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八幡「お前、良い女だな」 沙希「んなっ!? 何言ってんのさ突然!?」3/3【俺ガイルss/アニメss】

 

八幡「ホ、ホテルって、お前」

 

沙希「あたし、比企谷とそういうことがしたい…………比企谷はあたしとしたくない?」

 

八幡「そ、その聞き方は卑怯だろ…………したいに決まってんじゃねえか」

 

沙希「じゃあ」

 

八幡「でもいきなりすぎんだろ。付き合ってその日にって」

 

沙希「いきなり、じゃないよ」

 

八幡「え?」

 

沙希「ずっと、ずっと比企谷としたいと思ってた。そうなれたらいいなって思ってた。いきなりじゃない、むしろようやくって感じなの」

 

八幡「川崎……」

 

沙希「それに、あたしもちょっとヘタレなとこあるから、言えるときに言っとかないとまた恥ずかしがって言えなくなると困るし…………」

 

八幡「………………」

 

沙希「ご、ごめん、あたし重いかな…………もちろん比企谷がどうしても嫌だって言うなら別に」

 

八幡「その台詞は男女逆だろ…………本当にいいのか?」

 

沙希「! いいに決まってるでしょ。比企谷だったら初めての恐怖も性に対する嫌悪感も一切ない。あたしは」

 

八幡(川崎は一旦そこで言葉を切って俺をまっすぐに見る)

 

沙希「あたしは比企谷に抱かれたい」

 

八幡「くっ…………」

 

八幡(あまりにまっすぐな目につい視線を逸らしてしまった。照れ隠しに頭をかきながら返事をする)

 

八幡「わかった、今夜はお前を抱く…………いや、抱かせてくれ」

 

沙希「うん!」ニコッ

 

八幡「うわぁ、いい笑顔だ…………まあ考えてみりゃこの前ウチに泊まった時にもしそうな雰囲気だったもんな」

 

沙希「結局手でしあうだけで終わっちゃったもんね。今日は最後まで…………ね?」

 

八幡「ああ。ただし俺初めてだからな。上手くできるかわかんねえし、理性トんで優しくできないかもしれねえぞ」

 

沙希「大丈夫。比企谷になら何をされてもいいから」

 

八幡「…………後悔、するんじゃねえぞ」

 

沙希「後悔するくらいめちゃくちゃにしてくれるの?」

 

八幡「んぐっ、お、お前…………!」

 

沙希「ふふっ」

 

八幡(くそっ、開き直ったか恥ずかしがるラインが随分高くなってやがる。このままじゃペース握られっぱなしだ)

 

八幡「と、とりあえずホテル街に向かうか。詳しくねえけどあっちに行けばあったよな確か」

 

沙希「うん。でも週末だから混んでるかもしれないね」

 

八幡「まあ全滅ってことはないだろ。何軒か回れば…………あ、そうだ」

 

八幡(ベンチから立ち上がり、腕を組んでこようとした川崎に向き直る)

 

沙希「ん?」

 

八幡(俺は川崎の背中に腕を回して引き寄せ、その白い首筋に唇を付けて思いっ切り吸った)

 

沙希「あっ、んんっ!」

 

八幡(ビクンっと川崎は身体を震わせて艶やかな声をあげる。それを聞いて俺は川崎を解放した)

 

沙希「な、何したの? 変な声出ちゃったんだけど…………」

 

八幡「ん、しるし付けた」

 

沙希「え? あ……」

 

八幡(川崎は俺が吸った部分に指を当てて軽くなぞる。自分では見えないだろうが、そこにはキスマークがついている)

 

八幡「お前が、俺のものだっていうしるしだ。もう今夜は逃がさねえからな」

 

沙希「うん…………クーリングオフは効かないからね? あたしの身も心もあんたのものにしちゃってよ」

 

八幡「行くか」

 

沙希「うん」

 

八幡(俺が肘を突き出すと川崎がそれに腕を絡めてくる。逸る心を抑えながら俺達はホテル街に向かって歩き出した)

 

八幡(パタンと背後で扉が閉まる。一応開けようと試みたがノブが回ることはなかった)

 

八幡「うえっへっへっ、これでもう逃げることも出来ないぜ」

 

沙希「いやっ、襲われちゃう、来ないでっ」

 

八幡「…………」

 

沙希「…………」

 

八幡「くくっ」

 

沙希「ふふっ」

 

八幡(ホテルの部屋に入ったところで小芝居をし、俺達は笑い合う)

 

八幡「とりあえず入るか」

 

沙希「そうだね。でも洋タイプなのに玄関で靴を脱ぐんだねここ」

 

八幡「少しでも掃除が楽なんじゃねえの? 知らんけど」

 

八幡(俺は靴を脱いで上がり、川崎に手を差し出す)

 

八幡(川崎はその手を取ってバランスを取りながら自分の靴を脱いだ)

 

八幡(そしてごく自然な流れで俺のと一緒に靴を揃えて並べる。うーむ、育ちがいいのかオカンスキルが高いのか)

 

沙希「へえ、ラブホってこんな内装なんだ。あんまり普通のホテルと変わんないね」

 

八幡「場所によって違うらしいけどな。部屋中鏡に囲まれてたり、中には川が流れてるとこもあるらしいぞ」

 

沙希「川って…………それ何の意味があるの?」

 

八幡「さあ? まあ物珍しさで客は入るんじゃねえか?」

 

沙希「えっと、シューターは…………あった、これだね」

 

八幡「だな。そばにカプセルも置いてあるし」

 

八幡(俺達がこのホテルを選んだ理由、それがこのシューターと呼ばれるものだ)

 

八幡(入口の機械で部屋を選び、一度その部屋に入るとドアがロックされて、金を払わないと解除されない仕組みだ。その支払い方法がこのシューターである)

 

八幡(カプセルに代金を入れてシューターに放り込むとフロントに送られ、ロックが解除されて外に出られるようになるのだ)

 

八幡(そう、この一連の流れで一切他人と会話や顔を会わすことはない。ここ重要。超重要。対人スキルが著しく低い俺達には大変ありがたいことである)

 

沙希「で、あっちにある小扉がデリバリー用なんだね……ってもやっぱり高いね」パラパラ

 

八幡「ん、ああ、それメニューか。ま、それは仕方ないだろ」

 

沙希「そうだね。よっと」ポフッ

 

八幡(一通り見回して満足したか川崎はポシェットを傍らに置いてソファーに座る)

 

八幡(俺もその隣に腰を下ろすと、すぐに川崎が身体を寄せてきた)

 

八幡「やめるなら、今が最後のチャンスだぞ」

 

沙希「嘘つき、やめる気なんかないくせに」

 

八幡「まあな。でもお前もだろ?」

 

沙希「当然」

 

八幡(俺達は自然に唇を重ねる)

 

八幡(互いの背中に腕を回して強く抱き締め合う)

 

八幡(長いキスを終えて離れると、川崎はくったりと力が抜けて俺にもたれかかってきた)

 

沙希「はぁ…………あたし、キスにすごく弱いみたい…………自分じゃエッチな方だって思ってんのに、これくらいで」

 

八幡「おいおい、エロさなら俺の方が上に決まってんだろ」

 

沙希「そんなんあたしだって負けてないよ」

 

八幡「んじゃ全力で色々やんぞ。引くなよ?」

 

沙希「ふふっ、大丈夫。だって比企谷になら何をされたって嬉しいし、何をされたってきっと気持ち良いから」

 

八幡「…………お前、俺のこと好き過ぎだろ」

 

沙希「知らなかった?」

 

八幡「新しく知った。めっちゃ嬉しい」

 

沙希「ん」

 

八幡(俺達は再び強く抱き締め合い、頬を軽く擦り合わせる)

 

八幡「川崎……舌、出してくれ」

 

沙希「え……うん」

 

八幡(川崎は軽く口を開けて言われるままに舌を出す。俺はそれをれろりと舐めた)

 

沙希「んうっ」ピクッ

 

八幡「嫌だったか?」

 

沙希「ううん…………でも、すごいぞくっと来た……」

 

八幡「今から」

 

沙希「ん?」

 

八幡「今からお前の舌を徹底的に犯す。俺の舌と激しく擦り合わせて、丹念に舐め回して、唇で挟んでお前の唾液ごと強く吸い上げる。いいな?」

 

沙希「………………」

 

八幡(川崎は何も言わず、目をとろんとさせながら舌を突き出してきた。まるで早くしろと言わんばかりに)

 

八幡(俺は遠慮なくその舌をくわえ込み、自分の口内に招き入れた)

 

八幡(ちゅうっ、と舌に付着している唾液を吸い、飲み込む)

 

八幡(まるで蜜のように甘く感じられ、俺は夢中でその舌を貪った。唾液がなくなってもその味を求めて舐め回す)

 

八幡(しかしそれだけでは飽きたらず、今度は川崎の口内に俺の舌をねじ込んだ)

 

沙希「んむっ……んぅ…………」

 

八幡(川崎は驚いた声をあげたが抵抗はしない。どころかさらに大きく口を開けて俺の舌を招き入れる)

 

八幡(俺は後頭部に手を回して逃げられないように抑え、ぐいぐいと唇を押し付けながら川崎の口内を蹂躙し始めた)

 

八幡(歯や歯茎を舌でなぞり、舌同士を絡め合い、唾液を吸い上げる)

 

八幡(それを幾度も繰り返していると突然川崎が抵抗し始めた)

 

八幡(とは言っても身体に力がまともに入らないので俺を突き放そうとしてもまったく効果はないのだが)

 

八幡(それらを無視して川崎の舌を自分の口内に招き入れて強めに吸う)

 

沙希「ん、ん、んーっ、ん…………んんっ! んんーっ!」ビクビクッ

 

八幡(川崎が身体を仰け反らしながら痙攣させ、ひときわ大きなうめき声をあげた。あれ? これって…………)

 

八幡(身体の痙攣が収まるまで舌を責め続け、ふっと全身が脱力したのを確認して俺は唇を離した)

 

八幡(お互いの舌の間でつうっと唾液が糸を引き、妙に艶めかしい)

 

沙希「あ……あ…………」ポー

 

八幡(まだ川崎はぼうっとしており、目の焦点がいまいち合ってない)

 

八幡(抱き寄せるとゆっくりと抱き返してくる。俺はそっと頭を撫でてやった)

 

沙希「ん…………ば、かぁ」

 

八幡「何が?」ナデナデ

 

沙希「抵抗、したのに…………止めて、くれなかった」

 

八幡「嫌だったのか?」ナデナデ

 

沙希「そうじゃ、ないけど……」

 

八幡「はは、お前イっただろ? キスだけでイくなんてどんだけ敏感なんだよ」

 

沙希「うう…………はあ、自分でもびっくりしたよ」

 

八幡(ようやく落ち着いたか川崎の喋りがしっかりしてきた)

 

沙希「はあ、シャワー浴びてこようかな? 下着も濡れちゃったし」

 

八幡「ぬ、濡れたって、お前…………!」

 

沙希「んん? 確かめてみる?」

 

八幡(そう言って川崎はワンピースの裾を下着がギリギリ見えないところまで捲り上げた。露わになった太ももがすごくエロティックに見える)

 

八幡「……っ! 馬鹿なこと言ってねえで行くなら行ってこいって」

 

八幡(暴走しそうになるのを何とか堪え、川崎を促す。が、川崎はそんな俺の態度を見て、ニヤリと笑った)

 

八幡「な、何だよ?」

 

沙希「あんたさ、あたしを追いやって一人でするつもりだったでしょ」

 

八幡「う……」

 

沙希「馬鹿みたい。何のためにあたしがいるのさ。あたしを使ってよ。何で言ってくれないの?」

 

八幡「だ、だってよ、今もうギリギリいっぱいいっぱいでいつ暴発するかわかんねえからさ…………変なタイミングで出たら情けないし…………」

 

沙希「それ、キスだけでイったあたしへの当て付け?」

 

八幡「ち、違えって! それに、使うって言ってもどこをどうすりゃいいのか、どこまで許されるのかなって…………」

 

沙希「何それ、何度も言ってるでしょ。あたしの身体はもう比企谷のものなんだから、好きなとこを好きなように使っていいって」

 

八幡(川崎は指を自分の口に当てる)

 

沙希「比企谷が望むなら手でだって口でだってしてあげる。あ、でもあそこはシャワー浴びてからにしてほしいな」

 

八幡「…………っ!」

 

八幡(あ、危ねえ! 今セリフだけで出そうになった)

 

八幡(これ以上何かある前にさっさと川崎に出してもらった方がいいか…………)

 

八幡「じゃあ…………その、お前の手でこの前みたいにしてもらいたい」

 

沙希「手? 口とかじゃなくていいの?」

 

八幡「ああ。その、キスしながらしてもらいたいんだ」

 

沙希「わかった。他にしてほしいことがあったらどんどん言って」

 

八幡(川崎はそう言って俺のズボンに手をかける。そのままベルトを外してファスナーを下ろし、いきり立った肉棒をさらけ出した)

 

沙希「…………っ、すご……おっき……」

 

八幡(目を見開いたが忌避感などはないようだ。まじまじと見てくる)

 

沙希「えっと、どうすればいいの?」

 

八幡「右手で握って……そう、そこ。んで左の手の平を先っぽに当てるんだ、お前のその手に出すから……それで右手を上下にしごいてくれ」

 

八幡(俺の指示通りに川崎は手を動かす。やはり自分でするのとは快感が段違いだ)

 

八幡(俺は川崎の頭に手を回して引き寄せ、キスをする)

 

八幡(ただし今度は舌を入れない。押し付けるだけだ。ぶっちゃけ声を出さないようにするのがメインだしな)

 

八幡(実際今キスして口を塞いでなければ快感で情けない声が出ていただろう)

 

八幡(より快感を求めて勝手に腰が動く。さっきから幾度も限界を迎えそうになっていたのだ。あっという間に射精感が押し寄せてくる)

 

八幡(俺は唇を離して思いっきり両手で川崎を抱き締めた)

 

八幡「かっ、川崎っ、もう、出る! 出すからな! お前の手に、出すから!」

 

沙希「うん、いいよ。出しちゃお。我慢しないで、気持ち良くなってあたしの手に出して」

 

八幡「あ、あ、あ…………あうっ! うっ! うっ!」

 

八幡(俺は大量の精液を吐き出し、川崎の手を汚していく。精液が尿道を駆け抜けるたびに身体を震わせてうめき声を上げ、腰を揺する)

 

沙希「ん、熱っ…………ほら、頑張って。全部出しちゃって」

 

八幡「うっ……うっ……はぁ」

 

八幡(全部出し切って力が抜けたのを確認して川崎はしごくのを止めた。左手は大量の白濁液が付着している)

 

沙希「ふふ、凄くたくさん出たね。ほら、もう脱いじゃお。汚れちゃうよ」

 

八幡「あ、ああ」

 

八幡(俺は川崎と身体を離し、下半身に穿いているものを脱ぐ)

 

八幡「ふう……なあ、川……って何やってんだお前!?」

 

沙希「ん、見てわかるでしょ? 手に付いたあんたの精液を舐めとってるだけじゃない」

 

八幡「いいってそんなの! 汚いし不味いだろ?」

 

沙希「確かに美味しくはないけどさ、汚くなんかないよ、比企谷のだもん」

 

八幡「う……」

 

沙希「比企谷、見てて」

 

八幡(川崎はある程度の量を舐めとり、口に含んだあと顎をあげて喉を見せる)

 

八幡(その喉がコクン、と音を鳴らした)

 

八幡「! お、お前、今」

 

沙希「ふふ、比企谷の、飲んじゃった」

 

八幡(あー、と口を開けて口内を見せてくる。そこには舐めとったはずの白濁液が確かに無くなっていた)

 

沙希「もう一回見せてあげる」

 

八幡(再び手に付着したものを舐めとる川崎。そして喉を晒したあと、俺の手を取ってそこに当てさせた)

 

沙希「んっ…………」コクン

 

八幡(俺の精液が喉を通る感触が指に伝わる。飲み干したあとの口内はやはり何も無かった)

 

沙希「男って飲んでくれると嬉しいんでしょ? どうだった? …………って聞くまでもないか」

 

八幡(川崎の視線の先には再び固く反り返った俺の肉棒があった)

 

沙希「でも少しは落ち着いたでしょ?」

 

八幡「あ、ああ」

 

沙希「じゃ、お互い色々汚れちゃったし一回シャワー浴びたいからさ…………一緒に入ろ?」

 

八幡「い、一緒にって…………」

 

沙希「背中流してあげるよ。なんなら頭も洗ってあげる」

 

八幡(川崎は笑いながら言い、バスルームに向かって中を確認する)

 

沙希「ん、そろそろ丁度良いくらいだよ」

 

八幡「え、何、準備してたの?」

 

沙希「うん、最初に見回った時にね」

 

八幡(そう言ってこちらにやってきた川崎は、俺の目の前で胸元のボタンと腰のベルトを外す。ファサ、とワンピースが脱げ落ち、下着姿になった)

 

八幡「それ、は…………」

 

沙希「うん、黒のレースの上下セット。比企谷とのデートならやっぱりこれかなって」

 

八幡(川崎は俺に手を伸ばして立ち上がるように促す)

 

沙希「これは比企谷に脱がしてほしいな」

 

八幡「! わ、わかった」

 

八幡(俺は川崎にレクチャーしてもらいながらブラを外しにかかる。ホックが外れ、するすると腕から抜き、その豊満な双丘が露わになった)

 

沙希「ほら、見惚れてないで、下も」

 

八幡「あ、ああ」

 

八幡(パンツに指をかけ、下に降ろしていく。さらけ出された局部にはうっすらと毛が生えていたが、想像していたよりずっと薄い)

 

八幡(脚からパンツも抜いて、川崎は一糸纏わぬ姿になった)

 

八幡(俺から少し離れて腕を横に広げ、見せ付けるように言う)

 

沙希「比企谷、見て。これがあたし。あたしの全部、あんたに見てほしい」

 

八幡「…………綺麗だ。見せてくれて、嬉しい」

 

沙希「ん、ありがと。じゃ、お風呂行こ。比企谷も脱いで」

 

八幡「ああ、そうだな」

 

八幡(俺も手早く服を脱いで全裸になり、川崎とバスルームに入る)

 

沙希「ん、湯加減はちょうどいいかな」

 

八幡(バスタブに手を入れて確認する川崎。屈んだ時に突き出された白い尻に思わず顔を背けてしまう)

 

八幡「おい、見えるぞ。少しは恥じらえよ」

 

沙希「今更何言ってんのさ。あたし達がどこにいると思ってんの」

 

八幡「そりゃそうなんだが…………」

 

沙希「えーと、これがシャンプーでこっちがボディソープで…………」

 

八幡(俺は備え付けてあるものを確認している川崎の背後に近付く)

 

八幡「川崎」

 

沙希「え、何?」

 

八幡「ちょっと抱き締めさせてもらってもいいか?」

 

沙希「うん…………ほら」

 

八幡(両手を広げて川崎は俺を誘う。吸い込まれるように川崎に近付き、背中に手を回して抱き締めた)

 

沙希「んっ……」

 

八幡(力を込めたわけではないが、川崎が小さな声をあげる)

 

八幡(かくいう俺もギリギリのとこで声が出るのを抑えたのだが)

 

沙希「なんか、気持ちいいね…………」

 

八幡「ああ……川崎の肌、吸い付いてくるみたいだ」

 

沙希「比企谷の身体も、あったかい…………」

 

八幡(しばらくの間、俺達は裸で抱き合っていた)

 

沙希「…………そろそろ、身体洗おっか」

 

八幡「そうだな」

 

八幡(一瞬離れるのを躊躇ったが、今更か。俺は腕を解いて川崎と身体を離す)

 

沙希「あ、比企谷の、凄く大きくなってる…………」

 

八幡「そりゃ裸のお前と抱き合ってたんだからな。お前の肌にちゃんと触れるのって何気に初めてだし」

 

沙希「あれ、そうだっけ?」

 

八幡「まあずぶ濡れになった時拭いたのがあるけどあれはノーカウントだろ。余裕なかったし」

 

沙希「そう、じゃあ…………」

 

八幡(川崎はボディソープの容器を手に取る)

 

沙希「あたし身体はスポンジとか使わずに手で洗うんだけどさ」

 

八幡「へえ」

 

沙希「比企谷、洗ってよ、あたしの身体」

 

八幡(川崎はそう言って俺にボディソープを差し出した)

 

八幡「い、いいのか?」

 

沙希「うん…………」

 

八幡「じゃ、じゃあその椅子に座ってくれ」

 

沙希「はいよっと」

 

八幡(俺は川崎の背中側に回り、シャワーをかけて川崎の身体を濡らしてからボディソープを手に出して泡立てる)

 

八幡「じゃあ、背中いくぞ」

 

沙希「ん」

 

八幡(俺は川崎の背中に両手を当て、撫でるように動かす)

 

八幡「こんなもんで、いいのか?」

 

沙希「うん、気持ちいい……あ、性的な意味じゃなくてね」

 

八幡「その解説はいらない」

 

沙希「ふふ…………ねえ、背中ばっかりじゃなくて、さ」

 

八幡「う……じゃ、じゃあ腕、横に伸ばしてくれ」

 

沙希「ん」

 

八幡(俺は新たにボディソープを泡立てて川崎の腕に塗りたくる)

 

八幡「それにしてもお前、肌がすげえ綺麗ですべすべだよな。触ってる俺の方が気持ちいいくらいだ」

 

沙希「…………」

 

八幡「どうした?」

 

沙希「今、触られながらそんなこと言われたから…………ぞくぞくってした……すごい嬉しい」

 

八幡「お、おう」

 

八幡(か、可愛い……)

 

沙希「ね、比企谷……早く前も」

 

八幡「わ、わかった、いくぞ」

 

八幡(俺は腕を川崎の脇の下から身体の前面に回し、腹の当たりを撫でる。そういえば)

 

八幡「お前も結構腹筋あるよな。空手やってたせいか引き締まってる」

 

沙希「スタイル維持に一役買ってたのは間違いないね。こんなお腹、嫌?」

 

