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八幡「やはり、俺にとって。 こんな物語は。こんな青春ラブコメは……」3/4【俺ガイルss/物語シリーズss】

 

物語Side 第6話 

『はちまんスパイダーその壹』 ―完― 

 

 

俺ガイルSide 第7話 

 

『いつでも戦場ヶ原ひたぎは脱線する』 

 

 

 さあ、これからどうしようか。 

俺は1人、空を眺める。 

 

 空はいいな。どこから見ても一緒だし、何より、誰が見ても一緒だ。 

それに比べて、人間は怖い。誰が見るかによって対象の印象は著しく変化する。 

例えば俺が対象だとすると、小町から見るととてもカッコイイ素敵なお兄様だけど。 

雪ノ下から見れば、死んだ魚の目をした暗い奴……。 

空と違って主観が入っちまうんだよな。空さんは誰からも平等に見てもらえるんですから大したものですよ。 

 

 

 ふぅ。 

 

 

 いやいや、現実逃避している場合じゃない。 

この四面楚歌というか五里霧中な現状と向き合わなくては。 

 

 

 結論から述べよう。 

 

 

 俺は真の意味で遭難した。 

 

 

 今俺が居る場所は不明だ。 

いや、記憶喪失とかそういうんじゃない。そういうファンタジーというか飛んでる世界観は俺の性に合わない。 

 

 ただ。ただ単純に足を踏み外したんだ。 

結構高い所からダイビングした。 

 

 で、落ちた先は森の中。 

今時、こんな開拓された山でもやっぱり山ですね。 

自然豊かで素晴らしい。俺も光合成しようかな。 

 

 それにしても、あんなに綺麗に踏み外すもんなんだな。 

これはアレだ。全国踏み外した大賞も夢じゃない。もう待ったなしのシードでインターハイ! 

 

いや、そんな大会があったら。俺は人生の道部門で出るんだろうな。 

……山の道を踏み外した部門の小物臭がヤバい。 

 

 

 ああ、まただ。またこうやって、現実逃避をまた繰り返す。 

いや、だってもう俺の置かれている状況が現実離れしてるんだもん。 

俺自身でさえ理解しえない、いや。正確には納得しえない現象なんだもん。 

 

 何が起こったかなんて記憶はもう何度となく思いだしてきた。 

クラシックなら観客が空き缶投げ付けるくらいリフレインしている。 

 

 それでも尚。やっちまった、やらかした今現在の状況を俺は飲み込めない。 

いや、全部自業自得なんだけど。 

 

 

 何度思い返しても一緒ってことは分かっているんだが。 

今一度、思い返すことにする。 

 

 

 以下、回想である。 

 

 

比企谷「弁当取りに行く場所、俺が確認してきます」 

 

 

戦場ヶ原「あら、じゃあ私も行くわよ。この状況で1人で行動するのはあまりにも浅はかだと思うのだけれど? 本当に遭難しちゃうじゃない」 

 

 

比企谷「そうなんすか?」 

 

 

戦場ヶ原「……。それは……。 その応答は、特に複数の意味はないと思っていいのかしら?」 

 

 

比企谷「え?……あっ。違いますよ?」 

 

 

戦場ヶ原「実はお茶目な子なのね。比企谷君は」 

 

 

比企谷「否定したのに状況悪化かよ。 この状況でしょうもない駄洒落言ってもしょうがないでしょうが」 

 

 

戦場ヶ原「しょうもないとしょうがないは駄洒落にならないと思うのだけれど」 

 

 

比企谷「否定の部分もしっかりリスニングしてくださいよ。 センター試験の英語はそうやって間違えさせるんすよ?」 

 

 

戦場ヶ原「日本語を話したつもりだったのだけれど。 ごめんなさい、あなたには伝わらなかっ……」 

 

 

比企谷「あーごめんなさいごめんなさい!一見様お断りな比喩表現でした……。 先輩って俺の心、結構グイグイ抉るんすね……」 

 

 

戦場ヶ原「でもまだ貫通はしないみたいね」 

 

 

比企谷「いや既に出血多量で死亡寸前っすけど?」 

 

 

 違う意味で怖いよこの人。 

阿良々木先輩から聞いた話だけだと肉体攻撃が主かと思ったけど、この人精神攻撃もヤバい。 

戦場ヶ原先輩と比べると、あの雪ノ下でさえ愛があったのではないかと勘違いしてしまう。 

 

 

 いや、それにしてもこの人、初対面の後輩である俺によくもまあ言えるもんですね。 

別に自分を特別視するわけじゃあないけど、大抵初対面の人間には「嫌われまい」という魂胆がある。 

だから、こんなに素で話しかけてくるのは戦場ヶ原先輩くらいだろう。 

 

 いや、違うな。 

今日一緒の先輩3人。皆そうだったわ……。 

 

 

戦場ヶ原「でも、本当に気に障っているのだったら謝るわ。 正直、なんだか雰囲気が似てるからついつい話しちゃうのよ。 似ているだけで全く違うのだけれど。それでも似てはいるから……」 

 

 

比企谷「誰にですか?」 

 

 

戦場ヶ原「阿良々木君。阿良々木暦によ」 

 

 

比企谷「言う程似てますかね?」 

 

 

戦場ヶ原「ええ、瓜二つと言ってもいい程にね。 頭のてっぺんから生えている意思でも持っていそうな癖っ毛が」 

 

 

比企谷「それだけかよ」 

 

 

戦場ヶ原「あら、重要よ。最重要よ?」 

 

 

比企谷「俺はこの際置いといて……。 阿良々木先輩の主たる特徴が癖毛オンリーってのもなんか悲しいっすね」 

 

 

戦場ヶ原「私は逆に。 この際に、自分自身を置いてしまう比企谷君が悲しく見えてしまうのだけれど」 

 

 

 ほっとけ。 

 

 

比企谷「いやだって。 俺が今、話をしている人は俺の先輩じゃないですか? 

