートエンジェル小町ちゃんと結婚して 

 

俺とは義理の兄弟という関係になった。 

 

つまり俺にとって彩加は義理の弟ってわけだ。 

 

こんな可愛らしい弟が出来たのは俺にとってまさに幸運。 

 

そういえば小町の結婚式で大志のアホが妙に泣き叫んでいたけど 

 

今となってはどうでもいい話だ。 

 

そんな彩加だがやはり俺と同じく小町によって家を追い出されたらしい。 

 

「そうか。彩加のとこも…まったく女って何で結婚すると変わるんだろうな…」 

 

「う~ん。やっぱりお母さんになったからじゃないかな。 女の人って結婚して子供が生まれると変わるっていうじゃない。だからじゃないかな。」 

 

「ほ~ん。そんなもんなのか。」 

 

まあ彩加の言うことにも一理あるな。 

 

沙希があんなに小言をぼやくようになったのは娘の八希が生まれてからだ。 

 

それまでは面倒見のいい姉キャラだった沙希が何故か神経質になりだした。 

 

思えばあの頃から沙希は変わり出していた。 

 

その変化を俺はどうすることも出来ず見ているしか出来なかった。 

 

「パパー!お待たせ!ジュース持ってきたよ!」 

 

そこへ娘の八希がドリンクバーで注いだジュースを持ってきた。 

 

よく見ると俺の分まである。さすがは俺の娘、出来た子だ。 

 

う~ん!やっぱりうちの子最高! 

 

 

「あら、こんな衆目の場で小さなお嬢さんに抱きつくなんて最低のロリコンね。通報しましょうか。」 

 

だがそんな俺に対してまるで凍えるような冷えた声で語りかける女性がいた。 

 

スラリとしたパンツルックのスーツにサラサラとした長い黒髪。 

 

それでいてこの端正な顔つきは…そんな…嘘だろ… 

 

「お前…雪ノ下か…」 

 

「まあ、どこかで見覚えのある男かと思ったら確か名前は…ヒキガエルくんだったかしら。」 

 

「ちげーよ。比企谷だ。つかお前わかっててやってるだろ。こっちは傷つくぞ。」 

 

「ごめんなさい。そうよね。あなたと比べたらヒキガエルが可哀想よね。」 

 

この…相変わらずの毒舌だな… 

 

目の前にいるこいつは雪ノ下雪乃。かつて俺が居た奉仕部の部長だった部活メイトだ。 

 

高校時代は憧れたこともあったが 

 

沙希と付き合うようになってからその憧れの感情は一切切り捨てたつもりだ。 

 

けど、雪ノ下だがまるで時間が止まったかのように高校当時のままだ。 

 

あれから二十年以上も経って俺たちみんな中年に差し掛かっているというのに 

 

こいつは制服でも来たらまだ女子高生だと言い張れるような端正な容姿だった。 

 

あ、もちろん彩加もだけど… 

 

「それにしても変わらないなお前は…」 

 

「そういうあなたこそ…そちらはあなたの娘さん…?」 

 

「娘の八希だ。ほら、挨拶するんだぞ。」 

 

「あの…初めまして…八希です…」 

 

「初めまして。雪ノ下雪乃よ。こちらこそよろしくね。」 

 

雪ノ下は娘の八希に視線を合わせるかのように丁寧に挨拶した。 

 

昔から俺や悪意を持った相手以外には意外と優しい面もある雪ノ下だが… 

 

それにしても本当にこいつは当時のままだ。 

 

時が経つにつれて誰もが変わりゆく中で 

 

いつまでも変わらずにいてくれた雪ノ下のことがどういうわけか嬉しく思えてしまった。 

 

 

「―――それで隣の奥さんが…」 

 

「―――子供のお受験をどうするか聞いてきてね…」 

 

「―――うちも八希のためにそろそろ考えるべきじゃないのかなって…」 

 

夕方、俺は彩加やそれに久しぶりに再会した雪ノ下とサイゼでダベッた後 

 

そのまま娘と共に帰宅したがどういうわけか心が上の空だった。 

 

沙希が何か話してくるがそんなのはちっとも頭に入ってこない。 

 

今は雪ノ下のことで頭がいっぱいだ。あいつは昔のままだった。 

 

雪ノ下か。今はどうしてるんだろ?仕事は何してるんだろ?結婚はしてるんかな? 

