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八幡「お前ら、よく占いなんざ信じるよな」3/3【俺ガイルss/アニメss】

 

TV『では占いでーす!』 

 

TV『本日最も良い運勢なのは、牡羊座のあなた!』 

 

TV『意見が通って思い通りの一日に。難しいことも思いきって主張してみましょう。ただし礼節はしっかりと守って」 

 

 

いろは(ふーん。思い通りかぁ) 

 

いろは(そんなわけあるか。例えば4人中4人牡牛座のグループならどうなる? はい論破) 

 

いろは(……とか先輩言いそう。ぜったい占い信じてなさそうだし) 

 

いろは(でも実際そうだよねー。せめてもう一押し欲しいってゆーか) 

 

TV『ラッキーパーソンは学校や職場の先輩 スキンシップがあると親交が深まるかも』 

 

いろは「おおっ?」 

 

TV『さらに、ラッキーアイテムは果物 デザートやフレグランスなど、何種類も取り入れると運気があがりそうです』 

 

いろは(ぬぬぅ、これはっ!) 

 

八幡(今日は一段と寒いな。千葉もめっきり冷え込んできたもんだ) 

 

八幡(また今年も布団から出れなくて遅刻ギリギリの生活が始まるのか。あー……手冷てぇ)スッ 

 

八幡「はぁーーーー」 

 

八幡(さすがは12月並みの寒さって言うだけあるな。余裕で息が白くなりやがる) 

 

いろは「逮捕です、先輩」ガシッ 

 

八幡「…… 

 

いろは「あれ? 両腕の出しかた的にお縄にかかりたがってるのかと思ったんですけど、違いました?」 

 

八幡「違うどころの騒ぎじゃねぇよなにお前、妙な掴み方してくると思ったらそれ手錠のつもりなわけ?」 

 

いろは「まさに手錠ですねー。ごめんなさい先輩、生徒会長候補としては見逃すわけにはいかないんですよ」 

 

八幡「は?」 

 

いろは「知ってます? 未成年の高校生はタバコ禁止なんですよ?」 

 

八幡「いや、当たり前だろ」 

 

八幡(まさかこいつ、高校生にもなって白い息吐いたのを『みてみて、タバコ! フゥー↑』とかやってる小学生みたいな考えを) 

 

いろは「ふぅーーほら先輩みてください! タバコ! タバコですよっ!」 

 

八幡(どう見てもお持ちでした。本当にありがとうございろはす 

 

いろは「あっはは! 先輩、ふーっ! ふーーっ!」 

 

八幡「こっち向けんな。全然けむくねぇから。あとあざといから」 

 

いろは「あー、またそういうこと言います? それけっこう傷つくんですからね。怒っちゃいますよ?」ズイ 

 

八幡「近い近い近い、そういう距離感とか上目遣いとかが」グイ 

 

八幡「って冷てぇ!?」 

 

いろは「はい?」 

 

八幡「一色お前、髪どうした? 一瞬凍ってんのかと思ったぞ」 

 

いろは「いやいやー、先輩なに言って」ペタ 

 

いろは「つめたぁっ!!」 

 

八幡「ほらみろ」 

 

いろは「あちゃー、ほんとに凍りかけですねこれ」 

 

八幡「なるほどな。なんかやけに前髪ハゲてんなと思ってたんだよ」 

 

いろは「うわ先輩、地味にひどいこと思ってたんですね 

 

八幡「けど、なんでだ? 雨なんか降ってねぇのに」 

 

いろは「それがですねー、わたし朝にお風呂入ったんですけど……あ、興奮しないでくださいね」 

 

八幡「誰がするか。っつーかもう先読めたわ」 

 

いろは「えっ?」 

 

八幡「風呂でゆっくりしすぎて時間ギリギリになったもんで、髪乾かすの途中で諦めて出てきたら寒さで凍りかけたって具合だろ」 

 

いろは「むっだいたい正解です。でもちょっと省略しすぎですね」 

 

八幡「あん?」 

 

いろは「お風呂で遅くなったのは、先輩と一緒にお風呂に入る妄想してたんですよ」ボソ 

 

八幡「はぁ!?」 

 

八幡「な、ばっ、んなことあるわけねぇだろ!」 

 

いろは「あっははは! ウソに決まってるじゃないですかー。先輩キョドりすぎです気持ち悪いです引きます」 

 

