ハルヒ「ほんとに…?本当にあたしとしないの?///」【涼宮ハルヒの憂鬱ss/アニメss】
とある休日、不思議探索は休みと団長様からお達しがあり、久々に惰眠を貪ることができるなどと俺は考えていた。
もはやお約束と言われても仕方がないのだが、ハルヒによってその快適な睡眠は妨げられることとなる。
いや、薄々はわかってはいたのだ。ここのところ何かと忙しく、ハルヒと二人っきりになる時間がほとんど無かった。
それをハルヒがどう思っていたのかは、今日の行動を待たずとも明白であったわけだ。
実際、俺としてもハルヒと一緒に過ごせないのは残念に思っていたわけで、本日の訪問は素直に嬉しく思う。
しかし、一つだけ納得いかないのは、快適な惰眠を妨げられたことだ。
「ちょっと、せっかく可愛い彼女が遊びに来てやってるのに、その言い草は何よ?」
「自分で可愛いとか言うな」
現在午後一時過ぎ、昼食を食べ終え、俺の部屋でのんびりとゲームなんぞをやっている。
ちなみにではあるが、両親、妹ともに外出しており、昼食はハルヒの作ってくれた炒飯だった。
美味かったとだけでも言っておこうか。
「それはそうと、キョン弱すぎ。これじゃあ対戦してる意味が無いじゃない。COMのほうがよっぽど強いわよ?」
「そりゃ、こんな状態で普段の実力を出せと言われても無理ってもんだ」
再びちなみにではあるが、現在ハルヒは俺を椅子に見立ててそこに座っている。
ハルヒのせいで画面は見えづらい上に、その、いろいろとあれなわけで、集中なんてできやしない。
「なぁ、ハルヒ。重いからのいてくれ――「却下」
即答。いや、最後まで喋らせてくれなかった。
「嫌よ、そんなの。絶対に嫌」
「おいおい、何でそんなにこだわるんだよ?」
「だって――」
――寂しかったんだから。
なんて、かぼそい声で言われた日には、俺はハルヒのお願いを無下にすることなんて出来るはずもなく、ただただハルヒのわがままを甘受するだけである。
「そ、それに、キョンだってあたしと引っ付いてないと寂しいんでしょ?仕方なくよ、仕方なく」
「……そういうことにしといてやるよ」
「う、うるさい!バカキョン!」
駄々っ子のように足をバタバタするハルヒ。ストレートな感情表現をしてくる一方で、こういった子供みたいなところもある。
付き合う以前からそういう傾向はあったのだが、ここ最近それが顕著になってきているような気がする。
「ねぇ、キョン。ぎゅってして」
「はいよ」
言われるがままに後ろからハルヒに手を回し抱き締める。
ハルヒは何食わぬ顔でガチャガチャとコントローラをいじっていると思いきや、ほんのりと頬を朱に染まっているのに俺は気が付いた。
「もっとぎゅってしなさいよ」
「はいはい」
さらに力を込める。そして、いい匂いのするハルヒの首筋に顔を埋めた。
匂いが強くなるとともに安らかな気持ちになる。
「……変態」
「それは酷いぞ。ハルヒだってよく俺にこうやるじゃないか」
「し、してないわよ!」
「どうだか、ね」
付き合い始めてから、ハルヒは随分と甘えるようになった。
それまでツンツンしていた反動と言えばいいのだろうか、ことあるごとに俺に引っ付いてくるようになった。
俺個人としては、それを非常に嬉しく思っている。
周囲からバカップルだの桃色職人だのと言われたりするが、それ以上にハルヒと一緒に居ることに幸せを感じている。
それに、甘えてくる時のハルヒは可愛い。
それだけで十分ではないだろうか。
「……ねぇ、キョン。キスしてほしかったりする?」
「いや、別に」
「……そ、そう」
「なんだ、残念そうだな」
「ざ、残念なのはキョンのほうでしょ!?せっかくこのあたしがキョンがしてほしかったらキスしてあげようかと思ってたのに、
せっかくのチャンスを潰したんだからね。もう頼んでもしてあげないんだから」
「そうか。じゃあ、もうキスは無しだな」
「えっ……?」
半身を捻ってこっちに向いたハルヒの瞳が、俺の返答が予想外だったのか動揺にゆれていた。
「ほんとに……?ほんとのほんとにあたしとキスしないの?」
「頼んでもハルヒはしてくれないしさせてくれないんだろ?」
「そ、それは……」
ハルヒが口籠もる。
ハルヒの性格なら、言ったことをいまさら取り消すなんてできやしないのはわかっている。
不安そうにこちらをじっと見つめるハルヒ。
そんな表情がたまらなく可愛い。
「や、やっぱりさっきの――むぐっ」
ハルヒがすべて言い終わる前にその唇を奪い去った。触れるだけのキス。ハルヒが驚いたまま表情で固まっている。
「頼んでもしてくれないから奪ってみた」
我ながら恥ずかしいセリフだと思う。そもそも俺はこんなキャラではないしな。
「ば、ば、バカキョン!な、な、なんてことしてくれんのよ!」
顔を真っ赤にしたハルヒが怒鳴る。
「い、いきなりなんて卑怯よ!」
「じゃあ、もうしないさ」
「…………」
押し黙るハルヒ。数瞬迷った挙げ句――