 

いや、苗字はそのままだったから恐らく独身のままか。 

 

あの美貌で独身とか勿体ない話だよな。それとも恋人でも… 

 

「本当に高校の頃のままだったよな。」 

 

思わず口に出してしまったがそういえばと思った俺はふと沙希の顔に目を向けた。 

 

自分で言うのもなんだが出会った当初の沙希は雪ノ下に負けず劣らずの容姿の持ち主だ。 

 

けどここ数年で変化…いや…悪く言えば劣化の兆しが見えてきた。 

 

子供が生まれてグラマーだった体型が崩れ落ちてきた。 

 

かつてはあの由比ヶ浜並みの巨乳も垂れてきたし目元なんて小じわが目立つよな。 

 

まあこれが今の俺たち世代の平均的な容姿だ。 

 

それと比べたらあの頃の容姿を保っている雪ノ下はマジで半端ないわけだ。 

 

「ちょっとアンタ!聞いてんの!?」 

 

「うわ!え?なんか言ったか?」 

 

「だから八希のお受験についてだから。うちも私立の中学校に入れるかって話だよ。」 

 

「いやいや、中学校の受験なんてうちには関係ないだろ。」 

 

「何言ってんの!今のうちから受験させないと将来いい学校や会社には入れないんだよ!」 

 

ああ…またこの話か… 

 

沙希の頭の中は俺と同じく娘の八希のことばかりだ。 

 

けどそれは俺みたく単純に愛でるってわけじゃない。 

 

この通り世間にありがちな教育ママと成り果てた。 

 

数年前なんて有名私立幼稚園のお受験をさせようとしたくらいだ。 

 

あの時はさすがに俺もやりすぎだと言って聞き入れてくれたが今回はガチだ。 

 

俺としては学校なんて公立でも構わない。 

 

八希がのびのびと健やかに過ごしてくれたらそれでいいと思っている。 

 

それなのに俺たち夫婦の思いはすれ違ったまま… 

 

沙希はどうあってもお受験をさせるつもりだろうし俺は反対だ。 

 

「アンタもこれからはもっとしっかり稼いでよね。そうじゃないとこの子を大学まで送り出せないんだから。」 

 

へいへい、わかりましたよ。 

 

せっかくの休日だというのにまた社畜としてこき使われる毎日の始まりだ。 

 

そりゃ愛娘のためならしっかりと働くよ。 

 

けどそれが本当に八希の望みなのかといえば… 

 

「…」 

 

八希も今の話を聞いてげんなりとしていた。 

 

ガキのうちからやれお受験だの就職だの言い聞かされたらそりゃ溜まったもんじゃない。 

 

けど俺は… 

 

今の沙希にどうこう言うことも出来ずにもどかしい思いを募らせるしかなかった。 

 

 

「まさかこんなにまた早く会うことになるなんて思わなかったわ。」 

 

「まあな、急な誘いで悪かった。」 

 

「本当に急なのだけど。けど誘ってくれて嬉しいわ。」 

 

「なんだよ?まさか俺に会うのが嬉しいとでも言う気か。」 

 

「そんなわけないでしょ。可愛い八希ちゃんと会えるのが嬉しいのよ。」 

 

翌週の日曜日。 

 

またもや家を追い出された俺は娘を連れて雪ノ下とサイゼで待ち合わせをしていた。 

 

まさかこんなにも早く雪ノ下とまた再会するとは思わなかった。 

 

つか何で俺こんなに嬉しそうにしてんだよ。別にこんな… 

 