その戦場ヶ原先輩に対して近い人は誰です?俺じゃなくて阿良々木先輩じゃないですか。 

だからこそ俺は自分を下げて戦場ヶ原先輩を敬うために阿良々木先輩を立てたんです。 

ホラ、一種の謙譲語って奴?」 

 

 

戦場ヶ原「あらそれは心外ね。 あなたに、わざわざ阿良々木君を献上される筋合いはないのだけど」 

 

 

比企谷「謙譲の字が違うっつの。頭良いんじゃねーのかよ」 

 

 

戦場ヶ原「……茶目っ気よ」 

 

 

比企谷「聞き間違いとか勘違いって言えば丸く収まるのに……。 なんで尖らしちゃうんですか」 

 

 

戦場ヶ原「別に尖らせてないわよ。 萌えの真髄をついただけよ」 

 

 

比企谷「だとしたら尚更外しすぎっすよ……。 心臓狙って右側さすくらい外してますよ」 

 

 

戦場ヶ原「南斗の聖帝だったらそれでいいのだけれどね」 

 

 

比企谷「サウザーかよ。ってか先輩本当に漫画知識豊富っすね」 

 

 

戦場ヶ原「アニメしか見ていないけれど」 

 

 

比企谷「……あ、うん。 あの時代のアニメ見てるんだったら逆にマニアっすね」 

 

 

比企谷「まあでもこんな雑談してても帰ってこないんじゃ。 本当に探したほうがいいかもしれませんね」 

 

 

戦場ヶ原「いやいや比企谷君。さっきから探すと簡単に口にしているのだけれど。 道が無いじゃない。どう探すのよ」 

 

 

比企谷「ああ、それなんですけどね。いや、こんなの言いにくいし。 俺にも非があるって思うんですけど」 

 

 

戦場ヶ原「何かしら」 

 

 

比企谷「ここにベンチがあるじゃないですか。俺たち二人で今座ってる。 まあ、景色も360度一緒みたいな感じで。まあ分かりにくいですよね。 座るときに跨いで座っちゃいましたし。 まあ、えっと……」 

 

 

 そう。戦場ヶ原先輩はさっき、こう言った。 

『確か4人共、左の道からお弁当を取りに行ったわよね?』と、確かにそう言った。 

 

 だから俺も左側を確認した。 

確かにそこには道はなかった。 

 

 いや、なんていうか……。 

左側から皆を見送った後、俺達は振り向いてベンチに座ったんだよ。 

 

 

 さあ、皆も試してみよう。 

左を向いて、前に向き直って、振りかえって着席。 

さっきの左は今は……? 

 

 

 そう。右だ。 

 

 

 

 なんてことはない。なんてことはないトリックだ。 

マジシャンだったら切断マジックで人が2人いるくらいありふれたトリック。 

種明かしコーナーも不必要なくらいに、観客からネタバレコールされる並み。 

 

 

 だから俺も。 

静かに指を右に指した。 

戦場ヶ原先輩に優しく教えるように。 

諭すように手を右に、目線を促した。 

 

 

戦場ヶ原「……茶目っ気よ」 

 

 

比企谷「流行ってんすか?それ……」 

 

 

 彼女は相も変わらずうろたえたりせず、慌てたりせず静かに喋った。 

 

 

比企谷「まあ、でもこれでこの場所が住所不定の場所じゃなくなったじゃないですか。 

ということはですよ? 逆に阿良々木先輩たちが弁当を取りに行って戻ってきていないのがおかしい。 だから、ここは後輩である俺が見てきます」 

 

 

 なんにせよ、やっと本題に入れた。 

まあ、本題と言っても、この言葉は本意ではないけど。 

 

 若干の不安と、壮大な恐怖を覚える戦場ヶ原先輩と2人っきりで居続けるのが辛いのである。 

だからこそ俺はそうして1人になりたい。 

 

 

 いや、そもそも俺は今日。1人でいる時間が無かった。ちょっとトイレも行きたい。 

今までの生活で、ここまで他人と時間を共有した事もなかったからさ。 

なんか落ち着かないんだよ。 

 

 

 ぼっちも極めれば孤独を愛せるようになるんです。 

……でも、この言葉って、よくよく考えると、孤独って俺だから。俺が好きってことだよな。 

なんかただのナルシストみたいだな、俺。 

 

 

戦場ヶ原「じゃあ、携帯電話の番号を交換しましょう。 連絡手段は必須だと思うのよ」 

 

 

比企谷「ああ、そうっすね」 

 

 

 連絡手段。 

言いきっちゃってくれますね戦場ヶ原先輩。いや、元々そんな流れは期待してませんけど。 

でもそれは大事ですよね。 

うん、すごく大事。 

 

 俺みたいなやつに勘違いされまいと、しっかりと用途の確認をすることは大事です。 

でも安心してください。俺は最先端なのでその勘違いすら違わないんで。 

 

 

 俺も何食わぬ顔で携帯を出す。 

そして親指でホームボタンを押して……。 

 

 あれ? 

 

 

戦場ヶ原「どうしたのかしら。 血の気が引いているように見えるのだけれど。 あ、ごめんなさい。元々血色が良い方ではないわね。これは失言ね」 

 

 

比企谷「おい、謝罪なのになんで俺の心は抉られるんですか? ミスタードリラーでもそんなに掘り進まないんじゃないんすかね?」 

 

 

戦場ヶ原「あれ、ミスタードリラーじゃなくて、ホリ=ススム君って言うのよ?」 

 

 

比企谷「いや、そこに食いつかれても困っちゃうんですけど。 でも、結局そいつの異名がミスタードリラーでしょうに……」 

 

 

 いやいや違うんですよ。 

そんな懐かしのゲーム談義をしている暇はない。 

血の気が引くほどではないが、ちょっとマズイ。 

 

 

 電池が切れている。 

 

 

 ホームボタンを押しても、右上の電源ボタンを長押ししても。 

うんともすんともワンともニャンとも言わない。いや、ワンッて言われても困るけど……。 

 

 

 この状況じゃあ、元々来ないはずの俺への連絡が完全に遮断されている。 

もしも由比ヶ浜とか雪ノ下が、何かしらの理由で遅れているとしても……。 

 

 ん?あー……。俺、雪ノ下の連絡先は元々知らないから関係なかったわ。 

 

 

比企谷「すいません。俺の携帯、電源切れているみたいなんですわ」 

 

 

戦場ヶ原「それは奇遇ね」 

 

 

比企谷「え?奇遇って、戦場ヶ原先輩も……?」 

 

 

戦場ヶ原「ええ、携帯をどうやら家に忘れて来てしまったみたいなのよ。 ちょっと寝坊してしまったから、急いでいたのよ」 

 

 

比企谷「全然奇遇じゃねーし……。 忘れると電源切れてるは結果は一緒でも過程は違いすぎですよ」 

 

 

戦場ヶ原「まあでも、これで今の状況は悪化ね」 

 

 

