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ひたぎ「ふふっ、こういうの重たい?」【化物語 ss/アニメss】

 

羽川の問題が一応の解決を見、名ばかりではあるが僕が副委員長として臨んだ文化祭も無事に閉会して、土日を挟んだ6月20日

 

いくら吸血鬼スキルの名残りのおかげで眠気に強いとはいえ、立て続けの難事に精神的疲労のピークが来たのか、昼食後から猛烈な眠気に襲われ、机に突っ伏したが最後、午後の授業の記憶がさっぱりない。

 

つい最近、戦場ヶ原と同じ大学に行く、という卒業すら危ぶまれる現状から見れば大層ハードルの高い目標を掲げた身としては痛恨の極みとも言える失態である。いい加減起きなければと思い、体を起こそうとしたそのとき、僕はある異変に気づいた。

 

肩から頭にかけてが、漬け物石を乗せられたかのようにずっしりと重たく、机に突っ伏した姿勢のまま起き上がることができないのだ。しかもこの背中の重みはこの瞬間も増え続け、軽いパニックに陥りかけたとき、この現象を説明する一つの原因に思い当たった。

 

 

怪異____

 

いつもそこにあり、世界そのものでありながら、まっとうに生きている人間ならば意識して関わることもない、そんな存在。

 

しかし美しき吸血鬼と出会ったあの春休み以来、僕は怪異と出逢い続けた。

 

怪異に一度出会った人間は怪異を引き寄せやすくなると忍野は言っていたが、今回もその類の怪奇現象だろうか。

 

重みに関する怪異というと、戦場ヶ原が行き遭った重し蟹を想起させられるが素人の僕にはさっぱり見当もつかない。

 

もちろん解決策なんて都合のいいものはなおさらだ。

 

 

しかし怪異のスペシャリスト、忍野メメはもうこの町にはいない。

 

これからは自分で怪異たちとの折り合いをつけていかなければならないのだ。

 

まあもっとも忍野がいたところでこの場から動けない以上学習塾跡に相談に行くこともできないのだが……

 

それとは別に、ブラック羽川の時のように忍が助けてくれるということもあるかもしれないが、忍とは完全な和解には程遠い関係にある以上、気安く頼るわけにはいかない。

 

とりあえずしばらくは自分で解決する努力を尽くす他ないという結論に落ち着き、僕が全身に力をこめてもう一度体を起こそうとしたその時____

 

ほっそりとした指の感触がつうっと僕の背中をなぞった。

 

戦場ヶ原「動かないで阿良々木くん。いえ違うわねそうじゃないわ。動いてもいいけど動くと危ないから動かない方が良いわよ、というのが正しいわね。」

 

阿良々木「お前のしわざか戦場ヶ原!」

 

戦場ヶ原「そうよ。寝ている彼氏の頭の上に教科書辞書文庫本ハードカバー、様々な書類を積んで遊んでいます。戦場ヶ原ひたぎです。」

 

阿良々木「そんな斬新な自己紹介があるか!」

 

 

閑話休題

 

ここは直江津高校3年のとあるクラス、つまるところ僕阿良々木暦と、僕の恋人であるところの戦場ヶひたぎが現在在籍するクラスの教室であった。

 

文化祭という学生生活最後の華やかなイベントの終わりは多くの受験生にとって勉強に本腰を入れ始める一つの丁度良い節目になっていたのだろうか、教室の他の生徒は皆既に帰途についており、教室に僕たち2人の他に生徒は残っていないようだった。

 

しかしその静けさは誰もいない放課後の教室に恋人と2人きり、という甘酸っぱいシチュエーションに華を添えるアクセントではなく、ただ僕の身に起こっている恐怖に煽りを加えるエッセンスでしかなかった。そしてまた一つ頭の上の重みが増えていく……

 

 

戦場ヶ原「阿良々木くん4限から寝通しで私に構ってくれないから寂しくてつい……」

 

阿良「つい、という言葉をそんな便利に酷使するんじゃねえよ。早く僕の頭に積んだこの本の山をどけるんだ戦場ヶ原。」

 

戦場ヶ原「嫌よ。まだやっと土台が出来上がったところなんだから。私はここに、私の城を築くわ。」

 