「可愛いなんて…雪乃さんお世辞がうまいんだから…」 

 

「そんなことないわ。あなたお母さんに似ているのだから将来美人さんになるわよ。 それにしても川崎さんが羨ましいわ。 こんな可愛い娘がいるんだもの。私もそろそろ子供が欲しいと思ってしまうわね。」 

 

「思ってしまうわねって…お前相手の男がいるのか…?」 

 

「………いないわよ。昔はいたかもしれないけど…今は…」 

 

俺の問い掛けに雪ノ下は過去を懐かしむような切ない顔でそう呟いた。 

 

その意味を……俺は知っている。 

 

 

そう、あれは高校時代。俺は雪ノ下雪乃から告白されたことがあった。 

 

『比企谷くんあなたのことが好きです。付き合ってください。』 

 

その言葉を聞いた時は心底驚かされた。 

 

まさか非モテぼっちの俺があの氷の女王さまから逆告白されるなんて… 

 

けど俺はその告白を受けることが出来なかった。 

 

何故ならその当時、俺は既に沙希と付き合っていたからだ。 

 

だから俺は雪ノ下とは付き合えないと返事した。 

 

それ以来、俺たちの仲は気まずくなり高校を卒業するとそれっきり連絡が途絶えたまま。 

 

その後は沙希と結婚してこうして娘の八希も生まれた。 

 

確かに人並みの幸せは得られたのかもしれない。けれどこうも思う。 

 

もしもあの時、雪ノ下の告白を受け入れていたらどんな未来が待っていたのだろうか。 

 

ひょっとしたら俺は選択肢を誤ったのではないかと… 

 

 

「さあ、せっかくの休日だもの。何処かへ行きましょうか。」 

 

「何処かって…このままサイゼでいいだろ。ぶっちゃけ面倒だし。」 

 

「あなたはそれでいいかもしれないけど八希ちゃんはそうはいかないでしょ。 ねえ八希ちゃん。これからディスティニーランドへ行きましょう。 ちょうどチケットがあるの。あなたも行きたいでしょ。」 

 

「うん!ディスティニーランドなんて久しぶり!」 

 

雪ノ下は前もって準備しておいたチケットで俺たちと一緒にランドへ向かった。 

 

八希もここ最近近場しか行けなかった鬱憤が溜まっていたのかランドへ着くなりはしゃぎまくりだ。 

 

 

「雪乃さん!早くマウンテンに行こうよ!」 

 

「慌てないで。ちゃんと乗れるから急かさないの。」 

 

雪ノ下はしゃぐ八希の手を握って優しく微笑みながらそう言ってくれた。 

 

こんな顔をする雪ノ下を見るのは久しぶりだ。 

 

高校時代、雪ノ下は氷の女王として告白してくる男どもを片っ端から毒舌でなぎ払ってきた。 

 

そんな雪ノ下が唯一心休まるのは 

 

奉仕部の部室で俺や由比ヶ浜といった一部の心許せる相手とのひと時だけだった。 

 

そうだ。これはまるで奉仕部にいた時と同じ心地いいひと時なんだ。 

 

もう一度あの時間を過ごせるなんて俺は夢にも思わなかった。 

 

 

「雪乃さん!ありがと!とっても楽しかったよ!」 

 

「こちらこそよ。また一緒に遊びましょう。」 

 

こうして俺たち三人はディスティニーランドで一日を過ごした。 

 

八希はとても満足した表情で雪ノ下にお礼を告げた。 

 

そんな八希に雪ノ下もまた満面の笑みで応えてくれた。 

 

傍から見たら俺たちは仲のいい家族だと思われるだろう。 

 

「あ~あ、雪乃さんがママだったらいいのになぁ…」 

 

「そんなこと言ってはダメよ。 沙希さんだってあなたのことを悪気があってやっているわけじゃないの。 そこはわかってあげなければダメよ。」 

 