八幡「んなわけないだろ。でもこっちは痩せなくて良かった」

 

八幡(俺は軽口を叩きながら思い切って両胸を鷲掴みにする)

 

八幡「うわっ、超柔らけぇ、なのにしっかり押し返してくる……それに指に吸い付くみたいだ」ムニュムニュ

 

沙希「あ、ん…………このスケベ、いきなりなんて」

 

八幡(服越しに背中や腕に感じたことは何度もあるが、直に触るのはやはり違う)

 

沙希「あたしのおっぱい、気に入ってくれた?」

 

八幡「そりゃもう。ずっと揉んでいたいくらいだ」モミモミ

 

沙希「良かった……あたし、大きいのあんまり好きじゃなかったんだ。邪魔だし男にはジロジロ見られるし」

 

八幡「だろうな」モミモミ

 

沙希「でも比企谷が気に入ってくれるなら、大きくて良かったって思ったよ」

 

八幡「嬉しいことを言ってくれるな」ムニュムニュ

 

沙希「ん…………触り方、凄くやらしい……今は洗うんでしょ……?」

 

八幡「おっとそうだった。後でまた揉ませてくれよな」

 

沙希「うん。いくらでも、ね」

 

八幡(俺は川崎の身体を洗うのを再開する。胸回りや腰を撫で回すようにしてボディソープまみれにしていく)

 

八幡(やがて上半身が終わり、俺は一旦手を止めた)

 

八幡「なあ川崎…………その、あそこってどう洗えばいいんだ? 石鹸とかあまり中に入るの良くないんだよな?」

 

沙希「ん……じゃあ、自分でやるからそこ触るのはベッドでのお楽しみにしよっか。でも、脚は洗ってほしいな」

 

八幡「わかった。脚、触るから」

 

八幡(俺は川崎の太ももに手を伸ばす)

 

八幡(………………)

 

八幡「川崎、お前…………」

 

沙希「あ、当たり前でしょ…………あんたが大きくしてるのと一緒だよ」

 

八幡(川崎の太ももの内側、そこに手をやった瞬間にぬるりとした感触がしたのだ。明らかにお湯ではなく、秘所から溢れてきた愛液だ)

 

八幡「そういやこっちも固くなってるもんな」

 

八幡(俺は手を再び胸に持っていき、尖った先っぽ、両の乳首をきゅっと指でつまんだ)

 

沙希「んっ! だめぇっ…………まだ……」

 

八幡「わかったよ。だけど後でこれ、ベッドでたくさんいじめてやるからな」

 

沙希「うん…………後でいっぱい、して」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺は手を下ろし、川崎の脚を洗い始める)

 

八幡(太ももから膝、膝裏、ふくらはぎ、指先の間に至るまでじっくりと)

 

八幡「こんなもんかな。流すぞ」

 

沙希「ん」

 

八幡(俺はシャワーで川崎の身体の石鹸を流していく)

 

八幡「よし、と。終わったぞ」

 

沙希「はぁ……良かったよ…………ありがと。じゃ、次はあんたの番だね。座って」

 

八幡「おう、よろしく」

 

八幡(俺は川崎と入れ替わって椅子に座った)

 

沙希「あ、その前にさ」

 

八幡「ん、どうした?」

 

沙希「ちょっと抱きつかせてもらうね」

 

八幡(言うが早いか俺が返事をする前に川崎は後ろから抱きついてきた。いつも自転車で二人乗りするのと似たような体勢だが、服などの隔てるものがない分ダイレクトに色々と伝わってくる)

 

沙希「はぁ…………比企谷の背中、あったかくて、好き。自転車乗ってるとき、いつもドキドキしてたよ」

 

八幡「好きなのは背中だけか?」

 

沙希「もう、そういうことじゃないってば」

 

八幡「はは、冗談だっての。ちなみに俺だって結構ドキドキしてたぜ」

 

沙希「うん、知ってる。耳当てたら聞こえたからね」

 

八幡「うわマジか、恥ずい」

 

沙希「ふふ……じゃ、そろそろ洗うね。比企谷はスポンジ使う?」

 

八幡「あー、適当でいいよ。男の肌なんて気を使うもんでもないし」

 

沙希「そう? じゃ、あたしの好きなようにさせてもらうね」

 

八幡「おう」

 

八幡(川崎はボディソープを泡立て、俺の背中を撫でるように洗ってくる)

 

沙希「どうかな?」

 

八幡「ああ、気持ち良いぜ。もちろん性的な意味じゃなくな」

 

沙希「わかってるって…………あ、そうだ」

 

八幡(川崎は俺の肩を両手で掴み、身体を密着させてきた。豊満な胸が俺の背中で潰れる)

 

八幡「お、おい、何を」

 

沙希「男の夢とか聞いたよ。おっぱいで洗ってあげよっか?」

 

八幡(耳元で囁かれて俺の八幡大菩薩がビキリと反応する。てか童貞と処女なのにレベル高すぎませんか!?)

 

沙希「ま、好きにするって言ったから勝手にさせてもらうけどね」

 

八幡「う、おお」

 

八幡(未体験の感触に変な声が出た。ムニュムニュと柔らかなものが背中を這い回る)

 

沙希「ん、はぁ…………」

 

八幡(川崎が甘い吐息を漏らした。二つの突起がより固くなっている気がする。腕が俺の胸側に回され、背中と同時に擦ってきた)

 

沙希「あ…………すごい、こんなになってる」

 

八幡(腕を腹の辺りまで下ろすと反り返った肉棒に触れたのだ)

 

八幡「ならねえ方がおかしいだろこの状況…………」

 

沙希「触っても平気? 余裕なかったりする?」

 

八幡「さっき出したからまだ大丈夫だと思う」

 

 

沙希「そう。じゃ、洗うね」

 

八幡(そう言って川崎は俺の肉棒を後ろから両手で握り、コシコシと洗い始める)

 

八幡「う、ああっ…………」

 

八幡(石鹸のぬるぬるした感触がヤバい。玉の方まで揉まれるようにされて声が抑えきれない)

 

八幡「か、川崎っ、もう、いいから…………」

 

沙希「そう? なら止めとく。もし出ちゃってあとの分が無くなったら大変だからね」

 

八幡(川崎はようやく手と身体を離し、今度は俺の腕に取り掛かった)

 

八幡(そこから腰や脚に向かい、全身を洗い終えてシャワーで石鹸を落としていく)

 

沙希「よし、こんなとこだね。じゃ、頭洗うよ」

 

八幡「してくれるのか。なら頼む。別に髪にもこだわりはねえから適当によろしく」

 

沙希「はいはい、おまかせあれ」

 

八幡(シャンプーが俺の髪で泡立てられ、一ヶ所一ヶ所揉むように洗われる)

 

八幡(髪を切る時以外に他人に洗ってもらうことなんかねえもんな…………すげえ気持ち良い)

 

沙希「ん、リンスの前に流すよ」

 

八幡「おう」

 

八幡(シャンプーが流され、リンスが付けられる。同じようにして最後に軽く手櫛で整えられた)

 

沙希「はい、終わりだよ。お疲れさま」

 

八幡「サンキュ。気持ち良かったぜ」

 

沙希「どういたしまして。じゃ、あたしは自分の頭洗うから湯船入ってて」

 

八幡「おう」

 

八幡(さすがに女の髪を洗うのは本人に任せた方がいいだろう。俺は素直に湯船に浸かる)

 

八幡(しばらくぬるめの湯を堪能していると洗い終えて解いた髪を再びアップにした川崎がやってきた)

 

沙希「じゃ、あたしも入るよ。比企谷の身体にもたれかかっていい?」

 

八幡「おう。来い来い」

 

八幡(俺は少し脚を広げてスペースを作る。川崎はそこに腰を下ろして背中を俺の前面にくっつけて体重を預けてきた)

 

沙希「ふふ、当たってる。大きいまんまだね」

 

八幡「そりゃな。まあまだ大丈夫だ。で、今からお前を抱き締めるけどさ」

 

沙希「ん?」

 

八幡「肩の上から腕回すのと腹の辺りで回すのどっちが好みだ?」

 

沙希「…………じゃあ、今回は肩の上からで」

 

八幡「あいよ」

 

八幡(俺は言われたままに川崎を抱き締める。いわゆるあすなろ抱きってやつだな)

 

沙希「はぁ……すっごい幸せ……」

 

八幡「俺もだぜ」

 

沙希「ね、比企谷、キスして」

 

八幡「おう」

 

八幡(首を捻ってこちらに向けられた唇に俺は自分のを押し付ける)

 

八幡(しばらくしてから離すと、川崎の少し吊り気味の目が潤んでとろんとしていた)

 

八幡「…………そろそろ上がるか」

 

沙希「…………うん」

 

八幡(俺達は湯船を出てバスタオルで身体を拭く。一応バスローブが用意されていたが二人とも着ようとはしなかった)

 

沙希「あたし、少し時間かかるから先に出てて」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺は使い終わったドライヤーを川崎に渡す。まあ髪長いとそうなるよな。俺はバスルームを出てソファーに腰掛けた)

 

八幡「いよいよか…………」

 

八幡(ついに川崎といたしてしまうのだ。正直緊張で勃起しないんじゃないかと心配していたが、いまだ八幡大菩薩は天を仰いでらっしゃる)

 

八幡(ま、オナニーしあったりとか予行演習みたいなのがあったからな…………ってそうだ。ゴムどうしよ。着ける練習とかしたことねえからわかんねえぞ)

 

八幡(あれを着けるのに手間取って雰囲気が冷めたりしたら最悪だ。複数用意してあったら今のうちに練習しとこう)

 

沙希「お待たせ」

 

八幡(って、そんな暇はなかった……仕方ない、流れに任せるか)

 

沙希「比企谷……いっぱい愛してね。そんであたしをあんたのものにして」

 

八幡「ああ、頑張る」

 

八幡(しばらく抱き合ったあと、俺は川崎を抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこだ)

 

沙希「女心、くすぐってくるじゃないのさ」

 

八幡「俺がしたいと思っただけだ」

 

沙希「ふふ……んっ」

 

八幡(川崎が俺の首に腕を回してくる。そのまままた軽くキスをして俺はベッドに向かった)

 

八幡(とさり、と優しく川崎をベッドの上に寝かす。俺もそのままベッドに乗り上げ、川崎の上で四つん這いになる。まだ肌は触れ合っていない)

 

八幡(しばらく無言で見つめ合い、自然と顔が近付いていって唇同士がくっつく。身体も密着させ、互いの体温を感じる)

 

八幡(唇を離すと川崎の瞳に自分の間抜け面が写っていた。何ニヤケてんだ俺)

 

沙希「比企谷、もっと…………」

 

八幡(川崎はそう言って口を開け、舌を突き出してくる。俺はそれにむしゃぶりついた)

 

八幡(唾液の絡まる音が響く。川崎が俺の首に腕を回して積極的に吸ってくる)

 

沙希「ん…………比企谷の、もっと飲ませて」

 

八幡(俺は次々に唾液を川崎の口内に送り込み、代わりに川崎が舌にまぶした唾液を吸い上げた)

 

八幡(互いに喉を鳴らしてそれを飲み込み、ひとしきり唾液の交換を行って顔を離す)

 

沙希「はぁ…………」

 

八幡(川崎の顔はだらしなく弛緩していたが、俺だって似たようなものだろう。それを誤魔化すように川崎の頬にキスをする)

 

八幡(額に、こめかみに、まぶたに、鼻に、顎に。俺は川崎の顔にキスの雨を降らせた)

 

八幡(そこから少し下がって首筋、ここに来る前につけたキスマークがある。まだほとんど薄くなっていないが、俺は同じようにそこを強く吸った)

 

沙希「あっ、んん……」

 

八幡(川崎が艶やかな声を出す。もっと聞きたいがあまり付けると湿疹みたいに見えてしまうかな…………いや、よく考えたらキスマークに見えるのも良くなくね?)

 

八幡(ま、今更手遅れか。俺は一旦顔を上げて川崎と目を合わせる)

 

沙希「……比企谷?」

 

八幡「川崎、俺は今からお前に色々しようと思う」

 

沙希「うん……」

 

八幡「もっとこうしてほしいとか、逆にそれは嫌だってのがあったら言ってくれ。俺がしたくてもお前がしてほしくないなら俺はしたくないからな」

 

沙希「わかった……でも、されて嫌なことなんてないよ」

 

八幡「そいつはどうかな? 結構恥ずかしいこともするかもしれないぜ」

 

沙希「それは多分、恥ずかしくても、嫌なことじゃないよきっと。言ったでしょ、比企谷になら何をされてもいいって」

 

八幡「だったな。んじゃたっぷりいじめてやるから覚悟しろよ?」

 

沙希「うん、して…………んっ」

 

八幡(俺は川崎と唇を合わせ、胸を揉み始める)

 

八幡(下から持ち上げるように。正面から掴むように。様々な形で揉みしだくとその通りに川崎の胸は変形し、それを押し返そうと弾む)

 

八幡(まだピンと尖った乳首には触れない。触れたいけどちょっとだけ我慢だ。ギリギリのとこを指でなぞる)

 

沙希「比企谷ぁっ……早く、先っぽ……してぇ……」

 

八幡(普段聞けないような声音での川崎のおねだり。今後のためにも脳内に刻み込んでおく)

 

八幡「ああ。ところで川崎、口でしようと思うけど舌で舐められるのと、くわえられて吸われるの、どっちをしてほしい?」

 

沙希「っ…………どっちも、どっちもしてっ……」

 

八幡(一瞬言われたことを想像したかぶるっと身体を震わせて川崎は答えた。俺は川崎の右乳首を唇で挟み込み、ちゅうっと吸い上げる)

 

沙希「んはあっ! ああっ!」

 

八幡(びくんっと身体を仰け反らせて声をあげた。俺はそのまま左乳首を指でつまみ、くりくりと刺激する)

 

沙希「あっ! あっ! いいっ! いいよぉっ! もっといっぱいしてっ!」

 

八幡(吸ったあとは舌で舐め上げてコロコロと転がす。それを左右両方の乳首に幾度も繰り返し、手で揉むのも休むことなく続けた)

 

沙希「あ……あ……ひき、がやぁ……」

 

八幡(顔を起こすと川崎はだらしない表情になって虚ろな目をしていた。別にイったわけではないようだが)

 

八幡(俺は一度川崎に顔を寄せてキスをし、耳元で囁く)

 

八幡「川崎、今度はあそこをしてやるよ。いいな?」

 

沙希「…………うん……あたしの誰にも見せたことのないとこ、見て……比企谷以外誰にも触らせたことのないとこ、触って…………」

 

八幡「脚、開くぞ」

 

八幡(俺は下半身側に移動して川崎の両膝を掴んで開かせる)

 

八幡(そこには愛液でぬらぬらとテカっている女性器があった。初めて見る生のそれに俺はゴクリと唾を飲み込む)

 

八幡「すっげえエロい…………だけど、綺麗だ」

 

八幡(よくグロいとかそういう意見を聞くが、そんな感情は一切抱かなかった。俺はそこに顔を近付けていく)

 

八幡(とろとろと蜜が溢れてる源泉に口を付けてその蜜をすする)

 

沙希「んっ! んんっ! んんっ!」

 

八幡(川崎がくぐもった声を出したので何かと思って顔を上げると、枕で顔を覆っていた)

 

八幡(何だよ、川崎の顔が見たいし川崎の声を聞きたいのに。俺は身体を起こして枕を取り上げる)

 

沙希「あっ…………」

 

八幡(そのまま両手首を掴んで手を使えないようにし、再び川崎の秘所に顔を伏せた)

 

八幡(今度は上の方にある小さな豆、多分クリトリスだ、そこに舌を這わす)

 

沙希「はぁんっ! ああっ! だめ! 感じ過ぎちゃう!」

 

八幡(川崎は嬌声を上げながら身体をくねらせるが、俺は構わず刺激を与え続けた。今度は軽く吸ってみる)

 

八幡(川崎はよりいっそうの声を上げ、更なる愛液を噴き出す。俺はそれを舌で掬い取りながら飲み込んでいく。それでもあとからあとから湧いてくるので、その蜜壺に舌を差し入れながら直接すすった)

 

八幡(しかし舌だけじゃ足りないと、もっと別のもので穴を埋めてほしいと、そう言わんばかりにひくひくとソコは蠢いている)

 

八幡(俺は身体を起こして川崎の腕を解放し、川崎と目を合わせた)

 

八幡「川崎…………そろそろ、いいか?」

 

沙希「…………うん」

 

八幡(川崎が頷いたのを確認し、俺はベッド脇の棚にある避妊具に手を伸ばす)

 

八幡(が、その腕を川崎に掴まれてしまった)

 

沙希「何してんの?」

 

八幡「何ってコンドームを」

 

沙希「比企谷、あたしはね、いくら薄いからって天然樹脂の人工物に処女を捧げる気はないの」

 

八幡「え……?」

 

沙希「初めては、そのまんまのあんたを感じて、そのまんまのあんたを受け止めたい」

 

八幡「で、でも」

 

沙希「今日は、大丈夫な日だから、ね」

 

八幡「…………なあ川崎」

 

沙希「何?」

 

八幡「世の中にはさ、油断してたら出来ちゃって思いも寄らないデキ婚、なんてのはそれなりに聞く話だよな」

 

沙希「う、うん……」

 

八幡「だから、きちんとしとくべきことはきちんとしておこうと俺は思う」

 

沙希「う…………」

 

八幡「…………もし、万が一があったら、俺は責任取ってお前と結婚する。いいな?」

 

沙希「え……!?」

 

八幡「何だ、嫌か? ならちゃんとゴムを……」

 

沙希「ううん! する! する! あたし、あんたと結婚する! 子供出来なくても、絶対するから!」

 

八幡「はは。ありがとな。何だか最低のプロポーズになっちまったかな?」

 

沙希「いいの、あたしが嬉しいから…………ホント、嬉しい……」

 

八幡「ん。じゃあ川崎、お前の処女、俺にくれよ。んで俺の童貞、お前で捨てさせてくれ」

 

沙希「うん。あたしの処女、奪って…………あたしであんたの童貞、捨ててよ」

 

八幡(俺が身体を起こすと川崎は秘所を指で広げる。エロマンガとかにある『くぱぁ』ってやつだ、実にエロい)

 

八幡(緊張のあまり直前で萎える、なんてのもよく聞く話だが、八幡大菩薩は変わらずの硬度を保っていた。まったく頼もしいムスコだぜ)

 

八幡(俺はそれを掴んで川崎の蜜壺の入口に押し当てた)

 

八幡(つぷ、と先端が埋まり、凄まじい熱さが伝わってくる。が、今まで異物を受け入れてこなかったそこはキツくてなかなか奥まで進まない)

 

沙希「ん……う……ね、ねえ、もう全部入った?」

 

八幡「何言ってんだ。まだ四分の一も入ってねえぞ」

 

沙希「え、ま、まだ? も、もう、一気に来ちゃってよ。多分その方が苦しくないから……」

 

八幡「わかった。ちょっとだけ我慢してくれな…………深呼吸して」

 

沙希「う、うん」

 

八幡(川崎は大きく呼吸を繰り返す。そして息を吐いた瞬間を狙い、俺は力強く一気に腰を沈めた。途中で何かを突き破ったような感触は純潔を散らした証か)

 

沙希「っ! …………ああっ!」

 

八幡(びくんっと川崎の身体が震え、声が漏れる。それは感じているような甘い声ではなく、明らかに苦痛を伴っていた)

 

沙希「は、入った? 全部入ってるよね?」

 

八幡「ああ。俺のが根元までがっちり、お前の中に入ったぞ。大丈夫か?」

 

八幡(気遣いはするが謝ることはしない。こうなることがわかっていてやったのだから。川崎がぽろぽろと涙をこぼし始める)

 

沙希「違うのっ……確かに痛いけど、これは……嬉しいから泣いてるの」

 

八幡「川崎…………」

 

沙希「うれ、しいっ……うれしいよぉっ…………比企谷と、ひとつになれて……」

 

八幡(あとからあとから目元から涙が出てくる。俺はそこに唇をつけてその涙を吸う。例え嬉し涙だったとしても、あまり泣いてるところは見たくない)

 

沙希「あたし、幸せだよ…………幸せ過ぎて怖いくらい。こんなに幸せで、いいのかな?」

 

八幡「それを言うなら俺の方こそだぞ。不幸ばっかのろくでもないマイナス人生送ってきた俺が、一瞬でプラスに持っていかれるくらい今の俺は幸福だぜ」

 

沙希「そんなこと言われたら、ますますあたしも幸せになっちゃうじゃないのさ…………ね、あたしの中、気持ち良い?」

 

八幡「ああ。熱くて、ぬるぬるで、柔らかいのにギチギチに締め付けてくる。とろけちまいそうなほど気持ち良い」

 

沙希「嬉しい…………ね、動いていいからもっと気持ち良くなって」

 

八幡「いや、お前がまだキツいだろ。しばらくこのまんまでいるよ」

 

八幡(俺はそう答えたが、川崎は悲しさと不満が入り混じった表情をする)

 

八幡「何だよ?」

 

沙希「だ、だって、比企谷はあたしを気持ち良くしてくれて、今だって気を使ってくれてばっかりで、あたしは比企谷に何もしてあげられてないから…………」

 

八幡「ばっか、俺はお前がそばにいるだけで充分だって。それなのに俺の童貞まで捨てさせてくれて、これ以上何かしてもらったらバチが当たるっつの」

 

沙希「で、でも」

 

八幡「それに正直なとこを言うとな、俺が動かないのはお前に気を使ってるわけじゃねえ」

 

沙希「え?」

 

八幡「入れてるだけで気持ち良過ぎててな、動くとすぐにイっちまいそうなんだよ。さっき一回出してなかったらとっくに暴発してる」

 

沙希「そう、なんだ」クス

 

八幡「ああ、お前の中、もっとじっくり感じていたいからな」

 

沙希「うん、いっぱい感じてて…………でも、出したくなったらいつでもあたしの中に出していいからね。全部、おなかの中で受け止めてあげるから」

 

八幡「っ…………! はぁっ、はぁっ……」

 

沙希「ど、どしたの急に息切らせて?」

 

八幡「お前、わかってて言ってるんじゃないよな……?」

 

沙希「?」

 

八幡(今、川崎のセリフだけでイきそうになった…………)

 

八幡「川崎、キスするぞ」

 

八幡(俺は誤魔化すように川崎に覆い被さって唇を重ねる)

 

沙希「ん、ふ…………う、んっ」

 

八幡(川崎はすぐに俺の唇を受け入れ、積極的に舌を絡めてくる。それに連動して俺の肉棒を包み込んでる肉襞がうねりを増す。ヤバいヤバい! 気持ち良過ぎだって!)