八幡「おま、あんま調子に乗ると 

 

 

キーンコーン 

 

 

八幡「!!」 

 

いろは「あ」 

 

八幡「やべ、俺の輝かしい皆勤賞がなくなっちまう」 

 

いろは「先輩はとっくに遅刻早退欠席留年サイクルヒット達成済じゃないですか」 

 

八幡「ばっか留年はしてねぇから」 

 

いろは「留年したらわたしと同じ学年になれますけど?」 

 

八幡「する気もねぇよ。じゃあな一色、あったかい格好しとけよ。風邪引くんじゃねぇぞ」ダッ 

 

いろは「へ? あ、はい」 

 

いろは(もーさらっとそーゆーこと言うんですから 

 

 

休み時間 

 

 

八幡(こう教室が寒いと授業に全く集中できん。早くストーブ設置されねぇかな。とりあえず寝て気を紛らわすか) 

 

 

アノパネェヤツマジパネェッショー パネェー 

 

 

八幡(……戸部はなんでいつもパネパネうるさいの? ハネなの? トベに翔なのに羽まで追加すんの?) 

 

 

パネェーワーマジパネェー アレ? ロハスジャン? ロハスパネェワー 

 

 

八幡(うるせぇ… 2翻親リーカケて一発ロンドラドラハネマン直撃でトベよまじで……ん? いろはす?) 

 

八幡(いろはすって一色だよな。教室に来るってことは戸部か葉山あたりに用あんのか?) 

 

八幡(まあ、俺には関係ないな) 

 

 

いろは「じゃっ、またです葉山先輩♪ ……と、一応戸部先輩も」 

 

 

ジャアナ イロハ 

 

ロハスマジイロハスッショー 

 

 

いろは(んーと。あ、いたいた!) 

 

いろは「せーんぱー……っとと」 

 

八幡「…… 

 

いろは(先輩、寝てる? 寝たふりかな?) 

 

八幡「…… 

 

いろは「……ジー 

 

いろは(ほんとに寝てたら起こしちゃかわいそうだよね) 

 

 

ファサッ 

 

 

いろは(……よしっと。先輩こそ風邪引いちゃだめですよっ 

 

いろは「失礼しましたー」 

 

 

八幡「…… 

 

八幡「んー」モソ 

 

八幡(ふう。見事な5シエスタ。そろそろ仮眠のプロとなりつつある俺、やはり天才か) 

 

 

フワ 

 

 

八幡(ん? なんかいまオレンジ……いや、みかんっぽい匂いがしたような)モフッ 

 

八幡「あん?」 

 

八幡(なんだこの頭の悪そうなブランケット。女子の私物っぽいけど誰かがかけてくれたのか? まさかな) 

 

八幡(まあでも可能性があるとすれば戸塚か由比ヶ浜か。もしや川崎……はこんな色の使わんだろ。誰かあとで聞いて礼を言っておこう) 

 

 

4時間目 体育 

 

 

八幡(グラウンド使用中で体育館に変更とか 

 

八幡(もう授業中止でよくね? 1年が使うはずの半面ぶんどってまでバスケする必要ないだろ。保健体育として睡眠演習でもしましょうや先生) 

 

いろは「あー、せーんぱい!」 

 

八幡(まあコートが1面しかないぶん見学ばっかでいいけどな。やりたいチームが勝手にガンガンやってるだけだし) 

 

いろは「先輩! 先輩ってば!」 

 

八幡「は? 俺? って、なんだ一色か」 

 

いろは「なんだとはなんですか。せっかくかわいい後輩が一人ぼっちで死にそうな先輩へネット越しに声かけしてあげたというのに」 

 

八幡「別に死にそうじゃねぇよ。ぼっちだけど」 

 

いろは「やらないんですか? バスケ」 

 

八幡「ああ。こんだけやる気あるやつらがいるんだ。俺は見てるだけで十分だろ」 

 

いろは「とか言って、ヘタクソだからやりたくないんですよねわかります」 

 

八幡「ばっか違ぇし。主役は遅れて登場する系のアレだから」 

 

いろは「またまた無理しちゃってー。隠さなくていいんですよ、先輩の欠点の1000個や2000個くらい」 

 

八幡「オーダーおかしいだろ! お前俺にどんだけ欠点あると思ってんだよ!」 

 

いろは「あ、もしかしてレボリューションズでした?」 

 

八幡「マジラブでもねぇよ 

 

八幡「そう言うお前は? バレーやんねぇのかよ」 

 

いろは「えっ、見てなかったんですか? わたしついさっきまで試合してて大活躍だったんですけど 

 

八幡「見てるわけないだろ。お前いることすら今知ったくらいだ」 

 

いろは(ぬぅ、せっかく先輩が見てると思ってはりきったのに!) 