「うん…けど…やっぱりこういう時間をもっと過ごしたいよ…」 

 

「そうね。まだあなたにはこういう時間が必要よね。 わかったわ。今度の休日もまた一緒に遊びましょう。約束よ。」 

 

「わあ!ありがとう!」 

 

こうして雪ノ下は八希のために休日は俺たち二人に費やしてくれるようになった。 

 

俺も悪いと思いながらもつい雪ノ下の言葉に甘えてしまい 

 

気が付けばまるで本当の親子みたいなまでに三人で休日を満喫するようになった。 

 

 

そしてまたもや近所の公園を三人で散歩しながら満喫していた時だ。 

 

「はいお弁当。召し上がれ。」 

 

「なんかスマンな。こんなことまでしてくれてさ。」 

 

「別に大した手間ではないわ。それよりも沙希さんは何も言ってこないの?」 

 

「さあな。今の沙希は娘の進学について頭がいっぱいなんだろうよ。」 

 

「そう、けど気持ちはわかるわ。 奉仕部にいた頃、弟の大志くんが私たちに依頼した時のことを覚えている? 彼女も昔は進学について悩んでいたことがあったものね。」 

 

「そういやあいつ未成年なのにホテルのバーテンで仕事してたっけ。 

まあ俺たちも未成年のくせして店に押し入って説教して無茶したな。 

下手したら全員で停学処分を喰らってたかもしれんというのに… 

本当に若さって恐いな。」 

 

「フフ、そうよね。今じゃとてもじゃないけど真似できないものね。」 

 

公園の遊具で楽しく遊ぶ八希を見守りつつ 

 

俺は雪ノ下の作ってくれた手作り弁当を食べながら過去を振り返っていた。 

 

やはり思い出を共有できる人間との会話は弾むな。 

 

ぼっちだと決め込んでいた十代の頃には考えもしなかった。 

 

けど家に帰れば不機嫌な沙希が待っている。 

 

またあそこに帰らなければならないのか… 

 

ここ最近、家に帰るのが億劫になってきた。 

 

雪ノ下との再会を経てから俺の心境に変化が生じていた。 

 

この三人の穏やかなひと時がいつまでも続けばいい。 

 

それなのに現実はそれを許してはくれない。 

 

つかこれは浮気とはそんな不純なものじゃない。 

 

娘の目の前で不純な行為をやっちゃいけないくらいの分別は付いているからね。 

 

「ところで比企谷くん。聞きたいことがあるのだけど…」 

 

そんな物思いに耽る俺に対して雪ノ下は何やらあることを尋ねようとした。 

 

頬を赤く染めてまるで初心な少女のようだ。 

 

そんな雪ノ下を初々しく思うが同時に俺はその姿を見てあることを思い出した。 

 

忘れもしない高校時代。雪ノ下が俺に逆告白をした時と同じ雰囲気だ。 

 

「もしもだけど…高校時代…私の告白を受け入れてくれていたらどうだったのかしら。」 

 

「…わからん。けど…今とは違った未来にはなっていたかもしれんな。」 

 

「そうね。あなたの奥さんがもしかしたら私だったなんて未来かもしれないわね。」 

 

「お前が奥さんか。きっといい母親になれたかもしれねえな。」 

 

たらればの話しか。昔は嫌いだった。ifの話など無意味だと一蹴していただろう。 

 

けれど大人になった今はそうでもない。 

 

最近ではいつも考えてしまう。 

 

もしもあの時、あの選択を取っていれば今とちがった未来があったのではないのかと… 

 

それはひょっとしたらしあわせで充実した毎日だったのではないか。 

 

人生の選択肢を誤ったが故にこのような未来に陥ってしまったのではないか。 

 

学生の頃からネガティブ思考だが最近ではそれが更に酷くなってきた。 

 

「今とはちがった未来もいいわね。私も子供が欲しいもの。」 

 

「子供ねえ。一応聞くがどんな子が欲しいんだ?」 

 