 

八幡(気を紛らわそうとしたキスだったが裏目に出た。もう限界だ)

 

八幡「悪い川崎! もう出そうだ! 動いていいか!?」

 

八幡(唇を離して叫ぶように言うと川崎は俺の首と背中に腕を回してくる)

 

沙希「いいよ、遠慮しないで。あたしの事は気にしないで好きなだけ動いて。いっぱい気持ち良くなって全部あたしの中に出して」

 

八幡(耳元で囁かれて理性が吹き飛ぶ。もう俺は腰を振って川崎の膣内に精液を注ぎ込むことしか考えられなくなっていた)

 

八幡「沙希っ、沙希っ、沙希ぃっ、出る、出るぞ、全部、出すから!」

 

沙希「八幡っ、八幡っ、いいよ、出して、あたしの一番奥で、思いっ切り出しちゃって!」

 

八幡(もう川崎を気遣う余裕はなく、射精に向けて俺は腰を振りたくる)

 

八幡「あ、あ、あ、あ…………うああっ! あっ! あっ! あっ!」

 

八幡(身体中を快感の電流が走り回り、腰に収束して局部に集中する。そこから一気に射精へと導かれ、脳が焼かれるほどの快感に翻弄される)

 

八幡(精液が尿道を通り抜けて鈴口からびゅるびゅると放たれるたびに声が漏れ、ガクガクと身体中が震える)

 

八幡(気持ち良い。気持ち良い。気持ち良い。気持ち良い)

 

八幡(俺は精液を全て出しきるまで情けない声をあげながら腰を揺すり続けた)

 

八幡「はぁっ……はぁっ……はぁ………………はっ! か、川崎、大丈夫か!?」

 

八幡(俺はようやく落ち着きを取り戻し、慌てて身体を起こして川崎の様子を窺う)

 

沙希「ん……ん…………う…………」

 

八幡「……川崎?」

 

八幡(川崎は何やら身体をくねらせながら身悶えしていた。何だ?)

 

沙希「ん……あ……あ……あああっ!」

 

八幡(突然びくんっと身体を跳ねさせ、ぐううっと仰け反った。え? 今のまさか?)

 

沙希「はぁ……あ……あっ……あん」

 

八幡(艶めかしい声とともに身体を痙攣させる川崎。やっぱり今のはイったのか?)

 

八幡「川崎、お前今…………」

 

沙希「うん……イっちゃった…………比企谷の、中に出されちゃったんだって感じたら、おなかの辺りがきゅんってして、ふわってして、そのまま…………気持ち良さがいつもと全然違った……」

 

八幡「そっか…………俺もいつもより全然気持ち良かった。ありがとうな川崎。まだ痛いか?」

 

沙希「ん、まだちょっと痺れるみたいな感覚あるけど、平気。だからもう少しこのままでいて…………」

 

八幡「ああ」

 

八幡(俺達は軽くキスをし、互いの体温を感じながらしばらく抱きしめ合っていた)

 

八幡「んじゃ、名残惜しいけどそろそろ抜くぞ?」

 

沙希「うん、もういいよ。あたしの子宮、あんたの精子でしっかりマーキングされちゃったから…………んっ……あれ? おっきくなった?」

 

八幡「そういうエロいことを言うなよ、反応しちまうだろうが…………よっ、と」

 

八幡(俺は身体を起こして腰を引き、川崎の中から肉棒を抜く。それは精液、愛液、血、様々な体液にまみれている)

 

八幡「ん……あ、あれ? おっとっと」

 

八幡(脇にあるティッシュに手を伸ばそうとしたが、身体がふらついて川崎の横に倒れ込んでしまった。思った以上に体力を使って疲れているようだ)

 

沙希「いいよ比企谷、あたしがしてあげる…………ううん、これぐらいあたしにさせて」

 

八幡(川崎が少し申し訳なさそうに言う。別に気にすることじゃないんだがな……でもそれで気が済むならやらせるか。俺は仰向けになる)

 

八幡「んじゃ任せるわ」

 

沙希「うん」

 

八幡(川崎は上半身を起こし、ティッシュを取って俺の肉棒を拭き始める。まるで大事なものを慈しむかのように丁寧に。何となくその表情を見るのが照れくさくなり、俺は手を伸ばして川崎の尻を撫でた)

 

沙希「んっ……もう、スケベなんだから」

 

八幡「嫌か?」

 

沙希「ううん、全然」

 

八幡(川崎はふふっと笑いながら作業を続ける。俺のと川崎自身の局部を綺麗にし終えるまで、俺は川崎の尻を撫で回していた)

 

沙希「よっ、と」

 

八幡(すべて処理し終わり、川崎は俺の隣に横たわる。俺も横を向いて川崎と見つめ合う体勢になり、脇に寄せていた毛布を二人の身体に被せる)

 

沙希「しちゃった、ね」

 

八幡「ああ。痛み、ないか?」

 

沙希「ん、ちょっと違和感あるかな…………おなか、撫でてくれる?」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺は手の平を川崎の下腹に当てて撫でる。今この中に俺の精子が泳いでんだよな…………っていかんいかん、変なこと考えるな)

 

八幡「しかしまあ告白から一気にここまでの関係になるとはな。ちょっと予想外だった」

 

沙希「あたしは考えてたからね。正直断られたらどうしようって怖かったけど」

 

八幡「そういや親にも言ってきたんだっけ…………てかフられたらどうするつもりだったんだ? そのまま帰ったら気まずいだろ……」

 

沙希「そん時は比企谷に『肉便器やオナホール扱いでいいから処女奪ってください!』って土下座してたかな? 人前でやればそれを断れるほど意気地なしじゃないでしょ?」

 

八幡「お前は意気地ありすぎだ! ホント時々思い切ってくるよなお前は…………」

 

沙希「冗談だって…………多分」

 

八幡「おい」

 

沙希「でもおかげでこうなれたし。あたしは良かったって思ってるよ」

 

八幡「それは俺もだな」

 

沙希「でしょ? ……そろそろ寝よっか? もう日付も変わるし」

 

八幡「お、もうそんな時間か、道理で眠いわけだな……腕枕、するか?」

 

沙希「うん…………あ、あと、変なお願いしていい?」

 

八幡「何だ?」

 

沙希「その……日付変わるまで、キスしててくれない?」

 

八幡「おう、ほら」

 

沙希「ん」

 

八幡(川崎は頭を上げて俺の伸ばした腕を下に通し、頭を乗せる)

 

八幡(そこに俺は顔を寄せ、川崎と唇を合わせた)

 

沙希「ん…………」

 

八幡「ふ…………」

 

八幡(日付が変わってから五分ほどしてようやく俺達は唇を離す。しばらく見つめ合い、もう一度キスをする)

 

沙希「お休み、八幡」

 

八幡「お休み、沙希」

 

八幡(俺達は互いの背中に腕を回し、脚を絡めて抱きしめ合いながら眠りについた)

 

八幡「ん…………」

 

八幡(目が覚める。見上げた視界に入ったのは見慣れぬ天井。ああ、そうか、昨晩は川崎と……)

 

八幡「あれ?」

 

八幡(隣に川崎がいない。部屋内を窺うとバスルームの方から水音がする。シャワーを浴びているようだ)

 

八幡(時間を確認すると退出時間まで一時間ちょっと。俺もシャワー浴びとくか。汗掻いたしな)

 

八幡(そっとドアを開けると、シャワーを浴びながら上機嫌で鼻歌を歌っている川崎がいた。俺には気付いていないようだ)

 

八幡(音を立てずに忍び寄り、後ろからギュッと川崎を抱きしめる)

 

沙希「ひゃっ!? ひ、比企谷? びっくりした…………」

 

八幡「はは、悪い悪い。おはよう、沙希」

 

沙希「あ……おはよう、八幡」

 

八幡(どちらから何を言うこともなく、俺達は自然に顔を近付けて唇を重ねる)

 

沙希「んっ…………ふふ、おはようのキス、だね」

 

八幡「ああ……なんつーか、俺がこんなこと出来る機会があるなんてな…………まだ夢じゃないかと疑ってるくらいだ」

 

沙希「やめてよ。夢だったら今のあたしも消えちゃうじゃない……あたしちゃんとここにいるから、ね」

 

八幡「そうだな…………シャワー、俺も使うわ」

 

沙希「ん、一緒に浴びよ」

 

八幡(俺達は互いの汗を流すようにシャワーを浴びながら相手の身体を撫で合う。少し欲情はしたが、昨夜に出すものを出し切ったせいかそこまでの気分にはならなかった。というか時間もそんなにないしな)

 

八幡(身体を拭いて部屋に戻り、脱ぎ散らかした服を着始める)

 

沙希「そう言えばあたし達本格的に付き合うことになったけどさ、周りにとってはあまり変化ないよね?」

 

八幡「あー、元々そういうふうに見せていたんだからな。となると奉仕部連中と小町が…………あ、しまった、昨日連絡してねえや」

 

八幡(スマホを確認すると何件かの不在着信とメールが来ていた。みんな小町からだ)

 

八幡(まだ心配してるかなと思いきや最後のメールには事情を把握して応援するといった内容があった。これは…………)

 

沙希「ああ、多分大志あたりから聞いたんでしょ。あんたにもあたしにも連絡取れなきゃ必然的に大志にいくでしょ」

 

八幡(横から俺のスマホを覗き込んだ川崎が言う)

 

八幡「くっ! 何て事だ! 俺が連絡を怠ったばっかりに小町が悪の手に!」

 

沙希「人の弟を悪呼ばわりするなっての…………小町って多分大志を男として見てないよ。姉としてはちょっと悲しいけど」

 

八幡「そうなのか?」

 

沙希「うん。ならむしろあんたにはいいでしょ、少しは近くにいても。小町もちょっとは兄弟以外の男に慣れとかないとどっかの馬の骨にコロッとやられちゃうかもよ」

 

八幡「そ、それはマズいな。よし、特別に大志は小町にほんの少し近くに来ることを許そう」

 

沙希「凄い上から目線…………」

 

八幡「それにいずれ小町と大志は義理の兄弟になるんだしな。なら少しくらい近付けてやっておかないと不自然か」

 

沙希「………………………」

 

八幡「ん、どうした川崎? なんか顔が赤いぞ?」

 

沙希「な、何でもない! そ、それより奉仕部の連中には説明するの?」

 

八幡「あー、別に隠すようなものでもないしな。聞かれたら答えるってくらいでいいんじゃねえか? あとは小町と、材木座にも言わないと……ああ、実は材木座に少し相談乗ってもらったからあいつも事情は知ってるんだ」

 

沙希「そう。実はあたしは戸塚に相談したんだけど」

 

八幡「え? 戸塚!?」

 

沙希「うん、あんたが風邪で休んだ時に色々と」

 

八幡「そ、そうか。なら俺が事情を説明しよう。あまり誤解を与えないようにしないと!」

 

沙希「…………あのさ、あたし少しくらいなら浮気はいいと思ってるけどさすがに男同士はちょっと」

 

八幡「そ、そんなんじゃねえよ。てか浮気認めんのかよ…………」

 

沙希「あんた周りに女の子多いでしょ。二人きりになったりとかもあるだろうし出掛けることだってさ。あたし束縛はあんまりしたくないから…………あたしが、一番であれば、いいから」

 

八幡「そんな心配しなくたって俺はモテねーから安心しろ。万が一モテるようだったらそんな男に一番好かれてるんだって自信を持てよ。お前が一番に決まってんだろ」

 

沙希「ふふ、ありがと。あたしもあんたが一番だよ」

 

八幡「おう、ありがとな…………んじゃそろそろ出るか。支払いするぞ」

 

沙希「うん。あ、ポイントカードあるよ。作っとこ?」

 

八幡「え? またここ来るのか?」

 

沙希「当たり前でしょ。でないとどこでこれからするのさ? あんたんちやあたしんちで出来るわけないし。それともしたくない?」

 

八幡「したいに決まってるじゃねえか。いやでも、場所とかはあんまり深く考えてなかった」

 

沙希「さすがに青姦はまだ、ね」

 

八幡「いずれするような言い方はやめろ」

 

八幡(俺は代金とそばにあったポイントカードをカプセルに入れてシューターから送る。しばらくしてお釣りとスタンプの押されたカードが戻ってきた)

 

八幡「お、ロックも解けたみたいだぜ。行くか」

 

沙希「うん。あ、ちょっと腕組んでいい? その、あそこに違和感あって歩きづらくて……」

 

八幡「あ、悪い、気が利かなかった。ほら」

 

沙希「ん」

 

八幡(忘れ物がないかを確認し、俺達は腕を組みながらホテルを出た。太陽が少し眩しい)

 

八幡「とりあえずどっかで朝飯にするか。腹減っただろ?」

 

沙希「そうだね、激しい運動もしたし」

 

八幡「お、お前…………コホン、つってもまだ朝早いから店なんかやってねえな。ファミレスかファーストフードでいいか?」

 

沙希「うん。サイゼとかでいいんじゃない? あっちにあったでしょ?」

 

八幡「お、わかってるな。じゃ、行こうぜ」

 

沙希「うん」

 

八幡(俺達はサイゼリヤに向かって歩き出した。この時間なら休日とはいえまだ混んでないだろ)

 

八幡「よし、何食う? 俺は決まってるぞ」

 

沙希「まだ席着いたばかりじゃない…………」

 

八幡(サイゼに到着し、店員に案内されて座った早々の会話がこれだ)

 

八幡(そうだった。基本一人か小町としか来ないからついいつもの癖で。普通はメニューを見るんでしたね)

 

八幡(川崎がメニューを確認して店員を呼び、俺達は注文をした)

 

八幡「ドリンクバー取ってくる。何がいい?」

 

沙希「あ、あたしも」

 

八幡「いいから座ってろって」

 

沙希「ありがと……じゃ、紅茶お願い」

 

八幡「あいよ」

 

八幡(俺はドリンクバーコーナーに行き、飲み物を淹れる)

 

かおり「あれ? 比企谷?」

 

八幡「! …………折本、か」

 

かおり「朝からこんな所で会うなんて奇遇じゃん。超ウケる」

 

八幡「確かにな…………何でこんな朝早くからサイゼにいるんだ?」

 

かおり「私は学校の友達とカラオケでオールした帰り。あそこにいる連中」

 

八幡(折本が指差した席には四人ほどの見知らぬ女子集団がいた)

 

かおり「比企谷は? 妹と? 一人? なんなら一緒する?」

 

八幡「一緒って有り得ねーから。お互い罰ゲームでしかないだろ…………その、彼女と来てんだよ」

 

かおり「……………………え?」

 

八幡「あそこに座ってるやつだ」

 

八幡(俺は川崎のいる方を指差す。川崎はこちらに気付いてないようで窓の外を眺めていた)

 

かおり「え? 嘘、マジで?」

 

八幡「別に信じなくてもいいよ…………んじゃな」

 

かおり「あ、うん…………」

 

八幡(俺は二つのカップを持って席に戻る)

 

八幡「へい、お待ち」

 

沙希「ん、ありがと。誰と話してたの?」

 

八幡「なんだ見てたのか。中学の頃のクラスメートだ」

 

沙希「ふうん。結構可愛いじゃない。黒歴史の一人?」

 

八幡「まあな」

 

沙希「あっさりしてるね」

 

八幡「今更こだわることでもないしな」

 

沙希「……ふふ」

 

八幡「何だよ?」

 

沙希「ちょっと前の比企谷だったらさ、もう少しキョドってたりしてたんだろうなって」

 

八幡「…………かもな」

 

沙希「あたしが比企谷を変えちゃったのかなって思ったら、ね」

 

八幡「そうだな……こんな色気ねえとこで言うのもなんだけど、俺、お前に出会えて良かった」

 

沙希「うん、あたしも。あ、料理来たよ」

 

八幡「よし、じゃあサイゼるか」

 

沙希「そんな動詞初めて聞いたんだけど…………」

 

八幡(思っていた以上に空腹だったようで、二人とも無言で食事をする。考えてみりゃ映画前に食ったファーストフード以来まともなもん食ってねえしな…………運動もしたし)

 

八幡(満腹とはいかないが、それなりに満たされてメニューのデザートのページを開く)

 

八幡「どれにすっかな…………川崎は?」

 

沙希「あたしはこれでいいかな?」

 

八幡「おいおい、もっと高いの頼んでもいいんだぞ? まだ全然余裕あるし」

 

沙希「え? あんたここも出す気なの?」

 

八幡「え? 出させてくんねえの?」

 

沙希「だって、昨日から映画もホテルも出してもらってて…………あたし全然財布軽くなってない」

 

八幡「いいんだよ。そもそもサイゼなんて高いもんでもねえし。いつも弁当もらってんだからこういう時の飯代は俺に出させろって」

 

沙希「…………じゃあここはご馳走になっとく。そういえばあたしもバイトしなきゃね」

 

八幡「自転車か? やっぱり俺の送り迎えだけじゃ不便か」

 

沙希「それよりホテル代かな。毎回あんたに払わせるわけにもいかないでしょ?」

 

八幡「………………あの、川崎さん。どのくらいのペースで行くつもりなんでしょうか?」

 

沙希「さあ? 行きたかったら行く、でいいんじゃない?」

 

八幡「んなアバウトな…………いや、ある意味正しいんだろうけどさ」

 

沙希「じゃあそうだね……比企谷、あんたこれからオナニー禁止。代わりにしたくなったらあたしとホテルに行くってのでどう?」

 

八幡「却下だ却下。ほぼ毎日行くなんて現実的じゃねえだろ」

 

沙希「あ、やっぱり毎日のようにしてるんだ」

 

八幡「男子高校生の性欲舐めんなっての」

 

沙希「うーん……あそこの休憩があの値段で…………ひと月に……」

 

八幡(何やらぶつぶつと計算し始めた川崎。今のうちにデザートを頼んでしまおう。店員を呼んで川崎のも適当に注文する)

 

八幡(というか周りの席に他の客がいなくて良かった。いたらとてもこんな会話できないからな)

 

沙希「うーん…………色々考えると週一で泊まって一晩中するってのが一番現実的でコスパいいかな?」

 

八幡「結論出たか? とりあえずパフェ来たから食え」

 

沙希「あ、いつの間に。うん、いただきます」

 

八幡「で、バイトすんのか?」モグモグ

 

沙希「したいけど家のこともあるしあんたと会う時間削るのも意味ないしでね、どうしようかなと」モグモグ

 

八幡「家でできる内職的なものとかどうだ?」モグモグ

 

沙希「造花作ったりするやつ?」モグモグ

 

八幡「イメージ古いな…………高校生なら小学生の通信教育の採点とかもあるぞ。気になるならあとでそういうのまとめた情報サイト教えてやるよ。俺も使ったことあるから」モグモグ

 

沙希「そう? じゃ、よろしく」モグモグ

 

八幡「おう」

 

沙希「で、やっぱりホテルは週一くらいかなって。週末に泊まりでってのがあたしの希望なんだけど…………」

 

八幡「んー、それくらいなら俺の小遣いとスカラシップ錬金術で何とでもなるぞ? お前がバイトなんかしなくても」

 

沙希「嫌だよ。あたしが比企谷に負い目ばかり増えるじゃない。ある程度は対等でいたいんだからさ」

 

八幡「気にしねえでいいのに…………ドリンクバーいるか?」

 

沙希「あ、じゃ、また紅茶で」

 

八幡「おう。行ってくる」

 

八幡(俺はドリンクバーコーナーに行き、紅茶とコーヒーをカップに注ぐ)

 

八幡(しかし週一か。俺としては毎日でもいいくらいなんだがな、さすがに金銭的余裕がないが。エロゲーの主人公は何で一人暮らしばっかりなんですかね?)