比企谷「ええ、2人とも携帯が通じないんじゃあ、他の4人から、連絡が来ようもないっすもんね……。 とにかく、益々入れ違いになったら困るんで。俺が1人で行ってきます」 

 

 

戦場ヶ原「ええ、でもそうね。 わかったわ。私は待ちましょう。だから比企谷君。 なるべく早く戻ってきてね」 

 

 

比企谷「ええ、早めに戻りますよ。んじゃ、行ってきます」 

 

 

 

 そう言って俺は右の道から4人を探しに行く……。 

 

 

 

 以上。回想終了。 

 

 

 

 で?っていう。 

じゃなくて。 

 

 そうなんだよ。ここまで良かったんだよ。その時までいつも通りの日常だったんだよ。 

でも、それからなんやかんやで今に至る。 

 

 

 鋭い斜面の森の中。ダイビングしてるから足も痛い。 

更には携帯は電池切れ。 

 

 

 迷子だ……。 

 

 

 手すりに体重を掛けながら気だるく歩いたせいで、腐食した手すりが崩れてダイビング。 

叫ぶ気力もない。 

 

 

 …………。 

 

 …………はぁ…。 

 

 

 まあ、あれだ。 

 

とどのつまり。 

結局。 

結果的に。 

 

 

 俺は今日。厄日なんですね……。 

 

 

 助けて……。戸塚。 

 

 

俺ガイルSide 第7話 

 

-完- 

 

 

物語Side 第鉢話 

『はちまんスパイダーその貳』 

 

 

 阿良々木君達の捜索を見送った後。 

私たち。正確に名前を言えば、私こと羽川翼と。由比ヶ浜結衣さんの二人は待機と言う形を取っていた。 

正直、友人の戦場ヶ原さんや後輩が行方不明になっている現状で、現場待機と言う役割はもどかしい。 

私たちは、実質。実際には、今何もしていない状況なのだ。 

いや、何もしていないと言えばそれは語弊を含むのかもしれない。 

待つ事も立派な役割だし。そのおかげで、もし戦場ヶ原さん達がここへ戻って来たときに対応できる。 

 

 だから私は、羽川翼としては。この愚痴を言葉にすべきではない。 

それよりも、私は、私だからこそとも言える程なのだけど。 

 

 今の自分の不安より、横に居る少女の。由比ヶ浜さんの友人である所の比企谷君。 

彼の安否に内心焦っている由比ヶ浜さんの方が心配になってしまう。 

 

 

羽川「大丈夫だよ。阿良々木君だったら。絶対と言えるほどにね」 

 

 

 そんな確証はどこにもないけど。 

私の猫や、戦場ヶ原さんの蟹のように、今回ももしかしたら怪異が絡んでいるかと思うと。 

安易な言葉を口にするべきじゃないのかもしれない。 

 

 でも、私はそう言ってあげたい。 

そう言える立場に居てあげたい。今、由比ヶ浜さんの不安を取り除くために必要なのは。 

不安な現実ではないから。 

 

 それに、私は信じている。 

阿良々木君なら、困っていなくとも助けてくれる。呼んでいなくとも目の前に来てくれる阿良々木君なら。 

今回も何事もなかったかのように解決してくれるはずだから。 

 

 

由比ヶ浜「でも、本当に遭難とかだったらヤバイっていうか……。 ちょっと問題ですよね……」 

 

 

羽川「大丈夫だよ。まだそれは私たちの中で解決できるかもしれない。 いろんな問題とか事件は、渦中の人より周りの方が大きく捉えている場合が多いんだし」 

 

 

由比ヶ浜「カチュウ?」 

 

 

羽川「あ、えっと……。本当の所、比企谷君達が遭難してなかったとしても。 私たちは最悪のケースを考えちゃうよねって話」 

 

 

 この子は、良い意味で純粋無垢なのだと、私は自分に言い聞かせた。 

いや、本当の所の現代の高校生というのは、彼女のような人が本来に値するのかもしれない。 

私や私の周りの、戦場ヶ原さんや阿良々木君が、高校生らしくはないのかも知れない。 

 

 

由比ヶ浜「でも、ヒッキーだったらもう帰っちゃってるパターンとかもあるし……」 

 

 

羽川「そのパターンは、ある意味で最悪のケースだね……。 そんなに自由な人なのかな、比企谷君は」 

 

 

由比ヶ浜「自由って言うか、捻くれてるんですよ。 もしかしたら、俺がこのメンバーに居たら迷惑とか思っちゃってるかもしれないし……。 この前だって!ヒッキーとゆきのんと3人でカラオケ行こうって部室で誘ったのに! 

 

『すまんな。そうだよな、由比ヶ浜。 

流れ的に、同じ部屋に居る奴を一応誘ってあげないといけない。 

なんて考えがあるんだよな。誘われる前に部屋を出るべきだったよ。 

だから俺の事は気にせず2人で行ってこい』 

 

とか言うんですよ!」 

 

 

 何度でも言うが。いや、何度も言わないと、確認しないといけないと思う。 

彼女はいい意味で純粋無垢。だからこそ。ついさっきまで彼の事を、比企谷君の事を心配していたかと思うと。 

瞬く間にそれは彼に対する愚痴へと変わっていた。 

 

 

由比ヶ浜「今日だって。 ヒッキーがあそぼって誘ってくれたと思ったらこんなだし……。 あ、いやいや今のナシ!なんかぽくないってゆーか!ナシナシ!」 

 

 

 今度は赤面して手を大きく振っている。 

正直、彼女が羨ましくなった。ここまで感情表現を逐一正直に表せる事が。 

嫌味でもなければ皮肉でもなく、素直に私はそう思った。 

 

 私本意、私ありきの、私からの視点だけど。由比ヶ浜さんとは仲良くなれそうな気がした。 

 

 

「おや、誰かと思えば羽川さんじゃない。 

 何時から居たのかしら…というのは私が言われるべき台詞なのかもしれないのだけれど」 

 

 

 と、不意に私は入口の方から聞き覚えのある彼女の声を聞いた。 

その方向を私と由比ヶ浜さんは振り向く。そこに、彼女は居た。戦場ヶ原ひたぎ。 

彼女がまるで堂々と、あたかも凛として入口に立っていた。 

 

 

羽川「あら、こんな所で、奇遇だね戦場ヶ原さん」 

 

 

戦場ヶ原「ええ、本当に奇遇ね」 

 