「そうね、男の子がいいわ。うちは姉さんと私の姉妹だったから…」 

 

「男の子か。お前似の男の子なんてイケメンで女子にモテるだろうな。」 

 

「あら?あなた似の子でもいいのよ。 あなたのように弄れないよう私がしっかりと育ててみせるから。」 

 

俺に似た子か。そんなのが生まれたら将来かなり苦労しそうだな。 

 

まあ子供は可愛い八希がいるのでもう十分です。 

 

こうして楽しいひと時を終えて俺は子供を連れて家に帰宅した。 

 

 

だがそこでは沙希が恐ろしい形相で待ち構えていた。 

 

「お帰り。楽しかった?」 

 

「ああ…つかどうしたんだよ…顔が強ばってるぞ…」 

 

「は?そんなの当然でしょ。アンタたち最近どこで何してるの?」 

 

「どこでって…お前の邪魔にならないように外に出かけただけだが…」 

 

「出かけるって余所の女を連れて行く必要があるわけ?」 

 

やばい…どうやら雪ノ下のことがバレてしまったらしい… 

 

この険悪な雰囲気に八希は怯えて 

 

俺の手をギュッと握り締め俺は必死に言い訳を取り繕うと思考を辿らせた。 

 

「なあ…落ち着けよ…とりあえず子供の手前なんだから…」 

 

「その子供の目の前で浮気してアンタ自分が何をしたのかわかってんの!」 

 

「だから浮気じゃない。雪ノ下とはそんな関係じゃ…」 

 

雪ノ下とは浮気などと不純な関係ではないと 

 

ハッキリ言いたかったが最後までそれを言い切れなかった。 

 

確かに俺は雪ノ下に対して身体どころか指一本触れちゃいない。それは誓ってもいい。 

 

けど雪ノ下に対して何の思いもないのかと問われたら何も言い返すことは出来なかった。 

 

「ほら、ハッキリ言えないじゃない! アンタやっぱり外で浮気してたんでしょ!隣の奥さんたちに聞いたよ! お宅の亭主浮気してますよねってさ… もう赤っ恥だよ!どうしてくれるのさ!?」 

 

「すまん。誤解させるような行動をしていたのは謝る。」 

 

「本当だよまったく…これで八希のお受験が失敗したらどうすんのさ…」 

 

沙希が呆れた顔でそう愚痴った。その言葉を聞いて俺は愕然とした。 

 

ちがうだろ。そうじゃないだろ。 

 

お前の亭主は外で余所の女と浮気していたかもしれないんだぞ。 

 

それなのに何で娘の受験の心配なんてしてるんだよ。 

 

あぁ…そうか…そういうことかよ… 

 

それから沙希はもう諦めたかのようにリビングの方へと向かっていった。 

 

同時に俺は未だに怯え続ける八希を連れて家を飛び出した。 

 

「行くぞ八希。もうここにはいられない。」 

 

「ねえパパ…どこへ行くの…?」 

 

「決まっているだろ。雪ノ下のところだよ。」 

 

もう我慢の限界だった。もうこんな生活を続けられない。 

 

昔、俺は理性の化物だとか雪ノ下さんから言われたことがあった。 

 

けどそんなの知ったことか。俺は感情に従って行動したい。 

 

今のでわかった。沙希はもう俺のことなんて見ちゃくれない。 

 

やはり俺たちの結婚は過ちだったんだ。だからこそ今こそこの過ちを正さなきゃならない。 

 

俺のため、それに娘のためにも… 

 

「八希、俺は今度こそ正しい選択を行う。付いてきてくれるな。」 

 

「でも…そしたらお母さんは…」 

 

「沙希は俺たちのことなんて見ていない!このままじゃ誰もしあわせになれないんだ!」 

 

「それじゃあ…正しい選択をしたらみんなしあわせになれるの…?」 

 

「そうだ。お父さんを信じてくれ。一緒に行こう。」 

 

「わかった。お父さんを信じるよ。」 

 

八希は不安ながらも俺の手を離さないようにギュッと握り締めてくれた。 

 

そして俺は雪ノ下の家へと急いだ。あいつとならきっとうまくいく。 

 

今こそ俺は正しい選択をすべきなんだ。 

 

 

そう思った瞬間、目の前が真っ白になった。周囲が靄に包まれたみたいに何も見えない。 

 

何だこれ?どうなってるんだよ!? 