 

八幡(注ぎ終わったのを確認して席に戻る)

 

八幡「おまちどおさん、と」

 

沙希「ん、ありがと」

 

八幡「で、川崎。一応確認するけどオナニー禁止って冗談だよな? 週一でしか出さないってのはエロ魔神の俺としてはキツいぞ」

 

沙希「何さエロ魔神て…………えっと、オカズもあたしメインにしてくれない? 本とか漫画とかでもいいけどちゃんとあたしに置き換えて。たまになら、他の女でもいいけど…………ちょっとワガママかな?」

 

八幡「大丈夫。この前言われてからお前ばっかりだから」

 

沙希「ん。ならいいかな…………ってホテルで写メでも撮っとけば良かったかな? オカズになりそうなエロいやつ」

 

八幡「え、何、撮らせてくれんの? そういうの普通嫌がるもんじゃね?」

 

沙希「比企谷にならいいよ。でもちゃんと使ってね。あと他の人に見せないように」

 

八幡「誰が見せるか。お前のそういうとこは俺だけのもんだから…………んじゃ今度いっぱい撮らせてくれよ」

 

沙希「うん。もちろん写メだけじゃなくて今度はあたしからもさせて」

 

八幡(川崎はそっと俺の耳に囁いてくる)

 

沙希「これからは口や胸でも、色々してあげるから、ね。雑誌とかでも勉強してるから」

 

八幡「ああ。楽しみにしてるぜ、エロ崎さんよ」

 

沙希「ふふっ」

 

八幡(デザートも食い終わり、少しゆっくりしていると、川崎の目線が俺の後ろに走る。何事かと振り向くと折本がこっちに向かってきた)

 

かおり「やっほ」

 

八幡「どうした?」

 

かおり「ん、私たちもう出るから挨拶しとこうかなって」

 

八幡(そうは言ったものの折本の目線はチラチラと川崎の方に向かっている。それに気付いた川崎が僅かに頭を下げた)

 

沙希「八幡の彼女の川崎沙希です。よろしく」ペコ

 

かおり「あ、昔比企谷とクラスメートだった折本かおりです…………や、やっぱり本当に彼女なんだね」

 

沙希「似たようなことを結構言われてるけど…………八幡って周りが思ってるよりずっといい男だよ。何でみんなわからないんだろ?」

 

八幡「そういうのを本人の前で言うな。って、え? 結構言わてれる?」

 

沙希「何回か言い寄られてるの知ってるでしょ。そん時だよ。本当に付き合ってるのか、みたいな」

 

八幡「ああ……まあわからんでもない」

 

かおり「ふ、ふーん。良かったね比企谷。こんな綺麗な彼女できて」

 

八幡「ああ、ありがとな。沙希を綺麗って言ってくれて嬉しいぞ」

 

かおり「う、うん。じゃ、私行くから。またどっかで」

 

八幡「おう、またな」

 

八幡(折本はそそくさと離れ、レジにいた連中と合流する)

 

八幡「? 何しに来たんだ本当に」

 

沙希「そりゃ自分がフった相手が誰かと付き合ってたら気になるでしょ。あたしを見に来たんだよ」

 

八幡「そんなもんなのか? フられた経験しかねえからわからん」

 

沙希「下世話な勘繰りをするなら自分は大魚を逃がしたかもって考えたりとかね。あの子は単純に興味があっただけっぽいけど」

 

八幡「ふーん。ま、どうでもいいわ。そろそろ出るか?」

 

沙希「うん。そうしよっか」

 

八幡(俺は伝票を掴み、川崎と腕を組んでレジに向かう)

 

八幡「そういえば今日は何か予定あんのか?」

 

沙希「夕飯の支度と買い物があるけどそれまでは何にもないよ。比企谷は?」

 

八幡「川崎と一緒にいるって決めてる以外何もねえな。どっか行きたいとことかあるか?」

 

沙希「あ、じゃあ……その」

 

八幡「どうした?」

 

沙希「プ、プリクラ、あんたと撮りたい…………」

 

八幡「はは、今更プリクラくらいで照れんなよ。いいぞ行こうぜ。俺の知ってるとこでいいか?」

 

沙希「うん」

 

八幡(俺達はゲームセンターに向かって歩き出す。ここからそう遠くないしすぐに着くだろ)

 

八幡(いつものとこに到着して中に入る。まだそんなに人は多くない。俺達はプリクラコーナーに向かった)

 

八幡「機種はどうする? 俺も違いはわかんねえけどさ」

 

沙希「あ、あたし実はプリクラって初めてでさ。そういうの全然わかんないんだけど…………」

 

八幡「そうなのか? んじゃ適当でいいな。これにするか」

 

八幡(以前戸塚と材木座と撮ったやつだ。これならまだ使い勝手わかるし)

 

沙希「ねえ…………あんたはプリクラ撮ったことあるの?」

 

八幡「おう。前もここで撮ったからな」

 

沙希「だ、誰と? 由比ヶ浜? 雪ノ下?」

 

八幡「ん、なんなら見せてやるよ」

 

八幡(俺はスマホカバーの裏に貼り付けてあるプリクラを川崎に見せた)

 

沙希「戸塚じゃん…………」

 

八幡「そうだ。羨ましいか?」

 

沙希「ここカップルでないと入れ…………ああうん、もういいや」

 

八幡「ま、女子と撮るのは初めてだな。入ろうぜ」

 

沙希「うん」

 

八幡(機械の中に入り、コインを入れる。コース選択の画面になる)

 

八幡「この恋人フレームでいいよな?」

 

沙希「うん。ふふふ」

 

八幡(川崎が照れ臭そうに微笑む。可愛い!)

 

『まずは基本! 男の子は女の子の肩を抱き寄せてくっつこう!』

 

八幡(機械が喋り、俺は川崎を抱き寄せる)

 

沙希「ん…………」

 

『行くよー! 3、2、1、ハイ!』カシャ

 

『上手く撮れたかな? それじゃあ次。今度は後ろから男の子が女の子を抱きしめよう!』

 

八幡「えっと、首と腹、どっちに腕を回す?」

 

沙希「今回はお腹の方がいいかな?」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺は後ろから川崎を抱きしめ、川崎の肩の上から顔を覗かせる)

 

『彼氏さん、しっかり抱きしめたかな? 3、2、1、ハイ!』カシャ

 

『それじゃあカメラをズームにするよ! 女の子が男の子のほっぺにチューしちゃおう!』

 

八幡(カメラがズームモードになり、確認画面の顔がアップになる)

 

八幡「よし来た! 早くしろ早く!」

 

沙希「なにそのテンション…………い、いくよ」

 

八幡「おう」

 

八幡(カメラの方を向く俺の顔に自分の顔を寄せ、川崎は唇を俺の頬にくっつける)

 

『ラブラブだねー! 行くよー! 3、2、1、ハイ!』カシャ

 

『次でラスト一枚! 好きなポーズで写っちゃおう!』

 

八幡「おっと、どうする? 少し考える時間あるみたいだけど」

 

沙希「今度はあたしが後ろから比企谷に抱きつきたいな。ちょっと前出て屈んでよ」

 

八幡「わかった」

 

八幡(言う通りにすると、川崎は後ろから俺の肩の上から腕を回して抱き付き、顔を横から覗かせた)

 

『決まったかな? 行くよー! 3、2、1、ハイ!』カシャ

 

『お疲れ様でした! 外の機械でラクガキしていってね!』

 

八幡(俺達は一旦身体を離し、ラクガキコーナーに向かう。表示されている画面の俺の目は相変わらず腐っていた。川崎はこんなに綺麗なのになあ)

 

沙希「へえ、こんなふうになってるんだ」

 

八幡「とりあえず川崎の好きにしていいぞ。結構時間あるから」

 

沙希「ん。じゃあ……」

 

八幡(川崎は日付を入れたり色んなマークを付けたりしていく。随分夢中になってるな…………って)

 

八幡「おい、ハートマーク多過ぎじゃね?」

 

沙希「何言ってんの。あたしの比企谷に対する愛情はこれでも全然足りないってば」

 

八幡「…………」

 

八幡(こ、こいつやたら集中してて気付いてないのか? 結構恥ずかしいことをかなり真顔で言ったぞ?)

 

沙希「…………あっ! あうう……こ、こんなもんかな? ひ、比企谷も何かすれば?」

 

八幡(あ、気付いたか。突然顔を真っ赤にしてしどろもどろになってる)

 

八幡「んー……いや、俺はいいや。あんまりやってもどうかと思うしな、付き合った記念ならこんなもんでいいだろ」

 

沙希「う、うん」

 

八幡(終了ボタンを押して機械の外に出てしばらく待つ。取り出し口にカタンと音がして物が出てきた)

 

八幡「よっ、と。ハサミハサミ、あそこか」

 

八幡(プリクラを取り出し、ハサミが用意されてるテーブルに向かう。そこで半分にし、片方を川崎に渡す)

 

沙希「ありがと……ふふ」

 

八幡(川崎は本当に嬉しそうにそれを胸に抱く。可愛い!)

 

八幡「さて、どこに貼るかな…………川崎はどうすんだ?」

 

沙希「んー。何枚か財布の見えづらいとこにでも貼って……あとは取っとく。比企谷はまたカバー裏?」

 

八幡「戸塚とのと一緒になるけどいいか?」

 

沙希「うん」

 

八幡「んじゃ貼っちまうか」

 

八幡(俺はカバーを外し、プリクラを貼っていく)

 

八幡(作業を終え、俺達はプリクラコーナーから出た。これからどうすっかな、と思っていると突然声がかけられる)

 

義輝「八幡? 八幡ではないか」

 

八幡「ん? ああ材木座か。来てたんだな」

 

義輝「今そのプリクラコーナーから出てきたようだが……どうやら首尾は上々といったところのようだな」

 

八幡(材木座はちら、と隣の川崎を確認する。俺は川崎を抱き寄せた)

 

沙希「あっ……」

 

八幡「ああ、俺達付き合うことになったから」

 

義輝「ふむ、それはめでたいことだリア充爆発しろ」

 

八幡「おい、本音だだ漏れだぞ」

 

義輝「おっと失礼。川崎嬢、八幡はこう見えても良く出来た男だ」

 

沙希「うん、知ってる」

 

義輝「ただ自己評価が低かったり自己犠牲が過ぎるところがある。どうかしっかり見ていてやってほしい」

 

八幡「親かお前は」

 

沙希「ふふ、うん。あたしはいつも傍にいて八幡を支えてるから」

 

義輝「うむ。ではあまり邪魔をするのも良くないので我は退散しよう。さらばだ」

 

八幡(材木座は手を振ってゲームコーナーの方に行ってしまった。俺は川崎の肩に回していた手を離す)

 

八幡「報告の一番があいつだったってのは何だかな…………」

 

沙希「いいじゃない別に。それよりこれからどうする?」

 

八幡「ん、どうしようか? また適当にぶらつくか?」

 

沙希「うん、あんたと一緒ならどこでも」

 

八幡(川崎はそう言って俺の腕に自分のを絡めてくる。俺達はゲームセンターを出た)

 

八幡(どこを目指すわけでもなく、ふらふら歩いていると駅前の広場に出る)

 

沙希「ね、ちょっと座ろ?」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺達は空いているベンチに腰を下ろした。川崎は腕を組んだまま体重を俺に預け、肩に頭を乗せてくる)

 

八幡(二人とも何も喋らない。しかしそれが苦痛でも気まずくもなく、穏やかな時間が流れた)

 

八幡(しかしその時間は唐突に鳴った音によって中断されてしまう)

 

 

グウ~

 

 

沙希「…………」

 

八幡「…………」

 

沙希「今の、あんたのお腹?」

 

八幡「おかしいな……ちゃんとサイゼで食ったのに」

 

沙希「でも昼が近いといえば近いか。何か食べよ?」

 

八幡「そうだな…………あ、じゃあたこ焼き食おうぜ、あそこで売ってるやつ」

 

沙希「うん。いいよ」

 

八幡「じゃ、ちょっと二人分買ってくるから待っててくれ」

 

沙希「はいはい。あたしは六個入りのでいいからね」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺はベンチから立ち上がり、店舗の方に向かう)

 

八幡(六個入りと八個入りを一つずつ購入し、ベンチに戻る)

 

八幡「お待ち。ナンパされなかったか?」

 

沙希「あんな短い時間でされるわけないでしょ」

 

八幡「でも以前五分程度で三人くらいに声かけられてたじゃねえか。映画見る前に待ち合わせてた時」

 

沙希「…………なんで知ってんの?」

 

八幡「あっ」

 

沙希「あんた、見てたの?」

 

八幡「う、そ、その…………あの時のお前の格好がすげえ綺麗でさ」

 

沙希「えっ?」

 

八幡「見惚れてボーっとしちまってたんだ、すまん」

 

沙希「そ、そう。いいけどね別に。さ、たこ焼き食べよ」

 

八幡「おう、そうだな」

 

八幡(俺がベンチに座ると、川崎は袋から八個入りの方を手に取る)

 

八幡(うん。もう川崎の行動が読めてしまうな。止める気なんぞ一切ないが)

 

沙希「ふー、ふー…………はい、あーん」

 

八幡(少し息を吹きかけて冷ましてから俺に差し出してくる。俺は口を開けて迎え入れた)

 

八幡「んっ…………美味い。んじゃ今度は俺が」

 

沙希「うん」

 

八幡(そうやって互いに全部食べさせ合った。バカップルか俺達は)

 

沙希「ごめん、ちょっと御手洗い行ってくるね…………あ、混んでる」

 

八幡「気にすんな行ってこい。俺はあそこのCDショップにいるから」

 

沙希「うん、わかった」

 

八幡(川崎はショッピングモール内のトイレに向かった。さて、今のうちに…………)

 

八幡(CDショップに戻り、某アイドルゲームの新曲をチェックしていると川崎がやってきた)

 

沙希「ごめん、お待たせ」

 

八幡「おう。今日はそろそろ帰るか? 夕食の買い物もするなら時間もそんなにないだろ?」

 

沙希「ん、そうだね。スーパー寄らないといけないし」

 

八幡「んじゃ行こうぜ。前行ったあのスーパーでいいのか?」

 

沙希「うん…………てか一緒に来てくれるの?」

 

八幡「当たり前だろ。嫌だっつってもお前を家に送り届けるまでつきまとってやる」

 

沙希「ふふ、ありがと。行こっか?」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺は川崎と一緒にスーパーに向かう。店内に入ってカゴを持ち、食材を物色し始める。材料から察するにカレーだろうか?)

 

沙希「よし、こんなもんかな? レジ行こ」

 

八幡「あいよ」

 

八幡(レジに並び、川崎が会計をしている間に俺はぱぱっと袋詰めをする。重いものと軽いものに分けて二袋分だ)

 

沙希「一つ持つから片手空けて」

 

八幡「ん、ほら」

 

八幡(俺は軽い方の袋を渡し、空いた手を差し出す。川崎は袋を受け取ったあと、横に並んで俺の手をきゅっと握った)

 

沙希「じゃ、帰ろっか」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺達は川崎家に向かって歩き出す)

 

八幡(長い、二日間だったな…………色々あった)

 

八幡(でも)

 

八幡(あとひとつ…………)

 

八幡(心なしか少しゆっくりめに歩きながら時折雑談をし、やがて川崎家が見えてきた)

 

八幡(ちょっと前までの川崎だったら家族に見られる可能性を考慮して恥ずかしがってここで手を離していただろう)

 

八幡(しかし、川崎は力を緩めず、ぎゅっと俺の手を握りっぱなしでいた)

 

八幡(正直俺の方は恥ずかしいから離してもらいたいくらいなんだが…………まあいいか)

 

京華「あー、さーちゃんとはーちゃんだー!」

 

八幡(ちょうど玄関からけーちゃんが出て来た。後ろには母親の姿も見える)

 

八幡(俺は慌てて繋いだ手を離そうとしたが、川崎はしっかりと俺の手を掴んで離さなかった)

 

沙希「ただいま、母さんけーちゃん。買い物してきたから。比企谷も手伝ってくれたよ」

 

川崎母「まあ、どうもありがとうございます」

 

八幡「あ、いえ…………」

 

八幡(気まずいってレベルじゃねえぞ! 娘が一晩過ごした相手だよ!? なんでそんな平然としてるんですか!?)

 

川崎母「よろしければお茶でも飲んでいきませんか?」

 

沙希「そうだね。比企谷、あがってってよ」

 

京華「はーちゃんあがってってー」

 

八幡「は、はい、じゃあちょっとだけお邪魔します…………」

 

八幡(女三人の誘いに俺は断りきれず、川崎家にお邪魔することになった)

 

八幡(川崎は着替えと買ったものの整理の為に奥に行ってしまったので、居間には俺と俺の膝の上に座るけーちゃん、それとお茶を用意してくれてる川崎の母親の三人がいた)

 

八幡(…………何を話せばいいんだこれ?)

 

沙希「お待たせ。そういえば男連中は?」

 

川崎母「三人で公園に行ってるよ。もうすぐ帰ってくると思う」

 

沙希「そ。んじゃ母さんに先に言っとく。あたし将来比企谷と結婚するからね」

 

八幡「お、おい、いきなり何を!?」

 

沙希「あれ、してくれないの?」

 

八幡「いや、するつもりだけどさ、もうちょっと順序ってもんが…………」

 

川崎母「まあ。八幡君、沙希をよろしくね」

 

八幡「あ、え、えっと、いいんですか? 大事な娘さんをこんな俺に」

 

川崎母「そうね…………じゃあちょっと聞かせてもらうけども」

 

八幡「は、はい」

 

川崎母「沙希のことは好きかしら?」

 

八幡「…………はい。俺の人生でこんなにも人を好きになったのは初めてです」

 

川崎母「うん。私はそれで充分だから。あとはお父さんの説得ね」

 

沙希「そんなもんあたしが強く言えば通るでしょ」

 

八幡(父親が娘に弱いのはどこも同じらしい)

 

沙希「けーちゃんははーちゃんとあたしが結婚するの賛成?」

 

京華「さんせーい!」

 

沙希「ん。これでうちの家族は問題ないよ」

 

八幡「はあ、なんか色々すっ飛ばしてる気もするが…………けーちゃん、ちょっと降りてくれ」

 

京華「うん」

 

八幡(けーちゃんが膝から降り、俺は正座して川崎の母親に頭を下げる)

 

八幡「沙希さんと、交際させてもらっています。沙希さんを、娘さんを俺にください」

 

川崎母「はい。沙希をよろしくお願いします」

 

八幡(川崎の母親も頭を下げた。川崎はちょっと涙ぐんで目元を指で拭いている)

 

八幡(しかしまだ高校も卒業してねえってのに相手の親に挨拶することになるとはな)

 

???「おーい、帰ったぞ」

 

川崎母「あら、帰ってきたわね」

 

沙希「ん、じゃあ父さんにはあたしが先に話つけとくよ。弟達は反対しないでしょ。比企谷から言っといて」

 

八幡「ええー…………」

 

八幡(大志達には俺が話すのか…………てかやっぱり色々おかしいだろこれ……)

 

八幡(川崎が出て行ってしばらくしてから弟二人がやってきた)

 

大志「あ、どうもお兄さん。姉ちゃんに聞いたんすけどなんか大事な話があるとか?」

 

八幡「ん、ああ…………」

 

大志「どしたんすか? あと今日は『お兄さんと呼ぶな』って言わないんすね」

 

八幡「それはなぁ……呼んでもらうことになるわけだし」

 

大志「?」

 

八幡「あー、俺な、お前の姉ちゃんと婚約したから」

 

大志「へー、そうなんすか………………え?」

 

八幡「だから俺のことをお兄さんと呼ぶのも吝かでないっつーか…………まあそういうことだ」

 

大志「え、ええええ!? マジですか!?」

 

八幡「ああ。その、一応反対なら言ってくれ。認めてもらえるよう努力はするつもりだから」

 

大志「何言ってるんすかお兄さん! むしろ姉ちゃんの相手はお兄さんしかいないと思ってたくらいっすよ! 姉ちゃんをよろしくお願いします!」

 

八幡(勢い良く頭を下げる大志。横にいる弟もつられて頭を下げた。これで残るは川崎の親父さんだが…………あ、多分親父さんであろう男性と川崎が入ってきた)

 

川崎父「………………」

 

八幡(川崎は俺の隣に座る。親父さんは俺を見、テーブルの反対側に座った。俺は視線を逸らしたいのを必死に堪える)

 

川崎父「八幡君…………だったね?」

 

八幡「はい。比企谷八幡です。沙希さんと交際させてもらっています」

 

川崎父「そうか…………沙希は私達の自慢の娘でね。少々人付き合いが不器用だが立派に育ってくれたと思っている」

 

八幡「はい…………」

 

川崎父「その娘が見込んだ相手ならきっと大丈夫だろう。どうか、沙希をよろしく頼む」

 

八幡(そう言って親父さんは頭を下げてくる。俺も慌てて頭を下げた)

 

八幡「はい! 認めてくれて、ありがとうございます!」

 

沙希「比企谷ぁ!」

 

大志「やったっすねお兄さん!」

 

八幡(川崎家の子供四人がこぞって俺にしがみついてくる。前にも思ったけど川崎家の俺に対する好感度の高さは何なんだ?)