 

八幡「あーでも言われてみれば汗かいてるし息あがってるし、顔も火照ってるな。けっこう頑張ったのか」 

 

いろは「うっわー。そーゆーとこだけちゃんと見るとか最悪の変態ですね。だから先輩うちのクラスの子からの評価も微妙な……くしゅっ!」 

 

八幡「おいおいちゃんと汗ふかねぇと 

 

八幡「ってちょっと待て。俺って1年の女子からも評判良くないの?」 

 

いろは「ふえっ? あー、はい。さっきちらっと女の子全員に先輩の印象聞いてみたんですけど、上位3つは『怖そう』と『誰?』と『どれ?』でしたね」 

 

八幡「ほぼ認識ねぇじゃねぇかクソッタレ」 

 

八幡「っつーかクラスの女子全員に聞くとかまじでやめろよ……死ぬほど居心地悪くなったんだけど」 

 

いろは「もちろんちゃんとフォロー入れときましたよ?」 

 

八幡「そうなのか? なんだ、気が利くじゃねぇか」 

 

いろは「当たり前じゃないですかぁ、先輩のためですもん。だから安心してください」 

 

八幡「ちなみになんてフォローしたわけ?」 

 

いろは「いろいろですけどー、基本的には『男にしか興味ないから安全』って感じですね!」 

 

八幡「はあああ!?」 

 

 

ミスディレクション ハヤトクンパー……アッ ヤベッ! 

 

 

八幡「お前それどこがフォローなんだよ! 追い討ちってレベルじゃ」 

 

いろは「!! 先輩っ! あぶな 

 

 

ゴンッ!! 

 

 

八幡「あっ」 

 

いろは「先輩っ!!」 

 

 

ゴメーン! ヒキタニクーン! チョクゲキジャーン パネェー! 

 

 

八幡「」 

 

八幡(なんだ……ボールか?) 

 

いろは「先輩? 大丈夫ですか?」 

 

八幡(痛みはないが視界が……力はいんねぇ……)グラ 

 

いろは「っ!?」ガシッ 

 

いろは「先輩! ちょ、ほんとに!?」 

 

八幡(かたくてやわらかい…… かたいのはネットで……やわらかいのは 

 

八幡(それにほのかな汗の匂いとりんごの匂い……制汗剤か…… あ、やべ意識が 

 

 

保健室 

 

 

八幡「……」パチ 

 

八幡(なんだこの天井? 俺の部屋じゃねぇな) 

 

八幡「よっこら窃盗罪」ムク 

 

八幡「…… 

 

八幡(保健室…… そうか、確かボールが頭に当たったんだっけか) 

 

いろは「……」スヤ 

 

八幡「おわっ!」 

 

いろは「むにゃはれ? へんぱい?」 

 

八幡「一色? なぜお前が……あと変敗とか言うな。目が腐ってるみたいだろ」 

 

いろは「んー あたし、いつの間にか寝ちゃってたんですね。先輩、自主したほうが罪は軽くなりますよ」 

 

八幡「なんで寝てるお前に俺が何かした流れになってんの? 俺もいま起きたとこだから」 

 

いろは「ですよねー。わかってますって」ペタペタ 

 

八幡「とか言いながら全身チェックすんなよ! マジで何もしてねぇっつの」 

 

いろは「先輩、軽い脳震盪みたいなものだったそうですけど調子はどうですか?」 

 

八幡「あー大丈夫だ。痛くもないしな。心なしか腫れてる気はするが」 

 

いろは「そうですか。念のためあとで病院で診てもらうほうがいいって先生は言ってました」 

 

八幡「だろうな。幸い明日休みだし行ってみるか」 

 

いろは「ダメです! 今日中にです。もし大事だったらどうするんですか」 

 

八幡「お、おう。なんだ、意外と心配してくれてるのか?」 

 