「た、たまにはいいわよ。嫌いってわけじゃないんだから」
――と、蚊の鳴くような声でそう言った。
「可愛いぞ、ハルヒ」
「恥ずかしいこと言うな!」
プイッと明後日の方向へ顔を向けるハルヒを、俺は再び強く抱き締めるのであった。
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「キョンくんあたしもオレンジジュースちょうだい!」
日曜日の昼下がりのことである。
ちょうどコップにオレンジジュースを注いでいるところに妹がやってきた。
部屋着ではなく私服を着ていることから、この後どこかに出掛けるようだ。
「ミヨちゃんの家に行ってくるから、シャミの面倒見ててねー」
オレンジジュースを勢いよく飲み干し、そう言い残して妹は家を出て行った。
相も変わらず元気なこって。
週末の元気は毎週土曜日に使い果たしてしまう俺には、日曜日というものは安息日であり、
その午後ともなれば最も心安らぐ一時であると言っても過言ではない。
「君は可愛いにゃー」
コップを持って部屋に戻ってくると、中から声がする。
いつぞやみたいにシャミセンが話し出したのかと思われるが、あの時以来シャミセンがしゃべっているのをみたことはない。
つまりは、だ。シャミセン以外の誰かがシャミセンに向かって話しかけているということだ。
……こんなこと誰でも気付くだろうに、俺は一体全体誰に向かって説明しているんだろうね。
「それにしても随分とご機嫌だな」
ベッドにシャミセンと一緒に寝そべっている佐々木に声をかける。
「それはもう。僕はこう見えて猫派だから」
こう見えるもなんも初耳だ。
「そうだったかい?まぁ、キョンとペットについて語り合ったことはなかったかもしれないね。いい機会だ、僕が猫派ということを覚えておいてくれ」
「へいへい」
気のない返事を返し、コップをテーブルの上に置く。
佐々木はシャミセンを抱いてベットに座り直し、俺はベットに持たれるよう、その横に座り込む。
その際、シャミセンと目があったが、それ程嫌がっているわけではなさそうである。
まぁ、普段から妹の相手をしているだけがあって、構われるのは慣れている。
ましてや、妹ほど雑に扱われるわけでないから尚更であろう。
「それはそうと。佐々木でも『にゃー』なんて言うんだな」
先日、偶然にも1年ぶりの再会を果たした俺達ではあるが、中学時代に佐々木がそんな可愛らしい言葉を使っているのには、ついぞお目にかかったことはない。
「おや、キョンは何か勘違いしてないか?猫と話すときは語尾ににゃーをつけるのが礼儀ってものじゃないか」
さも当然に言い放つ佐々木。猫派ではそれが当たり前なのであろうか。
俺個人としては犬も猫もどちらか一方に傾注することはないので、そういうことは聞いたことがなかった。
「冗談だよ、キョン」
佐々木が楽しそうにくつくつと咽を鳴らす。そこでようやく俺はからかわられていることに気が付いた。
やれやれ。
「キョンのそういうところは相変わらずだね」
「佐々木のそういうところも相変わらずだな」
1年ぶりの再会ではあるが、昨日もあったような感覚。再会するまでの時間など関係ない。俺と佐々木はそんな関係である。
佐々木に撫でられ、シャミセンがごろごろと咽を鳴らす。佐々木も笑う際に咽を鳴らす。妙な共通点がある。いや、ほんとどうでもいい。
「猫はいいよね。こうやって膝の上に乗っているだけで、こんなにも癒やしてくれるんだから」
「そうか?うちの妹の膝の上に乗せられた時は大抵面倒臭そうな顔してるぞ」
シャミセンからしてみれば随分な迷惑である。その点佐々木の膝の上ならリラックスできて気持ちいいのではないだろうか。
「キョンも試してみるかい?」
「……遠慮しておく」
「まぁ、そう言わずに」
やたら楽しそうな佐々木。というか、その有無を言わせない。そういのははた迷惑な団長さんだけで十分である。
「ほら、そこに座るんだ」
指示されるがままベットに腰掛ける。そして、俺の膝の上にぽふっと佐々木が頭を乗せる。そして、シャミセンは佐々木のほっそりとしたお腹の上に鎮座している。
「いや、ちょっと待て。お前が猫のほうかよ」
「おや?逆のほうが良かったかい?」
再び咽を鳴らす。もはや、何も言うまい。
「ほら、キョン。僕を撫でるんだにゃー」
クールなキャラははるか一万光年さきにでも行ってしまったのか。軽く嘆息し、しょうがないので佐々木の顎から喉を撫でてやる。
佐々木は気持ちいいのか、猫がそうするようにすっと目を細めた。どう表現していいのかわからんが、今ならなんとなく猫派の気持ちがわかるような気がする。
「にゃー」
そんなわけで、俺の安らかな日曜日の午後は佐々木を膝に乗せ、撫で続けることで過ぎていくのであった。
そして、それを帰ってきた妹に発見され、赤っ恥をかいたことを追記しておく。
終
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