 簡素な挨拶。ブラックジョークにしては上出来だった。 

奇遇なわけがない。私たちは今の今まで、寧ろ今も尚。 

目の前の戦場ヶ原さんを探していたのだから。 

 

 

戦場ヶ原「もしかしていなくとも、私たちを探しているのかしら?」 

 

 

羽川「うん。お弁当を取ってここに帰ってきたら居なかったからさ」 

 

 

戦場ヶ原「あら、それはおかしな話ね。 私と比企谷君は、今の今まで本来の待機場所に居たはずなのだけれど」 

 

 

羽川「………?」 

 

 

戦場ヶ原「ええ、噛み砕いて説明する必要がありそうね。 ええと、そう。私はお手洗いに行ったのよ。 コーヒーを買っていたじゃない?バスに乗る前に。 それを飲んでしまったせいなの。ホラ、カフェインには利尿作用が……」 

 

 

羽川「いやいや、待って戦場ヶ原さん。 別に私は、戦場ヶ原さんがお手洗いに行った理由について疑問を抱いているわけじゃないの」 

 

 

戦場ヶ原「ええ、分かっているわよ。ジョークよジョーク。ガハラジョーク」 

 

 

羽川「あのね戦場ヶ原さん。敢えて言うんだけど。 

貴方はガハラジョークなんて言葉、これまで本編では一度も使っていないんだよ? 

オーディオコメンタリーでのキャラ付けが逆流してないかな?」 

 

 

戦場ヶ原「あらあら羽川さん。そんなことを言うと羽川さん。 本編でのメタ発言なんて、某蝸牛のみが許された技法であって。 羽川さんが使うこと自体キャラ崩壊じゃないのかしら?」 

 

 

 まあそれ以前に、ここが本編ではないのだけど。 

 

 

 と、ここで閑話休題。 

 

 

戦場ヶ原「戻って見れば2人がいるんだもの。驚きを隠せないわよ」 

 

 

羽川「それにしては冷静な面持ちで。 

   でも、とどのつまり。それじゃあ結局。私たちは別の場所に居たってことなのかな?」 

 

 

戦場ヶ原「私はここに「戻って来た」はずなのだけれど。 でも結局はそういう意味なのかしら」 

 

 

由比ヶ浜「あの……じゃあヒッキーは?」 

 

 

戦場ヶ原「そうなのよ……」 

 

 

 驚きさえも上手に隠せた戦場ヶ原さんは、由比ヶ浜さんの発言に。 

誰が見ても分かるくらいに。言葉を濁らせた。 

 

 由比ヶ浜さんでさえ。さえと言えば蔑む意味合いも含まれるかもしれない。 

でも、語弊を恐れず使うのならば。由比ヶ浜さんでさえ。 

彼女でさえ不安を覚えるほどに、戦場ヶ原さんはたじろいだ。 

 

 

 私も言及には不安と悪寒を感じる。 

出来れば聞きたくないその返答を、だがしかし。私は言及する義務があった。 

 

 

羽川「どこにいるのかな?」 

 

 

戦場ヶ原「私より、私がお手洗いに行くよりも先に。 彼は貴方達を探しに行ったのよ。いえ、行ったはずだったのよ。 だから本来。私より先に見つけるべきは比企谷君だったのだけれど……」 

 

 

由比ヶ浜「じゃあヒッキーがどこにいるか。先輩も知らないんですか?」 

 

 

戦場ヶ原「言いにくいのだけれど。 ええ、そう言う事よね」 

 

 

羽川「と……とにかく。それでも戦場ヶ原さんは見つかった。 それなら阿良々木君達に一度連絡しようよ!もしかしたら……」 

 

 

 

 結果は、案の定というべきか。 

比企谷君は見つかっていない。 

 

 一縷の望みにかけた私の電話も、水泡に帰した。 

孤独蜘蛛。そんな話を阿良々木君にメールで貰った。 

 

 

 集合場所にずっといたはずの戦場ヶ原さんとの話も食い違う。 

そして、比企谷君と別れてから戦場ヶ原さんは私たちと合流できた。 

 

 

 どうやら、私の出る幕はなさそうだ。 

阿良々木君に、私が自分を無力だと認めざるを得ないのだけど。 

彼に任せるしかできる事がなさそうだ。 

 

 私は、私にできるのは、横の由比ヶ浜さんを励ますことしか。 

 

 

 悔しいけど出来そうになかった。 

 

 

物語Side 第鉢話 

『はちまんスパイダーその貳』 ―完― 

 

 

俺ガイルSide 第9話 

『やはり比企谷八幡は捻くれている』 

 

 

 あれから数日後……。 

と、突拍子もない嘘をつくのは俺の意に反している。 

 

 俺は数十分前にダイビングして以来ずっとこのまま。 

そう、比企谷八幡は。絶賛遭難中である。 

 

 

 戦場ヶ原先輩を置いてきたことが気がかりだけど。 

この場合はどうしても自分自身の方を心配してしまう。俺だって人間だもの。 

 

 

 でもこの状況はマズイ。 

俺はこのままだと死んでしまう。つまりは生死の境の真っただ中。 

どうにかしてこの東西南北の木々完全包囲網を脱出しないと……。 

 

 脱出ゲームならまずはドライバーとか、ハンガーとか見つかるんだけど……。 

どうやらこのゲームはクリアさせる気が無いらしく、所持品だけで耐えなくてはいけないらしい。 

 

 このままずっとここ……というわけはないにしても。多分当分は動けねー。 

挫いた足が、エマージェンシーと言う名の痛み信号を俺の脳みそに急ピッチで送ってやがる。 

非常事態なのは分かるが、今痛み信号を発せられても俺には苦痛でしかないんだが……。 

体と言うのは、時に理性に反した行動を見せる。 

物理的な痛みも、精神的な痛みも。 

 

 

 改めて、この脱出ゲームに正面から向き合うことに決める。 

まずは持ち物の確認だ。 

 

その1。 

所持金880円の財布。 

 

 今朝までは1000円あったんだが……。MAXコーヒーのせいで120円減。 

ってかこの遭難中に100万円あったとしても無意味か……。 

 

 

その2。 

電池の切れた携帯電話。 

 

 携帯電話。という言葉はすごく救世主面なのに。 

『電池の切れた』がつくと途端に役に立たなくなってしまう。 

 

 

以上。 

 

 

 自分でも泣きたくなってしまう程の最低限所持物である。 

でも改めて考えると、ゲームよろしく。傷薬でHPがギュギュギュイィン!と回復しない現実世界で。 

俺がここから脱出するために在ったらいい所持物なんて想像できないけどさ。 

 

 

 そう。この状況で、俺自身が動けないと言う事がそもそも詰み。 

逮捕時にチェックメイトとか言っちゃうほどに詰みなんですよ。 

 

 更に遭難者が俺って事が詰み。 

だってさ、普通の人、大抵の高校生だったらさ。まず叫ぶじゃん。 

タスケテクレーって、まず叫ぶじゃん? 