いろは「意外とってそりゃ心配しますよ。目の前で話してた人に突然意識失われるこっちの身にもなってください」 

 

いろは(それに、わたしが話しかけたせい……かもですし 

 

八幡「あーたしかに結構ショックだよな。悪かった」 

 

いろは「そんなそんな、先輩は悪くないですよ」 

 

八幡(一色ってこんなやつだったっけ 寝落ちするまで見ててくれたっぽいし、よく考えたらめちゃくちゃ良いやつじゃねぇか) 

 

いろは「ま、目つきと性格は極悪ですけどね」 

 

八幡「おい」 

 

八幡「にしても腹減ったな。体育でもあんま動いてないはずなんだが」 

 

いろは「もう2時ですしねー」 

 

八幡「は? うわ、まじかよっつーことは2時間以上も気失ってたのか俺」 

 

いろは「ほんとですよ。おかげでお昼食べ損なっちゃったじゃないですか」 

 

八幡「えっ? なにお前、まさか昼飯も食わずにずっとここに居たの?」 

 

いろは「まあそうですね。途中でえっと、戸塚先輩? も来ましたけど」 

 

八幡「うおお! 戸塚!! さすがマイエンジェル! もう帰っちまったのか!?」 

 

いろは「なんですかそのテンションのあがりよう。すぐ戻りましたよ。それで先輩のことよろしくねって頼まれました」 

 

八幡「そ、そうか…… 

 

いろは「むっ 

 

いろは「すみませんねー、戸塚先輩じゃなくって」 

 

八幡「あ?」 

 

いろは「先輩、わたしが相手じゃ満足できないんですねー。ふーん」 

 

八幡「あ、いや。そういうわけじゃなくてだな」 

 

八幡「っつーかその言い方別の意味に聞こえるからやめろ」 

 

いろは「えっ? なんですかそれ二人きりなのをいいことにえっちぃ展開に持っていくフラグ立てようって算段ですかごめんなさいわたし一途なのでそーゆーの好きな人とじゃないとってゆーか先輩とは絶対無理です」 

 

八幡「まるで意図してねぇよ 

 

いろは「はぁ。いいですよ、どうせあたしなんかお邪魔なだけですもんねー」ツン 

 

八幡「いやいや、だからそういうつもりじゃ」 

 

いろは「もーいいです。教室に帰ります」カタッ 

 

八幡「ばっ、待てって!」ガシ 

 

いろは「ひゃっ」 

 

八幡「あ…… 

 

いろは「…… 

 

八幡「…… 

 

いろは「あの、離してください」 

 

八幡「わ、悪い」 

 

いろは「……帰ります」 

 

八幡「ああ 

 

 

ガララッ ピシャッ 

 

 

八幡(反射的に腕を掴んじまった何やってんだ俺) 

 

 

八幡(っつーか、そうだよな。一色は昼飯も食わずに付き添っててくれたってのに。不意に戸塚の名前が出たもんだから舞い上がってしまった) 

 

八幡(あーくそ。謝るにも一色の連絡先なんか知らねぇし、直接行くしか…… 

 

 

ガラ… 

 

 

いろは「……」チラ 

 

八幡「何やってんだお前」 

 

いろは「おじゃましまぁーす」ソロー 

 

八幡「帰ったんじゃねぇのかよ」 

 

いろは「やー、かばん忘れちゃいまして。お弁当とか筆記用具とかもろもろ入ってますし」 

 

八幡「あーこれか。ほらよ」 

 

いろは「あ、どうもです。ちなみに中のタオルは体育で使ったのとは別物なので、残念でしたねー先輩」 

 

八幡「前から聞きたかったんだけどお前の中の俺はどんな変態なの?」 

 

いろは「違うんですか? てっきりわたしがいなくなった隙にタオルのにおい嗅がれたかと思ったんですけど…… よいしょっと」 

 

八幡「まずカバンにすら触れてねぇし、っつーかまた座るのかよ」 

 

いろは「やっぱりわたしもお腹すいちゃったんでお弁当食べようかなと」 

 

八幡「は? ここで?」 

 

いろは「はい。もともとここで先輩の死に顔をおかずに食べるつもりでカバン持ってきましたし」 

 

八幡「悪趣味すぎるだろ! それと死んでねぇから」 

 

いろは「まーまー。なんなら先輩も一緒に食べます? わたしのお弁当でよければですけど」 

 