 

『―――こっちだよ。』 

 

すると誰かが俺の手を引っ張った。 

 

それは幼い子供の手。けど八希とはちがう感触だ。 

 

八希…そうだ…八希… 

 

俺はすぐにうしろを振り向いてさっきまで八希を握っていた手を覗いてみた。 

 

けどその手には… 

 

―――――――― 

――――― 

――― 

 

 

―――なさい。」 

 

 

「起きなさい。」 

 

「あなた、起きなさい。」 

 

ふぇ…気が付くと俺はベッドの中で眠っていた。 

 

あれ?一体どうなったんだ?八希はどうした? 

 

それにここは…周りを見渡すと身に覚えのないような…あるような… 

 

我が家と比べると随分と広い寝室のベッドで横たわっていた。 

 

つか随分とでかいなこのベッド。頑張れば三人くらい詰め込んで寝れるんじゃね? 

 

それよりも…今…俺を起こしたのは誰だ? 

 

この声は明らかに沙希の声じゃない。 

 

そのことに気づいた俺はすぐ声のする方へと振り向いた。 

 

「ようやく起きたのね。休日だからといってだらしないのは許さないわよ。」 

 

そこには…なんと雪ノ下がいた。 

 

けど雪ノ下だけど何か様子がおかしい。それになんと言ったらいいのだろうか。 

 

再会してからずっと感じていた若々しい魅力が薄れている気がした。 

 

まるでうちの沙希みたいに目元に小じわが目立つしそれに肌も年相応になっている。 

 

何だこれ?どうなってんだ。 

 

「オイ…雪ノ下…」 

 

「雪ノ下?何を寝ぼけているの?今はあなたも雪ノ下でしょ。」 

 

「え?俺が雪ノ下?何を言ってんだよ。」 

 

「本当に寝ぼけているのね。あなたは私と結婚して雪ノ下家の婿養子になったのよ。」 

 

そのことを告げられてかなりのショックを受けた。 

 

いや…待て…そんな馬鹿な… 

 

あの変な靄に包まれてからどう考えてもそんなに時間は経っていないはずだ。 

 

それじゃあこれはドッキリなのか? 

 

そう思った時だ。俺の脳裏にある記憶がまるで激しい洪水のように駆け巡った。 

 

『ありがとう雪ノ下。俺もお前のことが好きだ。』 

 

そうだ。俺は高校の時に雪ノ下から告白を受けて付き合うようになった。 

 

雪ノ下雪乃さん。俺と結婚してくれ。』 

 

それから大学卒業して会社に入って雪ノ下にプロポーズして承諾してもらった。 

 

『お義父さん、お義母さん、どうか娘さんを俺にください!』 

 

さらには結婚するために雪ノ下の両親から許しまでもらった。 

 

『雪乃、愛している。これからはずっと一緒だぞ。』 

 

それで結婚式まで行われたんだよな。 

 

式にはみんな来てくれた。小町や由比ヶ浜、一色やら葉山にあーしさん。 

 

そんで戸塚に材木座…あとそれと…沙希… 

 

八希!そうだ八希!八希はどうしたんだ!? 

 

「なあ…雪ノし…いや…雪乃…あの子は…どうしたんだ!」 

 

「あの子?誰のことを言っているの。」 

 

「誰って…俺の子だ!俺の子はどこへ行ったんだ!?」 

 

「いい加減寝ぼけるのはやめなさい。あなたの子は隣にいるじゃないの。」 

 

隣…?俺はすぐ隣を見渡した。するとそこには小さく蹲る子供が眠っていた。 

 

見た感じだと幼稚園児くらいの歳の子だ。誰だこいつ!? 