 

 俺にはそれが出来ない。 

正確にいえば、救助は呼べない。 

他人を頼るなんて事。俺には出来ない。 

 

 

 とどのつまりから話す。 

俺は偽善も慈善も慈悲も嫌いだ。 

 

 今、俺が誰かに助けてもらったとして。 

例えば由比ヶ浜。雪ノ下。例えば阿良々木先輩。 

 

 誰かに今。この生命の危機を救出させてもらったとして。 

俺は何も出来ない。 

 

 

 由比ヶ浜は言うだろう。阿良々木先輩は言うかもしれない。 

好きでやった事……。とか、助かったならそれが一番とか。 

 

 助けた側はそれで終わるかもしれないが、助けられた側は大きく借りが出来る。 

お返しに何かしたくなるのは当然の感情だ。 

 

 そこで俺の場合。 

なにも返せないのだ。 

 

 肉体労働も精神奉仕も、俺にとって誰かに何かを出来る事はない。 

自分にさえ何もしてやれないからボッチな俺なのに。 

他人を助けるなんて出来やしない。 

 

 自分を犠牲にしない限りには……な。 

 

 

 まあもしも。俺がここから一歩も動けない。 

足の骨が折れただとかそういう場合なら。俺は、俺だって身の安否は最重要だ。 

叫び倒して助けを求めるが。 

 

 俺の脚は幸い、挫いただけで時間とともに回復する。 

これはドラクエではなく風来のシレンである。時間が解決する負傷だ。 

 

 

 だから俺は、俺自身でここから脱出する。 

他人に助けは求めない。逆に助けられても困るのだ。 

 

 

 俺だって。 

恩を買わされて対価を払わないわけにはいかない。 

だからそもそも、恩は買わない。俺に対して売らせはしない。 

 

 

 結論づいた所で。俺はそのゴールに向かって動かなくてはいけない。 

救助を求めるためではなくて、救助を拒否するために。 

 

 

 ここで俺の秘密道具。最終兵器。 

いや、違うんだ。勘違いしないでくれ。嘘をつこうとしたわけじゃない。 

内ポケットにあったのを今気付いただけなんだ。 

 

 ウンパカパッカパンパカポーン! 

 

 携帯充電器ぃ~! 

 

 そういやこんなもの持ってたな、と。 

単三電池型の充電器を見つけた。これがあればなんて事はない。 

 

 ここから俺は、俺の方法で俺は助かる。 

救助ではない。俺から俺への平穏のためへの行動。 

 

 

 どうやら携帯充電器も寿命が乏しいようで、電話を掛けられたら幸運レベルだった。 

でも、それだけで十分だ。 

  

スパムメールみたいな名前を電話帳から見つける。 

由比ヶ浜の番号。この名前欄のせいで、小町にメール着信を見られて一騒動あった。 

その時は恨んだが、今であれば見つけやすさナンバーワンで逆に助かる。 

まあ、探すほど電話帳に人の名前入ってないけど……。 

 

 そして俺は静かに、発信ボタンを押す。 

 

Prrrrrrrrrr。 

 

ガチャッ。 

 

 実際にはガチャッなんて言わないけど。まぁ、気分だよ気分。 

 

 

由比ヶ浜「ヒッキー!?今どこに居るの!?」 

 

 電話越しでも賑やかな奴だった。 

反射的に電話から耳を離しちゃったよ。ボリューム調整機能はないのかよ。 

お前の声量は……。 

 

 

比企谷「ああ、由比ヶ浜。すまねーな心配かけてて」 

 

 

由比ヶ浜「本当だよ!で!今どこに居るの!?」 

 

 

比企谷「まあ待てよ由比ヶ浜」 

 

 

 俺にも順序ってもんがある。 

 

 

比企谷「戦場ヶ原先輩は?」 

 

 

由比ヶ浜「え?先輩はさっき見つかったよ」 

 

 

比企谷「そうか、なら良かった」 

 

 

 この確認は大事だ。 

もし戦場ヶ原先輩がまだ、合流してなければ。俺は見捨てたことになるからな。 

いや、でも。この解決案は結果そうなっちまうのかな? 

 

 

比企谷「まあ、俺なんだが。俺は今家に居る」 

 

 

由比ヶ浜「ふぇ?い……家?」 

 

 

比企谷「ああ、3年生担当の先生とばったり会ってな。 体調がすぐれないなら帰ってもいいって言われたから甘えさせてもらった。 俺の課題はボランティア活動へ『行く』事だったからな。最後までいろとは言われていない」 

 

 

由比ヶ浜「え?ヒッキーもしかして帰ったって事!?」 

 

 

 そうだ。そういうことにするんだ。 

 

 

比企谷「ああ、心配かけたのはすまねーと思ってるよ。 んじゃまた。学校でな」 

 

 

由比ヶ浜「え!?あ、ちょっと!待ってヒッキー!」 

 

 

 そこで電話が切れる。 

電池残量ゼロの音を響かせながら。 

丁度いい。最善のタイミングだった。 

 

 

比企谷「電車ってここから880円で帰れたっけな……」 

 

 

 ため息をつきながら、俺は帰路の心配をする。 

 

由比ヶ浜や雪ノ下は、俺を軽蔑するのだろうか。 

阿良々木先輩達は、俺に幻滅するだろうか。 

 

 

 まあ、そうだとしても。元々友達なんかじゃないのだ。 

嫌われようがどうってことはない。 

 

 学校での生活は、一ミリの変化もない。 

リセットというかデリートと言うか。とにかく。 

 

 

 俺はこういう人間だと言う事だ。 

 

 

 俺は家に帰った。そう言うことにすれば俺は救助されることはまずない。 

あり得ない。 

だから俺は、俺自身への評価を犠牲に、その選択肢を選んだ。 

 

 俺には。 

俺はやっぱり。 

 

 

 こういう方法しか取れねーんですよ……。 

 

 

 

 

 

俺ガイルSide 第9話 

『やはり比企谷八幡は捻くれている』 

―完― 

 

 