八幡「え? いいのか?」 

 

いろは「むしろちょっと1人で食べるには多いので、先輩が食べてくれると助かるんですよねー」シュル 

 

八幡「……やけにカバン重いと思ったら、なんで一人用の弁当が重箱なんだよ」 

 

いろは「ではではーいただきますっ」パカ 

 

八幡「サイズは規格外だけど普通にうまそうだな」 

 

いろは「わたしが作ったのもあるんですよ。そしてとっておきがこちら!」 

 

八幡「!?」 

 

いろは「先輩はここから自由に取って食べていいですからね」 

 

八幡(一段全部ミニトマトってどういうことなの 

 

いろは「先輩?」 

 

八幡「いや 

 

いろは「お箸が無いので手で食べれそうなものを、と思ったんですけど」 

 

八幡「そうは言ってもこれはさすがになぁ」 

 

八幡(そもそもトマトが好きじゃないんだよな) 

 

いろは「あ、もしかしてわたしの使ったお箸であーんしてもらえるとか期待してました? ごめんなさい先輩にあーんするのもわたしのだ液が先輩の口に入るのもどっちも相当キツいので無理です」 

 

八幡「もういいよ 

 

いろは「んふふー、卵焼きおいしいです~」モグ 

 

八幡(トマトトマトトマトマトマトトマト)モグ 

 

八幡「今さらだけど、お前授業はいいのか? 6時間目なら今から行けば出れるだろ」 

 

いろは「んー……」ゴクン 

 

いろは「わたしも体調不良ってことで休んでますし、なんか面倒なのでサボっちゃいます」 

 

八幡「生徒会長候補がそれでいいのかよ」 

 

いろは「いいんです。マニフェストにお昼寝タイムを設けるって入れようか悩んでるくらいですから」 

 

八幡「はっ、やめとけ。魅力的な案じゃあるけどな」 

 

いろは「わかってますよ。冗談ですー」 

 

八幡「…… 

 

八幡「悪い、授業までサボらせちまって」 

 

いろは「いいんですってば。ってゆーか別に先輩のためじゃないですし?」 

 

八幡「そうか。でも悪い」 

 

いろは「もー」 

 

いろは「ほら、わたし戸塚先輩に頼まれちゃいましたから。あんなかわいい先輩からのお願いじゃ放棄するわけにはいかないってだけですよ」 

 

八幡「だよな! 戸塚かわいいよなっ! あのウサギのような瞳がもうたまらん。まさに兎塚と書けるまである」 

 

いろは「だからなんでそんなテンションあがるんですか…… 

 

いろは「やー、おなかいっぱいです。先輩、手伝ってくれてありがとうございました」 

 

八幡「こちらこそ、ごちそうさん 

 

八幡(割り箸あんなら最初から出せよっつーか食えねぇ量持ってくんな。うまかったけど) 

 

いろは「はぁー…… 

 

八幡「どうした?」 

 

いろは「あ、いえ。さっきからなんですけど、なんだかぼーっとするというか眠くって」 

 

八幡「体育で疲れてるうえに飯食ったからな。っつーか微妙に顔赤くね?」 

 

いろは「あー、なんかちょっと暑いかもですね。たぶん血の巡りが良くなって……っくしゅ!」 

 

八幡「くしゃみ多いな。花粉の時期でもねぇのに」 

 

いろは「先輩が近くにいるからかもしれないですね。やっぱりわたしはそろそろ戻ります」 

 

八幡「人をアレルゲン扱いすんなよもうそんな授業時間ないのに戻るのか?」 

 

いろは「先輩、わたしがいなくて寂しいのはわかりますけどー、そろそろ放課後に選挙の準備とか始めたいんでごめんなさい」ガタ 

 

八幡「あーはいはい。超絶寂しいから。行ってこい。いろいろサンキュな」 

 

いろは「うわぁーテキトーですねーっとと」ヨロ 

 

八幡「おい……マジで大丈」 

 

いろは「てへ☆ よろけちゃいましたっ」 

 

八幡「とっとと戻れ」 

 

 

放課後 

 

 

八幡(結局また一休みしてしまった。荷物取って病院行くか) 

 

 

ガララッ 

 

 

八幡(もう誰もいないな。着替えるには好都合だ) 

 

八幡(さてと。金いくら持ってたっけ。そもそもまだ外来受付してんのか?) 