 

「八太、あなたも起きなさい。パパと一緒にいつまでも寝ているんじゃないの。」 

 

「う~おはよう母ちゃん…けどまだ眠いぞ…」 

 

「まったく変なところばかりパパに似てしまったのね。 ほら、早く起きないとあなたの大好きな番組が始まってしまうわよ。」 

 

「お~!そうだった!スーパーヒーロータイムが始まっちゃうぞ!」 

 

隣にいたのは八太という俺に似た男の子だった。 

 

そうだ。間違いない。八太は俺の子だ。 

 

あいつが生まれてから今日までの記憶が何故か当然のように存在していた。 

 

ふと俺は靄に包まれるまで八希を握っていた手を見つめていた。 

 

何もない。そんな…確かに俺は八希の手を離さず握っていたはずなのに… 

 

「さあ、八太は何を食べたいの。」 

 

「う~ん!メロンソーダが食べたい!」 

 

「ダメよ。それは食後のデザート。まずはメインの料理を食べなさい。」 

 

「え~!俺は甘いものを食べたいぞ!」 

 

あれから数時間がして昼飯は最寄りのサイゼで摂ることになった。 

 

上の子たちは習い事でいないし手間もかけたくないからとのことだが… 

 

てっきり俺は何処かへ遠出するのかと期待していたんだがな。 

 

それにしても違和感ばかりだ。まるで自分がこの世界の異物だと感じずにはいられない。 

 

あの後、俺は必死に自分の記憶を辿らせた。 

 

どうやらこの世界の俺は雪ノ下家に婿入りして 

 

義姉にあたる陽乃さんの秘書的立場にあるらしい。 

 

まあ元の世界と同じく社畜であることに変わりがないってのが泣けるわな。 

 

それと子供も八太の他にもいるらしくその子たちは雪ノ下に似た秀才な子たちばかり。 

 

そんで俺に似ちまった八太はその容姿で親類はあまり快く思われてないらしいが… 

 

「ところであなた、八太の進学だけどそろそろ考えるべきよね。」 

 

「へ?進学?」 

 

「まあ!呆れたわ!この子の進学について何も考えてないの!」 

 

「いや…まさか…こいつも有名私立にでも通わせる気か…?」 

 

「当然よ。上の子たちが行けたのよ。この子だってやれるはずよ。」 

 

雪乃は末っ子の八太に対して秀才な上の子たちと同じくらい期待を寄せていた。 

 

ちょっと待て。何だ…これ…? 

 

「それなのに周りの人たちは八太が出来の悪い子だと馬鹿にして悔しいわ。」 

 

「けど八太も私の子よ。」 

 

「徹底して英才教育を施せばきっとやれるはずだもの。」 

 

おい…どうなってるんだ…? 

 

何でだよ。俺は沙希じゃなくて雪乃を選んだはずだろ。 

 

それなのにどうして沙希と同じことを言っているんだよ? 

 

もうわけがわからなかった。俺は過ちを正すために新たな未来を選択した。 

 

けど…これじゃあ…同じじゃないか…一体どうなってるんだよ!? 

 

 

「あ、八幡も来てたんだね。」 

 

そんな動揺する俺に誰かが声をかけてきた。この声は…彩加だ。 

 

けどその彩加の隣には一人の女性がいた。その女性は俺の妹の小町じゃなかった。 

 

「雪乃に比企谷。アンタたちと同席することになるなんてね。」 

 

「あら沙希さん。あなたたち夫婦で来ていたのね。」 

 

「まあね。旦那とそれに子供と一緒だよ。」 

 

旦那…?そう言うと沙希は彩加の手を仲良さそうに握っていた。 

 

そんな沙希だけど何故か妙に若々しく感じられた。 

 

それも高校時代に出会った時と同じような… 

 

あれ?ちょっと待てよ。この感じ…あの時と同じだ。 

 

元の世界で雪ノ下と再会した時と同じ感覚だ… 

 

「パパー!ジュース持ってきたよ。」 

 

すると彩加のところへとある女の子が駆け寄ってきた。 

 

この子は…八希…娘の八希じゃないか! 