物語Side 第拾話 

『はちまんスパイダーその参』 

 

 

 01 

 

 比企谷の現状を知ったのは、由比ヶ浜の電話の後だった。 

僕たちが合流した後。 

見計らっているかのように、見張られていたかのように、完璧なタイミングで。 

由比ヶ浜の携帯が、比企谷の着信を告げたのだった。 

 

 

阿良々木「端的に、結論からいえば、比企谷は帰宅している。と言う事でいいのか?」 

 

 

 僕は由比ヶ浜にそう質問する。 

 

 

由比ヶ浜「そう言ってました……。ヒッキー勝手に帰っちゃったって……」 

 

 

雪ノ下「はぁ……。最底辺の評価を、比企谷君に下していたはずなのだけれど。 まさかそれ以下に評価が下がるなんて……。あの男を見誤っていたわね」 

 

 

 2人、雪ノ下と由比ヶ浜は、比企谷に悪態をつく。 

その様子から見てとれるに、彼はやはり、しかしながらそういう人間であるらしい。 

いや、そういう人間。といえば、表現を濁しているとも取れるので、正確に言う。 

 

 とどのつまり。彼は結局、自分勝手な人間。 

仲間内での行動で、何も告げず事後報告の帰宅をする。 

そうしても、疑問を抱かれない人間。そういう事なのかと、そういうイメージなのだと思う。 

 

 

 いや、でもしかし。果たして、本当にそうなのだろうか……。 

たかが数時間と言うが、僕が比企谷と話した際の感触は、そういう人間性は感じてはいない。 

もしかしたら、彼は。というより、彼ならば。そうするかもしれないと思っている。 

別の可能性に、別の真実が。 

今の僕は、気が気でならないでいる。 

 

 

阿良々木「でも、いや。それにしては早すぎないか?」 

 

 

 だから僕は。素直に、率直にその疑問を語る事にする。 

伝える事が最重要。声に出さないと伝わらない。僕の考えを。 

ストレートに、包み隠さず、余すことなく語って見る。 

 

 

阿良々木「戦場ヶ原と比企谷が分かれて、今の時間まで。多く見積もっても20分。 家どころか学校にすらつくには、圧倒的に時間が少なすぎるんじゃないのか?」 

 

 

戦場ヶ原「ええ、まあそうよね。3年の先生に言って……と。 比企谷君は、そう言っていたのよね? 個人のためにバスが出るはずもないのだし。 

そもそも、3年生の担任は。皆、バスで乗り合って来ていたはずよ。 そう考えれば、比企谷君の帰宅方法が不明瞭……というか。不可能とさえいえそうね」 

 

 

羽川「うん?でも、そうすれば比企谷君は、まだ家に帰っていないことになっちゃうよ?」 

 

 

阿良々木「ああ、僕はそう思っている」 

 

 

 5人が下を向く。それぞれが、各々の心中で思考する。 

 

 

雪ノ下「そうなると、あの男は。 比企谷君は本当に遭難していて、心配をかけたくないから。 嘘をついたと?」 

 

 

 雪ノ下は、その場を代表するかのように。 

言い淀むことなく、総意のような可能性を提示する。 

そう、僕の考える可能性そのものを、彼女は語り、代弁し、言い切った。 

 

 

由比ヶ浜「でも、ヒッキーなら可能性ありそう……」 

 

 

 同時に由比ヶ浜が、それをフォローする。 

 

 

阿良々木「そうなれば、納得がいくんだ。僕も」 

 

 

 すかさず僕も返事をする。 

自分が言うとおり。己の意見と同じく。それならば全てに辻褄が合う。 

比企谷の性格的にも。さらに言えば。孤独蜘蛛と言う怪異が絡んでいるという解釈でも。 

 

 

雪ノ下「でも、あの男も一応は人間ですよ?生存欲は最低限あると思いますが……。 故に、比企谷君には1人で帰る算段が既にあるのでしょう? まさか死の淵にもかかわらずこういう行動には出ないでしょうし」 

 

 

由比ヶ浜「でも、ヒッキー。変な所で気を使うから……」 

 

 

雪ノ下「これが気を使うとかそういうシチュエーションではない事を。 あの男も分かっていると思いたいのだけど……。 まあ。ですので、彼がそう言う限り。私たちは探さなくてよいと思いますが?」 

 

 

 雪ノ下は続ける。 

比企谷の言葉を、救助拒否の連絡だと推測したうえで。 

それならばと。その推測ありきの、前提においてからの思考の結果を。 

 

 彼女はそう。冷淡に、冷血に、冷静に。 

言葉は取り繕ったが。確かにそう言った。 

 

『比企谷を見捨てる』 

 

と。 

 

 いや、言葉上ではネガティブな、マイナスなイメージしか受け取れないが。 

逆を返せば、それは信頼の証でもある。 

 

 雪ノ下は比企谷を信じている。 

比企谷の言葉が。今は嘘でも、それが結果だけを見れば真実になっていると。 

結局、比企谷は自力で帰路につき、結果上で、過程を省いたうえで真実にするのだと。 

 

 そう信じているからなのだ。 

と、僕は思いたい。 

 

 

 

羽川「まあ、でも。今は、現在の状況では。帰れないのには変わりはないよね。 もしも現状、動けるのであれば、私たちと合流すること自体が一番のはずだもの」 

 

 

戦場ヶ原「それをしない……。と言う事は、すなわちそれが出来ないってことよね」 

 

 

雪ノ下「ですからそれは短期的な話であって……。 本人が家に帰っていると言うなら。本当に帰ってしまった場合も含めて。 まだこの山のどこかに居ると言う可能性に賭けて探すのは、合理的ではないと思います」 

 

 

 雪ノ下雪乃。彼女の言う事は。つまりは正論。 

本来、それが正しい。それが正解だ。 

 

 

 本人が、わざわざ電話をかけて来て、『帰った』と言ったのだから。 

当たり前のようだが、本来。その当事者は『帰っている』はずだ。 

 

 そこに疑問を持つ、僕の方が不可思議な思考であり、異論になる。 

 

 

 でも、既に事はイレギュラー。 

僕しか知らない。さらに言えば、雪ノ下と由比ヶ浜には知りえもしない。 

 

怪異が絡む事。 

 

だからこそ僕は。その本来とか、普通とか、大抵に疑問を持ってしまうのだ。 

 

 

阿良々木「ま、待て待て。それは雪ノ下の言うとおりなんだが。 ちょっと待ってくれないか?」 

 