 

八幡「あ 

 

八幡(このミカンケット、もといみかんの匂いがするブランケットどうすっかな。由比ヶ浜達のじゃなかったわけだし) 

 

八幡(しかし他に思い当たるやつがいないんだよなぁ。持ち帰るにしても何かの間違いで掛けられてたなら面倒なことになりそうだ) 

 

 

スタスタ 

 

 

八幡(ま、職員室にでも届けるのが無難だろ。廊下に落ちてましたとか言って 

 

 

ドンッ 

 

 

八幡「っ! わ、悪い」 

 

いろは「いえ……こちらこそ 

 

八幡「って、一色?」 

 

いろは「はぇ 先輩ですか……?」 

 

八幡「お前なんでここに? 1年の階はもうひとつ上なんだが」 

 

いろは「え……あーそーでしたっけ…… 

 

八幡「お、おい。なんか目が変だぞ」 

 

いろは「ぅえー それ先輩にだけは言われたく……」フラ 

 

八幡「っ、一色!? どうした!?」ガシ 

 

いろは「うー…… 

 

八幡(こいつ、ふらつくほど体調悪いのか? とりあえず座らせねぇと) 

 

いろは「すみません、教室で作業してたら具合悪くなってきて……保健室行ってみたんですけど 

 

八幡「俺が出るときに先生も帰ったからな。ちょうど入れ違いになったのか」 

 

いろは「だるおもですぅー……ぅえきしっ!」 

 

八幡「見事に風邪だな。思い返すと今日に原因がいろいろありそうだ」 

 

八幡「その格好冷えないか?」 

 

いろは「ぶっちゃけかなり寒いですね」ブル 

 

八幡「カーディガンだけじゃそうだろうな。よっと 

 

いろは「先輩?」 

 

八幡「ほら、これ被っとけ。俺が着てたやつなんか嫌だとは思うがそんなこと言ってられんだろ」 

 

いろは「あ、ありがとうございます」 

 

 

ファサ 

 

 

いろは「えへー脱ぎたてほやほやでぬくいですねぇー」 

 

八幡「わざわざ言うな気恥ずかしい」 

 

八幡「あとこれも使うか? 俺のじゃねぇけど」 

 

いろは「んあ、これわたしのブランケットですか」 

 

八幡「え? これお前のなの?」 

 

いろは「はい。休み時間に来たとき先輩寝てたので風邪引いたらやだなぁって」 

 

八幡(まじかまさか一色だったとは) 

 

いろは「ふぇひぇっきし!」 

 

八幡「って、それでお前が風邪引いちゃ世話ねぇだろうが」 

 

いろは「あぅ……ごもっともです」ズッ 

 

八幡「ったく、平塚先生呼んでくる。あの人なら家まで送ってくれるかもしれん」 

 

いろは「お願いしますー 

 

八幡「あ、一色、ブレザーやらカバンやらは教室か?」 

 

いろは「そうですけどもしかして、代わりに取ってくるなんて紳士的なことしてくれちゃうんですか?」 

 

八幡「紳士だからな。ちょい待ってろ、なるべく急ぐ」 

 

いろは「あ、はい。待ってます」 

 

いろは(自分で言っちゃうんですねでも優しいなぁ、先輩) 

 

 

ガララッ 

 

 

いろは「はあー」ダラン 

 

いろは(うしし、具合悪いふりして先輩の気をひく作戦大成功~) 

 

いろは(なんてことならよかったけど、ほんとにダメっぽいやこれ。気持ち悪いー。くらくらするー。のどかわいたー) 

 

いろは(でも先輩のブレザーゲットだぜ袖とおしちゃおっと)モゾ 

 

いろは(わっぶかぶかだ) 

 

いろは(やっぱ、先輩って男の人なんだなぁ。頼りなさそうで頼りになるし、めんどそうにするけど実は面倒見いいし) 

 

 

いろは(だから不思議と気になっちゃうのかな。好きとはたぶん違うけど。パッと見かっこよくもないし) 

 

いろは「ふあ………ひぇっくしゅいっこらぁー!」 

 

いろは(うあーやばやば。おっさんみたいなくしゃみしちゃった。人いないからって油断しちゃダメだよわたし) 

 

いろは(まだ足が寒いなぁ。ブランケット足にかけよっと)モフ 

 