 

川崎母「ふふ。今日はお祝いかしらね?」

 

沙希「比企谷、ウチでご飯食べてく?」

 

八幡「あー……いや、悪いけど今日は遠慮しとく。ウチの親にも言っとかなきゃなんねえし」

 

沙希「そう? ま、明日学校もあるしね。遅くなったりすると大変か」

 

川崎母「なら今度お互いの家族の顔合わせをしましょう? その時にパーティーでもすればいいわよね」

 

八幡「わかりました。ウチの親に言っときます」

 

八幡(改めて俺は皆に頭を下げ、今後ともよろしくと挨拶をして川崎家を辞する)

 

八幡(川崎だけ家の外まで見送りに出てきてくれた)

 

八幡「いやあ、何かすげえことになったなぁ…………まだ高校生なのに婚約までしちまったぜ」

 

沙希「嫌だった?」

 

八幡「んなわけあるか。嬉しすぎて現実味がないのは確かだけどな」

 

沙希「あとはあんたの方の家族だね」

 

八幡「ああ、それなら心配すんな。小町は最初から応援してくれてるし、両親はどっちかっていうと『本当にコイツでいいのか?』って確認するぐらいだろ。万一反対されても小町から言えば大丈夫だから」

 

沙希「そう? なら良かった」

 

八幡「…………」

 

沙希「…………」

 

八幡「あー……川崎」

 

沙希「ん? 何?」

 

八幡「順番が色々おかしいけどさ、改めて言うわ」

 

八幡(俺はポケットから昼に買っておいたものを取り出す)

 

八幡「給料三ヶ月分ってわけにもいかないんだけど」

 

沙希「! そ、それって!」

 

八幡「俺の、気持ちです。将来、俺と結婚してください」

 

八幡(俺は指輪を差し出しながら川崎に言葉を放つ。川崎はぽろぽろと涙を流しながら答える)

 

沙希「はい…………お受け、します」

 

八幡(実に感動的なシーンだと思う。川崎が答えた瞬間に玄関のドアが開いて川崎家一同が倒れ込んでこなければ)

 

八幡「…………」

 

沙希「…………」

 

川崎一族「…………」

 

川崎母「ほほほ、どうぞごゆっくり」

 

八幡(そう言って何事もなかったかのように立ち上がり、みんな中に入ってドアが閉まる)

 

八幡「…………」

 

沙希「…………ごめん。ウチの家族が……」

 

八幡「あー……いや、気にすんな。それよりこれ、受け取ってくれ」

 

沙希「ううん。比企谷が嵌めて。あたしの指に」

 

八幡(川崎はそう言って左手を差し出してくる。俺はその手を取り、指輪を薬指に嵌めた)

 

沙希「比企谷、ありがとう。最高のプレゼントだよ」

 

八幡「そいつは良かった。買った時は指輪なんてちょっと重いかなって思ったけどこうなると丁度良かったわ」

 

沙希「うん……嬉しい…………」

 

八幡(川崎は指を伸ばしてじっと指輪を見つめている。正直名残惜しいけどあまり時間をかけるとまた家族が様子見に来るだろう)

 

八幡「じゃ、俺は帰るから。また明日の朝迎えに来る」

 

沙希「うん、待ってる」

 

八幡「また明日な、沙希」

 

沙希「また明日ね、八幡」

 

八幡(俺は手を振って川崎と別れた。キスでもしようかと思ったが、また家族に見られてもあれだしな)

 

八幡「ただいま」

 

八幡(ドアを開けるとリビングには小町と親父がいた。お袋は台所にいるようだ)

 

小町「あ、お帰りお兄ちゃん。沙希さんとのデートどうだった?」ニヤニヤ

 

八幡「ん、ああ…………」

 

比企谷父「いいんだ八幡、何も言わなくていい。自分の部屋で思いきり泣いてこい」

 

八幡「だからフられた前提で話をすんな…………ちょっと話したいことがある。お袋もいいか?」

 

八幡(声をかけると手を止めてこちらにやってくる。俺の少し真面目な表情に小町は不安そうな顔だ)

 

八幡「その、実は今度会ってもらいたい人がいるんだが」

 

比企谷母「あら、もしかして昨日言ってた川崎さん? 告白してきたんでしょ。上手くいったの?」

 

八幡「えっと、川崎もだけど会ってもらいたいのはそれだけじゃなくて…………」

 

比企谷父「何だ? はっきり言え」

 

八幡「その……川崎と婚約したからさ、向こうの家族と会ってもらいたいんだ」

 

八幡以外「…………………………え?」

 

八幡「日取りは向こうとも相談するけど早けりゃ今度の土日辺りにでも…………」

 

比企谷母「ちょちょちょちょっと八幡、あなた何を言ってるの?」

 

小町「おおおお兄ちゃん、こここ婚約って沙希さんと!? え? え?」

 

比企谷父「おい落ち着けお前たち。ほら、深呼吸だ、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

 

八幡「親父も落ち着け。何を産む気だ」

 

八幡(結局全員落ち着くまでしばらく時間を要した。深呼吸したり水を飲んだりして、ようやくまた全員が元の位置に座る)

 

比企谷父「ふう、落ち着いた。あのな八幡、婚約ってのはお前の意志だけで決められるものじゃないんだ。まず相手の返事を聞いてからでないと」

 

八幡「ストーカーじみた一方的な考えなんてしてねえから。ちゃんと告白したから」

 

比企谷母「あのね八幡、その川崎さんというのはひょっとしたらあなたの想像上の人物ではないかしら?」

 

八幡「精神病でもねえから。小町も会ったことあるし」

 

小町「うーん、お兄ちゃんと沙希さんが付き合うとは思ってたけどまさか婚約までするなんて…………本当に?」

 

八幡「何だよ小町まで。別に本人に確認したって構わねえぞ?」

 

比企谷父「しかしお前まだ高校生だろう? 相手の親御さんが何て言うか…………」

 

八幡「ああ、それは問題ない。もうあっちの家族には許可もらってるから」

 

比企谷父「え?」

 

八幡「なんか家族総出で川崎のことをよろしく頼むって頭下げられたよ。何で川崎一家ってあんなに俺を信頼してんのか知らねえけど」

 

小町「さ、沙希さんの両親にも?」

 

八幡「ああ、ついさっきな」

 

比企谷父「なあ、その川崎さんはどういう子なんだ? 気を悪くしたらすまないが、不良物件を早く片付けようとかそういうことじゃないよな? …………いや、怒るな。俺は川崎さんをよく知らんのだ。高校生の娘を婚約させるなんて現代ではなかなかないんだぞ」

 

小町「お兄ちゃん落ち着いて。怖い顔になってるよ…………お父さんの言うこともわからないわけじゃないでしょ」

 

八幡「…………ああ、すまん」

 

小町「でもお父さん、沙希さんはいい人だよ。正直お兄ちゃんには勿体ないくらい」

 

比企谷母「へえ。ちなみに顔は可愛いの? 写真とかないの?」

 

八幡「プリクラぐらいしか…………あっ」

 

小町「え、お兄ちゃん沙希さんとプリクラ撮ったの? 見せて見せて!」

 

八幡(しまった。つい口が滑った…………ええー、あれ見せるの? …………ま、いいか)

 

八幡「スマホカバーの裏に貼ったんだけどな。ほら、これだ」スッ

 

小町「! お、お兄ちゃん! お兄ちゃんが沙希さんにほっぺにチューされてるよ! ほら!」

 

八幡「知ってるよ俺達が撮ったんだから」

 

比企谷父「おい、この子のどんな弱みを握って言うことを聞かせてるんだ? 今ならまだ謝れば間に合うぞ」

 

八幡「雪ノ下みたいなこと言ってんじゃねえよ。そんなことしてないから」

 

比企谷父「し、しかしこんな綺麗な子がお前を好きになるなんて」

 

八幡「うん、それはみんなに言われるわ。ちょっと俺も思うけど」

 

比企谷母「でも本当に美人ね。スタイルもいいし」

 

八幡「ああ。ちなみに家族多くて親御さんが大変だから家事は率先してやってる。料理とかすげえ美味いし、裁縫とかもそこらの主婦より腕が良いと思う」

 

小町「そういえば昨日のお昼は沙希さんの手料理だったんだっけ?」

 

八幡「悔しいことに食事に夢中になってしまったよ…………あと四人姉弟の一番上だから面倒見もいいしよく気が利く」

 

比企谷父「聞けば聞くほど良い子じゃないか」

 

八幡「ああ………………な、なあ小町、何で川崎は俺なんかを好きになったんだ?」

 

小町「何でそこでヘタレるのこのゴミいちゃんは!? むしろ自信持とうよ!」

 

八幡「そ、そうだな、うん。プロポーズしてOKもらったんだ。川崎は俺が好き。川崎は俺が好き…………」

 

小町「なんか自己暗示みたいなのかけ始めた……」

 

八幡「ま、まあそんなわけだから。このメモ、川崎んちの電話番号な」

 

比企谷母「じゃあちょっと電話してみるね。今大丈夫かしら?」

 

八幡「いつでもどうぞって言ってたし大丈夫じゃね? 俺ちょっと着替えてくるから。小町、そろそろカバー返してくれよ」

 

小町「あ、うん」

 

八幡(俺はカバーを戻し、部屋に戻る)

 

八幡(部屋着に着替えているとスマホが鳴った。画面を確認すると川崎からの着信だった)

 

八幡「おう、もしもし?」

 

沙希『もしもし、今大丈夫?』

 

八幡「平気だ。どうした?」

 

沙希『今、親同士が電話してるでしょ? 比企谷も親に言ったんだなって確認をちょっと』

 

八幡「そっか。やっぱり信じられないって反応だったけどな。多分電話するまで半信半疑だったぜあれ」

 

沙希『まあ普通は信じられないでしょ。息子が帰ってきたらいきなり婚約しました、なんて』

 

八幡「だろうな…………川崎、もうお前は俺から逃げられないからな?」

 

沙希『うん。逃げられないようにしっかり捕まえててね』

 

八幡「ああ、絶対逃がさないから…………んじゃまた明日な」

 

沙希『また明日ね』

 

八幡(俺は電話を切り、リビングに降りる。ちょうど親も電話が終わったとこのようだ)

 

比企谷母「ねえ八幡…………あんた一体何したの? 何かすごい向こうの家族に受けがいいんだけど」

 

八幡「いや、そんな大したことはしてない…………と思う。何でか知らねえけどやたら気に入られてるんだよな」

 

比企谷父「どんなことを言われたんだ?」

 

比企谷母「本当に良くできた息子さんで羨ましいとかとても気が利くとか。あと妹ちゃんの保育園でも話題になってるらしいわよ。信じられないことにいい意味で」

 

八幡「あーあれか……いや、川崎と一緒に保育園のお迎えしたことあったんだよ。そん時ちょっとな」

 

小町「お兄ちゃんてば色んなとこで沙希さんへのフラグを立ててたんだね」

 

比企谷父「まあ相手も良くできたお嬢さんのようだし、お前を好きになってくれているのなら文句はない。婚約は認めよう」

 

八幡「おう。ありがとうな親父」

 

比企谷父「ただし、家庭を持とうとするなら将来のことも真面目に考えるんだぞ」

 

八幡「わかってるよ。さすがに専業主夫とか言ってるわけにもいかねえしな。いい大学も目指さなけりゃならないし、悪いけど大学までこの不肖の息子をよろしく頼む」

 

八幡(そう言って頭を下げるとお袋と小町が泣き始めた。何でだよ)

 

比企谷父「八幡……立派になったな」

 

八幡「なってねえよ。これからなるんだ」

 

比企谷父「うう…………母さん! 今日は飲むぞ! 八幡、お前も飲め!」

 

八幡「立派になるって言った直後の未成年に酒をすすめるな…………そういや顔合わせはどうなったんだ?」

 

比企谷母「うん。今度の土曜日にでもどこかの店を借りようかって。ウチじゃ駄目なのかしら?」

 

八幡「ああ、川崎は猫アレルギーなんだ。ウチはあんまりよろしくない」

 

比企谷母「あら、そうなの。なら仕方ないわね…………とりあえず今日の夕飯は豪勢にしましょ」

 

八幡(お袋はいそいそと台所に向かう)

 

比企谷父「ところで八幡、その、川崎さんとはもうヤったのか?」ボソボソ

 

八幡「子供の性事情を聞いてくんなよ……まあ、昨晩な」ボソボソ

 

比企谷父「そうか、お前も男になったか」ボソボソ

 

八幡(小声で会話しながら親父は俺の頭をガシガシと撫でてくる)

 

八幡(とりあえず両家に問題はなさそうだ。これで晴れて俺と川崎は公認の婚約者になれたわけだな)

 

八幡「ふぁ…………」

 

八幡(いかん、あくびが出てしまった……あの酔っ払いどもめ。さんざん絡みやがって)キコキコ

 

八幡(昨晩両親ともしこたま飲んで遅くまで騒ぎ、そのまま酔いつぶれたので後片付けなどは俺がする羽目になった。小町はさっさと避難させたからな)キコキコ

 

八幡(ま、寝不足ってほどでもない。すぐに目が覚めるだろ)キコキコ

 

八幡(おっと、川崎家が見えてきた)キコキコ

 

八幡(到着、っと)キキッ

 

八幡(しばらく待ってるとドアが開き、川崎が出てきた)

 

沙希「おはよ。ごめん待たせちゃって」

 

八幡「おはよう。いいよこんくらい。原因当ててやろうか?」

 

沙希「え?」

 

八幡「親が酒飲んで後始末とかに追われたのが原因だな?」

 

沙希「ひょっとしてあんたのとこも?」

 

八幡「ああ」

 

八幡(本当は大志経由で小町から聞いたんだけどな)

 

八幡「ま、遅刻するってことはないだろ。乗れよ」

 

沙希「ん。よろしく、旦那さん」

 

八幡「…………気が早えよ」

 

沙希「顔、赤いよ?」

 

八幡「お前だって」

 

沙希「ふふ」

 

八幡「はは」

 

八幡(川崎は荷台に腰掛け、俺の身体に腕を回す。それを確認して俺はペダルを漕ぎ出した)

 

八幡(いつもの公園に到着し、川崎が自転車から降りる。もちろん俺もだ。ここからは自転車を押して二人で歩いて登校だ)

 

八幡「よし、行こうぜ」

 

沙希「あ、ちょっと待って、その前にさ」

 

八幡「ん? んむっ……」

 

沙希「んっ…………ふふ、おはようのキスがまだだったからね」

 

八幡「だ、誰かに見られたらどうすんだよ?」

 

沙希「あたしは別にいいけどね」

 

八幡「はぁ、まったく…………ま、いいか。でも不意打ちは止めろよ。声出そうになるから…………あと明日は俺からするからな?」

 

沙希「ん、今してくれてもいいよ?」

 

八幡「…………」キョロキョロ

 

八幡(俺は周囲に人目がないのを確認して川崎と唇を触れ合わせる)

 

八幡(そんなことをしていたら遅刻ギリギリに教室に駆け込むことになってしまったけどな)

 

八幡(ちなみに目はすっかり覚めた)

 

八幡(いつも通り真面目に受けた授業の一つ目が終わった休み時間、自分の席でぼーっとしていると二つの影が近付いてきた)

 

八幡(顔をそちらに向けると三浦と海老名さんの姿がある)

 

優美子「ヒキオ、お礼だし。ありがたく受けとんな」

 

姫菜「ヒキタニ君、土曜はありがとう。はい、これ」

 

八幡(そう言って俺の前に置かれる二つの黄色い缶。千葉のソウルドリンク、マックスコーヒーだ)

 

八幡「ああ、そういやそんなことあったな。気にしねえでいいのに」

 

優美子「んなことできるわけないっしょ。本当はもうちょっとちゃんとしたお礼がしたいけどあんたにはサキサキがいるからね」

 

姫菜「こんなもので申し訳ないけど、感謝してるのは本当だから」

 

八幡「いや、ありがたくいただくよ。それより、その…………怖がらせてすまなかった」

 

優美子「ちょ! 頭上げるし! 全然そんなこと思ってないから!」

 

姫菜「そうだよ。私たちに向けて怒ってたわけじゃないんだし、ね?」

 

八幡「あ、ああ」

 

八幡(頭を上げると改めて二人は俺に感謝を述べて戻っていく。マッ缶はありがたくいただいとこう)

 

彩加「ねえ八幡、さっきの三浦さん達は何だったの?」

 

八幡(次の休み時間に戸塚がそう話し掛けてきた。やっぱり注目されてたよなああれ)

 

八幡「いや、そんな大したことじゃないよ…………それより戸塚、今日昼飯一緒に食わないか?」

 

彩加「え、でも八幡は川崎さんと」

 

八幡「ああ。ちょっとそれ関連でも話したいことがあってな」

 

彩加「うん、わかったよ。いつものとこ?」

 

八幡「ああ」

 

八幡(婚約したなんて言いふらすものではないのだが戸塚には報告すべきだろう。すでに川崎の許可も得てある)

 

八幡(伝えるべき人には伝えるつもりなのだが…………平塚先生はどうすっかなぁ? 別件で用事があるがついでに伝えるかどうするか…………)

 

八幡(四限の国語の授業が終わる。さて、昼休みだ)

 

八幡(だけどその前に俺は小走りで平塚先生に駆け寄り、廊下で追い付く)

 

八幡「先生、すいませんちょっといいですか?」

 

平塚「うん? 珍しいな比企谷から話しかけてくるとは」

 

八幡「ちょっと進路関係で相談したいことがありまして」

 

平塚「何? しかし私でいいのか? 担任でなく」

 

八幡「はい、できれば平塚先生の方が…………放課後少し時間いただけないですか?」

 

平塚「そ、そうか。わかった。放課後進路指導室を取っておくから来たまえ」

 

八幡「はい、よろしくお願いします」

 

平塚(ひ、比企谷の目標は専業主夫だったよな。それで私に相談ということはもしかして…………)ドキドキ

 

八幡(さて、ベストプレイスに向かうか)

 

彩加「八幡、一緒に行こう?」

 

八幡「あ、待っててくれたのか。悪いな」

 

彩加「ううん。僕が勝手に待ってただけだから」

 

八幡(天使だ。守りたいこの笑顔)

 

八幡「んじゃ行くか」

 

彩加「うん」

 

結衣「あ、ヒッキー、彩ちゃん。今からお昼?」

 

八幡「おう。混ぜてやらないぞ。俺達の仲を邪魔する者は何人たりとも許さん」

 

結衣「ヒッキーキモい! あ、そだ、ちょっといい?」

 

八幡(内緒話をするように声を潜める由比ヶ浜。自然と俺も小声になった)

 

八幡「何だ?」ボソボソ

 

結衣「その、サキサキと付き合うフリってもうやめたの?」ボソボソ

 

八幡「ん? ああ」ボソボソ

 

結衣「そっか…………」

 

八幡「何だよ?」

 

結衣「ううん、何でもないし! それじゃあたしはゆきのんとご飯食べるから。また後で!」

 

八幡「おう。それと放課後ちょっと平塚先生と話があるから少し遅れていくから。雪ノ下にも言っといてくれ」

 

結衣「うん、わかった。彩ちゃんもまたね」

 

彩加「うん!」

 

八幡(由比ヶ浜と別れ、俺は戸塚と一緒にベストプレイスに向かう)

 

八幡「待たせたな」

 

八幡(俺は先に待っていた川崎に声をかける)

 

沙希「ううん、平気。これあんたの分ね」

 

八幡「おう、サンキュ」

 

八幡(俺は川崎から弁当を受け取り、腰を下ろす。隣に戸塚も座ってきた)

 

彩加「今日はお邪魔します。川崎さん」

 

沙希「ん。よろしく」

 

八幡(しばらく食事しながらどうでもいい雑談をし、やがて戸塚が少し真面目な顔で聞いてくる)

 

彩加「それで八幡、僕に話があるんでしょ? 何かな?」

 

八幡「ああ、うん」

 

八幡(俺は一旦箸を置く。川崎も手を止めた)

 

八幡「戸塚、俺と川崎、正式に付き合うことになったんだ」

 

彩加「そうなんだ! おめでとう!」

 

八幡「ああ、ありがとう。でも、その、付き合うだけじゃなくて」

 

彩加「ん?」

 

八幡「もう、互いの両親に言って結婚の約束もしたんだよ」

 

彩加「そ、それって、婚約ってこと!?」

 

八幡「ああ」

 

彩加「うわあ! とっても素敵だね! 八幡、川崎さん、本当におめでとう!」

 

沙希「う、うん、ありがとう」

 

八幡「こんなことあまり人に言うもんじゃないんだけど、戸塚は川崎の相談に乗ったりしてくれたんだろ? なら報告しないといけないと思ってな」

 

彩加「そんな……僕なんか何にもしてないよ。川崎さん、良かったね!」

 

沙希「ううん。あの時の戸塚の言葉がなかったらあたしは勇気を持てなかったから、戸塚のおかげだって。本当に、ありがとう」

 

八幡「俺はその時の内容は知らないけど、きっかけの一端を担っていたのなら俺からも礼を言わせてもらう。戸塚、ありがとう」

 

八幡(そう言って俺と川崎は戸塚に頭を下げる)

 

彩加「や、やめてって! 僕は二人に頭を下げて欲しくてやったんじゃないってば!」

 

八幡(戸塚が慌てたように言う。わかってる。頭を下げても戸塚が困るだけってのは)

 

八幡(それでも俺は感謝の意を一度だけでも示したかったのだ。俺達は頭を上げる)

 

彩加「もう…………ねえ、二人のこと、聞いてもいいかな?」

 

八幡「おう、遠慮すんな。俺と戸塚の仲じゃないか」

 

沙希「ちょっと、あたしを除け者にしないでよ」

 

彩加「あはは。じゃあさ…………」

 

八幡(その後の時間は戸塚に色々質問され、俺と川崎が答えるといった感じで過ぎていく。戸塚は我が事のように喜んでくれていた)

 

八幡(だから教室に戻る際、川崎が聞いてない隙を狙ってこっそり戸塚に言う)

 

八幡「戸塚、ありがとう。お前が友達で、良かった」

 

彩加「は、八幡…………うん! こちらこそ!」

 

八幡(その声に川崎が怪訝な表情で振り向く。俺と戸塚は顔を見合わせて笑い合った)

 

八幡(放課後になり、俺は進路指導室に向かう…………あれ?)キョロキョロ

 

雪乃「あら、キョロ谷君。どんな罪を犯して逃げ回っているのかしら?」

 

八幡「あ、雪ノ下。ちげえよ、人目を気にしてるんじゃねえって。なあ、進路指導室ってどこなんだ? ここ生徒指導室だったわ」

 

雪乃「進路指導室ならもう少し向こうに行ったとこだけど…………珍しいわね。本当は生徒指導室なのではないかしら?」

 

八幡「俺は授業態度とかは基本真面目だっつうの。あっちか、ちょっと今日は奉仕部行くの遅れるから。由比ヶ浜にも聞いてると思うが」

 

雪乃「ええ、聞いてるわ。鍵を受け取る時平塚先生にも言われたし」

 

八幡「そうか。んじゃまたあとで」

 

雪乃「ええ。また部室で」

 

八幡「………………」

 

雪乃「何かしら?」

 

八幡「お前、何か良いことあった? 機嫌良さそうに見えるんだが」

 

雪乃「そ、そう? 自分ではそんなつもりないのだけれど」

 

八幡「いや、気のせいだったらすまんな。じゃ」

 

雪乃「え、ええ」

 

八幡(俺は雪ノ下と別れて進路指導室へ歩き出した)

 

八幡(ノックをしたが返事がないのでドアを開ける。部屋は衝立で四つに仕切られており、それぞれに椅子と机が用意されていた。が、どこにも平塚先生の姿はない)

 

八幡(とりあえず端の椅子に座って待つことにする。しばらくするとドアが開く音がした)

 

平塚「悪い、待たせてしまったようだ。ちょっと化粧…………コホン、私用があってな」

 

八幡「いえ、こちらがお願いした側ですから」

 

平塚「ふむ…………それで進路の相談とは何だ? た、確か比企谷の希望は専業主夫とか言っていたが、その、私を相談相手にというのは」

 

八幡「あー……その前に確認しますけど、ここって他に誰も使わないすよね? ちょっと他人には聞かれたくない話もあるんで」

 

平塚「! そ、それは大丈夫だ。今日他に使用予定はない。それに万が一突然誰か使おうとしたらドアは一つしかないしすぐにわかる。安心していい」

 

八幡「そうですか。ちょっと言いにくい内容や恥ずかしいこともあるんで助かります」

 

平塚「う、うむ。私もここで聞いたことは必要なく口外したりしないし、比企谷の希望にはできる限り沿えるようにしたいと思う」

 

八幡「ありがとうございます」

 

平塚「で、では早速聞いてもいいか? その相談内容とやらを」

 