 

 だから、それだから僕は止めた。その結論へ到達する事を、僕は咎めた。 

 

 

比企谷の。比企谷が被っている怪異は、孤独蜘蛛。 

自分の周りに全てを寄せ付けない。孤独にさせる怪異。 

 

 比企谷が、孤独蜘蛛に取り付かれたまま。 

本当に山を出られるのか。 

いうなれば、八九寺真宵の、蝸牛のようなものなのだ。 

誰とも会えないという事は、人のいる町に到達できないという事。 

 

 

 だからこそ、本当に。 

ここで5人全員が先に、比企谷を置いて帰宅すべきではない。 

 

 

阿良々木「確かに不明瞭だが、それでも。僕だけ残ってもいいか? もしも本当に遭難していた場合。やはり誰かが見つけた方が安心だろう?」 

 

 

雪ノ下「先輩だけ捜索して、私たちは先に帰ると言う事ですか?」 

 

 

阿良々木「ああ」 

 

 

由比ヶ浜「でも、本当に家に帰っているかもしれないのに。1人で探すってなると。 阿良々木先輩まで遭難しちゃったら……」 

 

 

阿良々木「いや、そうだな。 多分とか、きっととか、そんな言葉を恐れずに言いかえれば。 絶対だ。絶対、比企谷はまだ山の中に居る理由とか、そういうのはうまく説明できないが、そう言いきれる自信がある」 

 

 

戦場ヶ原「まあでも。時間という概念で、比企谷君が帰った事を否定出来てしまった以上。 楽観視さえすれども、帰っている可能性は考えづらいでしょうね」 

 

 

雪ノ下「しかし、だとしても。 比企谷君は嘘をついてまで探すことを拒んだんですよ?それならば……」 

 

 

阿良々木「ああ、確かにもっともだ。 でも、今現状。あいつは遭難しているんだ。困っているんだ。 遭難している以上、それで幸せだとか言う奴なんていないだろ? 

そうしたら、そうなったら。僕は探したいんだ。助けてやりたいんだ」 

 

 

雪ノ下「助ける……。ですか。 どうしてそこまでするんですか?義務も責務もありませんが……。 そもそも、探すのであればそれこそ全員で……」 

 

 

阿良々木「確かに義務はないし、そもそも僕一人が探す必要もないかもしれない」 

 

 

雪ノ下「でしたら……」 

 

 

阿良々木「違うんだ、雪ノ下。僕はただ。 僕はただ女子4人の前で、盛大にカッコつけたいだけなんだ。 ここは任せて先に行けってな?」 

 

 

雪ノ下「…………。カッコつけたいだけ…ですか。 ええ……分かりました。納得しましょう……。 阿良々木先輩と、比企谷君がそれを望むのであれば。 私は構いません」 

 

 

 雪ノ下は、何かを達観し、諦めたように発言する。 

呆れ顔。という言葉はもしかしたら正しくはないのかもしれないが。 

彼女はため息交じりにそんな顔で僕に語りかけて来た。 

 

 

由比ヶ浜「でもでも!じゃあヒッキーが見つかったらすぐ連絡してくださいね! ヒッキーの事……やっぱ心配ですし……」 

 

 

 由比ヶ浜もすんなりと了承してくれた。 

てっきり、私も探すと。もう一悶着ありそうな勢いかに思えたのだが。 

 

 

 

阿良々木「ああ、羽川か戦場ヶ原経由にでも伝えるよ。 安心してくれ」 

 

 

 しかしながら。 

対する戦場ヶ原と羽川の顔は。どこか不安げだった。 

2人の事だ。僕が無策で、無謀で無茶な提案をしているとは考えていないだろう。 

でも、忍野もいない今の僕の対処法をいくつか知っている2人にとっては。 

 

 生きて帰ることが可能なのかと。 

 

 

多分、きっと、そう考えているのだろう。 

 

 

 

阿良々木「戦場ヶ原、羽川。心配するな。大丈夫だ」 

 

 

 

 だから僕は、その一言だけを、2人に向けた。 

 

 

 

 02 

 

羽川「じゃあ、私たちは先に戻るね。 一応学校で待機してる。18時を回って連絡がなかったら。 残念だけど先生に連絡して捜索させてもらうよ?」 

 

 

 流石は羽川。 

その一言で僕は分かった。 

雪ノ下と由比ヶ浜がすんなりと、こうもあっさりと。僕一人に捜索を任せてくれたのはそういうわけだ。 

 

 

 羽川は事前に、というより僕の話と同時進行で。 

2人を説得してくれていたのだろう。 

 

 

 もしもがあればその時は……。と。 

  

 だからこそ2人は僕の提案を飲んでくれていたのだ。 

僕の言葉足らずの提案を、離散してしまいそうな提案を。 

 

 

 

阿良々木「ああ、分かった。ありがとう」 

 

 

 二つ返事の短い了承をする。 

その言葉を最後の別れ言葉に選んで、僕は4人の背中を見送った。 

 

 後の雪ノ下と由比ヶ浜へのフォローは、戦場ヶ原と羽川に任せるとしよう。 

 

 

だからこれから。それから僕は。僕のできる事を。僕にしかできない事を。 

僕がやるべき事を、始めるとする。 

 

 

 

03 

 

忍「さて、我が主様よ?」 

 

 

 4人の気配が消えた後、影から金髪の幼女が姿を現す。 

元吸血鬼で、元怪異殺しの異名を持つ。キスショットアセロラオリオンハートアンダーブレードのなれの果て。 

忍野忍が、僕の影から姿を見せた。 

 

 

阿良々木「ああ……」 

 

 

忍「言っておくが、賭けになるぞ?」 

 

 

阿良々木「元から100パーセントなんて期待しちゃいないよ」 

 

 

 そう言うと、静かに忍は、僕の首筋に噛みついた。 

 

 

04 

 

 以下、回想。 

 

 

 忍がそれを僕に提案したのは、少し前。 

雪ノ下と僕が、戦場ヶ原が見つかったと。羽川の電話で伝えられて踵をかえしている最中。 

雪ノ下が、トイレに行っている間だった。 

 

 雪ノ下のトイレについて行くような腐った人間ではない、紳士である所の僕は。 

そこから大きく離れたベンチで待機していた。 

その時、その時間だった。 

 

 

 

忍「のう、我が主様よ」 

 

 

阿良々木「ん?どうしたんだ?」 

 

 

 不意に声で、忍は僕を呼んだ。 

 