 

「八希!よかったここにいたのか!」 

 

俺はすぐに八希の元へと駆け寄った。 

 

無事でよかった。離れ離れになって心配してたんだぞ。 

 

「八希…?八幡おじさん何を言っているの?私の名前はそんなんじゃないよ。」 

 

「そうだよ八幡。この子の名前は彩希だよ。もう八幡しっかりしてよ。」 

 

「本当にあなたは…今日はなんだかおかしいわよ。」 

 

彩希…?八希…じゃなくて彩希…? 

 

その事実を知られされた途端、俺の脳裏にこの世界の記憶が駆け巡った。 

 

そうだ。この子は戸塚と川崎の娘だ。 

 

あぁ…そうだ…俺はこの世界で雪乃と結婚した。 

 

それで沙希は戸塚と結婚して…小町は大志のアホと結婚したんだ。 

 

だから俺と沙希の娘はこの世界には存在しない。 

 

いや、ちがうな。八希は戸塚と川崎の娘として存在している。 

 

あの時、俺は決してあの子の手を離さずにいたつもりだった。それなのに… 

 

別に死んだとか消滅したとか残酷な結果になったわけではない。 

 

それなのにどうしようもない虚しさを感じて思わず一筋の涙がこぼれ落ちた。 

 

「ところで雪乃。八太も私立の学校に入れるつもりって本気なの?」 

 

「ええ、勿論よ。周りは反対だけど私は本気よ。」 

 

「まあいいんじゃないの。八太もやれば出来るってところを見せつけてやりなよ。」 

 

「うん、僕もいいと思う。 周りがどう思っても母親の雪ノ下さんがしっかりしてれば大丈夫だよ。」 

 

「フフ、二人とも応援してくれてありがとう。なんとしても合格してみせるわ。」 

 

そんな虚しさに漂う俺を尻目に雪乃は戸塚と沙希を相手に子供の進学について話し合っていた。そして理解した。 

 

…結局…同じなんだ… 

 

俺は結婚に夢を見すぎていたにしか過ぎなかった。 

 

大人になり日々の虚しさを感じて甘い夢に浸ろうとした。その結果がこれだ。 

 

かつて結婚した妻とそれに愛しい娘はもういない。 

 

別に誰かを恨む気なんてない。何故ならこれは自業自得だ。 

 

俺はかつての人生が過ちだと思っていた。けどそれは誤解だった。 

 

すべては俺が勝手にそう思い込んでいただけなんだ。 

 

誰もがいつまでも高校時代のままでいられるはずがない。 

 

みんな大人になり考えも変わっていく。 

 

その変化に俺が乗り遅れていただけだったんだ。 

 

ひょっとしたら元いた世界の雪ノ下雪乃は俺が勝手に創った幻想だったのだろう。 

 

誰もが変化していく中で勝手に思い描いた幻想… 

 

それがあの世界の雪ノ下雪乃だったんだ。 

 

 

「うん!俺も頑張るぞ!」 

 

この場にいるみんなに推されて八太は小学校受験する気満々だった。 

 

別に悪いわけでもない。八太は頑張ろうとしている。 

 

それに俺も今更元の世界に戻るつもりもない。 

 

今となってはこの子も大事な息子だ。 

 

子供を失う喪失感を何度も味わうのは御免だ。 

 

ならば俺がすべきことは唯一つ。 

 

それは子供の選択肢が誤ったものにならないよう導くことだけ。 

 

なあ息子よ。お前も将来大事な岐路に立たされるだろう。 

 

その時、お前はどんな選択をしても決して父さんのように後悔するんじゃないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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