八幡「………………」

 

平塚「比企谷?」

 

八幡「先生。俺、以前は教師なんてみんな敵だと思ってました」

 

平塚「ふむ。以前そんなことを言っていたな」

 

八幡「どいつもこいつも一応の生徒である俺のことなんか気にも留めず、リア充や目立つやつばかり気にして構って、何かあったら一方的に俺を悪者にして…………いや、この辺は俺にも原因がありますけどね…………でも平塚先生は違った」

 

平塚「比企谷……」

 

八幡「あの時、奉仕部に入部させられたことは煩わしいと思ってましたけど、俺を気にしてくれたこと自体はすげぇ嬉しかったんですよ、今だから言いますけど」

 

平塚「そ、そうか。心底からありがた迷惑だったらどうしようかと気にしてはいたのだが……そう言ってくれると私も動いた甲斐があったというものだよ」

 

八幡「向き合って構ってくれる教師なんていないと思ってましたが…………俺には平塚先生がいた。担任じゃなくても恩師を一人挙げろと言われたら間違いなく平塚先生と答えます」

 

平塚「ひ、比企谷、お前、私を泣かすために、放課後呼び出したのか?」グスッ

 

八幡「す、すいません、そんなつもりじゃ」

 

平塚「ふふふ、だがそう言われると教師冥利に尽きるというものだ」

 

八幡「はい。ちょっと鉄拳が飛んでくるのはあれですけど、俺は平塚先生を尊敬していますし、憧れもしています」

 

平塚「あ、憧れ……な、何を……」

 

八幡「だから先生、俺、俺……」

 

平塚「ひ、比企谷」

 

八幡(その先をまともに言うのが恥ずかしく、俺は下を向いて俯きながら叫ぶように言う)

 

八幡「俺、先生みたいな教師になりたいんです!」

 

平塚「お前の想いは嬉しいが、わ、私達は教師と生徒であって、でもどうしてもというなら卒業後に私の専業主夫として……………………え?」

 

八幡「え? 今何か言いました?」

 

八幡(頭を下げていたのと声が小さかったので平塚先生の言葉が良く聞こえなかった。俺は頭を上げる)

 

平塚「な、何でもない! そ、それよりお前が教師に?」

 

八幡「はい。おかしい、でしょうか?」

 

平塚「い、いや、ただいきなりだったから驚いてな」

 

八幡「…………もともと漠然とは考えていたんですよ。俺が教師だったら俺みたいなのにも目を届けてやりたいって。でも、そんなこと言っても俺だって結局楽な道に行くんだろうなって思ってました。目に写る実例がそんなのばかりでしたから。でも、平塚先生、あなたがいました。俺は、平塚先生のように、俺みたいな生徒を救ってやりたい」

 

 

平塚「比企谷……」

 

八幡「もちろんなるのが楽な道じゃないのも、なった後も大変なのもわかっています。でも、俺は…………」

 

平塚「比企谷っ!」

 

八幡(平塚先生は身を乗り出して腕を伸ばし、がっと俺の両肩を掴む)

 

平塚「まさかお前の口からそんな言葉が聞けるなんてな…………いいだろう。教職への道を進みたいというなら私が全力でサポートしてやろう」

 

八幡「はい、よろしくお願いします」

 

八幡(俺が頭を下げると平塚先生は椅子に座り直した)

 

平塚「とりあえず理系でないなら成績はそこまで問題はなかろう。あとはもう少しコミュニケーション能力を鍛えなければな。毎年毎年沢山の付き合いが必要になるのだから」

 

八幡「はは、それを言われると…………まあ、少しずつでも何とかしていきますよ」

 

平塚「ふむ、本気、のようだな…………人付き合いを否定せんとは」

 

八幡「ええ。今回ばかりはマジですんで」

 

平塚「しかしどんな心境の変化だ? 専業主夫というのもある程度本気のようだったが」

 

八幡「ええ、それも名残惜しいんですけどね。相手が許してくれそうにないですし、むしろ家事なら向こうの方が得意ですから」

 

平塚「…………え?」

 

八幡「まあいざ家庭を持つってなったらやっぱり甘えた事は言ってられないですからね。なら……」

 

平塚「ちょ、ちょっと待て比企谷!」

 

八幡「はい?」

 

平塚「えっと…………すまん、少し時間をくれ。すぐ戻る」

 

八幡(平塚先生はそう言って席を立ち、出て行ってしまった。どうすりゃいいんだこれ?)

 

八幡(あ、煙草か? うーむ、先生もヘビースモーカーじゃなければかなりの優良物件なんだがなあ。川崎がいなきゃあの人の専業主夫になっていた可能性すらある)

 

八幡(というか川崎とのことを言おうとしたけど信じてもらえねえんじゃねえかな、考えてみりゃ)

 

八幡(よし、ちょっと川崎に連絡してみよう。電話電話っと)ピッピップルルル

 

沙希『はい、もしもし』

 

八幡「あ、俺俺、俺だけど」

 

沙希『あたしを差し置いてどこの女を孕ませたの? すぐに排除しに行くから』

 

八幡「オレオレ詐欺じゃねえよ。しかも内容が俺がやりそうにない内容だしその返答も怖いから! 突っ込みどころ多過ぎだろ」

 

沙希『あんたってコミュニケーション能力低いのにそういう突っ込みはキッチリできるんだよね…………何か用だった?』

 

八幡「ああ、まだ学校だろ? 図書館寄るって言ってたし」

 

沙希『うん。今玄関向かってるとこだけど』

 

八幡「悪い、ちょっと進路指導室に来てくれねえか?」

 

八幡(川崎との電話を終え、しばらくすると平塚先生が戻ってきた)

 

平塚「悪いな急に。ちょっと動揺したようだ」

 

八幡「いえ」

 

平塚「それで、その、私の聞き間違いだとは思うが、先ほど比企谷は『専業主夫は相手が許さない』みたいなことを言ったように聞こえてな」

 

八幡「合ってますよ」

 

平塚「ははは、大人をからかうもんじゃないぞ。だいたいお前はまだ高校生じゃないか。結婚後のことを今から考えてどうするのだ」

 

八幡「まあ確かに俺はまだ子供ですけど…………別に相手がいないって理由にはならないでしょう?」

 

平塚「まだ言うか。いい加減に…………」

 

沙希「失礼します」ガラガラ

 

八幡(お、来た。川崎が俺を見つけるとこちらにやってくる)

 

平塚「どうした川崎? すまないが今比企谷の相手をしていてな」

 

八幡「いや、川崎は俺が呼んだんです」

 

平塚「なに?」

 

八幡(俺は立ち上がって川崎の隣に立ち、肩に手を回した)

 

八幡「平塚先生、俺と川崎、婚約しました」

 

平塚「………………………は?」

 

八幡「将来結婚するつもりです。これが、俺が専業主夫の夢を捨ててでも働きたいと思った理由です。家庭を持つならば、俺はこいつに家にいてほしい」

 

沙希「あのさ比企谷、その言葉は嬉しいけどストレート過ぎない? 先生固まっちゃってるよ」

 

八幡「いや、他にどう言えっていうんだよ。嘘言ってるわけじゃないんだし」

 

平塚「ほ、本当なのか川崎!?」

 

沙希「え? ええまあ。指輪も受け取ったし」

 

八幡「あんな大して高くない、しかも親の金で買ったものだってのもアレだけどな」

 

沙希「いいの。あたしにとっては最高の婚約指輪だから」

 

平塚「こ、こんやくゆびわ…………し、しかし君達はまだ高校生だろう。将来を決めるには早過ぎやしないかね。それに親御さんも良い顔しないのでは?」

 

八幡「ああ、それならもうどっちも許可はもらってますんで」

 

平塚「は?」

 

沙希「むしろあたし達より乗り気なとこあるよね」

 

平塚「ひ?」

 

八幡「一切反対されなかったのが逆に怖いよな。なんでお前んちって俺のことあんなに信用してんの?」

 

平塚「ふ?」

 

沙希「前もって根回ししといたからね。弟妹達からも色々吹き込ませといたし」

 

平塚「へ?」

 

八幡「初耳だぞおい」

 

平塚「ほ?」

 

沙希「嘘は言わせてないよ。あんたに遊んでもらったとか世話になったとかを伝わらせといただけだから」

 

平塚「…………すまん、二人とも」

 

八幡・沙希「「はい?」」

 

平塚「私の体調が少し優れないようだ。続きの話はまた後日にしてもらえないだろうか……」

 

八幡「え? はあ、それは構いませんけど、大丈夫ですか?」

 

平塚「ああ…………もう行っていいぞ。比企谷、お前の相談事は色々調べておいてやるから」

 

八幡「わかりました、よろしくお願いします」

 

八幡(俺達は進路指導室を退室する。なにやらぶつぶつと『教え子が……婚約』とか『行き遅れ……先を越された』とか聞こえてきたのは空耳だろう)

 

沙希「ところで何を相談してたの?」

 

八幡「ああ、進学先についてな。そろそろ真面目に考える時期だろ。そのついでに俺達の報告をと思ってさ。悪かったな、突然呼び出して」

 

沙希「ん、こんくらい別にどうってことないって。あ、それよりあんた今から奉仕部でしょ?」

 

八幡「おう、そうだ」

 

沙希「じゃ、その階段のとこでお別れだね」

 

八幡「そうだな」

 

八幡(川崎が立ち止まってこちらに顔を向けて目を瞑る。俺は周囲に人目がないのを確認し、唇を合わせた)

 

沙希「ふ…………」

 

八幡「ん…………っと。また明日な、沙希」

 

沙希「また明日ね、八幡」

 

八幡(俺達は軽く手を振り合いながら別れた。さて、部室に向かうか)

 

八幡「ういっす」ガラガラ

 

八幡(部室のドアを開けると姦しい、つまり女三人がお喋りに興じていた)

 

雪乃「こんにちは比企谷君」

 

結衣「ヒッキーやっはろー」

 

いろは「先輩どうも」

 

八幡「おう。てか一色、またいんのかよお前は」

 

いろは「今日は生徒会もサッカー部もないですからね、ゆっくりここに居られますよ」

 

八幡「お前ここの部員じゃねえだろうが…………」

 

いろは「はっ、まさか早く正式に奉仕部に入って違和感なくいつも一緒にいられるようにしろってことですか? 気持ちは嬉しいですけどちゃんと言葉にしてくれないとその想いは受け取れませんごめんなさい」

 

八幡「いい加減お前にフられるのも慣れてきたな…………」

 

結衣「ヒ、ヒッキーはいろはちゃんがいると嬉しいの?」

 

八幡「ん、そうだな。安心するわ」

 

雪乃・結衣・いろは「「「えっ!?」」」

 

八幡「少なくともここにいる限り生徒会とかの仕事を手伝わされることはないからな…………ってどうした一色、頬を膨らませて? ハムスターの真似か?」

 

いろは「知りませんっ!」プイッ

 

雪乃「はあ……」

 

結衣「ヒッキー…………」

 

八幡「何だよ?」

 

結衣「べっつにー」

 

八幡「何か時々さ、今みたいに俺の行動に呆れることあるけどよ、俺はどうすれば良かったんだ?」

 

結衣「え?」

 

八幡「何かやらかしたかなって思っても人付き合いの経験値足りてねえからわかんねえんだよ。教えてくれ由比ヶ浜

 

結衣「え、えっと、その…………」

 

雪乃「それくらい自分で考えるべきじゃないのかしら?」

 

八幡「考えた結果がこうなんじゃねえか。さっきの場合どうするのが正解なのか教えてくれよ」

 

八幡(コミュニケーション能力を上げるにはこういうとこもしっかりしないといけないからな)

 

結衣「う、えと、ゆ、ゆきのーん……」

 

雪乃「わ、私に振られても。ここは当事者の一色さんに聞くべきでしょう?」

 

いろは「うええ!? ず、ずるいですよ雪ノ下先輩!」

 

八幡(何やら俺を除け者にして色々騒ぎ始めた。何なんだ一体? …………そういや遅れてきたから俺の分の紅茶がねえな。催促するのもなんだし……あ、そうだ)ガサゴソ

 

結衣「あ、ヒッキー! そ、それ!」

 

八幡「あん?」

 

結衣「その缶コーヒー、朝、優美子達に貰ったやつだよね? 何で?」

 

八幡「何でって……質問の意味がよく分からんのだが」

 

結衣「なんかお礼って言ってたけどさ、優美子達に聞いても教えてくれなかったんだよね。何のお礼なの?」

 

八幡「え、あー…………三浦達が言わないのに俺が勝手に言っちゃ駄目だろ」

 

結衣「ううん。優美子も姫菜も知りたければヒッキーに聞いてって言ってたし」

 

雪乃「それは気になるわね。何をしたのか白状しなさい」

 

八幡「何で俺が罪を犯したふうに言うんだよ…………大したことじゃない。二人がしつこくナンパされてたのを助けただけだ」

 

いろは「へえ、先輩格好いいじゃないですか」

 

八幡「んな格好いいもんじゃねえって……でも自分で言うのもなんだけど俺らが通りかかって良かったぜ。結構強引だったからなそのナンパ男達」

 

結衣「そうなんだ。じゃ、あたしからもお礼言っとく。優美子達を助けてくれてありがとう!」

 

八幡「ああ」

 

雪乃「…………ねえ比企谷君。それ、いつ頃の話かしら?」

 

八幡「ん? 土曜日の夜だけど」

 

雪乃「さっき通りかかったのが『俺ら』って言ったわよね? 誰といたの?」

 

八幡「誰って……川崎だが」

 

結衣「えっ、そんな遅くまでサキサキと一緒にいたの!?」

 

八幡「見たい映画があってな、その時間しかやってなかったんだよ。んで映画館出たらその現場に出くわしたんだ」

 

結衣「そ、そうなんだ」

 

雪乃「…………あまり女性を夜連れ回すのは感心しないのだけれど」

 

八幡「別に変なとこや危ないとこに行くつもりはなかったしいいだろ。というかそういうのは女二人で出歩いてた三浦達に言え」

 

雪乃「いえ、そうでなく男女二人が夜に出歩くというのが…………」ゴニョゴニョ

 

八幡「何だよ聞こえねえぞ?」

 

いろは「あの、先輩。先輩は川崎先輩と付き合う演技をやめたんですよね?」

 

八幡「ん? おう」

 

いろは「何て言ってやめたんですか? あと伝えた時、川崎先輩はどんな反応でしたか?」

 

八幡「え、んーと…………」

 

八幡(あれ、それってどのタイミングになるんだ? 俺が告白した時か? いや、ホテルでヤったあとにそんな会話したからその時か……え、言うのこれ? ないない)

 

八幡「どうでもいいだろそんなこと。勝手に話したら川崎にも悪いし」

 

いろは「つまりおいそれと人に話せない反応だったんですね。まさか泣いたりとか…………」

 

八幡「いや、別に泣いては…………ああもう、この話は終わりだ終わり。どうしてもって言うなら川崎の許可もらってから聞け」

 

いろは「そんな事聞けるわけないじゃないですか。先輩はデリカシーがないですねまったく」

 

八幡「それを聞き出そうとしているのはいいのかよ…………」

 

雪乃「まあもう終わったのなら無理に聞き出すことでもないでしょうね。ところで比企谷君、さっき指導室に行ったのは何だったのかしら? やっぱり生活態度の問題?」

 

八幡「生徒指導室じゃないって言ってんだろ。進路指導室なんだから進路の相談だよ」

 

雪乃「専業主夫に相談がいるのかしら? まさか平塚先生に……」

 

八幡「怖えこと言うなよ。下手したら有り得なくもない未来だったんだから…………専業主夫はやめたんだよ。ちょっと別の道を進もうと思ってな」

 

結衣「えっ、そうなの? ヒッキー、頭でも打った?」

 

いろは「先輩、熱でもあるんですか?」

 

八幡「いつも俺の専業主夫の夢を貶してたのにやめたらやめたで頭の心配してくるお前ら何なの?」

 

雪乃「いえ、あなたが専業主夫を諦めるというのはそれだけの事なのよ」

 

八幡「まあ、わからんでもない」

 

結衣「わかるんだ…………」

 

いろは「別の道って何ですかー? ニート? 引きこもり?」

 

八幡「んな相談したら平塚先生にぶっ飛ばされるわ…………ちょっと教師になりたくてな」

 

雪乃・結衣・いろは「「「………………え?」」」

 

いろは「…………ぷっ、せ、先輩が教師ですか?」

 

結衣「ヒ、ヒッキーが…………」

 

雪乃「ふ、二人とも、笑ったら失礼よ…………」

 

八幡(三人が吹き出しそうになるのを堪える。うん、まあこれが普通の反応だろう。俺だって以前だったら今の俺を小馬鹿にしていたに違いない)

 

八幡(正直笑わなかった平塚先生に驚いたくらいなのだから。例えて言うなら由比ヶ浜が料理人を目指すってのと同レベルだからな。うん、そりゃ笑うわ)

 

いろは「はー、お腹痛い…………で、本当のとこはどうなんですか?」

 

八幡「いや、別に最初から嘘は吐いてねえから」

 

結衣「え、じゃ、じゃあ本気なの?」

 

八幡(三人とも奇異の目で見てくる。そりゃ専業主夫をやめて教職なんて方向性がまるで違うしな、無理もない)

 

八幡(そういや川崎はどんな反応をするだろうか。俺が教師になりたいと言ったら)

 

八幡(翌日の朝、俺は川崎を迎えに行って挨拶をする)

 

八幡「よう、おはよう川崎」

 

沙希「ん、おはよ比企谷」

 

八幡(荷台に乗って俺に掴まったのを確認してペダルを漕ぎ出す。早速聞いてみるか)

 

八幡「なあ川崎」

 

沙希「何?」

 

八幡「俺が教師になりたいって言ったらどう思う?」

 

沙希「え、あんたが教師に?」

 

八幡「ああ」

 

沙希「そうだね…………成績も悪くないし子供受けもそれなりだから、小学校とかがいいんじゃない? 予備校でも思ったけどあんた教えるの意外と上手いよ。相手がどこがわからないのかを察するのに長けてるのは人目を気にするぼっちの習性なのかな? どこがわからないのかわからないって子や自分から言い出しづらい子も小学校には多いだろうし」

 

八幡「………………」

 

沙希「どうしたの?」

 

八幡「いや、何かすげえ真面目に答が返ってきたなって」

 

沙希「どういう反応すると思ってたのさ…………」

 

八幡「でも昨日雪ノ下達には笑われたぜ。俺が教師なんて、って」

 

沙希「そりゃそうでしょ。他人からしてみれば大笑い以外の何物でもないよ」

 

八幡「お前は違うのか?」

 

沙希「あたしは他人じゃないし」ギュッ

 

八幡「はは、サンキューな」

 

沙希「ん」

 

八幡(そこから会話はなく、やがていつもの公園に到着する)

 

沙希「よっ、と。んじゃ行こっか」

 

八幡「あ、待てよ。忘れもんだぞ」

 

沙希「え? んむっ…………」

 

八幡(俺は川崎の後頭部に手を回して引き寄せ、唇を合わせる。数秒間その柔らかさを味わって離した)

 

八幡「今日は俺からするって昨日言ったからな。文句は言わせねえぞ」

 

沙希「文句なんてあるわけないじゃない。もっとしてもいいよ?」

 

八幡「いや、昨日みたいに遅刻ギリギリになるからやめとこうぜ。したいならもうちょい時間ある時に、な」

 

沙希「…………うん」

 

八幡(俺達は並んで歩き出す。川崎は身体が触れ合うくらいの距離に寄ってきていた)

 

沙希「そういえばさ、あたし達のことは奉仕部連中には言ったの?」

 

八幡「ああ………………あれ? そういやちゃんと言ってねえや」

 

沙希「今更だけどさ、あたし達のせいで奉仕部の関係が崩れたりとかしないかな?」

 

八幡「え、何でだ?」

 

沙希「彼女持ちになった男一人と女複数って結構微妙な関係じゃない? 今まで普通にしてたことが遠慮がちになったりとかさ」

 

八幡「そうか? あいつらがそんな気を遣うとも思えんが」

 

沙希「それに、もしあの中にあんたを好きな人がいたりしたら、とか」

 

八幡「俺を? ないない」

 

沙希「…………なんでそんな断言できるのさ? 現にあたしっていう実例があるのに」

 

八幡「むしろお前が証明したようなもんだけどな、俺からしてみれば」

 

沙希「え?」

 

八幡「ちょっと自惚れるけどさ、もしかしたら雪ノ下も由比ヶ浜も、んで一色も俺に好意を持ってくれてんじゃねえかなーって思ったことはあった。もちろんライクじゃなくラブの方で」

 

沙希「…………そうなんだ」

 

八幡「でもやっぱり好きな人に対しての言葉じゃねえだろってのが多々あったからな。ああ、これは気の置けない仲として接してんだなとわかったわ。早めに勘違いに気付いて良かったぜ」

 

沙希「そ、そう」

 

八幡「ま、それはそれで嬉しかったけどな…………でもお前はさ、俺に対して何にも悪口言わなかったよな。この腐った目ですら肯定してくれたし」

 

沙希「だって……好きになったらそれも格好良く見えちゃったから…………」

 

八幡「っ…………突然そんな事言うのやめろよ。人目あんのに抱きしめたくなっちゃうだろうが…………ま、だから俺を好きってことはないだろ」

 

沙希「………………」

 

八幡「でも婚約はともかく付き合い始めたことくらいはちゃんと言っとくか」

 

沙希「ねえ、比企谷」

 

八幡「ん?」

 

沙希「今日の放課後、あたしも奉仕部に行く。あたしが話すよ」

 

八幡(昼休みはいつものところで川崎と合流し、弁当を受け取って昼食を取る)

 

八幡(食べ終わったあと、俺は川崎に将来教職に就きたいことを話した)

 

沙希「うん、朝も言ったけどいいんじゃない? 人付き合いさえ何とかなれば結構合ってると思うよ」

 

八幡「そっか、お前がそう言ってくれるならより頑張れるぜ」

 

沙希「あたしに手伝えることがあったら遠慮なく言ってね。大したことは出来ないけど」

 