 

忍「さっき儂は言ったんじゃが。孤独蜘蛛は、自分から会う以外に対処法はない……と」 

 

 

阿良々木「そうだな。僕はそう聞いた」 

 

 

忍「じゃが、考えてみれば他の方法もあるかも知れん。 まあ、アロハ小僧はそんなこといっとらんかったし、儂の憶測じゃが」 

 

 

阿良々木「なんだそれは。教えてくれよ」 

 

 

忍「うむ。孤独蜘蛛はな。孤独にさせる怪異じゃ。 これはさっき言ったと思うがの?」 

 

 

阿良々木「ああ、さっき言ったな」 

 

 

忍「じゃが、良く考えてみれば、孤独蜘蛛が根暗小僧に取り付いているという事は。 もう既に1人と一匹じゃろ?」 

 

 

阿良々木「ん?まあ、そうだな」 

 

 

忍「それに、アロハ小僧の言っておった昔話の中でも、蜘蛛と人間が出会っておる。 そこで儂は、1つの仮説を立てたんじゃけども……」 

 

 

阿良々木「間伸びさせる言い方だな」 

 

 

忍「まあ聞け。だったらじゃ。儂らが限界まで吸血鬼化すれば。 儂らは人間でも怪異でもない宙ぶらりんの状態と言うわけじゃ」 

 

 

阿良々木「成程な」 

 

 

忍「もしそうなれば、孤独蜘蛛の『孤独』の範疇から除外された存在になるかも知れん。 例えばあの根暗小僧が今、蚊の一匹とも会えないという事もなかろうしの。 そもそも出会えないのは『人間』だけで、もしかしたら『怪異』は会えるかも知れんし」 

 

 

阿良々木「……試す価値はあるな」 

 

 

忍「じゃのう。じゃが、やりすぎると儂らも。それ所じゃあなくなるがの」 

 

 

阿良々木「そこは大丈夫だろう。 やりすぎない程度にすれば」 

 

 

忍「無茶を言うのう、我が主様よ。 儂だってあの調整ちょっとしんどいんじゃぞ? チキンレースみたいなもんじゃぞ?」 

 

 

阿良々木「一気に吸う必要ないんじゃないのか?」 

 

 

忍「いや、そりゃあ何度も何度も。焦らしプレイのように噛み直してもよいならそうするがのう?」 

 

 

阿良々木「いや、僕はそういう趣味嗜好じゃあないからな」 

 

 

忍「じゃろ?じゃからまあ、やりすぎん程度に収めるつもりではあるが。 はて、吸わなさ過ぎて主様のカウントが『人間』になってもいかんしのう」 

 

 

阿良々木「まあ、でもその方法が可能性としてあるなら。 そうして探してみよう。4人にはそう説得する」 

 

 

忍「じゃのう。 それじゃあそれまで。ちょっと儂は寝るぞ」 

 

 

阿良々木「1時間も後じゃないと思うぞ?」 

 

 

忍「今日は一日外に居ると思うから寝てても平気だ。 と、昨晩言ったのは誰じゃったかのう?」 

 

阿良々木「まあ、それを言ったのは他ならぬ、僕だ」 

 

 

忍「じゃろ? じゃから儂は、今日はそもそも寝る気で。昨日夜通し遊んでおったんじゃ!」 

 

 

阿良々木「僕の影の中でか!?」 

 

 

忍「ああそうじゃ!明日は夜まで寝ていようと、ランラン気分で昨日は遊んだのに!」 

 

 

阿良々木「人の影の中でパンダの名前みたいに遊ぶな!」 

 

 

忍「マリカーしてたのに!」 

 

 

阿良々木「月火ちゃんがDS無いって言ってたけどお前か!」 

 

 

忍「なのに起こされて!そりゃ眠くもなるわい!」 

 

 

阿良々木「わかったわかった……。 ごめん。じゃあまた起こすよ」 

 

 

忍「それだけか?」 

 

 

阿良々木「何が言いたいんだ?」 

 

 

忍「いや、まあ確かに今の儂は、いわば一心同体じゃ。 お前様に協力するのは、まあ当たり前と言っても過言ではないかもしれん。 じゃがのうお前様よ、なんというか。こう、形に残る礼と言うか……。 感謝の意と言うか、誠意というかのう」 

 

 

阿良々木「……ああ、わかったよ。理解した。 今日の帰りにミスタードーナツに寄ってやるよ。それでいいか」 

 

 

忍「わーい!頑張るぞー!」 

 

 

 

 

 

 忘れず言うならば。怠らず言うならば。 

彼女は昔。怪異の王で、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。 

かのキスショットアセロラオリオンハートアンダーブレード。 

だった存在である。 

 

 

忍「わーい!ドーナツわーい!」 

 

 

以上、回想終了。 

 

 

 06 

 

忍「さてと、こんなもんかのう」 

 

 忍は僕の首筋から口を離す。 

今だこの感覚は慣れないでいる僕だが、今はそれを言っている場合ではない。 

 

 

阿良々木「さて、忍。行くか……」 

 

 

忍「行くか……。と言っても、目星はあるのか?我が主様よ」 

 

 

阿良々木「ああ、あるさ。 実は通り道で一か所、不自然に手すりが無い場所があったんだ。 もしかするとその下に、比企谷は落ちてしまったのかもしれない」 

 

 

忍「ほぼ正解じゃのう……」 

 

 

 問題は、出会えるかどうか。 

その下に居るとしても。もしも僕たちが怪異の干渉に触れてしまえば。 

因果関係とか、そういう何かで、僕は比企谷と出会えずに彷徨うことになるだろう。 

 

 

 それでも。だとしても行くしかない僕たちは。 

忍と僕は、その場所へ行って。 

 

 その坂道。崖とも言えるほどの急な坂道を。 

 

 

 滑り落ちた。 

 

 

比企谷「…………」 

 

 

阿良々木「…………」 

 

 

忍「…………」 

 

 

比企谷「え?………誘拐?」 

 

 

阿良々木「待て」 

 

 

 それが合流して初めての会話だった。 

 

 

物語Side 第拾話 

『はちまんスパイダーその参』 

 

―完― 

 

続く

八幡「やはり、俺にとって。 こんな物語は。こんな青春ラブコメは……」4/4【俺ガイルss/物語シリーズss】 - アニメssリーディングパーク

 

 

 

 

【俺ガイル】やはり阿良々木暦のボランティア活動はまちがっている【化物語

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