いろは(うしうし、だいぶマシになった) 

 

いろは(先輩、わたしが匂い変えてるのとか気づいてるのかな? ……ないかー) 

 

いろは「んんーー」 

 

いろは(う……ちょっと動きすぎたかも) 

 

いろは(ぶり返してきちゃった。先輩戻ってくるまで寝てよ)コテ 

 

いろは「…… 

 

いろは「……」スン 

 

いろは(袖から……先輩のにおい……… 

 

いろは「……」ウト 

 

 

 

ガララッ 

 

 

八幡「悪い、少しかかっちまった」 

 

いろは「……」スゥ 

 

八幡「なんだ寝てんのか」 

 

八幡「おーい、起きろ。平塚先生が家まで送ってってくれるってよ」 

 

いろは「…… 

 

八幡「…… 

 

八幡「はぁ先生すんません。ちょっとこれいいっすか」 

 

 

いろは(…… 

 

 

いろは(んー……あれ?) 

 

 

いろは(なんか真っ白……わたし、どうしたんだっけ) 

 

いろは(……あ、そだ。先輩を待ってて、来るまで寝てようって) 

 

いろは(もしかしてまだ寝てるのかな。たまーにあるもんね、夢の中で夢って気づいたり) 

 

 

イヤホント カンチガイサレルンデ 

 

スナオジャナイナァ キミハ 

 

 

いろは(でも誰かの声? 聞こえる 

 

 

いろは(それになんか、なんだろ…… あったかくて、大きいものに触れてる感じ 

 

 

いろは(あとこのにおい……さっきもしたような……?) 

 

 

 

いろは(なんだっけ…… 

 

いろは(…… 

 

ブロロ… 

 

いろは「……」パチ 

 

いろは「はれ………?」ムク 

 

 

平塚「ん? お目覚めかね」 

 

いろは「えと、平塚先生ですよね……あたたっ」 

 

平塚「いかにも。ああ、無理して起きなくていいよ。横になっていたほうが楽だろう」 

 

いろは「大丈夫です。気分は少しよくなったみたいなので」 

 

平塚「そうか? まあ好きなほうで構わない。あまりくつろげるような車内ではないかもしれんがね」 

 

いろは「たしかにちょっと、ってゆーかめっちゃタバコくさいですしねー」 

 

平塚「面識の薄い教師に送迎してもらっている身分でそれだけ言える度胸に免じて聞かなかったことにするが……社交辞令というものを知りたまえよガール」 

 

いろは「あ、そうですねごめんなさい。先生、うちまで送ってくれるんですか?」 

 

平塚「ああ。住所は把握したが細かいところは分からんのでね。もう少ししたら案内頼むよ」 

 

いろは「はぁーい」 

 

 

いろは「あの、すみません。ご迷惑をおかけしてしまって」 

 

平塚「なあに教師の務めだ。気に負うことはない。それよりも彼に礼を言ってやったほうがいいだろう」 

 

いろは「彼って、先輩ですよね?」 

 

平塚「先輩まあ、一応言っておくと比企谷だ。珍しく真剣に頭を下げてきたもんで何かと思ったが、たまにはまっすぐ人の役に立つこともあるんだな」 

 

いろは「へぇ……そうなんですか」 

 

平塚「意外というか、まさか彼が君という人間とここまで親交を深めているとは知らなかったよ」 

 

いろは「別に親交とかじゃないです。ただなんとなく興味があるってだけです」 

 

平塚「ふむなるほど」 

 

いろは「その先輩はあんまりわたしに興味なさそうですけどねー」 

 

平塚「ん? そうなのか?」 

 

いろは「はい。今日もちょっと先輩に意識してもらいたくていろいろやったんですよ。そしたら結果こんな有様でしたけど 

 

平塚「顛末は知らんが、そういう意図なら十分成功だったんじゃないかね?」 

 

いろは「へっ?」 

 

平塚「カバンを開けてみたまえ。彼が君への差し入れを残して行ったよ」 

 

いろは「差し入れですか?」ゴソ 

 

平塚「のどが渇いただろうってね」 

 

いろは「わ、ほんとだ」 

 

いろは(お水…… 先輩がわたしに 

 

いろは「でも『いろはす』って。わざとですか。しかも桃味ってなんですか」 

 

平塚「はっはっは。どうだろうね」 

 

いろは「あれ? それになんか付箋が」 

 

 

『新しい味がクソまずかったからお前にやる。あと今度上着返せ』 

 

 

いろは(……クソまずいもんをかわいい後輩に処理させるとかどこが紳士なんですか先輩) 

 

いろは(でも実際のどかわいたし、ありがたいかも) 

 

いろは(んん?) 