八幡「んー……じゃあ俺が教師になれたら結婚してくれ」

 

沙希「嫌だよ。なれなくたって結婚するから」

 

八幡「おっと、そう来たか…………なんなら高校卒業と同時にでもするか? 結婚」

 

沙希「いいね。でも家の事とかあるしまだ一緒に暮らすとかは出来ないかも」

 

八幡「籍を入れるのと式だけでもやっとくか……どうせ呼ぶ友人とか殆どいないだろお前」

 

沙希「鏡見てから言いな…………そろそろ予鈴が鳴るよ?」

 

八幡「ん、もうそんな時間か。よっと」

 

八幡(川崎は俺の頭を撫でていた手を止め、俺は膝枕状態から身体を起こす)

 

沙希「あ、そうだ。放課後奉仕部行く前に用意したいものがあるからちょっと自転車貸してくれない?」

 

八幡「ん? ああ、構わねえよ。ほら」

 

八幡(俺は自転車の鍵を川崎に渡す)

 

沙希「ありがと。じゃ、教室戻ろ」

 

八幡「おう」

715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/07/29(水)

 

八幡「ん? メール?」

 

八幡(放課後になったと同時にスマホが震える。確認すると平塚先生からだった)

 

結衣「どしたのヒッキー?」

 

八幡「ああ、ちょっと職員室寄ってから行く。先に行っててくれ」

 

結衣「うん、わかった。部室で待ってるから」

 

八幡(由比ヶ浜は部室へと足を向け、俺は職員室を目指す。あ、川崎が来るって伝えてなかった。ま、いいか、すぐわかることだし)

 

八幡「どうも、平塚先生…………って、まだ調子悪そうですね? 大丈夫ですか?」

 

平塚「ああ、体調に問題はない…………むしろ精神的に来ているな」

 

八幡「何があったか知りませんけど気を付けてくださいね。先生に倒れられたりでもしたら、俺、心配で寝られなくなりそうですから」

 

平塚「くっ! 誰のせいだと…………悪意が一切ないだけに怒るに怒れん…………」

 

八幡「?」

 

平塚「まあいい…………わかっているだろうが、教育学部は基本国立大になる。うちの学校にあったパンフレットと願書を用意したから持って行くといい。どこを目指すかによって今後の勉強方針も変わるだろうから参考にしたまえ。近いうちに比企谷の偏差値と照らし合わせて大学をピックアップしてみよう」

 

八幡「はい、ありがとうございます!」

 

平塚「一応確認するが、浪人の予定はないな?」

 

八幡「ええ。めでたい時期に浪人を決めるなんて格好つかないんで」

 

平塚「めでたい時期?」

 

八幡「あ、俺と川崎、高校卒業と同時に結婚するつもりなんですよ」

 

平塚「ごふっ!!」バタン

 

八幡「ど、どうしたんですか先生!? 血反吐を吐きそうな声を出して倒れて!?」

 

平塚「大丈夫! 大丈夫だから!」

 

八幡「で、でも」

 

平塚「私のためを思うなら早くここから去ってくれ! もう用はすんだだろう!?」

 

八幡「は、はあ…………んじゃ失礼します」

 

八幡(俺は他の教師達に注目を浴びながら職員室を辞した。何だったんだいったい………………ま、いいか、奉仕部に向かおう)

 

八幡「おっす」ガラガラ

 

八幡(部室のドアを開けると雪ノ下と由比ヶ浜、そして一色がいた)

 

八幡「あれ? 他に誰も来てねえのか?」

 

雪乃「え? ええ、依頼も何もないけれど…………」

 

八幡(川崎はまだ来てないのか)

 

いろは「ん? 先輩、その手に持ってるの何ですか?」

 

八幡「ああ、大学のパンフとかだよ。そろそろ志望校のあたりをつけ始めないとなんねえからな」

 

いろは「へー、って教育学部? せ、先輩、昨日のあれ本当に本気だったんですか!?」

 

八幡「まだ信じてなかったのかよ…………もう専業主夫はすっぱり諦めたっつうの」

 

雪乃「いい心掛けね。それならもしかしたらあなたと添い遂げてもいいという奇特な女性が現れるかもしれないわよ。もちろんその腐敗した目を許容できればの話だけれど」

 

八幡「そうだな…………ちなみにお前らは許容できるのか?」

 

雪乃「! な、何を言ってるの比企谷君は。それじゃ私達があなたと添い遂げたいというのが前提みたいに聞こえるじゃない。自惚れもいい加減にしなさい」

 

結衣「ヒ、ヒッキーキモい! 変なこと考えないでよ!」

 

いろは「プロポーズならもっとロマンチックな場面でお願いしますごめんなさい」

 

八幡(散々な言われようだ。うん、やっぱりこいつらが俺を好きとかないわ。早めに勘違いに気付けて良かった良かった)

 

雪乃「で、でもあなたがどうしてもって望むなら私としても…………」ゴニョゴニョ

 

結衣「も、もしヒッキーが働くならあたしは家で子供育てたり…………えへへ」ゴニョゴニョ

 

いろは「せ、先輩が真面目に将来を考えてくれるならわたしとしても受け入れる覚悟はあるっていうか…………」ゴニョゴニョ

 

八幡(? 何やら三人ともぶつぶつ呟きだしたぞ。何なんだよ?)

 

沙希「そもそも順番が逆だしね」

 

八幡「うおっ、いつの間に」

 

結衣「あ、サキサキ、やっはろー。どうしたの?」

 

沙希「ん、奉仕部連中に話があってね」

 

雪乃「依頼かしら? なら紅茶を淹れるわ」

 

沙希「ごめん、今はいらないかな」

 

雪乃「そう。ところで順番が逆って何の事かしら?」

 

沙希「さっきの、専業主夫をやめたら女性が現れるってとこさ」

 

雪乃「え…………?」

 

沙希「あ、比企谷、鍵返す。ありがと」

 

八幡「おう。で、何を用意したんだ?」

 

沙希「これさ」

 

八幡(そう言って川崎は左手を俺に示す。薬指にあの指輪が嵌められていた)

 

八幡「なんだ、俺があげた婚約指輪じゃねえか」

 

雪乃・結衣・いろは「「「!!?」」」

 

沙希「さすがに学校に嵌めてくるわけにはいかないから家にしまっておいたんだけどね。今日は必要かなって」

 

雪乃「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

結衣「こ、婚約指輪ってどういうこと!?」

 

いろは「お、お二人は付き合うフリをやめたんですよね!?」

 

八幡「あん? ああ、だからフリをやめて本格的に付き合うことにしたんだが」

 

いろは「そ、そんな…………」

 

沙希「ねえ比企谷、ちょっと女だけの方が話しやすいこともあるんだ。少しの間席を外してくれないかな?」

 

八幡「ん。ああ、わかった。んじゃ図書室で志望校のチェックでもしてるわ」

 

沙希「あ、その前にさ」

 

八幡「あん?」

 

八幡(まだ何か言い忘れかと思って川崎の方を振り返る。その瞬間、俺と川崎の唇が重なった)

 

八幡「ん…………ぷは。お前、人が見てる前ですんなよ」

 

沙希「いいの。んじゃ終わったら呼ぶからとっとと出て行って」

 

八幡「へいへい」

 

八幡(追っ払うように手を振る川崎と、いまだ固まって動かない三人をあとに、俺は図書室へと足を向けた)

 

沙希(比企谷が部室を出て行ったのを確認し、あたしはさっきまで比企谷が座っていた椅子に腰を下ろした)

 

結衣「サ、サキサキ…………あの」

 

沙希「あたしはさ」

 

沙希(何かを言いかけた由比ヶ浜を遮り、ぐるりと三人の顔を見渡す)

 

沙希「てっきりあんた達も比企谷のことが好きなのかなって思ってたけど、さっきのやり取りを聞く限りそんなことなかったみたいだね」

 

雪乃「あ、あれは、その……」

 

沙希「だから気兼ねなく言わせてもらうよ。あたし、比企谷と付き合うことになったから。まあ勢い余って結婚の約束までしちゃったけど」

 

いろは「ま、まだ高校生なのに結婚なんて考えるの早いんじゃないですか? 川崎先輩だったら先輩なんかよりもっと素敵な男性とだってお付き合いできそうですし!」

 

沙希「人の旦那候補を捕まえてなんかとはひどい言い草だね。というかあたしの勝手でしょ誰を選ぶかなんて」

 

雪乃「でも世間一般的に考えて早いのは事実でしょう。それに結婚は家の問題でもあるのよ。当事者同士だけでするものではないわ」

 

沙希「そりゃ雪ノ下みたいな家だとそうだろうけどさ、庶民がそこまで気にするものでもないでしょ」

 

結衣「で、でも親に反対されたりしたら大変なんじゃない?」

 

沙希「親に、ねえ……はあ…………」

 

結衣「ど、どしたの? やっぱり反対されたりしてるの?」

 

沙希「ああ、心配してくれてるのはありがたいけど大丈夫。むしろ親の方が乗り気だから」

 

結衣「えっ!?」

 

沙希「もう比企谷はウチの親に挨拶してさ、あたしを貰いたいってお願いして許可をもらってるんだけど」

 

いろは「そ、そこまで…………」

 

沙希「あたしがまだ比企谷の親に挨拶してないんだよね。話はもう通ってるんだけど比企谷ほど気に入られる自信がないよ。小町が味方なのが救いだけど」

 

雪乃・結衣・いろは「………………」

 

沙希「ごめん、愚痴っちゃったね、あたしが考えなきゃいけないのに。それであたしからあんた達にお願いしたいことがあるんだけど」

 

結衣「お、お願いって…………?」

 

沙希「比企谷はなんだかんだ言ってこの奉仕部っていう居場所を気に入ってるし、大事に思ってる。だからあたしとの関係がどうであろうと今まで通りに接して欲しいんだ。本人は認めないけど、あんた達を大切な友人だと思ってるみたいだからね」

 

雪乃「………………嫌よ」

 

沙希「雪ノ下?」

 

雪乃「嫌よ、『大切な友人』なんて」

 

結衣「ゆ、ゆきのん?」

 

雪乃「なんで、なんであなたなの? 私じゃなく…………」

 

いろは「雪ノ下先輩?」

 

雪乃「ずるいわよ川崎さん! 私だって彼の事が! 比企谷君の事が好きなのに! いえ、愛してさえいるわ!」

 

沙希(雪ノ下が叫ぶように声を出して立ち上がる。そのままあたしを睨み付けながら続けた)

 

雪乃「比企谷君の一番近くにいたのは私よ! 比企谷君を一番理解しているのも私!」

 

沙希(一番近くにいたのは小町なんじゃないかなあ、なんて妙に冷静な突っ込みを考える。だけど次の言葉であたしも怒りを覚えた)

 

雪乃「そして彼を一番愛しているのも私よ!」

 

沙希「だったら!」

 

沙希(バンッと机を右手で叩いてあたしも立ち上がる)

 

沙希「だったら何でそれを比企谷に伝えないの!?」

 

雪乃「!?」

 

沙希「あいつはさ、人から愛されることなんてほとんどなかったんだよ! 人から褒められることも肯定されることもなかった! わかる!? ただ悪口を言わないってだけで嬉しそうにする比企谷の気持ちが! わかる!? 誰かが味方になるだけで嬉しいって言う比企谷の気持ちが! どんだけ比企谷は苦しめばいいの!?」

 

雪乃「か、川崎さん…………」

 

沙希「あいつが好きって言うなら、何でもっと早くあいつを助けてくれなかったの…………愛しているって言うなら愛してあげてよ…………」

 

沙希(いつの間にかあたしは涙を流していた。だけどそれを拭うことも隠すこともせず、あたしは続ける)

 

沙希「勝手過ぎるよ…………自分から何もしていないのにあとからそんなこと言うのは……だいたいあたしより圧倒的に機会も多かったでしょ。そうでないとは言わせないよ」

 

雪乃「そ、それは、その…………恥ずかしくて、言い出せなくて」

 

沙希(そう言って雪ノ下は冷静になったか椅子に座る。あたしも同じように座り直した)

 

沙希「じゃあ結局ずっと進展しないままじゃない。その時言えなかったのが次に言える保証なんてないし、一度先延ばしにしたら繰り返すばかりでしょ」

 

雪乃「ひ、比企谷君の方から告白してくるかもしれなかったじゃない。中学の頃の行動を鑑みれば有り得なくはないわ」

 

沙希「むしろ逆効果だったよ。比企谷が言ってたけどさ、雪ノ下だけじゃなくここにいる三人はもしかしたら自分のことを好きなんじゃないかって思ったことはあるらしい」

 

結衣・いろは「「えっ?」」

 

沙希「でも過去の経験から慎重になりすぎてて、普段からあんな悪口や態度だったら恋愛感情はないだろうって判断してた。でもそんなふうに気の置けない仲になれているのは嬉しいともね」

 

雪乃「そう…………私は失敗を恐れるあまり、自分でチャンスを潰していたのね」

 

沙希「こんな言い方するとあれだけど、ちょっと前の比企谷なら誰が告白したって成功してたと思うよ。悪戯や罰ゲームを疑うだろうけどそこからぐいぐい押せばあっさりと。実際そっち方面のメンタルなんてそんなに強くなかったしね」

 

いろは「今は違うんですか?」

 

沙希「あたしがいるからね」

 

いろは「うわ、すごい自信…………」

 

雪乃「……川崎さん」

 

沙希「何?」

 

雪乃「さっきはごめんなさい。あなたの言う通りだわ。私は比企谷君の事を全然理解していなかった。私が比企谷君の事を好きなのは事実だけれども、比企谷君でなく自分のことばかり考えていたわ」

 

結衣「ゆ、ゆきのん……」

 

雪乃「正直もう勝ち目がないものね。婚約までしていて両親まで介しているのなら…………私はもう比企谷君のことは諦めるわ。そして今まで通り接して欲しいというお願いも引き受けるわよ」

 

沙希「そう? そうしてくれるとありがたいね」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、一色さん。あなた達も川崎さんに言っておいた方がいいのではないかしら? 今まで通りに付き合うなら比企谷君本人に言えない事があるでしょう?」

 

結衣・いろは「う…………」

 

沙希「何? まさか…………」

 

結衣「え、えっとね、あたしもヒッキーのこと、好きだったんだ」

 

いろは「わ、わたしも先輩のこと、狙ってました…………」

 

沙希「はー、随分モテてたんだねあいつは」

 

結衣「でも、こうなっちゃったのも仕方ないよね。本当は嬉しかったのについキモいとか言っちゃうあたしが悪いんだし…………あーあ、何でもっと素直になれなかったんだろあたし」

 

いろは「正直油断してましたね。ライバルは雪ノ下先輩と結衣先輩だけだと思ってましたから…………お二人ならなかなか進展しないしその隙にって考えてましたけど…………フリだってのを聞いた時にもっと攻めるべきだったのかなあ」

 

雪乃「それは多分無理ね。思い返してみるとその頃にはもう比企谷君は川崎さんにメロメロだったと思うわ」

 

結衣「ゆきのんて時々言葉のセンスが変だよね…………」

 

雪乃「コホン……川崎さん。私達が好きだった人を、比企谷君をよろしくお願いします」

 

沙希「ん、任されたよ」

 

雪乃「でも婚約破棄したり離婚したりしたら連絡をちょうだい。すぐに駆けつけるわ。もちろん比企谷君の方に」

 

沙希「こら」

 

結衣「あ、サキサキあたしにもあたしにも!」

 

いろは「もちろんわたしにもお願いします!」

 

沙希「万が一にもないからそんなの」

 

沙希(そんなやり取りのあと、いろんな事を根掘り葉掘り聞かれた。告白の内容だの親への挨拶に関してだの。ちょっと煩わしかったけど彼女達から比企谷を攫っていった詫びということにでもしておこう)

 

沙希(正直ひっぱたかれたり最悪取っ組み合いになったりするんじゃないかと覚悟もしていた。だからこそ比企谷をこの場からいなくしたんだけど……杞憂だったかな)

 

沙希「も、もういいでしょ。そろそろ比企谷を呼んでくるよ」

 

雪乃「ええ、今日のところはこのくらいで許してあげるわ」

 

結衣「また色々聞かせてね」

 

いろは「断ったら先輩の方から聞き出しますから!」

 

沙希「はあ、疲れた…………じゃ、ちょっと図書室行ってくるよ…………多分、戻るまで三十分くらいかかるから、用事あったら済ませといて」

 

雪乃・結衣・いろは「「「!!」」」

 

沙希(あたしはそう言って部室を出た。話していてわかったが、彼女達は本当に比企谷の事が好きだった。多分彼女達は泣くだろう。比企谷にそれを見せるわけにはいかない)

 

沙希(少し図書室で比企谷を引き留めておかないとね)

 

八幡、最初から最後までサキサキの掌でコロコロだった

そして最後まで真実に気付かず、孫に囲まれて天寿を全うしそう乙

 

八幡(奉仕部連中に話したあとも特に関係性は変わることなく、皆今までと同じように接している)

 

八幡(いや、変化はあったか。雪ノ下は毒舌がかなり少なくなったし、由比ヶ浜もキモいと殆ど言わなくなった。元々本心から言っているわけではないから言いすぎると川崎に悪い、とのことだ。何? 仲良くなったのお前ら? 何かあったの?)

 

八幡(あと時々からかわれたりいじられたりする。教職を目指すきっかけも川崎とのことがあるからって知られたし、プリクラも見られたし。まあ別に嫌ではないんだが)

 

八幡(本格的に付き合うまでは色んなことがあったが、その反動が来たように穏やかな時間が流れる)

 

八幡(そして週末が来た)

 

小町「お、お兄ちゃんどう? この格好でおかしくないかな?」

 

八幡「うん、可愛いぞ。でもそんなにかしこまる必要はないんだぞ? ただ大勢でメシ食うだけなんだから」

 

小町「何言ってんのお兄ちゃんは! 沙希さんや大志君だけじゃなくて御両親も来るんだよ! だったらいつかしこまるっていうの? 今でしょ!

 

八幡「もう古いからなそれ」

 

八幡(そう、今日は比企谷家と川崎家の顔合わせがあるのだ)

 

八幡(駅前の少し高級な中華料理店で個室を借り、食事しつつの会談となる。もうすぐ出掛ける時間で、親父もお袋も準備に余念がない)

 

八幡(ちなみに俺は特に何もしていない。それなりにまともな服装で行ってりゃいいだろ、初めて会うわけでもなし)

 

小町「そりゃお兄ちゃんはね。しかもさっきまで会ってたんでしょ?」

 

八幡「まあな」

 

八幡(実はついさっきまで川崎家に遊びに行っていたのだ。川崎の親父さんも在宅していたので少し話もしたのだが、その際とてもいい話を聞いた)

 

八幡(なんと川崎の親父さんが昇進するらしい。忙しくなったり仕事が増えたりなどは殆どなく、役職と給料が上がっただけというかなり理想的な展開だ。しかも給料は大幅アップ)

 

八幡(あまりに出来すぎなので少し疑ってみたが、元々それを裏付けるだけの働きはしてきたらしい。それにくわえて前任者が実家の事情で退職してしまったとのことだ。ならばと素直に祝いの言葉を述べておいた)

 

八幡(『八幡君が我が家に幸運を運んできてくれたのかな?』なんて言われて言葉につまったが。だって『疫病神』とか『祟り神』とかには言い慣れてるけど、そんなふうに言われたのは初めてなんだぜ)

 

八幡(とにかくこれで川崎家の家計にはだいぶ余裕が出るとのことだ。川崎が金銭面で悩むことももうないだろう)

 

小町「お兄ちゃん、何ニヤニヤしてるの? 人前で見せられない顔になってるよ」

 

八幡「おっと…………で、準備はいいのか? そろそろ出る時間だぞ」

 

小町「うん。お父さんたちもそろそろ来るよ。あ、来た」

 

八幡(二人ともリビングに姿を現した。俺もソファーから立ち上がる)

 

八幡「んじゃ行くか」

 

八幡(四人で駅前に向かい、目的の店に到着する。川崎はまだ来てないのかと周りを見回した時、脚に軽い衝撃が二つ来た)

 

八幡「何だ? …………ああ、お前達か。さっきぶり」

 

八幡(俺は足にしがみついてきた川崎家のチビーズ二人の頭を撫でてやる。そこに川崎もやってきた)

 

沙希「こら二人とも。初めての人もいるんだからちゃんと挨拶しなさい」

 

八幡(そう言われて二人は俺の脚から離れ、親父達に向かって頭を下げて挨拶をした。躾行き届いてんなあ)

 

八幡(すぐに向こうの親父さん達も現れ、ウチの家族と挨拶を交わす。すぐにでも話を始めそうだったが、俺はそれを遮ってとりあえず店に入ろうと提案して皆それに従った。今だけは小町と大志が話をするのを許可しておいてやろう。感謝しろよ)

 

八幡(店員に案内された個室には六人掛けのテーブルが二つ用意されていた。どういう席順になるんだ?)