阿良々木「出来上がる頃には僕窒息死してるよ!」

 

戦場ヶ原「ふふそれなら城というよりは陵墓ね。分かったわ戦場ヶ原ひたぎの全てをかけて阿良々木くんに最高の死場所を作るわ。」

 

阿良々木「ちょっとカッコ良いマンガのセリフ風にしても駄目だ!」

 

戦場ヶ原「まあでも実を言うと、私この作業にもう飽きてきてしまったから、神原を呼んで阿良々木ジェンガでもしようかしら。」

 

阿良々木「ちょっとカッコ良いハーフの名前風にしても駄目だ!」

 

 

閑話休題

 

阿良々木「しかしさ、お前がこんな小学3年生みたいな遊びをするなんて意外だよな。」

 

戦場ヶ原「そうね。でも私小学生の頃は同年代の友達が少なくて、こういう遊びをすることも少なかったからその反動が今頃になってきたのかもしれないわね。」

 

小学生の頃の戦場ヶ原……

全くもって想像つかないがそれを言うなら陸上部のスターであった頃の戦場ヶ原も今の彼女の姿から想像することだって僕には難しい。

 

戦場ヶ原「だから私いわゆるおままごとという遊びもあまりした経験がないのよ。」

 

阿良々木「へえ」

 

戦場ヶ原「だからいつか阿良々木くんとやってみたいわね。家族5人住める家と家財道具一切買い揃えて。」

 

阿良々木「それは流れに無理があり過ぎる!!」

 

それはかなり強引なプロポーズだった。しかも僕との間に3人の子供を設けるという、かなり衝撃的な未来設計までしれっと盛り込まれている。本当に恐ろしい女である。

 

戦場ヶ原「ふふっ、こういうの重たい?」

 

彼女はまた一つ僕の頭の上に本を置きながらそう言った。

 

阿良々木「別に。僕はそういうところも含めて……その……好きだよ。」

 

僕はキメ顔でそう言った。

ただし、机に突っ伏した上、頭に無数の本が積まれた状態で。

 

一方の戦場ヶ原から返答はない。

僕の滅多にしないストレートな物言いに鉄面皮の彼女も少し面食らったのかもしれない。

 

正直死ぬほど恥ずかしいセリフではあったが、その甲斐あって戦場ヶ原に一矢報いることができたと思うと満足至極である。

知らぬ間に、にいと嫌な笑みが自分の顔に浮かぶのが分かる。

 

戦場ヶ原「あらそう。嬉しいことを言ってくれるわね。それじゃあ……」

 

ドサドサッ……

 

一際重たい重しがいくつか、乱暴に乗せられた。

この重さ、恐らく何か辞書の類。

 

阿良々木「なにをするんだお前!!」

 

戦場ヶ原「だって阿良々木くんが別に重たくない、むしろ重たいのが好きだって…」

 

阿良々木「違う!誰がこの場面で頭の上の重しを物理的に増やして下さいと頼むんだよ!!」

 

渾身のアタックも戦場ヶ原にスルリとかわされ、絶望した僕はもはややけくそであった。

 

阿良々木「僕が好きなのはひたぎさん!ひたぎさんの重たい愛情です!!」

 

興奮のあまり死ぬほど恥ずかしく、しかも若干の変態性が加わったセリフが勢いに任せて口をついて出た。

僕のメンタルの方は満身創痍、息も絶え絶えといった状態だったが、今度は男としてのプライドを賭け、戦場ヶ原と刺し違える覚悟で放ったセリフ。

 

しばらくの肌がチクチクとするような沈黙が続く。

 

やったか?と

もはやカップル間の会話に流れる空気とは思えぬ荒涼たる雰囲気に悲愴な思いを持ちつつ、恐る恐る戦場ヶ原の息遣いを探ると、ふっと息を付く音がする。

 

戦場ヶ原「改めて紹介するわ神原。こちらが私の彼氏、阿良々木ジェンガくんよ。」

 

神原「無論存じ上げている。これからもよろしく頼むぞ阿良々木先輩。」

 

阿良々木「本当に神原呼んだのかよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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暦デイリー

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