 

いろは(ってゆーか味見したってことはこれ先輩が口つけたんじゃ!?) 

 

 

いろは(……の、飲んじゃお)グッ 

 

いろは「…… 

 

いろは「開けてないじゃないですかーっ!!」 

 

平塚「どうかしたかね?」 

 

いろは「なんでもないですぅー」 

 

いろは(ふんっ。ふーんっ。罰としてブレザーもしばらく返したげませんからねー) 

 

平塚「まあともかく、君を気遣って職員室まで私を呼びに来たり差し入れを買ったりしたくらいだ」 

 

平塚「そこまでして今さらただの他人だのなんだのということもあるまい。今までより遥かに君のことを意識するようになるんじゃないかな?」 

 

いろは「んんー、そんなもんですかね」 

 

いろは(それに、わたしとしてはもうちょっとスキンシップ的なお近づきが欲しかったなぁー。なんて) 

 

平塚「ああ、それに加えて、起きない君を教室から車まで背負っていったという事実も……あ」 

 

いろは「えっ? 先輩がですかっ!?」 

 

平塚「む、ごほん。無論、私が、だがね。ただ彼はそうするよう指示してくれたという話さ」 

 

いろは「あそうですか。ありがとうございます」 

 

いろは(なんだ、先輩じゃないんだ) 

 

いろは(……でもなんだろ? そういえば、目の前にこう、先輩みたいな感触があったような…… 

 

平塚「彼のほうがよかったかね?」 

 

いろは「へっ? い、いえいえ、そんなことは……別にまだ先輩のこと好きとかそんなんじゃないですし」 

 

平塚「ふむ。それは失敬。ところでこの辺りで県道を曲がると思うのだが」 

 

いろは「あっ、はい。えーと、2つ先の信号で左ですね」 

 

平塚「了解」 

 

 

 

いろは部屋 

 

 

いろは(はぁーやっと帰れたー。おふとんー) 

 

 

パタッ 

 

 

いろは(うぇ……階段のぼったらまた 

 

いろは(先生に送ってもらえてよかったな。バスだったら死んでたかも。もうメイクだけ落として寝よ) 

 

いろは(んー)ゴシ 

 

いろは(そういえばこの前の風邪薬残ってなかったかな) 

 

いろは(たしか引き出しに……あったあった) 

 

いろは(食後かー。食欲ないなぁ。多めのお水でもいいんだっけ) 

 

いろは(でもお水取りに行くのもだるいし、別に飲まなくていっか) 

 

 

いろは「……!」 

 

いろは(そうだ、先輩にもらった)ゴソ 

 

いろは(いろはすいろはすをてにいれた! なんつって) 

 

いろは(ぬっふふ。こんなところで先輩が役に立つとは。ハグくらいなら許してあげちゃいますよ) 

 

 

いろは(でもこの付箋はなぁー。先輩、もうちょっと気の利いたこと書いてくれてもよかったのに) 

 

いろは(一応とっとこっと。机に貼ってってあれ?) 

 

いろは(なんだろ? ちっさい字だけど裏にもなんか書いてある……?) 

 

『はよ元気になれ』 

 

いろは「…… 

 

いろは(だから先輩もうちょっと気の利いたことをですねー…… 

 

いろは「へへ……えへへ 

 

いろは(早く治して上着返しにいきますね。待っててください……先輩 

 

八幡「ふぇっくし!!」 

 

 

八幡(っあー……なんだ? 噂でもされたか) 

 

八幡(やべぇ、もしや狙われてるんじゃね俺。スナイパー的なアレで) 

 

八幡(間違っても恋のスナイパーとかそんなんじゃないからな。勘違いしたやつは病院で診てもらうべき) 

 

 

八幡「……あ、病院行くの忘れた」 

 

 

わたしが先輩への気持ちに気づくのはもう少し先のお話です。まる。 

 

 

 

 

 

 

八幡「毎日毎日よくもまあ占いなんざ信じるよなお前ら」

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