 

比企谷父「ああ、大人組と子供組に別れて座る。その方が緊張せんだろう。もちろん話したい時はこちらに呼ぶ」

 

八幡「わかった。んじゃそっちに適当に座るか」

 

八幡(俺が座ると隣に川崎が来る。意外だったのはチビーズ達が小町の両隣を占領したことだ。さっきの挨拶の時の会話で一瞬で仲良くなったらしい。さすが小町、兄にはできないことを平然とやってのける! そこに痺れる憧れ…………ねえな別に)

 

八幡(たださすがに大志がちょっとかわいそうかとは思ったが)

 

比企谷父「料理はコースだが、飲み物はメニューから好きなものを頼めよ。我々はアルコールをいただきますか」

 

川崎父「お、いけるクチですか。今日は飲みましょう」

 

八幡(向こうは酒を飲むようだ。当然こっちはジュース系になる。マッ缶ねえしな)

 

八幡(飲み物が揃ったところで親父が立ち上がる。どうやら乾杯の音頭を取るようだ)

 

比企谷父「それでは、両家の素晴らしき出会いを祝って、乾杯!」

 

『乾杯!』

 

八幡(皆の声が重なり、思い思いにグラスをぶつけ合う)

 

八幡(そのジュースを口に含もうとしたら早速親父に呼ばれた)

 

比企谷父「よし八幡、こっちに来い!」

 

八幡「早えよ、まだ飲み物も飲んでないのに…………ちょっと行ってくるわ」

 

沙希「うん、いってらっしゃい」

 

八幡(クスクスと笑う川崎に見送られて俺は大人組テーブルに着く)

 

比企谷父「川崎さん。息子を認めてくださってありがとうございます。こいつは手がかかる、というわけではありませんがどうも世の中を斜に見てるようなところがありまして。それをそちらの娘さんのおかげで前向きになったようで」

 

八幡(まあ嘘じゃねえな)

 

川崎父「いえいえとんでもない。むしろ我が家こそ息子さんにはお世話になりっぱなしで。沙希も何度も助けてもらったようだし、下の子達もよく遊んでもらったりしたと聞いてますよ。皆とても懐いています」

 

比企谷父「ははは、それはそれは。八幡、下の子達から懐柔するとはなかなか策士じゃないか」

 

八幡「別にそんなつもりじゃねえっつうの」

 

川崎父「ふふふ、もう八幡君の人となりはそれなりに知っているから今更改めて話すこともないかな。これからも末永くよろしく頼むよ」

 

八幡「はい、よろしくお願いします」

 

川崎父「うん。よし、それじゃ今度はウチの娘を紹介しますよ。沙希、こちらに来なさい」

 

沙希「は、はい」

 

八幡(川崎が呼ばれてこちらに来る。それと入れ違うように俺は席を立つ)

 

沙希「え、ひ、比企谷、一緒にいてくれないの?」

 

八幡「別にいらないだろ。というかお前も少しは人見知りを治せよ。ウチの親だったら平気だから」

 

沙希「うう…………」

 

八幡(借りてきた猫のように大人しくちょこんと座る川崎を後目に俺は元のテーブルに戻った)

 

八幡(ちょうど料理が来たので川崎の分を取り分けておいてやる。小町は頼られるのが嬉しいのか子供二人に構いっぱなしだ。さすがに大志がかわいそうになってきたので話し掛けてやる)

 

八幡「そういえば大志、お前んちって好き嫌いってないのか? そういうの聞いたことないんだが」

 

大志「そうっすね。ほら、姉ちゃん料理上手いから何でも美味しくなるし」

 

八幡「そうか」

 

大志「ただそれだけに外食とかしたりすると時々物足りなくなるんすよね…………姉ちゃんの方が美味い、とか思ったり」

 

八幡「あ、やっぱりそうなのか」

 

大志「ということはお兄さんも?」

 

八幡「ああ、俺も胃袋を掴まれた哀れな仔羊さ」

 

小町「え? 沙希さんてそんなにすごいの?」

 

八幡(聞いていたのか小町が会話に入ってくる)

 

八幡「レストランに出すような、ってのじゃないんだが、なんつーか家庭料理の究極というか…………美味くするために手間暇を惜しまないんだよなあいつ」

 

大志「あ、それわかりやすいっすね。肉じゃがなんか簡単に作れるだろ、って言ってる世の中の連中に姉ちゃんの肉じゃが食わせてやりたいっす」

 

八幡「ああ、あれはマジでヤバい。店やコンビニにあるようなのはもう食う気なくなったわ」

 

大志「俺なんか小学校の頃から食わされてましたから給食に出てくるのが全然物足りなくて…………肉じゃが出た日は家で姉ちゃんに今日は肉じゃがにしてって頼んでましたもん」

 

小町「ふ、二人ともずるい! 小町も沙希さんの食べてみたい!」

 

八幡「ま、今度頼んでみたらいいんじゃねえの?」

 

小町「うん! お兄ちゃんからも言っといて」

 

八幡「へいへい」

 

八幡(その辺でようやく川崎が戻ってきた。なんかフラフラになってるぞ?)

 

沙希「うう、ヒドい目にあった…………辱められた」

 

八幡「おいおい、何があった? とりあえず座れ」

 

沙希「…………あんたのせいだよ」

 

八幡「え? 俺?」

 

沙希「あんたのヒエラルキーが低いから親御さんに『本当にあんなんでいいのか?』とか『そもそもどこを好きになったんだ?』とか『意識したきっかけは?』とか散々聞かれたんだよ…………」

 

小町「うわーお」

 

沙希「ウチの親も『む、疑われてはいかんな。沙希、しっかり答えてやりなさい』なんて言ってくるし……」

 

八幡「しまったな。俺も残って一緒に聞けば良かった」

 

沙希「ひ、他人事だと思って……あんたも同じ事聞かれるように仕向けてやる」

 

八幡「ん? いや、俺の事はもうお前の親父さん知ってるぞ」

 

沙希「え?」

 

八幡「昼に親父さんと俺が二人で話した時間あっただろ? そん時にその辺の質問には答えてるぞ」

 

沙希「な、な…………あんた恥ずかしくないの!?」

 

八幡「いやあ、だって事実言ってるだけだしなあ」

 

沙希「くっ…………」

 

小町「はあー、あっついなぁ、空調壊れてるんじゃないかなここ」パタパタ

 

大志「ほんとっすね、熱源はどこなんすかねえ」パタパタ

 

沙希「うう…………」

 

八幡「おいお前ら、あんまり川崎をいじめるなよ」

 

沙希「いや、ほぼあんたのせいだからね」

 

八幡(その後は小町や大志が順番に呼ばれて相手方に紹介していく)

 

小町「ふう、緊張した。ね、ねえ、小町変なこと言ってないよね?」

 

大志「お、俺もっす。失礼なこと言ってないすよね?」

 

八幡「いや知らねえよ。別に聞き耳立ててたわけじゃないし。ま、あの様子なら大丈夫なんじゃねえの?」

 

八幡(大人組テーブルを窺うと酒も進んだかかなり陽気に喋っている。コース料理も終盤だ)

 

八幡「口の中が脂っこいな……烏龍茶でも頼むか、お前らも飲むか?」

 

沙希「そうだね、全員分お願い」

 

八幡「おう」

 

八幡(俺は店員を呼んで烏龍茶を注文する。それに便乗して隣からアルコールの追加の声が届いた)

 

八幡「まだ飲むのかよ…………お前んちの親父さんは強いのか?」

 

沙希「さあ? 弱くはないと思うけど」

 

八幡(しかし心配はいらなかったようで、間もなくデザートが来るらしい。ならここから潰れることはないだろう。そういえば結構食ったな)

 

八幡(みんなで杏仁豆腐を食べてお茶をすすり、この店での宴はお開きとなった)

 

八幡(支払いはちょっと揉めていたが、結局ウチの親父が払うことになったようだ。向こうは『次回は絶対こちらが出しますから』と言ってたが。次回あるのか…………)

 

八幡(が、店の外で待っていると、支払いを終えた親父がとんでもないことを言いやがった)

 

比企谷父「うーむ、少し飲み足りませんな。どうです川崎さん、ウチに来て二次会というわけには? 少し前に田舎から旨い地酒送られてきたんですよ」

 

川崎父「む、それは心惹かれますが…………御迷惑では?」

 

比企谷母「全然構いませんよ。おつまみもおやつもありますし皆さんでいらしてください。なんなら泊まっていかれたらどうですか?」

 

小町「けーちゃん達もウチで遊ぼ?」

 

京華「あそぶー!」

 

八幡「おい、ちょっと待てって。ウチにはカマクラがいんだろ。川崎が……」

 

川崎父「おおっとそうだった、沙希は猫アレルギーだったんだな」ボウヨミ

 

比企谷父「何だって。それではウチに招待出来ないな」ボウヨミ

 

川崎父「仕方ない。沙希、お前抜きで我々は楽しむことにする」

 

比企谷父「八幡、沙希さんを一人にさせるわけにはいかん。お前が一緒にいてやれ。ほら、飯代くらいはやるから」

 

沙希「ちょ、ちょっと!」

 

八幡「お、おい、親父!?」

 

川崎父「じゃ、沙希をよろしく頼むよ八幡君」

 

比企谷父「明日の夜までには帰って来いよ」

 

八幡(俺達が呆然としている間にみんなさっさと行ってしまった。小町や大志も微笑ましいものを見るような表情で俺らに手を振ってから離れていく)

 

八幡「何だこの茶番は…………」

 

沙希「ま、気を使ってくれたんでしょ。なかなか二人きりにはなれないし」

 

八幡(川崎が呆れたような口調で言い、俺の隣に来る。そのまま俺の腕に自分のを絡めて小声で誘う)

 

沙希「ね、比企谷…………ホテル、行こ?」

 

八幡「…………おう」

 

八幡(是非もない。俺達はホテル街の方に歩き出した)

 

沙希「あ、そういえばちゃんと約束守ってる?」

 

八幡「ん? どれのことだ?」

 

沙希「別に約束ってわけじゃないか。あたしの一方的なお願いだけど…………一人でするときはあたしを思い浮かべながらしてってやつ」

 

八幡「あー…………いや、してない」

 

沙希「え……や、やっぱり写真とかないとあたしじゃする気にならない?」

 

八幡「いや、そうじゃなくて…………そもそも自分でしてねえ。この前の時以来出してない」

 

沙希「えっ、あんた毎日のようにするって言ってたじゃない?」

 

八幡「ああ。でもさ、もともと明日辺り誘うつもりだった。そんで」

 

八幡(俺は川崎の耳元に口を寄せて囁く)

 

八幡「一週間溜めたものを全部お前にぶちまけたかったんだ」

 

沙希「!!」

 

八幡「辛かったぜこの一週間。ホテル着いたらめちゃくちゃにしてやるからな」

 

沙希「うん、嬉しい…………めちゃくちゃにしちゃって」

 

八幡(川崎は腕に込める力を強くし、顔を赤らめる。いや、上気しているのか?)

 

八幡(空いた手で川崎の頭を軽く撫で、目的のホテルの中に入る)

 

八幡「前と同じ部屋は…………空いてねえな。どこにする?」

 

沙希「どこだっていいでしょ? 早く、行こ」

 

八幡(平静を装っているが、明らかに川崎は欲情していた。それもかなり強く。脚が少し震えている)

 

八幡「んじゃここでいいか」

 

八幡(俺は最上階の部屋をタッチパネルで選択し、エレベーターホールに向かう。そのエレベーターが降りてくるのを待つ間も川崎はずっとそわそわしていた)

 

八幡(エレベーターに乗り、上昇中にすっと川崎の尻を撫でると、声こそ出さなかったもののピクッと身体を震わす。もうちょっと反応が見たかったけどあまりいじめると後が怖いから止めとくか)

 

八幡(最上階に到着してエレベーターを出、目的の部屋に入る)

 

沙希「ひ、比企谷っ!」

 

八幡(靴を脱ぐ間も与えず、川崎が俺に抱きついてくる。そのまま唇を重ねて舌を口内にねじ込んできた)

 

八幡(俺はその舌を受け入れ、自分の舌と絡めながら強く川崎を抱きしめる)

 

八幡(しばらくそうしてから川崎は舌を離し、大きく肩で息をする)

 

沙希「比企谷……あたし、あたし…………」

 

八幡「ああ、めちゃくちゃにしてやんぜ」

 

八幡(靴を脱いだ川崎を俺は抱き上げ、自分も靴を脱いでベッドに運んで横たわらせる。俺はその上にのしかかるように身体を重ねた)

 

八幡「ん…………ふう」

 

八幡(俺は川崎とくっつけていた唇を離して息を吐く)

 

沙希「はあ……すご、かった…………すごい、気持ちよかった……最後は気絶するかと思っちゃったよ」

 

八幡「俺もだ。もう何回出したか覚えてないまである」

 

八幡(俺は川崎の上から退き、横に寝っ転がって川崎と向き合う)

 

沙希「うん、上の口からも下の口からもたくさん飲まされちゃったもんね。あんたの精液」

 

八幡「そりゃあんなにされりゃなあ…………そういや髪の毛大丈夫か? 付くとなかなか取れねえって聞くけど」サワサワ

 

沙希「ん? 髪コキして出した時? なら大丈夫、先っぽくわえて全部口の中で受け止めてそのまま飲んだから。あ、でも髪撫でるのやめないで」

 

八幡「あいよ」ナデナデサワサワ

 

沙希「ふふ、あたし、比企谷に撫でられるの好き。性的な意味でもそうでなくても」

 

八幡「へえ、こことかも?」ナデナデ

 

沙希「背中……うん、ぞくぞくってする…………」

 

八幡「こことかも?」ナデナデ

 

沙希「ん、おしり…………比企谷って結構おしり好きだよね?」

 

八幡「ああ、触り心地すげえ良いしな。お前の胸と同じくらい好きだ」

 

沙希「おっぱいとおしりが好きだなんて本当にスケベなんだから」

 

八幡「お前の限定だけどな。だいたいスケベっていうならお前も相当なもんだろうが」

 

沙希「そう?」

 

八幡「スマホで写真撮られる時とかすげえ興奮してたじゃねえか。騎乗位で自分から腰振ってる時に撮られてるの気付いた時とか。見ろよこの表情」

 

沙希「み、見せなくていいから!」

 

八幡「あと中に出したあとのあそこを指で広げて見せてるのを撮ったとき、お前イっただろ?」

 

沙希「あう…………バ、バレてた?」

 

八幡「とんだ変態じゃねえかよ…………ま、そんな川崎が俺は好きだけどな」

 

沙希「こんなになっちゃったのあんたのせいだからね、責任は取ってもらわないと」

 

八幡「おうよ」

 

沙希「それと、写真誰にも見られないようにね」

 

八幡「わかってるよ、隠しファイルにした上でロック掛けてるから。ま、これで俺のオナニーライフも捗るってもんだ」

 

沙希「うん、いっぱい使ってくれると嬉しい。飽きたらまた撮っていいからね…………ふあぁ」

 

八幡「お、さすがに疲れて眠いか? シャワーどうする?」

 

沙希「ん、出来ればこの余韻に浸ったまんま寝たい……いい?」

 

八幡「構わないぜ、ほら」

 

八幡(俺が腕を伸ばすと川崎は頭を上げて寄ってきて肩の辺りに乗せる)

 

沙希「お休み、愛してるよ八幡」

 

八幡「おう、お休み沙希、愛してるぜ」

 

八幡(俺はもう片方の手を川崎の背中に回し、抱きしめるようにしながら眠りについた)

 

八幡「あー……眠くはねえけど疲れた……だりぃ……」

 

八幡(日が明けてホテルを出たあと、俺はサイゼリヤのテーブルに突っ伏す)

 

沙希「こら、行儀悪い……って言いたいけどあたしもちょっと…………」

 

八幡「朝起きてヤって、シャワー浴びてヤって、湯船に浸かりながらヤって…………絶対二桁は出してるぞ。エロ狂ったサルかよ……」

 

沙希「とても身体重ねるの二回目とは思えないよね…………正直なとこあたしとあんたの身体の相性が良すぎるんだよ。女の身体はもっと時間をかけて開発されるって聞いたんだけど、もう充分なくらいだし…………」

 

八幡「ああ…………搾り取られるってこういうことかって実感してるぜ。気持ちいいだけに拒めないし……やっぱり初めての時はなんだかんだ緊張とかしてたんだな」

 

沙希「結婚しても休息日決めとかないとあんた干からびちゃいそうだよね…………あ、注文したの来たよ。とりあえず体力回復させようよ」

 

八幡「おう、そうだな。食うか」

 

八幡(俺達は早速来た料理を食べ始めた。うむ、やはりミラノ風ドリアは美味い…………ん?)

 

沙希「どうしたの?」

 

八幡「いや、親父からメールが。昼に帰れるなら帰ってこいってよ」

 

沙希「あれ、あたしもだ。まだ比企谷んちにいるからあんたと一緒にって」

 

八幡「んじゃ俺から返信しとくぞ。今メシ食ってるから食い終わったら帰る、と」

 

八幡(返信し終わり、食事を再開する。本当に体力使ったんだなあ、相当食べた)

 

八幡「んじゃ行くか」

 

沙希「うん」

 

八幡(支払いを済ませてサイゼリヤを出て、川崎と腕を組みながら我が家へ向かう)

 

八幡「というか何で呼んだんだろうな? 何か用事でもあんのかな」

 

沙希「あたしもってことは二人に関することなんだろうけどね」

 

八幡「ま、帰ればわかるか」

 

沙希「だね」

 

八幡(しばらく歩き、比企谷家が見えてくる。てか家の前にいるのは…………)

 

八幡「何してんだ親父? あと川崎の親父さんも」

 

比企谷父「ちょっとお前達二人に話があってな」

 

川崎父「比企谷さんちは猫がいるからな。すまないがここで手早く話させてもらう」

 

沙希「いったい何?」

 

川崎父「沙希、お前は大学進学だろうが、八幡君と同じ大学に行くつもりか?」

 

沙希「…………たぶん違うと思うけど」

 

川崎父「だろうな。なら今ほど会えなくなってしまうことになる。それはお前も辛いだろう?」

 

沙希「でも仕方ないでしょ。それにまったく会えないってわけじゃないんだし」

 

川崎父「いや、いい解決方法がある」

 

沙希「え?」

 

川崎父「沙希、高校卒業したらもう八幡君と結婚しろ。そして一緒に暮らすといい」

 

沙希「えっ!?」

 

八幡(川崎は驚いた表情になって俺を見る。だが俺は親父さんに何も言ってないぞ)

 

川崎父「どうした、不満か? 八幡君は?」

 

八幡「いえ、実は俺達もこの前そんなことを話したんです。卒業と同時に籍入れようかって」

 

川崎父「お、そうなのか」

 

沙希「でも家を出るのはちょっと…………まだ京華達も小さいし」

 

川崎父「ああ。それなら母さんがいる。パートを辞めても問題はなくなったし、家のことをする余裕が出てきているからな」

 

沙希「だけど働けるなら働いておいた方がいいんじゃないの? あたしなら全然大丈夫だから…………」

 

川崎父「なあ沙希、俺達は今までお前に甘えすぎていたと思うんだ。確かにお前の存在は助かったし感謝している。でもそのために自分自身を蔑ろにしてほしくはない」

 

沙希「蔑ろになんて…………」

 

川崎父「それに下の子達も段々手が掛からなくなってきている。お前ももう少し自分の為の我が儘を言ってもいいんだぞ。いや、言ってほしいんだ」

 

沙希「………………」

 

八幡(川崎が押し黙ってしまった。仕方ない、俺が会話を引き継ごう)

 

八幡「あの、すいません。一緒に暮らすってのはどこででしょうか? この家じゃないですよね?」

 

比企谷父「ああ。大学に受かったらアパートを借りればいい。二人の通う所の間あたりにな。もちろん費用その他は出してやる。将来返してくれればいいさ」

 

八幡(俺の質問にウチの親父が答えた。が、俺は川崎の親父さんに質問を続ける)

 

八幡「一緒に暮らす、だけでは駄目なんですか? いや、俺としては全然嬉しいんですけど」

 

川崎父「さっきも言ったように沙希には苦労をかけたからね。早いところ幸せになってほしいというのが本心だよ」

 

八幡「そうですか…………なあ、川崎…………いや、沙希」

 

沙希「な、何?」

 

八幡「親父さんもこう言ってくれてるんだ。卒業したら、結婚して、一緒に暮らそうぜ」

 

八幡(俺が手を差し出すと、沙希はその手を握り、小さく頷いた)

 

沙希「………………うん」

 

八幡(そして、あれから幾ばくかの時が経った)

 

八幡(俺と沙希は無事に志望校に合格し、決めていた通り二人で暮らし始めることになる。なんとアパートでなく賃貸の一軒家だ。それでも二人が一人暮らしをするよりは安いらしいが)

 

八幡(総武高校卒業式の翌日、家族連れ立って役所に婚姻届を提出し、俺達は夫婦となった。驚いたのは役所を出た瞬間、何人もの人に拍手で出迎えられたことだ)

 

八幡(雪ノ下や由比ヶ浜や一色、戸塚や材木座、三浦に海老名さん、葉山に戸部、陽乃さんに平塚先生、その他の人達)

 

八幡(思った以上に俺には友人というものが出来ていたらしい)

 

八幡(そして年度を跨ぎ、四月になる)

 

八幡「あー、今日入学式か…………面倒くせえなあ」

 

沙希「何言ってんの。どうせすぐに友達とかできるわけじゃないんだから話とかちゃんと聞いてきなって。色んな説明会とかもあるんでしょ?」

 

八幡「お前んとこは明後日だっけか?」

 

沙希「うん。だから新たに必要なものがあったから今日明日で買ってくるつもり。あんた今日何時くらいに帰ってくる?」

 

八幡「さあ? まあ日程表見る限りじゃ遅くとも三時くらいまでには帰るだろ。サークルとかはどうでもいいし」

 

沙希「なんだ、夕食くらいになるんだったら裸エプロンで出迎えでもしようかと思ったのに」

 

八幡「っ!? お前、昨晩あんだけヤったのにまだ俺から搾り取るつもりかよ…………」

 

沙希「してほしくない?」

 

八幡「…………帰るくらいの時間、メールするから」

 

沙希「ふふ、はいはい」

 

八幡「ん、そろそろ出掛ける準備するか。ご馳走さまでした」

 

沙希「あ、片付けはやっとくからいいよ」

 

八幡「おう、悪いな」

 

八幡(俺は洗面所で歯を磨き、自室で着替える)

 

八幡「んじゃ行ってくるぜ、川崎」

 

沙希「あたし、もう比企谷なんだけど、ぶつよ?」

 

八幡「冗談だ。行ってくるぜ、沙希」

 

沙希「ん、行ってらっしゃい、八幡」

 

八幡(玄関で沙希と唇を重ね、俺は家を出た)

 

八幡(今日から大学生。なのにもう嫁持ち。まったく、今の時代には実にそぐわない。遊びたい盛り、青春真っ只中の大学生がこんな環境にあるなんて)

 

八幡(やはり俺の青春ラブコメは間違っている、なんてな)

 

終 

 

 

 

 

 

 

八幡「なんだ、かわ……川越?」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」

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